マカロニ・アクション セレクション

 

地獄のバスターズ
Quel maledetto treno blindato (1978)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2008 Severin Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤3枚組)
カラー/ワイドスクリーン/スクィーズ収録/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/99分/製作:イタリア
※サントラ盤CD付

特典映像
Q・タランティーノ監督VSカステラーリ監督対談
メイキング・ドキュメンタリー
ロケ現場再訪
オリジナル劇場予告編
監督:エンツォ・G・カステラーリ
製作:ロベルト・スバリジア
脚本:サンドロ・コンティネンザ
   セルジョ・グリエコ
   ロマーノ・ミリオリーニ
   ラウラ・トスカーノ
   フランコ・マロッタ
撮影:ジョヴァンニ・ベルガミーニ
音楽:フランチェスコ・デ・マージ
出演:ボー・スヴェンソン
   フレッド・ウィリアムソン
   ピーター・フートン
   イアン・バネン
   ライムンド・ハルムストルフ
   マイケル・ペルゴラーニ
   ジャッキー・ベイスハート
   ミシェル・コンスタンタン
   デブラ・バーガー
   ドナルド・オブライエン
   ジョシュア・シンクレア

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軍規違反を犯した兵士たちが護送車に乗せられる

歴戦の勇士イェガー中尉(B・スヴェンソン)もその一人

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護送車がドイツ軍の戦闘機に襲撃される

囚人を標的にする司令官を殺した黒人兵フレッド(F・ウィリアムソン)

 ご存知の通り、クエンティン・タランティーノ監督のメガヒット映画『イングロリアス・バスターズ』(09)の元ネタとなった作品。とはいっても、ストーリーはほとんど別物。逃亡中のならずもの兵士たちがパルチザンから連合軍特殊部隊と間違われ、ナチスの秘密兵器を強奪するという極秘計画へ参加せねばならなくなる。『特攻大作戦』(67)の基本プロットを下敷きにした、マカロニ・ウェスタン風の荒唐無稽で野郎臭のムンムンする痛快な戦争アクションだ。
 ノルマンディ上陸作戦で戦況が連合軍優勢となった1944年。軍規違反のならず者兵士たちばかりを乗せた連合軍輸送車がドイツ軍機に爆撃される。生き残ったのは、いずれ劣らぬ問題児5人。中立国スイスへと逃亡することに決めた彼らは、その途中でドイツ軍部隊と遭遇して相手を皆殺しにする。
 ところが、その相手とはドイツ軍のふりをした連合軍の特殊部隊だった。彼らと合流する予定だったフランスのパルチザンに囲まれた主人公たちは、自らを特殊部隊と名乗って難を逃れようとする。だが、そこへ本物の連合軍指揮官が合流。戦争の大義名分なんぞクソ食らえだと思っていたならず者たちは、やがてナチスの秘密兵器を狙った大規模な強奪作戦へ参加せねばならなくなってしまう。
 とりあえず、オープニングの哀愁に満ちた勇壮なテーマ曲からして鳥肌もののカッコ良さ。どこからどう見ても低予算のB級戦争アクションなのだが、登場人物のキャラクターがそれぞれ非常によく描きこまれているし、荒唐無稽でコミカルな前半から悲壮感漂うクライマックスまでの全体のテンポも実に小気味良い。ナチスを必要以上に悪者として描いていない点や、ドイツ人側からの視点がしっかりと盛り込まれているのもポイント高し。イデオロギーやナショナリズムに関係なく、戦場では誰もがバスタード(クソ野郎)だぜ!という姿勢がなかなかステキだ。
 監督はイタリアン・アクションといえばこの人!のエンツォ・G・カステラーリ。もともと60年代にマカロニ・ウェスタンで身を立てた彼は、自らがアクション・スターとなっても不思議ではないほどのマッチョでダンディなアスリートだ。男気溢れるハードなバイオレンスに定評があり、当時は『死神の骨をしゃぶれ』(73)や『復讐の銃弾』(74)、『ビッグ・バイオレンス』(77)といったポリス・アクションの傑作を次々と発表していた。この『地獄のバスターズ』なんぞは、まさしく最も脂が乗っていた時期の作品と言えるだろう。

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馬小屋に隠れていたドイツの脱走兵アドルフ(R・ハルムストルフ)

猜疑心の強いトニー(P・フートン)はアドルフを信用しない

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ドイツ軍の偵察を志願するアドルフをイェガー中尉は信じた

アドルフが裏切ったと思ったトニーたちは一斉掃射する

 舞台は1944年のフランス。連合軍の駐屯地では、軍規に違反したならず者兵士たちが次々と護送車に乗せられている。本部へと送還された上で軍法会議にかけられるのだ。その中には、歴戦の勇士イェガー中尉(ボー・スヴェンソン)も含まれている。任務を放棄して女としけこんでいたことがバレたのだ。
 ところが、移動中に護送車のタイヤがパンク。タイヤ交換中にドイツ軍の戦闘機が襲ってくる。しかも、逃げようとする囚人たちを連合軍の兵士が次々と射殺。意を決したイェガー中尉と黒人兵フレッド(フレッド・ウィリアムソン)は連合軍将校を殺害した。
 ドイツ軍戦闘機が去り、後に残されたのは5人の囚人たち。イェガー中尉、殺人罪に問われた黒人兵フレッド、元シカゴ・ギャングのトニー(ピーター・フートン)、盗みのプロのイタリア系米軍兵ニック(マイケル・ペルゴラーニ)、そして軟弱な脱走兵バール(ジャッキー・ベイスハート)だ。
 ドイツ軍に捕まれば殺されるし、連合軍に投降すれば刑務所送り。そこで、彼らは中立国スイスへと逃亡することにする。タイヤを交換した護送車でスイスへと向う5人。しかし、途中でドイツ軍の攻撃に遭って護送車を放棄し、森の奥に発見した馬小屋で休憩する。
 ところが、その馬小屋にはドイツ軍の脱走兵アドルフ(ライムンド・ハルムストルフ)が身を隠していた。猜疑心の強いトニーはアドルフを始末しようと主張するが、イェガー中尉とフレッドには別の考えがあった。連合軍にもドイツ軍にも投降できないのはアドルフとて同じこと。逆に、ドイツ人がいることで、万が一ドイツ軍に遭遇した際のカモフラージュとして利用できる。それに、アドルフはスイス国境までの道のりを知っているし、同じくスイスへの逃亡を希望していた。
 アドルフを仲間に加えて6人となったならず者たち。ドイツ軍と連合軍の銃撃戦に巻き込まれながらも、スイス国境を目指して移動を続けた。しかし、その途中で運悪くドイツ軍戦車部隊と遭遇。アドルフは捕虜を輸送中のドイツ軍司令官を演じてその場を切り抜けようとしたがバレてしまう。
 その場で処刑を命じられた6人。だが、イェガー中尉とフレッドが敵のスキをついて反撃する。その直後に連合軍の空爆隊が上空を通りがかり、壮絶な爆撃を受けたドイツ軍戦車部隊は全滅する。
 ドイツの軍服とトラックを奪った6人は、近くの川でつかの間の休息を楽しむ。すると、どこかからか女の声が聞こえてくる。偵察に行ったニックとトニー、バールの3人は、川の下流で全裸になって水浴びを楽しむドイツ軍の女性兵たちを発見。女に飢えていた彼らは、喜び勇んで川の中へ飛び込む。
 そこへ、ニックたちの姿が見えないことに気付いたフレッドがやって来る。同じように裸の女を見て大喜びするフレッド。しかし、黒人の姿を見た女たちは相手がアメリカ人だと気付き、裸のまま機関銃を手にして襲いかかってきた。
 命からがら逃げ出したフレッドたち。改めてドイツの軍服を着て移動を始めた彼らは、再びドイツ軍の小部隊と遭遇する。なるべくなら戦闘は避けたい。中でも、同胞の無残な死を散々目の当たりにしてきたアドルフは尚更だった。彼は一人でドイツ軍部隊に接触し、相手のことを偵察してくると提案する。トニーは反対するが、イェガー中尉はアドルフの言葉を信じて行かせることにした。
 一人で敵への接触を試みたアドルフ。しばらく話をしていた彼は、突然隠れている仲間の方を振り向いて“アメリカ人だ!”と大声で叫んだ。アドルフが裏切ったと直感したトニーたちは一斉に銃撃を開始。アドルフを含む全員を射殺した。

