ジョルジョ・ガスリーニ Giorgio Gaslini

 

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 トロヴァヨーリやウミリアーニなど、イタリア映画音楽の作曲家はジャズ畑出身の人が多い。このジョルジョ・ガスリーニもその一人・・・というか、彼の場合は本業の傍らで映画音楽も手掛けるジャズ・ミュージシャンと言うべきであろう。
 日本の映画音楽ファンの間では、ゴブリンとの共作となった『サスペリアPART 2』(75)やナタリー・ドロンとスーザン・ストラスバーグ主演の『姉妹』(71)で知られるガスリーニ。1950年代よりジャズ・ピアニストとして頭角を現した彼は、その即興性の高い前衛的な演奏と知的でアカデミックな作曲で高い評価を受け、ジャズの本場アメリカでも一目置かれている鬼才だ。
 その一方、映画音楽の分野ではジャズを基調にしたオーソドックスでハイ・センスなスコアを聴かせてくれる。その代表作と言えば、やはり巨匠ミケランジェロ・アントニオーニの『夜』(61)だろうか。アバンギャルドな即興性を残したカルテットのスリリングな演奏は、『死刑台のエレバーター』のマイルス・デイヴィスを彷彿とさせるものがあった。
 また、プログレッシブなゴブリンの音楽が圧倒的に有名となった『サスペリアPART 2』ではあるが、ガスリーニによるサイケデリックでクールなジャズ・ロック・スタイルのスコアもまた印象的。随所に挿入される怪しげな子守唄のメロディも静かに不気味で、電子音楽的なゴブリンのスコアとの好対照が良いアクセントになっていたと言えよう。
 そうかと思えば『姉妹』や『悪魔の微笑み』(72)では、モリコーネやチプリアーニを彷彿とさせるミステリアスで甘美なメロディとクラシカルなオーケストラ演奏も披露。ラウラ・アントネッリ主演の秘境ロマンス“Bali”(70)では、アフロ・ジャズからイージー・リスニングまで多彩なサウンドを聴かせる。
 オペラやバレエ組曲まで手掛ける彼にとって、恐らく映画は幅広い音楽活動の一環に過ぎなかったのだろう。60年代から70年代にかけて手掛けた映画音楽は20本余り。イタリア映画のコンポーザーとしては極めて寡作だが、それゆえに特異な存在だとも言えるだろう。

 1929年10月22日、ミラノに生まれたガスリーニ。父親はアフリカ文化専門の学者だったという。6歳の頃からピアノを学び、13歳の頃には人前で演奏をしていたと言われる。戦後のアメリカ文化流入でジャズの洗礼を受け、18歳の時には自らのジャズ・カルテットを率いてフィレンツェのジャズ・フェスティバルに参加。一躍イタリア国内の注目を集めるようになった。
 49年にはミラノのヴェルディ音楽院に入学して作曲などを学び、合計で6つの学位を取得して51年に卒業。57年に参加したサンレモ国際ジャズ・フェスティバルでクラシックとジャズを融合した画期的な演奏を披露し、イタリア前衛ジャズの新たな旗手として国際的にも注目されるようになった。
 さらに、この時の演奏を録音したアルバム“Tempo e relazione”と62年発表のアルバム“Oltre”が、ヨーロピアン・ジャズの歴史を変えた革新的作品として世界中のジャズ・ファンに絶賛される。また、ガトー・バルビエリ、ドン・チェリー、スティーヴ・レイシーとアンサンブルを組んだ66年のアルバム“New Feelings”、ジャン=リュック・ポンティとのコラボレーションから生まれた73年のアルバム“Jean-Luc Ponty Meets Gaslini”も評判となった。
 また、72年から1年間、ローマの名門サンタ・チェチリア音楽院でジャズの講座を担当して教鞭も執っている。同音楽院でジャズがカリキュラムに組み込まれるのは史上初のことだったそうだ。

 そんな彼が最初に映画音楽を手掛けたのは、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の『夜』(61)。アントニオーニといえば、作曲家ジョヴァンニ・フスコとの名コンビが有名だ。しかし、主演のマルチェロ・マストロヤンニに薦められてアルバム“Tempo e relazione”を聴いたアントニオーニは強い感銘を受け、この作品に限ってはフスコでなくガスリーニに音楽スコアを依頼することにしたのだという。
 この作品でシルバー・リボン賞の最優秀音楽賞を獲得したガスリーニは、その後もコンスタントに映画音楽の仕事を受けるようになる。中でも有名なのはダリオ・アルジェント監督とのコラボレーションだ。きっかけとなったのは、アルジェントが製作を手掛けたテレビ・シリーズ『サイコ・ファイル』(73)。続いて、アルジェントにとって唯一の非ホラー映画『ビッグ・ファイブ・デイ』(74)の音楽も担当した。
 しかし、『サスペリアPART 2』でガスリーニの書いたスコアにアルジェントが不満を抱き、当時“チェリー・ファイブ”名義で活動していたプログレ・バンド、ゴブリンに追加スコアを依頼したことから、両者は袂を分かつこととなってしまった。
 その後、ドキュメンタリー映画“Invece della famiglia”(78)を最後に映画界から足を洗ったガスリーニ。80年代以降も年1〜2枚のペースでジャズ・アルバムをリリースし続けているほか、バレエ音楽や交響曲などの作品も精力的に発表している。

