ジャッロ ベスト・セレクション
PART 1
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『モデル連続殺人』より |
“ジャッロ”とはイタリア語で“黄色”という意味。もともとイタリアではエドガー・ウォレスなどの推理犯罪小説の人気が非常に高く、出版社では読者が一目で分かるようにとペーパーバック版の表紙を黄色で統一していた。そのことから、やがて“ジャッロ”という言葉が推理犯罪小説の総称となり、さらに60年代から70年代にかけて量産された猟奇サスペンス・ホラー映画のことを指すようになる。
最初に作られたジャッロ映画はマリオ・バーヴァ監督の『知りすぎた少女』(62)だと言われているが、もちろんそれ以前から犯罪サスペンスに該当するような映画はイタリアでも存在した。巨匠ルキノ・ヴィスコンティの名作『郵便配達は2度ベルを鳴らす』(42)なんかも、広義に解釈すればジャッロの原点と言えなくもないだろう。しかし、一般的に認識されているジャッロとは犯罪推理やサスペンスよりも、猟奇的な犯罪描写そのものに焦点が当てられており、ジャンルとしては明らかにホラー映画に属する。そのことを考えると、やはり『知りすぎた少女』がジャッロの原点というのが妥当な線だと言えるはずだ。
ジャッロの誕生を語る際に意外と忘れられがちなのは、50年代末から60年代にかけて当時の西ドイツで量産された“クリミ映画”の存在だ。クリミ映画とは西ドイツ産の推理サスペンス映画の呼称で、一連のエドガー・ウォレス作品の映画化をきっかけに当時ヨーロッパで大流行していた。マスクを被った黒づくめの殺人鬼、血みどろの残酷描写、セクシーな美人女優を動員した濃厚なエロティシズムなど、いわゆるジャッロ映画の重要な要素がクリミ映画では既に出揃っている。イタリアとの合作映画も少なくなかったことから、クリミ映画がイタリアのジャッロに多大な影響を与えたと考えてもおかしくはないだろう。
いずれにせよ、『知りすぎた少女』から始まったイタリアのジャッロ映画は、同じくマリオ・バーヴァの手掛けた『モデル連続殺人』(64)やエルネスト・ガスタルディの“Libido”(67)、ウンベルト・レンツィの『狂った蜜蜂』(68)などの成功により、徐々にではあるが独自のジャンル体系を形成していく。
しかし、ジャッロがイタリア映画界で確固たる地位を確立するようになったのは、ダリオ・アルジェント監督の『歓びの毒牙(きば)』(69)の世界的な大ヒットがきっかけだ。ヨーロッパのみならずアジアでも大成功を収め、アメリカでも興行収入1位という記録を打ち立ててしまった。さらに、露骨な性描写と残酷描写を盛り込んだセルジョ・マルティーノ監督の“Lo strano
vizio della signora
Wardh”(70)が賛否両論を巻き起こし、ジャッロ映画の方向性が決定付けられる。
この2作品の成功を機に、イタリア映画界には空前のジャッロ・ブームが訪れた。最盛期の72年には年間で24本ものジャッロ映画が製作されている。いずれも血みどろの残酷描写や過激なセックス描写をトレードマークとし、世界中で熱心なファンを生み出すようになった。
もちろん、ブームに便乗しただけの作品も多かったが、映画的に大変優れた作品も決して少なくない。当時はセンセーショナリズムに訴えるだけのエログロ映画としか思われず、評論家からの評判はあまり芳しいものではなかったようだが、映画史を紐解いてみても分かるように、必ずしも映画評論家に先見の明があるとは限らない。なにしろ、後に再評価されるようになる映画の大半が、リアルタイムでは多くの評論家から無視されたり酷評されたりしているのだから。
ルチオ・フルチの『幻想殺人』(71)やパオロ・カヴァーラの『タランチュラ』(71)、セルジョ・マルティーノの『影なき陰獣』(73)、ルチアーノ・エルコーリの『ストリッパー殺人事件』(73)、アルマンド・クリスピーノの『炎のいけにえ』(74)など、次々とヒット作・話題作を生み出したジャッロ映画。しかし、エスカレートするばかりの残酷描写やセックス描写が次第に観客から飽きられ、アルジェントの『サスペリアPART2』(75)を最後にブームは沈静化の一途をたどった。
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『歓びの毒牙(きば)』より |
だが、そのアルジェントが久々に原点回帰した『シャドー』(82)のヒットをきっかけに、ジャッロ映画ブームが再燃することになる。ルチオ・フルチの『リッパー』(82)やランベルト・バーヴァの『暗闇の殺意』(83)、カルロ・バンツィーナの『ドレスの下はからっぽ』(85)、ミケーレ・ソアヴィの『アクエリアス』(86)、ダリオ・ピアーナの『華麗なる殺人/死ぬには美しすぎて』(89)などの佳作・秀作も生まれた。
しかし、イタリアの娯楽映画産業が急激に衰退していく80年代において、もはやジャッロ映画にもかつてのような輝きと勢いは見られなかった。極端な低予算による製作現場の弱体化は作品のクオリティにも色濃く反映されてしまい、一部の例外をのぞけば見るに耐えないような作品も少なくなかったと言えよう。
唯一、アルジェントが『オペラ座/血の喝采』(88)や『トラウマ』(92)、『スリープレス』(01)、『デス・サイト』(04)などの優れたジャッロ映画を作り続けているが、ジャンルそのものは90年代半ばにほぼ死滅してしまった。
先述したように、評論家からは正当な評価を得ることが出来なかったジャッロ映画だが、世界中の映画作家や映画ファンに与えた影響は計り知れない。猟奇サスペンスに露骨なセックスとバイオレンスを盛り込んだという点で、ブライアン・デ・パルマ監督の『殺しのドレス』(80)やポール・ヴァーホーベンの『氷の微笑』(92)などに多大な影響を与えたことは間違いないし、ジャッロがなければ『13日の金曜日』(80)に始まる80年代のスラッシャー映画ブームも存在しなかったはずだ。
最近では世界的に根強いジャッロ人気やタランティーノらによるジャンル再評価を背景に、ピエルフランチェスコ・カンパネッラの“Cattive
inclinazioni”(03)やアンドレア・モライオーリの“La ragazza del
lago”(07)、ジョヴァンニ・ピアニジャーニがアメリカ資本で撮った“Darkness Surrounds
Roberta”(08)などのジャッロ映画が作られているが、まだまだ完全復活への道は遠く険しいといわざるを得ないだろう。
Lo strano
vizio della signora Wardh
(1970)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売
(P)2005 No Shame Films
(USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:1/
94分/製作:イタリア・スペイン
映像特典
メイキング・ドキュメンタリー(監督、製作者、脚本家、主演スター2人の最新インタビュー収録)
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:ルチアーノ・マルティーノ
アントニオ・クレッシェンツィ
脚本:エドュアルド・マンザノス・ブロシェロ
エルネスト・ガスタルディ
ヴィットリオ・カロニア
撮影:エミリオ・フォリスコット
音楽:ノラ・オルランディ
出演:ジョージ・ヒルトン
エドウィージュ・フェネッシュ
コンチータ・アイロルディ
アルベルト・デ・メンドーザ
イワン・ラシモフ
マヌエル・ギル
カルロ・アルギエロ
ブルーノ・コラッザーリ
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ウィーンに到着したニール(A・デ・メンドーサ)と妻ジュリー |
ジュリー(E・フェネッシュ)のもとに花束が届く |
SMを含む過激な性描写や大胆なヌード・シーンで物議を醸し、ジャッロ映画の方向性を決定付けた大ヒット作。アルジェントの『歓びの毒牙』と並んで、ジャッロの歴史を語る上では絶対に欠かせない傑作だ。
監督はイタリアの誇る娯楽映画の名職人セルジョ・マルティーノ。彼にとっては、これが初のジャッロ作品に当たる。イタリアを代表するスクリーム・クィーン、エドウィージュ・フェネッシュと組むのもこれが初めてで、以降2人はジャッロ以外でも数多くの作品でコンビを組むようになる。
フェネッシュ扮するのは裕福な外交官夫人ジュリー。故郷のオーストリアへ帰って来た彼女は、街で頻発している猟奇殺人事件の犯人がかつての恋人ジャンではないかと疑う。かつて彼女はサディスティックなジャンから暴力的な陵辱行為を受けていた。そして、今また彼女の周囲で次々と人が殺され、行方をくらましていたジャンが姿を現す。最愛の夫ニールや不倫相手ジョージの助けを借りながら真相に迫るジュリーは、連続殺人事件の裏に隠された恐るべき陰謀を知ることになる。
