番外編
『Gメン '75』と菊池俊輔

 

 ブログやプロフィールでも紹介しているように、僕は幼少期の大半を旧ソビエトのモスクワで過ごしたのだが、その一方で幼稚園から小学校低学年にかけての一時期を日本で過ごした経験がある。当時は両親が子供の情操教育に熱心だったこともあり、我が家のお茶の間はテレビ検閲がそれなりに厳しかった。
 子供向けのアニメや特撮番組は基本的にほぼ全てOKだったが、『仮面ライダー アマゾン』は主人公が半裸になって奇声を発することが問題視されて即NG(笑)。大人向けのドラマやロードショー番組は、両親が見ているものならとりあえず大丈夫だった。
 しかし、バラエティ番組や歌番組などは殆んどが禁止で、中でもお下劣な笑いを売りにする『8時だよ!全員集合』なんぞはもってのほか。とはいえ、当時はドリフを見ていなければ小学校の話題についていけない時代である。近所に銀行員の叔母が一人暮らしをしていたので、弟や妹を引き連れて遊びに行っては両親に内緒で『8時だよ!全員集合』を見せてもらったもんだった。
 そうした中、なぜか家族揃って毎週必ず見ていた数少ない大人向けドラマが、この『Gメン '75』だった。今にして思えば、決して一家団欒で楽しむようなタイプの番組ではなかったはず。現代社会の暗部をさらけ出すような凶悪犯罪や社会の底辺でもがき苦しむ人々の姿を、非情ともいえるくらいにハードなリアリズムで描いた作品。子供が見るにはちょっと重過ぎるドラマだ。恐らく、リベラルで骨太な社会派的作風が、ジャーナリストである父の琴線に触れたのであろう。その辺は、ワリと平気で公私混同してしまう大らかな父なのであった(笑)。
 そして、この『Gメン '75』という番組は、42年近くになる僕の人生の中で最も強い影響を与えられた映像作品の一つでもある。殺人事件や誘拐事件、強盗事件などの捜査に命がけで挑む刑事たちの姿を描きながら、事件の背後にある社会格差や貧困、核家族化による家庭崩壊、障害者差別、さらには死刑制度問題や沖縄の米軍基地問題に至るまで、実に様々な社会問題を赤裸々にえぐり出していく。事件捜査が悲劇的な結末を迎えることも多く、残酷な現実を前に虚しさや憤りを感じる刑事たちの姿に、子供ながら強い共感を覚えることもしばしばだった。
 中でも、響圭子刑事が本土復帰後も虐げられ続ける沖縄の現実と対峙した“沖縄3部作”は、少年時代の僕に強烈なインパクトを残したものだ。犯人の米兵が基地へと逃げ込んでしまい、手を引かねばならなくなった警察の無力感とやり場のない怒り。戦後数十年が経っているにもかかわらず、いやというほど思い知らされる敗戦国としての屈辱。今のテレビでは絶対に描くことが出来ない題材であろう。
 また、響刑事役を演じる女優・藤田美保子の、文字通り体当たりというべき大熱演がまた素晴らしかった。エレガントでクールな女刑事というのは『Gメン』シリーズの看板でもあったが、人間臭さという点ではやはり初代の響刑事がダントツに魅力的。藤田美保子の不器用だががむしゃらな演技と、エキゾチックで日本人離れした美貌のバランスもまた大変好感が持てた。歴代の女刑事の中では一番好きなキャラクターだ。
 こうした社会派ドラマ的な側面は、その後僕がイタリアのマフィア映画や犯罪映画に惹かれていく下地を作ったように思う。フランチェスコ・ロージやダミアーノ・ダミアーニ、エリオ・ペトリといった社会派の名匠たちが残した、骨太な告発型映画の数々に通じるものが『Gメン '75』にはあったのである。
 そればかりではなく、僕がジャン=ピエール・メルヴィルやジョゼ・ジョヴァンニらのフレンチ・ノワールに魅了された理由も、『Gメン '75』と相通ずるような魅力と面白さを感じたからに他ならない。恐らく、『Gメン』のスタッフは当時のフレンチ・ノワール作品を多分に意識したのではないだろうか。それくらい、このドラマはバタ臭いというか、ヨーロッパ映画的な雰囲気をそこかしこに醸し出していた。『太陽にほえろ』のドライなアメリカン志向とは対照的だったと言える。
 丹波哲郎や若林豪、夏木陽介ら男性陣のクールで渋いダンディズム、藤田美保子や森マリア、夏木マリら女優陣の洗練されたエレガンス。番組名物となったヨーロッパ・ロケにもしっくりとハマる彼ら役者たちの顔ぶれも、ジャン・ギャバンやリノ・ヴァンチュラなどに負けないくらいの存在感があったように思う。

