GRINDHOUSE CLASSICS
PART 3

 

恐怖のいけにえ
The Unseen (1980)
日本では1980年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2008 Code Red/BCI (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/89分/製作:アメリカ

特典映像
俳優S・ファースト インタビュー
俳優D・バー インタビュー
特殊メイクD・リアドン インタビュー
原案T・バーマン インタビュー
製作A・B・アンガーと俳優S・ファーストによる音声解説
特殊メイク・テスト、撮影舞台裏などのフォト・ギャラリー
オリジナル劇場予告編
監督:ピーター・フォレグ
製作:アンソニー・B・アンガー
原案:ピーター・フォレグ
   スタン・ウィンストン
   トム・バーマン
脚本:マイケル・L・グレイス
撮影:ロベルト・ケサダ
音楽:マイケル・J・ルイス
出演:バーバラ・バック
   シドニー・ラシック
   レリア・ゴルドーニ
   スティーブン・ファースト
   カレン・ラム
   ダグラス・バー
   ロイス・ヤング

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恋人と仲たがいしたTVレポーター、ジェニファー(B・バック)

番組スタッフと共に取材へ向う

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宿泊先を探して古いホテルへとたどり着いた一行

親切そうなオーナー、ケラー氏(S・ラシック)

 ホラー映画の名作・傑作が数多く生まれた80年代初頭。そのブームの勢いに乗って日本でも劇場公開されたものの、意外と地味な内容のせいもあって評判の方はいまひとつだった猟奇ホラー。近親相姦で生まれた知恵遅れの子供が若い女性を次々となぶり殺しにするという、よく考えれば誠に不埒でインモラルな作品だ。
 主人公は女性ばかりのTVクルー。田舎町のお祭りを取材に行った彼女たちだったが、モーテルはどこも満杯。親切そうな夫婦の自宅へ泊めてもらうことになったものの、その自宅の地下室には怪物のごとき息子が隠されていた・・・というわけだ。
 本人は無邪気に遊んでいるつもりなのだが、その怪力ゆえに相手の女性を殺してしまうというのがミソ。なので、本作における真の悪人というのは、自分の妹を慰み者にした上に子供を生ませ、挙句の果てに知恵遅れの息子を地下室に閉じ込めて平然とした顔で暮らす父親ケラー氏ということになる。
 このケラー氏という人物、一見すると愛想が良くて親切そうな中年男なのだが、その笑顔はどことなく不気味で異常。子供のようにはしゃいでみせたかと思えば突然キレたりと、相当に情緒不安定なオジサンだ。洗濯ばさみを鼻や唇にはさんでおどけてみせる姿など、微笑ましいというよりは気持ちが悪くて怖い。演じるシドニー・ラシックのクレイジーな演技と相まって、かなり強烈なインパクトを残すキャラクターだ。
 インパクトといえば、その息子役を演じるスティーブン・ファーストの絶妙な知恵遅れ演技とクレイグ・リアードンによる特殊メイクの出来栄えも秀逸。ファーストは実際に知恵遅れの男性と接して、その仕草や行動のパターンを研究したそうだが、ビックリするくらいに説得力のある演技を披露している。
 ただ、そうした役者の素晴らしい演技や見事な特殊メイクに助けられてはいるものの、ホラー映画としては正直なところ及第点。とにかく前置きが長すぎるため、ヒロインが知恵遅れの息子と対峙するクライマックスまでの道のりが退屈極まりない。
 ストーリーとしては『サイコ』と『悪魔のいけにえ』を意識したであろうことは明白なのだが、それにしてはあまりにも緊張感がなさ過ぎる。ヒロインと恋人の別れる別れないというスッタモンダも含めて、本筋とは関係のない余計なサイドストーリーに時間を割き過ぎなのだ。
 監督のピーター・フォーレグとは、『新・13日の金曜日』(85)を手掛けたダニー・スタインマン監督の匿名。それ以前にソフトポルノ映画を1本撮った経験のあるスタインマンだが、実は相当なお金持ちのボンボンで、趣味のテニス以外は何もした事がない、もちろん定職に就いたことだってないという典型的なすねかじりのわがまま息子だったらしい。
 なので、撮影に関わったスタッフや俳優で彼のことを良く言う人物はゼロ。“他人との接し方を全く知らない男だった”とは原案に携わったトム・バーマンの言葉だが、どうやら関係者からの人望は全くなかったようだ。
 そればかりか、スタッフの多くが二転三転する彼の理不尽な要求に翻弄され、頭に来て辞めてしまった人も少なくなかったらしい。そうした裏方サイドの結束力不足が、出来上がった作品にそのまま反映されてしまったのだろう。
 ということで、本作は名優たちの達者な演技とクレイグ・リアードンの特殊メイクを主に楽しみたい作品。また、特殊メイクやSFXの大御所スタン・ウィンストンとトム・バーマンに加えて『悪魔のいけにえ』のキム・ヘンケルが脚本に関わったという点でも、ホラー映画ファンには興味深い作品と言えるだろう。

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ジェニファーたちはケラー氏の自宅へ泊めてもらうことに

不安そうな顔で出迎える妻ヴァージニア(L・ゴルドーニ)

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町でパレードを取材するジェニファー

恋人トニー(D・バー)がジェニファーを追って町に来ていた

 恋人トニー(ダグラス・バー)と仲たがいした人気TVレポーターのジェニファー(バーバラ・バック)。黙って高級マンションを後にした彼女は、同じテレビ局で働くカメラマンの妹カレン(カレン・ラム)、アシスタントのヴィッキー(ロイス・ヤング)と合流する。
 彼女たちが向ったのは、サンフランシスコ近郊にあるオランダ系移民の町ソルヴァング。現地の伝統的な祭りを取材するのだ。ひとまず宿泊先を探す彼女たちだったが、観光客でごった返す町ではどこのモーテルも満杯。町外れまでやって来た彼女たちは、一軒の古びたホテルを発見する。
 だが、そこは既にホテルとしての営業をしておらず、今は元オーナーのケラー氏(シドニー・ラシック)が一人で切り盛りする博物館となっていた。落胆の表情を浮かべるジェニファー。ケラー氏は親切に近隣の宿泊施設へ電話で問い合わせをしてくれたが、やはりどこも予約で埋まっている。残念そうに肩を落とすジェニファーを見たケラー氏は、もし自分の自宅でよければ・・・と申し出てくれた。だが、夫からの連絡を受けた妻は、電話の向うで激しく反対をしているようだ。
 車の中で野宿せずに済む!と大喜びでケラー氏の自宅へと向ったジェニファーたち。そこは郊外の人里離れた大邸宅だった。ケラー氏の父親は大変な大金持ちだったらしい。だが、彼らを迎え入れた妻ヴァージニア(レリア・ゴルドーニ)は明らかに不安げな表情を浮かべており、ジェニファーたちは少々戸惑う。
 長旅で体調を崩したヴィッキーを残して、ジェニファーとカレンは取材のために町へと出かけた。ケラー氏はヴィッキーの入浴を覗き見していたが、妻に後を任せて博物館へと戻る。掃除や洗濯を済ませたヴァージニアは、食事の準備を始める。
 一方、二階のベッドで横になっていたヴィッキー。人影に気付いて目を覚ました彼女は悲鳴をあげる。何者かが床下の通気口へ彼女を引きずり込もうとした。必至に抵抗するヴィッキーだったが、倒れた通気口のフタで頭を強く打って即死。惨劇に気付かないヴァージニアは、なぜか食事を持って地下室へと下りていく。
 その頃、町ではジェニファーとカレンが賑やかな祭りのパレードを取材していた。その人ごみの中に、二人はトニーの姿を発見する。二人の関係を改善するために話し合いを求めるトニー。だが、彼のドメスティック・バイオレンスに悩まされていたジェニファーは、もはや話し合いの余地などないと憤慨する。それでもカレンの熱心な説得もあって、ジェニファーとトニーは二人だけで話し合うことにした。カレンはヴィッキーの様子を見るため戻ることにする。
 博物館の事務所で一人酒に溺れるケラー氏。彼は亡き父親の幻覚に悩まされていた。実は、ケラー氏とヴァージニアは血を分けた兄妹。彼は若い頃に気弱な妹を無理やり犯し、妊娠させてしまったのだ。そのことを知った父親は激怒し、彼のペニスを切断しようとした。そして、抵抗した彼は父親をナイフで刺殺してしまったのだ。その死体は今も事務所にミイラ化した状態で残されており、父親殺しの事実は封印されたままになっていたのである。
 ヴィッキーの様子を見に戻ってきたカレン。だが、家の中は静まり返っている。ヴィッキーの死体を発見したヴァージニアは呆然としていた。そうとは知らずにキッチンへやって来たカレンは、テーブルの果物を床に落としてしまった。それを拾っていたところ、カレンの首に巻かれたマフラーが床の通気口に入ってしまう。すると、何者かがそれを引っ張った。驚いたカレンはマフラーを引き戻そうとするが、相手は猛烈な力で引っ張り返す。床に顔を強く打ち付けた彼女は、その衝撃で息絶えてしまった。
 茫然自失の状態でロッキングチェアに腰掛けるヴァージニア。帰宅したケラー氏は、彼女の取り乱した様子で事情を察知した。家族を守るためには、この家に来た宿泊客の痕跡を全て消さねばならない。つまり、残りの一人ジェニファーも始末しなくてはならないのだ。
 二人だけの時間を過ごし、トニーとやり直すことを考え始めたジェニファー。フットボール選手のトニーは怪我で脚を痛めてしまい、そのことが原因で彼女に当たっていたのだ。しかも、彼女は彼の子供を妊娠している。仕事を優先したい彼女にとって、トニーの望むような結婚は考えられないが、結論を急ぐ必要もなかった。
 深夜になって、ジェニファーはトニーの車でケラー氏の自宅へと戻る。だが、カレンやヴィッキーの姿が見えない。ケラー氏は地下室で通気ダクトの修理をしていた。手伝いを頼まれたジェニファーだったが、そのまま地下室に閉じ込められてしまった。
 出口を探して広い地下室をさまようジェニファー。そこで、彼女はカレンとヴィッキーの無残な死体を発見する。恐怖のあまりパニックに陥った彼女に襲いかかる巨体の怪物(スティーブン・ファースト)。それはケラー氏とヴァージニアの間に出来た息子ジュニアだった・・・。

