ハマー・ホラー傑作選 PART 2

 

 

炎の女
She (1965)
日本では1965年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Optimum Releasing (UK)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(イギリスPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:2/101分/製作:イギリス

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:ロバート・デイ
製作:マイケル・カレラス
原作:H・ライダー・ハガード
脚色:デヴィッド・チャントラー
撮影:ハリー・ワックスマン
音楽:ジェームズ・バーナード
出演:ウルスラ・アンドレス
   ピーター・カッシング
   ジョン・リチャードソン
   クリストファー・リー
   バーナード・クリビンス
   ロゼンダ・モンテロス
   アンドレ・モレル

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ホリー教授(P・カッシング)らは酒屋に立ち寄った

可憐な娘ウステイン(R・モンテロス)と親しくなるレオ

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後頭部を強打されたレオ(J・リチャードソン)は見知らぬ家で目覚める

謎めいた妖艶な美女アイーシャ(U・アンドレス)

 『フランケンシュタインの逆襲』(57)と『吸血鬼ドラキュラ』(58)の大成功によって、世界的なホラー映画ブームを巻き起こしたハマー・プロ。やがて、ホラー以外にもサスペンスからアクションに至るまで様々なジャンルへ守備範囲を広げていくわけだが、その中でも特に重要な柱となったのがロスト・ワールドもの。つまり、原始時代や太古の文明をテーマにした冒険活劇である。そして、その原点となったのが、この『炎の女』という作品だ。
 舞台は第一次世界大戦直後の中東。考古学者ホリー教授と共にこの地を訪れた青年レオは、アイーシャと名乗る謎めいた美女から、幻の古代都市クーマの場所を示した地図を受け取る。様々な困難を乗り越えてクーマへとたどり着いたレオとホリー教授だったが、そこで彼らを待っていたのは他でもないアイーシャだった。実は、彼女は数千年の歳月を生きながらえてきたクーマの女王であり、レオは2000年前に死亡した彼女の恋人の生まれ変わりだったのである。
 不老不死の秘密は“永遠の命の炎”。選ばれし者だけがその炎をくぐり抜け、永遠の若さを手に入れることが出来るのだ。アイーシャはレオにも不老不死を与え、共にクーマを治めようと望んでいた。しかし、そんなレオのことを一途に愛する純朴な娘ウステインの存在が、永遠の命と絶大な権力に魅せられたレオの心を大きく惑わせる。果たして、彼はアイーシャの虜となってしまうのか?それとも、ウステインとの愛を貫くのか?
 原作はイギリスの冒険小説家H・ライダー・ハガードの代表作『洞窟の女王』。サイレントの時代から幾度となく映画化されてきた作品だが、本作では19世紀末に書かれた原作の舞台設定を20世紀初頭に移し替えたほか、原作ではサブ・キャラクターだったレオの役割を大きくするなどのアレンジを施し、よりラブ・ロマンス的なタッチを全面に押し出している。さすがに今となっては古めかしさの否めない作品ではあるものの、マット・ペイントを駆使した古代都市の巨大なセットやシンプルながら効果的な特撮、エキゾチックな北アフリカのロケーションなどは、それなりに見応えがあると言えよう。
 しかし、本作の最大の売りはなんといってもアイーシャ役のウルスラ・アンドレス。『007/ドクター・ノオ』(62)のボンドガール役で一躍脚光を浴びた彼女だが、そのサイボーグ・チックな超然とした美貌は、不老不死の女王アイーシャ役として見事なくらいにハマっている。翌年の『恐竜100万年』(66)ではラクエル・ウェルチが原始美女役を演じてスターダムにのし上がり、以降マルティーヌ・べスウィックやヴィクトリア・ヴェトリなどの肉体派ハマー・ビューティが続々と生まれるわけだが、ウルスラ・アンドレスはその原点と言って差し支えないだろう。そればかりか、彼女自身も本作の大ヒットによって、国際スターとしての地位を確固たるものにしたのである。
 そして、それまでホラー以外のジャンルでは今ひとつヒットに恵まれなかったハマーは、この『炎の女』の大成功によって路線の拡大を本格化。続編に当たる『燃える洞窟』(67)の他にも、先述した『恐竜100万年』や『虐殺の女王』(68)、『原始人100万年』(70)などのロスト・ワールドものが次々と作られることとなった。

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幻の古代都市クーマを目指して旅に出たレオたち

遊牧民族に襲撃されてロバを奪われる

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もはや野垂れ死にするしかないと思われた矢先に…

ウステインの父ハウメイド(A・モレル)に救われる

 時は1918年、場所はパレスチナ。考古学者ホリー教授(ピーター・カッシング)と助手レオ(ジョン・リチャードソン)、召使ジョブ(バーナード・クリビンス)の3人は、街中のとある酒場へふらりと立ち寄った。酔いが回って上機嫌のホリー教授とジョブを尻目に、若いレオはアラブ人の可憐な娘ウステイン(ロゼンダ・モンテロス)と親しくなる。2人きりになろうと彼女を酒場から連れ出したレオだったが、何者かに後頭部を強打されて気を失ってしまった。
 見知らぬ豪邸で意識を取り戻したレオ。その目の前に、アイーシャ(ウルスラ・アンドレス)と名乗る妖艶な美女が現れる。彼女はレオの姿を見るなり顔色を変え、“あなたは私と結ばれる運命にある”と呟く。そして、その美しさにすっかり心を奪われたレオに、一枚の古い地図と指輪を手渡すのだった。その地図には、古代都市クーマまでの道程が記されているという。もしも彼が本当に運命の人であるならば、必ずやクーマへとたどり着けるはずだと。
 かくして、レオはホリー教授とジョブを伴ってクーマを目指すこととなった。幻の古代都市クーマの存在が実証されれば、考古学の歴史に残る大発見となるだろう。レオから指輪を見せられたホリー教授は、それが紀元前に北アフリカで作られたものだと確信して興奮を抑えきれなかった。しかし、レオの目的はアイーシャ。彼女との再会を夢見て、レオは過酷な砂漠の旅へ挑むことを決心したのだ。
 果てしなく続く北アフリカの砂漠。クーマへの旅は想像以上に厳しいものだった。しかも、途中で原住民の部族に襲われた彼らは、大切な移動手段であるラクダを奪われてしまった。喉の渇きをいやす水も底をつき、もはや砂漠のど真ん中で野垂れ死にするしかないかと思われたその時、救いの手を差し伸べたのはウステインだった。秘かにレオへ想いを寄せる彼女は、彼の身を案じて先回りしていたのだ。
 実は、ウステインはクーマで生まれた女性だった。彼女の父親ハウメイド(アンドレ・モレル)はかつてクーマの武将だったが、反乱軍に味方をしたことから奴隷部族の酋長へと格下げされ、住み慣れたクーマから追い出されてしまったのだという。そして、そのクーマを支配する冷酷な女王こそ、他でもないアイーシャだったのである。
 ウステインの持参した水と食料で元気を取り戻した一行だったが、部族との戦いで負傷したレオの傷口が悪化し、彼は意識不明の重体に陥ってしまった。そこで、彼らはウステインの父ハウメイドに助けを求める。ところが、奴隷たちはレオの姿が女王アイーシャの亡き恋人と瓜二つであることに気づき、恐れおののいて彼を処刑しようとする。そこへ、クーマの軍隊が現れて儀式を制止。捕虜として奴隷の若者たちを拘束した上で、レオたちをクーマへと案内する。
 軍隊を率いるのはクーマの高僧ビラーリ(クリストファー・リー)。彼は女王アイーシャの忠実なしもべだ。そして、ウステインの献身的な看病で回復したレオは、ようやくアイーシャとの再会を果たす。かつてアイーシャには高僧クリクラテスという恋人がいた。しかし、若くてハンサムなクリクラテスは若い侍女とも関係を持ち、嫉妬したアイーシャが自ら短刀で彼を刺殺してしまったのである。それから2000年の歳月が流れ、ようやく待ちに待った時が訪れた。つまり、クリクラテスの生まれ変わりであるレオの登場だ。
 アイーシャから事の次第を聞いたレオだったが、にわかにはその話を信じることが出来なかった。そもそも、それが真実だとすれば彼女は2000歳を超えていることになる。そんなことがあり得るのだろうか。半信半疑の彼にアイーシャは不老不死の秘密を打ち明けた。それは、彼女しか立ち入ることの出来ない洞窟に隠された“永遠の命の炎”。その昔、ある賢者によってもたらされたこの炎をくぐり抜けると、永遠の若さと命を保つことが出来るようになるのだ。そして、アイーシャはその永遠に失われることのない美貌と恐怖政治によって、2000年という長きに渡るクーマの支配統治を成し遂げてきたのである。
 そんな彼女の夫となるべく、同じように炎をくぐり抜けることを求められたレオ。しかし、奴隷の若者たちを見せしめのために地下のマグマへ次々と突き落とすアイーシャの残酷さを目の当たりにし、彼の心は激しく揺れ動いていた。加えて、無償の愛を捧げてくれるウステインの存在も日増しに大きくなっていく。2人が口づけを交わす現場を目撃したアイーシャは、ウステインを処刑することに決める。なんとか処刑を阻止しようとするレオとホリー教授だったが…。

