ラリー・ブレイマイアの世界
The World of Larry Blamire

 

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 古いアメコミやB級映画、パルプ・フィクションなどのサブカルチャーに対する偏愛が嵩じて作り手になってしまった人である。その肩書きは劇作家、舞台演出家、俳優、イラストレーター、作曲家、小説家、コミック作家、映画脚本家、そして映画監督と実に幅広いのだが、そのいずれもがホラーやSF、ファンタジーなどのコアなジャンル系に偏りまくっている。日本ではほぼ無名に等しいものの、アメリカでは知る人ぞ知るカルトなクリエイターだ。
 生年月日や出身地などは不詳。恐らく現在50代半ばは過ぎていると思われる。マサチューセッツ州はボストンに育ったブレイマイアは、幼い頃からロジャー・コーマンの低予算モンスター映画やB級西部劇、SFホラー・コミックなどに夢中だったという。やがてボストン美術学院でイラストレーションを学び、'70年代半ばには自費出版で怪獣コミックを発表したこともあったそうだ。
 その後、肉体労働の仕事をいくつか転々とした彼は、'70年代末にSF雑誌「Galileo」のイラストレーターとなるものの、すぐに休刊となってしまったため舞台俳優へ転向する。地元ボストンの小劇場に出演するようになり、やがて脚本や演出も手がけるように。'84年に発表したSFサスペンス“Interface”は実験的な特殊効果や音響効果で話題を呼び、さらに翌年上演されたミステリー・タッチの不条理コメディ“Jump Camp”は地元の有力新聞各紙で年間ベスト10に選ばれるほどの評判となった。エド・ウッドをモデルにした映画監督を主人公に'50年代Z級SF映画の世界を描く“Bride of the Mutant's Tomb”や19世紀のアイルランド系ギャングの抗争を描いた“Whyo”などの舞台も成功し、その傍らで舞台俳優としても地元の演劇賞を獲得するなどの活躍ぶりを見せた。
 '90年代に入るとボストンだけではなくロサンゼルスの演劇界でもその名を知られるようになり、'97年にはL.A.を拠点とするIT企業とコラボレートしてインタラクティブ・アニメの制作にも着手。ところが、ITバブルの崩壊で協力企業の経営が悪化してしまい、製作資金が調達できなくなってしまった。そんな折、彼はハイビジョン・カメラの技術革新について書かれた記事を読み、低予算で面白い映画を撮れないものかと考えるようになったのだそうだ。
 その結果生まれたのが、ナンセンスで不条理なSFホラー・コメディ“The Lost Skeleton of Cadavra”('01)。エド・ウッドの「プラン9・フロム・アウター・スペース」('59)やジャ・ジャ・ガボール主演の「惑星X悲劇の壊滅」('58)といった'50年代の超低予算SF映画にインスパイアされた本作は、ただ単なるパロディではなく当時の典型的な撮影スタイルや役者の演技などを細部まで忠実に再現しており、古典的ジャンル映画に対するブレイマイア監督の大いなる愛情に満ち満ちた佳作だった。しかも自ら演出のみならず脚本と主演も兼任。'02年のミル・ヴァレー映画祭で初上映された本作は全米各地の映画祭でも好評を博し、アメリカン・シネマテークの特別上映にも取り上げられた。さらにはソニー・ピクチャーズ傘下のトライスター映画が全米での配給権を獲得し、'04年に一般ロードショー公開までされたのである。
 この成功を受け、'05年にはテレビドラマ「ザ・ソプラノズ」の主要キャストを迎えたコメディ“Johnny Slade's Greatest Hits”('05)を監督。同じ年にはレイ・ハリーハウゼンのSF特撮映画にオマージュを捧げた“Trail of the Screaming Forehead”('05)も発表している。
 さらに、“The Lost Skeleton of Cadavra”の続編として、今度は'50年代の冒険アクション映画にインスパイアされたC級秘境アドベンチャー“The Lost Skeleton Returns Again”('08)を製作。その翌年には'30年代のオールド・ダーク・ハウス物を忠実に再現したミステリー・ホラー・コメディ“Dark and Stormy Night”('09)を手がけた。
 最近は怪奇小説家やSFコミック作家、シュールレアリズム画家としての活動に重点を置いているというブレイマイア。古き良き低予算プログラムピクチャーの魅力を現代に伝える唯一無二の映像作家ゆえ、映画界への一日も早いカムバックを期待したい。

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The Lost Skeleton of Cadavra より

Dark and Stormy Night より

 

The Lost Skeleton of Cadavra (2001)
日本では劇場未公開
DVD・Blu-ray共に日本未発売

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(P)2004 TriStar/Spny Picures (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85 : 1/音声:ステレオ/言語:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/89分/製作:アメリカ

<特典映像>
オリジナル劇場予告編
メイキング・ドキュメンタリー
NG集(カラー)
アニメSkeleton Frolie
アメリカン・シネマテーク質疑応答
スタッフ&出演者による音声解説
監督:ラリー・ブレイマイア
製作:F・ミゲル・ヴァレンティ
脚本:ラリー・ブレイマイア
撮影:ケヴィン・ジョーンズ
音楽:ヴァレンティノ・プロダクション
出演:フェイ・マスターソン
   ラリー・ブレイマイア
   アンドリュー・パークス
   スーザン・マッコーネル
   ブライアン・ハウ
   ジェニファー・ブレイマイア

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山奥の別荘へやって来たアームストロング夫妻(L・ブレイマイア&F・マスターソン)

呪われた伝説の残るカダブラ洞窟を目指すフレミング博士(B・ハウ)

