ジャッロ ベスト・セレクション
PART 4

 

タランチュラ
La tarantola del ventre nero (1971)
日本では1972年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済
(北米盤DVDと日本盤DVDは別仕様)

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(P)2006 Blue Underground (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:1/98分
/製作:イタリア・フランス

特典映像
ロレンツォ・ダノン インタビュー
オリジナル劇場予告編
アメリカ公開時TVスポット
監督:パオロ・カヴァラ
製作:マルチェロ・ダノン
原案:マルチェロ・ダノン
脚本:ルシール・ラークス
脚本監修:トニーノ・ゲッラ
撮影:マルチェロ・ガッティ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ジャンカルロ・ジャンニーニ
   ステファニア・サンドレッリ
   クロディーヌ・オージェ
   バーバラ・ブーシェ
   ロッセラ・ファルク
   シルヴァーノ・トランキーリ
   アナベラ・インコントレッラ
   エンツォ・マラーノ
   バーバラ・バック
   ジャンカルロ・プレーテ
   カルラ・マンシーニ

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夫と不仲の人妻マリア(B・ブーシェ)

診療用の針を箱から取り出す謎の人物

 ヤコペッティの『世界残酷物語』(62)や『世界女族物語』(63)の撮影に協力し、やらせも厭わない記録映画製作の裏側を鋭いタッチで描いた問題作『野性の眼』(67)で高く評価された鬼才パオロ・カヴァラ。これは、アート映画とエクスプロイテーション映画の狭間でキャリアを築いてきた彼ならではの、絶妙なバランス感覚が生かされた正統派ジャッロの佳作である。
 原題は“タランチュラの黒い腹”という意味。これはスズメバチがタランチュラの全身をハリの毒で麻痺させ、生きたままその黒い腹を食ってしまうという習性に由来するもので、同時に本作で登場する連続殺人鬼の殺害方法を暗に示す言葉でもある。
 ローマで血生臭い連続殺人事件が発生する。被害者はいずれも上流階級の裕福な美女ばかり。しかも、治療用の針で首筋を一突きにして全身を麻痺させ、生きたまま腹部を切り裂くという残忍な方法で殺害されていた。事件の謎を追うテリーニ警部だったが、捜査線上に浮かぶ容疑者たちもまた次々と怪死。やがて、彼は被害者たちが通っていた高級エステ・サロンへとたどり着くが、今度は最愛の妻にまで殺人鬼の魔手が忍び寄ることに・・・。
 謎解きの面白さとしては及第点。裕福な女性ばかりをターゲットにした脅迫グループの存在をカモフラージュに使ったのは悪くないアイディアだが、結果として導き出される犯人との関連性は都合が良すぎるし、なによりもその犯行動機に信憑性が全く感じられない。フタを開けてみたらな〜んだ、といった感じだ。
 しかし、一連のアルジェント作品を例に出すまでもなく、謎解きの不条理やご都合主義はジャッロ映画のお約束みたいなもの。犯罪推理はあくまでもお膳立ての一つであり、そこに描かれるセックスとバイオレンスこそがジャッロの真髄であろう。その点、本作は見事なくらいファンの期待に応えてくれる。
 バーバラ・ブーシェが美しい肢体を披露するオープニングから、官能的で退廃的なムードがたっぷり。70年代トップ・モードやウルトラ・モダンなインテリア、エンニオ・モリコーネによる幻想的でエロティックな音楽スコア、洗練されたカメラワークに実験性の高い編集など、非常にアーティスティックかつ贅沢な雰囲気の中で露骨に血生臭いグランギニョールが繰り広げられていく。これぞまさしくジャッロ映画の醍醐味といったところだろう。
 殺人鬼の手にはめられているのが手術用のゴム手袋というのもフェティッシュな雰囲気を醸し出してそそられるし、一見すると無意味に思えるサブプロットが後から重要な役割を果たすという小細工もなかなか手堅い。また、被害者役として登場する女優陣の豪華な顔ぶれも、ヨーロッパ映画ファンにとっては嬉しいところだろう。ジャッロ全盛期を代表する作品の一つとして、是非とも見ておきたい映画だ。

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夜中に物音で目を覚ましたマリア

首筋に針を一突き・・・!

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事件の捜査を担当するテリーニ警部(G・ジャンニーニ)

テリーニ警部の愛妻アンナ(S・サンドレッリ)

 若くて美しい人妻マリア(バーバラ・ブーシェ)は、満たされない性欲を持て余していた。彼女には裕福な実業家ザーニ氏(シルヴァーノ・トランキーリ)という夫がいるものの、仕事に追われる彼への愛は醒めている。何者かが送りつけてきたマリアの浮気写真を発見したザーニ氏は、激しい怒りをぶつけて家を出て行った。
 その晩、眠っていたマリアは物音に気付いて目を覚ました。家の中をうろついていた愛犬を外へ放した彼女は、寝室へ戻ったところを黒づくめの侵入者に襲われる。激しく抵抗するマリアの首筋に、侵入者は勢いよく針を突き刺した。身動きの出来なくなった彼女は、生きたまま腹を裂かれて絶命する。
 殺害現場には被害者と夫の指紋しか残されていなかった。事件を担当することになったテリーニ警部(ジャンカルロ・ジャンニーニ)は、夫ザーニ氏を容疑者としてマークする。さらに、警部は被害社宅から発見された写真にも注目した。マリアの浮気現場を撮った写真なのだが、半分が切り裂かれていた。背景の窓に映った不可解な影。それは何を意味しているのだろうか?
 その切り裂かれた写真の残り半分を持っていたのはザーニ氏だった。彼はマリアの浮気相手が犯人ではないかと考え、自らの手で相手を探し出そうと私立探偵を雇ったのだ。だが、そうこうしている間に次の殺人事件が起きた。
 今度の被害者は高級ブティックの女経営者ミルタ・リッチ(アナベラ・インコントレッラ)。店内からはコカインが発見され、彼女が陰で麻薬のディーラーをしていたことが分る。犯人は急いでいたらしく、凶器の針が遺体に残されていた。それは針治療に使われるものと同じだった。同一犯による犯行は間違いない。しかし、マリアとミルタを結びつける共通項が見つからなかった。
 引き続きザーニ氏の身辺を洗うテリーニ警部だったが、本人は自らの潔白を強く訴える。私立探偵からの情報でマリアの浮気相手マリオ(ジャンカルロ・プレーテ)の居場所を掴んだザーニ氏。だが、マリオは彼の顔を見てすぐに逃げ出した。絶対に逃がすまいと後を追うザーニ氏だったが、格闘の末にビルの屋上から突き落とされて絶命。その場を逃げ出そうとしたマリオも、いきなり現われた赤いスポーツカーに轢かれて死亡する。
 私立探偵の通報で現場に駆けつけたテリーニ警部は、マリオが裕福な女性ばかりを誘惑して浮気の証拠写真を撮り、それをエサにして彼女たちを脅迫していたことを知る。黒幕が口封じのために彼を殺したに違いない。
 テリーニ警部は次のターゲットとして狙われていたフランカ・ヴァレンティノ(ロッセラ・ファルク)という婦人に接触した。だが、一連の出来事に動揺を隠せないフランカは、事情聴取を明日にして欲しいと訴える。家の中に殺人鬼が隠れていることも知らずに。
 フランカ・ヴァレンティノの他殺体が発見された。血生臭い連続殺人事件を止めることができない己の無力を痛感し、刑事という職務に強い疑問を感じるテリーニ。そんな彼の心の支えとなるのが、お茶目で明るくて優しい妻アンナ(ステファニア・サンドレッリ)の存在だ。
 ところが、マリオの自宅から発見された8ミリフィルムに、テリーニとアンナの姿が映っていた。盗撮されていたのだ。妻を事件に巻き込んではいけない。そう考えたテリーニは辞職を決意するが、逆にアンナは彼を叱咤激励するのだった。ここまできて諦めてはいけないと。
 その頃、ローマ市内の高級エステでは、女性経営者ローラ(クロディーヌ・オージェ)と社員ジェニー(バーバラ・バック)が言い争っていた。殺された女性たちを脅迫していた黒幕はローラだったのだ。ジェニーはその片棒をかついでいたわけだが、狙った女性たちが次々と何者かに殺され、その上仲間のマリオまでもが消されてしまった。怯える彼女は警察に全てを告白しようと言うが、ローラは強くけん制する。何も心配する必要はないと。
 しかし、その直後にジェニーが殺された。警察の捜査はローラのエステ・サロンにも及ぶ。果たして、殺人鬼の正体はローラなのか?それとも・・・?

