イタリアン・カルト・ホラー傑作選

 

La casa dalle finestre che ridono (1976)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未公開

THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-DVD.JPG
(P)2002 Image Entertainment (USA)
画質★★★★☆ 音声★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/5.1chDTSサラウンド・モノラル/声:イタリア語/字幕:英語/地域コード:1/
106分/製作:イタリア

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
オリジナル劇場予告編
ロビーカード・ギャラリー
フィルモグラフィー集
監督:プピ・アヴァティ
製作:ジャンニ・ミネルヴィーニ
    アントニオ・アヴァティ
脚本:アントニオ・アヴァティ
    プピ・アヴァティ
    ジャンニ・カヴィーナ
    マウリツィオ・コスタンツォ
撮影:パスカーレ・ラキーニ
音楽:アメデオ・トマーシ
出演:リーノ・カポリッキオ
    フランチェスカ・マルチアーノ
    ジャンニ・カヴィーナ
    ヴァンナ・ブソーニ
    ジュリオ・ピッツィラーニ
    ボブ・トネッリ
    ピエトロ・ブラムビッラ
    ピーナ・ボリオーネ

THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-1.JPG THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-2.JPG

田舎町へやって来た青年画家ステファーノ(L・カポリッキオ)

ステファーノは町でただ一つの教会へと案内される

 日本では『追憶の旅』(83)や『いつか見た風景』(89)など、ノスタルジックで心暖まる群像劇で親しまれているイタリアの名匠プピ・アヴァティ。しかし、その一方で優れたホラー映画作家としても国際的な知名度が高い。中でも傑作として名高いのが、この“La casa dalle finestre che ridono(笑う窓の家)”である。
 デビュー作“Thomas e gli indemoniati”(トマスと悪魔に取り憑かれた者たち)”(70)以来、たびたび宗教色の強いホラー作品を手掛けてきたアヴァティ監督。彼にとって“宗教と死”というものは、幼い頃からの永遠のテーマなのだという。
 故郷エミリア・ロマーニャ地方の小さな町で育った彼は、教会の牧師や学校の先生から地獄や悪魔の恐ろしさについて語り聞かされ、第二次世界大戦の恐怖の中で死と隣り合わせの幼少期を過ごした。そうした経験が、自らの人格形成に大きな影響を与えたというのだ。
 それゆえに、彼の作品では“宗教と死”が常に重要なテーマとなっている。一連のホラー映画のみならず、死の床に就いた老女が青春時代を回顧する『追憶の旅』や十字軍に参加した若者たちの青春を描く『ナイト・オブ・ゴッド』(01)、戦後混乱期の庶民生活を描いた『二度目の結婚』(05)に至るまで。物語の切り口や語り口こそ全く違えど、“宗教と死”というものを見つめる彼の視線は常に一貫していると言えよう。
 アヴァティにとってホラーやコメディ、歴史ドラマといったジャンルは、単に自らの物語を表現するための手段でしかないのだろう。経済的な理由から娯楽映画と芸術映画を行き来する監督は珍しくないが、彼の場合にはそれがまったく当てはまらないのである。そう考えると、プピ・アヴァティという人は非常にユニークなポジションを確立した映画作家と言えよう。
 で、この“La casa dalle finestre che ridono”。イタリアン・ホラー・ファンの間では“ジャッロ”の延長線上にある作品と見なされることが多いものの、どちらかというと『ウィッカーマン』の流れを汲む宗教ミステリーと言えるかもしれない。
 主人公である青年画家は、とある田舎町の教会に残されたフレスコ画の修復を依頼される。そのフレスコ画にまつわる謎を究明するうち、彼は町の人々がひた隠しにしてきた恐るべき秘密を知ってしまうのだ。閉鎖的な田舎町とそこに住む奇妙な人々、不気味な宗教画とその裏に隠された血生臭い歴史。そこには、アヴァティ監督が幼い頃に見聞きした、様々な悪夢のイメージが反映されている。宗教は恐怖によって人間の心を支配し、人間の心は恐怖によって歪んでいく。そして、その歪んだ心は生贄を求め、邪悪な方法によって人類最大の恐怖である“死”を克服しようとする。これは“宗教と死”が引き起こす負の連鎖を描いた物語なのだ。

THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-3.JPG THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-4.JPG

教会の壁に描かれたフレスコ画の修復を依頼されるステファーノ

友人アントニオ(G・ピッツィラーニ)は何かに怯えていた

THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-5.JPG THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-6.JPG

ステファーノは古い屋敷に間借りすることとなる

屋敷には寝たきりの老女(P・ボリオーネ)が一人で暮らしていた

 1950年代のエミリア・ロマーニャ地方。とある小さな町に、ステファーノ(リーノ・カポリッキオ)という青年画家がやって来た。彼は、町で唯一つの教会に残されたフレスコ画を修復するために招かれたのだ。そのフレスコ画というのは、20年前に死んだレニャーニという画家が描いたものだった。“苦悶の画家”という異名で知られたレニャーニは、“人間の死”をテーマに数多くの作品を残している。地元では伝説的な存在だったが、その特異性ゆえに一般的な知名度は低かった。
 戦時中はナチ親衛隊の本部として使われていたという教会に足を踏み入れたステファーノは、問題のフレスコ画を目の当たりにして足がすくんだ。それは“聖セバスチャンの殉教”を題材にしたもので、驚くべきほどの生々しさで描かれていた。
 ところが、町に到着したその日から、彼の周囲では不可解なことが起きる。ホテルには“フレスコ画に指を触れるな”という怪しげな匿名電話がかかり、フレスコ画の脇には墓石用の花が生けられていた。また、彼の旧友アントニオ(ジュリオ・ピッツィラーニ)も何かに怯えている様子だ。
 アントニオは、町の水質調査のため一足先に派遣された学者。フレスコ画の修復にステファーノを推薦したのも彼だった。その絵にまつわる恐ろしい秘密を知ってしまったと語るアントニオだったが、明らかに周囲の目を気にして落ち着かない。まるで町の人々のことを恐れているようだった。
 確かに、小人の町長ソルミ(ボブ・トネッリ)以下、町の人々はどこか漠然として奇妙だ。しかし、閉鎖的な田舎町ゆえに部外者慣れしていないのだろう。そう考えて気にも止めなかったステファーノ。しかし、そんな彼の目の前で、アントニオがホテルの窓から落下して死んでしまった。カーテンの奥でうごめく人影。明らかにアントニオは突き落とされたのだ。しかし、現場に居合わせた人々は誰もが投身自殺だったと証言する。ステファーノは、この時から何かがおかしいと考えるようになった。
 ホテルを出たステファーノは、寝たきりの老女(ピーナ・ボリオーネ)が暮らす古い豪邸で部屋を借りることになる。夜中に響き渡る不気味な足音。しかし、老女は一人暮らしで、他には誰もいないはず。不思議に思って屋敷内を探ったステファーノは、古いテープ・レコーダーを発見する。そこには、画家レニャーニらしき男の声が録音されていた。
 フレスコ画の修復が進むと、思いもよらなかった絵が現れた。それは、狂乱しながら聖セバスチャンの胸にナイフを突き立てる2人の女性の姿だった。これは何を意味するのか?謎がより一層深まるなか、ステファーノはフランチェスカ(フランチェスカ・マルチアーノ)という若い女性と知り合う。彼女は幼稚園の教師として赴任してきたばかりだったが、町の閉鎖的な雰囲気の中で精神的に追い詰められていた。まるで心の拠り所を求め合うかのように、2人はお互いに惹かれあう。
 町で孤立している人物は他にもいた。運転手のコッポラ(ジャンニ・カヴィーナ)だ。彼に接触したステファーノは、画家レニャーニの謎めいた過去を知る。レニャーニの家庭は貧しく、一家は仕事を求めて南米ブラジルへと渡った。あちらで何をしていたのか定かではないが、その数年後に裕福となったレニャーニと2人の姉が故郷へ戻ってきたという。
 2人の姉は傲慢で支配欲が強く、財産は彼女たちが全て管理していた。町の支配者となった姉たちに抵抗するレニャーニは、自らの体に火をつけたまま森の奥へと消え去ったという。つまり、誰も彼の死を確認したわけではなかったのだ。生前のレニャーニに会った事があるというコッポラに例のテープレコーダーを聞いてもらおうとしたステファーノだったが、なぜかテープの録音は消されてしまっていた。
 そんなある日、ステファーノは屋敷でレニャーニの日記を発見する。“笑う窓の家”と綴られた不可解な文章。そこに挟まれていた2人の姉の写真を見て、彼は愕然とした。それは聖セバスチャンの脇に描かれていた2人の女性と瓜二つだったのだ。
 それを確認した翌日、何者かによってフレスコ画が破壊されていた。教会の司祭や助手の様子も怪しい。誰も信用できなくなったステファーノは、町の秘密を知っているというコッポラに真相を問いただす。実は、レニャーニの姉たちが町にもたらしたのは富だけではなかったのだ。彼女たちは南米のカルト宗教をも持ち込み、人間を生贄として殺していた。その様子を描いたのが例のフレスコ画だった。町の人々もその事実を黙認し、外部から生贄となる人間を調達していた。しかも、その姉たちは今もこの町に住んでいるというのだ。
 半信半疑のステファーノを、レニャーニの仕事場だったという古い家に案内するコッポラ。その建物を見たステファーノは確信した。ボロボロとなった家の窓には、大きく笑うような口が描かれていたのだ。そう、“笑う窓の家”とはこのことだったのである。
 フランチェスカを連れて町を出ることを決意したステファーノは屋敷へ戻る。しかし、彼女の姿はどこにもない。屋敷内に響き渡る笑い声。扉を開けた彼が目にしたものとは・・・!

THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-7.JPG THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-8.JPG

誰もいないはずの屋敷に響き渡る足音

古いテープレコーダーに録音されていたのは・・・

THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-9.JPG THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-10.JPG

運転手コッポラ(G・カヴィーナ)は町の暗い過去を語る

女教師フランチェスカ(F・マルチアーノ)と惹かれあうステファーノ

 ここから物語は更なるどんでん返しが続いていくわけだが、やはりショッキングで後味の悪いクライマックスは何度見ても秀逸。あのオチはさすがに考えてもみなかった。一応、主人公の最終的な運命は観客の想像に委ねられる格好になっているものの、仮に命が助かったとしても救いがないことに変わりはないだろう。
 物語のディテールにこだわっている分、アヴァティ監督の演出は全体的にかなりテンポが遅い。また、ミステリアスなムードと映像美に重点が置かれているため、イタリアン・ホラーの醍醐味とも言えるセックスやバイオレンスの直接描写に乏しい。その点は、やはりプピ・アヴァティという監督の個性と作家性に負うところが大きいと言えるだろう。
 最も影響を受けた映画監督としてフェリーニの名を挙げ、最も好きなホラー映画はクルーゾーの『悪魔のような女』だと語るアヴァティは、“イタリアのファンタスティック映画には特筆すべき作品などないし、引き合いに出すような作家も思い当たらない”と言い切る。つまり、彼の場合は語るべき物語がたまたまホラーだったというだけのことで、特に意図してホラー映画を撮っていたわけではないのだ。それゆえに、いわゆるイタリアン・ホラーの伝統とは一線を画した異端児的作品が出来上がったのだろう。
 もともと脚本を書いたのはプピ・アヴァティと兄アントニオの2人。撮影の5〜6年前に書き上げていたが満足せず、そのままお蔵入りにしていたらしい。アル・レッティエリ主演の風刺コメディ“Bordella”(76)が大ヒットしたことから、ボーナスとして低予算で好きな映画を1本撮っていいと映画会社に持ちかけられ、選んだのがこの作品だったというわけだ。
 無名時代からの親友である脚本家マウリツィオ・コスタンツォと俳優ジャンニ・カヴィーナと共に脚本を書き直したアヴァティは、予算を切り詰めるため現場スタッフを12人に絞り、ポスト・プロダクションも含めて5週間で作品を完成させた。
 撮影監督のパスカーレ・ラキーニを筆頭に、音楽のアメデオ・トマッシや助監督のチェザーレ・バステッリなど、スタッフのほとんどがアヴァティ作品の常連組。それぞれが現場で幾つもの役割を兼任し、アヴァティ曰く“家内工業的”な雰囲気の中で撮影が進められたという。
 絵画のように美しい映像とミステリアスで奥深いストーリー。とても短期間で仕上げられた低予算映画とは思えないような仕上がりだが、アヴァティ自身は“恐怖映画としては良く出来た作品だと思うが、個人的にはあまり好きではない”と語る。この7年後に似たような題材を扱った『ゼダー/死霊の復活祭』(83)という作品を撮ることになるわけだが、やはりなにかやり残してしまったという思いがあったのかもしれない。

THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-11.JPG THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-12.JPG

ステファーノは画家レニャーニの日記を発見する

フレスコ画に描かれた二人の女性はレニャーニの姉たちだった

THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-13.JPG THE_HOUSE_WITH_LAUGHING_WINDOWS-14.JPG

“笑う窓の家”を目の当たりにするステファーノ

屋敷に戻ったステファーノが見たものとは・・・!?

 主人公の青年画家ステファーノ役を演じるリーノ・カポリッキオは、巨匠ヴィットリオ・デ・シーカの『悲しみの青春』(70)でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の特別賞を受賞したイタリアの2枚目スター。脚本が送られてきた当初は目を通すことすらしなかったというが、先に読んだ妻が“恐くて眠れなかった”と言ったことから俄然興味を持ったという。これをきっかけにアヴァティと親しくなり、『モーツァルト/青春の日々』(84)など数多くの作品に出演している。
 ヒロインのフランチェスカ役を演じているフランチェスカ・マルチアーノは、女優としてよりも脚本家としての方が有名だろう。イタリアの国民的コメディアン、カルロ・ヴェルドーネ作品の脚本を数多く手掛け、世界的にヒットしたサスペンス映画『ぼくは怖くない』(03)では各国の映画賞にノミネートされた。女優としては大成しなかったようだが、マリア・シュナイダーに似た雰囲気はなかなか存在感がある。
 一方、町のはみ出し者である運転手コッポラ役のジャンニ・カヴィーナは、デビュー作“Thomas e gli indemoniati”(70)以来アヴァティ作品の常連として数多くの作品に出演している名優。“Festival”(96)ではシルバー・リボン賞の主演男優賞も受賞し、今年公開予定の最新作“Gli amici del bar Margherita”(09)にも出演するなど、プピ・アヴァティ作品の顔とも言える存在だ。
 その他、アントニオ役のジュリオ・ピッツィラーニや町長役の小人俳優ボブ・トネッリ、警官役のフェルディナンド・オルランディなど、アヴァティ作品の常連俳優たちが脇を固めている。

 

ゼダー/死霊の復活祭
Zeder (1983)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本発売済

ZEDER-DVD.JPG
(P)1999 Image Entertainment (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/
98分/製作:イタリア

映像特典
なし
監督:プピ・アヴァティ
製作:アントニオ・アヴァティ
    ジャンニ・ミネルヴィーニ
脚本:アントニオ・アヴァティ
    プピ・アヴァティ
    マウリツィオ・コスタンツォ
撮影:フランコ・デリ・コリ
音楽:リズ・オルトラーニ
出演:ガブリエル・ラヴィア
    アンヌ・カノーヴァ
    パオラ・タンジアーニ
    チェザーレ・バルベッティ
    ボブ・トネッリ
    フェルディナンド・オルランディ
    ピーナ・ボリオーネ

ZEDER-1.JPG ZEDER-2.JPG ZEDER-3.JPG

霊能者の少女ガブリエラが特定した場所とは・・・?

地中から白骨死体が発見される

死体の身元を知って驚くメイヤー博士(C ・バルベッティ)

 まるで『死霊の盆踊り』みたいな邦題には正直なところ首を傾げてしまうが、どうやら海外でも“ゾンビ映画”として宣伝・公開された国が少なからずあったらしい。80年代といえばゾンビ映画やスプラッター映画の全盛期。映画を“売りたい”側の気持ちとしては分からないでもないのだが、誤ったマーケティングは観客を裏切るだけでしかないだろう。プピ・アヴァティが7年ぶりにホラー映画に挑んだ本作。ゾンビや死霊など出てこないのは勿論のこと、セックスもバイオレンスも殆んど描かれない、正統派の怪奇ミステリーに仕上がっている。
 主人公は若手の作家ステファーノ。中古のタイプライターを手に入れた彼は、インク・リボンに残された元の持ち主の文章を発見する。そこに記された謎を究明するうち、彼は死者を蘇らせるという古代宗教の聖地“Kゾーン”と、その伝説を研究する科学者たちによって組織されたカルト集団の存在へとたどり着く。
 “La casa dalle finestre che ridono(笑う窓の家)”で平和な田舎町の裏に潜むカルト宗教の恐怖を描いたアヴァティ。本作ではさらにそこから一歩踏み込み、現代社会の背後でうごめくカルト集団の存在と、歴史の彼方に葬り去られた古代宗教の恐怖を描いている。
 例によって例のごとく、アヴァティ監督は細かいディテールの積み重ねによって、徐々に恐怖を盛り上げていく。バラバラに散りばめられたパズルを一つ一つ丁寧に組み合わせていくのだ。アルジェントのような辻褄あわせもなければ、フルチのようなショック演出も殆んど用いられていない。まるで分厚い推理小説を読むかのごとく、少しづつ少しづつ謎の核心へと迫っていくのである。それゆえに、少なからず忍耐力が必要とされる作品と言えるかもしれない。
 また、本作の特に素晴らしい点であり、同時に好き嫌いの真っ二つに別れる点でもあろうと思われるのが、最も重要な事柄を観客の想像に委ねているということだ。科学者たちによるカルト集団の正体とは何なのか?一体どういう組織なのか?彼らのスポンサーであるビッグ氏とは何者なのか?死者が蘇るとされるKゾーンとは結局何なのか?死んだ者たちは本当に蘇ったのか?それとも単に仮死状態だっただけなのか?
 ハッキリと言えることは、科学者たちが長い歳月をかけて研究を進めてきたこと、そして、Kゾーンと呼ばれる地帯には、何かとてつもなく邪悪な空気が潜んでいるということ。それ以外は余計な説明が一切なされないのだ。だからこそ、より一層のこと恐怖感が盛り上がるわけだし、言葉では言い表せない説得力というものが生まれる。裏を返せば、それだけ観客の知性と想像力が試されるというわけだ。なので、即物的な恐怖を求めるホラー映画ファンには、ちょっとオススメ致しかねるところだろう。
 死者を蘇らせる特定の場所“Kゾーン”という発想も、後の『ペットセメタリー』を先駆けていて興味深い。しかも、哀しくも残酷なクライマックスまで『ペットセメタリー』にそっくり。スティーブン・キングが『ペットセメタリー』の原作を書いたのは、この翌年にあたる1984年のこと。果たして単なる偶然なのか、それとも・・・?