センセーショナルな性描写の過激さもさることながら、どんでん返しに次ぐどんでん返しのストーリー展開がまた実に面白い。登場する男たちが実は全員グルだったというタネ明かしも衝撃的だが、救いのないクライマックスのやるせなさがまた格別な余韻を残す。マルティーノはこの3年後にも『影なき陰獣』という傑作ジャッロをものにしているが、脚本の完成度の高さでは本作に軍配が上がるだろう。
また、オーストリアやポルトガルで撮影されたロケ・シーンの美しさや、スタイリッシュなカメラワーク、ゴージャスでモダンな美術セットなど、隅々まで神経の行き届いたマルティーノの演出も素晴らしい。社交パーティでのあられもないキャット・ファイトや、ガラスの破片を全身に浴びた流血ファックなど、フリーセックス全盛の時代に相応しい過激な描写も見ものだ。
これを見ずしてジャッロを語るなかれ。全てのイタリアン・ホラー映画ファンにオススメする逸品だ。
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ジュリーは軟派なプレイボーイ、ジョージ(G・ヒルトン)と知り合う |
有名なキャットファイト・シーン |
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ジュリーの前に姿を見せる元恋人ジャン(I・ラシモフ) |
かつてジュリーはジャンの暴力的なセックスの奴隷だった |
アメリカ人の外交官ニール・ワード(アルベルト・デ・メンドーザ)と結婚したジュリー(エドウィージュ・フェネッシュ)は、夫がオーストリア駐在のアメリカ大使に任命されたことから、数年ぶりに故郷ウィーンへ戻ってきた。空港からタクシーに乗った彼女は途中で警察の検問で止められ、近くで娼婦の惨殺体が発見されたことを知る。運転手の話によると、ウィーンでは女性ばかりを狙った猟奇的な連続殺人事件が起きているという。
そのあくる日から、ジュリーのもとに花束が届くようになった。その差出人の名前を見て彼女は凍りつく。かつての恋人ジャン(イワン・ラシモフ)からのものだったからだ。ジャンは女性蔑視のサディストで、ジュリーは彼の暴力的なセックスの奴隷にされていた。その記憶は未だにトラウマとして残っている。その後行方知れずのままだったジャンだが、今またこうして彼女にまとわりつくようになったのだ。
忘れたはずの過去から甦った恐怖の記憶。外交官として多忙を極める夫ニールに相談することもままならないジュリーは、亡くなった叔父の遺産を相続して羽振りのいい親友キャロル(コンチータ・アイロルディ)が主催する社交パーティに招かれた。そこでキャロルの従兄弟ジョージ(ジョージ・ヒルトン)と知り合った彼女は、ハンサムで人懐こい彼に魅了される。だが、そのパーティにジャンが姿を現した。逃げるようにして帰路へつく彼女に関係を迫るジャン。迎えに来たニールの制止でジャンは姿を消したが、それ以来ジュリーは悪夢に悩まされるようになる。
ジュリーの気を紛らわそうとドライブに誘うキャロルだったが、やはり彼女の不安は拭い去れない。やがて、親身になって相談に乗ってくれるジョージとの間にロマンスが生まれ、留守がちな夫のいない寂しさやジャンの存在をつかの間でも忘れることができたジュリー。
それでも、ジャンに終始付け回されているような気がしてならず、次第に彼女は精神的にバランスを失っていく。さらに、キャロルのパーティに参加していた女性らが次々と連続殺人気の毒牙にかかり、ジュリーは犯人がジャンなのではないかという疑念に取りつかれる。ついにはキャロルまでもが公園で惨殺されてしまった。
さらに、ジュリー自身もアパートの駐車場で黒づくめの殺人鬼に襲われた。間一髪で自宅に逃げ込んだジュリー。夫ニールを伴ってジャンの屋敷を訪れた彼女は、手首を切って浴槽に横たわるジャンの死体を発見した。その頃、街中では謎の殺人犯(ブルーノ・コラッザーリ)に襲われた女性が、反撃に成功して犯人を殺害。かくして、連続殺人事件は一件落着したかに思われた。
夫が長期出張することになり、療養も兼ねてジョージとポルトガルへ向ったジュリー。ところが、彼女の周囲で怪しげな人影が出没する。それは自殺したはずのジャンだった・・・!
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街では次々と女性が殺害されていく |
ジョージと急接近するジュリー |
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ジュリーの親友キャロル(C・アイロルディ)が何者かに呼び出される |
無残にも殺されてしまったキャロル |
多発する猟奇的連続殺人に便乗した計画殺人というのが、本作の大まかなプロットと言うべきだろう。一見するとかなり突飛に思えるような筋立てだが、幾重にも重ねられた伏線と丁寧な演出のおかげで、最後まで破綻することなくしっかりとまとまっている。70年代当時の治安悪化や社会モラルの崩壊が背景にあることは言うまでもないだろう。
エドュアルド・マンザノス・ブロシェロの書いた原案を、ブロシェロ本人とエルネスト・ガスタルディ、ヴィットリオ・カロニアが脚色。ブロシェロは『荒野のプロ・ファイター』(66)や『情無用のガンファイター』(67)などのマカロニ・ウェスタンで有名なスペインの脚本家で、ジョルジョ・フェローニ監督の傑作ホラー『悪魔の微笑み』(72)を手掛けた人。ガスタルディはイタリアン・ホラーを代表する名脚本家で、カロニアは当時マルティーノ監督の助監督だった人物だ。
撮影のエミリオ・プレスコットは戦前から活躍するスペインのカメラマンで、『バンディドス』(66)などのマカロニ・ウェスタンで知られる人物。マルティーノとは“La
coda dello
scorpione”(71)でも一緒に仕事をしている。
製作を担当するルチアーノ・マルティーノは、イタリア映画ファンならご存知の通り、セルジョ・マルティーノ監督の実兄に当たるイタリア映画界きっての商売人。主演のエドウィージュ・フェネッシュは、当時彼のフィアンセだった。また、共同製作を務めるアントニオ・クレッシェンツィは、ウンベルト・レンツィ監督のカンニバル映画『人喰族』(81)のプロデューサーとして知られる人物である。
また、『黄金の7人』(65)シリーズや『太陽のエトランゼ』(80)などを手掛けたハイメ・ペレス・クベーロが美術デザインを、60年代に数多くのイタリア産スパイ映画に参加したリカルド・ドメニチが衣装デザインを担当している。
そして、超モダンでダークな音楽スコアを担当したのは、イタリア映画界では数少ない女性作曲家ノラ・オルランディ。モリコーネやブルーノ・ニコライらとの関わりも深く、60年代以降のイタリア映画音楽を語る上で欠かせない重要人物だ。本作のスコアはタランティーノのお気に入りとしても有名で、実際に『キル・ビルVol.2』(04)のサントラにも使用されている。
なお、本作は当時イギリスでは“Next!”というタイトルで劇場公開され、アメリカでも“The
Next Victim”として上映されたほか、“Blade of the Ripper”というタイトルでビデオ発売されたこともある。
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連続殺人事件の犯人がジャンではないかと疑うジュリー |
殺人鬼の魔手はジュリーにも迫る |
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ニールと共にジャンの屋敷を捜索するジュリー |
そこでジュリーが目撃したものとは・・・ |
ヒロインのジュリー役を演じているのは、イタリア映画ファンなら誰もが知っているグラマー女優エドウィージュ・フェネッシュ。エキゾチックな顔立ちと透き通るような白い肌、そして豊満な肉体を武器に、ホラー映画からセックス・コメディまで幅広いジャンルで活躍した人だ。日本では童貞喪失もの映画『青い経験』シリーズで有名だが、ジャッロ映画への主演も数多い。そのきっかけとなったのが本作だったというわけだが、彼女の美貌と演技力を存分に生かしたはまり役と言えるだろう。
ジュリーの不倫相手で、軟派なプレイボーイのジョージ役を演じているジョージ・ヒルトンも、マカロニ・ウェスタンのヒーロー役としてお馴染みのスターだ。彼もマルティーノ監督と組むのは本作が初めてだったが、以降立て続けに同監督のジャッロ作品に主演を果たしている。マカロニ・ウェスタンでは元ファッション・モデルという経歴を生かすことが出来なかったが、本作をはじめとするジャッロ映画ではソフトでダンディなプレイボーイ役を演じて本領を発揮。善人とも悪人ともつかない微妙なラインが抜群に上手い。
