ハリウッド・クラシック ブルーレイレビュー Pt.2

 

深夜の告白
Double Indemnity (1944)

DOUBLE_INDEMNITY.JPG
(P)2014 Universal Studios (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★★
ブルーレイ仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/画面比:1.33:1/HD規格:1080p/音声: 2.0ch DTS-HD MA MONO/言語:英語・スペイン語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:ALL/ 108分/制作国:アメリカ

<パッケージ仕様>
アウターケース収納
カードセット封入

<特典>
・映画歴史家ロバート・オズボーンによるイントロダクション
・メイキング・ドキュメンタリー「Shadows of Suspense」
・1973年制作テレビ映画版
・オリジナル劇場予告編
・映画歴史家リチャード・シッケルの音声解説
・脚本家レム・ドブスと映画歴史家ニック・レッドマンの音声解説
監督:ビリー・ワイルダー
製作:バディ・デ・シルヴァ
   ジョセフ・シストロム
原作:ジェームズ・M・ケイン
脚本:ビリー・ワイルダー
   レイモンド・チャンドラー
撮影:ジョセフ・F・セイツ
音楽:ミクロス・ローザ
出演:フレッド・マクマレー
   バーバラ・スタンウィック
   エドワード・G・ロビンソン
   ポーター・ホール
   ジーン・ヘザー
   トム・パワーズ
   バイロン・バー

 フィルム・ノワールのお手本とされる不朽の名作。アカデミー賞では作品賞以下7部門にノミネートされ、巨匠ビリー・ワイルダー監督の出世作ともなった。ストーリーは極めてシンプル。野心家の生命保険営業マンが妖艶な人妻に誘惑され、彼女の裕福な夫を殺して保険金をせしめようと完全犯罪を企てようとする。まさに典型的なファム・ファタールもの。その後も様々な映画でコピーされたこともあり、今となっては先の展開が読めてしまうことは否めないが、しかしカメラの構図からライティングの陰影まで徹底的に凝りまくったスタイリッシュなモノクロ映像は、時代に色褪せない洗練された魅力を持ち続けている。
 女の色香に騙されて転落していく男ウォルター役のフレッド・マクマレー、クールで計算高い悪女のフェロモンを発散するフィリス役のバーバラ・スタンウィックと、大物主演コンビの顔合わせも完璧。さらに、彼らの計画に少しづつ勘付いていく営業部長バートン役を演じる名優エドワード・G・ロビンソンの貫禄とバイタリティが素晴らしいアクセントとなり、時にはハラハラとする緊張感を高め、時には微笑ましいユーモアを振りまいていく。大人のための極上の犯罪サスペンスだ。

 もともとはパラマウントの配給だが、現在はユニバーサルが版権を所有。上記の米国盤ブルーレイは公開70周年記念のスペシャル・エディションだ。エンボス加工の施されたアウターケース付きで、中にはポスターやロビーカード、未公開エンディング・シーンをプリントした大判カードの5枚組が封入されている。
 肝心の映像はというと、これが非の打ち所がないくらいにクリアかつシャープな超高画質。フィルム・グレインもほとんど目立たず、まさにツルッツルのピッカピカだ。陰影のコントラストも強め。黒の色味がかなり深く、解像度も高いため、ディテールの再現力がハンパじゃない。その分、古いフィルムっぽさを求めるファンにとっては“いじり過ぎ”なリマスターとも受け取られかねないとは思うのだが。
 音声はオリジナルのモノラル音声をDTS-HDマスターオーディオにエンコード。こちらも原音をリマスター加工しているらしく、ミクロス・ローザのロマンティックな音楽スコアも明瞭に響き渡る。トータルでスタジオ側が手間と暇を十分にかけてリマスター作業を行ったことが伺える良質な仕上がりのブルーレイだ。
 ただ、若干の不満が残るのは特典映像。基本的に'06年にリリースされたユニバーサル版DVDの特典を、そのまま移植しただけなのだ。BD用の新たなコンテンツは一切なし。とはいえ、ウィリアム・フリードキン監督らクラシック映画に造詣の深い識者が、フィルムノワールというジャンルの生まれた時代背景から本作の魅力を徹底解説していく40分近いメイキング・ドキュメンタリーは勉強になるし、映画史研究者による音声解説も参考になるようなコメントが盛りだくさん。
 また、ウォルター役をリチャード・クレンナ、フィリス役をサマンサ・エッガー、バートン役をリー・J・コッブの演じた'73年のテレビ映画版もフルで収録されている。舞台を現代のロサンゼルスに移し、ストーリーはCMを含めた90分以内に収めるため細部を簡略。そのために昼メロっぽい安上がりなサスペンスに仕上がっているものの、エドワード・G・ロビンソンとは全く違ったアプローチを試みているリー・J・コッブの男臭い演技は素晴らしい。

 

 

チャンピオン
Champion (1949)

