マリア・クレウザ Maria Creuza

 

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 とてもクールで官能的、それでいて穏やかで暖かい歌声を持った女性シンガーである。彼女の美声には、知的な大人の香りが常に漂う。アストラッド・ジルベルトが永遠の少女だとすれば、マリア・クレウザは永遠の“いい女”。
 夫は日本でも人気の高い男性シンガー・シングラーター・コンビ、アントニオ・カルロス&ジョカフィの片割れであるアントニオ・カルロス・ピント。『イパネマの娘』の作詞者として知られるヴィニシウス・ヂ・モライスのお気に入りで、モライス&トッキーニョとの共演でも優れたレコーディング作品を残している。
 ジルベルトやエリス・レジーナ、マリア・ベターニャなどに比べて語られることの少ない女性だが、71年にリリースしたアルバム“Yo...Maria Creuza”や、72年のアルバム“Maria Creuza”は名盤として愛され続け、現在まで幾度となくCDでも再発されている。そのヨーロッパ的エレガンス漂う美しい楽曲の数々は、ブラジル音楽ファンのみならず、広く女性ボーカル・ファンにもオススメできるものだと思う。

 1944年2月26日、ブラジルはバイーア州エスプラナーダの生まれ。2歳の時に家族と共にサルヴァドールへ移った。“Les Girls”という女性コーラス・グループを経て、地元のラジオ局で“Encontro com Maria Creuza(マリア・クレウザとの出会い)”という番組のパーソナリティを4年間務める。
 65年にアントニオ・カルロス・ピントと知り合ったマリアは、翌年に彼の書いた曲“Se Nao Houvesse Maria”をテレビの音楽番組で歌って評判となり、さらに同じくアントニオ・カルロスのペンによる“Festa no Terreiro de Alaketu”をシングル盤としてレコーディングしてヒットさせた。
 69年には“Mirante”がリオ・デジャネイロで開かれた音楽祭で入賞し、さらにBPM音楽祭で“Catende”を披露する。さらに翌年、ヴィニシウス・ヂ・モライスの招きで、彼のコンサート・ツアーに同行。ウルグアイではドリ・カイミが、アルゼンチンではトッキーニョが参加し、それぞれトリオ名義でのライブ盤レコードもリリースされている。
 そして71年、彼女にとって初めてのソロ・アルバム“Yo...Maria Creuza”をリリース。セルジオ・メンデスで有名な『マシュ・ケ・ナダ』を筆頭に、トッキーニョ&ヂ・モライスやドリ・カイミなどの名曲をマリア・クレウザ流に仕上げたエレガントで洒落たアルバムだった。
 72年にはヂ・モライス、トッキーニョと共にトリオ・アルバムをレコーディングし、さらにセカンド・ソロ“Maria Creuza”もリリース。ヨーロッパ・ツアーでフランスとイタリアでもコンサートを行った。73年にはサード・アルバム“Eu disse adeus”も発売。これはヨーロッパ・マーケット向けにスペイン語でもリリースされている。
 そして74年には東京で行われた世界歌謡祭にアントニオカルロス&ジョカフィと共に出場し、『恋の痛手』で川上賞と特別賞を受賞。その後も91年頃までコンスタントにアルバムを出し続けた。2003年には久々のアルバム“Voce e eu”をリリース。2006年にはライブ・アルバムも発表している。
 現在はリオ・デ・ジャネイロにあるヴィニシウス・バーで定期的にライブ活動を行っているという。

 

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Yo...Maria Creuza (1971)

Voce Abusou (1972)

2 LPs em 1 CD Maria Creuza

(P)1997 Discmedi (Spain) (P)1997 RGE (Spain) (P)2001 RCA/BMG (Brasil)
1,Mas Que Nada
2,Dindi
3,Chega de Saudade
4,Por Causa de Voce
5,Das Rosas
6,Chove la Fora
7,Cantador
8,Saudade da Bahia
9Corcovado
10,,Maria vai com as outras
11,Estrada do sol
12,Marina

arrange & orichestral direction : Mike Ribas
1,De donde vienes
2,Usted ya fue a Bahia?
3,Yo y la brisa
4,Quejas
5,Joao Valentao
6,Que Locura!
7,Ossain
8,Fue la noche
9,Morena Flor
10,Carinoso
11,Insensatez
12,Voce Abusou ビデオ

arrange & orchestral direction : Mike Ribas
Eu disse adeus (1973)
1,Felijaozinho com torresmo
2,Apelo
3,Cancao da volta
4,Janelas azuis
5,Nossos momentos
6,Desespero
7,Bobo feliz
8,A noite do meu bem
9,Chao de estrelas
10,Obsessao
    Nao me diga adeus
    Pois e
    A flor e o espinho
11,Simplesmente
12,Eu disse adeus

