ランベルト・バーヴァ Lamberto Bava
〜巨匠マリオの不肖の息子・・・?〜
“イタリアン・ホラーの父”と呼ばれる巨匠マリオ・バーヴァを父に持ち、祖父のエウジェニオもイタリア映画草創期に活躍した著名なカメラマン。そんな家庭に生まれ育ったランベルト・バーヴァが、同じ映画の世界を志したのも自然の成行きだったのだろう。そもそも、イタリアでは親から子へと職業が受け継がれていくのは珍しいことではない。それは映画界も同じで、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の二人の息子マヌエル(作曲家)とクリスチャン(俳優・監督)、名優ウーゴ・トニャッツィの息子リッキー(俳優・監督)、撮影監督アルマンド・ナヌッツィの息子ダニエレ(撮影監督)、俳優マリノ・ジロラーミの息子エンニオ(俳優)とエンゾ(監督)など、例を挙げればきりがない。
そして、親から職業を受け継いだ子供の宿命といえば、周りから親と比較され続けることだろう。その親が偉大であればあるほどプレッシャーも大きい。ランベルト・バーヴァも、そのデビュー当時から偉大なる父と比較され続けてきた。しかも、父マリオは世界中に熱狂的マニアを擁するイタリアン・ホラーのパイオニアであり、名だたる巨匠・名匠にも影響を与えてきたカリスマ的存在だ。それゆえに、その息子であるランベルトの作品に対する世間の評価もより一層厳しいものとなってしまう。一部では“偉大なるマリオの不肖の息子”などと呼ばれているランベルト・バーヴァだが、果たして本当にそうなのだろうか・・・?彼の作品を正当に評価するためには、80年代以降のイタリア映画界の置かれた状況なども理解しておかねばならないように思う。
1944年4月3日、ランベルト・バーヴァはローマで生まれた。幼い頃から父親の撮影現場を訪れていた彼は、「バンパイアの惑星」('65)で初めて父マリオのアシスタントを務めるようになったという。以降、「呪いの館」('66)、「黄金の眼」('68)、「血みどろの入江」('71)など父親の作品で助監督を務めながら演出のノウハウを学んでいった。
77年には仕事が減ってしまった父親のために映画「ショック」('77)を企画し、盟友ダルダノ・サケッティと共に脚本も執筆。さらには、病気がちの父親の代わりに演出も手掛けた。さらにテレビ・シリーズ“La
venere di
Ille”('79)の演出も父親と共同で担当している。
そして、父マリオがダリオ・アルジェント監督の「インフェルノ」('80)で特殊効果を担当すると、彼も助監督として参加。その頃、彼はプピ・アヴァティ監督からの連絡を受けた。アヴァティは仕事の話があるから事務所に来て欲しいという。てっきり助監督の仕事の話かと思ったランベルトだったが、アヴァティの口から出たのは監督デビューの話だった。新聞に面白い記事が出ているから映画化してみないかという。それは1977年にアメリカのニューオーリンズで実際にあった事件で、ある女性が交通事故で亡くなった恋人の頭部を冷蔵庫で保管していたというもの。そんなばかげた話があるもんかと思いつつ、その記事をヒントに半ば冗談のつもりでアヴァティと共に脚本を書いて製作会社に送ったところ、映画化のゴー・サインが出てしまった。
それが監督デビュー作「首だけの情事」('80)。恋人を交通事故で失った女性がその首を冷蔵庫で保管し、夜な夜なベッドに持ち込んでは愛を交わす(?)。そこへ彼女に思いを寄せる盲目の青年と、彼女を憎む幼い娘のドラマが絡み、サイコロジカルな愛憎劇が描かれていく。ホラーというよりも、一人の女性の精神的崩壊を描いていくスリラーと言えるだろう。題材そのものがアブノーマルなため、過度なバイオレンスや性描写を極力抑え、陰鬱なムードを重視した作品に仕上げていた。主演にも巨匠フェリーニの「女の都」('80)で注目されたイギリス女優バーニス・スティジャースを起用し、キワモノ映画的なイメージを排除しようと努めている。
その甲斐もあってか、批評家には受けの良かった「首だけの情事」だが、一般の観客には完全にそっぽを向かれてしまった。当時はルチオ・フルチ監督のゾンビ映画やダリオ・アルジェント監督のオカルト・ホラーの全盛期。バイオレンス描写が少ない上にテンポが遅い「首だけの情事」は、当時の観客には刺激が少なかったのだ。結局、この監督デビュー作は興行的に惨敗を喫してしまい、以来2年間はほとんど仕事のない状態が続いた。
その後、ダリオ・アルジェント監督の「シャドー」('82)で助監督を務めたことから、久々にランベルトのもとへ監督作の話が舞い込む。ただし、今回はテレビ映画の仕事。4話構成で各30分のサスペンス・ドラマを撮らないかというものだった。そこで、彼は1話につき一人ずつ女性が殺されていくというアイディアを思いつき、それを基に盟友ダルダノ・サケッティと脚本を書き上げた。それが、監督2作目となる「暗闇の殺意」('83)である。
ところが、撮影の直前になって劇場用映画として公開する事が決定。しかし、予算とスケジュールはそのままだった。なので、撮影は16ミリ・フィルムで行われ、たったの2週間半でクランク・アップしなくてはいけなかった。
こうした悪条件のもとで製作されたこともあって、出来上がった作品は決して満足のいくものではなかった。16ミリのオリジナル・ネガを35ミリにブロウ・アップして上映用ポジ・フィルムが作られたため、映像もチープな印象が否めない。しかも、もともとは全部で120分の作品を想定して書かれた脚本を104分まで削ったので、随所に辻褄の合わない部分も出てきてしまった。
にもかかわらず、劇場公開されるとたちまち大ヒットを記録。当時はアルジェントの「シャドー」が大成功したばかりで、しかも「13日の金曜日」をはじめとするハリウッド産のスラッシャー映画も大ブームだった。ランベルトはバイオレンス描写が足りないと言われた前作の教訓を生かし、この「暗闇の殺意」では血みどろの残酷描写を大量に盛り込んでいる。恐らく、それが興行的な大成功に結びついたのだろう。
結果的に、この作品の大ヒットのおかげでランベルトには仕事の依頼が次々と舞い込むようになったが、その反面少ない予算で手っ取り早く映画を作る監督、残酷描写ばかり派手な安手のスリラーを撮る監督というレッテルを貼られることになってしまう。
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「首だけの情事」より |
