ジャッロ ベスト・セレクション
PART 3

 

Nude... si muore (1968)
日本では劇場未公開
DVD・VHS共に日本未発売

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(P)2007 Dark Sky Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:イタリア語/字幕:英語/地域コード:1/98分/製作:イタリア

映像特典
オリジナル劇場予告編
スチル・ギャラリー
監督:アントニオ・マルゲリティ
製作:ヴィルジリオ・デ・ブラーシ
原案:マリオ・バーヴァ
   ジョヴァンニ・シモネッリ
脚本:フランコ・ボッターリ
   アントニオ・マルゲリティ
撮影:ファウスト・ズッコーリ
音楽:カルロ・サヴィーナ
出演:マーク・ダモン
   エレオノラ・ブラウン
   マイケル・レニー
   サリー・スミス
   パトリツィア・ヴァルトゥッリ
   リュドミラ・ルヴォーワ
   ルチアーノ・ピゴッツィ
   フランコ・デ・ローサ
   ヴィヴィアン・ステイプルトン
   シルヴィア・ディオニーシ
   マリサ・ロンゴ

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全寮制の女学校セント・ヒルダ・カレッジ

新任教師ミセス・クレイ(L・ルヴォーワ)が到着する

 イタリアを代表する職人監督アントニオ・マルゲリティの手掛けたジャッロ映画。マルゲリティといえばSFやバトル・アクション、マカロニ・ウェスタン、ゴシック・ホラーなど様々なジャンルを幅広く手掛けていたわけだが、意外にもジャッロと呼べるものは本作と“Schriere in der Nacht”(69)の2本くらい。何故だろう?と疑問に思うところではあるが、これを見ると何となく理由が分かるような気がする。
 舞台は全寮制の女学校。若くてピチピチした女の子たちが次々と殺されていく。一癖も二癖もある教師たち、怪しげな使用人などなど、疑惑の多い人物たちをそこかしこに散りばめながら、やがて主人公ルシールの遺産相続を巡る計画殺人が浮き彫りになっていく・・・。
 ということで、ユーロ・カルトなセクスプロイテーション映画の香りがプンプンするわけだが、これが意外にも健全かつ軽妙洒脱なサスペンス・スリラーに仕上がっているのだ。過激なヌード・シーンもセックス・シーンもほとんどナシ。女学長と女教師のレズビアン関係も一応は匂わせているものの、本当にサラリと“匂わせる”だけに止めている。お色気描写といっても、せいぜいプール・サイドで女学生たちがカラフルな水着になって戯れる程度だ。
 もちろん、スプラッターなゴア描写も皆無。どちらかというと、マルゲリティお得意のロマンティックなゴシック・ムードの方が濃厚だ。しかも、ストーリー的にはコミカルな要素が強く、総じて推理サスペンス仕立ての明るい青春映画という印象が強い。
 その一方で、オープニングの殺人シーンを含めた謎解きの伏線が実に巧妙。細部まで丁寧に計算された脚本のクオリティは素晴らしい。スタイリッシュなセットや流麗なカメラワーク、グルーヴィーでダンサンブルなテーマ曲など、60年代イタリア産娯楽映画の醍醐味を存分に味わえる作品と言えるだろう。
 もともと、マルゲリティという人はライトなアクションや壮麗なゴシック・ロマンで個性を発揮する人。エロスとバイオレンスが身上のジャッロとは相容れない点が多いのかもしれない。そう考えると、彼がこのジャンルにあまり手を出さなかったというのも理解できよう。

 よって、ジャッロ・マニアにとっては賛否両論分かれる作品だとも言える。特にアルジェント以降のジャッロ作品と比較してしまうと、食い足りなく感じてしまうファンも少なくないかもしれない。
 とはいえ、そうしたジャンルの鉄則的な枠組みから外れた上で客観的に見れば、これはこれで非常に良く出来た娯楽映画だと思う。ただ、唯一惜しむらくは、ある理由から早々に犯人の目星がついてしまうこと。ネタバレになるので言及することは避けるが、これにはさすがのマルゲリティも苦心したに違いない。

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ルシール(E・ブラウン)と教師リチャード(M・ダモン)は恋仲

荷物を探しに地下室へ降りるベティ・アン(K・トレンティーニ)

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シンシア(M・ロンゴ)がシャワールームで絞殺される

庭師ラ・フローレ(L・ピゴッツィ)が殺害現場を目撃

 荷造りの支度をしていた女性が、バスルームで何者かによって殺害される。犯人は女性の死体を大型トランクに入れ、他の荷物と一緒にして運送業者の手に渡した。
 全寮制の女学校セント・ヒルダ・カレッジに新任教師が到着する。自然科学を担当するミセス・クレイ(リュドミラ・ルヴォーワ)と、体育を担当するディ・ブラッツィ(ジョヴァンニ・ディ・ベネデット)の2人だ。ミセス・クレイは堅物のオールド・ミスといった感じで、ディ・ブラッツィはいかにもイタリアの伊達男といった風情の中年マッチョだ。
 お転婆な女学生たちは教師たちの様子に興味津々。特にミステリー作家志望でファザコンのジル(サリー・スミス)はディ・ブラッツィにときめく。しかし、女学生たちの大半は、若くてハンサムな乗馬教師リチャード(マーク・ダモン)に夢中だ。しかし、リチャードは密かに女学生ルシール(エレオノラ・ブラウン)と恋仲だった。
 ミセス・クレイとディ・ブラッツィを送迎する車には、大量の荷物が積み込まれていた。2人の引越し荷物の他にも、父兄から女学生たちへの贈り物や学校の備品などなど。その中には、冒頭で殺された女性の死体を入れたトランクも含まれていた。
 女学生ベティ・アン(カテリーナ・トレンティーニ)は、自分宛ての荷物を探しに地下室へ行く。そこへ何者かが現れ、彼女は無残にも絞殺されてしまった。ベティ・アンの姿が見えないことに気付いた教師たちは、トランスフィールド学長(ヴィヴィアン・ステイプルトン)の指揮で付近の森を捜索する。しかし、当然のことながら見つかることはなかった。
 トランスフィールド学長と“特別”な関係にある女教師ミス・マーティン(エスター・マシング)は警察に通報することを勧めるが、学園の名声に傷がついては困ると学長は反対する。ここは大富豪の娘ばかりを預かっている一流の名門校だからだ。
 とはいえ、学長は万が一のことを考え、女学生たちには部屋から一歩も出ないようにと命じた。しかし、リチャードと逢引きの約束をしていたルシールは、シャワー・ルームに行くふりをして、こっそりと校舎を抜け出す。
 リチャードとの待ち合わせ場所へ向かったルシールは、そこでベティ・アンの死体を発見する。驚いて逃げ出す彼女だったが、そこへリチャードが現れる。改めて死体を確認しようとするルシールとリチャード。だが、なぜか死体は跡形もなく消えていた。なにかの錯覚だとリチャードに説得され、腑に落ちないまま校舎へ戻ったルシール。
 シャワールームで部屋着に着替えていたルシールは、その現場をミス・マーティンとミス・クレイに見つかってしまう。なんとか言い逃れをしたルシールは、足早にシャワールームを立ち去った。その物音に気付いて目を覚ましたシンシア(マリサ・ロンゴ)は、眠気覚ましにシャワールームへ。そこへ怪しい影が忍び寄り、シンシアは絞殺されてしまう。その一部始終を、窓の外から覗き見していた庭師ラ・フローレ(ルチアーノ・ピゴッツィ)が目撃していた。
 その晩、ジルがシンシアの死体を発見。今度ばかりは学長も、すぐさま警察に通報した。担当刑事はベテランのデュラン警部(マイケル・レニー)。教師や学生から事情を聞いた警部は、シンシアがルシールと間違えられて殺されたと推理する。
 というのも、ルシールは幼い頃に両親が飛行機事故で死亡しており、2日後に控えた誕生日には彼女に遺産の相続権が発生するという。つまり、犯人の目的はルシールの殺害なのだ。警部は、ルシールが一度も会った事がないという後見人の従兄弟の行方を捜すよう警察本部へ連絡した。
 そうした中で、ミステリー作家志望のジルは好奇心を刺激されっぱなしだった。しかも、捜査担当のデュラン警部は彼女好みの渋い大人の男性。俄然張り切る彼女は、父親におねだりして買ってもらった無線電話を駆使して、独自の捜査を繰り広げようとする。

