HARD TO FIND FILMS
70年代クラシック映画篇

 

Hester Street (1975)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2004 Home Vision (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語&ユダヤ語/
字幕:英語(一部)/地域コード:1/90分
/製作:アメリカ

映像特典
監督・製作者による音声解説
メイキング・ドキュメンタリー(キャロル・ケイン、ドリス・ロバーツ、J・M・シルヴァー、R・シルヴァー出演)
ユダヤ人文化に関するドキュメンタリー
監督:ジョーン・ミックリン・シルヴァー
製作:ラファエル・シルヴァー
原作:エイブラハム・ケイハン
脚本:ジョーン・ミックリン・シルヴァー
撮影:ケネス・ヴァン・シックル
美術:スチュアート・ウールツェル
音楽:ウィリアム・ボルコム
出演:キャロル・ケイン
    スティーブン・キーツ
    メル・ハワード
    ドリー・カヴァナー
    ドリス・ロバーツ
    リン・シェイ

 19世紀末のニューヨークを舞台に、ユダヤ系移民の女性が新しい文化と古い伝統との間で苦悩し、自分なりの生き方を模索していく姿を描いた文芸ドラマ。主演のキャロル・ケインがアカデミー主演女優賞にノミネートされ、当時アメリカではかなり話題になった作品だ。
 ヒロインは幼い息子を連れてロシアからアメリカへと渡ってきた母親ジトル。ユダヤの伝統的な生活スタイルを守り続けている貞淑な女性だ。一方、ひと足先にアメリカに渡っていた夫ヤンケルは、すっかり新しいライフスタイルや価値観に染まりきってしまっている。どんどん深まっていく夫婦間の溝。やがてジトルは、ユダヤ民族としてのアイデンティティを守りつつ、女性の自立という新しい価値観に目覚めていくこととなる。
 監督・脚本を手がけたのは、これが長編処女作となるジョーン・ミックリン・シルヴァー。エイミー・アーヴィング主演の『デランシー・ストリート/恋人たちの街角』('88年)などでも知られる女流監督だ。約38万ドルという低予算で製作されたこともあって、どうしても全体的に小ぢんまりとした印象は拭えないものの、とても繊細で叙情的なタッチの美しい作品に仕上がっている。当時のユダヤ人街の様子も生き生きと再現されており、モノクロ・フィルムでの撮影がドキュメンタリーのようなリアリズムを生み出している。
 女性の自立をテーマにした作品というと、どうしても頭でっかちになりがちだが、そうした気負いを全く感じさせない穏やかさが魅力。地味ではあるものの、さりげなく心に染み渡る名作だ。

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不安を抱えながらアメリカにやって来たヒロイン、ジトル(C ・ケイン)

アメリカの生活に難なく溶け込んでいく夫ヤンケル(S・キーツ)

 1890年代のニューヨークはローワー・イーストサイド。この地域にはユダヤ系移民が数多く暮らしていた。伝統的なライフスタイルを頑なに守るユダヤ人が多い中、一部の若者たちはアメリカ的な価値観を受け入れつつあった。ロシアからやって来た青年ヤンケル(スティーブン・キーツ)もその一人。ユダヤ人のトレードマークである髭を剃り、お洒落な口ひげをたくわえたヤンケル。髪型もばっちりと整え、スーツに山高帽を被った彼はすっかりアメリカ人の若者だ。貧乏暮らしとはいえ、夜な夜なカフェ・バーで飲み明かし、年上の女性メイミー(ドリー・カヴァナー)との逢瀬を楽しむヤンケル。そんな彼を、同居人のバーンスタイン(メル・ハワード)は冷静な目で見つめていた。
 ある日、ヤンケルは妻と子供がロシアからやって来ることをバーンスタインに告げる。そう、遊び人気取りの彼は既婚者だったのだ。“誰も独身だとは言ってないだろう”とうそぶくヤンケルだったが、彼を本気で愛していたメイミーは深く傷つく。
 エリス・アイランドの入国管理局へと向ったヤンケルは、久しぶりに妻子と再会した。しかし、妻ジトル(キャロル・ケイン)はすっかり変わってしまった夫の姿を見て内心驚いていた。しかも、名前までジェイクとアメリカ人風に変えてしまったという。息子のことまでジョーイと呼ぶ夫に、ジトルは戸惑いを隠せなかった。
 貧しいために広いアパートへ移ることのできないヤンケルは、バーンスタインと暮らすアパートへと妻子を連れてきた。こうして、新たな生活を始めることとなったジトルだったが、なかなか周囲の環境に馴染むことができない。ベルーク・シャイテル(ユダヤ人の既婚女性が使用するカツラ)を被り、一日中家にいて夫の帰りを待つ彼女に、隣人のカヴァルスキー夫人(ドリス・ロバーツ)が呆れた様子で助言する。“ここはアメリカなんだから、もっと楽しみなさい”と。
 夫のヤンケルも、そんな妻の様子に苛立ちを感じるようになってくる。祖国ロシアで迫害を受け続けた彼にとって、アメリカ人として生きることは重要な意味を持っていた。しかし、ジトルは強く感じていた。私たちはどこで暮らそうと、ユダヤ人であることに変わりはないのだと。そんな彼女に唯一理解を示すのがバーンスタインだった。
 ある日、メイミーがヤンケルたち一家のもとを挨拶に訪れる。夫と彼女の様子から、二人の間に何かあったことを感じ取るジトル。やがてそれが確信へと変わったとき、彼女はある重大な決断をするのだった。