 そして、『Gメン '75』を語る上で絶対に欠かせないのが、菊池俊輔による見事な音楽スコアと挿入歌の数々である。主人公たちが空港の滑走路を横一列になって歩く有名なオープニングで使用された勇壮なテーマ曲はもちろんのこと、しまざき由理の唄うエンディング・テーマ『面影』や『追想』などなど、どれも番組の持つハードなリアリズムと哀しいロマンティシズムを凝縮したメロディとサウンドが印象的。ここにも、Gメンのヨーロッパ映画的な魅力を感じることが出来るように思う。
 菊池俊輔といえば当時の日本のテレビ界を代表する大物中の大物作曲家。僕らの世代にとっては『仮面ライダー』シリーズに代表される特撮ヒーロー物や、『バビル二世』や『UFOロボ グレンダイザー』、『ドラえもん』などのアニメ作品でもお馴染みの人物だが、それ以外にも時代劇ドラマから仁侠映画に至るまで、ありとあらゆるジャンルのドラマや映画を手掛けた天才だった。
 その個性と魅力を一口に言い表すならば、“日本人好みのメロディメーカー”といったところだろうか。マイナーコードを基調にした哀愁漂う旋律とブラスやストリングスを多用した派手でファンキーなアレンジは、ドラマや映画そのもののイメージを決定付けるくらいにインパクトの強いものばかりだった。『ドラえもん』や『Dr.スランプ アラレちゃん』など例外的な作品もあるが、それらも“分りやすい”“キャッチー”という意味では共通するものがあったと言えよう。
 そして、そのマイナーコード主体と派手なアレンジという菊池作品の特色は、そのまま当時のフランスやイタリアの映画音楽、ポピュラー・ミュージックにも相通ずるものであったと思う。なので、『Gメン '75』のヨーロピアンな世界観とも相性は抜群。中でも、『面影』や『追想』といった叙情的で切ないエンディング・テーマは、Gメンの持つヨーロッパ映画的センチメンタリズムを大いに盛り上げたように感じる。
 Gメン以外にも、『仮面ライダー』シリーズや『惑星ロボ ダンガードA』、『破裏拳ポリマー』、『ラ・セーヌの星』、『UFOロボ グレンダイザー』などなど、僕が少年時代からこよなく愛する特撮・アニメ音楽の多くが菊池俊輔の作品。もちろん、渡辺宙明の『マジンガーZ』や『鋼鉄ジーグ』も大好きなのだが、数の多さも含めたインパクトという意味では圧倒的に菊池作品に軍配が上がる。そう考えると、僕がモリコーネやステルヴィオ・チプリアーニ、フィリップ・サルドといったヨーロッパの映画音楽家の作品を愛するようになったのも、子供の頃に刷り込まれた菊池作品の影響・・・なんて言ってもあながち大袈裟ではないかもしれない。

 

