イタリアン・カルト・ホラー傑作選
PART 3

 

サンゴリラ
Rage, furia primitiva (1988)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2009 Code Red (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/91分/製作:イタリア・アメリカ

特典映像
なし
監督:ヴィットリオ・ランバルディ
製作:ウィリアム・J・インマーマン
   ジョシ・W・コンスキー
脚本:ウンベルト・レンツィ
撮影:アントニオ・クリマティ
特殊効果:カルロ・ランバルディ
音楽:クラウディオ・シモネッティ
出演:パトリック・ロウ
   シェリル・アラット
   ミッチ・ワトソン
   サラ・バクストン
   ボー・スヴェンソン
   ダグ・スローン
   ルイス・ヴァルデラーマ
   ジョン・ボールドウィン

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動物実験を探る学生新聞の記者サム(P・ロウ)

大学の研究室では動物実験に猿を使っていた

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サムの親友ダフィー(M・ワトソン)が研究所へ侵入する

轢き殺された猿を見て呆然とするエスリッジ博士(B・スヴェンソン)

 『E.T.』(82)でオスカーを受賞したイタリアの大物SFXマン、カルロ・ランバルディ。その息子ヴィットリオが、父カルロと兄弟アレックスの協力を得て撮った作品がこれ。動物実験に使われた猿に噛まれてしまった人間が凶暴化し、他人を襲いながら病原菌を伝染させていくという、いわばゾンビ物のバリエーション的な感染パニック・ホラーである。
 舞台はアメリカのマイアミ。学生新聞の記者であるサムは、大学の脳医学者エスリッジ博士が行っている動物実験の実態を暴こうとしていた。ところが、博士の研究室へ忍び込んだ仲間ダフィーが、実験によって凶暴化したモルモットの猿に噛まれてしまう。やがてその傷口が徐々に悪化していき、まるで狂犬病にかかったかのように暴れ出すダフィー。しかも、彼に襲われた人間もまた凶暴化し、人から人へと次々に感染していく。事態を知ったサムは、エスリッジ博士と協力してウィルスの拡散を止めようとするのだが…という、まさに感染パニックものの王道を行くようなストーリーだ。
 とりあえず、最大の見どころはカルロ・ランバルディの手掛けた猿のメカニカル・エフェクト。低予算ゆえに一目で作りものと分かってしまうものの、それでも恐らく本作中で最もお金がかかっている見せ場であることは間違いないだろう。また、80年代テイスト全開のチープなダンス・ポップ系BGMにアメリカンなカジュアル・ファッション、ビザールなハロウィン・パーティで展開されるクライマックスの惨劇などなど、キッチュという意味で楽しめるような要素は盛り沢山だ。
 ただし、ストレート過ぎるくらいにストレートな脚本は、奇をてらわないというよりも単に知恵を使っていないだけという印象。これが初監督となるヴィットリオの演出も素人クサいことこの上なく、スリルもサスペンスも恐怖も一切感じられない。グロテスクなスプラッター・シーンの連続も、所詮は特殊メイクを羅列して見せただけといったような塩梅。逆に言うと、そうした80年代末イタリア産娯楽映画に特有な安っぽさとえげつなさが魅力の作品ではある。
 なお、大ベテランのウンベルト・レンツィ監督がハリー・カークパトリック名義で脚本を担当。スタッフやキャストもレンツィが同時期にアメリカで撮影した『ゾンビライダー』(89)と被っているし、そもそもランバルディ兄弟はあちらの作品にも深く関わっていた。そういった観点からも、イタリア映画マニアには興味深い作品だろう。惜しむらくは、この種の映画にしてはエロがほぼゼロに等しいということか(笑)。

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サムは女子学生ローレン(C・アラット)と親しくなる

デビー(S・バクストン)と急接近するダフィー

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凶暴化したダフィーが学園を恐怖に陥れる

ダフィーに首筋を噛まれたデビーの症状も悪化

 マイアミの大学で学生新聞の記者を務めるサム・ナッシュ(パトリック・ロウ)は、学内の研究所でエスリッジ博士(ボー・スヴェンソン)が行っている動物実験の実態を探っていた。エスリッジ博士は有名な脳医学者で、死んだ脳細胞を蘇生させる薬の開発を行っていた。この薬が完成すれば、脳死治療の問題は一気に解決する。そのために彼は猿を実験台にして研究を進めていたのだが、思うような結果はなかなか得られなかった。
 幾度となくエスリッジ博士に取材を申し込むサムだったが、その度にうまくはぐらかされてしまう。記者仲間で親友のダフィー(ミッチ・ワトソン)は研究所に無断で忍び込むことを提案するが、真面目なサムは違法行為に対して消極的だ。そこで、言い出したダフィー自らが研究所へ侵入して動物実験の証拠を掴むことにする。夜に警備員の目を盗んで研究所へ忍び込むダフィー。ところが、カメラのフラッシュに反応した猿が暴れ出し、ケージを壊して外へ出てしまう。猿はダフィーに襲いかかって彼の腕を噛み、そのまま窓ガラスを破って逃走。さらに、警報を聞いて到着したパトカーに突進して轢き殺されてしまった。
 一方、美人女子大生ローレン(シェリル・アラット)と親しくなったサムは、彼女とルームメイトのデビー(サラ・バクストン)が不良学生ラヴジョイ(ダグ・スローン)に絡まれているところを助ける。ラヴジョイは悪名高い不良学生で、仲間のチャット(ルイス・ヴァルデラーマ)とブライアン(ジョン・ボールドウィン)を引き連れて、女子学生を集団レイプしているという噂があった。ナンパを邪魔されたラヴジョイは激怒し、サムを目の敵にする。
 大学の講義を休んだダフィーを心配し、彼の部屋を訪ねたサム。どうやら体調が優れないらしい。風邪を引いたようだというダフィーだったが、実は猿に噛まれた傷口が悪化していたのだ。そうとは知らないサムは、ローレンとデビーを交えたダブルデートにダフィーを誘う。サムはローレンと寮の部屋で甘い時間を過ごし、ダフィーはデビーとプールサイドで語り合った。お互いの悩みを打ち明け、急速に惹かれあうダフィーとデビー。ムードが高まって抱擁しあったまでは良かったが、興奮したダフィーはデビーの首筋を軽く噛んでしまった。
 翌日、さらに体調が悪化したダフィーは学内の病院を訪れる。ところが、待合室で順番を待っていた彼は突然暴れ出し、他の学生や看護師を殴り倒した挙句に奇声をあげながら外へ飛び出していった。さらに、日が落ちると学内を廻っていた警備員を殺害。親友の凶行に驚いたサムは彼の行方を捜して奔走する。また、監視カメラの映像でダフィーの侵入を知ったエスリッジ博士も、同じく彼の行方を捜していた。
 その頃、ダフィーに首筋を噛まれたデビーもまた、体調の悪化を感じていた。不安になって学内を歩いていたデビーだが、そこへラヴジョイの一味が車で通りかかる。彼らはデビーを無理やり連れ去り、自分たちの部屋でレイプしようとした。ところが、デビーはいきなり発狂し、ラヴジョイたちの腕や脚に噛みついた揚句、全員を殴り倒して逃げ去った。
 逃走を続けるダフィー。彼は密会中のジェンキンス教授(ターク・ハーレイ)と女学生キンバリー(ジェニファー・ヒンゲル)を殺害し、そのまま自分の部屋へと戻って来る。そこにはサムが待っていた。目を血走らせて親友に襲いかかろうとするダフィー。すると、彼は警備員から奪った拳銃をサムに渡し、自分を殺してくれと懇願する。まだ僅かに理性が残っていたのだ。躊躇するサムだったが、いきなり飛びかかってきたダフィーを反射的に射殺してしまった。
 一方、寮へ戻ったローレンは顔面蒼白のデビーを発見して驚く。ローレンから相談を受けたサムはエスリッジ博士を呼び、凶暴化したデビーを研究所へと運んだ。だが、博士が自分を人体実験に使うつもりだと気付いたデビーは、隙を見て博士を殺害した上で逃走。その頃、意識を取り戻したラヴジョイたちも凶暴化し、折から学内で開催されているハロウィンの仮装パーティへと繰り出す。
 ドクロのマスクを被って学生たちを次々と殺していくラヴジョイたち。そこへ、デビーの行方を探すサムとローレンが現れた。ラヴジョイたちの凶行に気付いて逃げようとするサムとローレンだったが…。

