イタリア産犯罪バイオレンス傑作選
PART 1

 

 1960年代に奇跡的な経済成長を遂げたイタリア。しかし、その一方で貧富の差は拡大し、マフィアの権力闘争や政治家の汚職問題などが深刻化していった。60年代末には社会の不正に不満を抱く若者たちによって学生運動が盛り上がり、イタリア全体が急速に左翼化していく。さらに、左翼テロ集団による爆破事件や誘拐事件などが多発し、社会は不安と恐怖のどん底に叩きつけられた。
 そうした状況下でネオレアリスモの精神を受け継いだ監督たちは、『悪い奴ほど手が白い』(67年・エリオ・ペトリ)や『ミラノの銀行強盗』(68年・カルロ・リッツァーニ)、『殺人捜査』(70年・エリオ・ペトリ)、『警視の告白』(71年・ダミアーノ・ダミアーニ)、『黒い砂漠』(72年・フランチェスコ・ロージ)、『コーザ・ノストラ』(73年・フランチェスコ・ロージ)といった告発映画を次々と発表。中でも、ペトリの『殺人捜査』はカンヌ国際映画祭の審査員特別賞とアカデミー外国語映画賞を受賞し、汚職と犯罪にまみれたイタリア社会の一面を内外に強く印象付けたのだった。
 そんな混沌とした70年代初頭、にわかにイタリア映画界で注目を集めるようになったのが一連の犯罪バイオレンス映画である。引き金になったのは、チャールズ・ブロンソン主演の『狼の挽歌』(70年・セルジョ・ソリーマ)。組織から追われる一匹狼の殺し屋が、自分を裏切った女に復讐を遂げるまでを描いた作品で、その派手なバイオレンス描写が話題となって大ヒットした。さらに、告発映画のスタイルをとりながら随所にアクションとサスペンスを配したダミアーニの『警視の告発』(71年)も興行的な大成功を収め、『黒い警察』(72年・ステファーノ・ヴァンツィーナ)や『ミラノ・カリブロ9』(72年・フェルナンド・ディ・レオ)、『死神の骨をしゃぶれ』(73年・エンツォ・G・カステラーリ)、『ザ・ボス/暗黒街の標的』(73年)などが次々と大ヒットを記録。74年には一年間で19本もの犯罪バイオレンス映画が作られるというほどの盛り上がりを見せるようになった。
 イタリア産犯罪バイオレンスの特徴は、その過激なアクションと血なまぐさい暴力描写にある。先述したように、深刻化する社会不安を背景に生まれた告発映画の流れを汲むジャンルではあるが、その源流はどちらかというとマカロニ・ウェスタンに見出すことが出来るだろう。己の正義を貫くためには時として法をも無視する一匹狼のヒーロー、血に飢えた狂犬のような犯罪者たち。決して勧善懲悪の世界ではなく、ヒーローも犯罪者も言うなれば表裏一体の存在である。どちらも選ぶ手段は徹底した暴力。血で血を洗うバイオレンスの世界が繰り広げられていく。
 また、『ブリット』(68年)や『ダーティ・ハリー』(70年)、『フレンチ・コネクション』(71年)といったハリウッド産犯罪アクションからの影響、『影の軍団』(69年)や『ボルサリーノ』(70年)といったフレンチ・ノワールからの影響も見逃せないだろう。中でも、『ダーティ・ハリー』のハリー・キャラハンは、イタリア産犯罪バイオレンスのヒーロー像に多大なる影響を及ぼしている。
 マカロニ・ウェスタンからの流れを語るならば、ジャンルを牽引したスターの存在も忘れてはなるまい。特にフランコ・ネロとトーマス・ミリアンはイタリア産犯罪バイオレンス最大のヒーローだった。『続・荒野の用心棒』(66年)のジャンゴ役でマカロニ・ウェスタンを象徴する大スターとなったフランコ・ネロは、『警視の告白』(71年)を皮切りに、『死神の骨をしゃぶれ』(73年)、『復讐の銃弾』(74年)、『黒い法廷』(74年)、『コブラ/フランコ・ネロ 殺しの罠』(80年)など優れたバイオレンス映画に次々と主演。一方、その強烈な個性でマカロニ・ウェスタン随一の暴れん坊として鳴らしたトーマス・ミリアンも、『続シンジケート』(73年)や『ミラノ殺人捜査網』(73年)、『狼の日曜日・狂暴ジャック』(78年)などで狂犬のようなアンチ・ヒーローを演じて人気を博した。
 その他、『ナポリ犯罪ルート』(76年)や『特攻警察』(76年)のマウリツィオ・メルリ、『イタリアン・コネクション』(73年)や『ダーティ・コネクション』(78年)のリュック・メレンダ、『非情の標的』(72年)や『殺しのギャンブル』(73年)、『ローマ麻薬ルート大追跡』(77年)などのファビオ・テスティも、イタリア産犯罪バイオレンスの人気スターとして活躍。
 しかし、70年代末には犯罪バイオレンスも急速に下火となり、ルチオ・フルチの『野獣死すべし』(80年)とエンツォ・G・カステラーリの『コブラ/フランコ・ネロ 殺しの罠』(80年)を最後に幕を閉じている。
 わずか10年程度のブームではあったものの、ハリウッド映画とは一味も二味も違った過激な暴力描写は世界各国の映画ファンを魅了。クェンティン・タランティーノも多大な影響を受けていることを公言しており、中でもフェルナンド・ディ・レオの『ミラノ・カリブロ9』(72年)や『皆殺しハンター』(72年)、『ザ・ボス/暗黒街の標的』(73年)などを熱愛しているようだ。

 

ミラノ殺人捜査網
Milano odia:la polizia non puo sparare (1974)

日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 NoShame Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL/90分/製作:イタリア

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー(U・レンツィ、R・ラヴロック、G・サンテルコーレ、E・ガスタルディのインタビュー)
トーマス・ミリアン インタビュー
オリジナル劇場予告編(イタリア版)
オリジナル劇場予告編(国際版)
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:ウンベルト・レンツィ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
脚本:エルネスト・ガスタルディ
撮影:フェデリコ・ザンニ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:トーマス・ミリアン
    ラウラ・ベッリ
    ヘンリー・シルヴァ
    ジーノ・サンテルコーレ
    レイモンド・ラヴロック
    アニタ・ストリンドバーグ
    グイド・アルベルティ
    ネッロ・パッザフィーニ
    マリオ・ピアーヴェ
    ルチアーノ・カテナッチ

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社会のゴミのような人間ジュリオ・サッキ(T・ミリアン)