ZEDER-4.JPG ZEDER-5.JPG ZEDER-6.JPG

ステファーノ(G・ラヴィア)は妻からタイプライターを贈られる

インクリボンには前の持ち主の書いた文章が

宗教学者ケシー教授(J・ステイシー)を訪ねたステファーノ

 物語は1956年のフランスに始まる。とある古い館で老女(ピーナ・ボリオーネ)の惨殺死体が発見された。この近辺では立て続けに3人が殺されている。警察と行動を共にする科学者メイヤー博士(チェザーレ・バルベッティ)は、殺害現場となった館に霊能者の少女ガブリエラを連れてきた。
 やがて、真夜中になると屋敷の中で異変が起きる。建物全体が揺れ、床が歪み始めた。ガブリエラを地下室へ連れて行ったメイヤー博士は、彼女にある“場所”を特定させる。そこを掘り返したところ、地中から白骨化した遺体が出てきた。その脇に置かれた財布の中から身分証が発見される。名前はパオロ・ゼダー。ようやく見つけた、とメイヤー博士は呟く。そして、彼は改めて確信するのだった。ここがKゾーンに違いない・・・と。
 時は移って現代のボローニャ。作家ステファーノ(ガブリエル・ラヴィア)は、妻アレッサンドラ(アンヌ・カノーヴァ)から誕生日プレゼントとして中古のタイプライターを贈られた。深夜に原稿を書き始めたステファーノは、前の持ち主の文章がインク・リボンに残されていることに気付く。試しにその文章を書き写してみた彼は、その謎めいた内容に興味をそそられる。
 それは何らかの古代宗教にまつわる研究文らしく、死者を蘇らせる場所“Kゾーン”について書かれていた。知人で宗教学者のケシー教授(ジョン・ステイシー)のもとを訪れたステファーノは、かつて“Kゾーン”の研究をしていた学者パオロ・ゼダーの存在を知る。
 太古の昔から人類は不思議な力の宿る場所を信じ、そこを宗教の聖地として神殿や墓地などを建ててきた。その場所では時の概念などないに等しく、それゆえに死者が蘇ることもあるという。つまり、不老不死の土地なのだ。パオロ・ゼダーはその土地を“Kゾーン”と名づけ、その場所の研究と特定に生涯を捧げたのだ。
 当然のことながら、ゼダーは世間から異端のレッテルを貼られ、その研究は闇に葬り去られた。まともに取り合うべきではないと忠告するケシー教授だったが、ステファーノは一層のこと興味をかきたてられる。
 タイプライターは友人の刑事グイド(アレッサンドロ・パルテクサーノ)から譲られたものだった。グイドによると、もともとの持ち主はドン・ルイジという牧師だという。早速、教会へ向ったステファーノだったが、何かを隠している様子のドン・ルイジに追い返されてしまった。怪訝に思った彼が再び教会を訪れると、応対に出た牧師ドン・エミリオ(アドルフォ・ベレッティ)から意外な事実を知らされた。ドン・ルイジは1年前から行方不明なのだという。だとすれば、先ほど会った男は誰だったのか?
 ドン・エミリオによれば、ドン・ルイジは精神面と健康面の両方に問題を抱えていたという。子供達を連れてサマー・キャンプに出かけた彼は、その頃から邪教的な妄想を抱くようになった。さらに癌に冒されていることが判明し、精神的なバランスを崩してしまったらしい。
 キツネに鼻をつままれたような状態で家に戻ったステファーノ。そこへ、ケシー教授の教え子である女性アンナ(マリア・テレサ・トファーノ)から電話が入る。パオロ・ゼダーの秘密を知っていると語るアンナと深夜に待ち合わせをしたステファーノだったが、結局彼女は姿を現さなかった。サングラスをかけた何者かによって、アンナは殺害されていたのだ。
 そうとは知らないステファーノは、手がかりを求めてドン・ルイジの自宅を訪れた。盲目の妻によると、ドン・ルイジは既にこの世を去っているという。許可を得てドン・ルイジの部屋を調べたステファーノは、友人の刑事グイドが胸につけていたものと全く同じ銀のバッジを発見した。不思議に思って警察に電話をかけるが、既にルイジは転勤になったという。
 アレッサンドラと共にドン・ルイジの自宅前に待機していたステファーノは、未亡人が出てくるのを目撃した。傍らに付き添っているのは、ドン・ルイジを名乗っていた謎の男(フェルディナンド・オルランディ)だ。後をつけてみると、どうやら墓参りをするらしい。アレッサンドラがその様子を探ってみると、未亡人が訪れていたのは赤の他人の墓だった。目の見えない未亡人は、それを夫の墓だと思い込んでいるようだ。
 ドン・ルイジが入院していた病院の医師によると、本人の強い希望でスピーナの地下墓地に埋葬されたのだという。実際に現地を訪れたステファーノは、墓の中身が空っぽであることに気付いた。これ以上深入りして欲しくないというアレッサンドラの希望もあり、ボローニャに戻ろうとしたステファーノ。しかし、墓地の傍にある古代遺跡に気付いた。そこは、古代ローマ時代の墓地だという。つまり、神聖な場所だ。だとすれば、ドン・ルイジがこの地に埋葬を希望したのも辻褄が合うかもしれない。彼は、ようやく謎を解く鍵が見つかった気がした。
 その頃、“Kゾーン”をめぐる研究を進めている謎の集団がいた。そのリーダーはメイヤー博士と大人になったガブリエラ(パオラ・タンジアーニ)の2人。有力者らしき小人の男性ビッグ氏(ボブ・トネッリ)から膨大な資金の提供を受けた彼らは、とある廃墟に無数のビデオ・モニターを持ち込み、地中に埋められた棺桶を24時間監視している。その棺桶に入れられているのは、ほかでもないドン・ルイジその人だった。
 その廃墟とは、かつて子供たち向けのサマー・キャンプ施設として利用された建物だった。しかも、スピーナの古代遺跡のすぐ隣にある。その目の前で営業している安宿に泊まったステファーノは、地元の人から正体不明のフランス人たちが廃墟を購入したこと、彼らが大量の機材を建物の中に持ち込んだこと、そしてその土地では昔から死体が腐らないという言い伝えがあることを聞く。
 自分の追い求める謎の答えがそこにあると確信したステファーノは、一人で廃墟の中へと足を踏み入れるのだったが・・・。

ZEDER-7.JPG ZEDER-8.JPG ZEDER-9.JPG

ケシー教授の教え子アンナが何者かに殺される

妻アレッサンドラ(A・カノーヴァ)と共に謎を追う

廃墟に大量の機材を持ち込む謎の科学者集団

 不老不死の秘密というのは太古の昔から人類が追い求めてきたもの。しかし、それは自然の摂理に反する禁断の領域でもある。文明社会の裏側で脈々と受け継がれる錬金術的な世界と、その魔力に見せられた人々。警察から政治家、医者、学者に至るまで、あらゆる人々が実は“Kゾーン”を巡って秘密結社的に繋がっていた、という後半の展開も面白いし、不老不死の果てに待ち構えている恐るべき結末も皮肉に満ちていて秀逸だ。
 “La casa dalle finestre che ridono(笑う窓の家)”では閉鎖的なコミュニティーの中に広がるカルト宗教の恐ろしさを描いていたアヴァティだが、本作ではさらにスケールを広げることにより、“死”という逃れられない運命を前にした人間の無力と哀れを描いていく。死とは誰もが受け入れねばならないもの。それを拒絶しようとすれば、恐ろしい天罰が下るかもれない。その疑問符を投げかけたところで終るのが、本作の最も優れている点だといえよう。
 脚本を手掛けたのはアヴァティと兄アントニオ、そして盟友マウリツィオ・コスタンツォの3人。当時アヴァティはイタリア国内でヒット・メーカーとしての地位を確立しており、撮影のトニーノ・デリ・コリや音楽のリズ・オルトラーニ、編集のアメデオ・サルファなど、一流のスタッフを集めて撮影に臨んだ。
 しかし、本作で初めて仕事をするスタッフも多く、現場では意見の衝突も絶えなかったという。それだけに、アヴァティ自身にとっては、実は必ずしも満足できる仕上がりではなかったようだ。“タイプライターのアイディアは我ながら傑作だったと思う”としながらも、“撮影が進行するうちに尻つぼみになってしまった作品だ”と後のインタビューで告白している。もちろん、志の高い完璧主義者ゆえの言葉なのだろう。芸術家が自作に満足してしまったらオシマイなのである。

ZEDER-10.JPG ZEDER-11.JPG ZEDER-12.JPG

夫の身の上を案じるアレッサンドラだったが・・・

Kゾーンで多発する殺人の謎とは?

廃墟の中に足を踏み入れたステファーノ

 主演のガブリエル・ラヴィアは日本では知名度が低いものの、イタリアでは名の知られた人気俳優。『デアボリカ』(74)のヒロインの夫役や『サスペリアPARTU』(75)のゲイのピアニスト役で記憶しているホラー・ファンも多いだろう。映画監督としても数多くのヒット作を世に送り出している才人だ。ただ、アヴァティ監督とは現場での折り合いが悪かったらしく、“人間としては完璧だが、プロとしては疑問が残る”と監督は語っている。その真意は定かでないものの、確かに時折演技過剰が鼻につくのは気になるところ。
 妻アレッサンドラ役を演じているアン・カノーヴァはフランスの出身で、ロバート・アルトマンの『プレタポルテ』(94)ではソフィア・ローレンらと共にナショナル・ボード・オブ・レビューのアンサンブル演技賞を受賞している女優。フランソワーズ・ファビアンにも似た、華やかな雰囲気が魅力だ。
 そのほか、イタリアでは声優としても有名なチェザーレ・バルベッティがメイヤー博士を、マリオ・バーヴァの『知りすぎた少女』(63)やフェリーニの『81/2』(63)などにも出ていたアメリカ人俳優ジョン・ステイシーがケシー教授を演じており、ボブ・トネッリやフェルディナンド・オルランディなどアヴァティ組の常連俳優も顔を揃えている。

 なお、上記のアメリカ盤及び日本盤のDVDは画面左右をカットしたトリミング・バージョン。本来の16:9バージョンはイタリア盤DVDで鑑賞することが出来る。

 

狼女の伝説
La lupa mannara (1976)
日本では劇場未公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済
※日本盤DVDはトリミング・バージョン

WEREWOLF WOMAN-DVD.JPG
(P)2003 Shriek Show (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/98分/製作:イタリア