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床下へと引きずり込まれるヴィッキー(L・ヤング)

何者かにマフラーを引っ張られるカレン(K・ラム)

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亡き父親の幻覚に悩まされるケラー氏

その父親をケラー氏は殺害して保管していた

 もともとこの作品は、ダニー・スタインマン自身が書いた脚本を父親に出資してもらって撮る予定だった。そして、この企画が巡り巡ってスタン・ウィンストンのもとへと転がり込んでくる。映画製作に関して素人も同然のスタインマン親子は、知人のつてを頼ってウィンストンに協力を求めたようだ。
 そこで、ウィンストンは友人トム・バーマンの協力を仰いだ。当時特殊メイクの世界で頭角を現しつつあった二人は、これを映画製作へ進出するいい機会だと考えたという。ただ、スタインマンの書いた脚本はあまりにも出来が酷かった。
 当初のストーリーは、オリで育てられた殺人鬼が脱走して人を殺しまくるというもの。ただ、なぜ彼がオリで育てられたのか、どのようにして脱走したのかなどのディテールがムチャクチャで、とても使えるような内容ではなかったらしい。
 これはプロの脚本家に手助けしてもらった方がいいと考えたバーマンは、知人のキム・ヘンケルとナンシー・リフキンにリライトを依頼。ところが、プライドを傷つけられたスタインマンがゴネたために、ヘンケルとリフキンの二人は頭に来てプロジェクトを降りてしまった。
 仕方なく、バーマンとウィンストンが改めて脚本を書き直し、キャスティングからロケハンまで二人が全てのお膳立てを任された。ところが、撮影準備が始まって5ヶ月目にして製作費不足が発覚。スタインマンの要求を呑んでいるうちに予算が膨れ上がってしまったらしい。もう手に負えませんとサジを投げたバーマンとウィンストンは、結局この時点でプロジェクトを去ることとなった。
 その後、『ネレトバの戦い』(69)や『赤い影』(73)を手掛けたプロデューサー、アンソニー・B・アンガーが加わり、とりあえず製作費の問題は解決。テレビの昼メロ・ドラマを書いていた脚本家マイケル・L・グレイスが最終稿を仕上げ、アンガー製作の戦争大作『ナバロンの嵐』(78)に出演していた人気女優バーバラ・バックを主演に迎えることまで決まった。
 ただ、撮影が始まってからも問題は山積だったようだ。これはヒッチコックの『サイコ』を超える傑作になると一人で意気込むスタインマン監督だったが、現場のスタッフやキャストはコロコロと変わる彼の指示や横柄な態度に辟易。ベテラン・プロデューサーのアンガーも、なにかにつけて駄々をこねる彼に困ったという。
 中でも一番苦労させられたのが、特殊メイクを担当したクレイグ・リアードンだ。実は、製作準備の段階でスタン・ウィンストンとトム・バーマンが怪物の特殊メイク・デザインを完成させていた。スタインマン監督はそれを元に特殊メイクを仕上げるようリアードンへ指示していたのだが、スタインマンに不満を持つウィンストンとバーマンの二人が著作権を主張してきたため、彼はその板ばさみになってしまったのである。
 そんなこんなで何とか無事に撮影を終えた本作。実は本国アメリカよりも1年早く日本で劇場公開されている。その辺の裏事情はよく分らないものの、一応興行的には大成功したようだ。ただ、それにも関わらずスタインマン監督はその後『暴行都市』(84)と『新・13日の金曜日』の2本しか監督作を残していないのだから、やはり業界内での評判は芳しくなかったのだろう。そのバチが当たったのかどうか定かではないが、後に彼はバイク事故で半身不随となってしまった。
 なお、撮影監督のロベルト・ケサダは『ファンタズム』シリーズで照明係を担当していた人物。美術デザインのデーナ・ロスは、後に『スポーン』(97)や『REC:レック/ザ・クアランティン』(08)を手掛けている。
 また、本作は猟奇ホラー映画に似つかわしくないくらい美しい音楽スコアも印象的。まるで、デ・パルマの『殺しのドレス』(80)や『ミッドナイト・クロス』(81)におけるピノ・ドナッジョを彷彿とさせるような、切なくも哀しいメロディがなんとも秀逸だ。作曲を手掛けたのは、アンソニー・B・アンガーの製作した『シャイヨの伯爵夫人』(69)や『ジュリアス・シーザー』(70)などで知られるマイケル・J・ルイス。本編よりスコアの方が上出来というのも、ちょっとした皮肉ではある。

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帰宅したジェニファーを地下室へ誘い込むケラー氏

地下室へ閉じ込められてしまったジェニファー

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死体を発見してパニックに陥ったジェニファーの前に現れたのは・・・

それは近親相姦で生まれた知恵遅れの怪物(S・ファースト)だった

 主人公ジェニファー役を演じるのは、『007私を愛したスパイ』(77)のボンドガールでブレイクしたスター女優バーバラ・バック。イタリア産B級ホラーにも数多く出演しているので、この手のジャンルに馴染みのある女優さんであることは確かなのだが、当時はメジャー映画への出演が相次いでいた全盛期。なぜこんな無名監督の低予算なインディペンデント作品に!?と疑問だったが、なるほどプロデューサー絡みのキャスティングだったわけだ。それに、当時は私生活でドラッグの問題も抱えていたわけだし、小さい作品であればリスクも低いと考えたのではないだろうか。なお、この後に入所したリハビリ施設でリンゴ・スターと知り合い、『おかしなおかしな石器人』(81)で共演した上に結婚した・・・ということだったらしい。
 そのジェニファーの妹役を演じたカレン・ラムも、ロック・ファンなら一度くらいは名前を耳にした事のある女性であろう。彼女はビーチ・ボーイズのドラマー、デニス・ウィルソンと結婚・離婚を繰り返したほか、シカゴのキーボード奏者ロバート・ラムとも結婚歴のある人。ロック・ミュージシャンのグルーピーみたいな女性だったらしい。彼女もまたトラブルメーカーだったそうで、本作の撮影中にはロック・コンサートへ行くため2度ほど現場を勝手にすっぽかしたという。しかも、当時から私生活はドラッグまみれで、顔を白い粉だらけにして撮影現場へ来たこともあったそうだ。製作のアンソニー・B・アンガーは、幾度となく彼女を訴えようと考えたとのこと。そうした自堕落な生活が祟ったのか、01年に49歳の若さで心臓発作のため死去している。
 さらに、アシスタントのヴィッキー役を演じた女優ロイス・ヤングも現場を困らせた。本作が映画初出演だった彼女は、演技の勉強すらしたことのないずぶの素人だったという。予め入浴シーンでヌードになることは了解の上で契約したにも関わらず、いざ撮影に入ると嫌だと言って駄々をこねたのだそうだ。
 ジェニファーの恋人トニー役を演じているのは、日本でもヒットしたテレビ・ドラマ『フォール・ガイ』で人気者となった俳優ダグラス・バー。彼もまた当時は新人だったが、その後はテレビの世界で成功。現在は監督兼脚本家として数多くのテレビ映画やドラマを手掛けるほか、ワイナリーのオーナーも務めている。
 さてさて、次にアンホリーな一家を演じる名優たちについても触れておこう。まず一家の主ケラー氏を演じているのは、名作『カッコーの巣の上で』(75)の精神病患者役で知られる性格俳優シドニー・ラシック。そのオーバー・アクト寸前ギリギリのクレイジーなサイコ演技は見事としか言いようがない。
 その妻であり妹でもある情緒不安定な女性ヴァージニア役には、これまた演技達者なレリア・ゴルドーニ。彼女はジョン・カサヴェテス監督の名作『アメリカの影』(59)のヒロイン、レリア役で脚光を浴びた名女優で、この手のインディペンデント・ホラーへの出演は極めて珍しい。
 そして、近親相姦で生まれた知恵遅れの怪物ジュニア役を演じているのは、『アニマルハウス』(78)のデブでのろまなケント役が有名な巨漢俳優スティーブン・ファースト。その特殊メイクも強烈だが、なによりもリアルすぎるくらいにリアルな知恵遅れ演技が圧巻である。

 

 

新マニアック
The Last Horror Film (1982)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本発売済
※日本盤DVDとアメリカ盤DVDは別仕様

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(P)2009 Troma Entertainment (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:
ALL/87分/製作:アメリカ

特典映像
J・スピネルの親友ルーク・ウォルターのインタビュー
W・ラスティグ監督のインタビュー
L・カウフマン監督によるイントロ
L・ウォルターによる音声解説
短編映画“Maniac 2”
オリジナル劇場予告編
TVスポット集
監督:デヴィッド・ウィンタース
製作:デヴィッド・ウィンタース
   ジャド・ハミルトン
脚本:デヴィッド・ウィンタース
   ジャド・ハミルトン
   トム・クラッセン
撮影:トム・デンヴォー
音楽:ジェシー・フレデリク
   ジェフ・コッツ
出演:キャロライン・マンロー
   ジョー・スピネル
   ジャド・ハミルトン
   デヴィン・ゴールデンバーグ
   デヴィッド・ウィンタース
   スザンヌ・ベントン
   マリー・スピネル
   グレン・ジャコブソン

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ホラー映画を見て興奮する中年男ヴィニー(J・スピネル)

ヴィニーはカンヌ映画祭へとやって来た

憧れのホラー・クィーン、ジャナ・ベイツ(C・マンロー)

