ロング・ウィークエンド
オリジナル&リメイク 作品比較

 

 

ロング・ウィークエンド
Long Weekend (1977)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2006 Optimum Releasing (UK)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(イギリスPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:2/94分/製作:オーストラリア

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:コリン・エッグルストン
製作:コリン・エッグルストン
製作総指揮:リチャード・ブレナン
脚本:エヴェレット・デ・ロッシュ
撮影:ヴィンセント・モントン
音楽:マイケル・カーロス
出演:ジョン・ハーグリーヴス
   ブライオニー・ビーツ

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結婚生活の危機を迎えたピーター(J・ハーグリーヴス)と妻マーシア

わき見運転をしたためにカンガルーをひき殺してしまう

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目的地の海岸を探して森の中をさまよう2人

不気味な鳴き声に背筋を凍らせるマーシア(B・ビーツ)

 日本では劇場未公開のままビデオ発売だけで済まされてしまったものの、欧米では当時シチェス=カタロニア国際映画祭作品賞やパリ国際映画祭審査員特別賞などのジャンル系映画賞を総なめにし、ピーター・ウィアー監督の『ピクニックatハンギング・ロック』('75)やリチャード・フランクリン監督の『パトリック』('78)などと並んで、'70年代のオーストラリアン・ニューウェーブを代表する名作の一つに数えられているカルト映画。週末の休暇を過ごすために海岸へキャンプに出かけた倦怠期の夫婦が、広大な自然の中で過ごすうち次第に狂っていく姿を淡々と描いたシュールなネイチャー・ホラーである。
 主人公は都会で暮らす若い夫婦ピーターとマーシア。マーシアには愛人がおり、ピーターも薄々そのことに気付いている。彼は妻との関係を修復したいと考え、嫌がる彼女を半ば無理やり連れ出して、週末に海でのキャンプを楽しむことにした。車の窓から火のついたままのタバコを投げ捨て、前方不注意から車でカンガルーを轢き殺しても全く気付かない。海辺ではむやみに木を伐り、砂糖に群がるアリの大群を殺虫剤で皆殺しにし、海へビンを平気で投げ捨てる。まるでそんな彼らの自然破壊的な行為を戒めるかのごとく、2人に襲いかかる大自然の脅威。何かただならぬ気配を感じた夫婦は次第に精神的な不安を感じるようになり、お互いのエゴをむき出しにして反発しあうようになる。そして、その緊張感がやがてマックスへ達したとき、恐るべき末路が彼らを待ち受けているのだった…。
 本当に大自然が人間へ復讐を仕掛けているのか、それとも勝手な思い込みによって人間が自滅していくというだけなのか。そのどちらとも取れるような描かれ方をしている、というのが本作の重要なポイントであろう。自然界では人知の及ばない不思議な現象が存在する。いや、それは単に人間の知識が及ばないというだけで、実は何ら不思議な事ではないのかもしれない。浜辺に打ち上げられたジュゴンの死体がいつの間にか動いている、という一見すると超自然的にも思える現象が、本作ではそのことを象徴しているように思われる。地球の大自然というのは、理屈ではなく研ぎ澄まされた感覚で受け入れるべきなのだろう。
 そう考えると、本作は文明の進化によって大自然と調和する能力を失ってしまった人間の末路を描いた作品だと言えるのかもしれない。つまり、我々人間はもはや自然の一部ではなくなってしまい、逆に自然環境へ対して害を与える存在となってしまった、であれば自然の摂理の中で淘汰されてしまっても不思議はないのではないか、ということなのだ。よって、海や森の豊かな自然に囲まれながらもその環境に調和することなど一切考えず、それぞれに自分の勝手な都合ばかりを主張して罵り合うような夫婦などは、そもそも自然のサイクルからはじき出されてしまっても当然なのかもしれない。彼らは自然環境からの復讐を受けたのではなく、自然環境に拒絶されてしまったのだ。
 このようなテーマを扱っている作品ゆえ、いわゆる映画的にドラマチックで派手な展開があるわけではない。些細な出来事の積み重ねが少しづつ主人公たちの不安や恐怖を煽っていき、徐々に徐々に彼らの心理を蝕みながら追い詰めていくのである。その細やかなディテール描写への強いこだわりは、一見するとただの前置きにしか思えないオープニングからも感じ取れることだろう。主人公夫婦が暮らす大都会の日常的な文明生活を描きながら、その随所にひっそりと存在する自然の息吹き…庭に植えられた草木やバスルームに飾られた観葉植物の生命活動をさりげなく織り込み、人類と地球の自然環境が切っても切り離せない関係にあることを示唆しながら、これから起こる出来事のバックグランドを暗にほのめかしているのだ。そういった意味では非常に手の込んだ作品であり、観客の高い問題意識と読解力を要求するタイプの映画だとも言えるだろう。
 神秘的な美しさの中に、なにか禍々しいような雰囲気をたたえた大自然の幻想的な映像も、観客の不安を煽るに十分な効果があって素晴らしい。後味の悪いクライマックスを含めて見る者を選ぶ作品かもしれないが、同時に現代社会と自然環境の関わりについて様々なことを考えさせてくれる作品でもある。とても見応えのある映画だ。

