リル・スージー Lil' Suzy
フリースタイル界のB級アイドル
まあ、フリースタイルというジャンルそのものがB級と言っちゃえばB級なんだけど。フリースタイル界を代表するB級アイドル・スター、リル・スージーちゃん。ジャケ写見ただけでもB級感漂いまくり。金かかってねえっ、て(笑)。一応、12歳で美少女アイドルとしてデビュー。美少女がそのまま美女に成長するとは限らず、案の定年齢を重ねるごとにアイドル的な無理感は増すばかり。ついでに、体重も増すばかり(笑)。でもって、歌唱力は子供のときのままで全く成長せず。それでも、フリースタイルという小さなコミュニティの中では絶大な人気を誇り、数多くのマイナー・ヒットを放ったスターだった。
彼女がシーンに登場したのはフリースタイルというジャンルが下降線をたどり始めた1991年。業界そのものがアンダーグランド化していき、売れるレコードやCDの数も限られるからレコーディングに予算もかけられない。衣装にだって予算をかけられない。そんな状況の中で、ユーロ・ハウスやトランスとの融合などメジャー・シーンへのアプローチを模索しながら、限られた予算の中で試行錯誤を重ねて作られていった彼女の作品は、チープではあっても非常にポップで良心的なダンス・ミュージックだった。お金はないからアイディアで勝負。そんな心意気が何だか愛おしく感じられて、いつの間にか熱烈なファンになってしまった。そんな妙な魅力のあるスターが、リル・スージーなのである。
1979年3月1日、ニューヨークはブルックリンに生まれたリル・スージー。本名はスザンナ・カザーレという。物心ついた頃から歌手を夢見ており、両親も積極的にそれをバックアップ。5歳の時に伝説的なディスコ“スタジオ54”のライブに出演し、これが話題となってニューヨークのナイト・シーンで名物的な存在の少女シンガーとなった。その後、両親の友人だったサル・アバティエロの勧めで、彼の経営するフィーバー・レコードと契約。1991年にワーロック・レコードのディストリビュートでデビュー・アルバム“Love
Can Wait”をリリースした。このアルバムからシングル“Take Me In Your
Arms”が翌92年にビルボードのポップ・チャートで67位をマークするヒットとなり、同年のビルボード誌ベスト・ニュー・ダンス・アーティストに選ばれた。凋落の一途をたどるフリースタイル業界において、まさに希望の星だったと言えるだろう。
94年には自ら“Empress
Music”というレコード会社を設立。全米で最年少の女性経営者となった。ニュージャージーにあるフリースタイル系のインディペンデント・レーベル、メトロポリタン・レコードのディストリビュートでリリースされたシングル“Promise
Me”が全米ポップ・チャートで62位を記録。キャッチーでスピード感溢れるポップ系フリースタイルの佳作で、アルバム“Life Goes
On”も話題になった。さらに、97年にはマイアミ・ベースを取り入れたファンキーでちょっとHなシングル“Can't Get You Out Of My
Mind”が全米79位、98年には正統派のオールド・スクール系フリースタイル“I Still Love
You”が全米94位とマイナー・ヒットを記録。2004年にはキャリアの集大成とも言えるベスト盤“The Greatest
Hits”がリリースされた。
ちなみに、10年くらい前に彼女のホーム・ページを通じて何度かメールのやり取りをした事があった。当時、ボクは都内でクラブ・イベントを主催していたのだが、もし日本に来る事があれば是非ショー・タイムにゲスト出演して欲しいという話をすると、実は日本のレコード会社からアプローチを受けていて、もし契約が実現したら日本に行くからイベントに出演したい!なんて話をしていたもんだった。しかし、結局その話は流れてしまったようで、日本デビューは実現しないまま。その後、彼女はネイル・サロンをオープンして、そちらのビジネスに専念するようになってしまった。
結局はアメリカのラテン・コミュニティー限定のアイドル・スターで終わってしまったリル・スージーだが、3年ほど前のインタビューでは新作もリリースしたいし、海外進出もしてグラミー賞を獲りたいなんて話もしていた。事実、フリースタイル人気の高いドイツでは彼女の人気も根強い。デビュー・ヒット“Take
Me In Your
Arms”から殆どの作品がドイツでもリリースされており、是非とも行ってみたいという話しは何度もしていた。ちなみに、そのインタビューでは“日本にもファンがいる”なんて言ってたけど(笑)。果たして、今は何をしていることやら。
![]() |
デビュー曲“Take Me In Your Arms”のプロモより |
Take Me In Your Arms
(1991) Life Goes On
(1995) Promise Me
(1995) Now & Forever
(1995)
(P)1992
Warlock/Bellaphon(Germany)
(P)1995 Empress/Metropolitan
(USA)
(P)1995 Empress/Metropolitan
(USA)
(P)1995 Empress/Metropolitan
(USA)
1,Take Me In Your Arms (Radio Edit)
3:22 ビデオ
2,Love Can't
Wait (Club Version) 4:33
3,Take Me In Your Arms (Club Version)
5:08
4,Take Me In Your Arms (House Version) 5:08
produced by
Tony Garcia1,Promise Me ビデオ
2,Now &
Forever
3,Lies
4,Just Can't Get Over You
5,Someone For
Me
6,When I Fall In Love
7,Take Me Back
8,We'd Always Be
Together
9,I'm Not Ready
10,Promise Me (Remix)
produced bu
Victor Franco,Chris Phillips,Carlos Keyes,Michael Rucska & Ben
Caicaterra,etc.1,Extended
Mix
2,Accapella
3,Radio Mix
4,Back To The Old School Mix
5,Old
School Radio Mix
6,Jazzy Hip Hop Mix
7,Non-Stop Razor
Beats
produced by Victor Franco1,Old School Radio
2,Laid Back
Radio
3,Original Radio
4,Extended Mix
5,Laid Back
Extended
6,Old School Club
7,Acappella
8,Non-Stop Razor
Beats
produced by Chris Phillips & Alexia
Phillips.
