アーウィン・アレン印のパニックTVムービー

 

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 1970年代のハリウッドを吹き荒れたオールスター・パニック映画の一大ブーム。その仕掛け人が製作者アーウィン・アレンだ。彼の手がけた「ポセイドン・アドベンチャー」('72)と「タワーリング・インフェルノ」('74)が空前の大ヒットを記録し、やれ大地震だ、大火災だ、大洪水だと、猫も杓子も災害パニックを題材にした映画で柳の下のドジョウを狙うようになった。仕掛け人であるアレン自身も、「スウォーム」('78)に「ポセイドン・アドベンチャー2」('79)、「世界崩壊の序曲」('80)といった便乗映画を相次いで発表したもんだった。
 ストーリーはだいたいお決まりのパターン。事故や災害の危険性を予知する専門家、私利私欲などを理由にその警告を無視する政治家や権力者、何も知らずに浮かれ遊ぶ一般人たち。で、ついには未曾有の大災害が発生してしまい、専門家や救助チームによる救出劇や生存者たちによるサバイバル劇が繰り広げられていくことになる。まあ、「ジョーズ」('75)を筆頭とする動物パニック映画も大抵このパターンを踏襲しているように、手っ取り早く観客を主人公へ感情移入させたり、最悪の事態に陥るまでのドキドキハラハラ感を高めたりするには有効なプロットであるには違いない。それを面白くするかツマらなくするかは、作り手の腕前次第ってなわけだ。
 さらに、有無を言わさず挿入されるのがラブ・ロマンス。愛こそが全てだと言わんばかりに、登場人物たちは愛する人を守るため、愛する人のもとへ戻るために、危機的状況をなんとか脱しようと懸命の努力をする。愛が原動力というのは確かに分かりやすいし、それに「タワーリング・インフェルノ」のポール・ニューマンとフェイ・ダナウェイ、「スウォーム」のマイケル・ケインとキャサリン・ロスといった具合に、美男美女のロマンスは画になるということも大きな理由の一つだろう。
 で、あと肝心なのがオールスター・キャスト。ひとまず主演にはその時が旬のトップスターを起用し、それ以外はとっくに盛りを過ぎた往年のスターと知名度の高いTVスターで固める。つまり、主演には高いギャラを支払わねばならないけど、ベテランやTV俳優は安く済むからコストを抑えることができるわけだ。場合によっては、出番を少なくしてまとめ撮りをする。そうすれば、その俳優の拘束時間を少なくできるから、ギャラもさらに抑えることができる。しかし、観客にしてみれば馴染みの顔ばかり大勢揃っているわけだから、えらく華やかで金がかかっているように思えるという寸法だ。
 なので、「タワーリング・インフェルノ」は主演がポール・ニューマンにスティーヴ・マックイーンという当時ハリウッドでも最高クラスの大物俳優の顔合わせだったし、ワーナーと20世紀フォックスの合作ということで予算もかなり潤沢だったようだが、「ポセイドン・アドベンチャー」なんかは上記のカラクリが適用されているので、実は見た目ほど製作費はかかっていなかったのだそうだ。もちろん、あくまでも平均的予算の映画と比べての話なのだけど。

 で、この2作品でパニック映画ブームに火をつけたアレンは、70年代半ばからワーナー・ブラザーズ・テレビジョンと組んで同様の映画をテレビ向けに作るようになったのだ。その第一弾が「大洪水」('76)。読んで字の如く、大洪水に見舞われた小さな田舎町のパニックを描いた作品で、劇場用映画に比べると予算は遥かに少なかったものの、アメリカ国外では劇場公開された地域もあり、ビジネスとしてはかなり成功したようだった。
 そもそも、アレンは'60年代にテレビ業界で身を立てた人物。「原子力潜水艦シービュー号」('64〜'68)や「宇宙家族ロビンソン」('65〜'68)、「タイム・トンネル」('66〜'67)、「巨人の惑星」('67〜'70)といったファミリー向けのSFドラマシリーズを製作し、アメリカのみならず世界中で大成功を収めたのだ。それまでのテレビ業界では“SFは金がかかるし分かりにくいからテレビ向きではない”というのが定説だったそうだが、低予算とはいえ特撮をふんだんに盛り込んだ映像とワクワクするようなストーリー展開で、大人から子供まで楽しむことのできる作品を次々と生み出し、テレビにおけるSFドラマというジャンルを確立させた功績は大きい。
 そうした輝かしい実績があったものだから、映画界でひと山当てた彼をテレビ業界だって放ってはおかなかったというわけだ。「大洪水」の後も「大火災」('77)に「危機一髪!恐怖のロープウェイ」('79)、「洞窟探検」('83)、“夜のブリッジ・ダウン」('83)といった災害パニック物のテレビ・ムービーをワーナーで作り続けたアレン。ただ、映画でも「スウォーム」以降急激に質が低下してしまったのと同様、これらテレビ・ムービーも作品を重ねるごとにどんどん安っぽくなっていった。そもそもこのアーウィン・アレンという人、派手に大風呂敷を広げてみせるワリにはかなりのケチだったらしく、テレビ時代も含めてスタッフはギリギリの予算でかなりの苦労を強いられたと言われる。実際のところ、「ポセイドン・アドベンチャー」と「タワーリング・インフェルノ」を除けば、彼の作品は実質的に“低予算オールスター・パニック映画”というなんとも矛盾した表現を用いるべき代物だったようだ。
 さらに、彼はジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグといった若手映画監督の台頭に戸惑いを隠せなかったという。というのも、彼らの作品には大物スターもいなければ、画になるようなラブ・ロマンスもない、巨大セットや無数のエキストラを駆使したスペクタクルもない。宇宙のどこかで起きている戦争や人喰いザメの話だ。'60年代までのハリウッドだったら企画の段階でボツになるか、もしくは弱小プロダクションしか相手にしてくれないような代物ばかりだ。にも関わらず、メジャー大作として堂々と製作され、世界中で驚異的な興行成績を記録しまくっている。それがアレンには全く理解できなかったのだそうだ。
 やはり、彼はセシル・B・デミル
的な、古き良きハリウッド映画の価値観から脱却しきれなかったのだろう。つまり、時代についていくことが出来なくなってしまったのだ。その狼狽ぶりは傍から見ても明らかなほどだったらしく、観客の求めるものがまるで分からなくなってしまったと随分悩んでいたと言われる。その不安と迷いが、後期の作品に影響してしまったのだとも考えられるだろう。
 ということで、今回はアーウィン・アレンがワーナーに残したテレビ用パニック映画の中から、代表的な作品をまとめて3本ご紹介しておこうと思う。

 

大洪水
Flood! (1976)
日本でもテレビ放送あり
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2010 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆

DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:
ALL/97分/製作:アメリカ
※DVD-Rのオンデマンド商品で、PCやレコーダーでは再生出来ない可能性アリ。