「暗闇の殺意」より |
アメリカで撮影された「ランボー」もどきのアクション映画「地獄の戦士ブラストファイター」('84)、4メートルの巨大な人食い鮫が登場するジョーズ映画「死神ジョーズ・戦慄の血しぶき」('84)をジョン・オールド・ジュニア名義で次々と発表したランベルト。どちらも、決して出来の悪い映画ではなかったが、彼自身が好んで手掛けた企画でもなかった。ちなみに、ジョン・オールド・ジュニアという変名は、父マリオがかつて使っていたジョン・オールドという変名にあやかったもの。
そこで彼は、ホラー映画を上映している映画館で本物の悪魔が解き放たれるというアイディアをダリオ・アルジェントに提案。これを気に入ったアルジェントがプロデューサーを務めることとなり、ランベルトにとって初めての大作ホラーとして製作されることになった。それが、世界中で大ヒットしたパニック・ホラー「デモンズ」('85)である。
続く「デモンズ2」('86)も評判となるが、一方でヒッチコック風のホラー・サスペンス「キャロルは真夜中に殺される」('86)が興行的にも批評的にも惨敗。「デモンズ・キラー/美人モデル猟奇連続殺人」('87)はそれなりに話題になったが、それも当時イタリアで絶大な人気を誇ったセクシー女優セレナ・グランディを主演に迎えたおかげだった。
また、この頃にはイタリアの娯楽映画産業も急速に勢いを失いつつあった。かつてイタリアのお家芸として低予算で作られていたホラー映画やファンタジー映画を、ハリウッドが最新テクニックを駆使した超大作映画としてバンバン製作するようになり、すっかりお株を奪われてしまったのだ。また、テレビ業界が映画にも進出するようになり、ファミリー向きではないホラー映画には金を出さなくなってしまった。そのため、多くのジャンル系職人監督が仕事を失うようになり、もしくはほとんどゼロに近いような予算でやりくりをしなくてはいけない状況になりつつあった。
ランベルトもご他聞に漏れず、この時期からテレビ向けの低予算ホラーを次々と作るようになる。それが、「グレイブヤード」('87)、「オウガー」('88)、「バンパイア最後の晩餐」('88)といった作品群だった。テレビ向けゆえに残酷描写や性描写にも制限があり、いずれも中途半端な印象は拭えない。しかも、日本やアメリカでは劇場用映画と勘違いされてしまい、余計にランベルトの評判を落とす結果となってしまった。
そして、父マリオの代表作である「血ぬられた墓標」('60)と同じゴーゴリの短編「ヴィー」を原作とする映画「デモンズ5」('89)、正統派ミステリーの佳作「ボディ・パズル」('91)を手掛けたランベルトは、テレビ映画“Fantaghiro”('91)をきっかけにホラー映画の世界から完全に足を洗うこととなる。
この“Fantaghiro”は中世の美しい姫君ファンタギーロを巡る愛と闘いを描くファンタジー・ロマン大作で、イタリア国内ではシリーズ化されるほどの大評判となった。もともと、ランベルトはホラー映画の残酷描写が苦手だったようだ。96年に出版された本“Spaghetti
Nghtmares”のインタビューの中でもこう語っている。
“女性が刺し殺されるシーンは気分が悪くなる。ダリオ・アルジェントは得意な分野だけど、ボクは殺人鬼の手にナイフが握られているのを見るだけで嫌になるんだ。もうボクにとっては興味を持てるジャンルではなくなってしまった。ファンタジーの方が好きだね。監督が自分の仕事を楽しめなくなったらオシマイさ。楽しめない仕事は止めたほうがいい。だから、ボクはスリラーを撮るのを止めてしまったんだ”
この言葉通り、その後のランベルトはファンタジー路線一筋。テレビのミニ・シリーズとして製作され、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズを先駆けた海賊ファンタジー「ザ・パイレーツ」('99)も大ヒットした。そもそも、彼の代表作である「デモンズ」シリーズにしても、ファンタジー的要素が非常に濃厚。残酷描写だけが売りのスラッシャー映画よりも、特撮を駆使したファンタジー・ホラーの方が本領を発揮できたのだろう。しかし、残念ながら80年代以降のイタリア映画界には、彼の望むような作品に十分な資金を提供できるプロデューサーは殆んどいなかった。それが、映画監督ランベルト・バーヴァにとって最大の不幸だったと言えるかもしれない。
ところが、2005年になって突如、ランベルトはホラー映画の世界に舞い戻ってきた。それが14年振りの劇場公開作“The
Torturer”(’05)だ。映画のオーディションに集まってきた女優の卵たちが、次々と謎の殺人鬼によって拷問にかけられて殺されるというもの。明らかにイーライ・ロス監督の「ホステル」('05)を意識した作品で、目を背けたくなるような残酷描写が満載の過激なスプラッター映画。だが、撮影はハイビジョンのビデオ・カメラで行われており、かなり低予算で作られたことが伺えるような出来映えだった。ここ最近のランベルトといえば、テレビのミニ・シリーズ“L'impero”(’00)以来全く仕事がなかったというのが実情。“映画監督として生計を立てるためには、与えられたチャンスの中で最大限の努力をしなくてはいけない”と語っていたこともある彼だけに、やはり背に腹は換えられなかったのかもしれない。
昨年はアフリカを舞台にしたファンタジックなホラー・ミステリー“The
Ghost
Son”('06)を発表。これは、生まれてくる赤ん坊が悪魔の子だと知った若き未亡人の恐怖を描く作品。低予算ながらも、ローラ・ハリングにピート・ポスルスウェイトという名優の渋い演技に助けられ、まずまずの出来映えではあった。
既に次回作の準備にも入っていると言われているランベルトだが、この2本の最新作を見る限りでは、相変わらず予算不足・不本意な題材という大きな問題を抱えている様子。ただ、予算不足という点では父マリオも同じ問題を抱えていた。しかし、撮影監督出身だったマリオには、その予算不足をカバー出来るだけの豊富なアイディアがあったが、残念ながらランベルトはそのような才能に恵まれてないようだ。そういった意味では、確かに彼は巨匠マリオの不肖の息子なのかもしれない。しかし、イタリアの娯楽映画産業に勢いのあった父親の時代とは取り巻く環境も全く違う。当時は、アンドレア・ビアンキやピエロ・レニョーリのようなC級監督でも、それなりに見栄えのする映画を撮っていたものだった。そう考えると、もしもランベルトが60年代に監督デビューしていれば、もっと恵まれた映画人生を送る事が出来たのではないかとも思う。
