HARD TO FIND FILMS
60年代クラシック映画篇

 

 

テキサスの五人の仲間
A Big Hand For The Little Lady (1965)

日本では1966年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

BIG_HAND_FOR_THE_LITTLE_LADY-DVD.JPG
(P)2007 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/95分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:フィルダー・クック
製作:フィルダー・クック
脚本:シドニー・キャロル
撮影:リー・ガームス
音楽:デヴィッド・ラクシン
出演:ヘンリー・フォンダ
    ジョアン・ウッドワード
    ジャイソン・ロバーズ
    ポール・フォード
    チャールズ・ビックフォード
    バージェス・メレディス
    ケヴィン・マッカーシー
    ロバート・ミドルトン
    チェスター・コンクリン

 これは実に痛快なギャンブル映画。よく『スティング』('73)を先駆けた作品と言われるが、『オーシャンと11人の仲間たち』('60)に影響を受けた部分も多分にあるように思う。あまり詳しく説明してしまうとネタバレになるので控えさせてもらうが、この軽妙洒脱で人を食ったストーリー展開は見事というほかない。まあ、勘の良い人ならば中盤でカラクリに気付いてしまうかもしれないが(笑)。悪人が一人も出てこないというキャラクター設定も高感度が高く、見終わった後はほのぼのとした気分になれる作品である。

BIG_HAND_FOR_THE_LITTLE_LADY-1.JPG BIG_HAND_FOR_THE_LITTLE_LADY-2.JPG

馬車の故障で町に立ち寄った主人公一家

ギャンブル好きのメレディス(H・フォンダ)

 テキサスの小さな町ラレドの酒場に、5人の大金持ちが集まってくる。娘の結婚式を抜け出してきた変わり者の牧場主ヘンリー・ドラモンド(ジェイソン・ロバーズ)、裁判を放り投げてきた弁護士オットー・ハーバーショー(ケヴィン・マッカーシー)、それにウィルコックス(ロバート・ミドルトン)とバフォード(ジョン・クァレン)、そして元締めであるトロップ(チャールズ・ビックフォード)だ。いずれも名うてのギャンブラーばかり。彼らは年に一度こうして集まり、究極のポーカー・ゲームに興じるのだった。
 いよいよゲームが始まった。この一大イベントに町中も大騒ぎ。酒場には大勢の人々が集まり、酒盛りをしながらゲームの成り行きを見守っていた。そこへ3人の親子連れが到着する。身なりの良い紳士メレディス(ヘンリー・フォンダ)と妻メアリー(ジョアン・ウッドワード)、そして幼い息子ジャッキー(ジャン=ミシェル・ミシェルノー)。彼らはカリフォルニアに向う途中で、馬車の車輪が故障したことから町に立ち寄ったのだった。
 酒場で宿を取った一家だったが、メレディスは店の奥でポーカー大会が行われていることを知って目を輝かす。どうやら、彼はギャンブル癖があるようだ。メアリーはすぐさま夫の様子に気付き、絶対に関わらないでとクギをさす。

BIG_HAND_FOR_THE_LITTLE_LADY-3.JPG BIG_HAND_FOR_THE_LITTLE_LADY-4.JPG

ゲームに負け続けたメレディスは発作で倒れてしまう

メアリー(J・ウッドワード)は銀行で軍資金の融資を願い出る

 しかし、メアリーが修理屋を探している間に、メレディスはカバンにしまっていた2万ドルを持ち出し、ゲームに加えてもらうことにする。腕には自信のあったメレディスだが、相手は百戦錬磨のギャンブラーたち。たちまちスッカラカンになってしまった。そこへ戻ってくるメアリー。部屋に夫の姿がなく、カバンから現金が消えているのを発見して怒り狂う。手持ちの2万ドルはカリフォルニアで牧場を始めるための資金だったのだ。
 ところが、メレディスは妻の前で突然苦しみだして倒れてしまった。大急ぎで町医者のスカリー(バージェス・メレディス)が呼ばれて応急処置を施すが、これ以上ゲームを続けることは出来ないという。なんとか財産を取り戻したいメアリーは、自分が夫の代わりとなってゲームを続けることを宣言する。しかし、既に軍資金は底を尽きている。
 そこで何を思ったのか、メアリーは地元の銀行へと足を向けた。小細工をされてはたまらんと、ギャンブラーたちも一緒になってついていく。すると、彼女は頭取のバリンジャー氏(ポール・フォード)に手持ちのカードを見せ、ゲームを続けるための現金を融資して欲しいと言い出す。呆気にとられる一行。バリンジャー氏も冗談だと思って相手にしなかったが、メアリーは本気だ。そこで、バリンジャー氏は5000ドルを彼女に貸すことにする。ただし、自分もゲームに加わるということが条件だ。
 こうして、波乱に満ちたポーカー・ゲームが再開される。果たして、メアリーは勝負に勝つことが出来るのか?だが、そこには誰もが予想しなかった落とし穴が隠されていたのだ・・・!

BIG_HAND_FOR_THE_LITTLE_LADY-5.JPG BIG_HAND_FOR_THE_LITTLE_LADY-6.JPG

変わり者の牧場主ヘンリー・ドラモンド(J・ロバーズ)

プレイボーイの弁護士ハーバーショー(K・マッカーシー)

 監督はフィルダー・クック。残念ながら、彼の作品はほかにテレビ映画『さよならおんぼろアン』('71)しか見たことがないのだが、あまり奇をてらうことのないハリウッド王道系の職人監督といった印象。ちょうどロバート・マディガンやジョセフ・サージェントを思わせる感じだ。決して映画史に残るような傑作を撮る人ではないが、安心して見ることが出来る良心的な映画を手際良くこなすタイプである。
 脚本を書いたシドニー・キャロルは『ハスラー』('60)でアカデミー最優秀脚本賞にノミネートされた人物。詐欺師と踊り子の泥棒計画を描いたロマンティック・コメディ『泥棒貴族』('66)の原作も書いているが、賭け事を題材にしたお話は得意だったのかもしれない。『ハスラー』にも言えることかも知れないが、彼の脚本はギャンブラー特有の心理が丁寧に描きこまれており、こうした一見すると荒唐無稽な物語でも妙な説得力がある。
 撮影は『モロッコ』('30)や『上海特急』('32)、『君去りし後』('44)などでオスカーにノミネートされた大ベテラン、リー・ガームス。音楽は『ローラ殺人事件』('44)や『永遠のアムバア』('47)のデヴィッド・ラクシンが担当している。

