The Girl Next Door (2007)

※『隣の家の少女』のタイトルで2010年3月に日本劇場公開

 

THE_GIRL_NEXT_DOOR-DVD.JPG
(P)2007 Anchor Bay/Starz (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド・2.0
chサラウンド/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/91分/製作:アメリカ

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
キャスト&スタッフ・インタビュー
オリジナル予告編
監督・製作者・撮影監督の音声解説
原作者・脚本家の音声解説
監督:グレゴリー・M・ウィルソン
製作:ウィリアム・M・ミラー
   アンドリュー・ヴァン・デ・ホーテン
原作:ジャック・ケッチャム
脚本:ダニエル・ファランズ
   フィリップ・ナットマン
撮影:ウィリアム・M・ミラー
音楽:ライアン・ショア
出演:ブランシュ・ベイカー
   ダニエル・マンシェ
   ブライス・オーファース
   ウィリアム・アザートン
   グラント・ショー
  
キャサリン・メリー・スチュワート

 

THE_GIRL_NEXT_DOOR-1.JPG THE_GIRL_NEXT_DOOR-2.JPG

50年前の少年時代に思いを馳せるデヴィッド(W・アザートン)

それは忘れたくても忘れられない悪夢のような思い出だった

 極めて残酷かつ救いのないホラー小説やミステリー小説で知られ、日本でも根強い人気のあるベストセラー作家ジャック・ケッチャム。その代表作である『隣の家の少女』を映画化した作品がこれだ。
 舞台となるのは1950年代末のアメリカ。主人公の少年デヴィッド(ダニエル・マンシェ)の隣に住むチャンドラー家のもとへ、両親を亡くした二人の少女が引き取られてくる。その姉のメグ(ブライス・オーファース)と親しくなるデヴィッド。しかし、チャンドラー家の母親ルース(ブランシュ・ベイカー)はなにかにつけてメグに辛く当たり、その苛めと虐待は徐々にエスカレートしていく。
 ルースは男ばかり3人の子供を持つ母親。タバコや酒なども大目に見てくれるという“理解ある大人”の彼女は、近所の子供たち、特に男の子たちには絶大な信頼を得ている。ルースはそんな子供達をも巻き込み、躾だと称してメグに対する本格的な虐待を始めていくのだ。
 目隠しをされて地下室に縛り付けられたメグ。ルースは子供たちに命じてメグの衣服を脱がせ、殴る蹴るの暴行を加えさせ、近所の子供たちの見ている前で実の息子に彼女を陵辱させ、しまいには彼女の陰部をガスバーナーで焼く。
 来日も来る日も続く壮絶な拷問と虐待によって衰弱していくメグ。デヴィッドはその事実を両親(グラント・ショアとキャサリン・メリー・スチュアート)に伝えようと考えるが、ルースのことが怖くてなかなか言い出せない。ついに意を決してルースに反旗を翻そうとするが、逆に彼自身も捕らえられて地下室に監禁されてしまう・・・。

THE_GIRL_NEXT_DOOR-3.JPG THE_GIRL_NEXT_DOOR-4.JPG

当時12歳の少年だったデヴィッド(D・マンシェ)