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ヤンケルはメイミー(D・カヴァナー)と不倫関係にあった

夫婦の様子を冷静に見つめる同居人バーンスタイン(M・ハワード)

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19世紀末のユダヤ人街の様子が生き生きと再現されている

口うるさい隣人カヴァルスキー夫人(D・ロバーツ)

 アメリカではロイス・ウェバーやドロシー・アズナーなど、戦前から女流監督が少なからず活躍している。ところが、戦後になるとハリウッドは女流監督に対して門戸を閉してしまった。女優から監督に進出したアイダ・ルピノが唯一の例外として孤高奮闘していたわけだが、その流れを大きく変えたのが『ふたり自身』('72年)のエレイン・メイと、このジョーン・ミックリン・シルヴァーである。彼女たちの成功をきっかけに、カレン・アーサーやリジー・ボーデン、スーサン・シーデルマンといった女流監督が次々と活躍するようになった。そういった意味でも、本作は70年代のハリウッドで重要な役割を果たした作品と言えるだろう。
 撮影監督のケネス・ヴァン・シックルを筆頭に、スタッフの殆どが当時ニューヨークのインディペンデント業界で活躍していた人々。その中でも特に注目すべきなのは、プロダクション・デザインを担当したスチュアート・ウールツェルだろう。19世紀末のユダヤ人街の様子が見事に再現されており、全く低予算を感じさせることがない。ウールツェルはその後『カイロの紫のバラ』('85年)や『マンボ・キングス』('92年)、『男が女を愛する時』('94年)などのヒット作を手がけるようになり、『ハンナとその姉妹』('86年)でオスカーにもノミネートされている。

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面倒見のいいバーンスタインにジトルは惹かれていく

民族のアイデンティティと自立心に目覚めていくジトル

 そして、何といっても素晴らしいのが主演のキャロル・ケインだ。身長157センチと小柄で、独特の甲高い声をしていることから、どうしてもエキセントリックな脇役の多い女優さん。確かにものすごい芸達者なので、『プリンセス・ブライド・ストーリー』('87年)の魔法使いのお婆さんやら、『3人のゴースト』('88年)のコンペイトウの妖精、『アダムス・ファミリー2』('93年)のグランマなど、オフビートな役柄を演じさせたら天下一品。『マイ・ブルー・ヘブン』('90年)のおツムの弱いボディコン・ギャル、『オフィスキラー』('97)の地味で目立たないオールド・ミスなど、その演技の幅は驚くぐらいに広い。
 そんな彼女が、ここではまったく別の顔を見せてくれる。一人の女性の自我の目覚めを静かに、しかし力強く演じるその姿は、まるでベルイマン映画のヒロインのようだ。先述したように、本作ではアカデミー主演女優賞にノミネートされ、マスコミにも“ボティチェリのビーナスのような美しさ”と評された。ちなみに、当時の彼女はほとんど無名で、女優だけでは食べていけずにアルバイトをしていた。オスカーにノミネートされたという連絡を受けたときも、職安で仕事を探している最中だったという。
 夫ヤンケル役を演じたのは、『狼よさらば』('75年)でチャールズ・ブロンソンの義理の息子役を演じていたスティーブン・キーツ。映画よりもテレビ・ムービーへの出演が多く、ミニ・シリーズ“Seventh Avenue”('77年)ではエミー賞にノミネートされている。
 一方、ジトルの精神的な支えとなる同居人バーンスタイン役を演じるのは、『ビート・ストリート』('84年)や『THE BOOST/引き裂かれた愛』('88年)などのプロデューサーとして知られるメル・ハワード。また、テレビ『探偵レミントン・スティール』のおば様秘書ミルドレッドや『Hey!レイモンド』の肝っ玉母さん役でお馴染みの名女優ドリス・ロバーツが、近所に住む口うるさいカヴァルスキー夫人役で顔を出している。彼女も非常に芸達者な女優さんで、80年代の人気ドラマ“St.Elsewhere”の第4話で演じたホームレス役は素晴らしい名演だった。

 ちなみに、冒頭で述べたように本作は約38万ドルという低予算で製作されたが、オスカーにノミネートされたおかげで700万ドルを超える興行収入を稼ぎ出したという。

 

