HARD TO FIND FILMS
60年代クラシック映画篇2

 

荒野を歩け
Walk On The Wild Side (1962)
日本では1962年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2004 Columbia Pictures (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1
/114分/製作:アメリカ

映像特典
予告編集
監督:エドワード・ドミトリク
製作:チャールズ・K・フェルドマン
原作:ネルソン・アルグレン
脚本:ジョン・ファンテ
   エドモンド・モリス
撮影:ジョセフ・マクドナルド
音楽:エルマー・バーンスタイン
出演:ローレンス・ハーヴェイ
   キャプシーヌ
   バーバラ・スタンウィック
   ジェーン・フォンダ
   アン・バクスター
   ジョアンナ・ムーア
   リチャード・ラスト
   カール・スウェウンソン
   ドナルド・バリー
   フアニタ・ムーア
   ジョン・アンダーソン
   リー・マーヴィン

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恋人の行方を捜して旅する青年ドーヴ(L・ハーヴェイ)

ドーヴはキティ(J・フォンダ)という家出娘と意気投合する

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善悪の区別のつかないキティにドーヴは呆れ果てる

ダイナーの女将テレシーナ(A・バクスター)が人探しに協力

 1930年代のニューオーリンズを舞台に、残酷な運命に翻弄される若い男女の哀しき恋愛模様を描いたメロドラマ。『十字砲火』(47)や『折れた槍』(54)で知られる名匠エドワード・ドミトリクによる退廃感溢れるスタイリッシュな演出と、エルマー・バーンスタインによる気だるいニューオーリンズ・ジャズの音色。むせ返るような倦怠感が、なんとも言えない独特の余韻を残す佳作だ。
 主人公はテキサス生まれの素朴な青年ドーヴ。音信不通となった恋人ハリーを探してニューオーリンズへと流れ着いた彼は、そこで高級娼館の娼婦と成り果てた彼女と再会する。足を洗って田舎へ帰ろうというドーヴ、退廃的な生活の中で人生の目的を失ってしまったハリー、そして、そんな彼女を絶対に離すまいとする娼館のマダム・ジョー。
 本作は戦後のハリウッド映画で初めて、レズビアンのキャラクターを正面切って描いた作品としても知られる。大女優バーバラ・スタンウィックが演じるマダム・ジョーだ。彼女がレズビアンであることを示す直接的な描写こそないものの、そのハリーに対する常軌を逸した執着心と嫉妬心は、明らかに彼女がハリーを自分の“愛人”として囲っていることを意味する。それゆえに、彼女はハリーに夜の仕事は一切させず、篭の中の鳥として束縛し続けているのだ。
 また、リトアニア人のローレンス・ハーヴェイとフランス人のキャプシーヌが、アメリカ南部の男女を演じるというキャスティングも一風変わっている。サディスティックな用心棒オリバーや盗人の不良娘キティなど、娼館にたむろする怪しげな住人や客たちの存在もまた、一種独特な世界をかもし出して面白い。
 さらに、主演のキャプシーヌとバーバラ・スタンウィックがそれぞれ実生活でもレズビアンであったとされていること、当時24歳だったジェーン・フォンダが10代の不良娘役を演じていることなど、下世話な興味の尽きない映画と言えよう。
 アメリカではキャンプ・クラシックとして、特にゲイやレズビアンの間で人気の高い作品。ヨーロッパ的なペシミズムとハリウッド的なセンセーショナリズムという組み合わせが、ある種のキッチュな魅力を醸し出しているのだろう。なかなかクセになる作品だ。

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ニューオーリンズのとある娼館

ハリー(キャプシーヌ)は高級娼婦だった

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ハリーを独占しようとするマダム、ジョー(B・スタンウィック)

用心棒オリバー(R・ラスト)はサディスティックな性格だ

 テキサスの荒野。野宿する場所を探していた青年ドーヴ(ローレンス・ハーヴェイ)は、キティ(ジェー・フォンダ)という若い家出娘に出会う。鼻っ柱が強くて抜け目のないキティと、寡黙で実直なドーヴはなぜかウマが合い、一緒にニューオーリンズへ向けて旅をすることになる。
 ハンサムなドーヴに惹かれるキティだったが、彼は行方知れずの恋人を探して旅を続けていた。プライドを傷つけられたキティは、なにかにつけてドーヴに反抗するようになる。列車への無賃乗車やヒッチハイクを経て、ようやくニューオーリンズ郊外へとたどり着いた2人。腹をすかせたドーヴは、キティを連れてメキシコ料理のダイナーへと入る。相変わらずヘソを曲げたままのキティは、ダイナーの温厚な女主人テレシーナ(アン・バクスター)にも食ってかかる始末だった。
 ところが、食事を終えたキティが腹痛を訴えて倒れた。店の奥のベッドルームへと彼女を運ぶテレシーナ。実はキティの腹痛は仮病で、彼女はテレシーナとドーヴが出て行った隙に部屋を物色し始める。やがて何食わぬ顔で部屋を出てきたキティは、食中毒で店を訴えるとテレシーナを脅して、飲食代をタダにさせようとした。彼女が仮病を使ったと見抜いたテレシーナは、2人を冷たく追い出す。
 キティの言動に呆れ果てたドーヴは、彼女と袂を分かつことにする。さらに、彼女の懐から盗んだ宝石まで発見。怒り心頭でキティを突き放すドーヴだったが、善悪の区別がつかないキティには彼の怒りが理解できず、ただうろたえて涙するばかりだった。
 ダイナーへ戻って宝石をテレシーナに返したドーヴ。テレシーナは彼が行方知れずの恋人を探していると知り、力を貸すことを申し出る。その恋人の名前はハリー・ジェラード。ドーヴはテレシーナのダイナーで寝泊りしながら働き、その賃金で新聞の人探し欄に広告を載せ続けた。
 ドーヴの捜し求める女性ハリー(キャプシーヌ)は、ニューオーリンズ市内の豪奢な建物の一室に住んでいた。そこは地元でも有名な高級娼館。マダムのジョー(バーバラ・スタンウィック)は新聞の人探し欄のことに気付いていたが、あえて見て見ぬふりを決め込んでいた。どうせハリーは新聞なんぞ読まない。
 ハリーはジョーの“愛人”的な存在だった。娼婦の一人として身を置いているが、実際に夜の仕事をすることは殆んどない。ジョーが許さないからだ。ハリーはマダムにとって特別な存在。美しい“人形”だった。
 来る日も来る日も何をするということもなく、気が向いたら趣味の彫刻に向うだけの毎日。そんな退屈と倦怠の中で、ハリーは生きる情熱そのものを失っていた。仲の良い娼婦プレシャス(ジョアンナ・ムーア)が用心棒オリバー(リチャード・ラスト)に虐待され、一緒にここを逃げ出そうと懇願しても、彼女にはそんな気力などなかった。この気ままな生活に慣れすぎてしまった、と。
 そんなある日、ドーヴのもとに一本の電話が入る。それは女性からの匿名電話で、ハリーの居場所を教えるものだった。伝えられた住所へと向ったドーヴは、3年ぶりにハリーと再会を果たす。しかし、ハリーは大いに戸惑った。
 かつて情熱的な愛を交わしたドーヴとハリー。その後、彼女は彫刻家を目指してニューヨークへ渡り、後からドーヴも合流するはずだった。だが、父親が病に倒れたことからドーヴは身動きが取れなくなり、ハリーは大都会の真ん中で孤独と貧困に耐える毎日を送る。そんな時、画廊で彼女の作品を購入したことから親しくなったのがジョーだった。
 過去の自分とは決別したつもりだったハリーだが、ドーヴとの再会で大きく心が揺れ動く。彼との逢瀬を重ねるうちに、ハリーは諦めていた幸せな結婚まで夢見るようになった。しかし、彼は自分が娼婦であることを知らない。2人の関係を悟ったジョーは、彼に真実を告げるとハリーを脅し、別れるように強く迫った。
 ドーヴからプロポーズを受けたその日、置手紙を残して去っていくハリー。その晩、彼女の行方を追って娼館へとやって来たドーヴは、ようやく彼女が娼婦であることを知る。ショックのあまり自暴自棄となるドーヴ。
 だがやがて、彼はハリーを夜の世界から救い出そうと決心。一方その頃、娼館ではジョーに拾われたキティが、新人として働き始めていた・・・。