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クーマの高僧ビラーリ(C・リー)がレオを迎えに来る

幻の古代都市クーマへようやくたどり着いた

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アイーシャとの再会を果たしたレオ

彼女は2000年に渡ってクーマを統治する不老不死の女王だった

 全体的にスローペースなストーリー運びが最大の難点だろうか。北アフリカと中央アフリカの文化がごちゃ混ぜになっている点も失笑を買いそうだが、それ自体は古き良き時代の娯楽映画に付きもののいい加減さゆえ、慣れている観客ならばさして気にもなるまい。古典的な冒険活劇の世界にキワモノ的なショック・シーンを盛り込む辺りはハマーならではの常套手段だし、そういった意味ではスタジオ・カラーの良く出た作品であり、ハマー・ファンならば十分に満足がいくはずだ。
 監督はハリウッドでも活躍したイギリスのB級娯楽映画職人ロバート・デイ。ボリス・カーロフ主演の『絞殺魔甦る』(58)や『宇宙の怪人』(59)といったSFホラーや、ターザン・シリーズなどの冒険活劇を数多く手掛けた人ゆえに、この種のジャンルはまさしくお手のものといったところであろう。脚本にはジョージ・リーヴス主演のスーパーマン・シリーズで知られるデヴィッド・チャントラーが参加しており、アメリカのマーケットを多分に意識した作品であったことが伺える。
 また、撮影監督には『南海漂流』(60)や『カーツーム』(66)などの大作映画を手掛けたハリー・ワックスマン。ハマーでは『妖婆の家』(66)や『残酷な記念日』(68)にも関わっており、あのカルト映画『ウィッカーマン』(73)も手掛けるなどブリティッシュ・ホラーには縁の深いカメラマンである。その他、ハマー御用達のジェームズ・バーナードが音楽スコアを、AIPの『赤死病の仮面』(64)を手掛けたロバート・ジョーンズが美術デザインを、『白鯨』(56)のジョージ・ブラックウェルと『2001年宇宙の旅』(68)のレス・ボウイが特殊効果を担当している。

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奴隷たちを無慈悲にも処刑するアイーシャ

“永遠の命の炎”こそが不老不死の秘密だった

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一途なウステインの純愛に心打たれるレオ

嫉妬に狂ったアイーシャはウステインを処刑しようとするが…

 最後にウルスラ・アンドレス以外のキャストについても触れておこう。考古学者ホリー教授役には、ハマー・プロの看板スターであるピーター・カッシング。キャスト・クレジットではウルスラ・アンドレスと並んで主演扱いだが、基本的にはヒーローのレオを陰で支える黒子的な役割に終始している。高僧ビラーリ役で登場するクリストファー・リーと併せて、やはりハマー作品には欠かせない顔としてのキャスティングだったのであろう。
 その重鎮2人を脇に回し、アイーシャの運命の男性レオ役を演じたのがジョン・リチャードソン。マリオ・バーヴァの『血ぬられた墓標』(65)やセルジョ・マルティーノの『影なき淫獣』(73)などにも主演しており、イタリアン・ホラー・ファンにも馴染みの深いイギリス人俳優であろう。彼は続編『燃える洞窟』でもレオの前世クリクラテス役を演じている。
 そして、レオに一途な想いを寄せる純情可憐な娘ウステインには、『荒野の七人』(60)の村娘役で知られるメキシコ人女優ロゼンダ・モンテロス。また、コメディ・リリーフ的な召使ジョブ役には人気ドラマ『ドクター・フー』(07〜10)のバーナード・クリビンス、ウステインの父親ハウメイド役としてハマー・ホラーお馴染みの名優アンドレ・モレルが登場。また、冒頭の酒場シーンにはイラン最後の皇帝パフラヴィ―2世の奥方だったソラーヤが、ベリーダンサー役で顔を出している。

 

 

紀元前3万年の女
Prehistoric Women (1967)
日本では劇場未公開・テレビ放送あり
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

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(P)2004 Anchor Bay (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/90分/製作:イギリス

特典映像
テレビ・スポット集
オリジナル劇場予告編
ハマー・ドキュメンタリー
監督:マイケル・カレラス
製作:マイケル・カレラス
脚本:マイケル・カレラス
撮影:マイケル・リード
音楽:カルロ・マルテッリ
出演:マルティーヌ・べスウィック
   マイケル・ラティマー
   エディナ・ロネイ
   ステファニー・ランドール
   キャロル・ホワイト
   シドニー・ブロムリー
  
アレクサンドラ・スティーヴンソン

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アフリカのジャングルで狩猟ガイドをするデヴィッド(M・ラティマー)