ジュリーの夫である外交官ニール・ワード役を演じているのは、アルゼンチンの有名な二枚目俳優アルベルト・デ・メンドーザ。ジュリーの親友キャロル役を演じているコンチータ・アイロルディは後にプロデューサーへ転向し、グリーナウェイの『建築家の腹』(87)やジャンニ・アメリオの『宣告』(90)、ミケーレ・ソアヴィの『デモンズ'95』(95)、ジュリー・テイマーの『タイタス』(99)など数多くの名作を手掛けている。
そして、ジュリーのサディスティックな元恋人ジャンを演じているのは、イタリア映画界きってのセクシーな悪役俳優イワン・ラシモフ。『バージン・エクソシスト』(74)の肉体美溢れる悪魔役や、『食人帝国』(80)のカリスマ教祖役などで記憶しているコアなマニアも多いだろう。マカロニ・ウェスタンの悪役としても御馴染みだった。強烈なセックスアピールで女性を暴力的な性の奴隷にするという男ジャンは、まさに彼のためにある役柄と言っていいだろう。
スローター・ホテル
La bestia uccide a sangue freddo
(1971)
日本では劇場未公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済
(※日本盤DVDはトリミングされたカット・バージョン)
(P) Minerva Pictures
(Italy)
画質★★★★★ 音質★★★★☆
DVD仕様(イタリアPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL
/97分/製作:イタリア
映像特典
女優ロサルバ・ネリ インタビュー
メイキング・ドキュメンタリー(ディ・レオ監督、ロサルバ・ネリ、シルヴァーノ・スパダッチーノのインタビュー収録)
オリジナル劇場予告編
監督:フェルナンド・ディ・レオ
製作:アルマンド・ノヴェッリ
ティツィアーノ・ロンゴ
脚本:ニノ・ラティーノ
フェルナンド・ディ・レオ
撮影:フランコ・ヴィラ
音楽:シルヴァーノ・スパダッキーノ
出演:クラウス・キンスキー
マーガレット・リー
ロサルバ・ネリ
モニカ・ストレーベル
ジェーン・ガレット
ジョン・カールセン
ジョイア・デシデーリ
ジョン・エリー
カルラ・マンシーニ
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物語の舞台となる古城 |
怪しげな人影が忍び込む |
アナーキーでポリティカルなB級娯楽映画を数多く生み出し、あのタランティーノも熱狂的ファンを自認しているイタリアのカルト映画監督フェルナンド・ディ・レオ。彼の手掛けた数少ないジャッロ作品がこれだ。劇場公開当時は全くの不発だったが、90年代以降アメリカの映画マニアの間で持て囃されるようになったカルト映画である。
しかし、後にディ・レオ監督自身が“どう見たって酷い映画だ”と語っているように、正直なところ映画作品としてはあまり出来がよろしくない。そもそも、ストーリーの設定自体に大変な無理があるのだ。
舞台となるのは女性専用の精神病クリニック。これが普通のクリニックとはちょっと違って、中世の古城を施設として利用しているのだ。なぜか内部の装飾は中世そのままで、あちらこちらに斧や剣などの武器や拷問道具が飾られてある。このクリニックに夜な夜な黒づくめの殺人鬼が出没し、壁に飾られた武器や拷問道具を使って職員や入院患者を次々と殺害していくのだ。
だいたい、精神病クリニックのそこかしこに斧や剣が置かれているというシチュエーションそのものがあり得ないことだし、殺人事件が起きても誰もそれを撤去しようとしないというのもまた不思議。“その方がストーリー上都合が良かったし、不気味なムードを作ることが出来たから”と監督自身も語っているが、あくまでも商業主義的なご都合主義を最優先した結果、なんとも不条理で不可解な世界が出来上がってしまった。
もともとディ・レオ監督は違う作品を撮る予定だったが別の監督に奪われてしまい、急遽“アルジェント風”のスリラー映画を撮らねばならなくなった。それもたったの12日間で。それゆえにシナリオは極端なくらいシンプルで、ジャッロ特有の謎解きやどんでん返しなども一切ない。
その代わり、監督はこれでもかと言わんばかりに露骨なセックスとバイオレンスを盛り込んでいる。中でも、追い詰められた殺人鬼がやけっぱちになり、女性患者たちをひとまとめに嬲り殺すクライマックスの虐殺シーンはなかなか壮観だ。随所に挿入される濃厚なオナニー・シーンやレズビアン・シーンもかなり過激。こうした臆面のないエログロ描写こそが、後にカルト映画として崇拝されるようになった最大のポイントと言えるだろう。
しかし、本作の最大の魅力は、極端な低予算と撮影期間不足を感じさせない華麗な映像美にこそあるのではないかと思う。風光明媚なロケーションはもとより、魚眼レンズや手持ちカメラを駆使した実験的でスタイリッシュなカメラワークは大きな見どころ。日本盤DVDを含め、4:3のフルスクリーンにトリミングされたバージョンが数多く出回っているが、やはりこれは16:9のワイドスクリーンで見なければ意味がないだろう。
生前のディ・レオ監督は、アメリカでカルト映画扱いされていることに首を傾げていた。確かに彼ほど腕の立つ職人にしてみれば、不本意極まりない駄作だったのかもしれない。が、脚本の不条理とご都合主義を除けば、短期間でこれだけ見栄えのする映画を撮ることができたというのは評価に値することだと思うし、エログロナンセンス溢れる独特のシュールな世界観は非常に面白い。クラウス・キンスキー以下主要キャストの顔ぶれも魅力的だ。
あくまでも見る人を選ぶという前提のもとに、コアなカルト映画マニアであれば一度は見ておきたい作品と言えるだろう。
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城は精神病患者のクリニックとして使用されていた |
不気味な風貌のクレイ医師(K・キンスキー) |
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ニンフォマニアの患者アンナ(R・ネリ) |
自殺癖のある人妻チェリル(M・リー) |
真夜中の古城に忍び込む怪しげな人影。黒いマスクとマントに身を包んだ人物は、壁に並べられた武器や拷問具の中から斧を選び、全裸で眠る美女に近づいていく。その瞬間、城内に灯りがともり、謎の人物は足早に逃げ去った。
その古城は女性精神病患者のためのクリニックだった。院長を務めるのはオステルマン教授(ジョン・カールセン)。自殺癖のある人妻チェリル(マーガレット・リー)は担当医クレイ(クラウス・キンスキー)と秘かに愛し合っており、クリニックの退院を素直に喜べないでいる。セクシーな美女アンヌ(ロサルバ・ネリ)は重度のニンフォマニアで、庭師の青年に対して性的な欲望を抱いていた。黒人の女性パール(ジェーン・ガレット)は情緒不安定で、レズビアンの看護婦ヒルデ(モニカ・ストレーベル)が心の支えだ。そして、新たに入院してきた人妻ルース(ジョイア・デシデーリ)は妄想癖の強い凶暴な女性だった。
やがて夜の帳が降り、まずベテランの看護婦(カルラ・マンシーニ)が謎の人物に首を切断される。さらにネグリジェ姿のルースが絞殺された上でいたぶられ、クリニック内の異変に気付いた運転手(フェルナンド・チェルッリ)が拷問具で殺害された。
さらに、独りでオナニーに耽っていたアンヌも斧でメッタ刺しにされて殺され、看護婦ヒルデとの愛欲に溺れていたパールが窓際で弓矢に首を射抜かれて絶命した。ヒルデの悲鳴を聴いて駆けつけた人々。ここへきてようやく、オステルマン教授やクレイ医師たちは、クリニック内で殺人鬼が徘徊していることに気付く。次々と発見される従業員や患者たちの死体。
そこでチェリルは、自らが囮になって殺人鬼を捕まえようと申し出る。さすがに躊躇するオステルマン教授とクレイ医師だったが・・・。
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レズビアンの看護婦ヒルデ(M・ストレーベル)と患者パール |
全裸になって庭師を誘惑するアンナ |
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謎めいた行動をとるクレイ医師 |
人妻ルース(G・デシデーリ)の部屋に殺人鬼が |
