ドイツ犯罪サスペンス映画

 

 

 日本ではあまり知られていないが、60年代の西ドイツでは“クリミ(Krimis)”と呼ばれる犯罪サスペンス映画が大流行した。これは主にイギリスのミステリー作家エドガー・ウォーレスの小説を原作とするシリーズで、フィルム・ノワール調の映像スタイルやホラー・タッチの味付けが特徴。西ドイツのみならずイギリスやヨーロッパ各国でも上映されて評判となった。
 ブームのきっかけとなったのは、オランダのリアルト・フィルムが製作した“Der Froche mit der Maske(仮面を被ったカエル)”(59年)と、フリッツ・ラング監督の『怪人マブゼ博士』(60年)の2本である。
 オーストリア出身のハラルド・ラインル監督の手掛けた“Der Groche mit der Maske”は、エドガー・ウォーレスの小説“Fellowship of the Frog”の映画化。かなりの低予算で作られた作品だったが、これが西ドイツで予想外の大ヒットとなり、リアルト・フィルムはすぐにウォーレス作品ほぼ全ての映画化権を獲得した。さらに、ドイツに子会社を設立し、翌年から本格的にウォーレス原作シリーズを製作するようになる。
 一方、この成功にいち早く目をつけたドイツの映画プロデューサー、アルトゥール・ブラウナーは、巨匠フリッツ・ラングが戦前に大ヒットさせた『ドクトル・マブゼ』(22年)と『怪人マブゼ博士』(32年)のシリーズを、ラング自身の手で復活させる。この戦後版『怪人マブゼ博士』は西ドイツ国外でもヒットし、『怪人マブゼの挑戦』(61年)など5本の続編を生み出した。
 これらの成功がきっかけとなり、西ドイツではたちまち犯罪サスペンス映画がブームとなり、ドイツ語の“Kriminalfilm(犯罪映画)”を略した“クリミ”なる言葉が生まれたわけだ。リアルト・フィルムがウォーレス作品の映画化権を押えていたため、他の映画会社は息子に当たるブライアン・エドガー・ウォーレスなどそれ以外のミステリー作家の作品を取り上げた。また、その多くがイタリアやフランスなどとの合作であり、当時低迷していたドイツ映画界にとって海外マーケットからの収入も見込めるという、非常においしいジャンルだったわけだ。
 これらの犯罪サスペンス映画で特に引っ張りだこだった監督が、ハラルド・ラインルとアルフレッド・フォーレル。ラインルは熱狂的なフリッツ・ラング信奉者だったらしく、ウォーレス作品シリーズだけでなく、ドクトル・マブゼ・シリーズも手掛けている。“クリミ”映画のスタイルを確立したのもラインルであり、ジャンルを代表する顔だったと言えるだろう。
 また、イタリアのジャッロがエドガー・ウォーレス作品を原点にしていることから、クリミをジャッロの前身として見る向きもある。ただ、ジャッロが猟奇殺人の手口に焦点を定めたホラー映画であるのに対し、クリミはあくまでもサスペンス映画。ホラー的なムードを生かしつつ、あくまでも警察による犯罪推理に重きが置かれていた。そもそも、戦後の西ドイツはナチスのイメージを払拭するため、映画における残酷描写には神経をとがらせていた。なので、クリミ映画の殺人シーンも、全般的には同時期のハマーやイタリアン・ホラーに比べると遥かに控えめだった。
 さらに、美しきファム・ファタールの存在や光と影のコントラストを生かした映像スタイルなど、アメリカのフィルム・ノワール的な魅力も大きい。まあ、フィルム・ノワールそのものが戦前ドイツの表現主義映画をルーツにしているわけなのだが。
 エドガー・ウォレス・シリーズだけで通算30本以上もの作品が作られているが、残念ながら日本にはドクトル・マブゼ・シリーズくらいしか輸入されることはなかった。以下、そのごく一部の作品を紹介したい。なお、ドクトル・マブゼ・シリーズは別枠で紹介してみたいと思う。

 

 

Der Groche mit der Maske (1959)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2008 Retromedia/Infinity (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル
/音声:英語/字幕:なし/地域コード:AL
L/89分/製作:デンマーク・西ドイツ
※二本立て

映像特典
なし
監督:ハラルド・ラインル
製作:プレベン・フィリップセン
    ヘルムート・ベック
脚本:J・ヨアヒム・バルシュ
    トリグヴェ・ラールセン
原作:エドガー・ウォーレス
撮影:エルンスト・W・カリンケ
音楽:ウィリー・マッテス
出演:ヨアヒム・フックスベルガー
    エルフィー・フォン・クラックルース
    ヨヘン・ブロックマン
    シーグフリート・ロイッツ
     カール・ランゲ
    ディーター・エップレール
    エヴァ・フラッグ
    ワルター・ウィルツ
    フリッツ・ラスプ
    エルウィン・スタール
    エディ・アレント

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正体不明の強盗フロッグ

カエルのマークはフロッグ一味の証

エラと急接近するリチャード(J・フックスベルガー)

 上記でも述べた通り、エドガー・ウォーレス・シリーズの第1作目に当たるのが本作。“クリミ”ブームの火付け役となったわけだが、原作のストーリーを大幅に改変してあるらしく、正直なところ推理サスペンスとしてはかなり稚拙な出来栄え。アメリカ人の素人探偵がスコットランド・ヤードとタッグを組み、ロンドンの街を恐怖に陥れている盗賊フロッグ一味を追い詰めるというのが粗筋なわけだが、あちこちに怪しい人物を散りばめ過ぎて全く収拾がつかなくなっている。
 しかも、なぜかフロッグは若い田舎娘にご執心で、あの手この手を使って彼女が自ら進んで自分の愛人となるよう仕向けるのだ。盗賊だったら強引に拉致ればいいようなものを、どうやらフロッグ様は恋にナイーブ(笑)カエルを連想させる着ぐるみもかなり間抜けで、犯罪組織を率いる極悪人というより、単に色ボケしたショッカー軍団にしか見えないのが何ともお粗末だ。
 一方で、本作はドイツ製犯罪サスペンスのプロトタイプと言えるような要素が一通り詰まっている映画でもある。まずは神出鬼没で怪物的なキャラクターの犯人。霧深い夜の闇に紛れて行われる犯罪。当時としては血生臭い殺人描写。怪しげなナイトクラブ。ハンサムでダンディなヒーロー。清楚で美しいヒロインと、妖艶で堕落したファム・ファタールの対比。コミック・パートを一手に引き受ける道化役の存在などなど。犯人の意外な正体がクライマックスで明かされるというのも、“クリミ”映画の定番ストーリーである。
 ただ、本作の場合はそうした要素をきっちりと消化できずに終わってしまった。謎解きの伏線も非常に不自然でご都合主義。“クリミ”映画を代表するハラルド・ラインル監督の手掛けた最初の犯罪サスペンスということも含めて、あくまでも歴史的な価値でのみ語られるべき作品と言えるだろう。

