ジャッロ ベスト・セレクション
PART 2

 

Il tuo vizio e' una stanza chiusa e' solo lo ne ho la chiave (1972)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 No Shame Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL
/92分/製作:イタリア

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー(マルティーノ監督、脚本家ガスタルディ、主演E・フェネッシュのインタビュー収録)
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
原作:ルチアーノ・マルティーノ
   サウロ・スカヴォリーニ
脚本:エルネスト・ガスタルディ
   アドリアーノ・ボルゾーニ
   サウロ・スカヴォリーニ
撮影:ジャンカルロ・フェランド
音楽:ブルーノ・ニコライ
出演:エドウィージュ・フェネッシュ
   アニタ・ストリンドバーグ
   ルイジ・ピスティッリ
   イワン・ラシモフ
   リカルド・サルヴィーノ
   フランコ・ネッビア
   エンリカ・ボナッコルティ
   ダニエラ・ジョルダーノ
   ネリーナ・モンタニャーニ
   カルラ・マンシーニ
   アラン・コリンズ

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作家オリヴィエロ(L・ピスティッリ)と妻(A・ストリンドバーグ)

オリヴィエロはヒッピーを集めて乱痴気騒ぎを行っている

 鬼才セルジョ・マルティーノ監督が再びエドウィージュ・フェネッシュと組んだジャッロ作品。エドガー・アラン・ポーの『黒猫』を下敷きに、閉鎖的な空間で暴走する狂気とエロスを描いたサイコ・スリラーに仕上がっている。
 主人公は屈折した作家オリヴィエロと妻イリーナ。作家としてのスランプに悩まされるオリヴィエロは、その不満の矛先を妻に向けている。夫からの度重なる暴力と虐待で精神的に追い詰められている妻イリーナ。そんな彼らの周囲で次々と殺人事件が起きる。さらに、そこへオリヴィエロの姪である妖艶な美女フロリアーナが加わり、夫婦間の溝と軋轢をさらに膨張させていく。やがてイリーナの精神状態は見る見るうちにバランスを崩し、ついに恐るべき事態を招くことに。果たして、彼女は本当に気が狂ってしまったのか。それとも・・・!?
 マルティーノ監督お得意のスタイリッシュでアバンギャルドなカメラワーク、センセーショナルで背徳的なエロス、そして血みどろのサディスティックなバイオレンスが満載。また、風光明媚で閑静な田園地帯にそびえ立つ古い豪邸を舞台とすることで、ゴシック・ロマン的なムードを生み出すことにも成功している。
 その一方で、今回は脚本に若干の無駄が感じられることも事実。地元出身の売春婦が何者かに殺され、その犯人を売春婦の叔母が殺害するというエピソードは、謎解きの注意を逸らすには残念ながら不十分だった。また、フロリアーナと親しくなった牛乳屋の青年が出場するバイク・レースのシーンも、単なる尺調整のための時間稼ぎに過ぎず、逆に映画全体のリズムを壊してしまっている。
 しかし、他のマルティーノ作品にはないサイコロジカルな閉塞感と陰鬱なゴシック・ムードはなかなか捨てがたい。今回はエドウィージュ・フェネッシュが脇役に回り、不当に過小評価されがちなスウェーデン出身の美女アニタ・ストリンドバーグが一世一代の怪演を披露してくれているのも要注目だ。

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オリヴィエロの愛人ファウスタ(D・ジョルダーノ)が殺される

警察はオリヴィエロの犯行を疑った

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日頃から奇妙な行動の多い妻イリーナ

黒人のメイド、ブレンダ(A・ラ・ヴォルニャ)まで殺害された

 舞台はベネチア近郊の静かな田園地帯。ゴシック様式の古い豪邸に住む作家オリヴィエロ(ルイジ・ピスティッリ)は、もう長いこと新作を発表していなかった。スランプに陥った彼は酒びたりの毎日を送り、ヒッピーの若者たちを集めては夜ごと乱痴気騒ぎに明け暮れている。妻イリーナ(アニタ・ストリンドバーグ)はそんな夫に愛想を尽かしているが、オリヴィエロはまるで不満の矛先を彼女へ向けるかのように、酔っては妻に暴行を加えていた。
 そんなある日、オリヴィエロの愛人である若い女性ファウスタ(ダニエラ・ジョルダーノ)が屋敷の敷地内で何者かによって殺された。警察の担当刑事(フランコ・ネッビア)はオリヴィエロの犯行を疑う。さらに、日頃から彼の性的な慰み者だった黒人のメイド、ブレンダ(アンジェラ・ラ・ヴォルニャ)までもが殺害される。
 ブレンダの死体を発見したイリーナは半狂乱に陥るが、オリヴィエロは平然とした顔で死体を地下のワイン・セラーへ運び、壁の中へ埋め込んでしまった。立て続けに屋敷で殺人事件が発生したとなれば、嫌がおうにも警察は彼の犯行だと確信するはずだからだ。
 その数日後、叔母(ネリーナ・モンタニャーニ)のもとに帰省した売春婦(エンリカ・ボナッコルティ)が殺害され、現場を目撃した叔母が犯人を殴り殺すという事件が発生。これでファウスタの殺害事件も解決したかに思えた。
 一方、屋敷にはオリヴィエロの姪であるフロリアーナ(エドウィージュ・フェネッシュ)が突然やって来る。彼女はすっかり妖艶な大人の女性に成長していた。だが、その様子を物陰から伺っている怪しげな男(イワン・ラシモフ)の姿があった。男はクリーニング屋のふりをしてイリーナに接触する。
 屋敷に出入りする牛乳屋の若者ダリオ(リカルド・サルヴィーノ)と親しくなるフロリアーナ。しかし、その一方で彼女はオリヴィエロとイリーナの両方と肉体関係を持ち、二人のことを翻弄していく。イリーナの精神状態を心配するふりをしながら、一方で彼女をなき者にすべくオリヴィエロと画策するフロリアーナ。また、イリーナは夫の亡き母が大事にしていた黒猫サタンのことを忌み嫌っており、それが精神的不安にさらなる拍車をかけていた。
 やがて、イリーナが大切に育てていた鳩をサタンが食い殺してしまい、怒りに駆られた彼女はサタンの片目をハサミでくり抜いてしまう。さらに、夫とフロリアーナの会話を耳にした彼女は、何かにとり憑かれたかのように暴走していく・・・。

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屋敷の中を徘徊する黒猫サタン

謎の男(I・ラシモフ)が屋敷の様子を伺っている

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オリヴィエロの姪フロリアーナ(E・フェネッシュ)

フロリアーナはイリーナを誘惑する

 随所で戦後イタリアの高度経済成長や民主主義によってもたらされた弊害や、アメリカ的なるものに対する痛烈な批判が散りばめられているのは興味深い。当時のイタリアは政治の腐敗や市民モラルの低下による著しい社会不安の真っ只中にあり、こうした娯楽映画にもしっかりと社会風刺的な要素が盛り込まれていた。
 原案と脚本に携わったサウロ・スカヴォリーニは、チャールズ・ブロンソン主演の傑作アクション『狼の挽歌』(70)で知られる脚本家。さらに、製作者でもあるマルティーノ監督の実兄ルチアーノが原案に加わり、『殺して祈れ』(67)や『豹/ジャガー』(68)などのマカロニ・ウェスタンで有名なアドリアーノ・ボルゾーニ、イタリア産娯楽映画の帝王エルネスト・ガスタルディの2人が脚本に参加している。
 また、撮影監督はマルティーノ作品の常連である名カメラマン、ジャンカルロ・フェランドが担当。美術デザインにはナンニ・モレッティ監督の名作『ジュリオの当惑』(85)を手掛けていたジョルジョ・ベルトリーニが携わっている。
 そして、ロマンティックで官能的な音楽スコアを手掛けたのは、モリコーネの盟友としても有名な作曲家ブルーノ・ニコライ。本作は彼のフィルモグラフィーの中でも代表作と呼ぶに相応しい1本。とてもクラシカルで耽美的なメロディが、ゴシック・ムード溢れる映像に独特の風格を与えている。

