カルト映画珍作・傑作選 PART 1

 

 

The Terror of Tiny Town (1938)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 Alpha Video (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル
/音声:英語/字幕:なし/地域コード:AL
L/62分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:サム・ニューフィールド
製作:ジェド・ビュール
脚本:フレッド・マイトン
撮影:マック・ステングラー
音楽:リュー・ポーター
    エドワード・カイレニー
出演:ビリー・カーティス
    イヴォンヌ・モーレイ
    リトル・ビリー・ローズ
    ビリー・プラット
    ジョン・T・バンビューリー
    ジョセフ・ハーブスト
    チャールブ・ベッカー
    ニタ・クレブス

 映画史上初の、そして恐らく唯一の小人ウェスタンである。中身は歌あり、笑いあり、アクションありの典型的なB級西部劇。無法者グループに狙われた小さな町を、若きカウボーイが知恵と勇気で守ってみせる。ギター片手に歌うヒーロー、陽気で愉快な仲間たち、荒くれ者が集う酒場、ヒーローに想いを寄せる気丈なヒロイン、そして酒場で歌う妖艶な美女。ロイ・ロジャースやネルソン・エディが出てきてもおかしくないような西部劇を、ミジェットばかり集めて作ってしまったわけだ。
 小人を使った映画といえば、『フリークス(怪物團)』('32)や『オズの魔法使い』('39)をすぐさま思い浮かべる人も多いだろう。『フリークス(怪物團)』のトッド・ブラウニング監督は好んで自作に小人を使っていた。
 そもそも、サイレント時代から数多くの映画に小人が登場している。多くの場合は、センセーショナリズムに訴えるため小人俳優を起用していた。いわば見世物小屋的感覚である。ただ、それ自体は決して否定されるものではない。そういう需要があるからこそ、なかなか一般的な職業には就けない彼らにも仕事があるのだから。
 本作も、基本的には“見世物”映画に分類されるべき作品だろう。監督のサム・ニューフィールドとプロデューサーのジェド・ビールは、1930年代に数多くのB級映画を手がけたコンビ。二人は前年に“Harlem on the Prairie”('37)という史上初のオール黒人キャストによる西部劇を大ヒットさせている。それに味をしめた企画だったであろうことは想像に難くない。ただ、ともすれば怪物や犯罪者などの汚れ役、せいぜい良くても主人公のおどけた相棒くらいしかお鉢の回ってこない小人俳優たちが、ごく普通の人々をごく普通に演じているというのは、なかなか画期的な事だったのではないかと思う。
 作品そのものの出来栄えは、正直なところ及第点。本当にごくありきたりな、何の変哲もない西部劇である。出演者がミジェットばかりでなければ、恐らくカルト映画として後世に名を残すようなこともなかったであろう。

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オープニングには司会者の解説もある

我らがヒーロー、バック(B・カーティス)

無法者ヘインズ(L・B・ローズ)

 ここは西部の小さな町タイニー・タウン。人々は平和に楽しく暮らしている。地主ローソン(ジョン・T・バビューリー)の息子バック(ビリー・カーティス)が領地内をパトロールしていると、怪しげな集団がたむろしているのを見かける。バックは彼らが残していった馬用の烙印を持ち帰って父親に見せたところ、宿敵である牧場主テックス・プレストン(ビリー・プラット)のものであることが判った。プレストンが自分の土地を荒らしていると知ったローソンは激怒する。
 だが、それは無法者集団のリーダー、バット・ヘインズ(リトル・ビリー・ローズ)が仕掛けた罠だった。長年のライバルである両者を対立させ、その混乱に乗じて銀行の馬車を襲撃しようというのだ。ヘインズのグループは、町外れの荒野で追剥ぎを働いていた。彼らに襲われた駅馬車を救ったバックは、乗客の若い娘ナンシー(イヴォンヌ・モーレイ)に一目惚れする。しかし、彼女はプレストン家の娘だった。親同士が激しく対立する中、バックとナンシーは急接近していく。果たして2人の恋の行方は?そして、ヘインズの悪だくみは暴かれるのか・・・?

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プレストン家の娘ナンシー(Y・モーレイ)

悪事を企むヘインズ一味

妖艶(?)な酒場の歌手も登場

 やはり、なんだかんだ言って登場人物が全て小人というのは奇妙なもので、どうも子供が大人の格好をしているように見えてしまう。セットは普通の大人サイズだが、乗っているのは馬じゃなくてポニー。酒場でビールを飲んで暴れている姿も、なんだか子供がはしゃいでいるようにしか見えない。『ダウンタウン物語』('76)という子供だけのギャング映画があったが、あれとは明らかに違った不条理さが漂っているのだ。この何とも妙ちくりんな感覚は、他の映画では絶対に味わえないだろう。
 監督のサム・ニューフィールドは、西部劇からミュージカル、SF、ホラー、アクションに至るまで、あらゆるジャンルの低予算映画を手がけた人物。約40年のキャリアで、実に250本以上もの作品を世に送り出した、いわば質より量というタイプの映画監督だった。
 一方、脚本のフレッド・マイトンもサイレント期から数多くの西部劇やホラーを手がけており、1年間で10本以上の脚本を書くことも珍しくなかった。撮影監督のマック・ステングラーはモノグラム映画の専属カメラマン出身で、西部劇のみならずホラー映画やサスペンス映画、スパイ・アクションなど、20年あまりで140本の映画を手がけた人物。晩年は人気テレビ・ドラマ『ビーバーちゃん』('58〜'62)のカメラマンとして活躍した。

