ジェニファー・ウォーンズ Jennifer Warnes

 

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 『愛と青春の旅立ち』('82)に『ダーティ・ダンシング』('87)と、一般的には80年代を代表する青春映画の主題歌を歌った女性ボーカリストとして有名なジェニファー・ウォーンズ。しかも、そのどちらもが男性ボーカリストとのデュエットだったこともあり、実際に彼女自身がどんなアーティストなのかということは意外と知られていない。
 もともと彼女は、60年代末のヒッピー・カルチャーを背景に登場したフォーク・シンガーだった。歌う吟遊詩人レナード・コーエンのバック・ボーカリストとしてもアルバムやライブに数多く参加し、ベルベット・アンダーグラウンドのジョン・ケールのプロデュースで自身のアルバムもリリース。しかし、一部の音楽ファンや業界人には注目されたものの、ソロ・アーティストとしては全くの泣かず飛ばずだった。
 そんな彼女のキャリアを一変させたのが、メジャー・レーベルであるアリスタ・レコードとの契約(76年)。当時メリッサ・マンチェスターやパティ・スミスといった女性ロック・アーティストを成功させていたアリスタは、彼女をリンダ・ロンシュタット・タイプのカントリー・ロック系ボーカリストとして売り出す。これはまずまずの成功を収め、“Right Time Of The Night”という全米トップ10ヒットも生まれた。
 さらに、ジョー・コッカーとデュエットした『愛と青春の旅立ち』の主題歌と、ビル・メドレーとデュエットした『ダーティ・ダンシング』の主題歌が全米ナンバー・ワンを獲得。すっかり映画の主題歌歌手というイメージが定着した。
 ただ面白いのは、それらの大ヒットが必ずしも彼女自身のアーティストとしての成功には繋がっていないということ。というよりも、彼女は自身の音楽活動と映画主題歌というものを、全く切り離して考えているのだ。事実、『愛と青春の旅立ち』の大成功があったにも関わらず、その後に彼女が出したアルバムはレオナード・コーエンのトリビュート・アルバム。しかも、インディペンデント・レーベルからのリリースで、批評家や熱心な音楽ファンには大絶賛されたものの、商業的には必ずしも成功したとは呼べなかった。
 その後もインディーズを基盤に、地味なフォーク・アルバムをマイ・ペースにリリース。あくまでも、映画主題歌はお金のためと割り切っているのだろう。その知的で暖かみのある美しい歌声といい、まるで市役所の事務員みたいな出たちといい、アメリカ音楽界における特異なポジションといい、なかなかユニークな個性を持った女性ボーカリストと言えるだろう。

 1947年3月3日、ワシントン州はシアトルの生まれ。少女時代から歌の才能を高く評価され、7歳の時にレコード契約の話もあったらしいが、父親の反対で実現しなかったという。ハイスクールを卒業した彼女は、67年にテレビのバラエティ番組“Smothers Brothers Comedy Hour”にレギュラー出演。番組のシナリオに参加していたシンガー・ソングライター、メイソン・ウィリアムズに認められ、デッカ・レコードの子会社であるパロット・レコードと契約し、68年にアルバム“I Can Remember Everything”をリリースした。
 さらに、ミュージカル“ヘアー”のロサンゼルス公演に出演。当初はジェニファー・ウォーレンという芸名を名乗っていたが、同姓同名の映画女優と混同されてしまうことが多く、ただの“ジェニファー”に芸名を変更。最終的に、本名であるジェニファー・ウォーンズを名乗ることとなった。
 レナード・コーエンに気に入られた彼女は、彼のコンサートやアルバムにバック・ボーカリストとして参加。その傍ら、ソロ・アーティストとしても作品を発表し、ジョン・ケールのプロデュースによるサード・アルバム“Jennifer”('72)は一部で評判になったが、セールス面ではさっぱり奮わなかった。
 76年にアリスタ・レコードへ移籍したジェニファーは、4枚目のアルバム“Jennifer Warnes”をリリース。これは、ローリング・ストーンズやエリック・クラプトン、ジョージ・ハリソンのセッション・ミュージシャンとしても有名なジム・プライスと、イーグルスのアレンジャーとして知られるジム・エド・ノーマンのプロデュースによるもので、当時全米で大人気だったリンダ・ロンシュタットを彷彿とさせるポップなカントリー・ロックを前面に打ち出した。シングル“Right Time Of The Night”はビルボードで全米6位をマークし、アダルト・コンテンポラリー・チャートでは1位を記録。アルバムも最高43位でチャート・インし、一躍脚光を浴びることとなった。
 79年には映画『ノーマ・レイ』の主題歌に抜擢され、同曲はアカデミー賞を受賞。さらに、アルバム“Shot Through The Heart”からのシングル“I Know A Heartache When I See One”も全米19位というミドル・ヒットを記録し、中堅の女性ボーカリストとして安定した地位を築いていく。
 そして、82年にはジョー・コッカーとデュエットした『愛と青春の旅立ち』の主題歌が全米ナンバー・ワンを記録。同時期にリリースされた初のベスト盤も、最高47位をマークするヒットとなった。翌年には、トム・クルーズ主演の青春映画『栄光の彼方に』の主題歌も担当。
 87年にはビル・メドレーとデュエットした『ダーティ・ダンシング』の主題歌が再び全米ナンバー・ワンに輝き、インディーズでリリースしたレオナード・コーエンのトリビュート・アルバム“Famous Blue Raincoat”も大絶賛された。なお、この年彼女はK・D・ラング、ボニー・ライアットと共に、ロイ・オービソンのテレビ特番でバック・コーラスを担当している。
 その後、92年にアルバム“The Hunter”を、01年にアルバム“The Well”を、それぞれインディペンデント・レーベルからリリース。レコーディング・アーティストとしては大変に寡作な人であるが、現在もライブ・ツアーを中心として精力的な活動を続けている模様だ。