 

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La Notte (1961)

Bali (1970)

ソー・スウィート・ソー・デッド
Rivelazioni di un Maniaco Sessuale al capo della Squadra Mobile (1972)

(P)1996 Cinevox/SLC (Japan) (P)2010 Digitmovies (Italy) * limited edition (P)2007 Fin de Siecle Media (Sweden)
1.Lettura della Lettera
2.Ballo di Lidia
3.Voci dal Fiume
4.Quartetto Sotto le Stelle
5.Blues all' Alba ビデオ
6.Valzer Lento
7.Notturno Blues
8.Finale
9.Jazz Inerludio
10.Country Club
11.La Notte (Suite)
1.Bali (Titoli)
2.Il Silenzio di Dio
3.Ketjak
4.Donna Piu'
5.The Magic Theme
6.Gamelan Ombre Cinesi
7.Spazi
8.Tema Della Purificazione
9.Preghiera di un Santone
10.Morire a Bali
11.Bali (Titoli-Take 2)
12.Donna Piu' (versione lenta)
13.The Magic Theme (chitarra e sitar)
14.Bali (exotica)
15.The Magic Theme (sitar e percussioni)
16.Donna Piu' (shake)
17.Il Silenzio di Dio (Flauto e sitar)
18.The Magic Theme (versione sax)
19.Bali (psichedelica)
20.Morire a Bali(flauto, sitar e percussioni)
21.Bali (exotico beat)
22.The Magic Theme (slow reprise)
23.Bali (bass reprise)
24.The Magic Theme (versione flauto)
25.Morire a Bali(sitar, flauto e percussioni)
26.Donna Piu' (shake take)
27.The Magic Theme (versione organo)
28.Bali (Titoli-Take 3)
1.Bali (Titoli)
2.Bali (Tema d'amore)
3.Il Silenzio di Dio (versione triste)
4.Bali (Tema d'amore 2)
5.Bali (rituale sacro)
6.Bali (Tema d'amore 3)
7.Bali (Iniiziazione)
8.The Magic Theme (versione country)
9.Bali (shake etnico)
10.Bali (Tema d'amore 3)
11.Bali (Tensione)
12.Spazi (tristezza)
13.Bali (Rito magico)
14.Spazi (nostalgia)
15.Bali (tema principale ripresa)
16.Bali (tema sacro)
17.Bali (tema principale ripresa 2)
18.Bali (Rito magico 2)
19.Bali (celebrazione)
20.Bali (tema sacro 2)
21.Il Silenzio di Dio (versione romantica)
22.Il Silenzio di Dio (versione triste 2)
23.Bali (Tema sacro 3)
24.Bali (Primo spazio)
25.Il Silenzio di Dio (versione triste 3)
26.Bali (tema sacro 4)
27.Bali (secondo spazio)
28.Bali (tema principale ripresa 3)
29.Bali (Incontro d'amore suite)
1.Cio' che e' Scritto nel Vento ビデオ
2.Lamento
3.Colori
4.Teneramente
5.Voce senza Scampo
6.Domani Forse ビデオ
7.Frammenti
8.Tema del Maniaco
9.Frammenti (#2)
10.Lamento (#2)
11.Sorridendo ビデオ
12.Cio' che e' Scritto nel Vento
13.Lievemente
14.Ricordando
15.Finale
16.Tema del Maniaco (#2)
17.Tema del Maniaco (#3)
18.Teneramente (#2)
19.Cio' che e' Scritto nel Vento (#3)
20.Cio' che e' Scritto nel Vento (#4)
21.Cio' che e' Scritto nel Vento (#5)
22.Tema del Maniaco (#4)
23.Cio' che e' Scritto nel Vento (#6)
24.Cio' che e' Scritto nel Vento (#7)
25.Cio' che e' Scritto nel Vento (#8)
26.Cio' che e' Scritto nel Vento (#9)
27.Cio' che e' Scritto nel Vento (#10)
28.Frammenti (#3)
29.Tema di Maniaco (#5)
30.Cio' che e' Scritto nel Vento (#11)
31.Colori (#2)
32.Colori (#3)
 オーソドックスなスイングの中にもフリー・ジャズのスピリットが息づいた名盤。映画音楽という、ある種の機能性が求められるフォーマットにおいて、許容され得る恐らくギリギリの即興性を発揮した演奏が実にクールです。いわゆるイタリア映画音楽の伝統の中では極めて異質な作品かと思われますが、アントニオーニ監督がガスリーニに求めたのはまさしくその異質性だったのかもしれません。純粋にジャズ・アルバムとしても通用する作品でしょう。

