ハマー・ホラー傑作選 PART1

 

 世界のホラー映画に多大な影響を及ぼしたブリティッシュ・ホラーの殿堂ハマー・フィルム。鮮烈なカラー映像と壮麗なゴシック・ムード、リアルな残酷描写とほのかなエロティシズム。当時の批評家からは“病的で趣味が悪い”と批判されたものの、世界中の映画ファンから熱狂的に受け入れられ、ホラー映画史の流れそのものを大きく変えてしまった。
 その詳細に関しては、日本を代表するホラー映画研究家・石田一氏の著書及び筆者の関わったムック本『ホラー映画クロニクル』を参照していただくことにして(笑)、ここでは入門者向けにハマー・フィルムの簡単な歴史を紹介した上で、その代表的な作品を分かりやすく解説していきたい。

 ハマー・フィルムの誕生は1935年のこと。しかし、当時の英国映画不況の煽りを受け、たったの2年で倒産してしまった。関連の映画配給会社エクスクルーシブだけが生き残り、創業者の息子アンソニー・ハインズとジェームズ・カレラスの二人が会社を受け継ぐ。
 戦後の1946年にカレラスがハマー・フィルムを復活させ、追ってアンソニー・ハインズもこれに参加。コメディからメロドラマ、サスペンス、フィルム・ノワールなど、あらゆるジャンルの低予算映画を大量生産するようになった。
 そんなハマーが、ホラー映画のジャンルに足を踏み入れるようになったのは1955年。当時のSF映画ブームに当て込んで作られたSFホラー『原子人間』の国際的な大成功がきっかけだった。以降、『怪獣ウラン』(56)などのSFホラーやモンスター映画をヒットさせたハマーは、ホラー映画が大きなビジネスとなることに気付く。
 記念すべきハマー・ホラーの第1弾として世に送り出されたのが、『フランケンシュタインの逆襲』(57)。続く『吸血鬼ドラキュラ』(58)や『フランケンシュタインの復讐』(58)も世界各国で大変な評判を呼び、ハマー・フィルムはまたたく間にイギリスを代表する映画会社へと成長していったのである。
 このハマー・ホラーの成功によって世界的なゴシック・ホラー・ブームが巻き起こり、イギリス国内はもちろんのこと、世界中でハマー作品に影響を受けたホラー映画が続々と誕生。アメリカのAIPによる一連のエドガー・アラン・ポーものや、イタリアのマリオ・バーヴァやアンソニー・M・ドーソンの作品などは、ハマー・フィルムの存在なしに語ることは出来ないだろう。ここ日本でも、ハマー・ホラーに多大な影響を受けた山本迪夫監督による“血を吸う三部作”というゴシック風バンパイア映画の傑作が生まれている。
 また、ハマーはそのスタイルをホラー映画以外のジャンルにも生かし、ヒッチコック風のサスペンスや冒険活劇、特撮ファンタジーなども数多く生み出した。クリストファー・リーやピーター・カッシングといった世界的な怪奇映画スターを育て、ラクエル・ウェルチやイングリッド・ピット、ユーニス・ゲイソン、マーティン・ベスウィックなどのセクシー女優を世に送り出した功績も忘れてはならないだろう。
 しかし、70年代に入るとモダン・ホラーの台頭によってゴシック・ホラー人気は急速に衰退。ハマーはオカルト映画やカンフー映画などのトレンドを取り入れて生き残りを図るが、残念ながら79年に倒産してしまった。
 その後、新たな経営陣によって制作されたテレビのホラー・アンソロジー・シリーズ『悪魔の異形』(80)が評判となるも、80年代半ばには一切の番組・映画製作から手を引いてしまう。しかし、03年頃からハマーの製作再開計画が始動。08年にはオンライン配信専用として、“Beyond The Grave”というバンパイア映画が発表されている。

 

 

The Mystery Of The Marie Celeste (1935)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2002 Blackhawk Films/Image (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/62分/製作:イギリス

映像特典
なし
監督:デニソン・クリフト
製作:ヘンリー・パスモア
脚本:チャールズ・ラークウォーシー
   デニソン・クリフト
撮影:エリック・クロス
   ジョッフリー・フェイスフル
出演:ベラ・ルゴシ
   アーサー・マーゲットソン
   シャーリー・グレイ
   エドマンド・ウィラード
   デニス・ヒューイ
   グンナー・モイア
   クリフォード・マクラグレン
   ギブソン・ゴウランド

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乗組員を集めるブリッグス船長(A・マーゲットソン)

ブリッグスは親友の恋人サラ(S・グレイ)にプロポーズ

親友モアランド(C・マクラグレン)は激怒する

 当時、ウィリアム・ハインズによって創設されたばかりだったハマー・フィルムが製作したホラー・ミステリー。嵐に見舞われた貨物船内で謎の殺人鬼が徘徊し、船長夫婦や乗組員を一人また一人と殺害していく。後のハマー・ホラーとは全く関連性のない作品だが、歴史的な観点から見ればその原点とも言えるかもしれない。
 主人公は人望の厚いアメリカ人船長ブリッグス。親友であるモアランド船長の恋人サラを奪う形で結婚した彼は、工業用アルコールをイタリアの港町ジェノヴァへ運ぶため、貨物船メアリー・セレスト号の指揮を取ることとなる。
 集められた乗組員は7人。その中には、過去の航海で精神的なトラウマを負った船乗りロレンゾンや、嫉妬深いモアランド船長の送り込んだスパイなども含まれている。ニューヨークから大西洋へと船出したメアリー・セレスト号だったが、やがて激しい嵐に見舞われた。船内に不穏な空気が流れる中、次々と謎の死を遂げる乗組員たち。果たして、殺人鬼の正体とは何者なのか・・・!?
 実はこれ、19世紀後半に実際に起きた“メアリー・セレスト号乗組員失踪事件”から着想を得た作品。1872年11月に工業用アルコールを積んでニューヨークを出発したメアリー・セレスト号は、その約1ヵ月後にポルトガル沖で無人状態のまま発見される。なぜ乗組員が一人もいなくなってしまったのか、彼らがどこへ消えてしまったのかなどの謎は未だに解明されておらず、これまでに世界中で様々な憶測をよんできた怪事件だ。
 本作では妻サラを巡るブリッグス船長と親友モアランドの確執、当時アメリカで横行していたShanghaiing(人手不足を補うために関係のない人間を麻酔などで眠らせて連れ去り、船乗りとして強制労働させること)の犠牲者である船乗りロレンゾンの復讐などといったフィクションを盛り込み、ハリウッドを代表する怪奇役者ベラ・ルゴシを起用することによって、猟奇的なホラー・ミステリーとして仕上げている。
 筆者が鑑賞したのは、イギリス公開版よりも18分短いアメリカ公開版。“Phantom Ship”と改題されたこのアメリカ版は、本来前後に挿入された裁判シーンをそっくり削除している。そのせいか、ブリッグス船長と妻サラがどのような運命を辿ってしまったのかが説明されず、後半になって忽然と姿を消してしまったままクライマックスへと突入してしまう。
 その点は大いに不満が残るものの、最後に残された3人の船乗りたちがお互いに相手を疑いながら生き残りを賭けるラスト20分は、サスペンスとしてなかなか見応えのある出来栄えだ。