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高級ブティックの女店主ミルタ(A・インコントレッラ)も殺される

マリアの夫ザーニ氏(S・トランキーリ)は無実を訴える

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恐喝犯の男マリオ(G・プレーテ)を追いつめるザーニ氏だったが・・・

フランカ(R・ファルク)という中年婦人も脅迫されていた

 冒頭で殺されるマリアのネグリジェをはじめ、衣装やインテリアなどに鮮明なイエローが効果的に使われているのは、ジャッロ=黄色を意識したオマージュと見ていいだろう。また、高級ブティックの経営者ミルタが殺害されるシーンでは大量のマネキンをやはり効果的に使っており、こちらもジャッロの原点であるマリオ・バーヴァ監督の名作『モデル連続殺人』に敬意を表したものと思われる。
 また、本作は一連の殺人事件捜査と並行して、主人公テリーニ警部の苦悩や妻アンナとの強い絆といった人間ドラマ的な部分にも大きな比重を置いているのが興味深い。ジャンカルロ・ジャンニーニの抑えた演技、ステファニア・サンドレッリの生き生きとした魅力のおかげもあって、作品そのものに豊かな表情を与えているのは非常に良かった。謎解きの弱点を補って余りあると言えよう。
 脚本を書いたルシール・ラークスはジュリー・クリスティー主演のイギリス映画“In Search of Gregory”(69)の原案を手掛けた人物だが、本作では脚本の監修としてトニー・ゲッラが深く関わっていたという。
 ゲッラといえば、ミケランジェロ・アントニオーニを筆頭にイタリアを代表する巨匠の芸術作品を数多く手掛けた大御所脚本家。そんな彼が非公式であるにせよ、ジャッロ映画に関わっていたというのは興味深い話だ。先述した人間ドラマ的な要素というのも、ゲッラの意向が反映されたものなのかもしれない。
 また、『Mr.レディMr.マダム』シリーズのマルチェロ・ダノンが製作と原案に携わっているというのも興味深い。彼は実業家から映画製作に転身したイタリア人ビジネスマンで、ジュール・ダッシンのカンヌ受賞作『男の争い』(55)やジャン・ベッケルの『勝負(かた)をつけろ!』(61)など、主にフランスのアート系映画で鳴らした人物だった。
 当時ロシア革命を題材にしたオリバー・リード主演の大作映画“Days of Fury”(73)の製作を準備していた彼は、その資金集めのためにブーム真っ只中だったジャッロに目をつけたのだという。本作はハリウッド大手MGMの配給で世界公開され、思惑通りの収益をダノンにもたらした。しかし、その売り上げを投入して作られた“Days of Fury”は興行的にも批評的にも大惨敗。その後、ダノンは『Mr.レディMr.マダム』で再び大当たりを取るまで借金地獄に苦しめられることとなる。
 そのほか、撮影監督にはナンニ・ロイ監督の傑作レジスタンス映画『祖国は誰れのものぞ』(62)やジッロ・ポンテコルヴォ監督のヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞作『アルジェの戦い』(66)で知られる大御所マルチェロ・ガッティ、美術監督には『情事』(60)や『太陽はひとりぼっち』(62)などのアントニオーニ作品の常連ピエロ・ポレット、編集には『アルジェの戦い』や『高校教師』(72)、『ニューシネマ・パラダイス』(89)のマリオ・モッラ、そして音楽には泣く子も黙る巨匠エンニオ・モリコーネといった具合に、かなりの一流どころをそろえたスタッフの顔ぶれも異色と言えるかもしれない。

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壁にぶつかったテリーニ警部を叱咤激励する妻アンナ

不安がるジェニー(B・バック)をなだめるローラ(C・オージェ)

 顔ぶれの豪華さはキャストも同じ。テリーニ警部役には、当時コメディ映画で急速に頭角を現していた名優ジャンカルロ・ジャンニーニ。いつものアクの強さを極力抑えた演技が効果的で、意外にもダンディでクールな魅力を発揮している。その後、一連のウェルトミューラー作品やヴィスコンティの『イノセント』で国際的な評価を高め、今ではイタリアを代表する大御所俳優としてハリウッド映画でも活躍しているのはご存知の通り。
 その妻アンナ役を演じるステファニア・サンドレッリも、『イタリア式離婚狂想曲』(62)や『誘惑されて棄てられて』(63)、『暗殺の森』(70)などで高い評価を受け、当時人気・実力共にイタリアで随一の若手女優だった。そもそも、彼女がこの種のホラー映画に出演するのは非常に稀。特に当時はほとんどあり得ないことだったので、どのような経緯でこの作品への出演が決まったのか興味深いところだ。
 高級エステの女性経営者ローラ役には、ボンド・ガールとしてもお馴染みのフランス女優クロディーヌ・オージェ。ジェニー役のバーバラ・バックも後にボンド・ガールを経験するし、マリア役のバーバラ・ブーシェも番外編『007/カジノ・ロワイヤル』(67)でボンド映画は経験済み。
 そのほか、マカロニ・ウェスタンでもお馴染みのアナベラ・インコントレッラ、フェリーニ映画にも出ていた有名な舞台女優ロッセラ・ファルク、マフィア映画やアクション映画の悪役として知られるシルヴァーノ・トランキーリ、ティモシー・ブレントの名前でマカロニやバトル・アクションなどに主演したジャンカルロ・プレーテら、イタリア映画ファンには馴染みの深い役者がズラリと脇を固めている。

 

 

La coda dello scorpione (1971)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 No Shame Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:1/90分
/製作:イタリア・スペイン

特典映像
メイキング・ドキュメンタリー(マルティーノ監督、製作者L・マルティーノ、脚本家E・ガスタルディ、G・ヒルトンのインタビュー収録)
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
脚本:エルネスト・ガスタルディ
   エドゥアルド・マンザノ・ブロケーロ
   サウロ・スカヴォリーニ
撮影:エミリオ・フォリスコット
音楽:ブルーノ・ニコライ
出演:ジョージ・ヒルトン
   アニタ・ストリンドバーグ
   イヴリン・スチュワート
   アルベルト・デ・メンドーザ
   ルイジ・ピスティッリ
   ジャニーヌ・レイノー
   トム・フェレギー
   ルイス・バルボー
   トーマス・ピコ

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夫が旅客機事故で死んだことを知らされた人妻リサ(E・スチュワート)

保険金の受け取りでアテネに到着したリサを監視する男

 イタリア産娯楽映画の名匠セルジョ・マルティーノ監督にとって2本目のジャッロ作品。『影なき陰獣』(73)の2年前に作られた作品になるわけだが、これが推理サスペンスとしても猟奇ホラーとしてもすこぶる良く出来た傑作だ。
 まず、物語の前半と後半で主人公が入れ替わるというプロットが上手い。前半の主人公はイギリス人の人妻リサ。夫を飛行機事故で亡くした彼女が、莫大な生命保険金を受け取りにギリシャのアテネへと向かうところから始まる。実は、彼女は夫に隠れて浮気をしていた。さらに、保険金の額が莫大であること、そして彼女が現金での受け渡しに固執したことから、保険会社はピーター・リンチという調査員を派遣して彼女の身辺を洗う。
 ところが、そのリサがホテルで何者かに殺害され、保険金が奪い取られてしまった。亡き夫の愛人だった女性ララとボディガードのシャリフが容疑者として浮上するが、彼らもまた何者かによって惨殺される。保険金の行方を巡って次々と繰り返される連続殺人。リンチはフランス人女性記者クレオの協力で、警察やインターポールと共に犯人を追う。やがて、事件現場から発見されたカフスリンクがリサの夫のものと判明。果たして、犯人は死んだはずのリサの夫なのか?
 いかにも怪しげな登場人物たちを散りばめながら、次々と観客の予想を裏切っていくストーリー展開は実に巧妙。伏線の張り方も手が込んでいるし、物語の流れに沿った登場人物の配置も非常によく計算されている。警察やインターポール捜査官も含めて、あらゆる人物に容疑者の可能性を残しながら物語が進行するのだ。脚本の完成度でいえば、数あるジャッロ映画の中でも屈指の出来栄えと言えよう。
 さらに、フレンチ・ノワールを彷彿とさせるクールなカメラワーク、細かいカットやクロースアップ、スローモーションを駆使しながら巧みにディテールを織り込んでいくスタイリッシュな編集も見事。マルティーノ監督はコスタ=ガヴラスの『Z』を参考にして本作を撮ったというが、その演出スタイルはビックリするくらいにアーティスティックだ。
 もちろん、ジャッロ映画ならではの血みどろバイオレンスも盛りだくさん。中でも、ナイフで掻っ切られたララの喉元から鮮血が吹き出すシーンは印象深い。全体的に、当時としてはかなり刺激的なスプラッターを楽しむことが出来る。殺人鬼の情け容赦のなさも十分に怖い。ただし、いかにもミニチュア然とした冒頭の旅客機事故シーンだけは残念な出来栄え。旅行会社のデスクに置いてあるようなプラスチック・モデルを、そのまま使っているのはちょっと痛い。
 いずれにせよ、最後の最後まで見応えのある一本。全てのジャッロ・ファンに自信をもっておススメできる作品だ。

