Hunger (2009)

 

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(P)2010 Phase 4 Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/102分/製作:アメリカ

特典映像
メイキング・ドキュメンタリー
未公開シーン集
オリジナル予告編
ファンゴリア・フライトフェストPR
S・ヘントジス監督による音声解説
監督:スティーヴン・ヘントジス
製作:ジョン・ソーヤー
   F・X・ヴィトーラ
脚本:L・D・ゴフィガン
撮影:ジョン・ソーヤー
音楽:ジョン・カリフラ
出演:ロリ・ヒューリング
   リンデン・アシュビー
   ジョー・エジェンダー
   リー・コール
   フリアン・ロハス
   ビョルン・ジョンソン

 

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交通事故で一人生き残った少年

数週間後に発見された少年は母親の右腕を食っていた

 世界的に有名なアメリカのホラー専門誌ファンゴリアが、この夏に開催した映画祭り“ファンゴリア・フライトフェスト”。インディペンデント映画や外国映画の中から、合計で8本のホラー作品がセレクトされたわけだが、この“Hunger”もその中の一本だ。
 お互いに見ず知らずの男女5人が、目覚めると真っ暗な地下室に監禁されていた・・・というオープニングは、なんだか『CUBE』(97)や『SAW』(04)のパクリみたいで一抹の不安を感じさせるものの、もちろんこれは単なるサバイバル・ゲームではない。
 それどころか、誰が何の目的で彼らをこんな所へ監禁したのか、少なくとも主人公たちにとっては最後まで不明。観客にもほとんど情報が与えられない。なので、生き残るためのルールはおろか、果たして彼らが生きてここを出ることが出来るのかどうかすら全く分らないのである。
 ただ唯一分っているのは、どうやらこれが実験のようなものらしいということ。地下室にあるのは、大量の水と一本の人体解剖用メスだけ。そこで監禁された主人公たちは、ただひたすら放置され続ける。そんな彼らの様子を、パソコンのモニター画面で観察し続ける謎の男。いったい、彼はなぜこんなことをするのだろうか?
 フラッシュバックで断片的に描かれるのは、交通事故で森の中に数週間放置され、死亡した母親の肉を食べてしまった少年。この少年が、謎の男の過去なのだろうか?だとすれば、彼は自分の行為の正当性を立証しようとしているのか?
 やがて、空腹と閉塞感から幻覚症状を起こし、お互いに苛立ちをぶつけ合う主人公たち。さらに空腹が極限まで達してくると、今度は早く誰か死なないかと考えるようになる。誰かが死ねば食事にありつける。人体解剖用メスがあるのはそのためだ。
 みるみるうちに崩壊していく人間の理性。その中でただ一人、女医のジョーダンだけは空腹や幻覚と闘いながら必死になって正気を保つ。どうやら、彼女だけは自分たちを監禁した人間の目的を察しているようだ。
 理性を失うことは、すなわち犯人の望みを叶えること。そうはさせまいと、仲間たちに一致団結を呼びかけるジョーダン。しかし、そんな彼女の努力もむなしく、ついに恐れていた最悪の事態が起きてしまう・・・。

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暗闇の中で突然目覚めた女医ジョーダン(L・ヒューリング)

そこは地下室のような場所だった

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病身の妻の自殺をほう助して有罪になったグラント(L・アシュビー)

恋人殺害の容疑がかけられていたアナ(L・コール)