グリニッチ・ビレッジの青春
Next Stop, Greenwich Village (1976)
日本では1976年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/ステレオ・モノラル/音声:英語・スペイン語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/111分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
P・マザースキー監督とE・グリーンの音声解説
監督:ポール・マザースキー
製作:ポール・マザースキー
    トニー・レイ
脚本:ポール・マザースキー
撮影:アーサー・オーニッツ
音楽:ビル・コンティ
出演:レニー・ベイカー
    シェリー・ウィンタース
    エレン・グリーン
    ロイス・スミス
    クリストファー・ウォーケン
    ドリ・ブレナー
    アントニオ・ファーガス
    ルー・ジャコビ
    マイク・ケリン

 1950年代のニューヨークはグリニッジ・ヴィレッジを舞台に、芸術家を志す若者たちの青春群像を描いたポール・マザースキー監督の名作。グリニッジ・ヴィレッジといえば、芸術の街ニューヨークの象徴とも言える存在。今でこそ地価の高騰もあって映画スターや政治家、資産家の住む場所となってしまったが、20世紀初頭の頃から前衛画家や作家、戯曲家、舞踏家、俳優など様々な芸術家がここに住んでいた。50年代のグリニッジ・ヴィレッジというと、ウィリアム・S・バローズやディラン・トーマスなどの、いわゆるビート・ジェネレーションと呼ばれる作家たちが集うようになった時代。当時はアパートの家賃も安かったことから、芸術家に憧れる若者たちも数多く集まっていた。
 そんなパワーとエネルギーに溢れた時代を背景に、明日を夢見る若者たちの理想と現実、出会いと別れ、苦悩と成長を描いたのが、この『グリニッチ・ビレッジの青春』というわけだ。主人公は監督のポール・マザースキー自身をモデルにした、ユダヤ人の若者ラリー。俳優志望の彼は、過保護で口やかましい母親、口下手で不器用な父親のもとを離れ、グリニッジ・ヴィレッジで一人暮らしを始める。そこで出会った仲間たち。お洒落なカフェのテーブル席を陣取り、コーヒー一杯で何時間もねばっては、演劇や文学、絵画や哲学、恋愛話やジョークなどに華を咲かせる。自由で気ままなボヘミアン・ライフだ。
 しかし、いつまでもそんな毎日が続くわけもない。ある者は夢を追いかけることに疲れ果て、ある者は受け入れたくない現実を受け入れねばならなくなる。そうした人間模様を目の当たりにしながら、大人の青年へと成長していく主人公の姿がノスタルジックに描かれていくのだ。優しくて、生き生きとして、瑞々しくて、時にほろ苦くも切ない青春物語。あまりにも愛おしくて、たまらないくらいに大好きな作品だ。

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俳優を目指してブルックリンを飛び出したラリー(L・ベイカー)

ボヘミアン生活を満喫するラリーとサラ(E・グリーン)

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『欲望という名の電車』のポスターに向ってマーロン・ブランドの物真似

母フェイ(S・ウィンタース)は息子ラリーが心配でたまらない

 1953年のニューヨーク。ユダヤ人の若者ラリー・ラピンスキー(レニー・ベイカー)は、生まれ育ったブルックリンの実家を出ることになった。俳優を志していたラリーだったが、母親フェイ(シェリー・ウィンタース)は息子の夢に断固として反対。しかし、夢を追いかけるラリーの耳には彼女の忠告など耳に入るはずもなく、そんな母親を避けるようにして家を飛び出したのだ。
 ラリーが向ったのはグリニッジ・ヴィレッジ。皮肉屋の恋人サラ(エレン・グリーン)と半同棲みたいな生活を始めた彼は、個性豊かな仲間たちと知り合うことになる。物静かな詩人ロバート(クリストファー・ウォーケン)、自殺癖のある売れない画家アニタ(ロイス・スミス)、おしゃべりで人懐こい女の子コニー(ドリー・ブレナン)、見栄っ張りでロマンチストなゲイの黒人俳優バーンスタイン(アントニオ・ファーガス)。一般社会にはなかなか適応できないアウトサイダーの彼らにとって、似たもの同士が集まるこの街は天国も同然だった。昼間はお洒落なカフェで芸術論に花を咲かせ、夜は自宅でホーム・パーティを開いてジャズに踊り狂う。アニタがまた自殺したと言ってはみんなで見学に押しかけ、真夜中の地下鉄の駅で映画『欲望という名の電車』のポスターに向ってマーロン・ブランドの物まねをする。まさに気楽なボヘミアン・ライフだ。
 そんなラリーも、ハーブ(ルー・ジャコビ)の経営するコーヒー・スタンドでアルバイトをし、ハーバート・バーグホフの演劇クラスへ通うようになる。過保護で心配性の母フェイは、父親ベン(マイク・ケリン)を連れては毎週日曜日に息子の様子を見にグリニッジ・ヴィレッジへ。手作りのブラウニーやら、クリーム・チーズやら、歯磨き粉やら、山ほどの差し入れを持って。しかし、ラリーはそんな母親に苛立ちを隠せない。もう子供じゃないんだから放っておいてくれと。母親の溢れんばかりの愛情は、彼にとって苦痛でしかなかった。
 ある日、いつものようにアニタの自殺未遂を見学に行くと、彼女は本当に死んでしまっていた。恋人に振られたバーンスタインは、ベッドカバーの中に入り込んだまま出てこない。彼の人生は虚飾で塗り固められていた。名前もウソ、生い立ちもウソ。ゲイで黒人で売れない役者。違う自分を演じなければ生きていられなかった。
 ラリーとサラの関係もギクシャクし始める。彼女はロバートと浮気をしていた。でも、ロバートは本気ではない。15歳の時に家を出た彼には、二つの目標があった。一つは作家になること、もう一つはあらゆる女の子とセックスすること。人を愛することには興味がない。
 やがて、ラリーに大きなチャンスが訪れる。映画のオーディションを受けたのだ。気の利いたジョークが得意なラリーは、キャスティング・ディレクターと意気投合。サラはメキシコへ去ってしまったが、彼は映画の仕事を掴んだ。人生悪いことばかりでもない。そう思えたとき、ラリーは母親のおせっかいも何となく受け入れられることが出来るような気がした。うるさい事には変わりないのだけれど。

