リセット・メレンデス Lisette Melendez
日本でのみ大ヒットしたシングル“Goody
Goody”のおかげで、一般的にはR&B系アーティストと思われがちなリセット・メレンデス。しかし、あれは彼女にとってあくまでも例外的な作品であり、本来はれっきとしたフリースタイル系のボーカリストである。
91年のデビュー曲“Together
Forever”は、従来のフリースタイルにファンク的な味付けをほどこしたサウンド・プロダクションがとても斬新だった。フリースタイル斜陽の当時にあって、デビューから全米トップ40入りを果たしたのは立派だったと思う。
ニューヨークはイースト・ハーレムに生まれたリセット。大の音楽好きだった母親や叔母と共に、幼い頃から教会で賛美歌を歌っていた。当時の彼女のアイドルはバーブラ・ストレイサンドとドナ・サマー。貧しくて治安の悪いハーレムに暮らすリセットにとって、音楽は唯一の心の慰めだったようだ。
ただ、彼女自身はとてもシャイな性格だったらしく、もともと人前で歌うのは苦手だったと語っている。正式なボーカル・トレーニングを受けたこともなく、バーブラやドナのレコードがリセットにとっての教材。仲の良い友達ですら、彼女が歌手に憧れているとは知らなかったという。
そんな彼女に強い影響を与えたのがリサ・リサ&カルト・ジャム。同じハーレムの出身で世界的な成功を収めたリサ・リサの活躍が刺激となり、本気で歌手を目指すようになったのだ。やがて、80年代半ばに活躍したヒップ・ホップ・グループ、ロック・ステディ・クルーと知り合いだったリセットは、メンバーのクレイジー・レッグスの紹介でプロデューサーのカルロス・ベリオスと出会うことになる。
彼女の個性的でパワフルな歌声を気に入ったベリオスは、88年に自らのユニットであるオンリー・イン・ザ・ダークのシングル“Make
Noise”のリード・ボーカリストとしてリセットを起用。以降、彼女はベリオスの秘蔵っ子として常に活動を共にすることに。
この2人のコラボレーションから生まれたのが、デビュー・ヒットの“Together
Forever”だったわけだが、実はこの曲、もともと彼女のために書かれた作品ではなかったという。当初“Together
Forever”を歌う予定だったのはフランキー・カトラス。しかし、ベリオスや作詞家フランキー・レイスらの傍らで完成した楽曲を聴いたリセットは、是非とも自分にデモ・バージョンを歌わせて欲しいと懇願したという。
“自分の気に入った曲じゃないと歌うことが出来ない”という彼女は本能直結型のボーカリスト。歌詞とメロディを聴いた瞬間に、これは私のためにある曲だと確信したという。デモ・テープを聴いたベリオスもその仕上がりに驚き、彼女のソロ・デビュー作としてレコーディングすることが決まった。
ただ、“Together
Forever”はそれまでのフリースタイルとは明らかに“違う”作品だったため、ディストリビュート先を探すのが至難の技だったという。そこで、ベリオスは他の楽曲との抱き合わせで、フィーバー・レコードのアンディ・パンダのもとへ持ち込んだところ、唯一選ばれたのが“Together
Forever”だったのだ。
当時フィーバーは大手コロムビア・レコードとの業務提携が決まったばかり。つまり、彼女はメジャー・レーベルからソロ・デビューすることになったのだ。これは当時のフリースタイル系アーティストとしては異例の待遇。さらにビルボードの全米ポップ・チャートでも最高35位をマークし、新人としては幸先の良いスタートを切ったのである。
続くシングル“A
Day In My Life(Without You)”も全米49位とまずまずの結果。この成功を受けてファースト・アルバム“Together
Forever”もリリースされた。だが、93年のセカンド・アルバム“True To Life”からのファースト・シングル“Goody
Goody”は全米53位と奮わず、続くセカンド・シングル“Will You Ever Save
Me”もチャート・インすら出来なかった。
これはやはり、フリースタイルからR&Bへとシフト・チェンジしたことが裏目に出てしまったのだろう。当時はフリースタイル系アーティストの多くが方向転換を模索していた時期。ジョージ・ラモーンやインディア、マーク・アンソニーらはサルサに活路を求め、ジョニー・Oやシンシア、リル・スージーらはフリースタイルとユーロ・ハウスの融合を試みていたわけだが、その一方でR&Bへと移行していったリセットやカバー・ガールズが結果的に失敗してしまったのは興味深いところ。