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スコットランドヤードのヘッジ警部(S・ロイッツ)

エラとレイの父親ジョン・ベネット(C ・ランゲ)

優雅なセレブ・ライフを送るリチャード

 ロンドンでは謎の犯罪者フロッグの率いる盗賊団が暗躍し、夜な夜な大富豪の邸宅や大企業の金庫を襲撃して大金を奪っていた。そんなある日、スパイとして盗賊団に紛れ込んだヒギンズ警部(エルナー・ヘドマン)が惨殺体で発見された。フロッグ一味を何年も追い続けているヘッジ警部(ジーグフリート・ロイッツ)は、同僚の無残な死に肩を落とす。
 現場にはリチャード・ゴードン(ヨアヒム・フックスベルガー)というプレイボーイ風の男も駆けつける。リチャードは副総監アーチボルド卿の甥っ子で、アメリカ国籍を持つ大富豪。武道家である執事ジェームス(エディ・アレント)を伴い、趣味で素人探偵をしている。
 遺体の傍から足跡が続いていることに気付いたリチャードは、車に飛び乗ってその足跡を追う。彼がたどり着いたのはジョン・ベネット(カール・ランゲ)という人物の家だった。ベネットには年頃の娘エラ(エルフィー・フォン・クラックルース)と、放蕩息子レイ(ワルター・ウィルツ)という2人の子供がいる。
 エラの美しさに惹かれたリチャードは、買い物に行くという彼女に同行する。ところが、物陰から何者かが襲いかかって来た。格闘の末に捕らえた犯人の腕にはカエルの印が。フロッグの手下である証拠だった。
 さらに、その晩エラのもとにフロッグ本人が姿を現した。ヘッジ警部はフロッグの標的がエラであり、彼女が自発的に自分のものになるように企んでいるのではないかと睨む。リチャードはエラの身の安全を心配するが、彼女は彼が偶然を装って近づいてきたことに腹を立てている。
 一方、ベネット家では息子レイが悩みのタネだった。何事にも我慢が出来ない性格で、それが災いして幾つも職を転々としている。現在の職場でも社長メイトランド(フリッツ・ラスプ)に楯突いてみせたが、上司ジョンソン(ヨヘン・グロックマン)の取り計らいで事なきを得た。どうやら、ジョンソンはエラに横恋慕している様子だが、彼女はそのことに全く気付いていない。
 ある日、レイは“ロリータ”というナイトクラブへの招待状を受け取る。彼はそこで出会った歌姫ロリータ(エヴァ・フラッグ)に一目惚れ。すっかり骨抜きにされてしまい、毎晩クラブに入り浸るようになる。そんな弟を心配するエラ。一方、レイがエラをおびき出すためのターゲットになっていると気付いたリチャードは、クラブの照明係として潜入していた。彼は閉店後の様子を探るため、照明に小型カメラを設置する。
 やがて、スコットランド・ヤードにフロッグ一味の強盗計画を密告する電話が入った。警官隊を率いて張り込みをするヘッジ警部。ロリータから近くのパブに誘われたレイは、いつの間にかフロッグ一味の逃亡の片棒を担がされてしまう。ロリータとクラブのマネージャーはフロッグの手下だったのだ。
 閉店後のクラブに連れてこられたレイ。警察に通報しようとしたところを、マネージャーに殴られて気を失う。そこへフロッグが現れ、マネージャーを射殺。倒れているレイの手に、凶器となった拳銃を握らせて消え去った。
 殺人犯として逮捕されたレイは、裁判で死刑を宣告されてしまう。その頃、レイの勤める会社の社長であるメイトランドが、何者かによって毒ガスで殺される。レイが無実であることを確信したリチャードは、照明に取り付けたカメラの映像を確認しようとするが、執事ジェームスと共にフロッグ一味によって拉致されてしまった。
 その頃、弟の身を案じるエラの前にフロッグが現れ、弟の無実を証明したいのなら自ら進んで自分のものになるよう脅迫する。怒りに身を震わせて拒絶するエラ。しかし、レイの処刑は刻一刻と迫っていた…。

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リチャードと執事ジェームス(E・アレント)

クラブの前をうろつく偽の盲人

当時としてはショッキングな殺人シーン

 とまあ、何とも器の小さな悪党フロッグなわけだが、その正体というのがまた強引。そんな捻りのないタネ明しでいいのか!?という意味での意外性は十分なのだけどね(笑)その他、ナンバー7と呼ばれる警察内部の裏切り者であったり、クラブの前でマッチ売りをしている偽の盲人であったりと、いろいろと本筋とは関係のない怪しげな人物を配しているのはいいのだが、誰が誰なんだか分からなくなってしまうのは問題。脚本の整理整頓が全く出来ていない証拠だ。
 そんな脚本を手掛けたのがJ・ヨアヒム・バルシュとトリグヴェ・ラールセン。バルシュは『命ある限り』(57年)や『激戦モンテカシノ』(58年)などの戦争映画でラインル監督と組んできた脚本家。一方のラールセンは本名をエゴン・エイスといい、主に戯曲家として知られる人物だ。
 撮影監督のエルンスト・W・カリンケは40年代から活躍するドイツのカメラマンで、『U−47出撃せよ』(58年)や『大酋長ウィネットー』(65年)など20本以上の作品でラインル監督と組んでいる。また、ウィリー・マッテスの手掛けたお洒落で粋なジャズ・スコアは秀逸。歌姫ロリータの歌う挿入歌もなかなか良かった。

