グレイドン・クラーク セレクション
Greydon Clark Selection

 

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 知る人ぞ知るカルト映画界の名物監督である。もともとZ級映画の帝王アル・アダムソンの助手としてキャリアをスタートさせ、脚本家を経て70年代に監督として独立。一時はエクスプロイテーション映画のヒットメーカーとして、グラインドハウス・シアターの黄金期を支えるほどの存在だった。アル・アダムソンのもとで徹底したゼロ予算映画作りのノウハウを学んだこともあって、とにかく彼の映画は安くて早いとプロデューサーには好評だったようだ。なおかつ、少なくとも初期の作品においては娯楽性とメッセージ性のバランスもきちんと取れており、予算のワリには見栄えも悪くなかったと言えよう。
 ただ、ビデオ市場の台頭によってグラインドハウス向けB級娯楽映画が衰退し始めると、ただでさえ少なかった予算はどんどんと削られていき、おのずと作品のクオリティも劣化の一途をたどっていく。生活のためと割り切って無残なクズ映画を撮り続けなければならないというのは、彼のようなエクスプロイテーション映画の監督にとっては宿命のようなものとも言えるだろう。それでも、ごく一時期とはいえ映像作家として才能の輝く瞬間があったことは間違いない。

 1943年2月7日、ミシガン州の田舎町ナイルズに生まれ育ったクラークは、もともと映画監督を目指していたわけではなかった。それどころか、監督という職業が具体的になにをするのかすら映画界へ入るまで知らなかったという。本人曰く“無知でバカな田舎者”だったという彼は、大学をドロップアウトしたことをきっかけに、俳優を目指してロサンゼルスへとやって来る。とりあえずハリウッドへ行けばすぐスターになれると思っていたのだそうだ(笑)。
 ところがどっこい、当たり前と言えば当たり前なのだが、ロスには知人もいなければ身寄りもない。なおかつハリウッドにコネがあるわけでもなく、そもそも映画業界の仕組みさえ全く知らない彼は、ハリウッド大通り近くの長期滞在型ホテルでボーっと過ごすだけの日々をしばらく送った。そんなある日、本屋で“Young Actors's Guide to Hollywood”という入門書を見つけた彼は、俳優になるためにはまず演技コーチのもとで演技を学ばねばならないことを知る。その本にはハリウッドで最も有名な2人の演技コーチの名前が載っていた。そこで、まず彼は往年の映画俳優でもあるジェフ・コリーの門戸を叩く。だが、クラスの空きが出るまで3週間待たねばならない。すぐにでもハリウッド・スターになりたかった彼はジェフ・コリーの演技クラスを諦め、もう一人のコーチ、ジョン・モーリーの指導を受けることとなった。
 かくして、学費を稼ぐために訪問販売のアルバイトをしながら演技を学んだクラーク。これですぐ映画に出れると浮かれていたそうだが、もちろんそんなわけもなく、エージェントを見つけることすら出来ないまま1年以上が過ぎた。そんなある時、演技クラスで一緒だった女の子が映画のオーディションで最終選考にまで残った。だが、どうやら監督が彼女に色目を使っているらしい。恋人のフリをしてオーディション会場にまでついてきて欲しいと頼まれたクラークだったが、実はその映画監督こそ“Psycho -A-Go-Go”('65)や「ドラキュラの館」('67)などの最低映画で知られるアル・アダムソンその人だったのである。
 たまたまお互いにバスケットボールが趣味ということを知ってクラークと意気投合したアダムソンは、やがて彼を助手として雇うようになった。さらに、演技のトレーニングも積んでいることから俳優として小さな役も与えるようになる。クラークによると、この頃から演技よりも裏方の仕事に興味を持つようになったという。そこで、彼は自ら志願してアダムソンの手元にあった未完成の西部劇の脚本をノー・ギャラで書き上げることになる。本人としては練習のつもりだったのだ。
 ところが、意外にもこれが業界内でなかなかの評判となり、往年の大物ハリウッド・スターであるロバート・テイラーがぜひ主役をやらせてくれとアダムソンに申し込んできた。すると、すぐにネットワーク局ABCが動き出し、2時間のテレビ・ムービーとして製作されることが決まったのだ。アダムソンやクラークにとっては生まれて初めての大型プロジェクト。しかも、撮影はマカロニ・ウェスタンのロケ地スペインで行われるという。もちろん2人とも大喜びだ。ところが、その矢先にテイラーの癌が発症してしまい、企画はあえなくボツになってしまった。
 この作品にキャリアを賭けていたアダムソンは茫然自失。なんとか次回作の出資者を見つけてきたものの、用意できた予算はたったの5万ドル。当時のアダムソン作品でさえ平均的な制作費が15万ドルほどだったというから、さすがの彼も困り果ててしまった。そこで助け舟を出したのがクラーク。落ち込んでいるアダムソンを励まそうと、5万ドルで撮れるような内容の脚本を無償で書くことを約束したのだ。それがアダムソンの代表作の一つでもあるカルト映画“Satan's Sadists”('69)だったのである。
 当時の暴走族映画ブームに便乗し、なおかつチャールズ・マンソン事件をヒントにしたこの作品はたちまち話題を集め、関係者の誰もが想定していなかったほどの大ヒットを記録してしまった。これですっかり株を上げたクラーク。ところが、アダムソンとの関係は逆にギクシャクしたものとなってしまった。というのも、次回作の脚本までタダで書くよう押し付けてきたというのだ。さすがにクラークだってボランティアで仕事をしているわけじゃない。そこで、そろそろ独立してもいい時期だと考えた彼は、思いきってアダムソンと袂を分かつことにしたのである。

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 監督デビューのチャンスは意外にも早くやってきた。アダムソンのもとを離れて数ヶ月後、ロスのダウンタウンで知り合った製作者から10万ドルで映画を撮らせてもらえることになったのだ。ちょうど当時はダスティン・ホフマン主演の映画「卒業」が大ヒットしたばかり。クラークはそのストーリーにヒントを得つつ、反体制やベトナム反戦のメッセージを前面に押し出した社会派ドラマ“Mothers, Fathers and Lovers”という作品を完成させる。
 ところが、これがすこぶる不評だった。ロスやニューヨークなど各地で配給会社向けの試写会を行なったものの、その露骨なメッセージ性が嫌われてしまい、中には腹を立てて途中で席を立つ者までいたという。配給会社が求めているのは場末の映画館で受けるようなエクスプロイテーション映画だったのだ。おかげで、この作品はお蔵入りになってしまうこととなった。
 