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過酷な船旅で廃人同然となったロレンゾン(B・ルゴシ)

ブリッグスはモアランドの部下を借りることにする

初めての船旅に不安を隠せないサラ

 1872年11月。ニューヨークの港に停泊しているメアリー・セレスト号は、工業用アルコールをイタリアのジェノヴァへと運ぶ仕事を請け負った。船長のブリッグス(アーサー・マーゲットソン)は、右腕ビルソン(エドマンド・ウィラード)に命じて航海に必要な乗組員を集めさせる。
 その晩、ブリッグス船長は愛する女性サラ(シャーリー・グレイ)にプロポーズをする。実は、彼女はブリッグスの親友モアランド船長(クリフォード・マクラグレン)の恋人だった。粗暴なモアランドよりも人格者であるブリッグスを愛していたサラは結婚を受け入れるが、それを知ったモアランドは怒りを露わにする。
 新妻サラを連れて航海へ出ることにしたブリッグス船長。だが、なかなか乗組員が集まらず、仕方なく彼はモアランドの部下を借りることにした。お互いにわだかまりを解消したかに見えた二人。しかし、嫉妬深いモアランドは部下グロット(ハーバート・キャメロン)に極秘命令を託していた。
 一方、町の酒場には廃人のようになった船乗りロレンゾン(ベラ・ルゴシ)が数年ぶりに現れた。彼は強制的に貨物船へ乗せられ、劣悪な状況下で過酷な労働を強いられてきたのだ。だが、メアリー・セレスト号が乗組員を探していると聞いた彼は、なぜか自ら名乗り出て志願するのだった。
 かくして、大西洋横断の旅へ出航したメアリー・セレスト号。初めて船に乗るサラは、荒くれ者ばかりの航海に不安を隠せない。そんなある日、荒れ狂う嵐の中で精神的におかしくなった船乗りが、サラをレイプしようとした。その現場を目撃したロレンゾンが男を射殺。人を殺めてしまったことに狼狽するロレンゾンは、過去の精神的なトラウマに悩まされていた。
 さらに、何者かがブリッグス船長を銃撃。乗組員たちの中に犯人がいると考えた船長だったが、そのうちの一人が死体で発見され、それを見た別の乗組員も発狂して海へ身投げした。この船は何かがおかしい・・・そう不安を募らせるサラに、ロレンゾンは航海の恐ろしさを語って聞かせる。
 その晩、ビルソンとロレンゾン、カッツ(グンナー・モイア)の3人は、自分たち以外の乗組員が姿を消してしまっていることに気付いた。3人のうち誰かが殺してしまったに違いない。お互い疑心暗鬼となった彼らは、それぞれの生き残りを賭けた最後の行動に出る・・・。

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激しい嵐に襲われるメアリー・セレスト号

船乗りの一人がサラをレイプしようとする

サラの窮地を救ったのはロレンゾンだった

 監督と脚本を担当したデニソン・クリフトはアメリカ人。映画草創期から活躍するベテランで、セシル・B・デミル製作の海洋アドベンチャー映画“The Yankee Clipper”(27)の脚本も手掛けていた。主に西部劇や冒険活劇の演出で鳴らした人物だが、本作では表現主義的な怪奇ムードの演出にも上手さを見せる。
 製作のヘンリー・パスモアは当時ハマー・フィルムに在籍していたプロデューサーで、ハマーの記念すべき第一回製作作品“The
Private Lives of Henry the Ninth”(35)の製作も担当した人物。37年にハマーが一時倒産すると自らの制作会社を立ち上げ、60年代まで主にコメディー映画を手掛けていたようだ。
 撮影を手掛けたのは、名子役ヘイリー・ミルズを一躍スターにしたサスペンス映画『追いつめられて・・・』(53)のエリック・クロスと、ロナルド・コールマン主演の冒険活劇『放浪の王者』(38)やSFホラーの古典『未知空間の恐怖/光る眼』(60)のジョッフリー・フェイスフル。
 また、後にハマー製作のSFホラー『原子人間』(55)を手掛けるJ・エルダー・ウィリスが美術デザインを担当している。

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乗組員の変死体が発見される

ロレンゾンは精神的なトラウマに悩まされていた

残された3人のうちの誰が犯人なのか・・・!?

 そして、当時ユニバーサル・ホラーの傑作『魔人ドラキュラ』(31)で怪奇映画役者として大成功を収めていたスター、ベラ・ルゴシが、精神的にトラウマを抱えた船乗りロレンゾン役を怪演。その演劇的で大袈裟が演技が時として鼻につくルゴシだが、本作では逆にその大仰さがロレンゾンという男の異常性を浮かび上がらせており、一種異様な迫力を生み出している。なかなかの当たり役だ。
 ブリッグス船長役のアーサー・マーゲットソンは、D・W・グリフィス監督の傑作『散り行く花』のリメイク“Broken Blossoms”(36)のヒロインの父親役で知られるイギリス人俳優。その妻サラを演じているシャーリー・グレイは、ジョン・ウェイン主演の連続活劇『ハリケーン・エキスプレス』(32)のヒロイン役で知られるアメリカのB級映画女優だった。
 そのほか、ベイジル・ラズボーン主演の“シャーロック・ホームズ”シリーズでスコットランドヤードのレストレイド警部役を演じていたデニス・ヒューイ、ヴィクトリア朝時代のプロ・ボクサーとして有名なグンナー・モイア、サイレント時代のドイツ映画で活躍したイギリス人俳優クリフォード・マクラグレン、エリッヒ・フォン・シュトロハイム監督の傑作『グリード』(24)の心優しき夫役で有名なギブソン・ゴウランドなどが脇を固めている。

 

 

フランケンシュタインの逆襲
The Curse Of Frankenstein (1957)

日本では1957年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2002 Warner Home Video (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・フランス語/字幕:英語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語/地域コード:
1/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:テレンス・フィシャー
製作:アンソニー・ハインズ
   マックス・ローゼンバーグ
原作:メアリー・シェリー
脚本:ジミー・サングスター
撮影:ジャック・アッシャー
音楽:ジェームズ・バーナード
出演:ピーター・カッシング
   ヘイゼル・コート
   クリストファー・リー
   ロバート・アークハート
   ヴァレリー・ゴーント
   メルヴィン・ヘイズ
   ポール・ハードマス

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フランケンシュタイン男爵(M・ヘイズ)の家庭教師となるポール

成長した男爵(P・カッシング)は優れた科学者となった

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新たな生命を創造するために処刑された犯罪者の遺体を盗む

研究にのめり込む男爵の異常性に疑問を持つポール(R・アークハート)

