マカロニ・アクション セレクション2

 

 

殺しのテクニック
Tecnica di un omicidio (1966)
日本では1966年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2002 King Record (Japan)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:日本語/地域コード:2/93分/製作:イタリア・フランス

特典映像
オリジナル劇場予告編
ポスター&フォト・ギャラリー
スタッフ&キャスト紹介
デジタル復刻パンフレット
監督:フランコ・プロスペリ
原案:フランコ・プロスペリ
脚本:フランコ・プロスペリ
撮影:エンリコ・メンツェール
音楽:ロビー・ポイトヴァン
出演:ロバート・ウェッバー
   フランコ・ネロ
   ジャンヌ・ヴァレリー
  
ホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ
   セク・リンダ―

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ベテランの殺し屋クリント・ハリス(R・ウェッバー)

レミントンのセミ・オートマチック・ライフルを組み立てるクリント

 まさに知る人ぞ知るイタリアン・アクションの名作。引退を決意した殺し屋の復讐劇を軸に、非情な裏社会に生きる中年男の悲哀と末路をスタイリッシュかつクールに描いていく。ハリウッドの名脇役ロバート・ウェッバーと当時まだ若手だったフランコ・ネロの顔合わせも渋いし、モダン・ジャズを基調にした音楽スコアもお洒落。ノワール・タッチのハードボイルドなアクションを探している映画ファンならば絶対に見逃せない一本である。
 主人公はベテランの殺し屋クリント・ハリス。引退を決意した彼だったが、その直後に唯一の肉親である兄を殺害されてしまう。黒幕は組織の裏切り者セッキ。野心家の若者トニーを助手にあてがわれたクリントは、組織の依頼を受けてセッキを亡き者にすべくニューヨークからパリへと渡る。これが本当に最後の仕事だと、兄の復讐を誓うクリント。しかし、一連の出来事の背景には様々な思惑と欲望が複雑に絡み合っており、いつしか彼は後戻りできないほど深みにはまっていく…。
 なんといっても一番の見どころは、殺し屋の仕事ぶりを余すことなく描いた超リアルな暗殺シーンであろう。冒頭では超高層ビルの上から路上の人間を狙撃する。目立たぬようにコートの下へ武器を隠し持ってビルへ潜入するクリント。使用するのはレミントンのセミ・オートマチック・ライフルである。しかもカスタム仕様。かさばらないように分解して、胴体や腰に装着したホルスターへ納めている。それも、精度が狂わないように機関部と銃身を分解していないのがリアルだ。慌てることなく淡々とライフルを組み立てるクリント。さらに、屋上の上から新聞紙を落として風向きや風速を見る。狙いをつけるときはアイパッチを使用。片目をつぶると顔面に余計な力が入って失敗の原因になるからだ。そして、獲物を仕留めるときは連続で3発発射。正確かつ確実に仕事をこなすためには、1発で仕留めるなんて無茶なことはしない。ここで描かれているのは、本物のプロの仕事なのだ。
 また、クライマックスでは事前に予備の武器を植木鉢に隠しておき、丸腰のふりをして敵を皆殺しに。これはジョン・ウー監督の『男たちの挽歌』でパクられていた。他にも、本作は『ダーティハリー』や『レオン』などにも影響を与えたと言われている。その真偽のほどは別にしても、60年代当時でこれほどリアルに殺し屋の世界を描いた映画は他になかったかもしれない。
 監督はこれが処女作となったフランコ・プロスペリ。もともとマリオ・バーヴァやセルジョ・グリエコの助監督をしていた人物で、バーヴァの『ヘラクレス 魔界の死闘』(61)では一部演出も手掛けていたそうだ。ヤコペッティのコラボレーターとして有名なフランコ・プロスペリとは同姓同名の別人。基本的にはスパイ映画からコメディまで幅広いジャンルを手掛けた職人だが、中でも本作や続いてロバート・ウェッバーを起用した『捜査網せばまる』(67)、バイオレンス・スリラーの佳作『白昼の暴行魔』(77)など、ハードなリアリズムを重視した演出に冴えを見せた監督である。
 ただ、脚本そのものは定石通りといういか、予定調和の連続で極めて意外性に乏しい。陰謀や策略も簡単に裏が読めてしまう。これは男の美学を散りばめたディテールとムード、どことなく哀愁の漂うニューヨークやパリの情景、そして名優ロバート・ウェッバーの醸し出す渋いダンディズムをじっくりと味わうべき作品であろう。悲壮感を漂わせたエンディングもいい。近頃は、こういう大人のための上質なアクション映画がめっきり少なくなってしまった。

※お断り:上記の狙撃シーン解説は、DVD封入のライナーノーツを参考にしています。

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照準を定めて確実に獲物を仕留める

クリントは殺し屋稼業から足を洗うつもりだった

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何者かによって兄が射殺されてしまう

新米殺し屋トニー(F・ネロ)を伴ってパリへ降り立ったクリント

 物語はニューヨークから始まる。ベテランの殺し屋クリント(ロバート・ウェッバー)は、組織からの依頼で警察に保護されている裏切り者を殺害する。高層ビルの上からライフルを使った狙撃は見事に成功。彼の仕事に満足した組織の重役ガステル(セク・リンダ―)は、パリへ逃亡した裏切り者セッキの暗殺もクリントに頼もうとする。だが、クリントはその依頼を断った。長年の殺し屋稼業に疲れた彼は、今回の仕事を最後に足を洗うつもりだったのだ。
 組織のオフィスを出たクリントを何者かが尾行する。自分が狙われていると勘付いたクリント。だが、彼はあいにく丸腰だった。そこで、唯一の肉親である兄フランク(アール・ハモンド)へ連絡を入れ、人気のない駐車場へ武器を持ってきてもらう。ところが、その待ち合わせ場所へ車が乱入。クリントをかばおうとしたフランクが銃殺されてしまった。
 殺し屋を差し向けたのはパリのセッキだと思われた。復讐に燃えるクリントは、改めて組織の依頼を受けることにする。これが本当に最後の仕事だ。組織のパリ支部は人員が不足しているため、ガステルは若手の殺し屋トニー・ロベロ(フランコ・ネロ)を助手としてクリントに同伴させる。
 パリへ到着したクリントとトニーは、現地の連絡役マイケルのもとを訪れる。だが、マイケルは既に殺害されていた。セッキは整形手術で顔を変えているため、マイケルがいないと居場所の特定が困難だ。現場には1枚の写真と8ミリ・フィルムが残されていた。写真に映っている女性がマリー・マルテル(ジャンヌ・ヴァレリー)というファッション・モデルだと知った二人は、彼女の行きつけだという会員制のナイトクラブへ足を運んだ。
 しかし、マリーはしばらく店に姿を見せていないという。二人はマリーの友人だというヤクの売人バリー(ミシェル・バルディネ)から彼女の住所を聞き出した。マリーは殺されたマイケルの愛人だった。彼女によると、セッキはパリ市内の米国病院で整形手術を受けたらしい。また、マイケルの部屋で発見された8ミリ・フィルムを現像したところ、そこには別荘らしき建物が映っていた。
 クリントとトニーは国税局の調査員を装い、米国病院の整形外科医ゴールドスタイン(ホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ)のもとを訪れた。セッキはジョン・モリソンという偽名で手術を受けており、パリ郊外の別荘で何度か診察を行ったことがあるという。教えてもらった住所を訪ねたところ、そこは8ミリ・フィルムに記録されていた建物と同じだった。
 深夜になって別荘へ偵察に入った二人はボディガードに襲われる。そこへ何者かが乱入し、トニーがその人物を射殺した。遺体を調べたところ整形手術の跡がある。指にはセッキの愛用していた指輪がはめられていた。セッキを始末したと確信するトニーだったが、クリントはどうも腑に落ちなかった。こんな簡単に事が運ぶとは…?
 とにもかくにもトニーはニューヨークの本部へ連絡し、クリントは一足先にアメリカへ帰国することになった。その前夜、クリントは予てから心惹かれていたマリーと結ばれる。だが、一夜だけの関係だ。もう2度と会うこともないだろう。マリーもそれを承知していた。翌日、ドゴール空港へ向かったクリント。だが、空港のロビーで新聞を目にした彼は疑問を深める。そこには、別荘で発見されたのが焼死体であること、身元確認の手掛かりが指輪だけであることが書かれていた。何者かが後から死体を焼いている。どう考えてもおかしい。
 クリントは市内へ戻ることを電話でマリーに告げ、セッキの別荘へと向かった。だが、そこは既にきれいさっぱり片づけられていた。改めて市内へ車を走らせたところ、何者かが運転する車に襲われる。激しいカー・チェイスの末に相手の車を崖の下へと突き落としたクリント。彼はその足でマリーのアパートへ向かう。自分がパリ市内に戻ることを知っているのはマリーだけだ。彼女が連絡役なのか?激しく問い詰めるクリントに、マリーはドラッグとの交換でバリーに情報を漏らしたことを白状する。
 ナイトクラブの支配人によると、既にバリーは高跳びをしたらしい。すぐさま後を追って鉄道の駅へ向かったクリントだったが、銃撃戦の末にバリーを殺してしまう。その間に、マリーまでもが浴室で溺死させられてしまった。セッキがまだ生きていることは明らかだ。だが、彼にたどり着くための手段を失ってしまった。そう考えたとき、彼はあることに気が付く。自分の勘が正しいことを信じ、クリントはトニーの協力を得て、ある罠を仕掛けることに…。