豊かで恵まれた古き良き時代

 初老にさしかかったデヴィッド(ウィリアム・アザートン)の回想形式で語られていくこの物語。実は、モデルとなった事件がある。それが、1965年にインディアナ州で起きたシルヴィア・リケンズ殺害事件。当時16歳だった少女シルヴィア・リケンズが、里親であるガートルード・バニゼフスキーとその子供たち及び近所の子供たちによって、激しい拷問の末に殺されてしまったのである。
 シルヴィアの両親はカーニバル一座で働いており、5人の子供を抱えながら各地を転々とする生活を送っていた。ある時、母親が万引き事件を起こして逮捕されてしまい、子供たち全員の面倒を見ることが難しいと考えた父親は、シルヴィアと妹ジェニーの二人を知人であるガートルードに預けることにした。
 ところが、ガートルードは当初からシルヴィアのことを目の敵にし、ことあるごとに彼女を苛めるようになる。シルヴィアが近所の雑貨屋でキャンディを買ってくれば万引きしたのだろうと言って責め、シルヴィアにボーイフレンドがいたと知ると妊娠しているに違いないと下腹部を激しく蹴り上げた。このように、なにかと言いがかりをつけてはシルヴィアのことを貶め、理不尽な体罰を与えるようになったのだ。
 さらに、ガートルードはシルヴィアを家に監禁し、自分の子供たちや近所の子供たちに命じて様々な拷問・虐待を加える。タバコの火を体に押し付けたり、火で熱した針を使って彼女の腹部に汚らしい言葉を刻み込んだり、コカコーラのボトルを彼女の陰部にぶち込んだり。拷問に加わった子供の中には、当時まだ10歳だった少女もいたという。
 シルヴィアとジェニーがガートルードのもとに預けられたのは65年7月。具体的にいつ頃から虐待と拷問が始まったのかは分かっていないが、少なくともその期間が数ヶ月に及んだことは間違いない。数々の暴行によって衰弱していったシルヴィアは、1965年10月26日に息を引き取った。
 その後の裁判で明らかになったところによると、ガートルードは生活苦による様々な悩みを抱えていたという。当時37歳だった彼女は複数の結婚生活に失敗し、アイロンがけの内職をしながら6人の子供達を女手ひとつで育てていた。貧しい生活、優れない健康状態、手のかかる子供たち。逮捕された当時の彼女は、写真で見る限りとても30代とは思えないほど老け込んでいる。一方の殺されたシルヴィアは爽やかで明るい美少女。その眩しいほどの若さに対する嫉妬心が、彼女を凶行へと駆り立てたのかもしれない。

THE_GIRL_NEXT_DOOR-5.JPG THE_GIRL_NEXT_DOOR-6.JPG

隣家に引き取られた少女メグ(B・オーファース)と知り合う

隣に住むチャンドラー家の母親ルース(B・ベイカー)

 そして、本作においても“若さへの嫉妬”というものが重要な鍵となっている。チャンドラー家の母親ルースは3人の息子を育てるシングル・マザー。これまでに何度も結婚生活に失敗している女性だ。中流階級の多い閑静な住宅街で暮らしているが、その生活は決して楽とはいえない。しかも、当時の保守的なアメリカ社会にあって、離婚したシングル・マザーという立場は世間からの風当たりも強い。
 それでも、彼女は自分の息子たちや近所の子供たちを自宅へ集め、タバコや酒を自由に与えて手なづけ、彼らの前で女王然と振舞うことで辛うじて女性としてのプライドを保っている。若い少年たちにあれこれと指図したり、時として色っぽく振舞ったりすることは内心快感なのだろう。
 そんなところへ、自分よりも遥かに若くてピチピチした少女がやって来たわけだ。おのずと少年たちの興味は彼女へと向かう。ルースにとっては自分の立場を脅かす存在だ。最初は些細な言いがかりから始まり、少女を自分の足元へ屈服させようとするルース。
 だが、少女はその理不尽な言動に耐えながらも、必死になって抵抗を試みる。そして、この少女の健気な正義感こそが、逆にルースの屈折した嫉妬心をエスカレートさせ、その存在自体を虐待や拷問という手段によって貶めようとするのである。彼女がメグのことをふしだらな淫売だと中傷したり、女性器をガスバーナーで焼くという行為などは、すなわちメグの女性としての存在価値そのものを貶めるための手段に他ならない。女の嫉妬心ほど怖いものはないというわけだ。