そうした逆風の中、ニューヨークの試写会場でクラークはある人物からアドバイスをもらう。どうせ反戦をテーマにするなら、ベトナム帰りの男が暴れまくるような映画にすればいいと。すぐに脚本を一から書き直した彼は、新たに撮影したフィルムに“Mothers, Fathers and Lovers”の一部映像を織り交ぜ、まるっきり別の映画に仕立ててしまった。それが、実質的な処女作となった“The Bad Bunch”('73)である。
 もともとの反戦的なメッセージを残しつつも、当時ブームだったブラック・ムービー風のバイオレンス映画となった“The Bad Bunch”。なにしろ追加撮影部分はほとんど予算をかけられなかったし、クラーク自身の演出もまだまだ技術が伴っておらず、決して見てくれのいい映画ではなかったが、それでも作品自体のインパクトはなかなか強い。本人の弁によると、当時全米の興行成績トップ10に入るほどの大ヒットになったそうだ。
 こうしてインディペンデントのB級映画監督として頭角を現した彼は、当時ヒットしていたウォーレン・ビーティ主演の映画「シャンプー」('75)をパクってブラック・ムービーとマフィア映画の要素を足した“Black Shampoo”('76)、やはり当時爆発的なブームだったオカルト映画とティーン性春映画を合体させた「悪魔のチアリーダーズ」('77)、カーレース映画の流行に便乗した暴走族アクション「ハイライダーズ」('78)、人気ドラマ「チャーリーズ・エンジェル」にリベンジ物の要素をかけ合わせたお色気アクション「ザ・セブンエンジェルズ」('79)、「未知との遭遇」('77)にホラー要素を盛り込んだSFファンタジー「アースライト/君は星になった」('80)、さらに「悪魔のいけにえ」('74)的な味付けを施したSFホラー「ニンジャリアン」('80)などを矢継ぎ早に発表。中でも、痛快なストーリーと豪快なカースタントが見応えのある「ハイライダーズ」は、彼の代表作と呼んで間違いないだろう。また、当時人気だったジャン・マイケル・ヴィンセントやシビル・シェパードなどの豪華キャストを揃えた「アースライト/君は星になった」も悪い映画ではなかった。
 しかし、ホラー映画のパロディを散りばめた愉快なナンセンス・コメディ「死霊のかぼちゃ」('82)を最後に、やがて徐々にクラーク作品の失速が始まっていく。もともと決して演出の上手い人ではないのだが、加えて映画界はお金のかかるSFXを駆使した大作が持て囃されるようになり、さらに普及するレンタルビデオがグラインドハウス業界の経営を圧迫した。つまり、時代の流れについていけなくなったのである。レンタルビデオ向けに撮ったモンスターホラー「異型生命体ファング」('88)の失敗はその象徴みたいなものだろう。ネオナチ集団の恐怖を描いた“Skinheads”('89)では社会派(?)アクションにも挑戦してみたが、これまた散々な出来栄えだった。ランバダ・ブームに便乗した青春ダンス映画「情熱のランバダ」('90)や、モスクワ・ロケを敢行したロバート・イングランド主演のホラーミステリー「オペラ座の怪人2」('91)も惨敗。マフィア映画「マッド・ドッグ・コール/暗黒街の掟」('92)は後のアカデミー賞カメラマン、ヤヌス・カミンスキーの撮影にかなり助けられていたが、「ターミネーター」風の世紀末SFアクション“Dark Future”('94)はまたチープな出来栄えだった。一時期はテレビドラマの演出を手がけたものの、老優トニー・カーティスを起用した家族向けSFファンタジー“Stargames”('98)を発表。ただし、結局はひっそりとVHS発売されただけで終わってしまい、これを最後に映画製作の現場から遠のいてしまった。
 現在はカルト映画系のファンイベントやコンベンションに顔を出し、自らのホームページで過去の作品のポスターやスチール写真を通信販売しながら食いつないでいるクラーク監督。ここ数年は「ニンジャリアン」のリメイク企画を温め続けているらしいが、オリジナルの著作権を持っているMGMがあまり乗り気ではないのだそうだ。…まあ、そりゃそうだろうな…(笑)。

 

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The Bad Bunch (1973)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2010 VCI Entertainment (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/80分/製作:アメリカ
※「ハイライダーズ」とカップリング

特典映像
オリジナル予告編集
G・クラーク監督による音声解説
監督:グレイドン・クラーク
製作:アルヴィン・L・ファスト
脚本:グレイドン・クラーク
   アルヴィン・L・ファスト
撮影:ルイス・ホーヴァス
音楽:エド・コッブ
出演:グレイドン・クラーク
   トム・ジョニガーン
   アルド・レイ
   ジョック・マホニー
   ジャクリーン・コール
   バンビ・アレン
   パメラ・コーベット
   フレッド・D・スコット

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黒人の住むスラム街へとやって来た若者ジム(G・クラーク)

戦死した親友から預かった手紙をその父親へ渡すためだった

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戦友の弟トム(T・ジョニガーン)は白人を憎悪していた

トムとその仲間たちに取り囲まれるジム

 グレイドン・クラーク監督の記念すべきデビュー作。上記で触れたような紆余曲折があったため、お世辞にも見栄えが良いとは言えない。予算らしき予算などなかったことは一目瞭然。そのために自ら出ずっぱりの主演を務めているわけだが、これがまたショボイというかなんというか。ズバリ言ってしまえば、映画の主役を張るような器では到底ないのだ。
 ただ、ベトナム帰りの若者が人種間闘争の渦中に巻き込まれることで、当時の世相や社会問題を浮き彫りにさせた脚本はとても良く出来ている。遠い外国での無益な戦争で親友を無駄死にさせてしまった主人公が、なんとか生きて帰ることの出来た祖国で再び戦争に巻き込まれてしまうという大いなる皮肉。その背景に横たわる根深い人種差別や権力の腐敗。もともと学生時代から人権問題に並々ならぬ関心を寄せていたというクラーク監督だが、そういった意味では彼のフィルモグラフィーの中でも異例中の異例と呼んでいいくらいに作家性の強い映画だと言えるだろう。
 主人公はベトナムの最前線で黒人の親友クレイを亡くした白人の若者ジム。クレイから預かった父親宛の手紙を届けようとしたジムだったが、そこで待ち受けていたのは白人を嫌悪するクレインの弟トムとその仲間たちだった。黒人の住む地域に白人が足を踏み入れたことに腹を立てた彼らは、日頃の鬱憤を晴らすかのごとくジムに集団リンチを加える。そこへ見回り中の白人刑事コンビが通りがかってジムを救ったのだが、この刑事たちというのが暇に任せては黒人住民をいたぶったり脅迫したりしているような極悪人だったのだ。ジムが刑事たちとグルだと早合点したトムは、仲間を率いて復讐に乗り出す。憎しみが憎しみを生み、暴力が暴力を引き起こす果てしない負の連鎖。この闘いに終わりはあるのだろうか・‥。
 こうしたリベンジ・アクション的なストーリーを軸にしつつ、豊かで恵まれたジムの日常生活と貧しくも悲惨なスラム街の現実を交互に織り交ぜることで、人種間に歴然と横たわる見えない壁の厚さというものをまざまざと見せつけていく。その辺がちょっとダラダラ長すぎる嫌いがないわけではないものの、どうしてそこまでトムたちが頑なに徹底して白人を拒絶するのかという本質はハッキリと見えてくるだろう。苦々しいくらいに虚しいクライマックスにも説得力がある。
 繰り返しになるが、決して出来の良い映画ではない。クラーク監督の演出も舌足らずな部分は多いし、極端なまでの低予算による貧相な見てくれはいかんともしがたい。が、その一方で時代の空気をリアルに切り取っているという点では一見の価値がある作品だし、ブラック・ムービー・ムーブメントの変化球的な落し子という意味でも興味深いものがある。エクスプロイテーション映画の名物監督グレイドン・クラークの原点が、実は左翼系社会派映画だったという意外性も面白い。