 極めてシンプルなプロットだけに、物語の展開はどうしても最初から想像がついてしまう。そもそも、製作者サイドは下手に奇をてらうつもりなど一切なかったのだろう。なので、ストーリー的な意外性や奇抜な仕掛けなどは、ほぼゼロに近い。
 その代わり、心理的な描写には細心の注意が払われている。主人公たちそれぞれの性格や個性なども非常に明確で、その上で極限状態に置かれた人間の不安や混乱、焦り、怒り、憎しみなどのドラマ、そして徐々に理性が崩壊していく過程の恐怖が丁寧に描かれているのだ。
 それだけに、心理サスペンスとしての説得力は十分。お互いに殺し合い、食い合いを始めてからの描写も、殺人や人肉食などのゴア・シーンは必要最低限に止め、一人だけ人肉食を拒絶するヒロインの孤独な闘いと葛藤に焦点を絞ったのはなかなか賢かった。
 ただ、作り手の姿勢や作風がインテリジェントであることと、映画そのものが面白いのかどうかということは別問題。本作の場合、極めて観客を選ぶ映画だと言えるだろう。なにしろ、物語の大半は暗い地下室で展開するし、派手な見どころも殆んどなし。つまり、とても地味な映画だ。
 しかも、ホラー映画ファンならば楽しめるのかというと、それもまたちょっと疑問が残るところ。監督自ら“僕たちはこれをホラー映画だとは思ってないんだよね”と告白しているが、確かに本作で描かれる“怖さ”は一般的なホラー映画の怖さとはちょっと違うかもしれない。
 あえて言うならば、これは空腹という生理現象と人間心理を題材にした“実験映画”のようなもの。人肉食というものを美化したり誇張したりせず、本作のように直球で描いた作品というのはワリと珍しい。そういった意味では、とてもユニークな試みの作品ではある。

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強盗殺人で逮捕されたルーク(J・エジェンダー)

他人と関わることが苦手なアレックス(J・ロハス)