<Preview>
 かつてドライブインシアターを賑わしたようなZ級SF映画を、当時の撮影技術ほぼそのままに現代へと蘇らせたブレイマイア監督の処女作。エド・ウッドの「プラン9・フロム・アウター・スペース」('59)やロジャー・コーマンの「巨大カニ怪獣の襲撃」('57)などといった超激安で下らない往年のSFホラーが好きな人ならば、思わずニンマリとほくそ笑んでしまうこと間違いなしのパロディ映画だ。
 主人公は科学者アームストロング博士と妻ベティ。隕石に付着した放射能物質アトモスフィリアムを研究する博士は、休暇を利用してカリフォルニアの砂漠で隕石の追跡調査を行う。一方、邪な野心を持つフレミング博士は近隣のカダブラ洞窟に眠ると伝えられる“幻の骸骨”を発見し、世界征服の野望を燃やしていた。しかし、骸骨を復活させてパワーを手に入れるためには、アトモスフィリアムの力が必要だった。さらに、その近くへマーヴァ星から飛来した宇宙船が不時着。宇宙人のクローバーと妻ラティスは宇宙船を修理しようとするが、肝心の燃料アトモスフィリアムが底を尽きてしまう。かくして、アームストロング博士がアトモスフィリアムを手に入れたと知ったフレミング博士およびマーヴァ星人たちは、それを奪うべくあの手この手の策略を巡らせるのだった…。
 響きだけはもっともらしいが科学的根拠は全くない専門用語、大仰なだけで中身は空っぽなクサいセリフ、辻褄合わせすら考えが及んでいないバカ丸出しなストーリー、手作り感満載のガラクタみたいな特殊効果、悪趣味でセンスも見栄えも粗雑なモンスターや衣装のデザイン、そして学芸会並みに下手っくそな役者の演技。昔懐かしい超低予算SF映画の愛すべきマイナス要素を細部まで徹底的にカリカチュアしつつ、極めて暖かな眼差しでオマージュを捧げているのが好感触だ。
 しかも、あえてコメディ色を強調した露骨なギャグなどは極力排除し、あくまでも真面目かつ真剣に作られているところがポイント高い。なぜなら、往年の低予算SF映画にしたって作り手たちは極めて真剣だったからだ。ただ単に、彼らには十分な予算や芸術的センス、プロとしての技術力や深い洞察力などが著しく欠如していただけ。決して笑える映画を作ろうと狙ったわけではない。結果的にお粗末で笑える映画が出来上がってしまっただけなのである。その点をしっかりと踏まえて作られているというのが、本作におけるブレイマイア監督の鋭い着眼点と言えるだろう。
 そのほか、スケルトラマなる勝手にネーミングされた意味不明の上映ステム、野生動物を人間化した美女アニマーラによるエキゾチックなセクシー・ダンスなど、当時の低予算映画にありがちな安手の客寄せギミックも盛りだくさん。ジャンルに対する彼の深い造詣と愛着を存分に感じさせてくれる作品だ。

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夜空に光る流れ星を見つけたアームストロング夫妻

その正体は惑星マーヴァから飛来した宇宙船だった

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放射能物質アトモスフィアリムを追跡する夫妻だったが…

フレミング博士はカダブラ洞窟で“幻の骸骨”を発見する

<Story>
 舞台は1961年。カリフォルニアの郊外を走る一台の車。ポール・アームストロング博士(ラリー・ブレイマイア)と愛妻ベティ(フェイ・マスターソン)は、山奥の別荘を目指して車を走らせている。隕石に付着した未知の放射能物質アトモスフィアリムを研究する博士は、山の森へ落下した隕石を採取しようとしていたのだ。
 その頃、同じく山奥を目指してハイキングをする男性が一人。彼の名はロジャー・フレミング博士(ブライアン・ハウ)といい、“幻の骸骨”にまつわる呪われた伝説の残るカダブラ洞窟へと向かっていた。たまたま出会った森林警備隊のレンジャー・ブラッド(ダン・コンロイ)に方角を確認したフレミング博士は、一心不乱に険しい山道を登りつつ洞窟を目指していく。
 ようやく山小屋の別荘へとたどり着いたアームストロング夫妻。新婚旅行気分でいちゃついていると、夜空に一筋の光が輝いて見える。またもや隕石が地上へ落ちたのか?しかし、その正体が遥か彼方の惑星マーヴァから不時着した宇宙船であることを、彼らはまだ知る由もなかった。
 翌日、アームストロング夫妻はアトモスフィアリム探知機を使って隕石を見つけるため森の中へと足を踏み入れる。一方、カダブラ洞窟へとたどり着いたフレミング博士は“幻の骸骨”を発見。これで世界を征服できるパワーが手に入ると大喜びするも、骸骨によるとそのためにはアトモスフィリアムが必要なのだという。さらに、宇宙船から降りてきた異星人クロバー(アンドリュー・パークス)とラティス(スーザン・マッコーネル)は、ペットの凶暴なミュータントが檻から逃げ出してしまったことに大慌て。さらに、宇宙船の修理をしようとしたところ、肝心の燃料であるアトモスフィリアムが底を尽きていることに気づく。
 ちょうどその時、アームストロング夫妻は森の奥で光を放つ隕石を発見し、家に持ち帰ってアトモスフィリアムを採取することにした。そして、たまたまその事実を知ったフレミング博士およびクロバーとラティスは、夫妻からアトモスフィリアムを奪うべく策を練るのだった。
 ひとまず地球人に扮装してアームストロング夫妻の別荘を恐る恐る訪問するクロバーとラティス。2人のことを別荘のオーナー夫婦だと勘違いした博士とベティは、夕飯でも一緒にどうですかと彼らを招き入れる。さらに、クロバーとラティスが置き去りにした惑星マーヴァの武器トランスミュータントを使って野生動物を人間の女性に変身させたフレミング博士は、彼女にアニマーラ(ジェニファー・ブレイマイア)という名前を付けて人間の動作を教え込み、自分の妻だと偽ってアームストロング夫妻のもとを訪ねる。
 かくして、アトモスフィリアムを奪うべくチャンスを虎視眈々と狙うフレミング博士と異星人。両者は同じ目的のもとに協力し合うことを決めるが、人間の姿に馴染めず挙動不審を繰り返すアニマーラや、近隣で発生している謎の連続殺人事件(ミュータントが犯人)を調べているレンジャー・ブラッドなどの邪魔が次々と入って、なかなか上手いこといかない。
 その翌日、アニマーラの妖艶なダンスに誘われたアームストロング博士は、恍惚状態のまま隕石をフレミング博士たちに手渡してしまう。しかも、フレミング博士は異星人たちを裏切り、隕石を奪ってそのまま逃走。さらに、夫の行方を探していたベティがミュータントに連れ去られてしまい…。