THE_GIRL_NEXT_DOOR-7.JPG THE_GIRL_NEXT_DOOR-8.JPG

ルースは近所の少年たちの人気者だった

ルースから理不尽な扱いを受けていることを告白するメグ

 また、本作は日常生活における大人の役割と責任ということにも焦点を当てている。当初はルースのメグに対する虐待行為を遠巻きで見ながら、戸惑いと疑問を隠せなかった少年たち。しかし、大人が子供に与える影響というのは想像以上に大きい。特にルースの息子たちにとってみれば、母親という存在は絶対的な正義だ。
 メグのことをふしだらで卑しい娘だと非難するルースの言葉を繰り返し聞くうちに、彼らは母親と同じ目線でメグのことを見るようになる。それゆえに、母親から彼女を暴行するよう指図を受けても、次第に何の躊躇もなっていく。相手はそうされても仕方のない“悪い娘”だからだ。
 よく“子供は純粋だから”と口にする大人がいるが、それは自分自身が子供だった頃のことを完全に忘れてしまった証拠だ。子供は決して純粋なのではなく、ただ無知なだけだ。それゆえに、手本となる周囲の大人の影響をもろに受けてしまう。それは、時と場合によってはとても恐ろしく危険なことなのだと言えよう。
 一方、主人公のデヴィッドは強くて逞しい父親と厳しくも優しい母親から愛情を注がれて育った平凡な少年。だが、酒場を経営する父親は仕事が忙しくて息子と接する時間が少なく、母親は躾や教育のことばかりに熱心で息子の日常についてはあまり目が行き届いていない。
 もしも両親が日頃から息子のちょっとした言動にまでちゃんと気を配り、些細な変化をも見逃さないでいれば、もしかしたらこの惨劇を未然に防ぐことができたかもしれない。そのためには、たとえ重要ではないと思えるようなことでも、しっかりと子供の言葉に耳を傾けなくてはいけないのだ。子供は常に大人の助けを必要としているのだから。

THE_GIRL_NEXT_DOOR-9.JPG THE_GIRL_NEXT_DOOR-10.JPG

少年たちの前でメグを売女扱いして罵るルース

デヴィッドは両親に相談をしたいが話を切り出せない

 さらに、この物語は“勇気を持って行動を起こす”ことの重要性も大きなテーマとして掲げている。デヴィッドはメグを助けたいと思いながらも、威圧的なルースへ対する恐れや過保護な両親への遠慮から、なかなか周囲にSOSを発信することが出来なかった。最後には何とか勇気をふり絞ってチャンドラー一家へ立ち向かうものの、残念ながら時すでに遅く。結果として、間接的ではあれど彼自身もこの恐るべき犯罪に関与してしまったことになるのだ。
 なぜもっと早く行動を起こすことが出来なかったのか?その後悔の念は、事件から50年近くを経た今もデヴィッドの心に重くのしかかる。誰だって無敵のヒーローなどではないのだから怖いのは当然。しかし、正しいと思ったことはすぐにでも行動に移さないと、時として取り返しのつかないことになってしまう。誰かに相談をするだけでも構わない。その小さな行動が、もしかしたら最悪の結果を防ぐことが出来るかもしれないのだ。

THE_GIRL_NEXT_DOOR-11.JPG THE_GIRL_NEXT_DOOR-12.JPG

全裸に目隠しされて地下室に縛り付けられるメグ

ルースは自分の息子にメグを暴行するよう命じる

 古き良き時代のアメリカの田舎町を舞台に描かれる凄惨で残酷な物語。当時はまだ“連続殺人鬼”という言葉自体が一般には馴染みがないくらい平和だったという。当然、静かな住宅地で暮らす人々の誰もが、凶悪犯罪など自分たちとは関わりがないと考えていたのだろう。しかし、それは単に社会の暗部から人々が目を逸らしていただけなのかもしれない。
 その一方で、ヒッチハイク殺人のビリー・クックや殺人鬼エド・ゲインなどの凶悪犯罪者が全米を震撼させるようになったのも50年代。凶悪犯罪はニューヨークやロサンゼルスといった大都会の専売特許ではなくなりつつあった。
 いわば、本作は“アメリカの無垢な時代の終焉”を一人の少年の目を通して描いた映画と言えよう。それゆえに、スティーブン・キング原作の『スタンド・バイ・ミー』(86)を彷彿とさせる印象がとても強い。ただし、こちらの方が遥かに残酷で悲惨な物語なのだが。
 実際にジャック・ケッチャムの原作を読んだことがないので、ここでは小説版との比較は出来ない。そもそも、原作小説と映画版というのは別の作品と捉えるべきであって、あれこれと比較すること自体があまり意味のあることはないだろう。
 監督のグレゴリー・M・ウィルソンは名門ニューヨーク大学で映画を学び、スパイク・リー監督の後押しで劇場用映画の演出家となった人物。これが監督2作目に当たる。一方、脚本を手掛けたのはダニエル・ファランズとフィリップ・ナットマンの二人。ファランズは『ハロウィン6/最後の戦い』(95)の脚本家として知られる人物で、ナットマンは全米ホラー作家協会の選ぶブラム・ストーカー賞を受賞している有名なホラー作家だ。
 50年代の長閑なアメリカをノスタルジックに描きながらも、その恐るべき暗部を赤裸々に暴いていくウィルソンの演出には風格すら感じさせられる。主人公デヴィッドやルースの複雑な心理を丁寧に浮き彫りにしていく脚本も非常に知的で繊細。撮影監督ウィリアム・M・ミラーによるカメラワークもなかなか美しい。
 総じて非常に良く出来た映画なのだが、唯一残念だったのは、ルースがメグに対する虐待をエスカレートさせていく心理的な背景がいまひとつ舌足らずな点。なぜそこまでしなくてはいけないのか?という部分で、決定打となる説得力が足りなかったように感じられる。物語が進むに従って、ただのモンスターにしか見えなくなってしまうのだ。

