ジュディ・トーレス Judy Torres
〜フリースタイル界の大姐御〜

 

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 フリースタイルというジャンルの枠に収まりきらない、スケールの大きな女性ボーカリストである。見ての通りの巨体。歌声はパワルフだが同時に繊細で、特に高音の伸びが素晴らしい。ダンス・ミュージックゆえに、どちらかというとルックスが重視される傾向の強いフリースタイルの世界にあって、実力でキャリアを切り開いてきた人だと言えるだろう。
 もともとは、バーブラ・ストレイサンドやライザ・ミネリに憧れて歌手を目指した。彼女自身、フリースタイル・アーティストである以前に、一人のポップ・シンガーであると自負しているという。また、フリースタイルというジャンルがラテン系の人々によって作り上げられてきたジャンルであるこを認めながらも、“音楽に人種問題を持ち込むのは危険よ。ヒップ・ホップをブラック・ヒップ・ホップとは呼ばないでしょ?どんな音楽も全ての人種にオープンであるべきだと思うわ”とも語っている。その大らかで逞しい人柄から、業界内では彼女を姉貴分として慕う人も多い。

 ニューヨークのブロンクスで生まれ育ったジュディは、小学生の頃から作曲することを覚えたという。カトリック系の女子高を卒業し、大学在学中にジョージ・ヴァスコーンズというニューヨークの音楽プロモーターにスカウトされた。当初はブロンクスのクラブを中心に、アイリーン・キャラやホイットニー・ヒューストンのカバーを歌っていたが、その後ミック・マック・レコードを立ち上げたばかりのミッキー・ガルシアのオーディションを受けている。これに合格したジュディは、1987年にミック・マックからデビュー・シングル“No Reason To Cry”をリリースした。
 実は、このデビューには意外な裏話がある。もともと、この曲は同じくミッキー・ガルシアがプロデュースを手掛けたヴィッキー・ライアンという女性ボーカリストが歌うはずだった。当初、ジュディのデビュー曲として準備されていたのは、“Love's Gonna Get You”という作品。しかし、ジュディはこの曲が全く気に入らず、“No Reason To Cry”をどうしても歌いたかった。すると、ヴィッキーの方は逆に“Love's Gonna Get You”を歌いたいという。それならば・・・と、二人で相談して曲を交換することになったのだった。
 こうしてリリースされた“No Reason To Cry”は、ニューヨーク系フリースタイルらしいドラマチックで美しい哀愁系の名曲。とはいえ、弱小レーベルからのリリースゆえに、爆発的なヒットにはなかなか至らなかった。そんな時に、地元のクラブでの評判を聞きつけた中堅レーベル、プロファイル・レコードが全米でのディストリビュートをオファーしてきた。ジュディはプロファイルと改めて契約を交わし、“No Reason To Cry”が全米リリースされることとなったのだ。結果はビルボードのダンス・チャートで16位にマークされるヒットとなり、一躍ジュディは脚光を浴びることになる。
 続くシングル“Come Into My Arms”もビルボードのクラブ・チャートで19位をマーク。実はこれも、もともとはジュディの作品ではなかった。当時デビューを控えていたシンシアのファースト・シングルとして書かれた曲だったのだが、そのデモ・テープを聴いたジュディはすっかり惚れこんでしまったという。“これは私のための曲だ”と感じた彼女は、プロデューサーのミッキー・ガルシアを説得して自らデモ・テープを吹き込んだ。その出来映えにミッキーも納得し、彼女のセカンド・シングルとして決定したのだった。片や、デビュー曲を奪われる形になったシンシアだったが、その代わりにレコーディングした“Change On Me”がこれまた大ヒット。とりあえず、結果良ければ全て良し、と相成ったわけだ。