 一方その頃、シンシア殺害を目撃したラ・フローレが何者かによって惨殺された。警部はなぜ夜中にこっそりと外へ出たのかルシールに問いただすが、彼女は頑なに証言を拒む。リチャードとの関係が知られてしまったら、彼が学園をクビになってしまうからだ。
 すると、ルシールに頼まれてリチャードとの待ち合わせ場所であるプールへ向かった親友デニーズ(パトリツィア・ヴァルトゥッリ)が、ダイビング・スーツに身を包んだ謎の人物によって襲われる。後をつけていたジルのおかげでデニーズは一命を取り留めるが、ルシールはリチャードに対して疑惑の目を向けるようになった。
 さらに、ミセス・クレイの死体が付近の沼で発見され、リチャードが行方不明になる。果たして犯人はリチャードなのか?それとも・・・!?

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捜査を担当するデュラン警部(M・レニー)

ルシールは親友デニーズ(P・ヴァルトゥッリ)に頼み事をする

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警部の問いかけにも黙秘を続けるルシール

好奇心旺盛なジル(S・スミス)

 本作は巨匠マリオ・バーヴァとマルゲリティ作品でもお馴染みの脚本家ジョヴァンニ・シモネッリが原案を手掛けている。どのような経緯でマルゲリティが演出することになったのかは不明だが、恐らく当初はバーヴァ自身が監督も手掛けるつもりだったのだろう。仮にバーヴァが演出まで担当していたのなら、きっと全く趣きの違ったダークな本格的ジャッロに仕上がっていたはずだ。
 その原案を脚色したのは、監督のマルゲリティとフランコ・ボッターリ。ボッターリは本来はプロダクション・デザイナーで、マカロニ・ウェスタン『風の無法者』(67)やポリス・アクション『バニシング』(76)、バイオレンス・ドラマ『暴行列車』(75)などを手掛けた人物だ。脚本家としてはこれが初仕事で、その後はポリス・アクションやセックス・コメディなどの脚本を手掛けている。本作のライトなタッチというのも、この2人の個性から来るものと考えていいだろう。
 撮影監督のファウスト・ズッコーリはマカロニ・ウェスタンやポリス・アクションで知られるカメラマンで、あの悪名高き人喰い族&ゾンビ合体映画『人間解剖島/ドクター・ブッチャー』(81)を手掛けた人物。あまりテクニカル面で意識したことのない人だが、本作を見ると意外にスタイリッシュで美しい画を撮ることのできるカメラマンだったことが分かる。
 そして、ラウンジ・スタイルのお洒落な音楽スコアを手掛けたのは、マカロニ・ウェスタンでもお馴染みの中堅作曲家カルロ・サヴィーナ。特に『バットマン』のテーマを彷彿とさせる主題歌“Nightmare”は強烈なくらいにグルーヴィーでカッコ良く、サントラ盤のCD化を切に望むところだ。
 なお、アメリカでは“The Young, The Evil and The Savage”というタイトルで劇場公開されたほか、“Schoolgirl Killer”や“The Miniskirt Murders”など複数のタイトルが存在する。

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ルシールはリチャードの疑惑を抱くのだが

そんな2人を見つめるミセス・クレイも犠牲に・・・?

 ヒロインのルシール役を演じているのは、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の名作『ふたりの女』(60)でソフィア・ローレンの娘役を演じて脚光を浴びた女優エレオノラ・ブラウン。独特の個性的な顔をした美少女で、その魅力は本作でも際立っている。これが最後の出演作となったのは残念だ。
 その恋人でもある男性教師リチャードを演じているマーク・ダモンは、ロジャー・コーマンの傑作『アッシャー家の惨劇』(60)でお馴染みの2枚目ハリウッド・スター。イタリアでも数多くのマカロニ・ウェスタンやアクション映画に出演し、80年代以降はプロデューサーとして『ネバーエンディング・ストーリー』(84)や『ロスト・ボーイ』(87)、『蘭の女』(90)、『モンスター』(03)など数多くのヒット作を手掛けている。
 捜査を担当するデュラン警部を演じているマイケル・レニーは、『地球の静止する日』(51)や『聖衣』(53)、『ディミトリアスと闘士』(54)など数多くのハリウッド映画で活躍したイギリス出身の名優。庭師のラ・フローレにはマルゲリティ作品やマリオ・バーヴァ作品でお馴染みの怪優ルチアーノ・ピゴッツィ(アラン・コリンズ)が出演している。
 また、本作は女学生役を演じる女優たちの賑やかな顔ぶれも魅力。好奇心旺盛でショートカットもキュートなジル役を演じているサリー・スミスは、60年代にイギリスのコメディ映画で幾つもヒロイン役を務めた人。なかなかコメディエンヌとしてのツボを心得た女優さんだ。
 さらに、ルシールの親友デニーズ役には、『サンタ・ヴィットリアの秘密』(69)でアンソニー・クィンとアンナ・マニャーニの娘役を演じ、非常に芸達者なところを見せた女優パトリツィア・ヴァルトゥッリ。シャワールームで殺されるシンシア役には、その後『アマゾネス』(73)や『ゲシュタポ卍(ナチ)女囚拷問』(78)など数多くのB級映画で活躍することになるセクシー女優マリサ・ロンゴ。この頃は別人のように初々しい。そして、ジルと仲の良いブロンド美少女ウェンディ役には、『ジュールの恋人』(70)などのヒロイン役で活躍することになる美形女優シルヴィア・ディオニーシ。彼女はルッジェロ・デオダート監督夫人だったことでも知られる。
 その他、トランスフィールド学長役のヴィヴィアン・ステイプルトンやミセス・クレイ役のリュドミラ・ルヴォーワなど無名の役者が脇を固めているが、いずれも強く印象に残るユニークな顔立ちをしているのが面白い。

 

A doppia faccia (1969)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P) Alfa Digital (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・フランス語/字幕:英語/地域コード:AL
L/88分/製作:イタリア・西ドイツ

映像特典
フォト・ギャラリー
監督:リカルド・フレーダ
製作:オレステ・コルテラッチ
原作:エドガー・ウォレス
原案:ルチオ・フルチ
   ロマーノ・ミリオリーニ
   ジャンバティスタ・ムセット
脚本:リカルド・フレーダ
   ポール・ヘンゲ
撮影:ガボール・ポガニー
音楽:ノラ・オルランディ
出演:クラウス・キンスキー
   クリスチャン・クリューガー
   マーガレット・リー
   アナベラ・インコントレッラ
   シドニー・チャップリン
   バルバラ・ネッリ
   ギュンター・ストール
   ルチアーノ・スパドーニ

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青年実業家ジョン・アレクサンダー(K・キンスキー)

妻ヘレン(M・リー)とその恋人リズ(A・インコントレッラ)