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無意味に木を伐ろうとするピーターを不思議に思うマーシア

広大な海を前にした2人は久々に爽快な気分を味わう

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海で泳ぐピーターに近づいてくる不気味な影

それが何なのか2人には見当もつかなかった

 大都会に暮らす若い夫婦ピーター(ジョン・ハーグリーヴス)とマーシア(ブライオニー・ビーツ)は、結婚生活の危機に直面していた。ピーターは家庭をそっちのけでアウトドアの趣味に没頭し、そんな夫に愛想を尽かしたマーシアには愛人がいる。なんとか妻との関係を修復したいと考えたピーターは、週末を利用してビーチの穴場スポットへと出かけ、夫婦水入らずのキャンプを楽しもうと計画。マーシアはあまり乗り気ではなかったが、ピーターは半ば強引に彼女を連れ出した。
 しかし、せっかくの小旅行も険悪なムードでスタートした。不平不満や小言ばかりの妻に苛立つピーター。車の窓から投げ捨てたタバコが草むらで引火したり、暗闇の道路へ迷い込んだカンガルーをひき殺しても全く気付かない。そんな彼の傍若無人を責めるかのように、周囲の森では野生の叫び声が不気味に響き渡っていた。
 真夜中になって、ようやく目的地へと近づいた2人。ビーチへと続くはずの森は立ち入り禁止の私有地だったが、ピーターはそんなことお構いなしだ。木の幹に掘られた矢印の方向へ車を走らせるピーター。しかし、行けども行けども同じ場所へと戻ってきてしまう。相変わらずガミガミとうるさく文句を言うマーシア。内緒で愛犬クリケットを連れてきたことも、彼女の怒りに油を注いだ。とにかく、暗くて道がよく分からない。仕方なく、2人は車の中で一晩を過ごすことにした。その時、マーシアは遠くから聞こえてくる不気味な音に気付く。それはまるで赤ん坊の泣き声のようだ。ただでさえ自然や動物が苦手なマーシアは背筋を凍らせる。
 翌朝、マーシアが目を覚ますと既にピーターは起きていた。キャンプ用具もすっかり並べられている。元気の有り余った彼は木こりのように気を伐っていたが、とくに意味はない。魚を獲るためのモリや狩猟用のライフルを自慢げに見せるピーターだったが、マーシアは全く興味がなかった。しかし、すぐ傍に広がる美しい海を目の前にすると、さすがのマーシアも爽快な気分になる。2人は久々に恋人時代のような気分になった。
 とりあえず、ピーターは楽しみにしていた海水浴へと出かけ、マーシアはクリケットを連れて周辺を散歩する。丘の上から海で泳ぐ夫を眺めていたマーシアは、すごい勢いでピーターに近づいていく何ものかの影を発見。サメかもしれない。驚いたマーシアは大声で叫びながら急いでビーチへと降りていく。その声に気付いたピーターも、命からがらビーチへと泳ぎ着いた。しかし、近づいてきた影の正体は分からなかった。
 こういうことがあるからアウトドアは嫌いだ。マーシアは再び機嫌を損ねる。食べ物に群がってくる虫も我慢ならなかった。アリの大群に殺虫剤を吹きかけ、ネチネチと小言を呟くマーシア。すると、彼女の目の前をモリの矢がかすめ、手前の木に突き刺さった。安全用のロックをかけていたはずなのに。戸惑うピーターにマーシアは憎しみのこもった視線を向ける。
 不機嫌なマーシアをキャンプに置いて、ピーターはクリケットを伴ってライフルの試し撃ちに出かける。海へ投げ捨てた空き瓶を的にして射撃を楽しむピーター。さらに、入り江に群がる水鳥たちに向かって乱射し、ガンマン気分を味わってテンションを上げるのだった。ふと見ると、遠くの水際にワンボックスカーが停まっている。先客だろうか。しかし、人影は全く見えなかった。