ただ、怪我の功名というわけではないが、リセットの場合は先述したようにシングル“Goody
Goody”が日本で予想外の大ヒットを記録。第9回日本ゴールド・ディスク賞の洋楽部門ではニュー・アーティスト賞まで受賞している。
その後、フィーバーとコロムビアの契約が解消されたこともあって暫らく沈黙していたリセットだが、96年にシングル“Time
Passes By”をリリース。さらに、98年にはNYサルサの雄セルヒオ・ジョージのプロデュースで、サルサ・アルバム“Un poco de
mi”を発表。シングル“Algo de
mi”はビルボードのラテン・エアプレイ・チャートで最高8位をマークしたものの、アルバムそのもののセールスは芳しくなかったようだ。
同年、再びカルロス・ベリオスと組んだアルバム“Imagination”でフリースタイルの原点に戻ったが、こちらも残念ながら不発。やはり、あっちへ行ったりこっちへ行ったりという中途半端さが災いしたのか。結局、いろいろなジャンルにチャレンジしたことで逆にファン層が定着しなかったのではないかとも思う。
2005年には同じくフリースタイル・ディーヴァのシンシアと組んだユニット、リスシンとしてシングル“I
Can't Change Your Mind”をリリース。さらに、昨年はカルロス・ベリオスのアルバムで“I Need A Lover”と“Don't Ever
Say”の2曲を歌い、現在は久々となるソロ・アルバムのレコーディングに着手しているようだ。
Together Forever
(1991) A Day In My Life (Without You)
(1991) Together Forever
(1991) Never Say Never
(1991) こちらがファースト・アルバム。やはりカルロス・ベリオスのサウンドというのはファンクをルーツにしているんでしょう。Pファンクも真っ青なゴリゴリ・サウンド#5を筆頭に、全編に渡ってハードかつヘヴィーなフリースタイル・ナンバーの目白押しです。その代わりと言っちゃなんですが、似たような楽曲ばかり揃ってしまったという印象も。やはり一番のオススメはデビュー・シングル#1と#5ですかね。哀愁漂うキャッチーな#6やピコピコズコズコとエレクトロ感炸裂の#7も結構お気に入り。
(P)1991 Fever/Rush/Columbia
(USA)
(P)1991 Fever/Rush/Columbia
(USA)
(P)1991 Fever/Rush/Columbia
(USA)
(P)1991 Fever/Rush/Columbia
(USA)
1,New School Freestyle 6:14
2,New
School Dub 5:08
3,Something For The Red Zone 5:24
4,Something For
Roseland 5:08
5,Berrios Beats 2:06
6,Radio Edit 3:46 ビデオ
produce,arrange,mix
and edit by Carlos Berriosside one
1,New School Club
6:14 ビデオ
2,New
School Radio 3:48 ビデオ
side
two
1,The After Dark Mix 6:13
2,Melendepella 5:08
3,Bonus Beat
2:27
produce,arrange,mix and edit by Carlos Berrios1,Together Forever 6:00
2,A Day
In My Life (Without You) 3:50
3,Stranger In My House Of Love 4:20 ビデオ
4,I'm Holding
Out 5:08
5,Never Say Never 4:29
6,He's My Baby Now 4:41
7,Empty
Spaces 4:30
8,Please Please Me 5:51
9,A Place For You
4:54
10,Remember The Rain 4:48
11,A Day In My Life (Without You)
(After Dark Mix) 6:13
12,The Red Zone
4:22
produce,arrange,mix and edit by Carlos Berriosside one
1,New School Freestyle
5:21 ビデオ
2,New