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Gメン '75
シングル・コレクション

Gメン '75
ミュージックファイル

Gメン '75
ミュージックファイルVol.2

(P)1994 日本コロムビア (Japan) (P)1993 VAP (Japan) (P) 1993 VAP (Japan)
1,Gメン '75のテーマ ビデオ
2,面影 ビデオ
3,追想 ビデオ
4,愛の終りの日
5,蜉蝣(かげろう)
6,帰り道
7,道 ビデオ
8,愛
9,漂泊(さすらい)
10,望郷
11,レイクイエム
12,Gメン '75のテーマ(新バージョン)
13,ウィング
14,遥かなる旅路-Wandering Man-
15,男と女のメロディー
16,アゲイン〜Again〜Mille Vagues D'or
17,アゲイン〜Again〜Mille Vagues D'or
  (インストゥルメンタル)
18,アゲイン(黄金色の嵐)

歌/2〜4・8・16(しまざき由理)/5・6(范文雀)/
7(島かおり)/9・10(江波杏子)/11(ささきいさお)/13(夏木マリ)/14・15(ポプラ)
1,Gメン '75のテーマ
2,プロローグ〜サブタイトル
3,摩天楼の死角
4,Gメンの捜査
5,FIRE !
6,小さな幸福
7,銅の捜査線
8,華麗なる追跡
9,つかの間の平安
10,面影<インストゥルメンタル>
11,Gメン '75のテーマ(ロックヴァージョン)
12,KUN-FU FIGHTER
13,男たちの激情
14,闇に蠢く陰謀
15,異国の街角で
16,レクイエム〜アイキャッチ
17,正義への足どり
18,Gメン '75のテーマ(別テイク)
19,安らぎの代償
20,面影 *

*歌/しまざき由理
1,Gメン '75のテーマ
2,北ウィングの女刑事
3,事件への前奏曲(プレリュード)
4,殺人捜査
5,愛の終りの日(インストゥルメンタル)
6,逃亡する刑事
7,非情の罠
8,疎外者たちのララバイ
9,漂泊(さすらい)(インストゥルメンタル)
10,大いなる賭け
11,The Beast Must Die !
12,去りゆく者へのレクイエム
13,想い出の街角
14,追想は果てしなく・・・
15,疑惑の影
16,真夏の夜の捜査
17,蜉蝣(かげろう)(インストゥルメンタル)
18,孤独な索敵
19,この街のどこかに
20,愛(インストゥルメンタル)
21,逆転の鍵
22,燃えよ!Gメン
23,死者は退場する
24,ともに歩こう、この道を
25,道(TVサイズ) *

*歌/島かおり
 オープニング・テーマ曲とエンディング・テーマを集めたシングル・コレクション。これ1枚で聴きたい曲は一通り揃う感じですね。#12までが菊池俊輔作品になります。いずれもステレオのフル・バージョンで収録。自分がリアルタイムで知っているのは#7までですが、中でも特に好きなのが#2と#3。僕の音楽的嗜好を決定付けた楽曲といっても過言ではありません。『みなしごハッチ』などでお馴染みの、しまざき由理さんの歌声がまた美しい!どちらも僕の生涯ベスト10に入るほど好きなナンバーです。  こちらは番組本編中で使用された音楽スコアをメインにコンパイルされたサントラ盤。全てモノラルでの収録で、#1と#20はどちらもフルサイズになります。基本的にはテーマ曲及びエンディング・テーマ『面影』と『追想』のメロディを、シチュエーションに合わせながら様々なアレンジで使用しており、インスト・アルバムとして全く退屈することのない仕上がりです。ウェスタン風アレンジなんてのもありますが、どう聴いてもマカロニ・ウェスタンなのは、やはりGメンならではといったところでしょうか。  前作の選曲から漏れたトラックをカバーしつつ、その後新たに発見されたマスター・テープに収録されていたナンバーを加えた第2弾。今回はエンディング・テーマのバリエーションに比重が置かれた選曲で、全体的にじっくりと聴かせる重厚なトラックが多いように感じます。メイン・テーマをスウィンギーなジャズにアレンジした#14や、『追想』をレア・グルーヴやメキシカン・スタイルなどを織り交ぜてアレンジした#21なんかは非常に面白い。今回も聴き応え十分です。なお、全てモノラル・バージョンでの収録。