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(P)2013 Olive Films/Paramount (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
ブルーレイ仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/画面比:1.33:1/HD規格:1080p/音声: 2.0ch DTS-HD MA MONO/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/99分/制作国:アメリカ

<特典>
なし
監督:マーク・ロブソン
製作:スタンリー・クレイマー
脚本:カール・フォアマン
原作:リング・ラードナー
撮影:フランツ・プレイナー
音楽:ディミトリ・ティオムキン
出演:カーク・ダグラス
   マリリン・マクスウェル
   アーサー・ケネディ
   ポール・スチュアート
   ルース・ローマン
   ロラ・オールブライト
   ルイス・ヴァン・ルーテン

 当時若手として台頭しつつあったカーク・ダグラスが初めてアカデミー賞主演男優賞候補となり、一躍ブレイクするきっかけとなったボクシング映画。それまで低予算映画専門だった監督のマーク・ロブソンにとっても出世作となったわけだが、なにしろ製作が社会派のスタンリー・クレイマーなだけに、ただのボクシング映画には終わらない。
 主人公は野心的で反骨精神は強いがお人好しで単細胞な無職の青年ミッジ(カーク・ダグラス)。貧乏のどん底にあった彼は、たまたま腕っ節が強かったことからボクサーとなり、みるみるうちにトップ選手へとのし上がっていくものの、成功の甘い汁にすっかり酔ってしまい、さらにヤクザなボクシング業界に染まることで傲慢となり、それまで自分を支えてくれた人々をことごとく裏切っていく。
 貧しいから教養がない、教養がないから仕事がない。仕事がないから貧しい。そんな負のサイクルを抜け出す唯一の方法が、ミッジにとってはボクシングだったわけだが、そこで待っていた弱肉強食の世界が皮肉にも彼を狂わせていく。貧富や教育の格差というアメリカ社会の根深い問題に切り込んだ作品だと言えるだろう。
 また、成功した男を行き来する計算高い愛人グレイス(マリリン・マクスウェル)や献身的で辛抱強い妻エマ(ルース・ローマン)といった女性をミッジの周辺に配することで、当時のアメリカ社会における女性の低い地位というものも浮き彫りにしていく。マーク・ロブソン監督のリアリズム溢れる冷徹な演出とも相まって、ズッシリとした重みのある作品に仕上がっている。

 劇場公開当時はユナイテッド・アーティスツの配給だったが、現在はパラマウントが権利を所有している本作。上記の米国盤BDは、パラマウントとライセンス契約を結んでいるオリーヴ・フィルムズからのリリースだ。過去に日米でDVD盤も発売されていた本作だが、いずれも画質の面で大いに問題ありだった。輪郭の滲みやディテールの潰れが酷く、音声もノイズだらけでセリフも不明瞭。それに比べると、今回のブルーレイのクオリティは雲泥の差だ。
 恐らくレストア作業は施されていないのだろう。フィルムのキズやホコリは随所で散見されるし、暗いシーンではグレインのチラツキも目立つ。しかしながら、画像イメージは全体的にシャープかつクリアで、モノクロのコントラストもハッキリとしており、質感や空気感もリアルに再現されている。しかも、旧DVD盤では映像全般がオリジナル・サイズよりも一回り小さくカットされていたのだが、ブルーレイ盤では全ての情報がきっちりとフレーム内に収まっているという。
 DTS-HDマスターオーディオにエンコードされたモノラル音声も明瞭で、DVD盤にあったプチプチ音などの劣化ノイズもほとんどなし。オリーヴ・フィルムズの弱点である特典映像なしのパッケージ仕様は残念だが、少なくとも本編のプレゼンテーションに関しては十分に合格点だと思う。

 

 

三人の秘密
Three Secrets (1950)

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(P)2012 Olive Films/Paramount
歯質★★★★☆ 音質★★★★☆
ブルーレイ仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/画面比:1.33:1/HD規格:1080p/音声: 2.0ch DTS-HD MA MONO/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/99分/制作国:アメリカ

<特典>
なし
監督:ロバート・ワイズ
製作:ミルトン・スパーリング
脚本:マーティン・ラッキン
   ジーナ・カウス
撮影:シド・ヒコックス
音楽:デヴィッド・バトルス
出演:エレノア・パーカー
   パトリシア・ニール
   ルース・ローマン
   フランク・ラヴジョイ
   リーフ・エリックソン