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スラム街は恒例行事の祭りで賑わっていた

トムたちに追い詰められるジム

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日頃の鬱憤を晴らすかのようにジムをリンチする黒人の若者たち

通りがかりの刑事スタンス(A・レイ)に助けられる

 ベトナムの最前線に送り込まれた思慮深い若者ジム(グレイドン・クラーク)は、年上の黒人兵士クレイ(ロバート・マンク)と親しくなる。命を賭けた戦場でさえも蔓延る人種差別に疑問を抱きながら、クレイとの人種を超えた固い絆と友情を育むジム。だが、その彼の目の前でクレイは敵側の銃弾に倒れてしまった。
 本国へ帰還したジムは、クレイから預かっていた手紙を彼の父親ワシントン氏(フレッド・D・スコット)へ届けるため、黒人ばかりが住む貧しいスラム街へと足を踏み入れた。年老いたワシントン氏は亡き息子からの予期せぬ手紙に涙を流し、それをわざわざ届けてくれたジムに感謝を述べる。だが、クレイの弟トム(トム・ジョニガーン)は違った。支配者である白人への憎しみを募らせた彼はジムに対して敵意を露わにし、そんな白人とダチになった兄を心底軽蔑していた。
 トムとその仲間たちに取り囲まれ、追い出されるようにしてワシントン家を後にしたジム。スラム街は恒例行事である祭りで賑わっていた。気がつくと、彼はトムたちに尾行されていた。危険を察知して逃げ出すジム、集団になって追い詰めるトムたち。スラム街に立ち入ったらどんな目に遭うか思い知らせてやる。まるで日頃の鬱憤を晴らすかのように、ジムへ容赦ないリンチを加えるトムと仲間たち。
 そこへ、たまたま通りがかった警察のスタンス刑事(アルド・レイ)とベリー刑事(ジョック・マホニー)がジムの窮地を助ける。だが、彼らのトムたちに対する態度は横柄そのものだった。ジムはただの誤解だと説明してトムたちの逮捕を回避させるが、スタンス刑事はそんな彼の生ぬるい態度が気に食わない様子だった。お前も近頃流行りの“ニガー・ラバー”かと。
 ベトナムから帰還したばかりのジムは、平凡で退屈ながらも恵まれた生活を謳歌していた。ストリップ小屋で仲間と憂さ晴らしをし、ナンパした美女ボビー(バンビ・アレン)と行きずりのセックスを楽しみ、フィアンセのナンシー(ジャクリーン・コール)とのどかなデートを満喫する。社会に対する戸惑いや疑問は数知れないが、それでも平和で満ち足りた毎日だった。
 一方のトムはというと、あの一件でスタンス刑事とベリー刑事に目をつけられてしまい、ただ散歩をしていたというだけで半殺しの目に遭ってしまう。黒人住民に対する白人警官の嫌がらせや暴行は日常茶飯事であるため、誰もが見てみぬふりをするしかなかった。恋人のティナ(パメラ・コーベット)は白人相手の売春婦。そんな彼女に対して愛憎半ばする感情を抱くトムだったが、仕事も収入もない彼はティナの財布を当てにして生活するしかない。ポン引きのウィリー(カール・クレイグ)にまで、言うことだけは立派だが惨めで哀れな男と馬鹿にされる始末。そんな希望も何もない日常の不満と怒りはまさに爆発寸前だった。
 もはや実力行使しかない。そう考えたトムは仲間を集めて武器を調達する。しかし、父親のワシントン氏はそんな息子の行動に真っ向から異を唱えた。暴力は暴力を生むだけだ、なんの解決にもならないと。そんな父親を弱腰だと激しく責めるトム。だが、ワシントン氏は興奮のあまり心臓発作を起こしてしまい、トムの目の前で息を引き取ってしまった。
 ワシントン氏の訃報を聞いて葬儀に駆けつけたジム。トムたちの様子を監視していたスタンス刑事は、白人のくせにニグロの仲間みたいな真似をするなと警告する。その差別的な発言に軽蔑の眼差しを向けるジム。しかし、そんな彼らの様子を目撃したトムと仲間たちは、ジムが警察とグルになって自分たちをハメたものと勘違いしてしまった。あいつらだけは生かしておけない。一方的な復讐心に駆られたトムたちは、武器を手にして行動を開始するのだった・‥。

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スタンスと相棒ベリー(J・マホニー)は差別主義者の悪徳刑事だった

トムの恋人ティナ(P・コーベット)は白人相手の売春婦をしている

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仕事も収入もないトムはポン引きのウィリーからもバカにされていた

暴力に走るトムを止めようとする父親だったが・‥

 上でも述べたとおり、本来ならクラークのデビュー作となるはずだった映画“Mothers, Fathers and Lovers”のパーツに追加撮影分のフィルムを合わせて完成された本作。ただし、使い回されたフィルムは時間にして10分程度のもので、あとは全て新たに撮り直しされたのだそうだ。
 もともとは“Nigger Lover”というタイトルで公開されるはずだったが、それだとちょっと刺激が強すぎるということで“The Bad Bunch”に変更。それでも映画館によっては“Nigger Lover”の方を使用したところもあったという。また、登場人物の名前から取った“Tom”や作品のテーマを反映した“The Brothers”というタイトルも使用された。このように、タイトルや映画館をコロコロ変えながら長期に渡って上映され続けるというのは、当時の低予算映画では常套手段みたいなものだった。もちろん、別の映画だと思ってチケットを買う客が出てくることも想定済み。むしろ、そちらを期待したと言ってもいいだろう(笑)。
 クラーク監督と共に脚本を執筆し、製作も手がけているアルヴィン・L・ファストはもともとAIPのスタッフだった人物で、本作をきっかけに70年代のクラーク作品には欠かせない仲間の一人となった。また、トビー・フーパーの「悪魔の沼」('77)のプロデューサーであるマーディ・ラスタムが製作総指揮に名を連ねているのも興味深い。
 撮影監督のルイス・ホーヴァースはアル・アダムソン作品の常連カメラマン。編集には「ハウス・パーティ」('90)や「ブーメラン」('92)などの黒人映画を手がけたアール・ワトソン、音楽にはグロリア・ジョーンズやブレンダ・ホロウェイなどのヒット曲を手がけたノーザン・ソウル系の有名な作曲家エド・コッブが参加している。

