ハマー・ホラー傑作選 PART 3

 

 

原子人間
The Quatermass Xperiment (1955)
1955年日本公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2008 20th Century Fox (Japan)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(日本盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/画面比:1.33:1/音声:ドルビーモノラル/言語:アメリカ/字幕:英語/地域コード:2/82分/制作国:イギリス

<特典>
プロダクションノート
スタッフ&キャスト・プロフィール
BBC-TV特番「THE WORLD OF HAMMER/SCI-FI」
オリジナル劇場予告編
ポスター・ギャラリー
監督:ヴァル・ゲスト
製作:アンソニー・ハインズ
原作:ナイジェル・ニール
脚本:リチャード・ランドウ
   ヴァル・ゲスト
撮影:ウォルター・ハーヴェイ
音楽:ジェームズ・バーナード
出演:ブライアン・ドンレヴィ
   ジャック・ワーナー
   リチャード・ワーズワース
   マージア・ディーン
   ゾーラ・ハード
   ゴードン・ジャクソン

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イギリスの片田舎に墜落した宇宙ロケット

クォーターマス教授(B・ドンレヴィ)が現場に駆けつける

唯一の生存者が救出されたものの…

残りの乗組員は跡形もなく消えていた

<Review>
 '50年代のSF映画ブームに乗じて「複製人間の恋」('53)や「人間ロケット」('53)といった正統派SFドラマを生み出したハマー・プロが、本格的にホラー&サスペンス要素を盛り込んで作り上げた作品。言うなれば、ハマー・ホラーの直接的な出発点とも呼ぶべき映画であろう。
 宇宙からの帰還中に消息を絶った有人ロケットがイギリスの片田舎へ墜落。乗組員3人のうち生存者は1人だけで、残りの2人は宇宙服を残したまま姿を消していた。いったい彼らに何が起きたのか。謎の究明に乗り出した宇宙計画の責任者クォーターマス教授だったが、ショック状態にあったはずの生存者カールーンが秘かに病院を抜け出し、やがて行きずりの人々を殺害しながら醜いモンスターへと変貌していく…。
 もともとイギリスBBCで'53年に放送されたSFドラマ・シリーズを劇場用にリメイクしたもの。今となっては荒唐無稽にも思える話ではあるが、宇宙開発競争が本格化しつつあった当時の人々が抱いていたであろう未知の世界に対する不安や恐怖を如実に反映した作品だとも言える。
 さすがに特撮や特殊メイクは原始的で荒削りだし、全体的にスローペースなので中だるみしがちではあるものの、リアリズムに徹したシリアスなヴァル・ゲスト監督の演出は極めて硬派。ドキュメンタリー・タッチのビジュアルが独特の説得力を生み出す。また、宇宙開発のためなら関係者の犠牲も厭わないクォーターマス教授の狂気を描くことで、科学的な進歩に対する熱狂と盲信に疑問を呈した脚本も意外に重みがある。
 なお、宇宙生命体に体を乗っ取られた飛行士の逃亡劇は、明らかにユニバーサル版「フランケンシュタイン」('31)を下敷きにしていると言えよう。水辺での少女との遭遇シーンなどソックリだ。その一方、クライマックスに姿を現すアメーバ状のモンスターは「マックイーンの絶対の危機(ピンチ)」('58)に影響を与えていると思われるし、エイリアンが人間だけでなく植物などのDNAを取り込んで変異していく過程は、ジョン・カーペンター監督の「遊星からの物体X」('82)のヒントになっている。そういえば、本作の基本プロットをそのままパクった「溶解人間」('77)なんて映画もあったっけ。
 そういう意味では非常に分かりやすい、言うなればSFホラーの王道を行く作品といったところ。このジャンルを語る上で外すことのできない1本だ。

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カールーン(R・ワーズワース)はショック状態のまま

仕方なく教授はカールーンを入院させることにする

ロマックス警部(J・ワーナー)の捜査を疎む教授

助手ブリスコーが凶暴化したカールーンに殺される

<Story>
 イギリスの平和な田舎町の郊外に宇宙ロケットが墜落した。それは英国宇宙開発チームが打ち上げたもので、連絡が途絶えたまま行方不明になっていたのだ。責任者のクォーターマス教授(ブライアン・ドンレヴィ)は、助手ブリスコー(デヴィッド・キング=ウッド)らスタッフを連れて現場へ急行。放水処理でロケットの熱を冷ましたところ、中から飛行士カールーン(リチャード・ワーズワース)が意識のもうろうとした状態で現れた。
 だが、ロケットに乗り込んだ飛行士は3人。救助隊が急いで内部へと立ち入ったものの、他の乗組員の姿は影も形もなかった。宇宙服はそのまま残されているのに、一体彼らはどこへ消えたのか?手がかりはカールーンの証言だけだが、彼はショック状態で話せるような状態ではない。一刻も早く謎を解明したいクォーターマス教授は、ブリスコーを急き立ててカールーンに正気を取り戻させろうとする。
 とはいえ、医者ではないブリスコーの力ではどうにもならなかった。意識はあるのだが、一切の反応がないのだ。カールーンの妻ジュディス(マージア・ディーン)は夫を病院で治療させたいと訴えるが、秘密主義者で頑固なクォーターマス教授はそれを許さなかった。彼にとっては、宇宙で何があったのかを知ることの方が、カールーンの健康よりも遥かに重要だったのである。
 しかし、カールーンの様態は良くなるどころか悪化する一方で、もはや医師の手に委ねるしかなかった。クォーターマス教授は仕方なく、厳重警備を条件に彼をロンドンの病院へ入院させることにした。すると、教授に不信感を抱いていたジュディスは、ブリスコーに頼んで夫を病院の外へ連れ出そうとする。看護師を装って病院へ潜入し、辛うじて歩くことのできるカールーンを手引きするブリスコー。そんな彼に、突如として凶暴化したカールーンが襲いかかる。
 病院の裏口から一人で出てきた夫を車に乗せるジュディス。しかし、彼女は異様に巨大化した夫の右手を見て驚いた。その隙に、カールーンは車を飛び出し夜の闇の中へ消えていく。一方、病院では水分を抜き取られて乾燥化したブリスコーの死体が発見される。カールーンの病室ではサボテンの鉢が砕かれていた。さらに、ロケット内に残されていた監視カメラのフィルムが復元され、その映像を見た博士はある仮説を立てる。
 もしロケットが宇宙空間で未知の生命体と遭遇していたら。その目に見えないエイリアンがカールーンの体を乗っ取り、他の2名の乗組員を抹殺し、地球へと降り立ったのではないか。カールーンが数千度といつ大気圏突入時の高熱に耐えられたのも、そもそも既に彼が人間ではなくなっていたからではないか。そして、その生命体は接触したあらゆる生物を体内へ取り込むことが出来ることから、サボテンとも同化してブリスコーから水分を抜き取ったのではないか。
 クォーターマス教授は警察のロマックス警部(ジャック・ワーナー)と協力してカールーンの行方を追う。しかし、あと一歩のところで捕まえることができず、犠牲者を出すばかりだった。そんな折、とある老婆からの通報で異様な“何か”の目撃情報が入る。たまたまテレビ番組の撮影が行われていたウェストミンスター寺院に姿を現したそれは、もはや原型を止めないクリーチャーと化したカールーンの姿だった…。

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変異を重ねながら行きずりの人々を殺すカールーン

動物園の猛獣たちまで犠牲になってしまった

軍隊まで動員してカールーンの行方を捜す

巨大モンスターと化してしまったカールーン

<Information>
 監督は「007/カジノ・ロワイヤル」('67)や「情報局K」('67)などのスパイ映画でも知られる名職人ヴァル・ゲスト監督。当初ハマーからの依頼を受けた際は乗り気ではなく、どうやら断るつもりだったらしいのだが、たまたま脚本を読んだ奥さんの強い勧めもあって、自ら脚本のリライトに携わることを条件に演出を引き受けたという。
 その脚本をゲスト監督と共に手がけたのが、ハマーの初期SF映画「人間ロケット」にも参加したアメリカ人脚本家リチャード・ランドウ。彼はもともと「燃える大陸」('51)や「邪教の王妃」('53)といった、低予算のSFファンタジー映画を得意とする人物だった。ただし、テレビ版を手がけた原作者ナイジェル・ニールは映画版の脚色に批判的だったらしく、中でもクライマックスの変更には不満を隠さなかったと言われている。
 製作はハマー・プロの創設者ウィリアム・ハインズの息子で、ハマー・ホラーの重要な脚本家の1人でもあったアンソニー・ハインズ。さらに、ハマー・プロ初期のフィルム・ノワールを数多く手がけたウォルター・ハーヴェイが撮影監督を、「フランケンシュタインの逆襲」('57)や「ミイラの幽霊」('59)なども手がけたジェームズ・ニーズが編集を、ハマー御用達のメーキャップマンであるフィル・リーキーが特殊メイクを、「スーパーマン」('78)でアカデミー賞を獲得したレス・ボウイが特殊視覚効果を担当。そして、ハマー・ホラーの音楽スコアといえばこの人、とも言うべき作曲家ジェームズ・バーナードが、本作で初めてハマー・プロ作品を手がけている。