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ハリーの居場所を突き止めたドーヴ

3年ぶりの再会に戸惑いを隠せないハリー

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ハリーは自分の身の上を話すことにためらう

逢瀬を重ねていくドーヴとハリー

 登場人物の誰もが報われぬ愛を求め、そうと知りつつお互いに悲劇へと向っていく切なさ、哀しさ、やるせなさ。原作はシナトラ主演『黄金の腕』(55)の原作者でもあるネルソン・アルグレンが、56年に発表したベストセラー小説『荒野を歩め』である。ただ、ストーリーはかなり脚色されているようだ。
 例えばカフェの女主人テレシーナは、原作では少年だったドーヴに読み書きを教えてくれた女性。彼女に盗みを疑われたことから、ドーヴは家を追い出されることになる。さらに、ニューオーリンズへ流れ着いたドーヴは、画家を気取りながら裕福な女性たちにたかる毎日。そんな折、学校教師から身を持ち崩した高級娼婦ハリーと知り合い、彼女の不思議な魅力に惹かれていく・・・というのが原作の粗筋だ。
 脚本にはテネシー・ウィリアムス原作の『肉体のすきま風』(61)で知られるエドマンド・モリスが参加。どことなく『欲望という名の電車』を彷彿とさせる雰囲気があるのは、もしかしたらそのせいかもしれない。さらに、当時のビートニクにも多大な影響を与えた有名な作家ジョン・ファンテも共同で脚本を執筆。随所に織り交ぜられた宗教的シンボリズムは、彼の影響によるものと言って間違いないだろう。また、2度のオスカーに輝く大御所脚本家ベン・ヘクトが、匿名で脚色に加わったとも言われている。
 官能的でスタイリッシュな映像を手掛けたのは、『若き獅子たち』(58)や『ワーロック』(59)でもドミトリク監督と組んだ名カメラマン、ジョセフ・マクドナルド。また、オープニングのタイトル・デザインをソール・バスが担当しているのも注目だ。
 さらに、キャプシーヌの身にまとうゴージャスなドレスをデザインしたのはピエール・カルダン。どう見ても30年代という時代設定から完全に浮いてしまっているのが気になるところだ。ただ、プロデューサーのチャールズ・K・フェルドマンは当時キャプシーヌの売り出しにご執心だったらしいので、その辺のリアリズムというのは一切無視してしまったのだろう。
 そして、全編を覆う気だるいジャズ・スコアを手掛けたのが、『モダン・ミリー』(66)でオスカーを受賞した大御所エルマー・バーンスタイン。本作でもオスカーにノミネートされ、ブルック・ベントンの歌った主題歌はゴスペル・スタンダードとして今なお愛されている。

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2人の関係を知って激怒するジョー

ハリーはジョーの独占欲と嫉妬に屈するしかなかった

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束の間の幸せを噛みしめるハリー

だが、彼女は既に別れる決意を固めていた・・・

 主人公ドーヴを演じているのは、『殺しのダンディー』(68)や『亡命者』(72)などで有名な渋い二枚目俳優ローレンス・ハーヴェイ。『年上の女』(58)ではアカデミー主演男優賞にもノミネートされ、映画監督としても才能を発揮するという多彩な人物だった。スターとしては比較的地味なタイプの人だが、それが逆にドーヴという人間の素朴さ、実直さに説得力を与えているように思う。
 一方のハリー役を演じるキャプシーヌは、トップ・モデル出身らしい華やかさを持ったスター女優。演技者としては過小評価され続けた人だが、その持ち味であるヨーロッパ的なアンニュイさがハリー役にはピッタリだった。やはり雰囲気で演じるタイプの人なのだろう。ハリウッドを活動の拠点としたのは彼女にとって不幸だったように思うのだが、本作に限っては全くの例外。彼女の代表作と言って差し支えないはずだ。
 そのハリーを囲う嫉妬深い娼館マダム、ジョーを演じているのは、『ステラ・ダラス』(37)や『深夜の告白』(44)など4度のアカデミー主演女優賞候補に輝く伝説的大女優バーバラ・スタンウィック。彼女がレズビアンだったという噂は昔から有名だが、もしそうだとすれば大変勇気のある大胆なキャスティングだ。
 さらに、当時売り出し中だったジェーン・フォンダが家出娘キティ役で登場。まだまだ勢いだけで演じているような荒削りさが目立つものの、物事の善し悪しを教わってこなかった無教養な田舎娘のひたむきさを体当たりで表現して好感が持てる。
 また、ダイナーの女主人テレシーナ役には、『イヴの総て』(50)のイヴ役でも有名なオスカー女優アン・バクスター。若いドーヴに密かな想いを寄せる中年女性という役どころだ。バクスターといえば計算高い悪女役というイメージが強いだけに、そのしっとりとした切ない演技は意外なくらいに好感触だった。
 その他、テイタム・オニールの母親としても知られる女優ジョアンナ・ムーアが気の良い娼婦プレシャス役、ウィリアム・キャッスルの『第三の犯罪』にも出ていたリチャード・ラストが用心棒オリバー役、『悲しみは空の彼方に』(59)で知られる黒人女優フアニタ・ムーアが娼館のメイド役を演じている。また、当時既に人気スターだったリー・マーヴィンが、なぜかチョイ役で顔を出しているのも意外だった。