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恋人ナンシー(J・コール)と幸せな毎日を送るジム

ワシントン氏の訃報を聞いて葬儀に駆けつけた

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黒人に同情的なジムを威嚇するスタンス刑事

トムはジムが警察とグルになって自分たちをハメたと勘違いする

 最後に、主演を務めるグレイドン・クラーク以外のキャストについても触れておこう。まずは、白人への憎悪に萌えた若者トムを演じているトム・ジョニガーンはこれが映画デビューで、その後も何本か出演作はあるようだが、詳しい素性はよく分からない。その恋人役を演じているパメラ・コーベットについても詳細は不明だ。
 一方、ジムの恋人ナンシー役を演じているのは、実際にクラーク監督の奥さんだった女優ジャクリーン・コール。もともとはアル・アダムソン作品の常連女優だった人で、結婚後はクラーク組の脇役としてほとんどの作品に顔を出し続けている。また、ジムの浮気相手であるボビー役のバンビ・アレンは、60年代末から超低予算のソフト・ポルノやホラー映画に数えきれないほど出ていたセクシー女優である。
 そして、悪徳刑事のスタンスとベリーを演じているベテラン・ハリウッド俳優アルド・レイとジョック・マホニー。アルド・レイはリタ・ヘイワースの相手役を演じた「雨に濡れた舗道」('53)やボギーと共演した「俺たちは天使じゃない」('55)で人気を博したタフガイ・スターだったが、'60年代末から急速にメジャー映画の役がつかなくなってしまい、当時はどんな仕事でも手当たりしだいに引き受けていた。一方のジョック・マホニーはもともと西部劇のスタントマンだったが、その甘いルックスが注目されて俳優へ転向し、60年代にはターザン俳優としてその肉体美で持て囃された。だが、ジャングルでの撮影中に感染症にかかってしまい、1年半に渡って闘病生活を余儀なくされたことからターザン役を降ろされてしまい、結果的に俳優として落ちぶれてしまったという不運な人だった。
 そのほか、70年代から80年代にかけてテレビドラマで活躍した黒人俳優フレッド・D・スコットがワシントン氏を、後に「ハリウッド夢工場/オスカーを狙え!」('86)や「モー・マネー」('92)などの黒人映画を製作することになるカール・クレイグがポン引きのウィリーを演じている。

 

ハイライダーズ
Hi-Riders (1978)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2010 VCI Entertainment (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/91分/製作:アメリカ
※The Bad Bunchとカップリング

特典映像
G・クラーク監督のインタビュー
D・ヒントンとD・ピーターソンのインタビュー
G・クラーク監督による音声解説
D・ピーターソンの愛車紹介
監督:グレイドン・クラーク
製作:マイク・マクファーランド
脚本:グレイドン・クラーク
撮影:ディーン・カンディ
音楽:ジェラルド・リー
出演:ダービー・ヒントン
   ダイアン・ピーターソン
   メル・フェラー
   スティーブン・マクナリー
   ネヴィル・ブランド
   ラルフ・ミーカー
   ウィリアム・J・ボーディーン
   カレン・フレドリク
   ロジャー・ハンプトン

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カーマニアのカップル、マーク(D・ヒントン)とリン(D・ピーターソン)

ロサンゼルスの高速道路でデッドヒートを繰り広げる

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マークとリンがたどり着いたのはハイライダーズたちの根城だった

T.J.(W・J・ボーディーン)の仲裁でレースは仕切り直しになる

 恐らく、グレイドン・クラークの作品としては最も完成度の高い映画ではないだろうか。ドラッグレースに青春を燃やすカーマニアのカップルが、ハイライダーズと呼ばれる暴走族グループと意気投合し、彼らを皆殺しにしようとする田舎町の権力者と全面対決をする。シンプルで分かりやすいストーリー、後に大御所撮影監督となるディーン・カンディの躍動感と叙情性を兼ね備えた瑞々しいカメラワーク、若くして死亡した天才カースタントマンのヴィック・リヴァースによる白熱のカーアクション。クラーク監督の演出もいつになく無駄がない。'70年代的な明朗快活さというか、楽観主義的なエネルギーとパワーに溢れた痛快な青春アクション映画である。
 主人公はカーマニアの若いカップル、マークとリン。流行りのドラッグレースを楽しむためにロサンゼルスへとやって来た彼らは、ふとしたことからハイライダーズという暴走族グループと出会う。少々乱暴ではあるが気のいいハイライダーズの連中とすぐに意気投合した2人は、彼らと共にツーリングの旅へ出る。ところが、ある田舎町で地元の不良とドラッグレースに挑んだところ、不慮の事故で双方に死者が出てしまった。しかも、死んだ不良少年の父親は地元で権力を牛耳る元マフィア。息子の死を逆恨みした父親は、手下を総動員してハイライダーズを皆殺しにしようとする。
 当時は「ダーティ・メリー・クレイジー・ラリー」('74)や「バニシング in 60」('74)、「デスレース2000年」('75)、ロン・ハワード主演の「バニシング IN TURBO」('77)、「トランザム7000」('77)などのカーアクション映画がブームになっていた時期。日本でもスーパーカーブームが真っ盛りだった。本作はそうしたスピード狂ブームに便乗しつつ、「イージーライダー」('69)に代表される伝統的(?)なバイク映画のフォーマットを応用したものと見ていいだろう。ハイライダースたちのことを、自由と平和と車とバイクを愛する陽気で愉快なヒッピー集団として描き、それとなく反権力的なメッセージを滑り込ませているのも巧い。
 とかなんとか言いつつ、とりあえず理屈抜きで楽しめる作品。メジャー映画のように大規模なスタントや爆破シーンなどは望むべくもないものの、限られた予算の中で最大限のエンターテインメントを提供しようというハングリーな姿勢は評価すべき。まさしく理想的なB級ムービーといったところだろう。