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歌姫ロリータ(E・フラッグ)にメロメロのレイ(W・ウィルツ)

フロッグの強盗計画を一網打尽にする警察だったが・・・

毒ガスで殺害されたメイトランド(F・ラスプ)

 リチャード役のヨアヒム・フックスベルガーは戦後ドイツを代表する2枚目スターの一人で、ラインル監督の『U−47出撃せよ』や『激戦モンテカシノ』など戦争映画のヒーローとして有名な俳優。戦後ドイツで最初のユニセフ親善大使としても知られている。本作をきっかけに数多くの“クリミ映画”に主演し、イギリスの『怪人フー・マンチュー』(64年)やイタリアの『ソランジェ 残酷なメルヘン』(72年)など国際的にも活躍した。
 フロッグに狙われる娘エラを演じたエルフィー・フォン・クラックルースはエヴァ・アンテスという芸名でも知られるドイツの女優。映画出演作はとても少なく、70年代以降はテレビの司会者として活躍したらしい。
 ヘッジ警部役を演じているジーグフリート・ロウィッツは“クリミ”映画の名脇役として知られる俳優で、『怪人マブゼ博士・姿なき恐怖』(62年)などで主に粋でユーモラスな中年刑事役を得意としていた。
 また、大富豪メイトランド役で少ない出番ながら強烈な印象を残すフリッツ・ラスプは、戦前から『メトロポリス』(26年)や『月世界の女』(29年)などの脇役として鳴らした名優。凄みのある顔と針金のように細い体は一度見たら忘れられない。
 その他、『FBIモスクワに潜入せよ』(60年)や『ブルーライト作戦』(66年)などハリウッド映画にも出演したセクシー女優エヴァ・フラッグ、『最後の戦線/壮烈第六軍』(58年)など戦争映画の軍人役で知られるカール・ランゲ、エドガー・ウォーレス・シリーズの道化役として人気を得たエディ・アレントなどが脇を固めている。

 

 

Die Toten Augen von London (1961)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2004 Retromedia (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/104分/製作:西ドイツ
※バーバラ・スティール主演“The Ghost”とカップリング

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:アルフレッド・フォーレル
製作:ホルスト・ウェンドラント
脚本:トリグヴェ・ラールセン
原作:エドガー・ウォーレス
撮影:カール・レーブ
音楽:ハインツ・フンク
出演:ヨアヒム・フックスベルガー
    カリン・バール
    ディーター・ボルシュ
    クラウス・キンスキー
    ウォルフガング・ルクシー
    エディ・アレント
    アンネリ・サウリ
    ボビー・トッド
    アディ・ベルバー
    ハリー・ウーステンハーゲン

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夜霧に紛れて暗躍する謎の殺人鬼

連続溺死事件に疑問を抱くホルト警部(J・フックスベルガー)

 ハラルド・ラインルと並ぶ“クリミ”映画の名監督アルフレッド・フォーレル。その彼にとって、初のエドガー・ウォーレス・シリーズに当たるのがこの作品である。原作は1924年に書かれた“Dark Eyes Of London”。霧の都ロンドンで次々と起きる連続殺人。犯人は巨体で毛むくじゃらの盲人で、被害者たちには多額の保険金がかけられていた。捜査を担当するスコットランド・ヤードは、医療施設の背後に隠された恐ろしい犯罪の実態を暴いていく。
 フォーレル監督の演出はかなり怪奇趣味が濃厚。ロンドン名物の霧を生かした幻想的な映像や、白目をむいた獣人のごとき殺人鬼の恐ろしさなど、ホラー映画と見まごうばかりの仕上がりだ。殺人シーンの見せ方も非常に凝っている。エレベーターから転落したり、覗き穴から顔面に銃弾を撃ちこまれたり。直接的な残酷描写はほとんどないものの、被害者や目撃者の生々しいリアクションなどによって、その残虐さをリアルに想像させるような演出が上手い。
 複雑に入り組んだプロットもしっかりと整理されており、登場人物が多い割にはストーリーもほとんど破綻していない。クライマックスの謎解きに意外性は少ないものの、地下の拷問質を舞台にした危機一髪のスリリングな展開は手に汗を握る面白さ。数ある“クリミ”映画の中でも、特にイタリアのジャッロに近い雰囲気を持った作品と言えるだろう。サスペンス映画ファンは勿論のこと、ホラー映画ファンにもオススメしたい一本だ。

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ホルト警部はノラ(K・バール)という女性に捜査協力を依頼する

怪しげな保険会社の社長ステファン・ジャッド(W・ルクシー)

