イタリア名物ラブ・ロックに心洗われる

 

 イタリアにはラブ・ロックと呼ばれるジャンルがある。その名称から連想出来るように、ロマンティックで美しいメロディが特徴の、爽やかなラブ・バラードを売りとするロック・ミュージックだ。イタリア本国でもそう呼ばれているのか、単に日本人が勝手につけた名称なのかよく分からないが、とにかく70年代のプログレ・ブームの際に派生的に誕生した人気ジャンルと言えるだろう。
 もともと、イタリアのロックってのはどうもドン臭いという印象が強くて、あまり好んで聴く方ではなかったのだが、I Cugini Di Campagnaの“Anima Mia”やHomo Sapiensの“Tra I Fiori Rossi di un Giardino”は大好きな曲だった。ただ、あくまでもカンツォーネもしくはイタリアン・ポップスとして聴いていたので、彼らのようなサウンドがラブ・ロックと呼ばれるというのは、かなり後になってから知った。
 代表的なアーティストとしては、イタリアの国民的ロック・バンドであるI Poohや、Formula 3辺りが日本でも有名かもしれない。ただ、どちらも個人的にはそんなに好きなバンドじゃなかったりするのは皮肉なところ(笑)。やっぱり、I Cugini Di CampagnaやHomo Sapiensのクドいくらいのロマンティシズムと、コッテコテに甘いメロディがたまらなく好き。これぞイタリアン・ポップスの醍醐味、というところがボクのツボなのかもしれない。
 そんなわけで、今回はイタリアン・ロックにはあまり強くないボクが、あえてオススメのラブ・ロック系アーティストを何組か紹介したいと思う。

 

I Cugini Di Campagna

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I Grandi Successi Originali / I Cugini Di Campagna

(P)2000 BMG Ricordi/RCA (Italy)
CD 1
1,Anima Mia 
ビデオ ビデオ
2,Brividi D'Amore
3,Conchiglia Bianca
4,Dentro L'anima
5,Innamorata
6,Figlia Di Mary
7,Preghiera 
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8,L'uva Nera
9,Meravigliosamente 
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10,No Tu No
11,Oh Biancaneve
12,E Lei 
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CD 2
1,Prigioniero
2,Quel Corpo Fragile
3,Sessantaquattro Anni 
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4,Sogno
5,Solo Con Te
6,Valeria
7,Torna Torna Torna
8,Tu Sei Tu 
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9,Tu Tu Tu
10,Un Debole Respiro
11,Un' Altra Donna 
ビデオ
12,Stupidi

 1970年にデビューしたロック・バンド、I Cugini Di Campagna(イ・クージニ・ディ・カンパーニャ)。イヴァーノとシルヴァーノのミケッティ兄弟を中心に結成されたバンドで、メンバー交代は何度かあったものの、今なお現役で活躍を続けている。その最大の特徴はファルセット・ボイス。初代リード・ボーカルのフラヴィオ・パウリンはもちろんの事、現在のニック・ルチアーニまで歴代のボーカリストは高音のファルセットばかり。なので、もしかしたら人によって好き嫌いの分かれるバンドかもしれないが、その卓越したメロディ・メーカーぶりは折り紙つきと言っていいだろう。
 一応、プログレ・ブームの中から出てきたバンドではあるものの、曲作りは限りなくポップスに近い。何といっても有名なのは、70年代のイタリアン・ポップスを代表する名曲“Anima Mia”('73)だろう。ジワジワと盛り上がる甘く美しいメロディと教会音楽のようなサウンド、そして透き通るようなファルセット・コーラスが素晴らしい作品だった。
 また、バロック音楽風のロマンティックなロック・バラード“Prigioneiro”('76)、まるでエンニオ・モリコーネを彷彿とさせるような叙情的で美しいバラード“Solo Con Te”('79)、センチメンタルで切ないメロディが印象的なミディアム・ロック“No Tu No”('80)など、とてもキャッチーで美しい名曲を数多く生み出している。殆んどの作詞・作曲を手掛けているのは、グループの中心的存在であるミケッティ兄弟の二人。彼らの紡ぎだすセンチメンタルなメロディは、一度聴いたらクセになること請け合いだ。
 上記の2枚組CDは、1972年〜80年までの全シングルA面及びアルバム収録曲から選曲されたベスト盤で、全盛期の代表作が一通り聴けるというお徳盤。というか、現在手に入る彼らのCDはこれだけ。70年代のオリジナル・アルバムのCD化が待ち望まれるところだ。