女性患者たちがやたらと全裸になったり淫乱だったりするのもご愛嬌。金も時間もアイディアもないのだから、ここはセックスとバイオレンスで勝負するほかなかろう。ストーリーがシンプルすぎるゆえに、サイケなイメージ・シーンやセックス・シーンで時間稼ぎをしているが、それが逆にアバンギャルドでシュールなムードを高めているのも面白い。
脚本に参加しているニノ・ラティーノは、『ゲバルトSEX』(69)や“I
ragazzi del
massacro”(69)でもディ・レオと組んでいた脚本家。製作のアルマンド・ノヴェッリも、『ミラノカリブロ9』(72)などディ・レオ監督作品を数多く手掛けているプロデューサーだ。
撮影には『復讐の用心棒』(67)や『皆殺しのガンファイター』(69)などのマカロニ・ウェスタンで知られるフランコ・ヴィラ。彼は『敵中降下作戦』(68)以来たびたびディ・レオ監督と組んでいるほか、『国際泥棒組織』(68)などミケーレ・ルーポ監督のカメラマンとしてもお馴染み。
そして、イージーなラウンジ・スタイルの音楽スコアを担当しているのは、ディ・レオ監督の『ゲバルトSEX』も手掛けていたシルヴァーノ・スパダッキーノ。彼は僅かに数本の映画スコアを手掛けただけで、イタリア映画音楽ファンの間でもほぼ無名に近い人だが、ボサノバやラテン・ジャズをベースにしたスウィートでグルーヴィーなサウンドは絶品だ。是非ともCD化して欲しい作品のひとつである。
ちなみに、上記のイタリア盤DVDは新作と見まごうばかりにクリアな映像が素晴らしい。まるで富士真奈美みたいにふくよかとなったロサルバ・ネリのインタビューなど、映像特典も充実している。
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斧でメッタ刺しにされたアンナ |
弓矢で首を射抜かれたパール |
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クレイ医師とチェリルは秘かに愛し合っていた |
自ら囮となって殺人鬼をおびき寄せるチェリル |
主演は泣く子も黙る稀代の怪優クラウス・キンスキー。明らかにギャラ稼ぎのために出演したという感じで、これといった見せ場もほとんどないのだが、画面に出てくるだけで不気味なムードを漂わせてしまう存在感はやはり圧倒的だ。当時は次から次へとイタリアのB級映画に顔を出していた時期だが、ディ・レオ監督とはこれが唯一の仕事だったというのは興味深い。
ヒロインのチェリルを演じているのは、イギリス出身の美人女優マーガレット・リー。『077/連続危機』(65)や『地獄のランデブー』(66)などヨーロッパ産スパイ映画のヒロインとして大活躍した人で、息子のロベルト・マレルバは『Vフォー・ヴェンデッタ』(05)や『スピード・レーサー』(08)などの共同プロデュースを務めている。
しかし、なんといっても本作の女優陣でダントツの存在感を放っているのは、ニンフォマニアのアンナ役を演じているロサルバ・ネリだろう。60年代から70年代にかけて、数多くのB級ホラーやアクション、西部劇などで活躍したセクシー・スター。そのダークな顔立ちから悪女役を演じることが多かったが、未だに熱狂的なファンを誇るカルト女優だ。本作でも豊満な肉体を惜しげもなく披露し、堂々とした色情狂ぶり(?)を発揮してくれている。ただし、オナニー・シーンのモロ出し部分は本人ではなくボディ・ダブルだったらしい。
その他、ディ・レオ監督の『恍惚の唇』(69)にも出ていたドイツ人女優モニカ・ストレーベルがレズビアンの看護婦ヒルデ(英語版ではヘレン)役を、『女ヴァンパイア カーミラ』(64)や『デモンズ3』(88)などでお馴染みの老優ジョン・カールセンがオステルマン教授役を、イタリアン・ホラーの名物的チョイ役女優として知られるカルラ・マンシーニが首をちょん切られるオバサン看護婦役を演じている。
悪魔の性・全裸美女惨殺の謎
Sette scialli di seta gialla
(1972)
日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
VHS・DVD共に日本未発売
(P)2005 Dagored Films
(USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:イタリア語/字幕:英語/地域コード:ALL/
108分/製作:イタリア
映像特典
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:セルジョ・パストーレ
製作:エドモンド・アマティ
脚本:セルジョ・パストーレ
サンドロ・コンティネンザ
ジョヴァンニ・シモネッリ
撮影:グリエルモ・マンコリ
音楽:マヌエル・デ・シーカ
出演:アンソニー・ステファン
シルヴァ・コシナ
ジャネット・レン
シャーリー・コリガン
レナート・デ・カルミネ
ジャコモ・ロッシ・スチュアート
ウンベルト・ラホー
アナベラ・インコントレッラ
イザベル・マルシャン
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全盲の作曲家ピーター(A・ステファン)はある男女の会話を耳にする |
白いケープを羽織った謎の女性が闇夜を徘徊する |
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有名なファッション・デザイナー、フランソワーズ(S・コシナ) |
フランソワーズの夫ヴィクター(G・ロッシ・スチュアート) |
冒頭でも述べたように、ジャッロ映画はマリオ・バーヴァによって始まり、ダリオ・アルジェントによって完成されたジャンルだったと言える。そのバーヴァの『モデル連続殺人』(64)の設定を拝借し、アルジェントの『歓びの毒牙(きば』(69)と『わたしは目撃者』(70)のプロットをコピーし、ヒッチコックの『サイコ』(60)やアルジェントの『4匹の蝿』(71)、フルチの『幻想殺人』(71)などの美味しいところばかりを抜き取って味付けされたのが、この『悪魔の性・全裸美女惨殺の謎』という作品だ。
主人公は全盲の作曲家ピーター・オリヴァー。彼はレストランで偶然耳にした会話が、ファッション業界関係者ばかりを狙った殺人事件の犯人たちのものであることに気付く。執事の助けを得ながら警察の捜査に協力する彼は、事件現場に残された黄色いショールを手がかりに、恐るべき殺人犯に迫っていく。
爪に毒薬を塗られたネコを使って人を殺す、という殺人トリックはにわかに信じがたいものの、ジャッロの世界で荒唐無稽な殺人方法というのは当たり前。逆に、手の込んだ殺人テクニックの奇想天外さをエンターテインメントとして楽しむというのが、ジャッロ映画の正しい鑑賞法だ。その点で、本作などはジャッロ映画の王道をいく作品と言えるだろう。
さらに、本作はその残酷なスプラッター描写にも注目したい。エロとグロというのはジャッロ映画はもとよりイタリア産ホラー映画の2枚看板だったわけだが、71年頃まではイタリアン・ホラーの残酷描写もそれほど露骨ではなかった。特殊メイク技術の問題というのもあったろうとは思うが、せいぜいナイフで体を刺したり、斧で首を切断したりするのが関の山。血糊がドバーっと吹き出すことはあっても、それほど生々しいものではなかった。
そのイタリアン・ホラー映画界にスプラッター革命を巻き起こしたのが、ルチオ・フルチの『幻想殺人』(71)とマリオ・バーヴァの『血みどろの入江』(72)だった。恐らく時代の空気というか、流れのようなものだったのだろう。この時期から、イタリア産ホラーにおける残酷描写が急速にエスカレートしていく。本作でもクライマックス近くに登場するシャワー殺人シーンで、女性の乳房に剃刀がザックリ切り込むという凄惨な描写が登場。今見ると明らかに作り物という感じだが、当時の観客には十分ショッキングだったに違いない。
オリジナリティという点では著しく欠けるものがあることは否めないが、ジャッロ映画全盛期の勢いとパワーを存分に感じさせてくれる作品であることは間違いないだろう。そのあり得ない犯行テクニックを含め、ジャッロならではのビザールな世界を楽しみたい1本だ。
ちなみに、上記のアメリカ盤DVDが世界で唯一のDVDソフト化商品だが、残念ながら過去のVHSテープをマスターに使用したとおぼしき粗悪品。美術デザインやインテリアなども非常に凝っているので、願わくばもう少しまともな画質で鑑賞したいところだ。
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ピーターの元恋人パオラ(I・マルシャン)の死体が発見される |
ピーターの捜査に協力するマルゴ(S・コリガン) |
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ピーターの執事バートン(U・ラホー)はパオラを嫌っていた |