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互いに愛の歌を奏でるバックとナンシー

颯爽とポニーにまたがる悪玉ヘインズ

子供がビールを飲んでるようにしか見えない

 主演のビリー・カーティスは『オズの魔法使い』にも出演していたミジェット俳優。フランク・キャプラの『群衆』('41)やヒッチコックの『逃走迷路』('42)などにも端役で出演しているが、もっぱらクセの強い役柄ばかり演じていた。なので、本作のように颯爽としたヒーロー役は珍しい。ちなみに、『遊星よりの物体X』('51)では、ミニチュア・シーンのモンスター役を演じているという。
 また、お尋ね者ヘインズ役でなかなかいい味を見せるリトル・ビリー・ローズは、ジョン・ウェイン主演の連続活劇『鷲の影の秘密』('32)で、ウェイン扮する主人公を助ける見世物小屋の小人を演じていた俳優。彼も『オズの魔法使い』にマンチキン役で出ている。

 

 

Private Parts (1972)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/86分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:ポール・バーテル
製作:ジーン・コーマン
脚本:フィリップ・キーニー
    レス・レンデルステイン
撮影:アンドリュー・デイヴィス
音楽:ヒューゴ・フリードホファー
出演:エイン・リュイメン
    ルシール・ベンソン
    ジョン・ヴェンタントニオ
    ローリー・メイン
    スタンリー・リヴィングストン
    チャールズ・ウールフ
    アン・ギブス

 B級映画ファンにはお馴染みの『デス・レース2000年』('75)や、けったいな夫婦がカーン!コーン!とフライパンで人殺しを重ねる『フライパン殺人』('82)、歌うデブ女装ディヴァインがメキシコの酒場女を怪演する西部劇“Lust in the Dust”('85)などのカルト映画で有名なポール・バーテル監督による、世にもクィアーでグルーヴィーなド変態サイコ・サスペンス映画。
 プロットは明らかにヒッチコックの『サイコ』('60)をヒントにしている。家を飛び出して伯母の経営するホテルに身を寄せた少女。しかし、そこは部屋のあちこちに覗き穴が隠された狂気と変態の巣窟だった!しかも、彼女に関わった人々が次々と何者かに殺される。果たして犯人は誰なのか・・・!?
 ってなわけなのだが、そこはバーテル監督のこと。サスペンス描写はユルユルだし、謎解きに凝っているわけでもない。それよりも、次から次へと登場する奇人変人たちの生態やフェティッシュな衣装・小道具の数々、妄想過剰気味なエロ描写なんかの方にベクトルが向いている。しかも、下品になりすぎる一歩手前のところで程よく抑えるという絶妙なセンス。随所でピリッと辛口のユーモアを効かせているのもいい。そのインテリジェントなアンダーグランド感覚が、いかにもポール・バーテルらしさを醸し出す逸品だ。

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自宅アパートを飛び出した少女シェリル(A・リュイメン)

どこか怪しげなマーサ伯母さん(L・ベンソン)

 ルームメイトのジュディ(アン・ギブス)と喧嘩した少女シェリル(エイン・リュイメン)はアパートを飛び出し、親戚のマーサ伯母さん(ルシール・ベンソン)が経営するダウンタウンのキング・エドワード・ホテルに転がり込んだ。最初は露骨に嫌な顔をしたマーサ伯母さんだったが、行く当てのないシェリルをメイド代わりとして居候させることにする。
 かつては格式あるホテルだったキング・エドワード・ホテルだが、周辺地域はすっかりスラム化してしまい、今ではアパート代わりに住んでいる長期滞在者が数人いるだけだ。その住人たちも変人だらけ。週末になるとボンデージ・ルックで町へ繰り出していくM男のムーン神父(ローリー・マン)、いつも意味不明のうわごとばかり言っている老女クィグリー夫人(ドロシー・ニューマン)、寡黙で謎めいた写真家ジョージ(ジョン・ヴェンタントニオ)など。厳格で威圧的なマーサ伯母さんも、どこか言動が不自然だ。彼女にはシェリルよりも年上の娘がいたはずだが、伯母さんはそのことについて多くを語ろうとしない。
 ホテルに着いて早々から、シェリルは部屋やバス・ルームで人の視線を感じる。ルーム・サービスの掃除をしていると、ホテルのあちこちに覗き穴があることに気付いた。やがて、掃除のためにジョージの部屋へ入ると、そこにはセクシーな下着姿のダッチ・ワイフがベッドに横たわっていた。さらに、怪しげな写真も見つかる。シェリルは覗き穴の視線がジョージのものであると確信した。ジョージに惹かれていた彼女は、彼を挑発するような行動をとるようになる。
 一方、ルームメイトであるジュディの彼氏マイク(レン・トラヴィス)がシェリルの行方を捜してホテルにやって来た。しかし、何者かによって首を切断され、焼却炉で燃やされてしまう。それからしばらくして、ジュディがマイクを探してホテルに来た。フロントが無人だったため勝手に中へ入ったジュディは、地下室に迷い込んでしまう。そこはジョージが写真の現像に使う暗室だった。散らばっている写真をジュディが手に取ると、そこには無数のモデルの死体が写されていた。眉をひそめるジュディの背後から、怪しげな人影が忍び寄る。
 その頃、シェリルはジョージの部屋にいた。写真のモデルにと誘われたのだ。ダッチワイフが着ていたセクシー下着を身に着けるシェリル。しかし、ジョージの態度が急に変わり、彼女に襲い掛かってきた。果たして本当にジョージが猟奇殺人の犯人なのか?やがて、マーサ伯母さんとジョージを巡る、意外な真実が明らかにされる・・・。