 主人公クォーターマス教授を演じているのは、「ボー・ジェスト」('39)でアカデミー助演男優賞にノミネートされたハリウッドの名優ブライアン・ドンレヴィ。低予算ノワールのヒーローから大作映画の重要な脇役まで幅広く活躍した役者だが、中でも冷酷非情な悪役を演じて評価の高い人だった。本作でも理想に燃えるあまり倫理観の欠落してしまった科学者の狂気を見事に演じ、時に背筋の凍るような怖さすら垣間見せているが、原作者ニールからは“冷たすぎる”と不評だったと言われる。
 そんな冷血漢クォーターマス教授とたびたび対立しながらも、飄々としたユーモラスな性格でやり過ごしながら捜査を担当するロマックス警部役には、当時のイギリスで一般大衆から高い人気を得ていたベテラン俳優ジャック・ワーナー。平凡な庶民一家の父親を演じたファミリー映画“Here Come the Huggets”('48)は大ヒットしてシリーズ化もされ、アレック・ギネス主演の傑作「マダムと泥棒」('55)にも警察署長役で顔を出していた。
 そして、エイリアンに体を乗っ取られた宇宙飛行士カールーン役で強烈な印象を残すのがリチャード・ワーズワース。シェイクスピア劇やミュージカルで有名なロンドンの舞台俳優で、ハマー作品には「フランケンシュタインの復讐」('58)や「吸血狼男」('61)にも顔を出している。本作では次第に人間性を失ってモンスター化していくカールーンの悲劇を一切のセリフなしで演じており、今では「フランケンシュタイン」('31)のボリス・カーロフに匹敵する名演との評価を得ている。
 そのほか、元ミス・カリフォルニアのアメリカ人B級映画女優マージア・ディーン、“Lost for Words”('99)で英国アカデミー賞を獲得した名脇役女優ゾーラ・ハードが共演。さらに、「大脱走」('63)や「素晴らしきヒコーキ野郎」('65)などで売れっ子になるコワモテの名優ゴードン・ジャクソンがテレビ・ディレクター役、ポール・マッカートニーの恋人としても有名になるジェーン・アッシャーがカールーンと遭遇する少女役で顔を出している。

 

 

宇宙からの侵略生物
Quatermass 2 (1957)
日本では劇場未公開・テレビ放送なし
VHS・DVDは日本発売済

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(P)2004 Anchor Bay (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/画面比:1.33:1/音声:ドルビー・モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/85分/制作国:イギリス

<特典>
V・ゲスト監督と脚本家N・ニールの音声解説
アメリカ版オリジナル劇場予告編
BBC-TV特番「THE WORLD OF HAMMER/SCI-FI」
監督:ヴァル・ゲスト
製作:アンソニー・ハインズ
原作:ナイジェル・ニール
脚本:ナイジェル・ニール
   ヴァル・ゲスト
撮影:ジェラルド・ギブス
音楽:ジェームズ・バーナード
出演:ブライアン・ドンレヴィ
   ジョン・ロングデン
   シドニー・ジェームス
   ブライアン・フォーブス
   ウィリアム・フランクリン
   ヴェラ・デイ

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宇宙から無数の隕石が特定地域に集中して降り注いでいた

月面基地の建設計画を進めるクォーターマス教授(B・ドンレヴィ)

何もないはずの片田舎で教授が目撃したものとは…

隕石を拾い上げた助手マーシュ(B・フォーブス)だったが…

<Review>
 「原子人間」の記録的な大ヒットを受けて製作された“クォーターマス”シリーズ第2弾である。今回もBBCドラマを原作としつつ、撮影前にメジャー・スタジオのユナイテッド・アーティスツが全米配給権を購入したことから、前作に比べると製作費は倍以上に増額。特撮やアクションも遥かにスケールアップし、よりエンターテインメント性の高い侵略型SF映画となった。
 今度は、イギリスのとある地域に集中して隕石が降り注ぐという奇妙な現象が発生。現地を調査に訪れたクォーターマス教授は、そこで謎の巨大施設を発見する。政府が管理する食品製造工場とのことだったが、その内部は立ち入り禁止でトップ・シークレット扱い。実は、この施設は地球侵略を進めるエイリアンの秘密基地で、大量の隕石と思われたものは地球外生命体を搭載した小型ロケットだったのだ。しかも、彼らは秘かに政府や警察の上層部をマインド・コントロールしていた。旧友であるロマックス警部や新聞記者の協力を得た教授は、邪悪で醜いエイリアンたちによる侵略計画を阻止すべく奔走するのだが…。
 前作では宇宙開発のためなら他人の命も顧みない冷酷非情な科学者として描かれていたクォーターマス教授だが、本作では一転して人類を救うため立ち上がる勇敢なヒーローに。政治家や警察幹部など権力者の多くがエイリアンによって操られる中、教授はいち早く地球侵略計画の存在に気づくわけだが、彼の訴えに耳を傾けてくれる人は少ない。脚本の根底に、政治不信や反権力のメッセージがあることは間違いないだろう。
 興味深いのは、巨大施設に隣接する町の人々が、クォーターマス教授らの警告を頭から聞き入れようとしない点だ。施設のおかげで雇用が生まれて町は潤っている。ゆえに、外部の人間に余計な波風は立てて欲しくない。政府が安全だと言うのだから安全なのだろう、責任者が食品製造工場だというのだからそうなのだろう。お金さえ貰えるのであれば、内部で何をしていようが我々には関係ない…というわけだ。
 中には施設の実態に疑問を呈する住人もいるが、地域全体の利益のために少数意見は封殺されている。まるで、どこぞの原子力発電所と自治体の関係を連想させるような歪んだ利害の構図だ。そして、住民たちは実際に犠牲者が出てはじめて騙されていたことに気づき、すると今度は激しい怒りに任せて暴徒と化す。愚かで単純で短絡的な大衆心理を皮肉った脚本はなかなか辛辣だ。

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ロマックス警部(J・ロングデン)に巨大施設の件を尋ねるが…

施設に疑問を持っているというブロードヘッド(T・チャットー)