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牛乳屋の青年ダリオ(R・サルヴォーニ)と急接近するフロリアーナ

イリーナの健康を心配してみせるフロリアーナだったが・・・

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オリヴィエロとフロリアーナには恐るべき計画が

精神的なバランスを崩していくイリーナ

 先述したように、クレジットの上ではエドウィージュ・フェネッシュが主演ということになっているものの、今回はあくまでも脇を支えるような役回りに徹している。とはいえ、彼女がこうした悪女役を演じることは極めて珍しい。いつものか弱いヒロイン役というイメージを逆手に取り、徐々にその本性を現していく過程はなかなか巧かった。
 一方、夫から精神的・肉体的な虐待を受け続け、精神的なバランスを失っていく女性イリーナ役を演じるアニタ・ストリンドバーグがまた実に素晴らしい。いつもは色添え的な役柄ばかりに終始し、出演作の多い割には過小評価され続けた女優さんだが、本作での大熱演は特筆に価するだろう。
 その夫オリヴィエロ役を演じているルイジ・ピスティッリにも注目したい。『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(66)でイーライ・ウォラックの兄である牧師役を演じたことで有名な俳優で、数多くのマカロニ・ウェスタンやアクション映画に出演してきた名脇役。本作は彼にとって数少ない主演クラスの作品で、精神的に屈折したサディスティックな作家という難役を見事に演じている。
 また、主人公たちの様子を伺う謎の男役でイワン・ラシモフが登場するものの、今回は残念ながらあまり印象的な出番がない。その他、牛乳屋ダリオ役にはドゥッチョ・テッサリ監督のアクション映画『大空を裂くジェット野郎』(71)に主演していたリカルド・サルヴォーニ、最初に殺される女性ファウスタ役にはマリオ・バーヴァの“Quante volte...quella notte”(72)などに主演していたソフト・ポルノ女優ダニエラ・ジョルダーノ、コケティッシュな売春婦役にはエンターテイナーとしても知られるエンリカ・ボナッコルティが登場。カルラ・マンシーニやアラン・コリンズ(ルチアーノ・ピゴッツィ)などホラー映画ではお馴染みの名脇役もチラリと顔を見せている。

 

Tutti i colori del buio (1972)
日本では劇場未公開
DVD・VHS共に日本未発売

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(P)2004 Shriek Show (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:1/
91分/製作:イタリア・スペイン

映像特典
オリジナル劇場予告編
アメリカ公開版予告編
S・マルティーノ監督インタビュー
G・ヒルトン インタビュー
フォト・ギャラリー集
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
   ミーノ・ロイ
原案:サンチャゴ・モンカーダ
脚本:エルネスト・ガスタルディ
   サウロ・スカヴォリーニ
撮影:ジャンカルロ・フェランド
   ミゲル・F・ミラ
音楽:ブルーノ・ニコライ
出演:ジョージ・ヒルトン
   エドウィージュ・フェネッシュ
   イワン・ラシモフ
   スーザン・スコット
   マリーナ・マルファッティ
   ジュリアン・ウガルテ
   ジョルジュ・リゴー
   マリーナ・クマーニ・カシモド
   ドミニク・ボスケーロ
   アラン・コリンズ
   トム・フェレーギ
   カルラ・マンシーニ

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シュールな悪夢の世界

メッタ刺しにされる女性(D・ボスケーロ)

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夜ごとの悪夢に悩まされる女性ジェーン(E・フェネッシュ)

婚約者リチャード(G・ヒルトン)は薬による治療を勧める

 ジャッロ以外のジャンルも含めたセルジョ・マルティーノ作品の中でも、恐らく最もアバンギャルドで、最もクレイジーな映画と言えよう。魚眼レンズや移動カメラを駆使した縦横無尽でサイケデリックなカメラワーク、夢と現実の境界線を曖昧にしたトリップ感溢れるストーリー展開など、マルティーノ監督はポランスキーやクルーゾーにも引けを取らないような素晴らしい仕事をしている。
 主人公は幼い頃に母親を何者かによって殺され、妊娠中の交通事故で流産してしまった女性ジェーン。夜ごとの悪夢や幻覚に悩まされる彼女は、やがて悪魔崇拝のカルト教団に命を狙われるようになる。しかし、周囲の人々は彼女の言葉に耳を傾けてはくれない。果たして、全ては彼女の妄想による幻覚なのか?それとも・・・。
 マルティーノ監督自身も認めているように、本作はポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』にインスパイアされた作品。アール・デコ調のデザインで統一されたロンドンの荘厳な古アパート、怪しげな様子の住人たち、日常生活に忍び寄る悪魔崇拝の恐怖、そして孤立無援のヒロイン。おのずと『ローズマリーの赤ちゃん』からの影響を色濃く感じさせる。だがその一方で、オカルト的な要素を随所に配しつつも、しっかりと猟奇サスペンスとして成立させているのは立派だ。
 また、妄想と現実が混沌と入り乱れたストーリーを、常にヒロインの視点で描いていくという語り口も巧い。ともすると難解で意味不明な物語に陥ってしまいがちなところだが、余計な説明を一切拝したマルティーノ監督のインテリジェントな演出が功を奏している。
 さらに、監督自身が実際に見た悪夢を映像化したというドリーム・シークエンスのシュールな映像も見ものだ。人形のような格好をして空を飛ぶ醜悪な老女、全裸で股を広げる巨漢の妊婦、青い瞳をした謎の男、そしてその男に腹をメッタ刺しにされる女性。カルト教団の黒ミサや乱交シーンも含め、当時のサブ・カルチャーを色濃く反映した映像が刺激的だ。もともと凝ったカメラワークを好むマルティーノ監督だが、本作などは特に実験的な遊びに溢れている。
 ただ、あくまでも大衆向けの娯楽映画であることから、本国イタリアなど一部の地域では配給会社が勝手にドリーム・シークエンスをカットして上映するところもあったようだ。観客が理解できないのではないかというのが主な理由だったらしいが、もちろんそんなもの配給側の杞憂にしか過ぎない。“観客は配給会社が考えるほどバカじゃない”という監督自身の言葉は、全ての映画関係者が肝に銘じるべきだろう。
 晩秋のロンドンを舞台にしたロケーションの美しさや、ブルーノ・ニコライによるサイケ・ロック的な音楽スコアのカッコ良さにも注目したいところ。バーヴァやアルジェントの伝統とは一味違うジャッロの面白さを実感できる傑作だ。

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ジェーンの症状は悪化するばかり

姉バーバラ(S・スコット)はカウンセリングを勧める

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バートン博士(G・リゴー)のカウンセリングを受けるジェーン