映像特典
R・ディ・シルヴェストロ監督インタビュー
オリジナル劇場予告編
スチル・ギャラリー
オリジナル・アート・ギャラリー
ポスター・ギャラリー
監督:リーノ・ディ・シルヴェストロ
製作:ディエゴ・アルキメーデ
    ミッキー・ザイド
脚本:リーノ・ディ・シルヴェストロ
    レナート・ロッシーニ
撮影:マリオ・カプリオッティ
音楽:ラロ・ゴーリ
出演:アンニク・ボレル
    ダグマー・ラッサンダー
    フレデリク・スタフォード
    レナート・ロッシーニ
    ティノ・カラーロ
    エリオ・ザムート
    アンドレア・スコッティ

WEREWOLF WOMAN-1.JPG WEREWOLF WOMAN-2.JPG

闇夜に変身する狼女

村人たちによって火あぶりにされる

 イタリア産トラッシュ映画界の名物監督リーノ・ディ・シルヴェストロが手掛けた人狼ホラー。シルヴェストロといえば、露骨なエログロ描写で悪名高いナチ女囚もの『悪魔のホロコースト』の監督として有名だが、こちらも負けず劣らずの強烈なゲテモノ映画に仕上がっている。
 ヒロインは少女時代にレイプされたことのある女性ダニエラ。祖先が狼人間だったという伝説を知った彼女は、次第に自分が狼女なのではないかという妄想に取り付かれ、次々と人を殺していく。要は、ライカントロフィー=獣化妄想を描いた作品というわけだ。
 一応ドリーム・シークエンスでは狼人間に変身する姿が描かれているものの、基本的にはサイコロジカルな面からライカントロフィーを取り扱った作品。なので、意外とストーリーはまともなのだが、そこはリーノ・ディ・シルヴェストロ監督のこと。見世物小屋的な商売人根性丸出しで、あられもないセックスとバイオレンスがところせましと描かれていく。
 中でも傑作なのは、やはり冒頭の変身シーンだろう。この狼女の特殊(?)メイク・デザインがあまりにもナンセンスで悪趣味。モジャモジャ眉毛に狼の鼻をくっつけただけの顔もビックリだが、毛むくじゃらのオッパイに巨大な乳首が突き出たボディ・スーツにはマジでずっこけた。これだけでも一見の価値はあるに違いない。
 また、主演女優アンニク・ボレルの豪快すぎる狼憑き演技も圧巻。全裸になってオッパイを振り乱し、股間をガンガン突き出しながら狂ったように暴れまわる姿は強烈そのもの。この人、ホントに頭がオカシイんじゃないだろうか?と心配になってしまうくらい凄まじい。
 ゲテモノ映画としての見せ方を心得ている、という意味では、やはりリーノ・ディ・シルヴェストロという人は才能のある監督だったのだろう。映画演出の基礎もしっかり出来ているし、職人監督としては申し分のない仕事ぶりだ。もちろん、内容的に好き嫌いが大きく分かれる作品だとは思うが、70年代のエクスプロイテーション映画を愛するファンには自信を持ってオススメできる作品だと思う。
 ちなみに、上記のアメリカ盤DVDには、リーノ・ディ・シルヴェストロ監督のインタビュー映像が収録されている。自らをイタリア映画界の英雄と名乗り、嬉しそうな顔で自画自賛を繰り広げる姿にイタリアの商売人根性を感じた。いや、感じすぎて大笑いしてしまった。そりゃ、他に褒めてくれる人なんかいないもんな〜(笑)

WEREWOLF WOMAN-3.JPG WEREWOLF WOMAN-4.JPG

悪夢にうなされるダニエラ(A・ボレル)

彼女の祖先は狼人間だったとされている

WEREWOLF WOMAN-5.JPG WEREWOLF WOMAN-6.JPG

姉イレーナが夫ファビアンを連れてアメリカから帰って来た

ファビアンを食い殺すダニエラ

 裕福な父親ネセリ伯爵(ティノ・カラーロ)と郊外の豪邸に暮らす若い女性ダニエラ(アンニク・ボレル)は、真夜中に強烈な悪夢を見てうなされた。それは自らが狼女に変身し、ハンサムな男性を食い殺してしまうというもの。伯爵家の祖先である女性が狼人間だったという伝説があり、彼女はその肖像写真を肌身離さず持っていた。
 娘の様子を心配した伯爵は、親しい医師(エリオ・ザムート)に相談をする。実はダニエラは13歳の時にレイプ被害に遭い、それ以来周囲に心を閉してしまっていた。一人で家の中にこもり、伯爵家に伝わる骨董品や文書に親しむ中で、先祖の狼人間伝説を知ったようだ。その肖像写真が自分の顔に瓜二つだったこともあり、彼女は狼人間伝説に異常なまでの興味を抱いていった。その話を聞いた医師は、ライカントロフィーの危険性が高いと忠告する。
 医師の助言で娘を積極的に外へ連れ出すことにした伯爵。おかげで、ダニエラは健康を取り戻したかに見えた。その頃、アメリカに行っていた姉イレーナ(ダグマー・ラッサンダー)が、夫のファビアン(アンドレア・スコッティ)を連れて帰国する。久々の再会を喜ぶ姉妹だったが、ファビアンの姿を見てダニエラは動揺を隠し切れなかった。夢の中に出てきたハンサムな男と瓜二つだったからだ。
 夜空の満月を眺めながらうつろな表情を浮かべる妹を心配するイレーナ。食事が済んで寝室へ戻ったイレーナとファビアンは、激しいセックスに溺れる。その様子を覗き見しながらマスタベーションに耽るダニエラ。
 しかし、物音に気付いたファビアンが寝室から出てきた。ダニエラは急いで外へと逃げ出すが、ファビアンに追いつかれてしまった。すると、彼女は別人のように豹変してファビアンを誘惑する。お互いの肉体を求め合う2人。次の瞬間、ダニエラはファビアンの喉元に噛み付き、狂ったような様子で食い殺してしまった。
 気が付くとダニエラは病院のベッドに寝かされていた。彼女はファビアンと一緒のところを何者かに襲われたものと思われ、病院で治療を受けていたのだ。ショック状態に陥っていたダニエラだが、見舞いに訪れた姉イレーナの姿を見て発狂したように騒ぎ出す。そのあまりにも異常な様子から、医師は彼女をベッドに縛り付けることにした。
 そんなある日、色情狂の女性患者がダニエラの病室に忍び込み、彼女とセックスをしようとする。縄をほどかせたダニエラはハサミで女性患者を刺し殺し、帰宅する女性医師の車に忍び込んで病院を脱走した。さらに、その女性医師を殺害した彼女は近隣の民家へ逃走し、納屋でセックスをしている若いカップルを殺害する。
 次々と起こる殺人事件を捜査するメディカ刑事(フレデリク・スタフォード)は、ダニエラを犯人と睨んで足どりを追っていた。伯爵家を訪れたメディカ刑事は、イレーナの夫ファビアンを殺害したのも恐らく彼女だろうと推測する。それを聞いたイレーナは復讐心を燃やした。
 一方、男を誘惑しては殺して金を奪っていたダニエラは、ルカ(レナート・ロッシーニ)という青年と知り合う。スタントマンをしているルカは天真爛漫で屈託がない。そんな彼に初めて恋心を抱いたダニエラは、過去を捨てて二人で生きていくことを決心する。
 ルカの愛情に恵まれ、幸せな日々を過ごすダニエラ。ライカントロフィーの症状もすっかり消えてしまった。ところが、町へ買い物に出かけた彼女をチンピラ・グループが尾けてくる。夜中に家へと忍び込み、ダニエラをレイプしようとする男たち。そこへ仕事から帰って来たルカが彼女を救おうとするが、逆に刺し殺されてしまった。最愛の人の亡骸を目の当たりにしたダニエラ。ついに、彼女の中の野性本能が目覚めてしまう・・・。

WEREWOLF WOMAN-7.JPG WEREWOLF WOMAN-8.JPG

ダニエラは病院に収容された

ダニエラを見舞う姉イレーナ(D・ラッサンダー)

WEREWOLF WOMAN-9.JPG WEREWOLF WOMAN-10.JPG

病院を脱走したダニエラは次々と殺人を重ねる

ダニエラの足どりを追うメディア刑事(F・スタフォード)

 精神的なトラウマを抱えた女性の悲劇といった按配で、哀れを誘うクライマックスはなかなか良かった。必ずしもゲテモノ映画の一言で片付けることの出来ない作品だとは思う。タランティーノも本作の熱烈なファンで、自らが主催するB級映画祭では毎回必ず最後に本作を上映するほどだという。
 脚本を書いたのはシルヴェストロ監督と俳優のハワード・ロスことレナート・ロッシーニ。撮影を担当したマリオ・カプリオッティはマカロニ・ウェスタンを数多く手掛けたカメラマンで、本作ではデニス・カルという変名を使用。また、音楽を手掛けたラーロ・ゴリもマカロニ・ウェスタンやセックス・コメディなどのスコアで知られる中堅作曲家で、本作ではなぜだかスーザン・ニコレッティという女性名を名乗っている。
 そして、問題(笑)の狼女メイクを手掛けたのが、なんとあのカルロ・ランバルディ。そう、『エイリアン』や『E.T.』など3度のアカデミー賞受賞経験を持つ、イタリアの誇る世界的なSFXマンである。一体全体どうしちゃったんですか!?といった感じのやけっぱちな仕事ぶりに驚かされるが、当時のランバルディは大作『キング・コング』(76)の準備で大忙しだったはず。これを最後にハリウッドへと渡ってしまったわけだが、恐らく限られた時間と少ない予算の中で場当たり的にこなした仕事だったのだろう。本編に名前がクレジットされていないことから察するに、本人としては無かったことにしたいような作品だったのかもしれない。