 巨匠ロバート・ワイズ監督の初期の隠れた名作であり、エレノア・パーカーにパトリシア・ニール、そしてルース・ローマンという当時の人気女優たちを主演に揃えた女性映画である。物語の発端は飛行機事故。とある家族を乗せた小型機が山の頂上に墜落し、5歳の幼い少年ジョニーだけが生きて取り残される。すぐに救助隊が編成され、マスコミも事件を大々的に報道。そのニュースを聞いた3人の女性が現場へ駆けつける。
 というのも、彼女たちには少年が自分の産んだ子供ではないかという疑問があったのだ。事故当日に5歳の誕生日を迎えた養子のジョニー。3人の女性たちもまた、5年前のその日に息子を出産し、やむを得ない事情から養子に出していた。物語は彼女たちが実の子を手放さねばならなかった複雑な経緯をフラッシュバックで描きながら、当時の女性が保守的な社会で直面せねばならなかった様々な問題を浮き彫りにしていく。
 まず、それぞれ社会的立場の全く違う3人の女性を主人公に据えている点が上手い。恵まれた中流階級の理想的な妻であるスーザン(エレノア・パーカー)は、独身時代に幼馴染の恋人の子供を妊娠したものの彼が結婚前に戦死してしまい、世間体を心配した母親によって生まれた子供を養子に出さねばならなかった。有能な女性新聞記者のフィリス(パトリシア・ニール)は夫との離婚後に妊娠に気づき、出産はしたものの職業婦人が一人で子育てすることは不可能であるため、我が子を養子に出さざるを得なかった。そして、元コーラスガールのアン(ルース・ローマン)は大富豪と結婚して玉の輿に乗ったものの、亭主関白な夫の暴力に悩まされた挙句に思い余って彼を殺してしまい、有罪判決を受けたために生まれたばかりの息子を取り上げられてしまったのだった。シングルマザーに対する世間の無理解、働く女性に厳しい労働環境、低い社会的地位ゆえに軽んじられる女性の権利。それらの深刻な問題をメロドラマ仕立てで丁寧に描き出したロバート・ワイズの手腕が光る。

 日米ともにVHSのみでしか発売されなかった本作。上記の米国盤ブルーレイはデジタル・メディアとして初めてのソフト・リリースとなる。もともとはワーナー・ブラザーズの配給だったが、現在はパラマウントが版権を有しており、ブルーレイはパラマウントとライセンス契約を結ぶオリーヴ・フィルムズからの発売。例によってフィルムのレストア作業は施されていないため、随所に傷や汚れが確認できるものの、保存状態そのものは極めて良好だ。
 恐らくオリジナル・ネガないしデュープ・ネガからテレシネされたフルハイビジョン・マスターを使用しているのであろう。白黒のコントラストはすこぶる明瞭で、フィルム・グレインもさほど目立たず、ディテールの細やかさも十分。モノラル音声は全体的に平坦な印象だが、少なくともノイズはほとんど目立たないし、セリフもはっきりと聞き取ることができる。オリーヴ・フィルムズゆえに特典映像はゼロだが、こうしたレアな作品を高画質で鑑賞出来るだけでもヨシとせねば。

 

 

 

南仏夜話・夫(ハズ)は僞者
On The Riviera (1951)

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(P)2013 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆

ブルーレイ仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/画面比: 1.33:1/HD規格:1080p/音声: DTS-HD MA 1.0 MONO・DOLBY DIGITAL 1.0 MONO/言語:英語・スペイン語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード: ALL/90分/制作国:アメリカ

<特典>
・メイキング・ドキュメンタリー「The Riviera Story: A Remarkable Impersonation」
・ドキュメンタリー「A Portrait of Danny Kaye」
・ドキュメンタリー「The Jack of Clubs: Choreographer Jack Cole」
・オリジナル劇場予告編
 

監督:ウォルター・ラング
製作:ソル・C・シーゲル
原作:ルドルフ・ルーター
   ハンス・アドラー
脚色:ジェシー・アーンスト
脚本:ヴァレンタイン・デイヴィス
   フィービー・エフロン
   ヘンリー・エフロン
撮影:レオン・シャムロイ
音楽:シルヴィア・ファイン
出演:ダニー・ケイ
   ジーン・ティアニー
   コリンヌ・カルヴェ
   マルセル・ダリオ
   ジャン・ミュラー
   アンリ・レトンデル
   クリントン・サンドバーグ
   シグ・ルーマン
   ジョイス・マッケンジー
   グエン・ヴァードン

 戦前にモーリス・シュヴァリエが主演したミュージカル・コメディ「シュヴァリエの巴里ッ子」('35)のリメイク。実は本作が2度目のリメイクに当たるのだが、ドン・アメチー主演の'41年版「The Night in Rio」は日本未公開のまま。筆者はその'41年版しか見たことがないのだが、ストーリーの流れはほぼ一緒である。
 主人公はパリのナイトクラブで働くアメリカ人のエンターテイナー、ジャック(ダニー・ケイ)。オーナーからクビを言い渡されそうになった彼は、世界一周の単独飛行から戻ってフランスの国民的英雄となった飛行士アンリ(ダニー・ケイ二役)が自分と瓜二つであることに気づき、彼のモノマネを盛り込んだ新しい演目を発表してセンセーションを巻き起こす。一方、会社が経営難に陥ったアンリは資金調達のためにロンドンへ向かうものの、商売敵であるペリトンに彼の不在が知られるとまずい。そこで、アンリの側近たちはジャックに彼の身代わりを頼むのだが、何も知らないアンリが予定よりも早く帰ってきたことから、彼の妻リリー(ジーン・ティアニー)やジャックの恋人コレット(コリンヌ・カルヴェ)を巻き込んだ珍騒動が繰り広げられていく。
 '41年版との最大の違いは、セクシャルなニュアンスを多分に含んだ大人向けのユーモアにあるだろう。また、ストレートな2枚目俳優であるドン・アメチーと打って変わって、こちらは歌にダンスに芸達者ぶりを発揮するコメディアンのダニー・ケイが主演。二枚目半のチャーミングな魅力とエネルギッシュなパフォーマンスによって、この奇想天外なストーリーを見事に牽引していく。憂いを含んだ妖艶なジーン・ティアニーにキュートでコケティッシュなコリンヌ・カルヴェと、女優陣の配役にも抜かりなし。また、ミュージカル・シーンで抜群の存在感を発揮するグエン・ヴァードンも素晴らしい。