BIG_HAND_FOR_THE_LITTLE_LADY-7.JPG BIG_HAND_FOR_THE_LITTLE_LADY-8.JPG

愉快な老人チェスター(C ・コンクリン)と町医者スカリー(B・メレディス)

ギャンブルの元締めトロップ(C ・ビックフォード)

 主演はハリウッドの大御所ヘンリー・フォンダと、ポール・ニューマン夫人としてもお馴染みの大女優ジョアン・ウッドワード。どちらも好演には違いないのだが、やはり本作は脇を固める名優たちのアンサンブル演技が最大の見どころだろう。
 中でも、メアリーにさりげなく色目を使うプレイボーイの弁護士ハーバーショーを演じるケヴィン・マッカーシーが良かった。根っからの女好きだが、勝負と色恋の境界線はちゃんとわきまえている紳士。生真面目なヒーローや一癖ある悪役の多かったマッカーシーにとっては、結構珍しい軟派な二枚目役と言えよう。
 一癖あるといえば、町医者のスカリー役を演じたバージェス・メレディスの不良ドクターぶりも痛快。『ロッキー』シリーズのコーチ役でお馴染みの俳優だが、コメディからシリアス、悪役から善人まで、何をやらせても不思議な存在感を放つ個性的な人だった。元締めのドロップ役を演じる名優チャールズ・ビックフォードも相変わらず素晴らしい。彼のように、そこに座っているだけで画面全体を引き締める俳優というのも、最近ではなかなか見かけなくなった。
 銀行の頭取バリンジャー氏を飄々と演じるのはブロードウェイの名コメディアン、ポール・フォード。また、サイレント時代のトップ・コメディアン、チェスター・コンクリンが、酒場で飲んだくれている愉快な老人チェスター役で顔を出しているのも見逃せない。当時既に80歳だった彼は、これが遺作となった。
 そして、家族そっちのけでギャンブルにのめり込む頑固な変わり者ヘンリー・ドラモンドを演じるジェイソン・ロバーズ。やれ女は面倒くさいだの、素人は口を出すなだのとブーブー文句をたれながらも、いつの間にかメレディスとメアリーの夫婦愛に共感していく辺りの微笑ましい演技は絶妙の巧さだった。

 

ジョージー・ガール
Georgy Girl (1966)
日本では1967年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

GEORGY_GIRL-DVD.JPG
(P)2005 Sony Pictures (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・日本語/地域コード:1/99分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:シルヴィオ・ナリッツァーノ
製作:ロバート・A・ゴールドストン
    オットー・プラシュケス
原作:マーガレット・フォスター
脚本:マーガレット・フォスター
    ピーター・ニコルス
撮影:ケン・ヒギンズ
音楽:アレクサンダー・ファリス
主題歌:ザ・シーカーズ
出演:ジェームズ・メイソン
    リン・レッドグレーヴ
    アラン・ベイツ
    シャーロット・ランプリング
    ビル・オーウェン
    クレア・ケリー
    レイチェル・ケンプソン

 ロックンロールとモッズ・ファッションが溢れるスウィンギンな60年代ロンドンを舞台に、見た目の冴えない天真爛漫な女の子ジョージーの青春を描いた、ちょっとほろ苦くて微笑ましいオフビート・コメディ。日本でもCMソングなどで今なお人気が高いザ・シーカーズの主題歌や、ジョージー役を演じるリン・レッドグレーヴの瑞々しい演技などが話題となり、アカデミー賞4部門にノミネートされた作品だ。
 お洒落でグルーヴィーな主題歌のイメージからすると、本編自体は意外とマトモというか大人しい。アントニオーニみたいにモダンではなく、リチャード・レスターのようにポップでもなく。正統派の職人監督シルヴィオ・ナッツァリーノだけに、演出スタイルはいたってシンプルだ。
 それでも、男一人女二人で一つ屋根の下に暮らす主人公たちのライフスタイルや、親子以上に年の離れた男女の結婚など、当時としてはかなり型破りな内容の作品だったろう。今が楽しければそれでいいという当時の若者たちの価値観を否定することもなく、従来の堅苦しいモラルとは全く違うところに幸せを見出す登場人物たちの、あくまでも楽観的で前向きな姿が清々しい。全てがキラキラと輝いていた時代のロンドンを感じさせてくれる珠玉の名作だ。

GEORGY_GIRL-1.JPG GEORGY_GIRL-2.JPG

流行のビーハイブ・ヘアも全く似合わないジョージー(L・レッドグレーヴ)

天真爛漫な明るさだけが取り柄だ

 主人公は22歳になる女の子ジョージー(リン・レッドグレーヴ)。人並みにお洒落や恋愛にも関心はあるし、そろそろ結婚も考える年頃。しかし、男みたいに背が高く、ぽっちゃり太目の彼女は、流行の髪型やファッションも全く似合わない。そのため、人一倍自分の容姿にコンプレックスがあり、いまだにボーイフレンドを作れないでいた。
 それでも天真爛漫で明るいジョージーは、今日も音楽教室で子供たちに歌と踊りを教えている。彼女の両親(ビル・オーウェンとクレア・ケリー)は、リーミントン氏(ジェームズ・メイソン)という大富豪の使用人を長年務めていた。リーミントン氏は妻エレン(レイチェル・ケンプソン)と愛のない結婚生活を送っており、彼女が病弱なために子宝にも恵まれなかった。そのため、彼は幼い頃からジョージーを我が子のように可愛がり、今では自宅の広間を音楽教室として提供していた。
 一方、ジョージーにはメレディス(シャーロット・ランプリング)というルーム・メイトがいる。ジョージーとは対照的に小柄でスリムな美人メレディスは、これまでに何人もの恋人を作り、そのたびに妊娠と中絶を繰り返してきた。今はジョス(アラン・ベイツ)という変わり者で軽薄な若者と付き合っている。ベッドでいちゃつくメレディスとジョスを横目に、ジョージーはいつも居たたまれない気分になるのだった。