サッキは仲間たちを集めて身代金目的の誘拐を計画する

 イタリア映画界きっての職人監督ウンベルト・レンツィによる異色のバイオレンス映画である。レンツィが犯罪バイオレンスを撮るのは“Milano rovente”(73年)に続いて2作目。もともと良くも悪くも大味な演出が特徴の監督だが、この手の犯罪映画とは意外に相性がいい。時として繊細さに欠ける彼の個性は、荒々しいバイオレンスの世界とマッチしているのかもしれない。ダイナミックなカー・チェイスから壮絶な銃撃戦やリンチ、レイプと、その思い切りの良い演出はまるでドキュメンタリーのような生々しさを発する。間違いなくレンツィの代表作と言えるだろう。
 主人公は強盗や恐喝を生業とするチンピラ、ジュリオ・サッキ。無教養で短絡的、口だけは達者だが何をやらせてもヘマばかりする社会のゴミのような人間だ。しかしこの男、一度暴走しはじめると誰も手に負えなくなる狂犬。老人だろうと子供だろうと感情に任せて手当たり次第に殺しまくり、性欲がたまれば男だろうが女だろうが相手構わずレイプする。頭が悪い上に抑制が効かないから、前後の見境が全くないのだ。しかも、貧しい負け犬という極度のコンプレックスを抱えており、小銭を稼ぐためだけでも平気で人を殺す。まさしく、本能のままに生きているだけのケダモノ。そんな男が身代金目的の誘拐を企てたことから、血で血を洗う凄まじいバイオレンスの応酬が繰り広げられていくというわけだ。
 本作を撮るにあたって、レンツィが意識した作品はジャック・ベッケルの『現金(げんなま)に手を出すな』(54年)だったという。犯罪者の視点から犯罪を描くというのが狙いだったわけだ。彼はジュリオ・サッキという男を、現代イタリア社会が生み出した怪物と考えていたという。即物的で享楽的、富と成功ばかりが尊ばれる物質社会。レンツィにとってサッキのような犯罪者は現代社会の負の象徴であり、犯罪の蔓延は言うなれば因果応報のようなものなのだ。
 それゆえに、本作には清廉潔白な人間など一人も登場しない。サッキを追い詰めるグランディ警部にしても、犯罪者はブタ箱にぶち込むより殺してしまえと平然と言ってのける冷血漢。サッキの一味に皆殺しにされるブルジョワ一家も自堕落で愚かな人々として描かれ、サッキたちに追われて逃げてきた女性を平気で突き返そうとする。挙句の果てに、サッキたちの性処理を強要され、裸に剥かれて吊るし上げられ、幼い子供もろとも蜂の巣にされてしまうわけなのだが、その様子を克明に描くレンツィの目線の向こうには“自業自得”という言葉が見え隠れする。ここでは犯罪者もブルジョワも同じ穴のムジナ、目くそ鼻くそのブタ野郎どもとして描かれている。
 さらに、サッキがゴミ捨て場で汚物まみれになって殺されるクライマックスは、なんともやるせない後味の悪さを残す。社会のゴミとして生まれた人間は、底辺から這い上がることも出来ず、結局はゴミ同然の扱いを受けて死んでしまうという現実。法の抜け道を利用してのさばる犯罪者を、“殺人”という方法でしか葬り去ることが出来ないという現実。このペシミズムこそが、実はイタリア産犯罪アクション映画の醍醐味でもあるのだが。

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捜査の陣頭指揮を担当するグランディ警部(H・シルヴァ)

口だけは達者なサッキと、弟分のカルミネ(R・ラヴロック)

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邪魔者は手当たり次第に虐殺

ブルジョワ一家を陵辱した上、血祭りにあげる

 舞台は大都会ミラノ。地元暗黒街の首領マヨーネ(ルチアーノ・カテナッチ)の一味が銀行強盗を企てるが、パトロール中の警官にビビッたジュリオ・サッキ(トーマス・ミリアン)のヘマが原因で失敗。サッキは仲間たちにリンチされた挙句、ゴミ捨て場に置き去りにされてしまった。
 それでも懲りないサッキは、うだつの上がらないチンピラ、カルミネ(レイモンド・ラヴロック)とヴィットリオ(ジーノ・サンテルコーレ)を呼び出し、ある計画を持ちかける。それは、地元大企業の創設者であるペリーノ氏(グイド・アルベルティ)の一人娘マリー・ルー(ラウラ・ベッリ)を誘拐して身代金を奪うというものだった。
 サッキにはイオナ・トゥッチ(アニタ・ストリンドバーグ)という情婦がいる。イオナは女の盛りを過ぎたオールド・ミスで、サッキの目的が自分の金だということは分かっていたが、男のいない寂しさからズルズルと関係を続けていた。サッキの方も彼女の足元を見ており、絶倫のセックスをエサにしては小遣いをたかっていた。そして、そのイオナの勤め先こそが、ペリーノ氏の経営する大企業だったのだ。
 言葉巧みにイオナからペリーノ氏の娘について情報を聞き出したサッキは、着々と誘拐計画を進めた。武器の密売をしている金物屋の老夫婦から拳銃やライフルを手に入れたサッキらは、その場で夫婦を殺害して逃走。現場の状況から犯罪計画の臭いを嗅ぎつけた警察だったが、犯罪の摘発に消極的な上層部の無能ぶりにグランディ警部(ヘンリー・シルヴァ)は苛立ちを募らせていた。
 ボーイフレンドと車でデートに出かけたマリー・ルーを尾行するサッキたち。森の中で車を止めた隙を見計らって襲撃する。ボーイフレンドはリンチされた挙句に銃殺。その隙にメリー・ルーは逃走し、近くの屋敷へ逃げ込んだ。パーティに興じていた住人らは、彼女の言葉を真剣に聞こうとはしない。そこへ武装したサッキ一味が乱入し、住人たちを陵辱した挙句にマシンガンで銃殺。7歳の少女も蜂の巣にされた。
 翌朝、通報を受けて駆けつけた警察。グランディ警部は凄惨極まりない現場に戦慄する。娘の車が発見されたとの知らせを受けたペリーニ氏も到着。彼が大富豪であることを知ったグランディ警部は、誘拐事件の可能性を示唆した。
 その頃、メリー・ルーを誘拐したサッキ一味は港に停泊している古い小型船に身を潜めていた。犯人たちが顔を隠さないことから、身代金の受け渡しが終わったら殺されると察知したメリー・ルー。取り引きへの協力を一切拒む彼女に、サッキはこう言い放つ。“おまえは生まれてこのかた20年間、いい思いをしてきたんだからもう十分だろう。次はオレの番だ”と。
 居場所がバレないよう、市内の公衆電話から取り引きの連絡をするサッキ。そのついでにイオナの様子をうかがいに向った彼は、彼女をドライブに誘い出し、崖の上から車ごと突き落として殺害する。メリー・ルー誘拐事件が明るみになった今、彼女の存在は大きなリスクだったからだ。
 ところが、転落死した女性がペリーニ氏の部下であることを知ったグランディ警部は、行方の分からない彼女の愛人ジュリオ・サッキの存在にたどり着く。自宅に捜査が入ったことを知ったサッキは、意を決して一芝居打つことにする。彼は自ら警察に出向いてイオナの捜索願を出し、恋人の身を案じる優しいボーイフレンドを演じて見せたのだ。その様子に胡散臭さを感じるグランディ警部だったが、サッキには事件発生当時のアリバイがあった。マヨーネの経営するプール・バーに入り浸っていたというのだ。だが、勿論そのアリバイは偽証。銀行強盗未遂を警察にバラすというサッキの脅迫に、マヨーネが屈したのだ。
 人命尊重を盾に警察の介入を拒否するペリーニ氏。グランディ警部は身代金を渡してもメリー・ルーが殺されてしまう可能性の高いことを説得するが、警察上層部の判断で捜査本部は一時解散させられてしまう。仕方なく帰路に着くグランディ警部。その道すがら、彼はある重要なことを思い出した。数週間前に起きた警察官刺殺事件の現場に居合わせたチンピラ。それがジュリオ・サッキだったのだ…。