 日本では今のところ非正規版DVDしか発売されていないものの、アメリカでは20世紀フォックスからオフィシャルのブルーレイが発売中。なにしろ60年以上前のカラー作品なので、どことなく輪郭が滲んでいるような印象は否めないものの、それでもフィルムの経年劣化は最大限に修復されており、傷や汚れは全くないしテクニカラーの色彩も華やかで鮮明。また、DTS-HDにエンコードされたモノラル音声も重量感があり、ミュージカル・シーンの煌びやかさが一層のこと際立っていると言えよう。
 特典映像では3種類のドキュメンタリーを用意。メイキング・ドキュメンタリー「The Riviera Story: A Remarkable Impersonation」は10分強の短さだが、原作戯曲とオリジナル映画版がほぼ同時に製作された経緯や、各バージョンの比較などが複数の映画評論家によって検証されていく。「A Portrait of Danny Kaye」は、主演ダニー・ケイのキャリアを振り返る約27分のオリジナル・ドキュメンタリー。一人娘デーナのコメントを中心に、彼のバックステージを支えたスタッフや友人が生前の彼を振り返る。UNICEFでのチャリティー活動など、滅多にお目にかかることのない貴重な映像からダニー・ケイのお茶目な素顔が垣間見える。
 さらに、「The Jack of Clubs: Choreographer Jack Cole」では、本作のミュージカル・シーンを担当した大物振付師ジャック・コールにスポットを当てており、彼のもとで仕事をしたダンサーや映画評論家が、唯一無二の天才ジャックのキャリアと振り付けの魅力に迫る。正味10分弱という短いドキュメンタリーだが、「紳士は金髪がお好き」や「キスメット」など、彼の手がけたダンス・シーンの数々も楽しめる。

 

 

イブの三つの顔
The Three Faces of Eve (1957)

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(P)2013 20th Century Fox (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★☆
ブルーレイ仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン/画面比: 2.35:1/HD規格:1080p/音声: DTS-HD MA 1.0 MONO/言語:英語・スペイン語(※英語・日本語)/字幕:英語・スペイン語・フランス語(※日本語・英語)/地域コード:ALL(ジャケット表記はA)/91分/制作国:アメリカ
※日本国内向け再生機で再生の場合

<特典>
・映画評論家オーブリー・ソロモンによる音声解説※
・アカデミー賞授賞式ニュース映像※
・オリジナル劇場予告編
※日本国内向け再生機の場合は再生不可
監督:ナナリー・ジョンソン
製作:ナナリー・ジョンソン
原作:コーベット・H・シッグペン
   ハーヴェイ・M・クレックリー
脚本:ナナリー・ジョンソン
撮影:スタンリー・コルテス
音楽:ロバート・エメット・ドーラン
出演:ジョアン・ウッドワード
   デヴィッド・ウェイン
   リー・J・コッブ
   エドウィン・ジェローム
   アリーナ・マレー
   ナンシー・カルプ

 いわゆる多重人格を題材にした実録ドラマ。大人しくて引っ込み思案な主婦イヴ・ホワイト、自由奔放で挑発的なイヴ・ブラック、そして知的で思慮深いジェーン。それぞれに全く違う3つの人格を瞬時に演じ分ける主演女優ジョアン・ウッドワードの演技力は素晴らしく、当時まだ無名に近かった彼女がいきなりオスカーを受賞したのも十分に頷けることは確かだ。
 ただ、映画作品としてはいまひとつ面白味に欠ける。というよりも、時代に色褪せてしまったと言うべきか。まだ多重人格が一般的には馴染みのなかった時代、本作は予備知識のない観客でも理解できるように構成されているのだが、その分かりやすさがかえってストーリーを凡庸なものにしてしまったと言えるだろう。
 モデルとなったのは、サウス・カロライナ出身のクリス・コスナー・サイズモアという実在の女性。現在も存命である彼女は、これまでに20以上もの異なる人格に悩まされてきたと言われているが、本作ではそれを3つに絞ることで単純明快な脚色を施している。
 田舎の平凡な主婦イヴが記憶の空白に不安を感じ、夫に連れられて精神科医ルーサーのもとを訪れるところから物語がスタート。やがて異なる人格の存在が確認され、試行錯誤しながらの治療を時系列で描いていくわけだが、客観性を重んじすぎたこともあってか、どうも精神病の症例報告をそのまま映像化したような印象が強い。それでも公開当時は衝撃的だったのかもしれないが、今となっては薄っぺらに感じられてしまうのも致し方ないだろう。