 霧の立ちこめるロンドンの深夜。人通りの少ない路地を歩いていた男性が、巨漢の盲人に襲われる。翌朝、男性は水死体となってテムズ河で発見された。この数ヶ月、ロンドンでは似たような溺死事件が連続して起きていた。スコットランド・ヤードは事故として処理していたが、ベテランのホルト警部(ヨアヒム・フックスベルガー)は事件性を否定しきれないでいる。というのも、犠牲者はいずれも身寄りのない裕福な外国人で、しかも多額の保険金が掛けられていたのだ。
 ホルト警部の助手ハーヴェイ巡査(エディ・アレント)の調べで、犠牲者たちがステファン・ジャッド(ウォルフガング・ルクシー)という人物の経営する保険会社と契約していたことが分かる。ジャッドのオフィスを訪れたホルト警部は、そこで名うての詐欺師フレッド(ハリー・ウーステンハーゲン)を目撃する。どうやらフレッドはジャッドを恐喝している様子だった。ジャッドにはデヴィッドという共同経営者の兄がいたが、数ヶ月前に謎の死を遂げていた。その背後にはいろいろと黒い噂があり、フレッドはそれをネタにゆすっていたのだ。
 溺死事件が決まって霧の深い深夜に起きていることに気付いたホルト警部は、かつてロンドンを恐怖に陥れた殺人犯“盲目のジャック”(アディ・ベルバー)を思い出した。全盲の身体障害者で、聴力が人一倍優れていることから、あえて視界の悪い霧の夜を選んで犯行を重ねていたのだ。逮捕起訴されたものの、精神鑑定によって責任能力なしと診断され、施設に入れられたのち行方をくらましていた。
 死体の着衣から点字で記された紙切れが発見されたことから、ホルト警部は知人の勧めでノラ(カリン・バール)という女性に解読を依頼する。彼女は長いこと盲人の施設に勤めていた経験があり、点字の解読に長けていた。
 その紙切れに盲人の犯行であることが示唆されていたことから、ホルト警部はかつて“盲目のジャック”が保護されていた盲人施設を訪れる。盲目のディアボーン所長(ディーター・ボルシュ)はジャックの逮捕後に責任者となったことから当時の情報を全く知らない様子だったが、古くからの入居者でジャックの友人だったルー・ノリス(ボビー・トッド)によると事件以来ジャックの姿を見たことはないという。何かしら手がかりが掴めないかと考えたホルト警部は、ノラを介護士として施設に送り込むことにする。
 一方、かつてジャッドの兄デヴィッドの愛人だったホステス、ファニー(アンネリ・サウリ)は、フレッドの入れ知恵でデヴィッドが汚職に手を染めていたことをネタにジャッドをゆするが、その直後に何者かによって殺害される。自らも何者かに命を狙われていたフレッドは、ファニーの愛人だったチンピラ、エドガー(クラウス・キンスキー)と結託してジャッドを再び恐喝する。ところが、金の受け渡しでジャッドのオフィスを訪れたフレッドは、何者かによってエレバーターから突き落とされて殺されてしまった。
 さらに、自宅へ戻ったノラが盲目ジャックらしき男に襲われ、それからほどなくして彼女の叔母が行方をくらましてしまった。ノラは幼い頃に両親と生き別れとなり、叔母が育ててくれていたのだという。
 そして、今度はゴードン・スチュアートというカナダ人の富豪が溺死体で発見される。再び着衣から点字のメモが発見され、そこには盲目ジャックが犯人であると記されていた。メモを書いたのがルー・ノリスと睨んだホルト警部は施設を家宅捜査するが、ほどなくしてノリスの溺死体もテムズ河に浮かんだ。盲目ジャックはある人物の指示で犯行を重ねていたのだが、その人物はジャックが警察の捜査線上に浮かんだことを知り、殺害してゴミ処理場に遺体を捨て去った。
 その頃、死んだスチュアートの保険金の受取人が20年前に死んだはずの娘エレノアとされており、その娘を名乗る女性が既に保険金を受け取っていることが分かる。しかも、その住所はホルト警部のものだった。やがてノラの叔母エラ(イーダ・エーレ)が廃墟となった工場で監禁されているのが発見される。救出されたエラの話によると、姪のノラこそがスチュアートの死んだはずの娘エレノアだというのだが…。

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詐欺師フレッド(H・ウーステンハーゲン)をマークするホルト警部

盲人施設の所長ディアボーン(D・ボルシュ)

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施設の地下に身を隠す“盲目のジャック”(A・ベルバー)

ジャッドを脅迫したホステス、ファニー(A・サウリ)も殺される

 結果的に事件の黒幕の正体は概ね予想通りなのだが、そこへ至るまでの二転三転するどんでん返しの積み重ねはお見事。様々な人物に疑惑の目を向けさせる語り口が絶妙だ。数多い登場人物も、それぞれにきっちりとキャラクターが立っており、謎解きに至るまでの役割がハッキリとしている。単に観客の注意をそらすためだけの捨て駒がいない、というのはさすが。
 脚本を書いたのは“Der Froch mit der Maske”も手掛けたトリグヴェ・ラールセン。先述したようにもともとは戯曲家として鳴らしたが、初期“クリミ”映画を数多く手掛けた脚本家としても重要な足跡を残している人物だ。
 怪奇幻想的ムード溢れるダークな映像をカメラに収めたのは、ベテラン撮影監督のカール・レーブ。戦前から活躍するカメラマンで、エドガー・ウォーレス・シリーズはもとより、ドクトル・マブゼ・シリーズなど数多くの犯罪サスペンスを手掛けた“クリミ”映画のエキスパートだった。このジャンルを語る上で、最も重要な撮影監督と言えるだろう。

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ファニーの愛人だったチンピラ、エドガー(K・キンスキー)

ノラにも“盲目ジャック”の魔手が・・・

 主人公ホルト警部を演じるのは、“クリミ”映画を代表するスター、ヨアヒム・フックスベルガー。相手役のノラには当時西ドイツで絶大な人気を誇った美人スター、カリン・バールが起用されている。日本では60年代の代表作が一本も公開されていないため無名に等しい女優だが、本国では今もバリバリの現役。ファスビンダーの『リリー・マルレーン』(81年)やマルガレーテ・フォン・トロッタの『ローザ・ルクセンブルグ』(85年)などにも脇役として出演している。
 盲人施設の所長ディアボーンを演じているディーター・ボルシェも、ドイツではとても有名なバイプレイヤー。怪しげな保険会社の社長ステファン・ジャッド役のウォルフガング・ルクシーも、ヘンリー・フォンダ主演の『秘密大戦争』(65年)やテリー・サヴァラス主演の『怪盗軍団』(75年)などに出演していたドイツの名脇役だ。
 妖艶なホステス、ファニー役を演じているアンネリ・サウリはフィンランドのトップ・スターで、当時はアン・サヴォの変名で西ドイツ映画に数多く出演していた。60年代末には本国に戻り、現在もテレビを中心に女優として活躍中。
 そして、出演者の中で最も強烈な印象を残しているのが、“盲目のジャック”を演じているアディ・ベルバーである。ベルバーはオーストリアの出身で、もともとはプロ・レスラーだったらしい。その後ドイツで俳優業に転向し、悪役スターとして数多くの犯罪サスペンス映画に出演。言うなれば、ドイツ版トー・ジョンソン(『プラン9・フロム・アウター・スペース』)だったというわけだ。映画出演の傍らでレストラン経営などもしていたようだが、1966年に53歳で亡くなっている。
 その他、当時はまだ駆け出しだったドイツを代表する怪優クラウス・キンスキー、ホルト警部のおっちょこちょいな助手ハーヴェイ巡査役を演じるエディ・アレント、どこか憎めない小悪党の詐欺師フレディ役を演じるハリー・ウーステンハーゲンなど、“クリミ”映画でお馴染みの役者が顔を揃えている。