 名作『ロッキー』(75)シリーズの高利貸トニー・ガッゾ役で知られる悪役俳優ジョー・スピネル。自ら製作総指揮と脚本も手掛けた怪作スプラッター『マニアック』(80)でもホラー・ファンにはお馴染みだが、これはそのヒットにあやかるべく作られたサイコ・ホラーである。
 主人公は、映画監督を夢見るホラー・マニアでマザコンの根暗なタクシー運転手ヴィニー。大好きなホラー女優ジャナ・ベイツを主演に映画を撮りたい、彼女の魅力を最大限に生かせるのはこの俺だけだ、そしてオスカーを獲っていつも俺のことをバカにしている奴らを見返してやるんだ!と妄想を膨らませた彼は、憧れのジャナに出演交渉をするべくカンヌ映画祭へと乗り込んでいく。
 だが、もちろん彼女と話をすることはおろか、そばへ近づくことすら出来ない。鬱積するフラストレーションと焦りの中で、どんどん現実と妄想の区別がつかなくなっていくヴィニー。ところが、その頃ジャナの身の回りでは、夫やプロデューサーなどの関係者が次々と殺されていた。いずれも、ヴィニーにとっては邪魔になる人物ばかりだ。果たして、連続猟奇殺人事件の犯人はヴィニーなのか?それとも・・・?
 ということで、この見るからにヤバい脂ギッシュな変態サイコ野郎ヴィニーを演じるジョー・スピネルの強烈な怪演と、カンヌ映画祭の主演女優賞候補になるほどの世界的な大女優であるホラー・クィーン、ジャナ・ベイツを演じるキャロライン・マンローのお色気が全てといっても過言ではない作品。
 一言で片付けるならば、全くの学生映画レベル。照明が明るすぎたり暗すぎたり、カメラの動きが不安定だったり、編集がぶつ切りだったり、役者のセリフがちゃんと拾えてなかったりと、とてもプロの仕事とは思えないような出来栄えだ

 監督のデヴィッド・ウィンタースは子役俳優出身で、主に映画のダンス・シーンの振り付けや、テレビの音楽番組やバラエティ番組の演出を手がけていた人物。撮影当時における業界でのキャリアも結構長いはずなのだが、本作を見る限りそうした経験は全く生かされていないように見受けられる。
 そもそも、この映画、どうやらニュース・フィルム用のカメラで撮影されたらしい。しかも、舞台となるカンヌでは正式な撮影許可を取っておらず、完全なゲリラ撮影だったのだそうだ。なので、照明やマイクなどの機材も満足に用意されていなかったのだろう。
 しかも、当時カンヌで撮影クルーを訪ねた『マニアック』のウィリアム・ラスティグ監督によると、ウィンタース監督はプロデューサーと喧嘩の真っ最中で、主演のスピネルとその親友でアシスタントのルーク・ウォルターズの二人が勝手にカメラを持ち出して撮影をしているような状態だったらしい。“現場を仕切る大人が不在だった”とはラスティグ監督の言葉だが、要はてんでバラバラの現場だったというわけだ。
 また、主人公ヴィニーの妄想を随所に入れ込んだ演出も陳腐だし、肝心のショック・シーンだってスリルもサスペンスもまるでゼロ。とりあえず、えげつないスプラッターでも見せておけばそれでオッケーでしょ!?という製作サイドの志の低さを感じずにはいられない。
 そうかと思えば、ヴィニーの粘着質なマニアぶりを強調する変態シーンは妙に力が入っている。スプラッター映画を見ながら映画館の暗がりで鼻息荒くオナニーしたり、スライド映写機で壁一面に映し出されたジャナのスチルに体をこすりつけながら自分の胸や股間を揉んだり。
 当時はジョン・レノンの銃撃事件やジョディ・フォスターのストーカー事件がたて続き、熱狂的なファンやマニアの異常性というものが社会問題として注目された時期。とはいえ、ホラー・マニアはみんなコイツみたいに変態です、と言わんばかりの内容にはちょっとした悪意すら感じる。
 まあ、もちろん製作者側にそんな意図はさらさらなかったであろうことは分る。あくまでもセンセーショナリズムを追及したエクスプロイテーション映画。便乗できるものは便乗する。『マニアック』をパクって時事ネタを絡めたところ、結果こんな内容になりました・・・といった程度のことだろう。
 てなわけで、お世辞にも出来が良いとは言えないものの、マニアの興味を引く要素はいろいろと盛り込まれた作品。一般的なホラー映画ファンにはおススメできないが、この種のアングラなZ級ホラーに免疫のあるファンなら一度は見ておいても損はないと思う。

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妄想と現実の区別がつかなくなっていくヴィニー

ジャナの夫ブレット(G・ジャコブソン)が殺された

悲鳴をあげるジャナの姿を何者かが撮影している

 スプラッター映画を上映する映画館で、美女が殺されるシーンに興奮してオナニーをする薄汚い中年男ヴィニー(ジョー・スピネル)。ニューヨークのタクシー運転手としてうだつのあがらない毎日を送る彼だが、いつかはホラー映画監督になって成功してみせるという夢を持っている。だが、仕事そっちのけで映画雑誌ばかり読んでいる彼は、近隣の住人からバカにされるような存在。しかも、すぐ癇癪を起こしてわめき散らすもんだから、より一層のことからかわれる始末だ。
 そんな彼はホラー映画の女王ジャナ・ベイツ(キャロライン・マンロー)の大ファン。いつかジャナ主演でホラー映画の傑作を撮るんだ、彼女の才能を生かせる映画監督は自分しかいない、と本気で信じている。同居する母親(マリー・スピネル)は息子が早く夢から醒めてくれるよう願っているが、ヴィニーにとってはこの夢・・・いや妄想だけが生きがい、すなわち人生の全てだった。
 なんとしてでもジャナに会って話がしたい、そうすれば自分がどれだけ素晴らしい映画監督なのか分ってもらえるはずだ。そう考えたヴィニーは貯金を全てはたいて、フランスで開催されるカンヌ映画祭へ行くことにする。
 世界最大の映画のお祭りで盛り上がる避暑地カンヌ。安ホテルに宿を借りたヴィニーは、自家用ジェットで到着したジャナと映画監督アラン(ジャド・ハミルトン)を執拗に追いかける。しかし、彼らに近づくのは至難の技だった。
 翌日、彼女の泊まるカールトン・ホテルへ電話するヴィニーだったが、出たのは夫でプロデューサーのブレット(グレン・ジャコブソン)。素晴らしい企画があるからジャナに替わってくれ!と懇願したものの、当然のことながら電話を切られてしまう。怒りで興奮したヴィニーは、絶対に後悔させてやると息巻くのだった。
 一方、別の部屋で監督アランと過ごしていたジャナ。夫のブレットとは利害の一致した形式だけの関係で、彼女が本当に愛しているのはアランだ。そこへ差出人不明の花束が届き、そこに添えられていた意味不明のメッセージに困惑する。
 夜になって、ジャナはブレットの部屋へ様子を見に行く。すると、彼はバスルームで殺害されていた。死体のそばには、彼女のもとへ届いたのと同じメッセージが。悲鳴をあげて逃げ出すジャナだったが、部屋の一角からその様子を撮影している人影があることに気付いていなかった。
 通報を受けて警察が駆けつけたものの、死体などどこにも見当たらない。警察は単なるパブリシティー・スタントだと考え、アランはブレットの悪質なジョークだと考えた。だが、ジャナには納得がいかない。
 その翌朝、ヴィニーはニューヨークの母親へ国際電話をかけるため、専用の電話ボックスに並んだ。彼はジャナの主演作を監督することが決まったと母親にウソの報告をするが、実際のところ内心でも半ばそのつもりになってしまっている。すると、ジャナの次回作を企画しているディストリビューター、マーティ(デヴィン・ゴールドバーグ)の電話を偶然耳にした。マーティは夫ブレッドに秘密でジャナと監督アランの引き抜きを計画している。そんな彼に駆け寄ったヴィニーは自らを売り込もうとするが、やはりにべもなく断られてしまった。
 ビーチでくつろぐマーティのもとへ、ブレットの署名が入った手紙が届く。とある場所へ身を隠しているのだという。指定された場所へ出かけたマーティだったが、カメラを持った何者かによってオノで惨殺された。
 ジャナに会うことの出来ない不満から、どんどん妄想を肥大させていくヴィニー。気晴らしに入ったナイトクラブではジャナと勘違いしてストリッパーに襲いかかり、ボディーガードにつまみ出されてしまう。それならばとホラー映画の試写会へ行ったところ、その過激すぎる残酷描写に気分が悪くなってしまった。
 その映画を監督したのはスタンリー・クライン(デヴィッド・ウィンタース)。マーティと組んでジャナとアランの引抜きを画策する人物だ。吐き気を催して外へ出たヴィニーは、偶然通りかかったスタンリーに悪態をつく。あんな映画を見せたお前なんか大嫌いだ!と。
 マーティの惨殺体が発見され、謎の殺人鬼が徘徊していると報じられる。たちまちカンヌは騒然となった。多くの関係者が予定を切り上げてカンヌを去っていく。スタンリーと愛人スーザン(スザンヌ・ベントン)も帰国を早めるが、それ前にデートを楽しむことにする。だが、その最中に彼らもまた殺されてしまった。
 記者会見場からもシャットアウトされ、この俺様を誰だと思ってるんだ!と怒りを爆発させるヴィニー。これはもう強硬手段しかないとばかりに、彼はバスルームの窓からホテルの部屋へ侵入し、入浴中のジャナと話をしようとする。隙を見て逃げ出すジャナ。その後を追いかけるヴィニー。バスタオル一枚でロビーから外へと逃げるジャナだったが、人々は映画の宣伝だと思って拍手喝采するばかり。それを見たヴィニーは、自分が喝采を受けているものと勘違いして舞い上がる。
 ようやく警察やアランもジャナが狙われていることに気付いた。プレミア上映会ではジャナのソックリさんが用意され、本人は舞台の袖で見守ることになった。ところが、警備員のふりをして忍び込んだヴィニーは影武者作戦を見抜き、まんまとジャナを誘拐することに成功してしまう・・・。