 日米でほぼ同時期にリリースされたブルーレイは、基本的に同一のマスターが使用されている。4K解像度でスキャンされたモノクロの本編映像は丁寧なレストア処理が施されており、文句なしにクリアでシャープな仕上がり。目つきや表情の変化によって人格の入れ替わりを表現していく、ウッドワードの繊細で巧みな演技を存分に堪能することができる。
 また、本BDは再生環境によって音声や字幕、特典映像の内容が異なってくる。例えば、北米市場向けプレイヤーで再生すると音声は英語とスペイン語、字幕は英語とスペイン語とフランス語が表示されるが、日本市場向けプレイヤーで再生すると音声は英語と日本語吹替、字幕も日本語と英語を認識。これはワーナーやパラマウントなど他のメジャーメイカー製品にも共通しているのだが、アメリカ本国で一括してマスターを作成しているためで、日本盤BDでも同様の現象が起きる。
 なので、北米市場向けプレーヤーでは再生される音声解説と特典映像が、なぜか日本市場向けプレイヤーだとオリジナル劇場予告編しか認識してくれない。どういう判断のもとで制限がかけられているのかは不明。その日本市場では再生できない特典映像は、ウッドワードが主演女優賞を獲得した第30回アカデミー賞授賞式の模様を収めたフォックス・ニュース。主演男優賞のオスカー像をアレック・ギネスの代理として受け取るジーン・シモンズの姿や、助演女優賞を受賞したナンシー梅木のスピーチなども見ることができる。

 

 

肉体のすきま風
Summer and Smoke (1961)

SUMMER_SMOKE.JPG
(P)2013 Olve Films/Paramount (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
ブルーレイ仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:2.35:1/HD規格: 1080p/音声:2.0ch DTS-HD MA MONO/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/116分/制作国:アメリカ

<特典>
なし
監督:ピーター・グレンヴィル
製作:ハル・B・ウォリス
   ポール・ネイサン
原作:テネシー・ウィリアムズ
脚本:ジェームズ・ポー
   モード・ロバーツ
撮影:チャールズ・ラング
音楽:エルマー・バーンスタイン
出演:ジェラルディン・ペイジ
   ローレンス・ハーヴェイ
   パメラ・ティフィン
   リタ・モレノ
   ウナ・マーケル
   ジョン・マッキンタイア
   アール・ホリマン

 これまた力強くも繊細で、時に官能的ですらある見事な女性映画。テネシー・ウィリアムズの戯曲を原作に、ブロードウェイの大女優にしてウィリアムズのミューズでもあったジェラルディン・ペイジが、厳格な家庭に育ったがために性的に抑圧されてしまった女性の悲劇を演じる。そのペイジの主演女優賞を筆頭に、アカデミー賞4部門ノミネートを果たした名作だ。
 舞台は20世紀初頭のセントルイス。表向きは古い伝統を重んじ、日常的にも宗教色の濃い地元社会にあって、牧師の家庭に育った女性アルマは慎み深い立派なレディとの評判も高いが、その一方で同年代の若者からは堅苦しくて退屈な女性として冷笑されている。神の教えを忠実に守り、よその若者とは違って遊びにでも出ず、家族のために献身的な日々を過ごすアルマ。そんな彼女にも、実は密かに思いを寄せる男性がいた。幼馴染の自由奔放なプレイボーイ、ジョンだ。
 久しぶりに故郷へ戻ったジョンと再会したアルマ。彼への想いが日増しに募る一方、遊び慣れたジョンも古風で奥ゆかしいアルマにほかの若い女性とは違う何かを感じ、次第に愛情を感じていくようになる。だが、2人にはどうしても超えられない壁があった。それは性の価値観である。惹かれあう者同士がお互いの肉体を求めるのは当然だと考えるジョンに対し、神の教えに反すると頑なに拒絶するアルマ。しかし、そんな彼女の頑迷さが取り返しのつかない事態を生んでしまう。
 保守的な南部社会の偽善を浮き彫りにした本作。その犠牲者がアルマだと言えるだろう。男性の女遊びは黙認されるくせに、女性はモラルのがんじがらめ。アルマのように牧師の家庭に生まれ育った女性ならなおさらで、彼女は幼い頃から教え込まれた“常識”によって、逆に女性としての幸せを逃してしまうことになってしまうのだ。
 主演のジェラルディン・ペイジは当時30代半ば。若い女性役としてはちょっと年を取りすぎているが、内に秘めた欲望を抑えて模範的に振舞うヒロインの葛藤を見事に演じており、かえって役柄設定よりも老けていることで歪んだ悲壮感に説得力を与えている。若い美人女優が演じていたら嘘っぽくなってしまったことだろう。また、名女優ウナ・マーケル演じるアルマの母親の存在も面白い。自由奔放でルールにとらわれないがゆえに精神異常とされ、まるで家族の恥だとも言わんばかりに扱われている女性。そんな母親に手を焼いていたアルマが、次第に同じように情緒不安定となっていく姿が皮肉だ。

