ヘルガ・リーネ Helga Line

 

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 60〜70年代にかけて、数多くのスペイン産及びイタリア産B級映画で活躍した超ゴージャスなセクシー女優ヘルガ・リーネ。その雌狐を思わせるシャープな美貌とフェロモン溢れるラテン系のエロティシズムは一度見たら忘れられないほどの強烈なインパクトがあり、中でもユーロ・スパイ映画やホラー映画のヒロイン役として引っ張りだこだった。
 ただ、本人が“2人の子供を持つシングル・マザーとして出演作を選んでいるような余裕はなかった”と語るように、そのフィルモグラフィーはまさしく玉石混合。バーバラ・スティールと共演した『亡霊の復讐』(65)や国際色豊かなスパイ映画『077/地獄のカクテル』(65)などの優れたB級娯楽映画で活躍する一方、なぜこんなクズみたいな映画に出演を?と思わず首をひねってしまうような作品も少なくなかった。
 もちろん、当時は彼女のようにヨーロッパの低予算映画で活動する女優の多くが同じような問題を抱えていたわけだが、とりわけその美貌と存在感では他のB級映画女優と比べ物にならないほど抜きんでていた人だけに、決定打と呼べるような代表作に恵まれなかったのは大いに惜しまれるところだ。

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“Kriminal”(66)より

“Marcho Di Kriminal”(67)より

 主にスペイン映画界で活躍したヘルガだったが、意外にも彼女自身はスペイン人ではない。1932年7月14日ドイツはベルリンに生まれた彼女は、本名をヘルガ・リーナ・ステルンという生粋のドイツ人。幼くして父親と死別した彼女は、母親や弟と共にナチス政権下の祖国を離れてポルトガルへと移住した。
 幼少時からバレエと体操を学んでいた彼女は9歳の時に映画初出演を果たし、それをきっかけに芸能界へ。当初はサーカス団の踊り子を務めていたが、15歳の時にファッション・モデルへと転向した。
 その一方で数多くの美人コンテストに優勝。リスボンで撮影されたスペイン映画“La mantilla de Beatriz”(46)や、同じくリスボンを舞台にしたローレンス・ティアニー主演のハリウッド映画“Kill Or Be Killed”(50)に出演して注目され、活動の拠点をスペインへと移すことになった。
 踊り子時代にフラメンコを学んだ経験があったことから、当初はミュージカル・コメディのヒロイン役として売り出されたヘルガ。しかし、彼女の名前が知られるようになったのは、当時世界的に人気を集めていたスペクタクル史劇である。
 ハリウッド大作『エル・シド』(61)のセットを流用して作られた“Il conquistatore di Maracaibo”(61)の悪女役を皮切りに、古代バビロニアを支配しようとする魔女を演じた“Ercole contro i tirannni di Babilonia”(64)、黒澤明の『七人の侍』をパクッった『無敵の七人』(64)、囚われの身となる小国の女王を演じた“Il trionfo dei dieci gladiatori”(64)など、数多くのB級史劇で持ち前のエキゾチックな美貌を披露。
 さらに、イタリアのアルベルト・デ・マルティーノ監督がエドガー・アラン・ポーの「早すぎた埋葬」を映画化したホラー・サスペンス“Horror”(63)では、ヒロインを精神的に追いつめて完全犯罪を目論む悪女エレオノーレ役を怪演。バーバラ・スティール共演の怪奇映画『亡霊の復讐』(65)でも、輸血実験によって若さを取り戻した悪女を演じて強烈な印象を残した。
 だが、この時代のヘルガといえば、なんと言っても一連のB級スパイ映画だろう。当時は007シリーズの大成功に影響され、スパイ映画が世界的大ブームだった。特にイタリアでは、スペインやフランス、西ドイツとの合作で大量の“なんちゃって007映画”が続々と登場。ボンド・ガールよろしく、若手のセクシー女優が片っ端から動員された。中でも重宝されたのが、ヒロインも悪女も両方イケるファッション・モデル出身のエキゾチック・ビューティ、ヘルガ・リーネだったというわけだ。
 そのきっかけとなった『077/地獄のカクテル』(65)では、諜報員077ことディック・マロイとコンビを組む女性スパイ、エルサ・フリーマン役を好演。シリーズ3作目『077/地獄の挑戦状』(66)でも、武器密売に絡む中東系の悪女ヒルデ役としてゲスト出演を果たした。
 さらに、イタリアの有名なアダルト・コミック・シリーズを映画化した覆面ヒーロー・スパイ物“Kriminal”(66)では双子のヒロイン、インゲとトゥルーデの一人二役を演じ、その続編“Marcho Di Kriminal”(67)では主人公クリミナルに協力する敵方の女スパイ、マーラ役で登場。後者では得意のフラメンコまで披露している。
 その他、ラング・ジェフリーズ主演の“Cifrato speciale”(66)やロジャー・ブラウン主演の『38口径』(66)、ピエロ・ウミリアーニのお洒落なスコアが冴える“Password : Uccidete agente Gordon”(67)、『黄金の眼』にインスパイアされたモンドなお洒落スパイ物“Mister X”(67)など、数多くのユーロ・スパイ映画で活躍した。