 ハマー・フィルムの名を一躍世界に知らしめた大ヒット作。メアリー・シェリーの古典的怪奇文学『フランケンシュタイン』を大胆に脚色し、科学への飽くなき情熱のために道を踏み外していくフランケンシュタイン男爵の狂気を描いたサイコロジカルなゴシック・ホラーに仕上がっている。
 主人公は少年の頃から頭脳明晰で聡明だったフランケンシュタイン男爵。家庭教師ポールの影響で科学の世界へのめり込んでいった彼は、やがて“生命の創造”という神の領域に情熱を注ぐようになる。完璧な人間を作り出すために死体を盗み出し、挙句の果てには殺人まで犯してしまうフランケンシュタイン。ポールはその凶行を止めようとするが、既に男爵は善悪の区別さえつかなくなっていた。その結果生み出された人造人間は、世にも醜悪で恐ろしい怪物だった・・・。
 31年にもジェームズ・ホエール監督、ボリス・カーロフ主演で映画化され大ヒットした『フランケンシュタイン』。科学を過信する人間の傲慢と、そんな人間に“創造”された怪物の悲劇を描いた31年版と違い、フランケンシュタイン男爵そのものを怪物として描いたのが本作の大きな特徴だ。自らの研究にのめり込むあまり理性を失い、人殺しさえも厭わなくなっていくフランケンシュタイン男爵。その狂気こそが本作における恐怖の核心であり、31年版よりもストレートなホラー映画として成立している。
 しかし、純粋に映画作品として見ると、完成度の高さでは31年版の方に軍配があがることはやむおえまい。男爵家の屋敷内にほぼ舞台を限定された脚本は広がりに乏しく、あくまでも恐怖に焦点を絞っているためそれ以上のストーリー的な深みにも欠けている。ケレン味あふれるテレンス・フィシャー監督の演出はダイナミックで刺激的だが、一方で詩情豊かなジェームズ・ホエール監督の風格には及ばない。つまり、良い意味でも悪い意味でも、本作は低予算で作られたB級ホラー映画なのだ。
 とはいえ、鮮烈な色彩に彩られたカラー映像と荘厳なゴシック・ムード溢れる美術セットによるビジュアル・イメージは強いインパクトを残す。つぎはぎだらけの怪物の特殊メイクや、実験用に使われる人体パーツなどの造形も非常にリアルで鮮明だ。
 カラーで撮影されたホラー映画はこれが初めてではなかったものの、血みどろの残酷シーンをカラーで見せるような映画というのはこれが初めて。それだけに、当時の観客は度肝を抜かれたことだったろう。当時は、低予算のホラー映画はモノクロで撮影されるのが当たり前だった時代。それをあえてカラー撮影にこだわったのも、ハマー・フィルムの作品が成功した理由の一つだった。
 ただ、その背景には過去の映画化作品に関する著作権を主張するユニヴァーサル映画への配慮があり、それゆえにボリス・カーロフの怪物とは全く違う特殊メイクを考えなくてはいけない、ストーリーも31年版と似せてはいけない、ビジュアル・イメージもかけ離れたものにしなくてはいけない等の事情が発生した。
 それが結果として、新たな解釈のもとによるカラフルで血生臭いホラー映画を誕生させたのであり、一連のユニバーサル・ホラー以来廃れてしまっていたゴシック・ホラー・ブームを復活させることになったわけだから、皮肉といえば皮肉かもしれない。

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男爵のフィアンセである従姉妹エリザベス(H・コート)

実験を中止するよう強く警告するピーターだったが・・・

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パロディ映画『トップ・シークレット』のネタにもなったシーン

バーンスタイン教授(P・ハードマス)を自宅に招いた男爵

 刑務所で処刑の時を待つヴィクター・フランケンシュタイン男爵(ピーター・カッシング)は、訪れた司祭に対して自らが罪を犯すことになったいきさつを語り始める。若くして両親と死に別れた彼は、幼い頃から好奇心旺盛で聡明な人物だった。中でも科学に強い関心を示していたことから、彼は有能な科学者ポール・クレンプ(ロバート・アークハート)を自らの家庭教師として指名する。
 たちまち無二の親友となった二人。勉強熱心な男爵はポールの知識を貪欲に吸収し、やがて一人前の科学者へと成長していく。そんなある日、彼らは子犬の死体を蘇生させる実験に成功する。この結果に自信を得た男爵は、“生命の創造”という次なる段階へ進むことを決意する。
 それは、死んだ人間の体から最も優れたパーツだけを集め、そこに生命を吹き込んで完璧な人間を作り出すというもの。その神をも恐れぬ発想にポールは猛反対するが、男爵の意志が揺るぎないことを悟り、しぶしぶ力を貸すことにする。
 絞首刑となった犯罪者の死体を手に入れた彼らは、さらに死体安置所から秘かに人体パーツを買い集め、人造人間の作成を進めていった。そんな折、男爵の従姉妹に当たる女性エリザベス(ヘイゼル・コート)がやって来る。二人は幼い頃に決められた許婚同士だった。同じ屋根の下に女性が暮らすとなれば事情が違う。ポールは実験の中止を訴えるが、男爵は全く耳を貸さなかった。そればかりか、彼はエリザベスという許婚がありながら、若い女中のジャスティン(ヴァレリー・ゴーント)と愛人関係にあった。
 そんなある日、男爵は高名な学者バーンスタイン教授(ポール・ハードマス)を自宅に招き、事故に見せかけて階段の上から突き落として殺してしまう。人造人間に優れた脳を移植するためだ。周囲の人々は不慮の事故として悲しんだが、ポールだけは男爵の魂胆を見透かしていた。
 案の定、真夜中に墓地へとやって来たポールは、教授の遺体から脳みそを取り出している男爵を発見する。二人の言い争いは格闘となり、その衝撃で脳みそを傷つけてしまった。男爵は人造人間の蘇生に成功するものの、それは知性を持たない野獣のように危険な怪物だった。
 仕方なく、実験室の奥に怪物を拘束して閉じ込めた男爵。だが、怪物は想像以上に怪力で、目を放した隙に拘束具を壊して逃げてしまった。盲目の老人と幼い孫を殺害した怪物だったが、ポールによって銃殺されてしまう。この顛末を受け、ポールに実験の断念を約束する男爵。
 しかし、男爵はポールに秘密で怪物の死体を隠し、秘かに蘇生実験を続けていたのだ。彼は自分と結婚しなければ実験の内容を世間に公表すると脅迫する女中ジャスティンを怪物に殺害させる。さらに、怪物は再び拘束具を破壊し、何も知らずに実験室へやって来たエリザベスに襲いかかるのだった・・・!

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男爵は真夜中に教授の死体から脳みそを盗み出した

いよいよ人造人間の蘇生に取りかかる男爵

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命を吹き込まれた人造人間(C・リー)は醜悪で凶暴な怪物だった