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異星人クロバー(A・パークス)と妻ラティス(S・オコーネル)

アトモスフィアリムの付着した隕石の採取に成功したアームストロング夫妻

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地球人の扮装をしてアームストロング夫妻を訪ねるクロバーとラティス

フレミング博士もアニマーラ(J・ブレイマイア)を妻と称して登場

<Information>
 たったの5日間で脚本を書き上げてしまったというブレイマイア監督。基本となるストーリー展開は「プラン9・フロム・アウター・スペース」をヒントにしていると思われるが、それ以外にも一連のAIP作品やラリー・ブキャナン作品などを彷彿とさせる要素がめいっぱい。意味のない記録映像の挿入や尺稼ぎのための大袈裟な演出、どうでもいい主人公たちのラブロマンスなど、当時の低予算映画の常套手段をさりげなく皮肉ったパロディ・ネタも洒落が効いており、実はなかなか手が込んだ脚本に仕上がっていると思う。
 で、撮影期間は10日と半日。ロケ地は西部劇の撮影場所としても有名なロサンゼルス市内グリフィス・パークのブロンソン・キャニオン。主要シーンの撮影を10日間で済ませ、森に着陸する宇宙船などのミニチュア特撮シーンに半日をかけたのだという。で、そのミニチュア特撮なのだが、宇宙船はトイレットペーパーの芯に簡単な装飾を施して銀色のスプレーで塗っただけ。森のミニチュアセットは、地面をパセリとオレガノで覆って草むらに見立て、そこへブロッコリを木の代わりに並べ立てたのだそうだ。
 さらに、“幻の骸骨”はeBayのオークションで100ドルにて落札したプラスチック製のガイコツ標本を使用。撮影ではピアノ線を使って動かしており、画面上でもしっかりと確認することができる。そうそう、そういえば宇宙船の着陸シーンでもピアノ線がバッチリと写っていた。監督曰く、観客の想像力で消してくれとのこと(笑)。夜空の流れ星はフォトショップのブラッシング・ツールを使って仕上げたのだそうだ。
 ちなみに、撮影スタッフはいずれもインディーズ出身の無名ばかり。撮影監督のケヴィン・ジョーンズは「スターウォーズ」マニアの作った短編ネットムービー“Duality”('01)のカメラマンを担当した人物で、劇場用長編映画を手がけたのはこれが初めてだった。なお、ブレイマイア監督はオープニングのタイトルデザインも手がけている。

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アニマーラのダンスに誘われて隕石を渡してしまうアームストロング博士

その姿を現した凶悪なエイリアン・ミュータント

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骸骨にアトモスフィリアムを差し出しすフレミング博士

アームストロング夫妻はクロバー&ラティスと協力することに

 主人公アームストロング博士を演じているのはブレイマイア監督自身。ロマンスグレイの知的でハンサムなルックスに似合わず、意表を突くすっとぼけた演技で笑わせてくれる。その妻ベティ役には、「顔のない天使」('93)でニック・スタール少年の年の離れた姉役を演じていたフェイ・マスターソン。昔の映画に出てきそうな古風な顔立ちの女優さんなだけに、まさしくぴったりのキャスティングだ。ただし、ベティを演じるにあたって大根女優に徹するよう監督から指示を出されたらしく、この映画のせいで次の仕事が来なくなるんじゃないかと心配したとか(笑)。
 悪役フレミング博士を演じているのは、「幸せのちから」('06)や「グラン・トリノ」('08)などで重要な脇役を演じていたブライアン・ハウ。異星人クロバー役にはロサンゼルスの舞台俳優として知られるアンドリュー・パークス。2人ともブレイマイア監督とは親しい友人で、特にブライアンは本作のキャスティング担当として知人の役者を集めてきたのだという。
 そのほか、異星人ラティス役にはこれが映画初出演のスーザン・マッコーネル、アニマーラ役には監督の奥様であるジェニファー・ブレイマイア、森林警備隊のレンジャー・ブラッドには声優のダン・コンロイ、通りがかりの農夫役には「レイダース/失われたゾンビ」('86)で新聞記者を演じていたロバート・デヴォー。いずれの役者も、本作をきっかけにブレイマイア監督作品の常連となっている。

 

 

The Lost Skeleton Returns Again (2008)
日本では劇場未公開
DVD・Blu-ray共に日本未発売

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(P)2010 Shout! Factory (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー&モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:2.35 : 1/音声:ステレオ/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/92分/製作:アメリカ