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『ゾンビ特急“地獄”行』(72)より

『ザ・ゾンビ 黒騎士のえじき』(73)より

 かくして、60年代ユーロ・カルト映画のアイコン的な地位を確立したヘルガだったが、70年代に入ると徐々に脇役へと回ることが多くなる。やはり最大のネックは年齢だったに違いない。演技力よりも若さやお色気が求められるセクシー女優にとって、これは決して避けて通れない問題と言えるだろう。
 『ゾンビ特急“地獄”行』(72)では早々に殺される女泥棒役、『ザ・ゾンビ 黒騎士のえじき』(73)では亡者として甦る中世の女貴族役、メキシコの覆面レスラー、サント主演のルチャ・リブレ映画“Santo contra el doctor muerute”(73)ではマッド・ドクターの女助手役、アマゾネス映画の決定版『アマゾネス』(73)では女司祭役。出演作の数そのものは年平均6〜7本と非常に多かったが、その大半がろくに出番もないような脇役だった。
 そうした状況の中で起死回生を図ったのだろうか、徐々に彼女はヘア・ヌードも厭わないような役柄も引き受けるようになる。確かに当時のヨーロッパではハードコア・ポルノが解禁され、一般作における性描写も大胆になっていたわけだが、それでも彼女のようにキャリアのあるベテラン女優が全裸のセックス・シーンを演じるというのはまだまだ稀だった。それくらい、当時の彼女はキャリア的に追いつめられていたのかもしれない。
 そのおかげもあってか、ドイツのローレライ伝説を題材にしたホラー映画『ローレライ伝説の謎』(74)ではヒロインのローレライ役に抜擢。しかし、監督のアマンド・デ・オッソリオとの折り合いはかなり悪かったらしく、映画そのものの出来も決して良くはなかった。
 やがて80年代に入ると、スペインを牛耳っていた独裁者フランコ将軍が死去。イタリア映画に負けじと積極的にエログロ描写で売っていたスペイン映画だったが、実は国内で上映される映画に関しては検閲が非常に厳しかった。
 過激な残酷シーンやヌード・シーンはあくまでも輸出向け。国内上映用プリントでは残酷シーンを極力抑え、お色気シーンも別途撮影された着衣バージョンを使用。スペインには異常殺人鬼や性的倒錯者などはいないという建前から、物語の設定を外国にしなくてはならないなどの規制が多かった。その反動から、フランコ将軍亡き後のスペイン映画には過激なセックス描写を売り物にしたB級作品が急増する。
 そうした時代背景的な事情もあり、ヘア・ヌードも厭わないベテラン女優ヘルガ・リーネが再び重宝されるように。しかし、当時は彼女も既に50代。ホセ・ラモン・ララス監督の“Los ritos sexuales del diablo”(82)ではポルノ映画ばりのハードなセックス・シーンやオナニー・シーンに挑んでいたが、正直なところお腹の弛みも気になる彼女が頑張れば頑張るほどかえって痛々しい。しかも、ロング・ショットではボディ・ダブルを使っているのがバレバレで、それがより一層のこと哀れをかもし出すのだ。
 そんな彼女にとって最後の当たり役となったのが、ペドロ・アルモドヴァル監督の『セクシリア』(82)。彼女はゲイの皇太子リサの継母で元皇太后の悪女トラヤ役を怪演し、アルモドヴァル映画における“恐るべき母親”のプロトタイプを作り上げた。アルモドヴァルは『欲望の法則』(87)でもアントニオ・バンデラスの母親役として彼女を起用している。
 
