ジョセリン・エンリケス Jocelyn
Enriquez
〜ウェスト・コーストのフリースタイル・クィーン〜
フリースタイルのメッカといえばニューヨークとマイアミだが、実はサンフランシスコを中心としたウェスト・コーストにも小さなコミュニティーが存在した。そこから登場した最大の女性スターが、このジョセリン・エンリケスである。
ウェスト・コーストのフリースタイル・シーンが注目されるようになったのは、1990年代に入ってから。ロサンゼルスを中心に活躍していた男性アーティスト、ティミー・Tが、90年にバラード“One
More
Try”を全米ナンバー・ワンに送り込んだのがきっかけだった。当時の全米音楽シーンはヒップ・ホップやハウス・ミュージックの台頭が目立ち、フリースタイル・ブームが徐々に衰えつつあった時代。それゆえに、ウェスト・コーストのフリースタイルがマイアミやニューヨークのように大ブレイクすることはなかった。
そうした中で、1993年サンフランシスコにフリースタイル系専門のレコード会社が設立される。それがクラシファイド・レコードだ。この会社の最もユニークな点は、所属アーティストの多くがフィリピン系アメリカ人だったこと。もちろん、社長以下スタッフも殆んどがフィリピン系。ジョセリン・エンリケスは、このクラシファイド・レコードの所属アーティスト第一号だった。
1974年12月28日、ジョセリンはフィリピン系移民の子としてサンフランシスコに生まれた。高校時代には友人とR&B系女性コーラス・グループを結成。その後、プロデューサーのグレン・ガティレスにスカウトされ、94年にクラシファイド・レコードからアルバム“Lovely”をリリースした。ファースト・シングルの“I've
Been Thinking About
You”はビルボードのポップ・チャートで80位にランクされており、新人としては幸先の良いスタートだったと言えるだろう。
さらに、96年にリリースされたシングル“Do
You Miss
Me”がポップ・チャートで49位、ダンス・チャートでも17位と健闘。しかも、両親の母国フィリピンではヒット・チャート6位、カナダでも12位にランクされるという大ヒットを記録。フィリピン系アメリカ人のアーティストとして初めて、メジャー規模の成功を収めた。
この“Do
You Miss
Me”はユーロ・ハウス路線のキャッチーなダンス・ナンバーで、フリースタイルという枠に囚われなかったのが結果的に功を奏したのだろう。当時のフリースタイル系アーティストの多くがユーロ・ハウスとの融合を模索していたが、その中でもジョセリンは最大の成功例だったと言える。ラテン特有のキャッチーなメロディ・ラインと、ユーロ・ハウスのポップなサウンドは相性バツグン。伸びやかで清潔感のあるジョセリンの歌声も魅力的だった。
続く“Little Bit Of
Ecstasy”ではトライバルなディープ・ハウスにも挑戦。ビルボードのダンス・チャートで15位、ポップ・チャートで55位、そしてマキシ・シングルのセールス・チャートではナンバー・ワンの座を獲得した。
その後も、ダンス・チャートでは“Get
Into The Rhythm”が9位、“When I Get Close To
You”が1位と快進撃を続け、“フリースタイルの女王”から“クラブ・ミュージックの女王”へと成長を遂げていく。
2003年には自らのレーベル、Jem
Entertainmentを設立して、アルバム“All My
Life”をリリース。シングル“Why”がダンス・チャートで10位をマークしたが、これを最後に音楽活動を停止してしまっている。
Lovely (1994) You Are The One
(1994) Make This Last Forever
(1994) Do You Miss Me
(1996)
(P)1994 Classified Records
(USA)
(P)1994 Classified Records
(USA)
(P)1994 Classified Records
(USA)
(P)1996 Classified Records
(USA)
1,Make This Last Forever
2,Big
Love
3,I've Been Thinking About You ビデオ
4,Never The
One
5,I Feel For You
6,Amazing
7,Only ビデオ
8,You Are The
One *
9,I Didn't Know Love Would Break My Heart
10,I've Been
Thinking About You (Far East Mix)
11,Reprise (You Are The
One)
produced by Glenn Gutierrez & Mario L.