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レイプしようとするラヴジョイ(D・スローン)にデビーが反撃

ダフィーは親友サムにも襲いかかろうとする

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凶暴化したデビーがローレンたちに近づく

デビーを人体実験に使おうとするエスリッジ博士だったが…

 ということで、日本語タイトルは『サンゴリラ』となっているものの、残念ながら(?)ゴリラは一匹も出て来ず。まあ、恐らく『サンゲリア』と引っかけて語呂が良かったから、無理やりこじつけたのであろう。その代わりに登場するのがカルロ・ランバルディ製作のメカニカル・モンキーなわけだが、座っている状態での表情や手の動きなんかはまずまずの出来栄え。しかし、全身を動かすと操り人形にしか見えないのがちょっと悲しい。
 先述したように、脚本を手掛けたのはウンベルト・レンツィ監督。どういう経緯で彼が本作の脚本を書くことになったのかは定かでないものの、『ゾンビライダー』にヴィットリオとアレックスのランバルディ兄弟が絡んでいることと何らかの関係があるに違いない。もともとレンツィ自身が監督するはずだった作品、ということも考えられるだろう。
 製作を担当しているのは、その『ゾンビライダー』も手掛けたアメリカ人プロデューサー、ウィリアム・J・インマーマンとジョシ・W・コンスキ―。コンスキーはイタリア映画界と縁の深い人物で、『レッドオメガ追撃作戦』(80)や『笑撃のボンゴボンゴ島』(81)などのセルジョ・コルブッチ監督作品を数多く製作している。また、当時はまだ低予算映画専門だったインマーマンは、その後オスカー受賞作『Ray/レイ』(04)や『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』(05)などのメジャー作品を手掛けるようになった。
 そして、撮影監督を担当したのは、『世界残酷物語』(62)に始まるヤコペッティ監督の一連のモンド映画で知られるカメラマン、アントニオ・クリマーティ。また、音楽スコアにはゴブリンの中心人物クラウディオ・シモネッティが参加している。興味深いのは、本作の挿入曲としてSteel Graveというバンドの楽曲“Headbangers”と“Knight of the Night”が使用されていること。このSteel Graveというのはイタリアのハードロック・バンドGowの匿名なのだが、実はその前年に製作されたダリオ・アルジェント監督の『オペラ座/血の喝采』(87)でも全く同じ楽曲が使用されているのだ。恐らく、これはシモネッティ絡みの選曲なのかもしれない。その他、キッシング・ザ・ピンクやエイミー・スチュワートなど当時の人気アーティストが、挿入歌として楽曲を提供している。

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ハロウィンの仮装パーティ会場でデビーを探すサムとローレン

凶暴化したラヴジョイ一味もパーティ会場に現れる

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仮装した学生たちを次々と殺していくラヴジョイたち

ローレンがラヴジョイに追い詰められてしまう…

 主人公のサムを演じているパトリック・ロウは、80年代スラッシャー映画の隠れた人気シリーズとして有名な“Slumber Party Massacre”シリーズの第2作『マッドロック・キラー』(87)にも出演していた若手俳優。一部ではロブ・ロウの兄弟とも言われており、確かにルックスが似てなくもないのだが、正確なところは分かっていない。
 また、『地獄のバスターズ』(78)や『サンダー』(83)などのイタリア産B級映画でもお馴染みのハリウッド俳優ボー・スヴェンソンが、マッド・サイエンティストのエスリッジ博士役で登場。どう見ても科学者とは思えないポニーテール姿に思わず苦笑いさせられる。
 そのほか、無名のアメリカ人若手俳優が多数出演。ローレン役のシェリル・アラットは、その後女優を引退して有名な精神科医になったそうだ。また、デビー役のサラ・バクストンは『ゾンビライダー』にも出演しており、最近ではスティーブン・セガール主演の『沈黙の脱獄』(05)でヒロイン役を演じるなど活躍を続けている。なお、チャット役のルイス・ヴァルデラーマ、ブライアン役のジョン・ボールドウィン、キンバリー役のジェニファー・ヒンゲル、ジェンキンス教授役のターク・ハーレイなども『ゾンビライダー』組だ。