 

LA_SEINE.JPG GRENDISER.JPG DYMOS.JPG

ラ・セーヌの星

UFOロボ グレンダイザー

闘将ダイモス

(P)2005 Columbia Music (Japan) (P)2004 Columbia Music (Japan) (P)2004 Columbia Music (Japan)
1,ラ・セーヌの星 ビデオ
2,パリの花売り娘
3,剣士のシャシャシャ
4,泣くなシモーヌ
5,進めパリのために
6,私はシモーヌ ビデオ
7,愛のテーマ
8,黒いチューリップ
9,ダントンマーチ
10,マリー・アントワネット

歌/1・2・6(アレーヌ)/3〜5・7・10(堀江美都子
)/8(水木一郎)/9(コロムビアゆりかご会)
1,オープニング:とべ!グレンダイザー ビデオ
2,宇宙の王子デューク・フリード
3,第二の故郷・地球
4,悪魔の破壊者・ベガ星連合軍
5,若草の乙女・ナイーダ
6,正義の守護神グレンダイザー
7,宇宙の王者グレンダイザー ビデオ
8,地球を守る三機の翼
9,可憐なプリンセス・マリア
10,氷の妖精・キリカ
11,真紅の花・ルビーナ
12,緑の星へ愛をこめて
13,クロージング:もえる愛の星

歌/1・7・13(ささきいさお)
1,立て!闘将ダイモス ビデオ
2,序章・バームから地球へ
3,一矢の章
4,同胞の章
5,エリカの章
6,ダイモスの章
7,リヒテルの章
8,葛藤の章
9,終章・地球からバームへ
10,エリカのバラード ビデオ

歌/1(ささきいさお)/10(かおりくみこ、大倉正丈)
 当時の『ベルばら』ブームに一切興味のなかった僕が、なぜか夢中になったフランス革命ものアニメ。これは、菊池俊輔の書いたテーマ曲および挿入歌を集めたサントラ盤LPを復刻したものです。これぞ菊池節とでもいわんばかりのキャッチーなテーマ曲#1は大・大・大好き。歌っているアレーヌはパリのオーディションで選ばれたフランス人女性。フランス語訛りの日本語が雰囲気ですね。全体的に、当時の日本人が思い描くフランスをイメージしたような内容で、そのベタさ加減がまた良いと思います。水木一郎の歌う#8は完全にヒーロー物のノリですが(笑)  『マジンガーZ』『グレートマジンガー』に続く東映スーパーロボット・アニメ第3弾として75年に放送された作品。当時の僕は主題歌#1が大のお気に入りでした。この勇壮感と哀愁感の絶妙なブレンドが最高です。ブリッジのマイナー・コードからメジャー・コードへの転調も爽快そのもの。同じ路線のエンディング・テーマ#7も懐かしいですね。#13はパイロット版的内容の劇場用アニメ『宇宙円盤大戦争』のエンディングに使われた曲で、意外にも癒し系ソフト・ロック的な仕上がり。なお、#1と#7はステレオ&TVサイズでの収録です。  これは僕が2度目にモスクワへ行く直前の78年4月からスタートしたロボットアニメ。なので、本編は最初の方しか見たことがないんですけど、やはり菊池節炸裂の哀愁男泣き系テーマ曲#1が当時の僕には大変好みでした。フォーク・バラード・スタイルの爽やかなエンディング・テーマ#10も印象深かったと思います。全体的にSFバトル物、戦争物路線の勇壮なスコアが中心ですが、メイン・テーマのメロディをバリエーション豊かに使った哀愁感が持ち味。#1と#10はTVサイズ・バージョンで、全てモノラルでの収録になっています。

 

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