その後、91年にアルゼンチンへと移住したヘルガ。時おりスペインに戻っては映画出演を続けていたようだが、近年はすっかり女優業から遠ざかってしまっている。今年で77歳になるはずだが、お婆ちゃんになったヘルガ・リーネというのもなかなか想像し難いものだ。

 

 

La saga de los Dracula (1972)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に未発売

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(P)2007 Victory Films/BCI (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:スペイン語・英語/字幕:英語
/地域コード:ALL/90分/製作:スペイン

映像特典
スペイン国内向けシーン集
スペイン語版クレジット・シーン
オリジナル劇場予告編
スパニッシュ・ホラー予告編集
監督:レオン・クリモフスキー
製作:リカルド・ムニョス・スアイ
   ホセ・アントニオ・ペレス・ジネル
脚本:エミリオ・マルティネス・ラザロ
   フアン・テバール
撮影:フランシスコ・サンチェス
音楽:ダニエル・ホワイト
出演:ティナ・サインス
   トニー・イスベルト
   ナルシソ・イバニェス・メンタ
   ヘルガ・リーネ
   クリスティナ・スラーニ
   マリア・コスティ
   J・J・パラディーノ
   ハインリッヒ・スタルヘムベルグ
   ミミ・ムニョス

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ベルタ(T・サインス)と夫ハンス(T・イスベルト)

森の中で発見された女性は体中の血を抜き取られていた

当惑する医師カール(H・スタルヘムベルグ)

 『ワルプルギスの夜』(70)や『ゾンビの怒り』(73)などポール・ナッシー主演のホラー映画で知られるアルゼンチン出身の映画監督レオン・クリモフスキーが、ドラキュラ伝説に新たな解釈を加えたユニークなバンパイア映画。ヘルガは翌年の“La orgia nocturna de los vampiros”(73)でもクリモフスキー監督と組んでいる。
 主人公はドラキュラ伯爵の孫娘ベルタ。ロンドンに暮らしていた彼女が出産のため故郷のルーマニアへ戻ると、幸せな思い出の残るドラキュラ城にかつてのような面影はなくなっていた。地元の人によると優しかった祖母が亡くなり、伯爵が謎めいた若い女性ムニアと再婚した頃から、ドラキュラ家の人々の様子が一変してしまったという。城の地下室に作られた伯爵家の墓地、昼間はどこかへと消えてしまう伯爵家の人々。やがて、ベルタは愛する家族がバンパイアと化していたことを知る。
 串刺し公と呼ばれた英雄ヴラド・ツェペッシュの血を引く由緒正しいドラキュラ家が、いかにしてバンパイアとなったのか、というのが本作の主要テーマと言えるだろう。その元凶たる女バンパイア、ムニア役を演じているのがヘルガ・リーネというわけである。
 ただ、どちらかというとホラー映画よりもマカロニ・ウェスタンの方が得意だったクリモフスキー監督。その演出は決して垢抜けているとは言えず、この種のホラー映画に必要不可欠なゴシック・ムードもいまひとつ物足りない。脚本も説明不足な点があまりにも多く、きちんと整理整頓がついていないという印象だ。
 その一方で、主人公たちのいびつなキャラクターや、城の奥に隠されているドラキュラ伯爵の奇形の息子ヴァレリオの存在などが、独特の屈折したシュールな世界観を作り出していて面白い。特にヴァレリオの特殊メイク・デザインは、そのあまりの粗雑さゆえに強烈なインパクトを残している。
 おいそれと他人にオススメ出来るような代物ではないにせよ、気合の入ったカルト映画マニアならこの奇妙な出来の悪さが意外とクセになってしまうはずだ。