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カフェに集まって論議を戦わせるラリーと仲間たち

アニタの自殺未遂は毎週の恒例行事

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ヒップなニューヨーカーの集まるホーム・パーティ

ふざけながらアニタの自殺未遂を見学に向う一行だったが・・・

 主人公ラリーの周辺で起きる出来事がパッチワーク風に綴られていくストーリー展開。あらすじは漠然としているが、生き生きとしたセリフと役者の演技がなんとも心地よく、当時のグリニッジ・ヴィレッジの様子が鮮やかに再現されている。登場人物たちのキャラクターもユニークで、それぞれに多面的な人間性がしっかりと描きこまれていて飽きない。まさしく人生いろいろ。アニタが本当に死んでしまったことを知ったコニーが、動揺のあまりアニタとの出会いを取りとめもなく話し始めるのだけれど、そのエピソードがあまりにもおかしくて、みんながどうリアクションしていいのか分からずに固まるシーンなどは、なにか人生の核心を突かれたような気になる。
 監督・製作・脚本を手がけたポール・マザースキーは元映画俳優。この作品は彼の実体験に基づいた自叙伝だ。『ハリーとトント』('74年)や『結婚しない女』('78年)など、数多くの名作を世に送り出してきた名匠だが、最もパーソナルな題材を扱った本作が個人的には一番好きだ。過剰なドラマ演出を極力避け、スパスパとシーンが切り替わっていく編集センスも見事。随所に散りばめられたユーモアも含めて、人間のありのままを等身大に描こうという姿勢が共感できる。
 撮影を手がけたのは『セルピコ』('73年)や『狼よさらば』('74年)のアーサー・オーニッツ。ニューヨークの喧騒がそのまま伝わってくるような、ライブ感溢れる映像とカメラワークがとてもいい。音楽には『ロッキー』('76年)で有名なビル・コンティが参加。粋で洒脱なジャズが、グリビッジ・ヴィレッジ独特の雰囲気と時代の空気をさりげなく演出している。

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ラリーとサラの間には大きな溝が生まれる

ゲイで黒人で売れない俳優バースタイン役のアントニオ・ファーガス

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女たらしの詩人ロバートを演じるクリストファー・ウォーケン

若き日のジェフ・ゴールドブラムもチョイ役で登場する

 主人公ラリー役を演じているレニー・ベイカーは、当時ブロードウェイの舞台で脚光を浴びていた舞台俳優だった。ハンサムではないものの、どこか憎めない魅力的な男で、自虐的なジョークや有名人の物まねを機関銃のように喋くりまくるのがいかにもニューヨーカーといった感じ。1982年に36歳という若さで癌のため亡くなってしまった。
 そして、彼の母親フェイを演じているのが偉大なる名女優シェリー・ウィンタース。彼女の存在なくしては、この作品の魅力は語れないだろう。とにかく、素晴らしい。息子のことが大好きで大好きで。だからこそ心配で、あれこれとやかましく口を出してしまう。それが息子の重荷になっていると何となく気付いてはいるものの、どうしても我慢ができない。頑張って口をつぐもうとはしてみるが、ついつい世話を焼いてしまう。そのどうしようもない愛情の深さ。満面の笑顔の間に、時折見せる寂しげな表情。息子が大人になっていくのを本当は喜ぶべきなんだろうことは分かっているが、やっぱり寂しいんだから仕方がない。表向きは口うるさい肝っ玉母さんだが、中身はとても脆くて弱い女性なのだ。そんな母親の複雑な心情と豊かな愛を、シェリーはまさに全身体当たりで演じてみせる。いや、演技だということすら忘れさせられてしまうほどの迫力と言えるだろう。
 そんな妻の陰に隠れがちな夫ベンを演じているマイク・ケリンも良かった。どちらかというとアクの強い警官やマフィアを演じることの多い俳優だが、ここでは物静かだけどいざという時には頼りになる父親役。ここぞという時にピシャッと妻をたしなめ、さりげなく息子の援護をするあたりが実に心憎い。
 また、ラリーがバイトするコーヒー・スタンドの主人ハーブを演じているルー・ジャコビも最高。ガミガミと口うるさくて、いつも早口でまくしたてる生粋のニューヨーカー。でも性根は優しくて、ラリーの映画出演が決まったときには我が子のように大喜びする愛すべきオヤジさんだ。
 その他、ラリーの恋人サラ役には『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』('86年)のオードリーや『レオン』('94年)のナタリー・ポートマンの母親役でお馴染みのエレン・グリーン、バーンスタイン役にはテレビ『刑事スタスキー&ハッチ』のヒョロマツことハギー・ベアー役で有名なアントニオ・ファーガス、アニタ役には『エデンの東』('54年)や『マイノリティ・レポート』('02年)の名女優ロイス・スミス、コニー役には主にテレビで活躍したコメディエンヌ、ドリ・ブレナーら個性的な顔ぶれが登場。
 また、愛することを知らない詩人ロバート役を、当時まだ23歳だったクリストファー・ウォーケンが演じている。そのハンサムなこと!若いといえば、ラリーがオーディションで知り合う神経質で気位の高い若手俳優として、やはり当時まだ無名だったジェフ・ゴールドブラムも顔を出している。それ以外にも、ビル・マレーやヴィンセント・スキャヴェッリ、スチュアート・パンキンなど、後に有名になるスターがチョイ役で登場するのにも注目しておきたい。