特典映像
オリジナル予告編

監督:アール・ベラミー
製作:アーウィン・アレン
脚本:ドン・インガルス
撮影:ラマー・ボーレン
音楽:リチャード・ラサール
出演:ロバート・カルプ
   マーティン・ミルナー
   バーバラ・ハーシー
   リチャード・ベイスハート
   キャロル・リンレイ
   ロディ・マクドウォール
   キャメロン・ミッチェル
   エリック・オルソン
   テレサ・ライト
   フランシーヌ・ヨーク
   リーフ・ギャレット
   ホイット・ビッセル
   アン・ドラン
   グロリア・スチュアート

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観光客を運ぶヘリ操縦士スティーヴ(R・カルプ)

スティーヴはダムの水漏れを発見する

ダム決壊の危険性を感じた整備士ポール(M・ミルナー)

町議会はポールの訴えを却下した

 40代以上の熱心な映画ファンなら、思わず“懐かしい!”との声を漏らしてしまう人も少なくないだろう。かつてゴールデン・タイムや深夜、昼間を問わず、あちらこちらのロードショー番組で幾度となく放映されていた作品だ。まさしく、タイトルがその全てを語る映画。大自然に囲まれた田舎町を舞台に、ダムの決壊によって大洪水に見舞われた人々のサバイバルが描かれる。
 例によって例のごとく、一介のエンジニアがダムの異変にいち早く気付き、水嵩が増えすぎて壊れちゃうかも!と警鐘を鳴らすものの、これまた例によって例のごとく、ダムの最高責任者である町長さんはその言葉を完全に無視。なぜなら、釣りシーズンの観光客が落とす金で生計を立てている町にとって、ダムの放水によって湖から魚が居なくなってしまうのは困るから。そこで、現場の職員がなんとか最悪の事態を防ごうと奔走するものの、その努力の甲斐も虚しくダムは決壊してしまい、大量の土石流が町を飲み込んでしまうというわけだ。
 ミニチュアによるダム決壊の特撮は一瞬だけどそこそこの見栄え。屋内セットやオープンセットに大量の水を流し込んだパニック・シーンも、尺は少ないがテレビとしてはまずまずの規模。アール・ベラミー監督の演出は極めて特徴のない凡庸さで、パニックへ至るまでの人間ドラマは可もなく不可もなく…いや、そんなことはなかった。この作品で一番の問題は、その人間ドラマにあるのだ。
 なにが問題かというと、ヒーローのエンジニア、ポール以外の主要登場人物が、揃いも揃って不愉快な愚か者ばかりということ。中でも極めつけが町長のカトラーだ。最後の最後まで“ダムは絶対に安全だ”“私の言うことに間違いはない”“専門家の報告書なんて信用できるもんか”“うちのダムが決壊するなんて永遠にあり得ない”と根拠のない論理を豪語し、ダムの危機的状況を間近で見てきたポールに“お前はバカだ!”“町の人々の生活を台無しにするつもりか!”と住民の守護神ヅラをしてみせていたくせに、現場担当者から“もうヤバイです!”と電話が来ると“私の顔を潰す気か!なんとかしろ!”と怒鳴り散らすだけでなんの指示も出せず、いざダムが決壊して大勢の犠牲者が出るとショックでボケ老人になってしまう。なんと都合のよろしいことか(笑)。でもまあ、もともと町長は憎まれ役なので、そんないい加減な…と思いつつも、まだ許せる範疇ではある。
 ところが…だ。そんな町長の娘でポールの恋人でもある看護婦メアリーが、これまた父親譲りの頑固なビッチなのだね。ダムの決壊を回避するために奔走するポールに向かって、“うちのお父さんが間違っているはずない”“お父さんが安全だと言えば安全なのよ”と言ってガンを飛ばし、ダムの水が溢れ出したという報告を受けたポールが放水の指示を出すと、“あなたにそんな権限はない”“あとで後悔するわよ”と冷ややかな顔で吐き捨てる。
 で、実際に大洪水が巻き起こると頑張って
犠牲者を介抱して回るのはいいのだが、ポールの顔を見た途端に、まるで“アタシが悪いんじゃない”と言わんばかりに表情を曇らせてみせ、挙句の果てには“あなたはするべきことをしなさい”と上から目線で命令(笑)。命をかけて洪水を収めようと立ち回るポールのことなどそっちのけで、両親や幼い弟のことばかりを心配している。もちろん(?)、最後の最後まで一言も謝らない。まるで、それが負けを認めてしまうことかのように。
 まあ、それがアメリカ的思考なのさと言われりゃそれまでなのだが、それにしてもこれほど共感できないヒロインも珍しかろう。しかも、そんな負けん気だけ強い身勝手で薄情な女を、我らがポールはひたすら愛しちゃっているというんだから理解不能だ。
 他にも、ポールの親友でヘリコプター操縦士のスティーヴは、ダムの危機なんかそっちのけで恋人とイチャイチャ。実際に水漏れを目の前で見ているというのに、“彼女とバカンスに行きたいからもう帰らせろよー”と駄々をこねるという危機感ゼロの能天気ぶりだ。これを、さも明朗快活な好青年かのように描いているのが凄いというかなんというか。ただのバカなのにね、それも救いようのない(笑)。しかも、いざ大洪水が起きてパニックになると、“救援隊が遅い!”“真面目に仕事をしろ!”と逆ギレするばかり。お前こそ真面目に仕事してなかっただろ、と突っ込みたくもなってしまうもんだ。
 で、後半は洪水に巻き込まれたメアリーの弟アンディの救出劇がメインとなるのだが、このアンディというのも大人を舐めたようなクソガキで、絶体絶命の危機に陥ったのも半ば自業自得。子供は無鉄砲でやんちゃだから、とでも言いたいのだろうけどね、作り手サイドは。町長にへいこらへいこらしてた腰巾着のダム管理人サムも、最後は“俺の責任じゃないぞ、あんたが悪いんだ!ぜ〜んぶアンタの責任だ!”と電話で町長にわめきたて、呆気なく土砂に巻き込まれて死亡。唯一、ダンナの意見に疑問を抱いていた常識人のカトラー夫人ですら、息子のアンディと他人を間違え、助けようと泳げないくせに土石流へ飛び込み、逆に“助けて!助けて!”と叫びながらその場で溺死。
 とまあ、とにかく、反省しない、学ばない、悟らない、考えない人々ばかりしか出てこないのですよ。この作品には。しかも、最後はボケたおかげでいい人になっちゃった町長カトラーが“私は町の人のために最善を尽くしたつもりだったのに…”と肩を震わせ、そんな父親にメアリーが“お父さんは出来る限りのことをしたわ、他に選択肢はなかったの、お父さんを誇りに思うわ
”と優しく慰め、2人は涙を流しながら抱き合って感動(?)の大団円…。かくして、大災害の元凶になった人物が完全に自己肯定してしまったため、亡くなった犠牲者たちが全く浮かばれないという驚愕のクライマックスを迎えるのだ(笑)。
 そんな腑に落ちないことこの上ない脚本を書いたのは、「エアポート'75」('74)のドン・インガルス。よくもまあ、こんなホンにゴー・サインが出たもんだと思うのだが、誰か疑問をさしはさむ関係者はいなかったのだろうか。なので、本来の意味とはまるで違った方向性において、手に汗握る緊迫の人間ドラマが楽しめる。ふざけんなこの野郎!と画面に突っ込みながら憂さ晴らしするのが正しい鑑賞法であろう。