実験室を抜け出した怪物は通りがかりの村人を殺してしまう

 もともと本作の脚本は、マックス・ローゼンバーグとミルトン・サボツキーという二人のアメリカ人が書いたものだった。そう、後にハマー・フィルムにとって最大のライバルとなるアミカス・プロを創設することになるコンビだ。しかし、彼らの脚本はあまりにも31年版と酷似しており、なおかつ上映時間にしてみると1時間にも満たないくらい短い、そもそも出来栄えがお粗末であるなどの理由から却下されてしまった。その代わり、もともとハマー・フィルムで助監督などを務めていたジミー・サングスターが、改めて脚本を書き直すこととなったのである。
 サングスターの脚本は極めてシンプルだが、人間の誰もが持っている邪悪な面をカリカチュアしたりオブラートに包んだりすることなく率直に描いている点で、それまでのホラー映画にはあまり見られなかったリアリズムを表現していると言えよう。また、ストーリーそのものが実際に起きた真実とも、気の触れた犯罪者フランケンシュタインによる妄想の産物とも取れるような暗いエンディングも皮肉が効いていて巧い。
 撮影監督のジャック・アッシャーは、もともと巨匠アンソニー・アスクウィスの『若い恋人たち』(54)やルイス・ギルバートの『善人は若死にする』(54)などの名作を手掛けていたカメラマン。本作をきっかけにハマー・ホラーにとって欠かせないカメラマンとなり、ハマー作品の色彩スタイルを確立することとなった。
 怪物の強烈な特殊メイクを手掛けたのは、ハマー・フィルムの専属メーキャップ・アーティストだったフィル・リーキー。続く『吸血鬼ドラキュラ』(58)のメイクも手掛け、ハマー・ホラー成功の立役者の一人でもあったわけだが、スタジオのホラー路線への変更に違和感を感じていたらしく、『フランケンシュタインの復讐』(58)を最後にハマーを去ってしまった。
 また、壮麗な美術セットのデザインを手掛けたバーナード・ロビンソンも、ハマー・フィルムのお抱えデザイナーだった人物。もともと英国B級映画の帝王ジョージ・キングのプロダクションで働いていたが、SFホラー『宇宙からの侵略生物』(56)をきっかけにハマー・フィルムで仕事をするようになり、70年に亡くなるまでハマー・ホラーの重要なスタッフとして活躍した。
 そして、音楽を手掛けたのはこれまたハマー・ホラーに欠かせない名匠ジェームズ・バーナード。彼は同性愛者で、脚本家のポール・デーンと長年のパートナーだったことから映画『戦慄の七日間』(50)の原案も手掛けており、アカデミー賞の最優秀原案賞を受賞している。

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ポールに秘密で人造人間の死体を隠していた男爵

女中ジャスティン(V・ゴーント)を怪物に殺させる

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人造人間を飼いならそうとする男爵

もはやフランケンシュタイン男爵自身が怪物と化していた

 本作のフランケンシュタイン男爵役で、一躍世界的なホラー映画スターとなったピーター・カッシング。一時期ハリウッドでも活躍した俳優だったが、なかなか主演作には恵まれないでいた。当時は主にイギリスのテレビで顔を知られていたものの、本作をきっかけにハマー・ホラーのみならず、ブリティッシュ・ホラーそのものに欠かせない名優へと成長していく。
 一方、怪物役を演じるクリストファー・リーも、やがてハマー・ホラーを代表する大物スターとなるわけだが、本作ではまだまだ脇役の扱い。特殊メイクのおかげで素顔も殆んど分からない状態だ。193センチという長身が災いしてなかなか役者として芽の出なかった人だが、その身長のおかげでハマー・フィルムの目に止まるところとなり、本作の怪物役へと抜擢された。これをきっかけに世界的なスターとなり、87歳を過ぎた今も現役の役者としてファンや映画人の尊敬を集めているわけだから、人の運命とは本当に分からないものである。
 フランケンシュタイン男爵のフィアンセ、エリザベス役を演じているヘイゼル・コートも、SFやホラーなどのジャンル系映画で活躍したクールな英国女優。ハマー・フィルムでは“The Man Who Could Cheat Death”(58)にも出演し、後にアメリカへ活動の拠点を移してからは『姦婦の生き埋葬』(62)や『忍者と悪女』(63)などのAIP作品で活躍した。
 また、ポール役のロバート・アークハートは、ロバート・テイラー主演のハリウッド映画『円卓の騎士』(53)やB級冒険活劇『黄金の牙』(54)で注目された俳優。後にイギリスのテレビ・ドラマに欠かせない名脇役となり、市民権運動の活動家としても有名になったそうだ。
 そのほか、続く『吸血鬼ドラキュラ』の女バンパイア役でも知られるヴァレリー・ゴーントが女中ジャスティン役を、戦時中にドイツから亡命したベテラン俳優ポール・ハードマスがバーンスタイン教授役を、そして後にテレビの人気スターとなるメルヴィン・ヘイズが少年時代のフランケンシュタイン男爵を演じている。

 

 

吸血鬼ドラキュラ
Dracula (1958)

日本では1958年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2002 Warner Home Video (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語/地域コード:1/81分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:テレンス・フィシャー
製作:アンソニー・ハインズ
原作:ブラム・ストーカー
脚本:ジミー・サングスター
撮影:ジャック・アッシャー
音楽:ジェームズ・バーナード
出演:ピーター・カッシング
   クリストファー・リー
   マイケル・ガフ
   メリッサ・ストリブリング
   キャロル・マーシュ
   ジョン・ヴァン・アイゼン
   ヴァレリー・ゴーント

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ドラキュラ城へとやって来たジョナサン・ハーカー(J・V・アイゼン)

誰もいない城内は静まり返っていた

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夜になって姿を表したドラキュラ伯爵(C・リー)

伯爵はジョナサンのフィアンセ、ルーシーの写真に興味を示す

 『フランケンシュタイン』と来れば、次は『吸血鬼ドラキュラ』というのが当然の成り行き(?)。同じく過去にユニヴァーサルが映画化した事のある古典的怪奇小説を、再びハマー・フィルムが総天然色で甦らせたのがこの作品だ。
 テレンス・フィシャー監督以下のスタッフ、主演コンビは『フランケンシュタインの逆襲』とほぼ同じ。だが、前作ではワリと平均値的だったフィシャー監督の演出が一転して本作では見事なまでに冴え渡り、そのリズミカルなスピード感と躍動感たるや文句のつけどころがない。中でも、クライマックスにおけるドラキュラVSヴァン・ヘルシングの対決はホラー映画史に残る名場面。活劇映画のごとき派手なアクションと、ショッキングなドラキュラの最期に拍手喝采だ。
 もちろん、ジャック・アッシャーのスタイリッシュでカラフルなカメラワーク、バーナード・ロビンソンの豪華な美術セットも前作以上の完成度で、当時としては刺激の強い残酷描写やエロティシズムの中にも、しっかりと気品溢れるゴシック・ムードを生かしているのが素晴らしい。
 また、余計なサイド・ストーリーや設定の一切をそぎ落としたジミー・サングスターの脚本も良かった。基本的にはブラム・ストーカーの原作やユニヴァーサルによる31年版のストーリーを踏襲しているものの、もたもたするような中間部分は全てスキップ!そのため登場人物の設定も変えているし、原作ファンにはお馴染みの下僕レンフィールドすら登場しない。熱心なドラキュラ・ファンが怒り出しそうな大胆極まりない脚色だが、これが本作の場合は大成功だった。善と悪の対決構造をこれ以上なくハッキリと打ち出し、誰もがドキドキワクワクするような極上のホラー・エンターテインメントへと昇華させている。
 バンパイア映画の基礎を作ったのがドイツの『吸血鬼ノスフェラトゥ』(22)とユニヴァーサルの『魔人ドラキュラ』(31)とするならば、さしずめ本作はその頂点を極めた傑作と言っても良いだろう。
 ドラキュラ映画の古典としてはユニヴァーサルの『魔人ドラキュラ』の方が引き合いに出される場合が多いものの、ムードを重視し過ぎたトッド・ブラウニングの演出は今見ると退屈で、あまりにも演劇的過ぎるベラ・ルゴシのドラキュラ伯爵は一歩間違えると滑稽ですらある。
 その点、テレンス・フィシャーの演出は今のホラー映画にも相通じるようなアクション・ゴア・エロの三拍子が揃っており、クリストファー・リーのドラキュラ伯爵は野獣的な迫力と男性的なエロティシズムを兼ね備えたダーク・ヒーローとして、時代に色褪せない貴族的なダンディズムを体現している。数あるハマー・ホラー作品の中でもダントツの傑作であり、バンパイア映画の金字塔とも呼べる本作。全てのホラー映画ファン必見の一本だ。
 ちなみに、アメリカではユニヴァーサル版に関わる著作権上の問題から、“Horror Of Dracula”というタイトルで劇場公開されている。