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ベルタの生まれ育ったドラキュラ城

地下墓地に家族の墓を発見して驚くベルタ

城内には人っ子一人いなかった

 舞台は19世紀のルーマニア。ロンドンで暮らしていた女性ベルタ(ティナ・サインス)は、夫ハンス(トニー・イスベルト)と共に故郷のビストリツァへと向っていた。妊娠4ヶ月の彼女は、生まれ育ったドラキュラ城で第一子を出産しようというのだ。
 しかし、その手前で馬車が止まってしまい、2人は仕方なく近隣の宿屋で一晩を過ごすこととなる。地元の人々はなぜかドラキュラ城周辺に立ち入ることを恐れており、馬でさえビストリツァ近辺には立ち寄ろうとしないのだという。
 宿屋へ向うために森を通り抜けた2人は、血だらけで倒れている女性を発見する。その首筋や体には幾つもの噛み傷が残されており、どうやら野生動物に襲われたものと見られた。しかし、宿屋で女性の手当てをした医師カール(ハインリッヒ・スタルヘムベルグ)は噛み傷が動脈の位置にピッタリと合っていること、そしてなぜか傷口から大量の血液が抜き取られていることに気付き、野生動物の仕業としてはあまりにも不自然であると指摘する。
 一方、精神的ショックから寝込んでしまったベルタを、宿屋の肝っ玉女将ペトレシュク夫人(ミミ・ムニョス)が手厚く看護していた。夫人の話によれば、ベルタがロンドンへ去ってからビストリツァの様子はすっかり変わってしまったという。特にベルタの祖母に当たる先代の伯爵夫人が亡くなり、よその土地から新しい奥方がやって来て以来、ドラキュラ家には黒い噂がつきまとうようになったらしい。
 その晩、宿屋の誰もが寝静まった頃、意識を失っていた女性がむっくりと起き上がり、無言でその場を去っていく。不気味に笑みを浮かべながらその様子を見守る宿屋の若い女中スティラ(ベッツァビ・ルイス)。彼女の首筋にも大きな噛み傷があった。
 翌朝、宿屋にドラキュラ家の管理人ガボール(J・J・パラディーノ)が到着し、ベルタとハンスを城へ案内することとなった。懐かしいドラキュラ城へやって来たベルタは、亡き祖母の墓参りをするために地下墓地を訪れる。すると、そこにはまだ生きているはずのドラキュラ家一門の墓が。
 さらに、城内をくまなく探しても人っ子一人いない。不安に駆られるベルタだったが、ハンスは一行に気にする様子もなく、キッチンに用意されていた昼食を美味そうに平らげるのだった。

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夕刻になってようやく家族が姿を現した

謎めいた伯爵夫人ムニア(H・リーネ)

ムニアは若いハンスを誘惑する

 やがて夕方になり、いつの間にか居眠りをしていたベルタは、夫ハンスに起こされた。家族が居間で待っているという。そこには祖父ドラキュラ伯爵(ナルシソ・イバニェス・メンタ)や従兄弟のゼニア(マリア・コスタ)とイリーナ(クリスティナ・スリアニ)、メイドのガストロップ夫人(エルサ・ザバラ)ら懐かしい顔が。
 最愛の祖父と抱擁を交わしたベルタは、新しい伯爵夫人であるムニア(ヘルガ・リーネ)を紹介される。ムニアはとても美しい女性だったが、どこか不気味でエキセントリックなところがあった。さらに、夕食のテーブルで彼女は久々に再会した家族たちの、なんとも奇妙な様子に気付く。祖父の書斎を見回したベルタは、そこで吸血鬼に関する著書を発見した。
 その頃、城内を散策していたハンスをムニアが誘惑する。その色香に惑わされたハンスは、まるで引き込まれるかのように彼女の胸に抱かれる。その瞬間、ムニアはバンパイアとしての本性を現し、ハンスの首筋に噛みついた。その様子を、伯爵ら家族一同が不気味な様子で見守っている。
 翌日、再びもぬけの殻となった城で朝を迎えたベルタは、夫ハンスの姿が見えないことに気付く。付近の森へ捜しに出かけた彼女は、そこで血まみれになったショールを発見する。漠然と不安を感じたベルタは宿屋へ駆け込んだ。すると、そこへ体中傷だらけとなった宣教師が。相次ぐ不可解な事件に人々は騒然となった。
 城内の不気味な様子を訴えるベルタをなだめた医師カールは、彼女を城へと送り届ける。すると、ハンスやガボールが彼女のことを待っていた。何事もなかったように振舞うハンスたちだったが、ベルタは次第に家族に対して疑いの目を向けるようになっていく。
 その晩、城内に女性の悲鳴が響き渡った。それは城の奥にある“開かずの間”から聞こえてくる。ハンスが扉を開けると、爬虫類のような手を持った一つ目の少年が地元の若い女性を八つ裂きにしていた。それはドラキュラ伯爵の息子ヴァレリオだった。生まれつき奇形のヴァレリオは知恵遅れで、しかも大変凶暴な性格。伯爵は彼を城の奥に監禁し、その存在自体を周囲から隠していた。
 伯爵にとって、ヴァレリオがドラキュラ家にとって唯一の跡取りであるということが最大の悩みのタネだった。だが、ようやく孫娘ベルタに子供が出来る。これでようやく世継ぎ問題も解決されるはずだった。
 しかし、ベルタは日増しに衰弱して行き、それに伴って精神的なバランスも失っていった。実は、なんとお腹の中の子供が彼女の血液を奪っていたのだ・・・!