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裏切り者セッキの情報を知る女性マリー(J・ヴァレリー)

整形外科医ゴールドスタイン(J・L・デ・ヴィラロンガ)

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別荘に身を隠すセッキを射殺したかに思えたのだが…

あまりにも簡単な顛末にクリントは納得ができなかった

 裏社会の隅々まで知り尽くした冷めた中年男と血気盛んで無鉄砲な若者というクリントとトニーの対比や、敵なのか味方なのか分からないミステリアスな美女マリーなど、よくあるといえばよくあるようなキャラクター造形と描写なのだが、それをも含めた様式美みたいなものがリアリズムと混在しているというのが本作の魅力であり面白さなのだとも言えるだろう。一歩間違えるとクサい。そのギリギリ手前のカッコ良さがいい。
 脚本を手掛けたのはプロスペリ監督自身。本作ではフランク・シャノンというアングロサクソン名を使用している。その他のスタッフも同様に、撮影のエンリコ・メンツェールがエリック・メンツァー、編集のマリオ・セランドレイがマーク・シランドリュース、美術デザインのウーゴ・ペリコーリがヒューゴ・ネイヒアー、カメラ・オペレーターのシルヴィオ・フラスケッティがフィル・ホルスターといった具合に、いずれも変名でクレジットされている。
 エンリコ・メンツェールはオムニバス映画『イタリア式愛のテクニック』(66)やダリオ・アルジェントの『わたしは目撃者』(71)などで知られるカメラマン。マリオ・セランドレイは『揺れる大地』(48)や『夏の嵐』(54)、『山猫』(63)などルキノ・ヴィスコンティ作品の殆どを手掛け、それ以外にもフランチェスコ・ロージやヴァレリオ・ズルリーニ、マリオ・バーヴァなど巨匠の作品で知られる大御所編集マン。ウーゴ・ペリコーリは本来は衣装デザイナーで、コメディ映画の巨匠ディーノ・リージ作品で知られるほか、『ラスト・エンペラー』(87)では軍服のデザインを手掛けてダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞を獲得している。
 そして、マイルス・デイヴィスを彷彿とさせるクールなモダン・ジャズを披露しているロビー・ポイトヴァン。彼については詳細があまり分かっていない。手掛けた映画音楽スコアの数も少ないので、恐らく本業はジャズ・ミュージシャンなのであろう。本作を含めた幾つかの作品は昨年相次いでCD復刻されており、一部映画音楽ファンの間ではにわかに注目を集めている人物だ。

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マリーと一夜を共にするクリント

新聞記事を読んだクリントは疑問が確信へと変わる

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マリーまでもが無残に殺されてしまう

クリントは一か八かの罠を仕掛けることにするのだが…

 さて、主人公クリント役を演じるロバート・ウェッバー。出世作となった『12人の怒れる男』(57)もそうだったが、ハリウッド映画ではいつも2番手3番手の役柄を演じる俳優だった。それでも、独特の渋いマスクで『特攻大作戦』(67)や『ミッドウェイ』(76)など戦争映画の軍人役として重宝され、まさにいぶし銀の存在感で異彩を放った名脇役。いわゆる玄人好みの役者だ。そんな彼が人生の酸いも甘いもかみ分けた殺し屋を演じるのだから、これがカッコ良くないわけがなかろう。一世一代の当たり役と言っても過言ではない。
 そんな彼に時として反発しながらもついていく野心的な新米殺し屋トニーを、マカロニ・ウェスタンの生んだスーパー・スター、フランコ・ネロが演じている。当時はまだ25歳。同じ年に『続・荒野の用心棒』(66)のジャンゴ役で名を成すわけだが、無精髭を生やしていないせいもあって非常に若く見える。こんなにハンサムだったのか、というのもちょっとした驚き(笑)。
 この個性溢れる主演俳優二人に絡むのが、『危険な関係』(59)の純情可憐な娘セシル役で注目されたフランス女優ジャンヌ・ヴァレリー。麻薬中毒のファッション・モデルという役柄にしては上品すぎるきらいもないではないが、清楚な美貌にアンニュイな雰囲気を漂わせた佇まいは絵になっている。
 その他、『ティファニーで朝食を』(61)や『ダーリング』(65)などの英語作品でも活躍したスペインの2枚目俳優ホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ、『007/ゴールドフィンガー』(62)のフェリックス・ライター役で知られるセク・リンダ―が脇を固めている。

 

 

続・殺しのテクニック
Assassination (1967)
日本では1967年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2002 King Record (Japan)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:日本語/地域コード:2/96分/製作:イタリア

特典映像
オリジナル劇場予告編
ポスター&フォト・ギャラリー
スタッフ&キャスト紹介
デジタル復刻プレスシート
監督:エミリオ・ミラリア
脚本:ルチアーノ・エルコーリ
   ルー・ステイトマン
   マックス・ハティアード
撮影:エンリコ・メンツェール
音楽:ロビー・ポイトヴァン
出演:ヘンリー・シルヴァ
   イヴリン・スチュアート
   フレッド・ベア
   ピーター・デイン
   ビル・ヴァンダース
   アルフレード・ヴァレリ

