ロリータ Lolita
以前に紹介したスペインの伝説的大スター、ロラ・フローレスの長女であり、今や自らがスペインを代表する国際的な大物女性歌手となったロリータ・フローレス。通称ロリータ。5歳年下の妹ロサリオもトップ・スターとして活躍しているが、母親の才能を最も色濃く受け継いだのは姉ロリータの方かもしれない。
その歌声は年齢を重ねるごとに母ローラのものと瓜二つに。デビュー当初は偉大すぎる母と比べられることを危惧し、あえて歌謡ポップス路線を貫いてきたロリータだったが、95年に母親と弟アントニオの2人が相次いでこの世を去るという不幸に見舞われ、これをきっかけに己のルーツであるフラメンコへと徐々に回帰するようになった。
33年のキャリアで20枚のアルバムをリリース。決して多作とは言えないだろう。それだけに、近年は華々しい活躍を続ける妹ロサリオの影に隠れがちな印象は拭えない。あくまでもマイペースの人。それは彼女のキャリアを振り返ってみても、よく分かるかもしれない。
1958年5月6日、ロリータはスペインのマドリードで生まれた。先述したように母親は国民的大スター、ロラ・フローレス。父親アントニオ・ゴンザレスも有名なフラメンコ・ギタリストだった。幼い頃からエヴァ・ガードナーに憧れていたロリータ。母親がスーパー・スターだったおかげで、憧れのエヴァはもちろんのこと、オードリー・ヘプバーンやユル・ブリンナー、フランク・シナトラといったハリウッド・スターがマドリードの自宅を訪れるということも少なくなかったという。
彼女自身も3歳の頃から母親のコンサートで踊るようになり、スペイン国内はもとよりアメリカや南米のツアーにも同行した。5歳の時には母親が主演したメキシコ映画にも出演。周囲からは母親と同じ道を歩むものと期待されていたが、彼女自身は音楽よりも小説や詩を書くことが好きな文学少女だった。と同時に、偉大すぎる両親の存在を重荷と感じる部分もあったらしい。そのプレッシャーは、小学校に入学した頃からより一層彼女を苦しめるようになる。
両親がジプシーの血を引いているということは公然の事実だった。当時のスペインではまだジプシーに対する差別意識が根強く、そのためにロリータは学校で陰湿なイジメに遭ってしまう。そこで両親は彼女をインターナショナル・スクールに転入させるが、こちらでは逆に有名人の子供ということで、なにかと目立つ存在になってしまった。中でも彼女が戸惑ったのは、クラスメートたちからスターに会わせて欲しいとせがまれること。チヤホヤされはするものの、本当の友達を作ることはできなかったという。こうしたことから、彼女はどんどん内向的な性格になってしまったようだ。
“妹のロサリオは全く問題がなかったみたい。早く舞台に立って踊りたがっていたから。でも、私は御免だったわ”と語るロリータ。それゆえに、彼女は15歳で学校を卒業すると、母親の経営するギフト・ショップで売り子の仕事をするようになった。しかし、やはり血は争えないのだろう。ほどなくして、彼女はその後の人生を決定付ける運命的な人物と出会う。
休暇を利用してマドリードを訪れた従兄弟の作曲家ホセ・ルイス・ヴェネガスから、彼女はギタリストのパコ・セペーロを紹介される。この人物こそが、それまで彼女の中で眠っていた音楽への情熱に火をつけたようだ。たちまち意気投合した2人は共に音楽活動を行うようになり、そのステージを見たCBSレコードの音楽マネージャー、トマス・ムニョスによってロリータのレコード・デビューが決まった。
1975年にリリースされたデビュー・アルバム“Amor,
Amor”はスペイン国内のアルバム・チャートで1位を獲得。シングル・カットされたタイトル・ソングも爆発的なヒットとなった。翌76年にはセカンド・アルバム“Abrazame(抱いて)”も発売され、フアン・カルロス・カルデロン作曲のシングル“No
notas que estoy temblando?(私が震えているのが分からないの?)”が評判に。77年のサード・アルバム“Mi
carta(私の手紙)”ではタイトル・ソングを自ら作曲し、シンガー・ソング・ライターとしてのキャリアも歩むようになった。
その人気はスペイン国内のみならず、メキシコやアルゼンチン、チリなど南米各国へも波及。やがてスペインでヒットに恵まれなくなると、南米に活動の拠点を移すようになる。そんな折、彼女は“パキーリ”の愛称で親しまれた国民的な人気闘牛士フランシスコ・リヴェラと恋に落ちる。自分の全てを彼に捧げたいと考えたロリータは、80年に5枚目のアルバムをリリースした直後、あっけなく芸能界を引退してしまった。ただ、その蜜月は長続きしなかったらしく、1年半の同棲生活を経て2人は別れてしまう。
82年にカムバックを果たしたロリータだったが、残念ながらスペイン国内のセールスは全く延びず、85年にリリースしたシングル“Estupido(愚か者)”が辛うじてヒット・チャ−トの上位にランクされた程度。その一方で、南米各国での人気は相変わらず絶大なものがあり、メキシコやアルゼンチンでは数多くの音楽賞に輝いている。
一方、83年にギレルモ・フリアーゼと結婚。84年には元恋人の闘牛士パキーリが事故死、自身も流産に見舞われるなどの不幸が続いたが、88年には待望の長女エレナを出産。94年には長男ギレルモも生まれ、私生活は順風満帆そのものだった。
長女の子育ての為に一時音楽活動から遠ざかったロリータだったが、91年にカムバックを果たす。さらに、92年にリリースされたアルバム“Con