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安全ロックをかけたはずのモリの矢がマーシアの体をかすめる

水鳥に向かってライフルを乱射するピーター

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サーフィンをしているピーターに、またもやあの不気味な影が

ピーターは謎の海洋生物に向かってライフルの弾を撃ち込む

 キャンプへ戻ったピーターはサーフィンへ出かけることにする。退屈そうなマーシアに、せっかく来たんだから自然を楽しむよう声をかけるが、かえって逆ギレされてしまった。一人でサーフィンを楽しむピーター。テントの中で読書をするマーシア。すると、あの赤ん坊の泣き声のような音が辺り一面にこだまする。驚いたマーシアがビーチへ出ると、再びあの謎の影が砂浜へ近づいていた。今度はピーターもその存在を確認する。丘の上からライフルを撃ち込むと、水面に真っ赤な血が広がった。やはりサメだったのだろうか。
 マーシアの不安と苛立ちは頂点に達した。そこへ追い打ちをかけるかのように、空を飛んでいた鷲がピーターを襲撃する。どうやら、マーシアが拾った卵を奪い返そうとしていたようだ。たかが卵じゃないか。ブチ切れたマーシアは、鷲の卵を木の幹に投げつけて潰してしまう。生き物の命を粗末にするのか?マーシアの行動を責めるピーター。人間だって中絶するでしょ?とマーシア。とにかく、彼女は今すぐにも家に帰りたかった。
 ヒステリックにわめき散らしたマーシアは、自分一人だけでも帰ると言い張って車へ乗り込む。しかし、肝心のエンジンがかからない。ピーターがバッテリーを発電用に切り替えているためだ。切り替え方の分からないマーシアは諦めるしかない。怒りの収まらない彼女は、ピーターと一切口をきこうとはしなかった。
 その晩、マリファナを吸ってハイになったピーターは、調子に乗ってマーシアをからかおうとする。だが、キャンプへ紛れ込んだタスマニアン・デビルに襲われ、手を怪我してしまった。我に返ったピーターは、夜が明けたらすぐに出発することをマーシアに約束する。
 翌朝、2人は家に帰るため荷物をまとめることにする。手際の悪いマーシアに苛立ったピーターは、自分一人で作業をすると言い張った。マーシアはクリケットを連れて浜辺へと向かう。すると、水打ち際に巨大な生物が打ち上げられていた。それはライフルの弾で傷ついたジュゴンの死体。サメだと思っていた影の正体はジュゴンだったのだ。そして、あの赤ん坊のような泣き声も。
 ピーターは急に、例のワンボックスカーのことが気になりはじめる。帰る前に確認しておきたい。彼はマーシアの反対を押し切って入り江の方へと向かった。ピーターの身勝手さをなじるマーシア。堪忍袋の緒が切れたピーターは、勝手に中絶したマーシアのことを責める。それが不義の子であったことも。2人の仲が修復不可能であることはもはや決定的だった。そう悟った彼らは、週が明けたら離婚の手続きをしようと決める。
 ワンボックスカーは見当たらなかった。しかし、キャンプをしていたであろう場所は荒れ放題で、なにか尋常ではない事態が起きたであろうことは想像に難くなかった。すると、マーシアが海中に沈んだワンボックスカーの屋根を発見する。海へと潜ったピーターは、車の中に溺死した人間を見つけた。やはり、この辺りには危険な“何か”が潜んでいるのだろうか。
 荷物を取りに戻った2人はすぐに出発するつもりだったが、愛犬クリケットが見当たらない。しかし、マーシアは一刻も早くここを立ち去りたかった。あなたの犬なんかどうでもいい。ピーターは嫌がるマーシアを連れてクリケットを探しに浜辺へ向かう。すると、ジュゴンの死体が動いていた。波に押し流されたのかもしれない、そう説得するピーターだったが、恐怖でパニックに陥ったマーシアは発狂寸前。ピーターがクリケットを探している隙に、一人で車に乗って逃げ出してしまう。やがて夜のとばりが下りる。クリケットと共に森の中に残されたピーター。森の中を車でさまようマーシア。果たして、彼らは生きて無事に文明社会へ戻ることが出来るのだろうか…。