<特典映像>
メイキング・ドキュメンタリー
NGシーン集
キャスト&スタッフによる音声解説
監督:ラリー・ブレイマイア
製作:マイケル・シュレシンジャー
   マーク・アレン・スチュアート
   サラ・ヴァン・ダー・ヴート
脚本:ラリー・ブレイマイア
撮影:アンソニー・J・リッカート・エプスタイン
音楽:ジョン・W・モーガン
   ウィリアム・T・ストロムバーグ
出演:ラリー・ブレイマイア
   フェイ・マスターソン
   ブライアン・ハウ
   アンドリュー・パークス
   スーザン・マッコーネル
   ジェニファー・ブレイマイア
   フランク・ディーツ
   ダン・コンロイ
   ケヴィン・クィン
   ダニエル・ローバック
   トリッシュ・ガイガー
   アリソン・マーティン
   H・M・ワイナント

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フレミング博士の双子の弟ピーター(B・ハウ)に催眠術をかける骸骨

アームストロング博士の妻ベティ(F・マスターソン)を訪ねるパピン(F・ディーツ)

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幻の石を求めて南米へと飛ぶ一行

寂れたバーの片隅で飲んだくれていたアームストロング博士(L・ブレイマイア)

<Preview>
 レイ・ハリーハウゼン風の侵略型SFパニック・コメディ“Trails of the Screaming Forehead”('05)や、「ミステリーゾーン」風のオンライン・ムービー・シリーズ“Tales from the Pub”('07)を経て、ラリー・ブレイマイア監督が7年ぶりに取り組んだ“The Lost Skeleton of Cadavra”の続編。とかなんとか言いつつ、主要な登場人物こそ前作のキャラクターを引き継いでいるものの、作品のジャンル的には全くの別もの。今回は「密林の黄金」('50)や「大アマゾンの半魚人」('54)に代表される、'50年代のB級アドベンチャーをネタにしたパロディ映画に仕上がっている。
 前作ではアトモスフィリアムという放射能物質を巡って善い科学者VS悪い科学者VS異星人の争奪戦が描かれたわけだが、今回の焦点となるのはジェレニアム90と呼ばれる新たなエネルギー物質。これが南米のアマゾン奥地に眠る石に含まれているのだが、アメリカ政府は敵国の手に渡る前にそれを入手すべく探検隊を送り込むことにする。そのリーダーが他でもないアームストロング博士だったのだ。一方、密輸組織の差し向けた悪徳貿易商トリーガーの一行も、ジェレニアム90を狙って一路アマゾンへ。しかも、アームストロング博士の危機を察した異星人クロバーとラティスまでもが秘かに地球へと飛来し、トリーガー一味に混じってスパイ活動を行う。両者が目指すは秘境の王国カンテロープ。果たして、どちらが先に現地へたどり着いてジェレニアム90を手に入れるのか!?しかも、そんな彼らの行く手に王国を守る数々のモンスターが立ちはだかり…。
 とまあ、あらすじを読んだだけでも実にいろんなジャンルの要素が詰め込まれたごった煮的映画であることがお分かりいただけよう。基本的なストーリー・ラインがジョン・ヒューストン監督の「黄金」('48)や「マルタの鷹」('41)に似ているのは、当時のB級アドベンチャー映画の大半がこの2作品をお手本にしていたからに他ならない。フィルムノワール風の前半をモノクロで描きつつ、後半はテクニカラー仕立ての冒険アクションに…という構成も、当時の映画ジャンルの特色を上手いこと取り入れている。B級クラシック映画を隅から隅まで研究し尽くしたブレイマイア監督ならではの芸の細かさだ。
 さらに、ハリボテな映像のスケール感から漂う胡散臭さというのも実にマニア心をくすぐる。前人未到の秘境“悪魔の谷”や古代文明カンテロープ王国の一見すると巨大に思えるセットなど、当時の作り手たちが知恵を絞って編み出したレトロな特撮(?)技術を忠実に再現しながら、低予算映画ならではのフェイクなスペクタクルを存分に堪能させてくれるというわけだ。
 また、前作で死んでしまった登場人物を“双子”と称して再登場させたり、明らかに同じセットやロケーションを何度も使い回ししてみせたり、UFOや空飛ぶ骸骨を操るピアノ線がモロバレだったりといった、確信犯的ないい加減さも健在。大げさかつ回りくどいセリフで大作感を出そうという低予算映画ならではのハッタリを茶化したジョークもすこぶる面白い。
 ただまあそんなワケだから、逆に言うと古き良きB級アドベンチャー映画をまるっきり見たことがないという人には、恐らく本作のユーモアはなかなか伝わりにくいはず。そう言った意味で、やはり観客を選ぶ映画ではあると思うのだが。

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UFOから地球へ降り立ったクロバー(A・パークス)とラティス(S・マッコーネル)

ジャングル・ブラッド(D・コンロイ)の加わったアームストロング博士一行

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クロバーらは地球人に扮してトリーガー(K・クィン)一行に紛れ込む

トランスミュータントによって野生動物から変身したアニマーラ(J・ブレイマイア)