sabor a menta(ミントの香りを添えて)”が、久々にスペイン国内でもスマッシュ・ヒットとなり、94年のアルバム“Y la vida
pasa(そして人生は起きる)”も評判に。
ところが、1995年5月16日最愛の母ロラが他界し、その半月後にフラメンコ歌手として脚光を浴びていた弟アントニオが自殺を遂げてしまった。相次ぐ身内の不幸から精神的に参ってしまったロリータ。それは自らの夫婦関係にまで影響を及ぼし、同年彼女は離婚を決意した。
そして、その年の秋、彼女は弟アントニオの書き下ろした楽曲を含むアルバム“Quien
lo va a
detener(誰が引き留めてくれるのか)”をリリース。もともと2月にレコーディングを終えていた作品で、相次ぐ不幸から発売が延期されていた。彼女自身、このアルバムを発表するべきかどうか迷ったというが、亡き弟へのはなむけという意味を込めて、早期の発売に踏み切ったという。
その後2年間、音楽活動を休止していたロリータだったが、弟アントニオの残した楽曲をタイトルにしたアルバム“Atrasar
el
reloj(時間の流れを緩めて)”を97年にリリース。これも大変な評判になったが、彼女は再び沈黙を守ってしまうことになる。その間、2000年に父アントニオ・ゴンザレスが死去。
そして2001年、ロリータは実に4年ぶりとなる新作アルバム“Lola,
Lolita,
Lola”を発表した。キューバの大歌手コンパイ・セグンドの名曲をカバーしたシングル“Saradonga”が爆発的なヒットとなり、アルバムもゴールド・ディスクを獲得。アメリカや南米でも大変な評判となった。2005年には母ロラへのオマージュを捧げたカバー・アルバム“Y
ahora
Lola”を発表。これまでにも幾度となく母親の楽曲をカバーしてきたロリータだが、母ロラに対する愛情と尊敬の念の深さには計り知れないものがあるようだ。
また、2002年には映画“Rencor(恨み)”でゴヤ賞(スペイン版アカデミー賞)の最優秀主演女優賞を獲得。これをきっかけに、最近では女優活動にも本腰を入れている。現在はアメリカの脚本家ダリル・マシューズの監督デビュー作となる映画“Caminando(散歩)”(09年)に出演中とのこと。
様々な人生の荒波を超えながらも、少しづつマイペースに、しかし着実に進化し続ける女性アーティスト。それがロリータ・フローレスなのである。
Sus tres primeros LP's en CBS
(1975-1977) Todos sus LP's en CBS Vol.2
(1978-1985)
(P)2000 Rama Lama/Blanco Y Negro
(Spain)
(P)2004 Rama Lama/Blanco Y Negro
(Spain)
CD 1
1,Amor, Amor ビデオ
2,Busca
3,Nuestra
noche
4,Quien lo va a saber
5,Saeta
6,Por Bulerias
7,Que sera
de mi ビデオ
8,Ay,
pena, penita pena ビデオ
9,Lentamente ビデオ
10,Con el
insinuante mirar
11,Este amor que no me ama
12,Abrazame
13,Lo voy
a dividir
14,Como un gorrion
15,BesameCD 2
1,Sola
2,No renunciare ビデオ
3,A tu
vera
4,No notas que estoy temblando? ビデオ
5,Lo que yo
daria
6,Si me vuelves a mirar
7,Te voy a dejar
8,Caricia a
Caricia ビデオ
9,Te quiero
todo
10,Cuidate ビデオ
11,Hombre
12,Mi
carta ビデオ
13,Amor en la
Habana
14,Te quiero y basta
15,Suave Tristeza
16,Si me
AmarasCD 1
1,Sin dejar de amarte
nunca
2,Si la noche de anoche volviera
3,Si, pero no ビデオ
4,De tanto
quererte tanto
5,Cuando anochece en el mar
6,Amemonos
7,Se me
olvido otra vez
8,No se, no se
9,Sera el
amor
10,Esperame
11,Seguir Sonando ビデオ
12,Amor de los
ojos tristes
13,Te adviero mi amor
14,Dolores, ay mi
Dolores
15,Aceptame
16,Se te olvido
17,Prohibiciones
18,Y tu
no estabas
19,Dolor de roca
20,En otra camaCD 2
1,Cuando Llamas
Tu
2,Aguila Real ビデオ
3,No estoy
loca
4,Chico de la noche
5,Mi vida es un carnaval
6,Lo
intente