 日本ではDVDはおろかVHSすら発売されたことのない本作。アメリカでは'10年にパラマウントから許諾を受けたオリーヴ・フィルムスがDVDを発売し、その3年後に改めてブルーレイをリリースした。同社のご他聞に漏れず、フィルムのレストア作業はされていないため、キズや汚れが随所に散見されるものの、全体的な画像イメージは決して悪くない。というよりも、キズと汚れ以外は全くの問題なしだ。部分的にフィルム・グレインは霞がかっているが、ディテールはシャープだしカラーも自然で美しい。オリジナルのモノラル音声は平坦な印象だが、少なくともセリフは明瞭に聞き取れる。
 例によって例のごとく、オリーヴ・フィルムズの常として特典映像はゼロ。その欠点を差し引いても、こういう貴重な名作がブルーレイの高画質で鑑賞できることは大歓迎だ。

 

 

おかしなおかしなおかしな世界
It's a Mad Mad Mad Mad World (1963)

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(P)2011 MGM/20th Century Fox (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★★
ブルーレイ仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:2.55:1/HD規格: 1080p/音声:5.1ch DTS-HD MA、5.1ch Dolby Digital/言語:英語・スペイン語・フランス語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:ALL/159分/制作国:アメリカ

<特典>
・メイキング・ドキュメンタリー「Something a Little Less Serious:  A tribute to It's a Mad Mad Mad Mad World」
・エクステンデッド・シーン集
・オリジナル劇場予告編
・'70年リバイバル版予告編
監督:スタンリー・クレイマー
製作:スタンリー・クレイマー
脚本:ウィリアム・ローズ
   タニア・ローズ
撮影:アーネスト・ラズロ
音楽:アーネスト・ゴールド
出演:スペンサー・トレイシー
   ミルトン・バール
   シド・シーザー
   バディ・ハケット
   エセル・マーマン
   ミッキー・ルーニー
   ディック・ショーン
   フィル・シヴァーズ
   テリー=トーマス
   ジョナサン・ウィンターズ
   イーディ・アダムス
   ドロシー・プロヴァイン

 シリアスな社会派として知られるスタンリー・クレイマー監督が、そのイメージと先入観を覆すべく挑んだスラップスティックなナンセンス・コメディ。交通事故で死亡した男が大金の在り処を死に際に告白したことから、たまたまその場に居合わせた人々が隠し場所へと一直線。ライバルを蹴落とすためにあの手この手を駆使しながら、大金を我が物にすべく大暴走を繰り広げていく。
 当初は3時間を越える長尺だったが、あまりにも長すぎるということで監督自身が再編集をし、それでも2時間半強という大作となってしまった本作。サイレント時代のキーストン・コップスも顔負けの、まさに体を張ったアクション映画並みのドタバタ・ギャグが満載。大暴れの末にガソリンスタンドを大破させたり、プロペラ機で大空を右往左往したり、しまいには高層ビルの上からクレーン車のハシゴに大勢がしがみついてブランブラン(笑)。そのハイテンションは思わず閉口させられるほどだ。
 さらに、オスカー俳優スペンサー・トレイシーを筆頭とした豪華キャストの大挙出演も見どころ。大物喜劇俳優を中心とした主要メンバーのほか、ピーター・フォークや三バカ大将、バスター・キートンにジョー・E・ブラウン、ジェリー・ルイスにカール・ライナーなど、それこそ数え切れないほどのスターが随所にカメオ出演している。
 ただ、ギャグの大半は今見ると古臭さが否めず、大仰過ぎるコメディ演技にも時代を感じる。巨匠による異例の型破りなコメディ映画として記憶されるべき作品かもしれないが、それ以上でもそれ以下でもないというのが実際のところだろう。なので、一部で駄作という評価があることも頷けないではない。

