フィルム・ノワール傑作選
PART 5

 

I Wake Up Screaming (1941)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

IWAKEUPSCREAMING-DVD.JPG
(P)2006 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/ステレオ・モノラル/音声:英語/字幕:英語
・スペイン語/地域コード:1/82分/製作:アメリカ

映像特典
ポスター・ギャラリー
製作スチルギャラリー
ユニット・フォト・ギャラリー
オリジナル・タイトル資料集
オリジナル劇場予告編
映画評論家による音声解説
監督:H・ブルース・ハンバーストーン
製作:ミルトン・スパーリング
原作:スティーヴ・フィシャー
脚本:ドワイト・テイラー
撮影:エドワード・クロンジャガー
音楽:シリル・J・モックリッジ
出演:ベティ・グレイブル
   ヴィクター・マチュア
   キャロル・ランディス
   レアード・クリーガー
   ウィリアム・ガーガン
   アラン・モウブレイ
   アリン・ジョスリン
   イライシャ・クック・ジュニア

IWAKEUPSCREAMING-1.JPG IWAKEUPSCREAMING-2.JPG IWAKEUPSCREAMING-3.JPG

人気モデルのヴィッキー(C・ランディス)が殺された

警察の尋問を受けるフランキー(V・マチュア)

顔を隠したまま執拗にフランキーを問い詰める主任刑事

 前回のPART4で紹介したジーン・クレイン主演のフィルム・ノワール“Vicki”(53)の、これが最初の映画化作品に当たる。原作はスティーヴ・フィシャーの書いた同名ミステリー小説。ストーリーは53年版とほぼ一緒だが、脚本・演出・配役のいずれを取っても本作の方が遥かに優れた出来栄えと言えるだろう。
 ヴィッキー・リンという名の売れっ子モデルが何者かに殺害される。容疑者として浮かび上がったのは、ウェイトレスだった彼女をスカウトしたプロモーターのフラキーと、ヴィッキーと同居していた実の姉ジル。いったんは容疑の晴れた二人だったが、事件を担当するコーネル刑事は執拗に彼らをつけ回す。やがて明らかになる恐るべき事実。コーネル刑事は真犯人へ繋がる証拠を意図的に隠滅し、フランキーを殺人犯に仕立て上げようとしていたのだ。一体なぜなのか?そして、フランキーは自らの身の潔白を証明することが出来るのか!?
 歪んだ復讐心から職権を濫用し、無実の人間を陥れようとするコーネル刑事の恐ろしさ。ウェイトレスとして働くヴィッキーを見かけて以来、常に彼女の周囲をうろつきまわり、遠くから見つめては恋焦がれていたコーネル刑事。今で言うところのストーカーである。そんな彼女がモデルとしてスカウトされ、手の届かないほどの遠い存在となってしまったことから、彼はその元凶であるフランキーのことを激しく逆恨みしていたのだ。
 監督はミュージカル『ピンナップ・ガール』(44)でもベティ・グレイブルと組んだJ・ブルース・ハンバーストーン。日本では冒険活劇やコメディの監督として知られるが、その一方で戦前から数多くの犯罪サスペンスを手掛けた人物でもあった。
 光と影のコントラストが巧みに計算されたダークで幻想的な映像は、フリッツ・ラングやアンソニー・マンの作品にも匹敵するほどの迫力。特に怪優レアード・クリーガー演じるコーネル刑事の異様な描写は見事で、得体の知れない怪物的な恐ろしさを存分に引き出している。ここまで来るとほとんどホラー映画だ。
 また、脚本は53年版と同じドワイト・テイラーによるものだが、余計なサイドストーリーを一切排しているおかげで非常にテンポが良く、甘ったるいメロドラマ的な側面を強調しすぎた53年版に比べると遥かに緊張感のあるスリリングな物語に仕上がっている。
 そして、本作は出演者の顔ぶれも素晴らしい。ベティ・グレイブルもヴィクター・マチュアも役柄としての説得力に加えて主演スターらしい華があるし、二人の関係が基本的に対等であるという点も良かった。
 53年版ではあくまでも二人は恋人同士という前提でストーリーが進行したものの、本作では真犯人を捕らえるために一致協力する相棒同士であり、そこから次第に男女として惹かれあっていく。53年版のジルはどちらかというと内助の功的な立場にしか過ぎなかったが、本作のジルは積極的に犯人捜査に加わって大活躍するのが頼もしい。
 さらに、ヴィッキー役を演じるキャロル・ランディスの、一歩間違えると下品になってしまうようなケバケバしいグラマーぶりも適役。ジーン・ピータースが演じた53年版のヴィッキーもタフな女性だったが、こちらのヴィッキーはよりあからさまに野心的で我が強い。53年版ではお涙頂戴の姉妹愛なども描かれていたが、本作のジルとヴィッキーはお互いに負けず劣らずの気の強さ。それゆえに、大都会の片隅で悪戦苦闘しながら生きる姉妹の姿を、よりリアルに浮かび上がらせていると言えよう。
 もちろん、コーネル刑事役を演じるレアード・クリーガーのビザールなまでの不気味な存在感も秀逸。日本では劇場公開はおろか、テレビ放送もソフト発売も一切されていないのが不思議でならない。フィルム・ノワール・ファンはもとより、サスペンスやスリラーを愛する全ての映画ファンにオススメしたい名作である。