夢の中に出てくる謎の男

 ロンドンに住む若い女性ジェーン・ハリソン(エドウィージュ・フェネッシュ)は、一年前に交通事故で流産して以来、悪夢や幻覚に悩まされる毎日を送っていた医薬品のセールスマンをしている婚約者リチャード(ジョージ・ヒルトン)の勧めで、大量のビタミン剤を摂取しているものの、症状は深刻さを増すばかり。交通事故の原因がリチャードの運転ミスだったこともあり、2人の関係にも溝が出来てしまった。
 ある日、ジェーンは姉バーバラ(スーザン・スコット)に促され、精神医学の権威であるバートン博士(ジョルジュ・リゴー)のカウンセリングを受けることにする。精神医学に否定的なリチャードは猛反対するが、ジェーン自身は藁にもすがるような思いだった。
 ジェーンが頻繁に見る悪夢は、5歳の時に殺された母親(ドミニク・ボスケーロ)のものだった。宙を舞う老女、血にまみれた巨漢の妊婦、不気味な青い瞳の男、そしてその男に腹部をメッタ刺しにされる母親。彼女にとってはあまりにもリアルな悪夢だ。しかし、全ては彼女の精神的トラウマが生み出した妄想だと博士は言う。
 カウンセリングを終えたジェーンは、夕暮のロンドンを独りで帰路に着いた。しかし、その途中で彼女は謎めいた男(イワン・ラシモフ)につきまとわれる。それは彼女の悪夢に出てくる青い瞳の男と瓜二つだった。
 恐怖に怯えながら自宅アパートへ戻った彼女は、最近引っ越してきたばかりのメアリー(マリーナ・マルファッティ)という女性と知り合う。彼女はどこか謎めいた雰囲気の持ち主だったが、他人とのコミュニケーションに飢えているジェーンはすぐに親しくなった。
 やがて、メアリーはジェーンにとって最大の理解者となる。青い瞳の男につきまとわれている話をしても、バートン博士やリチャードは彼女の妄想だと取り合ってくれなかったが、メアリーだけは真剣に耳を傾けてくれた。というのも、メアリー自身も同じような経験があったというのだ。恐怖を克服するためには、あえて恐怖に身を任せなければならない。そう語るメアリーは、精神セラピーの一環として黒ミサへの参加をジェーンに勧める。
 メアリーと共に郊外の屋敷へやって来たジェーン。そこで彼女はカルト教団の黒ミサに参加する。動物の血をすする教祖マクブライアン(ジュリアン・ウガルテ)。めくるめく狂乱と陶酔の中で、ジェーンは悪魔の誘惑に身を委ねていった。
 それからしばらくは悪夢を見ることもなく、すっかり立ち直ったかに見えたジェーン。だが、再び青い瞳の男が周辺をうろつくようになり、彼女は自らカルト教団のもとを訪れた。そこに待っていたのは入会の儀式。メアリーは自らが脱会する交換条件として、ジェーンを教団に引き入れようと画策したというのだ。しかも、脱会とはすなわち“死”を意味する。ジェーンはメアリーを刺し殺さねばならない。それによって、彼女の魂が悪魔から解放されるのだ。
 トランス状態の中でメアリーを刺し殺すジェーン。気が付くと、彼女は草むらの中で気を失っていた。目の前に現れた青い瞳の男。実はかつてジェーンの母親もカルト教団の一員で、脱会するために命を差し出した。その母親を刺殺したのが、青い瞳の男クーガンだったというのだ。
 自分の身に起きたことを受け入れられないジェーンは、バートン博士に助けを求めた。彼女の妄想が悪化したと考えた博士は、自分の別荘で一晩彼女を休ませることにする。休息こそが最大の薬だと。しかし、翌朝ジェーンが目覚めると、別荘の管理人夫婦が惨殺されていた。屋敷内を徘徊する青い瞳の男クーガン。さらに、様子を見に来たバートン博士までもが殺害されてしまった。絶体絶命の危機に立たされるジェーン。やがて、彼女を貶めようとする恐ろしい陰謀が明らかとなっていく・・・。

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夢と同じ青い瞳の男(I・ラシモフ)が現れる

男につきまとわれるジェーン

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ジェーンは隣人メアリー(M・マルファっティ)と親しくなる

メアリーと共に黒ミサへ向うジェーン

 前半のオカルト映画的なムードから一変し、後半ではジェーンの財産を巡る犯罪陰謀劇へとシフトしていくのが大きな見どころ。マルティーノ監督のパワフルな演出もさることながら、細かいディテールにこだわった脚本の妙技も特筆すべきだろう。
 原作を手掛けたサンチャゴ・モンカーダは、フアン・アントニオ・バルデム監督の名作スリラー『真夜中の恐怖』(73)やクラウディオ・ゲラン監督の異色ホラー“La campana del infierno”(73)などで知られるスペインの脚本家。妄想と現実の境界線を失っていく殺人鬼を描いた、マリオ・バーヴァ監督の幻想ホラー『クレイジー・キラー/悪魔の焼却炉』(70)も彼の仕事だ。
 その原案を脚色したのがエルネスト・ガスタルディとサウロ・スカヴォローニ。マルティーノ監督の証言によると、本作の脚本はガスタルディの功績に負うところが大きいという。ホラーからアクションまで、あらゆるジャンルにおいて見事な職人技を披露した名脚本家ガスタルディだが、その理屈に囚われない自由奔放なストーリー・テリングはイタリア産娯楽映画に欠かせない重要な要素だった。
 撮影を手掛けたのはマルティーノ組のジャンカルロ・フェランドと、アマンド・デ・オッソリオの“ブラインド・デッド”シリーズなどで知られるスペインのカメラマン、ミゲル・F・ミラ。ジャンプ・カットなどを多用したスピーディでワイルドな編集を手掛けたのは、『夕陽のガンマン』(65)や『豹/ジャガー』(68)、『ガンマン大連合』(70)、『食人帝国』(80)などでしられるエウジェニオ・アラビソ。70年代以降のマルティーノ作品の大半を手掛けたのも彼だ。
 また、美術デザインには『ゴールデン・キッド』(66)や『モルグ街の殺人』(71)などのハリウッド映画を手掛けたホセ・ルイス・ガリシアと、『黄金の七人』(65)シリーズで有名なハイメ・ペレス・クベーロの2人が参加している。
 そして、音楽スコアを手掛けたのはジャッロ映画に欠かせないマエストロ、ブルーノ・ニコライ。本作ではサイケデリックなロック色を前面に押し出し、随所でお得意のロマンティックな甘いメロディを聴かせてくれる。

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カルト教団による黒ミサへ参加したジェーン

教祖マクブライド(J・ウガルテ)