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大勢のファンを前にして笑顔をふりまくジャナ

ことごとく立ち入りを断られて発狂するヴィニー

壁に映し出されたジャナの写真に興奮する

 いやあ〜、カンヌ映画祭でホラー映画の主演女優が演技賞候補にあがることなんぞ到底なかろうに・・・と思わず苦笑い。それに、いくらホラー映画の女王といえども、若い女の子たちがプラカードを手にしてキャーキャー叫びながら群がるなんて、とてもじゃないが無理あり過ぎる。まるでこの作品そのものが、デヴィッド・ウィンタース監督ら関係者の誇大妄想を形にしてしまったかのようだ。
 もともとこの映画は、『マニアック』の成功に気を良くしたプロデューサーのジャド・ハミルトンが、同じようなホラー映画でもう一発当てようぜ!とばかりに考えた企画だったという。で、このハミルトンという人物、当時キャロライン・マンローのダンナだった男だ。
 彼はもともと無名の役者だったのだが、キャロラインと結婚したおかげで彼女が出演する『SFスタークラッシュ』(78)などに脇役で顔を出すようになった。その妻キャロラインが出演した『マニアック』では、初めて製作総指揮として映画作りに投資。これが予想外に儲かったもんだから、調子に乗ってプロデュースと脚本にも乗り出すことにしたというわけだ。
 先述したように本作はカンヌ映画祭にてゲリラ撮影されたわけだが、これとてキャロラインの知名度を利用した便乗商売。夫婦連れ立ってプレミア試写に出席するキャロライン・マンローをマスコミに紛れて撮影し、それがそのままカンヌへやって来たジャナ・ベイツと監督アランの姿となるのだ。さらにカメラはあちこちの記者会見や舞台挨拶にも潜入し、イザベル・アジャーニやマルチェロ・マストロヤンニ、イザベル・ユペールなど有名人の姿を勝手に撮影している。
 一方、200万ドルと言う製作費はこの手のB級映画としてはまずまずの金額。なにしろ、前作の『マニアック』はたったの35万ドルで作られているのだから。しかし、どうやらその大半が高級ホテルの宿泊費などに消えてしまったらしく、現場の撮影にかかる費用はカツカツだったという。そうした事情もあってか、本作は出演者の殆んどが主要スタッフとその身内で固められているのだ。
 例えば、ハミルトン自身が映画監督アラン役を演じているほか、ウィンタース監督が惨殺されるホラー映画監督スタンリー役、その妻ジレーンも冒頭の映画でジャグジーに浸かって感電死する全裸美女役として登場。また、ヴィニーの母親を演じているのも、ジョー・スピネルの実の母親だ。しかも、冒頭に出てくるヴィニーの自宅シーンは、実際にスピネル母子が住んでいたアパートで撮影されたのだという。
 ちなみに、ハミルトンとウィンタース監督の折り合いもかなり悪かったそうで、当時カンヌを訪れたウィリアム・ラスティグ監督は代わりに撮ってくれとハミルトンから頼まれたらしい。ただ、こんな素人集団とは関わりたくないと思ったラスティグは、その場でキッパリと断ったのだそうだ。いや、賢明ですな(笑)。
 なお、シチェス国際映画祭では最優秀撮影賞を獲得し、サターン賞でも2部門にノミネートされた本作。出来の悪いワリにジャンル系映画賞では比較的高評価だったようだが、ジャド・ハミルトンが本格的な映画製作に手を出したのは後にも先にもこれ一本だけだということを考えると、やはり大して儲からなかったのだろうか。な〜んて言ったら意地悪でしょうかね?(^^;

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次々と残酷な方法で殺されていく関係者たち

バスルームの窓から忍び込んだヴィニー

バスタオル一枚でカンヌの街を逃げまどうジャナ

 さてさて、その変態丸出しの熱狂的ファンに追いかけられるホラー映画の女王ジャナ・ベイツを演じているキャロライン・マンローは、実際に本人もハマー・フィルムの『ドラキュラ'72』(72)や『キャプテン・クロノス』(72)などのホラー映画、SF映画で根強い人気を誇るカルト女優。『007/私を愛したスパイ』(77)の2番手ボンドガールに選ばれたのがキャリアの頂点で、その後は徐々に落ち目となっていった。その短い全盛期の最後に撮影されたのが本作だったと言っても良かろう。
 一方、ヴィニー役のジョー・スピネルは、冒頭でも紹介したように『ロッキー』シリーズのトニー・ガッゾ役で知られる脇役俳優。その強烈なマスクのおかげもあって、『ゴッドファーザー』(72)シリーズや『タクシー・ドライバー』(76)、『クルージング』(80)など、地元ニューヨークで撮影される映画の脇役として大変重宝された役者だった。キャロラインと共演した『マニアック』では製作総指揮・脚本・主演の3役を兼ね、一躍ホラー・アイコンとして注目される。その勢いに乗って、この『新・マニアック』(82)や殺人狂の墓掘り人を演じた“Undertaker”(88)といった低予算ホラーに主演。しかし、残念ながらいずれも『マニアック』の成功を超えることは出来ず、1986年に52歳の若さでこの世を去っている。
 そのほかの出演者は、先述したように大半が本作のスタッフとその家族や知人。映画ディストリビューターのマーティを演じているデヴィン・ゴールドバーグは本作の助監督を務めている元俳優、ナイトクラブのボディガード役にはスピネルの親友ルーク・ウォルターズとハミルトンの実弟ジョン・ハミルトン、ジャナのソックリさん役にはハミルトンと前妻の間の娘タミー・ハミルトンなどなど。また、クライマックスの舞台となる城はハミルトンとキャロラインの友人ショーン・ケイシーが所有しており、そのケイシー自身が城の主ジョナサン役を演じている。
 ちなみに、親友のウォルターズによると、素顔のジョー・スピネルはかなりタチの悪いイタズラをする趣味があったらしい。本作では城の中にロウソクを並べてホラー映画の場面を再現するシーンがあるのだが、その最中になんと彼は路上で客引きしている売春婦をロケ現場へと呼び寄せた。スピネルの居場所を訪ねる売春婦。何も知らされていなかったウォルターズは、予期せぬ来訪者に首を傾げながらも、ロウソクの並べられているおどろおどろしいセットへと彼女を案内。すると、全裸の上にマントを羽織ったスピネルが立っていて、そのマントをはだけながら“俺のモノをしゃぶれ〜”と不気味な声で言い放ったのだそうだ。ビックリした売春婦は、その場で悲鳴をあげて逃げ去ったという。

 

 

インディアン・ゾンビ/死霊の詰合わせ
The Dark Power (1985)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2004 VCI Entertainment (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/81分/製作:アメリカ

特典映像
P・スムート監督のナレーションと舞台裏スチルで構成されたビデオ・ドキュメンタリー
P・スムート監督と編集S・ジョーンズによる音声解説
監督:フィル・スムート
製作:フィル・スムート
   ジョージ・B・ウォーカー
脚本:フィル・スムート
撮影:ポール・ヒューヘン
音楽:クリストファー・ディーン
   マット・ケンドリック
出演:ラッシュ・ラ・ルー
   アンナ・レーン・テイタム
   シンシア・ベイリー
   メアリー・ダルトン
   ポール・ホルマン
   シンシア・ファーブマン
   マーク・マトニー
   スージー・マーティン
   ディーン・ジョーンズ
   スティーヴ・テンプルトン

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インディアンの長老が謎の言葉を残して死去した

長老の友人だったベテラン・レンジャー、ジェラード(L・ラ・ルー)

 ティーン・スラッシャー映画やゾンビ映画が大流行した80年代のアメリカ。中でも、サム・ライミ監督の処女作『死霊のはらわた』(83)は、自主制作でホラー映画監督を目指す多くの若者に多大なる影響を与えた。本作も、そうしたポスト『死霊のはらわた』ブームの中から生まれた作品と言っていいだろう。
 邦題は『インディアン・ゾンビ』となっているが、正確に言うとメキシコのトルテカ文明の魔術師たちがゾンビとなって蘇る。主人公は、人里離れた一軒家を借りることになった仲良し女子大生たち。だが、その周辺は呪われた場所だった。1000年以上も前にこの地へ流れ着いたトルテカの魔術師たちが埋められいるのだ。
 地元の歴史を調べていたテレビの女性レポーターは、魔術師たちが人間を生贄にすべく甦る期間があることを知る。以前はインディアンの長老が祈祷によって魔術師たちの復活を防いでいたのだが、その長老は先ごろ他界してしまった。
 女子大生たちに危険が迫っていると悟った女性レポーター。だが、時すでに遅く魔術師たちはゾンビとして復活し、若者たちを次々と血祭りにあげていく。そんな彼らを助けるべく立ち上がったのは、黒い革のムチを自由自在に操る一人の老レンジャーだった!
 てなわけで、ゾンビ映画にティーン・スラッシャーや古き良き連続活劇の要素を盛り込み、コミカルな味付けを施したごった煮的な作品。冒頭から『死霊のはらわた』を丸々パクッたようなスティディカムを披露しているが、残念ながらフィル・スムート監督の才能はサム・ライミの足元にも及ばなかった。
 なにしろ、肝心のスティディカムからしてスピード感も迫力もゼロ。その後の展開もダラダラとまどろっこしく、面白くもない学生たちのドタバタ劇や女性リポーターの地味な勉強ぶりを延々と見せられるのだからたまらない。
 しかも、ゾンビたちが甦る中盤以降は多少なりともテンポ・アップするかと思いきや、相変わらず間の悪いコミカル路線を繰り広げるスムート監督。恐らく『死霊のはらわた』の笑える要素を意識したと思われるのだが、あの映画が“怖すぎる”からこそ“笑える”のだという事に彼は全く気付いていなかったのかもしれない。
 唯一の見どころが、年老いたベテラン・レンジャー、ジェラードが得意の鞭でゾンビと戦うクライマックス。鞭といえば怪傑ゾロをはじめとする連続活劇や西部劇でお馴染みの武器だが、ゾンビ退治に使われるというのは非常に珍しい光景だ。
 そのジェラード役を演じるのは、1940年代に活躍した低予算西部劇のヒーロー、ラッシュ・ラ・ルー。本作は彼の約30年ぶりとなる本格的カムバック作品だったらしく、公開当時は全米のマスコミでも大きく記事として取り上げられたようだ。
 もちろん、武器の黒い鞭は彼のトレードマーク。そんな伝説的なベテラン・スターがこんな安っぽいZ級ホラーに・・・なんて哀れに思うかもしれないが、全盛期のラッシュ・ラ・ルー作品だって実は負けず劣らずの酷さだった。
 なんといっても、彼が契約していた映画会社PRCは、“ハリウッドの最下層スタジオ”とまで呼ばれた貧乏会社。セットを組む予算がないもんだから、大半が荒野でのロケ撮影で済む西部劇を大量量産し、地方の田舎町の映画館へ配給していたのである。なので、ある意味では戻るべき場所へ戻ったという感じなのだろう。
 見るからにチープなお面を被っただけのゾンビを相手に、老体に鞭打って往年の勇姿を見せる3流西部劇俳優ラッシュ・ラ・ルー。そのある種の男気(?)に感動するというのが、本作の正しい楽しみ方なのかもしれない。
 ちなみに“死霊の詰合わせ”というのは、恐らく『死霊の盆踊り』のヒットにあやかろうと日本のビデオ会社が勝手に付けたサブタイトル。ストーリーとは全く関係がないので悪しからず。