WEREWOLF WOMAN-11.JPG WEREWOLF WOMAN-12.JPG

素朴な青年ルカ(R・ロッシーニ)と恋に落ちたダニエラ

チンピラたちにレイプされたダニエラは・・・

 主演のアンニク・ボレルはフランス出身のセクシー女優で、70年代初頭からアメリカの低予算映画で色添え的な脇役を務めていた人だ。これが唯一の主演作である。シルヴェストロ監督によると、役者としては素人も同然だったが、演技への入り込み方は半端じゃなかったらしい。狼憑きのシーンでは感情が高ぶりすぎて、カットの掛け声が入っても興奮状態から抜け出せず、監督がそばに行ってなだめなくてはいけないようなことも多々あったという。
 ダニエラの姉イレーナを演じているダグマー・ラッサンダーは、60〜70年代のイタリア映画界を代表するセクシー女優。当時は30代半ばに差し掛かり、脇役に回る事が多くなっていた時期だが、まだまだ十分に色っぽい。本作ではこれといった見せ場がないのは残念だ。
 そんな2人の父親役を演じるティノ・カラーロは、50年代から数多くのイタリア産娯楽映画で脇役を務めてきた名バイプレイヤー。イレーナの夫ファビアンを演じているアンドレア・スコッティも、50年代からスペクタクル史劇やスパイ映画、マフィア映画などに数多く出演してきた2枚目俳優だ。
 また、ダニエラと恋に落ちる青年ルカ役を演じるレナート・ロッシーニはスタントマン出身の俳優で、ハワード・ロスの名前で数多くのマカロニ・ウェスタンやアクション映画に出演している。どちらかというと悪役を演じることが多く、ルチオ・フルチの『ザ・リッパー』(82)の変態男役で記憶している人も多いだろう。
 そして、メディカ刑事役のフレデリク・スタフォードは、ヒッチコックの『トパーズ』(69)に主演していたハリウッド・スター。イタリア映画への出演も多く、『アルデンヌの戦い』(68)や『空爆大作戦』(70)など戦争映画のヒーローとして御馴染みだった。

 

パニック・アリゲーター/悪魔の棲む沼
Il fiume del grande caimano (1979)
日本では劇場未公開・TV放送あり
VHS・DVD共に日本発売済
※米国盤DVD収録のメイキング・ドキュメンタリーは日本盤未収録

THE BIG ALLIGATOR RIVER-DVD.JPG
(P)2005 No Shame (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL/86分/製作:イタリア

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
オリジナル劇場予告編(米版・伊版)
スチル・ギャラリー
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
原作:ジョージ・イーストマン
脚本:チェザーレ・フルゴーニ
    エルネスト・ガスタルディ
    セルジョ・マルティーノ
    マリア・チアレッタ
撮影:ジャンカルロ・フェランド
音楽:ステルヴィオ・チプリアーニ
出演:バーバラ・バック
    クラウディオ・カッシネッリ
    メル・ファーラー
    ロマーノ・プッポ
    ボビー・ローズ
    ロリー・デル・サント
    アニー・パパ
特別出演:リチャード・ジョンソン

THE BIG ALLIGATOR RIVER-1.JPG THE BIG ALLIGATOR RIVER-2.JPG

南海の楽園スリランカに降り立ったダニエル(C ・カッシネリ)ら一行

島では巨大な高級リゾート・ホテルがオープンする

 イタリアの誇る娯楽映画職人セルジョ・マルティーノによる動物パニック・ホラー。風光明媚な南洋のリゾート地を、巨大な人喰いアリゲーターが襲うというのが大まかなストーリーだ。監督自身も認めている通り、明らかに『ジョーズ』の亜流作品なわけだが、そこにジャングルと未開人をプラスしたのがイタリア流といったところか。
 所詮は“パチもの”とバカにされることの多い作品ではあるが、なかなかどうして最後まで十分に楽しめるエンターテインメント作品に仕上がっている。確かにストーリーは安直だし、セリフもナンセンスだし、SFXも今見るとチャチな印象は否めない。でも、ハリボテの巨大アリゲーターは当時としては良く出来ている方だし、粗を隠すためのジャンプ・カットもなかなか手が込んでいて上手い。リゾート地の美しいロケーションや豪華なホテルなど、ビジュアル面でも安っぽさを感じさせないのは立派だ。
 そして、なんと言っても最大の見せ場は、クライマックスの一大パニック・シーンだろう。遊覧船で川下に出た観光客たちが巨大アリゲーターに襲われるのだが、その一方でアリゲーターの出現は白人たちのせいだと思い込んだ原住民たちが観光客の皆殺しにかかる。川と陸から挟みうちに遭った観光客たちは逃げまどい、アリゲーターに食われるわ、原住民たちの矢に射抜かれるわと、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられるのだ。
 とにかく、片っ端から人間が殺されていく様子は実に壮観。はて、こんなにたくさん観光客いたっけ?という素朴な疑問が残るのは玉に瑕だが(笑)、ここまで派手にやってくれれば文句ないだろう。まさしく痛快そのもの。イタリア映画ならではのハッタリが存分に生かされた快作である。

THE BIG ALLIGATOR RIVER-3.JPG THE BIG ALLIGATOR RIVER-4.JPG

社長秘書を務める女性アリス(B・バック)

経営者ジョシュア(M・ファーラー)は横柄で独善的な男

THE BIG ALLIGATOR RIVER-5.JPG THE BIG ALLIGATOR RIVER-6.JPG

村人たちは神の怒りを恐れていた

原住民から神と崇められる巨大アリゲーター

 舞台はスリランカの孤島。美しいジャングルの大自然に囲まれたこの地で、豪華な高級リゾート・ホテルの開業準備が進んでいる。写真家ダニエル(クラウディオ・カッシネッリ)は、ホテルの広告写真を撮影するために現地へ招かれた。
 経営者ジョシュア(メル・ファーラー)は近隣の村人を従業員として雇い、現地人の生活や大自然との融和を強調しているが、実際には人々を不当な労働条件で酷使し、リゾート開発の名目で周囲の自然破壊を推し進めている偽善者だ。彼の右腕である警備員ピーター(ロマーノ・プッポ)も横柄な人間で、現地人の女性に手を出しては弄んでいる。
 そうした中で、ダニエルはジョシュアの秘書を務めるアリス(バーバラ・バック)と親しくなった。彼女は大学で人類学を学び、未開の人々の生活を研究するために、この仕事を選んだという。お互いにジョシュアのリゾート事業には疑問を抱いており、2人は急速に親しくなっていった。
 ある晩、川のほとりでくつろいでいたダニエルとアリスは、1隻のボートが川を下っていくのを見かける。ボートにはモデルのシーナ(ジェネーヴ・ハットン)と現地人の若者が乗っていた。やがて響き渡る断末魔の悲鳴。2人は巨大なアリゲーターに襲われたのだ。
 翌朝、ズタズタにされたボートの残骸が発見され、シーナが行方不明であることが分かる。調査の必要性を主張するダニエルだったが、ジョシュアは頑なに応じようとはしない。アリスとともに近隣の村を訪れたダニエルは、村人たちが神の怒りを鎮めるための儀式を行っているのを目撃する。
 彼らによると、白人が神聖な場所を侵し、村人が侵略者と親しくしたことでクルーナが現れたというのだ。クルーナとは村の人々が神と崇める巨大アリゲーターのこと。また、クルーナを実際に目撃した白人もいるという。ダニエルとアリスは、村の若者の案内でその白人が住むという岩上の洞窟へと案内された。
 洞窟で暮らしていたのはジェイムソン(リチャード・ジョンソン)という名の宣教師。かつて仲間の宣教師たちとともにこの島を訪れたものの、彼以外は全員クルーナに食い殺されてしまったのだという。長年の洞窟生活とクルーナに対する恐怖心から、ジェイムソンは完全に狂ってしまっていた。
 ホテルに戻ったダニエルとアリスは、川に巨大なアリゲーターがいるとジョシュアに警告するが、全く取り合ってもらえない。川には防護用の鉄柵がある。それに、ホテルには続々と観光客が到着しており、ジョシュアとしては出鼻をくじかれたくないという思いが強かったのだ。ダニエルは無線で本土に救援を頼もうとするが、ピーターに殴り倒されてしまった。
 しかしその晩、大勢の観光客がバーベキューを楽しんでいる一方で、本土との唯一の交通手段であるヘリコプターが何者かによって破壊されてしまった。従業員として雇われた村人たちも誰一人として姿を見せない。さすがにおかしいと感じたジョシュアは本土と連絡を取ろうとするが、既にアンテナも破壊されていた。観光客を不安にさせてはいけないと考えたジョシュアは、遊覧船での川下を思いつく。
 その頃、ホテルではダニエルがアリスの不在に気が付いた。彼女の部屋を訪れると、ベッドの上には不気味な置物と毒蛇が。嫌な予感がしたダニエルは、カメラの望遠レンズを村の方向に向けた。すると、そこにはボートに縛り付けられたアリスの姿が。村人たちはクルーナの怒りを鎮める生贄として、アリスを誘拐したのだ。ダニエルは彼女を救うため、一人で村へと向う。
 一方、観光客を乗せて川下をする遊覧船だったが、そこへ巨大なアリゲーターが忍び寄る。そして、猛烈な勢いで船に体当たりした。次々と振り落とされる観光客や従業員。川に落ちた人々を食い散らかすアリゲーター。たちまち船上は大パニックに陥った。
 先ほどの衝撃でモーターが故障し、遊覧船は桟橋へと戻ることが出来ない。自ら志願した二人の男女が、泳いで桟橋へとたどり着いた。助けを呼ぶためにホテルへ戻ると、そこには残された観光客たちの死体が山積に。神の怒りを恐れた村人たちが、白人たちの皆殺しを始めたのだ。
 観光客たちは小型ボートに乗り移り、桟橋へと向う。ボートに乗れなかった大勢の人々も、順番が来るのを待ちきれずに次々と川へ飛び込んで泳ぎだす。しかし、桟橋へと泳ぎ着いた人々も、現地人の放った矢によって次々と殺されていく。さらに、川では鉄柵を破壊して侵入した巨大アリゲーターが暴れまわり、逃げまどう人々を次々と食い殺していく。その様子はまさに地獄絵図そのものだ。一人でこっそり逃げ出そうとしたジョシュアも、村人によって殺されてしまった。
 その頃、アリスを救出したダニエルは、観光客を救おうとアリゲーター退治に乗り出すのだったが・・・。