 

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Just Jennifer

Jennifer Warnes (1976)

Shot Through The Heart (1979)

Best Of Jennifer Warnes(1982)

(P)1992 Decca Records (UK) (P)1976 Arista Records (USA) (P)1994 Arista/BMG (Germany) (P)1988 Arista/BMG Victor (JP)
1,Close Another Door
2,Sunny Day Blue
3,Here, There and Everywhere
4,Chelsea Morning
5,I Want To Meander In The Meadow
6,I Am Waiting
7,Places Everywhere
8,Tree-House Of Gold
9,It's Hard To Love A Poet
10,The Leaves
11,The Park
12,Let The Sunshine In (from Hair)
13,Easy To Be Hard (from Hair) ビデオ
14,Saturday Night At The World
15,Time Is On The Run ビデオ
16,Old Folks (Les vieux)
17,We're Not Gonna Take It (from Tommy)
18,Just Like Tom Thum's Blues
19,Backstreet Girl
20,Weather's Better
21,Tell Me Again I Love Thee (from Don Pasquale)
22,Cajun Train
side one
1,Love Hurts
2,Round And Round
3,Shine A Light
4,You're The One
5,I'm Dreaming *
side two
1,Mama
2,Right Time Of The Night * ビデオ
3,Bring Ol' Maggie Back Home
4,Don't Lead Me On
5,Daddy Don't Go
6,O God Of Loveliness

produced by Jim Price
* produced by Jim Ed Norman
1,Shot Through The Heart
2,I Know A Heartache When I See One ビデオ
3,Don't Make Me Over
4,You Remember Me
5,Sign On The Window
6,I'm Restless
7,Tell Me Just One More Time
8,When The Feeling Comes Around
9,Frankie In The Rain
10,Hard Times, Come Again No More

produced by Rob Fraboni & Jennifer Warnes
1,Right Time Of The Night
2,It Goes Like It Goes ビデオ
3,I Know A Heartache When I See One
4,When The Feeling Comes Around
5,I'm Restless
6,Could It Be Love ビデオ
7,Run To Her
8,I'm Dreaming
9,Shot Through The Heart
10,Come To Me
 68年のファースト・アルバムと69年のセカンド・アルバムをカップリングしたコンピレーション盤。音楽的には当時のジョニ・ミッチェルやジョーン・バエズを彷彿とさせる感じといえば分かりやすいでしょうか。まさに時代という感じですね。まだ初々しさを感じさせるジェニファーのボーカルがとても新鮮です。楽曲によっては、クロディーヌ・ロンジェにも通じるような愛らしさがあって、ソフト・ロック・ファンにもオススメできる内容かと思います。  アリスタへの移籍第一弾となったアルバム。これは名盤だと思いますね。いわゆるカントリー・ポップスの延長線上にある作品。ジェニファーのインテリジェントでフェミニンなボーカルがとても魅力的で、都会的かつ洗練されたアレンジもお見事。カントリーに特有の泥臭さを全く感じさせません。シングル・ヒットしたB面#2も素敵ですが、センチメンタルでメロウなバラードA面#5も傑作だと思うし、アン・マレーが歌ってもおかしくなさそうなA面#1も大好き。オススメ!  アリスタでの第二弾がこれ。前作に引き続いてカントリー路線を踏襲しつつ、よりAOR的なアプローチを強めた作品です。ザ・バンドやエリック・クラプトンのプロデューサーとしても有名なロブ・フラボーニと並んで、ジェニファー自身もプロデュースに名を連ねております。全米19位となったカントリー・ロック・ナンバー#2を筆頭に、バカラックの名曲をカバーした#3、牧歌的で叙情感溢れるミディアム・ナンバー#8がシングル・ヒット。とても味わい深い1枚です。  アリスタ移籍後のアルバム2枚からのベスト・トラックに、シングルのみの楽曲と新曲を加えて構成された初のベストアルバム。直後にリリースされた『愛と青春の旅立ち』の大ヒットを受けて、全米47位をマークしました。残念ながら同曲は収録されておりませんが、『ノーマ・レイ』の主題歌#2が収録されているのは嬉しいですね。これは名曲です。カントリー・ブルース・スタイルのシングル曲#6もキャッチーだし、爽やかでセンチメンタルなバラード#10も佳作です。

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Famous Blue Raincoat (1987)

(P)1987 Cyprese/Ariola (Germany)
1,First We Take Manhattan ビデオ
2,Bird On A Wire ビデオ
3,Famous Blue Raincoat
4,Joan Of Arc
5,Ain't No Cure For Love
6,Coming Back To You
7,Song Of Bernadette ビデオ
8,A Singer Must Die
9,Came So Far For Beauty

produced by C.Roscoe Beck & Jennifer Warnes
 ジェニファーにとって恩師であり、大親友でもあるレナード・コーエンの楽曲を歌ったトリビュート・アルバム。コーエン自身も#4にデュエットで参加している他、スティーヴィー・レイ・ヴォーンやデヴィッド・リンドレイ、ヴァン・ダイク・パークスなど豪華なゲストが揃った力作。カバーだけではなく、書き下ろし作品も含まれています。#1はアルバムからのファースト・シングルとしてリリースされ、UKでは最高74位をマーク。#2もシングル発売されました。しかし、なんといっても一番の聴きものは#3でしょう。この気だるい切なさは絶品。素晴らしいアルバムだと思います。

 

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