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夢とも現実ともつかない世界に困惑するジェーン

青い瞳の男はジェーンの母を殺した人物だった

 主演は“Lo strano vizio della signora Wardh”(70)に続いてマルティーノ作品での主演コンビとなる、ジョージ・ヒルトンとエドウィージュ・フェネッシュ。今回は恋人同士という役柄だが、どちらもちょっと一筋縄ではいかない複雑なキャラクターというのがミソ。特にジョージ・ヒルトンの陰のある存在感は、ストーリー上の重要なアクセントになっている。もちろん、エドウィージュ・フェネッシュの美しさも絶品。
 また、本作では脇役の女優陣も綺麗どころが揃っている。ジェーンの姉バーバラ役には、スペイン出身のカルト女優スーザン・スコットことニエヴェス・ナヴァッロ。ジェーンを黒ミサに誘う女性メアリー役には、“La notte che Evelyn usci dalla tomba”(71)や“La dama rossa uccide sette volte”(72)など日本未公開の秀作ジャッロに主演したマリーナ・マルファッティ。ジェーンの母親役には『殺しはドルで払え』(66)などのマカロニ・ウェスタンで有名なドミニク・ボスケーロが登場する。
 さらに、青い目の男クーガン役にはイタリアを代表する悪役専門セクシー男優イワン・ラシモフ。カルト教団の教祖マクブライアン役には、『吸血鬼ドラキュラ対狼男』(68)のマッド・ドクター役が記憶に残るスペインの俳優ジュリアン・ウガルテ。精神科医バートン博士役には、戦前のフランス映画で活躍したアルゼンチン出身の2枚目俳優ジョルジュ・リゴー。『盗みのプロ部隊』(67)で演じた初老の泥棒役の悲哀も印象的だった。
 その他、アラン・コリンズことルチアーノ・ピゴッツィやトム・フェレーギ、カルラ・マンシーニなどイタリアン・ホラーには欠かせない名脇役が顔を見せている。

 

影なき陰獣
I corpo presentato tracce di violenza carnale (1973)
日本では1976年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済
※日本盤DVDは北米盤と別仕様

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(P)2000 Anchor Bay (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:AL
L/93分/製作:イタリア

映像特典
ヨーロッパ版オリジナル予告編
アメリカ公開版オリジナル予告編
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:カルロ・ポンティ
脚本:セルジョ・マルティーノ
   エルネスト・ガスタルディ
撮影:ジャンカルロ・フェランド
音楽:グイド・デ・アンジェリス
   マウリツィオ・デ・アンジェリス
出演:スージー・ケンドール
   ティナ・オーモン
   リュク・メレンダ
   ジョン・リチャードソン
   カルロ・アルギエーロ
   ロベルト・ビサッコ
   カーラ・ブレイト
   エルネスト・コッリ
   アンジェラ・コヴェッロ
   コンチータ・アイロルディ
   パトリツィア・アディウトーリ

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舞台は古都ペルージャの学生街

親友のジェーン(S・ケンドール)とダニエラ(T・オーモン)

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女学生フローレンス(P・アディウトーリ)が殺害される

ダニエラに横恋慕する根暗な青年ステファノ(R・ビサッコ)

 セルジョ・マルティーノにとっては最後のジャッロ映画であり、完成度としては最も低い作品。とはいえ、数多のC級ジャッロと比べれば遥かに面白い猟奇サスペンスに仕上がっている。また、若い女性が次々とサディスティックな方法で殺されていくというストーリーから、マリオ・バーヴァの『血みどろの入江』(71)と並ぶスラッシャー映画の原点とも呼ばれている映画だ。マルティーノのジャッロ映画でこれが唯一の日本公開作というのは不満が残るものの、ジャンルを語る上で重要な作品のひとつであることは間違いない。
 舞台はペルージャの学生街。若い女学生たちが次々と殺害され、身の危険を感じた4人の親友は田舎の別荘へと身を隠す。しかし、謎の殺人鬼は彼女たちを執拗に付けねらい、ついに大虐殺へと発展。ただ独り生き残った女学生が、決死のサバイバルを試みることになる。
 前半はありきたりのスラッシャー映画という印象だが、別荘に閉じ込められたヒロインのサバイバルが繰り広げられる後半からは見もの。殺人鬼が別荘に殴りこむ瞬間で画面が切り替わり、翌朝目覚めたヒロインが友人たちの無残な死体を発見するという凝った展開もセンスがある。
 基本的に謎解きの要素はかなり希薄だが、当時のフリー・セックスとイタリア特有のマキズモという相反する要素の葛藤が物語の背景にあるのは興味深い。つまり、自由奔放で逞しい現代女性についていくことのできない男性のエゴこそが、本作の重要なテーマになっているのだ。
 もちろん、マルティーノ監督ならではのダイナミックでスタイリッシュなカメラワークや、古都ペルージャをはじめとするロケーションの美しさ、爽やかでロマンティックな音楽スコア、華やかな女優陣の顔ぶれなど、ほかにも見どころ満載。マルティーノ監督の職人技を存分に堪能したい作品だ。

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ジェーンはフランツ教授(J・リチャードソン)と親しくなる

謎めいた雰囲気の医師ロベルト(L・メレンダ)

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フローレンスの親友キャロル(C・アイロルディ)まで殺された

覆面を被ったサディスティックな殺人鬼

 ペルージャの大学に通う女学生フローレンス(パトリツィア・アディウトーリ)が、恋人とのデート中に殺害される。犯人は彼女を絞殺した上で両目を潰し、ナイフで胸を裂くという凶行に及んでいた。さらに、フローレンスの親友キャロル(コンチータ・アイロルディ)までもが、ヒッピーの集会を抜け出した直後に、同じ手口で惨殺されてしまう。
 警察は同一犯による犯行と断定し、死体の首元に残された繊維の断片から、赤と黒の幾何学模様のスカーフで首を絞めたものと推察した。情報提供を呼びかける刑事の言葉に、学生たちは動揺を隠せない。美術学科で学ぶダニエラ(ティナ・オーモン)は、そのスカーフに見覚えがあるような気がしたものの、誰が身に着けていたのかまでは思い出せなかった。
 彼女が怪しんでいたのは、幼馴染みの学生ステファノ(ロベルト・ビサッコ)。気弱で奥手な彼は女学生たちにしつこく付きまとうことで気味悪がられており、幼い頃に仲の良かったダニエラに対してもストーカーまがいの行為を繰り返していた。また、キャロルと同じヒッピー・グループに属していた男子学生2人も、事件の翌日に怪我をした姿を目撃されている。
 やがて、ダニエラのもとに謎の脅迫電話がかかってくるようになった。不安に怯える彼女に、しばらく別荘で過ごしたらどうかと叔父のニーノ(カルロ・アルギエーロ)が助言する。しかし、その叔父がフローレンスとキャロルの愛人だったことをダニエラは知らない。
 一方、ダニエラの親友であるアメリカからの留学生ジェーン(スージー・ケンドール)は、美術学科のハンサムで物静かなフランツ教授(ジョン・リチャードソン)と親しくなっていた。ダニエラは仲良しのジェーンとウルスラ(カーラ・ブレイト)、カーチャ(アンジェラ・コヴェッロ)を誘って叔父の別荘で過ごすことにする。
 だが、その直前にダニエラがステファノに襲われ、ジェーンは彼の真意を確かめるべく、後から別荘で合流することにした。ステファノの下宿先を訪ねるジェーン。だが、彼は行き先を告げず旅行に出てしまったという。
 その頃、静かな田舎町へとやって来たダニエラたち。叔父の別荘は町を見下ろす丘の上に建っている。ミニスカートをはいた都会の若い娘たちの来訪に、町の若者たちは色めきたっていた。そして、その様子を遠くから眺めているステファノの姿も。
 その晩、遅くになってジェーンが別荘へと到着。緊張感から解放された彼女たちは、夜遅くまでガールズ・トークに花を咲かせる。その様子を覗き見る男の影が。地元の知恵遅れの若者だった。その若者の背後から近づく怪しい影。若者は逃げまどった挙句に、喉元を切り裂かれて絶命する。
 その翌朝、ジェーンが階段を踏み外して片足を骨折してしまった。治療にやって来たのは若くてハンサムな医師ロベルト(リュク・メレンダ)。彼はペルージャに滞在していて、ダニエラたちと同じ列車でこの町へとやって来ていた。絶対安静のジェーンを残して、ウルスラたちと川遊びにやって来たダニエラは、向こう岸で様子を覗き見ているステファノの存在に気付く。しかし、すぐに彼は姿を消してしまった。
 そして夜。ジェーンは一足早く眠りにつき、ダニエラたちは酒を飲んでくつろいでいた。そこへ、玄関の呼び鈴が鳴る。恐る恐るドアを開けると、そこにはステファノが。しかし、彼は既に殺されていた。倒れこむステファノの死体。その背後から現れた黒づくめの殺人鬼。ダニエラたちの悲鳴が響き渡る。
 翌朝、寝室で目覚めたジェーンは屋敷内が静まり返っていることに気付く。片足を引きずりながら階段を下りた彼女は、変わり果てた親友たちの無残な死体を発見する。ふと物音に気付いて階段の陰へ隠れるジェーン。殺人鬼がノコギリを手に戻ってきたのだ。
 ウルスラたちの死体をバラバラに切り刻んでは、袋に詰めていく犯人。ジェーンは恐怖に凍りつきながらも、必死になって声を押し殺していた。そして、犯人が袋を外へ運び出した隙に二階へと上がったジェーン。受話器へと手を伸ばすが、電話は回線が切断されていて通じない。
 手鏡を持ち出した彼女は、ふもとの町へ向って太陽の光を反射させる。誰かが異常に気付いてくれることを祈って。だが、日常の生活に追われる人々は誰も丘の上にまで目が届かない。その頃、ジェーンの怪我を気にかけていたロベルトは、別荘へ電話が通じないことを不審に思っていた・・・。