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ポールの恋人メアリー(B・ハーシー)は父親の肩を持つ

恋人デイジー(F・ヨーク)にメロメロのスティーヴ

あくまでもダムは安全だと言い張る町長(R・ベイスハート)

町長夫人アリス(T・ライト)は夫の意見に疑問を抱く

 森と湖に囲まれたオレゴン州の小さな町ブラウンズヴィル。釣りシーズンの到来で、町には観光客が訪れ始めていた。常連さんのフランクリン氏(ロディ・マクドウォール)を湖畔のコテージへ送り届けたヘリコプターの操縦士スティーヴ(ロバート・カルプ)は、その帰りすがらに岩場からダムの水が噴出しているのを発見する。その近くには、町長の幼い息子アンディ(エリック・オルソン)が気を失って倒れていた。水と一緒に飛んできた石に頭をぶつけたのだ。アンディを介抱するために着陸したスティーヴ。少年はすぐに意識を取り戻し、釣りへ向かうために歩き出していく。
 飛行場へ戻ったスティーヴは、親友で整備技師のポール(マーティン・ミルナー)に水漏れのことを報告する。ダムの建設に関わったポールはすぐさま町議会を招集し、ダムの放水を町長カトラー(リチャード・ベイスハート)へ訴えた。しかし、ダムの水を湖に流してしまうと魚がいなくなってしまう。釣り客のおかげで潤っている町にとっては、まさに死活問題だ。カトラーはポールの警告を一笑に付し、ダムの安全性を強調した。決壊するなんて絶対にあり得ない、ダムのことは私が一番よく知っている、と。しかし、付近ではこの3週間に渡って大雨が続き、ダムの水嵩が上がっていることは町長も確認しているはずだ。そのために、専門家に調査を依頼したはずなのに。調査報告書の提示を求めるポールだったが、町長はまだ届いていないの一点張り。結局、老人ばかりの保守的な議員たちは町長の意見を支持し、ポールの訴えを満場一致で却下してしまった。
 やり場のない怒りに震えるポールだったが、とにかく出来る限りのことはせねばならない。スティーヴを連れて病院へ赴き、万が一の停電などに備えて患者の一部を避難させるようホーン院長(ウィット・ビッセル)に指示する。病院にはポールの恋人で町長の娘メアリー(バーバラ・ハーシー)が看護婦として働いていた。彼女は父親に全幅の信頼を置いており、ポールの言動を大袈裟だ批判する。スティーヴはスティーヴで、恋人の看護婦デイジー(フランシーヌ・ヨーク)にベタ惚れ状態。彼女とシカゴへ旅行に行くことしか頭になく、まるで危機意識を持っていなかった。
 町長の言いなりのダム管理人サム(キャメロン・ミッチェル)も似たり寄ったりで、水漏れがあっても大したことだとは考えていない様子。しかし、ダム周辺をヘリコプターで上空から偵察したポールは、大雨によって発生した濁流がもの凄い勢いでダムへ流れ込んでいる様子を発見し、このままでは水が溢れ出してしまうと危機感を強めた。
 しかも、サムがうっかり口を滑らせたところによると、専門家による調査報告書は既に町長のもとへ届いており、そこにはダム決壊の危険性が示唆されていたという。しかし、町長はそんなはずないと報告書の内容を無視してたのだ。幼い頃に両親を失ったポールにとって、町長は親代わりも同然の存在。長いこと尊敬してきた人物だけに、ショックと失望感が大きかった。すぐにダムの放水を指示するよう訴えるポールだったが、町長はそんな彼のことを無能呼ばわりして追い返す。そんな2人の様子を見ていた町長夫人アリス(テレサ・ライト)は夫の言動に疑問を感じるが、良き妻として夫に反対意見を述べることはためらわれた。
 一方、ダムの水漏れは深刻度を増していき、さすがに焦ったサムはポールへ連絡して助けを求める。もはや放水するしかない。だが、町長は絶対に許可を出さないだろう。ポールは意を決して自らの責任で放水を指示する。それを横で聞いていたメアリーは、彼の勝手な行動を非難するのだった。しかし、放水バルブが水圧で故障してしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまった。困り果てたサムは町長へ報告するが、カトラーは怒鳴り散らすだけで役に立たない。
 もはや絶対絶命の状況だと察知したポールは町長の反対を押し切って町に警報ベルを鳴らし、スティーヴを連れてダムへと駆けつる。ヘリコプターを使ってダムの門を開こうとした2人だが、それも残念ながら上手くいかなかった。もうおしまいだ。一目散に逃げ出す作業員たち。町長に事態を伝えるサム。ついにダムは決壊し、車で立ち往生してしまったサムはヘリコプターに掴まろうとしたものの、あと一歩のところで土砂に流されてしまった。
 猛烈な勢いで町へ流れ込む土石流。逃げ遅れて巻き込まれた人々。病院には次々と怪我人が運び込まれていた。町長夫婦も病院へ逃げてきたが、カトラーはショックですっかり頭がボケてしまっている。メアリーは両親との再会に安堵するものの、弟アンディが行方不明であることに気付いた。さらに、今日が出産予定だったサムの妻アビー(キャロル・リンレイ)が自宅に取り残されていることが判明。ポールとメアリーがスティーヴのヘリコプターで救出へ向かうことになる。
 その頃、大人たちの忠告を無視してダムの近辺をうろついていたアンディ少年は、土石流に巻き込まれながらもなんとか一命を取り留めていた。彼の友人ジョニー(リーフ・ギャレット)もまた、同じく土石流に流されて溺れかかっていたが、それを息子だと勘違いした町長夫人アリスは、無我夢中で水の中へ飛び込んで溺死してしまう。
 一向に引く気配のない洪水。どうやら町外れの橋に大量の漂流物が溜まってしまい、土石流がせき止められているようだった。そのことに気付いたポールとスティーヴは、事態を打開すべくヘリで現地へ向かうのだったが…。

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奔走するダム管理人サム(C・ミッチェル)