 

 

呪いの迷宮/ラビリンス・イン・ザ・ダーク
Il nido del ragno (1988)
日本では1989年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2009 PRS (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米ブート盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/87分/製作:イタリア

特典映像
なし
監督:ジャンフランコ・ジャーニ
製作:トニーノ・チェルヴィ
原案:トニーノ・チェルヴィ
脚本:トニーノ・チェルヴィ
   チェザーレ・フルゴーニ
   ジャンフランコ・マンフレディ
   リカルド・アラーノ
撮影:ニノ・チェレステ
特殊効果:セルジョ・スティヴァレッティ
音楽:フランコ・ピエルサンティ
出演:ローランド・ウィベンガ
   パオラ・リナルディ
   ステファーヌ・オードラン
   ウィリアム・バーガー
   マルガレータ・フォン・クラウス
   クラウディア・ムーツィ

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ブダペスト行きを命ぜられた言語学者アラン(R・ウィベンガ)

消息を絶ったロス教授のもとを訪れる

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ロス夫人(M・フォン・クラウス)は教授が精神的に不安定だという

夫人の目を盗んでアランにメモと写真を渡すロス教授

 イタリア産娯楽映画が徐々に衰退しつつあった80年代末。ギリギリの低予算で撮られた無残なZ級映画が増えていく中、それでも当時のイタリア映画界にはまだ余力のようなものがあり、ひっそりとながら創意工夫の凝らされた秀作も少なからず生まれていた。この『呪いの迷宮/ラビリンス・イン・ザ・ダーク』という作品も、そのような“隠れた名作”の一つと言えるであろう。
 主人公は謎の古代語を研究する若き言語学者アラン。彼は音信の途絶えたロス教授の消息を確認するため、ハンガリーの古都ブダペストへと向かう。ところが、ロス教授は謎のメモと写真を残して不可解な死を遂げ、アランに警告を発する人々も次々と消されていく。実は、謎の古代語というのは邪教集団の共通言語であり、ロス教授は研究の過程で彼らの存在に気付いたため抹殺されたのだ。邪教集団は自分たちの言語を駆使して蜘蛛の巣のように組織網を広げていた。組織の秘密を記した石板を入手したアランは、ブダペストからの脱出を試みる。しかし、街のあちこちに邪教集団のメンバーが潜んでおり、しかもどこへ逃げようとしてもなぜか元の場所へ戻ってしまう。やがて、恐るべき太古の神と対峙することとなるアラン。果たして彼が見たものとは?そして、彼を待ち受けている運命とは…?
 ブダペストの壮麗で厳かな街並みを生かしたゴシック・ムード、東ヨーロッパ独特の閉鎖的で陰鬱な世界観、メカニカル・エフェクトなどを駆使した強烈な残酷描写、そして見る者の不安を煽っていく巧みな恐怖演出。これが処女作となるジャンフランコ・ジャーニ監督は、アルジェントの『サスペリア』(77)や『インフェルノ』(80)、マリオ・バーヴァの『モデル連続殺人』(64)や『呪いの館』(66)といったイタリアン・ホラーの古典的傑作を、相当熱心に研究したのではないかと思われる。特に物語全体を覆う不気味で不穏な空気感や、鮮烈なカラー照明を多用した恐怖シーンの悪夢的イメージなどは出色。ストップモーションによるSFXシーンは少々粗雑に見えなくもないが、当時のイタリア映画のクオリティ平均値を考慮すれば立派なものだ。
 また、邪教集団の暗殺者である“蜘蛛女”の存在もなかなか強烈。こいつは邪神によって怪力を与えられたモンスターなのだが、シンプルな特殊メイクが逆に説得力を増して怖い。“キーッ”という鳴き声というか叫び声も効果的に不気味。さらに、“蜘蛛女”が現れる前に必ず黒い球体が犠牲者のそばへ投げ込まれるのだが、その中からネバネバとしたタランチュラのごとき蜘蛛が現れるのも面白い。
 かつて日本では高画質のVHSが発売されていたものの、未だに世界中を捜してもオフィシャルなDVDリリースはナシ。僅かにドイツやアメリカでVHSソースの海賊盤DVDが発売されているのみだ。是非とも、正式な形で陽の目を浴びて欲しい映画の一つである。

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ジュヌヴィエーヴ(P・リナルディ)にホテルへ案内される

謎めいたホテル経営者クーン夫人(S・オードラン)