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ダニエラは身の危険を感じるようになる

女学生たちはダニエラの叔父の別荘へやって来る

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ジェーンが足首を骨折してしまった

河の向こう岸にステファノの姿を目撃するダニエラ

 クライマックスで明かされる犯人の犯行動機はイマイチ説得力に欠けるものの、その辺の荒唐無稽さもジャッロの醍醐味。登場する男性全てに疑惑を向ける巧妙な演出のトリックはやはり上手い。マルティーノ監督自身によると、本作は実際に当時イタリアで起きた殺人事件にインスパイアされたものだったという。
 その事件では知人を何人も殺した男が、犯行の直後に幼い息子を公園へ連れて行き、普段と変わらない様子でアイスクリームを食べさせていたらしい。冷血な殺人鬼の顔と良き父親の顔を持ち合わせた犯人。監督はそのギャップに強く興味を引かれ、本作の脚本を書く際の参考にしたのだという。
 今回も撮影にはジャンカルロ・フェランド、編集にはエウジェニオ・アラビソというお馴染みの常連スタッフが参加。フェランドのイマジネーション豊かなカメラワークもさることながら、アラビソの手よるリズム感と切れのある編集はお見事。計算し尽くされているがゆえに雄弁だ。
 さらに、美術デザインには『魂のジュリエッタ』(65)や『エトワール』(88)、『尼僧の恋』(93)などを手掛けたジャンティト・ブルキエラーロが参加。プロデュースには『戦争と平和』(56)や『ドクトル・ジバゴ』(65)で有名な世界的大物製作者カルロ・ポンティが当たっている。
 また、マカロニ・ウェスタンやポリス・アクションなどでお馴染みの作曲家グイド・デ・アンジェリスとマウリツィオ・デ・アンジェリスの兄弟コンビが音楽スコアを担当。チプリアーニの『ラスト・コンサート』辺りを彷彿とさせる、爽やかでメロディアスなスコアを聴かせてくれる。
 ちなみに、アメリカでは“Torso”のタイトルで残酷シーンをカットしたバージョンが上映されたほか、ヨーロッパでは“Carnal Violence”という英語タイトルで公開されている。上記米国盤DVDにはアメリカ公開版とヨーロッパ版の劇場予告編が収録されている。イタリア映画の予告編全般に言えることだが、マニュアル通りの平凡なアメリカ版予告編よりも、アバンギャルドでスタイリッシュなヨーロッパ版予告編の方が遥かにカッコいい。

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静まり返った別荘の異変を感じ取るジェーン

変わり果てた親友たちの無残な姿を発見する

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ジェーンの目の前で死体が切り刻まれていく

ヒッピーのコミューンが時代を感じさせる

 で、今回は物語の前半と後半でヒロインがバトン・タッチする。前半のメインを張っているのは、ボロニーニの『わが青春のフロレンス』(70)や『哀しみの伯爵夫人』(74)、フェリーニの『カサノバ』(76)などで有名な女優ティナ・オーモン。父親も母親も世界的な映画スターというサラブレッドで、一筋縄ではいかない独特の個性を持った抜群の美人女優だった。本作でもその美しさは輝いており、それだけに彼女が殺されてしまう中盤の展開はショッキングだ。
 一方、唯一生き残った女性ジェーン役として後半を引っ張るのは、アルジェントの『歓びの毒牙(きば)』(69)でもヒロインを演じていたイギリス女優スージー・ケンドール。もともと『いつも心に太陽を』(67)の女教師役で脚光を浴びた女優さんで、清楚かつ知的なムードが魅力だった人。だがイギリスやハリウッドではあまり成功せず、イタリアのB級娯楽映画に活路を見出した。
 その他、『ソー・スウィート、ソー・デッド』(72)でも殺され役だったアンジェラ・コヴェッロ、アクション映画などの黒人ダンサー役でお馴染みのカーラ・ブレイト、後に映画プロデューサーとして成功するコンチータ・アイロルディ、マカロニ・ウェスタンやソフト・ポルノの準ヒロインとして活躍したパトリツィア・アドゥトーリといった綺麗どころの若手女優が女学生役で登場。
 一方、男性陣もポリス・アクションのヒーローとして有名なリュク・メレンダ、ハマー・プロの『炎の女』(65)や『恐竜100万年』(66)、バーヴァの『血塗られた墓標』(60)でお馴染みのイギリス人俳優ジョン・リチャードソン、『ロミオとジュリエット』(68)のパリス役が印象に残るロベルト・ビサッコ、『わたしは目撃者』(70)の線路に落とされる科学者役を演じていたカルロ・アルギエーロなどが出演。
 また、イタリア産ホラーやソフト・ポルノの変質者役としてお馴染みのエルネスト・コリが露天商の男を、『アポロンの地獄』(67)のテーベ王ライウス役や『カリギュラ2』(82)のメッサーラ役で知られるルチアーノ・バルトーリがヒッピーの若者役で顔を出している。

 

炎のいけにえ
Macchie solari (1974)

日本では1976年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済
※日本盤DVDとアメリカ版は別仕様

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(P)2000 Anchor Bay (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:AL
L/100分/製作:イタリア

映像特典
ヨーロッパ版オリジナル予告編
アメリカ公開版オリジナル予告編
監督:アルマンド・クリスピーノ
製作:レオナルド・ペスカローロ
脚本:アルマンド・クリスピーノ
   ルチオ・バッティストラーダ
撮影:カルロ・カルリーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ミムジー・ファーマー
   バリー・プリマス
   レイモンド・ラヴロック
   マッシモ・セラート
   アンジェラ・グッドウィン
   カルロ・カッタネオ
   ギャビー・ワグナー
   エルネスト・コリ
   レオナルド・セヴェリーニ
   アントニオ・カザーレ