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元CIA諜報員ジョン・チャンドラー(H・シルヴァ)が処刑される

妻バーバラ(E・スチュアート)は夫に弟がいたことを告げられる

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弟フィリップになりすまして現れたチャンドラー

何者かがチャンドラーの周辺を探っていた

 これまたヘンリー・シルヴァという激渋な個性派のハリウッド名脇役を主演に迎えた、ノワール・タッチのスパイ映画風ハードボイルド・アクション。日本での配給会社が同じだったことから続編扱いされているが、もちろん1作目とは何の関係もない。とはいえ、製作会社が同じであることもあってか、全体を覆うクールでニヒリスティックなムードはよく似ているし、主要スタッフのメンツも共通している。そういう意味では、続編として楽しむのも間違ってはいないだろう。
 主人公はCIAの諜報員ジョン・チャンドラー。彼は無実の殺人罪で投獄され、死刑の判決を受けてしまう。ところが、その狙撃手としての腕前を見込んだCIAによって秘かに救われ、ある特殊任務のために瓜二つの弟フィリップとして生まれ変わる。その特殊任務とは、国際的な犯罪組織への潜入捜査。折しもソ連とアメリカは東西ドイツ統一へ向けての話し合いを進めており、その協議を妨害しようと西ドイツの極右組織が暗躍していた。しかも、その陰謀にはかつての親友ボブと、今や彼の恋人となった最愛の妻バーバラが絡んでいるようだった…。
 なにしろあの強烈なマスクのヘンリー・シルヴァが演じるのだから、ありきたりなスパイ・サスペンスとは一味も二味も違う。裏切りに次ぐ裏切りによって他人を一切信用しなくなり、一匹狼の冷酷な暗殺者と化した主人公チャンドラーの狂犬ぶりが凄まじい。その一方で、非情な裏社会で生きてきた彼の苦悩や悲哀にもしっかりと焦点を当て、東西冷戦という国際政治情勢に翻弄される一人の男の悲劇というものを浮き彫りにしている。絶望的なクライマックスもすこぶるカッコいい。
 ただ問題なのは、人物関係や組織関係があまりにも複雑で入り組んでおり、しかも背景の説明が満足になされぬままストーリーが進んでしまうので、誰がCIAで誰が極右組織なのか、そもそもどっちが東西ドイツ統一を阻もうとしているのかといった基本的な情報がいま一つ分かりにくい点であろう。正直、一度見ただけではチンプンカンプンな点も少なくない。観客の目を欺こうとした結果、無駄に混乱させることになってしまったような印象を受ける。
 また、洗練という言葉には今一歩及ばないエミリオ・ミラリア監督の演出にも悔いが残る。“La notte che Evelyn usci dalla tomba(イヴリンが墓から出てきた夜)”(71)や“La dama rossa uccide sette volte(赤いドレスの貴婦人は7度殺す)”(72)などのスタイリッシュなジャッロで海外のホラー映画ファンからは人気の高いミラリア監督だが、アクション・シーンの演出がやけに野暮ったい。
 とまあ、それなりに不満の残る出来栄えではあるものの、ヘンリー・シルヴァの唯一無二の存在感、ニューヨークやハンブルグを舞台にしたロケーションの魅力、マカロニ・ウェスタンよりも現代劇の方が断然向いている女優イヴリン・スチュアートのゴージャスな美貌などなど、それでも見どころは盛り沢山。もちろん、ロビー・ポイトヴァンのクールでグル―ヴィーなスコアもカッコいい。アクション映画ファンならば必見だ。

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犯罪組織へ潜入をするチャンドラー

バーバラはフィリップと夫が同一人物ではないかと疑う

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チャンドラーに接触する裕福な画商ラング(P・デイン)

親友ボブ(F・ベア)とバーバラの結婚にチャンドラーは憤慨する

 CIAの元スパイ、ジョン・チャンドラー(ヘンリー・シルヴァ)の死刑執行が決定した。無実の罪で死を宣告されたチャンドラーは世の中を呪い、最後の面会に訪れた愛妻バーバラ(イヴリン・スチュアート)にも残酷な言葉を浴びせる。やがて時は訪れ、チャンドラーは電気椅子へ。そして、無情にも死刑は執行された。
 それから数日後、夫の遺言を確認するためにニューヨークの弁護士事務所を訪れたバーバラは意外な事実を知らされる。ジョンにフィリップという弟がいたというのだ。遺産は全てバーバラが相続するのだが、自宅と家財道具はその弟に残されていた。南アフリカに住んでいるというフィリップは、数週間後にニューヨークへやってくるという。
 実は、フィリップというのはチャンドラーの仮の姿だった。CIAは射撃の名手であるチャンドラーを利用すべく、直前に裁判所の死刑宣告を撤回させ、秘かに彼を別の場所へと移していたのだ。同一人物であることを疑われないよう必要最小限の整形手術を受け、別人に成りすますための訓練を受けたチャンドラーは、兄と瓜二つの弟としてバーバラの前に姿を現した。
 CIAがチャンドラーの命を救ったのには理由があった。以前からニューヨークの裏社会にコネクションを持つ彼を、国際的な犯罪組織へ潜入させようというのだ。ニューヨーク界隈を取り仕切るボスのマークと接触したチャンドラーだったが、その一方で何者かが彼の周辺を探っている様子だった。さらに、マークのアジトに居合わせた有名な画商ラング(ピーター・デイン)も、チャンドラーの素性を調べていた。だが、どうやらジョンとは別人らしいと判明する。
 一方、バーバラは夫と瓜二つの義弟の出現に心中穏やかではなかった。表面上は心の区切りをつけたつもりだった彼女だが、やはり夫のことを忘れることは難しい。そんな彼女に、チャンドラーの親友だった画商ボブ(フレッド・ベア)がプロポーズをする。夫に対する後ろめたさもあって躊躇するバーバラだったが、いつまでも悲しみに暮れていてはいけない。そう考えたバーバラはボブの申し出を受け入れることにする。だが、チャンドラーの目にはそれが裏切りとしか映らなかった。
 ところが、チャンドラーも知らない意外な事実があった。ボブもスパイだったのだ。ただし、誰の指示のもとに動いているのかは分からない。バーバラとの結婚も、その組織からの指令だった。そうとは気付かないチャンドラーは、ボブとバーバラの結婚に強い憤りを抑えられなかった。そんな彼にボブは警告する。余計な邪魔立てをすると後悔することになると。
 やがてチャンドラーは犯罪組織の指示でハンブルグへと向かう。ボブとバーバラのハネムーン旅行先もハンブルグだった。これは偶然なのか?わけもわからないまま混乱するチャンドラーの前に現れたのは画商のラング。実は、彼こそが犯罪組織の元締めであり、西ドイツを拠点にする極右勢力のボスだったのである。
 折しも、ソビエトとアメリカは東西ドイツの統一へ向けて協議を進めており、ベルリンで和平会議が行われる予定だった。その陣頭指揮を執っているのが、アメリカのグラハム上院議員(グンター・シュルツ)。ラングはチャンドラーの狙撃の腕を買って、彼にグラハム上院議員を暗殺させようと考えていたのだ。
 一方、CIAも動き出した。上司のトーマス(ビル・ヴァンダース)はチャンドラーの勝手な行動に不満を募らせていた。だが、全てを失ったチャンドラーに怖いものなどなかった。もはやCIAも極右組織も関係がない。自分を無実の罪に陥れた人物は必ず一連の出来事に関わっているはずだ。彼は復讐の鬼となっていた。CIAを煙に巻いたチャンドラーは、一匹狼として真相を究明しようと考える。
 その頃、ホテルにバーバラを残したボブは、極右組織の周辺を探っていた。彼に指示を出していたのはCIAのトーマスだったのだ。ところが、彼には別の顔があった。CIAと極右組織の両方に内通する二重スパイだったのである。抜け目のないラングは、その事実に気づいていた。また、チャンドラーがCIAと繋がっていることも知っていた。彼はボブとチャンドラーを対面させ、CIAか組織かの二者択一を迫る。
 チャンドラーはボブがCIAのスパイと知って全てを悟った。自分を陥れたのは彼だったのだ。憎しみを爆発させた彼は命乞いするボブに銃弾を浴びせ、CIAとの決別をラングに印象付ける。さらに、彼はバーバラの前にも姿を現し、ボブの計略に加担していたのかどうか激しく問い詰めるのだった。バーバラは何も知らなかった。チャンドラーの激しい怒りに怯える彼女だったが、強引に奪われた唇の感触で彼が自分の夫であることを悟る。
 そして、いよいよグラハム上院議員を暗殺する時がやって来た。旅客機に乗った上院議員の窓へ向けてライフルを撃ち込むチャンドラー。その直後に、彼は背後に隠れていたラングの手下に襲われる。ラングは彼を罠にはめるつもりだったのだ。だが、チャンドラーはラングの裏切りをあらかじめ予測していた。そればかりか、彼は逆にラング一味を罠にかけるべく策略を練っていたのだ…。