教授は巨大施設の見学ツアーに参加する

貯蔵タンクに忍び込んだブロードヘッドが怪死を遂げる

<Story>
 研究所へ向かう途中で自動車事故に遭遇したクォーターマス教授(ブライアン・ドンレヴィ)は、病院に向かう途中だったというカップルを自分の車に乗せる。聞けば、カップルはウィナーデン・フラッツという場所を通り過ぎたのだが、そこで石塊か何かが男性の顔に当たって怪我をしたのだという。教授は急いで2人を病院まで送り届けた。
 月面基地の建設計画を推し進めようとしているクォーターマス教授。具体的な模型や図面も作成したのだが、政府は全く動く気配がなかった。これからは宇宙開発の時代だというのに、政治家や役人は何を考えているのか。肩を落とす教授だったが、助手ブランド(ウィリアム・フランクリン)からの奇妙な報告に興味を引かれる。片田舎の特定地域に無数の隕石が降り注いでいるというのだ。
 その場所の名前はウィナーデン・フラッツ。先ほど病院に送り届けたカップルが言っていた場所だ。これは偶然などではないはず。そう考えた教授は、若手スタッフのマーシュ(ブライアン・フォーブス)を連れてウィナーデン・フラッツへと向かう。そこは地図上だと何もない野原のはずだった。ところが、現地に到着してみると巨大な施設が建っている。しかも、それは博士が計画した月面基地とソックリであった。
 いったいこれは何なのか?しかも、付近は立ち入り禁止で一般人が入れないようになっている。ふと見ると、地面には無数の小さな石が転がっていた。これが隕石なのか?だが、手に取ってみると、それはまるで小さなロケットのような形をしている。研究所に持ち帰ろうとマーシュが拾い上げた途端、その隕石が破裂して飛び散った。顔面に怪我をして苦しみ出すマーシュ。よく見ると、その傷は奇妙な形をしていた。
 すると、施設の方角からジープに乗った兵士たちが現れ、マーシュを連れ去ってしまう。必死になって止めようとするクォーターマス教授だったが、兵士たちはまるで誰かに操られているような様子だ。しかも、全員の顔にマーシュと同じ傷がある。これは何を意味するのか?身の危険を感じた教授は、慌ててその場を車で立ち去った。
 あの巨大施設は何なのか?マーシュはどこへ連れ去られたのか?隣接する小さな町へたどり着いた教授は警察に通報しようとするが、住民によるとこの町には警官がいないという。コミュニティーセンターで電話を借りようとしたが、巨大施設のことを話すと断られてしまう。住人の大半が施設の作業員として働いており、そのおかげで生活が成り立っている。彼らは仕事を提供してもらう代わりに、施設のことは一切口外しないよう契約していたのだ。
 ロンドンへ戻った教授は、すぐに旧友ロマックス警部(ジョン・ロングデン)に相談する。警部によると巨大施設は政府が管理する人口食品の製造工場で、なんら怪しいところはないという。だが、教授は警部が何か隠しているのではないかと直感して食い下がった。すると、警部は渋々ながら事情を話し始めた。
 実は、その施設に関して既に疑問を呈している人々がいるのだという。だが、その詳しい情報に関してはトップシークレット扱いで、資料開示の申請をしても政府上層部から却下されてしまうというのだ。そこで、クォーターマス教授は警部に紹介してもらったヴィンセント・ブロードヘッド(トム・チャットー)なる人物と接触する。
 ブロードヘッドは巨大施設の情報開示を求めている人々のリーダーだった。彼によると、ようやく施設内の見学が許されたという。そこで教授は見学グループに加えてもらうことにする。ところが、参加者は見学の途中でどこかへ連れ去られてしまい、単独で人口食料の貯蔵タンクを偵察していたブロードヘッドは、全身を真っ黒なスライム状の液体に覆われて息絶えてしまう。間一髪で拉致を逃れたクォーターマス教授は、兵士たちの追跡を振り切って施設を脱出した。
 命からがら逃げ帰った教授は、ある仮説を立てた。ウィナーデン・フラッツに降り注いでいる隕石は地球外生命体のロケットなのではないか。あの巨大施設はエイリアンが建設したものなのではないか。顔に傷を負った兵士たちはエイリアンに操られているのではないか。施設が月面基地にソックリなのは、エイリアンたちが地球の外気に触れないようにするためなのだろう。人口食料だという黒い液体も、なにか別の目的があるに違いない。
 最初は取り合おうとしなかったロマックス警部だが、上司の顔に奇妙な傷があることに気づいて、教授の言うことを信じるようになる。これまで巨大施設の情報開示や調査が許されなかったのは、既に政府や警察の上層部がエイリアンに乗っ取られているからなのであろう。月面基地の建設計画を政府が受け入れなかったのも、恐らくそのせいだ。
 一刻も早く国民に危険を知らせなければ。そこで、ロマックス警部は警察に出入りしている新聞記者ジミー・ホール(シドニー・ジェームス)を仲間に引き入れる。最初は半信半疑だったホールだが、教授や警部の説明を聞いていくうちに納得する。しかし、記事を書くためには証拠が必要だ。クォーターマス教授とロマックス警部は、ジミーを同伴して周辺調査に乗り出すことにするのだが…。

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上司がエイリアンに乗っ取られていると気づいたロマックス警部

教授と警部は新聞記者ジミー(S・ジェームス)を味方につける

施設のことを嗅ぎ回る教授らに反発する町の住民たち

隕石に触れたウェイトレスのシーラ(V・デイ)に異常が…

<Information>
 前作に引き続いて演出を手がけたヴァル・ゲスト監督。リアリズム重視のシリアスなSFという基本路線はそのまま継承しつつ、今回は予算が潤沢に与えられたこともあり、銃撃戦を含むアクションシーンや大量のエキストラを動員したパニックシーンなどを織り交ぜながら、よりスケール感のある侵略型SFホラーへと仕上げている。特に真っ黒な液体にまみれたブロードヘッドが貯蔵タンクから出てくるシーンはインパクト強烈。巨大なスライム状のエイリアンが襲い来るクライマックスも、おそらく当時の観客にはショッキングだったのではないだろうか。
 そして、本作では原作者のナイジェル・ニールが脚本に参加。なので、ストーリーはオリジナルのBBC版にほぼ忠実だという。ただ、最終的にゲスト監督自身が前作同様にリライトを手がけており、エンディングだけはテレビ版と大きく違うらしい。また、前作でニールがミスキャストだと指摘していたブライアン・ドンレヴィが再びクォーターマス教授役を演じていることもあり、結果的に彼の満足するような出来ではなかったようだ。
 撮影監督は「白昼の情事」('64)で英国アカデミー賞にノミネートされたジェラルド・ギブス。ハマーでは「怪獣ウラン」('56)の撮影も手がけており、随所にグレートーンのフィルターを使用することによって、全体的にダークでミステリアスなモノクロ世界を作り上げている。また、視覚効果担当のレス・ボウイによる大掛かりなマット・ペインティングや、ビル・ウォリントンら特殊効果チームによるエイリアンのデザインも良くできている。
 なお、興業的には十分な成功を収めた本作だが、ほぼ同時期に公開された「吸血鬼ドラキュラ」('57)のメガヒットでハマーがゴシック・ホラー路線を重視するようになったため、劇場版クォーターマス・シリーズの製作はこれをもって一旦ペンディングに。3作目の「火星人地球大襲撃」('67)が作られるまで10年を要することとなった。

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教授は軍隊に紛れて施設の内部へと足を踏み入れる

貯蔵タンクの中には巨大なスライム状のエイリアンが

真相を知って暴徒と化した住民たちが施設に押し寄せる

エイリアンの侵略計画を阻止しようとする教授たちだが…

 で、原作者からはダメ出しされてしまった主演のブライアン・ドンレヴィだが、前作とは打って変わって正義感の強いヒーローとして描かれるクォーターマス教授を颯爽と演じており、それでいてマッド・サイエンティスト的なエキセントリックもちゃんと残しているのはやはり巧い。善人も悪人もこなせる彼ならではの魅力だろうと思う。
 前作のジャック・ワーナーに代わってロマックス警部を演じているのは、ヒッチコックの初期作品「恐喝」('29)の主演俳優として知られるジョン・ロングデン。さらに、後に監督として「雨の午後の降霊祭」('64)や「ステップフォード・ワイフ」('75)などの傑作カルト映画を手がけるブライアン・フォーブスが、クォーターマス教授の研究所で働く若きスタッフ、マーシュとして顔を出している。
 そのほか、チャールズ・クライトン監督の名作「ラベンダーヒル・モブ」('51)などでイギリスでは有名な喜劇俳優シド・ジェームス、ロマン・ポランスキーの「袋小路」('66)にも出ていたウィリアム・フランクリン、ロックスターやハリウッドスターの斬新なポートレートで有名な写真家テリー・オニールの妻だったヴェラ・デイなどが共演。ヴェラは当時のゲスト監督のお気に入り女優でもあった。

 

 

火星人地球大襲撃
Quatermass and the Pit (1967)
日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
DVDのみ日本発売済

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(P)2004 Anchor Bay (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイド・スクリーン(レターボックス仕様)/画面比:1.85:1/音声:5.1chドルビーサラウンド/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/ 98分/制作国:イギリス

<特典>
監督と脚本家による音声解説
英国版オリジナル劇場予告編
米国版オリジナル劇場予告編
英国版テレビスポット集
BBC-TV特番「THE WORLD OF HAMMER/SCI-FI」
監督:ロイ・ウォード・ベイカー
製作:アンソニー・ネルソン=キーズ
原作:ナイジェル・ニール
脚本:ナイジェル・ニール
撮影:アーサー・グラント
音楽:トリストラム・ケリー
出演:ジェームズ・ドナルド
   アンドリュー・キア
   バーバラ・シェリー
   ジュリアン・グローヴァー
   ダンカン・ラモント
   ブライアン・マーシャル
   ピーター・コプリー
   エドウィン・リッチフィールド

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地下鉄で発見された人骨が500万年前のものと発表するロニー博士(J・ドナルド)

宇宙開発計画を巡って軍部と対立するクォーターマス教授(A・キア)