Agustin,Jr
* produced by Elvin Reyes1,You Are The One 4:34
2,Midnight
Mix 5:35
3,Old School Mix 5:06
4,Ifugao Mix 5:30
5,Smooth Mix
5:35
6,Lover's Edit 37:49
7,Lovely Samplers 1:47
produced by
Elvin Reyes
mixed by Glenn Gutierrez
remixed by Elvin
Reyes1,Radio Edit 4:17
2,Album Version
5:27
3,Extended Dub 7:09
4,Top Down Edit 4:02
5,Top Down Mix
5:52
6,Move Mix 10:12
7,Lovely (Edit) 4:01
8,Lovely (Long
Version) 5:32
produced by Glenn Gutierrez & Mario L. Agustin
Jr
remixed by Glenn Gutierrez1,Radio Edit 4:08 ビデオ
2,Energybox
Mix 3:38
3,Dreamhouse Radio 3:40
4,Freefloor Edit 3:38
5,3Mix
Radio 3:33
6,Delerium 4:43
7,Dreamhouse Mix 6:04
8,Freefloor Mix
5:12
9,Hookapella 0:29
10,Freefloor Bonus Beats 3:16
produced
by Glenn Gutierrez.
ジョセリンの記念すべきデビュー・アルバム。80年代末辺りのニューヨーク系フリースタイルを彷彿とさせるサウンドが満載です。要は、当時としてはちょっと時代遅れの音なんですね。良く言えばオールドスクール系。一応、#2ではアシッド・ハウスにも挑戦してますが、何ともチープな出来映え。全体的に低予算のB級感は否めないものの、#1と#7はキャッチーな哀愁系フリースタイルとして良く出来ていると思います。
オリジナルはAOR風のソフトなバラード。インディーズのフリースタイル系アーティストは歌唱力に問題のある人が多かったのですが、ジョセリンは数少ない例外だったと思います。しなやかで伸びのあるボーカルはとても爽やか。力強さや安定感も備わっていて、優れたボーカリストであることが良く分かります。リミックスはどれも似たような感じですが、フィリピンの民族楽器を使った#4は彼女ならでは。#6はヒーリング系のインストで、38分近くに及ぶ大作。
ドラマチックなシンセサイザーのアレンジが印象的な、哀愁系フリースタイルの佳作。Sweet Sensationの“Take It
While It's
Hot”なんかを彷彿とさせる楽曲です。94年の作品としては古臭い音作りですが、正統派のフリースタイル・ファンなら全く気にならないはず。ヒップ・ホップを意識し過ぎた#4と#5、大胆なプログレッシブ・ハウスに衣替えしてしまった#6と、リミックスはどれもイマイチ。逆に、#3のダブ・バージョンがなかなか聴き応えあります。
ジョセリンにとって最大のヒットとなった出世作。ユーロ・ハウスとオールドスクール系フリースタイルを融合した、キャッチーなダンス・ポップ・ナンバーです。ほど良く哀愁感を漂わせたメロディも秀逸。北米のユーロビート大国カナダで大ヒットしたというのも十分に納得の出来映えです。リミックスでは、まるっきりユーロビートな仕上がりの#5に思わずニンマリ。マイアミ・ベース風のフリースタイル・ミックス#4と#8もカッコいいと思います。
Do You Miss Me Little Bit Of Ecstasy
(1997) Get Into The Rhythm
(1998) When I Get Close To You
(2000)
The Remixes
(1996)
(P)1996 Classified/Tommy Boy
(USA)
(P)1997 Classified/Tommy Boy
(USA)
(P)1998 Classified/Tommy Boy
(USA)
(P)2000 Tommy Boy/ZYX
(Germany)
1,Radio Mix 3:50
2,Energybox Mix
3:36
3,Dreamhouse Mix 6:04
4,Freefloor Mix 5:12
5,Electrobeat Mix
5:07
6,Freestyle Mix 4:59
7,Manana Mix 5:43
8,A Cappella
1:57
9,Freeloor Bonus Beats 1:46
10,Mr.Borsalio 0:03
produced
by Glenn Gutierrez1,Radio Edit 3:44
2,12" Mix
6:31
3,Freefloor Mix 6:58
4,Deeper Mix 8:01*
5,Hard Deeper Mix
8:00 *
6,Cibola Mix 6:51**
7,Dirt Mix 5:29
9,Do You Miss Me
(X-Mix) 8:26 ***
10,Mr.Borsalio 0:54
produced by Glenn
Gutierrez
* remixed by Jonathan Peters & Eddie Baez
** remixed
by Charles Chavez, Steve Chavez and Albert Castillo.
*** remixed by
Lenny Bertoldo1,Harlem Knight Radio Edit 3:11
*
2,Harlem Knight Mix 8:29 *
3,Cibola Mix 6:06 **
4,Cre8tivators
Mix 7:53 ***
5,Album Version 4:02
produced by Glenn
Gutierrez
* remixed by Harlem Knight
** remixed by Steve Chavez,
Albert Castillo & Charles Chavez.