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吸血鬼の本性をあらわしたムニア

その様子を不気味に見守るドラキュラ家一門

ハンスの様子が変化したことに気付くベルタ

 舞台となるビストリツァは、ブラム・ストーカーの原作にも登場するルーマニアの都市。ただ、自然の景色はどう見ても東欧ではないので、恐らくスペイン国内で撮影されたのだろう。
 吸血鬼ドラキュラの起源に新たな解釈を加えたプロットは面白いが、生まれてくるベルタの子供までがなぜ吸血鬼なのか?という部分で辻褄が合わず、意外性を狙ったと思われるクライマックスも説明不足が災いして意味が全く分からない。あれだけ強烈なインパクトを残した奇形児ヴァレリオが、その後一体どうなってしまったのかということにも一切触れられておらず、ストーリー的にかなり後始末の悪い印象を受けるのが残念だ。
 脚本を書いたのはエミリオ・マルティネス・ラザロとフアン・テバール。ラザロは後に映画監督へと転身し、“Lulu de noche”(86)や“El otro lado de la cama”(02)などの作品でゴヤ賞(スペインのアカデミー賞)の最優秀監督賞に3度ノミネートされている人物。一方のテバールは、『象牙色のアイドル』(69)や『悪魔の入浴・死霊の行水』(73)などのスパニッシュ・ホラーを手掛けた脚本家だ。ちなみに、ここではラザロがラザリウス・キャプラン、テバールがエリカ・ゼルというアングロサクソン系の変名を使用している。
 撮影監督のフランシスコ・サンチェスは『ワルプルギスの夜』や『ゾンビの怒り』でもクリモフスキー監督と組んだカメラマン。ミケーレ・ルーポ監督の『女王陛下の大作戦』(67)や一連のポール・ナッシー主演作など、スペインやイタリアの娯楽映画を数多く手掛けた人物だ。
 また、奇形児ヴァレリオの特殊メイクには、スパニッシュ・ホラーの名作『エル・ゾンビ』(71)を手掛けたホセ・ゴメス・セリアが参加。ハープシコードを使ったクラシカルな音楽スコアを、ジェス・フランコの盟友として知られる作曲家ダニエル・ホワイトが手掛けていることもマニアなら注目だ。

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開かずの間に幽閉された奇形児

その正体はドラキュラ伯爵の息子ヴァレリオ

ベルタのお腹の中の子供はドラキュラ家の跡取り候補だった

 ヘルガ・リーネはドラキュラ家一門を吸血鬼に変えた悪女ムニアを演じているわけだが、ポジション的にはお色気担当を一手に引き受けているという印象。ハンスを誘惑するシーンではヘア・ヌードも披露している。ただ、最後にあっけなく殺されてしまうのはちょっと物足りない。
 ヒロインのベルタ役を演じているティナ・サインスは、日本ではほとんど知られていないものの、スペインではテレビ女優として数多くの演技賞を受賞している有名なスター。特にスペインで4年間に渡って放送された人気青春ドラマ“Companeros”(98-02)の、ベテラン女教師テサ役として親しまれている。
 その夫ハンス役のトニー・イスベルトは、スペインの有名なコメディ俳優ホセ・イスベルトを祖父に、名脇役女優マリア・イスベルトを母親に持つサラブレッド俳優。イタリアの名匠リカルド・フレーダ監督のオカルト・ホラー“Estratto dagli archivi segreti della polizia di una capitale europea”(72)にも主演していた。
 ドラキュラ伯爵を演じているナルシソ・イバニェス・メンタは主にアルゼンチン映画界で活躍したスペイン人俳優。アルゼンチンでは批評家協会の主演男優賞を2度も受賞するほど有名なスターだったらしい。ちなみに、『象牙色のアイドル』や『ザ・チャイルド』で知られるナルシソ・イバニェス・セラドール監督は彼の息子だ。
 また、『ゾンビの怒り』や『ナイト・オブ・ソーサー/性霊・魔女伝説』(73)などのスパニッシュ・ホラーでお馴染みのセクシー女優マリア・コスティが、ベルタの従姉妹ゼニア役で顔を出している。