 

Homo Sapiens

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I Grandi Successi Originali / Homo Sapiens

Bella Da Morire / Homo Sapiens

(P)2002 BMG Ricordi/RCA (Italy) (P)1996 Duck Records (Italy)
CD 1
1,Un Estate Fa
2,Tornerai, Tornerai 
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3,Bella Da Morire ビデオ
4,Due Mele
5,Innamorarsi (Senza Far L'amore)
6,Oh Marylou
7,Stagione Di Passaggio
8,Santo Cielo Non L'ho Mai Capito
9,Amare...Volare
10,Malinconia
11,Ti Voglio Ancora
12,Dimmi Che Cosa Sei (Jimmy Loves Mary-Ann)
CD 2
1,Lei Lei Lei 
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2,Una Dolce Malattia
3,Dolce La Sera
4,Io E Te Stasera
5,Far L'amore Con Te
6,Pecos Bill
7,Donna
8,Atto Proibito
9,Ti Voglio Bene
10,A Un Passo Dall'amore
11,Giornio Di Festa
12,Tra I Fiori Rossi Di Un Giardino
1,I Comandamenti
2,Tornerai Tornerai
3,Questo Si, Questo No
4,Lei Lei Lei
5,Due Mele
6,Una Dolce Malattia
7,Primo Pelo
8,Love Somebody
9,Bella Da Morire
10,Firenze Sogna
11,Vai Col Mambo

 これまた素晴らしいバンド。プログレ・ロックにルーツを持つグループが多いラブ・ロック系アーティストの中にあって、ほとんどソフト・ロックと呼んでもいい音楽性を持っているのが、このHomo Sapiens(ホモ・サピエンス)である。それはデビュー曲“Un Estate Fa”が、ミシェル・フーガンの“Une belle histoire(ミスター・サマータイム)”のカバーであることからもよく分かるだろう。お洒落でポップ、ちょっとセンチメンタルで爽やかなサウンドが特徴。他のラブ・ロック系バンドとは一線を画した、洗練されたポップ・センスが魅力のグループだった。
 デビューは1972年。グループの中心人物はリード・ボーカルとベースを務めるマルツィオ・マッザンティだが、楽曲のほとんどはロベルト・ヴェッキオーニなどのソングライターが手掛けていた。75年に“Tornerai, Tornerai”が大ヒットし、77年には“Bella Da Morire”がサンレモ音楽祭でグランプリを受賞してトップ・アーティストの仲間入りを果たす。しかし、80年代にはヒット曲が出なくなってしまい、その後はライブ活動を中心に地味な活動を続けているようだ。
 個人的に大好きなのは、ため息が出るくらいにロマンティックで切ないバラードの傑作“Tra I Fiori Rossi Di Un Giardino”('74)。サンレモ優勝曲“Bella Da Morire”('77)も叙情的で美しい作品だった。また、ソフト&メロウな都会的レア・グルーヴ“Amare...Volare”('78)や、高揚感の素晴らしい爽やかなバラード“Lei Lei Lei”('75)も大好きな作品だ。
 なお、彼らのベスト盤は何種類かリリースされているが、上記の2枚組は全盛期のシングルが全て収められており、一番のオススメと言えるだろう。一方、右側の“Bella Da Morire”というアルバムはジャケットを見ても分るように、オリジナル・レコーディングではなくて再録盤。残念ながら、あの頃の瑞々しい躍動感は全く失われてしまっている。やはり、音楽というのは時代の空気を吸って生きているものだろう。

 

I Santo California

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The World of I Santo California

(P)2002 Mint Records/ZYX Music (Germany)
CD 1
1,Tornero 
ビデオ
2,Pazzo D'Amore
3,Amore Fragile
4,Mente E Cuore
5,Sono Io
6,Un Angelo
7,Strane Cose
8,Dan Dan Dan Delen Delen
9,Ave Maria No No
10,Io Qualche Anno In Piu
11,La Stessa Ragazza
12,Lei Dorme Gia
13,Lassu
14,Noi Leri
15,Ti Perdono Amore Mio
16,Un Prato Per Noi Due
17,Io Tu
18,Venus Serenade
CD 2
1,Equador
2,Maledetto Cuore
3,Monica 
ビデオ
4,Manuela Amore
5,California Concert
6,Venezia
7,Butterfly 2000
8,Il Giorno Piu' Bello
9,Per Te
10,Io Qualche Anno In Piu
11,Se Davvero Mi Vuoi Bene
12,I Tuoi Occhi Sorridenti
13,Tutto Uguale
14,Per Favore
15,Non Amo Che Lei
16,Preparo Quattro Righe
17,Dolce Amore Mio 
ビデオ
18,Gabbiano