 89年には満を持してアルバム“Love Story”もリリースされ、同名シングルもビルボードのダンス・チャートで47位をマーク。さらに、アルバム・トラックだった“Love You, Will You Love Me”もシングル・カットされ、ニューヨークのクラブを中心に大ヒットした。この曲は当初シングル発売する予定は全く無かったという。ところが、リトル・ルイ・ヴェガがアルバム・バージョンをクラブでヘヴィー・プレイしたところ、レコード会社に問い合わせが殺到。その反響の大きさから、アルバムからの最終シングルとしてリリースされることが決まったのだそうだ。
 93年にはマーク・リジェット&クリス・バーボサと組んだシングル“Every Little Lie”とセカンド・アルバム“My Soul”をリリース。しかし、こちらはセールス的にあまり伸びず、その後はしばらく新曲を出せない状況が続いてしまった。
 しかし、96年に“No Reason To Cry”のリミックス・バージョンをリリースしたところ、予想外の大ヒットを記録。ビルボードのダンス・チャートでも30位をマークした。これを機に、プロファイル・レコードを離れたジュディは、97年にミック・マックからシングル“Holding On”をリリース。さらに、98年にサード・ミレニウムというレーベルからリリースしたシングル“Back In Your Arms Again”はビルボードのダンス・チャートで7位をマークし、チャートの上では彼女にとって最大のヒット・シングルとなった。
 その後、ニューヨークをベースにするダンス系レーベル、ロビンズ・エンターテインメントと契約を結んだジュディは、04年にシングル“The Air That I Breathe”をリリース。これは、ダンス・チャートで30位の中ヒットとなった。さらに、06年にリリースしたシングル“Faithfully”(ジャーニーのカバー)は最高6位という大ヒットを記録。依然として彼女の人気が衰えていないという事を証明した。
 デビュー20周年の今年は、シングル“I Don't”をリリース。80年代に登場したフリースタイル系アーティストの殆んどが、シーンから消えてしまうか他のジャンルへ移行してしまった今、全盛期を知る唯一の大御所としてフリースタイルの火を燃やし続けて欲しいと思う。

オフィシャル・ホームページは ココ (BGMで代表曲の全てを聴くことが出来ます)

 

NO_REASON_TO_CRY.JPG COME_INTO_MY_ARMS.JPG LOVE_STORY.JPG LOVE_YOU_WILL_YOU_LOVE_ME.JPG

No Reason To Cry (1987)

Come Into My Arms (1987)

Love Story (1989)

Love You, Will You Love Me (1989)

(P)1987 Profile Records (USA) (P)1987 Profile Records (USA) (P)1989 Profile Records (USA) (P)1989 Profile Records (USA)
Side One
1,Club Mix 9:40
2,Dub Mix 6:43
Side Two
1,La Mirage Mix 8:29 ビデオ
2,A Cappella 4:01
3,Bonus Beats 3:00

produced by Mickey Garcia & Elvin Molina
Side One
1,South Mix 8:17
2,North Mix 7:07
Side Two
1,The Casa Mix 7:08 ビデオ
2,Dub Mix 4:28
3,Percappella 4:00

produced by Mickey Garcia & Elvin Molina
mixed by Aldo Marin, Mickey Garcia & Elvin Molina
1,Please Stay Tonight 4:38 ビデオ
2,Love Story 4:27
3,Missing Part 3:16
4,Weakness Of The Body 4:14
5,I'm So In Love With You 4:15
6,Every Time 5:23
7,Come Into My Arms 4:26
8,Love You, Will You Love Me 4:44
9,No Reason To Cry

produced by Mickey Garcia & Elvin Molina
Side One
1,Hard Love Mix 8:21
2,Soft Love Mix 6:47
Side Two
1,LP Mix 4:44
2,House You Mix 6:52
3,Funk Me Mix 6:28

produced by Mickey Garcia & Elvin Molina
 ジワジワと盛り上がっていくドラマチックな哀愁系フリースタイルの名曲。ジュディの代表作と言って間違いないでしょう。ハウス風のヘヴィーな打ち込みがまた、アンダーグラウンドな雰囲気でカッコいいですね。B面のリミックスは、よりダンサンブルで派手な仕上がりですが、基本的なアレンジはオリジナルに忠実です。全フリースタイル・ファン必携の1枚だと思いますね。  これまた名曲ですね。典型的な哀愁系ニューヨーク・フリースタイル。このマイナー・コードのメロディが、ニューヨーク・フリースタイルの醍醐味です。A面のミックスはどちらも似たようなアレンジですが、#2の方が若干アンダーグランド色強めという感じですかね。B面の#1はトライバル風のハウス・ミックス。派手めなパーカッションがサルサっぽくてカッコいいです。  ジュディの記念すべきファースト・アルバム。80年代ダンス・ポップのファンには是非ともオススメしたい一枚です。#1のアップリフティングな哀愁メロディなんかはまるでジャーマン・ユーロだし、#4はカバー・ガールズの“ショウ・ミー”っぽい仕上がり。一方で、デヴィッド・フォスターを思わせる美しいバラード#3なんかは、バーブラを敬愛するジュディらしい作品で大熱唱を聴かせてくれます。  ビルボード・チャートにこそ入りませんでしたが、個人的に大好きな一曲です。切なさ溢れる哀愁系フリースタイルの佳作。一般ファンからの強い要望でシングル・カットされたのは上記の通り。リミックスも盛りだくさんですが、ベストはやっぱりA面の#1ですかね。#2はちょっとチープ過ぎ。B面の#2と#3はどちらもハウス・ミックスですが、仕上がりはどうもイマイチです。