 劇場公開当時はユナイテッド・アーティスツが配給し、その後MGMへと権利が移った本作。日本では先ごろようやく初DVD化されたばかりだが、アメリカでは権利元のMGMとライセンスを受けたクライテリオンの両方からブルーレイが発売されている。筆者が購入したのは価格的にお得なMGM盤。ただ、使用されたマスターはほぼ一緒だそうだ。
 65ミリのマスター・ポジからのテレシネでフルハイビジョン・マスターを制作。ごく一部で若干の傷が見られることからレストア作業のされていない可能性があるものの、画像イメージの状態は驚くくらいに完璧だ。輪郭はシャープだしディテールもきめ細やか。部分的にフィルム・グレインがチラつくものの、カラーの色合いも濃厚かつ鮮烈だ。とても50年以上前の映画とは思えない。
 音声は英語版が5.1chサラウンドのDTS-HDで、スペイン語版はモノラルのドルビー・デジタル、フランス語版は5.1chサラウンドのドルビー・デジタル。とりあえず英語版しか鑑賞していないが、こちらも文句なしのハイクオリティで、サウンドの重量感も立体感も十分すぎるほどである。
 特典映像は1時間以上にも及ぶメイキング・ドキュメンタリーが目玉。これは'91年に製作されたテレビ放送用のドキュメンタリーで、'01年に発売されたアメリカ盤の2枚組DVDにも収録されていた。スタンリー・クレイマー監督を筆頭に、ミルトン・バールやミッキー・ルーニー、イーディ・アダムス、ジェリー・ルイスなど、当時まだ存命だったスタッフや出演者が当時を振り返り、様々な撮影秘話を語っていく。
 さらに、エクステンデッド・シーン集では2時間半へ再編集した際にカットされたシーンを収録。実は、これらの削除シーンはその後オリジナル・フィルムが消失してしまい、世界各地に現存する上映用フィルムやビデオ映像などから抜き出されている。そのため、画質の状態はギリギリにセーフなものから劣悪なものまでまちまち。これらのシーンに加えて、音声だけ残されているシーンに静止画を組み合わせたものを交ぜながら再編集したエクステンデッド・バージョンも存在するが、MGM盤ブルーレイでは完璧な状態の再編集版のみを収録し、削除シーンは別途ひとまとめにしているのだ。
 なお、クライテリオン版ブルーレイには再編集版とエクステンデッド・バージョンの両方を収録。さらに、特典映像もMGM盤を遥かに凌駕するボリュームとなっているらしいので、熱心なファンにはそちらの方がオススメかもしれない。

 

 

Uptight (1968)

UPTIGHT.JPG
(P)2012 Olive Films/Paramount (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
ブルーレイ仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.78:1/HD規格: 1080p/音声:2.0ch DTS-HD MA MONO/言語:アメリカ/字幕:なし/地域コード:A/104分/制作国:アメリカ

<特典>
なし
監督:ジュールズ・ダッシン
製作:ジュールズ・ダッシン
原作:リアム・オフラハーティ
脚本:ジュールズ・ダッシン
   ルビー・ディー
   ジュリアン・メイフィールド
撮影:ボリス・カウフマン
音楽:ブッカー・T・ジョーンズ
出演:レイモンド・セイント・ジャックス
   ジュリアン・メイフィールド
   ルビー・ディー
   フランク・シルヴェラ
   ロスコー・リー・ブラウン
   ジャネット・マクラクラン
   マックス・ジュリアン

 「裸の町」('48)や「日曜日はダメよ」('60)などで知られる巨匠ジュールズ・ダッシンの手がけた日本未公開の社会派ブラック・ムービー。赤狩りでアメリカを追放され、ハリウッド復帰後もヨーロッパを拠点に活動していた彼が、「深夜復讐便」('49)以来久々に米国内で撮影した作品だ。
 原作はかつてジョン・フォードも映画化したリアム・オフラハーティの小説「密告者」。舞台をアイルランド独立戦争真っ只中のダブリンから、公民権運動の盛り上がるオハイオ州クリーヴランドへと移している。時はマーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺された直後。怒りに燃える黒人たちが抗議のために街頭を埋め尽くし、まさに一触即発の緊張感が漂っている。そんな中、無職で生活に困っていた男タンク(ジュリアン・メイフィールド)は、報奨金欲しさに指名手配されている親友の活動家ジョニー(マックス・ジュリアン)を警察へ売ってしまい、そのために過激派グループから命を狙われてしまう。
 人権運動なんかよりもまずは明日の生活。理想よりも現実。短絡的で愚かとも思える主人公のタンクは、その一方で社会の最底辺でもがき苦しむ黒人庶民の象徴とも言えよう。そんな彼が思い余って仲間を裏切り、同胞たちから追われる身となってしまう皮肉。そこに、監督は人種差別問題の根深さを投影させているのであろう。
 そのタンクの処遇を巡って、武力闘争も辞さない過激派グループと話し合いで解決しようとする穏健派グループの対立が表面化し、一筋縄ではいかない複雑な公民権運動の内情も垣間見せていく。脚本には黒人運動の活動家としても知られる女優ルビー・ディーと脚本家ジュリアン・メイフィールドが参加。ダッシン監督によるドキュメンタリー・タッチのクールな演出もあって、ヒリヒリとしたリアリズムの漂う作品に仕上がっている。これが日本未公開のままとは惜しい。