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組織の指示でハンブルグへやって来たチャンドラー

極右組織のボスであるラングの前で射撃の腕前を披露する

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ボブとバーバラもハンブルグを訪れていた

CIAの上司トーマス(B・ヴァンダース)と決別するチャンドラー

 東西冷戦を背景にした暗殺映画といえば、なんといってもフランケンハイマー監督の『影なき狙撃者』(62)という金字塔のような傑作があるわけだが、あくまでも孤高の一匹狼を主人公に描く復讐劇として仕上げたのはマカロニならではか。射撃訓練場で3発に1発だけ的を外すことをラングから指摘されるチャンドラーだが、このともすると忘れてしまいそうな何気ないシーンの意外な意味が後から分かるという仕掛けも心憎い。まさしく“アハ体験”である(笑)。
 脚本には『ストリッパー殺人事件』(73)などの優れたジャッロを監督したことでも知られるルチアーノ・エルコーリが参加。本作ではアンディ・コルバートという変名を使用している。彼以外にもルー・ステイトマン、マックス・ハティアードという人物がクレジットされているものの、いずれも素性不明。恐らく誰かの変名なのだろうとは思うのだが、残念ながら正体は分かっていない。
 撮影監督のエンリコ・メンツェールと音楽のロビー・ポイトヴァン、そしてカメラ・オペレーターのシルヴィオ・フラスケッティは、『殺しのテクニック』に引き続いての登板。特にポイトヴァンのスコアは前作よりもラウンジ・ポップ色が濃厚で、グル―ヴィーかつ華やかな印象を強めている。また、『続・荒野の用心棒』(66)や『野獣暁に死す』(68)、『五人の軍隊』(69)などのマカロニ・ウェスタンで知られるセルジョ・モンタナーリが、セルジウス・ヒルマンという変名で編集を担当していることも特筆しておきたい。

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チャンドラーはボブが自分を陥れた張本人だったことを知る

命乞いするボブに銃弾を浴びせるチャンドラー

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バーバラはボブの策略を全く知らなかった

上院議員を狙撃するチャンドラーだったが…

 あまりにも異色すぎるCIA諜報部員チャンドラーを演じているのは、その一度見たら忘れられない面構えで強烈な悪役を演じ続けた名優ヘンリー・シルヴァ。『影なき狙撃者』ではアジア人の殺し屋、『オーシャンと11人の仲間』(60)では強盗仲間の一人といった具合に、出番は少ないけど強烈な印象を残す脇役として活躍。だが、彼のユニーク過ぎる個性をハリウッドが持て余し気味だったのに対し、存分にチャンスを与えたのがイタリアやフランスのヨーロッパ映画界だった。ちょうどチャールズ・ブロンソンやリー・ヴァン・クリーフがそうだったように。近年も『ゴースト・ドッグ』(99)や『オーシャンズ11』(01)で元気な姿を見せていたが、ここ数年は高齢のためもあってか引退状態が続いている。現在82歳。もう一度スクリーンで顔を見たい俳優の一人だ。
 そのヘンリー・シルヴァと、文字通り美女と野獣の組み合わせで夫婦を演じているのが、マカロニ・ウェスタンのヒロインとして活躍した女優イヴリン・スチュアート。本名をイーダ・ガリというイタリア人だ。やはり彼女は西部劇よりも現代劇の方がよく似合う。『077/地獄の挑戦状』(66)で演じた女スパイ、コンスタンス役も良かった。なぜ彼女がマカロニ・ウェスタンにタイプキャストされてしまったのか、返す返すも惜しまれる。
 その他、イタリア産スパイ映画『殺し屋専科』(65)に主演していたアメリカ人俳優フレッド・ベア、同じくアメリカ出身でイタリアを拠点に活躍したピーター・デインなどが登場。また、イタリア産戦争映画や犯罪映画の悪役として顔馴染みの俳優ビル・ヴァンダースが、CIAの司令官トーマス役で強い印象を残している。

 

 

マフィア秘話・囮の復讐
E venne il giorno dei limoni neri (1970)
日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2009) Mya Communication (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス仕様)/モノラル/音声:英語
・イタリア語/字幕:なし/地域コード:ALL/99分/製作:イタリア

特典映像
英語バージョンのオープニング・クレジット及びエンド・クレジット
監督:カミロ・バッツォーニ
製作:ジョヴァンニ・アデッシ
原案:ジョヴァンニ・アデッシ
   ファビオ・ピッチョーニ
脚本:ジョヴァンニ・アデッシ
   カミロ・バッツォーニ
   フランコ・バルバレーシ
   イヴェット・ルイ
   ニコラ・マンザーリ
撮影:サンドロ・マンコリ
音楽:カルロ・ルスティケッリ
出演:アントニオ・サバト
   フロリンダ・ボルカン
   ドン・バッキー
   ペーター・カルステン
   シルヴァーノ・トランキーリ
   ピエル・パオロ・カッポーニ
   ディディ・ペレーゴ
   マリア・ルイサ・サーラ
   フランク・ラティモア

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採掘場でマフィアの殺し屋に襲われるロサリオ(A・サバト)