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マークたちのテクニックもマシンも、ビリーより上手だった

ハイライダーズの面々と祝杯を上げるマークとリン

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少々荒っぽいものの陽気で愉快なハイライダーズたち

マークとリンは彼らと共に次の町へと向かった

 刺激を求めてサンディエゴからロサンゼルスへとやって来たカーマニアのカップル、マーク(ダービー・ヒントン)とリン(ダイアン・ピーターソン)。二人は夜な夜なスピード狂が集まるレーシング・スポットへと出向き、ハイライダーズという暴走族グループのメンバーを名乗るビリー(ロジャー・ハンプトン)とのカーレースに挑む。しかし、このビリーという男が食わせもので、自分が負けたにもかかわらず賭け金を独り占めしたまま逃走してしまった。
 翌朝、たまたまガソリンスタンドで給油していたマークとリンはビリーの車を発見。壮絶なカーチェイスを繰り広げながら、ロサンゼルス郊外の映画村へとビリーを追い込む。そこは町全体が西部劇用の映画セットという場所だった。すると、そこかしこから暴走族のメンバーが次々と現れる。ここはハイライダーズたちの根城だったのだ。
 ビリーに賭け金を騙し取られたと訴えるマークとリンだったが、ビリーもまた自分がレースに勝ったと主張して譲らない。そこで、リーダーのT.J.(ウィリアム・J・ボーディーン)の仲裁で勝負を仕切り直すこととなった。結果はマークとリンの勝利。リーダーが自分の味方をしてくれなかったことに腹を立てたビリーはヘソを曲げてしまった。T.J.によると、彼はいつもズルをして恥をかいているのだそうだ。
 そんなこんなでゴタゴタはあったものの、ハイライダーズの面々から一目置かれて意気投合したマークとリン。依然としてビリーは腹に据えかねている様子だったが、T.J.との勝負でもあっさりと負けてしまい、さすがに自分の非を認めて素直になった。飲んで騒いでセックスして、スポーツカーとバイクをこよなく愛する愉快なハイライダーズ。マークとリンはすっかり彼らのことが気に入ってしまった。
 やがて、彼らは近隣の田舎町へと大移動する。レッド(ネヴィル・ブランド)の経営するバーへとなだれ込んだ彼らは、ここでも再び飲めや歌えやの大騒ぎ。T.J.はウェイトレスとして働くアンジー(カレン・フレドリク)という地元の女性に一目惚れし、2人はすぐに親密な仲になった。一方、この店にたむろしていた金持ちの不良息子ジェイソン(スティーブン・ヘルゴス)は、我がもの顔で騒ぎまくるハイライダーズの連中が目障りで仕方ない。たちまち両者は対立し、ビリーとジェイソンがスピードを競うことになった。さすがにアホのビリーとて、素人のボンボンレーサーに負けるわけはない。車にかけた金額はあちらの方が上だが、スピードのテクニックはこちらの方が遥かに上手だった。
 一方、すっかり仲良くなったマークとリン、T.J.とアンジーのカップル同士は、グループを抜け出して野原で自由気ままなドライブを楽しんでいた。店へ戻ってみると、再びビリーとジェイソンが勝負するという。ところが、勝ちたい一心でハンドル操作を誤ったジェイソンの車とビリーの車がクラッシュし、近くのガソリンタンクへ激突。爆発に巻き込まれて両者とも死んでしまった。
 ビリーとジェイソンの死を悼んで盃を交わすハイライダーズの面々。そこへジェイソンの父親ルイス(スティーブン・マクナリー)が怒りを露わにしながらやって来た。息子の死は彼らのせいだと逆恨みするルイスは、若者たちの前で復讐を誓ってバーを後にする。騒ぎをききつけた保安官キング(メル・フェラー)と助手マイク(ラルフ・ミーカー)は、すぐに町を立ち去るようT.J.に忠告する。ルイスは怒ると何をするか分からないと。アンジーやレッドによると、ルイスは近隣一体を牛耳る大金持ちの権力者で、どうやらここへ来る前はマフィアのボスだったらしい。
 ひとしきり騒ぎ終わり、次の町へと移動することにしたハイライダーズたち。ルイスに睨まれたため店をクビになったアンジーも同行することになる。とりあえずT.J.とマーク、リンの3人はアンジーの下宿へ向かって彼女の荷造りを手伝い、他の仲間たちは複数のグループに分かれて出発。町を出たところで合流することにした。ところが、トード(ブラッド・リアデン)の率いるグループがガソリンスタンドへ立ち寄ったところ、待ち伏せていたルイスの手下たちによって皆殺しにされてしまう。瀕死の重傷を負いながらも現場から逃げ出したトードを、たまたま通りがかったマークたちが発見。しかし、事のあらましを彼らに伝え終わると、トードもまた帰らぬ人となってしまった。
 すぐに保安官事務所へ連絡を入れたマークたちだったが、肝心の死体が片付けられてしまっているために証拠がない。そもそも、保安官たちもルイスとグルだという可能性もある。町から外へ出る道は全て封鎖されていた。逃げ場を失ったマーク、リン、T.J.、アンジーの4人は、決死の覚悟でルイスの屋敷へ殴り込みをかけることにする・‥。

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道路沿いのバーへなだれ込んだハイライダーズの面々

渋い顔をするバーの店主レッド(N・ブランド)

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T.J.はウェイトレスのアンジー(K・フレドリク)に一目惚れする