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バスルームで人の視線を感じるシェリル

寡黙で謎めいた写真家ジョージ(J・ヴェンタントニオ)

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フェティッシュ趣味なジョージの部屋

セクシー下着を着けたダッチワイフ

 『サイコ』で描かれるベイツ母子の関係をヒントにしながら、そこに性同一性障害もしくは同性愛のテーマを盛り込んだのがバーテル流の隠し味。歪んだ親子関係がもたらす悲劇・・・と言えなくもないが、その辺を思い切りカリカチュアした変態趣味で描いていくのは、自らがゲイであるバーテルのニヒリズムと言えるかもしれない。聖職者が実はボンデージ狂いのSMマニアだったり、よぼよぼのお婆ちゃんに放送禁止用語を連発させたりするディテールの悪趣味さも、ジョン・ウォーターズを彷彿とさせて面白い(あそこまでイッちゃってないけど)。
 バーテルにとっては、これが初の長編劇映画。ロジャー・コーマンの門下生の一人で、バック・ヘンリーやジョー・ダンテ、ウディ・アレンらとも親交の深かった人物だが、生涯に渡って過小評価され続けたのは残念だった。その交際範囲の広さから俳優として呼ばれることも多く、中でも親友だったジョー・ダンテの作品には『ハリウッド・ブルバード』('76)以来たびたび顔を出している。他にもジョン・ランディスやグレッグ・アラキ、アラン・アークッシュらの作品にも出演。ティム・バートンの『フランケンウィニー』('84)やジュリアン・シュナーベルの『バスキア』('96)にも出ていた。
 なお、撮影を担当したアンドリュー・デイヴィスは、『刑事ニコ/法の死角』('88)や『沈黙の戦艦』('92)でスティーブン・セガールをスターにした監督と同一人物。彼はもともとカメラマン出身で、チャールズ・バンド監督の『クラッシュ!』('76)やマイケル・パタキ監督の“Mansion of the Doomed”('76)など、低予算のホラー映画やアクション映画を担当していた。それがハリソン・フォードの『逃亡者』('93)やシュワちゃんの『コラテラル・ダメージ』('01)といった大作の監督を任されるようになったんだから立派なもんである。
 ちなみに、製作を担当したジーン・コーマンは、ロジャー・コーマンの実弟。

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ボンデージ・ファッションのムーン神父(L・メイン)

首!チョン!パッ!

 ヒロイン、シェリル役のエイン・リュイメンは、ちょっと童顔のキュートな不思議ちゃんといった感じ。これが唯一の主演作で、その後は90年代半ばまでテレビの脇役を務めていたようだ。
 一方、厳格なマーサ伯母さんを威圧感たっぷりに演じているルシール・ベンソンは、スピルバーグの傑作『激突!』('71)で、毒蛇を飼っているドライブインの奇妙なおばさん役を演じたベテラン女優。同じくスピルバーグの『1941』('79)では、『激突』をパロったようなおばさん役でチラッと顔を出していた。また、ジョージ・ロイ・ヒル監督の異色作『スローターハウス5』('72)の主人公の母親役や、ルシール・ボール主演の『メイム』('74)で演じた頑固な南部の老マダム役なんかも印象深い。
 古い海外ドラマ・ファンには、シェリルと仲良くなる写真屋の息子役として、往年の人気ドラマ『パパ大好き』の三男チップ役で人気を集めた元子役スタンリー・リヴィングストンが出ているのが嬉しい驚きかもしれない。
 なお、SMマニアのムーン神父役に、ディズニー・アニメ『くまのプーさん』シリーズでナレーターを務めていたローリー・メインがキャスティングされているというのは素敵なセンスだ。

 

 

悪魔の追跡
Race with the Devil (1975)
日本では1975年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済み
(アメリカ盤DVDは日本盤と別仕様)

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(P)2005 Anchor Bay (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/88分/製作:アメリカ

映像特典
ピーター・フォンダ インタビュー
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
撮影舞台裏フォト・ギャラリー
製作者P・マスランスキー、女優L・パーカーによる音声解説
監督:ジャック・スターレット
製作:ウェス・ビショップ
製作総指揮:ポール・マスランスキー
脚本:リー・フロスト
    ウェス・ビショップ
撮影:ロバート・ジェサップ
音楽:レオナード・ローゼンマン
出演:ウォーレン・オーツ
    ピーター・フォンダ
    ロレッタ・スウィット
    ララ・パーカー
    R・G・アームストロング
    クレイ・タナー