 

絞殺魔
The Boston Strangler (1968)

日本では1968年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2004 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ・モノラル/音声:英語・スペイン語・フランス語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/
116分/製作:アメリカ

映像特典
AMC製作メイキング・ドキュメンタリー
事件のニュース映像集
ティーザー予告編
オリジナル劇場予告編
監督:リチャード・フライシャー
製作:ロバート・フライアー
原作:ジェロルド・フランク
脚本:エドワード・アンハルト
撮影:リチャード・H・クライン
音楽:ライオネル・ニューマン
出演:トニー・カーティス
   ヘンリー・フォンダ
   ジョージ・ケネディ
   マイク・ケリン
   ハード・ハトフィールド
   マレー・ハミルトン
   ジェフ・コーリー
   サリー・ケラーマン
   ウィリアム・マーシャル
   ウィリアム・ヒッキー
   ダナ・エルカー
   ジェームズ・ブローリン

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ボストンに住む独り暮らしの老婆が次々と絞殺される

地道な聞き込み捜査を続けるディナターレ刑事(G・ケネディ)

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警察は一斉に変質者や痴漢常習者の検挙を開始するが・・・

事件に対するマスコミ報道も加熱していく

 1962年から64年にかけて13人もの犠牲者を出し、全米を震撼させたボストン連続絞殺事件を、『ミクロの決死圏』(66)や『トラ・トラ・トラ!』(70)で知られる名匠リチャード・フライシャーがドキュメンタリー・タッチで映画化した作品。
 今見ても斬新かつ大胆なスプリット・スクリーン(分割画面)による巧みなディテール描写、トニー・カーティスを筆頭とする俳優陣のリアルで気骨溢れる演技、そして一切の無駄なくスピーディに展開するフライシャーの見事な演出。ヒッチコックの『サイコ』(60)と並んで、60年代を代表するスリラー映画と呼ぶに相応しい傑作中の傑作だ。
 物語はボストンのアパートの一室で独り暮らしの老女が何者かによって絞殺されるという事件から始まり、次から次へと増えていく犠牲者、不安におののく市民、難航する捜査に焦りを隠せない警察などの姿を、まるでニュース・フィルムのようなリアリズムで追っていく。中盤になってようやく犯人アルバート・デ・サルヴォが登場し、後半では捜査本部長ボトムリーとデ・サルヴォによる壮絶な尋問バトルが展開。その圧倒的なスピード感と迫力には脱帽するばかりだ。
 また、頻繁に登場するスプリット・スクリーンの効果が、単なるスタイルやムードに終始していないというのもポイントが高い。ある時は殺人現場の凄惨な様子をあらゆる角度から捉え、ある時は犯人が巧みな方法で犠牲者の部屋へ入り込んでいく様子を犠牲者の側と犯人の側の両方から同時並行で描き、ある時は恐怖と不安に怯える市民の姿を自由自在にコラージュしていく。
 ただスタイリッシュだからという理由で画面を分割しているのではなく、その手段と目的が誰の目から見ても明確で、なおかつ状況を一層のこと分かりやすくし、しかもストーリーに更なる深みを与えている。これほどまでにスプリット・スクリーンを効果的に使った映画というのも珍しいかもしれない。
 さらに、警察の捜査過程を詳細に描きながら、大都会に渦巻く様々な欲望や人生を浮き彫りにしていくストーリーテリングも実に巧みだ。独り暮らしの孤独な老人、社会の偏見に曝される同性愛者、変わった性癖を抑えることのできないフェティシスト、危険と隣りあわせで生きる娼婦やチンピラたち、希望のない貧しい暮らしを送るスラム街の人々。十人十色の赤裸々な人間模様が徹底したリアリズムで描かれていく。
 もちろん、デ・サルヴォ役を演じるトニー・カーティスの演技も素晴らしい。ごく平凡な良き家庭人であると同時に、恐るべき連続殺人鬼でもあるデ・サルヴォの二面性を、驚くほどの自然体で演じてみせるのだ。彼にとって一世一代の名演技と言えよう。
 兎にも角にも、映画ファンなら一生に一度は必ず見ておきたい作品だ。

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不安と恐怖の毎日を強いられる市民たち

それでも犠牲者は増えていく

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捜査本部長に任命されたボトムリー(H・フォンダ)