IWAKEUPSCREAMING-4.JPG IWAKEUPSCREAMING-5.JPG IWAKEUPSCREAMING-6.JPG

ウェイトレスだったヴィッキーをスカウトしたフランキー

ヴィッキーを売り出すための作戦は大成功した

姉のジル(B・ハットン)は猛反対する

 有名なトップ・モデルのヴィッキー・リン(キャロル・ランディス)が他殺体で発見された。警察は第一発見者であるフランキー・クリストファー(ヴィクター・マチュア)と被害者の姉ジル(ベティ・グレイブル)を容疑者として拘束し、厳しい姿勢をもって事情聴取を始める。
 フランキーはニューヨークの大物スポーツ・プロモーター。彼はこれまでに数多くのスポーツ選手やキャンペーン・ガールを売り出してきた。ある日、親友である新聞解説者ラリー(アリン・ジョスリン)と舞台俳優ロビン(アラン・モウブレイ)を連れて、フランキーは街角のレストランで夕食をとっていた。
 そこで彼は、タフで根性のある美人ウェイトレス、ヴィッキーに注目する。彼女をモデルとして売り出してみたら面白い、と最初は冗談半分で話し合っていた3人。しかし、フランキーはそのアイディアを本気で実践することにする。
 その翌日、フランキーはヴィッキーを連れて高級レストランを訪れた。ロビンは偶然を装って社交界の女王ハンデル夫人(メイ・ビーティ)に彼女を紹介し、予めラリーが仕込んでいたカメラマンたちがその様子を写真に収める。翌朝の新聞では社交界に迎え入れられた期待の新人モデルとしてヴィッキーのことが大々的に紹介され、彼女はたちまちスターへの道を歩むことになった。
 一方、姉のジルは妹が浮き沈みの激しいショービジネスの世界へ入ることに反対だった。しかし、ヴィッキーは姉が考えていた以上に野心家で計算高い女性。ジルは渋々ながらも認めざるを得なかった。ラリーたちの積極的な売込みで活躍の場を広げていくヴィッキー。
 そんなある日、フランキーとラリー、ロビンの3人はジルに呼び出される。ハリウッド関係者のスカウトされ、映画出演の契約を結んでしまったというのだ。ようやく、まんまと自分たちが利用されたことを知ったフランキーたち。ジルも妹の策略家ぶりには呆れるばかりだった。そして、それからほどなくしてヴィッキーの他殺体が発見されたのである。
 お互いに共謀してヴィッキーを殺害したのではないかと刑事たちに詰め寄られるフランキーとジル。その時、ジルはあることを思い出した。それはまだヴィッキーがウェイトレスだった頃のこと。怪しげな人相をした巨体の男が、いつもヴィッキーのあとを付けまわしていたのだ。彼女に何か話しかけるわけでもなく、ただ遠くからジッと彼女のことを見つめるだけ。そんな男のことを薄気味悪く感じたジルだったが、しょっちゅう男たちに追い回されているヴィッキーは気にも留めていなかった。
 そこへ、それまで影に隠れて尋問を見守っていた事件の担当主任コーネル刑事(レアード・クリーガー)が姿を現す。その顔を見てジルは驚愕した。彼こそ、ヴィッキーを付けまわしていた謎の男だったのだ。しかし、刑事たちは彼女の言葉をまるで信用せず、強引に自白を誘導しようとする。
 だが、結局フランキーとジルの容疑は晴れ、拘束を解かれることになった。というのも、姉妹の住むアパートの管理人ハリー(イライシャ・クック・ジュニア)のアリバイがなく、他の住人たちの証言から最も有力な容疑者として捜査線上に浮かんだからだ。
 しかし、コーネル刑事は不気味な笑みを浮かべ、どんなことをしても必ずお前を捕らえてやるとフランキーに囁くのだった・・・。