 70年代を代表するカルト映画の一本。当時のオカルト・ブームや『悪魔のいけにえ』の影響を受けたホラー・タッチのストーリーながら、仕上がりはロード・ムービー・スタイルのサスペンス・アクション。その辺りは、バイカー・アクション『明日なき野郎ども』('69)やヒッピー風サイコ・サスペンス『ロザリー・残酷な美少女』('72)を撮ったジャック・スターレット監督の個性だろう。また、ウォーレン・オーツにピーター・フォンダという通好みの渋いキャスティングも、根強いファンに支持される大きな魅力だろう。
 カルト教団の黒ミサを目撃してしまった二組のカップルが、正体不明の連中に追い掛け回されるというストーリーは、なかなか緊迫感があっていい。どこにカルト教団の手先が潜んでいるのか判らず、次第に誰もが怪しく思えてくるという心理的な怖さも見所だろう。今見るとテンポはのんびりしているし、過激な描写も少ない。あくまでもカー・チェイスが中心なので、ホラー映画ファンにはちょっと食い足りない部分もあるかもしれない。今風にリメイクしたらもっと面白くなるだろうに・・・と思っていたら、本当にリメイクされるらしい。年内に公開予定としか決まっていないが、主演のキャスティングには細心の注意を払ってほしいもんだ。オリジナルへの敬意という意味も込めて。

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フランク役を演じるウォーレン・オーツ

ロジャー役のピーター・フォンダ

 バイク仲間のロジャー(ピーター・フォンダ)とフランク(ウォーレン・オーツ)は、それぞれの妻を伴ってキャンピング・カーの旅に出る。最高の休暇になることを期待して。フランクの妻アリス(ロレッタ・スウィット)はしっかり者の姉御肌。ロジャーの妻ケリー(ララ・パーカー)は繊細で心優しい愛犬家だ。
 気心の知れた仲間同士で楽しい旅を過ごす四人は、道すがらの荒野で一晩を過ごすことになる。すると、ロジャーとフランクの二人は遠くに焚き火の光を発見した。望遠鏡で覗いてみると、全裸の人々が燃え盛る焚き火の周りで踊っている。ヒッピーの集団か何かかと思い、面白半分で眺めていた二人だったが、それは悪魔を崇拝する黒ミサの儀式だった。生贄の女性が殺される様子を見て愕然とするロジャーとフランク。その時、二人の名前を呼ぶアリスの声が辺りに響き渡った。見られている事に気付いたカルト教団のメンバーが迫ってくる。急いでキャンピングカーに戻って逃げ出そうとした四人だが、カルト教団の連中に追いつかれてしまった。割られる窓ガラス。パニックに陥り悲鳴をあげるアリスとケリー。何とか追っ手を振り切り、四人はキャンピングカーを走らせた。
 近隣の保安官事務所に駆け込んだロジャーたちは、事の詳細を保安官テイラー(R・G・アームストロング)らに説明する。実際に現場を検証に向ったが、当然のごとく黒ミサの痕跡は跡形もなく消されていた。彼らの心配を笑い飛ばす保安官テイラー。仕方なく、四人は旅を続けることにした。そんな彼らの後をついていく怪しげな車。道すがらで出会ったガソリンスタンドの従業員も様子が怪しげだ。
 やがて、大勢の観光客で賑わうキャンプ場へやって来たロジャーたちだったが、なぜか人々は異常に人懐っこい。妙な雰囲気を感じる四人だったが、気のせいかもしれなかった。例の事件で神経が過敏になっているのだろうか?その晩、レストランで食事をしてトレーラーに戻った四人は、ケリーの愛犬が殺されているのを発見する。その様子を不気味に眺めている人々。言いようのない恐怖を感じた四人はキャンプ場を後にする。しかし、トレーラーの中に何者かが毒蛇を放っていた。パニックに陥る車内。何とかフランクの機転で毒蛇を退治できたが、さらなる恐怖と罠が四人の行く手に待ち構えていた。果たして、彼らは見えざるカルト教団の執拗な追跡から無事に逃れることが出来るのか・・・?

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キャンピング・カーでバカンスに出かけた四人だったが・・・

カルト教団の黒ミサを目撃してしまう

 70年代のハリウッド映画はホラーにしろアクションにしろ、皮肉の利いたクライマックスが多く、ハッピーエンドで終わることは少なかった。もちろん、この作品も例外ではない。リメイク版ではその点も重視して欲しいところだろう。
 製作と脚本を担当したウェス・ビショップはもともとソフト・ポルノ出身。同じく脚本を担当したリー・フロストもソフト・ポルノの監督だった人で、ビショップとは『アニマル』('68)、『新アニマル』('70)といった作品で組んでいる。もともと、本作もフロスト自身が監督として撮影に入ったが、製作元であるフォックスの社長アラン・ラッド・ジュニアによって降板させられてしまった。代わりに白羽の矢が立てられたのがジャック・スターレット。当時のスターレットは『シンジケート・キラー』('72)や『クレオパトラ危機突破』('73)などのアクション映画をヒットさせており、手堅い人選だったと言えるだろう。
 ちなみに、製作総指揮のポール・マスランスキーは『ポリス・アカデミー』シリーズを生み出したヒット・メーカーだ。

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保安官テイラー役のR・G・アームストロング

トレーラーに戻ると愛犬が惨殺されていた

 主演のウォーレン・オーツとピーター・フォンダは、ご存知の通りアメリカン・ニュー・シネマの象徴ともいえるスター。本作以外でもたびたび共演しており、私生活でも大親友だったという。オーツの妻役を演じているロレッタ・スウィットは、当時テレビ版『マッシュ』で大人気だった個性派女優。『女刑事キャグニー&レイシー』の初代キャグニー役としても知られる。
 また、ロジャーの妻ケリー役を演じているララ・パーカーは、60年代のカルト的ホラー・テレビ・シリーズ“Dark Shadows”のヒロイン、アンジェリーク役で知られる女優。保安官テイラー役で、サム・ペキンパー映画の名物俳優R・G・ア−ムストロングが登場するのも、古い映画ファンには嬉しいところだろう。噂によると彼は悪魔崇拝者だったらしいが、真偽のほどは定かでない。