Dr.Editの異名をとるフリースタイル界の名物エディター、Tony
Garciaがプロデュースを手掛けたリル・スージーのデビュー・ヒット。12歳の女の子にしてはおませな歌詞のオールド・スクール系フリースタイルで、ピョンピョンいうチープな打ち込みが郷愁を誘う1曲。ハウス・ミックス#4はシカゴ・ハウスのりのアンダーグランドな仕上がりです。カップリングの#2は哀愁系の正統派ニューヨーク・フリースタイル・ナンバーで、なかなかの名曲。
自らのレーベルを設立後最初のアルバム。9曲中4曲がシングル・カットされており、ポップスとしての完成度は非常に高い作品です。サウンド・プロダクションこそチープなものの、楽曲そのものはどれもダンス・ポップのツボを押さえた一級品。#6なんかとても良く出来たユーロ・ダンス・ポップで、ディストリビュート次第ではヨーロッパでの成功も可能だったのではと思います。本当、お金さえあればねえ・・・。ゴリゴリのオールド・スクール#8もカッコ良し。
ポップでキャッチーな乙女系フリースタイル・ナンバーの佳作。オススメのバージョンは、スピード感溢れるタイトな打ち込みとダイナミックなエフェクトが気持ちよい#4と#5。アンダーグランドなジャズ・ファンク風のリミックス#6もちょっとユニークで、意外にもポップなメロディとマッチしていてカッコいい仕上がり。しかし、予算がなかったせいでしょうか、ジャケット無しというパッケージは少々寂しいものがありますね(苦笑)。まるで海賊盤みたい。
メトロポリタン・レコード所属の兄妹アーティスト、クリス&アレクシア・フィリップスが手掛けたシングル。“Promise
Me”路線のポップでキャッチーなフリースタイル・ナンバーで、躍動感溢れる佳作。ポップスのツボをきっちりと押さえた美しいメロディが秀逸です。#3と#4のミックスがダンサンブルでベストなバージョン。ちょっとマイアミ・ベースっぽくてヘヴィーな#2と#5も結構カッコいいです。で、今回もジャケット無し。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
When I Fall In Love (1995) |
Just Can't Get Over You (1995) |
Paradise (1997) |
Can't Get You Out Of My Mind (1997) |
(P)1995 Empress/Metropolitan (USA) | (P)1996 Empress/Metropolitan (USA) | (P)1997 Empress/Metropolitan (USA) | (P)1997 Empress/Metropolitan (USA) |
1,Original Radio 3:53 2,Euro Radio 4:18 ビデオ 3,Original Radio w/o Rap 3:24 4,Euro Radio w/o Rap 4:15 5,Original Club 5:30 6,Euro Club 5:17 7,Bonus Beats 2:34 produced by Chris Phillips & Alexia Phillips |
1,Radio Mix 2,Deja Vu Radio 3,House Radio 4,Radio Edit 5,Deja Vu Extended 6,House Extended 7,Extended Mix 8,Deja Vu Dub Mix 9,House Dub Mix 10,Lies produced by Victor Franco |
1,Can't Get You Out Of My Mind
(RMX) 2,You're The Only One 3,Everytime I Dream 4,I Still Love You 5,Memories 6,Do You Want To Ride 7,Erased 8,Can't Get You Out Of My Mind 9,Love Letter Lost 10,Paradise 11,The Way I Love You 12,The Nite 13,To Be With You 14,I Want Your Love produced by Victor Franco,Adam Marano,Carlos Keyes,Crystal Waters,etc. |
1,Funhouse Radio 2,Wild Style Edit 3,Viper Radio 4,Suzy's Freestyle Edit 5,Funhouse Club Mix 6,Wild Style Mix Show 7,Viper Club Mix 8,Suzy's Freestyle Mix 9,Vocal Club Dub produced by Adam Marano |