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暴走を始めたら誰にも止められない狂犬サッキ

娘の身を案じるペリーニ氏(G・アルベルティ)とグランディ警部

 脚本を手がけたのはエルネスト・ガスタルディ。主にジャッロやホラー映画のジャンルで名高い人物だが、マカロニ・ウェスタンや戦争アクションなどでも優れた作品を数多く残している名脚本家だ。中でも、ロベール・オッセン主演の『砂漠の戦場エル・アラメン』(68年)やテリー・サヴァラス主演の『ダーティ・セブン』(72年)、フランコ・ネロ主演の『サハラクロス』(77年)は気骨の溢れる名作。社会的メッセージや心理分析的なアプローチを含めた娯楽映画の脚本を書かせたら天下一品で、生き生きとしたキャラクター造形にも定評のある人だった。本作でもその才能が十二分に発揮されている。
 撮影のフェデリコ・ザンニは『ザ・ビッグ・バトル』(77年)や『食人帝国』(80年)でもレンツィと組んでいるカメラマンで、主にマカロニ・ウェスタンや戦争アクションで鳴らした人物。本作ではダイナミックで生々しいドキュメンタリー・タッチの映像を見せてくれる。
 製作のルチアーノ・マルティーノは、映画監督セルジョ・マルティーノの実兄。60年代から数多くの娯楽映画を手がけた敏腕プロデューサーで、レンツィとは本作以外にも合計で10本の作品で組んでいる人物だ。
 そして、音楽を担当したのが巨匠エンニオ・モリコーネ。タフでハードなテーマ曲から、ソフト&メロウな挿入曲まで、いかにもモリコーネらしい多彩で素晴らしいスコアが散りばめられている。

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大富豪の令嬢マリー・ルー(L・ベッリ)を誘拐したサッキ一味

派手なカー・チェイス・シーンも満載

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サッキに利用されて殺されるオールド・ミスのイオナ(A・ストリンドバーグ)

DVDの特典映像でインタビューに応えるトーマス・ミリアン

 しかし、なんと言っても本作で最も度肝を抜かれるのは、ジュリオ・サッキ役を演じているトーマス・ミリアンの恐るべき狂暴ぶりに尽きるだろう。下品で獰猛でサディスティックでセックスの臭いをプンプンとさせた不愉快極まりない男を、文字通り狂ったかのような凄まじいテンションで演じきっている。キューバ出身で、巨匠ヴィスコンティに認められてイタリア映画界入りしたミリアン。90年代以降はハリウッドに拠点を移し、近年では『トラフィック』(00年)で演じたメキシコの警察署長役が強烈なインパクトを残した名優。マカロニ・ウェスタンでも数多くのアンチ・ヒーローを演じてきた彼だが、本作は一世一代の怪演と言って間違いないだろう。彼自身も、これまでに演じた中で最も印象に残っている役柄だと証言している。
 対するポーカー・フェイスの冷徹な刑事グランディを演じているのが、『オーシャンと十一人の仲間』(60年)や『影なき狙撃者』(62年)、『ゴースト・ドッグ』(99年)などの悪役で鳴らしたハリウッドの名優ヘンリー・シルヴァ。どこからどう見ても悪人面をした彼が刑事役というのは一見するとミス・キャストだが、逆に彼でなければミリアンの強烈な個性に負けてしまっていたはずだ。この2大怪優の顔合わせだけでも、見る者を圧倒するだけの迫力が十分にあると言えるだろう。
 脇役で印象的なのが、サッキにさんざん利用された挙句、無残にも殺されてしまうオールド・ミス、イオナ役を演じているアニタ・ストリンドバーグ。彼女にとっては数少ない汚れ役だが、幸薄い女の哀れさを演じて秀逸だった。
 その他、『ガラスの部屋』(69年)で日本でもブレイクした美形俳優レイモンド・ラヴロックが気の弱いカルミネ役を、アドリアーノ・チェレンターノの従兄弟であるジーノ・サンテルコーレがヴィットリオ役を、『黒い警察』(72年)や『シシリアン・ボス』(79年)のラウラ・ベッリがマリー・ルー役を、舞台出身の名優グイド・アルベルティがペリーニ氏役を、マカロニ・ウェスタンの悪役として有名なルチアーノ・カテナッチがマヨーニ役を演じている。
 ちなみに、もともとジュリオ・サッキ役をオファーされていたのはトーマス・ミリアンではなかった。当初サッキ役の候補として名前が挙がっていたのは、レイモンド・ラヴロックとマルク・ポレルの2人だったという。マルク・ポレルは当時巨匠ヴィスコンティのお気に入りとして注目されていた美形俳優だったが、直接対面したレンツィは“人間としてもプロとしても信用できない男”だとして却下。
 一方、本命視されていたレイモンド・ラヴロックだったが、脚本を読んで自分には無理だと判断。当初グランディ警部役をオファーされていたトーマス・ミリアンを推薦した。ミリアンとラヴロックは『血斗のジャンゴ』(66年)で共演して以来の大親友。ラヴロックはミリアンを兄と慕うほどの仲だった。はじめはあまり乗り気でなかったミリアンだったが、ラヴロックと妻の熱心な説得に根負けしたのだという。そう考えると、ラヴロックは本作における陰の功労者と呼べるかもしれない。

 

 

Il giustiziere sfida la citta (1975)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 Media Blasters (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/92分/製作:イタリア

映像特典
U・レンツィ監督による音声解説
U・レンツィ監督 インタビュー
フォト・ギャラリー
オリジナル劇場予告編
監督:ウンベルト・レンツィ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
脚本:ヴィンチェンツォ・マンニーノ
撮影:フェデリコ・ザンニ
音楽:フランコ・ミカリッツィ
出演:トーマス・ミリアン
    ジョセフ・コットン
    マリア・フィオーレ
    マリオ・ピアーヴェ
    イヴリン・スチュアート
    アレッサンドロ・コッコ
    アドルフォ・ラストレッティ
    ルチアーノ・カテナッチ
    グイド・アルベルティ
    フェミ・ベヌッシ
    シルヴァーノ・トランキーリ
    シャーリー・コリガン
    アントニオ・カサーレ
    ルチアーノ・ピゴッツィ

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ミラノに戻ってきた風来坊ランボー(T・ミリアン)

久々に兄の一家と再会したランボー

 『ミラノ殺人捜査網』で意気投合したウンベルト・レンツィとトーマス・ミリアン。当初は気難しい暴君と評判のレンツィをミリアンが警戒していたらしいが、撮影が終わる頃にはお互いに認め合う仲となっていたという。そんな2人が再び組んだ犯罪バイオレンス映画が、この“Il giustiziere sfida citta”である。
 今回ミリアンが演じるのは元警官の風来坊ランボー。殺された兄の復讐を果たし、マフィアに誘拐された少年を救うため、ミラノを牛耳る2つのファミリーを一網打尽にする。『ミラノ殺人捜査網』ですっかり狂暴な悪人のイメージが付いてしまったミリアンは、本作の風変わりなアウトロー役でイメージ・チェンジに成功。ブルーノ・コルブッチの『暴走ひったくり750』(76年)や『笑激の超ウルトラ・マイアミ・コップ』(82年)といったコミカル・アクションへと路線を拡大していくことになる。
 そうしたミリアンの意向が色濃く反映されているということもあり、レンツィの手がけた犯罪バイオレンス映画としては、本作は全体的に暴力描写が控えめ。イタリア映画特有のニヒリスティックな世界観も薄まっている。当然のことながら、上記のDVDジャケットみたいなガス・バーナーを使った拷問シーンなど存在しない。とはいえ、スピーディーなストーリー展開と派手なアクション・シーンは健在だ。中でもバイク・スタントを駆使したカー・チェイスのダイナミックさは一見に値する。激しいフィスト・ファイトや銃撃戦も満載。レンツィとミリアンのコンビ作としては平均点レベルの作品だが、アクション映画ファンなら十分に楽しめる内容だと言えよう。