 なお、日本盤DVDも発売されているが、上記のアメリカ盤は映像特典がいっぱい。ピーター・フォンダのインタビューでは、撮影当時の楽しい思い出が数多く語られている。現場はかなり和気藹々としたムードだったようだ。日本盤には劇場予告編しか収録されていないので、熱心なファンは是非。

 

 

武士道ブレード
The Bushido Blade (1981)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2005 Koch Vision (USA)
画質★★☆☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL
/90分/製作:アメリカ・イギリス

映像特典
フィルモグラフィー集
監督:トム・コタニ
製作:アーサー・ランキン・ジュニア
脚本:ウィリアム・オーヴァーガード
撮影:上田正治
音楽:モーリー・ローズ
出演:リチャード・ブーン
    千葉真一
    三船敏郎
    フランク・コンヴァース
    ラウラ・ジェムサー
    ジェームズ・アール・ジョーンズ
    マコ岩松
    ティモシー・マーフィ
    マイケル・スター
    丹波哲郎
    浅野真弓

 1980年に放送されたテレビ・ミニ・シリーズ『将軍』('80)は、全米で“ショーグン現象”と呼ばれるほどの大反響をもたらした。そのブームに便乗する形で公開されたのが、このハリウッド製サムライ映画『武士道ブレード』である。
 日米和親条約の締結された幕末の日本を舞台に、尊皇攘夷派の陰謀に命がけで立ち向かった日米のサムライたちの活躍を描く歴史大作。・・・と言うと聞こえはいいかもしれないが、日本人にとっては何とも違和感のある変な時代劇に仕上がっている。撮影は日本で行われているし、監督をはじめスタッフの多くが日本人。なので、日本を舞台にした外国映画によくある極端な勘違い描写はあまり見られない。
 とはいえ、あくまでも目線はアメリカ人側。日本の歴史的・社会的な背景について殆ど触れられていないので、尊皇攘夷派はただのテロリスト集団として描かれている。アメリカと日本の友好を邪魔する悪い奴らというわけだ。日本の開国についても100%肯定的に描かれており、さしずめペリーたちは未開の国・日本に文明をもたらした英雄といったところ。外国資本で作られた映画とはいえ、そこまで卑下する必要もないのではないか、というのが正直な感想だ。
 その他、お約束のハラキリ・シーンだったり、意味もなく出てくる女湯のサービス・ショットだったり、当時は殆ど活動しなくなっていたはずの忍者(しかも尊皇攘夷派の手先)が出てきたりと、外国の観客を意識しすぎた見世物的描写が安っぽいB級感をプンプンと醸し出す。全く逆の視点から日本の近代化と武士道精神を描いたのが『ラスト・サムライ』('03)なわけだが、両者を比較しながら見ると面白いかもしれない。

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黒船で来航したペリー提督(R・ブーン)

幕府側の使者を演じる三船敏郎

刀の行方を捜すホーク大尉(F・コンヴァース)

 時は1854年。アメリカから開国の要求を受けた江戸幕府は、日米和親条約の締結に合意をした。黒船では幕府の使者(三船敏郎)を迎え、ペリー提督(リチャード・ブーン)の主催で記念式典が華々しくとり行われていた。だが、その隙を突いて将軍からアメリカ大統領に贈られる予定の刀が、尊皇攘夷派の差し向けた隠密によって盗まれてしまった。その刀は“武士道ブレード”と呼ばれ、国宝級の逸品だとされている。
 幕府側は武士の名誉に関わる問題として警備責任者だったプリンス・イドー(千葉真一)に捜索を命じる。条約の締結よりも刀の奪還が優先された。一方、ロシアに先を越される前に条約を結びたいペリー提督は、ホーク大尉(フランク・コンヴァース)、ジョンソン(マイケル・スター)、バー(ティモシー・マーフィ)の3人を追跡チームとして送り込む。
 犯人の足取りを追うホーク大尉らは小さな町で忍者軍団に襲撃され、逃げる際に散り散りとなってしまった。ホーク大尉はプリンス・イドーと合流し、行動を共にするようになる。街中に迷い込んだジョンソンは抑留者と間違われて捕らえられ、牢屋にぶち込まれてしまう。そこには、難破船で日本に上陸した外国人たちが捕虜となっていた。リーダー格の男(ジェームズ・アール・ジョーンズ)の手引きで、入浴時間のドサクサに紛れて脱走したジョンソン。その後、祭りの縁日で相撲取りと対決するなど日本の文化に触れながら、仲間を探して旅を続ける。一方、川に転落した若者バーはユキ(浅野真弓)という若い娘に命を救われた。そこへエンジロウ(マコ岩松)という男が現れる。彼は幕府の隠密で、英語が堪能だった。エンジロウはバーに協力し、他の仲間たちや刀の行方を調査する。バーはユキの手厚い介護で傷を癒し、やがて2人は惹かれあっていく。
 プリンス・イドーと共に刀の行方を捜していたホーク大尉は、トモエ(ラウラ・ジェムサー)という九の一忍者と合流する。トモエの情報では、刀を盗んだ黒幕はヤマト(丹波哲郎)という地方藩主だった。刀を奪還するためにヤマトの城に忍び込んだホーク大尉とトモエだったが、逆に捕らえられてしまう。自らをサムライと名乗るホーク大尉に、ヤマトは決闘に勝つことが出来たら刀を返してやろうと申し出る。相手は武道の達人で剣術指南役を務める人物だ。死闘の末にホーク大尉は相手を見事に倒し、刀を奪還することに成功する。
 一方、エンジロウの手引きでジョンソンと再会したバーは、プリンス・イドーと合流。そこへ、城から逃れてきたホーク大尉とトモエも加わる。だが、ヤマトの差し向けた追っ手が目前に迫っていた。果たして彼らはヤマトの陰謀を打ち砕き、無事に“武士道ブレード”をペリー提督のもとへ届けることが出来るのだろうか?

