リル・リンドフォッシュ Lill Lindfors

 

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 スウェーデンを代表する女性ボーカリスト、リル・リンドフォッシュ。日本でも一部の音楽ファンの間では非常に人気の高い女性だ。その魅力は何といってもポップでお洒落な楽曲の数々。ジャズやブラジル音楽をベースにした、ソフトで耳ざわりの良いポップス・ナンバーが彼女のトレード・マークだ。カバー・ソングのチョイスもかなりセンスが良いし、素朴で上品な歌声も親しみやすい。まさに日本人好みのポップ・シンガーと言えるだろう。
 彼女がデビューしたのは60年代半ば。もともとは舞台のミュージカル女優として活躍していたらしい。当時のスウェーデンはシュラゲルと呼ばれる泥臭い歌謡ポップスが主流で、彼女のようにジャズやブラジル音楽を好んで取り上げるような歌手は少数派。元アバの女性ボーカリスト、フリーダも当時はソロ歌手としてジャズをベースにした大人向けのポップスを歌っていたが、シュラゲル風のポップ・バラード“Min Egen Stad”を歌うまではなかなかヒットに恵まれなかった。
 かくいうリルも、ヒット・チャート4位をマークした66年のシングル“Du Ar Den Ende”は映画『禁じられた遊び』のテーマ曲“愛のロマンス”のカバーだし、68年にナンバーワン・ヒットとなった“En Man i Byran”はオーストラリアの歌手ピーター・ドイルのヒット曲“If You Can Put That In A Bottle”のカバー。どちらも、言ってみれば典型的な歌謡ポップス作品だ。
 しかし、その一方ファースト・アルバムではセルメンの“マシュ・ケ・ナダ”や映画『いそしぎ』のテーマをお洒落にカバーし、68年にはサンバの名曲“トリステーザ”のスウェーデン語カバーをシングル・ヒットさせている。もともとラテンやブラジル音楽が大好きだったという彼女だが、当時のマーケット・ニーズとの折り合いをつけながら独自のポップ・ミュージックを追及していたのかもしれない。

 1940年5月12日フィンランドのヘルシンキに生まれたリルは、本名をマイ・リレモル・リンドフォッシュという。スウェーデンのストックホルム近郊で育ち、60年頃から歌手として活動を始めたようだ。61年にはスウェーデンの伝説的なエンターテイナー、カール・ゲルハルドのレビュー・ショーに出演。さらに、63年ミュージカル『ウェストサイド物語』のスウェーデン語版でアニタ役に抜擢されて知られるようになった。
 66年にはシングル“Du Ar Den Ende”でレコーディング歌手としても本格デビューし、翌年の同名ファースト・アルバムはスウェーデン国内だけで20万枚を売り上げる大ヒットとなった。また、ルクセンブルグで行われた66年度ユーロビジョン・ソングコンテストにも出場し、ジャズ歌手スヴァンテ・トゥーレッションとデュエットした“Nygammal Vals”で見事に2位入賞を果たしている。
 このように歌手として活躍する一方で、70年代からはテレビの司会者としても数多くのバラエティ番組に出演。もともとコメディエンヌ志向の強い人だったらしく、自分の番組でスタンダップ・コメディを披露して大変な人気を集めたようだ。自らの名前を冠したワン・ウーマン・ショーも任され、イギリスやフランスでもテレビ放送されるほどの評判となった。『セサミ・ストリート』スウェーデン語版の司会も務めている。
 また、85年にスウェーデンのヨーテボリで行われたユーロビジョン・ソングコンテストでプレゼンターを務めた際には、歩いている途中でスカートが脱げ落ちてしまうというドッキリ・ギャグを披露。これは予め関係者の了解を得ておらず、主催者である欧州放送連合の幹部たちは“あまりにも下品だ”と激怒したらしい。
 近年はユニセフの親善大使として活躍する傍ら、テレビのバラエティ番組などに多数出演。06年にはジャズとフォークをベースにしたアコースティックなアルバム“Har Ar Den Skona Sommar”をリリースして話題に。また、映画監督ピーター・ウェステルとの間に生まれた娘ペトロネッラは女優として活躍している。