親友パスカーレは掘削機に巻き込まれて死んでしまう

 アントニオ・サバトの主演作というだけでB級感が溢れ出てしまうものの、これが結構骨のあるマフィア映画に仕上がっている。組織に妻を殺された男の孤独な復讐劇を軸に、当時のシチリア社会を蝕むマフィア問題の根深さをペシミスティックなリアリズムで描いた社会派の力作。フランチェスコ・ロージ作品に代表される告発映画とギャング映画のちょうど狭間に位置するような作品である。
 主人公はシチリアで運送会社を経営する男ロサリオ。彼はマフィアの掟に従い、無実の罪を被って服役していた。シチリア社会に生きる上で、マフィアとの関係は切っても切れないものだからだ。だが、出所した彼は最愛の妻が口封じのため組織に殺されていたことを知る。黒幕の正体を暴こうと奔走するロサリオだったが、家族や友人はマフィアの報復を恐れて黙り込むばかり。マフィアに恨みを持つ男カルメロの協力で真相へ迫った彼は、やがてマフィアの巨大な権力に牛耳られたシチリア社会の残酷な現実に直面する。
 とにかく暗くて救いのない映画である。主人公ロサリオを待ち受けているのは、正義が全く意味をなさない現実の壁と破滅。彼にささやかな理解を示す警察でさえ、最終的には彼を助けることはできない。殺された親友の未亡人との束の間のロマンスでさえ、痛々しいまでの哀しみに満ちている。その妥協を許さない徹底したペシミズムには見るべきものがあると言えよう。監督はサルヴァトーレ・サンペリやマリオ・モニチェッリの作品で知られるカメラマンで、戦争映画やマカロニ・ウェスタンの演出も手掛けたカミロ・バッツォーニ。これはスティーヴ・リーヴス主演の西部劇『地獄の一匹狼』(68)と並んで、彼にとっては代表作と言える一本であろう。
 ただ、いかんせん安手のバート・レイノルズといった風情のアントニオ・サバトが主演という点は痛かった
。確かに当時は売れっ子のタフガイ・スターだったわけだが、どうにもこうにもチープな印象の拭いきれない俳優だ。ありきたりかもしれないが、ジャン・マリア・ヴォロンテやフランコ・ネロを起用した方が、より説得力はあったように思う。

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出所したロサリオをマフィアが待ち構えていた

愛する妻のいない現実と向き合うロサリオ

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有力者オルランド(P・カルステン)はロサリオの心強い味方だった

親友パスカーレの未亡人ロサーナ(F・ボルカン)

 採掘現場で労働に従事する囚人たち。そこへ到着したトラックが、囚人のロサリオ(アントニオ・サバト)と親友パスカーレ(ロリス・バゾッキ)を襲う。運転手はマフィアの殺し屋だ。間一髪で難を逃れたロサリオは運転手を崖から突き落とすものの、パスカーレは掘削機に巻き込まれて死んでしまった。
 8年の刑期を終えて故郷のパレルモへ戻ってきたロサリオ。忠実な部下アントニオ(ラファエレ・スパラネロ)が空港で出迎える。再会を喜ぶ二人に、マフィアの関係者が近づく。沈黙の掟を守って無実の罪を被ったロサリオだったが、もうこれ以上マフィアと関わり合いになるのは御免だった。これからは自分一人でやっていく。そう心に決めた彼は、マフィアの誘いを断る。
 実家で彼を待っていたのは妹のアッスンタ(マリア・ルイサ・サーラ)だった。ロサリオの家族は代々に渡って運送会社を経営してきたが、アントニオの留守を守る妻アンナが4年前に事故死を遂げてしまい、すでに会社は破産寸前だった。大切な仕事道具であるトラックも、明日には競売にかけられてしまうという。そこで、彼は地元有力者であるオルランド(ペーター・カルステン)に助けを求めた。
 オルランドはシチリア全土で不動産再開発を行う裕福な実業家で、ロサリオにとっては父親代わりのような存在だった。ロサリオが戻ったことを知ったオルランドは、ロサリオのトラック全てを買い戻してくれる。マフィアにどっぷりと浸かったライバル会社は強く反発し、こともあろうかアントニオをリンチした上に殺害してしまった。
 一方、ロサリオは採掘現場で殺された親友パスカーレの妻ロサーナ(フロリンダ・ボルカン)を訪ねる。彼女は夫を失った悲しみすら忘れてしまうほど人生に疲れ切っていた。誰もがマフィアの恩恵にあずかっているにもかかわらず、犯罪者の妻というだけで世間の風当たりは強い。しかも、未亡人ともなれば一生夫の喪に服すことを強要される。この厳しい社会をたった一人で生きていかねばならないことは、彼女にとって耐え難い苦しみだった。
 アントニオの葬儀の当日、平然とした顔で参列していた主犯ヴィンチェンゾ(チェザーレ・ダルパ)が射殺された。当然の報いだった。銃声に気を留める者など誰もいない。葬儀を執り行う司祭でさえも。犯人はカルメロ(ドン・バッキー)というよそ者だった。彼はヴィンチェンゾのボスであるヴィツォーニに兄を殺されていた。ロサリオに無実の罪を着せたのも、そして採掘場で彼とパスカーレを襲わせたのもヴィツォーニだった。一緒に敵を討とうというカルメロだったが、ロサリオは過去を振り返りたくなかった。だが、そんな彼にカルメロは衝撃的な事実を告げる。妻アンナの死は事故などではなく、口封じのためにヴィツォーニが殺させたのだと。
 自らの足で事故当時の様子を検証したロサリオは、それがマフィアの典型的なやり口であることに気付く。事故は偽装されたものだったのだ。ロサリオの心に激しい復讐心が燃えがある。そんな彼を心配するのは、警察のモディカ署長(シルヴァーノ・トランキーリ)だった。彼はロサリオが無実の罪で投獄されていたことに気付き、マフィアの顔役であるヴィツォーニを有罪にするため協力してほしいとロサリオに再三申し出ていた。だが、自らの手で復讐をしようというロサリオの決心は変わらない。警察の力ではマフィアに太刀打ちできないことなど分かり切っていたからだ。
 事故当時の記録から、妻アンナの運転する車に衝突したトラックの運転手はマカルーソ(ピエル・パオロ・カッポーニ)であったことが分かる。だが、マカルーソは行方をくらましていた。カルメロの協力で、マカルーソの愛人である娼婦コンチェッティーナ(ディディ・ペレーゴ)を探し当てたロサリオ。手段を択ばないカルメロは、コンチェッティーナに激しいリンチを加えてマカルーソの居場所を聞き出す。その直後、コンチェッティーナはマフィアに殺害されてしまった。
 人里離れた荒野のど真ん中に、マカルーソの隠れ家はあった。真実を問い詰めるロサリオに対し、マカルーソはあざ笑うかのように驚くべき事実を伝える。確かに自分はヴィツォーネの指示でアンナを殺した。だが、ヴィツォーネとて巨大なマフィア組織の駒の一つに過ぎない。彼を裏で操っているのは、他でもないオルランドなのだと。その直後に隠れ家はマフィアの差し向けた殺し屋に襲われ、マカルーソは殺害された。
 殺し屋を倒して難を逃れたロサリオは、絶望的なまでの怒りに震えていた。若い頃からずっと父親代わりとして慕ってきたオルランドが、自分を陥れた上に最愛の妻を殺していたとは。カルメロの発案で、ロサリオはオルランドの大切な一人息子ジャンカルロ(マッシモ・ファリネッリ)を誘拐する。もちろん、目的は身代金などではない。マフィア幹部の名前を全て記したリストを要求するためだ。だが、経済界で強大な力を持つオルランドでさえも、マフィア組織の歯車の一つにしかすぎないことをロサリオは気付いていなかった…。