ピーターは写真家ハリー(R・マラスピーナ)の死体を見つける |
有名な盲目の作曲家ピーター・オリヴァー(アンソニー・ステファン)は、人気ファッション・モデルのパオラ(イザベル・マルシャン)と交際していた。しかし、ある晩一方的に別れを告げられ、彼は待ち合わせのレストランで独り食事をする羽目になる。すると、彼は後ろのテーブルから聞こえてくる男女の話し声に気付いた。
どうやら男は薬物をエサにして、女になにか犯罪の仕事を持ちかけているようだ。だが、ジュークボックスの音楽にさえぎられ、肝心の部分が聴こえなかった。やがて女性は店を出て行き、男性は裏口から消えてしまった。ウェイターの話によると、女性は白いケープを頭から被っているという。その引きずるような足音には特徴があり、独特の匂いの香水をつけていた。
その翌日、有名なファッション・デザイナー、フランソワーズ・バレイ(シルヴァ・コシナ)の事務所で、パオラの死体が発見される。彼女は真新しい黄色のショールを肩からかけており、首筋には小さな引っかき傷があった。 第一発見者の親友マルゴ(シャーリー・コリガン)は、死体の傍に小さなバスケットを発見するが、いつの間にかなくなっていた。
捜査を担当するジャンセン警部(レナート・デ・カルミネ)は、パオラの恋人だったピーターに疑いをかけるが、当日のアリバイはあったし、そもそも全盲の彼に殺人は不可能と判断される。事件を知って犯人捜しを決意したピーターは、マルゴと執事バートン(ウンベルト・ラホー)の助けを借りて、独自の捜査を始めようとする。野心的なパオラのことを快く思ってなかったバートンだが、ピーターへの忠誠心で協力することに。
マルゴはパオラが従兄弟の写真家ハリー(ロマーノ・マラスピーナ)と頻繁に連絡を取っていたことを思い出した。ピーターは彼女を連れて、ハリーの写真スタジオを訪れる。しかし、ハリーは何者かによって惨殺されていた。スタジオを家宅捜査した警察は、フランソワーズの夫ヴィクター(ジャコモ・ロッシ・スチュアート)とパオラがベッドで一緒に映っている写真のネガを発見した。どうやら、パオラはその写真をネタにヴィクターを強迫していたらしい。
ジャンセン警部はヴィクターを任意同行して尋問するが、そこへ鑑識からの連絡が入る。パオラの死因は心臓発作による自然死だというのだ。ヴィクターにはハリー殺害事件についてのアリバイがあり、警部は仕方なく彼の尋問を取りやめる。
一方、ピーターはマルゴとバートンを伴い、デザイン事務所の捜索に出かける。すると、ピーターの目の前を例の白いケープを被った女性が通り過ぎた。足音と匂いで気付いたピーターは、バートンに彼女の後を追わせる。残念ながら途中で見失ってしまったものの、彼女が住んでいる地域を特定することが出来た。
その女性とはペット・ショップを経営するスーザン・レクレック(ジャネット・レン)。ドラッグ中毒の彼女は、何者かの指示で殺人を行い、その報酬としてコカインを受け取っていた。
その頃、黄色いショールの出所に気付いたモデルのヘルガ(アナベラ・インコントレッラ)が殺害され、その死体を発見したルームメイトのウェンディ(リリアーナ・パヴロ)もアパートの前で車にひき殺されそうになる。通りがかりの人に間一髪で救われたウェンディは、病院に担ぎ込まれた。
しかし、入院したウェンディのベッドに黄色いショールが届き、身の危険を感じた彼女は病院を抜け出す。鉄道の駅へ逃げ込んだ彼女は、そこで何者かによって線路へ突き飛ばされた。そして、ウェンディの死体発見現場で黒猫の頭部が見つかり、ピーターは自分の推理が裏付けられたと確信する。
ピーターはジャンセン警部やマルゴの前で実験を行う。黒猫を入れた小さい篭と黄色いショールを用意した彼は、ショールに液体をたらして篭に近づける。すると、黒猫は興奮して飛び出した。液体の正体は猫よけにつかう芳香剤。恐らく、猫の爪には毒薬クラレが塗りつけられていたのだろう。猫の引っかき傷からクラレが全身に回り、心臓発作を引き起こしたのである。
そこへ、スーザンからピーター宛に電話が入る。実は、ピーターはその日の新聞にスーザンを挑発するような広告を掲載していたのだ。だが、電話の途中で回線が切れてしまう。向うの背景音から彼女がペット・ショップにいると気付いたピーター。ジャンセン警部はスーザンが住んでいるとおぼしき地域一体のペットショップ捜索を命じる。
その結果、スーザンの首吊り死体が発見された。状況から察して自殺と判断され、ペットショップからは犯行に使われたと思われるクラレや篭などが見つかる。これで事件は解決したかに思われたが、ピーターはそう考えていなかった。そもそも共犯者がいるはずだし、写真家ハリーの殺害方法はスーザンのものと全く違う。スーザンにしたって、本当に自殺かどうかは分からない。
案の定、ピーターのもとに謎の人物から呼び出しの電話が入った。その主はヴィクター。彼はピーターを殺害しようとするが、あと一歩のところで到着した警官隊に追い詰められて転落死する。やはり彼が真犯人だったのか。
ところが、その頃ピーターの自宅でシャワーを浴びていたマルゴが、何者かによって惨殺されていた・・・。
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出張でハンブルグへと向うフランソワーズ |
ピーターは街中で例の女性と遭遇する |
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事件の鍵を握る女性ヘルガ(A・インコントレッラ)も狙われる |
ヘルガの死体を発見したウェンディ(L・パヴロ)までも襲われた |
ファッション業界を舞台にした陰謀と強迫というシチュエーションは『モデル連続殺人』、盲目の主人公が犯人の会話を偶然耳にするというプロットは『わたしは目撃者』、真犯人をめぐるどんでん返しのトリックは『歓びの毒牙(きば)』、シャワーの殺害シーンは『サイコ』、犯人がスローモーションでガラスに突っ込むクライマックスは『4匹の蝿』といった具合に、文字通りコピーやパクリのオンパレード。
しかし、細かいディテールをつぶさに描きながら、なかなか複雑なストーリー展開を最後まできちんとまとめきっているのは立派だ。確かに殺害方法や犯行動機は荒唐無稽で非現実的だが、セルジョ・パストーレ監督の安定した演出力には意外な説得力がある。
パストーレ監督は60年代末からマカロニ・ウェスタンや女性ドラマなど幾つかの作品を残しているが、非常に寡作な人だったらしく、詳しい経歴などはあまり知られていない。本作を見る限りでは、同時期のウンベルト・レンツィやアンドレア・ビアンキといった職人監督たちよりも遥かに優れた仕事をしており、なかなかセンスの良い映画監督であったように感じられる。
脚本に参加したのはスパイ映画『077』シリーズやスペクタクル史劇で有名なサンドロ・コンティネンザと、マカロニ・ウェスタンや犯罪アクション映画を数多く手掛けたジョヴァンニ・シモネッリの2人。どちらも長いキャリアを誇った筋金入りのB級娯楽職人ゆえ、この手の映画のツボをしっかりと心得ている。
撮影監督を務めるのは、ウンベルト・レンツィやミケーレ・ルーポ、ルチオ・フルチなどの作品を数多く手掛けたカメラマン、グリエルモ・マンコリ。彼は喜劇王トトやウーゴ・トニャッツィのコメディ映画で知られる撮影監督アルヴァロ・マンコリの助手を長年務めていた人で、名前から察するに恐らく血縁関係に当たるのだろう。同じようにアルヴァロの撮影助手だったサンドロ・マンコリとも兄弟なのかもしれない。イタリア映画界は古くから特定の技術職を親子や師弟の間で受け継いでいく習慣がある。そういう視点から映画を見るのも一興だろう。
また、編集は『サンゲリア』(79)や『ビヨンド』(80)など一連のフルチ映画や数多くのホラー映画、アクション映画を手掛けたヴィンチェンツォ・トマッシが担当。シャワー・シーンのショッキングな特殊メイクは、フルチの『幻想殺人』でもリアルな切り裂きシーンを担当したエウジェニオ・アスカーニが手掛けた。
そして、クールでジャジーな音楽スコアを手掛けたのはマヌエル・デ・シーカ。戦後イタリアを代表する巨匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督の長男である。『悲しみの青春』(71)や『旅路』(74)など晩年の父親の作品を手掛けたことで知られるが、どちらかというとオーソドックスで目立たないスコアを書く人という印象だった。だが、ここではモリコーネやジョルジョ・ガスリーニばりのクールなジャズを聴かせており、実はこういう方面もいけたんだと意外な驚きだ。
