ロシアよりラテンの哀愁をこめて〜レオニド・アグティン

 いよいよ、レオニド・アグティンのアルバムが日本でもリリースされる。嬉しいニュースの到来だ。とは言っても、日本のリスナーには全く聞いたことのない名前だろうと思う。レオニド・アグティン。ロシアを代表するシンガー・ソングライターだ。ロシアのアーティストといったら、日本ではせいぜいタトゥーかバイアグラ、もしくはロシアの国民的大スター、アラ・プガチョワの名前が知られている程度だろう。
 洋楽は英語じゃないと売れない、というのが日本のレコード業界の常識になってしまっているため、ロシアのアーティストが日本に紹介される機会は滅多にないというのが実情。しかし、ヨーロッパからアジアにまたがった独特の文化を持つロシアには、日本人の琴線に触れるようなポップ・ミュージックが数多い。是非とも、このHP上で紹介していきたいと思っているのだが、その第1弾としてレオニド・アグティンをここに取り上げてみたいと思う。

 アグティンの音楽の魅力は、何と言ってもサンタナも顔負けの筋金入りのラテン・ロック魂にある。ロシアでラテン?という疑問を持つ方もあるかと思うが、ロシアで育った筆者としては十分に納得できるというのが正直なところ。哀愁溢れるマイナー・コードのメロディが多いラテン音楽と、同じようにマイナー・コードを基調とするロシア音楽は共通項が多い。また、ロシアにはツィガンと呼ばれるジプシー音楽の伝統があり、ラテン音楽がなじむ土壌がもともとあるのだ。
 フラメンコからマリアッチ、マンボ、サルサ、ボサノバと、スペインから南米に至るまでのありとあらゆるラテン系音楽を貪欲に吸収し、ロシア的な哀愁感とブルース・ロック的センスで仕上げられたアグティンの音楽には、本場のラテン・ロック・アーティスト以上に洗練された渋いダンディズムが薫り立つ。キャッチーでロマンティシズム溢れるメロディラインと、濃厚かつ骨太なラテン・サウンドの絶妙なバランスは、ラテン圏ではないロシアという国だからこそ作り出せるものなのかもしれない。
 南米のラテン・ロック・アーティストのような泥臭さは殆どなく、ヨーロッパ的なエレガンスさえ漂わせるところが、アグティン作品の醍醐味と言える。本格的にラテン音楽に傾倒しつつも、ライ・クーダーのような渋すぎるマニアックさもなく、ある種ミーハー的なセンスを持ち合わせているところがいい。

 1968年モスクワの生まれ・・・というから、筆者と同い年。地元の音楽学校を卒業後、1991年からソングライターとして他のアーティストに楽曲を提供。翌年ヤルタの国際音楽祭で優勝したことをきかっけに注目され、94年に念願のデビューを果たす。95年にリリースしたセカンド・アルバム「デカメロン」がロシア国内のアルバム・チャートで1位を獲得し、トップ・スターの仲間入りを果たす。翌年には全米ツアーを敢行し、ニューヨークのラジオ・シティ・ミュージック・ホールでも演奏。ロシア国外でも知る人ぞ知る存在となる。
 単なるポップ・スターとは一線を画す彼の音楽性はミュージシャン仲間からも評価が高く、国外のアーティストとの親交も深いようで、その成果が日本デビューとなる最新アルバム「コスモポリタン・ライフ」でのアル・ディ・メオラとのコラボレーションと言えるだろう。ディ・メオラといえば高速演奏で世界にその名を轟かせた天才ギタリストで、近年はラテン音楽への傾倒も著しい人物。願わくば、これを機に過去の作品も日本に紹介されるようになればと思う。

 

※アルバム・タイトルはロシア語を英語アルファベットで表記し、その英語訳を併記してあります。楽曲タイトルは全てロシア語を英語アルファベットで表記しました。

DECAMERON.JPG SUMMER_RAIN.JPG ROMANCE.JPG AGUTIN.JPG

Dekameron (1995)
Decameron

Lyetnye Gojd (1998)
Summer Rain

Slyujebni Roman (2000)
The Service Novel

Leonid Agutin (2000)