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忠実な部下アントニオ(R・スパラネロ)が惨殺される

警察署長モディカ(S・トランキーリ)はロサリオを心配する

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カルメロ(D・バッキー)から妻の死の真相を知らされるロサリオ

娼婦コンチェッティーナ(D・ペレーゴ)から犯人の居場所を聞き出す

 製作及び原案、脚本を担当したジョヴァンニ・アデッシは、ミケランジェロ・アントニオーニの『女ともだち』(55)やパスカリーノ・デ・サンティスの『人間と狼』(56)などを手掛けたプロデューサー。日常生活の隅々にまでマフィアの力が及んでいるシチリア社会の暗澹たる閉塞感、高度成長によって変わりつつあるシチリアの風景と何一つ変わることのない古い因習のコントラストを、ある意味でオーソドックスな復讐劇のスタイルを借りながら明確に描き出している。
 その他、マカロニ・ウェスタンの脚本家として活躍したファビオ・ピッチョーニが原案、戦中派のニコラ・マンザーリや監督のバッツォーニ自身らが脚本の執筆に参加。撮影監督には『西部悪人伝』(70)をはじめとするサバタ三部作や痛快戦争アクション『戦場のガンマン』(68)など、
イタリアン・アクションの名作を数多く手掛けたカメラマン、サンドロ・マンコリが当たっている。
 また、『刑事』(59)や『ブーベの恋人』(63)などの名作で日本のオールド・ファンにも馴染みが深いマエストロ、カルロ・ルスティケッリが音楽スコアを担当。いつもの抒情的でドラマチックなメロディは極力抑えられ、ハードボイルドで重厚なサウンドを聴かせてくれる。
 なお、上記のアメリカ盤DVDはフィルムの保存状態が劣悪だったせいで画質に大変難ありなのだが、これが唯一現存するマスターなのだそうだ。残念。

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マカルーソ(P・P・カッポーニ)はオルランドが黒幕だと語る

マフィアの殺し屋と激しいカーチェイスを繰り広げるロサリオ

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オルランドの一人息子ジャンカルロ(M・ファリネッリ)を誘拐する

マフィアの組織網はロサリオの想像以上に強大だった…

 主演のアントニオ・サバトは『風の無法者』(67)や『地獄のガンマン』(67)などのマカロニ・ウェスタンで活躍し、70年代以降はマフィア映画やアクション映画に数多く出演したタフガイ俳優。その出演作の殆どがC級クラスの出来栄えだったこともあり、数多のイタリアン・アクション・スターの中でも決して人気が高いとは言えない人だ。ちなみに、カルヴァン・クラインの専属モデルを経て『ビッグ・ヒット』(98)などのハリウッド映画で活躍したイケメン俳優アントニオ・サバト・ジュニアは、彼の息子である。
 そのサバトと惹かれあう未亡人ロサーナ役を演じているのは、ブラジル出身のフロリンダ・ボルカン。そのアクの強い個性から日本ではあまり人気が出なかったものの、イタリアをはじめとするヨーロッパでは高い評価を受け、ヴィスコンティやデ・シーカなどの巨匠の作品にも起用された名女優だ。その佇まいだけで、ロサーナという女性の背負ったものを表現しているのはさすが。サバトとの役者としての格の違いを見せつける格好となった。
 さらに、主人公に復讐をたきつける無鉄砲な若者カルメロ役を演じているのは、60年代から70年代にかけてイタリアで大変な人気を誇ったシンガー・ソングライター、ドン・バッキー。『脱走山脈』(68)や『戦争プロフェッショナル』(68)などのハリウッド映画でも活躍したドイツ人俳優ペーター・カルステンが黒幕オルランド役を演じている。
 その他、アクション映画の警察幹部やホラー映画の悪役などでお馴染みの名脇役シルヴァーノ・トランキーリ、同じくアクション映画の刑事役や悪役でお馴染みのピエル・パオロ・カッポーニ、ハリウッド映画でも活躍した個性派女優ディディ・ペレーゴ、『太陽がいっぱい』(60)などヨーロッパ映画でも活躍した40年代ハリウッドの2枚目俳優フランク・ラティモア、ロミー・シュナイダーとウーゴ・トニャッツィ主演の“La califfa”(70)でトニャッツィの息子役を演じていたマッシモ・ファリネッリなど、多彩な顔ぶれが脇を固めているのも注目したい。

 

 

La scorta (1993)
日本では劇場未公開・テレビ未放送
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Blue Underground (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド・2.0c
hサラウンド/音声:イタリア語/字幕:英語/地域コード:ALL/95分/製作:イタリア

特典映像
メイキング・ドキュメンタリー
監督と製作者による音声解説
イタリア版劇場予告編
アメリカ版劇場予告編
監督:リッキー・トニャッツィ
製作:クラウディオ・ボニヴェント
脚本:グラツィアーノ・ディアナ
   シモーナ・イッツォ
撮影:アレッシオ・ゲルシーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:クラウディオ・アメンドーラ
   エンリコ・ロ・ヴェルソ
   カルロ・チェッキ
   リッキー・メンフィス
   トニー・スペランデオ
   フランチェスカ・ダローヤ
   ロレンザ・インドヴィナ
   アンジェロ・インファンティ
   レオ・グロッタ

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故郷のシチリアへ戻ってきたアンジェロ(C・アメンドーラ)

彼は護衛部隊に自ら志願する

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アンジェロたちが護衛するのはデ・フランチェスコ判事(C・チェッキ)