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彼らが殺したのはパルチザンと合流するはずの連合軍特殊部隊だった

パルチザンの看護婦ニコール(D・バーガー)を強引に口説くトニー

 死体を始末して再び移動を始めようとした一行。ところが、いつの間にかフランス人のパルチザンたちに囲まれていた。どうやら、彼らはならず者たちを連合軍の特殊部隊だと勘違いしているらしい。
 というのも、先ほど皆殺しにしたドイツ軍の正体は、パルチザンと合流するはずの連合軍特殊部隊だったのだ。アドルフが“アメリカ人だ!”と叫んだのもそれが理由。彼は裏切ってなどいなかった。その事に気付いて愕然とするトニーたちだったが、もはや後悔先に立たずである。
 真実を伝えるわけにもいかず、特殊部隊のふりをしてパルチザンの隠れ家へ合流したならず者たち。バールとトニーは、看護婦として働く美しいフランス女性ニコール(デブラ・バーガー)に一目惚れする。特にトニーは積極的で、その強引さにニコールの心も揺れるのだった。
 パルチザンのリーダー、ヴェロニク(ミシェル・コンスタンタン)によると、特殊部隊とパルチザンは合同でナチの秘密兵器を強奪するつもりだった。その晩、作戦の指揮を執る連合軍のバックナー将軍(イアン・バネン)がパルチザンと合流した。
 当然のことながら、バックナー将軍はならず者たちの正体にすぐ気付く。イェガー中尉は事情を説明し、強奪作戦への協力を誓った。バックナー将軍としても、この場に及んで作戦を諦めるわけにはいかない。一か八かの賭けに出るしかなかった。
 標的となるのは、ナチがV2ロケット用に開発した最新のジャイロスコープ。最高機密であるため容易に近づくことは出来ない。そこで、まず彼らは捕虜を輸送中のドイツ軍兵士を装って敵の指令本部へ潜入した。バックナー将軍とフレッドが捕虜役だ。
 案の定、ナチ親衛隊の司令官(ドナルド・オブライエン)が尋問をすることとなった。その間、イェガー中尉やニック、トニーたちは、ナチ指令本部の置かれた城砦の内部へと侵入。物音を立てないよう、銃器ではなくパチンコやナイフを使って警備兵を次々と殺していく。そして、司令官室へとたどり着いた彼らは、その場にいた敵を皆殺しに。親衛隊司令官の軍服などを奪い、ロープを使って脱出することに成功する。
 そして、ナチ司令官に扮したバックナー将軍とイェガー中尉は鉄道駅へと向った。敵はV2ロケットを機関車で輸送するからだ。二人は機関車へと乗り込み、ロケット技術者を殺害。ロケット本隊からジャイロスコープを取り外して奪おうとする。
 一方、機関車が通過する橋のふもとではパルチザンが待機していた。橋を爆破して機関車を駅へ逆戻りさせ、そこで待ち構えている仲間がドイツ軍を一気に壊滅させるという計画だった。ジャイロスコープを取り外すための時間を確保するため、爆破は機関車が通過する直前に決行される。
 ところが、連絡係のニックが持っている無線機が故障。彼はドイツ兵の銃撃をかいくぐってバイクを走らせ、なんとかギリギリのタイミングで機関車の走行時間を仲間へ伝えるが、その場で息絶えてしまった。
 かくして、橋の爆破は無事に成功。機関車は駅へと戻り始めた。その頃、フレッドの陣頭指揮でパルチザンが駅を急襲して占拠。だが、事態を不審に思ったドイツ軍が兵士たちを駅へ送り込んだ。
 ドイツ軍を相手に、壮絶な死闘を繰り広げるならず者たちとパルチザン。果たして、ジャイロスコープ強奪作戦は見事成功するのか!?

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パルチザンのリーダー(M・コンスタンタン)が連合軍司令官を迎える

バックナー将軍(I・バネン)はならず者たちの正体を一発で見抜く

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ナチ親衛隊司令官(D・オブライエン)の尋問を受けるフレッドと将軍

一行は司令官の軍服を奪って城砦を脱出する

 プロデューサーの発言権が強い大作映画よりも、バジェットの少ない代わりに自由が許される低予算映画を好んだというカステラーリ監督。本作も映像のスケール感こそ大作映画には及ばないものの、マットペイントやミニチュア・セットなどを駆使しながら躍動感溢れる戦争アクション映画に仕上げている。
 中でも、遠近法を利用したミニチュア撮影はなかなかお見事。カメラの手前にミニチュアを置くことによって、本物の風景の中に馴染ませてしまうのだ。もちろん(?)、ひと目でそれと分ってはしまうものの、当時の未熟な合成撮影よりも仕上がりは自然。クライマックスの機関車激突シーンも見応えある。
 脚本の初稿を書いたのは、『さいはての用心棒』(67)や『悪魔の墓場』(74)などで知られるサンドロ・コンティネンザ、史劇映画の監督としても有名なセルジョ・グリエコ、バーヴァの『呪いの館』(66)や『悪魔の微笑み』(72)などのホラー映画で有名なロマーノ・ミリオリーニの3人。
 しかし当初、カステラーリはこの脚本が気に入らなかったという。基本プロットそのものは良かったのだが、キャラクターの描き込みなどに不満があったようだ。そこで、カルト・ホラー『ナイトチャイルド』(75)や巨匠ダミアーノ・ダミアーニのマフィア映画『暗黒街の首領』(85)などで知られる、脚本家夫婦フランコ・マロッタとラウラ・トスカーノがリライトを担当。カステラーリ自身は盟友ティト・カルピに任せたかったようだが、プロデューサーのロベルト・スバリジアが一足先に手を回してしまっていたらしい。
 撮影監督を担当したのは、『人喰族』(81)や『キラー・クロコダイル』(90)などのB級映画で知られるジョヴァンニ・ベルガミーニ。カステラーリ監督とは『ケオマ・ザ・リベンジャー』(77)や『殺しの罠コブラ』(80)などでも組んでいるカメラマンだ。
 さらに、その火薬を大量に使った派手な爆破シーンからイタリア映画界では“ボンバルドーネ”との異名で知られる伝説的な特殊効果マン、ジーノ・デ・ロッシが参加。また、アメリカ映画『リバイアサン』(89)を手掛けた有名なスタントマン、ロッコ・レッロがスタント指導を担当。同じく有名なスタントマン、マッシモ・ヴァンニもスタント・チームに加わった。
 そのほか、リリアナ・カヴァーニの壮絶戦争ドラマ『狂える戦場』(80)や巨匠ベルトルッチの名作『ラスト・エンペラー』(87)などで軍服のデザインを手掛けたウーゴ・ペリコーリが、本作でも軍服デザインを担当。大作『アルデンヌの戦い』(67)や『砂の惑星デューン』(84)、『ブラック・ホーク・ダウン』(01)のピエル・ルイジ・バシーレと『サハラ・クロス』(77)や『イングリッシュ・ペイシェント』(96)のアウレリオ・クルノーラが、ミニチュア・セットやマット・ペイントを含めた美術デザイン全般を手掛けている。編集を担当したジャンフランコ・アミクッチは、カステラーリ作品の常連スタッフだ。
 そして、一度耳にしたら脳裏を離れない見事なテーマ曲を書いたのは、マカロニ・ウェスタンやポリス・アクションの名コンポーザーとして有名な名匠フランチェスコ・デ・マージ。カステラーリとは『空爆大作戦』(69)でもいいコンビを組んでいたが、本作はデ・マージ自身にとっても代表作と言うべき出来栄えだ。
 ちなみに、本作では主人公たちが武器を使わずに城砦へ侵入するシーンが印象的だったが、これはあるやむにやまれぬ事情から生まれた苦肉の策だったという。というのも、当時のイタリアでは“赤い旅団”に代表される左翼テロが横行し、警察は銃器の取り締まりに躍起となっていた。その捜査対象は映画の小道具にまで及び、なんと本作の城砦侵入シーンの撮影直前に小道具用の銃器が全て警察によって差し押さえられてしまったのだ。一時はイタリア国外での撮影も検討されたが、それだと予算をオーバーしてしまう。そこでカステラーリ自身が知恵を絞り、銃器を使わずに戦うという名シーンが完成したのだった。
 なお、本作の原題はイタリア語で“あのいまいましい武装列車”という意味。当初は“Bastardi senza gloria(栄光なきならず者たち)”というタイトルだったが、その“Bastardi”が当時としては汚い言葉だったために変更されてしまった。ところが、全米公開される際に配給会社が付けたのは、同じような意味のタイトル“The Inglorious Bastards(名もなきならず者たち)”。日本語タイトルもこの英語版を元にしている。