 

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Du ar den ende (1967)

En titt i min spegel

Fritt Fram (1975)

(P)2007 Universal Music (Japan) (P)1999 Sonet Grammofon (Sweden) (P)1990 Metronome/WEA (Sweden)
1,Du Ar Den Ende
  (Romance D'amour) ビデオ
2,Fri Som En Vind
  (Canto De Pssanha) ビデオ
3,Din Skugga Stannar Kvar
  (The Shadow Of Your Smile)
4,En San Karl
  (Just Like A Man) ビデオ
5,An En Gang
  (Mach Mir Das Herz Nicht Schwer)
6,Ingen Kom (Girl Don't Come)
7,Flickan I Havana ビデオ
8,Hor Min Samba (Mas Que Nada)ビデオ
9,Sa Skimarande Var Aldrig Havetビデオ
10,Jag Tycker Inte Om Dej ビデオ
11,Du For Mej (Concrete And Clay)
12,Alltid Nat Sam Far Mej Att Minnas
  (Always Something There To Remind Me)
13,Lat Mej va_de' E'BRA
  (Don't Think Twice It's Alright)
14,Amanda Lundmon
CD 1
1,Teresa (Tristeza)
2,Lazy River
3,Den Forsta Sommaren
  (La crette nuit)
4,En San Karl (Just Like A Man)
5,Ingen Kom (Girl Don't Come)
6,Flickan i Havanna
7,Sa Skimrande Var Aldrig Havet
8,Batlat
9,Jag Tycker Inte Om Dej
10,Grimasch Om Morgonen
11,Axel Ohman (Arizona)
12,Ah, Sa Intensiv (Insensatez)
13,Hor Min Samba (Mas Que Nada)
14,En Titt I Din Spegel
15,Mellan Drom Och Verklighet
  (The Windmills Of Your Mind) ビデオ
16,Nar Du Gar Din Vag
  (Ne me quitte pas)
17,Till Gammeldansens Vanner
  (Tristeza Que Se Foi)
18,Amanda Lundbom
19,Tills Det Blir Tid For Dej Att Ga
  (Until It's Time For You To Go)
CD 2
1,En Man I Bryan
  (If You Can Put That In A Bottle)
2,Boink! (Saudade da Bahia)
3,Alltid Nat Som Far Mig Att Minnas
  (Always Something There To Remind Me)
4,Lagom At Dej (Goody, Goody)
5,Mitt Lilla Fejs
6,Alskar Du Mej Ocksa Nar Du Vaknar
 ビデオ
7,Du For Mig (Concrete And Clay)
8,Jag Ar Fran Topp Till Ta
  (Ich Bin Von Kopf Bis Fuss)
9,Igelkottaskinnet
10,Du Ar Den Ende
  (Romance D'amour)
11,Har Ar Jag
  (Take Me In Your Arms And Love)
12,Din Skugga Stannar Kvar
  (The Shadow Of Your Smile)
13,Vi Ar Kompisar Vi
  (A Couple Of Swells)
14,Om Vi Hade En Dag
  (Je n'aurais pas des temps)
15,Jag Ar Kvinna (I'm A Woman)
16,Fri Som En Vind
  (Canto de Ossanha)
17,Vantat Haver Jag
18,Lat Mej Va'-De' E' Bra
  (Don't Think Twice It's Alright)
19,Nocturne (Sov Pa Min Arm)
1,Fritt Fram (Sundown)
2,Blajeans Och Stjarnljus
  (Bluejeans and Moonbeams)
3,Sen Kom Du (Them Came You)
4,Albert Ar Begavad
  (Talent Is An Asset)
5,Jag Vill Komma Sam Jag Ar
  (Ease On Down The Road)
6,Din Egen Sol
  (I Can See The Sun In Late December)
7,(Det Ar Da)Jag Kanner Jag Vill Va' Hos Dej
  (Feel Like Makin' Love)
8,Du Ar Du, Jag Ar Jag
  (Partido Alto)
9,Nu Kanns Det Bra
  (And The Feeling's Giood)
10,Tank Vilket Liv
  (Y'all Got It !)
11,Fiskar'n Och Jungfrun
  (Bend In The Water
12,Aria (Aria)