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ジョナサンの目的はドラキュラ伯爵の殺害だった

ヴァンパイアの正体を現した伯爵

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女ヴァンパイアに首筋を噛まれてしまったジョナサン

女ヴァンパイア(V・ゴーント)に杭を打ち込む

 クラウゼンバーグにあるドラキュラ城へと到着した青年ジョナサン・ハーカー(ジョン・ヴァン・アイゼン)。彼は城主であるドラキュラ伯爵(クリストファー・リー)に雇われた司書だった。城内へと足を踏み入れるジョナサンだが、伯爵は留守で人影も全くなく、広間のテーブルにはポツンと食事だけが用意されていた。
 食事を取りながら伯爵の帰宅を待つジョナサン。すると、一人の謎めいた女性(ヴァレリー・ゴーント)が現れ、彼に助けを求めるのだった。ワケも分からずに戸惑うジョナサン。そこへドラキュラ伯爵が姿を現し、ジョナサンを客間へと案内した。ジョナサンが卓上に婚約者ルーシーの写真を置いたところ、その美しい姿に伯爵は興味を示す。
 実は、ジョナサンの正体は司書などではなく、ドラキュラ伯爵を退治するためにやって来たヴァンパイア・ハンターだった。真夜中に客間を抜け出したジョナサンの前に、再び例の女性が現れる。助けを求めてジョナサンに泣きすがる彼女だったが、その正体はやはりヴァンパイア。ジョナサンは首筋を噛まれてしまった。
 そこへ、バンパイアとしての正体を現したドラキュラ伯爵が乱入し、女性を連れ去ってしまう。一人残されたジョナサンは、遅かれ早かれ自分もヴァンパイアになってしまうと悟る。愛するルーシーへの別れの言葉を日記にしたためた彼は、それを城の外にある聖母マリア像の影に隠す。そして、ドラキュラ伯爵たちの眠る地下墓地へと降りて行った。
 まず先に女性ヴァンパイアの胸に杭を打ち込んだジョナサン。だが、その悲鳴を聞いたドラキュラ伯爵が目覚めてしまった。振り返ると棺の中には伯爵の姿がない。危険を察知して外へ出ようとしたジョナサンの前に、不気味な笑みを浮かべたドラキュラ伯爵が立ちはだかる。
 その数日後、ジョナサンの友人であるヴァン・ヘルシング教授(ピーター・カッシング)がクラウゼンバーグへやって来た。音信の途絶えたジョナサンの消息を確かめるためだ。もちろん、教授もヴァンパイアの存在を知っている。だが、ドラキュラ伯爵のことを恐れる住民たちの口は堅かった。そんな中、ジョナサンに好意を寄せていた宿屋の妻が、ドラキュラ城の傍で発見された日記を教授に手渡す。
 早速、ドラキュラ城へと向かったヴァン・ヘルシング教授。その時、黒い棺を載せた馬車が城から飛び出して去っていった。急いで中へ入った教授は、地下墓地に眠るジョナサンの姿を発見。彼は既にヴァンパイアと化しており、教授は仕方なく杭を振り下ろすのだった。
 ジョナサンのフィアンセ、ルーシー(キャロル・マーシュ)の兄アーサー(マイケル・ガフ)と、その妻ミーナ(メリッサ・ストリブリング)に、彼が死亡したことを報告するヴァン・ヘルシング教授。もちろん、ヴァンパイアの犠牲になったということは一切触れなかったが、逆にそれがアーサーの不信感を買ってしまう。
 一方、ルーシー本人はこのところ体調が優れず、ベッドに寝たきりの状態が続いていた。ところが、夜になって家族や召使が寝静まると、彼女は起き上がって部屋の窓を開け、興奮したような状態で誰かを待っていた。そこへやってきたのは、ほかでもないドラキュラ伯爵。ルーシーは既に伯爵の餌食となっていたのだ。
 ルーシーの健康状態が一向に良くならないことを心配したミーナは、夫に内緒でヴァン・ヘルシング教授に相談する。実際にルーシーの診察をした教授は、彼女の首筋に傷跡を発見した。教授は何も理由を聞かず指示に従うようにと前置きし、夜寝るときは部屋の窓を閉めること、ニンニクの花を部屋中に飾ることをミーナに約束させる。ところが、ミーナも召使たちも理由を知らされていないことから、ルーシーの望むとおりニンニクの花を片付けてしまい、部屋の窓も開けてしまった。
 その翌朝、ルーシーは死体となって発見される。ヴァン・ヘルシング教授はジョナサンの残した日記をアーサーに手渡すが、そこに記された内容をアーサーはにわかに信じることが出来なかった。
 それからしばらく経ったある日、アーサーの幼い娘が何者かにさらわれそうになったところを警官に保護される。娘によると、彼女を連れ去ろうとしたのはルーシーだという。まさかと思ったアーサーは真夜中にルーシーの眠る墓地を訪れるが、そこに彼女の遺体はなかった。
 愕然とするアーサーの目の前に、死んだはずのルーシーが姿を現す。兄の首筋に噛み付こうとするルーシー。そこへ、十字架を持ったヴァン・ヘルシング教授が駆けつけた。十字架を前にして牙をむき出すルーシー。もはやアーサーもヴァンパイアの存在を否定することは出来なかった。
 ヴァン・ヘルシング教授に頼んで、ルーシーの胸に杭を打ち込んでもらうアーサー。すると、恐ろしい形相だったルーシーの顔は、安らかな微笑に包まれていた。かくして、ドラキュラ伯爵への復讐を誓ったアーサーは、ヴァン・ヘルシング教授と共にその行方を捜す。ところがその頃、伯爵の魔の手はアーサーの妻ミーナへと忍び寄っていたのだ・・・!

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ジョナサンの消息を追うヴァン・ヘルシング教授(P・カッシング)

ヴァンパイアと化したジョナサンを発見する

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病床に伏していた婚約者ルーシー(C・マーシュ)

彼女も既にドラキュラ伯爵の餌食となっていた

 原作や31年版との違いは枚挙にいとまない。そもそも原作でのジョナサンは不動産屋に務めており、土地売買の契約書を交わすためにドラキュラ城を訪れる。彼のフィアンセはミーナで、その親友がルーシー。アーサーはルーシーのフィアンセだった。また、ジョナサンは女ヴァンパイアに血を吸われはするものの、最後まで生き残ってドラキュラ伯爵を退治する。だいたい、原作に登場する女ヴァンパイアは一人ではなく三人だ。こうした原作との違いをチェックしていくと、逆にジミー・サングスターの脚本がいかに効率よく出来ているのかが分かるだろう。
 なお、本作ではルーシーの胸に打ち込まれた杭から血が吹き出すというシーンが当時大変なセンセーションを呼び、イギリスでは残酷すぎるとしてシーン削除を命じられている。また、太陽の光を浴びたドラキュラ伯爵が灰になってしまうクライマックスも話題となり、数多くのバンパイア映画でコピーされることとなった。