疑心暗鬼になった市民からの通報や密告が相次ぐ

 アポロ14号の宇宙飛行士アル・シェパードとジョニー・グレンの来訪を記念した祝賀行事で盛り上がるボストン。アパートの一室で独り暮らしの老女が絞殺死体で発見される。その数日後、数ブロック離れた場所のアパートで、再び老女が同じ手口で殺された。
 捜査を担当したディナターレ刑事(ジョージ・ケネディ)は同一犯による犯行と睨み、近所の売春婦から変質者の情報を聞きだしていたが、なかなか埒が明かない。そうこうしているうちに犠牲者はさらに増え、マスコミも大きく注目するようになった。
 事件に共通しているのは、犠牲者がベテラン看護婦であること、犯人が配管工を装って犠牲者宅に入ったらしいということ。警察は一斉に市内の配管工を取り調べ、痴漢常習者や変質者はもとより、普段は気にも留めないようなポルノ愛好家や遊び人までをも一斉に検挙する。
 だが、そんな警察の捜査をよそに再び老女が殺害され、市民は不安におののく毎日を送る。人々は外出する際に護身用具を欠かさず、早々に帰宅して戸締りを徹底し、玄関や廊下の物音に耳をそばだてながら暮らしていた。
 ところが、今度は若い黒人の女性が同じ手口で殺される。しかも、彼女は独り暮らしではなく、ルームメイトの留守中に襲われていたのだ。もはや、年齢や人種に関係なく、ボストンに住む全ての女性市民に危険が迫っていた。
 そこで、ブルックス検事総長(ウィリアム・マーシャル)は特別捜査本部を設置し、検事局に属する有能なベテラン法律家ボトムリー(ヘンリー・フォンダ)を本部長に任命する。警察捜査は専門外だとして当初は就任を渋るボトムリーだったが、大勢の捜査班を統率して迅速な捜査を行うためには、彼のような論理的思考の持ち主が必要だった。
 ボトムリーはディナターレ刑事やソシュニク副署長(マイク・ケリン)、マカフィー巡査部長(マレー・ハミルトン)らを従え、自ら率先して現場の指揮に当たる。ある時は、リッジウェイ(イヴ・コリアー)という女性の告発を受け、ハントレー(ハード・ハトフィールド)という人物をマークした。だが、ハントレーは同性愛者で、告発は彼に振られたリッジウェイの逆恨みだった。妻を虐待する暴力亭主、電話帳で調べた独身女性を付け回すストーカー男など、大都市には様々な人間模様や性欲が渦巻いている。しかし、そのいずれも犯人逮捕にはつながらなかった。
 藁にもすがる思いの警察は、ハルコス(ジョージ・ヴォスコヴェッチ)という超能力者にまで捜査協力を依頼する。しかし、透視によって捜査線上に浮かんだ男オルーク(ウィリアム・ヒッキー)は、女性のハンドバッグを使ってオナニーをするという単なるフェティシストで、残念ながら人殺しをするような人物ではなかった。
 ケネディ大統領の暗殺事件に世界が強い衝撃を受けた63年の冬。家族と共にテレビで葬儀の様子を眺めていた配管工アルバート・デ・サルヴォ(トニー・カーティス)は、夕飯までには帰ると言い残して家を出て行った。そして、とあるアパートへ入り込んだ彼は、バスルームの修理を装って若い女性を殺害する。
 まるで何かに取りつかれたように、独身女性の住まいを物色しては犯行に及ぶデ・サルヴォ。しかし、ダイアン(サリー・ケラーマン)という若い女性を襲った際、必死に抵抗する彼女に手を噛まれ、そのまま殺さないで帰ってしまった。
 さらに、買い物帰りの中年女性の後をつけて、その自宅に忍び込もうとしたデ・サルヴォだったが、その現場を女性の夫に見つかってしまう。彼は猛烈な速さでその場から逃げたものの、通りがかったパトカーに追跡され、あえなく捕まってしまった。
 家宅侵入の現行犯で逮捕されたデ・サルヴォだったが、取り調べに立ち会った検察官は大いに戸惑う。というのも、彼は犯行時の記憶が全くない様子で、自分が無実であると本気で信じているのだ。精神異常の可能性があると考えた検察は、病院の精神科で検査を受けさせることにする。
 その病院にはダイアンが入院していた。事情聴取のために彼女を訪れていたボトムリーとディナターレ刑事は、デ・サルヴォこそ連続絞殺魔であると睨む。だが、彼は完全な二重人格者で、事件当時の記憶が全くない。そこで、ボトムリーは自らデ・サルヴォと一対一の尋問を行うことにする・・・。

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ゲイ・バーでハントレー(H・ハトフィールド)に事情聴取する

婦女暴行で検挙された男はただの暴力亭主だった

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そうこうしている間にも若い女性が殺されていく

警察は超能力者にまで捜査協力を依頼する

 この後半の尋問シーンがまた圧巻。異なる二つの人格の記憶を断片的にフラッシュバックで繋ぎ、デ・サルヴォが徐々にもう一人の自分の存在に気付いていく過程を、様々な特殊効果を駆使しながらビジュアライズしていく。尋問中のデ・サルヴォとボトムリーの2人が、いつの間にかフラッシュバック映像の中に入り込んでいくシーンなどは目からウロコだ。
 一方、最終的にデ・サルヴォが記憶を取り戻すシーンでは、逆にフラッシュバックを一切使わず、彼自身の断片的な言葉と表情、動作だけで内的世界を表現していく。これは非常に困難でリスキーなシーンだが、それまでの見事なフラッシュバック映像があったからこそ、観客は彼が心の目で何を見ているのかが手に取るように理解できるのだ。リチャード・フライシャー恐るべし!
 原作はノンフィクション作家ジェロルド・フランクが66年に出版したベストセラー本。フィルムノワールの傑作『暗黒の恐怖』(50)や、歴史ロマン大作『ベケット』(64)でアカデミー賞を受賞した名脚本家エドワード・アンハルトが脚色を手掛けている。
 さらに、『キャメロット』(67)や『スター・トレック』(80)などで有名なカメラマン、リチャード・H・クラインが撮影監督を担当。『ポセイドン・アドベンチャー』(72)などで4度のオスカー受賞経験のあるSFXマン、L・B・アボットが、フラッシュバック・シーンの見事な視覚効果を手掛けた。彼は『トラ・トラ・トラ!』でもフライシャー監督と組んでいる。