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家に帰りたいとヒステリックにわめき散らすマーシア

ピーターはタスマニアン・デビルに襲われる

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最後の朝は周囲が不気味なムードに包まれた

浜辺に打ち上げられたジュゴンの死体

 監督のコリン・エッグルストンはもともとテレビ・ディレクターの出身で、劇場用映画の演出はソフト・ポルノ“Fantasm Comes Again”('76)に続いてこれが2作目。何気ない描写にも一切手を抜かず、冒頭から徐々に徐々に不穏な空気を盛り上げていく演出はなかなかの腕前だ。オーストラリアの大自然を捉えた映像にしても、単に風光明媚なだけの観光フィルムなどにすることなく、まるで何らかの意志を持っているかのような薄気味悪さを漂わせることに成功しており、ビジュアリストとしての類稀なる才能を発揮している。ただ、残念ながらその後は本作を超えるような作品をものにすることは出来なかった。『スカイ・レイダース』('84)ではインディ・ジョーンズ風のSFX冒険活劇に挑戦するも超のつく低予算ぶりを誤魔化すことは出来ず、超自然的スラッシャー・ホラー『カサンドラ』('86)ではビジュアル・スタイルこそ見るべきものはあったが内容はいまひとつだった。'80年代末には映画界を離れ、'02年にスイスで死去している。
 脚本を手掛けたエヴェレット・デ・ロッシュは、『パトリック』('78)や『ロードゲーム』('81)、『リンク』('86)などリチャード・フランクリン監督作品で知られ、ラッセル・マルケイの出世作『レイザーバック』('84)でも国際的に高く評価された、当時のオーストラリア映画界を代表する脚本家。夫婦の間の根深い愛憎と不信感が、未知なる大自然への恐怖と不安によって増長されていく過程を、緻密な心理描写の積み重ねによって生々しく描いていて上手い。
 そのほか、撮影監督にはオージー・ホラーの名作として知られる『吸血の館』('79)も手掛けたヴィンセント・モントン、編集にはブライアン・トレンチャード=スミス監督の『クエスト/伝説の冒険』('85)でAFI賞(オーストラリア版オスカー)を受賞したブライアン・カヴァナー、音楽スコアには名作『少年と海』('76)のマイケル・カーロスが参加している。

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マーシアは海に沈んだワンボックスカーを発見する

キャンプの跡地は荒れ放題になっていた

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死んだはずのジュゴンがなぜか前進していた

恐怖でパニックに陥ったマーシアを落ち着かせようとするピーター

 ピーター役を演じているジョン・ハーグリーヴスは、同じくエッグルストン監督が手掛けた『スカイ・レイダース』でもヒーロー役を演じていたオーストラリア人俳優。本作でシチェス=カタロニアン国際映画祭の主演男優賞を受賞したほか、AFI賞の主演男優賞を3度も獲得しているという名優で、日本ではあまり知名度は高くないものの、母国オーストラリアでは'96年に50歳という若さで亡くなるまで活躍したトップ・スターだった。
 一方のマーシア役を演じているのは、当時エッグルストン監督の奥さんだったイギリス人女優ブライオニー・ビーツ。いかにも鼻っ柱が強くて神経質そうな個性の持ち主で、憎々しげな表情で嫌味な言葉を吐き出す様子なんか説得力は抜群。お世辞にも美人とは言えないのがまた効果テキメンで、実に上手い女優さんだ。

 

 

ロスト・ウィークエンド
Long Weekend (2008)
日本では劇場未公開
DVDは日本発売済

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(P)2009 Screen Media Fulms (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/88分/製作:オーストラリア

特典映像
なし
監督:ジェイミー・ブランクス
製作:ゲイリー・ハミルトン
   ナイジェル・オデル
脚本:エヴェレット・デ・ロッシュ
撮影:カール・フォン・モーラー
音楽:ジェイミー・ブランクス
出演:ジェームズ・カヴィーゼル
   クローディア・カーヴィン

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結婚生活の危機を迎えた夫婦ピーター(J・カヴィーゼル)とカーラ

わき見運転をしたためにカンガルーをひき殺してしまう

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目的地の海岸を探して森をさまよう2人

文句を言う気力すら失った妻カーラ(C・カーヴィン)