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ナチ司令官を装って機関車へ乗り込むイェガー中尉と将軍

命がけで伝達役を務めたニック(M・ペルゴラーニ)

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ニックの活躍で無事に橋の爆破が決行される

駅ではドイツ軍とパルチザンの壮絶な銃撃戦が・・・

 主人公のイェガー中尉役を演じているのは、スウェーデン出身のアメリカ人タフガイ俳優ボー・スヴェンソン。彼は10代の頃に渡米し、アメリカ海軍に所属していたというキャリアの持ち主。さすがに兵士役は板についている。イタリア映画への出演には当初難色を示していたようだが、本作ですっかりイタリアの現場が気に入ってしまい、これ以降しばらく活動の拠点をイタリアへ移すこととなった。なお、このイェガー中尉役は当初バート・ランカスターが演じる予定で、彼はその代役だったのだそうだ。
 その良き右腕的存在になる黒人兵フレッド役には、『ハンマー』(72)や『ハーレム街の首領(ドン)』(73)などのブラック・ムービーで当時人気絶頂だった俳優フレッド・ウィリアムソン。彼もまた、活動の拠点をイタリアへ移したアメリカ人スターの一人だ。“アメリカでの俺は黒人俳優だったが、ヨーロッパではアクション・スターだった”とは本人の弁だが、人種の壁が歴然として存在するアメリカよりも、“ハリウッドから来たスター”という大枠で扱ってくれるイタリアは仕事がやりやすかったのだろう。本作でも、時にはクールに、そして時にはコミカルにと、のびのびとした演技を存分に披露してくれる。
 彼ら以外のバスターズ・メンバーも、知名度では劣れど個性では負けていない連中ばかり。まず、猜疑心の強い元ギャングのトニーを演じているのは、『オルカ』(77)にも出ていたアメリカ人俳優ピーター・フートン。その後、『地獄のミッション』(87)などイタリア産B級バトル・アクションの常連となった人だ。カステラーリ監督によると、エージェントからは“第2のポール・ニューマン”という売り込みで紹介されたという。さすがにそれは大風呂敷を広げすぎだろ・・・と監督も思ったそうだが(笑)、活きの良さだけが取り得の生意気な若者を元気に演じて好感が持てる。
 一方、三枚目で抜け目のない泥棒兵士ニック役のマイケル・ペルゴラーニは、当時イタリアの若者に人気のあったテレビ司会者。ロンドンでラジオDJをしていたこともあり、英語はペラペラだったという。長髪に髭というのは彼のトレードマーク。第2次大戦中の兵士としてはあるまじき格好だが、その飄々とした個性は映画の良いアクセントとなっている。後半の悲壮感漂う演技も、素人俳優とは思えない上手さだ。
 また、気弱な脱走兵バール役のジャッキー・ベイスハートは、フェリーニの『道』(54)などイタリア映画でも知られるハリウッドの大物俳優リチャード・ベイスハートの息子。しかも、母親はイタリアの大女優ヴァレンティナ・コルテーゼ。役者としては残念ながら平凡そのものだが、お坊ちゃま育ちのサラブレッドらしさは軟弱者バールの個性にピッタリだった。
 そして、後半のジャイロスコープ強奪作戦で存在感を発揮するのが、バックナー将軍役を演じるイギリスの名優イアン・バネン。さらに、『穴』(60)や『ギャング』(66)などのフレンチ・ノワールで有名なフランスの個性派ミシェル・コンスタンタンが、パルチザンのリーダー、ヴェロニク役で登場。出番こそ少ないものの、その強烈なマスクで異彩を放っている。
 異彩といえば、脱走兵アドルフ役のドイツ人俳優ライムンド・ハルムストルフの存在感も印象的。主にマカロニ・ウェスタンやB級アクションで知られる人だが、彼もまた一度見たら忘れられないマスクの持ち主だ。
 さらに、マカロニ・ウェスタンの名脇役ウィリアム・バーガーの娘デブラ・バーガーがニコール役を演じているほか、『愛の嵐』(74)や『タタール人の砂漠』(76)など軍人役には欠かせないマンフレッド・フレイベルゲル、『猟奇!変態地獄』(76)や『人間解剖島/ドクター・ブッチャー』(80)などの悪役で知られるドナルド・オブライエンなどイタリア映画ファンにお馴染みの顔が脇を固めている。

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本人もアクション俳優顔負けにマッチョなカステラーリ監督

 

 

ブロンクス・ウォリアーズ/1990年の戦士
1990 : I guerrieri del Bronx (1982)
日本では劇場未公開・TV放送あり
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2003 Shriek Show (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/92分/製作:イタリア

特典映像
F・ウィリアムソン インタビュー
カステラーリ監督インタビュー
カステラーリ監督の音声解説
フォト・ギャラリー
監督:エンツォ・G・カステラーリ
製作:ファブリツィオ・デ・アンジェリス
脚本:ダルダノ・サケッティ
   エリサ・リヴィア・ブリガンティ
   エンツォ・G・カステラーリ
撮影:セルジョ・サルヴァーティ
音楽:ワルター・リッツァーティ
出演:ヴィック・モロー
   フレッド・ウィリアムソン
   クリストファー・コネリー
   マーク・グレゴリー
   ステファニア・ジロラーミ
   ジョージ・イーストマン
   ジョシュア・シンクレア
   ベティ・デッシー
   ロッコ・レッロ

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マンハッタンを脱走した少女アン(S・ジロラーミ)

バイク集団ライダースがアンを助ける

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ライダースのリーダー、トラッシュ(M・グレゴリー)

ライバルのタイガースを率いるオーグル(F・ウィリアムソン)

 大ヒット映画『マッドマックス』(79)や『ニューヨーク1997』(81)に触発されて、80年代初頭のイタリアではポスト・アポカリプス映画がちょっとしたブームとなった。ポスト・アポカリプス映画とは、核戦争などの影響で無法地帯と化した近未来の地球を舞台に、パンクなファッションに身を包んだアウトローたちが大暴れするというSFアクションのこと。そのにわかブームの火付け役となったのが、我らがイタリアン・アクションの巨匠エンツォ・G・カステラーリの手掛けた『ブロンクス・ウォリアーズ/1990年の戦士』という作品だ。
 ストーリーはいたって単純。悪徳大企業の社長令嬢アンが逃亡し、無法地帯と化したニューヨークはブロンクスへとたどり着く。ブロンクスは様々なギャング集団が縄張り争いに明け暮れていた。そこで彼女は、ライダースと呼ばれるバイク集団のリーダー、トラッシュに救われる。
 ところが、大企業の幹部はアンを奪還するため、元悪徳警官の賞金稼ぎハマーをブロンクスへと送り込む。彼はギャングたちをお互いに争わせ、そのスキに乗じてアンを奪い去ろうと画策。だが、トラッシュとブロンクスの帝王オーグルの二人はその計画に気付き、ブロンクスを守るためにハマー一味と全面対決する。
 ・・・という、なんとも他愛ないお話。『ニューヨーク1997』と『ウォリアーズ』(79)を合体させて、『ロミオとジュリエット』もどきの味付けを施したイタリア産らしいパチもの映画だ。
 トラッシュ率いるライダースが『イージー・ライダー』風のヒッピー・ファッション、オーグル率いるタイガースがキャブ・キャロウェイ風のハーレム・ファッションに身を包んでいるほか、ホッケー防具にローラー・スケートを着用したゾンビーズ、山高帽にステッキを持ったタップ・ダンサー風のアイアンマンと、ギャング集団のそれぞれが独自のカラーを打ち出しているというのは面白い・・・のだが、やはり発想がキッチュというかチープというか。いかにも80年代的なこっ恥ずかしさが全編に溢れていて、なんだか思わず赤面してしまうのだ。
 予算が相当低かったであろうことは、本編の映像を見れば一目瞭然。ニューヨークやローマの廃墟ビルなどを使って撮影されているので、セットにはほとんどお金がかかっていない。それがこの手の映画の便利な点ではあるものの、見た目が貧相になってしまうという弱点もまた避けられないであろう。また、それじゃ本も子もないじゃございませんか?という滅茶苦茶なクライマックスも大いに疑問あり。
 それでも、とりあえず派手なバイオレンスとアクションは満載。首が吹っ飛んだりするようなスプラッター描写もオマケで付いてくる。カステラーリ監督の作品としてはお世辞にも出来が良いとは言えないが、そのこっ恥ずかしさも含めて何も考えなければ十分に楽しめる作品だ。昔はテレビの深夜ロードショーでもよく放送されていたもんだが、こうしたバカバカしいイタリア産B級アクションを気軽に見れなくなってしまったのは寂しい限りである。
 なお、本国イタリアではコケてしまったものの、翌83年春に劇場公開されたアメリカでは予想外の大ヒットを記録。その勢いに乗ってカステラーリ監督による続編『ブロンクスからの脱出』(84)が作られたほか、ジョー・ダマート監督の『近未来戦士テキサス2020年』(83)や『核戦士シャノン』(83)、セルジョ・マルティーノ監督の『サイボーグ・ハンター/ニューヨーク2019年』(83)などのポスト・アポカリプス映画が立て続けにイタリアで作られることとなった。