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初老の男(W・バーガー)がアランに警告を発する

ロス教授が謎の死を遂げてしまう

 アメリカの言語学者アラン・ホイットモア教授(ローランド・ウィベンガ)は、ある謎の古代語を研究するプロジェクトの一員だった。彼は少年時代に蜘蛛の巣の張ったクローゼットの中へ閉じ込められた経験があり、今でも悪夢に見るほどのトラウマを引きずっている。ある日、彼はプロジェクト幹部から緊急で呼び出された。調査のためにブダペストへ派遣されたロス教授からの連絡が途絶えてしまったのだ。アランはロス教授の消息を確認するためハンガリーへ向かうこととなる。
 ブダペストへ到着した彼を待っていたのは、ロス教授の秘書を務める若い女性ジュヌヴィエーヴ(パオラ・リナルディ)。アランはひとまず教授宅へと向かった。アパートの中庭ではブランコに乗った奇妙な少年が、魂の抜けたような表情でアランをじっと見つめている。教授の部屋を訪れると、夫人と名乗る女性(マルガレータ・フォン・クラウス)がアランを出迎えた。
 夫人によると教授は精神的に不安定な状態が続いており、現実的ではないような妄想に取りつかれているのだという。アランと対面したロス教授は、確かに言動がおかしかった。しかし、夫人が姿を消した途端にロス教授は必死の形相を浮かべ、何も訊かずに受け取ってくれと言ってメモ帳とポラロイド写真をアランに手渡す。事情の説明を求めるアランだったが、ロス教授は日が暮れた後に一人でこっそり来るようにと言うばかり。その時、窓から部屋の中へ黒い球体が投げ込まれ、ロス教授は逃げるようにして姿を消した。
 とりあえずロス教授の無事を確認したアランは、ジュヌヴィエーヴの案内で古い高級ホテルへとやって来る。謎めいた美しいマダム、クーン夫人(ステファーヌ・オードラン)がアランを歓迎する。なぜか夫人もスタッフもロス教授のことを知っている様子だったが、アランは大して気にも留めなかった。それよりも、渡されたメモの内容が気がかりだ。どうやら、謎の古代語は何らかの秘密結社かカルト集団の通信手段として、長いこと使われてきたらしい。しかも、そのメンバーは蜘蛛の巣のように組織網や情報網を張り巡らせているのだという。夜になって外では嵐が吹き荒れてきたが、アランはロス教授から詳しい話を聞くために再びアパートへと向かう。
 すると、謎めいた初老の男(ウィリアム・バーガー)がアランを呼びとめた。今すぐブダペストから逃げなければ大変なことになる、と男はアランを説得しようとする。だが、薄気味悪く思ったアランは男の言葉に耳を貸そうとしなかった。嵐の中をロス教授のアパートへ到着したアラン。しかし、それは教授が不可解な死を遂げた後だった。教授は大量の蜘蛛の糸をまとめたような紐で首を絞められている。しかも、教授には夫人などいなかった。
 何か恐ろしいことが起きていると感じるアランだったが、真実を突き止めずに帰国するわけにはいかない。その上、警察からもホテルでの待機を命じられていた。そんな彼を、どうもホテルの宿泊客たちが見張っているようだ。レストランで食事を終えた後、アランの部屋へメイドのマリア(クラウディア・ムーツィ)がやって来る。この街には恐ろしい人々がいる、手遅れになる前に逃げて…と言いかけたマリアだったが、クーン夫人に邪魔をされてしまった。
 その晩、仕事を終えて自室へ戻ったマリア。その足元へ黒い球体が転がる。次の瞬間、マリアは何者かに襲われた。洗濯して干されたシーツの合間を逃げ回るマリアだったが、恐ろしい形相をした“蜘蛛女”に捕らわれ、脳天をナイフで一突きされてしまう。その頃、客室で就寝の準備をしていたアランはマリアの悲鳴を耳にする。暗く広いホテルの中を捜索するアラン。ひっそりと明りのともった部屋を見つけると、そこではクーン夫人が空のベビーベッドを静かに揺らしていた。ここは死んだ息子の部屋だという。夫人の手元に目を凝らしたアランは、手首に蜘蛛の形をした傷があることに気付く。だが、部屋のクローゼットの中にマリアの惨殺体が隠されていることは知る由もなかった。
 ロス教授から手渡されたポラロイド写真は、どうやらカルト集団の存在を記した古い石板のようだった。ジュヌヴィエーヴによると、ロス教授は市内のモリッツという骨董商と付き合いがあったらしい。モリッツのもとへ行けば、何か石板の手掛かりとなるものがあるかもしれない。そこで、彼は骨董商の店を探すことにした。ところが、教えられた通りに車を走らせても、全く関係のない場所へ出てしまう。しかも、あちこちが行き止まりで、いつの間にか通行人すら一人もいなくなってしまった。この街は何かおかしい。ようやく骨董品店にたどりついたアランだったが、モリッツはすでに惨殺されていた。しかも、店の中には“蜘蛛女”の姿が。急いでクローゼットに隠れたアランは、そこで例の石板を発見する。
 少年時代のトラウマが蘇り、クローゼットの中で身動きの出来なくなったアラン。そこへ、あの初老の男が現れて彼を救出する。男の案内で、アランはブダペストの地下に張り巡らされた水路へと逃げ込む。そこには、マリアをはじめとする犠牲者の死体が数えきれないほど捨てられていた。初老の男はアランの身代わりとなって“蜘蛛女”に殺される。なんとかブダペストを脱出しようとするアランだったが、なぜか同じところをグルグルと回っているだけだった。
 仕方なく地上へ出たアランは、通りがかったパトカーに救出された。だが、運転する刑事もまたカルト集団のメンバーだった。その手首に蜘蛛形の傷を発見したアランは、急いでパトカーから飛び降りる。必死になって街中を逃げ回った彼は、いつしかジュヌヴィエーヴの住むアパートへと到着した。もうろうとする意識の中で、ジュヌヴィエーヴとめくるめく愛を交わすアラン。ふと目を覚ますと既に彼女の姿はなく、あの石板も消えてしまっていた。
 ジュヌヴィエーヴはどこへ行ったのか?アパートの中を探すアランに、あの“蜘蛛女”が襲いかかる。凄まじい格闘の末に“蜘蛛女”の息の根を止めたアラン。すると、どこからともなくジュヌヴィエーヴの声が聞こえてくる。アランは試練をパスしたのだ、いよいよ仲間となる時がやって来たのだ。不気味な光を放つ部屋へ足を踏み入れたアランを、ジュヌヴィエーヴやクーン夫人、ホテルの宿泊客や警察官たちが出迎える…。

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アランに忠告しようとした女中マリア(C・ムーツィ)が襲われる

マリアにとどめを刺す“蜘蛛女”