<Story>
 科学者ジェリー・オリアル博士によって、新たなエネルギー物質が発見される。博士の名前をとってジェレニアム90と命名されたその物質は非常に強力なパワーをもっており、そのため全米各地の研究機関から犯罪組織、敵国のスパイも含めて様々な勢力がその在り処を探していた。この物質が南米のジャングル奥地に眠る石から採取されたという情報を掴んだ米軍のスコットマンソン将軍(H.M.ワイナント)は、部下のリート・パピン(フランク・ディーツ)を現地に派遣して、その石をアメリカへ持ち帰るよう指示を出す。だが、そのためにはエネルギー分野に精通した科学者の協力が必要だ。そこで、かつてアトモスフィリアムを発見した名高い科学者アームストロング博士(ラリー・ブレイマイア)に白羽の矢が立てられる。
 ところが、肝心のアームストロング博士は2年前に南米へ現地調査に行ったまま音信不通だった。そこで、パピンは博士の妻ベティ(フェイ・マスターソン)の協力を得て、アームストロング博士の行方を探すために南米へと渡ることとなった。一方、その頃死んだロバート・フレミング博士の双子の弟ピーター(ブライアン・ハウ)は、兄の遺品の中から見つかった骸骨の頭が突然喋りだしたことに仰天していた。実はこの骸骨、かつてカダブラ洞窟で発見された“幻の骸骨”だったのである。失った力を取り戻すためにはジェレニアム90が必要だと考えた骸骨は、ピーターに催眠術をかけて南米へと向かわせる。
 さらに同じ頃、怪しげな貿易会社を営むカール・トリーガー(ケヴィン・クィン)のもとに密輸組織のエージェント(ロバート・デヴォー)が現れる。組織の指示でジェレニアム90を探すことになったトリーガーは、怪しげなマフィアのゴンドロー・サイクス(ダニエル・ローバック)、野心的な女性科学者ロイン博士(トリッシュ・ガイガー)と現地で合流するのだった。
 さらにさらに、宇宙から地球へと飛来したUFOが一体。中から降りてきたのは他でもない、マーヴァ星人のクロバー(アンドリュー・パークス)とラティス(スーザン・マッコーネル)だった。かつてアームストロング夫妻と友情を分かち合った2人は、夫妻の身に危険が迫っていることをUFOのSOSアラームで探知し、彼らを助けるため秘かに地球へとやって来たのだ。ただし、正面きって助けに来たというと押し付けがましいので、こっそり気づかれないよう援護することにした。
 かくして、それぞれ南米へとやって来た各一行。パピンとベティは、小さな村の寂れたバーで飲んだくれたアームストロング博士を発見する。実はオリアル博士と一緒にジェレニアム90を発見したのはアームストロング博士だったのだが、友人だと思っていた彼に手柄を独り占めされてしまったため、すっかり世間に背中を向けて卑屈になってしまっていたのだ。そんな彼を説得したパピンとベティは、問題の石を探してアマゾンの秘境“悪魔の谷”を目指すことになる。
 ジャングルを案内するのはガイドのジャングル・ブラッド(ダン・コンロイ)。偶然にも、かつてミュータントに殺された森林警備隊員レンジャー・ブラッドの双子の弟だった。さらにそこへ、フレミング博士の双子の弟ピーターが骸骨を手に現れる。自分は兄のような悪者じゃない、この骸骨はただの傘差しだと弁明するピーターを、アームストロング夫妻は暖かく(?)仲間に迎え入れる。一方、トリーガーの一行にはジャングル好きの地球人夫婦に変装した異星人クロバーとラティスが合流。道案内を頼むふりをして情報収集&監視をしようというのだ。さらに、彼らの荷物から秘密兵器トランスミュータントを発見したトリーガーが、たまたま通りがかった動物を人間の女性に変身させてしまう。ご存知、アニマーラ(ジェニファー・ブレイマイア)の再登場だ。このアニマーラも素知らぬ顔をして途中から仲間に加わることとなる。
 亜熱帯の猛烈な暑さや野生動物の襲来など様々な困難を乗り越え、なんとかかんとか先に“悪魔の谷”へと到着したアームストロング博士一行。そこから先に広がっていたのは、失われた古代王国カンテロープだ。しかし、女王チンファ(アリソン・マーティン)は文明人を信用せず、石の在り処を教えようとはしなかった。そこへ、後から到着したトリーガー一行が加わって事態はしっちゃかめっちゃかに。さらに、ロイン博士が王国の大切な秘宝を盗んでしまったことから、守り神である妖怪マグロコップが蘇ってしまう…。

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いよいよアマゾンの秘境“悪魔の谷”へと到着

そこには奇怪な古代生物が生息していた

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さらに一行の前に立ちはだかる恐ろしいモンスターたち

カンテロープ王国の神殿がそびえ立っていた

<Information>
 南米に見立てられたロケ地は、カリフォルニアのサンタ・クラリタ市にあるオープン・セット・スタジオ、セイブル・ランチと、ロサンゼルス近郊のアーカディアにある自然公園サンタ・アニタ・パーク。“悪魔の谷”の巨大な谷間やカンテロープ王国の神殿、マーヴァ星人の巨大UFOなどはいずれもミニチュアで、遠近法のトリックを使っていかにも大きく見えるよう撮影されている。つまり、カメラの手前にミニチュアをセッティングし、はるか遠くの方にいる役者と一緒に写すことで、まるで実物大のセットを組んだかのように見せているというわけだ。ちなみに、UFOの製作費はたったの20ドルだったという。
 今回は全米の大手ビデオレンタル・チェーン、ブロックバスターの元重役マーク・アレン・スチュアートがプロデューサーとして参加。アンディ・ガルシア主演の「バレット・ライン」('10)などのインディペンデント作品を数多く手がけているカメラマン、アンソニー・J・リッカート=エプスタインが撮影監督を務めている。さらに、ロブ・ゾンビ監督作品の常連であるアンソニー・トレンブレイが美術デザインを担当。「クリッターズ」('86)シリーズのクリーチャー・デザインを手がけたチャールズ・チオドがモンスターの造形に携わっている。

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女王チンファ(A・マーティン)は文明人を信用していなかった