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派手なアクション・シーンも満載

最愛の兄がマフィアによって殺される

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ランボーの復讐劇が幕を開ける

ミラノを牛耳るファミリーのドン、パテルノ(J・コットン)

 元警察官の風来坊ランボー(トーマス・ミリアン)が、数年ぶりにミラノへ戻ってきた。久々に兄ピーノ(マリオ・ピアーヴェ)の一家と再会するランボー。兄嫁マリア(マリア・フィオーレ)と甥っ子のルイジーノ(ドゥイリオ・クルチアーニ)も喜んで彼を迎え入れた。
 しかし、ミラノの街はすっかり様変わりしていた。毎日のように発生する強盗、レイプ、誘拐、殺人。人々は犯罪に怯えながら生活をしている。警官を辞職したピーノは警備会社に転職し、警察のメスが入らないマフィア系企業の裏側を独自に探っていた。ピーノは優秀な警官だったランボーを仲間に誘うが、組織に属することを好まない彼は申し出を丁重に断った。
 その頃、裕福な医師マルシーリ(シルヴァーノ・トランキーリ)の息子ジャンピエロ(アレッサンドロ・コッコ)が何者かに誘拐される。独自に捜査を進めていたピーノは、ミラノを牛耳る2大ファミリーのひとつコンティ(ルチアーノ・カテナッチ)の一味が犯人であることを突き止めた。しかし、逆にコンティ一家の差し向けた殺し屋デュヴァル(アントニオ・カサーレ)によって撲殺されてしまう。
 最愛の兄を失ったランボーは復讐を決意。デュヴァルをリンチして誘拐されたジャンピエロの居場所を聞き出した彼は、コンティと敵対するファミリー、パテルノ(ジョセフ・コットン)のもとを訪れた。コンティが誘拐事件の黒幕であり、少年を解放して身代金の受け渡しを阻止すれば、敵方に経済的なダメージを与えることが出来るはずだと持ちかける。コンティのように大きなファミリーが誘拐というリスクの高いビジネスに手を出したということは、それだけ懐状況が切迫している証拠だ。
 パテルノはランボーの話に乗るが、息子チッチョ(アドルフォ・ラストレッティ)は懐疑的だった。チッチョはタレこみの報酬を受け取って戻ったランボーを手下に尾行させ、現金を奪い返そうとする。だが、チンピラ風情などランボーの敵ではない。たちまち殴り倒されてしまった。
 次にランボーが向ったのは、ジャンピエロが監禁されているコンティ・ファミリー系企業の倉庫。パテルノ・ファミリーが秘密裏に誘拐計画の妨害を目論んでいると警告しに来たのだ。そこへパテルノの一味が来襲。コンティの手下たちが迎え撃ち、倉庫はたちまち戦場と化する。その混乱に乗じてジャンピエロを救い出そうとするランボーだったが、いま一歩のところでコンティに見抜かれてしまった。
 ランボーが自分たちを罠にはめようとしたことに気付いたコンティとパテルノは結託。ランボーの恋人であるストリッパー、フローラ(フェミ・ベヌッシ)をリンチして殺し、マリアとルイジーノを人質にしてランボーをおびき寄せた。マリアとルイジーノの目の前で射殺されてしまうランボー。
 しかし、一味が去ると何事もなかったようにムックリと起き上がった。防弾チョッキを付けていたのだ。これで敵は彼が死んだものと思い込んでいる。いよいよ、ランボー対マフィアの最終決戦の火蓋が切って落とされた・・・・。

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パテルノと敵対するマフィアのボス、コンティ(L・カテナッチ)

2大マフィアの抗争が激化していく

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マフィアにリンチされるランボーの恋人フローラ(F・ベヌッシ)

兄嫁マリア(M・フォルテ)と甥っ子ルイジーニも人質に

 対立する2つのファミリーを互いに争わせて倒そうとするというストーリーは、セルジョ・レオーネの『荒野の用心棒』をヒントにしている。さらに、主人公の役名は『ランボー』の原作から拝借したのだそうだ。当時プライベートでアメリカに行っていたトーマス・ミリアンは、駅の売店で買ったデヴィッド・マレルの小説“First Blood”にいたく感激。ローマに戻ってすぐ、彼は脚本家のヴィンチェンツォ・マンニーノに、ランボーという名前の男が主人公の現代版『荒野の用心棒』を書いて欲しいと申し出た。それが、この作品だったという。マンニーノは60年代から活躍する脚本家で、主にスペクタクル史劇やアクション、ホラー・サスペンスなどで知られる人物。特にルチオ・フルチやルッジェロ・デオダートの作品を数多く手がけている。
 その他の主要スタッフは当時のレンツィ組が結集。ただし、音楽を手がけるフランコ・ミカリッツィは本作が初のレンツィ作品参加となる。ミカリッツィはエンツォ・バルボーニの『風来坊』(70年)シリーズやオヴィディオ・G・アッソニティスの『デアボリカ』(73年)などの音楽を手がけた作曲家。ジャズをベースにしたファンキーでクールなスコアを得意とする人で、タランティーノの『デス・プルーフinグラインドハウス』(07年)にも作品が引用されていた。本作でもハービー・ハンコックを彷彿とさせるグルーヴィーなサウンドを聴かせてくれている。これがきっかけとなり、通産で11本のレンツィ作品を手がけるようになった。

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誘拐された少年ジャンピエロ(A・コッコ)を救い出すランボー

復讐の銃弾が火を噴く!

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ジャンピエロの母親を演じるE・スチュアート

酒場のオヤジ役を演じるG・アルベルティ

 今回はほぼトーマス・ミリアンの独壇場で、彼の演じるランボーに匹敵する強烈なキャラクターは殆ど出てこない。一応、『第三の男』で有名な名優ジョセフ・コットンが、マフィアのボス、パテルノ役で登場するものの、活躍の場面はあまり多くなかった。ほぼゲスト出演的な扱いだと言えるだろう。
 それに比べると、息子チッチョ役を演じたアドルフォ・ラストレッティの方が見た目のインパクト的には強烈だ。色白で極端に細い、蛇のような個性を持った俳優で、『ボルサリーノ2』(74年)や『フリック・ストーリー』(75年)、『ル・ジタン』(75年)といったフレンチ・ノワールの悪役としても知られる人。
 また、当時のイタリア産娯楽映画には欠かせないセクシー女優フェミ・ベヌッシが、ランボーの恋人であるストリッパー役を演じて強い印象を残している。だいたい彼女は殺され役が多いのだが、本作でも案の定マフィアにリンチされた挙句に撲殺されてしまった。
 前作『ミラノ殺人捜査網』で大富豪役を演じていたグイド・アルベルティが、ランボーの唯一の友である酒場のオヤジ役で顔を出しているのも興味深い。彼は主にマフィアのドンや政界・財界の大物を演じることが多かっただけに、こうした下町の庶民的な役どころは非常に珍しいと言えるだろう。
 その他、レナート・カスッテラーニ監督の名作『2ペンスの希望』(51年)でヒロインを演じたマリア・フィオーレが兄嫁マリア役を、前作『ミラノ殺人捜査網』で警官役を演じていたマリオ・ピアーヴェがランボーの兄ピーノ役を、同じく前作『ミラノ殺人捜査網』に引き続いて出演の悪役俳優ルチアーノ・カテナッチがコンティ役を、『死神の骨をしゃぶれ』(73年)や『マイ・ラブ』(74年)などの渋い二枚目俳優シルヴァーノ・トランキッリが医師マルシーリ役を、『無敵のゴッドファーザー/ドラゴン世界を往く』(74年)のヒロインで知られるシャーリー・コリガンがコンティの情婦役を、マリオ・バーヴァ監督作品の常連として知られる怪優ルチアーノ・ピゴッツィ(アラン・コリンズ)がコンティの手下役を演じている。
 さらに、マカロニ・ウェスタンのヒロイン役として有名な女優イヴリン・スチュアート(イーダ・ガッリ)がマルシーリ夫人役として、日本で話題になったメロドラマ『愛のほほえみ』(74年)に主演した美少年俳優アレッサンドロ・コッコが誘拐される少年ジャンピエロ役として顔を出している。