とりあえず見ておきたいランベルト・バーヴァ作品
デモンズ
Demoni
(1985)
日本では86年劇場公開
ビデオ・DVD共に日本発売済
(ただし、仕様や映像特典などは米国盤と違う)
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(P)2007 Anchor Bay (USA) |
画質★★★★☆ 音質★★★★★ |
DVD仕様(北米盤) カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録 )/5.1chサラウンド・2.0chサラウンド/音声:英語/字幕:なし/88分/地域コード:1/製作:イタリア 映像特典 メイキング映像 L・バーヴァ、S・スティヴァレッティらによる音声解説 オリジナル劇場予告編 |
監督:ランベルト・バーヴァ 製作:ダリオ・アルジェント 脚本:ランベルト・バーヴァ ダリオ・アルジェント フランコ・フェリーニ ダルダノ・サケッティ 撮影:ジャンロレンツォ・バッタリア 特殊メイク:セルジョ・スティヴァレッティ 音楽:クラウディオ・シモネッティ 出演:ウルバノ・バルベリーニ ナターシャ・ホーヴェイ カール・ジニー フィオーレ・アルジェント パオラ・コッツォ ファビオラ・トレード ニコレッタ・エルミ ジェレッタ・ジャンカルロ ボビー・ローズ リーノ・サレンメ ミケーレ・ソアヴィ エリアナ・ホッペ |
イタリアのみならず世界各国で大ヒットを記録し、ホラー・ファンの間でランベルト・バーヴァの名を一躍高めることになった怪作。ホラー映画を上映している映画館の中で本当に悪魔が復活するというアイディアはユニークで、映画館内に閉じ込められてしまった人々の緊迫した群集ドラマも全く飽きさせない。テンポもすこぶる快調で、BGMで流されるヘヴィメタルと相まって疾走感溢れる痛快なホラー・パニックに仕上がっている。
ランベルトにとっては初めてのビッグ・バジェット作品(あくまでも、イタリアン・ホラー業界の相場)で、メカニカル・エフェクトなどの本格的な特殊効果を使用するのも初めて。確かに細かい部分では辻褄が合わなくて大雑把なところもあるものの、ようやく自分の撮りたい映画を撮れるという彼の意気込みが強く感じられ、総じて理屈抜きで楽しめる極上のエンターテインメント作品に仕上がっている。
劇場公開当時はプロデューサーのダリオ・アルジェントの名前が前面に押し出されていたこともあって、本当はアルジェントが演出も手掛けたんじゃないかと一部で囁かれてきた。しかし、実際にアルジェントが撮影現場を訪れたのは、ほんの数回だけだったという。確かにスタッフはアルジェント組が多いし、BGMにヘヴィメタを使うというアイディアもアルジェント作品特有のもの。しかし、純粋な娯楽に徹したサービス精神溢れる演出やファンタジー・ホラー的な映像センスなんかは、明らかにアルジェントのテイストとは違う。むしろ、ハリウッド映画的な娯楽要素の強い作品に仕上がっていると言って良いだろう。
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不気味な男(M・ソアビ)に招待状を貰うシェリル(N・ホーヴェイ) |
謎めいた雰囲気の映画館従業員イングリッド(N・エルミ) |
ロビーに飾られたマスクと日本刀、そしてバイク |
ヒロインは若い女性シェリル(ナターシャ・ホーヴェイ)。地下鉄でマスクを被った不気味な男(ミケーレ・ソアビ)から映画の覆面試写状をもらった彼女は、親友のキャシー(パオラ・コッツォ)を連れて映画館へと出かけた。そこには、同じように路上で試写状を貰った人々が集まってきていた。近所に住む初老の夫婦や若い学生のカップル、チンピラと娼婦たち、盲目の老人と秘書などなど・・・。そうした中で、シェリルとキャシーはジョージ(ウルバノ・バルベリーニ)とケン(カール・ジニー)という若者コンビと親しくなる。
やがて映画の上映が始まった。作品はキャシーの苦手なホラー映画。映画の中の登場人物が墓地で見つけた仮面を被るのだが、その仮面はロビーで飾られていたものと瓜二つだった。しかも、その仮面を被った人の顔に傷が付くというのも一緒。ロビーでふざけて仮面を被った娼婦ローズマリー(ジェレッタ・ジャンカルロ)の顔にも傷が付いていた。その傷口から出血が止まらなくなったローズマリーは、席を立って洗面所へと向う。鏡に映った傷は大きく腫れ上がっており、やがて破裂して膿が噴出した。絶叫するローズマリー。
一方、ローズマリーの帰りが遅いことを心配した連れの娼婦カルメン(ファビオラ・トレード)は、様子を見るために洗面所にいく。すると、魔物と化したローズマリーが彼女に襲い掛かってくる。傷を負いながらも逃げ出したカルメンは、いつの間にかスクリーンの裏側に立っていた。ホラー映画の叫び声が鳴り響く中、傷口から大量の血が流れ出したカルメンはスクリーンを破って場内へと倒れこむ。異変に気付いてカルメンの周りへと集まってくる観客たち。その目の前で、カルメンもまた魔物へと変身を遂げたのだった。
一方、劇場の後方ではローズマリーが観客を襲い始めていた。映画館はたちまち大パニックに陥る。劇場の正面玄関へと一目散に逃げる観客たち。だが、扉には鍵がかかっていた。しかも、その扉を壊して外すと、向こう側は厚いコンクリートの壁だった。出口を探して場内を逃げまどう人々に、魔物となったローズマリーとカルメンが容赦なく襲い掛かる。頭の皮を剥され、目玉をくり抜かれ、次々と殺されていく観客たち。
ジョージやシェリルたちは、映画館の従業員であるイングリッド(ニコレッタ・エルミ)の誘導で映写室をチェックする。しかし、そこには誰もいなかった。ジョージとチンピラの黒人トニー(ボビー・ローズ)は、生き残った人々を連れて2階席へと移動し、取り外した座席を集めてバリケードを作る。一方、殺された観客たちは次々と魔物となって甦っていた。さらに、街中を車で徘徊していたヤク中の不良集団が裏口から映画館に入り込み、その隙を見て魔物の一人が外へと出てしまった。
果たして映画館に残された人々は、魔物たち(デモンズ)を倒して外へと逃げる事が出来るのだろうか・・・!?