なんとか最悪の事態を食い止めようとする作業員たち

水圧で故障したゲートをヘリで開こうとするのだが…

ついにダムが決壊してしまう

 本作が全米ネットワークのNBCで放送されたのは1976年11月24日。実は、同じ年の6月にアメリカではアイダホ州のティートンダム決壊事故が発生しており、その一部始終を撮影した映像がテレビで公開されて世界中に衝撃を与えたばかりだった。ただ、本作がそのニュースに便乗して作られたものなのか、それとも偶然の一致でタイムリーだっただけなのかは分からない。いずれにせよ、実際のダム決壊事故が起きたばかりのタイミングで放送されたこともあって、当時はアメリカでもかなり話題になった作品だったようだ。ワーナー・テレビジョンはその結果に満足したのか、アメリカ国外では劇場用作品として配給している。日本でも当初は劇場公開が検討されたらしいが、結局はテレビ放送となった。
 舞台となっているオレゴン州ブラウンズヴィルだが、実は実際に存在する町なのだそうだ。もちろん、現地でロケを敢行。この種の映画の場合、町のイメージなどを考慮して名前を伏せることも多かったりするはずなのだが。ちなみに、このブラウンズヴィルは他にも、あの名作「スタンド・バイ・ミー」('86)が撮影された場所でもある。
 監督のアール・ベラミーはもともとテレビ草創期から数多くのドラマ作品の演出を手がけてきた人で、中でも「ローン・レンジャー」や「ローハイド」、「バージニアン」といった西部劇ドラマが得意だった。その傍らで低予算の劇場用映画およびテレビ用映画も数多く撮っているのだが、どうも記憶に残らないような作品が多い。基本的にソツがない職人肌という感じで、なんら個性もスタイルも持ち合わせていないのだ。そういった意味では、本作も彼らしい映画。誰が監督しても恐らく同じなんだろうな…といった感じだ。
 脚本のドン・インガルスは先述したように「エアポート'75」の脚本家だが、彼もまたもともとはテレビ業界の出身で、「ガンスモーク」や「バージニアン」、「ボナンザ」などの西部劇ドラマを数多く手がけ、「のろわれた美人学生寮」('78)や「超人キャプテン・アメリカ」('79)などのテレビ映画にも参加している。
 撮影監督を手がけたラマー・ボーレンは水中撮影のプロとして有名なカメラマンで、「フリッパー」('63)や「殺人鯨ナム」('66)、「アトランチスの謎」('78)といった海洋映画を数多く手がけたほか、「007/サンダーボール作戦」('67)や「007/私を愛したスパイ」('77)などの水中シーンの撮影を担当したことでも知られている。
 また、ダム決壊やパニック・シーンの特殊効果を、「ポセイドン・アドベンチャー」でオスカーに輝いたSFXマン、L.B.アボットが担当。「ドリトル先生の不思議な旅」('67)や「トラ!トラ!トラ!」('70)、「2300年未来への旅」('73)でもアカデミー賞を獲得している彼だが、アーウィン・アレンとは「タワーリング・インフェルノ」や「スウォーム」、「世界崩壊の序曲」でもタッグを組んでいた。
 そのほか、「原子力潜水艦シービュー号」でアーウィン・アレンと組んだスタン・ジョリーが美術デザインを、C級アクション映画の監督としても知られるビル・ブレイムが編集を、「幽霊と未亡人」('47)や「七年目の浮気」('55)のスチュアート・レイスがセット装飾を、「アリスの恋」('74)のリチャード・ラサールが音楽スコアを担当している。
 なお、本作は当初ロバート・カルプ扮するスティーヴを主人公としたテレビ・シリーズのパイロット版という位置づけにもあったらしいが、こちらの企画はボツになってしまったようだ。

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洪水に襲われる逃げ遅れた住民たち

町は土石流に飲み込まれてしまった

自宅に取り残された妊婦アビー(C・リンレイ)

アビーの救出に向かうポールとメアリー

 で、そのお気楽なヘリコプター操縦士スティーヴを演じているロバート・カルプは、'60年代の人気スパイ・ドラマ「アイ・スパイ」('65〜'68)で一世を風靡したスター。2枚目半の軟派なキャラクターが持ち味で、「アメリカン・ヒーロー」('81〜'83)のFBI捜査官ビル・マクスウェル役でも親しまれ、「刑事コロンボ」シリーズにもたびたびゲスト出演している。映画でも「女ガンマン・皆殺しのメロディ」('71)などカルト映画を中心に出演作画多く、「ペリカン文書」('93)ではアメリカ大統領役なんかも演じていた。
 一方、実質的なヒーロー役であるポールに扮しているのは、日本でも大人気となったテレビドラマ「ルート66」('60〜'64)の爽やか好青年トッド役で有名なマーティン・ミルナー。「特捜隊アダム12」('68〜'75)の主人公ピート役でも親しまれ、真面目で実直なオール・アメリカン・ボーイを得意としたスターだった。
 そのポールの恋人メアリーを演じているのが、最近では「ブラック・スワン」('10)のナタリー・ポートマンの高圧的な母親役が印象的だった大女優バーバラ・ハーシー。「L.B.ジョーンズの解放」('70)や「明日に処刑を」('72)などのアメリカン・ニューシネマでヒッピー世代の自由奔放な女優として注目を集めた彼女だったが、70年代半ば当時はすっかりスランプ状態で伸び悩んでいた。本作も金のために割り切って受けた仕事だったのか、演技には全く身が入っていない。その後、ハリウッドきっての演技派女優として再生するまで10年近くを費やすことになる。
 そして、彼らを取り巻く脇役陣も豪華なオールスターが揃う。町長のカトラーを演じているのは、「夜歩く男」('48)や「秘密指令」('49)などフィルム・ノワールのヒーローとして名をあげ、イタリアの巨匠フェリーニの傑作「道」('54)や「崖」('55)でも親しまれた名優リチャード・ベイスハート。その妻アリス役には、ヒッチコックの「疑惑の影」('42)のヒロイン役や「打撃王」('42)のゲイリー・クーパーの妻役で知られ、「ミニヴァー夫人」0('42)でアカデミー助演女優賞に輝いた良妻賢母女優テレサ・ライト。ダム管理人のサムには、B級アクション映画やホラー映画などのタフガイ俳優として鳴らしたキャメロン・ミッチェル。そのサムの妻アビー役には'60年代の美少女アイドル女優キャロル・リンレイが扮し、洪水に襲われた家からの脱出劇を熱演している。
 さらに、当時アーウィン・アレンが製作してマーティン・ミルナーが主演したテレビシリーズ“Swiss Family Robinson”('75〜'76)で末っ子を演じた子役エリック・オルソンがアンディ役を、「底抜け大学教授」('62)を筆頭に数多くのジェリー・ルイス映画でお色気を担当した美人女優フランシーヌ・ヨークが看護婦デイジー役を、アレン製作の「タイム・トンネル」で有名なホイット・ビッセルが病院の院長役を、後にアイドル歌手としてブレイクするリーフ・ギャレットがジョニー少年役を、「理由なき反抗」('55)のジェームズ・ディーンの母親役で知られるアン・ドランが町長の秘書役を演じ、「タイタニック」('97)の年老いたローズ役でも知られる'30年代の人気女優グロリア・スチュアートが町議会議員としてワン・シーンだけ顔を出している。
 また、「わが谷は緑なりき」('43)などの元美少年スターで、「ヘルハウス」('73)や「フライトナイト」('85)などのカルト映画でも有名なロディ・マクドウォールが、観光客のフランクリン氏としてオープニングに登場するものの、なぜかメイン・キャストであるにも関わらず、それっきり一切出てこない。これはちょっと不思議。単なる顔見せだったのか。
 ちなみに、リチャード・ベイスハートは「原子力潜水艦シービュー号」、キャロル・リンレイとロディ・マクドウォールは「ポセイドン・アドベンチャー」、キャメロン・ミッチェルは「スウォーム」、フランシーヌ・ヨークは前年のテレビ映画「超豪華客船乗っ取り大爆破!クィーンメリー・アドベンチャー」('75)でアーウィン・アレンと仕事をしている。