 

 

La citta gioca d'azzardo (1974)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 NoShame Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:ALL/101分/製作:イタリア

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー(S・マルティーノ、G・フェランド、L・メレンダのインタビュー収録)
リュック・メレンダによる音声解説
オリジナル劇場予告編
ポスター・ギャラリー
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
脚本:エルネスト・ガスタルディ
    セルジョ・マルティーノ
撮影:ジャンカルロ・フェランド
音楽:ルチアーノ・ミケリーニ
出演:リュック・メレンダ
    デイル・ハドン
    コラード・パーニ
    エンリコ・マリア・サレルノ
    ジョヴァンニ・ジャヴァローネ
    リーノ・トロイージ
    サルヴァトーレ・プンティッロ

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流れ者のギャンブラー、ルカ(L・メレンダ)

違法カジノを仕切る犯罪組織のボス、プレジデント(E・マリア・サレルノ)

 イタリア産娯楽映画ファンにはお馴染みの名匠セルジョ・マルティーノ監督が手がけた犯罪バイオレンス。とはいえ、今回はちょっと趣向が違う。舞台となるのは違法カジノの世界。若き凄腕ギャンブラーが組織を敵に回して大活躍するという痛快アクションに仕上がっている。
 マルティーノ自身、“当時流行っていた犯罪映画とは一味違う作品を目指した”と語っているように、当時のイタリア産犯罪バイオレンス映画としてはかなり軽妙洒脱な演出が目立つ。明らかに『シンシナティ・キッド』(65年)や『スティング』(73年)を意識した作風だ。もちろん、サディスティックな暴力描写も健在。過激なリンチやレイプも描かれている。が、それよりも主人公とボスの愛人との禁断のロマンスや、ギャンブルを巡るユーモラスなドラマ部分に比重が置かれていると言えるだろう。
 マカロニ・スタイルの壮絶なバイオレンスやアクションを期待すると肩透かしを食うかもしれないが、これはこれで娯楽映画として非常に良く出来た作品だと思う。

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派手な生活を送るルカ

謎めいた美女マリア・ルイーザ(D・ハドン)

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マリア・ルイーザと一夜を過ごすルカ

マリア・ルイーザはプレジデントの息子コラード(C ・パーニ)の愛人だった

 舞台は大都市ミラノ。高級ナイトクラブに一人の若者がやって来る。ルカ・アルティエーリ(リュック・メレンダ)という名前の流れ者だ。バーテンダーに“シャンパンとミルク”のカクテルを注文すると、秘密の通用口に案内された。このクラブは裏で違法カジノを営業しているのだ。
 空いているテーブルに座ってカード・ゲームに参加するルカ。ジーンズ姿のどこにでもいる若者ルカを、ベテランのギャンブラーたちは最初からなめてかかる。ところが、見る見るうちに彼は勝ち進んで大金を巻き上げていく。200万リラを換金してクラブを去ろうとしたルカだったが、エレベーターを降りたところでクラブの用心棒たちに殴り倒される。
 彼の前に現れたのはプレジデント(エンリコ・マリア・サレルノ)という車椅子に乗った初老の男性。彼はカジノを取り仕切る犯罪組織のボスだった。ルカが詐欺師であることを見抜いたプレジデントは、その類稀な才能を評価。自分のもとで働くよう話を持ちかける。サクラとしてカジノに紛れ込み、客から大金を搾り取るのだ。取り分は10%。断れば明日の朝には死体となって川で発見されるだろう。選択の余地はなかった。
 こうしてプレジデントのもとで働くようになったルカは、派手な生活を送るようになった。そんなある日、彼はマリア・ルイーザ(デイル・ハドン)という美女に目を奪われる。強引にアプローチし、マリア・ルイーザと一晩を過ごすルカ。だが、彼女はプレジデントの不肖の息子コラード(コラード・パーニ)の愛人だった。ルカを見送ったマリア・ルイーザが自室に戻ると、コラードと彼の用心棒が待ち受けていた。嫉妬に狂ったコラードは、用心棒に命じて彼女を目の前でレイプさせる。
 その晩、カジノのテーブルに座るルカの前に、コラードが姿を見せた。用心棒たちがルカに襲い掛かるが、たちまち蹴散らされてしまう。事態を聞きつけたプレジデントは怒り心頭。コラードを厳しく叱咤する。父親が自分よりもルカの肩を持つことに憎しみを増大させるコラード。
 翌日、ルカはコラードの一味に拉致され、マネキン工場で暴行を受けた。商売道具である両手を潰され、空き地に放り捨てられるルカ。だが、その晩カジノには傷だらけのルカが姿を現した。コラードのテーブルに座り、カードを手に取るルカ。両手を痛めたルカを相手にしても、コラードに勝ち目はなかった。
 そこへプレジデントが姿を見せる。息子の愚かな行為に堪忍袋の緒が切れたプレジデントは、その場でコラードを勘当処分に。だが、同時にルカを抹殺することも決心した。今回のことが原因で組織に対して恨みを持たれる可能性があるからだ。ライバルの組織に寝返られたら致命的だ。
 隙を見て逃げ出したルカは、マリア・ルイーザを連れて逃亡。フランスのリビエラで同棲生活を送るようになる。一方、プレジデントへの憎しみを募らせたコラードは、彼を階段から突き落として殺害。組織を乗っ取り、ルカとマリア・ルイーザの行方を突き止める・・・。

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コラードは用心棒にマリア・ルイーザをレイプさせる

凄まじいリンチを受けるルカ

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父親プレジデントを殺害するコラード

迫り来る追っ手に立ち向かうルカとマリア・ルイーザ

 脚本を書いたのは『ミラノ殺人捜査網』のエルネスト・ガスタルディ。イタリアを代表する大御所脚本家の一人で、マルティーノとも『影なき淫獣』(73年)や『イタリアン・コネション』(73年)、『パニック・アリゲーター』(78年)、『カサブランカ・エクスプレス』(89年)など、合計で14本もの作品で組んでいる。
 撮影を担当したジャンカルロ・フェランドも、セルジョ・マルティーノ作品の常連組。36年のキャリアで100本以上の劇場用映画やテレビ映画を手がけている大物カメラマンだ。それ以外にも、編集のエウジェニオ・アラビソやスタント指導のリカルド・ペトラッツィなど、マルティーノ組とも言うべき常連スタッフが顔を揃えている。
 そして、軽妙でユーモラスな音楽を担当したのがルチアーノ・ミケリーニ。日本ではあまり馴染みのない作曲家だが、イタリア映画音楽ファンの間では近年再評価の動きがある人物だ。フィルモグラフィーは決して多くないものの、マルティーノ監督とは本作以外にも『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』(79年)など通産8本の作品で組んでいる。ここではラグタイム風のキャッチーなテーマ曲から、スウィートでセクシーなボサノバ、タイトなジャズ・ファンクまで、実に多彩でファッショナブルなスコアを聴かせてくれる。サントラのCD化が望まれる一本だ。