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女子大生ベス(A・L・テイタム)は下宿先を探していた

親友タミー(C・ベイリー)らと家を借りることにしたベス

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幼馴染みのリン(C・ファーブマン)は大の黒人嫌いだった

軽薄で意地の悪いリンの兄クレイグ(M・マートニー)

 白人がやって来る遥か以前、アステカ文明よりも前にトルテカ文明が存在した。その魔術師たちの多くが、パワースポットで自ら生き埋めになったという。そして、彼らはその魔力を維持するため、人間の生血を吸うのだと言われている・・・。
 舞台はアメリカ南西部の小さな田舎町。インディアンの長老“四羽の鷲”(ロバート・ブッシーヘッド)が、“トルテカ”という謎の言葉を残して息を引き取った。その臨終を取材していたテレビの女性レポーター、メアリー(メアリー・ダルトン)は、その言葉の意味を探ることにする。
 長老の孫デヴィッド(トニー・ショー)は新世代のインディアンで、伝統的な祈祷術など一切信じていない現代的なビジネスマンだった。彼は祖父が自宅の前に置いていた魔除けを取り払い、新築したばかりの家を貸し出すことにする。だが、長老と長年の友人だったベテラン・レンジャー、ジェラード(ラッシュ・ラ・ルー)は、先祖代々継承されてきた伝統は守るべきだと釘をさす。そこには必ず意味があるからだ。
 その家を借りることになったのは、女子大生ベス(アンナ・レーン・テイタム)。彼女は親友のタミー(シンシア・ベイリー)やスーザン(スージー・マーティン)、幼馴染みのリン(シンシア・ファーブマン)を誘って広い屋敷をシェアすることにした。だが、人種差別意識の強いリンは、黒人のタミーが同居することに不快感を示す。
 そこで、彼女は同じように人種差別主義の兄クレイグ(マーク・マートニー)を呼び寄せた。ベスは意地が悪くて軽薄なクレイグのことが大嫌いだったが、平然とした顔で居座られてしまったので仕方がない。案の定トラブル・メーカーぶりを発揮するクレイグ。しかし、活発なスーザンがやり込めてくれた。
 一方、レポーターのメアリーはジェラードに協力を仰いで、長老が残した言葉の謎を調べていた。ジェラードによると、1000年以上も前にメキシコの古代文明トルテカの魔術師4人がこの土地へ流れ着き、強大な魔力を得るために自らを生き埋めにしたのだという。それが、あの家の前にある庭だった。
 以来、代々に渡ってインディアンの長老たちが魔除けを行い、トルテカの魔術師たちの呪いを封印してきたと言い伝えられている。もちろん、亡くなった“四羽の鷲”もその一人。ジェラード自身も生前に彼から魔除けの紐を貰い、愛用する黒い鞭に結び付けていた。悪霊を退治するパワーが備わると言うのだ。
 さらに郷土史を研究する学生の協力を得たメアリーは、生き埋めとなったトルテカの魔術師たちがこの世に甦る“呪われた期間”があることを知る。彼らは永遠の命を維持するため、人間の生血をすするというのだ。しかも、その期間が始まるのは今夜だった。悪い予感を覚えたメアリーは、ジェラードに連絡を入れる。
 その頃、屋敷ではクレイグが悪友アラン(ディーン・ジョーンズ)とダラス(スティーヴ・テンプルトン)を呼んで酒盛りを始めていた。試験勉強に忙しいベスたちにとっては大迷惑だ。そんな時、トイレの修理にやって来た配管工アール(ポール・ホルマン)が、庭先でゾンビに襲われる。遂に魔術師たちが甦ったのだ。
 玄関をノックする音を聞いたクレイグたち。いぶかしげにドアを開けてみると、そこにはゾンビが立っていた。誰かのイタズラだと思った彼らだが、目の前でダラスが殺されてしまう。慌てて逃げまどうクレイグとアラン。裏手の森へと走ったクレイグは、ゾンビの放った矢で射抜かれた。
 一方、タミーの部屋へ逃げ込んだアランだったが、勉強の邪魔だといって追い出されてしまう。そこで、彼はリンの車で逃げようと、彼女から鍵を奪って外へ出る。怒ったリンがアランの後を追うが、そこでゾンビたちと遭遇してしまった。
 あまりにもうるさいリンの悲鳴に耳を塞ぐゾンビたち。そのスキに湖の方へ逃げるアランとリンだったが、アランは捕まって顔面の皮を剥がされ、リンも矢で射抜かれて殺される。
 さらに、リンの悲鳴を聞いて外へ出たスーザンまでもがゾンビの餌食となってしまった。ようやく事態に気付いたベスとタミーだったが、部屋へ殴りこんできたゾンビたちに追いつめられてしまった。
 そこへビュンビュンとうなる鞭の音が。レンジャーのジェラードが助けにやって来たのだ。黒い鞭を駆使してゾンビたちに立ち向かうジェラード。果たして、彼は無事にゾンビを退治してベスとタミーを救うことが出来るのか・・・!?

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TVレポーターのメアリー(M・ダルトン)は郷土史を調べる

クレイグは悪友アラン(D・ジョーンズ)らを呼んで酒盛りを始めた

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玄関口に現れたゾンビを見て呆気にとられるのだが・・・

次々と若者たちを血祭りにあげるゾンビたち

 トルテカ文明というのは、1000年ほど前までメキシコに存在したとされる古代文明。だが、それを裏付ける決定的な証拠はいまだ発見されておらず、文明としてどのような特徴があったのかも分っていないので、いかようにも料理できるという意味で都合のいい題材と言えるだろう。
 とはいえ、長いこと地中へ埋められていたくせに衣装も靴もピカピカの新品だったりするのはいかがなもんか・・・(笑)。他にも、インディアンの長老がやけに成金趣味の豪邸に住んでいたり、鞭に結び付けられた魔除けの紐の効果が曖昧だったり、生血を吸うはずのゾンビたちが殺した後の人間には目もくれなかったりと、ディテールの描写はかなり適当。“四羽の鷲”が息を引き取るオープニングは『市民ケーン』を意識したのだそうだが、ん〜・・・と思わず苦笑い。
 監督のフィル・スムートは、70年代半ばから数多くのインディペンデント映画でカメラ助手を務めてきた人物。なので、とりあえず映像の見た目だけは悪くないのだが、ストーリーテリングに関しては素人丸出し。これと“Alien Outlaw”(85)の2本だけしか監督作を残していないというのも納得ではある。
 で、このスムート監督はノース・カロライナ州在住で、基本的には地元の大学で撮影技術を教えながら映画の仕事に携わっていた。本作が撮影されたのもノース・カロライナで、地元の有力者たちが共同出資して製作費を提供。恐らく、村おこし的な意味合いもあったのであろう。
 なので、主演のラッシュ・ラ・ルーと配管工アール役を演じているポール・ホルマン以外の出演者は、全て地元住民や現地のアマチュア俳優で固められている。もちろん、スタッフも殆んどが地元の人。妙にノンビリとした雰囲気はそのせいもあるのかもしれないが、この緊張感のなさはホラー映画として致命的な欠点だ。
 なお、スタッフの大半は本作が初めての劇場用映画だったのだそうだが、これをきっかけにハリウッドへ活躍の場を移した人も少なくない。撮影監督のポール・ヒューヘンは『スクリーム』(96)シリーズや『マルホランド・ドライブ』のカメラ助手を経て、最近では『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(06)や『ハンコック』(08)などの第2班撮影監督として活躍中。予算のせいでチープな特殊メイクしか披露出来なかったディーン・ジョーンズは、この翌年に『ブルー・ベルベット』(86)に起用され、テレビの『新スター・トレック』(87〜94)や『スター・トレック/ディープ・スペース・ナイン』(93〜98)を経て、最近では『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(05)や『デイ・オブ・ザ・デッド』(08)などの特殊メイクを担当している。

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弓矢で射抜かれて殺されるクレイグ

アランは顔面の皮をはがされてしまった

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追いつめられたベスとタミーだったが・・・

そこへ鞭を手にしたヒーロー、ジェラードが現れる!