(P)1995 Sintez Records (Russia) (P)1998 Studio Soyuz (Russia) (P)2000 Quatro Disk (Russia) (P)2000 Iceberg Music (Russia)
1,Ostrov ビデオ
2,Na Cirenebi Lune
3,Parohod ビデオ
4,Bum Govola Bum
5,Twi Verneshusya Kogda-nibud Snova
6,Putnik Zvezdnuih Dorog
7,Vse Kuda-to Devalos
8,Musha
9,Dveri v Nevesa
10,Ole Ole ビデオ

All songs written & produced by L.Agutin
1,Ne uuiivai! ビデオ
2,Letnii Dojd ビデオ
3,Polnochi
4,Tantsevali Parui
5,Malo,Mariya
6,Bez Tebya
7,Koroleva
8,Papa, Mama
9,Fevral ビデオ
10,Beluii Kamen

All songs written & produced by L.Agutin
1,Privokzalhoe Kafe
2,Dojdik
3,Vse v Tvoih Rukah ビデオ
4,He Jdi Mena
5,Potsemu
6,V Gorode Snov
7,Prosto Tanets
8,Maestro
9,Fevral (Remix)
10,Proshai
11,Vse v Tvoih Rukah (Remix)

All songs written & produced by L.Agutin
1,Lina ビデオ
2,Tramvaichik
3,Porovina Serdutsa ビデオ
4,Little Jeane
5,Ya Ne Ponimayu
6,Novii God
7,New York
8,Ne Vuihodi Iz Doma
9,Na Sireneboi Lune ビデオ
10,Papa, Mama
11,Proshai

All songs written & produced by L.Agutin
 ロシアでマルチ・プラチナムを記録した大ヒット・アルバム。ハイテンションなジプシー・ロック#1で一気に引き込まれる。爽やかな哀愁感漂うカリブ風ミディアム#2、ガンガンにかき鳴らされるフラメンコ・ギターが猛烈に気持ちいいアップテンポな#6、スティング風のメロウで渋いボサ・ロック#7、センチメンタルなラテン・ギターのメロディとサンバ風のリズムが程よい情熱感を演出する#10など、若さとダンディズムが絶妙なアンバランスを醸し出す仕上がり。全体としては、まだまだ荒削りで未完成な部分が目立つが、十分に楽しめるアルバムだ。  まるで映画のサウンドトラックのような印象が漂うドラマティックなサード・アルバム。フラメンコ風の哀愁感漂うダンサブルな#1は傑作。センチメンタルなスパニッシュ・ギターが心地よいラテン・ボサ・バラード#2、ジャジーなボサ・ロック#4、アフロ・カリビアンな#5、レゲエ風のミディアム・ポップで夫人アンジェリカ・ヴァルムとのデュエット#7、まるでミリアム・マケバの作品かと思うような陽気なアフロ・ダンス・ナンバー#8、ロシア的センチメンタリズムを全面に出した物憂げなバラード#9と、楽曲の充実度は前作以上。当時まだ30歳とは思えない枯れた大人の雰囲気さえ漂わせており、アグティンの芸術家としての力量の凄さを感じさせる。  アグティンの愛妻アンジェリカ・ヴァルムとのデュエット・アルバム。アンジェリカはもともとアイドル・シンガーとしてデビューした人。天使のような美しいベビー・ボイスが魅力。そんな彼女の声質に合わせ、アグティンの書く曲は今まで以上にキャッチー&ソフトなラテン風ポップに仕上がっている。バーシアも真っ青なノスタルジックでキャッチーでエレガントなボサ・ポップ#3、少女のようなアンジェリカのボーカルが軽やかに舞うキュートなサンバ・ポップ#5、シャンソン風のアコーディオンが物哀しげなラガ・ポップ#7、そして本作中一番の傑作と言える、ヨーロッパ映画風のゴージャスで優雅でセンチメンタルなラテン・ボサ・ポップ#8など、あまりにも素晴らしい楽曲が目白押し。