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魔物と化した娼婦ローズマリー(G・ジャンカルロ) |
頭の皮を引き剥がされる女性 |
リーダー的役割を担う若者ジョージ(U・バルベリーニ) |
基本的に、閉ざされた映画館で悪魔が甦る、というアイディアが全ての映画と言えるだろう。ゆえに、ご都合主義や説明不足もかなり目立つ。なぜ映画館で悪魔が復活しなくてはいけないのか?上映されている映画を撮ったのは一体誰なのか?もし超自然的な力が背景に働いているのだとすれば、なぜ従業員のイングリッドは普通の人間なのか?そもそも、ローズマリーがロビーで仮面を被ったりしなければ、悪魔が復活したりすることはなかったのではないか?などなど。
しかし、ランベルト・バーヴァは余計な前置きを一切省き、ロジカルな説明を一切無視し、ひたすらジェットコースター的なストーリー展開に神経を集中させる。だって映画じゃないか、娯楽じゃないか、パーッと楽しもうぜ!という感じだ。もちろん、その姿勢は大正解。難しいことなど一切考えず、目の前で繰り広げられる血みどろの宴を楽しむというのが、この作品の正しい鑑賞法なのである。
とはいえ、一応ランベルト・バーヴァ自身の弁によると、本作は映画によってセックスやバイオレンスという魔物が解き放たれている現代社会への皮肉や警鐘が込められているらしい。そんな彼自身が血みどろのバイオレンスを描いているという事の方がよっぽど皮肉だと思うのだが、そのいい加減さがまたイタリア人気質丸出しで微笑ましく感じられる。
その血みどろのスプラッター・シーンを手掛けたのが、イタリアの誇る大御所特殊メイキャップマン、セルジョ・スティヴァレッティ。「フェノミナ」('85)や「オペラ座/血の喝采」('87)、「オペラ座の怪人」('98)など一連のダリオ・アルジェント作品を手掛けてきた人物だ。ダミー・モデルを使った特殊効果はさすがに時代を感じさせるが、それでも割れた爪の中から新しい爪が生えてくるシーンや歯が抜け落ちて牙が生えてくるシーンなどのメカニカル・エフェクトは素晴らしい出来映え。その他、今では倫理的な問題で描くことができないであろう壮絶な残酷描写が満載で、その迫力はハリウッドのホラー映画など足元にも及ばない。このハチャメチャな下世話さこそが、イタリアン・ホラーの醍醐味と言えるだろう。
また、クラウディオ・シモネッティの手掛けた音楽も印象的だ。アルジェント映画には欠かせないロックバンド“ゴブリン”の中心人物であるシモネッティだが、一度聴いたら耳から離れないような強烈なメロディは彼の独壇場。随所に挿入されるモトリー・クルーやサクソン、アクセプト、ビリー・アイドルらの80年代ロックも非常に効果的だ。
撮影監督のジャンロレンツォ・バッタリアはもともとマリオ・バーヴァ作品のカメラ・クルーを務めていた人物で、セルジョ・マルティーノ監督の「ドクター・モリスの島/フィッシュマン」('79)などの水中撮影でも有名なカメラマン。「暗闇の殺意」以降の殆んどの作品でランベルトと組んでいる他、80年代から90年代にかけてイタリアで作られた低予算娯楽映画には欠かすことの出来ない撮影監督だった。
本作の撮影は西ドイツとイタリアで行われている。地下鉄や街中などのロケ・シーンは全て西ベルリン。ホラー映画の原点とされるドイツ表現主義映画に対するオマージュだという。その一方で、室内シーンはローマにある古い映画館を使って撮影が行われた。また、劇場で上映される映画の中に登場する墓地は、ローマに実在する古い墓地の廃墟で撮影が行われている。この墓地は父マリオの代表作である「ブラック・サバス」の撮影が行われた場所でもあるらしい。
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アクション映画でもお馴染みの黒人俳優ボビー・ローズ |
恋人と逃げる女の子ハンナを演じるフィオーレ・アルジェント |
群をなして襲い掛かるデモンズたち |
主演のナターシャ・ホーヴェイはイタリアの国民的コメディアン、カルロ・ヴェルドーネの監督・主演作“Acqua e
Sapone”('83)のヒロイン役に抜擢されてデビューした人。ホラー映画はこれ一本だけで、主にロマンチック・コメディで活躍した女優だった。
一方、その相手役を演じるウルバノ・バルベリーニは、ダリオ・アルジェントの「オペラ座/血の喝采」('87)の刑事役や巨匠フランコ・ゼフィレッリの「オテロ」('86)でカッシオ役を演じたことで知られる2枚目スター。ローマで最も古くて由緒正しい貴族のひとつバルベリーニ家の出身で、実業家としても大成功を収めた人物だ。現在は片手間に俳優業を続けているらしいが、最近では「007/カジノ・ロワイヤル」('06)でポーカーに参加するイタリア人トメッリ役で顔を出していた。
その親友ケン役を演じているのはランベルトお気に入りの俳優カール・ジニー。「グレイブヤード」('87)や「デモンズ・キラー」('87)などランベルト作品の常連として知られる。母親は60年代から70年代にかけて数多くのホラーやマカロニ・ウェスタンに出演した女優ヴィクトリア・ジニー。現在は日本に住んでいるという妹のヴェロニカも、ランベルトの「首なしの情事」に出演していた。
シェリルの親友キャシーを演じるパオラ・コッツォはルチオ・フルチの「ナイトメア・コンサート」('90)などに出ていた女優だし、ローズマリー役の黒人女優ジェレッタ・ジャンカルロはブルーノ・マッテイの「ラッツ」('84)やルチオ・フルチの「マーダ・ロック」('84)などで印象を残していた人。不良グループのリーダー役のリーノ・サレンメは「デモンズ2」や「グレイブヤード」などランベルト作品の常連で、フルチ作品にも数多く出演している俳優。最近ではメル・ギブソン監督の「パッション」('04)にチラッと出ていてビックリした。また、イタリア産アクションでもお馴染みの黒人俳優ボビー・ローズがチンピラ役で顔を出している。彼は「デモンズ2」にも引き続き出ているが、その容姿に似合わず(?)英語が一言も喋れなかったらしい。その他、80年代から90年代のイタリア産ホラーではお馴染みの役者が大挙して出演しているのもファンには嬉しい。
また、ホラー・ファンなら注目したいのは映画館の従業員役を演じているニコレッタ・エルミだろう。マリオ・バーヴァの「血みどろの入江」('71)や「処刑男爵」('72)、アルジェントの「サスペリアPARTU」('75)などの他、「悪魔のはらわた」('73)や「カサンドラ・クロス」('75)など70年代にイタリアで撮影されたホラー映画、娯楽映画には欠かせない子役スターだった人だ。ちょっと不気味な顔立ちが強烈な印象を残す少女で、ホラー映画ファンの間では未だに根強い人気を誇っている。本作ではすっかり成長して大人になった姿を見せているが、そのミステリアスな雰囲気は子役時代と全く変わっていないのは嬉しい。
あと、恋人と一緒に場内を逃げまどう気弱な女の子ハンナ役を、ダリオ・アルジェントの長女フィオーレが演じているのにも注目しておきたい。また、試写会の招待状を配る謎の仮面男と映画の中に登場する若者の二役でミケーレ・ソアヴィ監督(本作では助監督を務めている)が出演し、冒頭の地下鉄シーンでは通行人役でランベルト・バーヴァ監督自身がチラリと顔を出している。