 

 

Der Würger von Schloß Blackmoor (1963)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2003 Alpha Video (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★☆☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル
/音声:英語/字幕:なし/地域コード:AL
L/87分/製作:西ドイツ
※本来はビスタ・サイズ

映像特典
なし
監督:ハラルド・ラインル
製作:アルトゥール・ブラウナー
原作:ブライアン・エドガー・ウォーレス
脚本:ラディスラス・フォドール
    グスタフ・カムペンドンク
撮影:エルンスト・W・カリンケ
音楽:オスカー・ザラ
出演:カリン・ドール
    ハリー・リーバウエル
    ルドルフ・フェルナウ
    ハンス・ニールセン
    ディーター・エップレール
    ハンス・レイゼール
    リヒャルト・ハウッスレール
    イングマー・ゼイスベルグ
    ワルテール・ギレール

 “クリミ”映画の帝王ハラルド・ラインルが、エドガー・ウォーレスの息子ブライアンの犯罪小説を映画化した作品。ロンドン郊外のブラックモア邸を舞台に、付近の森を暗躍する絞殺魔の恐怖。さらに、その背後に横たわる犯罪組織の陰謀と復讐劇を描いていく。
 ラインルが熱心なフリッツ・ラング信奉者であったことは冒頭でも述べたが、中でも本作は特にラングからの影響が濃厚に見て取れるだろう。光と影のコントラストを明確に打ち出した象徴的なモノクロ映像、古城の地下牢や夜の森で繰り広げられるダイナミックなアクション。切断された犠牲者の額に“M”の文字が刻まれているというギミックも、明らかにフリッツ・ラング監督へのオマージュだ。
 また、数ある“クリミ”映画の中でも、本作は例外的とも呼べる過激な残酷描写で有名。道路の両脇からワイヤーを張り、猛スピードでバイクを走らせるドライバーの首を吹っ飛ばすシーンなどはその真骨頂だろう。全体的にホラー映画的な要素は薄めだが、こと殺人シーンの直接的な残酷描写においては他の“クリミ”映画の追随を許さない。

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ダイヤモンドを狙う覆面の絞殺魔

覆面男に付けねらわれるクラーク卿(R・フェルナウ)

クラーク卿の姪クラリッジ(K・ドール)


 周囲に広大な森の広がるブラックモア邸。広間では晩餐会が盛大に開かれ、ルシウス・クラーク卿(ルドルフ・フェルナウ)がナイトの称号を得ることが報告されていた。その頃、領内には黒づくめの怪しげな覆面男が忍び込み、庭師の一人を絞殺する。
 晩餐会も無事に終わり、誰もいない広間でくつろいでいたクラーク卿の背後から覆面男が忍び寄る。男はクラーク卿が過去にチャールズ・マニングなる人物を殺害し、膨大な数のダイヤモンドを奪ったことを糾弾。そのダイヤモンドの在り処を問い詰めた。その時、表で車の近づく音が聞こえ、覆面男は足早に逃げ去ってしまう。
 車の主はクラーク卿の姪で新聞記者のクラリッジ(カリン・ドール)。物陰から突然飛び出してきたという領主ブラックモア卿(ワルテール・ギレール)も一緒だった。クラーク卿は覆面男の正体がブラックモア卿ではないかと疑う。
 翌朝、そのブラックモア卿が森の中で庭師の死体を発見。スコットランド・ヤードのミッチェル警部(ハリー・リーバウエル)が捜査を担当することになる。検死の結果、犯人は指が1本欠けていることが判明。クラーク卿の指も1本欠けていた。その身辺を洗ったミッチェル警部は、ロンドン市内の怪しげなパブからブラックモア邸に電話がかけられていることを突き止める。
 クラーク卿は屋敷内に隠したダイヤモンドをパブの主タヴィッシュ(ハンス・ニールセン)に売り渡し、多額の現金を受け取っていた。ところが、そのダイヤモンドを運んでいたドライバーが覆面男に殺害され、その首がブラックモア邸に届けられる。その額にはやはり“M”の文字が刻まれていた。明らかにマニングの頭文字だった。
 ダイヤモンドがタヴィッシュの元へ届けられなかったことを知ったクラーク卿は、改めて別のダイヤモンドを準備した。原石を研磨するのは召使のアンソニー(ディーター・エップレール)。彼はもともと名うての研磨師だったが、ダイヤに対する異常なまでの執着心から横領事件を起こし、服役をしていた過去があった。どこの宝石店でも前科者は雇ってもらえない。クラーク卿はその弱みに付け込み、ダイヤモンドの密売に加担させていたのだ。
 だが、アンソニーは何よりも大切なダイヤモンドが売られて行くことに猛反発。しかし、クラーク卿は後見人という立場を利用してクラリッジが父親から受け継いだ遺産を使い込んでおり、彼女が21歳となって遺産相続の手続きが行われることになった今、是が非でも現金が必要だった。それならばクラリッジを亡き者にしてしまえというアンソニーと、クラーク卿は激しく対立する。
 半ば強引にダイヤモンドを取り揃えたクラーク卿が小包を準備していると、例の覆面男が屋敷に忍び込む。懐に隠し持っていた拳銃で覆面男を追い払ったクラーク卿だったが、その場で心臓発作を起こして倒れてしまった。
 代わりとして小包をタヴィッシュのもとへ届けることになったのはクラリッジ。パブへ到着すると、ミッチェル警部がホステスのジュディ(イングマー・ゼイスベルグ)に聞き込みをしている最中だった。また、ライバルの新聞記者マイク(ハンス・レイゼール)も、記事のネタを探して彼女の後についてきた。
 クラリッジはタヴィッシュに直接小包を手渡す。ところが、中身はダイヤモンドではなく砂だった。誰かが中身を入れ替えたのである。謀られたと思ったタヴィッシュは激怒するが、弁護士のトロンビー(リヒャルト・ハウッスレール)に早合点するのは危険だと諭される。そこで、彼は手下をブラックモア邸に差し向け、クラーク卿から直接ダイヤモンドを受け取るように指示を出した。
 しかし、覆面男の罠によってタヴィッシュの部下は首を跳ね飛ばされてしまう。クラリッジをブラックモア邸に送り届けたミッチェル警部は、屋敷内を捜索していたところ、奇妙な封筒の束を発見する。それは、死んだチャールズ・マニングの妻ベティがクラーク卿に宛てたラブ・レターだった。読み進めると、ベティとクラーク卿の間に子供が生まれたものの、マニング家の息子として育てられていたことが判明。その息子も、手の指が1本欠けていた。つまり、一連の殺人事件の犯人はマニング家の息子だったのだ。しかも、彼は父親の仇と付け狙っているクラーク卿が、自分の実の父親だとは知らない。
 すると、そのマニング家の息子とは一体誰なのか?自らの素性を隠して行動していることは確かだった。その頃、パブのホステス、ジュディが電話で何者かと密談を交わしていた。果たして、彼女の正体とは?やがて心臓発作で倒れていたクラーク卿が死亡し、隠されたダイヤモンドの在り処を巡って人々の思惑が交差する・・・。