produced by Rildo Hora
Poetico (1982)
13,Chora Coracao
14,Tarde em Itapoa
15,Agua de Beber
16,Lamento
17,Rancho das Namoradas
18,Valsinha
19,Cancao Do Amor Ausente
20,Marcha da Quarta-Feira de Cinzas
21,Berimbau
22,Samba de Orly
23,Cancao do Amanhecer
24,Sem Mais Adeus
25,Garota de Ipanema
26,Cancao de Ninar meu bem

produced by Rildo Hora

 セルジオ・メンデスで有名な#1やクロディーヌ・ロンジェのバージョンも大好きな#2など、日本でも人気の高いボサノバの定番をたっぷりと収録した名盤。マリア・クレウザの柔らかで情感溢れる歌声はまさに大人の女の魅力。エレガントなストリングスを前面的に押し出した華やかなアレンジが、実にヨーロピアンな香りを漂わせます。何度も何度も繰り返して味わいたい1枚。オススメです。

 72年にリリースされたセカンド・アルバム“Maria Creuza”のスペイン盤。こちらもボサノバの名曲が目白押し。しかも、前作以上にロマンティックでエレガントでゴージャスなアレンジが冴えまくっています。中でも#1と#10、#11は素晴らしい出来栄えで、ため息の出るような美しさ。アントニオ・カルロス&ジョカフィの手掛けた名曲#12で聴かせる叙情的なロマンティシズムも絶品です。一家に一枚必携の名盤でしょう。  73年にリリースされたサード・アルバム。より艶やかさを増したマリアのソフトでクール・ビューティーな歌声にうっとり。アレンジは全体的に甘さ控えめといった感じで、程よく渋めの情感溢れる仕上がりです。個人的にはもうちょっとベタにスウィートでも良かったように思いますが(笑)ボサノバ草創期の伝説的女性歌手ドロレス・デュラーンのカバー#8やアントニオ・カルロス&ジョカフィによる#6、メドレー#10が秀逸。  82年に発表された11枚目のアルバム“Poetico”。全体的に80年代っぽいジャズ・フュージョンの香り漂う都会的なMPBといった印象です。まあ、嫌いではないんですけど、リアルタイムを知っている世代としては、この手の音ってどうしても中途半端に古臭く感じられてしまうんですよね。ということで、個人的には及第点のアルバム。ただし、決して出来が悪いという意味ではありませんので。

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Todo Sentimento (1991)

Voce e eu (2003)

(P)1998 Sigla/Discmedi (Spain) (P)2003 Albatroz Music (Brasil)
1,Casinha Branca
2,Rio Antigo (Como nos Velhos Tempos)
3,Doa a Quem Doer
4,Chuvas de Verao
5,A Noite do Meu Bem
  Todo o Sentimento
6,Vinganca
  Voce Abusou
7,Na Baixa do Sapateiro
8,Doce Safadeza
9,Folha Morta
10,Dia Branco
  Dona de Minha Cabeca
  Moca Bonita
11,Dois Pra La Dois Pra Ca
   O Mestre Sala dos Mares
12,Contigo En La Distancia
   Besame Mucho
   Amor

produced & Arranged by Roberto Menescal
1,Amor em paz
2,Coisa mais Linda
3,A Felicidade
4,Insensantez
5,Marcha da Quarta-feira de cinzas
6,Sabe Voce
7,Sem mais adeus
8,Primavera
9,Sem Voce
10,Luciana
11,Voce e eu

produced by Raymundo Bittencourt
 こちらも時代を感じさせるアルバムかもしれませんね。アメリカのウェスト・コースト・サウンドを思わせるAOR風のMPB。キーボードのアレンジなんか、まるでデヴィッド・フォスターといった印象です。これは、ボサノバ好きでも賛否両論分かれるだろうな〜。個人的にも、いまひとつピンとこない路線かもしれません。マリアの歌声そのものはとても美しいんですけれどね。  マリア・クレウザが12年振りに発表したアルバムは、恩師であり盟友でもあるヴィニシウス・ヂ・モライスの作品集。60歳を目前にしたマリアのボーカルは程よく枯れた味わいを醸し出しながらも、相変わらず艶やかで官能的。奇をてらわないオーソドックスで上品なアレンジも良いですね。ジャズ風味を効かせた上質のボサノバ・アルバムに仕上がっています。

 

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