〜ルチオ・フルチ監督日本未公開作〜
I Maniaci (1964)

 

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(P)2008 Mya Communication (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:イタリア語/字幕:英語/地域コード:ALL/92分/製作:イタリア

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:ルチオ・フルチ
製作:フェルッチョ・ブルサロスコ
脚本:フランコ・カステラーノ
   ジュゼッペ・モッチア
   ルチオ・フルチ
   トニーノ・ゲッラ
   ホセ・グティエレス・マエッソ
撮影:アルフィオ・コンティーニ
   リカルド・パロッティーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ
   カルロ・ルスティケッリ
主題歌:ジャンニ・モランディ
挿入歌:ニコ・フィデンコ
出演:ワルテル・キアーリ
   エンリコ・マリア・サレルノ
   バーバラ・スティール
   ライモンド・ヴィアネッロ
   ガイア・ジェルマーニ
   ウンベルト・ドルシ
   フランコ・フランキ
   チッチョ・イングラッシア
   ヴィットリオ・カプリオーリ
   フランカ・ヴァレリ
   リーザ・ガストーニ
   イングリッド・ショエレル
   フランコ・ファブリーツィ
   サンドラ・モンダイーニ
   アロルド・ティエリ
   マーガレット・リー
   アリシア・ブランデット
   コラード・オルミ
   ラダ・ラシモフ
   ニコ・フィデンコ

 イタリアン・スプラッターの帝王ルチオ・フルチがもともとコメディ畑の出身であったことは有名な話だが、イタリアのコメディ映画は国外に配給されることが少ないため、フルチの初期コメディ作品についてもその殆んどが日本未公開のまま現在に至っている。
 そもそも、笑いのツボというのは国や文化によって大きく違うもの。ゆえに、コメディというのは国境を越えることが極めて難しいジャンルだ。イタリアのコメディも伝統的な大衆演芸に根ざしていることから、日本はおろかアメリカやイギリスなどの英語圏でも劇場公開されることは少ない。“イタリアのチャップリン”と呼ばれた喜劇王トトの主演作すら、イタリア国外では殆んど見ることが出来ないというのが実情だ。
 そうした状況の中、フルチの初期コメディ映画の中で恐らく初めてアメリカでDVDソフト化されたのが、この“I maniaci(マニアたち)”という作品。車からスポーツ、骨董品、ストリップに至るまで、様々な分野に渡るマニアたちの変人ぶりをユーモラスに描いた風刺コメディである。

 ストーリーは全12話から成るオムニバス構成。短いもので2〜3分、長いもので30分程度といったところだろうか。エピソードの出来不出来にかなりバラつきがあるし、中には“マニア”というテーマから完全に外れてしまっているものも見受けられるが、とにかくテンポの良さとスピードの速さで最後まで見せてしまう。
 また、豪華なオールスター・キャストの顔ぶれも賑やかで楽しい。チッチョ&フランコやワルテル・キアーリは当時イタリアで非常に人気のあった大衆コメディアンだが、彼らのコテコテで古臭いギャグもフルチのリズミカルな演出のおかげで胃もたれせずに済んでいる。
 全体としてはそこそこ良く出来た大衆喜劇という程度の印象で、フルチのフィルモグラフィーの中でも決して重要な位置を占めるような作品ではないものの、随所に後のフルチ作品を思わせるような辛口の風刺精神が垣間見られて面白い。また、ホラー映画の女王バーバラ・スティールとフルチが組んだ唯一の作品という点でも、イタリア映画ファン及びホラー・ファンには興味深い一本と言えるかもしれない。
 以下、特に印象に残るエピソードを幾つか紹介しておこう。

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女好きシータ(F・ファブリーツィ)とエラーニ氏(R・ヴィアネッロ)

堅物のエラーニ氏も実は無類のサッカー・マニア

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賭けに負けて妻(L・ガストーニ)を赤線地帯に立たせる羽目に

妻に声をかけたシータを説得しようと四苦八苦するエラーニ氏

<マニア:スポーツ篇>
 とある会社のオフィス。エラーニ氏(ライモンド・ヴィアネッロ)は部長として社員の仕事ぶりを厳しく監視している。今日も、仕事そっちのけで女遊びの予定を立てている平社員シータ(フランコ・ファブリーツィ)に怒り心頭だ。
 そんなエラーニ氏だが、実は大のサッカー・マニア。仲間を連れてイタリア対ソビエトの試合を観戦に行った彼は、母国チームへの思い入れが強すぎて感情が昂ってしまい、イタリアが逆転ゴールを決められなければ女房を赤線地帯に立たせると大見得を切ってしまう。もちろん、残念ながらイタリア・チームはゴールに失敗。
 男に二言はないとばかり、妻(リーザ・ガストーニ)と仲間たちを連れて夜の赤線地帯へと向うエラーニ氏。あきれ返りながらも渋々と車を降りた妻は、売春婦たちの中へと入っていった。ところが、そんな彼女に声を掛ける男が現れる。その男とは、こともあろうに女好きの部下シータだった。
 このままでは本当に売春婦と間違えられてしまうと心配した仲間たちは、早く行って事情を説明して来いと促す。エラーニ氏もそうしたいのは山々だったが、まさか部下の前で恥をさらすわけにもいかない。果たして、彼はどうやってこのピンチを切り抜けるのか・・・?