 

メラニー・グリフィスの セクシー・ジョイライド
Joyride (1977)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2004 MGM (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:
1/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:ジョセフ・ルーベン
製作:ブライス・コーエン・カーティス
脚本:ジョセフ・ルーベン
    ピーター・レイナー
撮影:スティーブン・M・カッツ
音楽:ジミー・ハスケル
主題歌:ELO
     バリー・マン
出演:デジ・アーナズ・ジュニア
    ロバート・キャラダイン
    メラニー・グリフィス
    アン・ロックハート
    トム・ライゴン

 “セクシー・ジョイライド”なんて能天気なセックス・コメディのようなタイトルだが、残念ながら(?)さにあらず。70年代の無軌道な若者像を、ほろ苦いタッチで描いた青春ロードムービーだ。それにしても、この邦題はないだろう。少なくとも、本編を全く見ないで適当にくっつけたタイトルとしか思えない。日本ではビデオ発売のみで終わってしまったということも含め、なんとも不遇な扱いを受けてきた作品だ。
 主人公は3人の男女。高校を卒業して地元で働いている、10代の平凡な労働者クラスの若者たちだ。ビジネス・チャンスを求めてアラスカへやって来た彼らだったが、盗難に遭って一文無しに。仕事をしながら共同生活を送るようになるが、上手くいかずに強盗を働いてお尋ね者となってしまう。これがちょっと前のアメリカン・ニューシネマの時代であれば、破滅への道をまっしぐらということになるのだろうが、そうしたペシミズムを全く寄せ付けない、ほのぼのとした優しさが70年代後半という時代を象徴しているようにも思う。それは別にハリウッド的なご都合主義という意味ではない。
 1977年といえばジミー・カーターが大統領に就任した年。ロッキード事件で政治に深く失望した人々は、新しい大統領の誕生に大きな期待を寄せていた。失望や挫折の果てに、おぼろげながらも希望の光を見い出すという本作のストーリーには、そんな時代の空気も読み取れるように思う。

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アラスカを目指すスージー、ジョン、スコットの3人

気ままな共同生活が始まる

 物語の始まりはロサンゼルス。中古車の販売営業をしているスコット(デジ・アーナズ・ジュニア)、町工場で働くジョン(ロバート・キャラダイン)、ボーリング場の受付嬢スージー(メラニー・グリフィス)の3人は、それぞれ仕事を辞めてアラスカへと向った。退屈でうだつのあがらない毎日に嫌気が差していた彼らは、これまでの貯金で漁船を買い、自分たちで漁業を始めようと計画していたのだ。
 アラスカはアメリカで最後のフロンティアと呼ばれ、一攫千金を夢見て全米から数多くの人々が集まっていた。その熱気に圧倒されながらも、将来への期待感で羽目を外して酒を飲み交わす3人。しかし翌朝、車へ戻って見ると中が荒らされており、大切に持ってきた全財産を盗まれてしまった。
 仕方なく、スージーをナンパしてきたフランク(トム・ライゴン)という男の勤める工場を紹介してもらって働き始めたスコットとジョン。スージーも町の食堂でウェイトレスの仕事を見つけた。ところが、スコットはフランクをリーダーとする従業員グループが、工場で作っている部品を横流ししている事を知ってしまう。協力を拒んだスコットは、その腹いせとしてジョンと一緒に工場をクビになってしまった。一方、スージーの方も食堂のオーナーの理不尽に耐えかね、料理を壁にぶちまけて飛び出す。
 こうして、まるっきりの一文無しとなってしまった3人。一人で飲んだくれていたスコットは、シンディ(アン・ロックハート)という女の子と知り合う。工場の経理部に勤める彼女は、生活費に困ると労働者相手に売春をしていた。ラブラブのジョンとスージーに引け目を感じていたスコットはシンディに一目惚れし、彼女の方でも陰のあるスコットに魅力を感じていた。
 だが、そうしている間にも生活は逼迫していく。ションベンの飛距離比べで小銭を儲けたりするものの、所詮は焼け石に水。困った3人は、工場の経理部へ強盗に入った。その際に事務員を人質に取ったのだが、なんとそれがシンディだった。
 結局、段取りが悪くて強盗には失敗したものの、3人はシンディを連れて逃走。なんとなくウマが合い、警察の包囲網を脱した4人は気楽な逃亡生活を送るようになる。さらに、彼らはシンディの身代金を警察に要求。今度は万事が上手くいき、まんまと身代金を手に入れた。しかし、いつまでもシンディを巻き込むわけにもいかず、3人は彼女を自宅まで送り届ける。
 一軒家を借りた彼らは再び共同生活を送るようになったのだが、シンディと別れた寂しさからスコットがスージーと急接近。2人がシャワールームでじゃれあっている声を耳にしたジョンは、自暴自棄となってカメラ店で万引きをしてしまった。その様子が店の防犯カメラに写っていたことから、ジョンは指名手配されることに。こうして、3人は再び逃亡の旅に出ることとなるのだが、その先には彼らの予想を遥かに上回る数の警察隊が待ち構えていた・・・。