THE BIG ALLIGATOR RIVER-7.JPG THE BIG ALLIGATOR RIVER-8.JPG

洞窟に住む白人を探すダニエルとアリス

宣教師ジェイムソン(R・ジョンソン)は気が狂っていた

THE BIG ALLIGATOR RIVER-9.JPG THE BIG ALLIGATOR RIVER-10.JPG

アリスが神の生贄として誘拐される

アリゲーターに襲われた遊覧船の観光客たち

 実はこの作品、マルティーノ監督にとっては『ホーリー・マウンテンの秘宝』(77)、『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』(78)に続く、“ジャングル3部作”の最終章に当る。いずれも当時のイタリア映画の市場相場からすると多額の製作費が投じられた、立派な“大作映画”だったようだ。中でも、この『パニック・アリゲーター』は世界各国で大ヒットを記録し、マルティーノ監督によれば彼の監督作の中でも最も興行収入を稼ぎ出した映画だったらしい。
 原作を書いたのは、イタリア産娯楽映画ではお馴染みのマッチョ俳優ジョージ・イーストマンことルイジ・モンテフィオーリ。マルティーノ監督と共に脚本を仕上げたのは、ホラー映画の名脚本家として有名なエルネスト・ガスタルディ、マルティーノ作品やウンベルト・レンツィ作品の常連脚本家チェザーレ・フルゴーニ、そして女優としても知られるマリア・チアレッタことマラ・マリルの3人。
 その他、マルティーノ作品には欠かせない名カメラマン、ジャンカルロ・フェランドが撮影監督を担当し、イタリア映画界きってのメロディ・メーカーであるステルヴィオ・チプリアーニがファンキーでグルーヴィーな音楽スコアを手掛けている。
 また、原住民の民族衣装デザインや巨大アリゲーターのクリーチャー・デザインを担当したのは、やはりマルティーノ作品には欠かせないプロダクション・デザイナーのマッシモ・アントニオ・ゲレン。彼はもともとフェリーニ作品の美術デザインを数多く手掛けていた人物で、『カサノバ』(76)で使用された絵画や彫刻などの美術品は、全て彼のデザインによるものだった。“まさか自分がホラー映画の分野に関わることになるとは思いもしなかった”と語っているが、マルティーノ作品以外にもダリオ・アルジェントやランベルト・バーヴァ、ルイジ・コッツィなどのホラー作品で印象的な仕事をしている。
 ちなみに、実際にアリゲーターの製作と特殊効果を担当したのは、『モンスター・ドッグ』(84)や『スラッグス』(88)、『新リバイアサン/リフト』(90)などを手掛けたスペインのSFXマン、カルロ・デ・マルキス。等身大のハリボテも悪くなかったが、ミニチュア撮影も意外と良く出来ている。

THE BIG ALLIGATOR RIVER-11.JPG THE BIG ALLIGATOR RIVER-12.JPG

ホテルでは原住民に殺された観光客の死体が山積に

生贄にされそうになったアリスを救出するダニエル

THE BIG ALLIGATOR RIVER-13.JPG THE BIG ALLIGATOR RIVER-14.JPG

原住民の放った火の矢で炎上する遊覧船

次々とアリゲーターの餌食となる観光客たち

 写真家ダニエル役を演じているのは、日本映画『窓からローマが見える』(82)にも主演していたクラウディオ・カッシネッリ。マルティーノやルチオ・フルチ作品などの常連俳優として有名な人だが、85年にヘリコプターの墜落事故で不慮の死を遂げてしまった。
 ヒロインのアリス役を演じているバーバラ・バックは、『007/私を愛したスパイ』(77)でお馴染みのトップ・スター。もともと彼女はイタリア人の映画プロデューサーと結婚していたことがあり、70年代中頃まではイタリアを拠点に活動していた。そのため、ハリウッドに移ってからも積極的にイタリア映画の仕事を引き受けていたらしい。マルティーノ監督作品への出演は、『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』に続いてこれが2作目に当る。
 リゾート・ホテルの独善的な経営者ジョシュア役を演じているのは、オードリー・ヘプバーンの元ダンナとしても有名な往年のハリウッド・スター、メル・ファーラー。当時のイタリア映画ではハリウッド俳優の起用はビジネス上の必須条件で、知名度は高いがギャラは手頃という往年のスターが好んで使われた。 中でも引っ張りだこだったのがジョセフ・コットンとメル・ファーラーで、アクションからホラーまで数多くの作品に出演している。
 そして、洞窟に住む白人宣教師ジェイムソン役で特別出演しているのは、『キッスは殺しのサイン』(66)などのスパイ映画シリーズで有名なイギリスのトップ・スター、リチャード・ジョンソン。『デアボリカ』(74)や『サンゲリア』(79)などイタリアン・ホラーへの出演も少なくない。
 その他、マカロニ・ウェスタンやポリス・アクションなどの悪役として有名なロマーノ・プッポがジョシュアの右腕ピーターを、ルチオ・フルチの『墓地裏の家』(81)にも出ていた子役シルヴィア・コッラティーナが観光客の少女ミノウを、『デモンズ』(85)のチンピラ役などで有名な黒人俳優ボビー・ローズがホテル従業員を、フェリーニの『サテリコン』(68)や『オーケストラ・リハーサル』(78)に出演していた個性的な女優クララ・コロジモが観光客のマダム役を演じている。

 

Patrick vive ancora (1980)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

PATRICK STILL LIVES-DVD.JPG
(P)2003 Shriek Show (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:イタリア語/字幕:英語/地域コード:1/96分/製作:イタリア
※アンカット・バージョン

映像特典
製作者G・クリサンティ インタビュー
主演G・デイ インタビュー
オリジナル劇場予告編
スリツ・ギャラリー
監督:マリオ・ランディ
製作:ガブリエル・クリサンティ
脚本:ピエロ・レニョーリ
撮影:フランコ・ヴィッラ
音楽:ベルト・ピサーノ
出演:サシャ・ピトエフ
    ジャンニ・デイ
    マリアンジェラ・ジョルダーノ
    カルメン・ルッソ
    パオロ・ジュスティ
    フランコ・シルヴァ
    ジョン・ベネディ
    アンナ・ヴェネツィアーノ
    アンドレア・ベルフィオーレ

PATRICK STILL LIVES-1.JPG PATRICK STILL LIVES-2.JPG

ワゴン車から投げ捨てられたビンがパトリックに命中

父ハーシェル教授(S・ピトエフ)の治療も空しく・・・

 1978年に製作されたリチャード・フランクリン監督のオーストラリア映画『パトリック』。母親を殺したショックで植物人間になった青年パトリックが、テレキネシスを使って人を殺していくというホラー映画だ。日本ではビデオ発売のみで終ってしまった作品だが、イタリアでは驚異的な大ヒットを記録した。
 当然のことながら、そのブームに便乗しようと考えるのがイタリア人。で、本家に断りもなく勝手に続編を作ってしまった。それが、この“Patrick vive ancora(パトリックはまだ生きている)”という作品なわけだ。
 ストーリーはとにかくムチャクチャ。オリジナルの基本設定だけを拝借して、頭の悪い大人たちを植物人間パトリックがテレキネシスでバンバン殺していくというだけのもの。しかし、なんといっても凄いのは、全編に渡って繰り広げられるセックスとバイオレンスの応酬だろう。血みどろのスプラッターとモロ出しのエロが盛りだくさんなのである。
 しかも、出てくる奴らがまた頭のイカれた外道ばかりときたもんだ(笑)男たちは殴る・蹴る・暴れるしか脳がない単細胞ばかりだし、女たちだって無意味にそこらじゅうを全裸で歩き回って発情しているようなアバズレばかり。こんな連中が一つ屋根の下に集まろうもんなら、そりゃ血生臭い事件の一つや二つは起きても不思議はなかろうに(笑)
 中でも、特に大活躍してくれるのが『ゾンビ3』でオッパイを食いちぎられる年増美女を演じていたマリアンジェラ・ジョルダーノ。今回は下半身モロ出しでの格闘シーン、Tバック一枚でのキャットファイトを繰り広げた挙句、最後はワギナから鉄の火かき棒をぶち込まれて惨死という凄まじい見せ場を披露してくれる。しかも、口まで貫通しちゃうんだな、これが(笑)
 この人、もともとはお姫様女優だったはずなのだが、ある時期からなにか吹っ切れたかのように、この手のエグイ役を平気で引き受けるようになった。あちこちのインタビューを読んでいると、相当タフな女性だったらしいことが伺えるが、確かに生半可な女優だったらビビリまくることだろう。
 ちなみに、このオ○ンコ串刺しシーンを考えたのは、プロデューサーのガブリエル・クリサンティ。もともと、この殺害シーンは全く違う設定だったらしい。実は、撮影の前日にクリサンティはマリアンジェラと大喧嘩。その腹いせに、プロデューサー権限で脚本の設定を急遽変えてしまったという。本人曰く、“彼女に屈辱感を味わせたかった”とのこと。まったく根性の腐ったオッサンだが、やはり俳優にとって一番怒らせてはいけないのはプロデューサーっていうことなのかもしれない。
 ということで、このマリアンジェラ・ジョルダーノの大熱演(?)だけでも一見の価値アリ。マリオ・ランディ監督の演出はお世辞にも巧いとは言えないものの、過剰なまでのサービス精神だけは評価できるだろう。こういった下品でえげつないゲテモノB級映画、最近ではとんと見かけることがなくなったのはちょっと寂しい。