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マリアの悲鳴を聞いてホテルを捜索するアラン

たどり着いたのはクーン夫人の死んだ息子の部屋だった

 さて、監督のジャンフランコ・ジャーニ(一部の資料ではジャンフランコ・ジャンニーニと誤表記されているので注意)、もともと巨匠マウロ・ボロニーニの助監督などを務めていた人らしいのが、その詳しいプロフィールについてはあまり分かっていない。この作品以降は主にテレビ・ドラマやドキュメンタリー映画の仕事をしているらしく、ホラー映画を撮ったのは後にも先にもこれ一本だけだ。恐らく低迷するイタリア映画界が彼に次のチャンスを与えなかったのかもしれないが、ビジュアルといいストーリー・テリングといい、優れたホラー映画作家の才能を遺憾なく発揮しているだけに残念でならない。
 そんな新人監督ジャーニの強力なサポーターとして、製作・原案・脚本の3役を務めたのが、ベルトルッチの『殺し』(62)やアントニオーニの『赤い砂漠』(64)で知られる製作者であり、マカロニ・ウェスタンの名作『野獣暁に死す』(68)などの監督としてもお馴染みのトニーノ・チェルヴィ。さらに、『ホーリー・マウンテンの秘宝』(78)や『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』(79)などでセルジョ・マルティーノ監督と組んだチェザーレ・フルゴーニ、人気喜劇俳優エンリコ・モンテサーノの主演作を幾つも手掛けたジャンフランコ・マンフレディ、トニーノ・チェルヴィの盟友であるリカルド・アラーノが脚本に携わっている。
 また、『実録マフィア戦争/暗黒街の首領』(85)や『対決/マフィアに挑んだ男』(87)などのダミアーノ・ダミアーニ作品で知られるカメラマン、ニーノ・チェレステが撮影監督を担当。ダリオ・アルジェント監督の『フェノミナ』(85)や『オペラ座/血の喝采』(87)、『デモンズ』(85)シリーズでお馴染みの大物SFXマン、セルジョ・スティヴァレッティが、クライマックスに登場する邪神のメカニカル・エフェクトや巨大蜘蛛のストップモーション・アニメを手掛けている。
 そのほか、『監督ミケーレの黄金の夢』(81)や『小さな旅人』(92)などアート系映画の仕事が多いフランコ・ピエルサンティが音楽スコアを、『ピエラ愛の遍歴』(83)や『未来は女のものである』(83)などマルコ・フェレーリ監督とのコラボで知られるニコレッタ・エルコーレが衣装デザインを、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)でアメリカの美術監督組合賞を獲得したステファーノ・オルトラーニが美術デザインを、『青い体験』(73)や『スキャンダル』(87)など一連のサルヴァトーレ・サンペリ監督とのコラボでも有名なセルジョ・モンタナーリが編集を担当。なかなか錚々たる顔ぶれのスタッフが揃っている。

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ブダペストの地下には無数の死体が捨てられていた

地下の暗闇を音もなく不気味に忍び寄る“蜘蛛女”

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捕らわれの身となったアランに迫る恐ろしい運命とは…

赤ん坊のような姿をした邪神がその正体を現す…

 主人公アラン役のローランド・ウィベンガは、エンツォ・G・カステラーリ監督の冒険ファンタジー“Sinbad of the Seven Seas”(89)でシンドバッドの盟友アリ王子を演じていた俳優。なかなか雰囲気のある二枚目だが、出演作はこれを含めてたったの3本しかない。詳しいプロフィールも全く不明だ。
 妖艶な魅力でアランを惑わせる美女ジュヌヴィエーヴ役のパオラ・リナルディは、あのU2のミュージック・ビデオにも出演したことのあるモデル出身のセクシー女優。また、ドイツ出身の女優マルガレータ・フォン・クラウスが最初にロス教授夫人を装って登場する“蜘蛛女”役として強烈な怪演を披露している。
 そして、映画ファンにとってちょっと意外なのが、クーン夫人役を演じるステファーヌ・オードラン。そう、クロード・シャブロルやルイス・ブニュエルなど巨匠の映画に数多く主演し、当時は『バベットの晩餐会』(87)で国際的に高い評価を受けていたフランスの大女優だ。実は彼女、意外にもホラー映画の熱心なファンだったらしく、この前年にはジェス・フランコ監督の『フェイスレス』(87)にもゲスト出演している。巨匠御用達のシリアスな女優というイメージもあり、恐らくホラー映画のオファーなど滅多になかったであろうことは想像に難くないので、本作なんかもけっこう喜んで出演したのではないだろうか…というのは、あくまでも筆者の推測なのだが(笑)。
 そのほか、マカロニ・ウェスタンの名脇役として有名なウィリアム・バーガーが、アランに警告を発する謎の男役で登場。『マレーナ』(00)にも出ていたクラウディア・ムーツィがメイドのマリア役を演じている。

 

 

ゲロゾイド
Il bosco (1988)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2010 Troma Entertainment (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤DVD-R)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/85分/製作:イタリア

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:アンドレアス・マーフォリ
製作:アニエーゼ・フォンタナ
脚本:アンドレアス・マーフォリ
撮影:マルコ・イソーリ
音楽:アドリアーノ・マリア・ヴィターリ
出演:コラリーナ・カタルディ・タッソーニ
   ディエゴ・リボン
   ルチアーノ・クロヴァート
   エレナ・カンタローネ
   ステファノ・モリナーリ

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イタリアを旅するシンディ(C・C・タッソーニ)とトニー

若い男(S・モリナーリ)を誘惑する魔物(E・カンタローネ)

その正体を知らずにアルヴァを助けるシンディとトニー

怪しげな作家アルゲルノーン(L・クロヴァート)が警告する

 いかにも80年代末のイタリアン・ホラーを象徴するようなクズ映画…なのだが、なぜか嫌いになれない珍作だ。出演者がたったの5人というだけでも、どれくらい低予算で作られているか分かろうというものだが、その極端に限られた予算の範囲内でなんとかそれらしく仕上げようという作り手側の苦労が垣間見えるのもまた事実。チープで悪趣味なクリーチャー・デザインといい、分かるようで分からないストーリー展開といい、いい意味でも悪い意味でも典型的なZ級トラッシュ・ムービーと言えるだろう。
 主人公はイタリア国内を旅するカップル、シンディとトニー。山登りへと出かけた2人は、ヒッチハイカーの謎めいた女性と知り合う。ところが、彼女こそ辺りの土地に古くから棲む魔物だったのだ。そうとは知らず、彼女の案内で山小屋で一夜を過ごすこととなったシンディとトニー。魔物を追う超自然ライターも彼らの後を秘かにつけていた。やがて夜となり、魔物はその正体を現す。さらに、その犠牲者がゾンビとして蘇り、シンディとトニーに襲いかかるのだった。
 やたらとスティディカム・カメラを使いまくっていることからも推察されるように、恐らくサム・ライミの『死霊のはらわた』(83)に影響を受けて作られた映画だと思われる。とはいえ、技術的には素人に毛が生えた程度のもの。妖艶な魔物の股間から巨大な昆虫の手みたいなもんがニョキニョキと飛び出したり、太陽の光に照らされたゾンビがグジャグジャになって溶けたり、生首の頭がボフッと音を立てて破裂したりと、悪趣味全開な特殊メイクやスプラッター描写はなかなか凝っている。ただ、あくまでもスティディカム映像やスプラッターを見せることが目的となってしまっているため、映画作品としては非常に退屈でつまらない出来栄え。上映時間稼ぎとしか思えないような蛇足シーンも少なくない。
 また、アルジェント作品の個性的な脇役として知られるコラリーナ・カタルディ・タッソーニや『デモンズ2』(86)でテレビから飛び出すゾンビを演じたステファノ・モリナーリなど、アルジェント・ファンやイタリアン・ホラー・ファンには興味深いであろうキャスティングも見どころだが、とにかく彼らの演技が酷い(笑)。まあ、ヘタックソな演出やカメラワークの責任も大きいが、それにしても学芸会レベルの大仰な演技はなんとかならなかったもんかとは思う。
 ひとまず、クズみたいな映画だということを予め覚悟しておけば、意外と楽しめる部分も少なくないことは確か。ピンポン玉を目にはめ込んだ魔物メイクの凶悪なセンスも嫌いじゃない。もの好きなホラー映画マニアの方は是非。