 

 

Los ritos sexuales del diablo (1982)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2007 BCI Eclipse (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語
/字幕:なし/地域コード:ALL/85分/製作:スペイン
※“Malocchio”(75)とのカップリング収録

映像特典
予告編集
グラインドハウスCM集

監督:ホセ・ラモン・ララツ
製作総指揮:ジム・ウィルコックス
脚本:ホセ・ラモン・ララツ
撮影:フアン・マリネ
音楽:CAM
出演:ヘルガ・リーネ
   ヴァネッサ・ヒダルゴ
   マウロ・リベラ
   アルフレッド・ルケッティ
   カルメン・カリョン

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ロンドンに到着したキャロル(V・ヒダルゴ)とロバート(M・リベラ)

兄嫁のフィオナ(H・リーネ)はエキセントリックな女性だった

 カルト映画として有名な耽美的バンパイア映画『ドーターズ・オブ・ドラキュラ/吸血淫乱姉妹』(75)で知られるホセ・ラモン・ララツ監督によるオカルト映画。とはいっても、肝心のホラー的な要素はかなり希薄で、オカルト世界を題材にした変態ソフト・ポルノと呼んだほうが妥当かもしれない。
 ストーリーだって殆んどあってないようなもの。ロンドン郊外の死んだ兄の家を訪れたヒロインが、兄嫁やその周囲の人々が悪魔崇拝者だったことを知る・・・というだけのお話で、正直なところ起承転結すらままならないような代物だ。
 その代わりと言ってはなんだが、全編これセックス・セックス・セックスのオンパレード。とにかく人と人が顔を合わせれば、ひとまずセックスしますといったような感じ(笑)しかも、山村紅葉をさらにこってり濃厚にしたようなケバいオバさんによるハードなレズ・シーンや、悪魔の象徴たる黒山羊と色情狂女の獣姦セックスなど、アブノーマル指数もこれでもかとばかりに最高潮。そのムチャクチャな暴走ぶりは、ポスト・フランコ時代ならではと言えるかもしれない。しまいには、毛むくじゃらのオッサンの肛門からサーベルをぶっ刺して殺すんだから(笑)
 で、ヘルガ・リーネが演じるのはカルト教団の女ボスである兄嫁役。上記のバイオグラフィーでも紹介したように、当時50歳の崩れかけた肉体に鞭を打って、全裸のセックス・シーンやら過激なオナニー・シーンなどにチャレンジしている。ロング・ショットではボディ・ダブルを使って肉体の衰えを隠そうとしているものの、やはりバスト・ショットでのお腹周りや胸の弛みはごまかしきれず。そこまでしなくとも良いのに・・・と思ってしまうのだが、本人は生活がかかっているわけだからね・・・。
 そんなわけで、いろんな意味で見どころ盛りだくさんな作品ではあるものの、映画としては正直なところクズも同然の失敗作。ララツ監督は演出のテクニックやストーリーよりも、なんとなく漠然とした映像全体のムードだけで見せていく人。それが『ドーターズ・オブ・ドラキュラ』ではちょうどいい具合に効果を発揮していたのだが、本作ではなまじっか中途半端にストーリー“らしき”ものがあるために、正直なところセックス・シーン以外は意味のないセリフの羅列で退屈極まりない。
 ちなみに、タイトルは“悪魔のセックス儀式”という意味。英語圏では“Black Candles(黒い蝋燭)”というタイトルで知られている。