 冒頭でも紹介したとおり、主演のラッシュ・ラ・ルーは1940年代に低予算西部劇のヒーローとして活躍したスター俳優。もともとは不動産のセールスマンで、ハンフリー・ボガートに顔が似ているという理由だけでスカウトされて俳優になった人だった。全身黒づくめの衣装に黒いカウボーイハットを被り、黒い革の鞭を武器に戦うというのが彼のトレードマークで、当時は田舎の子供たちに大人気だったそうだ。
 ただ、50年代に入ると人気も急落し、テレビ・ドラマに主演するも当たらず。また、彼が在籍した映画会社PRCの作品は海外配給されることなど殆んどなかったため、日本で劇場公開なりテレビ放送なりされた主演作は一本もない。
 その他のキャストについてもさらっと触れておこう。ヒロインのベス役を演じているテイタム・オニール似のアンナ・レーン・テイタムは当時大学生で、地元のオーディションに合格して起用された素人。その親友タミー役のシンシア・ベイリーは地元のアマチュア女優で、その後プロに転向してテレビドラマにも出演。本作の若手出演者の中では一番演技が上手く、コメディエンヌとしての才能はなかなかのものだ。
 デブの配管工アールを演じているポール・ホルマンはプロの俳優で、スムート監督がカメラ助手を務めた“Chain Gang”(84)という映画に出ていたことから本作に誘われた。TVレポーター、メアリー役のメアリー・ダルトンは実際に地元ローカル局のTVレポーターだった女性で、本作ではロケハンのコンサルタントも担当している。また、特殊メイクのディーン・ジョーンズがクレイグの悪友アラン役を、同じく特殊メイクを手掛けたトニー・エルウッドが郷土史を研究する学生役を、製作総指揮として本作に出資した地元の弁護士ジョン・G・ウルフ三世がそのまんまの弁護士役を、その息子ケアリーが冒頭で犬に追いかけられる少年役を、舞台となる豪邸を撮影に提供したオーナーのデヴィッド・ヒルが警察官役を、その妻バーバラが漁師の妻役を演じており、地域住民や関係者の家族が総出で協力しているようだ。

 

 

悪魔の封印/彼女の眼が光る時、悪魔の血は蘇える
Mausoleum (1983)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2008 Bryanston Distribution (USA)
画質★★★☆☆ 音質★☆☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/97分/製作:アメリカ
※『ブラッド・ソング』とのカップリング収録

特典
女優B・ブリジーによる音声解説
監督:マイケル・ダガン
製作:ロバート・バーリック
   ロバート・マデーロ
脚本:ロバート・バーリック
   ロバート・マデーロ
撮影:ロバート・バーリック
特殊メイク:ジョン・カール・ビュークラー
音楽:ハイメ・メンドーザ=ナヴァ
出演:マージョ・ゴートリー
   ボビー・ブリジー
   ノーマン・バートン
   モーリス・シャーバニー
   ラワンダ・ペイジ
   ローラ・ヒップ
   シェリー・マン
   ジュリー・クリスティー・マレイ

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夫オリバー(M・ゴートナー)と夜を楽しむスーザン(B・ブリージー)

酔っ払いの男に絡まれて不快な思いをする

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スーザンの瞳が怪しく緑色に光る

原因不明の発火で爆死する酔っ払い

 80年代のジャンル系映画は、リック・ベイカーやクリス・ウェイラス、スタン・ウィンストンらの活躍によって特殊メイクやSFXに注目が集まった時代でもあった。本作は伝統的なオカルト映画の王道ともいえる“悪魔憑き”を題材にしつつ、いかにも80年代といった感じの派手で大仰な特殊メイクとスプラッターで見せていく作品。悪魔に憑依された美しい人妻が、その色香で男どもを次々と血祭りにあげていくというアダルト版『エクソシスト』である。
 主人公はセクシーでゴージャスな人妻スーザン。実は、彼女の家系には“長女が悪魔の血を受け継ぐ”という呪われた言い伝えがあった。幼い頃に最愛の母親を失い、先祖代々の封印された霊廟を偶然開いてしまったスーザン。今では結婚して30歳を迎えた彼女だったが、やがてその身に恐ろしい変化が起きていく・・・。
 原題は“霊廟”という意味で、スーザンが封印を解いてしまった霊廟のことを指す。そこに眠っていた悪魔が、スーザンに乗り移って血生臭い殺人を重ねる。で、その事実を知った精神科のドクターが、言い伝え通りに悪魔祓いを行ってスーザンを救う。基本的にストーリーはたったそれだけだ。
 役者の顔ぶれやカメラワークを含めて、全体的に貧相な印象は否めないものの、殺人シーンのそれぞれに様々な趣向が凝らされているのはとても良い。胸を裂かれてあばら骨や内臓が飛び出したり、顔面がグチョグチョになって目玉がこぼれ落ちたり。人間が宙に浮いて落とされる場面なんかも良く出来ている。
 一方、悪魔に取り浸かれたスーザンが醜いモンスターへ変身するシーンなんかも、クリーチャーデザインが少々大袈裟過ぎるとはいえ、これはこれで遊園地のホラー・アトラクションのようで楽しい。怖いというよりは笑えるといったところだろうか。完全にトランスフォームを終えた悪魔の、おっぱいまでがモンスターの顔になっているのはかなりウケる。しかも、口までカクカク動くんだから、なかなかサービス精神旺盛。ちなみに、このおっぱいモンスター、撮影現場では“Munchie-Tits(食いしん坊おっぱい)”と呼ばれていたそうだ(笑)。
 これら特殊メイクとクリーチャー・デザインを担当したのはジョン・カール・ビュークラー。『グーリーズ』(85)や『テラービジョン』(86)などなど、80年代に一世を風靡したB級映画スタジオ、エンパイア・ピクチャーズの作品で有名なSFXマンである。
 ビュークラーの手掛ける特殊メイクの特色は、リアリズムと対極にあるデフォルメされたクリーチャー・デザイン。どことなくユーモアを感じさせるのが魅力といえば魅力だが、その反面チープで粗雑な印象の仕事も少なくないので、彼の特殊メイクやSFXはホラー映画ファンの間でも賛否両論あることだろう。
 監督のマイケル・ダガンは本来コメディ畑の人らしいのだが、監督作は本作を含めてたったの3本だけ。しかも、特殊メイクやSFXを使ったシーンは、ビュークラーが演出も兼ねたのだそうだ。それ以外に見せ場は全くないというのに(笑)。
 総じて平凡なインディペンデント系低予算ホラー。ストーリーはビックリするくらいに単純で底が浅いものの、特殊メイクやSFXの出来はそれほど悪くないので、暇つぶしで見るには十分楽しめる映画ではないかと思う。

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庭師のベン(M・シャーバニー)はスーザンに下心があった

わざと胸元をはだけてベンを誘惑するスーザン

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スーザンの肉体にむしゃぶりつくベンだったが・・・

八つ裂きにされるベン

 ロサンゼルスの墓地。母親の葬儀に参列した少女スーザン(ジュリー・クリスティ・マレイ)は、コーラ叔母さん(ローラ・ヒップ)のもとへ引き取られることとなる。だが、母親の死を受け入れることが出来ない彼女は、混乱して一人墓地を彷徨った。すると、ゴシック様式の古い霊廟が目に入る。
 霊廟にスーザンが近づくと、なぜかその周辺だけ激しく雨が降り始めた。中へ入ったスーザンは、緑色の不気味な光を放つ棺に引き寄せられていく。そこへ浮浪者が迷い込んできた。その瞬間スーザンの眼が緑色に光り、浮浪者は頭部が破裂して死亡する。
 それから月日がたち、スーザンは30歳を迎えた。コーラ叔母さんは最近のスーザンの様子がおかしいことを心配している。まるで、彼女の母親が亡くなる直前と同じようだ・・・と。
 実は、スーザンやコーラ叔母さんはノメド家という古い家系の血を引いている。このノメド家には、長女として生まれた女性が悪魔の血を受け継ぐという言い伝えが残されていた。ノメド家(Nomed・・・逆にするとDemon)は呪われた一族だったのだ。母親の死因は不明とされているが、コーラ叔母さんは姉が悪魔に取り憑かれたためその夫に殺されたものと疑っている。
 ある晩、スーザンは夫オリバー(マージョ・ゴートナー)とナイトクラブへ出かけた。すると、彼女に目をつけた酔っ払い(ジーン・エドワーズ)に絡まれる。酔っ払いは帰ろうとした夫婦の後までついて来た。すると、憤慨したスーザンの瞳が緑色に光り、酔っ払いは車に乗ったまま爆死した。
 さらに、日頃からスーザンに色目を使っている庭師ベン(モーリス・シャーバニー)が、夫の留守をいいことにセクハラを仕掛けてくる。再び緑色に光るスーザンの瞳。彼女はわざとベンの前で裸体を見せつけ、彼を誘惑してみせる。その気になってガレージでスーザンの肉体にむしゃぶりつくベン。すると、みるみるうちにスーザンの容貌が変化し、ベンは八つ裂きにされてしまった。
 その翌日、コーラ叔母さんがスーザンのもとを訪ねる。すると、そこには悪魔のような姿へ変貌したスーザンが。コーラ叔母さんは宙吊りにされた上、破裂した胸から内臓を飛び散らせて絶命する。
 真夜中に目を覚ましたオリバーは、暗がりでロッキングチェアに座るスーザンを発見し、その薄気味悪さに不安を覚える。翌朝、彼はメイドのエルシー(ラワンダ・ペイジ)に妻の世話を頼んで仕事へ向うが、緑色の光りを放つスーザンの部屋を目撃したエルシーは驚いて逃げ去ってしまった。
 オリバーの強い勧めで、スーザンは精神科医アンドリュース(ノーマン・バートン)の診察を受けることとなった。アンドリュース医師は彼女が幼い頃からのかかりつけで、家族も同然の存在だ。彼は催眠療法を試みたところ、その最中にスーザンの容態が急変。緑色に光る瞳、同一人物とは思えない不気味な声。驚いたアンドリュース医師が催眠を中断すると、スーザンはもとの姿へ戻った。もちろん、治療中の記憶は一切ない。
 科学的な説明のつかない現象に当惑したアンドリュース医師は、精神医学の権威ローガン博士(シェリー・マン)に助けを請うた。あらゆる手がかりを探した二人は、スーザンの祖父が残した日記にたどり着く。
 そこにはノメド家の言い伝えばかりでなく、悪魔の棲み家である霊廟を祖父が封印したこと、悪魔の弱点が“イバラの冠”であることなどが記載されていた。ローガン博士は、これが本物の“悪魔憑き”であるとの結論に達し、スーザンを救えるのは彼女と信頼関係にあるアンドリュース医師だけだと断言する。
 その頃、スーザンはさらに邪悪な存在となりつつあった。花屋のデリバリー・ボーイを誘惑して家の中へ入れた彼女は、若者の顔面を破壊。さらに、ショッピング・モールで絵画を万引きし、追いかけてきた画廊オーナーを3階から落として殺害した。
 一方、悪魔祓いを決心したアンドリュース医師は、“イバラの冠”を手に入れるべく霊廟へと向う。テレパシーでそのことを察知したスーザンは、オリバーの目の前でモンスターに変身し、彼の胸ぐらを引き裂いて殺してしまう。
 “イバラの冠”を手にスーザンの自宅へ到着したアンドリュース医師。家の中は真っ暗だった。オリバーの死体を見つけた彼は、そのままスーザンの部屋へ。いよいよ、命がけの悪魔祓いが始まる・・・。