大草原の中で楽しいひと時を過ごすマーク、リン、T.J.、アンジーの4人

 本作の撮影が行われたのは、パラマウント・ランチと呼ばれるオープン・セット。広大な土地の中にアメリカの古い町並みが再現されており、過去に遡ればディートリッヒ主演の「モロッコ」('30)やゲイリー・クーパー主演の「戦場よさらば」('32)、プレストン・スタージェス監督の「サリバンの旅」('41)といった名作映画の撮影に利用され、最近でも映画「ヴァン・ヘルシング」('94)やテレビドラマ「CIS:科学捜査班」などの撮影に使われている場所だ。
 本作の撮影当時はパラマウント・スタジオの手を離れて個人の所有になっていたらしく、セットのメンテナンスはされていないものの、その代わり破格の値段で借りることができた。しかも、近くにはカーチェイスに最適な大きい道路もたくさんあるし、風光明媚な大自然もそこかしこに広がっている。そのため、クラーク監督はここで撮影することをあらかじめ念頭に入れて脚本を書いたのだそうだ。
 撮影が行われたのは1977年の夏。製作費は12万5千ドルという、これまた破格な値段だったらしいが、出来上がった作品はそんな低予算をほとんど感じさせない。見せ場であるカーチェイス・シーンもなかなかの迫力だ。現場には万が一の事故や故障を防ぐため、車の整備技師がハイライダーズのメンバー役に扮して常時待機していた。
 カースタントを監修したのは当時29歳だったヴィック・リヴァース。「バニシング IN TURBO」のカースタントを監修して当時評判を呼んでいた新進気鋭のスタントマンだった。本作でも低予算映画にあるまじきハードなカースタント・シーンを幾つも用意し、その才能と実力を遺憾なく発揮している。だが、自らスタントを演じた川へトラックが落下するシーンで、あらかじめ予定されていた落下地点から大きく外れてしまい、水中から脱出することが出来なくなってしまったことから、命を落としてしまった。撮影最終日に起きた事故だったという。その命を張ったスタントシーンは本編でそのまま使用されている。
 撮影監督を担当したディーン・カンディは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」('84)や「ジュラシック・パーク」('93)、「アポロ13」('95)などのメガヒット映画でお馴染みの大物カメラマン。もともとはロジャー・コーマンのもとで修行を積んだ人物で、当時は低予算のホラー映画やアクション映画を数多く手がけていた。クラーク監督とは“Black Shampoo”で初めてタッグを組み、「ニンジャリアン」までの全ての作品に参加している。
 製作を手がけたマイク・マクファーランドはもともとクラーク監督の友人で、「悪魔のチアリーダー」で初めて映画製作に手を染めた。後に映画監督にも進出しており、本作の出演者ダービー・ヒントンやダイアン・ピーターソンも彼の作品に出ている。また、クラーク監督とは処女作“The Bad Bunch”以来の付き合いであるアール・ワトソンが編集を担当。見違えるほどテクニックが上手くなっており、特に中盤のカー・クラッシュ&爆発シーンにおける手際の良さは見事だ。
 なお、後にジョン・カーペンター作品になくてはならない女流脚本家兼プロデューサーとなるデブラ・ヒルが、スクリプト・スーパーバーザーとしてクレジットされているのも興味深い。

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地元の不良ジェイソンと対立するビリー(R・ハンプトン)

不慮の事故でビリーとジェイソンは帰らぬ人となってしまった

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元マフィアで地元の権力者ルイス(S・マクナリー)は復讐を誓う

すぐにでも町を去るよう警告するキング保安官(M・フェラー)

 主人公マークを演じているダービー・ヒントンは、日本でも評判になったテレビの西部劇ドラマ「西部の王者ダニエル・ブーン」('64〜'70)で主人公の息子役を演じた元子役スター。アンディ・シダリス監督の出世作「マリブ・エクスプレス」('84)のヒーロー役で記憶しているカルト映画ファンも少なくないかもしれない。当時は学業と並行しながら細々と俳優活動を行なっていたが、本作をきっかけにクラーク監督と仲良くなり、その後も常連俳優として「ニンジャリアン」や「死霊のかぼちゃ」、“Dark Future”などに顔を出している。
 一方のリン役を演じているダイアン・ピーターソンの本業はスタントウーマン。ちょうど「バニシング IN TURBO」のスタントに参加したことから故ヴィック・リヴァースと親しくなり、彼の推薦で本作にも参加することとなった。ただし、当初はスタントウーマンとして。だが、実際にダイアンと初めて会ったクラーク監督は、彼女がまさしくリンそのものであることに驚いたという。ブロンドでスタイルは抜群だし、見るからにタフで気の強いアメリカン・ギャル。しかも、根っからのカーマニアで、車の知識はそんじょそこらの男性顔負けだった。その上、実はマイアミ大学で演劇の修士号を取っており、舞台出演の経験まであったというのだから完璧。本作が彼女にとって唯一の主演作となったが、文字通り水を得た魚のように活き活きとした演技を見せてくれる。その後はスタント業に戻り、「バトルガンM-16」('87)や「カラーズ/天使の消えた街」('88)、「ロボコップ2」('90)、「ユニバーサル・ソルジャー」('92)、「タイタニック」('97)などのスタントを担当。最近では自らの所有するスポーツカーに乗って、全米各地のカーレースに出場しまくっているそうだ。
 そんな彼らと意気投合するハイライダーズのリーダー、T.J.を演じているウィリアム・J・ボーディーンに関しては、クラーク監督もその素性をほとんど知らないという。とてもいい雰囲気を持った俳優なのだが、なぜか出演作は後にも先にもこれ一本だけ。そのT.J.と親しくなる女性アンジー役のカレン・フレドリクは、アラン・ルドルフ監督の怪作「悪魔の調教師」('74)に出ていた女優だ。
 そして、彼ら若手俳優を脇で支えるのが4人のベテラン・ハリウッド・スターたち。キング保安官役のメル・フェラーについては、いまさら説明の必要もないだろう。「リリー」('53)や「戦争と平和」('56)などの名作に出演し、オードリー・ヘプバーンとの華やかなロマンスでも話題を集めた二枚目スター。ただ、年をとるにつれて急激に仕事がなくなってしまい、本作の撮影当時はB級だろうとC級だろうとあらゆる仕事を引き受けていた。
 ハイライダーズを皆殺しにしようとするルイス役のスティーブン・マクナリーは、「ジョニー・ベリンダ」('48)や「ウィンチェスター銃'73」('50)、「復讐鬼」('50)など、フィルムノワールや西部劇の悪役として鳴らした渋い名優。バーの店主レッド役を演じているネヴィル・ブランドも、その一度見たら忘れられない顔と個性で、ハリウッドきっての強烈な悪役俳優として有名だ。
 そして、キング保安官の腰巾着をしながらその後釜を狙っている小悪党の保安官助手マイク役には、ロバート・アルドリッチ監督の傑作ノワール「キッスで殺せ」('55)の主人公マイク・ハマー役で知られる俳優ラルフ・ミーカー。他にもキューブリックの「突撃」('57)やオールスター戦争大作「特攻大作戦」('67)などの代表作があり、ブロードウェイでも数々の名演を残している役者だ。しかし、本作の撮影が終わったあとに、彼はクラーク監督に“良かったらまた使ってもらえないだろうか?”と頼まれたという。彼ほどのキャリアも実力もあるベテラン役者が、次の仕事があるかどうかを心配しているなんて。しかも、自分のように掃いて捨てるほどいる低予算映画監督にまで頭を下げるとは。ハリウッドっていうのは恐ろしい場所だと、クラーク監督はまざまざと実感したという。
 ちなみに、キャストの中でちゃんとギャラを貰うことができたのはベテラン4人と主演クラスの若手4人だけ。ハイライダーズ役で出ている若手俳優たちは、ケータリングの食事にありつけただけで喜んでいたそうだ。

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ルイスの手下たちによってメンバーが皆殺しにされてしまった

瀕死のトードから事態を知らされたマークたちは…

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現在のダービー・ヒルトンとダイアン・ピーターソン

 

異型生命体ファング
Uninvited (1988)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2009 Cheezy Flicks (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/90分/製作:アメリカ