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濃厚な愛を交わすキャロルとロバート

その様子を覗き見るフィオナ

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フィオナはカルト教団のリーダーだった

少しづつキャロルを精神的に追いつめていくフィオナ


 兄アンドリューが不可解な死を遂げた数ヵ月後、キャロル(ヴァネッサ・ヒダルゴ)は夫ロバート(マウロ・リベラ)と共にロンドンを訪れた。兄の墓参りをするためだ。
 二人を出迎えたのは兄嫁のフィオナ(ヘルガ・リーネ)。家中を黒い蝋燭で埋め尽くし、壁一面に悪魔の絵を飾っているフィオナのことを、キャロルは不気味に感じる。だが、もともと宗教家で現在はラテン語の大学教授を務める夫ロバートは、悪魔や黒魔術の世界に興味を持っていた。
 キャロルとロバートのセックスを覗き見ながらオナニーに耽るフィオナ。色情狂女とのレズビアン・セックスに溺れる年増のメイド、ジョージーナ(カルメン・カリョン)。夜な夜な屋敷の周囲を徘徊する髭面の牧師。周辺の怪しげな人々の存在が、キャロルを精神的に追いつめていく。
 実は、フィオナとその周囲の人々は悪魔崇拝者で、彼女自身がカルト教団の指導者だった。キャロルの兄アンドリューは、教団の秘密を外部に漏らそうとしたために呪い殺されたのだ。兄と親しかった弁護士のもとを訪れたキャロルは、兄が生前に悪魔のことを恐れていたと知る。
 一方、ロバートはフィオナの肉体に溺れ、やがてカルト教団の一員となる。黒山羊との獣姦儀式でキャロルに呪いをかけるフィオナたち。夜な夜な行われるサバトを目撃してしまったキャロル。
 彼女を逃がそうとしたジョージーナの夫ジョン(アルフレッド・ルケッティ)は肛門から串刺しにされて悶絶死し、ついにはキャロル自身もサバトの生贄にされそうになるのだったが・・・。

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メイドのジョージーナ(C・カリョン)はレズビアンに溺れる

屋敷の周辺を徘徊する不気味な牧師

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黒山羊と交わる呪いの儀式

キャロルの兄アンドリューを呪い殺したのもフィオナだった

 もともとイギリスで映画監督となったララツ監督は、73年頃から祖国スペインで数多くのエクスプロイテーション映画を発表。その作品はいずれも超低予算だったこともあり、出来不出来のばらつきが激しかった。彼自身も自分の作品については概ね批判的だったりするのだが、中でも特に“大嫌いな作品”として忌み嫌っているのが本作だという。それゆえに、ここではジョセフ・ブラウンシュタインという変名を使用している。
 撮影監督は『ブラッド・ピーセス/悪魔のチェーンソー』(82)や『新リバイアサン/リフト』(90)など一連のフアン・ピケール・シモン監督作を手掛けたカメラマン、フアン・マリネ。彼も本作ではアラン・クラークというアングロサクソン風の変名を使っている。
 その他、製作総指揮のジム・ウィルコックスや編集のハロルド・ウォルマンなど、恐らくスペイン人スタッフの変名だと思われるのだが、残念ながらいずれも正体不明だ。また、音楽スコアにはCAMとクレジットされているが、これはイタリアのサントラ専門レーベルのことなので、恐らくCAMのライブラリーから過去のスコア音源を借りて流用したのだろう。

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生前の兄が悪魔を恐れていたと知るキャロル

ロバートもカルト教団の一員に

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黒ミサは乱交パーティの様相を呈する

その様子を目撃してショックを受けるキャロル

 キャロル役のヴァネッサ・ヒダルゴはイタリアやスペインのセックス・コメディで脇役を務めていた女優。ここではヴァネッサ・アシュレイという変名を使っている。どうやら、本作を最後に女優業から足を洗っているらしい。
 その夫ロバートを演じているマウロ・リベラも、マーティン・レンというアングロサクソン系の名前でクレジットされている。彼はジェス・フランコの“Historia sexual de O”(84)や“Mil sexos tiene la noche”(84)にも出演している俳優だが、いかんせん主演クラスを張るにはあまりにも貧相だった。
 また、ぶよぶよの豊満な肉体とコテコテの厚化粧で過激なレズビアン・シーンを演じるカルメン・カリョンも、当時のジェス・フランコ監督によるソプト・ポルノ映画の常連だったオバサン女優。その夫であるジョンを演じているアルフレッド・ルケッティは、『バレンチナ物語』(82)とその続編“1919 cronica del alba”(83)などで知られる名脇役。
 その他、ジェフリー・ヒーリーやらポール・ケンドールやらベティ・ウェブスターやらアングロサクソン系の名前が並んでいるが、恐らくいずれもスペイン人の変名と思われる。なお、主演のヘルガ・リーネも本作ではマーサ・ベルトンとクレジットされていた。

 

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