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スコットランド・ヤードのミッチェル警部(H・リーバウエル)

最初に殺されたのはブラックモア邸の庭師だった

送りつけられた生首の額にはMの刻印が

 登場人物が多い割にストーリーそのものはシンプルにまとめられており、細かいディテールの描写にちゃんと神経が注がれている。それぞれのキャラクターに疑いの余地が残されており、謎解きも段階を追って丁寧に描かれていくのは好印象だ。犯罪サスペンスのシナリオとしてはまさに王道。
 脚本を手掛けたラディスラス・フォドールは戦前から舞台の戯曲家として世界的に名を知られた人物で、ウィリアム・パウエル主演の『宝石泥棒』(32年)などハリウッドで映画化された作品も少なくなかった。当時は“クリミ”映画の脚本家として活躍していた時期で、ドクトル・マブゼ・シリーズの脚本も手掛けている。一方のグスタフ・カンペンドンクも戦前からのキャリアを誇るベテランだったが、主にコメディやラブ・ロマンスを得意とした脚本家で、“クリミ”映画への参加は本作を含めて2〜3本くらいしかなかったようだ。
 撮影を手掛けたエルンスト・K・カリンケは先述したようにラインル監督とたびたび組んでいる常連スタッフで、“クリミ”映画の分野でもお馴染みのカメラマン。森を舞台に展開する追跡シーンでのダイナミックな移動撮影など、随所で小気味のいいカメラワークを見せてくれる。ただ、上記のDVDは4:3のスタンダード・サイズ収録で、本来のビスタ・サイズからトリミングされてしまっているのはちょっと残念。
 また、シンセサイザーの前身であるトラウトニウムの開発者として有名な実験音楽家オスカー・ザラの手掛けた電子音楽も印象的。さすがテクノ発祥の地。トウラウトニウムによる無機質な不協和音が、ミステリアスで不気味なムードをジワジワと高めていく。ザラが映画音楽を手掛けるのは比較的珍しいのだが、当時は立て続けに数本の映画に参加しており、本作の後にも『怪人マブゼ博士・殺人光線』(64年)を手掛けている。

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異常なまでにダイヤを愛する男アンソニー(D・エップレール)

クラリッジはタヴィッシュ(H・ニールセン)に小包を渡す

吹っ飛ばされた生首が路上に転がる

 ヒロインのクラリッジ役を演じているのは当時ラインル監督の妻だったカリン・ドール。『007は二度死ぬ』(67年)で悪役のボンド・ガールを演じ、ヒッチコックの『トパーズ』(69年)でも妖艶な美しさでヒロインのダニー・ロバンを完全に食ってしまった。当時のドイツを代表する国際的なスター女優と言えるだろう。
 対するスコットランド・ヤードのミッチェル警部を演じるハリー・リーバウエルは、主に脇役を中心に活躍していた俳優。“クリミ”映画への出演も何本かあったが、主演クラスの作品はこれが唯一なのではないかと思う。確かにダンディでスマートだが、とても存在感の薄い役者だ。
 クラーク卿役のルドルフ・フェルナウは、ドクトル・マブゼ・シリーズなど数多くの“クリミ”映画で貴族や科学者などを演じた名脇役。どこか怪しげな雰囲気のある、とても個性的な顔をした役者だ。執事アンソニー役のディーター・エップレールも“クリミ”映画の悪役としてお馴染みの俳優。
 一方、犯罪組織のボス、タヴィッシュ役を演じているハンス・ニールセンは戦前から戦後にかけてドイツ映画界のトップ・スターとして活躍した俳優。カーク・ダグラス主演の『非情の町』(61年)では、クリスチーネ・カウフマン扮するヒロインの父親を演じていた。
 その他、『ブルーライト作戦』(66年)などハリウッド映画にも出演したハンス・レイゼール、名匠ヴィクトル・トゥールジャンスキーの『逆襲の河』(59年)にも出ていたポーランド人女優イングマー・ゼイスベルグなどが登場する。

 

 

Der Henker von London (1963)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2008 Retromedia/Infinity (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/92分/制作:西ドイツ