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男の正体は保険会社の調査員ピーター(G・ヒルトン)だった

夫の愛人ララ(J・レノー)が保険金の分け前を主張する

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なぜか現金での受け取りに固執するリサ

謎の侵入者によってリサが殺されてしまった

 愛人ジョージ(トーマス・ピコ)との情事を楽しんでいた人妻リサ・バウマー(イヴリン・スチュワート)のもとへ、警察から一本の電話が入る。夫の乗った東京行きの旅客機が、原因不明の事故で墜落したというのだ。その数日後、今度は保険会社から彼女のもとへ連絡があった。1年前に夫が多額の生命保険をかけていたというのだ。その事実を彼女は知らなかったというが、保険会社は念のため調査員に命じて彼女の身辺を洗うことにする。
 保険会社を後にしたリサを尾行する男がいた。以前の愛人フィリップだ。彼は、リサが過去に夫への不満を書き綴った手紙をネタに、保険金の分け前を要求してきたのだ。フィリップの自宅を訪ねたリサだったが、彼は何者かによって殺されており、手紙も消えていた。
 ほどなくして、リサに保険金が下りることとなった。ただし、手続きはギリシャのアテネで行われる。出張の多かった夫は、ギリシャ滞在中に保険加入していたのだ。アテネのホテルへ到着した彼女に、ピーター・リンチ(ジョージ・ヒルトン)という男が接近してくる。リサは、彼が保険会社の調査員であることを見抜いた。
 そんな彼女に一通の伝言が届く。指定された劇場へ到着した彼女を待っていたのは、夫バウマーの愛人だった女性ララ(ジャニーヌ・レイノー)とボディガードのシャリフ(ルイス・バーボー)だった。ララによると生前のバウマーはリサと離婚するつもりで、生命保険の契約内容も書き換えるはずだったという。彼女はそれに気付いたリサが旅客機に爆弾を仕掛けた、自分にも保険金の分け前にあずかる権利があると主張する。
 身の危険を感じたリサは、とっさに劇場を逃げ出した。その後を追いかけてくるララとシャリフ。間一髪のところで、リサはピーターに救われた。多額の保険金を受け取る人間は用心しないといけない。
 その翌日、リサは保険会社の事務所で手続きを行った。どうしても全額現金で欲しいという彼女に怪訝そうな顔を浮かべる担当者。その足で旅行代理店を訪れた彼女はなぜか東京行きのチケットを手配し、ホテルのチェックアウト・タイムを変更する。その直後、彼女は謎の侵入者によって惨殺された。
 一方、ホテルのロビーではピーターがリサのチェックアウトを待っていた。女性一人で多額の現金を持ち歩くのは危険だからだ。時間を過ぎても彼女が降りてこないことを不審に思った彼は、ホテルの従業員と共に彼女の部屋へ。そこで血まみれになったリサの死体を発見する。
 捜査を担当することになったスタヴロス刑事(ルイジ・ピスティッリ)は、事情聴取のためにピーターを警察署へ連れて行った。ホテルの前には多数のマスコミ関係者が駆けつけていたが、その中のフランス人女性記者クレオ(アニタ・ストリンドバーグ)はハンサムなピーターに興味を引かれる。
 実は、ピーターの知らないところで同じようにリサの動向をマークしていた人物がいた。インターポール捜査官スタンレー(アルベルト・デ・メンドーザ)である。彼の証言でピーターのアリバイが立証されたが、スタヴロス刑事は保険調査員という職業そのものに偏見を持っているようだ。
 いずれにせよ、犯人につながる証拠は現場に残されていなかった。なぜ彼女がロンドンではなく東京に行き先を変更したのか?そして、なぜ現金にこだわったのか?大きな疑問だけが残された。
 ホテルへ戻ったピーターに、クレオが取材を申し込んでくる。二人はたちまち惹かれあった。リサを救えなかったことに自責の念を感じているピーターを、クレオは優しくいたわる。一方、スタンレーはピーターの証言から、ララとシャリフの身辺を調べ始めた。ところが、彼らもまた謎の殺人鬼によって血祭りに上げられる。
 さらに、ピーターが帰った直後にクレオが殺人鬼に襲われた。間一髪のところでピーターが助けに入り、クレオは一命を取り留める。そして、その現場から犯人のものと思われる金のカフスリンクが発見された。
 それはスコルピオンを模った奇妙なものだ。スタンレーが調査したところによると、どうやらトルコで作られたものらしい。ピーターはどこかで見覚えがあると感じていた。その時、クレオが新聞に掲載されていた故バウマーの写真に気付く。
 彼女は自宅の機材を使って、その写真を拡大していった。すると、バウマーのワイシャツの袖口にはめられたカフスリンクが、例のスコルピオン型のものとソックリであることが判明する。果たして、飛行機事故で死んだはずのバウマーは生きているのか?やがて、一連の事件の裏に隠された巧妙なトリックと、1年前から仕組まれていた恐るべき陰謀の全容が明らかとなる・・・。

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スタヴロス刑事(L・ピスティッリ)はピーターに疑いの目を向ける

女性記者クレオ(A・ストリンドバーグ)と親しくなるピーター

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今度はララが何者かによって惨殺される

取材を続けるクレオの身にも危険が・・・

 最後の最後まで二転三転するトリックの仕掛けはなかなかのもの。ジャッロお得意のご都合主義が最大限まで排除されているのは非常に好感が持てる。原案と脚本にはイタリアン・ホラーの傑作『悪魔の微笑』(72)で知られるエドゥアルド・マンザノ・ブロケーロが携わっているが、ここではエルネスト・ガスタルディの存在も無視できないだろう。西部劇からゾンビまで幅広いジャンルで活躍したイタリア産娯楽映画きっての脚本家ガスタルディだが、中でもジャッロ映画における謎解きのトリックは得意中の得意だった。その職人芸が本作でも存分に生かされていると見ていいように思う。なお、『狼の挽歌』(70)を手掛けたサウロ・スカヴォリーニが参加しているのにも注目したい。
 そのほか、ポール・ナッシー主演の『吸血鬼ドラキュラ対狼男』(68)やマカロニ・ウェスタンで知られるスペインのカメラマン、エミリオ・フォリスコットが撮影監督を、マルティーノ監督作品やウンベルト・レンツィ監督作品などの常連であるエウジェニオ・アラビソが編集を、『エスカレーション』(67)や『黄金の眼』(68)でモダンな60'sファッションを手掛けたルチアーナ・マリヌッチが衣装デザインを、『エル・シド』(61)や『ドクトル・ジバゴ』(65)などのハリウッド産スペクタクル大作で知られるマリオ・ヴァン・リエルが特殊メイクを担当。
 さらに、モリコーネの盟友としてもお馴染みのブルーノ・ニコライが、フリー・ジャズ・スタイルのクールな音楽スコアを披露。これが非常にエッジの効いた作品で、エウジェニオ・アラビソの巧みな編集と実に絶妙な絡み合いを見せてくれる。