 スペクタクル史劇やゴシック・ホラーでお馴染みの大御所リカルド・フレーダ監督が初めて手掛けたジャッロ作品。厳密に言うとエドガー・ウォレス・スタイルの正統派ミステリーで、いわゆるジャッロ的な連続猟奇殺人を題材にした作品ではない。実際、ウォレスが1924年に発表した小説“The Face in the Night”(邦訳なし)を原作としているという。
 主人公は青年実業家ジョン・アレクサンダー。最愛の妻ヘレンがレズビアンの恋人のもとへ走り、交通事故で他界してしまう。それ以来、妻の幻影を追い求めながら暮らすジョン。ところが、とある地下クラブで偶然見たポルノ映画にヘレンの姿を発見する。しかも、撮影されたのは彼女が事故死した後のこと。果たして彼女はヘレン本人なのか?それとも別人なのか?真相を突き止めるべく奔走するジョンは、やがて恐るべき陰謀計画を知ることになる。
 ウォレスの原作小説を読んだことがないのではっきりとしたことは言えないが、どうやら原作とはかなりかけ離れたストーリーらしい。恐らく、ヒッチコックの『めまい』(58)をお手本にしたのだろう。脚本の原案にはルチオ・フルチが参加しているが、彼の日本未公開作“Una sull'altra”(69)とも酷似しているのは、もちろん偶然などではないはずだ。
 いずれにせよ、脚本の出来栄えに関しては及第点。謎解きそのものはご都合主義で呆気ない。サイケでアンダーグラウンドな映像も、ティント・ブラスの『危険な恋人』(68)をパクッたような印象だ。
 しかし、クリスチャン・クリューガーにマーガレット・リー、アナベラ・インコントレッラという、ヨーロッパ映画女優ファンなら思わずニンマリのキャスティングは大きな魅力。インテリアやファッション、スポーツ・カーなどのセンスも素晴らしいし、スタイリッシュでゴージャスなカメラワークも見どころだ。総じてビジュアルで見せる作品と言えるだろう。ノラ・オルランディによるイージーでファッショナブルな音楽スコアも良い。ジャッロ・ファンというより、60年代のヨーロッパ映画ファンにオススメしたい一本だ。
 ちなみに、上記の輸入盤DVDは複数の映像ソースを使用しており、大半の画質は概ねクリアで良好だが、部分的に使い古しのビデオ映像が散見される。音声トラックに関しても、一部はフランス語しか収録されていない。この手の古いコアなヨーロッパ映画はオリジナルネガが完全な形では残っていないということも多く、フル・バージョンを目指すとなると現存する複数の映像を繋ぎ合わせねばならなくなる。そうした事情を理解した上で、有り難く(笑)鑑賞したいものだ。

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ヘレンの運転するジャガーが大破した

ブラウン氏(S・チャップリン)はジョンに休暇を勧める

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死んだ妻の面影を追い求めるジョン

ヒッピー娘クリスティン(K・クリューガー)

 実業家のジョン・アレクサンダー(クラウス・キンスキー)は、スイスでの休暇中にヘレン(マーガレット・リー)と知り合い、情熱的な恋愛の末に結婚した。しかし、素顔のヘレンは自由奔放かつ独立心旺盛で、我が侭なところのある女性。
 それでもジョンは彼女のことを愛し許していたが、いつしかヘレンの心はジョンから離れ、リズ(アナベラ・インコントレッラ)というレズビアンの女性との愛欲に溺れるようになっていく。それすらも黙って黙認していたジョンだったが、ヘレンの方から離婚を切り出してきた。
 ヘレンの父親ブラウン氏(シドニー・チャップリン)は大企業の社長で、ジョンの上司に当たる人物。ヘレンは会社の株の大半を所持しており、夫や父親も足元に及ばないほどの資産家だった、彼女はせめてもの償いとして十分な財産をジョンに分与することを約束し、独りで家を出て行く。
 ところが、その直後にリヴァプール郊外でヘレンの運転するジャガーが大破。死体は身元確認も不可能なくらい損傷が酷かったものの、現場に残されたパスポートや持ち物などからヘレンであることが確認される。ショックで呆然とするジョンに、ブラウン氏は暫しの休暇を勧めるのだった。
 休暇からロンドンへ戻ったジョンは、誰もいない自宅へと帰ってくる。すると、屋敷のどこかからかヘレンの好きだった音楽が聴こえてきた。そのもとを辿ったジョンは、一人のヒッピー女性が勝手に上がりこんでシャワーを浴びているのを発見する。
 彼女の名前はクリスティン(クリチャン・クリューガー)。その厚かましい態度にイラつくジョンだったが、クリスティンは全く意に介さない。そればかりか、彼女を街中へと送り届けたジョンから自宅の鍵を奪い、怪しげなゴーゴー・クラブへと入っていく。彼女にとっては、ちょっとした悪戯みたいなものだ。
 後を追ってクラブへと迷い込んだジョンは、クリスティンに誘われてポルノ映画の上映会に参加する。画面に映し出されたのは半裸状態のクリスティン。もう一人の女性は顔をベールで包んで隠している。しかし、その指にはめられたリングと、首筋の特徴的な傷を見て、ジョンは愕然とした。それは明らかに死んだはずのヘレンだったのだ。
 そのポルノ映画を撮影した人物を探してスタジオを訪れたジョンは、複数の人物に暴行を受けて気を失う。目を覚ますと自宅のベッドで、傍らにはクリスティンが。監督にかけあってフィルムを手に入れると約束した彼女は、ジョンに睡眠薬を入れたウィスキーを勧めた。しばらくして目を覚ますと、既にクリスティンの姿はない。ジョンは睡眠薬を盛られたことに気付いた。
 クリスティンの行方を捜してロンドンの下町へとやって来たジョン。彼女が宿泊しているという安宿を訪れたジョンは、ポルノ映画に出ていた女性について激しく問いただす。しかし、女性が周囲から“伯爵夫人”と呼ばれていたこと、映画は6日前に撮影されていること、撮影中も終始ベールで顔を隠していたことくらいしか、クリスティンの知っている情報はなかった。
 監督からフィルムを手に入れたジョンは、その内容を確認した上でブラウン氏に見てもらうことにする。ところが、彼の留守中に何者かがフィルムを入れ替えていた。ブラウン氏はジョンの精神状態を疑い、警察は彼がヘレンを殺害したのではと疑う。というのも、車から爆発物が検出されたのだ。
 さらに、ヘレンを名乗る女性からリズに電話で連絡があったことが判明。妻の行方を追ってジョンは夜のロンドンを彷徨うのだったが・・・。

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怪しげなゴー・ゴー・クラブへ迷い込むジョン

ポルノ上映会でジョンが見たものとは・・・?