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賞金稼ぎハマー(V・モロー)が暗躍する

一匹狼ホットドッグ(C・コネリー)もハマーに買収された

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ゾンビーズのリーダー、ゴーレム(G・イーストマン)に誘拐されたアン

タップ・ダンスで戦う集団アイアンマンたち


 時は1990年。ニューヨーク市警は廃墟となったブロンクスの治安維持を放棄し、そこは幾つものギャング集団が縄張り争いをする無法地帯と化した。一方、それとは対照的にマンハッタンは万全の警備が敷かれ、ニューヨークで最も安全な区域となっていた。
 そのマンハッタンから一人の少女が脱走。彼女がたどり着いたのはブロンクスだった。たちまち、ローラースケートを履いたギャング集団ゾンビーズに取り囲まれた少女。そこへ、バイク集団ライダースが現れてゾンビーズを撃退する。リーダーのトラッシュ(マーク・グレゴリー)は、怯える少女の手を優しく握った。
 少女の名前はアン(ステファニア・ジロラーミ)。彼女はマンハッタン地区を実質支配する大企業マンハッタン・コーポレーションの社長令嬢だった。間もなく18歳の誕生日を迎える彼女は、亡き父親の後を継いで社長の座におさまる予定だ。しかし、会社の実権は悪徳幹部たちが握っており、彼女は操り人形にされてしまうだけ。彼らの悪行に手を貸すことだけはしたくないという気持ちから、アンは警護のスキを狙って脱走したのだった。
 トラッシュもまたアンと同じ17歳。二人はお互いに強く惹かれあうものを感じていた。しかし、その翌日アンの存在を密告しようとしたスパイが死体で発見された。殺したのは、ライダースと敵対するギャング集団タイガース。ブロンクスでは幾つものギャング団が縄張りを持っており、お互いの土地に無断で足を踏み入れた者は殺されるというのがルールだった。スパイはタイガースの縄張りに足を踏み入れて殺されたのだ。
 タイガースのリーダーで、ブロンクスの帝王を名乗るオーグル(フレッド・ウィリアムソン)は、トラッシュに用心するよう警告する。だが、トラッシュの右腕でナンバー2のアイス(ジョシュア・シンクレア)は、スパイ疑惑そのものがオーグルのでっち上げではないかと疑い、全面戦争を主張するのだった。
 一方、マンハッタン・コーポレーションの副社長(エンツォ・G・カステラーリ)と幹部フィシャー(エンニオ・ジロラーミ)は、ブロンクスへ逃げ込んだアンを奪還するためにハマー(ヴィック・モロー)という男を雇う。汚職で警察を追われたハマーは、悪名高い賞金稼ぎだった。
 まず、ハマーはライダースの本拠地へと乗り込み、彼らの仲間を殺害。現場にタイガースのリングを残して逃げ去る。当然のことながらライダースの面々はタイガースの仕業だと勘違い。だが、トラッシュとその忠実な部下ホーク(ロッコ・レッロ)の二人は疑問に思う。あまりにも都合が良すぎるからだ。
 自分のせいで次々と人が殺されることを気にやんだアンはブロンクスを離れようとするが、トラッシュは彼女のことを命に代えてでも守ると誓う。また、アンはマンハッタン・コーポレーションがブロンクスの再開発を計画していることも告げる。ギャング団は皆殺しにされるだろう。
 その帰り道、ゾンビーズの仕掛けた罠にはまり、アンが誘拐されてしまう。ライダースのところに美少女がいるらしいと聞いたゾンビーズのリーダー、ゴーレム(ジョージ・イーストマン)の差し金だった。

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トラッシュたちは原始人のような連中に襲われる

トラッシュの右腕アイス(J・シンクレア)もハマーになびいた

 アンを奪い返すため、島の反対側にあるゾンビーズの縄張りへと仲間を引き連れて向うトラッシュ。だが、アイスを監視するためにホークを後に残す。なるほど、トラッシュの睨んだ通りだった。アイスは秘かにハマーと接触。自分がライダースのリーダーに収まる代わりとして、アンの身柄を差し出すことを約束する。
 また、ブロンクス界隈を熟知している狡猾な一匹狼ホットドッグ(クリストファー・コネリー)も、ハマーに雇われていた。彼らの会話を盗み聞きしていたホークは、トラッシュに報告すべく地下通路へ入るが、原始人のような集団に囚われてしまう。
 その頃、地下通路を抜けたトラッシュたちは、タップ・ダンスで相手を殺すギャング集団アイアンマンの縄張りに侵入。リーダー(カーラ・ブレイト)がトラッシュのことを少なからず気に入っていたことから、特別に通過を許可された。さらに、原始人集団の領域へ入ったトラッシュたち。激しい戦いの末に脱出することが出来たものの、仲間の一人が殺されてしまった。
 そして、彼らはタイガースの縄張りへ到達。ここを通れば、ゾンビーズの縄張りだ。タイガースの一員に見つかったトラッシュは、オーグルとの直談判を要求。ところが、秘かに後をつけてきたハマーがオーグルの部下を殺してしまう。しかも凶器はアイスから手に入れたトラッシュの武器だ。
 当然、オーグルはトラッシュが殺したものと思い込む。しかし、トラッシュは背後にハマーがいること、ブロンクスの再開発を巡って大企業が暗躍しており、ハマーがその手先であると主張。オーグルの愛人ウィッチ(ベティ・テッシー)もハマーの姿を見かけていたことから、オーグルの誤解は解ける。
 一刻も早くアンを救出しなくてはいけない。オーグルとウィッチはトラッシュに協力することを決めた。ゾンビーズの縄張りへと向う3人。その途中で、トラッシュは瀕死の状態のホークを発見する。彼はアイスの裏切りをトラッシュに伝えて息を引き取った。
 その頃、アンの身柄を横取りするため、アイスがゾンビーズのリーダー、ゴーレムと交渉していた。そこへオーグルが姿を現し、激しい格闘の末にゴーレムを殺害する。立場がまずくなったことから、監視役のホットドッグを殺して逃げ出すアイス。だが、追ってきたトラッシュに見つかってしまう。卑怯な手を使ってトラッシュを亡き者にしようとするアイスだったが、あえなく殺されてしまった。
 アンの救出に成功し、和やかなムードの中で和解を約束するライダースとタイガース。だが、その頃ハマーは最終作戦に打って出ようとしていた。大量の傭兵部隊をブロンクスへ投入し、ギャングたちを皆殺しにしてアンを奪い返そうというのだ・・・。

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タイガースの縄張りへ足を踏み入れるトラッシュ

ハマーはオーグルの手下を殺してトラッシュの仕業に見せかける

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ハマーの策略に気付いて力を合わせるトラッシュとオーグル

瀕死の部下ホーク(R・レッロ)からアイスの裏切りを知らされる

 屋外シーンのほとんどを実際にブロンクスで撮影したという本作。ブロンクス全体が廃墟と化してしまったという設定なのだが、ライダースがバイクを乗り回すシーンの背景をよーく見ると、向うの方でタクシーや乗用車が普通に走っている。というのも、交通規制の許可が下りなかったのだそうだ(笑)。
 脚本を手掛けたのは、イタリア産娯楽映画の名物脚本家ダルダノ・サケッティと妻のエリサ・リヴィア・ブリガンティ。二人はフルチの『サンゲリア』(81)や『墓地裏の家』(81)、『マンハッタン・ベイビー』(82)などでもコンビを組んでいた。
 撮影監督のセルジョ・サルヴァーティも同じくフルチ組のカメラマン。音楽スコアを手掛けたワルター・リッツァーティも、やはりフルチの『墓地裏の家』を手掛けていた。さらに、美術デザインのマッシモ・レンティーニや特殊メイクのマウリツィオ・トラーニなども、『サンゲリア』以降のフルチ作品の常連組。その辺の人選は、当時フルチ作品を一手に製作していたプロデューサー、ファブリツィオ・デ・アンジェリス(ラリー・ラドマン)のチョイスなのだろう。