7,Un amigo
8,Ahora quiero vivir ビデオ
9,Ven
10,Yo
y la luna
11,Para volver
12,Beso por beso ビデオ
13,Mediterraneo
14,Los
enamorados
15,Pescadito
16,Etupido ビデオ
17,La
aventura
18,En mi interior
19,Nana de colorines ビデオ
20,El amor es
asi
CBS在籍中に発表した作品の中から
、初期のアルバム3枚を完全収録した2枚組CD。こちらのCD1は、デビュー・アルバムとセカンド・アルバム前半を収録してます。デビュー盤は大半を従兄弟のホセ・ルイス・ヴェネガスが作曲。センチメンタルで叙情的な歌謡バラードが多いですね。#8では母ロラの名曲もカバー。大ヒットした#1は当時のパートナー、パコ・セペロが書き下ろしてます。フラメンコ風の濃厚で情念溢れるラブ・ソング。なかなかの名曲だと思います。 スペインのポール・モーリアことフアン・カルロス・カルデロン作曲による大ヒット#4や南米で爆発的なヒットとなった#2や#8など、個人的にも大好きな名曲が揃ったCD2。セカンド・アルバムの後半とサード・アルバムが収録されてます。ロリータ自身が作詞・作曲を手掛けた#12も叙情的でドラマチックな名曲。CD1も含めて、全体的なアレンジのセンスがかなり秀逸で、ラテン風味の歌謡ソフト・ロックといった印象。ラテン・ポップスに縁遠いという人にもオススメ。
こちらは78年〜85年にかけてCBSから発表した4枚のアルバムを完全収録した2枚組。南米のマーケット、特にメキシコのマーケットを視野に入れていることもあってか、全体的にボレロやランチェラを意識した楽曲が多いように感じます。このCD1は78年の“Esperame”と79年の“Seguir
sonando”を収録。どちらもデビュー当初に比べると、かなり泥臭い仕上がりかもしれません。スペイン本国でセールス的に伸び悩んだというのも理解できるかもですね。
ギレルモ・フリアーゼとの結婚で幸せの絶頂期にある83年にリリースされたアルバム“Aguila real”と85年のアルバム“Para
volver”を収録したCD2。まず“Aguila
real”の方はセールス的に全く不発だったものの、作品としては非常に充実した内容。躍動感溢れるラテン歌謡ポップスといった感じで、とてもキャッチーな仕上がりです。一方の“Para
volver”も、イタリアのカンツォーネを彷彿とさせるメロディアスでポップな楽曲が揃っており、なかなか楽しめます。
20 de
coleccion Lola Lolita Lola
(2001) Lolita Lola
(2003) Si la vida son 2 dias
(2004)
(P)1993 Sony Discos (USA)
(P)2001 Warner Music
(Spain)
(P)2003 Pelo Music/Warner Music
(Argentine)
(P)2004 Warner Music
(Spain)
1,No renunciare
2,Amor,
amor
3,No notas que estoy temblando
4,Lentamente
5,Te voy a
dejar
6,Abrazame
7,Caricia a caricia
8,Lo voy a
dividir
9,Prohibiciones
10,Amor en la Habana
11,Il se te
olvido
12,En otra cama
13,Vete con ella
14,Estupido
15,Beso
por beso
16,Para volver
17,Lo siento amor
18,Te voy hacer la vida
imposible
19,Estoy cansando de ti
20,Con sabor a menta1,Mia
2,Vete de mi
3,Dejar de
pensar en ti
4,Me marcho
5,No Hay Manera
6,Sarandonga ビデオ
7,Mentiroso
8,Explicame
9,Amnesia
10,Mentiras
son verdades
11,Somos novios ビデオ
(con
Armando Manzareno)
produced by Jose mas "kitflus", Nacho Mano,
Armando Nazareno1,Mia
2,Sarandonga
3,Somos
novios (con Armando Nanzareno)
4,Parapapa
5,Ay Lola Lolita
Lola
6,Tomasa
7,Siguela
8,Pan y chocolate
9,Vete de
mi
10,Mentiroso
11,Sarandonga (House Mix)
12,Sarandonga (Latin
Extended Remix)
produced by Jose mas "kitflus",Nacho Mano, Armando
Nazareno
#11&12 remixed by Pedro del Moral & David
Ferrero1,Si la vida son 2