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襲い来る殺人鬼に必死の抵抗を試みるクレオ

捜査官スタンレー(A・デ・メンドーザ)は奇妙なカフスリンクを発見

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リサの愛人だったジョージ(T・ピコ)も殺害される

クレオとピーターは報道写真に隠された驚くべき事実に気付く

 どこか陰のある保険調査員ピーター・リンチ役を演じているのは、ジャッロ・ファンのみならずマカロニ・ウェスタン・ファンにもお馴染みのクール・ダンディ、ジョージ・ヒルトン。ネタバレになるので詳しくは言及しないが、ここでは彼のキャリアの中でもベストに入るような大熱演を披露している。
 一方、物語の前半を引っ張る女性リサ役で登場するのは、マカロニ・ウェスタンのヒロインとして数多くの作品に出演したイーダ・ガリことイヴリン・スチュワート。彼女も、一見すると貞淑そうに見えて実はしたたかな女性という難役を演じて非常に上手い。
 そして、物語の後半をリードするフランス人女性記者クレオ役には、『幻想殺人』(71)や『レディ・イポリタの恋人/夢魔』(74)で知られるスウェーデン人女優アニタ・ストリンドバーグ。決して演技力のある女優ではないものの、そのミステリアスで超然とした美しさはスクリーンに登場するだけで絵になる。
 また、インターポール捜査官スタンレー役のアルベルト・デ・メンドーザ、スタヴロス刑事役のルイジ・ピスティッリも作品に渋い魅力を添えている。中でも、最後までつかみどころのない男スタンレーを独特のニヒルな魅力で演じたメンドーザの存在感は抜群。マカロニ・ウェスタンの悪役として有名なピスティッリも、堅物だが人情味のあるスタヴロス刑事役で実にいい味を出している。
 そのほか、ジェス・フランコ作品で知られる悪女系セクシー女優ジャニーヌ・レノー、マカロニ・ウェスタンの無法者役でお馴染みの怪優ルイス・バルボーといった個性的な役者が登場。この絶妙なキャスティングと達者な俳優の演技が、本作の優れた脚本と演出にさらなる真実味を与えていると言っていいだろう。

 

 

Sette orchidee macchiate di rosso (1972)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に未発売

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(P)2003 Shriek Show (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/92分/製作:イタリア・西ドイツ

特典映像
U・レンツィ監督 インタビュー
G・ジョルジェッリ インタビュー
オリジナル劇場予告編
監督:ウンベルト・レンツィ
製作:ランベルト・パルミエリ
原案:ウンベルト・レンツィ
脚本:ロベルト・ジャンヴィーティ
   ウンベルト・レンツィ
撮影:アンジェロ・ロッティ
音楽:リズ・オルトラーニ
出演:ウッシー・グラス
   アントニオ・サバト
   ピエル・パオロ・カッポーニ
   マリーザ・メル
   ロッセラ・ファルク
   クラウディオ・ゴーラ
   マリーナ・マルファッティ
   レナート・ロマーノ
   ガブリエラ・ジョルジェッリ
   ぺトラ・シュールマン
   カルラ・マンシーニ

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娼婦イネス(G・ジョルジェッリ)が何者かに撲殺される

手元には三日月型のアミュレットが

 ウンベルト・レンツィ監督といえば、ポリス・アクションやカンニバル映画の強烈なバイオレンス描写でタランティーノからも敬愛されるカルト・ディレクターだが、その一方で『狂った蜜蜂』や『殺意の海』といったアルジェント以前のジャッロ映画でも知られるジャンルのパイオニア的存在。そんな彼がブーム全盛期に発表した異色作がこれだ。
 ローマ市内で女性ばかりを狙った連続殺人事件が発生。犯人への手がかりとなるは、死体の手元に置かれた三日月型のアミュレットだ。結婚を間近に控えた若い女性ジュリアも殺人鬼に襲われるが、かろうじて一命を取りとめた。担当刑事の判断で死亡が偽装され、警察の保護下に置かれることとなった彼女は、婚約者マリオと共に事件の謎に迫る。果たして、彼女はなぜ犯人に狙われたのか?
 実は、被害者たちのいずれもが2年前に偶然同じホテルに滞在していた。宿泊客名簿をもとに次の犯行を未然に防ごうと奔走するジュリアとマリオ。そんな彼らを嘲笑うかのように繰り返される残虐な殺人。やがて、2年前に交通事故死した男性の悲劇的な最期を巡る謎が浮かび上がってくる・・・。
 冒頭の臨場感溢れる売春婦殺害シーンが強烈なインパクトを残す本作。たまたま同じ日に同じホテルに泊まった人々が殺されていくというアイディアも面白いし、主人公と殺人鬼のいたちごっこを描いていく展開もなかなかスリリングだ。カルト女優マリーザ・メルがドリルで殺害されるシーンも印象深い。
 しかし、殺人鬼の犯行動機が明らかとなるに従って、ストーリーはみるみるうちに疾走していく。というのも、犯人は2年前の交通事故で死亡した男性の関係者で、車に同乗しながら男性を見殺しにして逃げた女性へ復讐しようとしていた。しかし、その女性がとあるホテルの宿泊客だったいうことしか分らないため、名簿に載っている女性を片っ端から殺していたのである。短絡的というか無鉄砲というか(笑)
 ただ、とかく大味な演出に終始してしまいがちなレンツィ監督にしては珍しく、とてもスタイリッシュで洗練された映像を堪能できるのは嬉しい驚きだろう。殺害シーンのスプラッター指数自体はワリと控えめだが、容赦のない暴力描写にはレンツィ監督らしさを感じることが出来る。彼のジャッロ作品の中ではベストの部類に入る一本だと思う。
 ちなみに、原題は“赤く染まった7本の蘭”という意味。劇中で何者かが墓石にたむけた蘭の花束に由来するタイトルだ。

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ヴィスマーラ警部(P・P・カッポーニ)は宗教がらみを疑う

結婚を間近に控えたマリオ(A・サバト)とジュリア(U・グラス)

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パーティ会場から自宅に戻った画家キャシー(M・マルファッティ)

何者かがキャシーの部屋に忍び込んでいた


 空き地で客引きをしている若い売春婦イネス(ガブリエラ・ジョルジェッリ)が何者かに撲殺される。死体の手元には三日月型のアミュレットが残されていた。捜査を担当するヴィスマーラ警部(ピエロ・パオロ・カッポーニ)は、事件の背後に宗教的な因習が絡んでいるのではないかと疑う。
 その晩、ローマ市内に住むアメリカ人の女流画家キャシー・アダムス(マリーナ・マルファッティ)は、展覧会のパーティを終えて自宅アトリエへ戻った。愛猫にミルクを与えて着替えるキャシー。すると、キッチンから猫たちのうめき声が聞こえてくる。急いで駆けつけると毒を盛られた3匹の猫が床に倒れており、ミルクを入れた皿の数が増えていた。狼狽する彼女に襲いかかる黒づくめの侵入者。キャシーは喉元を切り裂かれて絶命する。
 それから程なくして、夜行列車に乗った女性ジュリア(ウッシー・グラス)は、婚約者マリオ(アントニオ・サバト)が席を外している隙に何者かによって襲われる。だが、物音に気付いた乗務員が駆けつけたため、犯人はジュリアの息の根を止める間もなく逃げ出した。
 翌日、新聞にはジュリアの殺害事件が大々的に報道され、彼女の葬儀まで執り行われた。実際には軽傷で済んだのだが、再び彼女が犯人に狙われることを恐れたヴィスマーラ警部の判断で、死亡が偽装されたのである。マリオは警察の捜査に協力するものの、ジュリアが命を狙われる理由など見当たらない。
 ジュリアの亡き父親はリゾート・ホテルの経営者だった。最初に殺されたイネスがそのホテルのメイドであったことが判り、当時彼女の恋人だったラウル(ネロ・パッザフィーニ)という男が容疑者として逮捕された。しかし、三日月型のアミュレットを目にしたジュリアは、あることを思い出した。
 実は、2年前にホテルのカフェへやって来たアメリカ人男性が全く同じアミュレットをキーホルダーにつけていたのだ。だが、その男性が何者だったのかは思い出せない。彼女は早速マリオを伴なって、今は他人の手に移ったホテルへと向かう。
 当時の宿泊客名簿を確認したところ、特定の日のページだけが破り取られていた。前後のページを確認したジュリアとマリオは、宿泊客の中にキャシー・アダムスの名前を発見する。イネスがホテルのメイドだったことを含めて考えると、犯人が当日ホテルにいた女性を狙っていることは明らかだった。
 残された名簿リストをチェックした二人は、現時点でイタリア国内に住んでいる女性数名をピック・アップ。中でも、ホテルから比較的近い場所に住んでいるエレナ・マルキ(ロッセラ・ファルク)という女性が次のターゲットになる可能性が高かった。
 事態が一刻を争うと判断したジュリアとマリオは、急いでエレナの住所へと向かう。ところが、彼女は近隣の精神病院へ入院してしまっていた。ようやくエレナの居場所を探し当てた二人だったが、彼女はバスタブの中で溺死していた。もちろん、現場には三日月型のアミュレットが。
 警察は市内の学校で教師を務める女性コンチェッタ(ペトラ・シュールマン)が次のターゲットと考え、先回りして彼女の身柄を保護した。だが、警護についた刑事が目を離した隙に、コンチェッタは教会の懺悔室で殺されてしまう。
 その頃、マリオは2年前にホテルに宿泊していたラファエレ・フェッリ(クラウディオ・ゴーラ)という中年男性を訪ねる。フェッリ氏はアミュレットを持ったアメリカ人男性のことを記憶していた。その男性はフランクと名乗り、熱心なカトリック信者だったという。
 フランクの行方を捜したマリオは、バレット(ブルーノ・コラッザーリ)というアメリカ人のジャンキーのもとへとたどり着く。バレットによると、フランクは2年近くも行方不明だという。ただ、当時彼にはイタリア人の恋人がいたらしい。
 フランクが住んでいたという古いアパートを訪ねたマリオのもとに、彼の居場所を知らせる匿名の電話がかかってくる。ところが、そこは市内の墓地だった。フランクは2年前に死亡していたのである。当時彼の検視を担当した医者によると、フランクは交通事故で死んだらしい。彼の車には恋人だった女性が同乗していたらしいが、瀕死の彼を見殺しにして現場から立ち去っていた。その女性の身元はいまだに不明だという。
 だが、フランクがその女性とジュリアのホテルで落ち合っていたらしいことは分っていた。つまり、犯人は死んだフランクをよく知る人物で、彼を見殺しにした女性に復讐を果たそうとしているのだ。だが、相手の身元が分らないことから、当日の宿泊客の中から女性だけを狙って片っ端から殺していたのである。
 その頃、海外旅行から帰った裕福な人妻アンナ(マリーザ・メル)が警察に身柄を保護された。彼女もホテルの宿泊客だったからだ。しかし、その直後に彼女の双子の妹マリアがドリルで惨殺される。アンナと間違えられたのだ。
 犯人の動機は分ったものの、その正体は相変わらず五里霧中の状態。そこで、ジュリアは犯人をおびき出すために、ある危険な行動に出ることを決意する・・・。