GEORGY_GIRL-3.JPG GEORGY_GIRL-4.JPG

美人で傲慢なルーム・メイト、メレディス(C ・ランプリング)

幼い頃からジョージを可愛がっているリーミントン氏(J・メイソン)

 そんなある日、リーミントン氏がジョージーにとんでもない申し出をしてくる。自分の愛人になって欲しいというのだ。しかも、契約書を交わせばいくらでも贅沢をさせてくれるという。派手好きで気位の高い妻との結婚生活に疲れた彼は、無邪気で素朴なジョージーに理想の女性像を見出していたのだ。しかし、お金で愛を買おうとするリーミントン氏のやり方に抵抗感を抱いた彼女は、その申し出をきっぱりと断った。
 さらに、メレディスがジョスの子供を妊娠したことが発覚。ジョージーの強い説得もあって、メレディスは結婚と出産を決意した。教会で3人だけの結婚式。ジョスはジョージーとメレディスのアパートに転がり込むことになった。まるで自分のことのように喜び、メレディスとジョスのために食事の用意から身の回りの世話まで甲斐甲斐しくこなすジョージー。だが、そんな彼女にメレディスは冷たい言葉を浴びせる。子供を生むのはアンタじゃなくてアタシなのよ、と。
 やがてメレディスが出産。しかし、彼女はたちまち結婚生活にも子供にも飽きてしまった。メレディスはもっと遊びたかったのだ。離婚して子供を養子に出すと言い出すメレディスに、ジョージーは自分が育てると言い出す。
 た、メレディスの我がままに辟易していたジョスは、密かにジョージーと愛し合うようになっていた。二人で協力して子供を育てるようになるジョージーとジョス。しかし、母性本能に目覚めたジョージーは、次第にジョスとの距離を感じるようになる。また、ジョスも父親としての責任を苦痛に感じるようになっていた。どうやって子供を一人で育てるかと考えたジョージーは、思い悩んだ末にある決断をする・・・。

GEORGY_GIRL-5.JPG GEORGY_GIRL-6.JPG

メレディスの恋人ジョス(A・ベイツ)に惹かれるジョージー

ジョージーへの愛に目覚めるリーミントン氏だったが・・・

 シルヴィオ・ナッツァリーノはカナダ出身の映画監督。アメリカのテレビ界で活躍した後、イギリスに拠点を移してハマー・プロのサイコ・ホラー“Fanatic”('65)などを手がけていた。この『ジョージー・ガール』で一躍注目され、リチャード・アッテンボロー主演のコメディ“Loot”('70)ではカンヌ映画祭のパルム・ドールにノミネートされたものの、その後は地味なスリラーやテレビ・ドラマを撮っている。
 原作は女流作家マーガレット・フォスターのベスト・セラー小説で、フォスター自身が脚本も手がけている。共同で脚色に当たったピーター・ニコルズはブロードウェイの戯曲家として有名な人物だ。
 撮影を担当したケン・ヒギンズは、ケン・ラッセルの『フレンチ・ドレッシング』('64)やジョン・シュレシンジャーの『ダーリング』('65)などを手がけ、当時イギリスでは引っ張りだこだったカメラマン。ちなみに、音楽スコアを担当したのはアレキサンダー・ファリスだが、ザ・シーカーズの歌う主題歌を手がけたのはトム・スプリングフィールド。あのダスティ・スプリングフィールドの実兄である。

GEORGY_GIRL-7.JPG GEORGY_GIRL-8.JPG

甲斐甲斐しくメレディスとジョスの世話をするジョージー

自分が蚊帳の外であることに気付いて深く傷つくジョージー

 主人公ジョージー役のリン・レッドグレーヴはこれが出世作。彼女自身もジョージーと同じようにコンプレックスの塊だったらしい。父親はイギリスを代表する舞台の名優マイケル・レッドグレーヴ。母親レイチェル・ケンプソンも有名な舞台女優で、大変な美人として評判のエレガントな女性だった。そして、姉が才色兼備の大女優ヴァネッサ・レッドグレーヴ。弟コリンも繊細な美形スターとして人気を博した。いうなれば、彼女は美しくて才能のある家族の間に育った醜いアヒルの子。幼い頃から父親に“お前はブスで才能がない”と言われ続けたリンは、この作品で初めて自分のコンプレックスと向き合うことが出来たという。これでオスカーにもノミネートされて評判となったが、その後は再び鳴かず飛ばずの日々が続き、『シャイン』('95)と『ゴッド・アンド・モンスター』('98)でようやく第一線に返り咲くことが出来た苦労人だった。
 リーミントン氏役のジェームズ・メイソンは、言わずと知れたイギリスを代表する大スター。若い頃は絶世の美男子で、ローレンス・オリヴィエにも匹敵する人気2枚目俳優だった。そういえば、『ロリータ』('61)でも親子ほど年の離れた少女に恋する中年男を演じていたっけ。
 ジョージーのルーム・メイト、メレディスを演じているのは、当時ファッション・モデルとしても絶大な人気のあったシャーロット・ランプリング。比較的最近でも『まぼろし』('01)や『スイミング・プール』('03)などで枯れた美しさを見せて若い女性から支持を集めたていたが、この頃は本当にバービー人形みたいにキレイだった。
 そして、刹那的な生き方をするモッズ世代の若者ジョスを演じるアラン・ベイツは、当時イギリスで最も注目された若手スター。この2年後に『フィクサー』('68)でアカデミー主演男優賞にノミネートされ、ハリウッドでもトップ・スターとして活躍するようになる。一時は人気も低迷していたが、最近では『ゴスフォード・パーク』('01)や『プロフェシー』('02)で渋い演技を披露している。
 なお、レーミントン夫人役でリン・レッドグレーヴの実母レイチェル・ケンプソンが顔を出している。