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ゴーレムに決闘を挑むオーグル

トラッシュは裏切り者アイスを始末した

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傭兵部隊による総攻撃の指揮を執るハマー

ブロンクスの皆殺し作戦が開始された

 さて、実質的な主人公トラッシュ役を演じているのは、これが映画デビュー作となったベビーフェイスのマッチョ俳優マーク・グレゴリー。実は彼、本名をマルコ・デ・グレゴリオというイタリア人で、当時まだ17歳のボディビルダーだった。カステラーリ監督自身が、当時通っていたトレーニング・ジムでスカウトしたという。当然のことながら、演技経験などゼロのド素人。なので、歩き方一つから指導しなくてはならなかったのだそうだ。
 しかも、現場でのセリフは全て英語だったのだが、彼は一言も英語を話せなかったらしい。そのため、セリフは強制的に丸暗記。自分が何を言っているのか分らないままセリフを喋っていたもんだから、表情の演技がまるでなっていないのである。
 とはいえ、本作がヒットしたおかげで彼は映画会社と独占契約を結び、続編の『ブロンクスからの脱出』はもとより、ファブリツィオ・デ・アンジェリスがラリー・ラドマン名義で監督した『サンダー』(83)シリーズなどのアクションに続々と主演。一躍売れっ子スターとなってしまった。
 ちなみに、彼が2000人の候補者の中からオーディションで選ばれたという説もある。が、共演した俳優フレッド・ウィリアムソンが回顧するところは上記の通り。撮影当時は相当にイラついたらしい(笑)。
 一方、ヒロインのアンを演じているステファニア・ジロラーミは、カステラーリ監督の実の娘。なんたる親バカ!と思われそうだが、これが意外に美人だし演技も悪くない。少なくとも、お嬢様育ちらしい雰囲気は役柄にマッチしている。ローマのアメリカン・スクールに通っていたことから、英語のセリフも難なくこなせたのだそうだ。ただ、女優としては大成せず、現在はイタリアでテレビ・ドラマの監督をしている。
 そんな経験の浅い主演二人を支えるのは、いずれ劣らぬ個性的なベテラン俳優たち。中でも強烈な存在感を放つのは、悪漢ハマー役を怪演するヴィック・モローであろう。往年の大ヒット・ドラマ『コンバット!』のサウンダース軍曹役でお馴染みの俳優だ。
 本作の翌年に出演した映画『トワイライト・ゾーン』の撮影中に事故で急逝するわけだが、もしかすると体力の衰えが著しかったのではなかろうか。というのも、本作ではアクション・シーンの殆んどを代役が務めているのだ。クライマックスの襲撃シーンも、彼だけは直立不動のまま。とはいえ、ひたすら高笑いを続けるその姿には、一種異様な迫力すら感じさせられる。そういった意味では、非常にインパクトの強い名シーンだ。
 そして、ブロンクスの帝王を自称するオーグル役のフレッド・ウィリアムソン。ピカピカの光物で飾られたハーレム・ファッションに身を包む彼は、まさしくブラック・ムービーのヒーローそのものといった感じ。出てくるだけでスターのオーラを放っているのはさすがだ。ただ、彼の代名詞ともいえるニックネーム、ハマーがヴィック・モローの役名として使われたのは、はなはだ疑問の残るところではある。
 また、フルチの『マンハッタン・ベイビー』(82)に主演していたクリストファー・コネリーが、狡猾な一匹狼ホットドッグ役で登場。とはいえ、たいした出番もないまま、あっという間に殺されてしまう。逆に、ゾンビーズのリーダー、ゴーレム役を演じるジョージ・イーストマンは、少ない出番ながらも圧倒的な存在感。なにしろ、あの巨体にあのマスクだから、印象に残らないわけがないだろう。マカロニ・ウェスタンからホラーまで様々なジャンルで名物的存在となった怪優だが、本作をはじめとするポスト・アポカリプス映画でも同じように引っ張りだこだった。
 なお、トラッシュの後釜を狙う策士アイス役を演じているジョシュア・シンクレアは、なんと本業はお医者さんらしい。マザー・テレサの慈善事業などを手伝っていたのだが、なにしろボランティアなので収入はなし。なので、生活費を稼ぐために映画俳優をやったり、脚本を書いたりしていたのだそうだ。カステラーリ作品にも数多く出ており、『地獄のバスターズ』では連合軍将校役でチラリと顔を出している。
 そのほか、カステラーリ監督の実兄エンニオ・ジロラーミ、フレッド・ウィリアムソンがスカウトした美女ベティ・デッシー、有名なスタントマンのロッコ・レッロにマッシモ・ヴァンニ、イタリア産B級映画で脱ぎ役を専門にしていた黒人女優カーラ・ブレイトなどが登場。また、カステラーリ監督自身もマンハッタン・コーポレーションの副社長役を熱演している。

 

 

サイボーグ・ハンター/ニューヨーク2019年
2019-Dopo la caduta di New York (1983)
日本では劇場未公開・TV放送あり
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2002 Shriek Show (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/96分/製作:イタリア・フランス

特典映像
オリジナル劇場予告編
M・ソプキフによるイントロダクション
S・マルティーノ監督インタビュー
G・イーストマン インタビュー
H・ヤマノウチ インタビュー
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
脚本:エルネスト・ガスタルディ
   セルジョ・マルティーノ
   ガブリエル・ロッシーニ
撮影:ジャンカルロ・フェランド
音楽:グイド・デ・アンジェリス
   マウリツィオ・デ・アンジェリス
出演:マイケル・ソプキフ
   ヴァレンタイン・モニエ
   アンナ・カナキス
   ジョージ・イーストマン
   エドマンド・パードム
   ロマーノ・プッポ
   パオロ・マリア・スカロンドロ
   ルイ・エックレシア
   ハルヒコ・ヤマノウチ
   セルジュ・フイエール

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核戦争後の崩壊したニューヨーク

マンハッタンで人間狩りを行うユーラック軍

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凄腕の賞金稼ぎパーシファル(M・ソプキフ)