 2008年にシチェス=カタロニアン国際映画祭でプレミア上映されたものの、母国オーストラリアを含むほとんどの国でDVD発売のみの扱いを受け、ここ日本でも今年になってようやく『ロスト・ウィークエンド』のタイトルでひっそりとDVDリリースされることになったリメイク版。'77年のオリジナル版をほぼ忠実に再現した作品となっている。
 主人公はオリジナルと同じく大都会に暮らす若い夫婦ピーターとカーラ。2人の結婚生活は決して上手くいっているとはいえない。そこで、アウトドアが趣味のピーターは週末に夫婦水入らずでキャンプを楽しみ、冷え切った夫婦関係を修復しようとカーラを誘ってビーチの穴場スポットへと出かける…。といった具合に、基本的なストーリーはオリジナルとほとんど一緒。脚本の執筆も同じエヴェレット・デ・ロッシュが手掛けており、シーンによっては2人のセリフまでまるっきり同じだったりする。
 ただ、その一方でオリジナル版にはなかったような展開や描写も少なからず含まれている。その中でも特に顕著なのは、砂浜に打ち上げられたジュゴンの存在であろう。本作では先にジュゴンの子供の死体が砂浜にあがっており、母親ジュゴンは我が子を捜して岸へと近づいてきたところを、ピーターによって射殺されてしまったということになっているのだ。地球上のあらゆる生物に共通する親子の絆、それは種の生存という自然界ではごく当たり前のライフサイクルと言えよう。本作では、このジュゴンの親子の哀しき運命に加え、オリジナル版にも出てくる卵を奪い返そうとしてピーターを襲うワシ、不義の子を勝手に中絶してしまったカーラのエピソードを配置することで、“自然界の一部ではなくなってしまった人間”という存在をより明確に浮き彫りとしているのである。恐らく、これはデ・ロッシュ自身がオリジナル版で描ききれなかった部分を補足したかったのであろう。
 また、オリジナル版ではワンボックスカーに乗っていた人々についての言及はほとんどなかったが、本作では幼い少女と両親の3人家族という設定になっており、しかも一家の両親はピーターとカーラのように仲が悪い。彼らのたどる悲惨な運命がおのずと主人公たちの末路を暗示するというわけだが、同時に作品そのものの超自然的なムードを盛り上げるような効果にも利用されている。つまり、まるで大自然が意図的に人間を死へ追いやっているかのようなニュアンスを付け加えようというわけだ。一家のグロテスクな腐乱死体が発見されるシーンの描写もショッキング。オリジナル版ではほとんどなかった残酷シーンを加えたのは、やはり現代の観客の嗜好に合わせたアップデートなのであろう。なお、アップデートという意味では、主人公たちが携帯電話やカーナビを使っているのもそれに該当するかもしれないが、まあ、今の時代に舞台を移し替えてリメイクされたのだから当たり前と言えば当たり前か(笑)。
 このようにオリジナル版をなるべく忠実に再現しつつ、随所で補足やアップデートを試みたリメイク版なわけだが、決定的に違っていたのは監督の演出力だ。本作でジェイミー・ブランクス監督が犯した最大のミスは、オリジナル版でコリン・エッグルストン監督がこだわった細やかなディテール描写をほとんど無視・省略してしまったことであろう。その結果、ただ単にヒステリックで仲の悪いだけの嫌味な夫婦が、自然環境や生き物の命を軽んじたがために自滅していくという自業自得な物語になってしまった感は否めない。まさに、似て非なるとはこのことだろう。
 さらに、デジタルハイビジョンで撮影された映像は確かにスケール感があって美しいのだが、その一方で観光映画のようになってしまったことは否定できない。オリジナル版のような神々しくも禍々しい雰囲気など微塵もなく、どこからどう見たって普通の風光明媚なリゾート地なのだ。これでは大自然に対する畏敬の念はおろか、得体のしれない恐怖など盛り上がろうはずもない。
 かくして、ほぼ同じ脚本を基にしているにもかかわらず、出来上がった作品はまるで雲泥の差。映画にとって演出家の力量がいかに重要なのか、ということを改めて思い知らされることだろう。そういう意味では、良い見本くらいにはなるかもしれない。ジェームズ・カヴィーゼルという知名度のあるハリウッド・スターを主演に起用しながら、ほとんどの地域で劇場公開が見送られたというのも不思議ではないだろう。
 なお、アメリカでは“Nature's Grave(大自然の墓場)”というタイトルでDVD発売されている。なるほど、分かりやすいといえば分かりやすい(笑)。

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無意味に木を伐ろうとするピーターに呆れるカーラ

広大な海を目の前にして解放感を味わう2人

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遊泳中のピーターに不気味な影が忍び寄る

影の正体はいったい何だったのか?