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バルバラ(B・スティール)と夫の愛人カルラ(G・ジェルマーノ)

2人は“第3の女”の存在を確信する

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妻と愛人につけられているとは全く知らない夫

2人が現場で見たものとは・・・!?

<マニア:ホビー篇>
 こちらはとある上流階級のホーム・パーティ。次々と到着する豪華なゲストを出迎えるのは裕福な弁護士夫人バルバラ(バーバラ・スティール)。そこへ招かれざる客が訪れる。夫の愛人カルラ(ガイア・ジェルマーニ)だ。
 それとなく夫の居場所を聞き出そうとするバルバラだったが、カルラも全く心当たりがない。明日の日曜はビーチに行く予定だから今日は会えないと言われたという。てっきりバルバラと一緒に行くものだと思っていたカルラ。ところが、同じように明日はビーチに行くと夫に告げられたバルバラは、カルラが同行するものと思っていた。
 そういえば、最近の夫は毎週日曜日にはビーチへ出かけ、月曜日には真っ黒に日焼けして帰ってくる。これは第3の女がいるに違いない。確かに男というものは一人の女では満足できないもの。だからこそ、『突然炎のごとく』よろしく素敵な三角関係を保っていたのに。
 この“第3の女”の存在が気になって仕方がないバルバラとカルラは、夫の書斎にこもって領収書などを片っ端から調べる。すると、“イタラ”という名義の怪しい電報を発見した。これはやはりもう一人愛人がいるに違いない。
 そう確信したバルバラとカルラ。翌朝2人は夫にばれないよう変装し、こっそりと後をつけることにした。とある施設へと入っていく夫。いよいよ浮気の現場に突入かと思われたその時、2人が目にした意外な光景とは・・・!?

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アンティーク・マニアの夫婦(V・カプリオーリ、F・ヴァレリ)

あれもこれもと修道院の備品を買いあさる夫婦

<マニア:アンティーク篇>
 とある日曜日。アンティーク・マニアの夫婦(ヴィットリオ・カプリオーリ、フランカ・ヴァレリ)は郊外で行われる骨董市へと向っていた。途中で空腹になった2人は、修道院へ立ち寄ってただ飯に与ろうとする。
 ところが、出された質素な食事の器を見て妻の目の色が変わる。これって骨董品じゃない!?というわけだ。幾らでも払うから是非とも譲って欲しいと修道士に掛け合う夫婦だったが、売り物ではないと頑なに断られる。それでも引き下がらない2人は、修道院への寄付金という名目で支払わせて欲しいと申し出た。修道士もそれならば・・・と渋々了承する。
 そうなると、修道院にあるもの全てが高価なアンティークに見えてくる。あれもこれもと品定めしていく夫婦。こんな物のどこに価値があるのかと首を傾げる修道士。結局、夫婦は大量の食器やタンスなどをせしめ、多額の“寄付金”を支払って修道院を後にした。
 果たして、これらの“アンティーク”は本当に価値のあるものなのか・・・!?

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ヒッチハイクを続けるシシリアの労働者(W・キアーリ)

親切そうな運転手(U・ドルシ)が車に乗せてくれた

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あらぬ想像を膨らませていくシシリア男

運転手も相手が強盗なのではと震え上がる

<マニア:ヒッチハイク篇>
 とある田舎道。貧しいシシリアの労働者(ワルテル・キアーリ)が道端でヒッチハイクをしようとするが、なかなか止まってくれる車がない。そこへ一台の車が通りかかり、親切そうな運転手(ウンベルト・ドルシ)が快く乗せてくれた。
 とはいえ、お互いに相手の素性など全く知らない状態。職を求めて北部へ出稼ぎに行く途中で懐が底を尽きてしまったという労働者に、裕福な運転手は深く同情する。こういう恵まれない南部の人々を助けてあげるのが、我々の役目ではないか?と。
 一方のシシリア男の方も、文句の一つも言わず車に乗せてくれ、タバコまで勧めてくれる運転手に感動し、世の中にはこんな親切な人もいるんだと内心感謝をするのだった。
 しかし、高級車に乗ったこともなければ、ライターの存在すら知らないシシリア男はやることなすことがトンチンカンで、運転手はだんだんイライラしてくる。なんて無教養なんだ、これじゃまるで原始人じゃないか!?と。
 片やシシリア男の方も、運転手の優雅な生活ぶりを垣間見て疑問に思ってくる。まるで地主のマンクーゾ男爵みたいだ。そういえばマンクーゾ男爵には男色の気があった。俺もえらく男前だから何度か誘われたことがある。ジロジロ見てくる目線は男爵そっくりだ。なんだ、こいつ女みたいに香水までつけてやがる!きっとそうに違いない!
 シシリア男がソワソワし始めたことに運転手も気付いた。なんかおかしいぞ?そういえば、最近は貧しいシシリアの労働者が強盗を働くというニュースをよく耳にする。もしかして、こいつも強盗なのでは・・・!?
 お互いに疑心暗鬼になり始めたシシリア男と運転手。果たして、2人は何事もなく街へとたどり着くことが出来るのか・・・!?