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ルーシーの遺族にジョナサンの日記を手渡すヴァン・ヘルシング

ルーシーの兄アーサー(M・ガフ)と妻ミーナ(M・ストリブリング)

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アーサーはルーシーの墓を確認する

ヴァンパイアとなって蘇ったルーシー

 これが初主演作となったクリストファー・リー。これ以降、しばらくの間はドラキュラ俳優としてタイプ・キャストされてしまうわけだが、それも致し方ないくらいのはまり役だ。それまでドラキュラといえばベラ・ルゴシのように白塗りの不気味な妖怪と相場が決まっていたが、ハンサムでセクシーで危険なバンパイアという新たなイメージを確立させたリーの功績には計り知れないものがあると言えよう。
 一方のヴァン・ヘルシング教授を演じるピーター・カッシングの存在も忘れてはなるまい。そもそも、原作や31年版においてのヴァン・ヘルシング教授は単なる脇役の一人に過ぎず、ドラキュラ伯爵と直接対決するのはあくまでもジョナサン・ハーカーだった。つまり、ヴァン・ヘルシングという名前を初めて映画ファンに認知させたのは本作であり、そのキャラクター像を最初に確立したのがカッシングであったというわけだ。以降、ヴァン・ヘルシングはフランケンシュタイン男爵と並んで、カッシングにとって最大の当たり役となる。
 さらに、本作はもう一人のホラー映画スターを生み出した。アーサー役を演じた俳優マイケル・ガフだ。本作をきっかけに『黒死館の恐怖』(59)や『赤い野獣』(63)、『がい骨』(65)などのホラー映画に続々と主演。一時は半ば忘れ去られてしまったものの、ハマー・ホラー・ファンであるティム・バートン監督によって『バットマン』シリーズの執事アルフレッド役に抜擢され、再び脚光を浴びるようになったことはホラー映画ファンならご存知だろう。
 そのほか、イギリスの巨匠ベイジル・ディアデン監督の奥方だったメリッサ・ストリブリングがミーナ役を、リチャード・アッテンボロー主演の犯罪サスペンス“Brighton Rock”(47)のヒロイン役で注目されたキャロル・マーシュがルーシー役を、晩年のイングリッド・バーグマンのパートナーだったことでも知られるジョン・ヴァン・アイゼンがジョナサン役を演じている。

 

 

フランケンシュタインの復讐
The Revenge Of Frankenstein (1958)

日本では1958年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2002 Comubia Tristar (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/
90分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
フォト・ギャラリー
監督:テレンス・フィシャー
製作:アンソニー・ハインズ
脚本:ジミー・サングスター
撮影:ジャック・アッシャー
音楽:レナード・サルゼド
音楽:ピーター・カッシング
   フランシス・マシューズ
   ユーニス・ゲイソン
   マイケル・グウィン
   ジョン・ウェルシュ
   ライオネル・ジェフリーズ
   オスカー・クイタック
   マイケル・リッパー

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処刑台へと向かうフランケンシュタイン男爵(P・カッシング)

男爵はギロチンの露と消えたはずだったが・・・!?

 さて、『フランケンシュタインの逆襲』を大ヒットさせたハマー・フィルムは、当然のことながらその続編を企画する。それが、『吸血鬼ドラキュラ』とほぼ並行で撮影されたという、この『フランケンシュタインの逆襲』という作品だ。
 監督はまたまたテレンス・フィシャー。以下のスタッフも多くが同じ顔ぶれ。『吸血鬼ドラキュラ』もほぼ同じスタッフで作られていたわけだから、現場はまさにてんてこ舞いという状況だったに違いない。ホラー路線を打ち出す以前からハマー・フィルムのお抱え監督として精力的に活躍してきたフィシャーだが、この時期が最も忙しかったであろう。そして、同時に最も脂が乗っていた時期だったとも言える。
 前作のクライマックスで処刑されたはずのフランケンシュタイン男爵。本作はその処刑シーンで始まり、実は裏から手を回していた男爵が秘かに処刑を免れ、よその国で名前を変えて暮らしていることが判明する。彼は上流階級の人々を顧客にしたクリニックで実験の費用を稼ぐ一方、浮浪者や貧しい人々をボランティアで治療する無料クリニックを運営し、身寄りのない患者を故意に殺してはその人体パーツを実験に使用していた。
 やがて男爵の素性に気付いた野心家の医師ハンスが助手となり、人造人間の蘇生実験に力を貸すことになる。今度こそは完璧な姿の人間を作り上げたはずだった男爵。ところが、人造人間カールは殴られた衝撃で脳に異常をきたし、血に飢えた殺人鬼となって街を恐怖に陥れる。
 メアリー・シェリーの原作とは完全に袂を分かった本作は、前作に引き続いてフランケンシュタイン男爵の狂気と異常性に焦点を当てながらも、より一層のことストレートでパワフルなホラー映画として作り上げられている。ストーリーのテンポも非常に早く、観客を全く飽きさせることがない。
 その一方で、前作に比べると登場人物のキャラクターの掘り下げを最低限に抑えてしまっているため、いまひとつ男爵の怪物的な恐ろしさが伝わってこないという印象は免れない。その足りない部分を補っているのが、殺人鬼と化した人造人間カールの暴走というわけだ。
 それでも、事実を知った患者たちに男爵が撲殺される下りから、予想外の結末を迎える驚きのクライマックスへ至るまでの展開はなかなか秀逸。ジミー・サングスターらしい捻りを効かせた脚本が光る。

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シュタイン博士と名を変えて暮らす男爵

地元の医師会はシュタイン博士の存在を問題視していた

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シュタイン博士の正体を見抜いた医師ハンス(F・マシューズ)