IWAKEUPSCREAMING-7.JPG IWAKEUPSCREAMING-8.JPG IWAKEUPSCREAMING-9.JPG

勝手に映画出演の契約を結んでしまったヴィッキー

フランキーたちはヴィッキーの踏み台にされたのだった

ジルは不気味な謎の男の存在を思い出す

 もともと本作は“Hot Spot”というタイトルで撮影が進められていたものの、公開直前になって原作と同じタイトルへと変更された。ただし、なぜかイギリスではそのまま“Hot Spot”名義で劇場公開されたようだ。また、当初はベティ・グレイブルの歌う挿入歌“Daddy”が使われる予定だったが、こちらも直前に本編からカットされてしまったという。
 先述したように、脚本を書いたのは53年版と同じドワイト・テイラー。アステア&ロジャースの名作『トップ・ハット』(35)や『艦隊を追って』(36)などのミュージカルで知られる脚本家だが、本作をきっかけにサミュエル・フラーの『拾った女』(53)などのフィルム・ノワールや犯罪ミステリーを手掛けるように。ソフィア・ローレン主演の『島の女』(57)やダグラス・サーク監督の『間奏曲』(57)のようなメロドラマも得意だった。
 撮影監督を担当したエドワード・クロンジャガーは、アカデミー作品賞を獲得した『シマロン』(31)やエルンスト・ルビッチの傑作『天国は待ってくれる』(43)などでオスカー候補となった名カメラマン。また、後にレイ・ハリーハウゼンと組んで『シンドバッド7回目の航海』(58)などの特撮映画を手がけるネイサン・ジュラン監督が、本作では美術監督として参加している。

IWAKEUPSCREAMING-10.JPG IWAKEUPSCREAMING-11.JPG IWAKEUPSCREAMING-12.JPG

主任刑事の顔を見て驚きを隠せないジル

コーネル刑事(L・クリーガー)こそが謎の男だったのだ

いったんは容疑の晴れたジルとフランキーだったが・・・

 ヒロインのジル役を演じているのは、当時20世紀フォックスでナンバー・ワンのドル箱スターだった女優ベティ・グレイブル。G・I・たちにピンナップ・ガールとしても親しまれた、40年代を代表するセックス・シンボルである。ただ、当時は第二次世界大戦の真っ只中だったため、その代表作の殆んどが日本には紹介されず。戦後、マリリン・モンローやローレン・バコールと共演した『百万長者と結婚する方法』(53)が輸入されて評判になったが、当時はすでに彼女の人気も落ち目だった。
 フランキー役を演じるヴィクター・マチュアは、『サムソンとデリラ』(49)や『聖衣』(53)、『ディミトリアスと闘士』(54)などの歴史劇で有名なマッチョ・スター。オスカーなどの演技賞とは無縁だったが、当時はハリウッドを代表するトップ・スターの一人だった。
 さらに、ヴィッキー役を演じているのは、ヴィクター・マチュアと共演した特撮映画の古典『恐竜百万年』(40)のセクシーな原始人美女役でセンセーションを巻き起こした女優キャロル・ランディス。ただ、その人気はあまり長続きせず、本作の7年後に29歳という若さで自殺を遂げてしまった。
 そして、殺人犯よりも恐ろしいコーネル刑事役を異様な迫力で演じたのは、サイコ映画の古典『謎の下宿人』(44)の殺人鬼役でも知られる怪優レアード・クリーガー。『天国は待ってくれる』の閻魔様役も強烈に印象的だった。その風貌から悪役を演じることが多い人だったが、本人は2枚目俳優として主演を張ることを望んでいたという。そのために無理なダイエットを行い、31歳の若さで心臓発作のため死亡してしまった。
 そのほか、『虚栄の市』(35)や『美女ありき』(40)などの名脇役アラン・モウブレイ、『天国は待ってくれる』のダメ男ぶりが印象深いアリン・ジョスリン、“They Knew What They Want”(40)でオスカー候補になったウィリアム・ガーガン、フィルム・ノワールや西部劇の小悪党役で名高いイライシャ・クック・ジュニアなどが脇を固めている。

 