EVERY_LITTLE_LIE.JPG NO_REASON_TO_CRY_REMIX.JPG THE_AIR_THAT_I_BREATHE.JPG I_DONT.JPG

Every Little Lie (1993)

No Reason To Cry (Remix) (1996)

The Air That I Breathe (2004)

I Don't (2007)

(P)1993 Profile Records (USA) (P)1996 QPM/Profile Records (USA) (P)2004 Robbins (USA) (P)2007 Robbins (USA)
Side One
1,After Dark's Kickin' Club Mix 5:19 *
2,A Tale From The Darkside Mix 3:06 *
3,Where's The Beat Mix 5:18 *
Side Two
1,Ligosa Club Mix 6:36
2,Ligosa Dub Mix 5:07
3,Sing It Miss Thing/Phat Beat Mix 6:19

produced by Mark Liggett & Chris Barbosa.
* remixed by Carlos Berrios
1,All Night House Party Remix Edit 4:30
2,Original Edit 4:31
3,All Night House Party Remix 7:24
4,Original Mix 6:43

produced by Mickey Garcia & Elvin Molina
remixed & reproduced by Danny Coniglio, Chris Gioello, Richie Santana & Glenn Friscia.
mixed by Giuseppe D.
1,Radio Mix 4:12
2,Chris "The Greek" Panaghi Radio Mix 4:00
3,Club Mix 6:10
4,Chris "The Greek" Panaghi Club Mix 6:02
5,Mix Show Mix 4:48

produced by Adam Marano
co-produced by Judy Torres
#2&4 remixed by Chris "The Greek" Panaghi
1,Radio Mix 3:52
2,Candlelight Mix 3:45
3,Mixshow Mix 5:59
4,Club Mix 7:20
5,Instrumental 3:44

produced by Valentin.
 セカンド・アルバムからのファースト・シングルですが、どうもイマイチぱっとしませんでした。プロデュースはシャノンのマーク・リジェットとクリス・バーボサ。A面のリミックスはリセット・メレンデスで当てたばかりのカルロス・ベリオスが手掛けています。プロダクション・バリューは十分なのですが、楽曲そのものが非常に弱い。売れなかったのも仕方ないという印象です。  ジュディの代表作である哀愁フリースタイルの名曲を、超アップリフティングなハード・ハウスとして甦らせたシングル。とにかく派手・派手・派手!という感じです。バキバキのパーカッションがひたすらカッコいいですね。リミックスにはリル・キムやアリーヤ、グロリア・エステファンを手掛けたリッチー・サンタナに、ハード・ハウス・シーンで活躍するグレン・フリスシアが参加してます。

 ロビンズ・エンターテインメント移籍第一弾となるシングル。フラメンコ・ギターの哀しいメロディが印象的な、スケールの大きいラテン・ハウスです。ジュディの情熱的でパワフルなボーカルも圧倒的。プロデューサーのアダム・マラノは、ミック・マックやメトロポリタンで活躍したベテラン。リミックスのクリス・パナーギはラテン・ハウスを数多く手掛けている人気DJ。オススメです

 ジュディの最新シングル。カントリー歌手ダニエル・ペックのヒット曲のカバーです。非常にメッセージ性の強い作品で、ゲイ・クラブ受けしそうな感じのアップリンフティングなプログレッシブ・ハウスに仕上がっていますね。ダンス・ナンバーとしてのインパクトはちょっと弱いかな。逆に、バラード・ミックスとして仕上げた#2が、楽曲の良さを一番生かしていると思います。

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