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世にも恐ろしい姿に変貌したスーザン

コーラ叔母さん(L・ヒップ)も殺されてしまう

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スーザンはアンドリュース医師(N・バートン)のセラピーを受ける

催眠療法でスーザンの中に潜む悪魔が・・・

 実際にロサンゼルス周辺の各所でロケ撮影された本作。脚本と製作を手掛けたロバート・バーリックとロバート・マデーロにとって、これが初めてのプロデュース作品だったわけだが、どうやら資金繰りを巡る金銭トラブルが絶えなかったようだ。スタッフのギャラが支払えないということで3日間撮影が中断したほか、その後もポスプロ会社とゴタゴタが続いたという。そのため、撮影自体は1981年秋に行われたものの、劇場公開までに1年半近くがかかってしまった。
 しかも、劇場公開からほどなくしてポスプロ会社から費用未払いで訴えられてしまい、上映そのものが数ヶ月で中止。そればかりか、主要キャストと主要スタッフ以外のギャラも一切支払われなかったという。結局、バーリックとマデーロが製作した作品はこれ一本だけ。二人が立ち上げた製作会社ウェスタン・インターナショナル・ピクチャーズも、これ一本だけで倒産してしまった。
 なので、アメリカではDVD発売に際して著作権を手に入れたメーカーがオリジナル・ネガの所在を確認したところ、どうやら紛失してしまったらしいということが判明。現在は古い上映用プリントしか残されていないのだそうだ。
 そのほか、スタッフの中で注目しておきたいのが、美術デザインを手掛けたロバート・A・バーンズ。そう、『悪魔のいけにえ』(74)や『サランドラ』(77)を手掛けたことで有名な人物だ。また、AIPで『ダンウィッチの怪』(70)や『吸血鬼ブラキュラ』(72)を手掛けたロジャー・ジョージが特殊効果を担当している。
 ちなみに、本作は主演のボビー・ブリージーのダンナさんがラジオ・ディレクターだったことから、ラジオ・ドラマとして放送されたこともあるそうだ。

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衝動的に絵画を盗んだスーザン

画廊のオーナーは3階から転落して死亡する

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ついに完全なる変貌を遂げたスーザン

口をカクカクと動かす“食いしん坊おっぱい”

 ヒロインのスーザンを演じているボビー・ブリージーは、音楽教師からプレイボーイクラブのバニーガールへと転職し、さらに女優へ鞍替えしたというキャリアの持ち主。ただ、当時はまだテレビ・ドラマの端役を幾つか経験しただけで、演技の勉強すらしたことがない全くの素人だったそうだ。
 それでも、大胆なヌード・シーンに挑戦したり、悪魔に取り憑かれてもの凄い形相になったりと、かなり体当たりの大熱演を披露している。中でも、一瞬別人によるアフレコかと思うくらいの“悪魔の声”はなかなかの迫力。実はこれ、本作の撮影直前に出演したドラマ『チャーリーズ・エンジェル』で共演したマーセデス・マッケンブリッジに指導を受けたのだという。
 マッケンブリッジと言えば、『エクソシスト』で悪魔に憑依されたリンダ・ブレアの声を吹替えたオスカー女優。ボビーが映画初出演にしてヒロイン役を演じるということでナーバスになっていたところ、それを知ったマッケンブリッジが悪魔を演じるコツを親切に教えてくれたのだそうだ。
 そのおかげもあってサターン賞の主演女優賞にノミネートされたボビーは、これをきっかけにスクリーム・クィーンとして『グーリーズ』(85)や“Surf Nazis Must Die”(88)などの低予算ホラーに出演。しかし当時すでに40歳近かったこともあってすぐに引退し、現在はダンナさんと貿易会社を経営しながら趣味のヨーロッパ旅行を楽しむ悠々自適の生活を送っているという。
 一方、夫のオリバー役を演じているマージョ・ゴートナーは70年代に『大地震』(74)や『ビバ・ニーベル』(77)などに出演して脚光を浴びたものの、あっという間にB級映画専門に落ち着いてしまった俳優。アンドリュース医師役のノーマン・バートンも、007シリーズの名物キャラであるCIAスパイ、フェリックス・ライターを演じた『007/ダイヤモンドは永遠に』(71)や『タワーリング・インフェルノ』(74)などで活躍したものの、当時は低予算映画ばかりに出ていたベテラン俳優だ。
 また、メイドのエルシー役を演じている黒人女優ラワンダ・ペイジは、70年代アメリカの国民的ドラマ“Sanford and Son”で全米に親しまれた有名なコメディエンヌ。コーラ叔母さん役のローラ・ヒップは70年代にB級セクシー・コメディのヒロインを演じたことがある女優で、本作の撮影から5年後に36歳の若さで亡くなっている。

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モンスター化したスーザンは夫オリバーをも殺害

決死の覚悟で悪魔祓いを行うアンドリュース医師

 

 

ブラッド・ソング
Blood Song (1982)

日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2008 Bryanston Distributors (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:
ALL/89分/製作:アメリカ
※『悪魔の封印』とのカップリング収録

特典映像
なし
監督:アラン・J・レヴィ
製作:フランク・アヴィアンカ
   レニー・モンタナ
原案:ジョセフ・M・シンク
   ジョージ・ハート
脚本:ジェームズ・ファーゴ
   フランク・アヴィアンカ
   レニー・モンタナ
撮影:スティーブン・L・ポージー
音楽:ロバート・J・ウォルシュ
出演:フランキー・アヴァロン
   ドナ・ウィルクス
   リチャード・ジャッケル
   デイン・クラーク
   レニー・モンタナ
   アントワネット・バウアー
   ウィリアム・カービー・カレン
   ジェニファー・エンスカット

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小さな田舎町に暮らす女子高生マリオン(D・ウィルクス)

異常に厳格な父フランク(R・ジャッケル)

彼女はリアルな人殺しの夢に悩まされていた

 映画にレコードにと大活躍した60年代のスーパー・アイドル、フランキー・アヴァロンが連続殺人鬼役を!という話題性のみでしか語ることの出来ない凡庸なスラッシャー映画。しかも、製作・脚本・出演の3役をこなすのが『ゴッドファーザー』(72)のレニー・モンタナ。他にもキャリアのあるベテランが数多く関わっている。当時は『ハロウィン』(78)や『13日の金曜日』(80)のヒットで猫も杓子もスラッシャー映画だったわけだが、本作などはさしずめ仕事に困ったオジサンたちがブームに便乗しようとして失敗したC級ホラーといったところだろうか。
 アヴァロンが演じるのは、幼い頃に妻とその愛人を殺害した父親が自殺する現場を目撃して頭がおかしくなってしまった男ポール・フォーリー。彼は精神病院を脱走して行きずりの人々と片っ端から殺していく。
 一方、田舎町で暮らす平凡な女子高生マリオンは、交通事故で脚を骨折してからというものの、奇妙な悪夢に悩まされていた。なんと、彼女は夢の中でポールの凶行を透視していたのだ。偶然にもマリオンの住む町へ立ち寄ったポール。彼が被害者を埋める様子を目撃してしまったマリオン。ポールはマリオンが自分の犯行に気付いたことを知り、彼女を殺害すべく執拗に後を追いかけ回す・・・。
 ということで、基本は『ハロウィン』の露骨なパクリ。そこへ『サイコ』(60)や『アイズ』(78)のネタを付け加えただけという、見事なくらいにオリジナリティを感じさせない内容が、まあ、潔いといえば潔いのかもしれない。音楽スコアまでまるっきり『ハロウィン』。そうかと思えば、ブロードウェイ・スターのレイニー・カザンが歌うバーブラ・ストライサイド風のバラードを仰々しく挿入したりして、やけに70年代チックな古臭さが漂うのも苦しい。というか、寒い(笑)。
 しかも、確かに連続殺人鬼役を大熱演するフランキー・アヴァロンの努力は立派なものだと思うが、やはりフランキー・アヴァロンはフランキー・アヴァロンでしかないというのが致命的。日本でいうならば、それこそ加山雄三や西郷輝彦がイメチェンをはかって連続殺人鬼を演じるようなもの。いくら本人が頑張ってみても、長年に渡って形成されてきたイメージを一朝一夕で変えることは難しい。しかも年をとったとはいえ、どこからどう見たってアイドル顔のアヴァロンではね・・・。
 そのほか、話が長すぎ、テンポが悪すぎ、都合が良すぎ・・・と、低予算ホラーの悪いお手本みたいな仕上がり。辛うじてスプラッター・シーンだけはまずまずの出来栄えなのだが、いかんせん出てくる数が少なすぎる。いろいろな意味で残念。

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犯人は精神病院を脱走した男ポール(F・アヴァロン)