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スコット(D・アーナズ・ジュニア)はシンディ(A・ロックハート)と知り合う

仕事を失って一文無しとなった3人

 全体的にストーリーの流れはスローテンポ。無軌道とはいってもボニー&クライドのような大胆不敵さは微塵もなく、ただ行き当たりばったりに生きているだけの若者たちだ。その不器用さというか、ナイーブで繊細な愚かさが見ていてなんとも微笑ましい。全編を包み込む楽観主義も心地よく、素朴な味わいを醸し出している。間違っても傑作とは呼べないものの、なぜか好きにならずにはいられない作品だ。
 監督・脚本のジョセフ・ルーベンは、高校生男女の学園生活を爽やかに描いた青春コメディ『高校生活』('76年)で注目された人物。当時は良質な青春映画を撮る監督だったが、その後は『愛がこわれるとき』('90年)や『危険な遊び』('93年)、『フォーガットン』('04年)など、サスペンス映画専門に路線変更していった。
 共同で脚本を手がけたピーター・レイナーはアメリカの有名な映画評論家で、脚本家としての仕事はこれ一本だけ。現在は全米映画批評家協会の会長を務めている。撮影のスティーブン・M・カッツは『高校生活』でもルーベン監督と組んだカメラマンで、『ケンタッキー・フライド・ムービー』('78年)や『ブルース・ブラザース』('80年)、『ゴッド・アンド・モンスター』('98年)を手がけている人。もともとはインディペンデント系のB級映画出身で、ジャック・ヒル監督やジョナサン・カプラン監督などと仕事をしていた。
 なお、主題歌を担当したのはELOことエレクトリック・ライト・オーケストラ。挿入歌をバリー・マンが手がけている。また、本編のスコアを書いたのは、『ダーティ・メリー・クレイジー・ラリー』('74年)や『メイクアップ』('77年)などロック色の強い作品が多いジミー・ハスケル。

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やむにやまれず強盗を働くスコットたちだったが・・・

人質として捕らえたのはシンディだった

 そして、本作は主人公を演じる俳優たち全員が2世スターという点でもユニークだった。スコット役のデジ・アナーズ・ジュニアは、大女優ルシール・ボールとラテン・ミュージシャンであるデジ・アーナズの息子。ジョン役のロバート・キャラダインはジョン・フォード映画の名優ジョン・キャラダインの三男で、デヴィッド、キースの弟。スージー役のメラニ・グリフィスは、ヒッチコック映画のスター女優ティッピ・ヘドレンの娘。そして、シンディ役のアン・ロックハートは、テレビ『名犬ラッシー』や『宇宙家族ロビンソン』の母親役で有名な女優ジューン・ロックハートの娘。結局、その後大成することが出来たのはメラニー・グリフィスだけなのだが。

 

イッツ・フライデー
Thank God It's Friday (1978)

日本では1978年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2006 Sony Pictures (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/5.1chサラウンド/音声:英語/字幕:英語・日本語/地域コード:1/89分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:ロバート・クレイン
製作:ロブ・コーエン
脚本:バリー・アームヤン・バーンスタイン
撮影:ジェームズ・クレイブ
音楽:ハリー・ベッツ
出演:ヴァレリー・ランズバーグ
    テリー・ナン
    チック・ヴェネラ
    ドナ・サマー
    レイ・ヴィット
    マーク・ロナウ
    アンドレア・ハワード
    ジェフ・ゴールドブラム
    ロビン・メンケン
    デブラ・ウィンガー
    ジョン・フリードリック
    ポール・ジャバラ
    マーリャ・スモール
特別出演:コモドアーズ