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ジョンは姿を消したクリスティンを探してロンドンの下町へ

ポルノ映画に出演していた女性について問いただすジョン

 先述したように、一応はエドガー・ウォレスのミステリー小説を映画化したということになってはいるが、実際にはルチオ・フルチ、ロマーノ・ミリオリーニ、ジャンバティスタ・ムセットによる原案を基にしていると思われる。ミリオリーニはマリオ・バーヴァの『呪いの館』(66)やジョルジョ・フェローニの『悪魔の微笑』(72)などの傑作ホラーを手掛けた名脚本家。また、ムセットはミリオリーニとたびたびコンビを組んでいる人物だ。
 その原案を元に脚本を書き上げたのは、フレーダ監督とポール・ヘンゲ。ヘンゲはドイツ出身の脚本家で、エドガー・ウォレス・シリーズの“Der Mann mit dem Glasauge(ガラスの目を持った男)”などを手掛けている人物。ルチオ・フルチ監督の泥棒コメディ『奇想天外・泥棒大作戦』(67)にも参加していた。
 そして、撮影を担当したのは『ふたりの女』(60)や『皇帝のビーナス』(62)、『想い出よ、今晩は!』(68)などの名作を数多く手掛け、ハリウッドやフランスなどでも活躍した名カメラマン、ガボール・ポガニー。60年代末のサイケデリックなアシッド感と壮麗なゴシック・ムードを絶妙に絡めた映像は非常にスタイリッシュだ。
 さらに、“Verushka”(71)や『アパッショナータ』(74)、『フェノミナ』(84)、『バイ・バイ・ベイビー』(88)などを手掛けたルチアーノ・スパドーニが、プロダクション・デザイナー及び衣装デザイナーとして参加。彼のウルトラ・モダンでシックなアート・センスにも注目したい。特にマーガレット・リーが着用しているブラウンのレザー・コートは最高にスタイリッシュだ。なお、本作ではギュンター・ストール扮するスティーヴンス刑事の片腕ゴードン刑事役として出演も果たしている。
 また、イタリア映画音楽ファンにはお馴染みの女流作曲家ノラ・オルランディが、ジョーン・クリスチャン名義で音楽スコアを担当。これがラウンジ・ムードたっぷりの素晴らしい出来栄えで、シルヴィー・サン・ローランの歌うノスタルジックな主題歌も印象的。サントラCDも過去に発売されているので、イタリア映画音楽ファンならば血眼になって探すべし!

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スティーヴンス刑事(G・ストール)はジョンを疑っていた

リズのもとにヘレンを名乗る女性から連絡が

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教会へと呼び出されたジョン

目の前に姿を現した女性の正体とは・・・!?

 主人公ジョン・アレクサンダー役には、ドイツの生んだ稀代の怪優クラウス・キンスキー。本作では珍しく善人役で、最愛の妻を失った男の葛藤と狂気を抑えた演技の中で表現して抜群に巧い。
 その妻ヘレン役を演じているのは、イギリス出身の美人女優マーガレット・リー。『スローター・ホテル』(71)でもキンスキーと共演していた。本作では役柄の設定上もあって出番は少なめだが、あのネコ科の個性的な美貌は一度見たら忘れられないほどのインパクト。エレガントなレザー・コートでジャガーを運転する姿もバッチリ決まっている。
 ヘレンのレズビアンの恋人リズ役には、イタリア映画ファンにはお馴染みのセクシー女優アナベラ・インコントレッラ。『タランチュラ』(70)や『悪魔の性・全裸惨殺美女の謎』(72)など色添え的な役柄の多かった女優だが、未だに熱心なファンを持つカルト女優だ。ただ、本作ではショートカットがイマイチ似合っておらず、いつものゴージャス感が2〜3割減なのがちょっと残念。
 そして、ジョンに接近するヒッピー女性クリスティン役を演じているクリスチャン・クリューガーは、ドイツの名優ハーディ・クリューガーの娘。ラドリー・メッツガーの“Little Mother”(73)で、エヴァ・ペロンをモデルにしたヒロイン役を演じた女優として記憶している映画マニアも多いかもしれない。
 その他、チャーリー・チャップリンの息子シドニー・チャップリンがヘレンの父親ブラウン氏役を、ドイツの名脇役ギュンター・ストールがスティーヴンス刑事役を、マカロニ・ウェスタンやスパイ映画で活躍したバルバラ・ネッリがジョンの秘書アリス役を演じている。

 

Mio caro assassino (1972)
日本では劇場未公開
DVD・VHS共に日本未発売

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(P)2002 Shriek Show (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/102分/製作:イタリア・スペイン

映像特典
T・ヴァレリ監督インタビュー
G・ヒルトン インタビュー
オリジナル劇場予告編

監督:トニーノ・ヴァレリ
原案:フランコ・ブッチェリ
   ロベルト・レオーニ
脚本:フランコ・ブッチェリ
   ロベルト・レオーニ
   ホセ・G・マエッソ
   トニーノ・ヴァレリ
撮影:マヌエル・ロハス
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ジョージ・ヒルトン
   マリルー・トロ
   サルヴォ・ランドーネ
   ウィリアム・バーガー
   マヌエル・ザルゾ
   パティ・シェパード
   ピエロ・ルッリ
   ヘルガ・リーネ
   トゥリオ・ヴァッリ
   ダンテ・マッジョ
   ダナ・ギア
   アルフレード・マヨ
   モニカ・ランドール
   コラード・ガイパ
   ララ・ウェンデル

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パワーショベルを使って殺害される男性

捜査を担当するペレッティ警部(G・ヒルトン)

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パワーショベルのドライバーも自殺に見せかけて殺された

沼の近くに住む老人マッティア(D・マッジョ)は非協力的

 ジャッロ映画の隠れた傑作と言って間違いないだろう。監督はマカロニ・ウェスタンやハード・アクションで知られる硬派な職人監督トニーノ・ヴァレリ。全編に強烈なバイオレンスやスプラッターを散りばめつつ、複雑に入り組んだ人間関係や謎解きを巧みにまとめ上げている。さらに、登場人物たちの人間描写にも深みがあり、単なる猟奇サスペンスでは終らない厚みのあるドラマに仕上げているのは立派だ。
 物語の発端は謎の猟奇殺人。犠牲者の男性が元保険調査員で、とある未解決の誘拐殺人事件を調査していたことが分かる。捜査担当のペレッティ警部は犠牲者の足取りを追ううちに、誘拐事件の裏に隠された悲しくも残酷な真実に迫っていく・・・というわけだ。
 本作で最も有名なのは、電動丸ノコギリによる殺害シーン。女性の背中にザクザクと切り込みながら血しぶきが飛び散り、さらに太ももまでをも無残に切り裂いていく。単純なトリック撮影ながらも、強烈なインパクトを残す残酷シーンだ。
 また、冒頭のパワーショベルによる惨殺シーンも斬新。犠牲者がアタッチメントに首を挟まれたまま吊り上げられ、ザックリと首を切断されてしまう。高度なスタントを絡めたゴア描写というのは、アクション畑でのキャリアが長いヴァレリ監督ならではなのかもしれない。
 もちろん、誘拐殺人事件にまつわる幼い少女の悲しい運命や、様々な欲望の絡む上流階級一族の赤裸々な人間関係など、ドラマとしての面白さも抜群。私生活で様々な悩みや不和を抱えた主人公のペレッティ警部が、何かに取りつかれたかのように捜査へのめりこんでいく過程の描写も説得力がある。アルジェント・スタイルとは一味違った、タフで硬派なポリス・アクション型ジャッロとも言えるかもしれない。
 ちなみに、公開当時はイタリアでも批評家から大絶賛され、ヴァレリ監督の代表作の一つとも呼ばれたらしいが、直後に製作会社が倒産してしまったため、ヴァレリ監督は利益分配に与るとが出来なかったという。

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殺されたパラディーシは元保険調査員だった

そのパラディーシの妻(H・リーネ)まで殺される

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女教師パオラ(P・シェパード)

