カリーナ Karina
〜イエ=イエ・ロリータfromスペイン〜

 

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 英米ではナンシー・シナトラ、サンディ・ショウ、マリアンヌ・フェイスフル、ルルなどの女性アイドルが活躍し、ユーロ・ポップのメッカであるフランスでもシルヴィー・ヴァルタンやフランス・ギャル、シェイラなどのロリータ歌手が引っ張りだこだった60年代。そんな時代のトレンドと呼応するようかのごとく、スペイン音楽界に颯爽と現れたロリータ系アイドルがカリーナである。
 もちろん、カリーナが登場する以前にもスペインにはアイドル的な女性歌手は存在した。その代表格と呼べるのがロシオ・ドゥルカルであり、マリソルだったわけだが、ロシオは正統派の歌謡曲歌手だったし、マリソルはアイドルと呼ぶにはルックスも声も大人っぽ過ぎた。舌足らずなロリータ・ボイスでロックン・ロールやポップスを歌うアイドル歌手というのは、このカリーナがスペインにおける先駆け的な存在だったと言えるだろう。

 カリーナは1945年4月12日、アンダルシア州はハエンの生まれ。本名をマリア・イザベル・バルバラ・ラウデス・サンチャゴという。15歳の時にRCAレコードと契約し、マリベル・ラウデスの芸名で歌手デビューを果たした。RCAからはロックン・ロールのEPレコードを2枚リリースしたものの、どちらも残念ながら全くの不発。スペインでロックン・ロールのブームが訪れるのは60年代半ばのことだし、素人臭さの残る彼女のボーカルはまだまだフラメンコの国では受け入れられる土壌がなかったのかもしれない。
 しかし、そんな彼女の可能性に着目したレコード会社があった。当時スペインの最大手レーベルだったヒスパヴォックスである。フランスで巻き起こっていたイエ=イエ・ブームがいずれスペインにも上陸すると睨んだ彼らは、カリーナをスペイン版シルヴィー・ヴァルタンとして売り出すことを目論んだのだ。
 かくしてヒスパヴォックスに移籍した彼女は芸名をカリーナと変え、63年にテレビの人気音楽番組“Escala en Hi-Fi”にレギュラー出演を果たす。さらに、ブライアン・ハイランドの全米ナンバー・ワン・ヒット“Itsy Bitsy Teenie Weenie Yellow Polka Dot Bikini”のカバーである“Bikini amarillo(黄色いビキニ)”をCMソングとして歌い、ティーンの間で人気を集めるようになる。
 さらに、ピーター、ポール&マリーのカバー“Puff”で再デビュー。ロック・バンド“Los Pekenikes”や“Los Jaguars”と組むなど実験的な試みを重ねたが、なかなか決定打と呼べるヒットには恵まれなかった。当時のアメリカやイギリス、フランスではティーン・カルチャーが一大ブームを巻き起こし、巷には若者向けの音楽や映画が氾濫していたわけだが、保守的な独裁政権下にあったスペインではまだまだそこまでの勢いはなかったのだろう。
 しかし、1965年には状況が一変する。この年、スペインでは伝説的なロック・バンド、Los BravosやLos Brincosがデビューし、ようやくロックン・ロールが市民権を得るようになった。そうした時代を背景に、カリーナもシングル“Me lo dijo Perez(ペレスに言われたの)”を大ヒットさせる。これで勢いづいた彼女は、続いてフランス・ギャルの『夢見るシャンソン人形』をカバーした“Muneca de cera(蝋人形)”を大ヒットさせ、たちまちティーンのポップ・アイコンとなった。
 その後も、“Concierto para enamoradas(ラヴァーズ・コンチェルト)”や“Hierba Verde(緑の芝生)”、“Vivire(人生)”、“Romeo y Julieta(ロミオとジュリエット)”、“La fiesta(休日)”などのヒット曲を続々と発表。こうした彼女の大成功に刺激され、アドリアンヘラやシルヴァーナ・ヴェラスコ、イワーナ、フランシスカ、ロレッラなどの女性アイドル歌手が次々と活躍するようになった。言うなれば、カリーナはスペイン音楽界における女性アイドルの草分け的存在だったわけだ。