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死体解剖室に勤務する検視医シモーナ(M・ファーマー)

彼女はノイローゼによる幻覚に悩まされていた

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アパートの住人ベティ(G・ワグナー)と知り合う

海水浴場で発見された死体はベティだった

 全編を通じて“死”と”エロス”と“狂気”のイメージに彩られた異色のジャッロ。オープニングを飾る自殺シーンの凄惨な地獄絵図、醜悪な死体が繰り広げる悪夢のような幻覚、本物の死体写真が数多く飾られた犯罪博物館の異様な雰囲気、サブリミナル効果で挿入される巨大なペニスの張り型、背徳的で屈折したセックス。ストーリーそのものよりも強烈なビジュアル・イメージで見せていくタイプの作品だ。
 炎天下のローマで相次ぐ自殺事件。手首を剃刀で切る女性、ビニール袋を頭から被って川へ飛び込む老人、運転席に座ったまま車に火をつける男性、子供達を殺害した上で自分の胸を機関銃で撃ち抜く父親。冒頭から凄まじい自殺シーンが繰り広げられる。
 さらに、検視医として働くヒロインが見る生々しい幻覚。仕事の過労と猛暑の影響でノイローゼ気味の彼女は、職場の死体解剖室で激しい幻覚に襲われる。次々と動き出す死体たち。ニヤニヤ笑いながら起き上がった黒人の男はブロンドの女とファックに及び、醜い中年女が全裸でうろつきまわり、頭部の損壊した男が狂ったような叫び声をあげる。
 これらの悪夢的なイメージが冒頭の10分ほどの間で立て続けに描かれていくのだ。このオープニングだけでも圧倒的なパワーとインパクトがあり、おのずと映画への期待も高まるわけだが、残念ながらその後の展開は比較的凡庸。逆に、最初の10分間のインパクトがあまりにも強烈過ぎたのかもしれない。
 それでも、全編に流れるモリコーネの音楽スコアは観客の不安を煽るに十分な雰囲気を醸し出しているし、カルロ・カルリーニによる病的で陰鬱な映像イメージ、ダニエレ・アラビソによる複雑怪奇な編集も妙な居心地の悪さを生み出している。
 さらに、猛暑のせいなのか分からないが、半ば人格の崩壊しかけたような登場人物たちの荒んだキャラクターも見る者の不安感を増長させる。現実と狂気の境界線を曖昧にしたアルマンド・クリスピーノ監督の演出がまた不気味なムードを高めており、何ともいえない後味の悪さを残す怪作に仕上がった。好き嫌いの真っ二つに分かれる映画だとは思うが、好きな人にとってはたまらない作品であることは間違いないだろう。

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ベティの兄ポール(B・プリマス)は他殺説を主張する

シモーナの恋人である写真家エドガー(R・ラヴロック)

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シモーナは父ジャンニ(M・セラート)の関与を疑う

管理人(L・セヴェリーニ)の死体を発見するシモーナ

 記録的な猛暑の続くローマ。照りつける太陽の光が人々を狂気へと追いやるためか、市内では毎日のように凄惨な自殺事件が相次いでいた。死体解剖室で働く検視医シモーナ(ミムジー・ファーマー)は、猛暑と過労のせいでノイローゼが悪化し、悪夢のような幻覚に悩まされている。
 そんなある日、彼女は自宅アパートの上階に住む若いアメリカ人女性ベティ(ギャビー・ワグナー)と知り合った。アパートは父親の所有物件だし、彼のアメリカ人好きはよく知っているので、シモーナはてっきりベティのことを父親の愛人だと思った。しかし、彼女はシモーナの父親には会った事がないという。
 その翌日、海辺の海水浴場で女性の死体が発見された。顔面を拳銃で打ち抜いており、現場の状況から自殺と推測される。顔面の破損が激しかったものの、検死に立ち会ったシモーナはどこかで見覚えがあるような気がした。
 シモーナは父親ジャンニ(マッシモ・セラート)と数年ぶりにホテルで再会する。彼は近々再婚するつもりだと嬉しそうに語った。ホテルにはジャンニの元愛人である画家ダニエル(アンジェラ・グッドウィン)の姿も。シモーナはダニエルが被っていた赤毛のウィッグを見て当惑する。昨晩、ベティが被っていたものと瓜二つだったからだ。
 死体解剖室に戻ったシモーナは、似たような赤毛のウィッグを女性の死体に被せてみた。そう、死体は昨晩会ったばかりのアメリカ人女性ベティだったのだ。そこへ、ベティの兄だという牧師ポール(バリー・プリマス)が現れ、死体が自分の妹であることを確認する。しかし、彼は妹の死因が自殺などではなく、何者かに殺されたのだと主張する。
 ポールはシモーナの父ジャンニが、ベティの死に関わっているのではないかと疑っていた。真っ向から反論するシモーナだが、彼女自身も内心では父親の関与を疑っている。だが、恋人の写真家エドガー(レイモンド・ラヴロック)はポールが元F1ドライバーで、事故が原因で精神病院に入っていた危険人物だと警告する。
 さらに、ジャンニのもとで何らかの仕事をしていたアパートの管理人(レオナルド・セヴェリーニ)が謎の自殺を遂げ、シモーナのもとには彼女自身の署名が入った遺言書が届けられる。誰かが彼女を精神的に追い詰めようとしているかのようだった。
 次第に精神的なバランスを崩していくシモーナ。頑なにセックスを拒絶する彼女に対し、恋人エドガーはサディスティックな方法で欲情を煽ろうとするが、かえってそれは逆効果だった。
 一方、死んだ妹の周辺を探っていたポールは、ベティがジャンニの愛人であったことを突き止める。どうやら、彼女はジャンニを裏切るような行為をしていたらしい。それが一体何だったのか?一方、ジャンニの方にも何らかの隠し事があったらしく、それを巡って弟リロ(カルロ・カッタネオ)と激しく対立していた。その晩、彼はアパートのベランダから落下してしまう。
 父親が半身不随となってしまい、同僚のイヴォ(エルネスト・コリ)からレイプされそうになったシモーナは悲嘆に暮れる。だが、その一方で彼女はベティの死因が自殺ではなかったかもしれないという疑問を抱くようになった。ポールの発案で、彼女は機械を使って父親ジャンニとコミュニケーションを取ろうと試してみる。ところが、何者かが注射薬に毒物を混入させたせいで、ジャンニは彼女の目の前で死亡してしまった。
 失意のどん底に陥るシモーナ。その頃、ポールはジャンニとリロの2人が闇取引で中世の貴重な聖書を手に入れたこと、その聖書に何か重要な秘密があったことを知る。どうやら、彼らはその秘密を巡ってある人物を脅迫していたらしいのだが・・・。