アシスタントの忠告を無視して聖域へと足を踏み入れる

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“白いサイ”を崇拝する部族に捕えられたデヴィッド

司祭はデヴィッドの処刑を命じるのだったが…

 ハマー・フィルムの“ロスト・ワールドもの”の中でも、最もビザールな作品の一つであろう。アフリカの狩猟ガイドがジャングルの奥地でタイムスリップし、原始時代のアマゾネス軍団と対決する。特撮もほとんどないチープな映像、ハマーの製作者マイケル・カレラスが自らメガホンを取った平坦な演出などなど欠点を挙げればきりがないものの、その荒唐無稽かつ奇想天外なストーリーやキッチュで悪趣味なビジュアル・センスはなかなか楽しい。
 舞台はアフリカのジャングル。禁断の聖域へ足を踏み入れてしまった狩猟ガイドのデヴィッドは、“白いサイ”を崇拝する原住民部族に捕えられてしまう。その場で処刑を宣告されるデヴィッド。ところが、“白いサイ”の像に手を触れた途端、周囲の時間がストップして目の前の岩戸が開く。それは原始時代の世界だった。そこで黒髪のアマゾネス軍団に捕まってしまったデヴィッドは、彼女たちがブロンド民族を奴隷として酷使していることを知る。
 残酷なアマゾネスの女王カーリはデヴィッドを自分のものにしようとするが、彼は奴隷の娘サリアを愛するように。頑なに服従を拒絶するデヴィッドを屈服させるべく、カーリは彼を暗い洞窟の中へと閉じ込める。そこには大勢の男たちが過酷な重労働を強いられていた。愛するサリアを救うためにも、女王カーリを倒そうと計画するデヴィッド。しかし、そんな彼の前にカーリを裏で操る恐ろしい部族“暗闇の悪魔”が立ちはだかる…。
 ジャングルのセットは見るからに作り物といった感じだし、背景のマットペイントだってイラスト感が露骨。『炎の女』や『恐竜100万年』のスケールには到底及ぶべくもない安っぽさだが、それが逆にハマーらしいキワモノ感を際立たせているとも言える。ビキニ姿のアマゾネス美女たちを含めて、その筋のファンにはたまらないB級感がてんこ盛りだ。
 さらに、そのB級感を倍増させてくれるのが、アマゾネスの女王カーリ役を演じるセクシー女優マルティーヌ・べスウィック。美人と呼ぶにはちょっとアクの強すぎる個性的な顔立ちと鍛え抜かれたグラマラス・ボディーが、いい具合に場末な雰囲気を漂わせて秀逸だ。もともと『007/ロシアより愛をこめて』(63)と『007/サンダーボール作戦』(65)の悪役ボンドガールとして、コアなファンを持つカルトな女優。本作でも濃厚なお色気ダンスやらキャットファイトやらとサービス満点の演技を披露し、やはりその筋のファンの欲求に見事応えている。ハマーでは『恐竜100万年』にも出ていたが、本作の後にも『ジキル博士とハイド嬢』(71)のハイド嬢役を怪演。ハマー・ビューティの中でも特に異彩を放つ女優だ。
 そんなこんなで、バカバカしいからこそ楽しめるナンセンスなファンタジー・アドベンチャー。パロディなどではなく、大真面目に作られているという点も好感が持てる。

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岩壁の向こうから現れた不思議な世界

黒髪のアマゾネス軍団に捕えられてしまう

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脱走した女奴隷サリア(E・ロネイ)と惹かれあうデヴィッド

アマゾネス軍団を率いる邪悪な女王カーリ(M・べスウィック)

 アフリカのジャングルで観光客向けの狩猟ツアーを引率するガイド、デヴィッド・マーチャント(マイケル・ラティマー)。ある日、顧客のハモンド大佐(ロバート・ラグラン)が野生のトラを仕留めそこなってしまった。逃げたトラは銃弾を受けて傷ついている。息の根を止めることで苦痛から解放してあげるのが、せめてもの情だ。デヴィッドはハモンド大佐をキャンプへ戻し、原住民のアシスタントを連れてトラの行方を探すことにした。
 どうやら、トラはジャングルの奥地へと逃げ込んだようだ。だが、大木に掘られた“白いサイ”の印を目にしたアシスタントは、そこから先へ足を踏み入れようとはしなかった。そこは“白いサイ”を神と崇める謎の部族クルナカの領地。ここで殺生を行うことは許されない。だが、デヴィッドはアシスタントの忠告を無視して奥地へと入り、傷ついたトラをライフルで仕留める。すると、いつの間にかクルナカの兵士たちに周囲を取り囲まれていた。
 洞窟の神殿へと連れて来られたデヴィッド。司祭は彼の処刑を命じる。ところが、とっさにデヴィッドが“白いサイ”の像に手を触れると、周囲の時間がストップしてしまった。そして、目の前の岩壁が音を立てて開き、その向こう側に緑豊かな世界が現れる。デヴィッドは迷うことなく、岩壁の向こうへと足を踏み入れた。ふと振り向くと、扉はすでに消えてなくなっている。
 見たこともない光景に呆然とするデヴィッド。そこへ、ブロンドの若い娘が逃げるようにして姿を現した。興奮した様子の彼女を落ち着かせようとするデヴィッドだったが、相手は彼のことを見てさらに怯える。すると、今度は周囲を黒髪のアマゾネス美女たちに囲まれてしまった。彼女たちはデヴィッドと若い娘を無理やり捕え、アマゾネスの領地へと連れ去って行く。
 アマゾネスを支配するのは邪悪な女王カーリ(マルティーヌ・べスウィック)。彼女はブロンド美女たちを奴隷として酷使していた。先ほど遭遇した娘サリア(エディナ・ロネイ)は脱走した奴隷だったのだ。ブロンド美女たちの中には抵抗を試みる者も少なくなかったが、多くはギドー(キャロル・ホワイト)のように残酷な手段で殺されてしまうのがオチ。サリアはデヴィッドのことを救世主だと信じ、デヴィッドもまた芯の強いサリアに惹かれていた。
 カーリは若くてハンサムなデヴィッドを自分のものにしようとするが、デヴィッドは頑なに拒絶をする。そんな彼を挫けさせるために、カーリはデヴィッドを洞窟の中へ閉じ込めた。そこには多くの男たちが過酷な肉体労働に従事させられていた。長老ウーロ(シドニー・ブロムリー)によると、かつてはブロンド族が黒髪族を支配していたのだという。彼らはこの地に伝わる“白いサイ”の伝説を利用し、自分たちを選ばれし民族だと原住民に思い込ませていたのである。ところが、ある時奴隷の娘が脱走し、“暗闇の悪魔”と呼ばれる凶暴な部族を味方につけて反旗を翻した。その娘こそ、女王カーリだったのだ。
 その頃、部落では生贄の儀式が行われ、ブロンド美女たちのリーダーであるアミヤク(ステファニー・ランドール)が“悪魔の花嫁”に選ばれてしまった。リーダーを失ったブロンド美女たちは途方に暮れる。だが、後を任されたサリアには考えがあった。それは、デヴィッドがカーリの愛人になって近づくことで、暗殺のチャンスを狙うというもの。お互いに愛し合う2人だったが、今は自由を手に入れることの方が重要だ。
 カーリの前でひざまずき、服従を誓うデヴィッド。すっかり上機嫌のカーリは宴を催し、公衆の面前でデヴィッドを凌辱することで悦に入る。その様子を目の当たりにしていたたまれなくなったサリアは、思い余って真実を口にしてしまった。デヴィッドが愛しているのはこの私なのだ、と。屈辱のあまり激怒したカーリはデヴィッドをふたたび投獄し、サリアを“暗闇の悪魔”の生贄にしようとする。憎きカーリを倒すため、そして愛するサリアを救うため、デヴィッドは奴隷の男たちと共に決起するのだった。果たして、彼はアマゾネス軍団を倒すことが出来るのか?彼女たちを背後で操る“暗闇の悪魔”の正体とは?そして、最終的に元の時代へと戻ることが出来るのだろうか!?