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夜行列車の中でジュリアが襲われる

ヴィスマーラ警部の捜査に協力するマリオ

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ジュリアは2年前のホテル宿泊客が狙われていると気付く

精神病院でエレナ(R・ファルク)が殺害される

 監督のウンベルト・レンツィによると、彼はアメリカのスリラー作家コーネル・ウーリッジの小説をヒントに本作のストーリーを考え付いたという。しかし、イギリスのスリラー作家エドガー・ウォレスの人気が高かった西ドイツでは、勝手にウォレス作品の映画化として劇場公開されている。
 そのレンツィ監督と共に脚本を担当したのは、『幻想殺人』(72)や『マッキラー』(74)、『ザ・サイキック』(77)といったルチオ・フルチ監督の傑作ジャッロを手掛けたことで知られるロベルト・ジャンヴィーティ。半ば強引で無茶な設定にも関わらず、辛うじて破綻を免れた脚本の出来栄えは、彼の功績によるところが大きいのかもしれない。
 また、60年代に数多くのスパイ・アクションやアダルト・コミック物を手掛けたアンジェロ・ロッティが撮影監督を担当。そのほか、『レッド・ソニア』(85)や『M:I:V』(06)などのハリウッド映画にも参加したジャコモ・カーロ・カルドゥッチが美術デザインを、マリオ・バーヴァ監督の『ファイブ・バンボーレ』(70)などでモダンなファッションを手掛けたジュリア・マファイが衣装デザインを、レンツィ作品の常連エウジェニオ・アラビソが編集を担当している。
 なお、音楽スコアには『世界残酷物語』(62)のテーマ曲“モア”で有名な名匠リズ・オルトラーニがクレジットされているものの、実はこれ、マリーザ・メルも出演したルチオ・フルチ監督のジャッロ映画“Una sull'altra”(69)のために書かれたスコアをそのまま流用したものである。
 ちなみに、女優ガブリエラ・ジョルジェッリの証言によると、現代イタリア映画界を代表する巨匠ナンニ・モレッティが本作のファンで、中でも冒頭のイネス殺害シーンは劇場で何度も繰り返し見たというほどのお気に入りだったらしい。真偽のほどは定かでないが(笑)。

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フェッリ氏(C・ゴーラ)はアメリカ人男性のことを覚えていた

アメリカ人バレット(B・コラッザーリ)にフランクの行方を尋ねる

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フランクは2年前に交通事故で他界していた

海外旅行から帰国した人妻アンナ(M・メル)が保護される

 ヒロインのジュリア役を演じている女優ウッシー・グラスはドイツ出身で、エドガー・ウォレス原作のクリミ映画“Der Monch mit der Peitsche”(67)のヒロイン役としてユーロ・ホラー・ファンには知られている。コケティッシュでチャーミングなお転婆娘といった感じで、ドイツでは現在もテレビを中心に活躍を続けているようだ。
 その婚約者マリオ役には、マカロニ・ウェスタンやマフィア映画で当時引っ張りだこだった俳優アントニオ・サバト。元カルヴァン・クラインのモデル、アントニオ・サバト・ジュニアの父親といった方が分りやすいだろうか。正直、役者としての魅力に乏しい人ではあるのだが、本作ではウッシー・グラスのサポート役に徹しているのが幸いだったと言えるかもしれない。
 ヴィスマーラ警部役で渋い存在感を発揮するのが、マフィア映画の悪役で知られる名優ピエル・パオロ・カッポーニ。アルジェントの『わたしは目撃者』(72)でも刑事役をやっていた人だ。
 さらに、『タランチュラ』にも出ていた名舞台女優ロッセラ・ファルクが、バスタブで溺死させられる女性エレナ役を大熱演。そのほか、『黄金の眼』(68)のエヴァ・ケント役で人気の高いエキゾチック美女マリーザ・メル、戦前・戦中の2枚目スターだった名優クラウディオ・ゴーラ、“La notte che Evelyn usci dalla tomba”(71)などエミリオ・ミラリア監督作品で知られるエレガント美女マリナ・マルファッティ、マカロニ・ウェスタンのメキシコ女役でお馴染みだった女優ガブリエラ・ジョルジェッリなどの多彩なキャストが脇を固めている。

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DVD特典映像でインタビューに応えるG・ジョルジェッリ

 

ソランジェ 残酷なメルヘン
Cosa avete fatto a Solange? (1972)

日本では劇場未公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

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(P)2000 EC Entertainment (UK)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(イギリスNTSC盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/102分/製作:イタリア・西ドイツ

特典映像
スチル・ギャラリー
監督フィルモグラフィー
監督:マッシモ・ダラマーノ
製作:レオナルド・ペスカローロ
   フルヴィオ・ルチサーノ
原作:エドガー・ウォレス
脚本:ブルーノ・ディ・ジェロニモ
   マッシモ・ダラマーノ
撮影:アリスティド・マッサチェージ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ファビオ・テスティ
   カリン・バール
   ヨアキム・フックスベルガー
   クリスティーヌ・ガルボ
   カミーユ・キートン
   ギュンター・ストール
   クラウディア・ボテヌース
   カルラ・マンシーニ