THE_GIRL_NEXT_DOOR-13.JPG THE_GIRL_NEXT_DOOR-14.JPG

度重なる暴行で傷ついたメグを労わるデヴィッド

ルースは子供たちの目の前で息子にメグをレイプさせる

 そのルース役を演じているブランシュ・ベイカーは、50年代の大女優にしてセックス・シンボルとして有名なキャロル・ベイカーの愛娘。日本でも話題になったテレビのミニ・シリーズ『ホロコースト』(77)で、ドイツ兵にレイプされガス室送りになる悲運の女性アンナ役を演じた女優さん。この役でエミー賞の最優秀助演女優賞を獲得するも、母親の名前が重荷になったか女優として伸び悩み続けた。
 90年代半ばには映画界を引退したが、4年ほど前にテレビ・ドラマで女優復帰。このルース役が本格的な映画カムバックとなった。これがなかなか迫力のある怪演ぶり。娘ほど年の離れた少女に敵対心を燃やし、残虐行為をエスカレートさせていく様は生々しいことこの上ない。もともと演技力には定評のある人だったが、ちょっと崩れかけた色気というのが逆に妙な貫禄を感じさせる。本作をきっかけにインディペンデントながら映画の主演も続々と相次いでいるようなので、今後の活躍を大いに期待したいところだ。
 主人公デヴィッド役を演じているダニエル・マンシェは、テレビのソープ・ドラマ“As The World Turns”で全米ではお馴染みの子役俳優。子役時代のリバー・フェニックスを彷彿とさせるような雰囲気のある少年で、こちらもこれからの活躍が楽しみだ。
 悲劇的な運命を辿るメグ役のブライス・オーファースはごく平凡な印象の少女だが、後半の拷問シーンにおける体当たり演技はなかなか凄い。えらく根性のある女優と見た。
 そのほか、90年代の人気ドラマ『メルローズ・プレイス』のジェイク役でお馴染みのグラント・ショー、『スターファイター』(84)や『ナイト・オブ・ザ・コメット』(84)などのカルト映画で有名な女優キャサリン・メリー・スチュワートの二人がデヴィッドの両親役で登場。さらに、『続・激突!/カージャック』(73)や『ゴーストバスターズ』(84)、『ダイ・ハード』シリーズで知られる名優ウィリアム・アザートンが、50年後のデヴィッド役としてオープニングとエンディングを渋い味わいで締めている。なお、原作者のジャック・ケッチャム自身がエキストラ役でチラリと顔を見せるのも注目。

THE_GIRL_NEXT_DOOR-15.JPG THE_GIRL_NEXT_DOOR-16.JPG

メグの陰部をガスバーナーで焼くルース

デヴィッドまで監禁されてしまう

 かのスティーブン・キングをして、“20年以上前に『ヘンリー』(86)を見て以来、初めての本格的にショッキングなアメリカ映画”と言わしめた本作。全ての映画ファンにオススメ・・・と言いたいところだが、見終わった後しばらくはどんよりと陰鬱な気分になること必至なので、その点は予め覚悟した上で鑑賞して頂きたい。

 

戻る