 倦怠期を迎えた若い夫婦ピーター(ジェームズ・カヴィーゼル)とカーラ(クローディア・カーヴィン)。冷え切った夫婦関係を修復するべく、ピーターはビーチの穴場スポットでキャンプをしながら週末を過ごそうとカーラを誘う。とはいえ、カーラは夫と違ってアウトドアが大の苦手。そもそも、趣味のアウトドアに金を注ぎ込むピーターのことが腹立たしい。
 半ば強引に彼女を連れ出したピーターだったが、車中で不平不満ばかりを口にする妻にいら立ちは募るばかりだ。ついつい、タバコを窓から外へ投げ捨ててしまうし、わき見運転をしてカンガルーをひき殺してしまったことにも気づかない。前を走るワンボックスカーとぶつかりそうにもなった。一瞬ヒヤッとしたものの、落ち着いてワンボックスカーを追い越すピーター。後部座席にはテディベアを抱えた少女が心細げに座っている。よく見ると、運転席の父親と助手席の母親は激しく口論をしているようだった。ピーターとカーラは自分たちの将来を見ているようで、なんとなく気まずい雰囲気になる。ピーターは妻に内緒で愛犬クリケットを車に乗せていたが、カーラはそのことに気付いても知らないふりをした。
 真夜中になって、ようやく目的地へ近づいた2人。穴場のビーチへとつながる森は立ち入り禁止の私有地だったが、ピーターはお構いなしに車を進めていく。木の幹に掘られた矢印の方向を目指したが、なぜか進んでも進んでも同じところへ戻ってしまう。携帯は繋がらないし、カーナビも役に立たない。とりあえず、明るくなるまで待とう。仕方なく、2人は車中で一晩を過ごすことにした。
 翌朝、カーラが目覚めるとピーターはすでにキャンプ道具をセッティングし、意味はないけれど木こりの真似をして気を伐ろうとしていた。カーラには無駄なこととしか思えない。しかも、ライフルやモリまで持参している。彼女には夫の趣味がまるで理解できなかった。そんな冷めた目で見る妻を、ピーターは海岸へと連れて行く。海はすぐ傍にあったのだ。その雄大な光景を目の当たりにして久々に解放感を味わった2人は、束の間とはいえ恋人同士のような気分になるのだった。
 早速、海へ泳ぎに出たピーター。一方、カーラはクリケットを連れて付近を散歩していた。丘の上から海を見下ろした彼女は、泳ぐピーターに近づく不気味な影を見つけて青ざめる。必死に叫び声を上げながら海岸へと走り、ピーターに危険を知らせるカーラ。その尋常ではない様子に気づいたピーターは、慌てて海岸へと泳ぎ着く。しかし、その不気味な影の正体は全く分からなかった。
 これだからアウトドアは好きになれない。神経質になったカーラは不満を口にする。食べ物に群がってくる虫も我慢ならない。アリの大群に殺虫剤をかけながら、カーラはこんなところへ連れてきた夫の身勝手さを呪うのだった。すると、安全ロックをかけていたはずのモリの矢が彼女の体をかすり、目の前の木の幹に突き刺さる。ショックで言葉を失ったカーラは、不注意を謝るピーターに冷たい視線を投げかけるのだった。
 不機嫌なカーラをテントに残し、ピーターはクリケットを連れてライフルの試し撃ちにでかける。海へ空き瓶を投げ捨て、それを射的代わりにしてライフルの腕を試すピーター。さらに、水面に群がる水鳥にも銃口を向けて乱射する。ふと見ると、入り江の向こう側にワンボックスカーが見える。それは、
昨夜追い越した一家のものだった。一方、カーラはテントのそばに落ちている卵を拾った。よく見ると、木の上に鳥の巣があるらしい。何の卵だろう?彼女はそれをテントに持ち込む。