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配管工デ・サルヴォ(T・カーティス)は良き家庭人だった

車で住宅街を物色して回るデ・サルヴォ

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彼は独り暮らしの女性宅を探す

そして、躊躇することなく女性を殺害するのだった

 冒頭でも述べたように、殺人鬼アルバート・デ・サルヴォを演じているのはロマンティック・コメディの2枚目スター、トニー・カーティス。『手錠のままの脱獄』(58)や『スパルタカス』(60)ではシリアスな演技で高く評価されたものの、当時は『求婚専科』(64)や『サンタモニカの週末』(67)などもっぱら軽いラブ・コメディばかりに出演。そのために人気は下降気味で、本人もキャリアの行き詰まりを感じていた時期だったようだ。
 この意外なキャスティングを思いついたのはフライシャー監督自身。だが、周囲のスタッフや重役たちは冗談だと思って相手にしなかったという。その話を人づてに聞いたカーティスは、自ら特殊メイクを施してイメージ写真を製作。それを見たフライシャー監督は強く感銘を受け、テスト・フィルムを撮影してスタジオ関係者を納得させたという。
 ちなみに、本作で俳優としての実力を改めて評価され、ゴールデン・グローブの主演男優賞にもノミネートされたカーティスだったが、なぜかアカデミー賞ではノミネートすらされなかった。この年のオスカーは『オリバー!』や『ロミオとジュリエット』、『冬のライオン』など文芸大作や歴史大作が持て囃され、政治色の強い社会派映画などは敬遠される傾向にあったのだから、それも仕方あるまい。
 さて、そのデ・サルヴォを追いつめる捜査本部長ボトムリー役のヘンリー・フォンダも、大スターならではの圧倒的な存在感で作品に風格を与えている。ディナターレ刑事役を演じるジョージ・ケネディも、たたき上げの苦労人的な雰囲気をかもし出して当たり役だった。
 その他、強面のソシェニク副署長役のマイク・ケリン、寡黙なマカフィー巡査部長役のマレー・ハミルトン(『ジョーズ』の市長さん)、ダンディなブルックス検事総長役のウィリアム・マーシャル(『吸血鬼ブラキュラ』のブラキュラ)、壮絶な暴行を受けた末に生き延びる女性ダイアン役のサリー・ケラーマンなど、脇を固める役者が揃いも揃って素晴らしい演技を見せている。
 また、『男と女の名誉』(85)でオスカー候補になった名優ウィリアム・ヒッキーが変質者オルーク役、『冒険野郎マクガイバー』でもお馴染みの名脇役ダナ・エルカーが暴力亭主パーカーの弁護士役、『ザ・カー』(77)や『悪魔の棲む家』(79)のジェームズ・ブローリンが若手刑事リージ役で顔を出しているのも見逃せない。

 

火曜日ならベルギーよ
If It's Tuesday, This Must Be Belgium (1969)

日本では1969年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2008 MGM/20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ・モノラル/音声:英語・スペイン語・フランス語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/
98分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:メル・スチュアート
製作:スタン・マーギュリーズ
脚本:デヴィッド・ショー
撮影:ヴィリス・ラペニークス
音楽:ウォルター・シャーフ
出演:スザンヌ・プレシェット
   イアン・マクシェーン
   ミルドレッド・ナトウィック
   マレー・ハミルトン
   マイケル・コンスタンティン
   ノーマン・フェル
   サンディ・バロン
   ペギー・キャス
   パメラ・ブリットン
   オーブリー・モリス
   ヒラリー・トンプソン
   ルーク・ハルピン
   ユッテ・ステンスガールド
ゲスト:センタ・バーガー
    マリーナ・ベルティ
    ジョン・カサヴェテス
    ジョーン・コリンズ
    ヴィットリオ・デ・シーカ
    ドノヴァン
    アニタ・エクバーグ
    ベン・ギャザラ
    ヴィルナ・リージ
    エルザ・マルティネリ
    カトリーヌ・スパーク
    ロバート・ヴォーン

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ヨーロッパ観光ツアーに参加したアメリカ人一行

結婚に不安を感じている女性サマンサ(S・プレシェット)

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お気楽なイギリス人ツアー・ガイド、チャーリー(I・マクシェーン)

ミニスカート姿で街角を歩くのはジョーン・コリンズ

 当時アメリカで大ブームだったヨーロッパ観光ツアーを題材に、アメリカ人観光客たちの奇想天外な行動や悲喜こもごもの人間模様を描いたコメディ映画。田舎者丸出しな中流アメリカ人の無知や愚かさを笑い飛ばしつつ、18日間で7カ国を巡るという典型的観光ツアーの忙しなさ、ヨーロッパに来て初めて“自由”の意味を知るという皮肉など、ピリッと辛口の風刺が効いたユーモア・センスを楽しませてくれる作品だ。
 もちろん、ロンドンやブリュッセル、アムステルダム、ベニス、ローマなどの観光名所やナイト・スポットなども盛りだくさん。風光明媚なライン川下りも楽しめるし、ジョン・カサヴェテスやアニタ・エクバーグなどの豪華ゲストが意外なところでカメオ出演するのも愉快だ。
 さらに、ミルドレッド・ナトウィックやマレー・ハミルトン、ノーマン・フェル、オーブリー・スミスなど、アメリカ映画の誇る性格俳優たちが大挙して出演し、個性豊かで憎めない観光客たちをノリノリで演じているのも嬉しい。
 中でも、元軍人のマイケル・コンスタンティンが戦時中の大袈裟な自慢話をしている傍で、ドイツ人の元軍人が同じような自慢話をしながらすれ違っていくエピソードは大爆笑だった。あくまでも能天気で他愛のない風刺コメディと言えばそれまでだが、こういうバラエティ感覚の賑やかな映画もたまには悪くない。

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最新ファッションに目くじらを立てるファーガソン(M・ハミルトン)

ブティックの店員はセンタ・バーガー

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ヒッピーの若者ボー(L・ハルピン)と知り合うシェリー

ブレイクリー(N・フェル)の妻が行方不明に

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チーズ・フォンデュを楽しむチャーリーとサマンサ

ヒッピーの集会で弾き語りを聴かせるドノヴァン

 ヨーロッパ観光ツアーの出発点、ロンドンへと降り立ったアメリカ人観光客の一行。結婚を前に不安を抱えた女性サマンサ(スザンヌ・プレシェット)を筆頭に、ヨーロッパ通を自慢するグラント夫人(ミルドレッド・ナトウィック)、保守的な堅物の会社員ファーガソン(マレー・ハミルトン)にお気楽な妻エドナ(ペギー・キャス)と反抗期の娘シェリー(ヒラリー・トンプソン)、第二次大戦の栄光よ今一度とばかりに浮き足立つジャック(マイケル・コンスタンティン)、フリーセックスが浸透しているヨーロッパの女だったら遊び放題だとウハウハのモテない男バート(マーティ・インゲルス)、ホテルや観光地の備品を持ち帰るのが趣味のハリー(オーブリー・モリス)などなど、参加者は実に個性豊かでクセのある人物ばかりだ。
 そんな観光客たちを引率するツアー・ガイドが、ハンサムでお調子者のイギリス人チャーリー(イアン・マクシェーン)。一行はロンドンの観光名所を巡り、トレンド・スポットでは最新のロンドン・ファッションを買い漁る。しかし、保守的なファーガソンは大のヒッピー嫌いで、まともな人間の来るところではないと大騒ぎ。妻と娘から総スカンを食らってしまう。一方、夜のロンドンへ繰り出したサマンサは、チャーミングなチャーリーの魅力に親しみを覚えていく。
 翌日、一行は寝不足のままバスでオランダのアムステルダムへ。そこで、シェリーはヨーロッパを気ままに一人旅するハンサムなヒッピーの若者ボー(ルーク・ハルピン)と出会う。自由と平和を愛するボーに感化されたシェリーは、スイスで合流することを約束。
 その頃、ブレイクリー(ノーマン・フェル)は妻アーマ(リーヴァ・ローズ)の姿が見えないことに気付いた。実は、独りで観光バスに戻ろうとしたアーマは、間違えて“バンザイ・ツアー”という日本人の観光バスに乗ってしまったのだ。
 ブリュッセルを経てドイツへ入った一行は、ライン川下りを楽しむ。すると、すれ違ったボートで日本人観光客に囲まれたアーマを発見。スイスでは大人たちがチーズ・フォンデュに舌鼓を打つ一方、シェリーはボーと一緒にヒッピーの集会に参加した。
 やがて、一行はイタリアのベニスへ到着。親戚のもとを訪れたイタリア系アメリカ人マリーノ(サンディ・バロン)は、あやうく不細工な従姉妹と結婚させられそうになる。一方、ベニスの夜を一緒に過ごしたサマンサとチャーリーは、一気にロマンティックなムードへ突入。だが、そこへアメリカにいるはずのフィアンセが現れ、サマンサは大いに戸惑う。
 そして、それぞれに様々な思いを抱えながら、観光客たちは最終目的地のローマへと到着する・・・。