 

 

大火災
Fire! (1977)
日本では'77年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2010 Warner Home Video (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:
ALL/97分/製作:アメリカ
※DVD-Rのオンデマンド商品で、PCやレコーダーでは再生出来ない可能性アリ。

特典映像
オリジナル予告編
監督:アール・ベラミー
製作:アーウィン・アレン
原案:ノーマン・カトコフ
脚本:ノーマン・カトコフ
   アーサー・ワイス
撮影:デニス・ダルゼル
音楽:リチャード・ラサール
出演:アーネスト・ボーグナイン
   ヴェラ・マイルズ
   パティ・デューク・アスティン
   アレックス・コード
   ドナ・ミルズ
   ロイド・ノーラン
   ネヴィル・ブランド
   タイ・ハーディン
   ジーン・エヴァンス
   エリック・エストラーダ

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工場経営者サム(E・ボーグナイン)はマーサへの想いを抱いている

破局寸前の夫婦ペギー(P・D・アスティン)とアレックス(A・コード)

囚人フランク(E・エストラーダ)とフレミング所長(T・ハーディン)

伐採現場でボヤ騒ぎが起きる

 こちらも昭和の洋画ロードショウ番組には欠かせなかった一本。いや〜、昔はしょっちゅうテレビでかかっていたもんだから、実は日本で過去に一度もビデオソフト化されたことがないという事実にちょっと驚いた。で、これまたタイトルが中身の全てを語る作品。オレゴン州の森林地帯で火災が発生し、その消火活動に当たる人々や近隣住民たちの様々な人間模様とサバイバル劇が描かれていく。
 とりあえず、日本では当時劇場公開に踏み切ったということもあり、最大の目玉である森林火災のパニック・シーンはなかなかの出来。確かに一部では記録映画のストック・フッテージを使用しているし、手間と暇とお金をかけた劇場用大作映画に比べたらスケールだって決してデカイとは言えないものの、当時のテレビ映画の一般的な規模を考えれば十分に頑張っていると言えるだろう。
 ただ、やっぱりというかなんというか、たとえパニック・シーンを見せるための“刺身のツマ”に過ぎないとはいえ、あまりにもご都合主義で凡庸な人間ドラマはちょっと頂けなかった。「大洪水」と違って登場人物の大半が判断力も行動力も分別もある善人ばかりというのはいいのだけど、それぞれの人間関係やバックボーンの描写が薄っぺらすぎてしまい、ことごとく嘘っぱちにしか見えないのである。とりあえず、大火災に囚人の脱獄計画を絡めてサスペンスを盛り上げようという努力も見られるが、それ以外のラブロマンスやら感動の救出劇やらといろいろな要素をいっぺんに盛り込もうとしたせいで、全てが散漫になってしまったという印象は否めない。
 結局、懐かしいスターたちの顔ぶれと、そこそこ見応えのあるパニック・シーンだけが取り柄という平均的なテレビ映画。あとは、まどろっこしい前置きなどを極力割愛して、さっさと本題の大火災へ突入してしまうという割り切りの良い展開も救いだ。とはいえ、これを「タワーリング・インフェルノ」クラスの大作パニック映画と期待して劇場へ足を運んだ当時の日本の映画ファンは、果たしてどう思ったのだろうか。

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消し残された火種はたちまち燃え広がった

教え子ジュディを探す小学校教師ハリエット(D・ミルズ)

アレックスとペギーを心配する恩師ベネット(L・ノーラン)