 ちなみに、上記のアメリカ盤DVDは日本語メニューや日本語字幕が付いているのにも関わらず、何故かいまだに日本未発売のまま。

 

下り階段をのぼれ
Up The Down Staircase (1967)
日本では1967年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

UP_THE_DOWN_STAIRCASE-DVD.JPG
(P)2007 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/124分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:ロバート・マリガン
製作:アラン・J・パクラ
原作:ベル・カウフマン
脚本:タッド・モーゼル
撮影:ジョセフ・コフィ
音楽:フレッド・カーリン
出演:サンディ・デニス
    パトリック・ベッドフォード
    アイリーン・ヘッカート
    ルース・ホワイト
    ジーン・ステイプルトン
    ソレル・ブルック
    ロイ・プール
    フローレンス・スタンレー

 ニューヨークはスラム街のマンモス高校に転属された若手女教師が、問題児ばかりの学生を相手に孤高奮闘する姿を描いた青春ドラマ。“下り階段をのぼれ”の下り階段とは、下り専用階段のこと。ヒロインは着任早々に間違えて下り専用階段を上ってしまうのだが、これが逆境に立ち向かうことになる彼女の運命を示唆している。と同時に、学校の杓子定規な教育システムや社会の非情な格差システムに必死で抵抗する子供たちへのメッセージとも言えるだろう。
 こうした題材を扱った映画は決して珍しくないが、本作のユニークな点はそのドキュメンタリー・タッチの演出スタイルにある。まるでカオスのような学校の日常、忙しさの中で生徒に対して無関心になってしまう教師たち、周囲を取り巻くスラム街の過酷な生活、そしてどんなに勉強を頑張っても貧しい環境から抜け出すことが出来ないと悟ってしまった子供たち。カメラはヒロインの目を通して、スラム地区にある教育現場の現状をリアルに描き出していく。そこには安っぽい感傷や生半可な理想主義の入り込む隙間はない。
 きれいごとばかりの理想に燃えていたヒロインは、想像以上に厳しい現実を目の当たりにして次々と挫折感を噛みしめていく。それでも、ささやかな手応えに望みを託し、過酷な試練に立ち向かっていくことを決意するのだ。
 熱血教師とはいっても、人間としてはまだまだ未熟。自分に救いを求める不良学生に戸惑いを感じて突き放してしまうこともあれば、貧しい生徒たちの家庭事情を知らずに彼らを深く傷つけてしまうこともある。そうやって失敗を繰り返しながら、彼女自身も生徒たちから様々な人生の教訓を学んでいくことになるわけだ。
 決してお涙頂戴の感動ドラマではないし、時としてやりきれないような理不尽さを感じさせられることもある。しかし、悪戦苦闘しながらも暗闇の中に一筋の光を見出そうとする等身大のヒロイン像には、共感するところも多いだろう。
 ドラマチックな事件や感動的なエンディングなど一切用意されていない。感動の安売りや押し売りをしないからこそ、ドラマに重みと説得力が生まれる。ヒロインが静かに、しかし毅然とした態度で下り専用階段を上っていくクライマックスは、教育というのが終わりなき闘いであるということを教えてくれる。

UP_THE_DOWN_STAIRCASE-1.JPG UP_THE_DOWN_STAIRCASE-2.JPG

理想に燃える新米女教師シルヴィア(S・デニス)

ニューヨークのマンモス高校に赴任してきたシルヴィア

 ヒロインは教育実習を終えたばかりの新米女教師シルヴィア・バレット(サンディ・デニス)。彼女はニューヨークのスラム街にあるマンモス高校、カルヴィン・クーリッジ・ハイスクールに赴任することとなった。
 学校の周辺は治安の悪い地域で、生徒たちの多くが貧しい家庭の子供だ。迷路のように入り組んだ巨大な校舎で右往左往し、何千人という生徒の波に押し流されそうになるシルヴィア。ようやくたどり着いた担当クラスは、まさに戦場のような有様だった。生徒たちは勝手気まま、授業などそっちのけで騒いでばかり。
 授業が終われば膨大な書類の山が待っている。学校は極端に予算が少なく、授業に必要な資料を揃えるのもままならなかった。同僚の教師たちも一様に事務的で、生徒たちのことにはまるで無関心。とりあえず勉強を教える、ということだけで精一杯なのだ。
 なんとか生徒たちに耳を傾けてもらおうと、知識や教養の必要性を説くシルヴィア。しかし、彼らにのしかかっている貧困と差別の現実は、彼女にとって想像以上のものだった。見方を変えるしかないと悟ったシルヴィアは、子供たちの個性や生活環境を考慮した上で、彼らが自然に興味を示してくれるような教え方を考えていく。
 とはいえ、現実はなかなか厳しかった。同僚の英語教師バリンジャー(パトリック・ベッドフォード)は、そんな彼女の努力を冗談交じりに皮肉る。高い理想を持っていても、ここでは何の役にも立たないと。それでも、子供たちの日常にシェイクスピアを置き換えることで、生徒たちは文学の面白さを少しづつ理解するようになっていった。

UP_THE_DOWN_STAIRCASE-3.JPG UP_THE_DOWN_STAIRCASE-4.JPG

勝手気ままな生徒たちにシルヴィアは悪戦苦闘する

皮肉屋の英語教師バリンジャー(P・ベッドフォード)

