ラティーファ Latifa
チュニジアの誇り高き貴婦人

 

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 チュニジアの生んだ偉大なるスーパー・スターである。チュニジアはアラブ諸国の中でも、決して音楽的な影響力の大きな国とは言えない。ラティーファ以外に有名なスターというと、90年代にブレイクしたチュニジア系フランス人アミーナ、若くして夫に殺害された悲運の女性歌手ゼクラくらいだろうか。アミーナはフランス音楽界でキャリアを築いた人だし、ゼクラもエジプトで火がついた事をきっかけにアラブ諸国で名を知られるようになった。ラティーファにしても、やはりエジプトでデビューして人気スターとなり、さらにフランスでブレイクした事によってヨーロッパ各国での知名度を上げた。2004年にはモナコ公国主催のワールド・ミュージック・アワードを受賞し、文字通りアラブ音楽界を代表するスターとなった人だ。
 ラティーファの人気の秘密は、何といってもその歌唱力と美しさ。そもそもアラブ音楽界は美女の宝庫だが、中でもラティーファの美しさには際立つものがある。まるで往年の映画スターのような美貌の持ち主だ。しかも、圧倒的な歌唱力ときたもんだから、まさに鬼に金棒。天は二物を与えるもんである。だが、美人で歌の上手いアーティストなら他にも沢山いる。ラティーファが他の女性アーティストと決定的に違うのは、彼女自身が優れたプロデューサーであり、ビジネス・ウーマンであり、そして芸術家であるという事に尽きるだろう。
 エジプトで大成功を手にしたラティーファは、まず所属レーベルLa Reineの権利の半分を買収した。これによって創作活動の自由を手に入れた彼女は、それまでのアラブ音楽界で女性にはタブーだったストレートなラブ・ソングを次々と発表し、若い世代の女性ファンに圧倒的な支持を得るようになった。99年にはユニバーサル・フランスとディストリビュート契約を結び、シングル“Inchallah(神の意思)”がフランスで大ヒットを記録。さらに、レバノンやパレスチナ、イラクの平和を願う作品も数多く発表しており、単なる歌い手だけに止まらない積極的なアーティスト活動がアラブ諸国の人々の共感を呼んでいる。まさに、現代アラブ女性のシンボルとも言えるのが、ラティーファなのだ。
 1961年2月14日、チュニジアはマヌーバの生まれ。幼い頃から天才少女と呼ばれていたラティーファは、家族と共にエジプトを旅した際に有名な作曲家バーリー・ハムディにスカウトされる。しかし、学業に専念する事を選んだ彼女はチュニジアに帰国。だが、彼女の夢を叶えてあげたいという家族の後押しで再びエジプトに渡り、アラブ音楽アカデミーに学ぶようになる。在学中にラジオ出演した事がきっかけでレコード・デビュー。86年にリリースしたアルバム“Akthar Min Roohi(私の魂よりも)”がアラブ諸国で大ヒットを記録し、一躍トップ・スターの仲間入りを果たした。
 この成功で莫大な収入を手にした彼女は、先述したように所属レーベルLa Reineの権利の半分を買収。自らの音楽活動をコントロール出来るようになったことから、次々と野心的な楽曲を発表していくようになる。中でも、女性の強い意思や感情をストレートに表現したラブ・ソングは、保守的なアラブ音楽界において革新的なものだった。また、早くからシャンソンやジャズ、ハウス、テクノなどの要素を積極的に取り入れており、非常にインターナショナルな感性を持った女性アーティストと言えるだろう。
 母国チュニジアの大統領から文化勲章も授与されたラティーファは、“全てのアーティストは己の民族の問題に関心を持つべきである”と語っている。彼女にとっての最大のテーマは、アラブ諸国の平和だという。そうしたことから、2005年にはアラブ系アーティストのボランティア活動を支援するためにラティーファ基金を設立。この揺るぎない信念こそが、彼女をアラブ音楽界屈指のスーパー・スターにのし上げたのだろうと思う。

 

INCHALLAH.JPG MATROHSH_BEED.JPG MAALOMAT_AKEDAH.JPG

Inchallah (1999)

Matrohsh Be'ed (2003)

Maalomat Akeedah (2006)

(P)1999 Universal (France) (P)2003 Alam El Phan (Egypt) (P)2006 Rotana (Saudi Arabia)
1,Wadah
2,Inchallah (version francaise)
3,Kerehtak
4,Chantons l'amour
5,Wadaa El Madi
6,Rihlat Al Zaman
7,Ah Ya Lil
8,Mektoub
9,Baabiak
10,Hemouni
11,Inchallah (version arabe)
1,Habibi Matrohsh Be'ed
2,Law Be Any Shafook
3,Halat Hob
4,Ada Wafaat
5,Badoob
6,Sabreen
7,Ana Afrak
8,Batlob El Samah
9,Law Basit
10,Ya Habibi
11,Terooh Wi Terga
12,Naro
1,Maalomat Mush Akeedah
2,Amnli Baiyt
3,Ashgana
4,Hiyati
5,Shuftu Beaiyni
6,Benus Aljao
7,Tfail Asgiyr
8,Nafeth Abukra
9,Duart Aiyam Alshete
10,Maalomat Akeedah
11,Atil W Darar
 フランスでリリースされた、実質的な世界デビュー盤。エレクトリックでエキゾチックな極上のオリエンタル・ダンス・ポップ・アルバムに仕上がっています。アラブ歌謡と実験ジャズ、アフロ・ファンクを融合させた#3のカッコ良さといったら!うねりまくるグルーヴ感、ねっとりとまとわりつくラティーファの歌唱力は圧巻そのもの。幻想的で官能的なスロー・ナンバー#9の重厚なトライバル感も素晴らしい。計算し尽くされたサウンド・プロダクションは贅沢そのもので、うるさ型の音楽ファンも納得の傑作です。  前作から4年振りにエジプトでリリースされたアルバム。再びスケールの大きなオリエンタル・ビートに挑んだ意欲作です。ハウスやテクノ、R&Bの要素を盛り込んだアラビアン・ポップスは珍しくないものの、ここまでディープで実験精神溢れるサウンドは他のアーティストには絶対に真似できないもの。アラブ歌謡独特の泥臭さが苦手な人も、思わず聴き惚れてしまうこと必至です。アラビアン・ポップスの入門篇としても是非オススメしたい1枚。ヨーロッパ風のゴージャスなバラード#11も絶品。  3年振りにリリースされた待望の最新作。今までのダンス路線から一変し、アコースティックで非常に芸術性の高いアルバムです。#1なんて50年代〜60年代のフレンチ・ジャズ的な仕上がりで、オリエンタル色も一切なし。どことなく幻想的でシュールな世界観が不思議な味わいを醸し出しています。ということで、ちょっと面食らいましたが、全体を包み込む摩訶不思議な浮遊感というか、ファンタジックな美しさはなかなか魅力的。じっくりと聴き込むタイプの素晴らしい逸品です。

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