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組織を乗っ取ったコラード

最後の決戦を迎えるルカ

 主人公ルカを演じるのは、イタリア産犯罪バイオレンスのスターとして人気を集めたリュック・メレンダ。もともとフランスの出身で、巨匠マルセル・カルネの“Les assassines de l'ordre”(71年)やマックイーン主演の『栄光のル・マン』(71年)で注目された俳優だった。マカロニ・ウェスタン“Cosi sia”(72年)の主演でイタリアに拠点を移し、『影なき淫獣』や『地獄の報酬』(78年)などで活躍。エクボが印象的な独特のマスクで人気を集めた。90年代初頭に映画界を引退し、その後は母国フランスでアジア専門の骨董品店を経営。日本へもたびたび仕入れのために訪れている。昨年はイーライ・ロス監督の『ホステル2』(07年)でイタリア人の刑事役としてゲスト出演し、15年ぶりに俳優復帰を果たした。
 その相手役マリア・ルイーザ役を演じているのが、カナダ出身の有名なトップ・モデル、デイル・ハドン。エスティ・ローダーやロレアルのイメージ・キャラクターを務めたこともある、今で言うスーパー・モデルだった。女優としても『マダム・クロード』(76年)や『ノース・ダラス40』(79年)などで活躍。現在は女性実業家に転身しているという。
 また、プレジデントの粗野で愚かな息子コラードを演じているのが、ヴィスコンティの『若者のすべて』(60年)やヴァレリオ・ズルリーニの『鞄を持った女』(61年)などで知られる名優コラード・パーニ。金持ちの放蕩息子という役柄は、若い頃からの定番だった。主な活躍の場を舞台に見出していたため、映画出演はあまり多くなかったが、その個性的な大きい瞳はとても印象的。2005年に亡くなっている。なお、彼はカンツォーネの女王ミーナとの激しいロマンスでも知られ、音楽プロデューサーとして活躍しているマッシミリアーノ・パーニは二人の間に出来た息子だ。
 その他、『バンディドス』(66年)や『黒い警察』(71年)の大物俳優エンリコ・マリア・サレルノがプレジデント役を、マルティーノ作品の常連俳優カルロ・アリギエーロが怪しげな警官役を演じている。

 

 

Anna, quel particolare piacere (1973)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(`)2005 NoShame Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィ−ズ収録
)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL/95分/製作:イタリア

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー(G・カルニメオ、E・フェネッシュ、E・ガスタルディのインタビュー)
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:ジュリアーノ・カルニメオ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
脚本:エルネスト・ガスタルディ
    フランチェスコ・ミリツィア
原案:ルチアーノ・マルティーノ
    サウロ・スカヴォリーニ
撮影:マルチェロ・マスチオッキ
音楽:ルチアーノ・ミケリーニ
出演:エドウィージュ・フェネッシュ
    コラード・パーニ
    リチャード・コンテ
    ジョン・リチャードソン
    エットーレ・マンニ
    ラウラ・ボナパルテ
    ガブリエラ・ジャコッベ
    コラード・ガイパ
    アントニオ・カザーレ
    ブルーノ・コラッザーリ
    パオロ・レナ
    エンニオ・バルボ
    ウンベルト・ラホー
    カルラ・カーロ
    シャーリー・コリガン

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純粋でナイーブな若い娘アンナ(E・フェネッシュ)

一匹狼の野心的なマフィア、グイド(C ・パーニ)

 日本では『荒野の無頼漢』(70年)や『ラットマン』(88年)など、主にマカロニ・ウェスタンやホラー映画の監督として知られるジュリアーノ・カルニメオ監督によるメロドラマ風の犯罪バイオレンス映画。田舎の素朴な女性がマフィアのチンピラと恋に落ちたことから、裏社会にどっぷりとはまっていく姿を、セックスとバイオレンスを織り交ぜながら描いていく。エクスプロイテーション的感覚で語られる哀しきラブロマンス。70年代のイタリアという特殊な時代と特殊な場所の生んだユニークな作品と言えるだろう。
 最大の見所はヒロイン役のエドウィージュ・フェネッシュ。70年代のイタリア映画を代表するセックス・シンボルだ。もともと、この作品は彼女主演で本格的なドラマを撮りたい、という製作者ルチアーノ・マルティーノの発案から生まれた。当時のフェネッシュはセックス・コメディやサスペンスを中心に、美しい顔と美しい体で人気を集めていたスター。演技の出来る女優としては認知されていなかった。当時フェネッシュの恋人だったマルティーノは、彼女を本格的な演技派女優に育てようと考えたのだった。
 また、フェネッシュ自身も女優としてのキャリアを真剣に考えていた時期だった。肉体だけで売るような映画には限界と不満を感じていたという。それだけに、本作における彼女の演技には並々ならぬ気迫と感じることが出来る。純粋で無防備な田舎娘が高級コール・ガールへと変身。その一方で恋人の暴力に耐え、裏社会の理不尽に怒り震える。やがて彼女は母親となり、息子を守るために自分の全てを投げ打つ。いわば“女の一生”的な変遷を完璧に演じきったフェネッシュの姿は、健気でありながらも凛々しく美しい。女優エドウィージュ・フェネッシュの代表作と呼んで間違いないだろう。
 カルミネオ監督の演出も良かった。叙情的なロマンティシズムとスタイリッシュなハードボイルドを絶妙にブレンドし、メロドラマとしても犯罪バイオレンスとしても見事に成立させているのは立派だ。どうしても怪作『ラットマン』の印象が強いだけに、エログロナンセンス路線のB級監督というイメージの付きまとう人だが、不当に過小評価されている優れた職人監督だと思う。

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ダンディで危険な香りのするグイドに惹かれるアンナ

グイドはアンナを裏社会に引き込んでいく

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グイドのボスであるソリアーニ(R・コンテ)