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安全ロックをかけたはずのモリの矢がカーラの傍をかすめる

ライフルの試し撃ちに出かけたピーター

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サーフィンを楽しむピーターにまたあの怪しい影が…

海岸に打ち上げられていた海洋生物の子供の死骸

 キャンプへ戻ったピーターは、今度はサーフィンに出かけることにする。しかし、カーラは何もすることがない。せっかくここまで来たんだから何かすることを探せよ、という夫にキレるカーラ。彼女にしてみれば、好きでここまで来たわけじゃないからだ。結局、ピーターは海で波乗りを楽しみ、カーラはテントの中で読書をすることに。すると、どこからともなく赤ん坊の泣くような声がする。驚いたカーラは砂浜の方へ飛び出した。見ると、水面にサーフボードが浮いており、ピーターの姿はどこにもない。恐怖に青ざめたカーラだったが、ピーターは少し離れた場所で岸へたどり着いていた。
 また、あの不気味な影が海中をうごめいている。いったいあれは何なのか?すると、クリケットが何かを見つけて吠えている。よく見たところ、それはイルカかアザラシの子供のような生き物の死骸だった。いずれにせよ、何か得体のしれない生き物がいることは確かだ。ピーターは海に向かってライフルを発砲する。たちまち海面には真っ赤な血が広がった。
 気味の悪いことばかり起きる。カーラの我慢は限界に達していた。すぐにでも家に帰りたいという彼女を説得しようとするピーターだが、お互いにカッカと興奮してケンカにしかならない。テントに閉じこもるカーラ。ピーターは足元に転がっている卵に気付く。すると、空を飛んでいたワシがいきなり彼を目がけて襲いかかって来た。
 なんとかワシを追い払ったピーターだが、カーラの興奮は収まらない。怒りと恐怖でわけの分からなくなった彼女は、ワシの卵を木の幹に投げつけて潰してしまう。命を粗末にするなんて、と妻を責めるピーター。しかし、冷静さを失った彼女にはそんな言葉も意味をなさない。自分一人だけでも家に帰ると言い張るカーラは、夫を置き去りにして車を出そうとする。しかし、肝心のエンジンがかからない。ピーターがバッテリーを発電用に切り替えていたのだ。元に戻す方法を知らないカーラは、家に帰ることを諦めざるを得なかった。怒りの収まらない彼女は車を閉めきり、夫と顔を合せることすら拒んでみせる。
 その晩、キャンプのテーブルで怪しげな物音がした。暗闇をそっと近づくピーター。よく見ると、そこには巨大な蛇が。驚いたピーターは後ずさりした拍子に転んでしまい、大きな石に頭を強く打ちつけてしまう。まったく散々な目に遭ってばかりだ。さすがのピーターもようやく家へ戻る気になり、朝になったら荷造りをしようとカーラに約束する。
 そして翌朝、手際の悪い妻を犬の散歩に行かせ、ピーターは一人で荷造りを始める。海岸の方へと向かったカーラは、そこで異様な光景を目の当たりにした。岸に打ち上げられた巨大な生物。それはジュゴンの死体だった。昨日見つけたのは恐らくジュゴンの子供だ。その証拠に、死体は子供の方へ頭を向けていた。つまり、ピーターがライフルで撃ったのは、我が子を探して岸へと近づいてきたジュゴンの母親だったのだ。例の泣き声もこれで説明がつく。
 ふと、ピーターは例のワンボックスカーに乗った一家のことを思い出した。彼らは無事なのだろうか。嫌がるカーラを無理やり連れて、入り江のほとりへと車を走らせるピーター。自分のことを身勝手だと口汚く罵る妻に、さすがの彼もブチギレた。勝手に子供を堕ろしたお前に言われる筋合いはない。たとえ俺の子供じゃないということが分かっていても、生むべきだったはずだ。最も触れられたくないことを責められたカーラは苦悶の表情を浮かべ、ピーターは怒りに身を震わせた。もはや夫婦関係の修復などあり得ない。2人は離婚することを決意した。
 やがて、車は入り江の近くへとたどり着いた。ピーターは一人でワンボックスカーを探しに向かう。すると、車は水中に沈んでいた。入り江に飛び込んで車の中へと入った彼は、腐りかけた少女の溺死体を発見する。さらに、テントの中では母親の遺体が腐敗しており、近くの木には父親の首つり死体がぶら下がっていた。どうやら無理心中のようだった。
 一刻も早く、ここを立ち去らねば。荷物を取りに戻った2人だったが、ふと気づくと愛犬クリケットの姿が見当たらない。手分けをして捜していると、海岸で信じられない光景を発見した。ジュゴンの死体が子供の方へ向かって動いていたのだ。波に押し流されたのかもしれない、そう説明しようとするピーターだったが、カーラはすっかり動転してしまった。クリケットなんてもうどうでもいい、どうせあなたの犬だ。今すぐにでも家へ帰る!そう言って車へ乗り込もうとするカーラと、彼女を落ち着かせようとするピーター。しかし、2人の揉みあいは、やがて暴力の応酬へとエスカレートする。
 その時、遠くからクリケットの鳴き声が聞こえてきた。愛犬を探しに走り出すピーター。その隙に、カーラは車を発進させて立ち去ってしまった。クリケットと一緒に森に残されたピーターは、やがて不安な夜を迎える。一方、カーラも抜け道を見つけることが出来ずに森の中をグルグルとさまよっていた。果たして、2人は生きて無事に文明社会へ戻ることが出来るのだろうか…?