電動丸ノコギリでズタズタに切り裂かれるパオラ

 とある沼のほとりで男性の惨殺死体が発見される。犠牲者の名前はヴィンチェンツォ・パラディーシ(フランチェスコ・ディ・フェデリコ)。パワーショベルで首を切断されて殺されていた。ショベルを手配した建設会社から、マリオという男がドライバーとして派遣されたらしい。
 ところが、そのマリオも首吊り死体で発見された。捜査を担当するペレッティ警部(ジョージ・ヒルトン)は、それが自殺に見せかけた殺人であることを見抜く。マリオは何者かの指示でパラディーシを殺害し、その後で自らも殺されてしまったのだ。
 ペレッティ警部は沼のそばに暮らすマッティア(ダンテ・マッジョ)という老人に事件当時の様子を聞くが、頑固者のマッティアはあまり協力的ではない。その際に、ペレッティ警部はマッティアの内縁の妻である老女アデーレ(ロラ・ガオス)の口にした、“モローニ事件の捜査ですか?”という言葉が気になった。
 パラディーシ夫人(ヘルガ・リーネ)から事情を聞いたペレッティ警部は、殺されたパラディーシがもともと保険会社の調査員であったことを知る。その保険会社の元上司(コラード・ガイパ)に訪ねたところ、彼は“モローニ事件”の調査を担当していたということが判明する。
 モローニ事件とは、大富豪の実業家アレッサンドロ・モローニ(ピエロ・ルッリ)の幼い愛娘ステファニア(ララ・ウェンデル)が誘拐され、独自に犯人を追いつめようとしたアレッサンドロ自身も拉致されてしまい、その後2人の無残な死体が発見されたという事件だ。ステファニアは餓死、アレッサンドロはリンチによる暴行死。遺体の発見現場はパラディーシが殺された沼のすぐ近くだった。そして、犯人は未だに見つかっていない。
 その頃、警察にパラディーシ夫人から連絡があった。郵便局に夫の私書箱があることが分かったというのだ。しかし、電話を受けた若手刑事はその連絡を重要視せず、私書箱で何か見つかったら改めて連絡するように伝える。そこで、パラディーシ夫人は独りで郵便局へと出かけた。
 そのことを若手刑事から聞いたペレッティ警部は、パラディーシ夫人の身に危険が迫っていると判断し、急いで郵便局へと向かう。だが運悪く渋滞に巻き込まれてしまい、パラディーシ夫人は何者かによって殺されてしまった。現場を調べたペレッティ警部は、夫人の手に握られていた封筒の中から一枚の絵を見つける。それはモローニ事件で殺された少女ステファニアの描いたものだった。
 ペレッティ警部はステファニアの通っていた小学校へ行き、担当教師だったパオラ(パティ・シェパード)に事情を聞いた。すると、その絵はステファニアのお絵かきノートから破り取られたものと判明。1ヶ月ほど前にパラディーシが小学校を訪れていたことも分かる。
 なぜ、パラディーシはノートの中からこの絵だけを破り取ったのか?そして、なぜこの絵のためにパラディーシ夫人は殺されたのか?絵を詳しく検証していたペレッティ警部は、そこに描かれているのが例の沼近辺の風景と老人マッティアの住む家であることに気付く。ステファニアが死んだのも沼近辺にあるあばら家だ。すると、彼女は生前にその場所へ行ったことがあったはずだ。
 そこでようやく、この絵の重要性に気付いたペレッティ警部。家族や知人の中に犯人がいるに違いない。警部はすぐに女教師パオラの身柄を保護するよう部下に命じた。犯人も同じようにパラディーシの足跡を辿っているはずだとすれば、次のターゲットはパオラに他ならない。犯人はモローニ事件に結びつく全ての証拠・痕跡を消そうとしているのだ。
 しかし、時すでに遅く、パオラは電動丸ノコギリで切り裂かれて死亡していた。度重なる捜査ミスに自分を責めるペレッティ警部。上司であるマロ署長(サルヴォ・ランドーネ)は彼を優しく慰める。だが、ペレッティの悩みはそれだけではなかった。妻アンナ(マリルー・トロ)とはすれ違いばかりの生活で、仕事に明け暮れる夫のことを彼女は厳しく責め続けていた。精神的に追いつめられれば追いつめられるほど、ペレッティは事件捜査にのめり込んでいく。
 全ての謎を解く鍵はモローニ事件にあると考えたペレッティ警部は、改めてモローニ家を訪ねる。母エレオノーラ(ダナ・ギア)は夫と娘を失ったという事実を受け入れることが出来ず、すっかり気が触れてしまっていた。
 アレッサンドロの弟オリヴィエロ(トゥリオ・ヴァッリ)は気の弱い性格で、長いこと兄にこき使われてきた。事故で右手首を失ったのも、アレッサンドロのせいだったという。妻カルラ(モニカ・ランドール)はそのことを恨んでおり、警察の捜査には非協力的だった。
 一方、アレッサンドロの兄ベニアミーノ(アルフレード・マヨ)は初老の独身男で、彼も長いこと弟の陰で目立つことなく暮らしてきた。地味で大人しい性格だが、絵画モデルと称して全裸の少女を自室で遊ばせている。明らかにロリコンだった。
 さらに、エレオノーラの兄ジョルジョ(ウィリアム・バーガー)も癖のある人物だった。建築会社を経営しているジョルジョは黒い噂の絶えない男で、アレッサンドロとは決して良好な関係ではなかった。その会社の帳簿を調べた結果、ジョルジョがパラディーシに多額の金を支払っていたことが分かる。
 果たしてその金は何のためだったのか?そして、犯人の正体とは?ステファニアとアレッサンドロの遺体が発見されたあばら家を訪ねたペレッティ警部は、そこで重要なことに気付く。現場からある物が消えていたのだ。それを巡って近隣に住むマッティアが殺害され、老女アデーレにも犯人の魔の手が忍び寄る・・・。

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ペレッティの良き相談相手であるマロ署長(S・ランドーネ)

モローニ家の夫人エレオノラ(D・ギア)は気が触れていた

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殺されたアレッサンドロ・モローニ(P・ルッリ)は暴君だった

アレッサンドロの兄ベニアミーノ(A・マヨ)はロリコン

 原案と脚本を手掛けたのはフランコ・ブッチェリとロベルト・レオーニ。2人はミケーレ・ルーポの『ザ・ビッグマン』(72)やマウリツィオ・ルチディの『シシリアン・クロス』(76)など、硬派なハード・アクションを手掛けた脚本家コンビだ。さらに、『続・荒野の用心棒』(66)や『ガンクレイジー』(66)などのマカロニ・ウェスタンで知られるホセ・G・マエッソとヴァレリ監督が加わり、非常に中身の濃い脚本を仕上げている。
 撮影を手掛けたマヌエル・ロハスは、ホセ・ルイス・ガルシ監督の“Cancion de cuna”(94)でゴヤ賞(スペイン版オスカー)の最優秀撮影賞を獲得したスペインのカメラマン。編集には『歓びの毒牙』(69)から『オペラ座/血の喝采』(88)に至るまでのアルジェント作品を手掛けたフランコ・フラティチェッリが参加している。
 さらに、音楽にはイタリア映画界の誇るマエストロ、エンニオ・モリコーネ。アバンギャルド・ジャズ・スタイルの渋いスコアが非常にクールだ。

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エレオノラの兄ジョルジョ(W・バーガー)

ペレッティは妻アンナ(M・トロ)との不和に悩んでいた

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老女アデーレ(L・ガオス)にも危険が迫る

果たして犯人は親族の中にいるのだろうか・・・?