特典映像
予告編集
インターミッション・タイム
監督:グレイドン・クラーク
製作:グレイドン・クラーク
脚本:グレイドン・クラーク
撮影:ニコラス・ジョセフ・フォン・スタンバーグ
音楽:ダン・スライダー
出演:ジョージ・ケネディ
   アレックス・コード
   クルー・ギャラガー
   トニ・ハドソン
   エリック・ラーソン
   クレア・ケリー
   ロブ・エステス
   シャリ・シャタック
   ボー・ドレマン

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とはる研究所を逃げ出したモルモットの猫

猫の口から飛び出したのは突然変異で生まれたモンスター

女子大生のボビー(C・ケリー)とスザンヌ(S・シャタック)

ウォール街の大物で悪党のグレアム(A・コード)

 グレイドン・クラーク作品の中でも1〜2位を争うくらいのポンコツ映画(笑)。まあ、他にも酷い作品はいろいろとあるのだけれど、そもそもDVDソフト化されているものが少ないので、ひとまずこいつを紹介させていただこう。簡単に言ってしまえば突然変異系ホラー。遺伝子操作でモンスター化した猫が、豪華クルーザーの中で大暴れしちゃうというお話だ。
 で、何が酷いのかというと、まあ、全般的に渡って酷いっちゃ酷いのだが、中でも特にずっこけるのがハンド・パペットを使った超アナログなモンスター・キャット。技術的にはほぼマペットショーだ。しかも、このモンスター・キャット、なぜか普段は猫の体内に潜んでいるという寄生虫みたいな奴で、興奮すると猫の口から飛び出してくる。でも大きさは猫とほぼ同じ。そんな奴が体の中に入っているということ自体が理屈として破綻しているのだけど、ひとまずそんなことはお構いなしで話は進んでいく。想像するに、もしこれがグレムリンみたいに変身するって設定だと、金のかかるメカニカル・エフェクトが必要になってくるわけで、そんな費用を捻出できないがために考えついたアイディアなのではなかろうか。
 ちなみに、なぜ普段はどこにでもいる猫の姿をしてなきゃいけないかというと、研究所を脱走した猫が最終的に豪華クルーザーの中へ紛れ込むためには誰かに拾ってもらわなきゃならないから。あくまでもストーリー上の都合である。それに、油断して近づいてくる人間がいなけりゃスリルもサスペンスもありゃしないしね。
 とまあ、全てにおいてこうしたご都合主義が万遍なく行き渡っているため、とにかく胡散臭いことこの上ないわけだ。ただ、そういった小細工も使いようによっては面白くなることもあるわけで、本作の場合はそのセンスの悪さが災いしているように感じる。これは「ニンジャリアン」なんかにも共通して言えることなのだが、恐らくクラーク監督はSFやホラーというジャンルに向いていないのかもしれない。というより、本人がこの手の作品にあまり興味がないんじゃないかと思う。当時は特殊メイクやSFXそのものが一種のブームで、トム・サヴィーニやらリック・ベイカーやらが映画ファンの間でスター並みに注目された時代。そうしたブームに便乗しただけの企画であったろうことは想像に難くない。
 とりあえず、当時はクラーク作品の供給先であるグラインドハウス・シアターやドライブイン・シアターといった興行形態も末期状態で、折からのレンタルを含めたビデオ・ブームにすっかり押されてしまっていた。本作もクラーク監督としては初めてビデオ販売用に撮った作品であり、きっと彼も生き残るために必死だったのだろう。
 必死といえば、ジョージ・ケネディ以下のベテラン俳優陣。終始ワルノリ気味で悪党役を演じているアレックス・コードは意外と楽しげだったりするのだが、ハンド・パペット相手にのたうちまわりながら格闘してみせるジョージ・ケネディの必死の形相なんぞは哀れというかなんというか。アカデミー賞俳優の俺がなんでこんなことせにゃならんのか…と嘆いていたかどうかは定かではないが、少なくとも見ている方は大いに嘆きたい気分にさせられる。

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グレアムの相棒ハーヴェイ(G・ケネディ)

殺し屋のアルバート(C・ギャラガー)

グレアムからクルーズ旅行に誘われたボビーたち

コリー(R・エスタス)ら男子学生トリオも便乗する

 とある研究所の実験室からモルモットの猫が脱走した。慌ててその後を追いかける科学者たちと武装した警備員たち。この研究所では遺伝子操作の実験を行なっていたのだが、脱走した猫の体内には突然変異の結果と思われる奇妙な生命体が宿っていた。だが、それは科学者たちが想像もしていなかったほどの凶暴なモンスターだった。興奮した猫の体内から飛び出したモンスターは、警備員や科学者たちを皆殺しにして研究所の外へと出てしまう。その後、猫は様々な人の手に渡り、殺戮を繰り返しながらフロリダ州へとたどり着く。
 スプリング・ブレイクの学生旅行者で賑わうマイアミ。どこのホテルも予約で満杯だ。女子大生ボビー(クレア・ケリー)とスザンヌ(シャリ・シャタック)の2人は寝泊りする場所にあぶれて困っていた。すると、高級ホテルの上得意らしい中年紳士グレアム(アレックス・コード)が部屋を取ってくれるという。明らかに下心見え見えだったが、背に腹は代えられないので2人は甘えることにした。
 実はこのグレアムという男、ウォール街では名の知れた大物投資家だったが、その陰では様々な違法行為に手を染めるマフィア同然の極悪人。相棒のハーヴェイ(ジョージ・ケネディ)やその手下アルバート(クルー・ギャラガー)と手を組んで、マネーロンダリングから人殺しまで、まさにやりたい放題で荒稼ぎしていた。
 そのグレアムからカリブ海行きのクルーズ旅行に誘われ、すっかりウキウキ気分のボビーとスザンヌ。彼女たちは宿泊場所に困っている男子大学生コリー(ロブ・エステス)、ランス(ボー・ドレマン)、マーティン(エリック・ラーソン)の3人と意気投合し、彼らも一緒にクルーズ旅行へ行こうと誘う。
 もちろん、ギャル2人をはべらせて楽しもうと考えていたグレアムは不愉快。すぐにクルーズ船を降りろと息巻くが、そこへ国税局が彼を追っているとの連絡が入る。手元にある大金を持ってすぐにカリブへ逃げなくてはならない。しかし、ただ働き同然だった乗組員はみんな辞めてしまった。そこで、男子学生たちがクルーとして乗船することとなる。また、スザンヌは波止場でうろちょろしていた例の猫を拾って一緒に乗船していた。