 そんな彼女のクラスに、学校でも一番の問題児ルー(リュー・ウォラック)という不良少年がいる。普段はほとんど学校に来ることのない彼だったが、校長が強引に連れてきたのだ。他の教師とは違って熱心に向き合ってくれるシルヴィアを、ルーは“女”として意識する。それは愛情に飢えていることの証でもあったが、シルヴィアはどうしていいのか分からずに困惑する。ルーがナイフを持っていることを知った彼女は、校則違反として冷たく校長に突き出した。彼女にはとても対処することが出来なかったのである。
 一方、引っ込み思案の少女アリス(エレン・オマーラ)が自殺未遂事件を起こした。バリンジャーに恋心を抱いていた彼女は、たどたどしい文章でラブレターをしたためたのだが、バリンジャーは彼女の目の前でそれを淡々と読み上げながら誤字脱字を厳しくチェック。深く傷ついた彼女は、校舎の窓から身を投げたのだった。少女の恋愛願望なんかにいちいち付き合ってはいられないと言い切るバリンジャーの言葉に、強い憤りを覚えるシルヴィア。しかし、彼の言うことを完全に否定することも出来なかった。この学校では生徒一人ひとりの問題と向き合っている余裕などないからだ。
 すっかり精神的に疲れきってしまったシルヴィアは己の無力さを痛感。これ以上自分がこの学校にいても意味がないと感じ、転属願いを提出する。しかし、生徒の間で起きた或るささやかな変化が、彼女の心に希望の光をもたらす・・・。

UP_THE_DOWN_STAIRCASE-5.JPG UP_THE_DOWN_STAIRCASE-6.JPG

学校の周辺は治安の悪い地域だった

不良少年ルー(L・ウォラック)の扱いに戸惑うシルヴィア

 監督は傑作『アラバマ物語』('62)でオスカーにノミネートされた名匠ロバート・マリガン。他にも『サンセット物語』('65)や『レッド・ムーン』('68)、『悪を呼ぶ少年』('72)など、人間の本質を鋭い視点で捉えた社会性の高い映画を得意とする監督だ。その一方で、『おもいでの夏』('70)のように、繊細なロマンティシズムを描くことにも長けていた。リアリストであると同時にロマンティストなのであろう。本作もドキュメンタリー的なリアリズムの中に瑞々しい躍動感が溢れており、見終わった後に爽やかな余韻を残す作品に仕上がっている。
 そして、製作を手がけたのは『大統領の陰謀』('76)や『ソフィーの選択』('82)で知られる名匠アラン・J・パクラ。彼はもともと映画プロデューサーで、マリガンの処女作『栄光の旅路』('57)から『レッド・ムーン』まで全ての製作を担当している。
 ベル・カウフマンのベストセラー小説を脚色したのは、ブロードウェイの戯曲家として知られるタッド・モーゼル。映画の脚本を手がけたのは本作を含めて3作だけで、主に舞台とテレビで活躍した人だった。
 撮影監督のジョセフ・コフィーも非常に寡作なカメラマンで、本作以外では『プロデューサーズ』('68)と『愛は心に深く』('68)の2本しかクレジットがない。後に『クレイマー・クレイマー』('79)や『フェーム』('80)のカメラ・オペレーターを担当しているみたいだが、いずれもニューヨークを舞台にした作品なのは何か意味があるのだろうか。
 そして、音楽を手がけたのは、ジョニ・ミッチェルが歌った『ふたりの誓い』('70)のテーマ曲でオスカーを受賞したフレッド・カーリン。『さらば青春の日』('71)や『カリフォルニア・ドリーミング』('78)など、青春映画の素朴で優しいスコアを手がけることが多かった作曲家で、本作でもフォーク・タッチの爽やかで叙情的なメロディを聴かせてくれる。

UP_THE_DOWN_STAIRCASE-7.JPG UP_THE_DOWN_STAIRCASE-8.JPG

ようやく生徒たちと打ち解けてきたシルヴィアだったが・・・

バリンジャーの冷たい言葉に憤りを覚えるシルヴィア

 主人公シルヴィア役を演じるのは、『バージニア・ウルフなんかこわくない』('66)でアカデミー助演女優賞を受賞したサンディ・デニス。本作ではモスクワ映画祭の主演女優賞を受賞した。どちらかというと生真面目で精神的に脆いようなイメージの性格女優。もともと原作者のベル・カウフマンはオードリー・ヘプバーンをイメージして小説を書いたらしいが、右も左も分からない新米女教師という役柄には、ナイーブで頼りなげなサンディ・デニスの方がオードリーよりも説得力があると言えよう。真面目なだけが取り柄で、人間的にはまだまだ未成熟な女性が、悩み苦しみながら教師としての自我に目覚めていく姿を等身大で演じている。
 皮肉屋で傲慢な英語教師バリンジャー役を演じているパトリック・ベッドフォードはブロードウェイの舞台俳優。映画での大役はこれ1本だけだったようだ。また、『バタフライはフリー』('72)でアカデミー助演女優賞を受賞したアイリーン・ヘッカートや、70年代に全米で大ヒットしたファミリー・ドラマ“All in the Family”で3度もエミー賞主演女優賞に輝いた名女優ジーン・ステイプルトンがベテラン教師役で顔を出している。

 

かわいい毒草
Pretty Poison (1968)
日本では1968年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

PRETTYPOISON-DVD.JPG
(P)2006 20th Century Fox (SA)
画質★★★★☆ 音声★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/ステレオ・モノラル/音声:英語・スペイン語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/89分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:ノエル・ブラック
製作:マーシャル・バックラー
    ノエル・ブラック
原作:ステファン・ゲラー
脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア
撮影:デヴィッド・クエイド
音楽:ジョニー・マンデル
出演:アンソニー・パーキンス
    チューズディ・ウェルド
    ビヴァリー・ガーランド
    ジョン・ランドルフ
    ディック・オニール
    クラリス・ブラックバーン