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アルヴァは2人を安全な山小屋へ案内する

アルヴァに殺された若者がゾンビとして蘇る

トニー(D・リボン)の体調が悪化してしまう

魔物の正体を現したアルヴァ

 アメリカ人女性シンディ(コラリーナ・カタルディ・タッソーニ)は、恋人のトニー(ディエゴ・リボン)とイタリア各地を車で旅していた。ベネチアを後にした2人は、山登りを楽しもうと計画する。ところが、その途中でレイプ魔に襲われたという若い女性ヒッチハイカー、アルヴァ(エレナ・カンタローネ)を助けた。実は、このアルヴァの正体は恐ろしい魔物で、たった今しがた若い男(ステファノ・モリナーリ)を殺したばかり。次なる獲物を狙っているところへ、車に乗ったシンディとトニーが通りがかったのだ。
 シンディとトニーはアルヴァを近隣の村へ送り届けた。すると、バイクに乗った奇妙な男アルゲルノーン(ルチアーノ・クロヴァート)が彼らに近づく。その姿を見たアルヴァは驚いて逃げてしまった。アルゲルノーンによると、この近辺には恐ろしい伝説が残されており、美しい大自然の中に魔物が潜んでいるのだという。彼は超自然現象を専門にするライターだった。薄気味悪い話を語って聞かせるアルゲルノーンに辟易したシンディとトニーは、すぐにこの土地から去るようにという彼の忠告を無視し、山登りを楽しむことにする。
 ところが、山へ入った途端に大木が倒れてきた。不吉なことばかり続くと凹む2人だったが、そこへ偶然にもアルヴァが通りかかる。彼女は山の奥に安全な場所があるといい、2人を案内するのだった。そこは、アルヴァが根城にしている隠れ家なのだが、もちろんシンディもトニーもそんなことはあずかり知らない。
 やがて一行は山小屋へ到着。シンディは森の中を散歩し、トニーはアルヴァとコカインを楽しんだ。すると、桶に溜まっていた泥がコカインに反応し、トニーの顔にかかってしまう。それが原因で、夜になるとトニーの体調が急変した。不安で苛立ったシンディはアルヴァを追い払う。しかし、トニーの様態は悪化し、わけの分からない言葉を喋りはじめた。さらに、壊れているはずの鳩時計がクルクルと回りだし、鳩の代わりにゾンビの顔が飛び出す。
 ようやくトニーが意識を取り戻したと思ったら、今度は魔物に殺された若い男がゾンビとなって2人に襲いかかる。ビックリした2人はゾンビを鎖でグルグル巻きにした上で森へ逃げ出した。しかし、トニーは正気を失って発狂。シンディは一人で森の中へと消えていく。すると、どこからともなく現れたアルヴァがトニーを誘惑。その色香に惑わされたトニーだったが、すぐにアルヴァは魔物の正体を現してトニーを襲う。
 だが、そこへ彼らの後を秘かに付けてきたアルゲルノーンが登場。トニーは命からがら逃げるが、アルゲルノーンはアルヴァによって殺される。息も絶え絶えで座り込むトニー。そこへゾンビが現れ、トニーの両手をグチャグチャに潰す。なんとか逃げ切ったトニーだったが、無残にも両手はもぎ取れてしまった。そこへ逃げ惑っていたシンディと遭遇。2人はひとまず山小屋へと戻る。
 トニーのために近くの廃墟へ水を探しに来たシンディ。ところが、そこでゾンビと遭遇してしまう。シンディは山小屋へと急いで引きかえし、そのままパニック状態で森の中へと消えていった。残されたトニーに襲いかかるゾンビ。トニーは首をもぎ取られて絶命する。その頃、アルゲルノーンもゾンビとして蘇っていた。2人のゾンビに追いつめられたシンディは、必死になって抵抗を試みるのだが…。

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ピンポン玉を使ったアルヴァの特殊メイクが強烈

両手をもぎ取られたトニー

廃墟で水を探すシンディだったが…

トニーはゾンビに首をもぎ取られてしまった

 日本語タイトルの通りゲロみたいなクズ映画とはいえ、意外なくらい真面目に作られているのが印象的。森の中をパニック状態で絶叫しながら彷徨うシンディをカメラが延々と追いかけていくクライマックスなんぞは、演じるコラリーナ・カタルディ・タッソーニの大仰な過剰演技との相乗効果で、妙にドラマチックな仕上がりとなっているのが面白い。監督のアンドレアス・マーフォリはこれが初演出。肝心のテクニックが伴っていないのは置いといて、とりあえず力が入っていることだけはよく分かるだろう。製作のアニエーゼ・フォンタナは彼のパートナーだったようだ。
 そのほか、撮影監督のマルコ・イソーリや音楽のアドリア−ナ・マリア・ヴィターリなんかも、どうやらマーフォリ監督作品の常連スタッフである模様。特殊効果を手掛けたブルーノ・ビアージ、ドナテッラ・モンダーニ、エリサ・カルチナーリ、パオロ・フォルティの4人はいずれも無名だが、ビアージだけはその後も特殊効果マンとして仕事を続けているらしい。

 ヒロインのシンディ役を演じているコラリーナ・カタルディ・タッソーニは、『デモンズ2』や『オペラ座/血の喝采』(87)などアルジェント絡みの常連スターとしてお馴染み。決して演技力のある人ではないのだが、必要以上に力の入ったオーバー・アクトで場をさらってしまうことの多い女優さんだ。最近でもアルジェントの『サスペリア・テルザ』(07)で健在ぶりを発揮してくれた。もともとニューヨーク生まれのイタリア系アメリカ人で、かなり由緒正しい名門富豪一家の出身なのだそうだ。
 トニー役のディエゴ・リボンは、リリア―ナ・カヴァーニ監督の『フランチェスコ』(89)やパオロ・フランキ監督の『見つめる女』(04)などで脇役として活躍している俳優。魔物アルヴァ役のエレナ・カンタローネは、ティント・ブラス監督の『スナックバー・ブダペスト』(88)にも顔を出していた。