森林火災に気付いたアレックスとペギーは町へ引き返すことに

 大森林に囲まれたオレゴン州の小さな町シルヴァートン。製材工場を経営している中年男サム(アーネスト・ボーグナイン)は、町外れにあるワグナー・ロッジの経営者で未亡人のマーサ(ヴェラ・マイルズ)のもとを頻繁に訪れていた。2人は長年の友人であり、お互いへの想いをずっと心に秘めていた。しかし、若い頃のサムは会社を軌道に乗せるため無我夢中で働き、結婚を考えているような余裕がなかった。事業が成功したらプロポーズしようと思っていたものの、そうこうしているうちにマーサは別の男性と結婚してしまったのだ。その夫が亡くなって4年。一人でロッジを切り盛りしてきたマーサには独立心が芽生え、改めて申し込まれたサムからのプロポーズにも躊躇するのだった。
 そのマーサのロッジには1組の夫婦が宿泊していた。アレックス(アレックス・コード)とペギー(パティ・デューク・アスティン)である。2人とも分野は違えど優秀な医者だ。しかし、アレックスはニューヨークの研究所に、ペギーはロサンゼルスの医学校に、それぞれが願ってもない新しい仕事を見つけたことから、夫婦仲に大きな亀裂が入ってしまった。お互いに自分の主張を譲らない2人。もはや分かれるしか
ないと考えた彼らは、都会の自宅へ戻って離婚訴訟の手続きをすることに。夫婦と仲の良いマーサは離婚を思いとどまるよう説得するが、アレックスもペギーも頑なだった。
 シルヴァートン郊外のパインツリー刑務所では、囚人たちの労役として森林伐採の仕事をさせていた。無実を訴える若い囚人フランク(エリック・エストラーダ)はフレミング所長(タイ・ハーディン)に仮釈放の申請を願い出ていたが、ことごとく裁判所から突き返されており、そのことを強く不満に感じている。そんな彼によくない考えを吹き込もうとするのが、年配の狡猾な囚人ラリー(ネヴィル・ブランド)。彼は火事でも起きれば脱走できるかもしれないと考え、わざと火のついたタバコを草むらへ放り込んだ。火はたちまち燃え広がり、消火に当たった囚人が火傷を負ってしまうものの、なんとか消し止めることが出来た。思惑の外れたラリーだったが、何食わぬ顔をして仲間の列に加わる。ひとまず火種が残ってないか確認したフレミング所長は、囚人たちをバスに乗せて刑務所へ戻ることにした。だが、その燃えカスの中から一筋の煙が立っていることを彼は見逃していたのだ。
 囚人を乗せたバスが去ったあと、その近くに若い小学校教師ハリエット(ドナ・ミルズ)が生徒を連れてピクニックへとやって来た。だが、しばらくすると森の方から火の手が見える。危険を察知して生徒たちを集めるハリエットだったが、森の方へ向かった少女ジュディ(ミシェル・ステイシー)の姿が見えない。必死にジュディの行方を探すハリエットだったが、火の勢いは急速に増していき、仕方なく子供たちを避難させることにする。
 火災は一気に広がっていった。巡回中のヘリから報告を受けた森林警備隊の隊長ハーター(ジーン・エヴァンス)はすぐに消火チームを送り込んだものの、火の勢いは止まるところを知らない。アレックスとペギーは恩師であるベネット医師(ロイド・ノーラン)に挨拶を済ませ、車でシルヴァートンを後にしようとしていたが、森の方から大きな火の手が上がっていることに気付いて引き返すことにした。
 ハリエットと子供たちはワグナー・ロッジへとたどり着いた。自責の念に駆られたハリエットはショックで倒れてしまう。マーサは森林警備隊へ電話してジュディの搜索を依頼し、さらにハリエットの容体を案じてベネット医師に連絡をする。だが、その頃急患の連絡を受けたベネット医師は刑務所へ向かっており、その途中でクマに遭遇して車ごと横転してしまっていた。ベネット医師の行方が分からないことに困ったマーサは、サムに助けを請うのだった。
 ベネット医師を探しに向かったサムは、その途中でアレックスとペギーに遭遇。彼らがロッジへ戻るつもりだと知ったサムは、近道を使って同行することにした。すると、その途中で横転した車を発見。身動きができないでいたベネット医師を救い出し、急いでロッジへと向かう。心配で気が気ではなかったマーサは、到着したサムの顔を見て安堵の表情を浮かべる。ペギーの治療でハリエットは快方へ向い、アレックスはベネット医師の脚の骨折に最新の治療法で対応した。
 一方、森林火災はますます勢いを増しており、人員が足りなくなってしまった森林警備隊のハーター隊長は、パインツリー刑務所のフレミング所長に応援を要請する。ラリーとフランクも駆り出されることになったのだが、2
人はラリーの入れ知恵でどさくさに紛れて脱走することを計画していた。
 翌日、ヘリからの報告でジュディの居場所が判明した。森の中で気を失っているという。ヘリの案内で現場へ向かったサムとアレックスは、間一髪でジュディの身柄を保護するのだった。しかし、風向きが変わったせいでロッジの近辺に火の手が広がり、彼らは戻れなくなってしまう。急いで森林警備隊のキャンプへ向かった彼らは、ロッジに残されている人々の救出をハーター隊長に要請する。だが、消火活動で人員は手一杯の状態。そこで、ハーターはヘリを使っての救出作戦を思いつく。ところが、ロッジへ向かっていたヘリはその途中で墜落してしまった…。

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ハリエットの容体を気遣うマーサ(V・マイルズ)

事故現場でベネット医師を救出したサムとペギーたち

火災現場で陣頭指揮を取る森林警備隊長ハーター(G・エヴァンス)

火の手はますます勢いを強めていく

 前作の「大洪水」が実在する町を舞台に撮影されていたのと同じく、本作の舞台となるオレゴン州シルバートンも実在する町。さらに、人口が1000人にも満たないというヤムヒルという小さな町でも一部撮影が行われている。全米での放送は1977年5月8日。「大洪水」と同様にアメリカ国外では劇場用映画として公開されている。
 監督は引き続きアール・ベラミーが担当。大勢のエキストラを動員した森林火災シーンの演出は悪くないが、やはりドラマ部分の演出は平坦で無味無臭といった感じ。良くも悪くもプロの職人監督だったのであろう。そもそもテレビの世界というのは少ない時間や予算との勝負なだけに、恐らく現場での指導力やスピーディな仕事ぶりが買われていたのではないかと思う。
 脚本を手がけたのはノーマン・カトコフとアーサー・ワイズ。カトコフはテレビの草創期から活躍する脚本家で、スティーヴ・マックイーン主演の「拳銃無宿」('58〜'61)や「ベン・ケーシー」('61〜'66)等の人気ドラマにも関わっていた。一方のアーサー・ワイスも「ハイウェイ・パトロール」('55〜'59)や「シー・ハント」('58〜'61)などの人気ドラマを数多く手がけた人物であり、映画でも「フリッパー」('63)や「ライノ!」('64)といったファミリー物やアドベンチャー物を得意としていた。
 撮影監督のデニス・ダルゼルも主にテレビシリーズやテレビ映画で活躍したカメラマン。中でも「命がけの青春/ザ・ルーキーズ」('72〜'76)と「ジェシカおばさんの事件簿」('84〜'96)では数多くのエピソードを手がけている。また、「ローラボール」('75)や「フィスト」('78)、「バットマン・リターンズ」('92)などのマックス・クリーヴンが火災シーンのスタント監修を担当。「大洪水」にも参加していた大御所SFXマンL.B.アボットが大火災の特撮を手がけ、同じくアーウィン・アレン組のビル・ブレイムが編集を、リチャード・サラールが音楽スコアを担当している。

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フランクに脱走をそそのかすラリー(N・ブランド)

間一髪で少女ジュディを救出したアレックス

サムたちの要請でヘリをロッジへ向かわせるハーター

ロッジのすぐ目の前まで火の手は迫っていた

 主人公サムを演じているのは、「ポセイドン・アドベンチャー」以来久々のアーウィン・アレン作品出演となったアーネスト・ボーグナイン。最近でもアクション映画「レッド」('10)で健在ぶりをアピールしていたオスカー俳優だが、この作品の当時で既に60歳を超えていた。気のいい町工場のオジサンといった感じで、マーサ役のヴェラ・マイルズとの控えめなラブ・シーンも楽しそうに演じている。
 そのヴェラ・マイルズは、ジョン・フォードやアルフレッド・ヒッチコックといった巨匠たちから愛された良妻賢母の鏡みたいな女優さん。中でもジョン・ウェインの相手役を演じた「リバティ・バランスを射った男」('62)の清楚な美しさは忘れがたく、本作でも年を取ったとはいえ依然として素朴で上品な美しさを残している。しかし、当時の彼女は48歳。今ならサラ・ジェシカ・パーカーと同じくらいの年齢だ。現在の40代がいかに若々しいのかということを改めて思い知らされる。
 正義感も自己主張も強い女医ペギーを演じているのは、「奇跡の人」('62)のヘレン・ケラー役でオスカーを受賞した元子役スターのパティ・デューク・アスティン。そんな彼女に押され気味な夫のアレックスを演じているのは、テレビ「超音速攻撃ヘリ エアーウルフ」('84〜'87)の部長アークエンジェル役で有名なアレックス・コード。お互いに反発し合いながらも、いつしか手を取り合って困難に立ち向かう夫婦を軽妙なタッチで演じており、なかなか良いコンビネーションだ。
 その他、まだ清純派スターとして売り出していた頃のセクシー女優ドナ・ミルズ、'40年代B級フィルム・ノワールのスターとして有名なロイド・ノーラン、「悪魔の沼」('75)などのホラー映画でもお馴染みの悪役俳優ネヴィル・ブランド、2代目主人公を演じた人気西部劇ドラマ「シャイアン」('55〜'66)などを経てマカロニ西部劇のスターになったタイ・ハーディン、サミュエル・フラー監督のお気に入りだったタフガイ俳優ジーン・エヴァンスなどが登場。また、無名時代のエリック・エストラーダ(「白バイ野郎ジョン&パンチ」)が、大火災に乗じて脱走を試みる囚人フランク役を演じている。