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ホーク大尉を助けるプリンス・イドー(千葉真一)

親交を深めるバー(T・マーフィ)とユキ(浅野真弓)

幕府の隠密エンジロウ(マコ岩松)

 ・・・ということで、随所に首を傾げてしまうような展開はあるものの、外国映画で描かれる日本人の描写に神経質だった三船が出演を了承しただけあって、何とか許容範囲ギリギリのレベルには収まっている。なんたって、想定している観客は日本の文化や歴史に対する知識の乏しい欧米人。細かいディテールは簡略化しないと理解してもらえない。やたらと仰々しく武士道を美化しているのも、欧米人好みのエキゾティシズムを意識してのものだろう。
 監督のトム・コタニとは、東宝の小谷承靖監督のこと。加山雄三及び草刈正雄の『若大将』シリーズや渡哲也の『ゴキブリ』シリーズ、そして『ピンク・レディーの活動大写真』などを手がけた監督だが、『極底探検船ポーラボーラ』など海外との合作映画でもメガホンを取っており、その実績が買われたのかもしれない。ちなみに、そのいずれもアーサー・ランキン・ジュニアがプロデュースを手がけている。ただ、ドラマ部分やミニチュア・シーンはともかくとして、チャンバラのアクション演出はいまひとつ力不足。時代劇描写も著しく風格に欠けている。やはり、この手の映画を日本人に任せるのであれば、深作欣二や鈴木則文辺りが適任だったかもしれない。
 脚本のウィリアム・オーヴァーガードは、先述した『極底探検船ポーラボーラ』などで小谷監督と組んできた人物。撮影の上田正治も小谷監督作品を数多く手がけているが、それよりも彼は『影武者』('80)や『乱』('85)など後期黒澤作品の撮影監督としての方が有名だろう。
 なお、製作のアーサー・ランキン・ジュニアは、『ルドルフ 赤鼻のトナカイ』('64)や『サンタが街にやってくる』('70)などのストップ・sモーション・アニメ作品で知られるプロデューサーだ。

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九の一忍者トモエ(L・ジェムサー)

外国人捕虜のリーダーを演じるJ・アール・ジョーンズ

なぜか女湯に乱入・・・

 キャスト・クレジット上ではペリー提督役のリチャード・ブーンが主演だが、実際にはフランク・コンヴァース扮するホーク大尉が主人公。コンヴァースは60年代から70年代にかけて数多くのテレビ・ドラマやテレビ映画に主演した俳優。ただ、その多くが日本未公開だったため、アメリカでの人気に比べて日本では知名度の低いスターだった。
 一方のリチャード・ブーンは、アメリカで6年間に渡って放送された人気テレビ・ドラマ『西部のパラディン』で知られる名優。アクの強い顔をした大柄な俳優で、西部劇やサスペンス映画には欠かせない顔だった。本作の撮影終了直後に亡くなっている。
 ホーク大尉と惹かれあう九の一忍者トモエを演じているのは、“黒いエマニエル”ことラウラ・ジェムサー。イタリアのソフト・ポルノ『愛のエマニエル』('75)で人気を得たインドネシア出身の女優で、『さすらいの航海』('76)ではオーソン・ウェルズとも共演している。国際マーケットで顔が知られた女優だし、同じアジア人だからという理由でのキャスティングだったのかもしれないが、残念ながらどう見ても日本人には見えない。日本語のセリフは日本人の声優が吹き替えているが、これがまたやたらとキーの高いアニメ声なので違和感があり過ぎる。ちなみに、彼女は自伝本の中で本作について触れており、武術を学んだのは素晴らしい経験だったとしながらも、作品そのものは“期待していたほどの出来ではなく、とてもガッカリした”と述べている。
 日本側の役者はなかなかの好演で、いずれも存在感を十分に発揮している。ユキ役の浅野真弓は柳ジョージの奥さんになった人だが、清楚でさわやかな笑顔が好印象を残している。
 ただ、なぜか三船敏郎と千葉真一の2人は、英語でちゃんとセリフを喋っているのにも関わらず、声が吹き替えられてしまっている。三船は出番そのものもあまり多くなく、ネーム・バリューを当てにしたゲスト出演という印象。それに比べると、丹波哲郎の見事な怪演ぶりはあっぱれだった。あのいつもの丹波節で英語のセリフが聞けるのだから、ファンとしてはまことに嬉しい限り。これで映画の出来がもっと良ければ・・・と、つくづく残念でならない。

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外人の大好きなスモウ・レスラーも登場

陰謀の黒幕である大名ヤマト(丹波哲郎)