 クルーズ船の船長はレイチェル(トニ・ハドソン)という若い女性。もともとは彼女の父親が所有者だったのだが、グレアムに騙されて借金を作ってしまい、そのかたに船を取られてしまったのだ。レイチェルは男子学生の中で一人だけ寡黙で知的なマーティンに惹かれる。女たらしの2枚目で野心家のコリーはスザンヌと、お茶目な3枚目のランスはボビーといい仲になった。のけ者扱いのグレアムは頭に来て若者たちをこき使う。
 その頃、飲んだくれたアルバートが凶暴化した猫に襲われ、クルーズ船から海へ落下して死亡する。翌朝になって彼がいないことに気付いたレイチェルたちは、酔ったアルバートが足を踏み外して海に落ちたものと勘違いするが、不審に思ったマーティンが現場に残されたアルバートの血液を採取して調べたところ、異常な速さで細胞が増え続けていた。
 さらに、グレアムにレイプされようとしたボビーをランスが助け、そのランスにハーヴェイが発砲するという事件が発生。この騒ぎに興奮した猫がモンスター化し、ハーヴェイの足首を食いちぎってしまう。傷口は見る見るうちに悪化して腫れ上がり、ハーヴェイは全身の血管が膨張して息絶えてしまう。どうやら、モンスター猫の唾液には異常なDNAが含まれているらしく、それが人間の体内に入ると血液細胞が急激に増えて血管が膨張もしくは破裂してしまうようだ。しかも、その猫がエンジンルームの機械を壊してしまったため、クルーズ船は海のど真ん中で立ち往生してしまった。
 今すぐに船を動かせと拳銃を手に脅迫するグレアムを船室に監禁し、エンジンの故障を調べるレイチェルとマーティン。だが、若者たちは一人また一人とモンスター猫の犠牲となっていく…。

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何も知らずに猫を船に乗せたスザンヌ

豪華クルーズ船でうかれ騒ぐ若者たち

船長のレイチェル(T・ハドソン)

酔ったアルバートが猫に襲われて殺される

 とまあ、いろんなところに無理があるというかなんというか(笑)。撮影のディテールもかなりいい加減。モンスター猫のサイズだって実はシーンごとにバラバラだし、カメラが切り替わると役者の立ち位置が突然変わってたりなんてこともザラ。ランスがモンスター猫に指を食いちぎられるシーンなんて、小指と薬指をたたんで隠しているだけなのがモロバレだし(笑)。
 撮影監督を務めるニコラス・ジョセフ・フォン・スタンバーグは、その名前からも想像がつくとおり、大女優マレーネ・ディートリッヒとのコンビで「嘆きの天使」('30)や「モロッコ」('30)、「上海特急」('32)など数々の名作を生み出した巨匠ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の息子。さすがに七光りの通用しないハリウッドのこと、偉大な映画監督を父親に持ちながらも、本人はひたすら超低予算のエクスプロイテーション映画界で食いつなぎ続けた。
 超低予算のワリにはそこそこ出来の良い特殊メイクを手がけたのは、「デビルスピーク」('81)や「バタリアン」('85)などの特殊メイク・スタッフとして経験を積み、近年はサミュエル・L・ジャクソンの専属メーキャップ・アーティストを務めているアラン・A・エイポン。また、さりげなく知らん顔をして「13日の金曜日」のスコアをパクっているのは、やはりジョージ・ケネディが出演した激安ホラー「エイリアン・ゾンビ」('87)を手がけた作曲家ダン・スライダーだ。

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マーティン(E・ラーソン)は残された血液に異常を発見する

本格的に暴れだしたモンスター・キャット

全身の血管が膨張して死に至るハーヴェイ

エンジンの故障で身動きの取れなくなった主人公たち

 で、オスカー俳優にもあるまじき情けない姿を晒しているジョージ・ケネディ。「暴力脱獄」('67)でアカデミー助演男優賞を獲得し、数多くのアクション映画やらパニック映画で活躍したハリウッドの名優だ。中でも、「エアポート」シリーズにおけるお助けマン役で映画ファンに親しまれた。ただ、よくよく振り返ってみると、オスカー受賞後の仕事の大半はオールスター映画の顔見せだったり、低予算映画の客寄せパンダ的な役柄ばかり。本作では一応キャストクレジットでは主演扱いだが、実際はほぼ客寄せパンダと変わらず。恐らく一番ギャラが高かったのだろう。それにしても、当時は仕事に困っていたのだろうか、なぜジョージ・ケネディがこんな映画に?と首をひねるような仕事が結構多かった。
 そのジョージ・ケネディ扮するハーヴェイの相棒で、実質的には主役とも言える活躍を披露する悪党グレアムを演じているのは、大ヒット・ドラマ「超音速攻撃ヘリ・エアーウルフ」('84〜'86)の作戦部長アークエンジェル役で有名な俳優アレックス・コード。もともとマーティン・リット監督の「暗殺」('68)でカーク・ダグラスの弟役を演じて注目されたものの、その後はB級アクション映画一筋の地味なキャリアを歩んだ人だった。「エアーウルフ」をきっかけに俳優人生も上向くかと思われたが、残念ながら今と違って当時はテレビでの知名度が映画にはそれほど役立たなかった時代。それでも、本作では完全にコメディと割り切ったような、生き生きとした演技を見せてくれる。
 一方、ハーヴェイの子分で酔っぱらいの間抜けな殺し屋アルバートを演じたクルー・ギャラガーも、当初はドン・シーゲル監督のハードボイルド映画「殺人者たち」('74)のクールな殺し屋役で評価され、「レーサー」('69)や「マックQ」('74)などの脇役として活躍した名優。しばらくは鳴かず飛ばずの時期もあったが、「バタリアン」('85)のちょっとトボけた医療会社社長役で再ブレイク(?)を果たし、以降はホラー映画のカルト俳優として引く手あまたになった。彼もまた本作はコメディ映画として臨んだのであろう、分厚いメガネと入れ歯を駆使して素っ頓狂なジイさんを嬉々として演じている。
 若手俳優の方に目を向けると、女性船長レイチェル役にはダーク・ベネディクトの奥さんだったトニ・ハドソン、ヒーローと呼ぶにはちょっと地味すぎるマーティン役にはテレビ「新宇宙空母ギャラクティカ」('80)のエリック・ラーソン、女たらしのイケメン学生コリー役には「メルローズ・プレイス」('93〜'99)や「新ビバリーヒルズ青春白書」('08〜)などテレビで有名になったロブ・エスタス、陽気で無鉄砲な女子大生ボビー役には最近だとドラマ「ジェリコ〜閉ざされた街〜」('06〜'08)の女バーテンダー役が印象的だったクレア・ケリー、もう一人のクールで大人しいスザンヌ役にはプレイボーイ誌のプレイメイトとしても有名なシャリ・シャタック。中でも、女優としてはB級エロ映画とアクション映画の色添えがメインだったシャタックの、意外にも達者で真に迫った恐怖演技が見ものだ。ちゃんとした作品に恵まれれば、それなりに評価されていたのではないかと思う。

 

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