 しかし、70年代に入るとティーン・アイドルとしての活躍に限界を感じるようになり、カリーナは大人の歌手へのイメージ・チェンジを図ろうとする。そのきっかけとして彼女が選んだのは、ヨーロッパ最大とも言える音楽の祭典ユーロビジョン・ソング・コンテストへの出場だった。
 71年のダブリン大会に出場した彼女は、スペイン代表としては68年に優勝したマシエルに次ぐ2位で入賞。出場曲“En un mundo nuevo(新しい世界で)”は大ヒットを記録し、ユーロビジョン出場への決意を物語るようなタイトルを冠したアルバム“Pasaporte a Dublin(ダブリンへのパスポート)”も大変な評判となった。
 だが、これを境にしてカリーナは徐々にヒットから遠ざかっていくこととなる。当時のスペインはフォーク・ロックの全盛期で、政治的・社会的メッセージ性の高い楽曲が持て囃された時代。ティーン・アイドル出身の女性歌手マシエルがブレヒトを歌う知性派へとイメチェンして成功する一方で、数多くの女性歌手がアイドルからの脱皮に失敗して第一線から消えていった。カリーナは大人向けのラブ・バラードやオールディーズ・ヒットのカバーなどを歌って頑張っていたものの、やはり時代の流れには逆らうことが出来なかったようだ。
 70年代後半にはヒット曲も出なくなってしまい、舞台女優にもチャレンジするがいまひとつ成功せず。しかし、その一方で南米では根強い人気があったことから、80年にメキシコへと活動の拠点を移し、ボレロやランチェラを歌って人気を集めた。90年代にはスペインへ戻り、現在はテレビの懐メロ番組やトーク・ショーなどで活躍しているようだ。
 ちなみに彼女、大阪万博の際に来日しているらしく、大ヒット曲“La fiesta”の音楽クリップは万博会場で撮影されていた。

 

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Sus EPs en Hispavox (1961-1966)

Aires de fiesta
coleccion de Exitos

Singles Collection

(P)2006 Ramalama/Blanco y Negro (Spain) (P)2003 EMI-Odeon (Spain) (P)1999 Divucsa Music (Spain)
CD 1
1,Aritmentica
2,Quisiera ser
3,No preguntes por que
4,El amor es un festival
5,Saldo o
6,Tu, cupido
7,Bikini amarillo ビデオ
8,Corazon (con Los Pekenikes)
9,Puff
10,Un poco de amor
11,Prometida
12,Rumores
13,Dile ビデオ
14,Si mi almohada hablara
15,Si fuera una princesa
16,Me voy
17,No esta bien (con Los Jaguars)
18,La misma playa (con Los Jaguars)
19,Hully Gully Boy (con Los Jaguars)
20,Vaya, vaya (con Los Jaguars)
21,Puedo
22,Volveras
CD 2
1,Hago mal en quererte
2,Mi chico
3,Muneca de cera
4,Terry
5,Goldfinger
6,Me gusta la gente
7,Me lo dijo Perez
8,Oh, Oh, Sheriff
9,Yeh Yeh!
10,Olvidemos el manana
11,Concierto para enamorados ビデオ
12,Voy a buscarte
13,Tu amor de ayer
14,Siempre hay algo que me recuerda a ti
15,Vivire ビデオ
16,Hierba verde ビデオ
17,El cinema
18,Mi amor
19,Ya veras
20,Doctor Zhivago
21,A quien pueda interesar
22,Amanecer
1,El baul de los recuerdos ビデオ
2,Romeo y Julieta ビデオ
3,La fiesta ビデオ
4,Dile
5,Las flechas del amor ビデオ
6,Yeh! Yeh!
7,Something
8,Los chicos del Preu ビデオ
9,Vivire ビデオ
10,Oh Carol! ビデオ
11,Tu seras mi baby ビデオ
12,Luna blanca ビデオ
13,Querras amarme manana?
14,El libro de magia
15,Regresaras
16,Concierto para enamorados
17,Tu y yo ビデオ
18,Colores ビデオ
19,En un mundo nuevo ビデオ
20,Yo te dire ビデオ
1,Las flechas del amor ビデオ
2,El baul de los recuerdos ビデオ
3,Romeo y Julieta ビデオ
4,La fiesta
5,Concierto para enamorados ビデオ
6,Yo te dire ビデオ
7,Venus
8,La mas bella del baile
9,Los chicos del Preu
10,El dia de los enamorados
11,En unmundo nuevo ビデオ
12,Enganada
 RCA時代のEP盤を含むコンピレーション盤。66年までにレコーディングされた全ての楽曲が収録されています。デビュー当初はコニー・フランシス風のポップ・シンガーだったんですね。まだまだあどけない歌声はキュートで元気いっぱい。かなり荒削りではあるものの、なかなかの歌唱力だと思います。ヒスパヴォックス移籍後の作品はアメリカン・ポップスのカバーが中心。#8はサンディ・ショウ、#13はエキサイターズ、#14はコニー・フランシスといった具合で、いずれもカバーとしては平均点といったところですが、カリーナの愛らしいボーカルはやっぱり魅力的。それだけで十分に楽しめます。  さすがにヒット曲満載な分だけ聴き応えのあるCD2.やはり最大の目玉はフランス・ギャルのカバー#3でしょう。オリジナルよりもアップテンポかつパワフル!カリーナの元気溢れるボーカルも最高にキュートです。続く#4がトィンクルのカバーというのも気が利いてますね。彼女も『夢見るシャンソン人形』を英語でカバーしてましたから。意外なのは『007/ゴールドフィンガー』のカバー#5。ジェームズ・ボンドのテーマを彷彿とさせるクールでアップテンポな仕上がり。大ヒット曲#7も超キャッチーだし、ジョージー・フェイムのカバー#9も最高にクール!60'sガールズ・ポップ・ファンは必聴だと思いますね。大好きです。  1970〜74年の楽曲を中心に選曲されたコンパクトなベスト盤。カバー曲とオリジナル曲を織り交ぜながら、キャッチーで爽やかなアイドル・ポップスを存分に楽しませてくれる1枚です。カバー曲ではペギー・マーチが西ドイツでヒットさせた#2が最高にポップでキュート!ニール・セダカの名曲を70年代スタイルでカバーした#10やゴフィン&キングの名曲“Will You Love Me Tomorrow”をカントリー・ロック・スタイルでカバーした#13も素晴らしい出来栄え。一方のオリジナル曲では、なんといっても爽やかでロマンティックなポップ・ナンバー#1が最高。まさに胸キュンな傑作です。文句なしにオススメの一枚!  こちらは1970〜72年のヒット曲で構成されたシングル・コレクション。基本的にオリジナル作品中心の選曲です。個人的にはこの時代までのカリーナが一番好き。大ヒット曲#3や#5はもちろんのこと、シャンソンやカンツォーネのファンにもオススメ出来る名曲のオンパレードですね。70年代ヨーロピアン・ポップスの魅力がギュッと詰まっているという感じ。ホントたまらんです。ちなみに、#7と#8、#10は他では殆んど見かけないレア・トラック。中でも、シルヴィー・ヴァルタンの『アイドルを探せ』をカバーした#8はフレンチ・ポップス・ファンも必聴のナイス・トラックだと思います。