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カーリはブロンド美女たちを奴隷として酷使している

その妖艶な魅力でデヴィッドを誘惑するカーリ

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アマゾネスたちもまた“白いサイ”を崇拝していた

洞窟の中では男たちが過酷な肉体労働を課せられている

 一部では同名のアメリカ映画“Prehistoric Women”(50)のリメイクだと言われているが、原始時代のアマゾネス軍団が男を支配するという以外に全く共通項がないことから、これは眉唾ものの俗説かと思われる。ちなみに、本国イギリスではお色気シーンなどを削除した77分の短縮版が、“Slave Girls”という別タイトルで劇場公開されたそうだ。
 監督・製作・脚本の一人3役を受け持ったマイケル・カレラスにとって、これは7本目の演出作品に当たる。演出家としては個性に乏しいものの、基本的にはソツなく器用にまとめられる人。ただ、ビジュアリストというよりもストーリーテラー的な傾向が強いため、本作の場合は全体的にのっぺりとしてしまった感があることは否めないだろう。
 撮影監督は『妖女ゴーゴン』(64)や『凶人ドラキュラ』(65)などハマー作品でお馴染みのカメラマン、マイケル・リード。『女王陛下の007』(69)や『マッケンジー脱出作戦』(70)などの大作映画も手掛けた人物だ。また、音楽スコアには『魔人ゴーレム・呪いの影』(66)などのカルロ・マルテッリが参加。これがなかなかドラマチックな作品に仕上がっていて悪くない。
 そのほか、美術デザインのロバート・ジョーンズや衣装デザインのカール・トムズなど『恐竜100万年』のスタッフが参加。というのも、本作のセットや衣装などは全て『恐竜100万年』のために作られたものを流用しているため。もしかすると、それらを2次使用するために当初から企画された作品だったのかもしれない。

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カーリは奴隷を“暗闇の悪魔”への生贄に捧げていた

ブロンド美女のリーダー、アニヤク(S・ランドール)が生贄に

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カーリに近づくようデヴィッドを説得するサリア

デヴィッドの屈服に機嫌を良くするカーリだったが…

 そして、マルティーヌ・べスウィック以外のキャストについても紹介しておきたい。主人公の狩猟ガイド、デヴィッド役を演じているマイケル・ラティマーは、英国カルト映画の鬼才ピート・ウォーカーのB級アクション映画『バイオレンス・マン』(74)に主演していた俳優。主にテレビで活躍した人だったらしいが、これといって特に印象の残らない地味な役者だ。
 そのデヴィッドと愛し合う奴隷のブロンド美女サリア役のエディナ・ロネイは、当時イギリスのB級映画で活躍していたハンガリー人女優。後に映画界からファッション・デザイナーへと転じ、現在は自らの名前を冠したニットウェア・ブランドを経営している。また、マイケル・ウィナー監督の『明日に賭ける』(67)などのヒロイン役で知られ、60年代後半にイギリスでは結構人気のあったブロンド女優キャロル・ホワイトが、女王カーリとキャットファイトを演じた挙句に殺される奴隷ギドー役で顔を出しているのも見逃せない。

 

 

Straight on till Morning (1972)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Optimum Releasing (UK)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(イギリスPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:2/93分/製作:イギリス

特典映像
オリジナル劇場予告編
女優R・トゥシンハムの音声解説
監督:ピーター・コリンソン
製作:マイケル・カレラス
脚本:ジョン・ピーコック
撮影:ブライアン・プロビン
音楽:ローランド・ショー
主題歌:アニー・ロス
出演:リタ・トゥシンハム
   シェーン・ブライアント
   ジェームズ・ボラム
   カーチャ・ウィース
   アニー・ロス
   トム・ベル
   クレア・ケリー

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王子様を待ち続ける孤独で醜い女性ブレンダ(R・トゥシンハム)

ロンドンでは厳しい現実の壁が待っていた

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美しくも謎めいた若者ピーター(S・ブライアント)

呑んだくれの中年女ライザ(A・ロス)と同居していたが…

 刺激の強いゴシック・ホラーやB級娯楽映画で稼ぎまくったハマー・フィルムだったが、70年代に入ると従来のそうした路線は急速に飽きられてしまった。そこで、彼らはそれまでの家内工業的な製作体制を大きく見直し、外部の才能を積極的に取り入れながら次々と実験的な試みを行っていく。この“Straight on till Morning”という作品もそうした流れの中から生まれた異色のサイコ・スリラーであり、間違いなくハマーの隠れた傑作の一つであると言えよう。
 主人公は工業都市リヴァプールに暮らす貧しい独身女性ブレンダ。童話作家を志している彼女は、白馬に乗った王子様が現れることを夢見ている永遠の乙女である。しかし、現実の彼女は夢に思い描くようなお姫様とは程遠い。容姿は痩せこけて不細工、性格も地味で不器用。しかも、もはや決して若いとは言えない年齢だ。素敵な王子様と出会って可愛い赤ちゃんを産みたい。そして、いつまでも幸せに暮らすのよ。そんな夢を膨らました彼女は、ロンドンへ行くことを決意する。
 しかし、ロンドンで待っていたのはさらに厳しい現実の壁だった。グズでのろまで不細工な田舎娘のことなど、誰も相手になんかしてくれない。焦れば焦るほど、幸せは遠のいていく。そんな時、ブレンダは迷子になった犬を拾い、その飼い主であるブロンドの孤独な美青年ピーターと知り合う。精神的に追い詰められていたブレンダは、恥を忍んで“あなたの赤ちゃんが欲しい”と涙ながらに訴える。当然のことながら驚いたピーターだったが、意外にもその申し出を受け入れるのだった。この思いがけない展開に有頂天となったブレンダ。だが、やがて彼女はピーターの恐るべき素顔を知ることになる…。
 この不幸を絵にかいたようなブレンダという女性、とにかくやることなすことすべてが痛々しい。大都会ロンドンで一生懸命背伸びをして見せるものの、所詮は世間知らずな田舎者。シャンパンをワインだと思い込んでいたり、スペイン語とイタリア語の違いも分からなかったり。しかも、ブサイクな上に何をやらせても不器用でオロオロとするばかり。そんな彼女が王子様を捜そうと必死になったところで、誰も振り向いてなんかくれやしない。それでも必死になって周囲の男性の気を引こうとし、無視されていることにも気づかず喋り続ける彼女の姿の切ないこと。街で目があっただけでも“運命の王子様か!”とばかりに、見ず知らずの男性でも片っ端から声をかけるのだから、これは相当にヤバい。
 ブスで頭が悪くて貧乏、そんな三重苦を背負いながらも、一途に御伽噺
のような幸せを夢見る純朴で哀れな年増の乙女。ようやく見つけた新居が掃き溜めのようなボロ・アパートで、思わず茫然自失となって立ちすくみつつ、頭の中ではお城に暮らすお姫様の自分を思い描いて現実逃避をするブレンダ。見ているこちらがいたたまれなくなってしまう。しかも、演じるのが『蜜の味』(61)や『みどりの瞳』(64)の健気な不細工少女リタ・トゥシンハムなもんだから、これはもうすこぶる説得力がある。嫌がおうにも感情移入せざるを得ないキャスティングであり、極端ではあれど実に良く描きこまれたヒロイン像だと言えるだろう。
 そんな彼女の前に現れたブロンドの貴公子ピーターというのがまた、違った意味で屈折したサイコな若者だったりする。どこからどう見ても完璧すぎるくらいに美しい容姿。だが、彼はその美貌ゆえに不幸だった。お人形のようにチヤホヤするだけの母親からは家庭の温もりを与えられず、そんな幼少期の孤独を癒すかのように次々と年上の裕福な女性と関係を持ってきたピーター。だが、彼女たちが求めるのは彼の美しさと若さだけで、誰一人として本当に彼のことを愛してはくれない。その満たされない寂しさはやがて憎悪となり、彼は表面的な美しさしか求めようとしない女性に復讐を重ねていく。つまり、自らの美貌を武器に女性を誘惑し、次々と殺害していくのだ。
 この大都会の片隅に生きる2人の孤独な男女が出会うことで生まれる切なくも哀しい狂気の物語、というのが本作の神髄。そこには、刹那的で即物的な現代社会の風潮に対する皮肉というものが込められていると見ていいだろう。監督は『ミニミニ大作戦』(65)や『らせん階段』(74)などで知られる英国娯楽映画の鬼才ピーター・コリンソン。フラッシュバックを効果的に多用したインテリジェントなプロット構成やロンドンの風俗を全篇に散りばめたお洒落なムード、ジャジーでグル―ヴィーなBGMなど、そのスタイリッシュな演出は『欲望』(66)のアントニオーニにも引けを取らないほど素晴らしい。脚本もよく出来ているし、キャスティングも見事。特に、ピーター役を演じるシェーン・ブライアントの危うげな美貌とカリスマ性には目を奪われる。これだけの力作が未だに日本未公開のまま、というのも全くもって解せない話だ。