School Radio 3:57 ビデオ
3,Underground
Solution 5:00
side two
1,Never Say After Dark Mix
5:56
2,Melendapella 2:57
3,Never More Beats 2:00
全米トップ40ヒットとなったデビュー曲
。もちろん、リック・アストリーとは同名異曲です。エレクトロ・ファンク風のヘヴィーなドラムにハンド・クラップやサンプリングなどの装飾を被せ、ラテン特有のドラマチックなシンセ・リフで味付けを施したサウンドは、それまでのフリースタイルとは一味も二味も違ったカッコ良さで、当時はなかなか新鮮な衝撃でした。リミックス#3ではアシッド・ハウスっぽさを加えたダブ、#4では余計な装飾を省いたアンダーグラウンドなアプローチを聴かせてくれます。 前作の路線をそのまま引き継いだセカンド・シングル。随所にハウスっぽいサンプリングを加えつつ、カルロス・ベリオスらしいハード・エッジなラテン・フリースタイルに仕上がっています。ただ、楽曲の完成度としては及第点。前作の二番煎じという印象は拭えないかもしれません。逆に、思い切りファンク路線を押し出したB面リミックスの方が遥かにカッコ良いと思いますね。このゴリゴリとしたサウンドとパワフルな疾走感はなかなかの聴き応え。ハモンド・オルガン風のサイケなシンセもクールです。
アルバムの中でも特にお気に入りだったゴリゴリのファンク・ナンバー。ここまで来ると、ほとんどフリースタイルとは言えないかもしれませんね。派手なホーン・セクションに唸るようなサックス、グルーヴィーでファンキーなギターなど、まるで70年代のJBかP-ファンクかといった感じです。ただ、12インチ・バージョンは若干アンダーグランドな味付けが施されているので、アルバム・バージョンの方がオススメかもしれません。ちなみに、A面#3はマニアックなアシッド・ハウス系ダブ。
Goody Goody
(1993) Time Passes By
(1996) Un poco de mi
(1998) Imagination
(1998)
(P)1993 Fever/Rush/Columbia
(EU)
(P)1996 Fever/Warlock
(USA)
(P)1998 Sir George/WEA
(USA)
(P)1998 Fever/Warlock
(USA)
1,Radio Edit 4:11 * ビデオ
2,House Mix
6:09 **
3,Mantecka House Mix 5:49 **
4,Spanish Fly Dub 7:30
**
5,Hip Hop Mix 5:41 * ビデオ
6,LP Version
5:14
produced by Kendu.
* remixed by Louie "Phat Kat" Vega
**
remixed by Roger Pauletta, Boogie Lou and Docta Dee1,Radio Edit 3:57
2,Time Warp
6:21
3,Warp Instrumental 6:34
4,Traditional Mix 5:09 ビデオ
5,Beats
3:34
6,Acappella 3:58
produce,arrange,mixe & edit by Carlos
Berrios1,Algo de mi 4:27 ビデオ
2,Dueno de mi
corazon 5:02
3,Si piensas, si quieres 5:00
(duet with Frankie
Negron)
4,Togar el cielo 4:43
5,Acariciame 4:42
6,Enamorada
4:28
7,Abrazame 4:37
8,Que no, que no 4:54
produced by Sergio
George1,Time Passes By 5:09
2,Make The
Way 4:21
3,I Like What You're Doing To Me 4:48
4,Never Ever 4:45
*
5,Ecstasy 5:01*
6,Time Passes By (Time Warp Mix) 3:58
7,No More
Lonely Night 3:15
8,Come And Take My Heart 4:03
9,Forever
4:25
10,I Like The Way You Do 4:53 * ビデオ
11,Imagination
3:58 **