ネバダ州の砂漠を舞台にした殺人カーレース

 イタリア産B級エンターテインメント映画の名職人セルジョ・マルティーノ監督が、マーティン・ドールマン名義で手掛けたポスト・アポカリプス映画。核戦争後のニューヨークを舞台に、地球で最後の生殖能力を持った女性を巡る戦いが描かれていく。チープなミニチュア・セットや特撮が玉に瑕ではあるものの、バイオレンスありスプラッターありカー・チェイスありゲテモノありの出血大サービスで、最後まで飽きることなく楽しませてくれる賑やかなB級SFアクションだ。
 タイトルの通り、時代設定は2019年。核戦争後の世界は、ヨーロッパ、アジア、アフリカの合併国ユーラックによって支配されている。アラスカで秘かに再建を計画するアメリカ合衆国の大統領は、パーシファルというハンターを無法地帯と化したニューヨークへと送り込む。
 というのも、ニューヨークで生殖能力を持つ女性が発見されたというのだ。核戦争後、放射能の影響で人類は生殖能力を失ってしまった。それだけに、女性の存在は人類の未来にとって重大な意味を持つ。合衆国としては、なんとしてでもユーラックより先に女性を手に入れなくてはならなかった。
 ということで、瓦礫の山と化したマンハッタンへと潜入したパーシファルと2人のエージェントが、ユーラックの追跡をかわしながら女性を探すために決死のサバイバルを繰り広げるわけだ。彼らの行く手には、ユーラックの兵士だけでなく、ネズミを食べる無法者集団や人類から退化した猿人集団などが立ちはだかる。
 ストーリーはあからさまなくらいに『ニューヨーク1997』のパクリ。そこへ、『マッドマックス2』(81)スタイルのカー・アクションを盛り込んで仕上げましたといった按配だ。主人公パーシファルのアウトローなキャラクターも、メル・ギブソンのマックスを多分に意識しているように思われる。
 そんなオリジナリティの欠如を補っている(?)のが、これでもかこれでもかと繰り広げられるバイオレンスの応酬だ。なにしろ、アイディアのみならず製作費だって本家の足元にも及ばないのだから、あとはキワモノ的なセンセーショナリズムで勝負するしかない。ある意味、パチもの映画としては正しい開き直り方である。
 人間の首を切り落としたり、顔面を破壊したり、目玉を潰したりといったスプラッター・シーンもフル稼働。そればかりか、生きたドブネズミを槍で刺したり手で握り潰したり、逆に人間がドブネズミに生きたまま食われたり。キワモノ好きにはたまらない描写のオンパレードだ。
 また、崩壊したニューヨークの全景や極寒のアラスカに建てられたアメリカ合衆国基地などを再現したミニチュア・セットも、確かに仕上がりは非常にチープではあるものの、少ない予算の中で精いっぱい頑張りましたという努力の跡が垣間見られて嬉しい。
 そもそも、こうしたパチもの映画を元ネタの大作映画とわざわざ比べて酷評すること自体が愚の骨頂。元ネタに敵わないことは作り手だって観客だって分りきっていて、お互い合意の上でその安っぽさを楽しむと言うのが正しい姿勢だろう。
 本当はこんな風に見せたかったんだろうなとか、本来ならこれくらいのスケール感を出したかったんだろうななどと想像を膨らませつつ、作り手と一緒になって儚くもチープな夢を見るというのも、この種のB級映画の大きな醍醐味。そういった意味では、様々なイマジネーションの余地を与えてくれるという点で、本作は極上の低予算パチもの映画だと言えよう。

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パーシファルは極寒のアラスカへと拉致される

そこで待っていたのはアメリカ大統領(E・パードム)だった

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ブロンクス(P・M・スカロンドロ)とラチェット(R・プッポ)が同行

生殖能力を持つ女性を探してマンハッタンへ潜入する

 核戦争から20年が経過した2019年。放射能の影響で人類は生殖能力を失い、過去15年間に渡って一人も赤ん坊が生まれていない。そうした中、ヨーロッパ、アジア、アフリカが合併して生まれた大国ユーラックが世界を支配し、人類を厳しい統制下に置いていた。
 かつては世界経済の中心地だったニューヨークのマンハッタンも、現在は封鎖されて廃墟と化している。そこは完全なる無法地帯だ。ユーラックは軍隊及び傭兵部隊を送り込み、隠れて暮らす住民を狩っている。放射能に汚染された者は即刻殺され、汚染されていない健康な者は生け捕りに。人体実験に利用するのだ。
 ネバダ州の砂漠では、人気の殺人カーレースが行われていた。ルールは一つ。相手を殺すまで続けること。その壮絶な闘いを制したのは、タフでクールな一匹狼の賞金稼ぎパーシファル(マイケル・ソプキフ)だ。
 レース終了後、あてどもない放浪の旅へ出たパーシファル。だが、その途中で正体不明の飛行船に拉致されてしまう。たどり着いた先は極寒のアラスカ。そこは、核戦争に負けて滅んだはずのアメリカ合衆国の秘密基地だった。パーシファルは大統領司令室へと通される。
 実は、かつてパーシファルは大統領(エドマンド・パーダム)の元で働いていたことがあった。大統領によると、合衆国は秘かに再建されたのだという。過去の確執から大統領に反感を持つパーシファル。そんな彼に、大統領は重大な用件を切り出す。
 ニューヨークのマンハッタンで生殖能力を持つ女性が発見されたというのだ。いずれ滅び去ってしまう運命の人類にとって、彼女はまさに希望の星となるだろう。人工授精をすれば、一度に500人の子供を作ることが出来る。彼女を手に入れることが出来れば、アメリカの未来が開けるだろう。なんとしてでも、ユーラックより先に女性を確保しなくてはいけない。なぜなら、子孫を残せない国に未来はないからだ。
 そして、大統領はその女性を探し出して確保する役目をパーシファルに任せたいというのだ。合衆国は人類が安全に暮らせる惑星を秘かに発見していた。そこへ行けるのは選ばれた僅かな人間と生殖能力のある女性のみ。任務に成功すれば、パーシファルもその一員に加えてもらえるというのである。
 断れば抹殺される。パーシファルに選択の余地はなかった。彼と同行するのは二人のエージェント。片腕に鋼鉄の義手をはめたブロンクス(パオロ・マリア・スカロンドロ)と、片目にアイパッチを付けた怪力男ラチェット(ロマーノ・プッポ)である。

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無法者集団のリーダー(H・ヤマノウチ)と対決するパーシファル

そのリーダーもユーラックの軍隊に惨殺される

 いよいよマンハッタン島へと潜入した3人。そこは噂にたがわない無法地帯で、次から次へと顔や体の焼けただれた住人が襲いかかって来る。3人はとりあえず地下へと潜り込んだ。そこは大量のドブネズミが徘徊する掃き溜めのような場所だ。
 すると、そのドブネズミを狂ったように槍で狩っている一群に遭遇した。パーシファルは、その中に美しいブロンド女の姿を見つけて目を奪われる。そこへ一人の小人が通りかかり、群衆に殺されかかった。その小人を救うためにパーシファルが飛び出し、群衆のリーダー(ハルヒコ・ヤマノウチ)と死闘を繰り広げる。だが、腕力の弱いブロンクスが捕まってしまい、パーシファルとハチェットも捕えられてしまった。
 焚き火で焼いたドブネズミを貪り食う人々。そこへユーラックの軍隊が乱入して殺戮を繰り広げる。健康体の者は生け捕りにされた。ラチェットはうまいこと脱出するも、パーシファルとブロンクスは連行されてしまう。
 ユーラックは二人がマンハッタンの住人ではないことにいち早く気付いた。ブロンクスは司令官(セルジュ・フイエール)の執務室で尋問を受ける。彼らはアメリカ合衆国再建の情報を得ており、ブロンクスをスパイではないかと睨んでいた。ブロンクスはスキを狙って司令官お目玉を潰す。
 一方、パーシファルは冷酷な女性指揮官アニア(アンナ・カナキス)の尋問を受けていた。彼はわざと生殖能力のある女性の存在を明かし、生け捕りにされたブロンド女がそうだと嘘をつく。さらに、彼はブロンクスと共に警備兵を殺害し、ブロンド女を連れて脱出を図る。
 ブロンド女の名前はジアラ(ヴァレンタイン・モニエ)。3人は軍隊の追跡をかわしながら出口を探すものの、ブロンクスが犠牲となってしまった。なんとか外へ出たパーシファルとジアラ。そこへラチェットが合流し、命からがら脱出に成功する。
 パーシファルたちを安全な場所へ案内したのは、先ごろ命を救われた小人ショーティ(ルイ・エックレシア)だった。彼は生殖能力を持つ女性の居場所を知っているという。マンハッタンの外へ一緒に連れて行っていくという条件で、彼は案内役を引き受けることとなった。
 ユーラックの超音波攻撃などをかわしながら移動するパーシファルたち。運悪く軍隊に取り囲まれてしまうものの、ビッグ・エイプ(ジョージ・イーストマン)率いる猿人軍団に救われた。ビッグ・エイプは生殖能力を持つ女性の話に強い興味を持ち、強引に同行することとなった。
 一行は遂に目的地へとたどり着く。そこは厳重に隔離された秘密基地のような場所で、教授と呼ばれる老人が研究施設として使用していた。だが、その教授はすでに息を引き取っており、親しかったショーティは悲しみに暮れる。
 そして、この施設の奥に生殖能力を持つ女性がいた。その正体は教授の一人娘メリッサ。教授は核戦争後の放射能汚染を危惧し、娘を眠らせて安全になるまでカプセル保存することにしたのである。ビッグ・エイプはその美しさに心を奪われてしまった。
 教授は脱出用の改造車も用意していた。だが、偵察中にショーティが軍隊に捕まって命を落としてしまう。また、パーシファルらが目を離しているスキに、ビッグ・エイプがメリッサの体内に自らの遺伝子を残してしまった。
 いよいよ、一行は改造車に乗ってマンハッタン脱出を開始する。軍隊によるレーザー攻撃など様々な障害が彼らを待ち構えていた。ビッグ・エイプが殺されてしまったものの、なんとかニューヨークを後にすることが出来た一行。だがその時、パーシファルはラチェットがアメリカ合衆国の開発した殺人サイボーグであることに気付いた・・・。