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不気味な影に向かってライフルを撃ち込むピーター

翌朝、巨大な生物の死体が海岸に打ち上げられていた

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それは我が子を探していたジュゴンの母親だった

カーラの裏切りに怒りを爆発させるピーター

 このリメイク版の演出を手掛けたジェイミー・ブランクス監督は、『スクリーム』('96)の大成功に誘発されて'90年代末に量産された亜流スラッシャー映画の一つ、『ルール』('98)の監督として知られる人物。2作目の『バレンタイン』('01)が興行的にも批評的にも大失敗したことからハリウッドでの仕事がなくなり、近年は母国オーストラリアへ活動の場を移している。とはいえ、母国での初仕事となった『ストライク・バック』('07)も劇場公開されたのはロシアだけ。もともと作曲家として映画に関わっていた人だけに、本作以降はもっぱらそちらを本業にしているようだ。
 製作を担当したのは、ニコラス・ケイジ主演の『ロード・オブ・ウォー』('05)やジェイソン・ステイサム主演の『バンク・ジョブ』('08)などのハリウッド映画で知られるゲイリー・ハミルトンと、ガイ・ピアースとヘレナ・ボナム・カーター共演の『記憶のはばたき』('02)のナイジェル・オデル。そして、先述した通りオリジナル版と同じエヴェレット・デ・ロッシュが脚本をアップデートし、主人公たちがビーチへ向かう途中に立ち寄るパブの客として顔を出している。
 また、撮影監督にはブランクス監督の前作『ストライク・バック』でも組んだカール・フォン・モーラーが参加。ジュゴンのクリーチャー・エフェクトや腐乱死体の特殊メイクを手掛けたジャスティン・ディックスも、やはり『ストライク・バック』に引き続いての登板だ。さらに、オリジナル版の撮影監督を担当したヴィンセント・モントンが第2班監督を務め、ブランクス監督自身が音楽スコアの作曲も手がけている。

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ワンボックスカーは入り江に沈んでいた

近くのキャンプには家族の無残な死体が

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死んだはずのジュゴンがなぜか前進していた

憎しみの火花を散らせるピーターとカーラ

 今回のリメイク版でピーター役を演じるのは、テレンス・マリック監督の『シン・レッド・ライン』('98)に主演して注目され、メル・ギブソン監督の問題作『パッション』('04)のイエス・キリスト役でも話題となった人気俳優ジェームズ・カヴィーゼル。ここのところハリウッドではヒット作に恵まれておらず、オーストラリアまで遠征した本作も残念ながらイマイチだったが、イギリスで主演したリメイク版テレビ・シリーズ『プリズナーNo.6』('09)はなかなか良かった。
 一方、妻のカーラ役を演じているクローディア・カーヴィンはオーストラリアの人気女優らしく、同国出身の鬼才スピエリッグ兄弟のハリウッド進出作『デイブレイカー』('09)でもヒロイン役を演じていた。確かに気が強そうでギスギスした感じは適役なのかもしれないが、やはりオリジナル版のブライオニー・ビーズのいけ好かないクソビッチぶりには敵わない(笑)。『スターウォーズ エピソード3/シスの復讐』('05)にも出ていたらしいが、はて、さっぱり記憶にないのだけれど…。

 

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