なお、日本盤DVDは2種類存在する。まず98年に発売されたビーム・エンターテイメント版はスタンダード・サイズにトリミングされた最悪のマスターを使用しており、DVD商品としては完全に失格。2004年にSPOから発売されたDVDはオリジナルのビスタ・サイズで、イタリア語と英語の吹替えを両方収録している。
一方のアメリカ盤も2種類存在する。ただし、どちらも同じアンカー・ベイからリリースされており、内容はレターボックス収録かスクィーズ収録かの違いだけだ。とはいえ、2007年の再リリース版の方が明らかに画質は向上している。また、日本盤がステレオ収録であるのに対し、アメリカ盤は2種類のサラウンド音声を収録している(ただし英語吹替えのみ)。
また、日本盤の映像特典が静止画ばかりであるのに対し、アメリカ盤は短いながらもメイキング映像が付いており、さらにランベルト・バーヴァ監督と特殊メイクのセルジョ・スティヴァレッティの音声解説も収録されている。しかし、日本盤に入っているポスター&スチル・ギャラリーは収録されていない。
なお、日本のSPO版はレターボックス収録なので、本編の映像・音声に関してもアメリカ盤の方に軍配が上がるだろう。とはいえ、ビーム・エンターテイメント版は論外としても、日本盤とアメリカ盤の双方に長所があることは確か。熱烈なファンならば両方揃えても損はないかもしれない。
デモンズ2
Demoni
2...L'incubo ritorna
(1986)
日本では劇場未公開
ビデオ・DVD共に日本発売済
(ただし、仕様や映像特典などは米国盤と違う)
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(P)2007 Anchor Bay (USA) |
画質★★★★☆ 音質★★★★★ |
DVD仕様(北米盤) カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録 )/5.1chサラウンド・2.0chサラウンド/音声:英語/字幕:なし/91分/地域コード:1/製作:イタリア 映像特典 L・バーヴァ、S・スティヴァレッティらによる音声解説 オリジナル劇場予告編 |
監督:ランベルト・バーヴァ 製作:ダリオ・アルジェント 脚本:ランベルト・バーヴァ ダリオ・アルジェント フランコ・フェリーニ ダルダノ・サケッティ 撮影:ジャンロレンツォ・バッタリア 特殊メイク:セルジョ・スティヴァレッティ 音楽:サイモン・ボスウェル 出演:デヴィッド・ナイト ナンシー・ブリッリ コラリーナ・カタルディ・タッソーニ ボビー・ローズ アーシア・アルジェント ヴァージニア・ブライアント アントニオ・カンタフォーラ アニタ・バルトルッチ ルイザ・パッセーガ マルコ・ヴィヴィオ リーノ・サレンメ エリアナ・ホッペ |
前作の大ヒットを受けて製作された続編。基本的なプロットは「デモンズ」と殆んど一緒で、舞台が映画館から高層マンションに移っただけ。テレビでホラー映画を見ていた女性が悪魔に乗り移られ、彼女に殺された人々も魔物と化してしまう。しかも、停電でマンションの出入り口は全て塞がれてしまい、中に閉じ込められた人々が決死のサバイバルを繰り広げるというもの。ストーリーは前作よりもさらに荒唐無稽となり、コメディ的要素も強くなった。それでも、マンションが舞台になるというのはリアルな恐怖感があり、個人的にはこちらの方が好き。
日本では残念ながら劇場公開されずにビデオ発売となったが、実は1度だけ映画館で上映されている。というのも、ビデオ発売に先駆けて一般試写会が行われたのだ。当時高校生だったボクも、雑誌の応募欄にハガキを送って見事試写状をゲット。それはもうワクワクしながら見に行ったのを覚えている。まだまだ初心な高校生だったこともあってか、これが結構怖かった。しかも、当時はまだ実家がマンション住まいだったので、かなりビクビクしながらエレベーターを降りたという微笑ましい(?)記憶がある。そういった意味でも、非常に思い出深い作品だ。
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新婚カップルのジョージ(D・ナイト)とハンナ(N・ブリッリ) |
美少女イングリッド(A・アルジェント)と父(A・カンタフォーラ) |
神経質なお嬢様サリー(C・C・タッソーニ) |
舞台となるのは高層マンション“ザ・タワー”。全館コンピュータ制御で、スポーツ・ジムやサウナ、日焼けサロンも付いているというリッチなマンションだ。そこには様々な人々が暮らしている。新婚ホヤホヤの若夫婦ジョージ(デヴィッド・ナイト)とハンナ(ナンシー・ブリッリ)、犬と一緒に暮らす中年女性(アニタ・バルトルッチ)、心優しい両親(アントニオ・カンタフォーラ、ルイザ・バッセーガ)と暮らす美少女イングリッド(アーシア・アルジェント)、一人で留守番をする幼い少年トミー(マルコ・ヴィヴィオ)などなど。
中でも賑やかなのは、わがままなお嬢様サリー(コラリーナ・カタルディ・タッソーニ)の部屋だ。今夜はサリーの誕生日パーティで、友達が大勢集まってきている。しかし、サリーは別れた恋人のことで神経質になっており、友達を放っておいて自室にこもったきりだ。
その頃、テレビではデモンズの恐怖を描くホラー映画が放送されている。デモンズによって多くの人々が殺されたという映画館の跡地に入り込んだ若者たちの話だ。次第に、テレビの中の出来事と現実の出来事がシンクロしていくようになる。そして、いよいよ魔物が登場。すると、テレビを食い入るように見ていたサリーの方に魔物が向ってくる。そして何と、テレビを抜け出してこようとするではないか!恐怖でパニックに陥るサリー。その頃、同じ番組を見ていた家庭のテレビが突然映らなくなってしまう。
一方、パーティを楽しんでいる友達らはケーキのロウソクに火を灯し、自室にこもっているサリーを呼び出す。ゆっくりと部屋から出てきたサリーは一気にケーキの火を消すが、うめき声と共に魔物へと変身してしまう。楽しいはずのパーティは一転して大パニックに。魔物と化したサリーは次々と友達を殺していく。
さらに、サリーの体から流れ出た酸性の血が階下へと浸透していき、マンションの電気系統を切断してしまう。マンションはコンピュータで制御されているため、電気が消えてしまっただけでなく、あらゆるドアが開かなくなってしまい、エレベーターも止まってしまった。ちょうどジョージは仕事に向うためエレベーターに乗っており、こちらは一仕事を終えた売春婦メアリー(ヴァージニア・ブライアント)と共に閉じ込められてしまう。
やがて、サリーに殺された友人たちも魔物と化して甦り、酸性の血に触れた犬や子供までモンスター化。マンションは阿鼻叫喚の修羅場と化してしまった。地下駐車場に逃げ込んだイングリッドとその両親、ジム・インストラクターのハンク(ボビー・ローズ)らは、駐車場のドアを車で突き破って脱出しようとするが、車の方が大破してしまうくらいにドアは頑丈だった。また、各部屋の窓ガラスも全て強化ガラスが使われていおり、叩き破ろうとしてもビクともしない。人々は完全に外界から遮断されてしまったのだ。
一方、身重の妻ハンナを一人部屋に残してきたジョージは、何とかエレベーターから脱出しようとする。しかし、パニックに陥ったメアリーが突然魔物に変身してしまった。果たしてジョージは妻ハンナを連れて逃げ出すことが出来るのか?はたまた、地下駐車場に立てこもった人々の運命は・・・?