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水の都ベニスでゴンドラを楽しむ一行

チャーリーのガールフレンド役で登場するエルザ・マルティネリ

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ローマでは記念写真を撮影

カメラマンはロバート・ヴォーン

 監督は『チャーリーとチョコレート工場』の原点『夢のチョコレート工場』(71)でも知られるメル・スチュアート。主にコメディ映画を得意とした監督だが、もともとはドキュメンタリー畑で名をなした人物だったようだ。
 脚本を手掛けたデヴィッド・ショーは主にテレビ映画やテレビドラマで活躍した脚本家。本作ではゴールデン・グローブ賞と脚本家組合賞にノミネートされた。ちなみに、彼は『ジェシカおばさんの事件簿』でも有名な大女優アンジェラ・ランズベリーの息子だ。
 撮影監督のヴィリス・ラペニークスは、『原始惑星への旅』(65)や“Queen Of Blood”(66)などの低予算SF映画・モンスター映画を数多く手掛けたカメラマン。編集を担当したデヴィッド・サクソンは、人気ドラマ『ヒル・ストリート・ブルース』などで全米編集者組合賞を2度受賞している人物。さらに、音楽スコアをジェリー・ルイスとディーン・マーティンの『底抜け』シリーズで知られる名匠ウォルター・シャーフが担当している。

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下町の靴職人役で登場するヴィットリオ・デ・シーカ

トレヴィの泉でカトリーヌ・スパークとパチリ

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駐留軍時代の恋人(マリーナ・ベルティ)と再会するジャック

アツアツムードでローマの夜を過ごすチャーリーとサマンサ

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ナイトクラブの司会者はアニタ・エクバーグ

マリーノのもう一人の従姉妹はヴィルナ・リージ

 主人公サマンサ役には、トロイ・ドナヒューとのコンビで主演した『恋愛専科』(62)が日本でも大ヒットした女優スザンヌ・プレシェット。“第二のエリザベス・テイラー”とも呼ばれたものの、残念ながら人気は長続きせず、本作を最後に活躍の場をテレビへと移すことになった。晩年もテレビを中心に活躍していたが、08年1月に死去している。
 ハンサムなイギリス人のツアー・ガイド、チャーリー役を演じているイアン・マクシェーンは、ウディ・アレンの『タロット・カード殺人事件』(06)や『光の六つのしるし』(07)、ドラマ『デッドウッド』などで近年再注目されているイギリスの名優。今ではすっかりアクの強い個性的な俳優となったが、当時は軟派なプレイボーイ・タイプの2枚目として売り出されていた。
 その他、『ハリーの災難』(55)や『裸足で散歩』(67)などハリウッド映画には欠かせない脇役だった女優ミルドレッド・ナトウィック、『ジョーズ』シリーズの市長役でお馴染みのマレー・ハミルトン、アメリカでは有名なスタンダップ・コメディアンのサンディ・バロン、最近では『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』(02)の父親役が印象的だったマイケル・コンスタンティン、『スペース・バンパイア』(85)のオーブリー・モリスなどなど、名前は分からなくても顔を見ればすぐにピンと来る名脇役のオンパレード。また、往年の人気ドラマ『わんぱくフリッパー』の主人公サンディ役で知られるルーク・ハルピンが、ヒッピーの若者ボー役で登場する。
 そして、行く先々で目を引くのが、豪華絢爛そのもののゲスト・スターたち。ロンドンの街角ではミニスカートを履いたジョーン・コリンズが通り過ぎ、スイスのヒッピーの集会ではドノヴァンが弾き語りを聴かせ、ベニスでは橋の上に立つエルザ・マルティネリの下をゴンドラが通り、ローマのトレビの泉ではカトリーヌ・スパークと記念写真。ブサメンのバートが出発前に旅行の自慢をするカード仲間が、さりげなくジョン・カサヴェテスとベン・ギャザラだったりするのも凄い。

 

サンタ・ビットリアの秘密
The Secret of Santa Vittoria (1969)
日本では1970年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2008 MGM/20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ・モノラル/音声:英語・スペイン語・フランス語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/
140分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:スタンリー・クレイマー
製作:スタンリー・クレイマー
原作:ロバート・クライトン
脚本:ウィリアム・ローズ
   ベン・マドー
撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽:アーネスト・ゴールド
出演:アンソニー・クイン
   アンナ・マニャーニ
   ヴィルナ・リージ
   ハーディ・クリューガー
   セルジョ・フランキ
   レナート・ラスチェル
   ジャンカルロ・ジャンニーニ
   パトリツィア・ヴァルトゥッリ
   エドゥアルド・チアネッリ
   レオポルド・トリエステ
   クイント・パルメッジャーニ
   ジジ・バリスタ
   ヴァレンティナ・コルテーゼ