 主人公ペレッティ警部を演じているのは、ウルグアイ出身の2枚目スター、ジョージ・ヒルトン。マカロニ・ウェスタンからジャッロに至るまで、当時のイタリア産娯楽映画には欠かすことの出来ない俳優だ。本作では頬に綿を詰めるなどしてイメージ・チェンジを図り、とても人間臭い熱血刑事役を大熱演。彼の代表作の一つと呼んでも過言ではないだろう。
 その妻アンナ役には、『情無用のジャンゴ』(66)や『警視の告白』(71)などでヒロインを演じ、ハリウッド映画でも活躍したクール・ビューティー、マリルー・トロ。本作での出番は極めて少ないものの、ペレッティ警部の私生活における苦悩を描く上で重要な役割を担っている。
 一方、仕事の上でペレッティの女房的な役割を担うマロ署長役を演じているのは、イタリア演劇界の重鎮サルヴォ・ランドーネ。フランチェスコ・ロージやエリオ・ペトリなど名匠の作品で知られる名脇役で、ジョージ・ヒルトンも“この作品で最も光栄だったのはサルヴォ・ランドーネと共演できたことだ”と語っている。
 その他、マカロニ・ウェスタンの悪役としてもお馴染みのウィリアム・バーガー、60年代のスペインの人気俳優マヌエル・ザルゾ、スペイン映画界で活躍したアメリカ人女優パティ・シェパード、名優フォルコ・ルッリの弟で悪役スターとして鳴らしたピエロ・ルッリ、スペイン映画界の誇るセクシー女優ヘルガ・リーネ、『オリーブの下に平和はない』(50)や『寄席の脚光』(50)など戦後イタリア映画に欠かせない名脇役だったダンテ・マッジョ、マカロニ・ウェスタンのヒロインとして活躍したダナ・ギア、スペインの名脇役アルフレード・マヨ、『カラスの飼育』(76)の少女アナの叔母役などで知られるモニカ・ランドール、『ゴッドファーザー』(72)のドン・トマシーノ役で有名なコラード・ガイパなど、実に多彩な名優たちが脇を固めている。
 また、『思春の森』(77)や『美しき少年/エルネスト』(79)、『シャドー』(82)などでお馴染みのララ・ウェンデルが、誘拐事件で殺された少女ステファニア役として登場するのも注目。当時まだ9歳だった。

 

デリリウム
Delirio caldo (1972)

日本では劇場未公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済
(日本盤DVDと米国盤DVDは別仕様)

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(P)2002 Anchor Bay (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:AL
L/102分(インターナショナル版)
・85分(アメリカ公開版)製作:イタリア

映像特典
R・ポルゼッリ監督 インタビュー
ミッキー・ハージテイ インタビュー
監督:レナート・ポルセッリ
製作:マリオ・マエストレッリ
脚本:レナート・ポルセッリ
撮影:ウーゴ・ブルネッリ
音楽:ジャンフランコ・レヴェルベリ
出演:ミッキー・ハージテイ
   リタ・カルデローニ
   タノ・チマローサ
   クリスタ・バリモア
   ウィリアム・ダルニ
   ラウール
   ステフィー・ステファン
アメリカ公開版のみ
   カルメン・ヤング

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リュータク博士(M・ハージテイ)は若い娘をバーで拾う

そして、冷酷にも首を締めて殺すのだった

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何食わぬ顔をして警察の捜査に協力するリュータク博士

妻マルツィア(R・カルデローニ)は博士の異常に気付いていた

 『吸血鬼と踊り子』(60)や『イザベルの呪い』(72)など低予算のC級エログロ・ホラーで知られるレナート・ポルセッリ監督。そのフィルモグラフィーの中でも、特にえげつない怪作として知られるのが本作だ。
 まず、72年当時としては相当に露骨でハードなエロ描写とグロ描写が満載。セックス・シーンはもとより、オナニー、SMからレズ乱交に至るまで、まさに何でもアリの酒池肉林といった感じだ。
 しかも、主人公たちはいずれも頭のイカれた殺人鬼。ストーリーが進むにつれてどんどんと狂って行き、最後にはお互い血みどろになって殺しあいを繰り広げる。謎解きの辻褄など一切無視して、阿鼻叫喚の発狂地獄へとなだれ込んでいくクライマックスは壮絶そのものだ。
 相当な低予算で作られているためか、ビジュアル的にはとってもチープ。アルジェント作品やバーヴァ作品のように流麗なカメラワークやスタイリッシュなプロダクション・デザインなどは全く期待できない。ストーリーそのものも、サスペンス映画としては完全に破綻していると言えよう。
 しかし、この有無を言わせぬパワーと疾走感は一見の価値がある。お下劣そのもののエログロ描写やサイケデリック・ロックな音楽スコアも含め、映画そのものが狂っているとしか言いようがない。これが最初から意図したものなのか、それとも偶然から生じた奇跡なのか。ポルセッリ監督の他の作品と見比べると、なんとなく後者のような気もしたりするのだが・・・(笑)

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さらに電話ボックスで若い女性が殺害される

博士は性的不能者ゆえに若い女性へ憎悪をぶつけていた

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警察の囮捜査も失敗してしまう

囮捜査に参加した女性ハインリッヒ(K・カルディナーリ)も死亡

 有名な犯罪心理学者リュータク博士(ミッキー・ハージテイ)は、バーで拾った若い娘に車の中でイタズラをしようとする。逃げ出した娘をリュータク博士は執拗に追いかけ、川の激流の中で絞殺した。
 捜査を担当するエドワーズ刑事(ラウール)は頭を抱えていた。これで連続殺人事件の被害者が7人目になったからだ。リュータク博士は何食わぬ顔をして警察の捜査に協力をする。
 一方、博士の妻マルツィア(リタ・カルデローニ)は夫の様子がおかしいことに気付いていた。夫の留守中にタンスを調べた彼女は、血だらけになった夫のシャツを発見して狼狽する。彼女は博士が殺人鬼であることに気付いていた。そうこうしているうちに、今度は電話ボックスで若い女性が殺害される。
 リュータク博士とマルツィアはお互いに深く愛し合っていた。しかし、博士は性的な不能者で、その欲求不満と怒りを若い女性たちに向けて殺人を繰り返していたのだ。一方のマルツィアはニンフォマニアのレズビアンで、夜な夜な淫乱で暴力的な夢を見てはうなされている。それでも、彼女は夫の愛なしでは生きていくことができないのだった。
 ある晩、リュータク博士はプールで殺人事件が発生すると予言。警察はハインリッヒ(カーチャ・カルディナーリ)という女性を囮に使って犯人を待ち伏せしていたが、すぐ近くで立ちんぼをしていた売春婦が何者かによって殺された。
 やがて、警察は事件現場でたびたび野次馬として現れていた男ジョン・レイシー(タノ・チマローサ)を容疑者としてマークする。その頃、ハインリッヒはリュータク博士の自宅に電話をかけていた。彼女は娼婦が殺された現場で博士のナイフを発見したのだ。あいにく博士は留守で、マルツィアが夫に伝えることを約束する。その直後、ハインリッヒは何者かによって全裸にされた上に鞭で激しく暴行され、バスルームで溺死させられてしまう。
 一方、ジョン・レイシーはリュータク博士を怪しいと睨に、その自宅の地下室に忍び込んだ。すると、メイドのローレル(クリスティナ・ペリエ)が何者かによってレイプされ、ガスで殺されようとしていた。間一髪でローレルを救ったレイシーは博士の書斎へ忍び込み、殺人事件で使用されたと思われるナイフを発見する。
 その場で警察へ連絡したレイシーだったが、そこへリュータク博士が戻ってきた。2人は取っ組み合いとなり、博士はレイシーを鉄の鎖で絞殺しようとする。そこへ、レイシーの電話を逆探知した警察が駆け込んできた。博士はレイシーがメイドを殺害しようとした犯人だと証言し、エドワーズ刑事もその言葉を信用した。
 一命を取りとめたローレルだったが、意識不明のままだ。リュータク博士は彼女の意識を戻すための薬を処方するが、マルツィアと姪のジョアキーヌ(クリスタ・バリモア)は薬の効き目を和らげるための細工をしていた。彼女たちはローレルが目覚めると都合が悪い様子だ。
 そんな時、屋敷の中に不気味な声が響き渡った。マルツィアとジョアキーヌは恐怖のあまりパニックに陥る。その間に目覚めたローレルは屋敷を脱走し、警察へ駆け込んで身柄の保護を求めた。彼女の証言にエドワーズ警部は強い衝撃を受ける。ローレルを殺そうとしたのはマルツィアだったのだ。
 やがて、リュータク博士とジョアキーヌの前でマルツィアが狂っていく。そして、それに誘発されるように、博士とジョアキーヌも精神的バランスを崩していくのだった・・・!!