 映画『サタデー・ナイト・フィーバー』('77年)の大ヒットを受け、ソウル・ミュージックの元祖モータウン・レコードとディスコ・ミュージックの総本山カサブランカ・レコードが共同制作したディスコ映画の決定版。70年代の代表的なポップ・カルチャーといえば、やはりなんといってもディスコ・ブーム。その勢いは映画界をも呑み込み、『サタデー・ナイト・フィーバー』は社会現象にまでなった。当然のごとく、柳の下のドジョウが溢れかえったわけだが、どれも安易に作られたエピゴーネンばかり。そうした中で、最先端のディスコ・ミュージックを発信し続ける大手レコード会社の手がけた本作は、少なくともディスコ映画という限られたジャンルの中では別格の面白さだった。
 とはいえ、冷静に映画作品として見れば平凡な出来栄え。何とかディスコに入り込んでダンス・コンテストに出場しようとする未成年の女の子2人を中心に、倦怠期を迎えた若夫婦、ナンパ目的でディスコにやって来たイケてない若者グループ、出会いに消極的なお堅い美人OL、そしてライブ・ステージに立つチャンスを掴もうと必死に自分を売り込む無名の女性歌手など、ディスコの一夜を舞台にした様々な人間模様が描かれていく。要は、ディスコ版『グランド・ホテル』といった按配だ。いずれのエピソードも残念ながら軽薄短小。人間描写が通り一遍等で、表面をなぞっただけという印象は否めない。
 やはり、本作の主人公はディスコ・カルチャーそのものなのだろう。『サタデー・ナイト・フィーバー』がディスコに賭ける青春を描くことによって、一人の若者の生き様や成長を物語っていたのに対し、本作はディスコの楽しさを描くためだけに物語が存在する。あくまでも人間ドラマは添え物にしか過ぎないのだ。ファッションも最高、ローラー・スケートも最高、ダンスも最高、そしてもちろん音楽も最高。全編に散りばめられた70年代のトレンドと、ムンムンとしたナイトライフの熱気や躍動感を素直に楽しみたいところだ。

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オープンしたばかりの巨大ディスコ、THE ZOO

週末の金曜日ともなればダンス・フロアは人で溢れかえる

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仲良し女子高生フラニー(V・ランズバーグ)とジーニー(T・ナン)

倦怠期の若夫婦デイヴ(M・ロナウ)とスー(A・ハワード)

 舞台はロサンゼルス。街が人でごった返す金曜日の夜、新しくオープンしたばかりの巨大ディスコ、THE ZOOには流行に敏感な若者が続々と集まってくる。今夜は恒例のダンス・コンテストが行われるということもあって、ディスコは溢れんばかりの人々で賑わっていた。ヒッチハイクでようやくたどり着いた仲良し女子高生フラニー(ヴァレリー・ランズバーグ)とジーニー(テリー・ナン)も、コンテストへの出場が目当て。2人はキッスのコンサート・チケットを買うために、コンテストの賞金を狙っていたのだ。
 2人はなんとか年齢を偽って中に入ろうとするものの、ID提出を求められてあえなく追い出される。駐車場に座り込んでガックリしていると、そこへヘビ革のカウボーイ・ルックに身を包んだ陽気なラテン系の若者ゴメス(チック・ヴェネラ)が登場。ディスコ・キングの異名をとる彼と意気投合した2人は、裏口からこっそりと中へ入り込んだ。
 一方、近くのレストランで結婚記念日を祝っていた若い夫婦デイヴ(マーク・ロナウ)とスー(アンドレア・ハワード)。2人の間には何となく溝が生まれていた。刺激が必要だと感じたスーは、思いつきでディスコへ行こうと言い出す。生まれて初めてのディスコに圧倒される2人。そんな2人に近づいてきたハンサムで女好きのマネージャー、トニー(ジェフ・ゴールドブラム)がスーを甘い言葉で誘惑する。デイヴの方も、ドラッグでハイになったピンク・ヘアーの女の子ジャッキー(マーリャ・スモール)と盛り上がり、夫婦は結婚生活の危機を迎える。
 親友マディ(ロビン・メンケン)に連れられて、嫌々ながらディスコに来たジェニファー(デブラ・ウィンガー)。積極的に出会いを探そうとするマディだったが、お堅いジェニファーはどうも居心地が悪い。見るからに地味でイケてないケン(ジョン・フリードリック)、カール(ポール・ジャバラ)、ガス(チャック・サッチ)ら若者グループは、何としてでもナンパをしようと目の色を変えている。そんな中で、真面目で奥手なケンだけは何となく乗り気がしないでいた。夢中で踊る群衆に押されてソファに座り込んだジェニファー。ふと隣を見ると、そこにケンが座っていた。お互いに一目で惹かれあう2人。これは運命の出会いなのだろうか?