グイドの人間性に疑問を抱き始めるアンナ

 マフィアの中堅グイド(コラード・パーニ)は一匹狼の野心的な男。対立するマフィアのズーコ(エットーレ・マンニ)に命を狙われた彼は、ボスであるソリアーニ(リチャード・コンテ)の指示で、古都ベルガモに身を隠すこととなる。そこで彼は、カフェの売り子をしているアンナ(エドウィージュ・フェネッシュ)という若い娘と知り合う。
 純粋でナイーブなアンナは、ハンサムでカリスマ性のあるグイドに強く惹かれていく。実業家と結婚してローマに暮らす幼馴染ロレダーナ(ラウラ・ボナパルテ)の幸せそうな姿も、そんな彼女の気持ちを後押ししていた。激高すると暴力を奮うグイドの性格に不安を感じながらも、幸せになりたいという一心で彼女は彼についてミラノへ行くことを決心した。
 グイドはミラノでドラッグの裏取り引きを任されていた。ところが、何者かの密告でインターポールにマークされてしまう。ソリアーニに裏切りを疑われてリンチを受けるグイド。身の潔白を晴らすために、彼はドラッグの輸送先であるスイスへと向った。恐らくズーコが裏で手を回しているに違いない。彼は敵方に顔の割れていないアンナを同伴させる。案の定、敵はすぐに尻尾を出してきた。裏切り者はアルビーノ(ブルーノ・コラッザーリ)という男だった。アンナの目の前でグイドはアルビーノを射殺する。
 殺人現場に居合わせてしまったことから、アンナは究極の選択を迫られる。組織のために働くか、それとも殺されるか。やがて、彼女はグイドの手引きで金持ち専門の高級コールガールとして働くようになった。はじめは強く抵抗したアンナだったが、度重なるグイドの暴力に屈してしまったのだ。残酷な裏社会のルールに見も心もボロボロとなっていくアンナ。そんな時、彼女の妊娠が発覚する。堕ろすように迫るグイド。アンナはお腹の中の子供を守るため、決死の覚悟を決める。
 コールガール仲間リサ(シャーリー・コリガン)の手助けで、アンナはアルビーノ殺害事件をインターポールに密告。グイドが逮捕されるのを見届け、幼馴染ロレダーナを頼ってローマへと向った。無事に子供を出産したアンナは、ロレダーナに働き口も紹介してもらい、ローマで新たな生活を送る決心をする。
 その頃、グイドには禁固6年の有罪判決が下った。警察の捜査が及ぶことを恐れたソリアーニは身を隠す。弁護士(ウンベルト・ラホー)にアンナの始末を訊かれたソリアーニだったが、彼女が密告したことを知らない彼は放っておくように命じた。グイドはアンナの裏切りを組織に隠し通していたのだ。
 それから6年以上の歳月が経った。ある日、息子パオロが呼吸困難に陥り、アンナは救急病院に駆けつけた。担当したのはロレンツォ(ジョン・リチャードソン)というハンサムで心優しい医師。パオロはすっかりロレンツォになついてしまった。ロレンツォはアンナの美しさに心を奪われ、アンナも彼の誠実さに惹かれていく。次第に親密な関係になっていく2人。ところが、ある日アンナは道端で偶然グイドと再会してしまう。裏切りをネタに脅迫された彼女は、息子パオロを守るために裏社会へと再び引き戻されてしまうのだが…。

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こんなお色気シーンも満載

高級コールガールとして働かされるアンナ

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犯罪と虚飾で彩られた裏社会に嫌気が差していくアンナ

子供を出産したアンナ刃新しい生活を始める

 原案を書いたのは製作者ルチアーノ・マルティーノと、『狼の挽歌』や『愛のほほえみ』で知られる脚本家サウロ・スカヴォリーニ。マルティーノはもともと脚本家で、リノ・ヴァンチュラ主演の『飾り窓の女』(60年)や巨匠マリオ・バーヴァの『白い肌に狂う鞭』(63年)などにも関わった実績のある人物だ。その原案を脚色したのが、大御所エルネスト・ガスタルディとセックス・コメディで知られるフランチェスコ・ミリツィアの2人。ガスタルディはマルティーノの脚本家時代からの友人であり、ミリツィアはマルティーノが製作したセックス・コメディを数多く手掛けている盟友。かつてのインタビューでも、“私にとって最も大切な脚本家はフランチェスコ・ミリツィアだ”と語っていたほどの仲だった。
 撮影を担当したマルチェロ・マスチオッキは、パオロ・カヴァラの『野性の眼』(67年)やルッジェロ・デオダートの『カニバル』(76年)などの優れた作品を手掛けている中堅カメラマン。古都ベルガモのロマンティックで美しい景色や、裏社会の華やかであると同時に怪しげな世界を、とてもスタイリッシュなカメラワークで捉えている。
 そして。フランシス・レイも真っ青のセンチメンタルで叙情的なスコアを書いているのがルチアーノ・ミケリーニ。特にもの悲しいピアノの旋律が印象的なテーマ曲は、レイの『ある愛の詩』やチプリアーニの『ベニスの愛』に匹敵するほどの美しさ。是非ともCD発売してほしい名作だ。

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古都ベルガモの美しいロケーションも印象的

青年医師ロレンツォ(J・リチャードソン)と親密になるアンナ

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グイドによって再び裏社会に引き戻されてしまう

DVDの特典映像でインタビューに応えるエドウィージュ・フェネッシュ

 アンナ役のエドウィージュ・フェネッシュの熱演ぶりは冒頭でも紹介したが、グイド役のコラード・パーニも素晴らしい演技を見せている。ハンサムでダンディ、甘いマスクとさりげない気遣いが女心をくすぐる二枚目だが、同時に野獣のような凶暴性とサディスティックで冷酷な面も持ち合わせた複雑な男。愛情と憎しみの狭間で揺れ動くアンナの気持ちも良く分かる。どちらが本当の顔なのか困惑してしまうほど、魅力的でありながら危険な男なのだ。コラード・パーニの存在感は、まさにグイドそのもの。観客を巧みに翻弄する、見事な演技を見せてくれる。
 ハリウッドの大ベテラン、リチャード・コンテは『ゴッドファーザー』の影響で当時イタリアの犯罪映画には欠かせない顔だったが、ここでも温厚な紳士の顔と残虐なマフィアの顔を持ち合わせたボスをさすがの貫禄で演じている。また、敵対するマフィアのボスを演じるエットーレ・マンニのゴリラのごとき迫力も強烈だ。彼はスペクタクル史劇のヒーローとして一世を風靡したスターだったが、当時は極度のアル中で身を持ち崩していた。扱いずらい俳優というレッテルを貼られてしまったが、そのスケールの大きな存在感はやっぱり素晴らしい。フェリーニの『女の都』(80年)でも異彩を放っていたが、その直後に拳銃自殺を遂げてしまったのは残念だった。
 その他、青年医師ロレンツォ役にバーヴァの『血ぬられた墓標』やハマーの『恐竜100万年』で知られる英国俳優ジョン・リチャードソン、組織お抱えの医者役で『ゴッドファーザー』のドン・トマシーノ役などマフィア映画の名物俳優として知られるコラード・ガイパ、ソリアーニの弁護士役に『歓びの毒牙』などでお馴染みのウンベルト・ラホー、アンナの母親役にはスペクタクル史劇の悪女として知られるカルラ・カーロ、アンナと親しくなるコールガールのリサ役に『無敵のゴッドファーザー/ドラゴン世界を往く』のシャーリー・コリガンなど、イタリア産B級娯楽映画でお馴染みの顔ぶれが脇を固めている。

 

 

 

暗殺の掟
La mano spietata della legge (1973)

日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
VHS・DVD共に日本未発売

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(P) Alfa Digital (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/96分/製作:イタリア

映像特典
フォト・ギャラリー
監督:マリオ・ガリアッツォ
製作:ジュゼッペ・リスポーリ
脚本:マリオ・ガリアッツォ
撮影:エンリコ・コルテーゼ
音楽:ステルヴィオ・チプリアーニ
出演:フィリップ・ルロワ
    クラウス・キンスキー
    シルヴィア・モンティ
    トニー・ノートン
    ファウスト・トッツィ
    ピア・ジャンカーロ
    シリル・キューザック
    グイド・アルベルティ
    リンカーン・テイト
    マリーノ・マゼ
    ルチアーノ・ロッシ
    セルジョ・ファントーニ

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タフな熱血刑事デ・カルミネ(P・ルロワ)