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居酒屋を経営するボンボリーニと妻ローザ、娘アンジェラ

ボンボリーニ(A・クイン)はお調子者の飲んだくれ

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ヴィットリーニ(L・トリエステ)らファシストの残党たち

興奮した群衆はボンボリーニを村長として祭り上げる

 第二次世界大戦末期のイタリアの小さな村を舞台に、村長に祭り上げられた飲んだくれのお調子者が、村の特産品であるワインをドイツ軍から守るため奔走するという痛快コメディ。イタリア人のいい加減さ、自由奔放さ、豪快な大胆さを、人情味溢れるユーモアとスリリングなサスペンスを織り交ぜながら描いた傑作だ。
 主人公ボンボリーニは居酒屋を経営している中年男だが、仕事はもっぱら妻ローザに任せっきりで、本人はいつも仲間と飲めや歌えやの大騒ぎ。そんな彼が、なぜだか村長に担ぎ出され、あまり物事を深く考えないお調子者ゆえに、ついつい煽てられてその気になってしまう。
 ところが、ムッソリーニ政権の倒れたイタリアにドイツ軍が侵攻し、ついには村へもやって来ることに。これは大変だ!村の特産品であるワインを根こそぎ持っていかれてしまう!そう考えたボンボリーニは、仲間や村人の協力を得てドイツ軍の目を欺こうとする・・・というわけだ。
 このボンボリーニの浅はかで能天気なお調子者ぶりもなかなか凄いが、何よりも痛快なのは妻ローザの強烈な肝っ玉母さんぶりだ。ダンナや村人たちが、やれファシスト万歳だ、やれ民主主義万歳だと、その場その場でコロコロと主義主張を変えるのを尻目に、常に100%自分を貫き通す究極の個人主義者。相手がファシストだろうとナチスだろうと、気に食わない相手には容赦なく食ってかかる鉄火肌女だ。
 もちろんダンナのことを心底では愛しているものの、とにかく彼のダメ男ぶりには愛想を尽かしている。彼が店のワインを一つ残らず仲間にタダで振舞ってしまった時には、こん棒を片手にダンナを追い掛け回し、フライパンや鍋を片っ端から投げつけ、茹でたパスタを頭からぶっ掛けるという荒業を披露(笑)
 演じているのはイタリアを代表する大女優アンナ・マニャーニ。いかにも腕っ節の強そうなコワモテの彼女だけに、これ以上はないというくらいの見事な当たり役だ。かつてフェリーニが“アンナ・マニャーニはローマそのものだ”というようなことを言っていたが、この尋常ならぬバイタリティというのはローマ人の気質なのかもしれない。まさしく“マンマ・ローマ”だ。
 さらに、ローザが娘アンジェラとダンナの弟分ファビオの交際を猛反対するシーンがあるのだが、娘に“お母さんだって女なんだから分かるでしょ?あそこのジュースが溢れ出るのよ!”と言われてギョッとする表情がこれまた大傑作(笑)
 監督は『渚にて』(59)や『ニュールンベルグ裁判』(61)、『招かれざる客』(67)などの社会派ドラマで知られる巨匠スタンリー・クレイマー。そっちのイメージが強すぎるせいか、コメディの分野では必要以上に過小評価されている嫌いがあるものの、本作を見れば一目瞭然。圧倒的にクレイジーでパワフルなコメディ・センスの持ち主だったと言えよう。

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おだてられてすっかりその気になったボンボリーニ

しかし、妻ローザ(A・マニャーニ)は怒り心頭だ

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ドイツ軍の侵攻を知るファビオ(G・ジャンニーニ)

ボンボリーニと村人は頭を抱える

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トゥーファの絶妙なアイディアに感謝感激するボンボリーニ

村人たちは大切なワインを隠す

 イタリア南部の小さな村サンタ・ヴィットリア。こんな田舎にもファシスト政権が倒れたというニュースがいち早く届き、村の人々はそれまでの不満をぶつけるかのごとく、大騒ぎでファシスト狩りを繰り広げている。そんな村人たちを冷ややかに見つめているのが、居酒屋の肝っ玉女将ローザ(アンナ・マニャーニ)だ。“ファシストを大喜びで歓迎していたヤツらが、今度は後ろから蹴りを入れているなんざ、大した英雄気取りだよ”と。
 ところが、ダンナのお調子者ボンボリーニ(アンソニー・クイン)は祝賀ムードをいいことに、仲間と飲めや歌えやの大騒ぎ。かつて酔った勢いで村の給水塔にムッソリーニを賛美する言葉を落書きした彼だが、今度も自由解放を賛美しようと再び給水塔に登ったはいいものの、酔いが醒めて降りられなくなってしまう。
 騒ぎを聞きつけて集まってきた村人たちは、ボンボリーニを勇気付けるために彼のことを褒めちぎる。ところが、いつの間にか集団で興奮状態に達してしまい、降りてきたボンボリーニを担ぎ上げた村人たちは広場へとパレード。その騒動を見ていたヴィットリーニ(レオポルド・トリエステ)らファシストの残党たちは、村人が暴徒と化する前に手を打たねばと、ボンボリーニを村長に任命することにした。
 かくして、わけも分からないまま村長となったボンボリーニ。しかし、どこまでもお調子者の彼は、ファビオ(ジャンカルロ・ジャンニーニ)やババルーチェ(レナート・ラスチェル)、ルイジ(エドゥアルド・チアネッリ)ら飲み仲間におだてられ、ついついその気になってしまうのだった。
 マキャヴェッリよろしく村の改革に乗り出すボンボリーニだが、彼が選出した役員たちはいずれも素人ばかり。本人は上機嫌で村長を気取っているものの、妻ローザは彼の愚かさに呆れ果て、家から追い出してしまう。
 その頃、隣町の大学へと向ったファビオは、ドイツ軍が各地の町や村を次々と占拠していることを知り、急いでサンタ・ヴィットリアへと引き返す。サンタ・ヴィットリアは近隣でも有数のワインの産地。ドイツ軍はそれを母国へ持ち帰るつもりだ。
 そうと知ったボンボリーニと村人たちは頭を抱える。130万本以上のワイン・ボトルを、どのようにしてドイツ軍から守るのか?そこでボンボリーニは、マラテスタ伯爵夫人(ヴィルナ・リージ)のもとに傷を負って身を寄せている軍人トゥーファ(セルジョ・フランキ)の知恵を借りる。
 そのアイディアとは、古代ローマの遺跡にワインを隠すというもの。ただし、奥のトンネルの中にワインを詰め込み、レンガで壁を完全に塞ぎ、あたかも遺跡の中が空っぽであるかに見せるのだ。この小さな村でワインを隠せるような場所は遺跡だけ。ドイツ軍だってそのくらいのことは気付く。だからこそ、知恵を使って相手の裏をかくというわけだ。
 そうと決まったら善は急げ。ボンボリーニは村人全員を集めてワインを運ばせるが、無秩序ゆえに事態は大混乱。そこで、トゥーファが再びアイディアを提供してくれた。ワイン貯蔵庫から遺跡まで人々を隙間なく整列させ、ワイン・ボトルを一本づつ手渡しで運ぶというのだ。これは効果テキメンだった。
 最初はボンボリーニの指導力のなさに呆れていたローザも、次第に責任感に目覚めていくダンナを見直すようになる。とはいえ、“ドイツ軍にウソがばれたらピストルで頭を撃たれる”と心配するボンボリーニに、“空っぽのアンタの頭にわざわざピストルを向けるヤツなんていないよ”と一蹴。一方、夫を亡くして以来世間に背を向けていたマラテスタ伯爵夫人も、聡明で率直なトゥーファに心を開いていく。
 やがてワインの隠蔽作戦が完了し、ドイツ軍がサンタ・ヴィットリアへとやって来た。軍隊を率いるフォン・プラム大尉(ハーディ・クリューガー)は一見すると物腰の柔らかい人物だが、実は非常に抜け目のない策略家だった。
 最初はワインの在り処を訊ねられても、トボけて知らぬ存ぜぬを通すボンボリーニ。フォン・プラム大尉も当初はイタリア人の陽気さを微笑ましく見ていたが、次第に彼らが何かを隠していることに気付いて苛立ちを募らせていく。
 頭が悪いなにりも村人を守ろうと勇気を振り絞るボンボリーニ。そんなダンナのことを心配するローザ。一方、フォン・プラム大尉はマラテスタ伯爵夫人の美貌に惹かれていく。果たしてボンボリーニはドイツ軍から大切なワインを、そして大切な村の人々を無事に守ることが出来るのか・・・?