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テムズ河沿いでボート遊びを楽しむ一組のカップル

エリザベス(C・ガルボ)は殺人現場を目撃してしまう

 『毛皮のビーナス』(69)や『ドリアン・グレイ/美しき肖像』(70)といった、スタイリッシュなエクスプロイテーション映画で人気の高いマッシモ・ダラマーノ監督が初めて手掛けたジャッロ作品。“残酷なメルヘン”と銘打たれた邦題にはいささか違和感を覚えるものの、当時のジャッロ・ブームの中にあって、かなり異彩を放つ作品であったことは間違いないだろう。恐らく、熱心なジャッロ・ファンでも好き嫌いがハッキリと分かれてしまうタイプの作品ではないだろうか。
 舞台となるのはイギリスのカトリック系女子校。教師ロッシーニと秘かにデートを楽しんでいた学生エリザベスは、クラスメートが何者かに殺される瞬間を目撃してしまう。殺人現場を見に戻ったことから、警察に容疑者としてマークされてしまうロッシーニ。未成年であるエリザベスとの関係が明るみになるとまずいため、彼はなかなか真実を打ち明けることができない。
 ところが、またしても女生徒が殺されるという事件が発生。ロッシーニは担当警部にだけ真実を話し、エリザベスと共に警察の捜査へ協力するようになる。だが、殺人犯の魔の手はエリザベスにまで及び、彼女はバスタブで殺されてしまう。やがて明らかとなる消えた少女ソランジェの存在。果たして、犯人はなぜ女生徒ばかりを狙うのか?そして、彼女たちの友達だったソランジェにいったい何が起きたのか?
 おおまかなプロットだけ見れば、ごくありきたりのジャッロ映画とった印象。ただ、本作が数多のジャッロ作品と一線を画しているのは、謎解きのトリックや血生臭い殺人シーン、過激なセックスとバイオレンスといった見せ場に全く重きを置いていないという点にあるだろう。
 本作の中核を成しているのは、主人公の教師ロッシーニとその妻ヘルタの複雑な夫婦関係である。プレイボーイで社交的なイタリア人ロッシーニと、生真面目で堅物なドイツ人ヘルタ。二人の関係は完全に冷え切っている。しかし、予期せぬ災難に見舞われた夫を前にしたヘルタは、誰もが疑惑の目を向ける中でただ一人、毅然とした態度で彼を弁護する。たとえ彼が年下の女生徒と浮気をしていたとしても、それは妻として至らなかった自分の責任だと。そんな妻の信念にも似たような強い愛情に支えられ、ロッシーニは忘れかけていた彼女への想いを再確認していく。連続殺人事件の渦中に巻き込まれたことによって、徐々に再生していく夫婦の絆。ダラマーノ監督はきめ細かい心理描写を重ねながら、そんな二人の心の軌跡を情感豊かに描いて秀逸だ。
 さらに、多感な思春期を迎えた少女たち特有の閉鎖社会というのも、本作の重要なテーマとなっている。恋と性に目覚め、仲間同士でお互いの秘密を共有し合う少女たち。大人と子供の狭間にある彼女たちの危うさこそが、連続殺人事件を引き起こすことになった要因なのだ。
 そう考えると、本作は猟奇殺人を巡って揺れ動く人間の愛と絆を描いたドラマと言えるかもしれない。あくまでも“人殺し”は2次的な要素であり、それゆえに謎解きや殺人はかなりアッサリとした描写に終始している。ヌード・シーンもあるにはあるものの、セクシャルな要素はかなり希薄。ジャッロ映画の醍醐味であるサスペンスや恐怖、エロスといった刺激を求めるファンには賛否両論だろう。
 ただ、それゆえに熱烈なファンの多い作品でもある。ロンドンの自然豊かで閑静な住宅街の風景を瑞々しく捉えた映像も非常に美しい。叙情的で気品のあるモリコーネの音楽スコアも見事な出来栄え。どちらかというとジャッロ・ファンよりも、70年代ヨーロッパ映画ファンに幅広くおススメできる名作だと思う。

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その翌朝、ヒルダという女生徒の死体が発見される

ロッシーニ(F・テスティ)が女学校の教師だった

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ロッシーニの妻ヘルタ(K・バール)は生真面目な堅物

バート警部(J・フックスベルガー)はロッシーニを疑う

 テムズ河沿いでボート遊びを楽しむ一組のカップル。年上の男性ロッシーニ(ファビオ・テスティ)は、恋人エリザベス(クリスティーヌ・ガルボ)の耳元で甘い言葉を囁く。その時、彼女は何者かに追われて逃げる少女の姿を目撃する。気のせいだと無視するロッシーニ。だが、今度はその少女が鋭利なナイフで刺し殺される瞬間をエリザベスは見てしまった。すっかりデート気分をぶち壊れたロッシーニは、彼女を連れて帰路につく。上着からボールペンを落としたことにも気付かないまま。
 その翌朝、テムズ河沿いでヒルダ・エリクソンという少女の他殺体が発見される。彼女はロッシーニが体育教師を務めるカトリック系女子校の生徒であり、エリザベスのクラスメートだった。エリザベスが殺人現場を見たというのは本当だったのか?驚いた彼は出勤前に死体発見現場へと向かい、野次馬に混じって警察の現場検証を見守った。
 ところが、新聞の夕刊に掲載された報道写真で、そのロッシーニの姿が堂々と映ってしまった。妻ヘルタ(カリン・バール)は夫の不可解な行動を非難する。ロッシーニとヘルタは同じ学校の同僚。かつてはおしどり夫婦だったが、遊び好きで女たらしのロッシーニと仕事熱心だが融通の利かないヘルタは正反対の性格だった。いつしか二人はお互いの欠点が目ざわりとなり、今や夫婦仲はすっかり冷え切ったような状態。
 一方、同じく新聞を見た警察のバート警部(ヨアキム・フックスベルガー)は、当然のごとくロッシーニに疑惑の目を向ける。まさか未成年の教え子と不倫をしていたなどとは言えず、矛盾だらけの言い訳をするロッシーニ。さらに運の悪いことに、警察は現場近くの草むらから彼の指紋のついたボールペンを発見した。
 自分のボールペンを目の前に突きつけられ、やむなくバート警部に真実を告白するロッシーニ。それを隣の部屋で聞いていたヘルタは、夫の裏切りを知って深く心を傷つけられる。それでもロッシーニに対する疑いは晴れ、バート警部はエリザベスから詳しい話を聞くことにした。
 その頃、クラスメートの父親を名乗る電話で呼び出された少女ジャネット(ピラール・カステル)が何者かに誘拐され、その翌朝死体で発見された。同じ学校の生徒が立て続けに殺されたことで世間は騒然となる。エリザベスによると、彼女が見た犯人は詰襟の黒い服装をした男だという。それはまるで牧師のようだった。さらに、学校内の礼拝堂で見知らぬ牧師の姿を見かけたという女生徒たちの証言もあり、犯人=牧師説がにわかに信憑性を帯びてくる。
 さらに、今度はエリザベスが入浴中にバスタブへ沈められて殺害されてしまう。現場はロッシーニが彼女との逢引き用に借りたアパートで、しかも彼が第一発見者だった。重要参考人として警察へ連れて行かれたロッシーニ。誰もが彼を犯人だと疑う中、妻ヘルタだけが彼の無実を訴えた。
 バート警部もロッシーニが犯人だとは考えていなかった。すぐに彼の拘束を解くと約束する警部に、嬉しそうな微笑を見せるヘルタ。自宅へ戻った二人はお互いに複雑な感情を抱えながらも、徐々に歩み寄りを見せていく。ヘルタは夫の愛を取り戻すためにも、犯人捜査に協力することを決意した。
 学生たちの事情を探ったヘルタは、死んだヒルダやジャネット、エリザベスたちが秘かに仲良しグループを作っていたことに気付く。なにしろ、相手は年頃の女の子たちだ。女の勘を働かせたヘルタは、少女たちが何らかの秘密を共有していたに違いないと睨む。
 ヒルダたちが年上の大学生とつるんでいたらしいことをヘルタから聞かされたロッシーニは、その大学生の一人と接触する。彼によると、“ソランジェの一件”があって以来少女たちとは疎遠になったという。ソランジェとは一体誰なのか?しかし、ヒルダたちの仲間だということ以外は大学生も知らなかった。
 一方、仲良しグループの一人だったヘレン(ジョヴァンナ・ディ・ベルナルド)は、ロッシーニのポストへこっそりと手紙を残す。そこには、ルース・ホールデン(エミリア・ウォルコウィッツ)という女性の住所が記されていた。だが、その頃ルース・ホールデンも何者かに殺されてしまっていた。
 実は、ルース・ホールデンはかつてヘレンの家で働いていたメイドだった。へレンが何らかの事情を知っていると睨んだ警察は、彼女の周辺をマークすることにする。それからほどなくして、へレンが謎の匿名電話で遊園地へと呼び出される。それも、同じく仲良しグループのメンバーだったブレンダたちを同伴して。
 秘かに警察が見守る中、ヘレンたちは指定された遊園地へとやって来る。そこでヘレンは一人の少女を発見した。ソランジェ(カミーユ・キートン)だ。音信不通となっていた彼女と再会して驚くヘレンだったが、うつろな表情のソランジェは彼女の存在そのものにピンと来ていない様子。刑事たちはそんな彼女たちの姿をマークしていたが、一瞬目を離した隙に二人とも車で連れ去られてしまった。
 果たして、なぜ犯人は仲良しグループの少女たちばかりを付け狙うのか?やがてソランジェの失踪にまつわる、少女たちの罪深い過去が明らかとなっていく・・・。