人骨と共に発見された正体不明の物体は、未知の物質で出来ていた

<Review>
 前作から10年ぶりに製作された劇場版クォーターマス・シリーズの第3弾。厳密に言うと火星人そのものではなく、太古に滅んだ彼らの怨念というか残留意思みたいなものがロンドンを襲うという、かなり変化球的なSFパニックホラーだ。類人猿から人類への進化が実は地球外生命体によって意図的にもたらされたもの…という奇想天外な設定を用いつつ、人間の潜在意識に組み込まれた差別や憎悪といった負の感情に焦点を当てていく。看板に偽りありな日本語タイトルはともかくとして、内容的には心理分析的な戦争批判を多分に含んだ野心作と言えよう。
 ロンドンの地下鉄拡張工事の現場で人骨と正体不明のミサイルのような物体が発見される。調査に当たった古生物学者ロニー博士と助手バーバラ、そしてクォーターマス教授の3人は、それらが500万年前のものと断定。しかも、人骨は従来の原始人のものとは特徴が異なっており、さらにミサイルのような物体は構造的にも材質的にも地球上のものとは考えられなかった。
 やがて、彼らは太古に地球へ飛来した滅亡寸前の火星人が、自分たちの遺伝子の一部を移植することで人類に知能を与えたのではないかと仮説を立てる。しかも、発見された現場では中世の昔から数多の怪奇現象が報告されていた。なにか不吉なことが起きる予兆を感じたクォーターマス教授たちだったが、政府は彼らの仮説をバカげていると一蹴。戦時中にイギリス社会を混乱させるべくナチスが仕込んだ作り物であると公表するのだが…。
 原始時代から描き続けられてきた“悪魔”の原型というのが、実は人類の遠い過去の記憶に刻まれた火星人の姿だった…などなど、SFとオカルトを巧みに絡めてくるあたりが、既にホラー映画専門の製作会社としてブランドイメージを確立していた当時のハマー・プロらしいアプローチ。現代に蘇った火星人の“怨霊”がロンドンの街を大パニックに陥れるクライマックスは、後の「スペース・バンパイア」を彷彿とさせるものがあって面白い。
 で、実は民族同士の対立が火星人を滅亡に導いたというのが本作の重要なポイント。優性遺伝子を持つ種族が劣性な種族を社会から排除しようとした結果、繰り返される戦争によって自滅してしまったというのだ。ゆえに、その遺伝子の記憶を受け継いだ人類は、本能的に自分と異なる者を差別したり憎んだり攻撃したりしようとする。それは人類が克服せねばならない“呪い”なのだ、という反戦のメッセージが込められた作品でもあるわけだ。
 ただ、いかんせん約47年前の低予算映画ということもあってか、特殊効果の技術が物語のスケールに全く追いついていないことは否定できまい。特に、テレキネシスで映像に記録された“火星滅亡の様子”は失笑もののお粗末さ。ミニチュアの固定人形をチョコチョコと動かしているだけなのが丸分かりだ。また、セリフも科学的な知識や情報を元にした論理性をことごとくすっ飛ばしているため、荒唐無稽な設定に真実味を与えることが出来ていない。そのせいで、クォーターマス教授がただの暴走オヤジに見えてしまうという弊害も否めないだろう。もうちょっと丁寧に作り込むことが出来なかったものかと惜しまれる。

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ホッブス・エンド周辺に伝わる怪現象の歴史を調べる教授とバーバラ(B・シェリー)

物体の中から昆虫のような姿をした火星人のミイラが発見される

クォーターマス教授の仮説を全面否定するブリーン大佐(J・グローヴァー)

<Story>
 ロンドンの地下鉄駅ホッブス・エンドで、路線拡張工事を行っていた作業員が古い人骨を偶然に発掘する。現場へ呼び出された古生物学者ロニー博士(ジェームズ・ドナルド)は、それが500万年以上前の原始人であると断定。これまでで最も古い人類の痕跡だった。すると、今度は博士のスタッフがミサイルのような形状の奇妙な物体を発見。周辺の地層を鑑みても、原始人の骨と物体が同時代のものであることが推測できた。
 その頃、高名な宇宙学者クォーターマス教授(アンドリュー・キア)は頭の痛い問題に直面していた。これまで教授の推進してきた宇宙開発計画が、英国軍の管轄下に置かれることとなったのだ。彼らが宇宙技術を軍事利用しようと考えていることは明白。博愛主義者の教授は強く反発するが、担当官のブリーン大佐(ジュリアン・グローヴァー)は傲慢で頑固な融通のきかない堅物だった。そこへ未確認物体発見の一報が入り、大佐は教授を連れて現場へ急行する。
 その物体はダイアモンドよりも硬い未知の物質で出来ており、構造的にもこれまで誰も見たことのないような代物。ブリーン大佐は戦時中にナチスドイツが仕掛けた爆弾ではないかと疑い、不発弾処理班を動員すると共に周辺の住民を一時避難させることにする。だが、このホッブス・エンドの近辺は廃墟となっている建物だらけで、住民は殆どいなかった。ホッブスとは悪魔の古い別称。この周辺一帯は呪われた地域として忌み嫌われていたのだ。
 軍は物体の封印された内部を確認するため、ドリルで穴を開けようとするも失敗。だが、その振動で壁が崩壊し、中からミイラと化した昆虫のような生物が姿を現す。長いあいだ密封されていたことから、外気に当たって崩壊していくミイラを急いで調べるクォーターマス教授たち。その結果、彼らは昆虫のような生物が火星人であること、そして謎の物体が宇宙船であることを確信する。
 さらに、教授はロニー博士の助手バーバラ(バーバラ・シェリー)と共に、ホッブス・エンド周辺で記録されてきた数々の怪現象を調べ始めた。すると、驚くべき真実に突き当たる。原始時代の壁画に描かれた悪魔、そして中世以降の文献に登場する悪魔などの姿が、今回発見された火星人とソックリだったのだ。また、ロニー博士は原始人の骨の特徴が従来のものとは著しく異なることに気づく。そうした調査の結果、彼らはこれまでの常識を覆すような仮説を導き出した。
 今から500万年以上前、滅亡の危機に瀕した火星から脱出した火星人たちが宇宙船で地球へやって来たものの、残念ながら環境に適応できなかった。そこで、死を待つ彼らは地球の類人猿に自らの遺伝子を植え付けることで、部分的ながらも種の保存を試みようとしたのだ。かくして手術を施された類人猿は、それまでになかった知性を身に付けることとなり、現在の人類の祖先となった…というのがクォーターマス教授たちの主張だった。
 とはいえ、そのような突飛な報告を政府や軍部が受け入れるはずもなく。大臣(エドウィン・リッチフィールド)は教授の正気を疑い、ブリーン大佐は全てが戦時中にナチの仕組んだプロパガンダ工作だと結論づける。つまり、これは正体不明の物体や人骨をわざと発見させることで、イギリス社会を混乱に陥らせようとしたナチの心理作戦の残骸だというのだ。
 その頃、発掘現場で作業をしていた技師スレイデン(ダンカン・ラモント)が、突如としてなにか強烈なパワーに精神を乗っ取られる。彼の周辺ではポルターガイスト現象が発生。目に見えない力によって地上へ飛び出した彼は、街ゆく人々をパニックに陥れながら教会へたどり着く。火星の崩壊する様子を目撃したという彼の言葉を聞いたクォーターマス教授は、怪現象の力で遺伝子に刻まれた火星人の記憶が呼び覚まされたのだと考える。
 そこで、教授は自らが実験台となって、再び怪現象を起こさせようとする。ただし、今回は友人が開発した特殊な装置を使う。それは、脳波の捉えたビジョンを映像としてフィルムに記録することができる画期的な機械だった。ところが、正体不明のパワーはバーバラに取り憑く。慌てて彼女に機械を装着させた教授は実験に成功。フィルムに映し出された映像は、まさに火星が戦争で滅亡するその瞬間を生々しく捉えていた。
 仮説を裏付ける決定的な証拠として、教授はフィルムを大臣やブリーン大佐らに見せる。だが、またもや彼の主張は受け入れられなかった。大臣は原始人の骨も正体不明の物体も、全てナチスが作ったニセモノだと世間に公表することを決定。記者会見が開かれることとなる。なにか恐ろしいことが起きるのではないかと直感した教授は、記者会見を止めさせようとするのだったが…。