当時のリアル・マッコイやラ・ブーシェを彷彿とさせるキャッチーでアゲアゲのユーロ・ハウス・ナンバー。この頃からフリースタイル・アーティストによるユーロ・ポップ路線が本格化してきました。それにしても、むちゃくちゃポップで良く出来た作品。惜しむらくはどのミックスも尺が短いこと。当時Ultimixに収録されていた7分近いDJミックスが入っていればモア・ベターだったと思います。いずれにせよ、個人的には一番好きなリル・スージー作品。 | “Life Goes On”より最後のシングル・カット作品。哀愁系の切ないメロディが美しいミディアム・ダンス・ナンバーで、いかにも正統派フリースタイルらしい歌謡曲路線が何とも言えずクセになる1曲です。ミックスはどれも派手ではないものの、メロディの美しさを生かした手堅い作り。ハウス・ミックスもしっとりと叙情的な仕上がりです。しかし、ジャケットのこの豊満ぶり。これで、当時まだ17歳とは! | 前作に比べると、よりコアなサウンド・アプローチを試みた4枚目のアルバム。一番の話題はクリスタル・ウォーターズがプロデュースを手掛けた#9でしょうか。いかにも彼女らしいディープでアンダーグランドなガラージ・ハウスで、リル・スージー自身少しづつフリースタイルからの脱却を図ろうと考えていたのかもしれません。ドリーミーで乙女チックなユーロ・ハウス#3も素晴らしい作品でした。ただ、全体的に楽曲の出来不出来のバラつきが目立つ作品。 | マイアミ・ベースに本格的に挑んだアンダーグランドでエロチックなダンス・ナンバー。ジャケットも含めてお下品なB級テイスト全開です。ゴリゴリブリブリいうヘヴィーなベース・サウンドが豪快な#2と#6がベスト・ミックス。フラメンコ・ギターとカスタネットがさり気なくフューチャーされたラテン風味の#1と#5も結構好きです。プロデュースのアダム・マラーノはもともとMicMac出身の人で、ドイツでユーロ・ハウスも手掛けている人物。 |
![]() |
![]() |
![]() |
I Still Love You (1998) |
You're The Only One (1999) |
The Greatest Hits (2004) |
(P)1998 Empress/Metropolitan (USA) | (P)1999 Empress/Metropolitan (USA) | (P)2004 Empire/Universal (USA) |
1,Original Mix 3:58 2,Slammin' Sam's Free At Last Club Remix 6:04 3,Denny Tsettos & Anthony Acid's Anthem 8:33 4,Extended House Mix 5:07 5,808 Club Mix 4:57 6,Spanish Edit 4:01 7,Accapella 1:58 produced by Adam Marano #3 remixed by Denny Tsettos #4 remixed by Victor Franco |
1,Dance Mix 2,Original Mix ビデオ 3,Extended Dance 4,Original Extended 5,Acappella produced by Victor Franco |
1,Take Me In Your Arms 2,Promise Me 3,Just Can't Get Over You 4,Now And Forever 5,When I Fall In Love 6,Memories 7,Love Can't Wait 8,Real Love 9,Can't Get You Out Of My Mind 10,Sweet September Love 11,Turn The Beat Around 12,Paradise 13,You're The Only One 14,I Still Love You 15,Every Time I Dream 16,Sweet Lies 17,So Lonely 18,Back In Your Arms produced by Adam Marano |
もともとはフォーク・ロック路線のアコースティック・バラード。何故これをシングルに選んだのか首を傾げるところではありますが、リミックスはいずれも手堅いフリースタイル・ナンバーに仕上がっています。キッスの“I Was Made For Loving You”風のシンセ・メロディが印象的な#2なんか、非常にタイトでヘヴィーなミックスがカッコ良し。ミーハーなディープ・ハウスに仕上がった#3もまずまずの出来映え。 |
これぞ正統派フリースタイル!といった感じの哀愁系歌謡路線ナンバー。キャッチーで切ないメロディは安心して聴けます。が、それ以上でも以下でもないのは残念。せっかく楽曲がよく出来ているのだから、もう少しサウンド的に遊びや実験をして欲しかったように思います。そのせいもあってか、本作はチャート・インすらせず、彼女にとっては最大の失敗作となってしまいました。 | ユニヴァーサルがディストリビュートを手掛けた初のベスト盤。しかも、全曲新たなリミックス・バージョンで、#16〜#18は待望の新曲という豪華盤。引き続きシングルもリリースされる予定だったものの、このベスト盤が全然売れなかったため立ち消えになってしまいました。今更フリースタイルでもなかったのかもしれませんが、ファンとしては残念。良質のダンス・ポップスとして、先入観なしで聴いて欲しい1枚です。 |