退屈な待ち時間も仕事のうちだ

 80年代から90年代にかけて、シチリアではマフィア撲滅に取り組んだ裁判官や警察官が相次いで暗殺された。ジョヴァンニ・ファルコーネ判事やパオロ・ボルセリーノ判事の暗殺事件は日本でもよく知られているだろう。マフィアを敵に回すということは、当時のシチリアにおいては自殺行為にも近かった。それほどまでに、正義を貫くことが困難だったのである。そんな命の危険も顧みずにマフィアへ立ち向かった勇敢な判事と、彼を命がけで守った護衛官たちの過酷な戦いの日々をドキュメンタリー・タッチで描いたのが、この“La scorta”という作品。ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で5部門を独占し、カンヌ映画祭にも正式出品された感動の力作である。
 主人公はカラビニエリ(憲兵隊)の一匹狼アンジェロ。彼は治安判事暗殺事件に巻き込まれて殉死した先輩の遺志を継ぐべく、自ら志願して新任判事デ・フランチェスコの護衛隊メンバーに加わる。堅物だが正義感の強いデ・フランチェスコ判事は、マフィアに牛耳られたシチリアのダム建設ビジネスにメスを入れていく。しかし、当然マフィアも黙っていない。次第にエスカレートしていくマフィアからの脅迫。命の危険と隣り合わせで信念を貫こうとする判事と護衛隊メンバーたちは、いつしか家族以上の信頼と絆で結ばれていく。
 だが、マフィアは国会議員や財界の大物、官僚なども抱き込み、判事に猛烈な圧力をかけてくる。事なかれ主義の蔓延ったシチリアでは、裁判所の職員たちですらデ・フランチェスコ判事の行動を“出過ぎた真似”と非難する始末。次第に孤立無援の状態に追い込まれていく判事と護衛隊たち。ある殺し屋の証言から突破口が見出せたかに思えたが、それは再び新たな悲劇を生むだけに過ぎなかった…。
 これは実在の裁判官フランコ・タウリザーノとその護衛官たちの実体験を基にしたセミ・ドキュメンタリー。実際にタウリザーノ判事がマフィア撲滅に挑んだ都市トラーパニで撮影が行われた。スタジオ・セットは一切使わず、街中でゲリラ的なロケ撮影を行うことで緊迫したリアリズムを生み出すことに成功している。ハリウッド映画のように派手なドンパチやアクションなどは殆どなし。日常のごく些細な出来事を積み重ねることによって、常に命の危険と隣り合わせで生きる主人公たちの緊張感や不安を克明に描いていくのだ。手持ちカメラを多用したドキュメンタリー・スタイルの撮影も臨場感と迫力がある。
 なによりも素晴らしいのは、不安や恐怖に日夜苦しみながらも、己の信念を貫き正義を全うするために闘う主人公たちの姿を、等身大の人間として生々しく描いている点であろう。当時のシチリアでは警察も憲兵隊も予算不足に悩まされており、武器もろくに揃えることが出来ないような有様だった。判事を護送する手段だって普通の乗用車。5人の護衛官に支給される防弾チョッキはたったの2枚で、ガソリンだって一日の使用量が制限されていた。そんな状態でマフィアから判事を守ろうというのだから、まさに自殺行為にも等しいと言えよう。しかも、護衛官たちの給料だってスズメの涙ほど。ボロ・アパートで暮らすのがやっとだ。汚職政治家のボディガードになった方がよっぽどいい暮らしが出来る。にもかかわらず、正義感と使命感だけに突き動かされ、命がけで判事を守ろうとする彼らの苦悩や葛藤に、誰もが深い感動を覚えるはずだ。
 監督はイタリアの国民的大スター、ウーゴ・トニャッツィの息子で、自らも映画俳優として活躍するリッキー・トニャッツィ。処女作“Piccoli equivoci(小さな誤解)”(89)でイタリア国内の新人監督賞を総なめにし、2作目“Ultra”(90)でベルリン映画祭の最優秀監督賞を獲得。満を持して挑んだ野心作が、この“La scorta”だった。骨のある演出には気迫が満ち溢れているし、強面ばかりを揃えた個性的な役者陣の演技も見事。70年代ポリス・アクションを彷彿とさせるモリコーネの音楽スコアもアドレナリン噴出ものだ。アクション・ドラマとしても社会派告発映画としても、十分に見応えのある作品である。

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良きマイホーム・パパのコルサーレ警部(E・ロ・ヴェルソ)

水道事業に関するマフィアの関与を捜査する判事

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コルサーレの裏切りに激怒するアンジェロ

全てを告白したコルサーレを判事は許すのだった

 シチリアの地方都市トラーパニでマフィア撲滅に取り組む判事リッツォが暗殺された。護衛の憲兵数人も殉死。それから数週間後、カラビニエリのアンジェロ(クラウディオ・アメンドーラ)がローマからトラパーニヘと異動してくる。リッツォ判事の護衛官だったピエトロは彼の先輩であり、無二の親友だったのだ。自らの故郷であるシチリアのために働きたい、先輩の遺志を継ぎたいと考えた彼は、自ら志願して戻ってきたのである。
 アンジェロが護衛するのは、リッツォ判事の後任であるデ・フランチェスコ判事(カルロ・チェッキ)。シチリアは初めてというデ・フランチェスコ判事は、護衛など大袈裟ではないかと戸惑いを隠せない様子だ。護衛隊のリーダーはコルサーレ警部(エンリコ・ロ・ヴェルソ)。その親友であるラファエレ(トニー・スペランデオ)、大人しい若者ファビオ(リッキー・メンフィス)、運転手のニコラ(ウーゴ・コンティ)、そしてアンジェロの3人が部下となる。
 判事の護衛というはシチリアでは命がけの仕事だが、にもかかわらず市から与えられる予算は極めて低かった。武器は旧式のものしか買えないし、防弾チョッキだって2枚しか支給されていない。ガソリンの支給も一日の量が制限されている。それでも護衛隊の面々は文句ひとつ言わず職務に当たっていた。
 もっとも緊張感が高まるのは判事の送り迎え。どこから暗殺者が襲ってくるか分からない。それ以外はひたすら待機。退屈この上ない時間だが、それも仕事のうちだ。ある時は車で移動中に、道端に乗り捨ててある乗用車と遭遇する。爆弾が仕掛けられている可能性が高い。おとりの護送車が先に通過して安全を確かめ、判事を乗せた本物の護送車が後に続く。護送車には防弾ガラスすら装備されていないので、いやがおうにも緊張は高まる。
 その傍らで、アンジェロはプライベートの時間を使って裏社会を探っていた。リッツォ判事やピエトロを暗殺した黒幕を突き止めるためだ。その中からジュゼッペ・マッザリアという人物の名前が浮上する。シチリアの各地でダム建設を進める大物実業家だ。一方、妻と3人の子供を持つコルサーレ警部は、新しいアパートに引っ越すため検事に取り入ろうとしていた。今住んでいるアパートは老朽化が激しく、子供たちを育てるには手狭すぎる。かといって護衛官の薄給では新しいアパートに引っ越すことなど夢のまた夢だ。シチリアでは権力に頼らないと生きていけない。その現実をコルサーレは十分すぎるくらい理解していた。そんなコルサーレの世渡り術を生真面目なアンジェロは苦々しく見ていた。
 トラーパニの周辺では井戸水を民間業者が牛耳っているため、水道代の高さが問題になっていた。本来は公共のものである水源までをも、マフィアの息のかかった業者が独占しているのである。それを市が買い上げて各家庭に供給しているのだが、これまで誰もその構造にメスを入れてこなかった。デ・フランチェスコ判事はこうした悪徳業者を排除し、安くて安全な水を市民に供給すべきだと考えて行動を起こした。すると、その調査の過程でジュゼッペ・マッザリアの名前が出てきた。井戸水とダム建設。何かが臭う。判事は女性警視正アンナ(フランチェスカ・ダローヤ)に調査を命じた。
 ところが、その直後にデ・フランチェスコ判事の捜査は暗礁に乗り上げる。なぜか事態を知った検事が横槍を入れてきたのだ。アンジェロはコルサーレ警部が検事に密告したと確信し激怒する。事実、コルサーレは新しいアパートを提供してもらう見返りに、デ・フランチェスコ判事の行動を逐一検事へ報告していたのだ。己の卑劣さを恥じたコルサーレは事実を判事に告白。判事は正直に話してくれたことを感謝した。
 この一件を契機に、判事と護衛官たちの信頼関係が一気に強まっていく。マフィアを排除してシチリアを良くしたい、誰もが同じ志を胸に抱いていた。しかし、判事は捜査から外されてしまった。これからは秘密裏に行動するしかない。そこで、コルサーレやアンジェロたちは、目下のところ最重要人物であるマッザリアの電話を盗聴することにした。すると、副知事のスカヴォーネ(アントニーノ・ペンサベーネ)がダム建設現場を視察することが判明した。アンジェロは元恋人の警視正アンナと共にスカヴォーネを尾行。すると、彼は現地でボヌーラ上院議員(ジャシント・フェロ)と合流した。デ・フランチェスコ判事は自分を捜査から外した張本人が上院議員だと悟る。
 さらに、デ・フランチェスコ判事の引き出しから捜査書類が紛失した。鍵をかけていたのにも関わらずだ。秘書のポリッツィ(レオ・グロッタ)が関係しているはずだったが、本人は知らぬ存ぜぬを通すばかり。猛烈な剣幕で追及する判事に逆切れしたポリッツィは、余計なことをしなければ平和に暮らせると言い捨てて出ていく。それは裁判所スタッフ全員の意見でもあった。判事は裁判所内でも孤立しつつあったのだ。
 そんな折、デ・フランチェスコ判事の幼い娘ロベルタ(クラウディア・ボニヴェント)が父親のもとへ身を寄せることとなった。ある日、護衛官たちの家族も交えてロベルタの誕生日を祝っていると、何者かが玄関に銃弾を置いて行った。本格的な脅迫の始まりだった。裁判所の自動ゲートが開かない、コルサーレ警部の自宅に子供の誘拐を示唆する電話が入るなど、マフィアの脅迫は日々エスカレートしていく。さらに、盗聴までもが相手にばれていた。護衛官たちもその家族も精神的に追いつめられていく。そんなある日、気晴らしにと護衛官たちはロベルタや家族を連れて海岸へ遊びに行く。その帰りに、ラファエルが車に仕掛けられていた爆弾で爆死した。その車には幼いロベルタが同乗するはずだったのだ。
 もはや関係者の家族にも危険が及んでいることは明らかだった。ロベルタは母親のもとへ返された。コルサーレ警部も妻と子供たちを親戚の家へ預けた。裁判所の指示で、判事はシェルターで寝泊まりをすることとなる。もうこれ以上、犠牲を出すことはできない。判事は護衛官たちに辞職を促した。彼にはその権限がないからだ。しかし、誰一人として辞める者などいなかった。決意を新たにした彼らは、独自の捜査を進めた末にリッツォ判事暗殺の実行犯を突き止める。そこから、背後に暗躍するマフィアや権力者たちの実態が明らかになると思われたのだが…。