ヤマトの一味と対決する主人公たち

 ちなみに、上記のアメリカ盤DVDはテレビ放送用に画面サイズをトリミングし、尺を90分に収めたカット・バージョン。もともとの上映時間は104分ある。画質もいまひとつで、まるでVHSからコピーしたような感じ。ちゃんとコピーライト表記のある正規盤なのだが、クォリティ的にはブート盤並みの仕上がりだ。

 

 

恐るべき訪問者
Venom (1981)
日本では1981年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2003 Blue Underground (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★★
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/6.1chDTS・5.1chサラウンドEX・2.0c
hサラウンド/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/92分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
TVスポット集
ポスター&スチル・ギャラリー
P・ハガード監督による音声解説
タレント・バイオ集
監督:ピアース・ハガード
製作:マーティン・ブレグマン
原作:アラン・スコルフィールド
脚本:ロバート・キャリントン
音楽:マイケル・ケイメン
出演:スターリング・ヘイドン
    クラウス・キンスキー
    サラ・マイルズ
    オリヴァー・リード
    ニコール・ウィリアムソン
    コーネリア・シャープ
    スーザン・ジョージ
    ランス・ホルコム
    マイケル・ガフ
    マイク・グウィリム

 昔は頻繁にテレビ放送されていた映画だが、近頃はレンタル・ビデオですら見かけることが無くなった。人質を取って屋敷に立て篭もった誘拐犯と警察の攻防を軸に、屋敷の中に放たれた毒蛇ブラック・マンバの恐怖を描く作品。映画そのものはB級ノリのサスペンス・スリラーだが、アクの強い役者ばかりを揃えた豪華キャストの演技だけでも見る価値は十分にあるだろう。クラウス・キンスキー、オリヴァー・リード、サラ・マイルズ、スーザン・ジョージ、ニコル・ウィリアムソン、マイケル・ガフ、そして偉大なるスターリング・ヘイドン!ブラック・マンバも震え上がるくらいに強力な顔ぶれである。当時の批評家には散々酷評されたが、いまだに根強いファンを持つ小品佳作だ。

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母ルース(C・シャープ)に動物図鑑を見せるフィリップ(L・ホルコム)

誘拐計画の首謀者であるテロリスト、ミュラー(K・キンスキー)

 ロンドンの閑静な高級住宅街。大富豪夫人ルース・ホプキンス(コーネリア・シャープ)は、10歳になる息子フィリップ(ランス・ホルコム)を祖父ハワード(スターリング・ヘイドン)に預けてローマへと発った。フィリップは大好きな祖父と一緒で大喜び。探検家だったヘンリーの影響で、彼は大の動物好きだった。
 一方、運転手デイヴ(オリヴァー・リード)とメイドのルイーズ(スーザン・ジョージ)は密かにフィリップの誘拐を計画していた。彼らに指示を出すのは国際テロリスト、ジャック・ミュラー(クラウス・キンスキー)。ミュラーが祖父ヘンリーを外へおびき出し、その隙にルイーズがフィリップを誘拐するという手はずだった。しかし、計画実行の当日、フィリップはペット・ショップに届いたアフリカヘビを受け取るために出かけてしまう。
 その頃、毒物学研究所に務めるマリオン・ストウ博士(サラ・マイルズ)は、研究用に取り寄せた毒蛇ブラック・マンバが無害なアフリカヘビと入れ替わっていることに気付いた。輸送上のミスだとすると緊急事態だ。ストウ博士はただちに警察へ通報し、ブラック・マンバの追跡を依頼する。
 フィリップはヘビを入れた木箱を持ち、喜び勇んで家に帰ってきた。ルイーズは急いで彼を外へ連れ出そうとするが、そこへ外出していたヘンリーが戻ってきてしまった。慌てるルイーズ。その時、フィリップが木箱を開けた。中のヘビを見たルイーズは悲鳴を上げ、その声に反応したブラック・マンバが彼女に襲い掛かった。驚いた運転手デイヴがヘビを撃退しようとするが、素早く逃げられてしまう。
 デイヴはミュラーを手引きして屋敷の中に入れていた。ルイーズの悲鳴を聞いて屋敷に駆け込んできたヘンリーは救急車を呼ぼうとするが、デイヴが電話線を引き抜いてしまう。自分と孫が何かの罠にはめられたことをヘンリーは悟った。
 ブラック・マンバに噛まれたルイーズが断末魔の絶叫をあげ、もがき苦しみながら絶命してしまう。ヘンリーを地下室に閉じ込めたデイヴとミュラーは、新たな計画を模索していた。すると、そこへブラック・マンバの行方を捜索する警官がやって来た。予期せぬ出来事に興奮したデイヴは、警官をライフルで射殺してしまう。瀕死の警官は無線で応援を要請し、事件を目撃した周囲の住民たちに戦慄が走った。
 現場へ到着したのは警察の指揮官ウィリアム・ブロック(ニコル・ウィリアムソン)。ミュラーはブロックに車と金を要求する。周辺は封鎖され、ものものしい雰囲気に包まれた。ミュラーの要望通りに車と金が用意されるが、神経質なミュラーは警察の罠を警戒してなかなか行動を起こさない。その頃、現場にはストウ博士が到着した。屋敷内でブラック・マンバに噛まれた患者がいるというのだ。ドアの前に横たえられた患者に応急処置をしようとするストウ博士。しかし、それはミュラーの罠だった。患者のふりをしていたミュラーはストウ博士に拳銃を突きつける。彼は博士を逃走用の人質にするつもりだったのだ。
 果たして、警察は人質を無事に救出できるのか?やがて、獲物を求めて屋敷内を徘徊するブラック・マンバが人々に襲い掛かる・・・。