 アグティンのアルバムの中も間違いなく最高傑作と言えるのが本作。ベネチアで撮影されたジャケット写真のように、往年のイタリア映画を思わせるようなノスタルジックでエレガントでクールで洗練された大人のためのラテン・ロックが詰まっている。サルサ風の骨太で情熱的なラテン・ロック・ナンバー#1からして今まで以上に余裕に満ちている。そして、とろけるようにメロウでセンチメンタルで美しいミディアム・ボサ#2で完全ノックアウト。サンタナも真っ青なファンキーかつキャッチーな#3、ハイテンションで流麗で哀愁に満ちたフラメンコ・ロック#5、ジャジーで物憂げなスロウ・ボサ#7など、捨て曲ナシ文句ナシの見事な出来映え。全音楽ファン必聴!

 

BEST.JPG BEST2001.JPG DEJAVU.JPG BEST2003.JPG

Lyuchshye Pesni
Best Songs

Star Series 2001

Deja Vyu (2003)
Deja Vu

Best Songs 2003

(P)2000 A.L. Records (Russia) (P)2001 Star Records (Russia) (P)2003 Grand Records (Russia) (P)2003 Hit Records (Russia)
1,Bosonogii Malchik ビデオ
2,Fevral
3,Pareh Chernokojii
4,Gde-to Galeko ビデオ
5,Golos Vuisokoi Travui
6,Ole, Ole
7,Nikomu Ne Sestra
8,Vspomni O Nyom
9,Parohod
10,Razgovor O Dojde ビデオ
11,Ne Unuivai
12,Hop Hei Lala Lei ビデオ
13,Devochka
14,Pesnya O Chofyere
15,Letnii Dojd
16,Za Schastuem
17,Astrov
18,Togo Ne Stoilo Bui Jdat ビデオ
19,Koroleva
20,Fevral (Remix)
1,Letnii Dojd
2,Fevral
3,Koroleva
4,Polovina Serdtsa
5,Za Schastuem
6,Bosonogii Malchik
7,Paren Chernokojii
8,Devochka
9,Polnochi
10,Golos Vuisokoi Travui
11,Hop Hei Lala Lei
12,Ole Ole
13,Luna
14,Astrov
15,Parohod
16,Ne Unuivai
17,Kogo Ne Stoilo bui jdat
18,Tantsevali Parui
19,Na Sirenevoi Lune (Live)
1,Granitsa (with Atpetuie Moshenniki) ビデオ
2,Nalilo
3,Ha Semi Holmah
4,Poslednii Den V Godu
5,Yeto Budet Tak Legko
6,Ya Budu Vsegda S Toboi
   (duet with Anjelika Varum)
7,Tot, Kto Ee Hazuivaet Holodnoi Zimoi
8,Mambo Futbolistov
9,Sinei Reki Voda
10,Dojd Nadoel
11,Kakih-to Tuisyacha Let
    (duet with S. Pavliashvili)
12,Esli Tui Kogda-nibud Menya Prostish
    (duet with Anjelika Varum)