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高級アパートに忍び込んだ泥棒フランコとチッチョ

そこへメイド(A・ブランデット)が恋人を連れて入ってくる

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さらに主人(C・オルミ)が秘書(M・リー)を連れて帰宅

アパート内を必死で逃げ隠れするフランコとチッチョ

<フィナーレ:ウィークエンド篇>
 とある高級アパートに2人組の泥棒フランコ(フランコ・フランキ)とチッチョ(チッチョ・イングラッシア)が忍び込む。今日は金曜日。最近のブルジョワたちはアメリカ風に“ウィークエンド”を外で楽しむのが流行っており、週末はどこも留守にしている。泥棒にとってはかきいれ時だ。
 室内をあれこれと物色していた2人だが、そこへ玄関から物音が。メイドのロゼッタ(アリシア・ブランデット)が、雇い主夫婦の不在中に恋人アントニオ(ウーゴ・ファンガレッジ)とのアバンチュールを楽しもうとやって来たのだ。慌ててアパート内を隠れ回るフランコとチッチョ。
 ところが、さらにアパートの主人(コラード・オルミ)が、妻の留守中にアメリカ人秘書ロザリー(マーガレット・リー)と浮気をするべく、こっそりと帰ってきてしまう。慌てて逃げ隠れするロゼッタとアントニオ。
 かくして、2人の泥棒と2人の恋人がお互いの存在を知らないまま、アパート内でかくれんぼを繰り広げることとなる。


  当時のイタリアは奇跡的とも言われた高度経済成長を実現し、その一方で北部と南部の生活格差が深刻な政情不安を招きつつあった時代。金の有り余った成金の道楽を痛烈に皮肉った“アンティーク篇”や、単純なプロットの中で富める北部と貧しい南部それぞれの本音を見事に対比して見せた“ヒッチハイク篇”などは、フルチらしい反骨精神を感じさせる風刺コメディに仕上がっている。
 脚本を手掛けたのは『太陽の下の18歳』(62)のフランコ・カステラーノとジュゼッペ・モッチャ、アントニオーニやフェリーニなど巨匠の作品を数多く手掛けた大御所トニーノ・ゲッラ、『続・荒野の用心棒』(66)や『ガンクレイジー』(66)のホセ・グティエレス・マエッソ、そしてフルチ自身。
 さらに、撮影監督にはアントニオーニやカヴァーニとの仕事で知られるアルフィオ・コンティーニと、アンソニー・ドーソンやセルジョ・コルブッチなどのB級映画でお馴染みのリカルド・パロッティーニという異色コンビが参加。
 また、ポップでグルーヴィーなテーマ曲を巨匠モリコーネが作曲し、『ブーベの恋人』や『刑事』で有名なカルロ・ルスティケッリが本編スコアを担当。その他、ニコ・フィデンコやリタ・パヴォーネ、ポール・アンカなどの挿入歌が随所に使用されている。

 まず主要キャストのワルテル・キアーリ、ライモンド・ヴィアネッロ、フランコ&チッチョは日本人には馴染みが薄いものの、イタリアでは大変有名なコメディアンたちだ。ワルテル・キアーリは『女優ナナ』(55)や『悲しみよこんにちは』(57)などの外国映画にも進出し、ハリウッド女優エヴァ・ガードナーとも浮名を流した伊達男。ライモンド・ヴィアネッロは、本作にも出演している妻サンドラ・モンダイーニとのコンビでテレビの司会者としても活躍。フランコ&チッチョはトトやペッピーノ・デ・フィリッポと並ぶイタリア喜劇の王様として庶民に愛された名コンビだった。
 その他、ホラー映画の女王バーバラ・スティール、『歓びの毒牙』(69)や『黒い警察』(71)のエンリコ・マリア・サレルノ、当時のフルチ・コメディには欠かせない巨漢俳優ウンベルト・ドルシ、『地下鉄のザジ』(60)や『青い経験』(74)でお馴染みのヴィットリオ・カプリオーリ、『青春群像』(53)のフランコ・ファブリーツィ、『スキャンダル』(76)のリーザ・ガストーニ、『サテリコン』(68)や『わたしは目撃者』(70)のコラード・オルミ、スパイ映画やホラー映画でお馴染みのセクシー女優マーガレット・リー、『ミス・キーラーの情事』(63)でマンディ・ライス=デイヴィス役を演じたアリシア・ブランデットなど、実に多彩な豪華キャストが揃っている。

 

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