クロバーたちからトリーガー一味の悪巧みを知らされるアームストロング博士ら

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ジャングルの人食い植物が一行に襲いかかる

秘宝を盗んだロイン博士に迫る妖怪マグロコップ

 キャストは前作から引き続き登場のブレイマイア夫妻、フェイ・マスターソン、アンドリュー・パークス、スーザン・マッコーネル、ブライアン・ハウ、ダン・コンロイ、ロバート・デヴォーらに加え、ディズニー・アニメの制作スタッフであるフランク・ディーツ、「ディスタービア」('07)や「イーグル・アイ」('08)にも出ていたケヴィン・クィン、ブレイマイア監督には“The Trail of the Screaming Forehead”以来女優兼スタッフとして携わっているトリッシュ・ガイガー、'90年代から数多くのテレビドラマにゲスト出演しているコメディ女優アリソン・マーティンらが出演。
 さらに、映画「逃亡者」('93)のビッグス保安官や「エージェント・コーディ」('03)シリーズのパパ役などで知られる名脇役ダニエル・ローバックが、「マルタの鷹」のシドニー・グリーンストリートを彷彿とさせる白づくめの太った悪人サイクス役で登場。また、「最後の一人まで」('58)や「かわいい女」('69)などに出演していた大ベテランH・M・ワイナントが、米軍のスコットマンソン将軍役として冒頭に顔を出している。

 

 

Dark And Stormy Night (2009)
日本では劇場未公開
DVD・Blu-ray共に日本未発売

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(P)2010 Shout! Factory (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85 : 1/音声:ステレオ/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/93分/製作:アメリカ

<特典映像>
メイキング・ドキュメンタリー
ギャグ・リール(NG集)
キャスト&スタッフによる音声解説
監督:ラリー・ブレイマイア
製作:トリッシュ・ガイガー
   マイケル・シュレシンジャー
   サラ・ヴァン・ダー・ヴート
脚本:ラリー・ブレイマイア
撮影:アンソニー・J・リッカート=エプスタイン
音楽:クリストファー・カリエンド
出演:ジム・ビーヴァー
   ジェニファー・ブレイマイア
   ラリー・ブレイマイア
   ボブ・バーンズ
   ダン・コンロイ
   ロバート・デヴォー
   ブルース・フレンチ
   ベティ・ギャレット
   トリッシュ・ガイガー
   ブライアン・ハウ
   マーヴィン・カプラン
   ジェームズ・カレン
   アリソン・マーティン
   フェイ・マスターソン
   スーザン・マッコーネル
   アンドリュー・パークス
   ケヴィン・クィン
   マーク・レッドフィールド
   トム・リース
   ダニエル・ローベック
   クリスティン・ロメオ
   H・M・ワイナント

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暴風雨に見舞われたキャヴィンダー家の豪邸

遺言を聞き届けるために集まった親族および場違いな人々

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屋敷にまつわる忌まわしい逸話を語るバーリング(B・ハウ)

故人に可愛がられた女性サバシャ(F・マスターソン)は何者かに強迫されていた

<Preview>
 1920年代後半から40年代半ばにかけて数多く作られた“オールド・ダーク・ハウス”もの…分かりやすく言うと“お化け屋敷もの”映画にオマージュを捧げたパロディ映画。その原点とも呼べる名作「猫とカナリア」('27)の基本プロットをベースにしつつ、嵐の夜に大豪邸へ集まったワケありな人々、屋敷の中を徘徊する正体不明の殺人鬼、主人公一族に隠された暗い秘密、屋敷に張り巡らされた秘密通路、不気味なメイドや執事、行方不明になった精神病患者、屋根裏部屋に幽閉された狂人などなど、ジャンルのお約束とも言うべきネタを全編に散りばめた秀逸なサスペンス・コメディだ。
 それはとある嵐の夜のこと。先ごろ死去した大富豪サイナス・キャヴィンダーの遺言が発表される。
遺産相続に期待を膨らませる親族はもとより、特ダネを狙う新聞記者コンビやらタクシー運転手、女霊媒師、ゴリラを連れた老婦人などなど、なぜここにいるのかイマイチよく分からない人物も含めて、それぞれにいわくありげな人々が人里離れたキャヴィンダー家の豪邸へ続々と集まってくるのだった。
 やがて遺言の中身が明かされ、遺産分配の内訳に一喜一憂する親族たち。一通り発表が終わったところで、弁護士はおもむろに1枚の封筒を取り出す。というのも、サイナスは亡くなる直前に新たな遺言を用意していたのだ。ところが、その直後に弁護士は何者かによって刺殺されてしまう。さらに、一人また一人と殺されていく関係者たち。屋敷の中ではフードを被った怪しげな人影が徘徊する。果たして、犯人は何者なのか…!?
 基本的にパロディ映画なので謎解きは割と単純だし、そもそもこの手のジャンルを見慣れている映画通ならばすぐに犯人の目星はつくはず。作り手もその辺は百も承知といったところなのだろう。定番的なオチに若干のひねりは加えているものの、あくまでも予定調和を踏襲することで生み出されるユーモアに徹している。しかしながら、総勢20人以上にも及ぶ登場人物それぞれの個性をしっかりと際立たせつつ、賑やかでスピーディなストーリー展開の中にマニアックなパロディ・ネタを散りばめていく脚本の構成は実に巧い。複雑な人間関係も手際よく処理されているし、サスペンスとユーモアのバランスもさじ加減も絶妙だ。
 また、ジェームズ・ホエール監督の傑作「魔の家」('32)を参考にしたであろう演出とカメラワークも素晴らしい。オープニングのスタッフ&キャストのクレジットやミニチュアを使った特撮、ドイツ表現主義的なライティングなど、当時の映像スタイルや撮影技術を細部まで巧みに再現している。さすがはブレイマイア監督といった感じだ。手の込んだセットや衣装も含め、彼のフィルモグラフィーで最も見栄えのいい映画ではないだろうか。
 さらに、ブレイマイア作品の常連組が勢ぞろいしたキャスト陣の芸達者ぶりも特筆に値する。それぞれがまるで'30年代の映画からそのまま出てきたような雰囲気をちゃんと作り上げており、ちょっとした台詞回しや仕草に至るまで当時の世相や風俗を巧みに取り入れているのは見事。古い映画の俳優の演技を徹底的に研究していることがよく分かる。ベティ・ギャレットやジェームズ・カレンといった大ベテランたちが、いかにも楽しげにトボけた演技を披露しているのも見どころ。まさしく、
映画ファンによる映画ファンのための映画と言えるだろう。