produced by Anders Burman
 大ヒット・シングル#1を含む、リルの記念すべきファースト・アルバム。日本でも女性ボーカル・ファンやボサノバ・ファンの間で人気の高い1枚ですね。アストラッド・ジルベルトのカバーでも有名な#3なんか、ボサノバの穏やかなリズムと小粋なスキャットの相性が抜群。のどかなラテン・ジャズのムードが心地よい#7、セルメンも名曲をファンキーに仕上げた#8なんかも実にお洒落です。ダンスティ・スプリングフィールドのカバー#6や、サンディー・ショーがヒットさせたバカラックの#12などのポップ・ナンバーも時代を感じさせます。  66年〜70年までの作品から選曲された2枚組ベスト。サンバの名曲『トリステーザ』のカバー#1を筆頭に、アントニオ・カルロス・ジョビンの『インセンサテズ』#12、セルメンの『マシュ・ケ・ナダ』#13などのブラジル物カバーや、映画『華麗なる賭け』の主題歌“風のささやき”#15やマーク・リンゼイの『アリゾナ』、ジャック・ブレルの『行かないで』#16といったポップ・カバーをたっぷりと聴くことができます。バッフィー・セント・マリーの#19を含めて、結構クロディーヌ・ロンジェと選曲が被っているような気もしますね。  こちらの2枚目ではラテン&ブラジル系の楽曲に加えて、スキッフル系シンガー・ソングライター、ロベルト・ブロベルグのカバー#5や、ジャーマン歌謡ポップスのカバー#8など、リルのシュラゲル(歌謡ポップス)歌手的な側面も垣間見ることが出来る内容になっております。やはり、基本的に彼女は流行歌手だったわけで、ラテン&ブラジルばかり歌ってるわけにはいかなかったのでしょう。当時ナンバー・ワンを記録した大ヒット・シングル#1も、かなりシュラゲルっぽい仕上がりですもんね。個人的にはそういう楽曲も好きです。  75年にリリースされたオリジナル・アルバム。全曲カバーで構成されています。この頃になると、ラテン&ブラジル色は一切なくなって、当時の流行であるカントリー・ロックやフォーク・ポップス、フィリー・サウンドなどが大半を占めています。なので、60年代の作品を聴いてファンになった人にとっては、かなり期待外れな内容かもしれませんね。アレンジも基本的にはオリジナルに忠実で、意外性という点でも面白味に欠けるように感じます。特にソウル系のナンバーは、残念ながらスウェーデン語の響きそのものにあまり馴染んでいないという印象。

TILLBAKABLICK.JPG GULDKORN.JPG UTAN_GRANSER.JPG HAR_AR_DEN_SKONA_SOMMAR.JPG

Tillbakablick (1979)

Guldkorn

Utan Granser (1997)

Har Ar Den Skona Sommar (2006)

(P)1990 Metronome/WEA (Sweden) (P)2000 Metronome/Warner (Sweden) (P)1997 Columbia/Sony Music (Sweden) (P)2006 Virgin/EMI Music (Sweden)
1,Du Ar Den Ende
  (Romance D'amour)
2,Manskugga (Moonshadow)
3,Alla Mannskor Talar Till Me
4,Blajeans Och Stjarnljus
  (Bluejeans and Moonbeams)
5,Fritt Fratt (Sundown)
6,Mellan Drom Och Verklighet
  (Windmills Of Your Mind)
7,Flickan I Havanna
8,Sangen Han Sjong Var Min Egen
  (Killing Me Softly With His Song)
9,Musik Skall Byggas Utav Gladje
10,Sa Skimrande Var Aldrig Havet
11,Tillsammans Ar Ett Satt Att Finnas Till
  (Better Place To Be)