All songs written & produced by L.Agutin
1,Tot, Kto ve Nazuivaet
2,Kakih-to Tuisyachu Let
  (duet with S.Pavliashvili)
3,Esli Tui Kogda-nibud Menya Prostish
  (duet with Anjelika Varum)
4,Vse V Tvoih Rukah
  (duet with Anjelika Varum)
5,Polovina Serdtsa
6,Ne Unuivai
7,Novuii God
8,Letnii Dojd
9,Astrov
10,Na Sirenevoi Lune
11,Bosonogii Malchik
12,Golos Vuisokoi Travui
13,Gde-to Daleko
14,Koroleva  (duet with Anjelika Varum)
15,Fevral  (duet with Anjelika Varum)
16,Ole Ole
17,Tantsevali Parui
18,Hop Hei Lala Lei
19,Pesenka O Shofere
20,Togo Ne Stoilo Bui Jdat
 1994年のデビューから“The Service Novel”までの4枚のアルバムから選曲されたベスト盤。今では廃盤で入手困難となってしまったファースト・アルバム収録の作品が数多く含まれているのが魅力。中でもデビュー曲となった#1は哀愁感に満ちたポップでダンサンブルなフラメンコ・ロックに仕上がっていて、彼の早熟ぶりがうかがえる。ジプシー的な自由奔放さが魅力のキャッチーな#12もいい。ファンなら是非とも手に入れておきたい1枚。  ロシアの人気アーティストのベスト盤を専門にしているStar Recordsからリリースされたコンピ。ロシアではオフィシャル、ブートを含めてこの種のベスト盤を出すメーカーが異常に多い。著作権問題が非常に曖昧なお国柄ゆえか。本CDはデビューから2000年の“Leonid Agutin”までの5枚のアルバムから選曲されており、初期の作品をより多く聴きたいという人には左の“Best Songs”をオススメする。  今までの陰りのあるイメージから一転して爽やかで南国的なイメージに変わったジャケットのように、全体的に突き抜けるような爽快感のあるラテン・ロックが展開される通算6枚目のアルバム。ラップを絡めたファンキーでドライブ感溢れる豪快な#1がそれを象徴している。南欧の気だるい昼下がりを思わせるボサ・ロック#3、ジプシー音楽風の悲哀に満ちた軽やかさが心地良い#5、愛妻アンジェリカとのデュエット#6と#12、スケールの大きなパーカッションが印象的なカーニバル・ナンバー#8など楽曲の質の高さは相変わらず。安心して聴ける。  これまた人気アーティストのベスト盤ばかり出しているHit Recordsからのコンピ盤。“Deja Vyu”からの選曲が中心になっているせいもあって、ベスト盤としては非常に物足りないダイジェスト的な内容。コレクターにのみオススメ。

 

COSMOPOLITAN.JPG LYUBOV_DROGA.JPG

Cosmopolitan Life

Lyubov,Doroga,Gryust i Radost (2007)
Love,Road,Sadness and Happiness

(P)2005 Ole Records (Russia) (P)2007 Tempstar Records (Russia)
1,Cuba Africa
2,Cosmopolitan Life ビデオ
3,Nobody
4,Price To Learn
5,Tango
6,Smile
7,Portofino ビデオ
8,If I'll Get A Chance... ビデオ
9,Blue River
10,Shade Of Your World

All songs written by Leonid Agutin
  except lyrics by Alex Sino
Produced by Leonid Agutin & Al Di Meola
1,Igrushki ビデオ
2,Nye Uhodi Dalyeko
3,Belibyerda
4,Dvye Darogi, Dva Puti ビデオ
5,Prochitai Mejdu Strok
6,Djenshinam
7,Platye Nyevest
8,Kolibelnaya
9,Pamyati Karuzo (Version)
10,Zimnyaya Vishnya (New Version)
11,Po Dogorye Na Yug
12,Azroport
 7月発売の日本デビュー・アルバムのロシア盤。作曲とボーカルをアグティンが、ギターをアル・ディ・メオラが担当している。愛妻アンジェリカ・ヴァルムもゲスト・ボーカルで参加。楽曲的には、今までのアグティン作品と比べるとどうにも平凡な印象が否めないが、華やかなサンバ・ロック#2、タンゴというよりはフラメンコ的なスピード感溢れる#5、エレガントでノスタルジックなメロウ・ボサ#7など、いかにもアグティンらしい作風は健在。ただ、本格的な世界デビュー盤という事を考えると、ちょっとインパクト的に物足りない気もする。  ラテンとジャズを程よく織り交ぜながら、ロシア特有のロマンティシズムで貫かれた大人のためのポップ・アルバム。初期の作品を思わせるという意味で、かなり原点回帰的な趣きを感じさせる1枚です。愛妻アンジェリカ・ヴァルムとのデュエット#4なんかは、デビュー当初からのファンには堪らない作品ですね。疾走感溢れるジャズ・サンバ#5、甘くもほろ苦いメロウ・ボサ#8、ルチオ・ダーラによるカンツォーネの名曲“カルーソ”をラテン・ジャズ・カバーした#9など、聴き応えのある渋いナンバーが勢ぞろい。大満足です。

 

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