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Coleccion Diamante

(P)2007 EMI Music (Spain)
CD 1
1,Concierto para enamorados
2,Siempre hay algo que me recuerda a ti
3,Tu seras mi baby ビデオ
4,No me quiero enamorar
5,Las flechas del amor
6,Querras amarme manana
7,El baul de los recuerdos ビデオ
8,Colores
9,Romeo y Julieta
10,Olvidemos el manana
CD 2
1,Volveras
2,Tu amor de ayer
3,Si mi almohada hablara
4,Muneca de cera
5,Reclina tu cabeza en mi hombro
6,Regresaras
7,Vivire
8,Los chicos del Preu
9,Amanecer
10,Rumores
CD 3
1,Un poco de amor
2,Terry
3,En el amor ビデオ
4,Si fuera princesa
5,Hierba verde
6,Dr. Zhivago
7,La fiesta
8,Me lo dijo Perez
9,Yo te dire
10,Yeh! Yeh!
 ヒスパヴォックス時代のヒット曲を網羅した3枚組CDボックス。ひとまず最低限聴いておきたい楽曲は一通り揃っています。このCD1での拾い物は、ディオンヌ・ワーウィックの『恋よさようなら』をカバーした#4。とっても乙女チックでドリーミーな仕上がりです。ディオンヌのバージョンよりも好きかもしれません。  フランス・ギャルのカバー#4を含むCD2。『ラヴァーズ・コンチェルト』を意識したであろうブラームスの#7も大好きな作品です。ただ、それ以外は比較的地味めなラインナップかもしれません。  CD3は60年代のナンバーでまとめられています。ジョージー・フェイムのカバー#10以外は、どれもドリーミーでロマンティックな楽曲ばかりですね。やはり個人的にはトィンクルのカバー#2が一番好き。映画『ドクトル・ジバゴ』の“ララのテーマ”をカバーした#6も、意外と良く出来たバージョンです。

 

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