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正体不明のパワーがバーバラに憑依する

脳波の信号を通じて映像に記録された火星滅亡の様子

記者会見の現場で物体が動き始めてしまう

<Information>
 '58年の12月から翌年の1月にかけてテレビ放送された、同名のクォーターマス・シリーズ3作目を劇場用にリメイクした本作。もともと3時間半あったオリジナル版のストーリーを、ここでは1時間半ちょっとに短縮している。全体的に脚本のディテール描写が粗雑に思えてしまうのは、その辺にも理由があるのかもしれない。
 監督はマリリン・モンロー出演の「ノックは無用」('52)やパニック大作映画の名作「SOSタイタニック/忘れえぬ夜」('58)で有名なロイ・ウォード・ベイカー。本作をきっかけにハマー映画の常連監督となった彼は、「残酷な記念日」('68)や「ヴァンパイア・ラヴァーズ」('71)、「ドラゴンvs7人の吸血鬼」('73)など、ハマー・ホラー中〜後期の名作を数多く手がけ、さらにはライバル会社アミカスでも「アサイラム・狂人病棟」('72)や「墓場にて」('73)などの秀作オムニバス・ホラーを演出した。
 なお、もともとハマー側は前作までのヴァル・ゲスト監督の再起用を検討していたらしいのだが、ちょうど当時の彼は「007/カジノ・ロワイヤル」('67)の撮影に取り掛かっていたため実現不可能に。そこで、過去にハリウッドのメジャー・スタジオで大作映画を何本も経験していながら、当時はテレビドラマの演出に甘んじていたロイ・ウォード・ベイカー監督に白羽の矢を立てたのだそうだ。
 一方、脚本は前作に引き続いて原作者のナイジェル・ニール自身が担当。また、特殊効果にも再びレス・ボウイが起用されているのだが、火星滅亡シーンのチャチなミニチュア撮影をはじめ、ポルターガイスト現象ではピアノ線がモロバレだったりするなど、今回は少々雑な仕事が目立つように思える。さらに、1作目と2作目で編集を手がけたジェームズ・ニーズが、今回は編集監修として参加している。
 撮影監督は「恐怖の雪男」('57)を皮切りに「吸血狼男」('61)や「吸血ゾンビ」('66)、「ドラキュラ血の味」('70)など数多くのハマー・ホラーを手がけたアーサー・グラント。ほかにも、「フランケンシュタインの逆襲」('57)や「吸血鬼ドラキュラ」('58)などハマー全盛期のほぼ全作品に参加した美術デザインのバーナード・ロビンソン、「フランケンシュタインの復讐」('58)や「妖女ゴーゴン」('64)などの衣装担当ローズマリー・バロウズなどのハマー常連組も顔を揃えている。

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火星人の強い遺伝子を持つ人々が、そうでない人々を排除しようとする

ロンドンの上空に浮かび上がる巨大な火星人の霊体

クォーターマス教授とロニー博士は混乱を食い止めようとする

 今回主演としてクレジットされているのは、ロニー博士役を演じているジェームズ・ドナルド。ハリウッド映画「炎の人ゴッホ」('56)で、画家ゴッホの弟テオを演じて高く評価された俳優で、当時は「バイキング」('57)や「大脱走」('63)、「巨大なる戦場」('65)、「脱走山脈」('68)など数多くのメジャー大作に出演していたスコットランド人俳優だ。役柄的には2番手ではあるものの、そのネームバリューからトップビリングされたのだと言えよう。
 で、実質的な主役であるクォーターマス教授を演じているのが、「凶人ドラキュラ」('66)や「虐殺の女王」('67)などハマー作品への出演も多い強面の名バイプレイヤー、アンドリュー・キア。実は彼、ベイカー監督とは現場でコミュニケーションを取ることが少なく、自分が監督から嫌われているのではないかと思い込み、後に“精神的に地獄のようなキツい仕事だった”と語っている。ただ、ベイカー監督は撮影中に彼と距離を置いていたことは認めたものの、全く他意はなかったらしく、ましてや彼がそんなに悩んでいたなどとは気付かなかったそうだ。
 ロニー博士の助手バーバラを演じているのは、「妖女ゴーゴン」や「凶人ドラキュラ」などにも出演し、ハマー・ホラーを代表する美女の一人として有名な女優バーバラ・シェリー。ベイカー監督も撮影中は彼女にゾッコンだったらしく、“狂おしいくらい彼女に恋してしまった”と明かしている。
 そして、憎まれ役のブリーン大佐を演じているのは、「007/ユア・アイズ・オンリー」('81)のボンドの敵クリスタトス役で知られる名優ジュリアン・グローヴァー。「スターウォーズ/帝国の逆襲」('80)のヴィアース将軍役や「インディ・ジョーンズ最後の聖戦」('89)の悪徳実業家ドノヴァン役で記憶している映画ファンも多いだろう。最近では大型テレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズの悪女サーセイの腹心パイセル役でもお馴染みだ。
 そのほか、巨匠ルノワールの名作「黄金の馬車」('53)でハンサムな総督を演じたダンカン・ラモント、「宇宙からの侵略生物」にも端役で顔を出していたエドウィン・リッチフィールド、「長く熱い週末」('80)の政治家ハリス役で知られるブライアン・マーシャルなどが出演。ちなみに、ラモントはBBCドラマ版1作目で宇宙飛行士カールーン役を演じていた。

 

 

魔獣大陸
The Lost Continent (1967)
日本では1968年劇場公開
DVDのみ日本発売済

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(P)2004 Anchor Bay (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85:1/音声:ドルビーモノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/97分/制作国:イギリス

<特典>
オリジナル劇場予告編
TVスポット集
BBC-TV特番「THE WORLD OF HAMMER : LANDS BEFORE TIME」
監督:マイケル・カレラス
製作:マイケル・カレラス
原作:デニス・ホイートリー
脚色:マイケル・ナッシュ
撮影:ポール・ビーソン
特撮:ロバート・マッテイ
音楽:ジェラルド・シューマン
出演:エリック・ポーター
   ヒルデガルド・ネフ
   スザンナ・リー
   トニー・ベックリー
   ナイジェル・ストック
   ニール・マッカラム
   ベニト・カルザース
   ジミー・ハンレイ


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税関の検査を強行突破するラーセン船長(E・ポーター)

船長は部下に秘密で危険な爆発物を密輸しようとしていた

独裁者の元愛人エヴァ(H・ネフ)と彼女を追ってきた男リカルディ(B・カルザース)

<Review>
 「炎の女」('65)に始まるハマー中期の重要なサブジャンル、ロスト・ワールドものの一本なのだが、本作の場合はファンタジックなモンスター映画としての魅力も兼ね備えているのが特色。しかも、いわくつきの登場人物たちによる殺伐とした人間ドラマ、中世ヨーロッパの異端審問などのドロドロとしたダークな要素が絡み合い、一種独特の幻想的かつ悪夢的な世界を作り上げている。
 アフリカの港を出発した一隻の貨物船。そこには、様々な事情から正規のルートで国外へ出ることのできない怪しげな人々が乗っていた。しかも、現役引退を控えた船長は、退職金稼ぎのため部下に黙って危険な爆発物を密輸。ところが、運悪く一行は巨大な台風に遭遇してしまい、あえなく船が難破してしまう。たどり着いた先は、海の果てにある難破船の墓場。そこでは、巨大なタコやヤドカリ、人食い海藻などのモンスターが生息し、中世に難破したスペインのガレー船の子孫たちが恐怖政治的な社会を作り上げていた…。
 まずは、オープニングがけっこう印象的。バート・バカラック風のムーディな甘いテーマ曲と、怪奇幻想的な重苦しいビジュアルのミスマッチがとてもシュールな雰囲気を醸し出す。そもそも、本作の音楽スコア自体がお洒落なラウンジ色というかムード音楽色が濃厚。いかにも'60年代後半ぽくて個人的に大好きなセンスだが、もしかすると人によっては違和感を覚えたり、耳障りに感じるかも知れない。
 で、物語は貨物船が税関チェックを振り切って航海へ出るところから始まる。落ち着きのない船長の様子からして、いかにも後ろめたい秘密がある様子。乗客たちもそれぞれにブラックな事情を抱えていて、一癖も二癖もある人々ばかりだ。これほど感情移入しづらいキャラが揃った映画も珍しいかもしれない。
 そんな連中の織り成す物騒な人間ドラマが前半のメイン。あからさまなエゴのぶつかり合いが、不測の事態をどんどんと悪化させていく。肝心の特撮はどうなってんのよ!?とか、怪獣なんて全然出てこないじゃん!といった不満の声も聞こえてきそうだが、人間の愚かさや浅ましさを徹底的に描くという意味において効果的だし、なによりも作品全体のニヒリスティックなトーンを明確にしていると言えよう。
 で、嵐で難破した主人公たちがいつの間にか人食い海藻に囲まれる辺りから、ロスト・ワールド系モンスター映画としての本領を発揮。実物大のハリボテ・クリーチャーはチャチといえばチャチだが、アナログならではの生々しさと気持ち悪さがあっていい。また、過去に難破した船の生存者たちの子孫が独自の社会を形成しているわけだが、スペインの異端審問官を頂点とした宗教的狂信者たちが圧政を敷いているという設定も面白い。人間というのはどこへ行っても、傲慢で身勝手で独善的な生き物というわけだ。
 とりあえず、この種のファンタジー映画としてはかなり異色の作風ゆえに、恐らく賛否両論…というよりも好き嫌いがハッキリと分かれる作品ではあるだろう。単純明快なエンターテインメントとは真逆なペシミズムも、観客を選ぶポイントになるかもしれない。が、一度ハマったら病みつきになるタイプの映画でもあると思う。