 精神病院を出たばかりの若者と恋に落ちた美少女が、実はとんでもないサイコ娘だったというサスペンス映画。妄想癖の強い青年と退屈な田舎暮らしに辟易した少女がお互いにシンパシーを感じあい、刺激を求めて犯罪に走るというストーリーは『俺たちに明日はない』('67)の延長線上にあると思われる。しかし、本作では少女の方が一枚も二枚も上手だ。遊び感覚で男を翻弄し、最終的には自分の母親を殺して男に全ての罪をなすりつける。これがもうちょっと前だったらフィルム・ノワールのファム・ファタール、要は大人の女性だったはずだろうが、あどけない顔をした女子高生が平気な顔して男を狂わせるというのが60年代風のモダン・センスだ。
 また、主役のキャスティングも興味深い。サイコ少女役には元祖小悪魔女優のチューズディ・ウェルド。10歳でアルコール中毒になり、11歳で自殺未遂。12歳で清純派アイドルとしてデビューするも、私生活では既に大人の男と寝ていたという天性のロリータだった。キューブリックの『ロリータ』('60)をオファーされた際に、“そんなもの演じる必要がないわ。だって、アタシがロリータだもの”と言って蹴ったというのは有名な話。そうした背景があるだけに、本作の演技にも妙に生々しいリアリティがある。撮影当時、既に23歳だったはずだが、女子高生と言われて思わず納得してしまうキュートな可愛らしさが逆にコワい。
 そして、そんな彼女に振り回される精神病の若者役がアンソニー・パーキンス。『サイコ』('60)のノーマン・ベイツ役ですっかりそっち系のイメージがついてしまったわけだが、本作なんかもノーマン・ベイツの後日談として見ると面白さが増すに違いない。
 とはいえ、プロットの奇抜さと主役のキャスティング以外は、正直なところ映画として特筆すべきところはあまりない。『トゥルー・ロマンス』('93)や『ナチュラル・ボーン・キラーズ』('94)などで過激なサイコ・カップルに慣れてしまった今となっては、本作の主人公たちの暴走ぶりも大人しいものだし、『俺たちに明日はない』のような時代を背負った革新性にも著しく欠けている。アメリカン・ニューシネマの最中に生まれた、時代の徒花的小品と言えるかもしれない。

PRETTYPOISON-1.JPG PRETTYPOISON-2.JPG

精神病院を出たばかりの若者デニス(A・パーキンス)

刺激に飢えた女子高生スー・アン(T・ウェルド)

PRETTYPOISON-3.JPG PRETTYPOISON-4.JPG

デニスのスパイ話にのめりこむスー・アン

下品で高慢ちきなスー・アンの母親(B・ガーランド)

 精神病院を退院したばかりの若者デニス(アンソニー・パーキンス)は、マサチューセッツ州の田舎町で新しい生活をスタートさせる。町の工場で働き始めた彼は、ホットドッグ・スタンドで見かけた美少女スー・アン(チューズディ・ウェルド)に夢中となった。スー・アンは地元の高校でチアリーダーとして活躍する女の子。“本当は僕はCIAのスパイなんだ”とうそぶく彼の言葉に、退屈な田舎暮らしに飽きていたスー・アンは胸をときめかせる。
 デートを重ねるうち、すっかりデニスのスパイ話にのめりこんでいくスー・アン。彼が秘密組織のアジトだと語る工場に忍び込んだ二人は、工場内に時限爆弾を設置する。ところが、物音に気付いた警備員をスー・アンが誤って殺してしまった。さすがに、こうなってしまうとデニスも強い罪悪感を感じるようになる。ところが、当のスー・アンは興奮覚めやらぬ様子で、すっかり冒険を楽しんでいた。狼狽して精神的なバランスを失ったデニスに、彼女は一緒にメキシコに逃げようと葉っぱをかける。
 しかし、二人がメキシコへ逃げるには邪魔な存在があった。スー・アンの母親(ビヴァリー・ガーランド)である。支配欲が強くて男好きな母親を、スー・アンは普段から憎んでいた。彼女は母親の殺害を決意する。土壇場で尻込みをして逃げ出してしまうデニスだったが、スー・アンは躊躇することなく母親に銃弾を浴びせた。笑いながら。何発も。
 ようやくデニスは、スー・アンが精神異常者であることに気付いた。しかし、既にあとの祭りだ。彼女の指示で母親の遺体を運び出すデニス。だが、事態は思わぬ方向に展開していく・・・。

PRETTYPOISON-5.JPG PRETTYPOISON-6.JPG

工場に忍び込むスー・アンとデニス

二人の仕掛けた時限爆弾が爆発した

 監督のノエル・ブラックは、あの80年代を代表する性春映画『プライベートスクール』('83)を手がけた人。もともと短編映画の出身で、カンヌ映画祭で最優秀短編映画賞や最優秀技術賞なんかを受賞していたらしく、恐らく当時は新進気鋭の映画監督という位置づけだったのだろう。本作が長編処女作だったわけだが、まるで映画学校の学生が撮ったような失敗作『濡れた欲望』('70)でミソをつけ、その後はもっぱらテレビ専門となってしまった。ちなみに、チューズディ・ウェルドはブラック監督のことが大嫌いだったらしく、本作のこともクソミソに言っている。
 原作はステファン・ゲラーのベストセラー小説で、96年にもウェンディ・ベンソン主演でテレビ映画化されている。脚本を担当したのは、『パピヨン』('73)や『コンドル』('75)といった傑作スリラーを手がけたロレンツォ・センプル・ジュニア。個人的に大好きな007番外編『ネバーセイ・ネバーアゲイン』('83)も手がけているのだが、その一方で『キング・コング』('76)や『ハリケーン』('79)、『シーナ』('84)といったポンコツ大作映画なんかにも関わっている人物だ。
 また、音楽のジョニー・マンデルは、『動く標的』('66)や『殺しの分け前/ポイント・ブランク』('67)、『M★A★S★H』('70)など、当時乗りに乗っていた売れっ子作曲家。中でも、『いそしぎ』('65)のテーマ曲“The Shadow of Your Smile”は傑作だった。

PRETTYPOISON-7.JPG PRETTYPOISON-8.JPG

弱気になったデニスに葉っぱをかけるスー・アン

楽しそうに笑いながら母親に銃弾を浴びせる

 スー・アンの下品で高慢ちきな母親役を演じているのは、50年代にB級映画の女王として鳴らしたビヴァリー・ガーランド。特に『女囚大脱走』('55)や『金星人地球を征服』('56)といったAIP映画のヒロインとして有名だ。最近ではロサンゼルスで自分の名前を冠した高級ホテルを経営している。
 その他、『ユー・ガット・メール』('98)でトム・ハンクスのおじいちゃん役を演じていたジョン・ランドルフや、ドラマ『女刑事キャグニー&レイシー』でもお馴染みの名脇役ディック・オニールが顔を出している。