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テレビから抜け出ようとするデモンズ |
魔物と化したサリー |
可愛い犬までもがモンスター化してしまう |
映画館という舞台設定が少々強引だった前作に比べると、テレビの電波を使って悪魔が復活しようとする本作は、シチュエーションとしてはより理に叶っている。電気系統の切断によって人々がビルに閉じ込められてしまうという展開も納得が出来るだろう。が、あとはとにかくやりたい放題(笑)。そのハチャメチャぶりは、オモチャ箱をひっくり返したように楽しい。ただし、スプラッター満載のオモチャ箱なのだが・・・。
とはいえ、前作に比べるとスプラッター描写よりもアクションに比重が置かれているように思う。前作のような露骨でサディスティックな残酷描写が減った分、火薬を使ったスタントやエレベーター脱出などのスリリングなアクション・シーンが大きな見せ場になっている。また、グレムリンのようなモンスターが登場したり、犬が怪物化したりと、メカニカルな特殊効果シーンが多いのも特徴だ。
主要スタッフは前作と一緒だが、音楽スコアはイギリスのサイモン・ボスウェルが担当。また前作ではヘヴィメタ中心だった挿入歌も、ザ・スミスやピーター・マーフィ、アート・オブ・ノイズ、ザ・カルトなどイギリスのニュー・ウェーブ系のアーティストを起用し、ガラッと雰囲気を変えている。
また、前作は西ベルリンでロケが行われたが、今回はフランクフルトでのロケ。中央駅周辺にて撮影が行われているので、旅行で訪れた事のある人には懐かしいだろう。
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閉ざされたマンションの中を徘徊するデモンズ |
部屋に一人で残されたハンナ |
地下駐車場に逃げ込んだ住人たち |
主演はデヴィッド・ナイトとナンシー・ブリッリ。デヴィッド・ナイトはアメリカ人で、ラテン系の甘い顔をした俳優だが、主演作はこれ一本だけ。その後、アメリカに戻ってしまったようだ。一方のナンシー・ブリッリは当時まだ若手の新進女優だったが、その後リッキー・トニャッツィ監督のラブ・コメ“Piccoli
equicovi”('90)でイタリア国内の演技賞を総なめにし、人気女優の仲間入りを果たしている。特殊効果を体験したかったというのが本作出演の理由だったらしいが、ホラー映画への出演は後にも先にもこれ一本だけ。
そして、本作で一番の大熱演を繰り広げてくれるのが、最初にデモンズ化するサリー役のコラリーナ・カタルディ・タッソーニだろう。ダリオ・アルジェント作品の常連として知られる女優で、「オペラ座/血の喝采」('87)や「オペラ座の怪人」('98)、そして最新作“Mother
of
Tears”('07)にも出演している。彼女はアメリカ生まれのイタリア人で、政治家・音楽家・詩人などを生み出してきた由緒正しい貴族の家系の生まれ。父親はオペラの舞台監督、母親は元舞台女優、そして祖父はあのプッチーニとも友人だったという著名な指揮者だ。どちらかというと過剰な演技の鼻につく女優だが、本作は逆にそのオーバー・アクトが素晴らしい効果を上げており、まさに体当たりのモンスター演技を披露してくれている。
娼婦メアリー役を演じるヴァージニア・ブライアントはサンタモニカ出身のアメリカ人。当時はイタリア人と結婚してローマに住んでいたらしい。ランベルトのテレビ映画「オウガー」('88)ではヒロイン役も演じている。また、イングリッドの父親役を演じているアントニオ・カンタフォーラは70年代にマカロニ・ウェスタンで活躍した2枚目スター。マリオ・バーヴァの「処刑男爵」('72)で主演も務めている。
そしてファン大注目なのが、イングリッド役のアーシア・アルジェントだろう。これがデビュー作。今ではすっかりパンク系セックス・シンボルとなったアーシアだが、当時はバリバリの正統派美少女。あのダリオ・アルジェントの血を受け継いでいるとは思えないような、清純で可愛らしい女の子だったが、成長するごとに血は争えないことを証明していった(笑)。もちろん、今も美しいことには変わりないのだけれど。
前作からの続投組は、ジム・インストラクター役のボビー・ローズと管理人役のリーノ・サレンメ。また、テレビで放送されるホラー映画でカメラを持った女の子役を演じているエリアナ・ホッペは、前作では映画館で上映されるホラー映画でテントの中で殺される女の子役を演じていた女優さん。その後、エリアナ・ミリオと名前を変えて活躍している。
そして、今回もランベルト・バーヴァ監督がサリーの父親役でチラリと顔を出すのでチェックしておきたい。
なお、日本盤では2004年に発売されたSPO版が初のDVD化だった。画質は良好。ただしレターボックス収録のステレオ音声。イタリア語・英語音声と日本語字幕が収録されているのがポイントだ。一方のアメリカ盤は英語音声のみだが、スクィーズ収録のサラウンド音声。画質も日本盤より鮮明だ。ただ、肝心の音声解説の情報量が少ない上に、録音状態もあまり良くない。また、日本盤に収録されているポスター&スチル・ギャラリーがないのも残念だ。
ボディ・パズル
Body
Puzzle (1991)
日本では劇場未公開
ビデオは日本発売済・DVDは日本未発売
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(P)2003 Madacy Entertainment (USA) |
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) カラー/ワイドスクリーン(レターボックス )/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/95分/製作:イタリア 映像特典 予告編 |
監督:ランベルト・バーヴァ 製作:マリオ・ブレーニ ピエトロ・ブレーニ 脚本:テオドロ・アグリミ ブルース・マーティン ランベルト・バーヴァ 撮影:ルイジ・クヴェイレール 音楽:カルロ・マリア・コルディオ 出演:ジョアナ・パクラ トーマス・アラナ フランソワ・モンタギュ ジャンニ・ガルコ エリカ・ブラン マッテオ・ガッツォーロ スサンナ・ヤヴィコーリ ブルーノ・コラッツァーリ ジョヴァンニ・ロンバルド・ラディチェ |
ホラー映画監督ランベルト・バーヴァにとっては、非常に珍しい本格的な推理サスペンス映画だ。一応、腕を切り落としたりするようなシーンは存在するものの、全体的に残酷描写は控え目。カメラ・ワークやプロダクション・デザインもスタイリッシュでゴージャス。「暗闇の殺意」や「キャロルは真夜中に殺される」のような安っぽさは微塵もない。
しかし、脚本がちょっとマズかった。二転三転するストーリー展開は面白いのだが、肝心のどんでん返しに無理がある。恐らく、あくまでもこのどんでん返しありきでストーリーを構築して行ったのだろうと思うが、その背景を裏付ける犯人の動機や殺意があまりにも不自然。出だしは好調だったものの、中盤から失速してしまうのが残念だった。
とはいえ、全体的にはとても丁寧に作られている作品。役者の演技にも魅力がある。ランベルト・バーヴァの演出家としての成熟ぶりを確認するという意味では、一見の価値のある作品ではないかと思う。
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犯人役を演じるフランソワ・モンタギュ |
ヒロイン、トレイシー役のジョアナ・パクラ |
リヴェット刑事役のトーマス・アラナ |