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悪徳医師ウェブスター(N・ストック)と色情狂の反抗娘ユニティー(S・リー)

乗客と乗組員は爆発物を安全な場所へ移動させようとするが…

激しい台風の中を救命ボートに乗って脱出する一行

<Story>
 シエラレオネ共和国のフリータウンから南米のカラカスへ向けて、1艘の貨物船が出航する。税関のボートが船内検査のために立ち止まるよう警告するも、ラーセン船長(エリック・ポーター)はそれを無視。しかも、通常の航行ルートを避けて全速力で運行するよう指令を出す。どうやら、船長には一刻も早く国外へ出なければならない理由があるようだ。
 貨物船には航海士や作業員のほか、それぞれ密かにアフリカを脱出せねばならぬ事情を抱えた旅客も乗船していた。違法手術で患者を死なせてしまった医師ウェブスター(ナイジェル・ストック)に、色情狂で反抗的なその娘ユニティー(スザンナ・リー)、お尋ね者で飲んだくれの詐欺師ハリー(トニー・ベックリー)、そして多額の無記名債権を横領した独裁者の元愛人エヴァ(ヒルデガルド・ネフ)に、彼女から債権を奪い返すため雇われた男リカルディ(ベニト・カルザース)。いずれ劣らぬワケありな人物ばかりだ。
 その頃、作業員たちが船内の奥で奇妙な荷物を発見する。それは、見るからに怪しげな大量の黄色いドラム缶。中身については固く口を閉ざすラーセン船長だったが、絶対に水に濡らしてはいけないと作業員たちにキツく注意する。というのも、実はそれらは手榴弾や砲弾に使用される白リン弾で、水と混ざることで爆発する危険な物質だった。この航海を最後に引退を考えていた船長は、金に目がくらんで白リン弾の密輸を部下に無断で請け負っていたのだ。
 ところが、気象観測所から巨大な台風が迫っているとの連絡が入る。しかし、船長としては港へ引き返すわけにはいかない。逃亡目的の乗客たちとて同じだ。何の事情も知らされていない第一航海士のヘミングス(ニール・マッカラム)だが、船長や乗客たちの様子に疑念を抱き、さらに白リン弾のことを知らされて愕然とする。こんな連中に付き合っていられない。そう考えた彼は作業員たちと結託して船長に反旗を翻し、食料と救命ボートを奪って脱出してしまう。
 大半の乗組員が去ってしまった。しかし、強烈な台風が目の前に迫っている。貨物船は激しく揺れ、船底が浸水し始めた。しかも、全速力で航海していたためエンジンも不調に。乗客も加わってドラム缶を船底から運び出し、チーフ作業員のニック(ジェームズ・コシンズ)がエンジンの修理に取り掛かるものの、もはや最悪の状況は避けられそうになかった。そこで、ラーセン船長は1隻だけ残った救命ボートで全員脱出することにするが、バーテンダーのパトリック(ジミー・ハンレイ)だけが取り残されてしまう。
 なんとか無事に救命ボートで脱出した一行。台風も過ぎ去った。しかし狭いボートに10数人、来る日も来る日も直射日光が照りつけ、食料や水もわずか。人々は不安や苛立ちを隠せなくなっていく。そして、密かに酒を飲んで酔っ払ったハリーとウェブスター医師がケンカを始めたことをきっかけに、ボートの上は醜い争い状態に。海に落ちたウェブスター医師はサメの餌食となり、船長を殺そうとした作業員はエヴァの撃った発炎筒に当たって死亡する。
 そして、その翌朝。霧の立ち込める中で目覚めた人々は、ボートの周囲に広がる不気味な海藻に気付く。なんとその海藻は自らの意思で動き、船長の腕から血を吸おうとしたばかりか、誤って海に落ちたインド人のコックを食べてしまった。人々が恐怖とショックで凍りつく中、ボートは漂流する船にぶち当たる。それは、彼らが乗っていた貨物船だった。バーテンダーのパトリックと共に、船は辛うじて台風を持ちこたえたのだ。
 再び貨物船へ乗り込んだ人々。だが、ホッとするのも束の間、新たな問題が発覚する。海藻がスクリューに絡まってエンジンが動かないのだ。このまま流れに沿って海を漂うしかない。そしてその晩、性欲を抑えられないユニティーが甲板でリカルディを誘惑したところ、突如として現れた巨大なタコに襲われる。ユニティーは駆けつけたラーセン船長に助けられたが、リカルディは断末魔の叫びと共に海へ引きずり込まれてしまった。
 翌朝、貨物船の外を見た人々は愕然とする。辺り一面に難破船の残骸が広がっていたのだ。それはまるで海の墓場。ここは一体どこなのか?すると、遠くから助けを求める女性の声が。ふと見ると、巨大な靴と両肩の風船を使って海藻の上を器用に歩く若い女性の姿が見えた。しかも、その背後には中世ヨーロッパの甲冑を着た兵士たちが迫っている。ラーセン船長たちは女性を助け、兵士たちを撃退することに成功した。
 女性の名はサラ(ダナ・ギレスピー)。過去に難破した船の生存者の子孫だった。彼女によると、ガレー船を拠点にするスペイン人たちが宗教と武力による恐怖政治を敷いており、彼女ら陸地に移り住んだ人々と対立しているのだという。エル・スプレーモ(ダリル・リード)と呼ばれる少年が支配者だが、実際は悪名高き異端審問官の末裔がその背後で彼を操っていた。貨物船から物資を略奪しようと計画するスペイン人たちに対抗する手段はあるのか…?

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巨大なタコに襲われたユニティーとリナルディ

操縦不能となった貨物船は海の墓場へと流れ着く

風船で体を浮かせながら人喰い海藻の上を移動する謎の兵士たち

<Information>
 監督はハマー・フィルムの創設者ジェームズ・カレラスの息子マイケル・カレラス。もともとプロデューサーとして「人間ロケット」('53)や「宇宙からの侵略生物」('57)、「吸血鬼ドラキュラ」('58)に「フランケンシュタインの復讐」('58)など数多くのハマー作品を手がけた人物だが、その傍らで「惨殺!」('62)や「王女テラの棺」('71)などの演出も担当。陰鬱で暗いペシミスティックなタッチは彼の持ち味で、「紀元前3万年の女」('66)なんかは本作のテイストに近いと言えよう。
 原作はスリラー小説やオカルト小説で有名なイギリスの作家デニス・ホイートリーのロストワールド小説「Uncharted Sea」。日本では知名度の低いホイートリーだが、イギリスでは大衆娯楽作家として根強い人気があり、日本でも翻訳された「黒魔団」は「悪魔の花嫁」('68)として、「娘を悪魔に」は「悪魔の性キャサリン」('76)として、それぞれハマーが映画化している。なお、脚色を手がけたマイケル・ナッシュとは、マイケル・カレラスのペンネームだ。
 撮影監督を担当したのは、「激戦ダンケルク」('58)や「モスキート爆撃隊」('69)などの戦争アクションで主に知られるカメラマン、ポール・ビーソン。その一方で、AIPの「襲い狂う呪い」('65)やフレディ・フランシス監督の「悪魔の植物人間」('73)といったカルト・ホラーの怪作も少なからず手がけており、本作のように悪趣味一歩手前の怪奇幻想世界は意外と得意だったのかもしれない。
 そして、モンスターのデザインと特殊効果を担ったのが、後に「ジョーズ」('75)の巨大人喰いザメを作ったロバート・マッテイ。「海底二万哩」('54)や「メリー・ポピンズ」('64)の特殊効果を手がけたことでも有名な人物だ。また、現代音楽の作曲家として知られるベンジャミン・フランケルがもともと音楽スコアを担当していたものの、ハマーお抱えの音楽監督フィリップ・マーテルに却下されてしまい、代わりにオランダ人作曲家ジェラルド・シューマンのスコアが採用された。
 ちなみに、本作は劇場公開当時のイギリス版が91分、アメリカ版が89分といずれも短縮バージョンで上映されている。イギリスでは近親相姦などの性的なニュアンスや残酷シーンの一部をカットするため、アメリカでは上映時間を90分以内に収めるための処置だったようだ。90年代に入ってアメリカのビデオ会社アンカー・ベイが未公開フィルムを発見し、97分の完全版を作成してVHSおよびDVDにしてリリース。復元部分の保存状態があまり良くなかったため、該当する箇所だけ明らかに画質が異なっている。