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お互いに信頼と絆を深めていく判事と護衛官たち

一方、裁判所では判事に対する反発が強まっていた

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判事の娘ロベルタの誕生パーティが開かれるものの…

アンジェロたちの盗聴行為もマフィアにばれていた

 本作の企画は製作者クラウディオ・ボニヴェントの悲願だったという。少年院の実態を赤裸々に描いたマルコ・リージ監督の『永遠のマリー』(88)やソビエトにおけるスターリン時代の恐怖政治を描いたアンドレイ・コンチャロフスキー監督の『映写技師は見ていた』(91)など、社会派の問題作を生み出してきたボニヴェントは、当時のシチリアで多発していた裁判官や警察官の暗殺に強い関心を抱いていたという。処女作“Piccoli equivoci”以来の付き合いであるリッキー・トニャッツィやシモーナ・イッツォらとポーカー・ゲームに興じていた彼は、そうした判事や護衛官たちの日常にスポットを当ててみようと突然ひらめいたのだそうだ。
 数か月に渡って下調べを進めていくうちに、彼らはフランコ・タウリザーノ判事の存在に行き当たる。判事自身からシチリア時代の体験を語ってもらい、当時判事の護衛を務めた人々とも実際に会って話を聞き、さらにシチリアを再訪した判事に同行しながら、少しずつストーリーを肉付けしていったのだという。
 脚本を手掛けたシモーナ・イッツォは元映画女優で、監督リッキー・トニャッツィの奥さん。父親はマカロニ・ウェスタンの脚本家レナート・イッツォ、双子の妹はテレビの売れっ子監督ロッセラ・イッツォという映画一家の出身だ。また、共同で脚本を書いたグラツィアーノ・ディアナはトニャッツィ監督の前作“Ultra”にも参加していた人物で、ボニヴェントが監督を手掛けたテレビ用の戦争映画『ブラックバード・ライジング』(03)も手掛けている。
 また、『青春の形見』(87)や『殺意のサンマルコ駅』(90)、『ザ・ブロンド』(93)など一連のセルジョ・ルビーニ監督作品で知られるアレッシオ・ゲルシーニが撮影監督を担当。『レディホーク』(85)や『フロム・ビヨンド』(86)などのアメリカ映画にも参加したマリアンジェラ・カプアーノが美術デザインを手掛けている。トルコ出身の名匠フェルザン・オズぺテクが助監督して名を連ねているのも注目だ。
 ちなみに、本作はその内容のせいもあってなのだろうか、撮影開始の3日前にスポンサーが手を引いてしまい、ボニヴェント自身のポケット・マネーで製作費を全額まかなったのだそうだ。なので、撮影スケジュールを大幅にスピードアップせねばならず、最終的に7週間半で撮り終えたとのこと。それでも最後は予算が尽きてしまい、クライマックスを変更しなくてはならなかったという。

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ロベルタの警護役を任された心優しいラファエル(T・スぺランデオ)

車に仕掛けられた爆弾でラファエルが爆死する

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護衛官たちに辞職を促す判事

マフィア摘発に繋がる重要な証言を得たのだったが…

 主人公アンジェロ役を演じているクラウディオ・アメンドーラは日本では無名に等しいが、本国イタリアではダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞を獲得するなど知名度の高い俳優。フランチェスカ・ネリの元恋人でもあり、二人の間には子供もいる。血気盛んな反逆児という役柄は彼のイメージにピッタリだ。
 そんなアンジェロとは対照的に、世渡り上手なマイホーム・パパのコルサーレ警部を演じているエンリコ・ロ・ヴェルソは、『小さな旅人』(92)や『いつか来た道』(98)など名匠ジャンニ・アメリオのお気に入りとしても知られる名優。イタリアのみならずハリウッドやフランスでも活躍するスターだ。
 そして、鋼の意志を持った勇敢な判事デ・フランチェスコを演じているのは、舞台俳優として有名なベテラン、カルロ・チェッキ。また、『ゴッドファーザー』(72)のファブリツィオ役や『バラキ』(72)のラッキー・ルチアーノ役で知られる名優アンジェロ・インファンティが、デ・フランチェスコ判事の親友であるバレージ判事役としてゲスト出演している。
 その他、トニャッツィ監督の前作“Ultra”でデビューして注目されたリッキー・メンフィス、『ペッピーノの百歩』(00)のトニー・スペランデオ、アレックス・インファシェッリ監督のヒット作“Almost Blue”(00)などで主演を務めたロレンザ・インドヴィナ、ガブリエル・サルヴァトレス監督作品の常連俳優ウーゴ・コンティ、ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品の常連でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の助演男優賞に3度輝く名脇役レオ・グロッタなどが顔を出している。

 

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