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お互いに反撥しあいながらも協力するポールとシモーナ

ジャンニの元愛人ダニエル(A・グッドウィン)とは犬猿の仲

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当時有名になった人形の頭部爆発シーン

ローマの美しいロケーションも随所に

 常に情緒不安定で不機嫌なシモーナの人物描写もさることながら、牧師にしては気が短くて乱暴なポール、サディスティックなセックス・マニアのエドガーなど、登場人物はいずれも素直に感情移入することのできないキャラクターばかり。誰もがどこか頭がイカれていているのだ。
 監督と脚本を手掛けたのは、リー・ヴァン・クリーフ主演による戦争アクションの痛快作『地獄の戦場コマンドス』(68)で知られるアルマンド・クリスピーノ。彼はエトルリアの古代遺跡を巡る連続殺人事件を描いた“L'etrusco uccide ancora”(72)という異色ジャッロも手掛けており、ちょっと変わったホラー趣味の持ち主だったようだ。
 なお、共同脚本家として参加したルチオ・バティストラーダはクリスピーノ監督の盟友で、彼の監督作以外にもカルロ・リッツァーニの『殺して祈れ』(67)で一緒に脚本を書いている人物だ。
 撮影のカルロ・カルリーニはロッセリーニの『不安』(54)や『ロベレ将軍』(59)、フェリーニの『青春群像』(53)などのネオレアリスモ映画で知られる名カメラマン。その一方で、マカロニ・ウェスタンやスペクタクル史劇、ソフト・ポルノなどのB級娯楽映画も数多く手掛けた職人だった。
 その他、セルジョ・マルティーノ監督とのコンビで知られる鬼才ダニエレ・アラビソが編集を、『フェラーラ物語』(87)や『肉体の悪魔』(86)、『かぼちゃ大王』(93)などの名作を手掛けたレオナルド・ペスカローロが製作を担当。さらに、女性の喘ぎ声や不協和音を駆使したミステリアスな音楽スコアを巨匠エンニオ・モリコーネが手掛けている。
 ちなみに、本作は“Autopsy”のタイトルで15分近くも編集カットされたバージョンがアメリカ公開されたほか、イギリスでは“The Victim”および“The Magician”、スペインでは“Tension!”などのタイトルで上映されている。

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ジャンニには何らかの秘密があるようだった

精神的なバランスを崩していくシモーナ

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サディスティックな方法でシモーナの欲情を煽るエドガー

シモーナが直面した犯人の正体とは・・・

 主人公シモーナ役を演じるのは、アンニュイなムードが魅力のアメリカ人女優ミムジー・ファーマー。『モア』(69)への出演がきっかけでヨーロッパを活動の拠点とし、アルジェントの『4匹の蝿』(71)などイタリア映画への出演も少なくない。本作では全編で大胆なセックス・シーンやヌード・シーンを披露しており、彼女にとってはかなり過激な役柄だったと言えるかもしれない。情緒不安定気味なシモーナはまさにはまり役だった。
 牧師ポール役を演じているバリー・プリマスは、80年代の人気ドラマ『女刑事キャグニー&レイシー』のキャグニーの恋人である熱血刑事マッケンナ役で有名なアメリカ人俳優。映画でもロジャー・コーマンのカルト作『レッド・バロン』(70)やスコセッシの『ニューヨーク・ニューヨーク』(77)、ロジェ・ヴァディムの『ナイト・ゲーム』(80)など数多くの作品で準主演クラスを演じてきた名優だ。
 一方、シモーナの恋人エドガー役には、イタリア映画ファンならお馴染みの2枚目スター、レイモンド・ラヴロック。『ガラスの部屋』(69)では日本でもアイドル・スターとして人気になった人だが、本作ではかなり人間的に問題のある男を演じて巧い。しかも全裸のサービス・ショットというオマケつきだ。
 また、シモーナの父親ジャンニを演じているのは、戦前・戦時中のイタリア映画界を代表する美形スターだったマッシモ・セラート。アリダ・ヴァリのダンナさんだったことでも有名な俳優だ。その元愛人で嫌味なオバサマのダニエル役を演じているのは、日本で大ヒットしたメロドラマ『フィーリング・ラブ』(78)の母親役が印象深い女優アンジェラ・グッドウィン。『ジュリア・ジュリア』(87)ではガブリエル・バーンの母親役を演じていた。そして、『影なき陰獣』で露天商の男を演じていたエルネスト・コリが、ここではシモーナの同僚である陰気でスケベな男イヴォ役で顔を出している。

 

Gatti rossi in un labirinto di vetro (1974)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2002 Marketing Film (Germany)
画質★★☆☆☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(ドイツPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド・モノラル/音声:英語・ドイツ語/字幕:なし
/地域コード:ALL/88分/製作:イタリア・スペイン

映像特典
オリジナル劇場予告編
フォト・ギャラリー
フィルモグラフィー集
監督:ウンベルト・レンツィ
製作:ジョセフ・ブレナー
原案:フェリックス・トゥセル
脚本:フェリックス・トゥセル
   ウンベルト・レンツィ
撮影:アントニオ・ミラン
音楽:ブルーノ・ニコライ
出演:マルティーヌ・ブロシャール
   ジョン・リチャードソン
   イネス・ペレグリーニ
   ジョルジュ・リゴー
   アンドレ・メフート
   ミルタ・ミレール
   ダニエレ・ヴァルガス
   シルヴィア・ソラール
   ラフ・バルダッサーレ
   マルタ・マイ
   トム・フェレーギ

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バルセロナを旅するアメリカ人の観光客グループ

上司と不倫しているポーレット(M・ブロシャール)

 『狂った蜜蜂』(68)や『殺意の海』(69)など、比較的早い段階からジャッロに手を染めていたベテラン職人ウンベルト・レンツィ。にも関わらず、彼のジャッロ作品はお世辞にも良く出来ているとは言えないような駄作ばかりで、サスペンス・スリラーの監督としては決して恵まれたセンスの持ち主とは言い難い。
 どちらかというと勢いだけで見せる大雑把な演出が身上のレンツィ監督。それだけに、『怪奇!魔境の裸族』(73)や『食人帝国』(80)のようなカンニバル映画、『ナイトメア・シティ』のようなゾンビ映画など、脳みそを使う必要のない悪趣味なトラッシュ映画の方が向いているのだ。
 なので、本作もジャッロ映画としては及第点。それでも、レンツィ作品の中ではまずまずの出来栄えだ。露骨なセックス描写にエグい残酷シーン、謎解きのトリックなど完全に無視した安直なストーリー展開。その開き直ったかのようなC級感覚は、ある意味ゲテモノ映画の王道である。
 物語は非常にシンプル。スペインを旅行中のアメリカ人観光客のグループが、赤いコートを被った謎の殺人鬼によって一人また一人と殺されていく。文字通り、ただそれだけ。一応、殺人鬼の赤いコートはニコラス・ローグの『赤い影』(73)からのパクリだし、殺人鬼のサディスティックな殺害方法は一連のアルジェント作品にインスパイアされたものと考えられるが、それ以外はなんら捻りもアイディアも盛り込まれていない。当然のことながら、オリジナリティなど皆無に等しいと言える。
 ひとまず、チープなスリルとサスペンスを楽しむのには十分な作品。バカバカしいの一言に尽きるセリフやプロットも含め、暇つぶしに仲間とワイワイやるには最適な1本だろう。

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観光客グループの近くで花屋の少女が殺害される

少女は左目をくり抜かれていた

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次に観光客の少女が殺人鬼の犠牲になる

同一人物の犯行と睨むトゥデーラ警部(A・メフート)