 デビュー曲“Tornero”('74)が110万枚という驚異的な大ヒットを記録し、ヨーロッパ各国で一世を風靡したバンドが、この“I Santo California(イ・サント・カルフォルニア)”である。そのサウンドはまさにラブ・ロックの王道。プログレをベースにしつつ、これでもかと甘く切ないメロディを聴かせてくれる。オーケストラや合唱団まで動員したゴージャス感は、時として聴いている方が恥ずかしくなるくらいクドかったりするが、その大仰なまでのロマンティシズムというのが彼らの魅力なのだろう。
 全体的に似たような曲が多いのが玉に瑕だが、中にはビートルズの“オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ”を彷彿とさせるキャッチーで軽快なポップ・ナンバー“Dan Dan Dan Delen Delen”のような佳作もある。
 ただ、ヨーロッパ各国での人気に比べて、イタリア国内での評価はどちらかというと低かったようだ。78年には起死回生を狙ったシングル“Monica”でサンレモ音楽祭に出場するが、結果的には3位入賞で止まった。80年代半ば頃まではシングルをリリースしていたみたいだが、その後は過去のヒット曲を演奏しながらドサ回りを続けているという。
 彼らも、かなりの数のベスト盤CDが出回っているが、上記のドイツ盤2枚組がオススメ。シングル曲はもとより、大半のアルバム・トラックも収録されている。

 

Il Giardino dei Semplici

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Le Piu Belle Canzoni /
Il Giardino dei Semplici

(P)2006 Warner Music (Italy)
1,Tu, Ca Nun Chiagne ビデオ
2,Angela
3,M'innamorai ビデオ
4,In Liberta
5,Miele ビデオ
6,Tamburino ビデオ
7,Vai ビデオ
8,Concerto in la Minore (Dedicato a Lei) ビデオ
9,A Festa a Sanita
10,Diavoleria
11,Tira a Campa
12,Carnevale da Buttare

 日本でも人気の高いナポリ出身のラブ・ロック系バンド、Il Giardino dei Semplici(イル・ジャルディーノ・デイ・センプリーチ)。歌謡ポップス風の覚えやすいメロディが特徴で、随所に高音のファルセットが入るあたりはI Cugini Di Campagnaを彷彿とさせるものがあると言えるだろう。
 デビューは1975年。セカンド・シングル“Tu, Ca Nun Chiagne”が爆発的なヒットとなり、一躍人気バンドの仲間入りを果たす。甘く切ないメロディはもちろんの事、非常にレベルの高い演奏も彼らの強みで、“Miele”('77)や“Vai”('77)などのヒット曲を次々と放った。しかし、80年代以降は全くの鳴かず飛ばずで、他のラブ・ロック系バンドと同じくドサ回りで過去のヒット曲を演奏しているようだ。個人的には、コテコテのラブ・バラード“Angela”が大好き。
 彼らは初期のオリジナル・アルバムが全てCD化されている他、ベスト盤も数多くリリースされている。上記のベスト盤CDは昨年ワーナーからリリースされたリマスター盤で、音質の面では最もオススメできる1枚だと思う。

 

Alunni del Sole

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Liu (1978) / Alunni del Sole

(P)2001 BMG Ricordi (Italy)
1,Mara
2,Madonna
3,Il Paesaggio di Neve
4,Ritrovarsi
5,Liu ビデオ
6,Se Hai Peccato
7,Gitani
8,Maddalena
9,Nonna Nonna
10,Finisce Qui

produced by Piero Colasanti

 作詞・作曲及びリード・ボーカルを務めるパオロ・モレッリを中心にナポリで結成されたバンド、Alunni del Sole(アルンニ・デル・ソーレ)。デビューは1969年というから、ラブ・ロック系のバンドとしては古株の部類に入るかもしれない。初期はキング・クリムゾンの影響を受けていたようだが、徐々にメロディアスでソフトなポップ路線へと移行して行った。
 ボクが持っているのは、上記のアルバム一枚だけ。他にも2枚組ベスト盤が出ているものの、何となくジャケットの雰囲気に惹かれてこれを購入した。で、そのジャケ買いは見事に大正解。パオロ・モレッリの温かみのある素朴でソウルフルなボーカル、叙情的で親しみやすい爽やかなメロディに卓越したアレンジと、これ以上ないくらいに完璧なラブ・ロック・サウンドを堪能できる作品に仕上がっている。
 これまでに13枚のアルバムをリリースしており、これが6枚目に当たる。今のところ、CDで手に入るオリジナル・アルバムはこれだけのようだが、なんとなくこの1枚で大満足。何度も何度も繰り返し聴き込みたい名盤だと思う。