dias
2,Mia
3,Vete de mi
4,Dejar de pensar en
ti
5,Sarandonga
6,Mentiroso
7,Somos novios (con Armando
Nanzanero)
8,Ay Lola, Lolita,
Lola
9,Parapapa
10,Perdoname
11,Tomasa
12,Las
elecciones
13,Mediterraneo
produced by Jose mas "kitflus",Nacho
Mano, Armando Nazareno, Antonio Serrano
1975年〜85年までのCBS在籍時代に発表したシングルに、91年と92年にHORUSレーベルからリリースしたシングルを加えて編集されたベスト・アルバム。これ一枚で初期のロリータをオバー・ビュー出来るような内容で、初心者の入門篇として是非オススメしておきたいCDかと思います。発売されたのはかれこれ15年前ですが、今でも定番のベスト・アルバムとしてロンス・セラーを続けている1枚。ラテン・ポップス・ファン必携です。
ロリータにとって4年ぶりとなったカムバック・アルバム。本格的なフラメンコをベースに、ジャズやフォーク、ロックの要素をふんだんに盛り込んだ、非常に聴き応えのある作品に仕上がっています。中でもスペインのみならず南米各国でも大ヒットしたシングル#6は最高。原曲のキューバン・サルサ的魅力をしっかりと残しつつ、アコースティックと打ち込みをバランス良く配し、ダンサンブルで迫力のある現代的フラメンコ・ナンバーになっています。名盤ですね。
こちらはアルバム“Lola Lolita
Lola”に新曲とリミックス・バージョンを加えてコンパイルされた、アルゼンチン限定盤となります。全編これダンサンブルでクールなフラメンコ・ナンバーのオンパレード。中でもキャッチーなサビのコーラスが強烈に印象的な#4は超オススメだと思います。また、#11と#12のリミックスも大きな目玉ですね。プログレッシブ・ハウスに仕上げた#11は無理あり過ぎですが、陽気なラテン・ハウスに仕上げた#12はまずまずの出来。
こちらも“Lola Lolita
Lola”をベースに、新曲を加えたコンピレーション盤。左の“Lolita
Lola”と殆んどの楽曲が被ってしまうのが難点だし、肝心の新曲もクオリティ的にはいまひとつ感が拭えないので、あくまでも熱心なファンのみ限定でオススメしておきたい一枚。一般的なリスナーであれば、左の2枚を抑えておけば十分でしょう。
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...Y ahora Lola (2005) |
Sigue Caminando (2007) |
(P)2005 Warner Music (USA) | (P)2007 Warner Music (Spain) |
1,El lerele ビデオ 2,La sebastiana 3,Pena, penita pena 4,Limosna de amores 5,No me tires indire 6,Una camino de flores 7,La marimorena (con Antonio Serrano) 8,A tu vera (con Rosario & Lola Flores) 9,Maria Belen Santa Juana 10,Les tientos del sombrero 11,La lotera 12,La zarzamora produced by Antonio Carmona & Fernando Illan. |
1,Caminando ビデオ 2,No puedo amor 3,Jugando a disfrutar 4,Sera 5,Espiritu burlon 6,Mariposa 7,Yo quisiera 8,De ti y de mi ビデオ 9,Mal asunto ビデオ 10,Yo no se 11,Tiempo produced by Javier Limon |
偉大なる母ロラ・フローレスの没後10周年を記念して企画されたトリビュート盤。しっかりと今風のモダンなフラメンコ・ナンバーとして仕上げているのが特徴です。もともとロラ・フローレスの持ち歌自体、フラメンコとしてはポップス色が強かったですし。いずれも演奏のセンスが非常に素晴らしく、とてもお洒落な印象。コテコテのフラメンコはちょっと・・・という人にもオススメです。貫禄たっぷりのロリータのボーカルもむちゃくちゃ渋い。#8では母ロラのボーカル・トラックを使用、妹ロサリオも加わって夢の母娘競演が実現。鳥肌ものの大熱唱に、思わず涙がこぼれ落ちます。 |
久々のオリジナル・アルバムとなった最新作。オープニングを飾る#1から、いきなり陽気なサルサのリズムが飛び出して意表を突かれましたね〜。そうかと思えば、#2では大人のジャズ・スウィングを、#4ではメロウでスタイリッシュなブルース・ロックを、#6ではクールで甘いボサをといった具合に、フラメンコという枠に全くとらわれない選曲に驚かされます。ラテン女らしい強さや逞しさと共に、大人の女性の色香と貫禄を漂わせた1枚。前作も素晴らしい内容でしたが、こちらも負けず劣らずの傑作。世代を問わずにオススメできるアルバムだと思います。 |