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ユーラックの女指揮官アニア(A・カナキス)に捉えられたパーシファル

ジアラ(V・モニエ)を連れて脱走を図る

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小人ショーティ(L・エックレシア)は女性の居所を知っていた

ユーラック軍の追跡を逃れて捜索を続けるパーシファルたち

 当たらずとも遠からずかなといった感じの、日本語タイトル『サイボーグ・ハンター』。とはいえ、別にサイボーグがメイン・テーマやキーワードではないので、このタイトルの付け方はやはり反則かもしれない。『エイリアン』を『サイボーグ・ドクター』と呼ぶようなもんではないか。
 ポリス・アクションからジャッロ、マカロニ・ウェスタンからクリーチャー・ホラーまで、ありとあらゆるジャンルを手掛けたセルジョ・マルティーノ監督だが、SF的な題材に取り組むのは本作が初めてだった。彼自身あまり得意な分野ではなかったことを認めているし、そもそも予算や技術の面でハリウッドには到底敵わないイタリアにおいて、SF映画を撮るのは現実的に困難な試みだったと語っている。それでも、これだけ見せ場のあるエンターテインメント作品に仕上げているのだから、さすがはイタリア映画界きっての職人監督だ。
 脚本を手掛けたのは、『影なき陰獣』(73)や『カサブランカ・エクスプレス』(89)など数多くの作品でマルティーノ監督と組んでいる大物脚本家エルネスト・ガスタルディとマルティーノ監督。ガスタルディはジュリアン・ベリーというお馴染みの変名を使用している。また、ガブリエル・ロッシーニという人物も脚本に参加しているが、これ以前にウンベルト・レンツィ作品に関わったことがあるという以外は詳細不明だ。
 それ以外のスタッフも、撮影監督のジャンカルロ・フェランドを筆頭に、美術デザイン及びミニチュア・デザインのマッシモ・アントネッロ・ゲレン、編集のエウジェニオ・アラビソ、衣装デザインのアドリアーナ・スパダーロなど、マルティーノ監督作品の常連でガッツリ固められている。
 また、音楽にはテレンス・ヒル&バド・スペンサー物で有名なグイド&マウリティオのデ・アンジェリス兄弟が、これまたお馴染みの変名オリバー・オニオンズ名義で参加。彼らも『影なき陰獣』や『ケオマ・ザ・リベンジャー』(76)などで、たびたびマルティーノ監督と組んでいる。
 ちなみに、本作は屋外シーンの多くを実際にアメリカで撮影。ニューヨークはもとより、モニュメント・ヴァレーやアリゾナ砂漠などでロケが行われたそうだ。

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ビッグ・エイプ(G・イーストマン)率いる猿人軍団

ついにカプセル保存された女性を発見する

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改造車でマンハッタンからの脱出を図る一行

ユーラック軍のレーザー銃が行く手を阻む

 主人公の賞金稼ぎパーシファル役を演じているのは、これが映画デビュー作だったアメリカ人俳優マイケル・ソプキフ。日本ではソプキューとかソプキーとか表記されているが、本人によるとソプキフというのが正しい発音なのだそうだ。もともとファッション・モデルだったという彼、本作をきっかけにランベルト・バーヴァ監督の『地獄の戦士ブラストファイター』(84)や『死神ジョーズ・戦慄の血しぶき』(84)といったイタリア産B級映画に主演。ただ、アクション・スターとしては2枚目過ぎて小粒な印象は否めず、あっという間に姿を消してしまった。
 そんなパーシファルと惹かれあう女性ジアラ役を演じるヴァレンタイン・モニエは、翌年の『死神ジョーズ・戦慄の血しぶき』でもソプキフと共演したフランス人女優。彼女もまたすぐに消えてしまったが、なかなか独特の存在感がある人なので、もうちょっと活躍しても良かったように思う。
 そんな二人を助太刀する怪力男ラチェット役を演じているロマーノ・プッポは、マカロニ・ウェスタンやポリス・アクションのファンなら名前は知らずとも顔は絶対に知っている名物俳優。もともとスタントマンの出身で、『続・夕陽のガンマン』(66)や『地獄の戦場コマンドス』(68)、『ビッグ・バイオレンス』(76)など出演作は枚挙にいとまない。本作ではロマン・ギアという変名でクレジットされている。
 また、ブロンクス役を演じているパオロ・マリア・スカンドロも、本作ではヴィンセント・スカンドロという変名を使用。ダリオ・アルジェント監督の『スリープレス』(01)でマンニ警部役を演じていた俳優だが、これが映画初出演だったようだ。
 一方、ユーラックの冷酷な女指揮官アニア役で濃厚な悪女ぶりを発揮しているのは、当時イタリアで売れっ子だったセクシー女優アンナ・カナキス。イタリアB級映画界が誇る巨人俳優ジョージ・イーストマンが、特殊メイクで猿人役を演じているのもなかなかインパクト強烈だ。
 そのほか、往年のハリウッド・スター、エドマンド・パードムがアメリカ大統領役を、80年代にイタリア映画で活躍した日本人俳優ハルヒコ・ヤマノウチが無法者集団のリーダー役を演じている。

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セルジョ・マルティーノ監督

マイケル・ソプキフ

ハルヒコ・ヤマノウチ

 

 

ダイナマイト・ボクサー
Qualcuno paghera? (1987)
日本では劇場未公開・テレビ放送あり
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売
(ビデオ・タイトルは『オポネント』)

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(P)2010 Mya Communications (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/ステレオ/音声:英語・イタリア語/字幕:英語
/地域コード:ALL/94分/製作:イタリア

特典映像
なし
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
原案:ルチアーノ・マルティーノ
脚本:サウロ・スカヴォリーニ
   セルジョ・マルティーノ
   マリア・ペローネ・カパーノ
   ロバート・ブロディ・ブース
撮影:ジャンカルロ・フェランド
音楽:ルチアーノ・ミケリーニ
出演:ダニエル・グリーン
   ジュリアーノ・ジェンマ
   アーネスト・ボーグナイン
   メアリー・ステイヴィン
   キーリー・シェイ・スミス
   ビル・ウォーマン
   ジェームズ・ウォーリング

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売れないボクサー、ボビー(D・グリーン)

試合を仕切るマフィアのボス、デュランティ(G・ジェンマ)

ディランティの愛人ギルダ(M・ステイヴィン)

 ご想像の通り(?)、こちらはセルジョ・マルティーノが手掛けた『ロッキー』のパチもの映画。さらに、ただのボクシング映画じゃツマンナイというわけで、そこにマフィア映画やバイオレンス映画の要素を盛り込んで、まさにマカロニ印のコテコテ復讐劇に仕上げちゃいましたというB級アクションだ。
 主人公は売れないボクサーのボビー。彼はスーパー経営者の一人娘アンと付き合っているが、彼女の父親ヴィクターは二人の関係に猛反対だ。そろそろいい加減にボクサーとして名を成したいと考えた彼は、コーチの反対を押し切ってマフィアの興行主デュランティの傘下に入る。
 たちまち売れっ子ボクサーとして快進撃を続けるボビーだったが、デュランティの愛人ギルダに手を出してしまったことから親分の逆鱗に触れ、八百長試合で負けることを強要されてしまう。ところが、そんなの理不尽だと反発したボビーは、八百長試合に逆転勝利してチャンピオン戦を堂々と宣言する。
 もちろん、怒ったのはデュランティ一味。ボビーは右拳を潰された上、父親代わりと慕うコーチのラリーを殺されてしまった。そんな絶体絶命の危機に救いの手を差し伸べたのは、他でもないアンの父ヴィクターだ。かれもまた、かつてはプロのボクサーだったのである。
 ヴィクターの元でトレーニングを積み、いよいよチャンピオン戦に臨むことになったボビー。ところが、デュランティ一味にアンが誘拐されてしまった。ボビーが勝てばアンの命はない。果たして、彼はこのまま黙って負け戦を演じねばならないのか・・・?
 まさしく、『ロッキー』+『ゴッドファーザー』といった按配のストーリー。もちろん、お色気シーンも用意されているし、クライマックスでは銃撃戦やカー・アクションまで展開。正直言って中身はカラッポだし、マルティーノ監督の演出もかなりやっつけ仕事感が滲み出ているものの、とりあえず賑やかな作品には仕上がっている。多くを期待しなければ、暇つぶし程度には楽しめる作品だ。