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教え子の一人ジャネットも殺害される

エリザベスが目撃した犯人は牧師のような姿だった

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ついにはエリザベスまでもが浴槽で殺害されてしまう

お互いに歩み寄り始めるロッシーニとヘルタ

 原作はイギリスの作家エドガー・ウォレスの小説“The Clue of the New Pin”。日本では『キング・コング』の原作者として有名な人物だが、欧米では猟奇スリラーの作家として人気が高い。中でもドイツでは国民的な人気があり、彼の小説の映画化を中心としたクリミ映画なるジャンルまで存在するほど。本作では、そのクリミ映画で活躍したドイツ人スター、カリン・バールとヨアキム・フックスベルガーが出演しているのも興味深いところだ。
 ダラマーノ監督と共に脚本を担当したのは、ウンベルト・レンツィ監督のジャッロ作品『殺意の海』(69)を手掛けた脚本家ブルーノ・ディ・ジェロニモ。また、当時西ドイツ映画界で活躍したフランス人脚本家ピーター・M・トートがノー・クレジットで参加している。
 さらに、ジョー・ダマートの偽名で数多くのエログロ映画を監督したアリスティド・マッサチェージが撮影監督を担当。また、マルコ・ベロッキオの『肉体の悪魔』(86)やラース・フォン・トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00)のレオ・ペスカローロとマリオ・バーヴァの『バンパイアの惑星』(65)や巨匠ゼフィレッリの『トスカニーニ』(88)を手掛けたフルヴィオ・ルチサーノがプロデューサーに名を連ねている。
 そのほか、『警視の告白』(71)や『ヒッチハイク』(77)のアントニオ・シシリアーノが編集を、『皆殺しのジャンゴ』(68)や『シシリアン・クロス』(76)のガストーネ・カルセッティが美術監督を、そして巨匠エンニオ・モリコーネが音楽を担当。中でもモリコーネのスコアはジャッロ映画屈指の傑作だ。

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ヘルタは少女たちの内情を探る

大学生からソランジェという少女の存在を知らされるロッシーニ

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ヘレン(G・D・ベルナルディ)のもとに匿名電話が

うつろな目をした少女ソランジェ(C・キートン)

 主人公ロッシーニ役を演じるのは、当時巨匠デ・シーカの『悲しみの青春』(70)やジュゼッペ・パトローニ・グリッフィの『さらば美しき人』(71)で脚光を浴びていた2枚目俳優ファビオ・テスティ。その後はマフィア映画やポリス・アクションへの出演が増えていくが、シャーロット・ランプリングやウルスラ・アンドレスなどの大物女優相手に次々と浮名を流し、ハリウッド映画にも何本か出演した国際的なスターだった。
 その浮気相手の少女エリザベスを演じているのが、『象牙色のアイドル』(69)や『悪魔の墓場』(74)といったカルト映画で根強い人気を誇るスペイン出身の美少女スター、クリスティーヌ・ガルボ。
 だが、本作で圧倒的な存在感と演技力を発揮しているのは、ロッシーニの妻ヘルタ役を演じているドイツ人女優カリン・バールだろう。冒頭ではいかにも怖そうな堅物女教師として威圧感を見せ付けながら、物語が進むにつれて徐々に愛らしい女性的な面を覗かせていくその巧みな演技は見事なもの。日本では圧倒的に知名度の低い人だが、本国では今も現役で活躍している名女優だ。
 そのほか、50年代から60年代にかけてドイツの戦争映画やクリミ映画のヒーローとして活躍したヨアキム・フックスベルガー、喜劇王バスター・キートンの孫娘でカルト映画『発情アニマル』(78)のヒロインとしても知られるカミーユ・キートン、クリミ映画の刑事役としても活躍したギュンター・ストール、アンソニー・ヴァーノン名義で『続・夕陽のガンマン』(66)などマカロニ・ウェスタンの悪役を数多く演じたアントニオ・カザーレらが脇を固めている。

 

 

スパズモ
Spasmo (1974)
日本では劇場未公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済
(北米盤DVDは日本盤と別仕様)

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(P)2002 Shriek Show (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/94分/製作:イタリア

特典映像
U・レンツィ監督 インタビュー
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:ウンベルト・レンツィ
製作:ウーゴ・トゥッチ
原案:ピノ・ボレール
脚本:マッシモ・フランチョーザ
   ウンベルト・レンツィ
   ルイザ・モンタニャーナ
   ピノ・ボレール
撮影:グリエルモ・マンコリ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ロバート・ホフマン
   スージー・ケンドール
   イワン・ラシモフ
   グイド・アルベルティ
   モニカ・モネ
   アドルフォ・ラストレッティ
   マリア・ピア・コンテ
   フランコ・シルヴァ

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真夜中の森でデート中の男女が首吊り死体を発見

それはマネキン人形だった

 ウンベルト・レンツィ監督のジャッロ作品でどれがベストかと聞かれたら、個人的には間違いなく本作を選ぶだろう。謎が謎を呼ぶ混沌としたストーリー展開、善人と悪人の立場が180度入れ替わってしまう驚愕のどんでん返し、随所にマネキン人形を配したシュールでビザールな映像、そして思わずなるほどと納得してしまう皮肉なクライマックス。よくよく考えるとかなり無理のある設定なのだが、そんな不条理を微塵も感じさせないパワーで観客を混沌の渦中へと引きずり込んでいくレンツィ監督の力技は圧巻。妖しくも哀しいモリコーネのテーマ曲も最高だ。
 主人公は裕福な青年クリスチャン。彼は海辺で気を失っていた美しい女性バーバラに魅了される。ところが、彼女との逢引きの最中に拳銃を持った謎の男がバスルームへ侵入。その場に居合わせた彼は、拳銃を奪って男を殺してしまった。慌ててバーバラを連れて逃げ出すクリスチャンだったが、部屋にアクセサリーを残してきたことに気付いて戻ったところ、男の死体は忽然と消えていた。
 バーバラの友人の留守宅に身を隠すことにしたクリスチャン。ところが、そこにはマルコムという老人とクロリンダという謎めいた美女が住んでいた。どちらもクリスチャンとは初対面のはずだが、なぜだか彼には見覚えがある。また、誰かが屋敷を監視しているような様子もあった。そればかりか、例の謎の男まで屋敷の敷地内をうろついている。果たして、誰かが彼を殺人者に仕立て上げようとしているのか?もしくは、彼を精神的に追いつめようとしているのだろうか?
 さらに、クリスチャンの周囲で人々が次々と殺されていく。やがて明らかとなるクリスチャンの兄フィリップの存在、大富豪だった両親の謎の死、そして一家に流れる呪われた血。全ては血を分けた兄フィリップが仕掛けた罠なのか?しかし、一連の事件の背景には、クリスチャン自身の恐るべき秘密が深く関わっていた・・・。
 クリスチャンの身柄を確保するためだけに、なぜ兄フィリップがこれほどまで手の込んだ茶番劇を仕組まなくてはいけないのか?というのがプロット上における最大の弱点だろう。あまりにも現実的ではないのだが、それが殆んど気にならなく感じてしまうくらい、冒頭から謎と疑問のつるべ打ちで観客を作品世界へ一気に引き込んでいく。複雑で入り組んだ人間関係の描写やフラッシュバックを効果的に使った編集も手堅い。
 また、物語の舞台となる場所周辺の森では、女性のマネキン人形が首をつられたり、腹にナイフを刺されたりした状態で見つかるという怪事件が多発。この一見すると本筋とは無関係にしか思えない奇妙なサブプロットが、クライマックスで驚くべき意味を持ってくる。まさに、してやられたりといった感じだ。
 突飛なアイディアや飛躍するストーリーはジャッロの十八番とはいえ、これだけ上手いこと誤魔化すことが出来た作品も珍しいだろう(笑)とりあえず、深くを考えないまま物語の流れに身を任せて欲しい。存分にジェットコースターライドを楽しめるはずだ。
 なお、本作のアメリカ公開時には、ジョージ・A・ロメロ監督の別撮りした残酷シーンが編集で追加されたという。そのことについてレンツィ監督は、“少なくともロメロは私の作品に手を加えることを事前に教えるべきだった。それを怠ったのは、芸術家としてあるまじき行為だ”と不快感を顕わにしている。

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海岸へやって来たクリスチャン(R・ホフマン)とセニア(M・P・コンテ)