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道行く男性に片っ端から声をかけて不審がられるブレンダ

店長(T・ベル)とキャロライン(K・ウィース)は愛人関係にあった

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ブレンダはキャロラインと同居することを決める

ジョーイ(J・ボラム)にアプローチするブレンダだったが…

 リヴァプールで母親(クレア・ケリー)と2人暮らしをしている女性ブレンダ(リタ・トゥシンハム)。童話作家を志している彼女は、いつも御伽噺の世界を夢見ていた。空想の世界での彼女は美しいロサルバ姫。ハンサムな王子様に求婚され、可愛い赤ん坊をもうける。そして、親子は幸せな生活を送り、やがて子供たちは立派な大人になって王国に繁栄をもたらすのだ。しかし、現実の彼女は地味な醜いアヒルの子。しかも結婚適齢期はとっくに過ぎている。いくら待っても王子様が現れないのなら、自分で探しに行くしかない。そう一念発起した彼女は工場の仕事を辞め、母親の反対を押し切ってロンドンへ行くことを決意する。大都会なら子供の父親になってくれる人がいるはずだと信じて。
 ピーター(シェーン・ブライアント)はロンドンの高級住宅街に暮らすブロンドの美しい若者。彼は飲んだくれの中年女ライザ(アニー・ロス)と一緒に住んでいる。つまり若いツバメだ。酔っぱらっているライザは愉快で楽しいが、甘えた表情で“愛しているわ”と呟き始めるとピーターは途端に顔を曇らせる。その表情は笑顔から軽蔑へと変わった。ライザに冷たい視線を投げかけ、寝室へと消えていくピーター。後を追いかけるライザだったが、やがて家中に彼女の悲鳴が響き渡る。
 行く当てもないままロンドンへやって来たブレンダは、薄汚いボロ・アパートに部屋を借りる。そして、若者で賑わう街中のブティックへアルバイトの面接に行った。店長のジミー(トム・ベル)は冴えないブレンダの格好を見て話しにならないと感じたが、人前に出ることのない経理担当なら空きがある。ブスでも務まるだろう。
 なんとか仕事を得ることが出来たブレンダは、今度は王子様探しに躍起となる。出勤途中だろうが、散歩の途中だろうが、一人で歩いている男性には片っ端から声をかけるブレンダ。しかし、その切羽詰った表情とオドオドした態度を見て、大抵の男性は薄気味悪そうな表情をするだけだった。
 ブティックの従業員には、美人で男性にモテるキャロライン(カーチャ・ウィース)がいた。店長とも愛人関係にある遊び好きな女性だ。そんなにガツガツしていたら男なんて寄ってこないわよ。そう面と向かって言われたブレンダは、キャロラインのことが大嫌いになった。しかし、彼女が毎週末に自宅でパーティを開いていると聞いて考えを改める。きっと独身男性も沢山集まるに違いない。ブレンダはキャロラインの自宅に居候することにした。
 意気揚々としながらキャロラインの自宅パーティに参加するブレンダ。しかし、まともに人付き合いなどしたことのない彼女は、何をどう話していいのか、こういう場所でどのように振る舞えばいいのか分からない。そもそも、ワインとシャンパンの区別もつかない彼女には、洗練された都会人の遊びなど不釣り合いだった。しかし、彼女はなんとか溶け込もうと必至だ。以前から気になっていたラッピング係のジョーイ(ジェームズ・ボラム)に積極的なアプローチを試みるも、彼はキャロラインに夢中でブレンダの話など全く聞いてはいない。だが、彼女はそんなことにも気づかないくらい夢中になって、彼の喜びそうな話をひたすら喋り続けていた。
 やがてパーティ客が一人また一人と家路につく。キャロラインはタバコが切れていることに気付いた。ジョーイが買ってこようとかと声をかけるが、ブレンダは得点を稼ぎたい一心で自分が買ってくると名乗り出る。しかし、タバコ自販機にコインを入れたものの故障していて出てこない。町中を探し回って開いている雑貨屋を見つけ、なんとかタバコを買って戻って来たブレンダ。しかし、寝室ではジョーイとキャロラインがセックスをしていた。
 やっぱり私はブスだから誰も相手をしてくれないんだ。ブレンダは泣きじゃくりながら一人で夜道を歩いていた。すると、一匹の小汚い子犬が目に入る。あんたも私みたいに醜いから捨てられたのね。そう呟いて犬の背中を撫でるブレンダ。その時、彼女は“ティンカー”と名前を呼ぶ男性の声を聞く。犬の首輪を見たところ、そこには“ティンカー”という名札が。ふと声のする方角を見ると、ブロンドの若いハンサムな男性だ。ブレンダは思わず犬を連れて逃げ帰ってしまう。その様子を、飼い主のピーターはしっかりと目にしていた。