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井戸の下に監禁されている人々に気付いた若いカップル

だが、生きたまま車ごと湖へ沈められてしまった

 女医のジョーダン(ロリ・ヒューリング)は真っ暗闇の中で目を覚まして戸惑う。床は砂利の混ざった土。暗すぎて辺りには何も見えない。いったい自分はどこにいるのか?例えようもない混乱と不安が一挙に彼女を襲う。
 ふと気がつくと、近くから女性のすすり泣き声が聞こえてくる。彼女もまた怯えているようだ。その足元には血だらけの若い男性が気を失っている。それが誰なのか、その女性にも全く分からないようだ。
 すると、グラント(リンデン・アシュビー)という男性がジョーダンたちに話しかけてくる。彼もまた、ここがどこなのか分からずに混乱していた。お互い疑心暗鬼になりながらも、おのおの自分の置かれた状況を把握しようとする彼ら。さらに、怯えきったメキシコ系の男性もいるようだった。
 2日目。突然、明かりがついた。ここはどうやら地下室か何かみたいだ。時計みたいなものが掲げてあるが、どうやら時間ではなく日にちをカウントするものらしい。ドアを発見した彼らは、われ先にと外へ出ようとするが、なんとそこは井戸の底だった。
 見ると、大量の水が入った樽が数個と、簡易便所が置かれている。ここへ連れて来られた理由が何なのかは分らないが、自分たちの置かれた状況だけは察知できた。パニックで暴れるルーク。怯えるアナとアレックス。ジョーダンとグラントは秩序を保とうと努力する。
 3日目。ジョーダンはこの状況そのものに、なにか意味や法則があるのではないかと考えていた。グラントは病気の妻の自殺をほう助し、殺人罪で投獄された過去がある。暗闇ですすり泣いていた女性アナ(リー・コール)は、恋人殺害の容疑がかけられていた。その足元で気を失っていた若者ルーク(ジョー・エジェンダー)は、小遣い欲しさに強盗殺人を犯したことがあった。キーワードは“犯罪者”なのか?だが、メキシコ系の気弱なアレックス(フリアン・ロハス)は、犯罪どころか他人と関わること自体が苦手。どうやら彼らの間に明確な共通項はなさそうだ。
 4日目。水呑場に刃物が置かれていた。ジョーダンは、それは人体解剖用のメスだとすぐに気付く。傍には手書きのメモが。“食事を与えられなければ、人間の体は30日以上もたない”と書かれている。5人の間に高まる緊張。犯人の言わんとすることは誰もが分った。
 すると、どこからか音楽が聞こえてくる。井戸の外では、デート中の若いカップルがカーステレオを鳴らしていた。必死になって叫ぶ5人。カップルはその声に気付いた。その瞬間、カップルに向って麻酔銃が発砲される。目を覚ました二人は車の中に縛られていた。何者かが、生きたままカップルを車ごと湖へと沈める。
 5日目。5人の疲労は徐々に増していく。その様子を、ただ黙ってパソコンのモニターで観察する男(ビョルン・ジョンソン)。彼は、過去の出来事を思い出す。事故で車の中に閉じ込められた少年。傍らには即死した母親の遺体。その数週間後に救援隊が到着すると、少年は死んだ母親の右腕を食べていた。
 17日目。グラントは地下室の傍らにあるレンガの壁を壊した。その先には出口があるのだろうか?だが、そこにあったのは小さな部屋。中には、半ば白骨化した男性の死体と、恐らく彼の食べ残しであろう人骨が転がっていた。自分たちもいずれこうなってしまうのか。絶望的な空気が広がる。
 20日目。徐々に幻覚症状が現れ始める。アレックスとルークはゴキブリを食べて飢えをしのいでいた。もともと心臓に病気を持っているグラントは衰弱が著しい。ここを生きて出て、まだ幼い息子に一目でいいから会いたい。そんな彼をジョーダンは励まし続ける。
 だが、ルークやアナにはそんな同情心など残されていなかった。アナにそそのかされたルークは、みんなが寝静まっている間にメスを盗んでグラントを襲撃。彼を守ろうとしたジョーダンも襲われるが、アレックスの助けでルークを縛り上げることが出来た。ジョーダンは怒りを込めて言う。みんなが団結しなければ生き残れない、私たちはケダモノではないのだ、と。
 23日目。グラントの衰弱はさらに酷くなっていた。その傍らで他愛ない話をしながら、彼を励ますジョーダン。だが、他の3人の目はうつろで、もはやエサを待つケダモノと化してしまっている。
 24日目。最悪の事態が起きた。突然殴り倒されたジョーダン。アナとアレックスがグラントを襲撃している。必死になって抵抗するグラントだったが、やがて断末魔の悲鳴と共に撲殺されてしまった。遠のいていく意識の中で、絶望的な悲しみに打ちのめされるジョーダン。
 25日目。アナとアレックス、ルークの3人はグラントの死体をほぼ食い尽くしていた。手足を縛られたジョーダンは依然として空腹や衰弱と闘っているが、彼らが自分を次のエサにするつもりであることは分っている。
 28日目。食欲が満たされると、次は性欲に駆られてお互いの肉体を貪りあうアナとルーク。そんな二人を覗き見するアレックス。彼はすっかり頭がおかしくなっててしまった。アナの肉体に食らいつこうとしたアレックスは、その場でルークに撲殺されてしまう。
 29日目。アナとルークはアレックスの死体を夢中になって食っていた。秘かに手足を解いていたジョーダンは、そのスキを狙って地下室と井戸を仕切るドアの外へ逃げ出す。そして、全身の力を振り絞って錆びついた鍵をかけた。水を飲めなくなってしまったアナとルークは、様々な手を使ってドアを開けさせようとするが、ジョーダンは彼らの言葉に耳を貸さなかった。もはや信用できる相手ではない。
 そして30日目。アナとルークは、30日間生き延びればここを出られるものだと勝手に思っていた。手書きメモの内容をそう解釈していたのだ。時計が30日目をカウントして大喜びする二人。だだ、その様子をモニターで見ていた男は冷ややかに笑う。誰もそんなことは言っていない、と・・・。

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ジョーダンとグラントは生きて脱出する望みを捨てていない

黙々と男女の様子を観察し続ける男(B・ジョンソン)