 

 

洞窟探検
Cave-In ! (1983)
日本でもテレビ放送あり
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2010 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:
ALL/98分/製作:アメリカ
※DVD-Rのオンデマンド商品で、PCやレコーダーでは再生出来ない可能性アリ。

特典映像
なし
監督:ジョーグ・フェナディ
製作:アーウィン・アレン
脚本:ノーマン・カトコフ
撮影:ジョン・ニコラウス
音楽:リチャード・ラサール
出演:デニス・コール
   スーザン・サリヴァン
   レスリー・ニールセン
   ジュリー・ソマーズ
   シーラ・ラーケン
   ロニー・チャップマン
   ジェームズ・オルソン
   レイ・ミランド

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必死で逃亡を続ける凶悪犯トム(J・オルソン)

観光スポットとして人気の地下洞窟

近隣一体は雨のせいで地盤が緩んでいた

刑事ジョンソン(L・ニールセン)と妻リズ(J・ソマーズ)

 洞窟探検というよりは洞窟脱出と言うべきだろう。地下300フィートの洞窟を見学していた観光客やガイドらが落盤事故で地下に閉じ込められてしまい、様々な危険を乗り越えながら外の世界への脱出を試みるというお話だ。特にこれといったパニックやスペクタクルはなし。洞窟の巨大セットはテレビの特撮ヒーロー物なんかと同レベル。とりあえず、熱湯の池だったりとか、朽ちかけの橋だったりとかいった障害物をいろいろと用意してスリルを盛り上げようとはしているものの、どれも過去の作品でやり尽くされてきたネタばかり。全体的に「世界崩壊の序曲」を圧倒的にスケールダウンしたような印象だ。とりあえずテンポは早いので退屈はしないものの、やはり出がらし感は否めないだろう。
 なんといっても余計なのは、不自然なくらいにメロドラマチックな人間模様。登場人物のそれぞれがプライベートに問題を抱えていて、絶体絶命の危機を乗り越えることで人生の再出発を決意するという、これまたやり尽くされてきたような筋立てなのだが、そもそも同僚の死にうちひしがれた刑事がわざわざ洞窟見学へ来るか?地質学の権威だという大学教授が見学ツアーなんかに参加するか?逃亡中の犯罪者がなぜ地下洞窟でさ迷っている!?などなど、あまりにも強引すぎる設定に首をひねらざるを得ないのだ。感動的(?)なドラマを演出しようと知恵を搾り出したのかもしれないが、あまりにも説得力がなさ過ぎる。随所に挿入されるフラッシュバック・シーンも取ってつけたような印象。
 本作が撮影されたのは1979年。しかし、ほぼ4年間に渡ってお蔵入りをしていた。恐らく、撮影直後に企画された映画「世界崩壊の序曲」と内容的に被る部分があるというのが主な理由だったのだろう。パニック映画ブーム末期の黄昏を感じさせるような仕上がりではあるものの、それでもこれの前作に当たる「危機一髪!恐怖のロープウェイ」('79)や、アーウィン・アレン最後のパニック物となった「夜のブリッジ・ダウン」('83)よりはかなりマシ。「世界崩壊の序曲」と併せて鑑賞してみるのもいいかもしれない。こんな時代もあったんだね、と(笑)。

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地質学者ソームズ教授(R・ミランド)と娘アン(S・ラーケン)

ジーン(D・コール)とケイト(S・サリヴァン)は元恋人だった

落盤事故で閉じ込められてしまったケイト

そこへトムが迷い込んでくる

 観光スポットとして人気のファイブ・マイル洞窟。しかし、この1週間ほど豪雨が続いたために地盤が緩んでおり、洞窟内部では落盤事故の危険性が増していた。レンジャーで観光ガイドのジーン・ピアソン(デニス・コール)は一時閉鎖を進言するものの、上司ウォルト(ロニー・チャップマン)は難色を示す。というのも、州からの助成金が削減されたせいで経営が圧迫されており、観光客を追い返すわけにはいかなかったのだ。
 しかも、今日は上院議員が洞窟の視察にやって来る。洞窟の価値が認められれば助成金の額も増やしてもらえるという。なので、観光客を避難させねばならないくらい危険な場所だと思われたらたまらない。ウォルトの立場も理解できることから、最も地盤が緩んでいるノースフォーク区域だけを立ち入り禁止にすることでジーンも渋々納得した。
 その上院議員とはケイト・ラシター(スーザン・サリヴァン)。実は、かつてジーンとケイトは恋人同士だった。久々の再会に驚きと喜びを隠せない2人。ケイトは研究価値の高いノースフォーク地区の視察を希望するが、ジーンは断固として反対した。しかし、ウォルトは彼に観光客のツアーガイドを任せ、こっそりと別の部下ジャック(ウィリアム・ブライアント)にケイトをノースフォーク地区まで案内させる。1時間以内に戻るということを条件に。
 一方、ジーンはツアー客を引き連れて洞窟の中へ。メンバーは4人。休職中の刑事ジョー・ジョンソン(レスリー・ニールセン)とその妻リズ(ジュリー・ソマーズ)、そして地質学の権威ソームズ教授(レイ・ミランド)と娘アン(シーラ・ラーケン)である。ジョンソンは強盗の追跡中に同僚を亡くしており、そのショックからいまだに立ち直れないでいた。そのせいで夫婦仲も険悪な状態だ。一方、傲慢でわがままなソームズ教授は娘を手放したくないがために、彼女に恋人が出来るたびにありとあらゆる妨害をしていた。アンはそんな父親の身の回りの世話や研究の手伝いばかりに明け暮れる生活に辟易しており、今の恋人ラリーと結婚して家を出たいと考えている。だが、ラリーからは何ヶ月も音沙汰がなかった。
 ノースフォーク地区へとたどり着いたケイトだったが、その直後に大きな落盤事故が発生し、彼女は洞窟の中に閉じ込められてしまう。案内をしてきたジャックは落下してきた岩石の下敷きになって気を失ってしまった。突然の出来事に唖然とするケイト。すると、そこへどこからともなく一人の男が現れた。名前はトム・アーレン(ジェームズ・オルソン)。観光ツアーからはぐれてしまったのだという。だが、その正体は逃亡中の指名手配犯だった。神経質そうにソワソワとしているトムに、いずれ救助が来るはずだから落ち着くよう促す毛糸だったが、彼は烈火のごとく怒り出す。昔から彼は怒りの感情を抑えることができず、相手に自分の考えを否定されると敵意を剥き出しにする男だった。しかも被害妄想が極端に強く、他人の意見に耳を貸さない性格。ケイトは彼がただの観光客とは思えなかった。
 一向に来る気配のない救助。トムは苛立ちを隠そうとせず、ケイトも瓦礫の向こうにいるかもしれないジャックの名を呼び続ける。すると、洞窟内をガイドしていたジーンがその声を聞きつけた。その場に観光客を待たせ、岩の間にできた細い裂け目を抜けてケイトのもとへたどり着いたジーン。トムのことを怪訝に感じつつも、2人を観光客の待つ安全な場所へと案内する。
 ところが、助かったと思ったのも束の間。今度はさらに大きな落盤事故が発生し、全員が洞窟内に閉じ込められてしまった。辛うじて地上への内線電話はつながったのだが、救助を待っている余裕はない。このままだと、さらなる事故が起きかねないからだ。そこで、ジーンは入口と反対の方向を目指して先を進むことにする。洞窟は岩山の端っこへと繋がっており、そのまま外へ出ることができるからだ。だが、そのためには立ち入り禁止区域を通らなくてはならない。ジーンでさえ一度も足を踏み入れたことのない場所だ。不安を胸に歩き出す一行。だが、彼らの行く手には様々な障害が待ち受けていた…。