ポールはヒッチハイクの若い娘を拾った

得意のフルートをバカにされて娘を殺害

 1955年のオレゴン州はポートランド。一人の男性が真夜中に自宅へ帰り、ベッドの中で寝ている妻とその愛人を発見する。激怒した彼は二人を射殺し、自らも拳銃で脳天を撃ち抜いて自殺。その現場をたまたま目撃した幼い息子は、ショックのあまり愛用のフルートを吹き出した。←これホント(笑)
 時代は移って1982年精神病院で隔離されていたポール・フォーリー(フランキー・アヴァロン)が、看護師を殺害した上で脱走する。彼はヒッチハイカーのふりをして車に乗り込み、サンフランシスコを目指した。だが、趣味のフルートがうるさいと文句を言われると、怒りを露わにしてドライバーを殺害する。大好きな父親が教えてくれたフルートをバカにするヤツは絶対に許せないのだ。
 その一部始終を遠く離れた小さな田舎町スタンフォード・ベイで目撃していた少女がいる。女子高生のマリオン(ドナ・ウィルクス)だ。彼女が父親の運転ミスが原因で片足を骨折してしまい、それ以来フルートを吹く異常者の夢ばかり見るようになった。それがあまりにもリアルで、不安感を拭い去ることが出来ないマリオンだったが、どうせ誰にも信じてもらえないと周囲には話していない。
 そればかりか、彼女は異常なまでに厳しい父親フランク(リチャード・ジャッケル)にも悩まされていた。フランクは娘の行動を常日頃から監視し、あら捜しをしては非行の前触れではないかとガミガミ小言を言う。
 特に異性との関係にはうるさく、あらぬ想像を膨らませては口汚く罵るのだった。だが、それは自分のせいで脚を怪我した娘に対する罪悪感の裏返しで、心の底では彼女のことを心配している。とはいえ、母親(アントワネット・バウアー)はそんな二人の険悪な関係を心配していた。
 そんなマリオンには、ジョーイ(ウィリアム・カービー・カレン)という年上の恋人がいる。ジョーイは漁船の船長(レニー・モンタナ)のもとで見習いとして働く真面目な若者で、彼と一緒に過ごすわずかな時間だけがマリオンにとって唯一の慰めだった。
 しかし、その一方で例の異常者の夢はどんどん強くなっていき、学校の授業中に突然白昼夢として見てしまうことさえあった。さらには、帰り道にフルートの音が聞こえたり、男の乗った車の幻覚を見たりするようになってしまう。
 殺したドライバーから黒い車を奪ったポールは、ジュディス(ジェニファー・エンスカット)という若いヒッチハイカーの娘を拾った。すぐに意気投合した二人はモーテルでベッドイン。だが、またもやフルートをダサいとバカにされ、ポールはジュディスを殺害するのだった。
 検査の結果、マリオンの脚が完治しつつあることが分った。しばらくは杖が必要だが、すぐ普通に歩けるようになるという。久しぶりに友達と遊びに出かけたマリオン。だが、そのすぐ傍をポールの乗った黒い車が通り過ぎるのを彼女は気付かなかった。
 再び父親と大喧嘩し、近くの海辺を行く当てもなく歩いていたマリオン。すると、茂みの奥で夢に出てきたのと全く同じ黒い車を発見する。ふとその向うを見ると、ポールが穴を掘ってゴミ袋を埋めている。その中に女性の死体が入っていることに気付いたマリオンは、追いかけてくるポールを全速力で振り切って逃げた。
 その翌日、マリオンはハイスクールの駐車場にポールの車を発見して戦慄する。彼はガソリンスタンドでハイスクールの場所を聞いたのだ。この町で唯一の学校なので、探すのは簡単だった。不安を抑えきれない彼女はジョーイに相談。だが、何かの勘違いだろうと信じてもらえない。ならばとゴミ袋が埋められている場所へ彼を連れて行くが、中から出てきたのはガラクタだった。
 一方、町のゴミ収集所で女性のバラバラ死体が発見される。両親から捜索願が出ていた女性ジュディスだった。傷害事件ですら滅多にないこの町で殺人とは・・・とベテランのギボンス保安官(デイン・クラーク)も困惑する。すぐに精神病院を脱走した異常者の情報が入ってきた。保安官はその行方を捜すことにする。
 迫り来る身の危険を感じるマリオン。だが、そんな娘の気持ちも知らず、父フランクは相変わらず厳しい口調で娘を叱る。その晩、娘が夜遊びに行かないよう居間で酒を飲みながら見張っていたフランク。そこへポールが侵入し、二人は大立ち回りを演じる。
 異常に気付いて二階から降りてきたマリオン。フランクは命がけで娘を外へ逃がし、その直後に殺されてしまった。外へ飛び出したマリオンは町外れの材木工場へ逃げ込むが、車に乗ったポールに追いつかれてしまった。その頃、帰宅した母親の通報でフランクの死体を発見したギボンス保安官は、マリオンの行方を捜すよう一斉に指示を出すのだったが・・・。

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夢に出てきたものと同じ車を発見するマリオン

殺人鬼ポールに顔を見られてしまった

恋人ジョーイ(W・K・カレン)に相談するも信じてもらえない

 惨劇を目の当たりにした子供がショックでフルートを吹き始めるって・・・と冒頭から思わず苦笑いの強引なストーリー。殺人鬼に独特のトレードマークを与えたかったのは分るのだが、もうちょっと他にマシなアイディアはなかったもんなのか(笑)。マリオンになぜ透視能力が備わったのか、しかもなぜポールなのかという理由付けも曖昧・・・というよりも適当。クライマックスをハッピーエンドにしなかったのは悪くないものの、これもホラー・ファンなら『ハロウィン』の続編『ブギーマン』(81)のパクリだとすぐに分ることだろう。
 製作と脚本を手掛けたレニー・モンタナは、ドン・コルレオーネの右腕ルカ・ブラーシ役を演じた『ゴッドファーザー』(72)で知られる元人気プロレスラー。その強烈なマスクとレスラーとしての知名度を買われて数多くの映画に出演するも、やはり役者としては素人も同然だったことから、ボディガードやマフィアなどの小さな役が多かった。本作では面倒見が良くて気さくな船長という意外な役柄でも顔を出しており、映画界での起死回生を狙ったのであろうが、残念ながら大失敗。結果としてこれが最後の作品になってしまった。
 演出を担当したアラン・J・レヴィは70年代から数多くのテレビ映画やドラマを手掛け、『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』や『エアウルフ』、『NCIS:ネイビー捜査班』などの人気ドラマで活躍した有名なテレビ・ディレクター。劇場用映画を手掛けたのは後にも先にもこれ一本だけだが、それも無理はないだろう。ちなみに、ロバート・アンガスという人物がノー・クレジットで共同監督を担当したらしいが、どういう素性の人なのかは不明。
 また、共同で脚本と製作に携わったフランク・アヴィアンカはレニー・モンタナの親友で、50年代から60年代にかけてフランキー・サードの芸名で活躍した元2流のロックンロール歌手。同じく脚本を書いたジェームズ・ファーゴは『ダーティハリー3』(76)や『ダーティファイター』(78)などクリント・イーストウッド主演作を手掛けた映画監督だが、当時はもっぱらチャック・ノリス主演の『地獄の復讐』(82)などといったB級アクション映画に甘んじていた。
 とまあ、監督のアラン・J・レヴィは別にしても、キャリアの落ち目になった有名人が集まって一攫千金を狙ったであろうことがバレバレの作品。その一方で、撮影監督には『誕生日はもう来ない』(81)のスティーブン・L・ポージー、美術デザインには『悪魔のいえにえ』(74)のロバート・A・バーンズと、ジャンル系スタッフも参加している。さらに、『G・I・ジョー』や『トランスフォーマー』など子供向けテレビアニメの音楽で知られるロバート・J・ウォルシュが『ハロウィン』そっくりの音楽スコアを担当。また、モンティ・ターナーという人物が主題歌を書いている。
 ちなみに、本作を製作した映画会社もまたこれ一本だけで消えてしまい、オリジナル・ネガは行方不明の状態。80年代にリリースされたVHSビデオでしか映像が残されていないのだそうだ。当時のこうしたマイナーなインディペンデント系低予算映画の多くは、恐らく同じような運命を歩んでしまったのかもしれない。

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家に侵入したポールと格闘する父フランク

材木工場へ逃げ込んだマリオンだったが・・・

ポールは執拗にマリオンの命を狙う

 主人公の殺人鬼ポール役を演じるフランキー・アヴァロンは、50年代末から60年代にかけて数多くの全米ナンバー・ワン・ヒットやトップ10ヒットを放った歌手で、『ビキニ・ビーチ』(64)や『ビキニ・マシン』(65)などの“ビーチ・パーティ”もの映画に主演して一世を風靡した往年のトップ・アイドル。最近でも人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』にゲスト出演するなどして顕在ぶりを披露しているが、当時はキャリアのどん底だった。
 一方、ヒロインのマリオン役を演じているのは、『ジョーズ2』(78)の可憐な美少女役で一部の映画ファンから大注目された女優。本作の撮影当時は既に20代半ばだったが、あどけないベビーフェイスは女子高生でも十分に通用する。その後、売春女子高生が犯罪者に立ち向かう異色B級アクション『エンジェル』(84)に主演し、これが誰も予想しなかった大ヒットを記録するものの、あっという間に映画界から消えてしまった。
 その父親役のリチャード・ジャッケルは、悪役俳優として映画ファンにはお馴染みの名優。もともと『愛しのシバよ帰れ』(52)や『攻撃』(56)などの名作で注目された期待の若手俳優だったが、70年代半ばからは『グリズリー』(76)や『アニマル大戦争』(77)などのB級路線をまっしぐら。ギボンス保安官役のデイン・クラークもボギー主演の『北大西洋』(43)やベティ・デイヴィス主演の『盗まれた青春』(46)などのワーナー作品で活躍し、どこにでもいる平凡な庶民の若者を演じて売れっ子になった往年のスターだった。

 

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