ハンスは男爵の片腕となって実験を手伝うことになる

 殺人の罪で有罪判決を受け、今まさにギロチンにかけられようとしているフランケンシュタイン男爵(ピーター・カッシング)。だが、断頭台の上に立った男爵は、執行人であるせむしのカール(オスカー・クイタック)へ秘かに目配せをするのだった。
 実は、男爵は事前にカールを買収し、自分の身代りとして立会いの司祭をギロチンにかけていたのだ。ドイツのカールスブルクという町に移った男爵は、シュタイン博士と名を変えて2つのクリニックを経営する。
 ひとつは裕福な上流階級の人々を相手にする高級クリニック、そしてもう一つは貧しい人々や浮浪者を無償で治療するボランティア・クリニックだ。その目的は、再び人造人間を作ること。高級クリニックで実験に必要な資金を稼ぎ、ボランティア・クリニックでは身寄りのない人々を殺して人体パーツを調達していたのである。その腕前の良さから、彼のクリニックは大変な評判となっていった。
 その頃、男爵に裕福な顧客を奪われてしまった地元医師会の面々は、氏素性の知れないシュタイン博士の処遇について討論を交わしていた。結局、博士に医師会への加盟を義務付け、さもなくば町から出て行ってもらうことにした彼らは、直談判するためにクリニックを訪れる。
 その中の一人、ハンス・クリーヴ医師(フランシス・マシューズ)は、博士を一目見てあることに気付いた。あの悪名高いフランケンシュタイン男爵と瓜二つだったからだ。秘かにクリニックへ残ったハンスは男爵を問い詰める。だが、彼の目的は男爵を糾弾することではなかった。
 人一倍野心の強いハンスは、男爵の助手としてその知識と経験を学びたいと考えていたのである。彼を利用できると考えた男爵は、その申し出を引き受けることにした。ハンスを秘密の実験室へと招き入れた男爵。そこには、完成間近の人造人間の姿があった。
 実験室にはもう一人、男爵の助手がいた。せむしのカールである。男爵は彼に完璧な肉体を与えることを約束し、その代わりとして逃亡を手助けさせたのだ。つまり、彼の脳みそを人造人間に移植するというのである。
 移植手術は無事に成功し、人造人間カール(マイケル・グウィン)に生命が吹き込まれた。だが、しばらくは絶対の安静と看護が必要で、男爵とハンスはカールを秘かにクリニックの別室へと移送する。その様子を、スタッフの一人が目撃していた。
 ボランティア・クリニックには、マーガレット(ユーニス・ゲイソン)という裕福な家庭の美しい女性が看護婦として働いていた。スタッフから別室に患者がいるらしいと聞いた彼女は、様子を見るためにカールのもとを訪れる。カールはマーガレットの美しさに強く惹かれた。
 新たに得た自分の逞しい肉体とハンサムな容姿を鏡で眺めたカールは、もとの醜い肉体を処分しなければという衝動に駆られる。そこで、秘かにクリニックを抜け出し、男爵の実験室へと向かうカール。
 ところが、運の悪いことに飲んだくれの管理人が居合わせてしまった。カールを不法侵入者と勘違いした管理人が襲いかかる。激しく殴られたカールは脳震盪を起こして倒れるが、次の瞬間に別人のような形相となって管理人を殴り殺してしまう。
 手術を終えたばかりで容態の安定していないカールの脳みそは、殴られた衝撃で異常をきたしてしまったのだ。我を失ったカールは、そのまま夜の闇の中へと消えていく。
 一方、カールが姿を消したことに気付いた男爵とハンスは、慌ててその行方を捜していた。実験室で管理人の死体を発見した彼らは、カールの肉体に異変が起きていることを悟る。さらに、町中で男女のカップルが何者かに襲われ、女性が殺害されてしまった。男爵とハンスは、犯人がカールであることを確信する。
 その頃、カールはとある豪邸の納屋に逃げ込んでいた。奇しくも、その豪邸はマーガレットの実家だった・・・。

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男爵の実験室でハンスが見たものとは・・・!?

完成間近の人造人間の姿だった

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看護婦として働くことになった女性マーガレット(E・ゲイソン)

せむしのカール(O・クイタック)が脳みそを提供する

 先述したように、『吸血鬼ドラキュラ』と同時進行で撮影された本作。使用されたセットの多くも、『吸血鬼ドラキュラ』との共用だったという。例えば、フランケンシュタイン男爵の実験室は、ドラキュラ城の地下墓地と同じ。実験室の建物の外観は、ドラキュラ城の屋外セットにアレンジを加えたものが使用されている。
 スタッフの顔ぶれもほぼ一緒だが、音楽スコアにはこれがハマー作品初参加となるレナード・サルゼドが名を連ねている。彼は主にバレエ音楽の作曲者として知られる現代音楽家で、本作は数少ない映画音楽作品のひとつ。他のハマー作品とは一味違った、優雅で壮麗なスコアを聴かせてくれる。
 また、編集を手掛けたアルフレッド・コックスも本作が初めて。もともとハマー作品の音響編集を担当していた人物で、フィルム編集を担当すること自体、これが初めてのことだったようだ。

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いよいよ脳みその移植手術が始まった

人造人間カールを患者だと思って接するマーガレット

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殴られた衝撃でカールの脳みそが異常をきたしてしまう

カールの行方を捜す男爵とハンスだったが・・・

 前作では科学への妄信と執着から周囲が見えなくなっていくフランケンシュタイン男爵の狂気を演じたピーター・カッシングだが、本作では最初から筋金入りのマッド・サイエンティストとして登場。一見すると物静かで紳士的な立ち振る舞いの中に、冷酷非情な素顔を隠し持った人物像というのは、やはりカッシングの独壇場だ。
 一方、そんな男爵の本性を知りつつも、科学への飽くなき興味のために加担する青年医師ハンス役を演じているフランシス・マシューズも良かった。マシューズはこれが初の大役だったという2枚目俳優で、以降『凶人ドラキュラ』(65)や『白夜の陰獣』(65)などのハマー作品に出演している。
 男爵のクリニックで働くことになる上流階級の女性マーガレット役を演じているのは、『007/ドクター・ノオ』(60)と『007/ロシアより愛をこめて』(63)のボンド・ガール、シルヴィア・トレンチ役で有名なユーニス・ゲイソン。もともと、彼女はミス・マネペニー役をオファーされていたそうだ。
 そのほか、『未知空間の恐怖/光る眼』(60)などのホラー映画でお馴染みの俳優マイケル・グウィンが人造人間カール役を、『H・G・ウェルズのS.F.月世界探検』(64)の科学者役などで知られる名優ライオネル・ジェフリーズが墓堀人フリッツ役として登場する。

 

 

ミイラの幽霊
The Mummy (1959)

日本では1959年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2001 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・フランス語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/88分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:テレンス・フィシャー
製作:マイケル・カレラス
脚本:ジミー・サングスター
撮影:ジャック・アッシャー
音楽:フランツ・レイゼンステイン
出演:ピーター・カッシング
   クリストファー・リー
   イヴォンヌ・フルノー
   エディ・バーン
   ジョージ・パステル
   フェリックス・アイルマー
   レイモンド・ハントレー

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考古学者ジョン・バニング(P・カッシング)

古代エジプトの姫君アナンカの墓を発見する

 フランケンシュタイン、ドラキュラに続いて、ハマー・フィルムの復活させた古典的ホラー・キャラクターがミイラ男。こちらも過去にユニヴァーサルが幾度となく映画化してきたわけだが、本作ではようやくそのユニヴァーサルとの間における著作権上の問題がクリアとなった。つまり、過去作品との類似点や共通点があっても文句を言われなくなったのである。
 ストーリーは今回も極めてシンプル。エジプトで王家の墓を発掘したイギリス人考古学者たちが、帰国後に次々とミイラ男に襲われるというもの。で、主人公ジョンの妻がエジプトのお姫様に瓜二つだったことから、ミイラ男にさらわれてしまうというわけだ。
 基本的なプロットは、ユニヴァーサルのミイラ男シリーズ第2弾『ミイラの復活』(32)と、その続編『ミイラの墓場』(42)を合体させたもの。主人公一族のファミリー・ネームであるバニングや、ミイラ男の名前カーリス、お姫様の名前アナンカなども、これらのユニヴァーサル版から流用されている。また、ミイラ男がお姫様と瓜二つの女性をさらうという下りは、『ミイラ再生』(32)から拝借されたものだ。
 とはいえ、そこはやはりハマーの誇るホラー・マスター、テレンス・フィシャー。従来のミイラ男ものにはなかったスピーディなアクションやショック・シーンをふんだんに盛り込み、非常に切れのあるエンターテインメント作品に仕上げている。
 ただその分、過去のユニヴァーサル作品におけるようなおどろおどろしい怪奇譚的ムードはなく、意外とアッサリした印象を受ける作品ではある。要は、遊園地のホラー・アトラクションみたいなもので、スリル満点ではあってもあまり怖くはないのだ。
 クリストファー・リーのミイラ男にしても、『ミイラ再生』におけるボリス・カーロフの優美な恐ろしさには比べるべくもない。もちろん、本作におけるミイラ男のベースはカーロフではなく、それ以降のトム・タイラーやロン・チャニー・ジュニアをお手本にしているわけだから致し方ないのかもしれないが。
 しかし、その一方でクリストファー・リー版のミイラ男は、とにかく強いし足が早い(笑)居間のガラス窓を突き破って襲い掛かってくるシーンなどは迫力満点だ。対するピーター・カッシング扮する考古学者も実に身軽で、彼らのアクロバティックな対決はなかなかの見物と言えるだろう。ただし、二人は撮影現場での生傷・怪我が絶えず、クリストファー・リーに至っては肩を脱臼するわ腰を痛めるわと散々な目に遭ったそうだ。