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誰からも相手にされず涙に暮れるブレンダ

ティンカーという犬を勝手に連れて帰ってしまう

 ティンカーを風呂に入れて綺麗にし、リボンを付けるなどしておめかしさせたブレンダ。翌日、彼女は見違えるように美しくなったティンカーを連れ、首輪に書かれた住所を訪れる。ピーターは素知らぬ顔をして、彼女を家の中へと招き入れた。名前を聞かれたブレンダは、つい空想の中のお姫様である自分の名前ロザルバを名乗ってしまう。だが、その名前が南欧特有のものだと知らない彼女は、イタリア系?スペイン系?と切り返されて答えに窮してしまう。ウソなのはバレバレだった。完全に話の主導権を握ったピーターは、単刀直入に問い詰める。なぜティンカーを盗んだのか?なぜわざわざきれいにして返してきたのか?ブレンダは顔を真っ赤にして取り乱す。なぜ、そこまでして僕に会いに来たんだ?そう矢継ぎ早に問いかけるピーターに、ブレンダは泣きじゃくりながら本当のことを伝えた。あなたの赤ちゃんが欲しいの、と。
 さすがに、この答えはピーターも予期していなかった。ビックリして言葉を失う彼だったが、逃げるようにして出ていこうとするブレンダを呼び止める。もし、この家に来て僕の世話をしてくれるのなら、僕の話し相手をしてくれるのなら、協力することも考えてあげていいよ、と。こうしてブレンダはピーターと同居することとなる。キャロラインには実家の母親が病気だからリヴァプールへ帰ると嘘をついて。
 ついに私の王子様が見つかった。ブレンダは思わず有頂天になる。しかし、彼女が越してくる前の晩に、ピーターがティンカーを殺していたことなど知る由もない。美しさは罪悪。美しいものは破壊しなくてはいけない。すっかりきれいになって帰ってきたティンカーもまた、ピーターにとっては罪深い存在だった。だから殺すしかない。そして、その亡骸を抱きしめながら、一晩中涙に暮れたのである。
 ピーターはブレンダに、ある王子様のお話を語って聞かせた。その王子様は生まれながらにして美しかったのだが、その美しさゆえに母親は彼のことを着せ替え人形のようにして育てた。やがて長じて国王となった彼は、美しいお姫様と結婚する。だが、お姫様の愛したのは彼の美しさであり、本当に彼のことを愛していたわけではなかった。だから、彼はお姫様を殺した。その後も、次々と彼の前には美しいお姫様が現れたが、やはりみんな彼の美貌にばかり目がくらみ、中身を見ようとはしなかった。だから、彼は一人残らず殺した。ブレンダはピーターの作った御伽噺だと思って聞いていたが、それは彼自身の生い立ち、つまり真実を御伽噺のようにして告白していたのだ。
 ピーターとの同居生活は楽しかったが、いつまでたっても彼は寝室にブレンダを招き入れる気配がない。やはり私がブスだからいけないんだ。そう考えたブレンダは、街へ出てブティックや美容院を回る。その頃、田舎の母親がブレンダを訪ねてロンドンへとやって来た。だが、キャロラインから娘が部屋を出て行ったと聞かされ途方に暮れる。心配したキャロラインは、ブレンダの部屋に残された首輪を発見。彼女の留守中にピーターの家を訪れる。
 最初は知らないふりをして彼女を追い返そうとしたピーターだったが、キャロラインは住所の書かれたティンカーの首輪を持っていた。彼は彼女を家の中へ招き入れる。案の定、キャロラインはハンサムなピーターに興味を持っていた。誘惑するのは簡単だった。ピーターは彼女を寝室へと誘い、他の女性と同じように惨殺する。
 何も知らずに帰宅したブレンダ。本人はめいっぱいお洒落をしてきれいになったつもりだったが、メイクもかつらも全く似合っていない。まるで滑稽な道化師だった。その姿を見たピーターは絶句し、ブレンダは恥ずかしさのあまり泣きじゃくる。そのいじらしい姿を見て、ピーターは生まれて初めて愛情というものを感じた。そして、彼はブレンダのことを優しく抱きしめ、ようやく2人は結ばれたのだった。
 一方、ブレンダの行方を捜していた母親は、キャロラインまでもが姿を消したことに胸騒ぎを覚え、警察に捜索願を出した。すぐに事件性を認識した警察は、マスコミを通じて情報提供を求める。行きつけの雑貨屋で新聞を目にしたピーターは、警察がブレンダとキャロラインを探していることに気付く。それ以来、理由を付けてはブレンダの外出を阻止しようとするピーター。その執拗な態度にブレンダは不安を感じてヒステリーを起こした。愛し合っているのだから、本当のことを打ち明けても受け止めてくれるに違いない。そう考えたピーターは、これまでに殺した女性やティンカーの断末魔の声を録音したテープをブレンダに聴かせることにする。
 テープの再生ボタンを押し、部屋に彼女を一人残して出ていくピーター。ドアの外で不安げな表情をしながら、彼女が全て聞き終わるのを待っていた。初めは何のことだか分からずにキョトンとしていたブレンダ。しかし、やがて愛する王子様の本当の素顔を知った彼女は、あまりの恐怖と絶望に顔を引きつらせるのだった…。

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ブレンダはティンカーの飼い主ピーターに惹かれる

ピーターは心に暗い闇を抱えた若者だった…

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ピーターの身の回りの世話を始めるブレンダ

ブレンダを探してキャロラインがやって来る

 怖いというよりも、哀しくて切ないサイコ・スリラー。御伽噺のようにドリーミーなタッチで全篇を包んでいるのも良かった。そもそも御伽噺というものは、どれも原典は残酷で悲しい。そこには、現実世界の無常や非情が色濃く投影されているのだ。あまりにも救いがない物語だからこそ、リアリズムを追求すると無意味に残虐性ばかりが強調されてしまう。主人公たちの孤独や絶望、悲しみを浮き彫りにするのであれば、かえって語り口をファンタジックにした方が効果的だ。そういった意味で、本作の御伽噺的な趣向は大正解だったと言えるだろう。ちなみに、ピーターはブレンダのことをウェンディと呼び、彼の飼い犬はティンカー。そう、『ピーターパン』だ。
 脚本を手掛けたのは、舞台の戯曲家や衣装デザイナーとしても知られるジョン・ピーコック。映画の脚本は本作と『悪魔の性キャサリン』(76)の2本だけだ。当時のイギリス演劇界では評判の高い人物だったらしく、普段はアート映画にしか出演しないリタ・トゥシンハムがハマー・フィルムの仕事を引き受けたのも、実はピーコックと仕事をしたかったからなのだという。
 そのほか、『国際殺人局K/ナンバーのない男』(72)などコリンソン監督との仕事も多いブライアン・プロビンが撮影監督を、『ヴァンパイア・ラヴァーズ』(70)や『血のエクソシズム/ドラキュラの復活』(70)などハマーの常連組だったスコット・マクレガーが美術デザインを担当。また、イージー・リスニング楽団のバンドリーダーとして有名なローランド・ショーが音楽スコアを手掛け、なんともクールでヒップでお洒落なサウンドを楽しませてくれる。こいつは是非ともサントラ盤が欲しい。

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ピーターに気に入られようと似合わないお洒落をしたブレンダ

その哀れないじらしさに初めて愛情を感じるピーター

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ブレンダの母(C・ケリー)は警察に捜索願を出した

ピーターはブレンダの外出を頑なに禁じる

 ヒロインのブレンダを演じるリタ・トゥシンハムは、先述した『蜜の味』や『みどりの瞳』でブリティッシュ・フリーシネマの象徴となった名女優。お世辞にも美人とは呼べない顔立ちが、かえって労働者階級の苦渋に満ちた青春をリアルに演じて説得力を持った。本作などは、そうした彼女のイメージを実に良く生かしたはまり役。理想の自分と現実の自分との大きなギャップに対応できず、無知で純朴であるがゆえに傷つきやすく、真面目でひたむきであるがゆえに滑稽な女性の哀れさを演じて、これほどしっくりとくる女優は他にいないだろう。
 そんな彼女とある意味で対極にありながら、同じような孤独と悲しみを背負った危険な若者ピーターを演じるシェーン・ブライアントがまた素晴らしい。ただ単に美しい顔の持ち主というだけではなく、どこか情緒不安定でダークな香りのする独特の個性は異彩を放っているし、尊大さと繊細さを兼ね備えた複雑で巧みな演技には言いようのないカリスマ性すら感じさせられる。映画デビューの本作を皮切りにハマー作品へ立て続けに出演したが、そのためにホラー俳優のレッテルを貼られて伸び悩んでしまった。その後はオーストラリアへ移住し、主にテレビや舞台で活躍しているようだが、これほどの逸材を生かし切れなかった英国映画界の罪は大きい。
 そのほか、BBCの人気ドラマ『ニュー・トリックス〜退職デカの事件簿〜』(03〜)で有名なテレビ俳優ジェームズ・ボラム、『ドラキュラ血のしたたり』(71)で女ヴァンパイアを演じていたカーチャ・ウィース、『プロスペローの本』(91)や『輝きの海』(97)などで知られる名優トム・ベルなどが出演。また、カルト映画『バスケットケース』シリーズのルース叔母さん役でも知られる往年のジャズ歌手アニー・ロスがアル中女ライザ役で顔をだし、アンニュイでもの悲しいテーマ曲も歌っている。

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自分の秘密を打ち明ける決心をしたピーター

王子様の本性を知ったブレンダは…

 

 

Demons of the Mind (1972)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Optimum Releasing (UK)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(イギリスPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:2/86分/製作:イギリス