 

愛すれど心さびしく
The Heart Is A Lonely Hunter (1968)
日本では1969年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

THE_HEART_IS_A_LONELY_HUNTER-DVD.JPG
(P)2008 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:1/123分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:ロバート・エリス・ミラー
製作:トーマス・C・ライアン
    マーク・マーソン
原作:カーソン・マッカラーズ
脚本:トーマス・C・ライアン
撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ
音楽:デイヴ・グルージン
出演:アラン・アーキン
    ソンドラ・ロック
    ローリンダ・バレット
    ステイシー・キーチ
    チャック・マッキャン
    ビフ・マグワイアー
    パーシー・ロドリゲス
    シシリー・タイソン
    ジャッキー・マーロウ

 聾唖者の青年と思春期を迎えた少女の心の交流を軸に、人間同士がお互いに理解しあうことの大切さと難しさを描いた作品。カーソン・マッカラーズのベストセラー小説『愛は寂しい狩人』の映画化に当たる。
 人種差別や貧富の格差など、様々な障害によって生まれる人間同士の対立や憎しみ、絶望や悲しみ。コミュニケーションの不在が誤解や悲劇を招くと言えよう。本当は誰もが孤独で、自分を理解してくれる人を必要としているはずなのに。そんな人々の橋渡し役となるのが、本来は誰よりもコミュニケーションが難しいはずの聾唖青年だったわけだ。
 彼は孤独を抱えた人々に対して心を開き、彼らを現実と向き合わせることによって、人間同士がお互いに理解しあえればどんな問題も解決出来るということを教えていく。なぜなら、彼自身も孤独だからである。しかし、音のない世界に生きる彼のことを本当に理解できる人はない。それゆえに、他人の力になればなるほど、彼の疎外感と孤独感はより一層深まっていくのだ。
 豊かな自然に恵まれた田舎町を舞台に綴られるひと夏の出来事。人々の心に変化をもたらした青年は、一人寂しく自らの命を断ってしまう。少女は青年の孤独と絶望を理解することによって、大人への階段を一歩踏み出す。そして、彼女は気付く。それが初恋であったことを。
 この哀しさ、この優しさ、この繊細さ。夏から秋へと移り行く自然を捉えた映像の美しさも筆舌に尽くしがたい。一度見たら決して忘れることの出来ない傑作である。

THE_HEART_IS_A_LONELY_HUNTER-1.JPG THE_HEART_IS_A_LONELY_HUNTER-2.JPG

孤独な聾唖者の青年ジョン・シンガー(A・アーキン)

感受性の豊かな少女ミック(S・ロック)

 聾唖者の青年ジョン・シンガー(アラン・アーキン)は、知恵遅れの友達スピロス(チャック・マッキャン)の後見人だった。しかし、甘いものに目がないスピロスは、ジョンが目を離した隙にお菓子屋のショーウィンドーを壊してケーキを食べるなど、たびたびトラブルを起こしていた。
 スピロスの親戚に手助けを頼むものの、そんな余裕はないとにべもなく断られてしまう。ジョン一人で彼の面倒を見ることは不可能だと判断した役所によって、スピロスは施設に入れられることになった。唯一の友達と離れ離れになってしまったジョンに同情する医師は、施設の近くへと移り住むことを勧める。
 施設から300マイルの距離にある小さな町ジェファーソンの宝石店で働くことになったジョンは、ケリー家の2階に下宿することとなった。一家は父親(ビフ・マグワイアー)が下半身を怪我して働くことが出来なくなったため、家計の足しにと使わない部屋を貸し出していたのだ。高校生の長女ミック(ソンドラ・ロック)は、生まれて初めて出会う障害者を好奇の目で見る。
 ミックは感受性豊かな少女だった。友達の家から流れてくるピアノのメロディに聞き惚れ、自分も演奏を学びたいと考えるが、彼女の一家にはピアノを買うような余裕などとてもない。夢を見ることも許されない貧しさは、多感な彼女の心に暗い影を投げかけていた。
 ある晩、ミックがコンサート・ホールの裏口から忍び込んで、オーケストラの音色に耳を傾けている姿を目撃したジョンは、レコード・プレイヤーとモーツァルトのレコードを買って来る。それとなくレコードをかけていると、帰宅したミックが恐る恐るジョンの部屋に入ってきた。読唇術を心得ているジョンは、音楽の素晴らしさを熱弁するミックの様子を見ながら、嬉しそうに微笑むのだった。
 仕事帰りに近くのダイナーで食事を取っていたジョンは、酔っ払って客に絡んでいる男ブラント(ステイシー・キーチ)と出会う。職を失って自暴自棄となった彼は、誰かに話を聞いてもらいたかった。しかし、誰からも相手にされず、挙句の果てに店を追い出されてしまう。
 やり場のない怒りを爆発させたブラントは、駐車場の壁に体当たりして傷を負ってしまう。遠巻きに見つめる人々。ジョンは人ごみの中に医者らしき人物を見つけて追いかけた。その人物が黒人医師コープランド(パーシー・ロドリゲス)。彼は白人の治療はしないといって断るが、ジョンの熱心な説得でブラントに応急処置を施す。
 ブラントが目覚めると、そこはジョンの部屋だった。ジョンの親切心に触れた彼は、晴々とした顔で新しい仕事を探すことを約束する。一方、ジョンはコープランドに感謝を述べるため、彼の治療医院を訪れた。そこは貧しい黒人居住地区だった。最初は頑なな態度をとるコープランドだったが、ジョンの真摯な姿勢に心を打たれ、態度を改めるようになる。コープランドは手話の出来るジョンに、自分の患者である聾唖者の黒人青年との会話通訳を依頼した。これをきっかけに、固い信頼関係で結ばれるようになるジョンとコープランド。
 ところがある日、コープランドの娘ポーシャ(シシリー・タイソン)のボーイフレンドが、遊園地で白人の若者グループに因縁をつけられ、誤って相手を怪我させてしまった。白人グループの方が先に暴力を仕掛けてきたのだが、誰も目撃証言をする者がいない。ポーシャは父親に証言を偽装して欲しいと頼むが、生真面目なコープランドには無理な願いだった。それに、黒人が白人に不利な証言をしたらどうなるかということは、彼自身が痛いほどよく分かっていたのだ。だが、それを理解できないポーシャは父親を激しく憎む。