 アメリカでも過去にビデオ発売されたことのなかった本作。上記のブルーレイが初のソフト化となる。発売元はパラマウントから正規のライセンス許諾を受けたオリーヴ・フィルムズ。本来の画面アスペクト比は1.85:1のアメリカン・ビスタサイズだが、BDではハイビジョン・テレビに合わせた1.78:1にトリミングされている。レストア作業は施されていないものの、フィルムの保存状態は良好だったらしく、目立ったキズや汚れは殆どなし。フィルム・グレインの濃さもちょうどいい按配だ。ストックフッテージを使用したシーンは輪郭がボケているものの、それ以外はクリアでシャープ。カラーの色合いも鮮明だ。
 音声は可もなく不可もなく。重量感や広がりには欠けるので、せっかくブッカー・T・ジョーンズの手がけたソウルフルな音楽スコアは迫力不足だが、劣化によるノイズは全くと言っていいほどなく、セリフの聞き取りにも問題なし。特典映像なしの素っ気なさだけが問題といえば問題か(^^;

 

 

ニジンスキー
Nijinsky (1980)

NIJINSKY.JPG
(P)2012 Olive Films/Paramount (USA)
画質★★★★☆ 音声★★★★☆
ブルーレイ仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.78:1/HD規格: 1080p/音声:2.0ch DTS-HD MA MONO/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/128分/制作国:アメリカ

<特典>
なし
監督:ハーバート・ロス
製作:ノーラ・ケイ
   スタンリー・オトゥール
脚本:ヒュー・ホイーラー
原作:ロモラ・ニジンスキー
撮影:ダグラス・スローカム
音楽:ジョン・ランチベリー
出演:アラン・ベイツ
   レスリー・ブラウン
   ジョルジュ・デ・ラ・ペーニャ
   カルラ・フラッチ
   アラン・バデル
   コリン・ブレイクリー
   ジャネット・サズマン
   ロナルド・ピックアップ
   ロナルド・レイシー
   ジェレミー・アイアンズ
   シアン・フィリップス

 名匠ハーバート・ロス監督が「愛と喝采の日々」('77)に続いてクラシック・バレエの世界を題材に選んだ作品。伝説の美しき天才バレエ・ダンサー、ニジンスキーと彼の恩師であると同時に愛人でもあった辣腕興行師ティアギレフの愛憎関係を軸に、野心と欲望渦巻く20世紀初頭のバレエ界をスキャンダラスに描いていく。
 美貌と才能を併せ持った青年ニジンスキーを偏愛し、彼を売り出すためなら手段を選ばないティアギレフ。そんな彼にすっかりスポイルされ、次第にワガママとなっていくニジンスキー。物語はそんな2人の公私に渡る盲目的で歪んだ愛と憎しみのドラマにスポットを当てつつ、ニジンスキーに一方的で偏執的な愛情を抱くストーカー気質の大富豪令嬢ラモーナの嫉妬と執念を絡める。ティギレフが若い少年ダンサーに心移りしたことから、徐々に精神の崩壊していくニジンスキー。まるで当てこすりのようにラモーナと結婚し、ティアギレフの元を去ってからのニジンスキーの末路が哀れだ。
 まるで昼メロのような作風は、恐らく大きく好き嫌いが分かれることだろう。実際に当時の評判は芳しくなく、興行的にも成功したとは言い難かった。128分という上映時間も少々長すぎ。全体的にペースが遅いため、シビレを切らしてしまう観客も少なくないはずだ。特筆すべきは、当時のハリウッド映画では珍しく同性愛を批判したり揶揄したりすることなく描いているという点だろうか。20世紀初頭の華やかな上流社会を再現した、ゴージャスな美術や衣装も見どころ。ハーバート・ロス監督の代表作では決してないものの、ヴィスコンティの「ベニスに死す」辺りが好きな映画ファンにはアピールすることだろう。

 日本では過去にVHSでリリースされたのみの本作。アメリカでもオリーヴ・フィルムズから同時発売されたDVDとブルーレイが、デジタル・メディアとしては初めてのソフト化だ。上記ブルーレイ版の画質は可もなく不可もなく。当時のハリウッド映画にありがちなソフトフォーカスを効かせた撮影だということもあり、どうしてもシャープネスに欠けてしまう。シーンによってはフィルム・グレインが濃すぎて、輪郭がかなり粗く感じられてしまうことも。フィルムのレストア作業も施されていない。とはいえ、フルハイビジョンでテレシネされた映像は一定のクオリティを保っており、少なくとも従来のDVDを基準に考えれば上々の仕上がりだと言えよう。
 DTS-HDマスターオーディオにエンコードされたモノラル音声も平均的。セリフに関しては普通にクリアだが、バレエ・シーンの音楽などは迫力に欠ける。特典映像もなし。それでも、各メジャー・スタジオがマイナーなアーカイブ作品のソフト化に消極的となってしまった昨今、ブルーレイで出してくれるだけでも有難いのだけど。

 

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