 ウーゴ・リベラトーレ監督、ラウラ・アントネッリ、ジョン・スタイナー主演の秘境ロマンス。このディスク1は当時発売されたサントラLP(#1〜#10)に加え、モノラル・マスター音源の全てを収録した完全版となります。随所にエキゾチックなインドネシアの伝統楽器を散りばめつつ、全体的にはジャズ寄りのコンボ・サウンドに。アフロ・ジャズ的な要素も濃厚です。ただ、環境音楽に近いものが多いので、全編通して聴くのは若干キツいかな・・・。

 こちらは最近になって発見されたステレオ・マスター音源を収録したディスク2。これが単なるステレオ・バージョンではなく、全くアレンジの異なる別録音となっております。モノラル版と同じ主旋律を応用しつつ、よりイージーでソフトなフルオーケストラ・サウンドを展開。ディスク1よりも聴きやすい内容です。また、#29では75年公開の再編集バージョンで使用されたスコアを収録。チプリアーニばりの甘いメロディが炸裂します。  ロベルト・ビアンキ・モンテーロ監督、ファーリー・グレンジャー、シルヴァ・コシナ主演によるジャッロ映画のサントラ。テーマ曲#1や#12などでは甘くノスタルジックな旋律を聴かせつつ、随所にディープなエクスペリメンタル・ジャズを散りばめており、そのバランスの良さが魅力と言えるかもしれません。#11や#13ではラウンジ・スタイルのボサも披露。エッダのスキャットも効果的に使われており、とても洒落た作品に仕上がっています。

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悪魔の微笑み
La Notte dei Diavoli (1972)

Il Vero e il Falso (1972)

5 Donne per L'assassino (1974)

(P)2003 Digitmovies(Italy)*Limited Edition (P)2010 Digitmovies(Italy)*Limited Edition (P)1996 Cinevox/SLC (Japan)
1.Sdenka's Theme-Main Titles ビデオ
2.Terrible echoes
3.Electroshock 1
4.Warnings
5.Slavian little song
6.The Vurdalak Theme
7.The scary wood
8.Suspended dialogues 1
9.Thinking of Sdenka
10.Voices in the wood
11.An organ in the night
12.The Vurdalak Theme 2
13.Sdenka's sadness
14.An ancient curse
15.A strange family
16.False calm
17.Suspended dialogues 2
18.Macabre burials
19.The Vurdalak Theme 3
20.Electrochock 2
21.Recalls in the Dark
22.Suspended nocturne/Sdenka's Theme-Finale
23.Voices in the wood-Alternative Mix
24.Sdenka's Theme Alt. take
1.Luisa
2.Viaggio nella Nostalgia
3.Evanescenze
4.Piccolo Dialogo
5.Luisa (#2)
6.Passagio e Tema 1
7.Passagio e Tema 2
8.Pianology
9.Andantino Neoclassico
10.Viaggio nella Nostalgia (#2)
11.Piccolo Dialogo (#2)
12.Passaggio e Tema 1(#2)
13.Luisa (#3)
1.Till Tomorrow
2.Esca
3.Conservatorismo Puro
4.Timbrare il Cartellino
5.L'alba della Rivoluzione
6.Il Posto delle Idee
7.Occupazione Totale
8.Furto Sociale
9.5 Donne per L'assassino (suite)
 ジョルジョ・フェローニ監督、ジンニ・ガルコ、アゴスティナ・ベッリ主演のホラー映画。本編そのものもなかなかの傑作でしたが、ガスリーニによる幻想的でもの哀しいスコアもまた見事な出来栄え。エッダの美しいスキャットを配したテーマ曲#1はもちろん、その主旋律を生かした#9や#22もいいですね。基本的にはクラシカルなオーケストラ・スコアですが、うめき声や叫び声を自在にコラージュした#10なんかはジャズ的なセンスが光ります。  エリプランド・ヴィスコンティ監督、テレンス・ヒル、マーティン・バルサム主演の法廷サスペンス。無実の罪で投獄され非業の死を遂げるヒロインの哀しみを表現した、切なくも情感溢れるテーマ曲#1が印象的です。壮麗なオーケストラの演奏にアコースティック・ギターの寂しげな旋律を絡めたアレンジも見事。全体的にもペシミスティックなトーンが強く、モリコーネの『シシリアの恋人』や『愛すれど哀しく』を彷彿とさせるものがありますね。  ステルヴィオ・マージ監督、フランシス・マシューズ主演によるジャッロ映画。突き抜けるように爽やかなストリングスの音色が印象的なテーマ曲#1は、ピノ・ドナッジョやチプリアーニにも匹敵するほどの美しさ。その一方、サスペンスを盛り上げる#2や#6では、ガスリーニらしい実験的なアバンギャルド・ジャズを聴かせてくれます。中でも#6におけるサックスとキーボードのスリリングな演奏は聴き応え十分。非常にスタイリッシュな仕上がりです。

 

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