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マルツィアは夜な夜なレズ乱交の夢を見ていた

メイドのローレル(C・ペリエ)を救うレイシー(T・チマローサ)

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エドワーズ刑事(ラウール)はレイシーの電話を逆探知

レイシーはリュータク博士が真犯人と睨んでいた

 実はこの作品、アメリカ公開版はストーリーが大幅に違う。オープニングはベトナム戦争のシーンで始まり、リュータク博士と看護婦だったマルツィアの出会いや、博士の生い立ちなどが紹介され、なぜ彼が性的不能者になったのか、なぜ彼が殺人鬼になったのかが説明されていく。
 その一方でジョン・レイシーにまつわるエピソードやエロ・シーンなどが大幅に削除され、細かいサブ・プロットの設定などもかなり変更されている。さらに、オリジナル版では逃げ延びた博士の教え子の女学生が殺害されたり、オリジナル版には登場しないもう一人の姪ボニータ(カルメン・ヤング)が登場したりする。博士はそのボニータを殺害し、それがきっかけで主人公たちがお互いに殺しあうことになるのだ。また、ネタバレになるので詳しく説明することは避けるが、クライマックスとエンディングもオリジナル版とは全く違っている。
 一応、脚本の出来としてはアメリカ公開版の方が理路整然としているものの、その分だけ破天荒な面白さには欠けていると言えよう。個人的にはオリジナルのインターナショナル版の方が好きだ。上記のアメリカ盤DVDには両バージョンが収められているので、是非とも見比べていただきたい。
 撮影監督のウーゴ・ブルネッリは、『イザベルの呪い』や“Mania”(73)でもポルセッリ監督と組んでいるカメラマン。その他、『続悪魔の生体実験/ナチ女収容所』(77)など、主にエログロ映画で活躍した人物だったようだ。
 また、音楽には『皆殺しのジャンゴ/復讐の機関砲』(68)などのマカロニ・ウェスタンで知られる作曲家ジャンフランコ・レヴェルベリが参加。ジャッロ×ロックという組み合わせでは、とりあえずアルジェントの『サスペリアPART2』(75)を先駆けていると言えるかもしれない。まあ、ただそれだけの話なのだが(^^;

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マルツィアと姪ジョアキーヌ(C・バリモア)

2人はローレルが意識を取り戻さないよう細工をする

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パニックに陥るマルツィア

まるで共感するかのようにジョアキーヌも暴走

 主人公リュータク博士役を演じているのは、ジェーン・マンスフィールドのダンナだったことでも有名な元世界的ボディビルダーのミッキー・ハージテイ。人気ドラマ『LAW & ORDER/性犯罪捜査班』でエミー賞を獲得した女優マリスカ・ハージテイの父親だ。基本的には演技力ゼロの大根俳優だったが、本作では一世一代とも呼べる大熱演を披露。決して上手いとは言えないものの、相当本気で取り組んでいるという熱意だけは十分に伝わってくる。
 その妻マルツィア役を演じているリタ・カルデローニは、ポルセッリ監督の『イザベルの呪い』にも出演していた女優。その上品でクラシカルな美貌にも関わらず、SMシーンやレズ・シーンも辞さない大胆な演技を見せており、特に後半の発狂演技はなかなかの迫力だ。
 また、容疑者として警察から睨まれる男ジョン・レイシー役を演じているタノ・チマローサは、『シシリアの恋人』(70)などのダミアーノ・ダミアーニ監督作品、『ニューシネマ・パラダイス』(89)などのジュゼッペ・トルナトーレ監督作品の常連として、粗野で貧しいシチリア男を演じ続けた個性派の名優。
 その他、クリスタ・バリモアやカルメン・ヤング(アメリカ公開版のみ)、カーチャ・カルディナーリなど貧相な無名女優が脇を固めている。

 

美人ダンサー襲撃
Il gatto dagli occhi di giada (1977)

日本では劇場未公開・TV放映のみ
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2007 VCI Entertainment (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/95分/製作:イタリア

映像特典
オリジナル劇場予告編
ラジオ・スポット集
TVスポット集
バイオグラフィー集
監督:アントニオ・ビドー
製作:ガブリエラ・ナルディ
原案:ヴィットリオ・スキラルディ
脚本:ヴィットリオ・スキラルディ
   アントニオ・ビドー
   ロベルト・ナターレ
   アルド・セリオ
撮影:マリオ・ヴルピアーニ
音楽:トランス・ヨーロッパ・エキスプレス
出演:コラード・パーニ
   パオラ・テデスコ
   フランコ・チッティ
   フェルナンド・チェルッリ
   ジュゼッペ・アッドバーティ
   ジャンフランコ・ブッロ
   ビアンカ・トッカフォンディ
   パオロ・マルコ

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薬剤師デザン(G・ヴァンニーニ)が殺害される

殺人シーンで必ずインサートされる猫の目

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ダンサーのマーラ(P・テデスコ)は偶然その場に居合わせた

マーラの恋人ルーカス(C・パーニ)

 日本ではテレビ放送のみだったために、何とも味気ない邦題を付けられてしまったもんだが、これはなかなか良く出来たアルジェントのエピゴーネン的作品。これがデビュー作だったアントニオ・ビドー監督は、カメラワークから音楽スコアに至るまでアルジェント作品を相当細部まで研究したと思われる。
 特に『サスペリアPART2』からの影響は濃厚で、ヒロイン役を演じるパオラ・テデスコの髪型までダリア・ニコロディにソックリだ。不可解な連続殺人事件のパズルが少しづつ組み合わさり、やがて被害者たちが戦時中に犯した恐るべき罪へと繋がっていくというストーリーも興味深い。70年代ジャッロ・ブームの末期に登場した作品ではあるが、ファンなら一度は見ておいて損がないだろう。
 ただ、ジャッロの暗黙のうちのルールみたいなものに縛られすぎて、少々安っぽい部分が見受けられるのも事実。特に“翡翠の目を持つ猫”という意味の動物系タイトルにこだわってしまったせいか、殺人シーンでいちいち作り物の猫の目がクロース・アップで映し出されるのには辟易させられる。
 そもそも、所詮はエピゴーネンなのでオリジナルを越えるような出来では決してない。どちらかといえばB級ジャッロと呼ぶべきなのかもしれないが、本作での経験を経てビドー監督は“Solamento nero”(78)というジャッロの佳作を撮ることになるわけだから、それなりに意味のある作品だったとは言えるかもしれない。いずれにせよ、一見の価値はある作品だと思う。

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マーラは脚本家カルロ(P・マルコ)から映画出演を請われていた

真夜中に自宅で襲われそうになるマーラ

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ルーカスの隣人ボッツィ(F・チェルッリ)は脅迫されていた