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売れない女性歌手ニコール(D・サマー)

ナンパを断るのに必死のジェニファー(D・ウィンガー)

 フロアを見渡せるDJブースでは、THE ZOOのメインDJボビー(レイ・ヴィット)が焦りまくっていた。ダンス・コンテストの目玉は人気グループ、コモドアーズによるライブ演奏なのだが、ドラマーがまだ到着していなかったのだ。ラジオの全国ネットで生放送されていることもあり、ライブに穴を開けるわけにはいかない。そこへ、ニコール(ドナ・サマー)という女性が押し入ってくる。彼女は売れない歌手で、ライブ・ステージに立つチャンスを狙っていた。必死に自分を売り込もうとするニコールだったが、ボビーにしてみれば彼女に構っている場合じゃない。意を決したニコールは順番に並べられているレコードの中に自分のレコードを紛れ込ませ、勝手にステージへと上がって歌いだしてしまった。ところが、これがお客には大受け。彼女には惜しみない拍手が送られ、一夜にして新たなディスコ・クィーンが誕生した。
 そうこうしているうちにコモドアーズのドラマーも到着し、遂にダンス・コンテストが始まる。男女ペアじゃなければ出場できないと知ったフラニーとジーニーは慌てたものの、フラニーとゴメスがペアを組んで出場するということで解決。ディスコの夜はいよいよ最大の山場を迎え、全ての人々に素晴らしいハッピー・エンドがもたらされようとしていた。

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ディスコひと筋の生活を送っている若者ゴメス(C ・ヴェネラ)

女好きのマネージャー、トニー(J・ゴールドブラム)

 監督のロバート・クレインはもともと小説家だった人。『殺したいほど愛されて』('84年)や『バーニーズ/あぶないウィークエンド』('89年)など、コメディ映画の脚本家として知られている。映画の監督を手がけたのは、本作と『バーニーズ2』('92年)の2本だけだったようだ。
 脚本を手がけたバリー・アームヤン・バーンスタインも、これが処女作。彼は後にプロデューサーへ転向し、アームヤン・バーンスタインの名前で『コミットメンツ』('91年)や『エア・フォース・ワン』('97年)、『スパイ・ゲーム』('01年)、『ドーン・オブ・ザ・デッド』('04年)などのヒット作を数多く生み出している。
 製作を担当したロブ・コーエンは、『デイライト』('96年)や『ワイルド・スピード』('01年)、『トリプルX』('02年)、『ステルス』('05年)などの監督としても有名な人物。プロデューサーとしても、『バトルランナー』('87年)や『イーストウィックの魔女たち』('87年)、『バード・オン・ワイヤー』('90年)などを手がけている。
 そして、ドナ・サマーの歌う主題歌『ラスト・ダンス』を作曲したのがポール・ジャバラ。全米チャートでナンバー・ワンに輝き、アカデミー賞でも最優秀主題歌賞を受賞した。ジャバラはもともと舞台のミュージカル俳優で、ウェザー・ガールズの『ハレルヤ・ハリケーン』やダイアナ・ロスの『ワーク・ザット・ボディ』などのディスコ・ヒットを数多く生み出したヒットメーカーだ。本作ではメガネのイケてない若者カール役で出演もしている。残念ながら92年にエイズのため死去してしまった。

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念願のステージに立ったニコール

ディスコのリズムに乗って踊りだす“自由の女神”

 主人公のフラニーとジェニーを演じているのは、ヴァレリー・ランズバーグとテリー・ナン。ランズバーグは後に人気テレビ・ドラマ『フェーム/青春の旅立ち』で太目の陽気な女の子ドリス役を演じてブレイクすることになるが、この当時はほっそりとスリムで可愛い女の子だった。一方のテリー・ナンは、80年代に一世を風靡したロック・バンド、ベルリンのリード・ボーカリストとしてあまりにも有名。どちらかというと凄みのある姐さんキャラの人だが、若い頃はこんなに初々しくて可愛かったんだ!と、思わず目からうろこの驚き。ちなみに、彼女はクリストファー・リーブ版『スーパーマン』のロイス・レイン役のオーディションにも参加していた。父親が俳優だっただけに、女優からキャリアをスタートさせるというのは自然な流れだったのかもしれない。
 そんな2人と知り合うディスコ一筋のラテン系男子ゴメスを演じているのは、『ミラグロ/奇跡の地』('88年)で奇跡を起こす農民ジョー役を演じて絶賛されたチック・ヴェネラ。また、純朴な若者ケンを演じているジョン・フリードリックは、『ワンダラーズ』('79年)のジョーイ役で知られる俳優で、当時アメリカでは人気のティーン・アイドルだった。その他、まだ無名だったジェフ・ゴールドブラムやデブラ・ウィンガーが出ているのも嬉しい。
 そして、無名の女性歌手ニコール役で登場するディスコの女王ドナ・サマー。残念ながら演技のほうはイマイチだが、彼女が『ラスト・ダンス』を歌うライブ・シーンは最高に盛り上がる見せ場だった。

 ちなみに、本作の配給を担当したのはコロムビア・ピクチャーズ。コロムビアといえば自由の女神のトレードマークで有名だが、本作のオープニングではその自由の女神がディスコのリズムに乗って踊りだす。

 

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