なお、後に『サンゲリア』以降のフルチ作品を手掛けることになるプロデューサー、ファブリツィオ・デ・アンジェリスが、ユニット・マネージャーとして参加しているのも興味深い。ちなみに、本作のプロデュースを担当したエドモンド・アマティは、マカロニ・ウェスタンからスパイ・アクション、ソプト・ポルノ、ホラーに至るまで、あらゆるB級娯楽映画を手掛けたイタリアきっての商売人。『レディ・イポリタの恋人/夢魔』(74)や『悪魔の墓場』(74)、『地獄の謝肉祭』(80)を世に送り出したのも彼だ。
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白いケープの女性スーザン(J・レン) |
ピーターは真犯人らしき人物から呼び出しを受ける |
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シャワー・ルームで襲われるマルゴ |
剃刀で全身をズタズタに切り刻まれる |
主人公ピーターを演じるのは、マカロニ・ファンならお馴染みの西部劇スター、アンソニー・ステファン。本名をアントニオ・デ・テッフェという生粋のイタリア人で、『荒野の棺桶』(66)や『必殺の二挺拳銃』(68)などのマカロニ・ウェスタンで大活躍。ただ、貧相なルックスゆえにC級クラスの作品が多く、マカロニ・ブームが去って以降は鳴かず飛ばずだった。本作は、彼にとってはマカロニ以外で唯一の代表作と呼べるかもしれない。
ファッション・デザイナーのフランソワーズ役を演じているのは、イタリアが世界に誇るセクシー女優シルヴァ・コシナ。ハリウッド映画やイギリス映画などでも活躍した国際スターだ。ただ、本作では主演クラスの割りに出番が少ない。
一方、実質的なヒロインの役割を務めるのが、マルゴ役を演じる女優シャーリー・コリガンだ。彼女はイギリスの出身で、70年代に数多くのイタリア映画へ出演した人。ただ、『無敵のゴッドファーザー/ドラゴン世界を往く』(74)以外は色添え的な脱ぎ役ばかりで、あまり仕事に恵まれていたとは言いがたい。そんな中で、主人公を助けて活躍するお転婆のヒロインを演じた本作は、確実に彼女の代表作と言えるだろう。無残にも殺されてしまう最期も強烈な印象を残す。ちなみに、その後彼女はマザー・テレサのもとでボランティア活動に従事し、現在はロンドンでシニア・モデルとして活躍している。
その他、マカロニ・ウェスタンのヒロインとして活躍した美人女優アナベラ・インコントレッラがモデルのヘルガ役を、『歓びの毒牙(きば)』などホラー映画の悪役として有名な名脇役ウンベルト・ラホーが執事バートン役を、スペクタクル史劇やマカロニ・ウェスタンのヒーローとして活躍した二枚目ジャコモ・ロッシ・スチュアートがヴィクター役を、フランス映画『アンジェリーク』シリーズで知られるレナート・デ・カルミネがジャンセン警部役を、『愛のエマニエル』(75)にも出ていたイザベル・マルシャンがパオラ役を演じている。
そして、薬物中毒の女性スーザン役で強烈な印象を残す女優ジャネット・レンは、本名をジョヴァンナ・レンツィというイタリア人で、実はパストーレ監督の奥様に当たる人。夫が監督した女性ドラマ“Il
diario proibito di Fanny”(69)などに主演し、後に彼女自身も映画監督へと転身している。
L'assassino
e costretto ad uccidere ancora
(1975)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売
(P)2004 Mondo Macabro
(USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:1/
90分/製作:イタリア・フランス
映像特典
L・コッツィ監督 インタビュー
L・コッツィ監督による音声解説
ジャッロ ドキュメンタリー
オリジナル劇場予告編
スチル・ギャラリー
監督:ルイジ・コッツィ
製作総指揮:ジュゼッペ・トルトレッラ
脚本:ルイジ・コッツィ
ダニエレ・デル・ジュディーチェ
撮影:リカルド・パロッティーニ
音楽:ナンド・デ・ルーカ
出演:ジョージ・ヒルトン
ミシェル・アントワーヌ
クリスティナ・ガルボ
アレッシオ・オラーノ
フェミ・ベヌッシ
エドゥアルド・ファヤルド
テレサ・ヴェラスケス
カルラ・マンシーニ
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浮気性のジョルジョ(G・ヒルトン)と妻ノラ(T・ヴェラスケス) |
怪しげな男(M・アントワーヌ)が女性の死体を運び出す |
ダリオ・アルジェント監督の盟友であり、『スタークラッシュ』(78)や『エイリアン・ドローム』(80)、『超人ヘラクレス』(83)などのB級SFファンタジー映画で知られるルイジ・コッツィ。そんな彼の手掛けた唯一のジャッロ作品が、この“L'assassino
e costretto ad uccidere
ancora(もう一度殺さねばならない殺人者)”である。
日本との合作で撮った初期のメロドラマ『ラスト・コンサート』(76)を除けば、チープで悪趣味なC級映画監督というのがコッツィ監督の一般的な評価。しかし、公開当時はほとんど見向きもされなかった本作を見直すと、当時の彼が非常に才気溢れる映像作家であったということが良く分かるはずだ。
浮気性のプレイボーイ、マイナルディは偶然殺人現場を目撃し、その犯人を使って自分の妻の殺害を企てる。計画はまんまと成功したかに思えたが、無軌道な若い男女のカップルが死体を乗せた車を盗んでしまった。何も知らずにドライブを続けるカップルと、それを追う殺人鬼。やがて、カップルは海辺の廃墟へとやって来るのだが・・・。
同時期のジャッロにありがちなトリックやどんでん返しをあえて避け、ヒッチコック・スタイルのストレートな猟奇サスペンスに仕立てたのは賢明だった。ストーリーや編集にも全く無駄がない。後年のチープなC級SF映画に比べると、驚くほど風格のある作品に仕上がっている。
また、作品全体を覆うシニカルなトーンもユニークだ。特に男性キャラクターの性格描写は皮肉たっぷりで、ある種のフェミニズム的ニュアンスすら感じ取ることが出来る。黄色のインテリアで統一されたウルトラ・モダンなマイナルディの自宅と荒れ果てた海辺の廃墟、社交パーティで賑やかに楽しむマイナルディとサイディスティックな方法で殺されるその妻など、両極端のイメージを交互に対比していく演出にも独特の醒めた美意識が伺える。
ルイジ・コッツィ監督にとってはこれが初めての劇場用長編映画。その記念すべき処女作が自身の最高傑作になってしまったこと自体が、実は大いなる皮肉なのかもしれない。ジャッロ・ファンのみならずともオススメできる優れたスリラー映画だ。
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ジョルジョとノラは普段から言い争いが絶えない |
ジョルジョは怪しげな男が死体を遺棄する現場を目撃した |
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ジョルジョは男に妻ノラの殺害を持ちかける |
殺人計画は実行に移された |
派手好きのプレイボーイ、ジョルジョ・マイナルディ(ジョージ・ヒルトン)は、女グセの悪さから妻ノラ(テレサ・ヴェラスケス)との間で諍いが絶えない。だが、多額の財産は全て妻のもので、彼は離婚したくても出来ない状況だった。
ある晩、妻と喧嘩をして家を飛び出したジョルジョは、怪しげな車の存在に気付く。どうやら、助手席に座っている女性は死んでいるようだ。誰もいない港で車を降りたドライバーの男(ミシェル・アントワーヌ)は、女性の死体を乗せたまま車を海の底へと沈めた。
その一部始終を隠れて見ていたジョルジョは、黙って男に近づく。そして、とある相談を持ちかけた。彼は男を使って妻ノラの殺害を企てようというのだ。綿密な打ち合わせを重ねた2人は、その数日後に計画を実行に移した。
ジョルジョが知人のパーティへ行っている間に、合鍵を使って妻独りが残された自宅へと忍び込む男。ジョルジョがパーティで若い女性を侍らせて楽しんでいる頃、男は彼の妻ノラを殺害した。
ノラの死体を車のトランクに積み込み、現場の後片付けに戻った男。ところが再び外へ出ると、車がどこかへ消えてしまっていた。死体ごと何者かに盗まれてしまったのだ。近くに駐車してあった車を奪った男は、自分の車の行方を捜す。
車を盗んだのはルカ(アレッシオ・オラーノ)とラウラ(クリスティナ・ガルボ)の男女カップル。2人は今どきの無軌道な若者で、後部トランクに死体が隠されていることなどつゆ知らず、海辺の町を目指して気ままなドライブを続けた。