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当初は夫の指導力のなさに呆れていたローザだが・・・

トゥーファ(S・フランキ)とマラテスタ伯爵夫人(V・リージ)

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いよいよドイツ軍がやって来る

温厚そうに見える指揮官フォン・プラム大尉(H・クリューガー)

 本作は翌70年のゴールデン・グローブ賞でミュージカル・コメディ部門の最優秀作品賞を受賞したほか、監督賞・主演女優賞・主演男優賞・音楽賞などにノミネート。アカデミー賞でも最優秀音楽賞と最優秀編集賞にノミネートされた。
 原作はアメリカの有名なノンフィクション作家ロバート・クライトンの書いた最初のフィクション小説。当時、ニューヨーク・タイムスのベスト・セラー・ランキングで18週に渡って1位を独占するという驚異的な大ヒットを記録した。
 そのベストセラー小説を脚色したのは、クレイマー監督と組んだ『招かれざる客』でオスカーを受賞したウィリアム・ローズと、『アスファルト・ジャングル』(50)や『許されざる者』(59)で知られるベン・マドー。中でもウィリアム・ローズは、『マダムと泥棒』(55)や『アメリカ上陸作戦』(66)などのスラップスティックな風刺コメディを得意とした人だ。
 さらに、撮影監督としてフェリーニやデ・シーカ、ヴィスコンティ作品などを数多く手掛けたイタリアの大御所カメラマン、ジュゼッペ・ロトゥンノが参加。彼は『渚にて』でもクレイマー監督と組んでいる。
 また、『栄光への脱出』(60)でオスカーを獲得した作曲家アーネスト・ゴールドが音楽スコアを担当。彼も、『手錠のままの脱獄』(58)以来たびたびクレイマー監督作品を手掛けている常連だ。ここではイタリア南部の民謡をモチーフに、ニーノ・ロータばりのノスタルジックで情感溢れるメロディを聴かせ、イタリア的なムードを大いに盛り上げてくれる。

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ローザはドイツ軍に対して敵意をむき出しにする

なんとかご機嫌を取ろうとするボンボリーニ

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フォン・ブラム大尉はマラテスタ伯爵夫人に惹かれる

心の奥底では夫の身の上を心配するローザ

 主人公ボンボリーニ役を演じているのは、泣く子も黙る大スター、アンソニー・クイン。『ユリシーズ』(54)や『道』(55)などイタリア映画への出演も少なくなく、ハリウッド映画でもイタリア人役を演じることが多かったクインだが、実はメキシコ生まれのヒスパニック。他にもギリシャ人やアラブ人、トルコ人など様々な人種に扮し、とにかくバイタリティ溢れる野獣のような男を演じさせたら天下一品の名優だった。
 そのアンソニー・クインに負けず劣らずパワフルで強烈な個性を発揮するのが、妻ローザ役を演じるアンナ・マニャーニ。出てくるだけで他を威圧するような迫力を持った大女優だ。マラテスタ伯爵夫人役ではイタリアの生んだ絶世の美女ヴィルナ・リージも登場するが、マニャーニの圧倒的な存在感を前にタジタジといった印象。
 一方、ドイツ軍の指揮官フォン・プラム大尉役には、『飛べ!フェニックス』(65)や『遠すぎた橋』(77)などで知られるドイツ人俳優ハーディー・クリューガーが扮している。ハリウッドにおけるドイツ人俳優というのは悪役を強いられることが多かったわけだが、どこか朴訥とした優しさのあるクリューガーは数少ない例外だったと言えよう。ここでも基本的には“悪役”的な役回りではあるものの、あくまでも職務に忠実なだけというフォン・プラム大尉の人間的な部分をさり気なく演じ、意外にも爽やかな印象を与えてくれる。
 また、若かりし頃のジャンカルロ・ジャンニーニが、ボンボリーニの弟分的な若者ファビオ役で登場。村で唯一大学に通っているインテリで、ボンボリーニのバカ正直さを上手く引き立て、村の再建に尽力しようとする好青年をユーモアたっぷりに演じている。
 その他、当時アメリカでも人気のあったイタリア人歌手セルジョ・フランキが負傷兵トゥーファ役、イタリアの有名なカンツォーネ歌手レナート・ラスチェルがボンボリーニの悪友ババルーチェ役、『誰が為に鐘は鳴る』(43)や『トロイのヘレン』(56)など数多くのハリウッド映画で活躍したイタリア人俳優エドゥアルド・チアネッリが村の重鎮ルイジ役、『イタリア式離婚狂想曲』(61)から『ニューシネマ・パラダイス』(89)までイタリア映画には欠かせない名脇役レオポルド・トリエステがファシスト残党の一人ヴィットリーニ役で登場。また、大女優ヴァレンティナ・コルテーゼが村人役でカメオ出演するなど、イタリアの誇る名優が大挙して脇を固めている。

 

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