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短気で情緒不安定な運転手デイヴ(O・リード)

孫フィリップを守る祖父ヘンリー(S・ヘイドン)

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ブラック・マンバに噛まれたメイドのルイーズ(S・ジョージ)

ミュラーとデイヴの眼前でルイーズが悶絶死する

 実は、もともとこの作品は『悪魔のいけにえ』のトビー・フーパーが監督する予定だった。撮影に先駆けて製作された予告ポスターにも、はっきりとフーパーの名前がクレジットされている。しかし、撮影10日目で“創造的な意見の違い”を理由に降板してしまった。はっきりとした理由は分かっていないが、ピアース・ハガード監督によるとフーパーはノイローゼに陥ってしまっていたという。また、当初ミュラーをナチ的なイメージで描こうとしていたフーパーに対して、クラウス・キンスキーが強く異議を唱えていたらしい。もしかしたら、映画界きっての問題児として名高いキンスキーにフーパーが悩まされていたのかもしれない。
 ピンチヒッターとして起用されたハガード監督は、それまで主にテレビ・ディレクターとして活躍してきた人物。前年に撮ったピーター・セラーズ主演の映画『天才悪魔フー・マンチュー』('80)が好評を博したばかりだった。全体的にテンポの緩さと緊張感の希薄さは否めないものの、これだけ個性の強い役者陣を見事にまとめ上げた手腕は評価されて然るべきだろう。各俳優の見せ場もきっちりと押さえており、手堅い演出を披露している。
 アラン・スコルフィールドのベストセラー小説を脚色したのはロバート・キャリントン。彼も主にテレビで活躍した脚本家だ。そして、撮影を担当したのが、ロマン・ポランスキー作品のカメラマンとして有名なギルバート・テイラー。彼はキューブリックの『博士の異常な愛情』('64)や『スター・ウォーズ』('77)の撮影を手がけた人物としても知られる。
 そして、本作の意外な拾い物がマイケル・ケイメンの音楽だろう。『リーサル・ウェポン』シリーズや『Xメン』などで知られるケイメンだが、当時はまだ若手の駆け出しだった。フルオーケストラを動員したスリリングで重厚なスコアは聴き応え十分。ストリングスの使い方がいかにもバーナード・ハーマン風ではあるものの、なかなか印象的な仕上がりだった。

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屋敷内を徘徊する毒蛇ブラック・マンバ

指揮官ブロック(N・ウィリアムソン)とストウ博士(S・マイルズ)

 誘拐犯を演じているのはクラウス・キンスキー、オリヴァー・リード、スーザン・ジョージの3人。特にキンスキーとリードは、共に扱いづらい問題児として様々な伝説を残している怪優。この2人が顔を合わせるというだけでも、現場を指揮する監督としては頭痛の種になりそうだが、意外にも本作の撮影はとてもスムースに進行したと言われている。キンスキーとリードの2人もすっかり意気投合し、現場は終始和やかな雰囲気だったらしい。スーザン・ジョージは70年代のイギリス映画界を代表するセックス・シンボルとして活躍した女優だが、撮影当時はその人気も下降気味。出番も非常に少なく、あっという間に凄まじい形相で死んでしまう。『おませなツインキー』('69)や『わらの犬』('71)の頃を知っているファンには、かなり胸中複雑なキャスティングだった。
 そして、そんな彼らから孫を守ろうとする祖父ヘンリーを演じるのがスターリング・ヘイドン。50年代に西部劇や戦争映画で名を馳せ、ベルトルッチの『1900年』('76)ではバート・ランカスターの向こうを張る圧倒的な存在感を見せ付けた、まさにアメリカの誇るタフガイ・スターだ。クラウス・キンスキーにオリヴァー・リードという凶悪な面構えの2人に立ち向かう役柄としては、全く申し分のないキャスティングと言えるだろう。
 一方、屋敷の外から誘拐犯たちに対峙する指揮官ブロックを演じるのがイギリスの名優ニコル・ウィリアムソン。トニー・リチャードソン監督『ハムレット』('69)のハムレット役や、ハーバート・ロス監督『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』('76)のホームズ役で知られるインテリ俳優だ。
 また、思いがけず人質になってしまうストウ博士役を演じたのが、デヴィッド・リーン監督の傑作『ライアンの娘』('70)でアカデミー主演女優賞にノミネートされた大女優サラ・マイルズ。彼女もキンスキーやリードに負けず劣らず気難しい女優として知られている。その3人が一堂に会してしまったのだから、ハガード監督も相当なプレッシャーだったに違いない。
 その他、シェイクスピア俳優として知られるマイク・グウィリムがブロックの助手役、ティム・バートン版『バットマン』シリーズの執事アルフレッド役でも有名な往年のホラー俳優マイケル・ガフが警察に協力する動物学者役として顔を出す。また、フィリップの母親役として製作者マーティン・ブレグマンの奥方コーネリア・シャープが登場。ピーター・フォンダ主演のバイオレンス映画『ダーティハンター』('74)で強烈な印象を残した女優さんで、元トップ・モデルなだけにとても綺麗な人だった。本作を最後に映画界を引退してしまったが、最近になってカムバックを果たしている。

 

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