PATRICK STILL LIVES-3.JPG PATRICK STILL LIVES-4.JPG

気性の激しいステラ(M・ジョルダーノ)と恋人ピーター(J・ベネディ)

妖艶な妻シェリル(C ・ルッソ)に翻弄される政治家クラフト(F・シルヴァ)

PATRICK STILL LIVES-5.JPG PATRICK STILL LIVES-6.JPG

被害者たちを襲う謎の“目”

それはパトリック(G・デイ)のテレキネシスだった

 道端で故障した一台の車。エンジンのチェックをしていたパトリック(ジャンニ・デイ)は、通りすがりのワゴン車から投げ捨てられたビンを頭部に受け、血みどろになって倒れた。医者である父親ハーシェル教授(サシャ・ピトエフ)の懸命の治療も空しく、パトリックは植物人間となってしまう。
 それから数年後。シーズン・オフのリゾート施設に5人の男女が招かれる。怪しげなカップルのピーター(ジョン・ベネディ)とステラ(マリアンジェラ・ジョルダーノ)、政治家のリンドン・クラフト(フランコ・シルヴァ)と妻シェリル(カルメン・ルッソ)、そして有名な水泳選手のデヴィッド(パオロ・ジュスティ)。彼らを出迎えたのは、新人秘書のリディア(アンドレア・ベルフォーレ)だった。
 リゾート施設を経営しているのはハーシェル教授。彼は、施設の奥に研究所を置き、そこで息子パトリックの治療を続けていた。招待客たちはハーシェル教授との面識は全くない。しかし、それぞれに招待を断ることが出来ない理由があった。そして、ハーシェル教授にも、彼らを一堂に集めなければならない理由があったのだ。
 実は、招待客たちはいずれも人には言えない過去があった。ピーターは元ドラッグ・ディーラーで、その恋人であるステラはもともと売春婦だった。政治家のクラフトは妻シェリルの肉体をエサにして権力を手にした。そして、デヴィッドは自ら引き起こした交通事故で3人を死なせてしまったが、政治家である父親の力で事件をもみ消していた。彼らはこの招待に応じなければ、その秘密を公表すると脅かされたのだ。
 表向きは豪華なリゾートを満喫している彼らだったが、内心ではお互いに疑心暗鬼。ここに集められたのはなぜなのか?中でも、気位の高いステラとシェリルは、ことあるごとに対立する。そしてある晩、一人でプールへ泳ぎにでかけたクラフトが、焼け爛れたような変死体で翌朝発見された。ハーシェル教授はアルコールの過剰摂取による心臓発作だろうと語るが、誰が見てもそうとは思えない。デヴィッドに好意を寄せるメイドのメグ(アンナ・ヴェネツィアーノ)は、ここにいてはいけないと警告する。
 重苦しい空気の中でアルコールに溺れるステラは、その肉体でデヴィッドを誘惑しようとするが、暴行を受けた挙句に“ゴミクズ”呼ばわりされてしまう。怒りのおさまらないデヴィッドは外へ飛び出す。井戸の前に来たところで、目に見えない力によって鉄の金具が動き始め、デヴィッドの喉もとに突き刺さった。血飛沫をあげながら絶命するデヴィッド。
 その様子を目撃したステラも悲鳴をあげて逃げまどった挙句、宙を飛んできた鉄棒によって股間から串刺しにされて絶命した。逃げ出そうとしたシェリルも車のウィンドーで首を切断され、車に閉じ込められたピーターもガスによって中毒死する。
 実は、ハーシェル教授は息子パトリックに残された第六巻を訓練し、テレキネシスを使えるようにしたのだ。そして、あらゆる手段を用いてワゴン車に乗っていた人物を探し出した。それが、ピーターとステラ、クラフト夫妻、デヴィッド、そして秘書リディアだったのだ。残すはリディア一人のみ。しかし、その美しさに惹かれたパトリックはリディアを殺すことを躊躇する。それならば自分が、とリディアを始末しようとするハーシェル教授。その時、ついにパトリックの怒りが爆発した・・・!

PATRICK STILL LIVES-7.JPG PATRICK STILL LIVES-8.JPG

有名な水泳選手デヴィッド(P・ジュスティ)

リゾート施設の秘書リディア(A・ベルフォーレ)

PATRICK STILL LIVES-9.JPG PATRICK STILL LIVES-10.JPG

ステラに危険が迫る・・・

股間から串刺しにされて惨死するステラ

 リゾート施設に集められた見ず知らずの6人が、実は冒頭でワゴン車に乗っていた犯人たちだというムチャクチャな設定が大胆不敵(笑)辻褄あわせすら完全に放棄してしまったという感じだ。しかもこの作品、あらゆる点でティテールの描写がおかしい。というか、ほとんど狂ってる。シェリルが夫の死体を前に嘆き悲しむシーンなんか、シースルーのネグリジェで大股を開きながらア〜ンア〜ンと悶え声をあげてみせる始末だし。それじゃ発情したメスネコじゃないかって(笑)
 マリオ・ランディはもともと国営テレビRAIのディレクターだった人で、こちらも強烈なエログロ・バイオレンスが満載のホラー映画“Giallo a Venezia”(79)の監督として悪名高い人物。映画作品は数本しか残しておらず、本作を最後に映画界から足を洗ってしまったようだ。
 脚本を手掛けたのは、『グラマーと吸血鬼』(62)の監督としても知られるゲテモノ映画職人ピエロ・レニョーリ。撮影監督には『恍惚の唇』(69)や『スローター・ホテル』(71)のフランコ・ヴィラ、美術デザインにはソフト・ポルノを数多く手掛けたジョヴァンニ・フラタロッチ、音楽には『殺し』(71)や『欲情の血族』(74)のベルト・ピサーノといった具合に、イタリアの誇る(?)エログロ映画の達人たちがスタッフとして結集している。
 なお、特殊メイクを担当したロザリオ・プレストピーノは、アルジェントの『オペラ座/血の喝采』(88)やランベルト・バーヴァの『デモンズ』(85)などに参加していた有名なSFXマン。『人間解剖島/ドクター・ブッチャー』(80)の頭皮剥ぎシーンや、『ザ・リッパー』(82)の眼球切り裂きシーンなんかも彼の仕事だ。

PATRICK STILL LIVES-11.JPG PATRICK STILL LIVES-12.JPG

宙吊りになって殺されるデヴィッド

シェリルは車のウィンドーで首を切断される

 さて、主人公パトリックを演じているジャンニ・デイは、60年代からマカロニ・ウェスタンやコメディに数多く出演した俳優で、イタリアではポップ・シンガーとしても知られている人物。プロデューサーであるクリサンティの友人だったことから本作に出演したらしいが、出来上がった本編は一度も見たことないし、ギャラさえ未だに支払ってもらっていないという。
 その父親ハーシェル教授役のサシャ・ピトエフはスイス出身の俳優で、『去年マリエンバートで』(61)や『パリは燃えているか』(66)などのフランス映画で活躍した個性派のバイプレイヤー。アルジェントの『インフェルノ』(80)で骨董品屋の主人を演じていたことで記憶している人も多いだろう。一度見たら忘れられない強烈な顔をした人だ。
 シェリル役のカルメン・ルッソは80年代に幾つものソフト・ポルノに出演したセクシー女優。その後美容整形で別人のような顔になり、イタリア芸能界のお騒がせセレブとして現在も活躍している。

 

〜最後におまけ〜
カルト映画というわけではありませんが・・・(笑)

I tre volti del terrore (2004)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-DVD.JPG
(P)2004 Pulp Video (Italy)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(イタリアPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/5.1chサラウンド・ステレオ・サラウンド・ステレオ/音声:イタリア語・英語/字幕:英語・イタリア語/地域コード:ALL/
85分/製作:イタリア

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
未公開シーン集
オリジナル劇場予告編
スチル・ギャラリー
スティヴァレッティ監督による音声解説
監督:セルジョ・スティヴァレッティ
製作:セルジョ・スティヴァレッティ
    ロレンツォ・フォン・ロルク
脚本:セルジョ・スティヴァレッティ
    アントニオ・テントーリ
撮影:ファブリツィオ・ブラッキ
    マウリツィオ・アベーニ
出演:ジョン・フィリップ・ロー
    リカルド・セルヴェンティ・ロンギ
    エリザベッタ・ロシェッティ
    エミリアーノ・レジェンテ
    アンブレ・イヴン
    アンドレア・ブルスキ
    ロベルタ・テレーニャ
特別出演:クラウディオ・シモネッティ
       ランベルト・バーヴァ

TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-1.JPG TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-2.JPG

同じ列車に乗り合わせた3人の男女の前に謎の人物が・・・

プライス教授(J・フィリップ・ロー)と名乗る催眠術師

 ホラー・アンソロジーといえばイギリス映画の独壇場。中でも、『テラー博士の恐怖』(65)に始まる一連のアミカス・プロ製作によるホラー・アンソロジーには傑作が多く、現在も世界中のホラー映画ファンに愛されている。イタリアでも、巨匠マリオ・バーヴァが『ブラック・サバス』(63)という素晴らしいアンソロジー・ホラーを残しているが、なぜかその後を受け継ぐ者が現れなかった。つまり、ホラー・アンソロジーはイタリア人にとって未開拓のジャンルに等しいのである。
 そして、恐らくその『ブラック・サバス』以来初となるイタリア産ホラー・アンソロジーが、この“I tre volti del terrore(恐怖の三つの顔)”という作品である。たまたま同じ列車の客室に乗り合わせた3人の男女が、謎めいた催眠術師によって世にも恐ろしい幻覚を見る・・・という物語は『テラー博士の恐怖』とソックリ。皮肉なクライマックスは『魔界からの招待状』(72)や『墓場にて』(73)にも似たテイストがある。
 それぞれのエピソードは非常に他愛のないもの。狼人間にマッド・サイエンティスト、怪獣というオーソドックスな題材を、特にひねりもない語り口で描いていく。そのフォーマット形式も含めて、どこかで見たような映画という印象は拭えまい。
 また、ハイビジョン・カメラで撮影されているということもあって、映像的にもチープなイメージが残る。ただ、監督がSFXマン出身のセルジョ・スティヴァレッティだけあって、特殊メイクやSFXはなかなか凝っていて面白い。特に狼人間の変身シーンは非常に良く出来ており、メカニカル・エフェクトにCG加工を施したバランス感覚は見事だ。あくまでもCGを補足的な役割にとどめたのは正解だろう。また、ストップモーション・アニメで描かれる怪獣のクリーチャー・エフェクトも、低予算ならではの味わいがあって良かった。残酷シーンの特殊メイクもなかなかクオリティが高い。
 いずれにせよ、古典ホラーに対する愛情に溢れた作品であることは間違いない。決して優れたホラー映画とは呼べないものの、年季の入ったホラー・ファンならば微笑ましく感じることが出来るはずだ。

TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-3.JPG TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-4.JPG

古墳から盗んだリングをはめるマルコ(R・セルヴェンティ・ロンギ)

墓泥棒の黒幕は美術コレクターのモンティ(J・フィリップ・ロー)だった

TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-5.JPG TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-6.JPG

次第に凶暴化していくマルコ

みるみるうちに狼人間へと変身していく

 列車の中で目覚めた3人の男女。彼らの前に、ピーター・プライス教授(ジョン・フィリップ・ロー)と名乗る催眠術師が現れる。教授は3人に“人間の過去を見ることが出来る”という不思議な球体を披露する。順番にその球体を手渡された3人は、それぞれ世にも恐ろしい光景を目の当たりにするのだった・・・。

第一話『月の出』
 マルコ(リカルド・セルヴェンティ・ロンギ)は友人ファビオ(アンドレア・ブルスキ)に連れられ、真夜中に古代遺跡へ侵入する。古墳から宝飾類を盗み出そうというのだ。壁一面に描かれた不気味な画。それはまるで狼のようだった。めぼしい貴金属をリュックに詰めた2人は古墳を後にしようとするが、マルコは去り際にミイラの指から奇妙なリングを抜き取った。
 翌日、目を覚ましたマルコは、例のリングを自分の指にはめてみたところ抜けなくなってしまった。ペンチでリングを曲げようとしたところ、誤って指を切ってしまう。そこへファビオから電話が入り、外で待ち合わせることとなった。その時、指の傷口から滴る血を、リングが吸い込んでいることにマルコは気付かなかった。
 2人が向った先は美術コレクター、モンティ(ジョン・フィリップ・ロー)の豪邸。今回の墓泥棒の仕事も、実はモンティの依頼だったのだ。マルコとファビオは、モンティから約束の現金を受け取った。しかし、2人が帰った後で、モンティは古墳に埋葬されていたはずのリングがないことに気付いた。そういえば、マルコの指に奇妙なデザインの指輪がはめられていた。早速、モンティはファビオのもとに電話を入れる。
 モンティから連絡を受けたファビオは、マルコの自宅へと向った。ところが、どうも様子がおかしい。獣のように暴れだしたマルコは、ナイフでファビオの頭頂部を切り落とす。そして、無意識のうちにナイフから滴る血を舐めていた。明らかに、彼の体には異変が起きつつあった。
 言いようのない喉の渇きに苦しむマルコは、真夜中の町を徘徊する。広場の湧き水をがぶ飲みするするが、それはまるで砂を飲んでいるような感覚だった。さらに街中をさまよった彼は、とある邸宅の庭にプールを発見する。無我夢中でプールへと飛び込むマルコ。泳ぎを楽しんでいた女性は悲鳴を上げ、その恋人(クラウディオ・シモネッティ)がマルコを追い払おうとする。すると、彼らの目の前で、マルコは狼男へと変身していった・・・。
第二話『整形外科医』
 人気女優サンドラ(アンブレ・イヴン)は親友バーバラ(エリザベッタ・ロシェッティ)の付き添いとして、フィシャー医師(ジョン・フィリップ・ロー)の美容整形クリニックを訪れる。今のままでも十分に美しいバーバラだが、実は幼馴染みであるサンドラの容姿に憧れており、彼女と同じような顔になりたいと常々思っていたのだ。“サンドラと同じような顔にして欲しい”と打ち明けるバーバラに、サンドラ自身は大いに戸惑う。しかし、フィシャー医師とバーバラの説得もあり、整形手術に協力することを渋々承諾した。
 そこで、サンドラは資料用の写真を撮影するためにフィシャー医師と共に席を立った。だが、待てど暮らせど2人は戻ってこない。しびれを切らしたバーバラは、クリニックの診察室へと入っていく。ところが、そこはまるで迷路のように入り組んだ不気味な空間だった。奇妙な手術台や標本、そしてカプセルの中に収められた醜悪な顔の人々。薄気味悪さを感じたバーバラは、クリニックから逃げ出そうとするのだが・・・。
第三話『湖の番人』
 カルロ(エミリアーノ・レジェンテ)は、友人のアンナ(ロベルタ・テレーニャ)とアレックス(シモーネ・タデイ)と共に、湖のほとりにあるキャンプ場へとやって来た。そこは立ち入り禁止区域に指定されており、カルロ自身はあまり気乗りしなかったものの、大自然を独り占めできるとあってアンナとアレックスは大はしゃぎする。そこへ、片目をマスクで覆った不気味な大男(ジョン・フィリップ・ロー)が現れ、カルロたちを追い返そうとする。“この場所は危険だ”と警告する大男だったが、アンナとアレックスはまったく取り合おうとしない。
 そのままキャンプを続けた3人だったが、やはりカルロは先ほどの大男の言葉が気になって仕方なかった。しかも、アンナとアレックスの2人がいい雰囲気になり、どことなく居心地が悪い。ふとしたことからアンナと口論になったカルロは、一人でキャンプ場を後にすることにした。
 ところが、カルロが車で去った直後、謎の生物がアンナとアレックスに襲いかかる。アンナの落とした携帯電話がリダイヤルでカルロの携帯に着信。異変に気付いたカルロがキャンプ場へと戻ると、そこには血まみれになったキャンプ道具と切断された片腕が残されていた。昼間の大男がアンナたちを襲ったものと考えたカルロは、男が住んでいると思われる不気味な建物を目指して、湖の向こう岸へと渡るのだったが・・・

 催眠術にしてはあまりにもリアルな“夢”にとまどう3人の男女。プライス教授はそれぞれの過去を再現したものだというが、もちろん彼らにはそんな記憶など全くない。“よ〜く思い出してみるがいい”と語る教授の言葉に、3人はハッとする。彼らには、ここへ来るまでの記憶がなかったのである。自分たちはなぜこの列車に乗っているのか?そして、いったいどこへ行こうとしているのか・・・?やがて、彼らの身に起きた恐るべき真実が明かされる・・・。

TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-7.JPG TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-8.JPG

美容整形クリニックを訪れたサンドラ(A・イヴン)とバーバラ(E・ロシェッティ)

院長のフィシャー医師(J・フィリップ・ロー)

TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-9.JPG TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-10.JPG

診察室に足を踏み入れたバーバラが見たものとは・・・?

カプセルの中に収められた人々

 ホラー映画ファンならご存知の通り、監督のセルジョ・スティヴァレッティはイタリアを代表するSFXマンにして特殊メイキャップ・マン。『フェノミナ』(85)や『オペラ座/血の喝采』(88)をはじめとする一連のダリオ・アルジェント作品を筆頭に、『デモンズ』シリーズや『怒りの標的SFサイキック・ウォーズ』(85)、『片腕サイボーグ』(86)、『呪いの迷宮ラビリンス・イン・ザ・ダーク』(88)など、数多くのイタリア産ホラー&SF映画で特殊効果や特殊メイクを手掛けてきたベテランだ。
 監督作は『肉の蝋人形』(97)に続いてこれが2作目。急逝したルチオ・フルチの後を引き継いだ『肉の蝋人形』は、演出家としての未熟さばかりが目立つ失敗作だった。その点、本作ではかなり手馴れた演出を披露しており、テクニック的には格段に進歩のあとが見られる。ただ、やはり低予算の安っぽさはいかんともし難いものがあるし、イメージやテクニックを優先するあまりストーリーがなおざりになっているという印象は拭えないだろう。ちなみに、スティヴァレッティと共に脚本を手掛けたアントニオ・テントーリは、ルチオ・フルチ監督の『ナイトメア・コンサート』(90)の脚本を書いた人物だ。

TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-11.JPG TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-12.JPG

カルロ(E・レジェンテ)は友人アンナ、アレックスと共にキャンプ場へ

不気味な大男(J・フィリップ・ロー)が警告する

TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-13.JPG TRE_VOLTI_DEL_TERRORE-14.JPG

謎の生物に殺されるアレックス

例の大男が犯人ではないかと考えたカルロだったが・・・

 物語の狂言回し役であり、各エピソードで重要な鍵を握る人物を演じているのが、『バーバレラ』(67)や『黄金の眼』(67)など60年代のカルト映画に数多く主演した伝説的ポップ・アイコン、ジョン・フィリップ・ロー。本作ではすっかりお爺ちゃんの年齢だが、ダンディなマッチョガイぶりは健在。昨年の春に他界したのが惜しまれる。
 それ以外は基本的に無名の役者ばかりが揃えられているが、バーバラ役を演じているエリザベッタ・ロシェッティは、『スリープレス』(01)や『デス・サイト』(04)など近年のダリオ・アルジェント作品に欠かせない殺され役女優としてホラー・ファンには馴染みの深い顔である。
 また、元ゴブリンのクラウディオ・シモネッティがプール・サイドで狼男に殺される男性役を、『デモンズ』のランベルト・バーヴァ監督がサンドラの出演する映画作品の監督役として登場。スティヴァレッティ自身も本人役でチラリと顔を出している。

 

戻る