海辺で気絶していた女性バーバラ(S・ケンドール)を発見

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クリスチャンとバーバラはモーテルで一夜を過ごすことに

侵入してきた謎の男(A・ラストレッティ)を殺してしまう

 真夜中のデートを楽しんでいた若いカップル。森の中で抱擁を交わす二人は、木の枝からぶら下がった女性の首吊り死体を発見して驚く。ところが、それは人間ではなくマネキンだった。首を傾げる男女。その時、二人は近くを走り去る一台の車を目にした。
 ドライブで海辺へとやって来た青年クリスチャン(ロバート・ホフマン)とガールフレンドのセニア(マリア・ピア・コンテ)。二人は海辺で倒れている女性を発見して驚く。死んでいるのかと思ったが、女性は気を失っていただけだった。彼女の名前はバーバラ(スージー・ケンドール)。クリスチャンは彼女の美貌に惹かれる。
 その後、彼は豪華ヨットの船上パーティでバーバラと再会。彼女にはアレックス(マリオ・エルピキーニ)という男友達がいたが、クリスチャンは構うことなくアタック。二人は森の中のモーテルで一夜を過ごすことにする。
 バーバラが部屋で着替えている間、バスルームで髭を剃ることにしたクリスチャン。彼女は髭のない方が似合うという。すると、バスルームの窓から謎の男(アドルフォ・ラストレッティ)が侵入してくる。男は拳銃を手に襲い掛かってきた。クリスチャンはとっさにその拳銃を奪い、男に発砲してしまった。その場で息絶える男。
 パニックに陥ったクリスチャンは、事情をよく呑み込めないバーバラを連れてモーテルを逃げ出す。しかし、愛用している金のネックレスをバスルームに置き忘れたことを思い出し、急いでモーテルへ戻った。すると、男の死体が跡形もなく消えてしまっている。クリスチャンは困惑するばかりだった。
 結局、二人はバーバラの友人であるベルギー人画家の留守宅に身を寄せることにした。だが、屋敷の中には人が住んでいるような痕跡が。さらに、目の前の海ではボートに乗ったサングラスの男が、こちらの様子を監視しているようだった。
 夜になって家の電気が点かないことに気付いた二人は、電源ブレーカーを探して納屋へとやって来る。すると、そこへマルコム(グイド・アルベルティ)という老人とクロリンダ(モニカ・モネ)という謎めいた女性が現われた。二人はこの家を短期間だけ借りて住んでいるのだという。
 クリスチャンの話を聞いたマルコムは、精神的なストレスから来る幻覚や妄想ではないかと語る。その頃、屋敷内では例の男が拳銃を手に徘徊していた。クリスチャンたちの様子を伺っているようだ。
 一方、バーバラは精神的に疲れきっている様子だった。どうも、彼女は何かを隠してる様子だ。さらに、クリスチャンはクロリンダの顔に見覚えがあった。だが、いつどこで会ったのか思い出せない。クロリンダも思い違いだという。また、マルコムはサングラスの男と知り合いのようだ。
 翌朝、バーバラの姿が消えていた。マルコムは、彼女のことは忘れろという。その時、クリスチャンは思い出した。少年の頃に非業の死を遂げた彼の父親。その葬儀にマルコムは参列していたのだ。
 バーバラを探すために町へ向かったクリスチャン。だが、バーバラは屋敷内に隠れていた。無言でマルコムと合図を交わすバーバラ。彼女は例の拳銃を持った男とも実は面識があった。これまでの出来事は全て仕組まれていたのだ。いったい誰が何のために計画したのか?
 町から戻ったクリスチャンは、マルコムの死体を発見する。さらに、クロリンダも殺されて井戸に沈められていた。困惑するクリスチャンは車で屋敷から逃げ去る。さらに、あの拳銃を持った男が再びクリスチャンの前に現われ、車ごと崖の上から突き落とそうとする。
 その頃、クリスチャンの兄フィリップ(イワン・ラシモフ)が部下からの連絡を待っていた。黒幕はフィリップなのか?だとすれば、何が目的で実の弟を罠に嵌めようとしているのか?その背景には、一見すると満ち足りた生活を送っている上流社会の人々の、裏にうごめく黒い秘密が隠されていたのだ・・・。

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バーバラの友人の留守宅に身を寄せる二人

何者かが屋敷の様子を監視している風だった

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屋敷の先客マルコム(G・アルベルティ)とクロリンダ(M・モネ)

例の殺し屋も屋敷内を徘徊していた

 原題は“痙攣”や“発作”という意味。レンツィ監督によると、本作は生活に困ることのない支配階級の人々の心の闇、豊か過ぎるがゆえに生まれた黒い因子を描いたスリラーなのだという。ヨーロッパでは中世の時代から、マルキ・ド・サドやジル・ド・レのように病んだ精神と魂を持つ貴族が少なからず存在してきた。そうした、ある種の暗い伝統のようなものが作品の背景にあると見ていいのかもしれない。
 ピノ・ボレールが手掛けた原案をレンツィと共に脚色したのは、巨匠ヴィスコンティの『若者のすべて』(60)や『山猫』(63)などの名作を手掛けたマッシモ・フランチョーザと、ロック・ハドソン主演の『恋人泥棒』(68)で知られるルイザ・モンタニャーナの二人。どちらもジャッロ映画を手掛けることは非常に珍しい脚本家だ。
 さらに、『悪魔の性・全裸美女惨殺の謎』(72)や『バニシング』(76)、『宇宙の秘宝アステカ・アドベンチャー』(88)などイタリア産B級娯楽映画でお馴染みの名カメラマン、グリエルモ・マンコリが撮影監督を担当。
 そのほか、レンツィ監督作品の常連であるダニエレ・アラビソとジャコモ・カロ・カルドゥッチがそれぞれ編集と美術デザインを、『ザ・サムライ荒野の珍道中』(73)や『デザート・ソルジャー』(90)のシルヴィオ・ラウレンツィが衣装デザインを、『サスペリア』(77)以降のアルジェント作品で常連となったピエラントニオ・メカッチがメーキャップを手掛けている。
 そして、ミステリアスでありながら甘く切ないメロディの音楽スコアを聞かせてくれるのが巨匠エンニオ・モリコーネ。これが、あの傑作マカロニ・ウェスタン『殺しが静かにやって来る』を彷彿とさせるような出来栄えで、何度聴いても鳥肌が経つくらいに感動する。サントラもCD化されているので、イタリア映画音楽ファンは是が非でもゲットして欲しい。

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マルコムはクリスチャンの父親の葬儀に参列していた

バーバラにも何か裏がある様子だ

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クリスチャンを車ごと崖の上から突き落とそうとする殺し屋

背後にはクリスチャンの兄フィリップ(I・ラシモフ)の存在が・・・?

 主人公クリスチャン役を演じているのは、『イタリア式意のテクニック』(66)で美女軍団に翻弄されるイケメン・ボーイを演じたドイツ人俳優ロバート・ホフマン。『目をさまして殺せ』(66)や『情報局K』(67)などイタリア映画での主演作が多い人だ。どちらかというとルックス以外にあまり取り得のない役者だが、本作では珍しくは苦心の演技を披露してくれている。
 そんな彼を翻弄する美女バーバラ役には、アルジェントの『歓びの毒牙』(69)でお馴染みのイギリス人女優スージー・ケンドール。また、クリスチャンの女友達セニア役にはクロード・ルルーシュ監督の『あの愛をふたたび』(69)でベルモンドの奥さん役を演じていたマリア・ピア・コンテ、ミステリアスな美女クロリンダ役にはロモロ・ゲリエリやフェルナンド・ディ・レオのポリス・アクション物に出ていたモニカ・モネといった綺麗どころが顔を揃えている。
 さらに、物語の鍵を握るクリスチャンの兄フィリップ役には、70年代イタリア産B級娯楽映画には欠かせない悪役スター、イワン・ラシモフが登場。今回は彼のダーティなイメージを逆手に取った異色の役どころで、見事なくらいに存在感を発揮してくれている。
 また、神出鬼没の殺し屋役には、マカロニ・ウェスタンやポリス・アクションで爬虫類系の粘着質な悪人を演じ続けた個性派アドルフォ・ラストレッティ。そのほか、フェリーニ作品でも知られる老優グイド・アルベルティ、セルジョ・マルティーノ監督のメロドラマ『愛のほほえみ』(74)にも出ていたフランコ・シルヴァなどが顔を出している。

 

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