映像特典
なし
監督:エドウィン・ズボネック
製作:アルトゥール・ブラウナー
原作:ブライアン・エドガー・ウォーレス
脚本:ロベルト・A・シュテルメ
撮影:リヒャルト・アングスト
音楽:ライムンド・ローゼンバーガー
出演:ハンスイェルク・フェルミー
    マリア・ペルシー
    ディーター・ボルシュ
    ルドルフ・フォルスター
    クリス・ハウランド
    ウォルフガング・プライス
    ハリー・リーバウエル
    ルドルフ・フェルナウ
    アレクサンダー・エンゲル

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“ロンドンの処刑人”たちによる秘密裁判

処刑された犯罪者の死体が橋からぶら下がっている

 こちらもエドガー・ウォーレスの息子ブライアンのミステリー小説(“White Carpet”)を映画化した作品。本作がユニークなのは、一つの作品の中で全く別の2つの事件がほぼ同時に進行するということ。片方は、“ロンドンの処刑人”と呼ばれる私刑集団の暗躍。法の目をかいくぐってのさばる犯罪者たちを誘拐しては処刑している闇の組織だ。で、もう一方は若い女性ばかりを狙う連続殺人鬼。殺した女性の首を切断するという異常者だが、いまだ逮捕に至っていない。ここでは、かつて自分の妹を殺人鬼に殺された刑事が“ロンドンの処刑人”事件を担当することになり、法治国家における正義の矛盾が問われていく。
 監督は戦争ドラマ“Mensch und Bestie(人間と獣)”(63年)でベルリン国際映画祭金熊賞にノミネートされたエドウィン・ズボネック。日本では同じくブライアン・エドガー・ウォーレス原作の“クリミ”映画『猟奇美女連続殺人』(64年)がテレビ放送されただけで、殆ど無名に近い存在の映画監督である。
 全体的にゴシック・ホラー的なムードが濃厚。“ロンドンの処刑人”たちによる秘密裁判などは、まるで中世の魔女狩りのごとき不気味さだ。誘拐した犯罪者たちを運ぶ馬車が、霧の立ちこめる夜のロンドンを静かに走り抜けていくシーンも幻想的。後半で、囮として殺人鬼に接触したヒロインを警察が見失ってしまう辺りからのスリリングな展開も悪くない。
 ようやく2つの事件が絡み合うクライマックスには、なるほど!と誰もが思わず納得させられるはずだ。ほろ苦くて哀しい結末も秀逸。推理サスペンスとしての謎解きやトリックは稚拙だが、ホラー・タッチのスリラー映画としてはとても良く出来た作品だと思う。

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事件を担当するヒリアー警部(H・フェルミー)

恋人アンナの父親である元裁判官サー・フランシス(R・フォルスター)

 舞台はロンドン。とある古い建物の地下室で、今まさに裁判が行われようとしていた。中世の死刑執行人を思わせる覆面姿の男たちが裁判官として並び、違法建築で罪なき人々を死に至らしめた男が有罪判決を受ける。馬車に乗せられた男は真夜中のテムズ河へと運ばれ、橋の上から生きたまま首を吊られた。
 翌朝、テムズ河で無残な首吊り死体が発見される。被害者は違法建築の罪に問われ、ブラジルに逃亡していた詐欺師。同じような事件が起きるのはこれで3件目だった。世間では犯人を“ロンドンの処刑人”と呼んでいた。いずれも被害者は法で裁くことの出来ない犯罪者。首を吊るのに使われたロープも全く同じものだ。
 そのロープは普段スコットランド・ヤード内の犯罪資料館に展示されているのだが、毎回いつの間にか盗み出されている。事件を追うヒリアー警部(ハンスイェルク・フェルミー)と親友の検死官トゥルーパー医師(ハリー・リーバウエル)は、警察内部に協力者がいるのではないかと疑う。
 ヒリアー警部の恋人アン(マリア・ペルシー)の父親は、かつて多くの犯罪者を裁いて凄腕の裁判官と呼ばれたサー・フランシス(ルドルフ・フォルスター)。そのサー・フランシスの誕生日を祝うため、ヒリアー警部はトゥルーパー医師を伴って晩餐会に顔を出した。勝手に犯罪者を裁く“ロンドンの処刑人”への憤りを口にするヒリアー警部に、サー・フランシスは単刀直入に尋ねる。もし“ロンドンの処刑人”が君の妹を殺した犯人を見つけ出して裁いてくれたら、果たして君はどう思うかね?と。
 ヒリアー警部はかつて最愛の妹を連続殺人鬼に殺されていた。犯人は若い女性ばかりを狙って首を切断する異常者で、彼の妹も首なしの胴体だけという状態で発見されたのだった。何人もの女性が犠牲となったが、犯人は未だに捕まっていなかった。 
 サー・フランシスは現在の警察捜査や司法制度の限界を指摘する。たとえ犯人が捕らえられたとしても、精神鑑定で責任能力なしと診断されれば、いずれ社会へと戻されてしまう。“ロンドンの処刑人”という存在がその理不尽を正してくれているのではないか、とサー・フランシスは考えるのだった。
 そこへサー・フランシスの誕生日を祝う小包が届けられた。ところが、それは時限爆弾。間一髪のところでそれを見抜いたのは、タブロイド紙記者のジェンキンス(クリス・ハウランド)だった。かつてサー・フランシスが有罪を宣告したギャングが出所し、復讐のために時限爆弾を送りつけて来たのだ。裏社会に情報網を持つジェンキンスのお手柄だった。彼は自分も捜査に協力させてほしいとヒリアー警部にアピールするものの、ストッコランド・ヤードが外部の人間を雇うわけにはいかない。

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ヒリアー警部の恋人アンナ(M・ペルシー)

新聞記者のジェンキンス(C ・ハウランド)