マフィアのボスが何者かによって暗殺される

 イタリアでは劇場公開当時、過激な暴力描写が話題となって大ヒットした犯罪バイオレンス映画。恐らく股間をガスバーナーで燃やすというリンチ・シーンがショッキングだったのかもしれないが、全体的には非常にスロー・テンポな作品だ。なにしろ監督が『バージン・エクソシスト』(74年)のマリオ・ガリアッツォ。変態趣味的な描写にだけは人一倍凝るが、それ以外は全く手抜きが甚だしいというCランクの職人監督である。
 本作でも無駄な長回しやダラダラとした説明的なセリフ、下手クソな辻褄合わせがかなり目立つ。が、終わりのない暴力の連鎖を象徴するような、結末のないクライマックスはユニークで面白い。激しいカー・チェイスや体当たりのフィスト・ファイトなどのスタント・シーンもなかなかの迫力。脚本にもっと説得力を持たせることができれば、それなりの力作となり得た作品だろうと思う。ストーリー的にも、80分程度にまとめるべきだったかもしれない。

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謎めいた殺したクアトローニ(K・キンスキー)

警察の保護下にあった女性リリー(P・ジャンカーロ)まで殺される

 ローマの病院でマフィアのボスが暗殺された。犯人たちは空港を接触の拠点としていたが、売店に勤める女性エルサ(デニーズ・オハラ)は彼らの不審な行動に気付いていた。病院の現場検証に当たった警察は、目撃証言から実行犯の一人がアメリカ人の殺し屋であることを突き止める。
 新聞に掲載された殺し屋の写真を見て、エルサは空港で目撃した不審な男たちの一人であることに気付いた。彼女は警察に通報すべきか迷うが、ルームメイトのリリー(ピア・ジャンカーロ)は猛反対する。通報したことがバレたら、マフィアから命を狙われる危険性があるからだ。
 だがその頃、犯人の一人であるペローネ(ロサリオ・ボレッリ)は、新聞に殺し屋の写真が公開されたことで売店の女が気付いた可能性があると、ボスのパトロヴィータ(ファウスト・トッツィ)に報告する。彼は黒幕のパルミエリ教授(グイド・アルベルティ)に相談し、不安要素は全て排除することに決めた。
 チンピラのプレイボーイ、ジュゼッペ(マリーノ・マゼ)がリリーと接触。ディスコで遊んでいる隙に彼女のバッグから部屋の鍵を盗み出し、殺し屋クアトローニ(クラウス・キンスキー)に手渡した。クアトローニは部屋に忍び込み、帰宅したエルサとボーイフレンドを惨殺する。
 リリーから事情を聞いた警察は、マフィアのボス暗殺の背後に何かしらの陰謀が絡んでいると睨む。捜査の陣頭指揮を執るのはデ・カルミネ警部(フィリップ・ルロワ)。日頃からマフィアの横行に苛立ちを募らせているデ・カルミネだが、慎重派のムサンテ署長(セルジョ・ファントーニ)は過激な行動は法を遵守する側として慎むべきだと釘を刺す。
 デ・カルミネはジュゼッペをしょっ引いて事情聴取するが、下っ端の彼からは大した情報は得られなかった。だが、釈放された直後にジュゼッペは何者かに轢き殺される。さらに、警察の保護下にあったリリーも誘拐された挙句に殺され、ジュゼッペの弁護士の自白から暗殺に関わったと目されたペローネも移送中に射殺された。さらに、ジュゼッペの弁護士が差し入れのコーヒーに混入された毒薬で死亡。
 次から次へと起きる不祥事に、判事(シリル・キューザック)は激怒する。暴力には暴力で対抗するべきだと強硬姿勢を示すデ・カルミネにムサンテ署長は真っ向から反対するが、判事はやり方を帰るべきだろうとデ・カルミネを後押しした。その一方で、デ・カルミネは日々暴力と接することで、自分自身もマフィアと同じような凶暴性に目覚めていくという不安を抱えていた。そんな彼を、最愛の妻リンダ(シルヴィア・モンティ)は優しく慰める。
 一連の不祥事から警察内にスパイがいると睨んだデ・カルミネは、部下ダミーコ(トニー・ノートン)の言動に疑問を抱いた。誰も把握していなかったはずのリリーの行動を、彼だけが知っていたからだ。ダミーコを尾行するデ・カルミネ。激しい格闘の末、ダミーコは殺し屋クアトローニの存在を白状した。早速、クアトローニの逮捕状が出される。
 警察の捜査が進展していることを知ったパトロヴィータとパルミエリ教授は、デ・カルミネの拉致を部下に指示する。激しいリンチを受けた挙句、郊外の空き地に放り出されるデ・カルミネ。これ以上手を出すなという警告だった。
 そこへクアトローニの目撃情報が入り、デ・カルミネは現場へと急行する。壮絶な銃撃戦とカー・チェイスの末、クアトローニを逮捕することに成功。野獣と化したデ・カルミネはクアトローニに激しい暴行を加え、パトロヴィータの存在を突き止めた。そこからさらに、パルミエリ教授が黒幕であることを割り出すが、その背後には世界の株価を巡るとてつもなく大きな権力の力が働いていることを知るのだった・・・。

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デ・カルミネ警部の心優しき妻リンダ(S・モンティ)

ディスコが大人の社交場だった時代の風俗も楽しい

 ダイナミックなスタント・シーンをカメラに収めたのは、フェリーニの『サテリコン』(68年)や『地獄のノルマンディ』(68年)、『非情の標的』(72年)、『ヒッチハイク』(77年)などでカメラ・オペレーターを務めたエンリコ・コルテーゼ。撮影監督としての仕事は、残念ながら本作を含めて数本しかない。
 音楽を手掛けたのは名匠ステルヴィオ・チプリアーニ。お得意のセンチメンタルな甘いスコアから、キャッチーなディスコ・ナンバー、ファンキーなジャズまで様々なメロディを聴かせてくれる。彼の作品としては平均点レベルの出来栄えだが、ファンならば十分に楽しめるだろう。

 タフな熱血刑事デ:カルミネ役を演じているのは、『黄金の7人』シリーズの教授役でお馴染みのフランス俳優フィリップ・ルロワ。普段はクールでダンディな役柄が得意な人だが、本作ではかなり男気の溢れる演技を披露。鍛え抜かれた肉体美も披露し、他では滅多に見せないタフガイぶりがかなりカッコいい。
 冷血な殺し屋クアトローニを演じるクラウス・キンスキーも不気味な存在感を放っている。今回はほとんどセリフもなく、何を考えているんだか分からない謎めいた雰囲気がとてもユニークだ。
 デ・カルミネの妻リンダ役として顔を出しているのは、モデル出身の美女シルヴィア・モンティ。『火の森』(70年)で演じた魔女役が印象的な女優さんだ。今回は色添え的な役割が強く、ゴージャスな美貌を存分に堪能することが出来ないのが残念。
 その他、『街は自衛する』(51年)の名優ファウスト・トッツィ、ハリウッド映画『ただいま熱愛中』(66年)やフランス映画『悪魔のようなあなた』(67年)などでも知られる渋い俳優セルジョ・ファントーニ、『邪魔者は殺せ』(47年)や『女狐』(50年)、『ジャッカルの日』(73年)、『マイ・レフト・フット』(89年)などで有名なイギリスの名脇役シリル・キューザック、マリア・ピア・ジャンカルロの名前でマカロニ・ウェスタンやジャッロなどで活躍した女優ピア・ジャンカルロ、舞台出身の名優グイド・アルベルティ、ハリウッドでも活躍した二枚目俳優マリーノ・マゼなどが登場。また、マカロニ・ウェスタンやジャッロなどで精神異常者や変態的な悪人などを数多く演じた怪優ルチアーノ・ロッシが、本作でも監禁中のリリーをレイプするニンフォマニアのチンピラを演じて異彩を放っている。

 

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