そんな事態になっているとは知らないジョルジョは、警察に妻の捜索願を出す。行方不明になった妻の身を案じる優しい夫を演じるジョルジョ。しかし、担当の刑事(エドゥアルド・ファヤルド)は、そんな彼の言動に不信感を抱く。
やがて、ルカとラウラは海沿いに閑静な空き家を発見し、そこで2人だけの時間を過ごすことにした。ところが、彼らは道中のガソリンスタンドで盗みを働くなど目立つ行動をしていたため、犯人の男に行き先が分かってしまう。
自分たちが追われていることにも気付かず、空き家でつかの間のバケーション気分を楽しむルカとラウラ。食料品の買出しをするためにルカが車で出かけるが、運悪くその様子を男が目撃してしまう。待ち伏せするのが得策と考えた男は、独りで留守番をするラウラに襲い掛かった。
その頃、道端で故障した車を発見したルカは、ドライバーのブロンド美女(フェミ・ベヌッシ)を車に乗せる。人目につかない場所でカー・セックスを始めるルカとブロンド美女。一方、その頃空き家では男がラウラをサディスティックにレイプしていた。
セックスと買い物を終えて、空き家へ戻ってきたルカ。外にブロンド美女を待たせて家の中に入った彼は、物陰に隠れていた男に襲われて気絶する。車を確認するために外へ出た男は、トランクの中身を見て呆然と立ち尽くすブロンド美女を発見した。強引に彼女を家の中に連れ込んだ男は、手足を縛られて口を塞がれたラウラの目の前で、ブロンド美女を嬲り殺す。
恐怖に凍りつくラウラ。男が外へ出て行った隙を見計らい、彼女はブロンド美女の体に刺さったままのナイフを使って両手の縄を解いた。物陰に隠れたラウラは、戻ってきた男に決死の思いで襲い掛かる・・・。
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死体を積んだままの車が盗まれてしまった |
車を盗んだカップル、ラウラ(C・ガルボ)とルカ(A・オラーノ) |
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妻の身を案じる優しい夫を演じるジョルジョ |
ベテラン刑事(E・ファヤルド)はジョルジョの言動を怪しむ |
もともと本作の撮影が行われたのは1973年の秋頃だったが、その後2年近くもお蔵入りになっていたという。コッツィ監督によると相当な低予算だったらしく、セット・デザイナーを雇う余裕すらなかったため、監督自身が知り合いの協力を得てセットの内装などを手掛けたらしい。
コッツィと共に脚本の執筆を手掛けたのは、『ラスト・コンサート』でも組んだ脚本家ダニエレ・デル・ジュディーチェ。セリフには『復讐の用心棒』(67)や『J&Mさすらいの逃亡者』(68)などで知られるアドリアーノ・ボルゾーニが協力している。
撮影を手掛けたのは、アンソニー・M・ドーソン監督との名コンビで知られ、マカロニ・ウェスタンや犯罪アクションなどを数多く手掛けた名カメラマン、リカルド・パロッティーニ。ただ、撮影の終盤になって監督と意見が折り合わずに降板。たまたま、彼の娘婿だった撮影監督フランコ・ディ・ジャコモが急遽ノンクレジットでピンチヒッターを務めたらしい。
音楽を担当したのは、リナ・ウェルトミューラーの『愛の彷徨』(78)を手掛けた作曲家ナンド・デ・ルーカ。イタリア映画音楽ファンの間でもあまり知られていない人物だが、本作ではアバンギャルドでクールなロック系のスコアを聴かせてくれている。
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男は事情を知らないラウラに襲い掛かる |
トランクの中身を見てしまったブロンド美女(F・ベヌッシ) |
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ラウラの目の前で女性は殺されてしまう |
男が目を放した隙に脱出を試みるラウラだったが・・・ |
主人公ジョルジョ役を演じているのは、上記の“Lo strano vizio della
signora
Wardh”でも紹介した西部劇スター、ジョージ・ヒルトン。モデル出身らしいハンサムなルックスを生かし、軽薄で血も涙もない軟派な浮気亭主を快演している。
しかし、本作で最も強烈な印象を残すのは、不気味な殺人犯役を演じているミシェル・アントワーヌだろう。彼は本名をアントワーヌ・サン=ジョンというフランス人俳優で、セルジョ・レオーネ監督の『夕陽のギャングたち』(71)など数多くのマカロニ・ウェスタンで悪役を演じた人物だ。だが、やはりホラー映画ファンにとっては、フルオ・フルチの傑作『ビヨンド』(81)で演じた画家シュウェイク役がなんと言っても印象深い。一度見たら忘れられない、強烈な顔をした役者だ。
その殺人犯にいたぶられる若い女性ラウラ役を演じているのは、『象牙色のアイドル』(69)や『悪魔の墓場』(74)などのカルト映画で有名なスペイン女優クリスティナ・ガルボ。日本でも熱心な隠れファンの多い元祖ホラー美少女だ。
そのラウラの恋人である若者ルカ役を演じているのは、『シシリアの恋人』(70)や『ふたりだけの恋の島』(71)でオルネラ・ムーティの相手役として売り出した“イタリア版アラン・ドロン”のアレッシオ・オラーノ。ルカとカー・セックスを楽しむブロンド美女役で登場するのは、イタリアン・ホラーの殺され役専門セクシー女優フェミ・ベヌッシ。ジョルジョの妻ノラ役には、60年代のスペインで活躍したメキシコ出身のセクシー女優テレサ・ヴェラスケス。ベテランの刑事役には、『続・荒野の用心棒』(66)や『豹/ジャガー』(68)などセルジョ・コルブッチのマカロニ・ウェスタンの悪役として有名な名脇役エドュアルド・ファヤルド。新人監督の低予算映画にしては、なかなか豪華なキャスティングだ。
ちなみに、もともとラウラ役には当時無名だったグロリア・グイダが、ノラ役にはハリウッド女優パメラ・ティフィンが配役されていたものの、残念ながら断られてしまったらしい。
Nude per
l'assassino (1975)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売
(P)2005 Blue Underground
(USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/98分/製作:イタリア
映像特典
オリジナル劇場予告編
メイキング・ドキュメンタリー(脚本家M・フェリサッティ、女優S・スチュービングのインタビュー収録)
監督:アンドレア・ビアンキ
原案:アンドレア・ビアンキ
脚本:マッシモ・フェリサッティ
撮影:フランコ・デリ・コリ
音楽:ベルト・ピサーティ
出演:エドウィージュ・フェネッシュ
ニノ・カステルヌオーヴォ
エルナ・シューレル
フェミ・ベヌッシ
ソルフィ・スチュービング
アマンダ
フランコ・ディオジェーネ
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舞台になるのは華やかなモデル業界 |
暗躍する黒づくめの殺人鬼 |
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写真家カルロ(N・カステルヌオーヴォ)とマグダ(E・フェネッシュ) |
ルチア(F・ベヌッシ)をナンパするカルロ |
チープで悪趣味なC級ゾンビ映画『ゾンビ3』(81)で悪名高いアンドレア・ビアンキ監督の手掛けた、ハレンチなエロ満載の正統派ジャッロ作品。これが意外にもなかなか良く出来ている。ただし、あくまでもビアンキ監督の作品にしては、という注釈つきにはなってしまうのだけど(笑)
基本的にはマリオ・バーヴァの『モデル連続殺人』の路線を踏襲した作品。ミラノにあるモデル事務所の関係者が次々と殺害され、写真家の男女コンビが独自の捜査に乗り出す。黒のレザー・スーツに身を固め、黒のバイク・へルメットをかぶった殺人鬼のルックスはなかなかクールだし、全編を彩る70年代のトレンド・ファッションやインテリアなどもお洒落だ。
ただ、やはりビアンキ監督はバーヴァやアルジェント、フルチらのようなビジュアリストではないし、セルジョ・マルティーノやルチアーノ・エルコーリのように熟練された職人でもない。確かに『ナイト・チャイルド』(72)のようにスタイリッシュなホラー映画も手掛けているが、あれは共同監督だったジェームズ・ケリーの力量に負うところが大きかったはずだ。
ビアンキ監督の本領はあくまでも『悶絶バージン/セックス・メイキング』(80)や『ギルダ/暗黒街の情婦』(89)に代表されるキワモノのソフト・ポルノやセックス・コメディ。その辺は本人もちゃんと分かっているのか、本作でもスタイリッシュなサスペンスや血みどろのゴアよりも、センセーショナルな性描写に大きく比重が置かれている。それはそれで、ジャッロ映画としては決して間違ってはいない。