ある嵐の夜、一人の男性がバイク事故で命を失った。その情景を思い浮かべながら悲嘆に暮れる若者(フランソワ・モンタギュ)。街中の高級菓子店に足を踏み入れた若者は、手にしたナイフで店主を惨殺する。ヘッドホンでムスルグスキーの「禿山の一夜」を聴きながら。
その頃、墓地では美しき未亡人トレイシー(ジョアナ・パクラ)が、死んだ夫の遺体が盗まれてしまったことを知って愕然とする。夫だけでなく最愛の弟まで失ったばかりの彼女にはショックが大きかった。そして、自宅に戻ったトレイシーは、冷蔵庫の中に血だらけの包みを発見する。それは殺された菓子店主の遺体の一部だった。
捜査を担当することになったのはリヴェット刑事(トーマス・アラナ)。トレイシーの夫エイブラハムの遺体が盗まれた事件と、今度の殺人事件には何らかの繋がりがあるに違いない。しかし、動機は全く不明だ。いずれにせよ、犯人はトレイシーの自宅の鍵を持っているようだ。リヴェット刑事は彼女に他の場所へ移ることを薦める。
やがて、再び殺人事件が起きた。ショッピング・モールの洗面所で女性が手首を切断されて殺されたのだ。そして、実家へ身を隠したトレイシーのもとに、その手首が届けられる。犯人は明らかにトレイシーに対して何らかのメッセージを送っていた。しかし、被害者の接点は全く掴めない。
リヴェット刑事はトレイシーの証言から得たエイブラハムの交友関係を洗っているうちに、モラーニ(ジョヴァンニ・ロンバルド・ラディチェ)という貴族の存在を知る。亡くなったエイブラハムはモラーニの邸宅で部屋を借りていたのだ。もちろん、妻トレイシーには秘密で。彼はその部屋で男性の恋人と逢引を重ねていたらしい。そのティムという男性の行方を追跡したリヴェット刑事は、彼がコルティ博士(エリカ・ブラン)という精神科医の患者であったことを知る。
一方、今度はプールの監視員が殺害された。前代未聞の連続殺人事件としてマスコミも騒ぎ出すようになり、リヴェット刑事に対する上司(ジャンニ・ガルコ)からのプレッシャーも大きくなる。そんなリヴェット刑事のもとへ、警察のラボから興味深い報告が入る。被害者の全員が何らかの移植手術を受けているらしいのだ。そこで市内の病院の記録を調べたところ、被害者たちは亡くなったエイブラハムから生体移植を受けていた事が判明。トレイシーのもとに送りつけられてきていたのは、エイブラハムの体の一部だったのだ。警察は移植を受けた他の患者の身柄を保護すべく奔走するのだったが・・・。
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高級菓子店の店主が殺害される |
トイレで手首を切断される女性 |
実家に身を隠したトレイシーだったが・・・ |
被害者の接点が生体移植というアイディアは面白いのだが、それが犯人の動機に結びつくとは到底思えないのが非常に苦しい。少なくとも、最後に明かされる犯人の正体を考えれば。また、捜査の段階における警察側の先入観を上手く利用したどんでん返しについても、発想そのものはとても鋭いのだが、それをロジカルに膨らませることが出来なかったのは惜しまれる。
ストーリーの原案を作ったのはテオドロ・アグリミとドメニコ・パオレッラ。アグリミというのはペンネームで、その正体は60年代からマカロニ・ウェスタンの脇役として活躍してきた俳優テオドロ・コッラだ。一方のパオレッラは「ヘラクレス/闘神伝説」('60)や「地獄のガンマン」('67)などで知られるベテラン映画監督。この二人の原案を基にして、アグリミ自身とランベルト、そして、アメリカのテレビ脚本家ブルース・マーティンが脚本を書き上げている。
一方、作品全体のクラシカルで落ち着いたムードはとてもいい。ダヴィデ・バッサンによるプロダクション・デザインは品があってスタイリッシュだし、ベテラン撮影監督ルイジ・クヴェイレールのカメラワークも流麗で凝っている。クヴェイレールは60年代から活躍する大ベテランで、エリオ・ペトリ監督の傑作「悪い奴ほど手が白い」('67)や「殺人捜査」('70)、ビリー・ワイルダー監督の「お熱い夜をあなたに」('72)、そしてアルジェントの「サスペリアPARTU」('75)などの撮影を手掛けてきた人物だ。
音楽を担当したカルロ・マリア・コルディオは、70年代末からジョー・ダマートなどのエログロ映画のスコアを数多く手掛けてきた人物。要は安っぽい仕事ばかりしてきた人なわけだが、本作でも彼の書いたスコアは全く印象に残らない。それどころか、ムソルグスキーの「禿山の一夜」がテーマ曲として全編で使われており、それ以外に何かスコアってあったっけ!?くらいの印象だ。ちなみに、イタリア公開版ではカール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」が使われているのだが、著作権上の問題でインターナショナル・バージョンは全てムソルグスキーに差し替えられている。
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謎めいた貴族を演じるジョヴァンニ・ロンバルド・ラディチェ |
リヴェット刑事の上司役を演じるジャンニ・ガルコ |
精神科医コルティ博士役のエリカ・ブラン |
キャストの中では、やはり主演のジョアナ・パクラとトマス・アラナがとても良い。ジョアナはちょうどマウロ・ボロニーニ監督の「金曜日の別荘で」('91)に出演したばかりで、当時が一番美しい時期だったように思う。ポーランド出身で、ハリウッド映画「ゴーリキー・パーク」('84)で注目された女優。しかし、アクション映画やホラー映画の色添え的な役柄ばかりで、その出演作の多さや知名度の高さの割には、これといった代表作に恵まれないまま現在に至ってしまっている人だ。本作でも演技力云々というより、そのパーフェクトな美貌で目を楽しませてくれる。美しすぎる人は、やはり損なのかもしれない。
リヴェット刑事役のトーマス・アラナもB級映画への出演が多い俳優だが、スコセッシの「最後の誘惑」('88)でラザルス役を演じた他、「レッド・オクトーバーを追え」('90)や「ボディガード」('92)、「LAコンフィデンシャル」('97)、「グラディエーター」('00)などハリウッドのビッグ・バジェット映画でも重要な役を演じている名優。ちょっと歪んだ顔つきに味があり、どんな役を演じてもしっかりと印象を残す人だ。生粋のアメリカ人だが、学生時代からずっとローマで暮らしていたこともあって、イタリア映画への出演も非常に多い。現在ではアメリカとイタリアの両方の市民権を持っているという。
また、イタリアン・ホラー・ファンにはお馴染みのジョン・モーゲンことジョヴァンニ・ロンバルド・ラディーチェが、謎めいた貴族モラーニ役で顔を出しているのも嬉しい。お馴染みといえば、60年代〜70年代のイタリア産娯楽映画で活躍したベテランも顔を出している。
まずは、リヴェット刑事の上司を演じるジャンニ・ガルコ。もともとは、カトリーヌ・スパークの映画で相手役を演じていた青春スターだったが、その後はマカロニ・ウェスタンから戦争アクション、猟奇ホラーまで様々なジャンルで活躍した俳優。中でも、神出鬼没のマカロニ・ヒーロー、サルタナ役を演じたことで知られている。
そして、リヴェット刑事に協力する精神科医コルティ博士を演じるのがエリカ・ブラン。マカロニ・ウェスタンからホラー、スパイ・アクションなど様々なジャンルで活躍したセクシー女優だ。80年代以降は舞台に活躍の場を移していたが、本作は久々のホラー映画への出演となった。
なお、アメリカ盤DVDは2種類存在する。99年にイメージ・エンターテイメントから発売されたものと、2003年にマダシー・エンターテインメントから発売されたもの。上記はマダシー・エンターテインメント版で、画質はそれほど良くはないものの、粗悪なPD素材を使った廉価版ばかり出しているマダシーにしては上出来と言えるだろう。