 

拳銃貸します
This Gun For Hire (1942)

日本では劇場未公開・テレビ放送
VHSは日本発売済・VHSは日本未発売

THIS_GUN_FOR_HIRE-DVD.JPG
(P)2004 Universal (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/81分
/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:フランク・タトル
製作:リチャード・ブルメンタール
原作:グレアム・グリーン
脚本:アルバート・マルツ
   W・R・バーネット
撮影:ジョン・F・サイツ
音楽:デヴィッド・バトルフ
出演:ヴェロニカ・レイク
   ロバート・プレストン
   アラン・ラッド
   レアード・クリーガー
   タリー・マーシャル
   マーク・ローレンス
   オリン・ハウランド
   ロジャー・イムホフ
   パメラ・ブレイク

THIS_GUN_FOR_HIRE-1.JPG THIS_GUN_FOR_HIRE-2.JPG THIS_GUN_FOR_HIRE-3.JPG

冷徹な殺し屋レイヴン(A・ラッド)

脅迫者を殺害して秘密書類を奪い返す

依頼人のゲイツ(L・クリーガー)

 日本でも西部劇の名作『シェーン』(53)で有名な名優アラン・ラッド。その彼にとって出世作となったのが、この『拳銃貸します』という戦時中に作られたフィルム・ノワール作品である。
 原作はスリラー小説やスパイ小説の大家グレアム・グリーンの書いた名作『拳銃売ります』。依頼人に騙されて窮地に陥った殺し屋と、政治家に頼まれて潜入スパイとなった美人クラブ歌手。一見すると全く接点を持たない二人の物語が、とある人物の存在によって密接に絡み合って行き、やがて国家の安全を揺るがす巨大な陰謀を暴いていくことになる。
 とにかくまず、ストーリー展開が非常に早い。もったいぶった前置きなど殆んどなく、陰謀と裏切りに満ちたサスペンスフルな物語がテンポ良く進んでいくのだ。アラン・ラッド扮する暗殺者レイヴンの描写に関しても、殺人や暴力に一切躊躇することのない冷酷なプロフェッショナルである反面、猫と子供にだけはなぜか優しい孤独な一匹狼というのが面白い。
 監督のフランク・タトルはサイレント時代から活躍するベテランの職人監督。主にコメディ映画やミュージカル映画で活躍した人だが、その一方で推理サスペンスやミステリー映画なども数多く手掛けている。本作ではフィルム・ノワール的な暗いムードを存分に生かしつつ、後の“007”シリーズやヒッチコック映画を思わせるようなアクションあり、サスペンスあり、ロマンスありの賑やかで良質な犯罪スリラーに仕上がっている。どちらかというと平均的なプログラム・ピクチャーの多かったタトル監督にとっては、間違いなく代表作と呼べる名作だ。
 ただ、唯一の難点がヒロインのヴェロニカ・レイク。後のローレン・バコールの先駆者として、“40年代を代表するヴァンプ女優”とまで呼ばれたブロンドのクールなファム・ファタール。その一方で、プレストン・スタージェス作品ではキュートでコケティッシュな魅力を振りまいた。そんな彼女の相反する二つの魅力を一つにしてしまったのが本作のエレンというクラブ歌手なのだが、これがどうにも中途半端な印象を与える。
 しかも、カメラアングルによってはえらく貧相に見えてしまうのだから困ったもの。前年の『サリバンの旅』(41)でレイクの魅力を存分に引き出したばかりのカメラマン、ジョン・F・サイツの仕事なだけに、一体なぜ!?という疑問は拭えない。

THIS_GUN_FOR_HIRE-4.JPG THIS_GUN_FOR_HIRE-5.JPG THIS_GUN_FOR_HIRE-6.JPG

ゲイツのナイトクラブに雇われたエレン(V・レイク)