produced by Carlos Berrios
* produced by Kenny
Diaz
** produced by Kevin Dunning, Elliot Thomas and Lisette
Melendez
そういやあ“グリグリ、グリグリ、ダーリン♪”なんてこっ恥ずかしい日本語カバーもありましたね。当時は日本でも女子高生の間でR&Bが持てはやされ始めたこともあって、ティーンを中心にヒットしたという記憶があります。キャッチーなサビも日本人好みだったのかもしれませんね。ジャジーでクールなルイ・ヴェガのリミックス#1と#5はさすがのカッコ良さ。都会的で渋いアレンジが最高です。一方、アンダーグランドなディープ・ハウスに仕上げたリミックス#2〜#4は正直なところイマイチでしたね。
もともとはフィーバー・レコードのコンピレーション“Freestyle
Lives”で発表されたナンバー。オリジナル・バージョン#4はカルロス・ベリオスらしいファンキーでキャッチーなフリースタイルで、哀愁感炸裂のシンセ・リフが最高。リミックスの#1〜#3はトランス仕様のアンダーグランド・ハウスで、歌詞もメロディも全くの別物。ここまで違うと、もうリミックスとすら言えないかと思いますが・・・ね。仕上がりも好みじゃないし。なので、個人的にはオリジナル・バージョンだけで十分といったとこです。
90年代にNYサルサ界の風雲児として大活躍したセルヒオ・ジョージのプロデュースで制作された本格的サルサ・アルバム。これぞという決定打に欠けるという印象は拭えないものの、トータルではなかなか完成度の高い作品だと思います。中でも、リセット自身の作詞・作曲による#2は情熱的でキャッチーな佳作。#3ではサルサ界の貴公子フランキー・ネグロンともデュエットしています。マリア・コンチータ・アロンソの名曲をカバーした#5もゴージャスでエレガントな仕上がり。
矢継ぎ早にリリースされた4枚目のアルバム。フリースタイルの原点に立ち戻った作品ですが、#3ではヤング&カンパニーのファンク・ヒットをカバーしたり、#4では“Goody
Goody”とウリ二つのR&Bを聴かせたりと、ひとまずマンネリ化だけは避けようと努力している様子。悪くはないんですけど、やはりどうしても手抜き感は残ってしまうかもしれませんね。爽やかでポップな#8は結構好きですが。なお、#4と#5、#10ではケニー・ディアスの奥方であるサファイアがバック・ボーカルで参加してます。
Make The Way
(1998) I Can't Change Your Mind
(2005)
(P)1998 Fever/Warlock
(USA)
(P)2005 Fever/Warlock
(USA)
1,World Radio Mix 3:50
2,New York
Radio Mix 3:50
3,World Club Mix 4:23
4,New York Dub
4:23
5,Acappella 2:53
6,Beats 3:18
produced by Carlos
Berrios1,Mr. Big Radio Mix 3:58
*
2,Mendez Club Mix 4:38 **
3,Berrios Original Mix 4:14 ビデオ
4,Accapella
3:06
produced by Carlos Berrios
*produced by Steve
Migliore
** mixed by Dave Mendez & Keith Kemper
アルバムの中でも特にお気に入りだったのがこの曲。80年代のフリースタイル全盛期を彷彿とさせるキャッチーで煌びやかな佳作です。カバー・ガールズの“Show
Me”が好きな人であればアタリだと思いますね。リミックスも基本的な路線は一緒で、サウンドの重量感を増すだけにとどめたのは大正解。ただ、#4はダブじゃないっすよね。普通にボーカルがフルで入ってるし。しかも#3とミックスも余り変わらないし(笑)
同世代のフリースタイル・ディーバ、シンシアとのデュエットで発表したシングル。ファンにとっては夢の顔合わせといったところなのですが、残念ながら楽曲的にはイマイチ。オリジナル・バージョンは80年代オールドスクール風のエレクトロ・ファンクで、バックトラックの仕上がりそのものは決して悪くないと思います。リミックスの中では、ポップで華やかなユーロハウスに仕上がった#1がまずまずといったところでしょうか。
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