 バルセロナを観光バスで移動中のアメリカ人グループ。街中の広場でショッピングを楽しんでいた彼らだが、近所の花屋に勤める18歳の少女が赤いコートを被った殺人鬼によって殺害される。被害者は胸を短刀で刺された上、右目をくり抜かれていた。第一発見者のポーレット(マルティーヌ・ブロシャール)と不倫相手マーク(ジョン・リチャードソン)は、その凄惨な光景に戦慄する。
 次にアミューズメント・パークへ寄った観光客グループだったが、今度は幽霊屋敷の中で10代の少女が殺されてしまう。犯行は同じ手口で、警察のトゥデーラ警部(アンドレ・メフート)は同一人物の犯行と睨んだ。
 実は、マークには犯人の心当たりがあった。妻のアルマ(マルタ・マイ)である。以前に彼は、妻が自宅のプールサイドで意識を失って倒れ、その傍らに人間の目玉と短刀が転がっているのを発見したことがあったのだ。しかも、どうやらアルマはこのバルセロナに来ているらしい。滞在先のホテルを訪れたマークは、ベッドの脇に血まみれの短剣を見つける。
 一方、観光客グループのメンバーたちも怪しげな人物が多かった。一人娘に性的な欲望を抱いているハミルトン氏(ジョン・バーサ)、幼い少女たちの写真を持ち歩いている牧師ブロンソン(ジョルジュ・リゴー)、女好きのアルヴァラード氏(ダニエレ・ヴァルガス)などなど。
 やがて、バルセロナ近郊の農村を見学した際に、農家の少女が全く同じ手口で殺害された。観光客グループに疑いがかかるものの、確固たる物的な証拠がない。一方、妻の行方を捜すマークは、レズビアンの写真家リサ(ミルタ・ミレール)に協力を頼んだ。
 ところがリサまでもが殺人鬼の餌食となり、現場を目撃した恋人ナビア(イネス・ペレグリーニ)は逃げる犯人に突き飛ばされる。ショックで病院に入院したナビアだったが、殺人鬼はここへもやって来た。ナビアは間一髪のところを警察に救われる。
 その頃、ホテルでは観光客たちはレストランで食事を楽しんでいた。ハミルトン氏の娘ジェニー(ヴェロニカ・ミリエル)は退屈しのぎにプールで泳いでいたところ、背後から忍び寄る殺人鬼に襲われた。格闘の末にプールへ飛び込んだジェニー。そこへ悲鳴を聞きつけたホテル関係者が駆けつけ、ジェニーは軽い傷を負っただけで済んだ。
 現場検証を行うために警察が到着し、近くで血の付いたナイフを手にしたマークを取り押える。マークは犯人を追いかけて取り逃がしたのだと言うが、トゥデーラ警部は彼を容疑者として逮捕した。
 翌朝、ホテルへと戻ったナビアは、リサが現像に出していた写真を受け取る。そのうちの一枚を見た彼女は、そこに真犯人の姿が映っていることに気付いたのだが・・・。

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幼い少女たちの写真を持ち歩くブロンソン牧師(G・リゴー)

ポーレットの上司マーク(J・リチャードソン)は妻の関与を疑う

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農家の少女が同じ手口で殺される

観光客全員に疑いの目が向けられた

 事件が解決するまで観光客たちが帰国できないというのは分かるとしても、その間に尋問も拘束も保護もしない警察ってのはどーよ、というのが正直な感想。そもそも、犯人にまつわる様々なエピソードや状況設定に関して、蓋を開けてみるとまるっきり辻褄が合わないというのも萎える。謎解きにすらならないどんでん返しも笑えるし、犯人の正体と動機の荒唐無稽なご都合主義なんか、ある意味で衝撃的。んなバカな!?と大爆笑すること必至だ。
 原案と脚本を手掛けたフェリックス・トゥセルに関する詳細は不明だが、どうやら本業はスペインの映画プロデューサーらしい。製作を手掛けたジョセフ・ブレナーも本来はニューヨークの映画ディストリビューターで、『影なき陰獣』や香港の『超人インフラマン』などをアメリカで配給した人物だったようだ。
 撮影監督のアントニオ・ミランは、『バルセロナ殺人事件』(76)などの低予算映画を手掛けたスペインのカメラマン。編集のアメデオ・モリナーリはエウジェニオ・アラビソのアシスタントを長年務めた人で、これは数少ない編集担当作品のひとつ。また、『愛のエマニエル』(75)や『超人ヘラクレス』(83)のアドリアーナ・スパダーロが衣装デザインを担当している。
 そして、音楽スコアを手掛けたのは名匠ブルーノ・ニコライ。本作でもイージーでグルーヴィーなサウンドを楽しませてくれているが、なにしろレンツィ監督は音楽の使い方が悪い。やたらと同じメロディをそこらじゅうで過剰に使用しているために全くメリハリがなく、逆に耳ざわりに聴こえてしまうのだから困ったもんだ。
 ちなみに、本作のタイトルは“ガラスの迷宮にさまよう赤い猫”という意味で、アルジェントの動物トリロジーに影響されて付けられたことは明白。アメリカでは“Eyeball”のタイトルで上映されたが、一部では“The Devil's Eye”というタイトルも使用されたようだ。また、ヨーロッパでは“The Secret Killer”というタイトルで劇場公開され、ビデオ・リリース時には“Wide Eyed in the Dark”というタイトルに変更されている。

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マークに協力を頼まれた写真家リサ(M・ミレール)が殺された

犯行現場を目撃するリサの恋人ナビア(I・ペレグリーニ)

 ヒロインのポーレット役を演じているのは、トリュフォーの『夜霧の恋人たち』(68)やリシャール・バルデュッシの『ラムール<愛>』(70)に出演していたフランス女優マルティーヌ・ブロシャール。イタリアの監督フランコ・モーレと結婚したことからイタリア映画への出演も非常に多く、夫の監督作『ヘンリー・ミラーの愛した女たち』(89)ではアナイス・ニン役を、ティント・ブラス監督の『パプリカ』(91)では娼館のマダム役を演じている。コケティッシュではあるものの、どちらかというと地味で華のないタイプの女優さんだ。
 その上司で不倫相手のマーク役を演じているのは、上記の『影なき陰獣』にも出ていたジョン・リチャードソン。彼も『血ぬられた墓標』や『炎の女』に出てた頃は若くてハンサムだったが、あまり上手く年を取ることができなかった人。本作でも2枚目崩れ的な印象は拭えず、主演俳優としては少々貧相なのが気になる。
 犯人の正体に気付くレズビアンの女性ナビア役を演じているイネス・ペレグリーニは、パゾリーニ監督の『アラビアンナイト』(74)で脚光を浴びた女優さん。ファッション・モデル出身だったらしく、確かにルックスはキュートで個性的だが、演技力はほぼゼロに近い。
 その恋人で写真家の女性リサ役を演じているミルタ・ミレールは、『ゾンビの怒り』(73)や『空手アマゾネス』(73)などに出演していたスペインのB級女優。アルヴァラード氏役のダニエレ・ヴァルガスは、マカロニ・ウェスタンやアクション映画の脇役として活躍した俳優。その妻役を演じているシルヴィア・ソラールは、冒険活劇『黄金の砦』(65)のヒロイン役でハリウッド進出も果たしたフランス人女優。マークの妻アルマ役には、スペイン製ウェスタンのヒロインとして活躍した女優マルタ・マイ。そして、ブロンソン牧師役には戦前のフランスの2枚目俳優ジョルジュ・リゴーが登場する。こうしてみると、アメリカ人ツーリスト役に一人もアメリカ人俳優が含まれていないというのも、当たり前といえば当たり前なのだが奇妙な感じだ。
 なお、トゥデーラ警部役を演じているアンドレ・メフートは40年代に活躍したスペインの2枚目俳優だったらしく、本作では一番映画スターらしい存在感を醸しだしている。

 

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