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ボディガードに追われたギルダをボビーが助ける

デュランティと契約を結んだボビー

初戦で勝利を飾って一躍脚光を浴びる

 舞台はマイアミ。場末の飲み屋でバーテンを務めているボビー(ダニエル・グリーン)は売れないボクサーだ。今日も客のチンピラにいちゃもんをつけられ、ついつい逆上して殴り倒してしまった。明け方にランニングをしていると、仲間を連れて戻ってきたチンピラに車で追いかけ回されるが、機転を利かせて見事にやりこめる。
 仮眠を取ったボビーはボクシングジムへと向った。しかし、期待していたデビュー戦はライバルのエディ(ジェームズ・ワーリング)に奪われてしまう。怒り心頭のボビー。だが、コーチのラリー(ビル・ウォーマン)には理由があった。試合を取り仕切るのは、悪名高いマフィアのデュランティ(ジュリアーノ・ジェンマ)。息子のように可愛がってきたボビーを、そんな男と関わらせるつもりはなかったのである。
 ボビーにはアン(ケリー・シェイ・スミス)という恋人がいた。彼女はスーパーの経営者ヴィクター(アーネスト・ボーグナイン)の一人娘だ。しかし、ボクサーなんてヤクザな商売をしてるヤツは好かん!と、ヴィクターは二人の関係を猛反対していた。
 どうしても試合のことが諦められないボビーは、デュランティの車を尾行して売り込むチャンスを狙う。だが、その尾行に気付いたデュランティは周囲の警備を厳しくし、一歩も近づけなかった。そんな時、ボビーはカジノの外でボディガードに追われた一人の女性を助ける。
 彼女の名はギルダ(メアリー・ステイヴィン)。デュランティの愛人だった。横暴なデュランティに愛想を尽かして逃げ出したのである。たちまちいい雰囲気になるボビーとギルダ。だが、デュランティの部下によってギルダは連れ戻されてしまった。
 それからしばらくして、ジムにデュランティがやって来た。エディから散々嫌がらせをされたこともあって、ついついボビーはエディをノックアウトしてしまう。それを見たデュランティはボビーをバックアップすることにする。猛反対したラリーも専属コーチとなった。
 初戦で見事勝利を飾ったボビーは、たちまち売れっ子ボクサーとなる。アンもその活躍ぶりを喜んでくれたが、ヴィクターは無理矢理二人の仲を引き裂こうとする。思い余ったボビーは、ついヴィクターを殴り倒してしまった。このことが原因で、ボビーとアンの仲は気まずくなってしまう。
 そんな不満と寂しさのはけ口を求めるかのように、ボビーはギルダと深い仲になってしまった。ところが、デュランティの部下がその関係に気付き、ボスに報告してしまう。ボビーはバツとして、八百長試合で負けなくてはならなくなった。
 試合では不本意ながらも相手に殴られ続けるボビー。会場には、落ち込む娘の姿を見ていられなくなったヴィクターも来ていた。だが、やがてボビーの中で何かが弾け、負けなくてはいけない試合で勝ってしまう。高らかにチャンピオンシップを宣戦布告するボビー。その姿にヴィクターをはじめ観客は大興奮する。
 翌日、ボビーはデュランティ一味に拉致され、大切な右拳をハンマーで潰されてしまった。その痛々しい姿を見てアンは彼への愛情を確信し、ヴィクターも二人の仲を認める。実はヴィクターもかつてはボクサーだった。しかし、それが原因で夫婦仲がこじれてしまい、同じような悲しみを娘に味わせたくなかったのだ。
 アンの献身的な看護で順調に回復したボビー。この平和を壊されたくないと考えた彼は、デュランティの自宅へ乗り込んで相手を半殺しの目に合わせてしまった。2度と俺や俺の友達に近づくなよ!とはいっても、そう簡単に引き下がるような相手ではない。報復としてラリーが殺されてしまった。ガソリンを大量に飲まされた上、港から海に投げ込まれたのだ。
 こうなったらチャンピオン戦で勝つしかない。ヴィクターが新たにコーチとなり、ボビーは死にもの狂いでトレーニングを重ねた。そして迎えた試合の当日。なんと、アンがデュランティ一味に誘拐されてしまった。彼女の命が惜しければ試合に負けろ。ボビーに選択の余地はなかった。デュランティは対戦相手に大金を賭けている。ボビーが負ければ大儲けできるのだ。
 必至に歯を食いしばりながら負けるための試合を続けるボビー。その頃、アンが監禁されている部屋へギルダが忍び込む。デュランティの横暴に耐えかねていた彼女は、アンを救い出してボビーを勝たせ、デュランティを破滅させようと考えていたのだ。果たして、救出作戦は上手くいくのか?そして、ボビーはチャンピオン戦に勝つことが出来るのか?

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ボビーの恋人アン(K・S・スミス)

アンの父ヴィクター(E・ボーグナイン)は二人の仲に反対だ

ギルダと深い関係になってしまうボビー

 あの手この手で様々な要素を盛り込んだ脚本の出来はそれほど悪くないが、残念ながらマルティーノ監督の演出には往時の切れや冴えがない。特にボクシング・シーンやアクション・シーンのもっさりとした鈍さは、60〜70年代のマカロニ・ウェスタンやポリス・アクションと比べると別人のような仕事ぶりだ。
 原案を書いたのは、監督の実兄ルチアーノ・マルティーノ。脚本には『狼の挽歌』(70)や『ハチェット無頼』(77)のサウロ・スカヴォリーニ、『レッドオメガ追撃作戦』(80)のロバート・ブロディ・ブース、『ミラクル・タイガー魔界大冒険』(90)でもマルティーノと組むマリア・ペローネ・カパーノが参加している。
 撮影監督はマルティーノ監督とほぼ二人三脚でキャリアを歩んできたカメラマン、ジャンカルロ・フェランド。編集のダニエレ・アラビソもマルティーノ作品には欠かせないスタッフだ。
 また、音楽スコアには近年一部の映画音楽ファンの間で再評価されつつあるルチアーノ・ミケリーニが参加。彼もまた、『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』(79)などでマルティーノ監督と組んでいる。ただ、本作では凡庸な80年代サウンドに終始しており、パット・イーヴンなる女性歌手の歌う主題歌も非常にチープ。かなり残念な出来栄えだった。

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八百長の負け戦に勝ってしまったボビー

デュランティ一味はボビーの右拳をハンマーで潰す

コーチのラリー(B・ウォーマン)が殺された

 主人公ボビー役のダニエル・グリーンは、マルティーノ監督の前作『片腕サイボーグ』(86)の主演で売り出されたアメリカ人マッチョ俳優。もともとハリウッドの売れない脇役だったところをイタリアで拾われ、一時は『エルヴァイラ』(88)でエルヴァイラの相手役を演じるなど、ハリウッドでもちょっとばかり注目された時期もあった。ただ、確かに肉体は立派であるものの、役者としてはあまりにも大味。主役を張るスターの器ではなかった。
 その恋人アンを演じているキーリー・シェイ・スミスも、爽やかな美人ではあれど印象には残らないタイプの平凡な女優。やはり女優としては大成せず、俳優ピアース・ブロスナンと結婚して家庭に収まったようだ。
 やはり、この手の映画は悪女の方が魅力的だったりすることが多い。案の定、本作もギルダ役を演じているメアリー・ステイヴィンが絶品だ。『007/オクトパシー』(83)と『007/美しき獲物』(85)の2本で脇役のボンド・ガールを演じたスウェーデン出身の女優さん。その後はB級C級のオンパレードだった人だが、なかなか粋でゴージャスなムードの持ち主だ。あれだけ美人で売れなかったというのは、よっぽど根性が悪いかお人よしかのどちらかだろう(笑)。
 そのほか、悪役デュランティにはマカロニ・ウェスタンのスーパー・スター、ジュリアーノ・ジェンマ、アンの父親ヴィクター役にはハリウッドの名優アーネスト・ボーグナインというビッグ・ネームが名を連ねている。が、どちらもアルバイト感覚で引き受けた仕事という印象で、演技にも精彩がない。

 

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