 

 

Vortice Mortale (1993)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2002 EVS Entertainment (Thai)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(タイ盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/5.1chサラウンド/音声:英語/字幕:タイ語/地域コード:
ALL/85分/製作:イタリア・フランス・ハンガリー

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:ルッジェロ・デオダート
製作:アレッサンドロ・カンツィオ
脚本:ルイジ・スパニョール
撮影:セルジョ・ドフィッツィ
音楽:クラウディオ・シモネッティ
出演:フィリップ・キャロワ
   イラリア・ボレッリ
   カタルジーナ・フィグラ
   バルバラ・リッチ
   ヨルゴ・ボヤギス
   ローレンス・レニエ
   クラウディア・ポッツィ

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ヒモのユーリ(Y・ヴォヤギス)と口論するヴィダ(K・フィグラ)

その様子をほくそ笑みながら眺めるリュドミラ(B・リッチ)

 『食人族』(80)で名高いルッジェロ・デオダート監督の手掛けた日本未公開作。謎めいた奇妙な殺人事件の捜査を担当することになった刑事が、容疑者と思われる美しい3人姉妹の色香に惑わされ、次第に恐るべき罠へとハマっていく。一応、海外の文献や資料ではジャッロ映画として分類されているものの、どちらかというとホラー・タッチのエロティック・スリラーといった仕上がり。計算されたストーリー展開とスタイリッシュな映像が魅力の意外な佳作だ。
 舞台は古都ブダペスト。若くてハンサムな刑事アレクサンドルは、殺人事件の通報を受けて現場へと駆けつける。しかし、そこには肝心の死体がなかった。通報したのはヴィダ、リュドミラ、そしてシシーの3姉妹。洗濯機の中で男の死体を発見したというのだが、それぞれの証言は大きく食い違っている。その上、姉妹たちの普通ではない言動に、アレクサンドルは戸惑いを隠せなかった。
 果たして、本当に殺人事件はあったのか?それとも、彼女たちの妄想の産物なのか?やがて、姉妹と深い関わりのあった一人のヤクザの失踪が明るみとなる。3人の美女とヤクザの奇妙な関係。事件の真相を探り始めたアレクサンドルだったが、そんな彼を謎めいた姉妹たちはまるで弄ぶかのように誘惑していく…。
 イタリア産娯楽映画の衰退もあって、当時は思うように映画を撮らせてもらえなかったデオダート監督。本作などは食うために引き受けた仕事だったと言われているが、作品そのものの出来栄えはなかなか悪くない。特に、ブダペストの美しいロケーションを存分に生かした映像は
実に洗練されており、モダンな様式美で統一された官能シーンも見応えがある。80年代のティント・ブラス作品を彷彿とさせると言っても良かろう。
 また、シュールで複雑怪奇なストーリーやキャラクター描写も興味深いし、共産党崩壊後のハンガリーの世相を皮肉った風刺が随所に散りばめられているのも面白い。デオダート監督にとって代表作とは呼べないかもしれないが、少なくともそれまでに手掛けた『ダイヤル・ヘルプ』(88)や『グレート・バーバリアン』(87)などよりは遥かに良くできた映画だと思う。

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真夜中に洗濯機から真っ赤な血が…

リュドミラはユーリの死体を発見してショックを受ける

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通報を受けて駆け付けた刑事アレクサンドル(P・キャロワ)

謎めいた様子でアレクサンドルを見つめる姉妹たち

 ブダペスト市内の古い邸宅。深夜に帰宅したヴィダ(カタルジーナ・フィグラ)とヒモのユーリ(ヨルゴ・ボヤギス)は激しい口論を交わしていた。薄ら笑いを浮かべながらその様子を見守るリュドミラ(バルバラ・リッチ)。やがて、ヴィダとユーリの怒鳴り合いは動物のようなセックスへ。リュドミラが物影から黙って眺めていると、眠っていたシシー(イラリア・ボレッリ)が起きてきた。姉妹は黙ってユーリを家から追い出す。
 その晩、リュドミラは洗濯機から血のようなものが流れ出ていることに気付く。ふたを開けると、中にはユーリの死体が。驚いて悲鳴を上げたリュドミラは足を滑らせ、床に頭を強く打ちつけて気を失った。姉妹からの通報を受けて警察のアレクサンドル・スタチェフ刑事(フィリップ・キャロワ)が駆けつける。だが、洗濯機の中にあるはずの死体は影も形もない。リュドミラはユーリの死体を発見したと言い張るが、気絶した彼女を助けたヴィダやシシーは死体を見ていなかった。死体がなければ殺人事件は成立しない。そもそも、姉妹はユーリを巡って対立しているようだ。嫉妬心に駈られたリュドミラの狂言なのではないか。バカバカしい、としかアレクサンドルには思えなかった。
 夜になって、アレクサンドルの自宅にリュドミラから連絡が入る。たまたま居合わせた恋人イリーナ(クラウディア・ポッツィ)が電話を受けた。なぜ、彼女がアレクサンドルの電話番号を知っているのか?イリーナは怪訝そうな顔をする。指定された待ち合わせ場所へ向かうアレクサンドル。すると、娼婦のような恰好をしたヴィダが彼を呼びとめた。まるでリュドミラと落ち合うことを邪魔するかのように。その奇妙な誘惑を適当にあしらうアレクサンドル。しかし、待ち合わせ場所にリュドミラは現れなかった。
 助手のニコライ(ローレンス・レニエ)にユーリの身辺を探らせたアレクサンドルだったが、なぜか彼に関するファイルは行方不明だった。プールで水泳のトレーニングをするアレクサンドルの前にリュドミラが突然現れ、ユーリが書いたという手紙の束を差し出す。ユーリはシシーを口説いていたというのだ。そのことを知ったヴィダが嫉妬心でユーリを殺したのか?シシーはヴィダがユーリの死体を隠したのではないかと証言する。が、ヴィダは手紙の筆跡がユーリのものではないと断言し、彼の自宅から出てきた書類によってそのことを立証する。しかし、ユーリの自宅は何者かによって荒らされていた。暗いアパートで二人きりになったアレクサンドルとヴィダは激しく肉欲に溺れる。
 ニコライによると、ドイツ人の麻薬密売人の顧客リストにユーリの名前があったという。イリーナはリュドミラが危険な女であるとアレクサンドルに警告する。その晩、彼の自宅にリュドミラが押しかけ、不可解な言動でアレクサンドルを困惑させる。夕飯の後、イリーナはアレクサンドルの洗濯機から真っ赤な液体が流れ落ちているのを発見。だが、それはリュドミラが脱ぎ捨てていったパンティの染料だった。
 翌日、アレクサンドルはシシーからも改めて証言を得る。彼女によると、あの晩テーブルの上に血だらけの手首が置かれていたが、ペットの猫が食べてしまったのだという。そう、ユーリの死体は猫に食べられた。シシーは平然とした顔で断言する。すっかりワケの分からなくなったアレクサンドルは、シシーの後を追って美術館へ。彼女はボランティアで盲人たちに美術館を見学させていた。その盲人たちに囲まれながら、シシーはアレクサンドルを誘惑する。
 すっかりシシーに溺れていくアレクサンドル。彼は秘かにSM趣味を持っていたが、姉妹と関わるうちにフェティッシュな妄想が肥大化していく。そのことを知ったイリーナは激しいショックを受けた。やがて、麻薬密売人の証言から、通報のあった前日にユーリが確かに姉妹の自宅にいたことが判明する。そのことを問い詰めようとしたアレクサンドルだったが、リュドミラからすすめられたお茶に薬物が混ぜられており、もうろうとする意識の中で悪夢のような幻覚を見る。
 何が現実で何が妄想なのか?もはや判断力を失ったアレクサンドルは、シシーを連れて遠くへ逃げようと計画する。だが、一連の出来事の裏には彼の全くあずかり知らない策略が張り巡らされていた…。