produced by Anders Burman
1,Den Blomstertid nu Kommer/Psalm 474
  (duet with Nils Landgren)
2,Du Har Er Van (You've Got A Friend)
3,Lagg Din Hand I Hans Hand
  (Put Your Hand In The Hand)
4,Sangen Han Sjong Var Min Egen
  (Killing Me Softly With His Song)
5,Fritt Fram (Sundown)
6,Blajeans och Stjarnljus
  (Bluejeans & Moonbeams)
7,Sen Kom Du (Then Came You)
8,Tank Vilket Liv (Y'all Got It!)
9,Du Ar Du, Jag Ar Jag
  (Partido Alto)
10,Ah, Vilken Morgon
11,Det Ska Jag Kapa Mig
12,Om Du Nansin Kommer Fram Til Samarkand
13,Manskugga (Moonshadow)
14,Tillsammans Ar Ett Satt Att Finnas Till
  (Better Place To Be)
15,Du Ar Den Ende
  (Romance D'amour)
16,Glad Igen (Carey)
17,Marias Forsta Dans
  (Toque de fole)
18,Jag Vill Na Dig (Langtans Samba)
19,All Min Langtan (When I Need You)
20,Musik Skall Byggas Utav Gladje
1,Ar Det For Mucket
2,Passage Mot Gryningen
3,Salt (with Cajsa Stina Akerstrom)
4,Berusa Mig
5,Attjag Vagade
6,Utan Granser
7,Fri (Free)
8,Mitt Emellan Natt Och Dag
9,Sommarkort (Et Stund Pa Jorden)
10,Allt Jag Ville
11,Ar Det Dar Vi Ar Nu
  (duet with Nils Hellberg)

produced by Anders Burman & Tommy Lydell
1,Har Ar Den Skona Sommar
2,Sommarkort
3,Om Himlen Och Osterlen
4,Felicia Adjo
5,Kom Se Mig
6,Ditt Vackra Leende
7,Jungfru Maria
8,Annu En Vacker Dag
9,Allt Jag Vet (Sa Nara Nu)
10,Bibbis Visa
11,Man Borde Inte Sova
12,Aftonvisa

produced by Michael Saxell
 こちらは73年以降のシングル曲に、新作5曲を加えた企画盤アルバム。#1と#6、#7は60年代のオリジナル・バージョンではなく、79年当時の新録バージョンになります。やはり全体的にシュラゲル色が濃厚というか、カントリー&フォーク的な傾向の強い仕上がり。ジュディ・コリンズとかジョーン・バエズみたいな感じと言えば分かりやすいかもしれませんね。ただし、リル自らソングライトに関わった#9だけは、かなりファンキーなサンバ・ジャズで、なかなかカッコいい出来栄えだと思います。  70〜80年代のシングル・ヒット曲で構成されたベスト盤。やはりカントリー&フォークという感じの楽曲がメインになります。キャロル・キングの『君の友達』#2や、ジョニ・ミッチェルの『ケアリー』#16といったシンガー・ソングライター系の楽曲を取り上げている辺りからも雰囲気は伝わるでしょうか。その一方で、エルバ・ラマーリョの歌唱でも知られるサンバの名曲をカバーした#17や、リル自身のペンによる哀愁のサンバ#18では心地よいブラジリアン・サウンドを堪能することが出来ます。  ゲストに当時新進のシンガー・ソングライターとして注目されていたCajsa Stina Akerstromや、ブルース・ロック・バンドWilmer XのメンバーであるNils Hellbergを起用した作品。ジャズやネオアコの要素を盛り込んだ、ダウンテンポな大人向けのポップス・アルバムに仕上がっています。シングル向けの楽曲こそ見当たらないものの、最後までじっくりと聴かせるクオリティの高さ。スティーヴィー・ワンダーのカバー#7もかなり渋い出来栄えで、囁くようなリルの枯れたボーカルが実にクール。オススメです。  ジェフ・ペックとの共演でも知られるスウェーデンのベテラン・ギタリストでシンガー・ソングライターのMichael Saxellをプロデューサーに迎えた、今のところリルにとって最新作に当たるアルバム。オランダ出身の伝説的な詩人でソングライターである故コールネリス・ヴリースウィックの作品を2曲(#4と#10
)取り上げています。全体的にブルージーでリラックスした雰囲気のアコースティック・アルバム。自作の#5ではエレガントなボサを聴かせてくれます。こちらもじっくりと耳を傾けるタイプの作品ですね。

 

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