 

Dik Dik

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Le Piu Belle Canzoni Dei /
Dik Dik

(P)2005 Warner Music (Italy)
1,Il Primo Giorno Di Primavera
2,Senza Luce
3,Sognando La California
4,L'isola di Wight
5,Un Giorno, Cent'anni
6,Volando
7,L'te Vurria Vasa
8,Caro amore
9,Mese Di Maggio
10,Senza Di Te
11,Il Vento
12,Vendo Casa

 このDik Dik(ディク・ディク)は、もともとビート系ポップ・バンドとしてイタリアで人気を得たグループだった。それが、折からのプログレ・ブームに乗ってガラリと路線を変更。67年にリリースしたプロコル・ハルムの“Whiter Shade of Pale”のカバー“Senza Luce”が大ヒットを記録した。イタリアのラブ・ロック系バンドの多くがプロコル・ハルムに多大な影響を受けていることを考えると、とても象徴的なヒットだった言えるかもしれない。その他にも、ミシェル・デルペッシュの“Wight Is Wight”のカバー“L'isola di Wight”、ママス&パパスの“California Dreamin'”のカバー“Sognando la California”と、カバー曲が多いのも彼らの特徴だ。
 そうした中でも、個人的にとても好きなのが、彼らのオリジナル曲である“Il Primo Giorno di Primavera”。どこからどう聴いても、明らかにプロコル・ハルムに影響を受けた作品なのだが、そのパクり方が非常に上手い。かなり胸にズキュンズキュンと来る作品だ。また、童謡を思わせるノスタルジックで切ないメロディが印象的なバラード“L'te Vurria Vasa”も素敵な曲だった。
 上記のベスト盤はワーナーからリリースされたリマスター盤で、プログレ以降の作品から選曲されている。他にも、ビート・ポップ時代のヒット曲を含めた3枚組のボックス・セットもリリースされている。

 

I Camaleonti

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17 Versioni Originali ! /
I Camaleonti

(P)1997 East West/Warner (Italy)
1,Applausi
2,Io Per Lei ビデオ
3,L'ora dell'Amore
4,Eternita ビデオ
5,Viso d'Angelo
6,Piccola Venere
7,Il Campo Delle Fragole
8,Lei Mi dara un Bambino
9,Perche Ti Amo
10,Come Sei Bella
11,Angelo Mio
12,Casa Bianca
13,Non c'e Mente di Nuovo
14,Mamma Mia
15,Lei Aspetta Te
16,Tempo d'Inverno
17,Ti Amo da un'Ora

 このI Camaleonti(イ・カマレオンティ)もビート系出身のロック・バンド。かなり荒削りな演奏を聴かせるグループで、他のラブ・ロック系バンドと比べるとかなり男臭い雰囲気が漂う印象。甘さよりも渋さの方が強調されていると言えばいいだろうか。決して洗練されたバンドとは言えないものの、同時期のUKポップスを彷彿とさせるサウンドは嫌いじゃない。
 1963年にミラノで結成され、イタリアのプレスリーことアドリアーノ・チェレンターノのプロデューサーであるミキ・デル・プレーテに認められて65年にレコード・デビュー。セカンド・シングル“Sha La La La La”が大ヒットして一躍脚光を浴びた。68年にプロコル・ハルムの“Hamburg”をカバーしたシングル“L'ora dell'Amore”がヒットし、これをきっかけにラブ・ロック系に路線を変更していく。個人的にはタートルズやレモン・パイパーズを思わせる“Il Campo delle Fragole”や“Applausi”辺りが好き。イタリアっぽさを適度に残しつつ、しっかりとポップ・ロックしているのが好感の持てるところだ。
 なお、上記のベスト盤は69年から74年までのシングルを中心に選曲されたもの。過去に何種類かベスト盤CDはリリースされているようだが、殆んどが現在は廃盤で入手困難となっている。

 

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