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アレクサンドルを誘惑するヴィダ

恋人イリーナ(C・ポッツィ)は姉妹の存在に異様なものを感じる

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芸術肌のシシー(I・ボレッリ)はユーリに言い寄られていた

エキセントリックな行動をエスカレートさせるリュドミラ

 不条理な筋立てが見る人を選びそうな作品ではあるものの、そこにはポスト社会主義の時代におけるハンガリー社会の不確実性であったり、資本主義へ移行する過程で渦巻く人々の欲望や野心、激変する時代に取り残された人々の閉塞感などが複雑にコラージュされており、一種独特の世界観を作り出しているとも言えよう。『食人族』のデオダート監督…という先入観を持って見ると“意外”だと思われる向きもあるかもしれないが、あの作品にしても文明論的・社会論的な側面が濃厚だったことを忘れてはならない。そういった意味では、非常にデオダート的なスリラー映画だとも言えるのではないだろうか。
 脚本を手掛けたルイジ・スパニョールは主にテレビで活躍する脚本家で、イタリアでは6年間も続いた人気犯罪ドラマ“Carabinieri”(02〜08)のシナリオライターとして活躍した人物。また、撮影には『食人族』(80)や『真夜中の狂気』(80)などデオダートとも縁の深いカメラマン、セルジョ・ドフィッツィが携わっている。ちなみに、本作は謎めいた美しき3人姉妹に翻弄される男を描いたホラー・ミステリーという内容において、トニーノ・チェルヴィ監督の『火の森』(70)との共通点が多いと言えるのだが、そういえばあの作品もドフィッツィが撮影監督を務めていた。
 そして、音楽スコアを担当しているのがゴブリンのクラウディオ・シモネッティ。シンセサイザーを多用したプログレ的サウンド・プロダクションはいかにも彼らしい風情ではあるが、よりクラシカルな重厚感を漂わせたメロディには一連のアルジェント映画におけるスコアとちょっと違った趣がある。アルジェント絡みの仕事以外では最も完成度の高い作品なのではないかと思う。
 そのほか、『ケオマ・ザ・リベンジャー』(77)や『ジョーズ・リターンズ』(80)、『ブロンクスからの脱出』(83)などエンツォ・G・カステラーリ作品に欠かせないジャンフランコ・アミクッチが編集を、『愛のエマニエル』(75)や『超人ヘラクレス』(83)のアドリア―ナ・スパダーロが衣装デザインを手掛けている。

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ユーリの死体は猫が食べたと平然とした顔で述べるシシー

事件の夜にユーリが姉妹宅にいたことを知ったアレクサンドルだが…

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もうろうとする意識の中でアレクサンドルは悪夢のような幻覚を見る

シシーに溺れていくアレクサンドル

 主人公の刑事アレクサンドル役に扮しているのは、フランス版『俺たちに明日はない』とも言えるアクション映画『ゲッタウェイ/狼たちの逃走』(87)で無軌道な若者を演じていたフィリップ・キャロワ。最近ではフランス版『CSI:科学捜査班』として人気を集めているドラマ“R.I.S. Police scientifique”(06〜)にも出演している俳優だ。
 3人姉妹の長女ヴィダ役のカタルジーナ・フィグラはポーランドのトップ・スターで、ポーランド映画賞(ポーランド版オスカー)の主演女優賞も獲得したことのある実力派女優。ハリウッドスターを夢見るウェイトレス役で主演を務めた映画『モンローに憧れて』(87)は国際的にも高い評価を受け、ここ日本でも当時はけっこう話題になった。
 情緒不安定で挙動不審な次女リュドミラ役を演じているのは、テレビを中心に活躍するイタリアの中堅女優バルバラ・リッチ。また、小悪魔的な三女シシー役には、当時イタリアで売り出し中だったセクシー女優イラリア・ボレッリが起用されており、全盛期のアゴスティナ・ベッリを彷彿とさせるコケティッシュな魅力を存分に発揮している。
 そして、姉妹と奇妙でアブノーマルな関係を続けるヤクザな男ユーリ役として、『その男ゾルバ』(64)や『最後の谷』(71)などで知られるギリシャの名優ヨルゴ・ヴォヤギスが登場。さらに、アレクサンドルの隣人役としてデオダート監督自身がチラリと顔を出している。

 

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