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グラントを殺そうとしたルークは縛り上げられた

ジョーダンはお互いに団結することが大切だと語るのだが・・・

 演出を手がけたスティーヴン・ヘントジスは、久々に再会した高校の同窓生5人が過去の暗い秘密と対峙していく過程を描いた処女作“Jacklight”(95)で注目されたインディペンデント系の映像作家。これが約14年ぶりの長編2作目に当たる。
 先述したように、監督は本作を決してホラー映画とは見なしていない。ヒッチコックの『救命艇』(43)をお手本とした、極限状態の心理サスペンスを目指したのだそうだ。それだけに、一番苦慮したのはオープニング。設定として『SAW』の二番煎じ的なホラー映画だと思われてしまう可能性が高いからだ。
 そのため、あえて10分間も真っ暗闇のシーンを設け、主人公たちの混乱や不安を事細かに描きながら、彼らの基本的な性格や人格を浮き彫りにしていくことにしたのだという。これは、商業用映画としてはかなり危険な賭けだろう。
 なにしろ、映画が始まってしばらくは真っ暗なまま。下手をすると、観客がウンザリして飽きてしまう。しかも、作り物っぽさが出てしまうことを避けるため、セットでは照明器具が最小限に抑えられた。なので、暗闇シーンは本当に真っ暗だ。
 そのため、目を凝らせばなんとかギリギリ人物の姿が判別できるという絶妙な暗さをカメラ側で調節。さらに、冒頭にフラッシュバック・シーンを一瞬挿入することで、この映画が暗闇ばかりで展開するわけではないことを明確にし、観客にそっぽを向かれないような配慮をしたのだそうだ。
 また、当初は観察している仕掛け人が主人公たちにマイクを通して話しかけるシーンもあったが、これまた『SAW』みたいだからということで削除された。ただし、パソコンのモニター前には大きなマイクがしっかりと残されているのだが。
 さらに、監督はリアリズムを追及するため、撮影開始と同時に出演者へスピード・ダイエットを指示した。つまり、俳優は役柄同様にやせ細っていかねばならなかったのだ。中には10キロ近く体重を落とした者もいて、撮影中に貧血でたびたび倒れるもんだから、現場にはドクターが常時待機していたそうだ。
 脚本を書いたL・D・ゴフィガンはこれがデビュー作。製作と撮影監督を兼ねるジョン・ソーヤーはインディペンデント映画界で活躍するカメラマンで、ヘントジス監督とは処女作“Jacklight”以来の仲だ。
 それ以外のスタッフも、ドキュメンタリーや短編を含めたインディペンデント映画で活躍している人ばかり。ちなみに、共同で製作を務めているF・X・ヴィトーラは、その昔『ワンダラーズ』(79)や『フェーム』(80)などに出ていた元俳優である。

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衰弱の著しいグラントを励ますジョーダン

だが、アナたちはグラントが早く死ぬことを願っている

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ついにグラントがみんなの餌食になってしまう

何も出来ず絶望と悲しみに暮れるジョーダンだったが・・・

 最後にキャストについてもざっと触れておきたい。主人公ジョーダン役のロリ・ヒューリングは、日本ではDVD発売のみのホラー映画『100年後・・・』(06)でもヒロインを演じていた女優さん。演技力はあるし美人だけど、あまり印象に残るようなタイプではないかもしれない。『マルホランド・ドライブ』(00)や『プロム・ナイト』(08)にも出ていたらしいが、残念ながら全く記憶になし(笑)。
 その『プロム・ナイト』(08)でヒロインの叔父役を演じていたのが、一番最初に食い殺されるグラント役のリンデン・アシュビー。大ヒット映画『モータル・コンバット』(95)の主人公ジョニー役や、『ワイアット・アープ』(94)の弟モーガン役などで知られるタフガイ系の役者だ。
 また、主人公たちを観察する仕掛け人を演じているビョルン・ジョンソンは、西海岸を拠点に活動する有名な舞台俳優兼演出家らしい。それ以外の出演者は、いずれもキャリアの浅い無名俳優ばかりだが、演技力に関しては全く申し分なし・・・というよりも、それぞれに鬼気迫る迫真の演技を見せてくれる。やはり、アメリカはショービジネス界の層が厚い。

 

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