何よりも評価すべきは、ビアンキ監督にしてはストーリーが最後まで一貫しており、カメラワークにも安定感があり、編集がきちんと計算されているという点だろう。逆に言うと、彼の作品の大半はこうした映画的テクニックの基礎が全くなっていないのである。
そういった意味では、既存の優れたジャッロ映画をちゃんとお手本にして、彼なりに本腰を入れて作ったという印象を受ける。ただ、やはり彼の本来持っている個性が出てしまうのか、安手のセックス・コメディみたいなコテコテのお笑い的要素が随所に散りばめられているのは、ホラー映画ファンとしてはちょっと頂けない。ある意味、テレビの2時間サスペンスのソフト・ポルノ版といった風情がちらつくのはちょっと残念だ。
というわけで、ホラー映画ファン必見のジャッロ・・・とまでは言えないものの、一度は見ておいて損のない作品だとは思う。
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ゲイの写真家マリオ(C・ペレグリーニ)が殺害される |
ルチアまでもが無残にも殺された |
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モデル事務所の冷血な女社長ジセラ(アマンダ) |
パトリツィア(S・スチュービング)はジセラの夫に言い寄られていた |
ファッション・モデルのイヴリンが中絶手術の最中に死亡してしまう。スキャンダルを避けたい医師カステッリは、友人の協力で死体を本人の自宅へと運び、心臓発作による自然死に見せかけた。それからしばらくして、カステッリは何者かによって殺害されてしまう。
プール・サイドをビキニ姿で歩く美女ルチア(フェミ・ベヌッシ)。女好きの写真家カルロ(ニノ・カステルヌオーヴォ)はモデルにスカウトすると彼女に言い寄り、まんまとプールのサウナでセックスに及ぶ。
カルロはモデル事務所アルバトロスの専属カメラマンだった。社長のジセラ(アマンダ)は冷血なレズビアンで、カルロの連れてきたルチアを愛人にする。ジセラの夫マウリツィオ(フランコ・ディオジェーネ)はモデルに色目を使う好色漢だが、自分の肥満体型にコンプレックスを抱いている。今は新人モデルのパトリツィア(ソルフィ・スチュービング)にご執心だ。そして、カルロはアシスタントのマグダ(エドウィージュ・フェネッシュ)と恋人関係にあった。
ある晩、アルバトロスと契約しているゲイの写真家マリオ(クラウディオ・ペレグリーニ)が殺害される。さらに、ジセラの自宅でくつろいでいたルチアも殺されてしまった。警察はジセラとカルロに嫌疑をかけるが、決定的な証拠はない。
一方、カルロはマグダと共に独自の捜査を始めた。しかし、その直後に今度はマウリツィオが自宅で殺害された。そして、ジセラのもとに脅迫電話が届く。2日後までに1000万リラを用意しろというのだ。カルロに頼まれてジセラの部屋を捜索していたマグダは、偶然その会話を耳にする。
また、マグダはジセラの部屋で発見した写真を見て、あることに気付いた。いずれの殺害現場でも星型のイアリングが発見されているのだが、写真に映っているジセラがそれとソックリのイアリングをはめているのだ。
マグダから脅迫電話の話を聞いたカルロは、金の受け渡しに向ったジセラのあとを尾行する。脅迫者に近づこうとしたジセラの後ろから襲い掛かる、ヘルメットをかぶった黒づくめの人物。カルロは夢中でシャッターを切る。ジセラは殺害され、カルロも謎の車に追いかけられた。とっさの判断でネガ・フィルムをゴミ箱に投げ入れたカルロは、その次の瞬間車にひき逃げされてしまう。
病院で目覚めたカルロは、ゴミ箱に投げ入れたネガ・フィルムを探すよう電話でマグダに指示する。マグダは無事にフィルムを発見し、写真スタジオで現像を始めた。そこへカルロから電話がかかってくる。すると、何者かがスタジオに忍び込み、電源を切ってしまった。真っ暗になった部屋で悲鳴をあげるマグダ。電話越しにそれを聞いたカルロは、病院を抜け出して写真スタジオへ向う。
スタジオに到着したカルロは、ネガ・フィルムが焼かれてしまっていることに気付く。しかも、マグダの姿も見えない。ところが、1枚だけプリントされた写真が残っていた。そこに映っていたのは、男性モデルのステファノだった。
しかし、その頃ステファノと恋人ドリス(エルナ・シューレル)の2人は、ヘルメットをかぶった黒づくめの人物によって殺害されていた…。
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ジセラにかかってきた脅迫電話を盗み聞きするマグダ |
ジセラの殺害現場を撮影したカルロだったが・・・ |
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マグダはカルロに頼まれて写真の現像を急ぐ |
そんなマグダに迫る殺人鬼の魔手 |
“殺人者のため裸になれ”というタイトルよろしく、被害者が全員裸のまま殺されるというのが見せ場といったところか。とりあえず、登場人物の誰もがポンポンと気軽に服を脱ぎまくる映画ではある。しかも、女性キャラクターは全員淫乱で尻軽なビッチ、男性キャラクターは全員口よりも先に手が出るタネ馬ばかりときたもんだ。このえげつなさが、いかにもイタリア映画っぽくて楽しい(笑)
脚本に参加したマッシモ・フェリサッティは、エミリオ・ミリアーニ監督のカルト・ホラー“La
notte che Evelyn usci dalla
tomba”(71)で知られる脚本家で、ビアンキ監督とはキャロル・ベイカー主演の『新・課外授業/禁断のセックス』(76)でも組んでいる人物。
撮影監督のフランコ・デリ・コリは『地球最後の男』(64)や『首だけの情事』(80)、『ゴーストハウス』(87)など数多くの低予算ホラー映画を手掛けたカメラマンで、それ以外にもマカロニ・ウェスタンからソフト・ポルノまでイタリアのB級娯楽映画には欠かせない人だった。
そして、音楽スコアを手掛けていているベルト・ピサーノは、最近イタリア映画音楽ファンの間で再評価が高まりつつある作曲家。C級D級クラスの仕事が多かったために長いこと見向きもされなかった人が、ここ数年サントラ盤CDの復刻が相次いでいる。本作でもジャジーでファンキー、かつメロディアスでスウィートなスコアを聴かせており、そのクオリティの高さはチプリアーニやジャンニ・フェリオ辺りを彷彿とさせる。
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ドリス(E・シューレル)も殺されてしまった |
犯人を追い詰めるカルロ |
ヒロインのマグダ役を演じているのはエドウィージュ・フェネッシュ。本作では珍しくショート・カットで登場するが、残念ながら裸になる以外はこれといった見せ場がない。まあ、ひとまずファンならそれでも十分なのだろうけど(笑)
その相手役である写真家カルロを演じているのは、『シェルブールの雨傘』(64)のギュイ役で有名なニノ・カステルヌオーヴォ。もともと地味で華のない役者だったが、本作でもあまりパッとしない。その割にやたらと脱ぎまくるのだが、これがまた貧相で美しくないのはいかがなものか…。
そんなカルロにナンパされてホイホイと服を脱ぎ、女社長ジセラの愛人になるルチア役を演じているのは、イタリアのグラマー女優ファンにはお馴染みのフェミ・ベヌッシ。キュートでコケティッシュな顔立ちと豊満な肉体のアンバランスが魅力の女優だったが、この頃にはすっかり体型も崩れ気味で、なんとなくオバサン臭くなってしまっているのが気になる。
レズビアンの女社長ジセラ役を演じている女優アマンダは、本名をジュリアーナ・チェッキーニというイタリア人。主にフランスのソフト・ポルノ映画で活躍した人だった。最後に殺されるモデルのドリス役を演じているエルナ・シューレルは、『女囚監獄』(74)や『悪魔のホロコースト』(76)の悪女役で知られる女優だ。
そして、新人モデルのパトリツィア役を演じているのは、西ドイツのソフト・ポルノ『牝の肌』(69)に主演していた女優ソルフィ・スチュービング。もともとドイツの有名なビール・メーカーのキャンペーン・ガールとして人気を集めた人で、『皆殺しのダイヤモンド』(67)や『空手アマゾネス』(74)などのイタリア映画にも数多く出演した。現在はドイツの政治家として活躍しているらしい。
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現在は政治家として活躍するソルフィ・スチュービング |
ビールのキャンペーン・ガールとして有名になった |
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