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最後の遺言書を読み上げようとする弁護士トワイリー(M・レッドフィールド)

特ダネを狙う記者ファラデイ(D・ローベック)とビリー(J・ブレイマイア)だったが…

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屋敷の中を徘徊する謎の殺人鬼

バーリングの妻プリすティ(C・ロメオ)が次の犠牲者に…

<Story>
 それは1930年、暗い嵐の夜のこと。人里離れたキャヴィンダー家の大豪邸では、亡くなった主サイナス・キャヴィンダーの遺言を聞き届けるために親族一同が顔を揃えていた。裕福な甥バーリング(ブライアン・ハウ)と気位の高い妻プリスティ(クリスティン・ロメオ)、彼女の愛人でオツムの弱いティーク(ケヴィン・クィン)、サイナスの親友である猛獣ハンターのジャック(ジム・ビーヴァー)、神経質な皮肉屋の貴族パートファイン卿(アンドリュー・パークス)、年老いたハウゼンスタウト夫人(ベティ・ギャレット)、物静かで温厚な老人エセルクエイク氏(ジェームズ・カレン)、そしてサイナスが後見人として可愛がった若い女性サバシャ(フェイ・マスターソン)。
 そこへ、特ダネをモノにすべくやり手の新聞記者ファラデイ(ダニエル・ローベック)とライバルの女記者ビリー(ジェニファー・ブレイマイア)、そのファラデイから不足分の運賃を払ってもらうためについて来たタクシー運転手ハッピー・コバーン(ダン・コンロイ)が押しかける。さらには、第6感によって導かれてきたという女霊媒師カップカップボード(アリソン・マーティン)、近くで車がエンストしてしまったという地味で気弱そうな男レイ(ラリー・ブレイマイア)が訪れ、にわかに屋敷が騒々しくなるのだった。
 刻々と迫る遺言の発表。期待と不安が入り混じる親族たち。サイナスのお気に入りだったサバシャは何者かに脅迫されているらしく、遺言の内容如何では自分が殺されるのではないかと怯えている。そもそも、このキャヴィンダー邸の領地には”キャヴィンダー・ストラングラー”と呼ばれる謎の連続殺人鬼が徘徊していると噂されており、さらには300年前に殺された魔女サラ・キャヴィンダーの呪いがかけられているとの伝説も根強い。
 弁護士トワイリー(マーク・レッドフィールド)によって、いよいよ遺言の中身が告げられる。遺産の大部分を相続したのは案の定サバシャだった。ただし、彼女が万が一亡くなった場合は甥のバーリングに相続権が移るという。親族の間で広がるどよめき。しかし、サイナスは死の直前にもう1枚の遺言書を残していた。どうも彼は最後の最後に心変わりをしたらしく、そこには遺産の分配に関する重要事項が記されているという。
 ところが、封筒を開けてみると中身がない。新しい遺言書の存在を知った何者かが盗んだのだ。だが、弁護士トワイリーはその内容をしっかりと記憶していた。と、その次の瞬間、屋敷は真っ暗に。メイドのジェーン(トリッシュ・ガイガー)と執事ジーンズ(ブルース・フレンチ)が明かりをつけたところ、トワイリーが背中からナイフで刺殺されているのが発見される。
 恐怖で慌てふためく一同。しかし、嵐のせいで屋敷の電話は一切使えず、町へ行くための唯一の橋も暴風雨で崩壊していた。つまり、みんなここで一晩を明かすしかないのだ。お互いに相手を出し抜こうと躍起になっていたファラデイとビリーだったが、ここは一致団結して犯人を探そうではないかということになる。
 そうした中、屋敷の中を徘徊する怪しげな人影。それは全身にフードを被った謎の殺人鬼だった。屋敷の秘密通路を使ってサイナスの書斎へ忍び込んだ殺人鬼は、そこで愛人を待っていたバーリングの妻プリスティを殺害する。さらに恐れおののく人々。そこへ、近隣の精神病院に勤めるヴァン・ヴォン・ヴァンダーヴォン博士(H・M・ワイナント)が屋敷を訪ねてくる。病院を脱走した危険な患者がこの屋敷の方へ逃げてきたというのだ。しかし、治療では医師と患者が直接顔を合わせることがないため、博士は患者がどんな顔をしているのか、そもそも男性なのか女性なのかすら分からないのだという。
 とにかく、謎を解明する鍵は消えた遺言書にある。女霊媒師カップカップボードは降霊会を開いて幽霊ガニー(マーヴィン・カプラン)の助言を求めようとするが、あまり役には立たなかった。そうこうしているうちに、ジャックが剥製にされ、ティークやエセルクエイク氏、ヴァン・ヴォン・ヴァンダーヴォン博士も次々と犠牲になっていく。屋敷内をくまなく捜索するファラデイとビリー、ハッピー・コバーンだったが、なかなか手がかりは掴めなかった。
 その頃、メイドのジェーンと料理人アーチー(ロバート・デヴォー)は、来客たちに気づかれないよう屋根裏部屋にこっそりと食事を運んでいた。そこに幽閉されている女性(スーザン・マッコーネル)の意外な正体とは?そもそも、殺人鬼は何者で、何の目的があって凶行を重ねているのか…?