特典映像
オリジナル劇場予告編
P・サイクス監督、脚本家C・ウィックリング、女優V・ウェザレルによる音声解説
監督:ピーター・サイクス
製作:フランク・ゴッドウィン
脚本:クリストファー・ウィッキング
原案:フランク・グッドウィン
撮影:アーサー・グラント
音楽:ハリー・ロビンソン
出演:ロバート・ハーディ
   パトリック・マギー
   シェーン・ブライアント
   ジリアン・ヒルズ
   ポール・ジョーンズ
   イヴォンヌ・ミッチェル
   マイケル・ホーダーン
   ケネス・J・ウォーレン
   ヴァージニア・ウェザレル
   ロバート・ブラウン

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ゾーン男爵の城へと到着した一台の馬車

男爵家の娘エリザベス(G・ヒルズ)が精神病院から戻った

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兄エミール(S・ブライアント)は部屋に監禁されていた

何者かが夜中にエミールの部屋の鍵を開ける

 こいつはなかなか奇妙な映画である。舞台は19世紀半ば、つまり産業革命と近代化の時代だ。東ヨーロッパの小さな村で起きた連続美女殺人事件を軸に、貴族の家系で渦巻く狂気と退廃の連鎖や迷信深い村人たちの間に伝染する強迫観念を通して、人間心理の奥に潜む“悪魔”という概念を解き明かしていく。従来のイメージからの脱却を目指して試行錯誤を繰り返していた当時のハマー・フィルムだが、これはその中でも特に実験的な色合いの強い作品だと言えるだろう。
 東ヨーロッパのとある国。村はずれに建つゾーン男爵の城では、息子エミールと娘エリザベスが監禁されていた。一族には殺人や近親相姦などの暗い歴史があり、男爵は自分の子供たちにもそうした狂気が受け継がれていると信じていたのだ。彼は藁にもすがる思いで近代医学の力を借りようと考え、都会から高名な精神科医ファルケンバーグを呼び寄せる。だが、城内では夜な夜な何者かが長男エミールの部屋を開放し、村では若い娘が一人また一人と姿を消していた。
 その頃、かつてのエリザベスを知る若者カールが、彼女との再会を求めて村へやってきていた。少なくともエリザベスは狂ってなどいないと信じるカールは、この城を覆う陰鬱な空気や古い因習にとらわれた土地柄、そしてゾーン男爵がかたくなに守ろうとする封建社会こそが、エリザベスの神経を蝕んでいるのだと考える。やがて明らかとなっていくゾーン男爵自身の異常性。ファルケンバーグも全ての元凶は、この妄想に取りつかれた父親にあることを悟る。だが、時すでに遅し。狂信的な牧師に先導された村人たちが暴徒と化し、男爵家に棲む悪魔を退治するべく城へと迫っていた…。
 脚本を手掛けたクリストファー・ウィッキングによると、原案のフランク・ゴッドウィンと彼はもともとヨーロッパ各地に残る人狼伝説などに興味があり、その源となったの何なのだろうか?という疑問から本作のストーリーを構築していったのだという。そうした伝説の背景には、古い迷信や因習、保守的で閉鎖的な封建社会、医学の未発達による無知などがあったことは想像に難くないだろう。本作ではゴシック・ホラーのスタイルや雰囲気を踏襲しながら、“悪魔”という言葉に象徴される狂気や恐怖のルーツをサイコロジカルな観点から探っていく。その試み自体はとてもユニークで面白いと言っていいだろう。
 ただ、残念だったのはストーリーの構成や流れを複雑にし過ぎてしまったため、極めて難解で分かりづらい作品となってしまったこと。そもそものプロット自体はシンプルであるにも関わらず、フラッシュバックやイメージショットをこれでもかこれでもかと言わんばかりに多用したことで、作品全体のまとまりがすっかり失われてしまったのだ。
 監督は『悪魔の性キャサリン』(76)のピーター・サイクス。あちらもストーリーの分かりにくい作品だったが、やはりこの人はストーリー・テリングの能力に重大な欠陥があるのかもしれない。映像的な雰囲気を作り出すのは上手いのだが、どうもムード重視に傾きすぎてしまうように感じる。題材としてはとても興味深い作品だけに、なんとも惜しいとしか言いようがない。

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男爵(R・ハーディ)は一族の狂気が子供にも遺伝していると信じていた

男爵の城へと向かう精神科医ファルケンバーグ(P・マギー)

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近隣の森では村娘たちが次々と殺されていた

ファルケンバーグは男爵の治療から始める

 それは東ヨーロッパの小さな村。一台の馬車がゾーン男爵(ロバート・ハーディ)の城を目指して田舎道を突っ走っている。馬車に乗せられているのは、男爵の娘エリザベス(ジリアン・ヒルズ)。彼女は遠い街の精神病院に入れられていたが、脱走を試みたために実家へ戻されることになったのだ。エリザベスは馬車の中で、脱走中に知り合った素朴で優しい若者カール(ポール・ジョーンズ)のことを思い浮かべる。しかし、彼女はそれが現実に起きたことなのか、それともただの夢だったのか、よく分からない。ただ、幸せで楽しかったことははっきりと覚えている。だが、今の彼女には記憶をたぐり寄せるだけの気力は残されていなかった。
 城では父親が待っていた。馬車の到着を窓から見下ろす一人の若者。それはエリザベスの兄エミール(シェーン・ブライアント)だ。束の間の再会に興奮を抑えきれないエミールだったが、父親は兄と妹が近づくことを許さなかった。エミールは鍵付きの自室へ閉じ込められ、エリザベスもまた看護役の伯母ヒルダ(イヴォンヌ・ミッチェル)に付き添われて自室へ。ヒルダはエリザベスの背中から血を抜き取る。それが当時の一般的な精神病治療法だったのだが、同時に彼女から体力も気力も奪っていた。その晩、真っ暗な城内にうごめくランプの明かり。何者かがエミールの部屋の鍵を開放する。そして、近くの森で若い村娘マグダが何者かに殺された。
 その頃、高名な精神科医ファルケンバーグ(パトリック・マギー)が馬車に乗ってゾーン男爵の城へ向かっていた。本来ならばエリザベスと一緒に城へ行くはずだったが、都合がつかずに遅れてしまったのだ。乗り合わせたのはカール。エリザベスが逃亡中に知り合った若者であり、偶然にもファルケンバーグのかつての教え子だった。彼はエリザベスにもう一度会いたいがため、同じくゾーン男爵の城へと向かっていたのだ。だが、その途中で馬車が横転して御者が負傷。カールは助けを呼ぶために村へ行ったが、その間にファルケンバーグは一人で城へと歩き出した。
 翌朝、村娘の死体を湖へ沈めるゾーン男爵。彼はようやく到着したファルケンバーグを責める。もっと早く来てくれれば惨劇を防ぐことが出来たのに、と。長い歴史を誇る男爵家には、殺人や近親相姦などの忌まわしい過去があった。彼はその狂気が代々受け継がれ、自分ばかりではなく子供たちにも遺伝していると考えていたのだ。彼はその遺伝を少しでも防ぐため、あえて貴族ではなく庶民の女性と結婚した。だが、自らの狂気が妻を自殺へと追いやり、その惨劇の瞬間を不幸なことに子供たちも目の当たりにしていた。恐らく、エミールもエリザベスも恐ろしい怪物になってしまうに違いない。事実、2人は兄と妹であるにも関わらず愛し合っている。だから、男爵は子供たちを監禁してしまったのだ。
 ファルケンバーグは進歩的な精神科医で、それだけに当時の医学界では異端児扱いされていた。だからこそ、男爵は彼の協力が必要だった。従来の治療法では、この呪われた家系の狂気を絶つことはできないだろう。まずは父親である男爵の治療から始まった。次に子供たち。ファルケンバーグはまず手始めにエミールの治療に取り掛かろうと考える。それは実験的なショック療法だった。
 一方、村で足止めを食っていたカールが城へと到着した。男爵はエリザベスの症状を説明し、彼女と会ったことは忘れてしまった方がいいと忠告する。だが、カールの知っているエリザベスは狂人などではなかった。この城の陰鬱な空気や土着信仰の根強い土地柄、そして尊大で保守的な父ゾーン男爵の存在が、彼女を精神的に追い詰めているのだと考える。彼は必ずエリザベスを救い出すと誓って城を飛び出した。
 エミールのために治療の準備をするファルケンバーグ。下男のクラウス(ケネス・J・ウォーレン)が村の娼婦インガ(ヴァージニア・ウェザレル)を城へ連れてくる。彼女をエリザベスそっくりに着飾らせ、エミールの興味を他の女性に向けさせるきっかけにしようというのだ。案の定、インガをエリザベスと勘違いしたエミール。だが、その後の展開は全くの予想外だった。エミールはインガに襲いかかろうとし、さらに城を飛び出した彼女の後を追いかけていく。そして、それがエリザベスではないことに気付くと、森の中で彼女を絞め殺してしまった。一連の出来事に対する男爵の反応を目の当たりにしたファルケンバーグは、彼が子供たちを狂気に追いやった元凶であることに気付く。エミールやエリザベスの異常な行動は遺伝のせいなどではない。強迫観念と誇大妄想に取りつかれた父親が、彼らの精神を蝕んでいたのだ。
 その頃、村に迷い込んだ狂信的な乞食坊主(マイケル・ホーダーン)に煽られて、村人たちは森の中へ悪魔狩りに出ていた。そこで、彼らは行方不明になっていた娘たちの死体を発見する。やはり悪魔は存在するのだ。そこへ合流したカールはゾーン男爵こそが悪魔の正体だと訴える。男爵家の領地へ忍び込むと、今まさに男爵がインガの死体を湖に投げ捨てているところだった。村人は暴徒と化して城へとなだれ込む。
 この混乱に乗じて、カールはエリザベスを救い出そうと城へ忍び込んだ。しかし、エリザベスにとって大切なのはカールではなく兄のエミール。城へと戻ったエミールはカールを殴り倒して気絶させ、妹を連れて森の中へと逃げ出す。その後を追って、男爵も猟銃を片手に城を飛び出した。果たして、哀れな兄妹を待っている運命とは…?