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スペイン異端審問官の末裔エル・スプリーモ(D・リード)が支配する社会

巨大なヤドカリなどのモンスターたちが次々と現れる

モンスター同士のバトルも見どころの一つ

 主人公のラーセン船長に扮しているのは、「テレマークの要塞」('65)や「ジャッカルの日」('73)などで、主に憎まれ役の政治家や軍人を演じた名バイプレイヤーのエリック・ポーター。本作でも勇敢な英雄の一面と、欲深い俗物の素顔を併せ持った一筋縄ではいかない人物を演じてハマリ役だ。
 乗客の中で最も同情すべき面のある女性エヴァ役には、戦後ドイツを代表する国民的な大女優ヒルデガルド・ネフ。元ナチス少女だったことが明るみになってハリウッドから追放されたが、ドイツでは戦時中に連合軍のプロパガンダに協力した“売国奴”マレーネ・ディートリヒよりも遥かに人気が高い。筆者は'06年の秋にドイツへ旅行したのだが、ちょうど当時は彼女の生誕80周年を1年間に渡って祝うキャンペーンの真っ最中で、街中に彼女のポスターや書籍、復刻版CD、DVDソフトなどが溢れており、改めていかに彼女がドイツ国民から愛されているのかをまざまざを思い知らされた。なお、ドイツ語読みだと正確にはヒルデガルド・クネフと発音する。クネフの“ネ”を強調するのがポイントだ。
 ワガママでトラブルメーカーのニンフォマニア、ユニティーを演じているスザンナ・リーは、「ハワイアン・パラダイス」('66)でエルヴィス・プレスリーの相手役を演じたことで有名なイギリスの美人女優。ハマーでは「恐怖の吸血美女」('71)にも出ていた。また、「ミニミニ大作戦」('69)のフレディ役や「夕暮れにベルが鳴る」('79)の殺人鬼役が印象深いトニー・ベックリーが、破滅型のアル中詐欺師ハリー役でいい味を出している。
 そのほか、BBC版「シャーロック・ホームズ」('64〜'68)シリーズのワトソン博士役で有名なナイジェル・ストック、ジュリー・アンドリュースの恋人だったニール・マッカラム、ジョン・カサヴェテス監督の処女作「アメリカの影」('59)に主演したベニト・カルザース、'30年代に子役スターとして活躍したジミー・ハンレイ、「小さな恋のメロディ」('71)の校長先生役でも顔馴染みのジェームズ・コシンズ、「フランケンシュタインの復讐」や「吸血鬼ドラキュラの花嫁」など数多くのハマー・ホラーで脇役を務めたマイケル・リッパーなどが登場。
 さらに、後にデヴィッド・ボウイの秘蔵っ子としてロック歌手となるダナ・ギレスピー、パンクロックの先駆者とも呼ばれるダリル・リードという、当時まだ無名の若手俳優だった2人のミュージシャンが顔を出しているのも興味深い。

 

 

キャプテン・クロノス/吸血鬼ハンター
Captain Kronos : Vampire Hunter (1972)
日本では劇場未公開・ビデオ発売のみ
VHS・DVDは日本発売済

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(P)2011 Icon Film (UK)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(イギリスPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.66:1/音声: 2.0chドルビー・モノラル)/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/87分/制作国:イギリス

<特典>
なし
監督:ブライアン・クレメンス
製作:アルバート・フェンネル
   ブライアン・クレメンス
脚本:ブライアン・クレメンス
撮影:イアン・ウィルソン
音楽:ローリー・ジョンソン
出演:ホルスト・ヤンソン
   ジョン・カーソン
   シェーン・ブライアント
   キャロライン・マンロー
   ジョン・ケイター
   ロイス・デイン
   ウィリアム・ホッブス
   ブライアン・タリー
特別出演:イアン・ヘンドリー
     ワンダ・ヴェンサム

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吸血鬼ハンター、キャプテン・クロノス(H・ヤンソン)と仲間たち

クロノスを呼んだのは旧友マーカス博士(J・カーソン)

村では若い娘が次々と老婆のような姿に変わり果てて殺されていた

<Review>
 '70年代に入って斜陽に差しかかったハマーは、新たなファン層を開拓すべく様々な異色企画を模索するようになったのだが、これはそんな混迷期に発表された変わり種のホラー・アクション。言うなれば、ヴァンパイアを退治する吸血鬼ハンターを主人公にした剣戟ヒーローものだ。
 今となっては珍しくもないホラーとアクションの融合だが、当時としては画期的なアイディアだったように思う。ただし、本作以前にも史劇アクションとホラーを合体したマリオ・バーヴァ監督の「ヘラクレス魔界の死闘」('61)やジャコモ・ジェンティローモ監督の「Maciste contro il vampiro」('61)、西部劇アクションとホラーを合体した「ビリー・ザ・キッド対ドラキュラ」('65)や「ジェシー・ジェームスとフランケンシュタインの娘」('65)などが作られていたので、必ずしも初めての試みというわけではなかった。とはいえ、メジャー規模で配給される映画としては、なかなか斬新な企画だったと言えるだろう。
 また、ビデオゲーム世代にはお馴染みの“吸血鬼ハンター”というキャラクターを初めて登場させた映画とも考えられる。確かに、本作以前にもヴァン・ヘルシング教授を筆頭として吸血鬼退治の専門家というのは沢山いたが、それを生業とするプロの吸血鬼ハンターという概念は存在しなかった。しかも、アメコミ的なダークヒーローとして描かれているのだから、当時としてはかなりチャレンジングな発想だった言えよう。そういう意味でも、本作は時代を先駆けていた。
 舞台は中世の東ヨーロッパ。友人マーカスの頼みでとある村を訪れた吸血鬼ハンターのキャプテン・クロノスは、若い娘たちが次々に怪死するという事件の真相を追うことになる。犠牲者はいずれも老婆のような姿になって発見されていた。これは普通の吸血鬼の仕業ではない。娘たちの血ではなく、若さを吸い取って生きながらえているのだ。そう考えたキャプテン・クロノスは、村の外れに住む謎めいた貴族ダーウォード一家に疑いの目を向ける…。
 ストーリーは極めてシンプル。クライマックスまで秘密のヴェールに包まれた吸血鬼の正体も、それなりにホラー映画を見慣れたファンであれば簡単に見抜いてしまうことだろう。しかし、本作はあくまでホラー活劇。謎解きはオマケみたいなものだ。それよりも、ブライアン・クレメンス監督の独創的なビジュアル・スタイルが貫かれたアクション演出やホラー演出に見るべきものがある。
 「プラーグの大学生」や「カリガリ博士」などドイツ表現主義映画に強く影響されたスタイリッシュな映像は、シュールかつミステリアスでありながらも、どことなくユーモラス。軽快なアクション・シーンでは、アニメ的とも呼ぶべき大胆なカメラワークを駆使しており、その貪欲な実験精神に思わず唸らされる。…なんて言うとちょっと褒め過ぎか(笑)。確かに監督の斬新なビジョンに技術が追いついていないという印象は否定できないし、明らかにここは手抜きだよね…と思われるシーンも散見するものの、これが10年後、20年後に作られていたら、さぞかし見事な映像に仕上がったであろうことは想像に難くない。
 相棒のグロスト教授やジプシー娘カーラなど、キャプテン・クロノスを取り巻く仲間たちのキャラも魅力的。特にカーラ役を演じるカルト女優キャロライン・マンローの美しさとお色気サービスはファン必見だ。さらに、後期ハマーのヴァンパイア映画を語る上で欠かせないカルンステイン三部作と実は密接に繋がっている…という点も、ハマー・ファンには嬉しい注目ポイント。決してパーフェクトな作品とは呼べないものの、ホラー映画マニアならば愛さずにはいられない映画だ。

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クロノスのアシスタント、カーラ(C・マンロー)は夜のお供も…

ダーウォード家の子息ポール(S・ブライアント)と子女サラ(L・デイン)