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近隣の精神科医(H・M・ワイナント)が病院から患者が脱走したことを告げる

降霊会で呼び寄せた幽霊(M・カプラン)に犯人の正体を尋ねるが…

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猛獣ハンターのジャック(J・ビーヴァー)が剥製にされてしまう

書斎の本棚に隠された秘密通路を発見するファラデイたち

<Information>
 舞台となるキャヴィンダー邸の外観はミニチュア・セット、内部はサウンドステージに大規模なセットを組んでおり、総額100万ドルとブレイマイア作品としては過去最高の製作費がかけられている。暴君として恐れられた亡き大富豪、遺産を目当てに集まってくる欲深い親族たち、その大部分を相続することになった若い女性、屋敷内を徘徊する殺人鬼、精神病院を脱走した患者という設定は「猫とカナリア」へのオマージュ。ベッドの後ろの壁から殺人鬼の手が伸びてくるという同作の名シーンも再現されている。さらに、登場人物たちを出迎える不気味な執事や屋根裏に幽閉された狂人は「魔の家」、事件に巻き込まれた男女が反発し合いながらも手を組んで事件の謎解きに挑むというラブコメ的展開は”The Bat Whispers”('30)といった具合に、元ネタを知っている人なら思わずニンマリとしてしまうパロディや仕掛けが盛りだくさん。改めてブレイマイア監督の古典映画に対する造詣の深さに感服する。
 今回も演出と脚本の両方を手がけたブレイマイア監督。主要スタッフも毎度お馴染みの常連組ばかりだが、音楽スコアだけはヘンリー・マンシーニの門下生であるクリストファー・カリエンドが初参加している。彼はサイレント映画や初期トーキー映画に新たなスコアを付け直す仕事もしているらしいので、まさにうってつけの人材と言えよう。いかにも古き良き時代のミステリー映画音楽といったあんばいのオーケストラ・スコアを聴かせてくれる。
 なお、屋敷の秘密通路を探索するシーンでは、”The Lost Skeleton”シリーズでお馴染みの”幻の骸骨”もチラリとゲスト出演(?)しているのでお見逃しなく。

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寝室で横になったビリーを殺人鬼が襲う

お互いに疑心暗鬼となるゲストたち

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こっそりと屋根裏部屋に食事を運ぶメイドのジェーン(T・ガイガー)

そこに幽閉された不気味な女性(S・マッコーネル)の正体とは…!?

 過去のブレイマイア作品に出演した常連組が勢ぞろいといった感じのキャスト陣。中でも、新聞記者のファラデイとビリーを演じるダニエル・ローベック&ジェニファー・ブレイマイアのユーモラスな名コンビぶりは絶妙。まるで「ドクターX」('32)のリー・トレイシーと「肉の蝋人形」('33)のグレンダ・ファレルが顔を合わせたような面白さで、その活きのいい演技がグイグイとストーリーを引っ張っていく。髪をブルネットに染めてイメチェンしたフェイ・マスターソンのおトボけぶりや、アリソン・マーティンとスーザン・マッコーネルのクレイジーな悪ノリ演技も、いろんな意味でぶっ飛んでいる。
 また、今回はブレイマイア監督と同じく古典的カルト映画への偏愛が嵩じて映画を撮るようになったインディペンデント映画界の鬼才マーク・レッドフィールドが弁護士役で登場。もともと舞台の出身だったり自ら主演も兼ねたりするなど、ブレイマイア監督とはなにかと共通点の多い人だ。
 さらに、親族でもないのに間違えて遺言の発表に参列し、その後もなぜかペットのゴリラを連れて屋敷内をウロチョロする妙ちくりんなお婆さんハウゼンスタウト夫人役に、往年のMGMミュージカルのスター女優ベティ・ギャレットが顔を出しているのもクラシック映画ファンには嬉しい。実は彼女、”The Lost Skeleton”シリーズの異星人クロバー役や本作のパートファイン卿を演じている俳優アンドリュー・パークスの母親なのだ。”Trail of the Screaming Forehead”にも顔を出していたが、恐らくいつも息子がお世話になっているよしみでのゲスト出演だったのかもしれない。2011年の2月に91歳で亡くなり、本作が事実上の遺作となった。
 そんな彼女が連れているゴリラを演じているのは、一部でカルト的な人気を誇るC級スーパーヒーロー映画”Rat Pfink a Boo Boo”('66)などのゴリラ・スーツ俳優として知られるボブ・バーンズ。その筋ではかなり有名な人で、ピーター・ジャクソン監督の「キング・コング」('05)にもカメオ出演していた。
 そのほか、猛獣ハンターのジャック役には大人気ドラマ「スーパーナチュラル」のベテラン悪霊ハンター、ボビー役として親しまれているジム・ビーヴァー。お気楽な老人エセルクエイク氏には、「フランケンシュタインの逆襲」('65)や「バタリアン」('85)、「スペースインベーダー」('86)などでホラー映画ファンにはお馴染みの名優ジェームズ・カレン。降霊会で呼び出される幽霊ガニー役には、往年のTVアニメ「ドラ猫大将」('61〜'62)の声優として有名なコメディアン、マーヴィン・カプランが顔を出している。

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往年のミュージカル女優ベティ・ギャレット(中央)

ホラー映画ファンにお馴染みの名優ジェームズ・カレン

 

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