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発掘を阻止しようとするエジプト人メヘメット(G・パステル)

父親スティーブン(F・アイルマー)が何者かに襲われる

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精神病院に入院した父スティーブンを見舞うジョン

沼の中から甦ったミイラ男カーリス(C・リー)

 1895年のエジプト。考古学者ジョン・バニング(ピーター・カッシング)は、父親スティーブン(フェリックス・アイルマー)や叔父ジョセフ・ウェンプル(レイモンド・ハントレー)と共に、古代エジプトの姫君アナンカの墓を発見する。あいにくジョンは脚を怪我して動けなかったため、父親と叔父の2人が発掘を続けていた。
 いよいよアナンカ姫の墓へ足を踏み入れようというその時、メヘメット(ジョージ・パステル)というエジプト人が一行を制止しようとする。墓を暴いた者には呪いが降りかかるというのだ。その言葉を無視して、墓の中へと入っていく父親スティーブンと叔父ジョセフ。そこには、アナンカ姫の見事な棺が眠っていた。
 ところが、ジョセフが現場を離れた隙に、棺の近くに置かれていた巻物を手にしたスティーブンは、その直後に何者かによって襲われる。命に別状はなかったが、スティーブンは何か言葉に出来ないほど恐ろしいものを見たようだった。ジョンとジョセフはその巻物を探すが、現場には残されていなかった。それもそのはず、巻物はメヘメットの手中にあったのである。
 それから3年後。ジョンは精神病院に入院している父親スティーブンを見舞う。一時は錯乱状態にあった父親だが、今はだいぶ回復していた。彼の言うには、巻物に書かれた呪文を読んでしまったがために、古代エジプトの高僧カーリス(クリストファー・リー)のミイラを甦らせてしまったという。
 カーリスは僧侶でありながらアナンカ姫に恋心を抱いてしまったことから、その罰としてミイラにされてしまい、アナンカ姫の墓を守っていたのである。そして、あの日スティーブンを襲ったのはカーリスのミイラだというのだ。父親はそのカーリスが自分たちを追ってくるに違いないと考え、恐怖に怯えていた。当然のことながら、ジョンはその話が父親の妄想だと考える。
 一方、イギリスへとやって来たメヘメットは、2人の御者を雇ってカーリスの棺を運ばせていた。ところが、誤って棺を沼に落としてしまい、気味悪がった御者たちは逃げてしまう。メヘメットはその場で巻物の呪文を読み上げた。すると、沼の中からカーリスのミイラが甦る。
 その晩、精神病院の独房に隔離されていた父親スティーブンが、窓の格子を破壊して侵入してきたカーリスによって殺害された。この不可解な事件に疑問を抱いたジョンは、父親の残した研究資料を読み漁るうちにミイラの存在に信憑性を抱く。すると、そこへカーリスが乱入し、ジョンの前の前で叔父ジョセフを殺害してしまう。
 次は自分の番だとジョンは確信していた。スコットランド・ヤードのマルルーニー警部(エディ・バーン)が捜査を担当するものの、もちろんミイラ男の話などまともに信じてはくれない。ジョンはミイラ男と対決するつもりでいたが、妻イソベル(イヴォンヌ・フルノー)は心配する。
 そこへ再びカーリスが乱入してきた。壮絶な闘いを繰り広げるジョンとカーリス。ところが、その場に居合わせたイソベルの姿を目にしたカーリスは動きを止め、静かに屋敷を出て行ってしまう。
 ジョンは妻イソベルがアナンカ姫と瓜二つであることに気付いた。一方、周辺の聞き込み捜査を続けていたマルルーニー警部は、2人の御者から奇妙な話を聞く。徐々にミイラ男の存在を信じるようになった彼は、ジョンと協力してカーリスの居場所を探すことになるのだったが・・・。

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カーリスは古代エジプトの高僧だった

しかし、アナンカ姫に道ならぬ恋心を抱いてしまう

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ミイラ男の存在に信憑性を感じ始めるジョン

カーリスを操っているのはメヘメットだった

 スタッフの顔ぶれは、『フランケンシュタインの逆襲』や『吸血鬼ドラキュラ』などとほぼ同じ。ただ、フィル・リーキーが『フランケンシュタインの復讐』を最後にハマーを去ってしまったため、その助手だったロイ・アシュトンがカーリスの特殊メイクを担当している。従来の汚れた包帯を巻いただけのミイラ男ではなく、考古学的にも生物学的にも説得力のあるリアルなデザインが秀逸だ。
 また、音楽スコアを担当したフランツ・レイゼンステインはドイツ出身の有名なクラシック・ピアニストで、幾つもの交響楽やピアノ・ソナタを書いている作曲家。映画音楽を手掛けるのは極めて珍しく、これを含めて3作品しか残していない。

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叔父ジョセフ(R・ハントレー)までもが殺されてしまう

マルルーニー警部(E・バーン)はミイラ男の存在を鼻で笑う

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ジョンの身の危険を心配する妻イソベル(Y・フルノー)

イソベルはアナンカ姫と瓜二つだった

 ヴァン・ヘルシング教授にも通じる文系ヒーロー、ジョン・バニング役を演じるピーター・カッシング。そして、数千年の眠りから甦ったミイラ男カーリス役を演じるクリストファー・リー。ともに文字通りの体当たり演技が見ものだ。殆んど素顔を見せることのないリーではあるが、そのシルエットだけで彼だと分かってしまうところがやはり偉大である。
 そして、バニングの妻イソベルとアナンカ姫の二役を演じているフランス女優イヴォンヌ・フルノーの美しいこと!エロール・フリンの剣劇映画『バラントレイ卿』(53)と『覆面の騎士』(55)のヒロイン役で知られる人だが、そのノーブルな美貌と妖艶なエロティシズムは絶品。まさに理想的なゴシック・ホラー・ヒロインなだけに、ハマー作品への出演がこれ一作だけだったというのは惜しい。
 そのほか、『スター・ウォーズ』(77)でもピーター・カッシングと共演していたエディ・バーン、同じくハマーの『陰母神カーリ』(60)ではインドの高僧役を演じていたジョージ・パステル、『ハムレット』(48)などローレンス・オリヴィエとの共演作が多い名優フェリックス・アイルマー、舞台のドラキュラ役者として有名だったレイモンド・ハントレーなどが脇を固めている。

 

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