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霧の立ち込める夜のロンドンを不気味に駆け巡る馬車

犯罪者の罪を暴いていく“ロンドンの処刑人”たち

 その頃、再び博物館からロープが盗まれた。“ロンドンの処刑人”が再び誰かを処刑するはずだ。ヒリアー警部は焦るが、肝心の手がかりが全くない。やがて、保険金殺人を犯した男が処刑される。警察も見抜けなかった詐欺事件だったが、“ロンドンの処刑人”たちはあらゆる証拠を手にしていた。新たな処刑事件の新聞報道を見て、サー・フランシスと執事ジェローム(ルドルフ・フルナウ)は密かにほくそ笑む。また犯罪者がこの世から一人消えた、と。
 捜査の進行に行き詰まりを感じていたヒリアー警部だったが、そこへジェンキンスから情報が入る。深夜に港の倉庫街で新たに“ロンドンの処刑人”による裁判が行われるらしいというのだ。ブロンドの売春婦に変装したジェンキンスと落ち合ったヒリアー警部。倉庫では今まさに秘密裁判が行われようとしていた。
 ところが犯人たちに気付かれてしまい、銃撃戦が始まってしまう。間一髪のところで警官隊が突入し、犯人グループは逮捕された。しかし、その証拠から全く別の模倣犯であることが判明。サー・フランシスは警察内部に真犯人がいるはずだと指摘する。
 その頃、女性連続殺人事件の犯人が再び動き出す。深夜の公園で若い女性の首なし死体が発見されたのだ。一方、本物の“ロンドンの処刑人”たちも動き出した。家族を皆殺しにして有罪判決を受けながら、アメリカに逃亡していた殺人犯が処刑されたのだ。犯行に使われたロープはスミス総監(ウォルフガング・プライス)が保管していたはずだったが、いつの間にか盗まれていた。
 連続殺人鬼の復活で担当の配置換えとなったヒリアー警部。その心中を察したアンは、自ら囮となって連続殺人の捜査に協力することを申し出る。犠牲者の女性たちは同じ場所で行方不明になっていた。そこへ出向けば犯人と接触できるかもしれない。躊躇するヒリアー警部だったが、アンの熱心な説得に折れた。
 スコットランド・ヤードの監視下で囮作戦が決行される。案の定怪しげな男がアンに接近してきた。男はファーガソン博士(ディーター・ボルシュ)と名乗る。博士の自宅に誘われ、アンはついて行くことにした。しかし、尾行していたはずの警官隊が誤って2人を見失ってしまう・・・。

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女装して犯罪現場に潜入取材するジェンキンス

トゥルーパー医師(H・リーバウエル)は意外な光景を目にする

 謎解きや犯罪推理を楽しみたい向きにはオススメできないものの、司法制度の落とし穴に目をつけた犯罪スリラーとしてはなかなか上出来。残酷描写はほとんど皆無だが、美しくも怪しげなビジュアル・スタイルで猟奇的ムードを高めることに成功している。
 脚本を手掛けたロベルト・A・シュテルメは、ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞にノミネートされた名作『ベルリン物語』(48年)やケストナー原作の少年少女向け冒険活劇『エミールと少年探偵団』(54年)の監督として有名な人物。脚本家としてもカール・フレーリヒの『題名のない映画』(35年)やジュリエッタ・マシーナ主演の『女』(59年)などを手掛けている。ストーリーテリングの巧みさは、さすが大ベテランならではの貫禄といった感じだ。
 撮影のリヒャルト・アングストは戦前から活躍する有名なカメラマンで、フリッツ・ラングの『大いなる神秘』シリーズやサイ・エンドフィールドの『異常な快楽』(69年)などの撮影監督も務めた人物。編集のワルター・ウィシュニフスキーも、『ほら男爵の冒険』(42年)や『ベルリン物語』などを手掛けたベテラン職人だ。クリミ映画全盛期の作品だけに、なかなか豪華なスタッフが揃えられている。

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連続殺人事件の犯人ファーガソン博士(D・ボルシュ)

絶体絶命の危機に陥るアンナだったが・・・

 ヒリアー警部を演じるハンスイェルク・フェルミーは、『鮫と小魚』(57年)や『撃墜王 アフリカの星』(57年)などの戦争映画で知られる当時の人気スター。ヒッチコックの『引き裂かれたカーテン』(66年)にも出演していた。
 その恋人アンを演じるマリア・ペルシーはオーストリア出身の美人女優で、50年代から60年代にかけてヨーロッパ各国で大活躍した人気スターだ。ロミー・シュナイダーに瓜二つの美貌はハリウッドからも注目され、巨匠ジョン・ヒューストンの『フロイド/隠された欲望』(62年)やロック・ハドソン主演の『男性の好きなスポーツ』(64年)、AIP製作の『モルグ街の殺人』(71年)といったアメリカ映画にも出演している。
 その父親である好々爺サー・フランシスを演じるルドルフ・フォルスターは、巨匠G・W・パヴストの傑作『三文オペラ』(30年)に主演し、『女の心』(31年)や『朝やけ』(32年)などで大女優エリザベート・ベルグナーとのコンビで売った戦前のトップ・スター。
 また、スコットランド・ヤードのスミス総督を演じるウォルフガング・プライスは、ドクトル・マブゼ・シリーズのマブゼ博士役で知られるバイプレイヤー。フランク・シナトラ主演の『脱走山脈』(68年)や巨匠ヘンリー・ハサウェイの『ロンメル軍団を叩け』(70年)など、ハリウッドの戦争映画でもドイツ人将校役を数多く演じている国際的な名優だった。悪役というイメージが強い人だけに、クライマックスのどんでん返しにはちょっと騙されるはずだ。
 その他、ハリー・リーバウエルやルドルフ・フェルナウ、ディーター・ボルシェなどお馴染みの役者が勢ぞろい。また、ちょっとトボけた新聞記者ジェンキンス役を演じるクリス・ハウランドはイギリス出身の俳優で、ドイツではテレビ番組の司会者として有名だったらしい。初老の紳士から売春婦まで様々な人物に変装し、愉快な芸達者ぶりを見せてくれる。

 

※近日中に「ドイツ犯罪サスペンス映画特集」第2弾もアップ予定♪

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