ボッツィの知人エスメラルダ(B・トッカフォンディ)にも危険が

 とある薬局でデザン(ジョヴァンニ・ヴァンニーニ)という初老の薬剤師が殺害される。その場に偶然居合わせたナイト・クラブのダンサー、マーラ(パオラ・テデスコ)は、ドア越しに犯人らしき人物の声を聞いていた。
 その晩、眠りについたマーラの自宅へ何者かが侵入する。隣人の犬が吼えたおかげでマーラは人影に気付き、近隣の住人が騒ぎ始めたことから侵入者は慌てて逃げ出した。恐ろしくなったマーラは恋人ルーカス(コラード・パーニ)のもとへ身を寄せることにする。
 ルーカスのアパートには、ボッツィ(フェルナンド・チェルッリ)という謎めいた老人が住んでいた。そのボッツィはとある脅迫電話に悩まされている。ルーカスが音楽関係者であることを知ったボッツィは、脅迫電話の録音テープをスタジオで分析してもらうことにした。その背景音には様々な音声がミックスされており、それは何らかの意味を持っているようだ。
 その頃、ボッツィの知り合いであるエスメラルダ(ビアンカ・トッカフォンディ)という老女のもとに、古い家族写真が送りつけられる。そこには若かりし頃のエスメラルダも写っていた。言いようのない不安に駆られるエスメラルダ。夕食の準備をしていた彼女は、何者かによってオーブンに頭を突っ込まれて殺害される。
 その事件を知ったボッツィは、慌てて自宅へ帰ろうとした。そこへ偶然マーラが通りかかる。アパート前でボッツィを降ろし、地下駐車場に車をとめようとしたマーラは、謎の人物によって襲撃された。命からがら逃げ出したマーラ。ボッツィは犯人の目的が自分であると悟った。
 改めて脅迫電話の録音テープを聞き直したルーカスとマーラ。脅迫者の声を聞いたマーラは、それが薬剤師デザンの殺害現場で聞いた犯人らしき人物の声とソックリであることに気付いた。ボッツィとエスメラルダ、そしてデザンは何らかの関係があるのかもしれない。
 そう考えたルーカスは、デザン夫人(ジル・プラット)に3人の関係を訊ねた。すると、彼らはフェランテ(フランコ・チッティ)という殺人犯の裁判で陪審員を務めた仲だと言う。当時の裁判官(ジュゼッペ・アッドバティ)のもとを訪れたルーカスは、フェランテが無実を訴え続けていたこと、そしてつい先日刑務所を脱獄したことを知る。
 フェランテが一連の殺人事件の犯人と睨んだルーカスは、フェランテ夫人のもとを訪れた。夫はここにいないと主張する夫人だったが、ルーカスはフェランテが物影から見ていることに気付いていた。ルーカスはマーラにこれ以上近づかぬよう、さもなくば警察に通報すると言い残してその場を去る。
 しかし、ルーカスはあることに気付いた。警察の発表だと犯人は右利きだが、フェランテ宅に残されていたコーヒーカップの向きから察するに、フェランテは左利きだ。何者かがフェランテの存在を利用し、彼に罪を着せるつもりなのかもしれない。そうとは知らぬフェランテはルーカスを拉致して自分を探す理由を聞き出そうとするが、事の真相の説明を受けてルーカスの捜査に協力することを約束する。
 そこで、ルーカスはデザンの知り合いであるペレッティ医師(ガエターノ・ランピン)のもとを訪れ、デザンの過去について訊ねた。すると、デザンとボッツィ、エスメラルダの3人が戦時中にナチの協力者だったらしいことが分かる。
 さらに、ボッツィやエスメラルダの素性を調べたルーカスは、彼らがいずれもパドヴァの出身であることに気付いた。全ての謎を解く鍵はパドヴァにあるのかもしれない。
 一方、身の危険を感じたボッツィはパドヴァへと身を隠すことにした。その道すがらルーカスに電話をかけたボッツィは、全てを告白するからパドヴァまで来て助けてほしいと懇願する。
 早速、マーラと共にパドヴァへと向かったルーカス。しかし、指定されたホテルへ着いた頃には時すでに遅く、ボッツィはバスルームで何者かに絞殺されていた。3人の過去を知る人物を探し回ったルーカスは、戦時中にボッツィが身を寄せていたという家に住む老女の存在を突き止める。
 そこでルーカスは、デザンとボッツィ、エスメラルダの3人が戦時中に犯した恐るべき罪について聞かされる。一方、別荘でルーカスの帰りを待っていたマーラのもとへ、怪しげな人影が忍び寄るのだった・・・。

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オーブンで焼き殺されるエスメラルダ

マーラは脅迫電話の声に聞き覚えがあった

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ボッツィたちは殺人犯フェランティの裁判の陪審員だった

ルーカスを拉致するフェランティ(F・チッティ)

 原案と脚本を担当したヴィットリオ・スキラルディは、名匠マウロ・ボロニーニの『彼女と彼』(69)やロモロ・ゲリエッリの『黒の標的』(78)などの脚本を手掛け、アーサー・ケネディ主演の『マフィア地の掟』(73)という監督作もある人物。さらに、マリオ・バーヴァ監督の『呪いの館』(66)や“Lisa e il Diavolo”(72)のロベルト・ナターレ、マリオ・ランディ監督の悪名高きジャッロ“Giallo a Venezia”(79)を手掛けたアルド・セリオ、そしてビドー監督が脚本に参加している。
 さらに、鬼才マルコ・フェレーリ監督の『ひきしお』(71)や『最後の晩餐』(73)、池田満寿夫監督の『エーゲ海に捧ぐ』(79)や『窓からローマが見える』(82)などを手掛け、ハリウッドでも活躍した名カメラマン、マリオ・ヴルピアーニが撮影を担当。
 また、音楽にはイタリア版クラフトワークとも言うべきテクノバンド、トランス・ヨーロッパ・エキスプレスが参加し、ゴブリンの『サスペリアPART2』とそっくりのスコアを披露している。

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バスルームで絞殺されるボッツィ

謎を解く鍵は古都パドヴァにあった

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かつてボッツィが暮らしていたアパートを訪ねるルーカス

そこでボッツィらが戦時中に犯した恐ろしい罪を知る

 主人公ルーカス役を演じているコラード・パーニは、カンツォーネの女王ミーナとのロマンスでも知られる2枚目俳優。現在音楽プロデューサーとして活躍しているマッシミリアーノ・パーニは二人の間に出来た息子だ。女癖の悪いプレイボーイなど憎まれ役を演じることが多かった人だが、ここでは珍しくヒーロー役として登場。知的で穏やかな一面を見せて興味深い。
 ヒロインのマーラ役を演じているのは、テリー・サヴァラス主演の『シシリアン・マフィア』(72)でもヒロイン役を演じていたセクシー女優パオラ・テデスコ。本作ではシルヴィア・クレイマーという変名を使用している。
 また、脱獄犯のフェランテ役には、パゾリーニ映画の常連俳優として有名な怪優フランコ・チッティが登場。事件の鍵を握る裁判官役を、『真昼の用心棒』(66)のフランコ・ネロの父親役や『暗殺の森』(70)のジャン=ルイ・トラティニャンの父親役で知られるジュゼッペ・アッドバティが演じている。
 さらに、マーラの熱烈なファンである映画脚本家カルロ役で、後に『作家マゾッホ・愛の日々』(80)のマゾッホ役で有名になるパオロ・マルコが出演。ルチオ・フルチの『墓地裏の家』(81)や『ザ・リッパー』(82)で記憶している人も多いかもしれない。当時はまだ無名の若手俳優で、とても初々しい姿を見せてくれる。

 

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