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エミールとエリザベスは兄と妹でありながら愛し合っていた

狂信的な乞食坊主(M・ホーダーン)が村へ迷い込む

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エリザベスを訪ねてきた若者カール(P・ジョーンズ)

カールはエリザベスが狂ってなどいないことを確信していた

 珍しくハマー・フィルムのお抱えではないプロデューサーが担当した作品。製作と原案にクレジットされているフランク・ゴッドウィンはもともと老舗映画会社ランク・オーガニゼーションのスタッフだった人物で、本作は彼の個人プロダクションとハマーの共同製作となっている。
 脚本のクリストファー・ウィッキングは『バンパイア・キラーの謎』(70)や『バンシーの叫び』(70)など、アメリカのAIPにて数々の名作ホラーを手掛けたイギリス人脚本家。ハマーでは他にも『王女テラの棺』(71)や『悪魔の性キャサリン』を手掛けている。それ以外にもシルヴィア・クリステル版『チャタレー夫人の恋人』(82)やUKロック・ミュージカルの名作『ビギナーズ』(85)、80年代UKホラーの隠れた名作『ドリームデーモン』(88)などがあり、なかなか興味深いフィルモグラフィーの持ち主だ。
 撮影監督は『吸血狼男』(60)や『蛇女の脅怖』(66)、『吸血ゾンビ』(66)などハマー・ホラーの名作には欠かせないアーサー・グラント。そのほか、美術デザインには『暗闇でドッキリ』(64)や『007/カジノ・ロワイヤル』(67)などで有名な大御所マイケル・ストリンガー、衣装デザインには『ナイル殺人事件』(78)や『グラディエーター』(00)のローズマリー・バロウズが参加。また、音楽には『鮮血の処女狩り』(70)や『ヴァンパイア・ラヴァーズ』(71)のハリー・ロビンソンが当たっており、繊細で抒情的な美しいオーケストラ・スコアを聴かせてくれる。

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娼婦インガ(V・ウェザレル)を妹だと思って追いかけるエミール

ファルケンバーグは男爵こそが狂気の元凶だと悟った

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妹を救うために城へ戻って来たエミール

ようやく結ばれた兄と妹だったが…

 本作は普段ホラー映画には縁の薄い、いわゆる正統派の名優が主要キャストに名を連ねていることでも映画マニアの興味を惹くことだろう。まずゾーン男爵役を演じているのは、最近だと『ハリー・ポッター』シリーズの魔法大臣コーネリアス・ファッジ役でお馴染みの俳優ロバート・ハーディ。イギリスでは主に舞台やテレビで有名な人で、中でもエリザベス女王の愛人ロバート・ダドリーを演じた『エリザベスR』(71)やチャーチル首相役で英国アカデミー賞を獲得した“Winston Churchill: The Wilderness Years”(81)などの歴史物で評価が高い。ただ、ここではその舞台演劇的な大熱演がちょっと鼻につくところがあって、出演者の中では若干浮いている感じがする。
 また、ゾーン男爵の姉でエリザベスの看護係でもあるヒルダ役には、こちらも英国アカデミー主演女優賞やベルリン国際映画祭女優賞などに輝く往年の名女優イヴォンヌ・ミッチェル。撮影当時57歳。もともと非常に上品で綺麗な人だったが、本作ではそのイメージをかなぐり捨てるような演技を披露している。ホラー映画への出演は、後にも先にもこれ一本だけだ。
 さらに、村人を煽動する気の狂った乞食坊主役には、『カーツーム』(66)や『じゃじゃ馬ならし』(67)、『1000日のアン』(71)、『ジャガーノート』(74)、『ガンジー』(82)など数多くの名作に出演した名脇役マイケル・ホーダーン。彼もまた、ホラー映画への出演はこれ一本のみである。
 そして、哀れな運命をたどる兄妹エミールとエリザベスを演じるのは、“Straight on till Morning”に引き続いてハマー作品への出演となったシェーン・ブライアントと、後にフランスでポップ・シンガーとなったジリアン・ヒルズ。本作でもシェーン・ブライアントの病的な美しさが際立っており、カール役を演じるポール・ジョーンズ(ロック・バンド、マンフレッド・マンの元リード・シンガー)の爽やかなイケメンぶりとは好対照だった。
 精神科医ファルケンバーグ役には、『時計じかけのオレンジ』(71)や『バリー・リンドン』(75)で知られる怪優パトリック・マギー。彼は『赤死病の仮面』(64)や『アサイラム殺人病棟』(72)、『ルチオ・フルチの恐怖!黒猫』(80)などにも出ており、ホラー映画ファンにはお馴染みの顔であろう。
 そのほか、『007/オクトパシー』(83)から『007/殺しのライセンス』(89)までボンドの上司Mを演じたロバート・ブラウン、『怪奇!二つの顔の男』(71)や『ゾンビ来襲』(73)などのUKホラーで活躍したケネス・J・ウォーレン、ピート・ウォーカー監督の“Big Switch”(69)でヒロインを演じたヴァージニア・ウェザレルなどが脇を固めている。

 

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