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Macabro |
La casa con la scala nel
buio |
Una notte al
cimitero |
The Torturer (2005) |
(P)2003 Anchor Bay (USA) | (P) Platinum Media (UK) | (P)2006 Dutch Filmworks (Holland) | |
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆ | 画質★★★★☆ 音質★★★★☆ | 画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆ | 画質★★★★☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録 )/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/90分/製作:イタリア 映像特典 メキング・ドキュメンタリー オリジナル劇場予告編 監督バイオグラフィー |
DVD仕様(北米盤) カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録 )/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/104分/製作:イタリア 映像特典 メキング・ドキュメンタリー オリジナル劇場予告編 監督バイオグラフィー |
DVD仕様(イギリスPAL盤) カラー/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:2/ 90分/製作:イタリア 映像特典 メイキング・ドキュメンタリー スチル・ギャラリー オリジナル予告編 |
DVD仕様(オランダPAL盤) カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録 )/5.1chサラウンド/音声:英語/字幕:オランダ語/地域コード:2/96分/製作:イタリア 映像特典 なし |
監督:ランベルト・バーヴァ 製作:アントニオ・アヴァティ ジャンニ・ミネルヴィーニ 脚本:ランベルト・バーヴァ プピ・アヴァティ アントニオ・アヴァティ ロベルト・ガンドゥス 撮影:フランコ・デッリ・コッリ 音楽:ウバルド・コンティネッロ 出演:バーニス・スティジャース スタンコ・モルナール ヴェロニカ・ジニー ロベルト・ポッセ フェルディナンド・オルランディ フェルナンド・パンヌーロ |
監督:ランベルト・バーヴァ |
監督:ランベルト・バーヴァ 製作:マッシモ・マナッセ マルコ・グリロ・スピーナ 脚本:ランベルト・バーヴァ ダルダノ・サケッティ 撮影:ジャンロレンツォ・バッタリア 音楽:サイモン・ボスウェル 出演:ベアトリーチェ・リング ジャンマルコ・トニャッツィ カール・ジニー グレゴリー・レック・タデウス リア・マーティン リーノ・サレンメ ジャンパオロ・スカローラ |
監督:ランベルト・バーヴァ 製作:アンジェロ・フレッツァ 脚本:ランベルト・バーヴァ ディエゴ・チェスティノ アンドレア・ヴァレンティ 原案:ルチアーノ・マルティーノ ダルダノ・サケッティ 撮影:ウーゴ・メネガッティ 音楽:パオロ・ヴィヴァルディ 出演:シモーヌ・コレンテ エレナ・ボウリカ エミリオ・デ・マルキ カルラ・カッソーラ マリア・ブランコ・ファフィアン ヴァェリア・クラメロッティ |
日本では1989年に劇場公開。DVDは日本未発売です。画質は大変良好。さすがマニアに信頼の高いアンカー・ベイ、とてもいい仕事をしています。メイキング・ドキュメンタリーは監督のインタビューが中心ですが、当時のオリジナル脚本なども紹介されるので、ファンには興味深いところだと思いますね。 | こちらは日本では劇場未公開ですが、後にビデオ発売されました。DVDは日本未発売です。とても16ミリから35ミリにブロウ・アップしたとは思えないほど画質は良好。リマスター技術のマジックですね。主演のA・オッキピンティは当時イタリアで大人気だった2枚目スターで、彼のネームバリューも本作のヒットに一役買ったと言われています。 | 日本ではビデオ発売のみ。DVD発売もされていません。地下墓地に迷い込んだ若者グループが恐怖の一夜を過ごすという話で、童話っぽいコミカルでファンタジックな雰囲気が結構好きな作品。ただ、やはりテレビ向けに低予算で作られていることもあり、画質はあまり良くないですね。監督が雑貨屋の店主役でチラリと出ています。 | 日本未公開。もともとDVD発売用に製作された映画みたいですね。それもあってなのか、フィルムではなくてハイビジョン・カメラで撮影されています。美女をいたぶりまくる強烈な拷問映画。ただそれだけです。キャストは無名の女優ばかりですが、そんな中でハリウッド映画にも出ていた個性派脇役女優カルラ・カッソーラが顔を出しているのが嬉しいです。 |
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Ghost Son (2006) |
Blastfighter |
(P)2007 Dutch Filmworks (Holland) | (P) パック・イン・ビデオ (Japan) |
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ | 画質−−−−− 音質−−−−− |
DVD仕様(オランダPAL盤) カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録 )/5.1chサラウンド/音声:英語/字幕:オランダ語/地域コード:2/97分/製作:イタリア・イギリス 映像特典 なし |
VHS仕様(日本盤) カラー/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:日本語/91分/製作:イタリア |
監督:ランベルト・バーヴァ 製作:マルコ・グイドーネ エンツォ・ジュリオーリ 脚本:シルヴィア・ランファーニ ランベルト・バーヴァ 撮影:タニ・カネヴァリ 音楽:パオロ・ヴィヴァルディ 出演:ローラ・ハリング ジョン・ハンナ ピート・ポスルスウェイト コラリーナ・カタルディ・タッソーニ モサ・カセール スサンナ・ラウラ・ルーデンベルグ |
監督:ランベルト・バーヴァ |
イギリスとの合作で製作されたランベルトの日本未公開最新作。いわゆる「ローズマリーの赤ちゃん」的な作品ですが、アフリカを舞台にした美しいロケーションや、土着宗教のエキゾチックなムードなどが雰囲気を盛り上げます。キャストもなかなか渋くて豪華な顔合わせ。「デモンズ2」のコラリーナ・カタルディ・タッソーニが出ているのもファンには嬉しいですね。 |
日本では劇場未公開の「ランボー」風アクション。父親と娘の絆が軸になってたりして、嫌いな作品ではないです。というか、結構出来は良いと思いますね。主演のM・ソプキューは当時イタリアン・アクションで大活躍中だったアメリカ人。その他、イタリアン・アクションでお馴染みの顔ぶれですが、みんな本編では英語名でクレジットされてます。ミケーレ・ソアヴィだって、マイケル・サロヤンだもんな〜(笑)。 |