ダーウォード家に雇われた男ケーロ(I・ヘンドリー)がクロノスたちに喧嘩を売る

<Story>
 東欧のとある村で、うら若き娘たちが次々に奇怪な死を遂げる。いずれの被害者もまるで老女のような姿になって発見され、衰弱したまま息絶えてしまうのだ。その原因も犯人も全く不明。村人に尊敬されるマーカス博士(ジョン・カーソン)は、ヨーロッパ各地で活躍するプロの吸血鬼ハンター、キャプテン・クロノス(ホルスト・ヤンソン)の助けを求める。
 マーカス博士とクロノスは軍隊時代からの親友だった。そんな彼の心強い相棒は、吸血鬼など魑魅魍魎の知識が豊富なせむしのグロスト教授(ジョン・ケイター)。そして、旅の途中でクロノスに命を救われたセクシーなジプシー娘カーラ(キャロライン・マンロー)も、アシスタントとして身の回りの世話をしている。
 グロスト教授は、村で起きている一連の事件が吸血鬼の仕業だと推測した。この吸血鬼は血を吸うのではなく、娘たちの若さを吸い取っているのだ。だとすれば、いつまでも若いままの中高年が犯人だと容易に察せられるが、マーカス博士はそれらしき人物に心当たりがない。そこで、クロノスたちは吸血鬼を探し出すための罠を仕掛けるのだが、残念ながら効果はないようだった。
 そうこうしている間にも、村の若い娘たちが次々と犠牲になっていく。そうした中、初めて犯人を見たという目撃者が現れる。その供述によると、男女の性別は分からないものの、犯人は黒いマントを頭から被った老人だったという。クロノスたちは、グロスト教授の推測とは相反する目撃証言に困惑するのだった。
 マーカス博士がこの村に定住するようになったのには理由があった。ここは、剣の達人として知られた軍隊時代の盟友ダーウォード卿の故郷。若くして戦死した彼の代わりに、妻ダーウォード夫人(ワンダ・ヴェンサム)やその息子ポール(シェーン・ブライアント)、娘サラ(ロイス・デイン)を見守っていたのである。だが、ダーウォード一家は他人との接触を極端に避けており、特に夫人の体調が急速に衰えてからは滅多に会えなくなってしまった。
 そんなある日、マーカス博士は久しぶりにダーウォード家を訪れたところ、黒いマントを被ったサラと遭遇する。隠し事の多い姉弟に不審の目を向けるマーカス博士。その帰り道、彼は森の中で黒いマントの怪しい人物に遭遇する。恐る恐る近づくマーカス博士だったが、次の瞬間に意識を失ってしまった。そして、気がつくと黒いマントの人物は消えており、彼の口元には血が付いていた。
 その頃、村を歩き回って情報収集をしていたクロノスとグロスト教授は、ダーウォード家の召使に雇われた男ケーロ(イアン・ヘンドリー)率いるならず者集団に酒場で襲われる。だが、百戦錬磨の剣豪クロノスにとって彼らなんぞは敵ではない。たちまちならず者たちを撃退した彼は、ダーウォード家を怪しいと睨むようになる。
 その翌朝、髭を剃っていたマーカス博士は、鏡に映る自分の姿を見て驚愕する。顔色が青白くなった上に、牙まで生えていたのだ。このまま吸血鬼になってしまうのか。絶望したマーカス博士はクロノスに自分を殺すよう懇願する。だが、心臓に杭を打ち込んでも、首を吊っても博士は死なない。困り果てたクロノスとグロスト教授だったが、暴れるマーカス博士を取り押さえようとしたところ、彼は鉄製の十字架が胸に刺さって死んでしまった。これこそが、この特殊な吸血鬼を退治するための武器だったのだ。
 マーカス殺しの犯人と誤解されたクロノスは、怒り狂った村人たちに襲われるものの、持ち前の巧みな剣術で怪我をさせないように彼らを撃退。墓地から鉄製の十字架を集め、それを溶かして吸血鬼退治用の剣をこしらえる。その直後、とある村人の一家が吸血鬼の犠牲になった。現場から去った馬車がダーウォード家のものであることを確認したクロノスは、グロスト教授とカーラを従えてダーウォード家の屋敷へと向かうのだが…。

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吸血鬼化したマーカス博士に杭を打つクロノスとグロスト教授(J・ケイター)だが…

マーカス博士殺害を誤解した村人がクロノスたちに襲いかかる

村の民家を襲う黒いマントを被った謎の影…

<Information>
 監督と脚本を手がけたブライアン・クレメンスは、パメラ・フランクリン主演の「女子大生・恐怖のサイクリングバカンス」('70)やミア・ファロー主演の「見えない恐怖」('71)といったサスペンス系カルト映画の脚本家として知られる人物。ハマーでは「ジキル博士とハイド嬢」('71)の脚本も担当している。もともとは「おしゃれ(秘)探偵」や「電撃スパイ作戦」など、'60年代に数多くの人気アクション・テレビドラマの脚本を書いて有名になった人。スパイ物や探偵物など本来の作品路線から際限なく逸脱していく自由奔放さが、テレビ時代の彼の持ち味だったのだが、その特異な才能は唯一の監督作である本作でも存分に発揮されている。
 撮影監督のイアン・ウィルソンは、デヴィッド・リーランド監督の「あなたがいたら・少女リンダ」('87)やデレク・ジャーマン監督の「エドワードU」('91)、ニール・ジョーダン監督の「クライング・ゲーム」('92)など、数多くの名作イギリス映画を手がけている大御所カメラマン。「女子大生・恐怖のサイクリングバカンス」の撮影も彼だった。
 編集はハマーお抱えのジェームズ・ニーズ。美術デザインはロジャー・コーマン監督の「赤死病の仮面」('64)やジョン・ハフ監督の「ヘルハウス」('73)でも見事な仕事ぶりを披露したロバート・ジョーンズ、特殊メイクは「生きていた吸血鬼」('58)や「バンパイアキラーの謎」('70)などのカルトホラーを数多く手がけたジミー・エヴァンスが担当。また、「おしゃれ(秘)探偵」や「特捜班CI5」などテレビのアクション・ドラマのテーマ曲で知られ、巨匠キューブリックの「博士の異常な愛情」('64)も手がけた名匠ローリー・ジョンソンが、軽快でキャッチーな音楽スコアを書いている。
 なお、日本ではもともとレンタルビデオ全盛期にVHSで発売されのだが、DVDリリースの際にはなぜか「吸血鬼ハンター」というタイトルに変更されている。

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鉄の十字架から作られた吸血鬼退治用の剣が完成する

吸血鬼をおびき寄せようとするカーラだったが…

ついに犯人と対峙することになったキャプテン・クロノス

 主人公のキャプテン・クロノスを演じているのは、母国ドイツではテレビ界のトップスターとして有名なホルスト・ヤンソン。当時は「マッケンジー脱出作戦」('70)や「マーフィの戦い」('71)など、英米の大型戦争映画でも重要な役を演じて活躍していた。とはいえ、どちらかというと線の細い優男タイプ。演技が特別上手いわけでもないため、国際派スターとしてはあまり成功しなかった。本作でもヒーローらしいスマートさは感じさせるものの、演技は正直なところ大根。
 相棒のグロスト教授役のジョン・ケイターは、主にテレビで活躍した脇役俳優。マーカス博士役のジョン・カーソンは、「吸血ゾンビ」('66)や「ドラキュラ血の味」('70)などのハマーホラーでお馴染みの個性的な名優だ。また、ポール役のシェーン・ブライアントも、「Straight on Til Morning」('72)や「フランケンシュタインと地獄の怪物」('74)などのハマーホラーで売り出した耽美系のイケメン俳優。さらに、ポランスキーの「反撥」('65)やマイケル・ケイン主演の「狙撃者」('71)などで有名なイアン・ヘンドリー、SFドラマの傑作「謎の円盤UFO」でお馴染みのワンダ・ヴェンサムが特別ゲストととして出演している。
 そして、妖艶なジプシー娘カーラを演じているのが、カルト映画の女王として世界中に熱狂的なファンを持つ女優キャロライン・マンロー。当時「ドラキュラ'72」('72)や「怪人ドクター・ファイブスの復活」('72)に起用されて売り出し中だった彼女にとって、本作は初の大役だった。ここで彼女の才能を認めたクレメンス監督の紹介で、ファンタジー大作「シンドバッド黄金の航海」('73)のヒロインに抜擢されることとなり、「007/私を愛したスパイ」('76)の悪役ボンドガールなどで活躍するようになったというわけだ。

 

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