THE_HEART_IS_A_LONELY_HUNTER-3.JPG THE_HEART_IS_A_LONELY_HUNTER-4.JPG

ミックの家庭は貧困に苦しんでいた

音楽の素晴らしさをジョンに熱弁するミック

 そんなある日、ミックが自宅でダンス・パーティを開くことになった。それまで友達の家のパーティに招かれるだけだったミックにとっては、まさに念願の晴れ舞台である。しかし、悪戯好きの弟たちが花火を仕掛け、招待した友達はすっかりそちらに夢中になってしまう。せっかくのパーティを台無しにされてしまい落胆するミック。大人の自我に目覚め始めた彼女は、まだまだ幼い周囲の友達に疎外感を感じるのだった。
 さらに、父親の怪我が悪化していることが発覚。このままでは、高校を中退せざるを得なかった。もっと勉強をしたい、自分の可能性を試したい、そう訴えるミックに母親(ローリンダ・バレット)が厳しい口調で言う。“若い頃は誰でも夢を見るものよ。でも、いずれ忘れるの”と。絶望感に打ちひしがれたミックは、ジョンの胸でいつまでも泣き続けるのだった。
 コープランドとポーシャの親子関係は悪化するばかりだった。激しい口調で父親をなじるポーシャに、ジョンは初めて怒りを露わにする。そして、コープランドが病で余命いくばくもない事を教えるのだった。一方、コープランドは娘の恋人の無実を訴えるために裁判所を訪れる。だが、待てど暮らせど順番は回ってこない。やがて裁判所の終業時間が訪れた。奥では白人の警官や事務員が彼の姿を眺めながらせせら笑っている。これが黒人の現実だった。重い足取りで裁判所を出ると、父親の本心を悟ったポーシャが両手を広げて駆け寄った。仲睦まじく家路につく親子を眺めながら、ジョンは安堵の表情を浮かべる。
 以前から憧れていたクラスメートの少年と川遊びに出かけたミック。いつの間にか二人は肌を重ねあっていた。やがて陽も沈み、帰り支度を始める二人。ミックは自分の中で何かが失われたことを感じていた。
 一方、ジョンは久しぶりにスピロスと面会するため施設を訪れる。ところが、スピロスは事故で亡くなってしまっていた。ただ一人の親友を永遠に失ったジョン。その喪失感は余りにも大きかった・・・。

THE_HEART_IS_A_LONELY_HUNTER-5.JPG THE_HEART_IS_A_LONELY_HUNTER-6.JPG

酔っ払いのブラント(S・キーチ)と知り合ったジョン

ジョンに心を開く医師コープランド(P・ロドリゲス)

 監督のロバート・エリス・ミラーは50年代からテレビの演出家として活躍していた人。愛し合うがゆえに傷つけ合ってしまう男女のいとこ同士を描いた『きんぽうげ』('70)もそうだったが、繊細でもの哀しいドラマやラブ・ストーリーを撮らせたら天下一品だった。しかし、興行的な大ヒットにはあまり恵まれず、その後はテレビ映画や『ブレンダ・スター』('88)のような凡作映画に終始してしまったのは惜しまれる。
 脚本と製作を手がけたトーマス・Cライアンは、本作で全米脚本家組合賞にノミネートされたものの、なぜかこれが最後の作品に。共同で製作を手がけたマーク・マーソンは、その後テレビ・プロデューサーとなった。
 田舎町の叙情的で美しい風景を丁寧にカメラに収めたのは、『バラの刺青』('55)でアカデミー賞を受賞した名カメラマン、ジェームズ・ウォン・ハウ。中でもミックとボーイフレンドが水辺でたわむれるシーンの情感溢れるムードと色彩の美しさは絶品だった。
 また、デイヴ・グルージンによる素朴で優しいメロディのスコアも素晴らしい。ジャズ・ミュージシャンや音楽プロデューサーとしても有名なグルージンだが、オスカーにノミネートされた『トッツィー』('82)や『グッバイガール』('77)、『チャンプ』('79)など、映画音楽でも優れた仕事を残している。

THE_HEART_IS_A_LONELY_HUNTER-7.JPG THE_HEART_IS_A_LONELY_HUNTER-8.JPG

自宅で念願のパーティを開いたミックだったが・・・

ミックにとってひと夏の恋はほろ苦いものだった

 そして、主演のアラン・アーキンとソンドラ・ロックの演技も良かった。もともとコメディアンとして頭角を現したアーキンだが、本作では孤独を内に秘めたナイーブな青年役を好演し、シリアスな俳優としても通用することを証明した。最近でも『リトル・ミス・サンシャイン』('06)のお爺ちゃん役で強烈な印象を残し、見事アカデミー助演男優賞を受賞している。
 一方のソンドラ・ロックは、『ガントレット』('77)や『ダーティファイター』('78)、『ダーティハリー4』('83)など、恋人だったクリント・イーストウッドの作品でヒロイン役を務めた女優。これがデビュー作なわけだが、まさに絶世の美少女だった。少年のようなあどけなさの中に、思春期を迎えた少女独特の危うさと繊細さ、儚さを表現していて素晴らしい。彼女の存在がなければ、これほどの傑作にはなり得なかったかもしれない。
 その他、最近ではテレビ『プリズン・ブレイク』の刑務所長役でお馴染みの名優ステイシー・キーチ、『サウンダー』('72)でアカデミー主演女優賞にノミネートされた大物黒人女優シシリー・タイソン、ハリウッド映画の予告編ナレーターとしても有名な俳優パーシー・ロドリゲスなどが出演。いずれも人間味溢れる素晴らしい演技を披露している。
 なお、アラン・アーキンとソンドラ・ロックの二人は、本作でそれぞれアカデミー賞にノミネートされた。

 

戻る