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何も知らずに観光客を案内するジーン

アンは我がままで横暴な父親に束縛されていた

ジョンソンは同僚の殉死で心に傷を抱えていた

ジーンはケイトとトムを救出する

 監督を手がけたのは「コンバット!」や「特攻ギャリソン・ゴリラ」、「Dr.刑事クインシー」、「ナイトライダー」など数多くの人気ドラマのエピソード演出を担当したジョーグ・フェナディ。レイ・ミランド主演の“Terror in the Wax Musium”('73)など劇場用映画もわずかに手がけているものの、その小さくまとまり過ぎた演出スタイルは根っからのテレビ・ディレクターという感じだ。アレンとは「危機一髪!恐怖のロープウェイ」と「夜のブリッジ・ダウン」でも組んでいる。
 脚本のノーマン・カトコフも、「大火災」以降の常連となったアーウィン・アレン組。撮影監督には「吸血怪獣ヒルゴンの猛襲」('59)や「古城の亡霊」('63)などロジャー・コーマン作品のカメラマンとして知られるジョン・ニコラウスが名を連ねている。彼は「ローハイド」や「弁護士ペリー・メイスン」といったテレビドラマの撮影も数多く担当している。
 その他、洞窟セットの美術デザインを担当したのは「アトランチスの謎」('78)のデュエイン・アルト。編集には「ワイルド・パーティ」('70)などのラス・メイヤー監督作品や「チャーリーズ・エンジェル」、「ワンダー・ウーマン」などのテレビ・シリーズを手がけ、アーウィン・アレンとは「原子力潜水艦シービュー号」の頃からの付き合いであるディック・ウォーメルが参加している。なお、今回は特殊効果マンのクレジットはない。

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洞窟から脱出すべく煮えたぎる池を渡る人々

水中へ潜ってでも先へ進まねばならない

短気で暴力的なトムはグループ内で孤立していく

崩れかけた古い橋を渡れば外へ出られるのだが…

 本作はキャストの顔ぶれも全体的に地味。まあ、その点は「危機一髪!恐怖のロープウェイ」の方が正直パッとしなかったけれど、それでもやはりオールスターと呼ぶにはほど遠いだろう。特に女優陣の華のなさは否めない。ここは無理矢理にでもベテラン有名女優を引っ張り出して欲しかった。そもそも、パニック映画というのはスターの顔見せも醍醐味の一つなのだから。
 まず主人公ジーンを演じているのは、日本ではあまり受けなかった刑事ドラマ「特捜刑事サム」('66〜'69)で、ハワード・ダフ扮する中年刑事サム・ストーンの相棒である若手ジムを演じて有名になったテレビ・スター。童顔の純朴そうな好青年という感じだったが、線が細すぎたせいか大成はできなかった。どちらかというと、ジャクリン・スミスの元ダンナとしての方が知られているかもしれない。
 その元恋人で今は上院議員のケイトを演じたのは、最近では人気テレビ・ドラマ「ふたりは最高!ダーマ&グレッグ」('97〜'02)や「キャッスル〜ミステリー作家は事件がお好き」('09〜)の派手なマダム役でお馴染みのスーザン・サリヴァン。もともとニューヨークの舞台で名を成した女優さんで、ハリウッドでは結構遅咲きだった。本作の撮影時で37歳。その後、プライム・タイム・ソープ“Falcon Crest”('81〜'89)でブレイクを果たしている。確かに美人ではあるのだけれど、当時はあまり印象に残らないタイプ。かえって、年齢を重ねてからの方が存在感を発揮するようになった大器晩成型だ。70歳を目前にした現在も元気そのもの。筆者はちょうど1年前にロサンゼルスで彼女にインタビューをしている。ドラマ「キャッスル」以外の仕事をセーブしていることについて、“個人的には、いつまでも年寄りが頑張りすぎて、後に続く人たちから仕事を奪うことには反対なの”と語っていたのが印象的だった。
 心にトラウマを抱えた刑事ジョンソン役には、まだシリアス路線一筋だった頃のレスリー・ニールセン。その妻リズ役には、日本未放送に終わった法廷ドラマ “Matlock”('87〜'93)でゴールデン・グローブ賞にノミネートされたジュリー・ソマーズ。また、ジーンの上司ウォルト役には、ヒッチコックの「鳥」('63)やウディ・アレンの「泥棒野郎」('69)など数多くの映画で脇役を務めたロニー・チャップマンが扮している。
 さらに、傲慢で尊大なソームズ教授役には、「失われた週末」('45)でアカデミー主演男優賞に輝いた名優レイ・ミランド。その娘アンを演じているのは、大ヒットドラマ「Xファイル」('93〜'02)でスカリー捜査官の母親役をやっていたシーラ・ラーケン。そして、「アンドロメダ…」('71)の科学者役や「コマンドー」('85)の将軍役で知られる名優ジェームズ・オルソンが、血の気の多い逃亡犯トム役で異彩を放っている。周りから浮いてしまうくらいの大熱演はなかなか見ものだ。

 

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