*** remixed by Rich Pangilinan
and Mori Ninomiya1,Thunderpuss Original Radio Edit
3:51 ビデオ
2,Cubanito's
Breakbeat Radio Edit 3:28 *
3,Thunderpuss Club Remix
8:58
4,Lectroluv Mix 6:50 **
5,Cubanito's Electro Mixshow Edit 5:02
***
produced & remixed by Thunderpuss.
* remixed by Alex
Carmenates & Albert Castillo
** remixed by Frederick Jorio
***
remixed by Alex Carmenates & Stephen Bogle
インディーズとしては想定外の大ヒットを記録したことから、ヒップ・ホップの名門であるトミー・ボーイがディストリビュート権を獲得。改めてリリースされたリミックス盤がこれです。ただし、半分はオリジナル盤とのダブり。新たに追加されたリミックスでは、派手なハード・ハウスに仕上がった#7がまずまずの出来映え。#5と#6は80年代風のフリースタイル・ミックスですが、可もなく不可もなくといった印象ですね。
日本のクラブでも話題になったシングル。オリジナルはマイアミ・ベース風のハードなフリースタイル・ナンバーです。でも、クラブ・シーンでバカ受けしたのは、人気DJのジョナサン・ピータースとエディ・バエズが手掛けたディープ・ハウス・ミックス#4と#5。個人的にはアゲアゲの派手なハード・ハウスに仕上がった#6がお気に入りでした。“Do
You Miss Me”のリミックス#9は平均的なプログレッシブ・ハウスです。
もともとはアンダーグランドな感じのオールドスクール系フリースタイル・ナンバー(#5)。メインとなる#1と#2は、ガラージ風のスタイリッシュなディープ・ハウスに仕上がっています。また、レトロなエレクトロ・ファンク・スタイルの#3も80年代っぽくてグッド。サイケでアシッドな雰囲気の#4も悪くないですね。ちなみに、#3を手掛けたスティーヴ・チャペスと#4のリッチ・パンジジリナンはAl
B.RichというDJコンビを組んでます。
日本のクラブ・シーンでも絶大な人気を誇ったDJチーム、サンダーパスのプロデュースによる哀愁系の歌モノ・ハード・ハウス。バッキン・バッキンした派手なトライバル・サウンドに、この歌謡曲ばりの哀愁メロディ。そりゃ受けないはずないですよね。文句なしのカッコよさ。ダンス・チャートNo.1は当たり前でしょう。ただし、サンダーパス以外のリミックスはどれもイマイチ。
All My Life
(2003) Why (2004) 自ら立ち上げたレーベルからのリリース第一弾。非常に良く出来たダンス・ポップ・アルバムに仕上がっています。メロディ重視のキャッチーな楽曲構成は大満足。ユーロビート路線の哀愁ラテン・ハウス#1はオランダの人気グループLoonaのカバーですが、オリジナルと比べても遜色ない出来。シングル・カットされた#2も80年代ユーロ風だし、ウルトラ・キャッチーなハイエナジー・ナンバー#7もモロにツボ。オススメです。
(P)2003 Jem Entertainment
(USA)
(P)2004 Jem Entertainment
(USA)
1,All My Life
2,No Way No
How
3,It's No Wonder ビデオ
4,Miracles
5,Take
My Hand
6,Your Touch
7,Make Me An Angel
8,Why
9,You
Alone
10,Walking In The Rain
11,No Way No How (JJ Flores
Remix)
12,Faith,Hope and Prayer
produced by Albert Castillo
& Rich Pangilinan, Roland Casiquin Jr, Francis Galvez, JJ
Flores,
Joe Grandberg & Rob Gundling1,Album Edit
2,Al B.Rich Radio
Edit
3,Revolution Mix
4,Fecci & Kids DNA Club Stomper
Mix
5,Ricky Crespo's Sound Garden Mix
6,Bonus Beats
7,Al B.Rich
Mix Show
produced by Joe Grandberg & Rob Gundling.
アルバム“All My
Life”からのセカンド・シングル。比較的ありがちなプログレッシブ・ハウスで、アルバムの中では一番印象に残らない作品でした。リミックスの出来はどれも悪くないんですけどね。特に#4はバツグンのセンス。よくこれだけメリハリのない楽曲を、哀愁感たっぷりのドラマチックなユーロ・ハウスに変身させたもんだと感心させられました。ビルボードのダンス・チャート10位は立派です。
戻る