彼女は上院議員(R・イムホフ)の送り込んだスパイだった

クレイン刑事(R・プレストン)と婚約中のエレン

 サンフランシスコの寂れた安宿に暮らす謎めいた男レイヴン(アラン・ラッド)。その素顔は金で人殺しを請け負うプロの殺し屋だ。彼はとある企業の秘密書類を持ち出して脅迫した男ベイカー(フランク・ファーガソン)を暗殺し、たまたまその場に居合わせた愛人をも殺害する。
 仕事を依頼したのは、西海岸でナイトクラブを手広く経営する男ゲイツ(レアード・クリーガー)。その巨体に似合わず甘いものが大好きで、暴力が大の苦手という気弱な小心者だ。ゲイツから報酬を受け取ったレイヴンだが、10ドル紙幣ばかりの札束に不満を示す。
 ところが、それは卑怯者ゲイツの仕掛けた罠だった。彼はナイトクラブを経営する一方で、ロサンゼルスの大手化学薬品会社ニトロ・ケミカルの重役を務めており、殺されたベイカーはニトロ・ケミカルの経理担当者。ゲイツは何者かが出張中のベイカーを殺害し、会社の金を奪い去ったとして被害届を出していたのだ。クレイン刑事(ロバート・プレストン)率いる警察の捜査班は、奪われた現金の通し番号を手がかりに犯人の行方を追っていた。
 そうとは知らないレイヴンは、街中のブティックでその10ドル紙幣を使ってしまう。たちまち警察の捜査の手は、彼の宿泊している安宿へと及んだ。機転を利かせて宿を脱出することに成功したレイヴン。ゲイツにハメられたことを悟った彼は、報復のためにその後を追うことにする。
 その頃、ゲイツはロサンゼルスに新しくオープンするナイトクラブの出演者をオーディションで選んでいた。合格したのは手品を披露しながら歌う妖艶な美女エレン(ヴェロニカ・レイク)。だが、実は彼女はバーネット上院議員(ロジャー・イムホフ)の送り込んだ潜入スパイだった。米国内で暗躍する敵国・日本のスパイ活動を監視しているバーネット上院議員は、ゲイツの経営するナイトクラブがその温床になっていると睨んでいたのだ。
 ロサンゼルス行きの列車に乗り込んだエレンを見送るのは、結婚を約束した恋人のクレイン刑事。同じ列車にはゲイツも乗っており、もちろん彼の後を追うレイヴンも密かに忍び込んでいた。左手首に大きなコブのある彼は全米に指名手配され、今や警察から追われる身だったのだ。
 偶然にも席が隣り合わせとなったレイヴンとエレン。彼女のハンドバッグから10ドル紙幣を盗み出したレイヴンだったが、エレンに気付かれてしまう。しかし、彼女はそんなにお金に困っているのかとさり気なく訊ね、1ドルでよければあげるわよと申し出る。
 一方、そんな二人の姿を見かけたゲイツは腰を抜かして驚き、ロスに到着するなり指名手配中の犯人が乗っていると駅員に通報する。その騒ぎに気付いたレイヴンは拳銃でエレンを脅し、カップルを装って窮地を脱する。
 だが、正体を知られたからにはエレンを生かしておくことは出来ない。廃墟となったビルに彼女を連れ込んだレイヴンは、せめてもの情けと背中から拳銃で射殺しようとする。ところが、そこへ現場作業員がやって来た。隙を見て逃げ出すエレン。作業員たちに取り押えられそうになったレイヴンも、窓を破って脱出する。
 一連の暗殺や陰謀を企てたのは、ニトロ・ケミカルの専制君主である社長ブリュースター(タリー・マーシャル)だった。度重なるゲイツの失敗の尻拭いをするため、彼はまたまた偽の被害届を警察に出す。レイヴンがロサンゼルスの本社を襲撃したというのだ。その行方を追うクレイン刑事は、一路ロサンゼルスへと向かうことになる。
 一方、ゲイツはエレンがレイヴンとグルなのではないかと疑っていた。気弱で用心深い彼は、自宅に彼女を招いた際に監禁してしまう。そのままナイトクラブへと出かけたゲイツと入れ違いで、エレンの行方を捜すクレイン刑事がやって来た。しかし、召使のトミー(マーク・ローレンス)がエレンをクローゼットの中に隠したため、クレインは彼女の存在に気付かないまま帰ってしまった。
 そこへ、ゲイツへの復讐に燃えるレイヴンが忍び込む。格闘の末にトミーを地下室へ閉じ込めたレイヴンは、ゲイツが隠れているのではないかと屋敷内を探し回り、偶然にも縛られた状態のエレンを発見する。
 ようやく、お互いが共通の敵を追っていることに気付いたレイヴンとエレン。協力してゲイツの秘密を探り始めた二人は、やがてニトロ・ケミカル社の恐るべき正体を知ることになる・・・。

THIS_GUN_FOR_HIRE-7.JPG THIS_GUN_FOR_HIRE-8.JPG THIS_GUN_FOR_HIRE-9.JPG

列車で偶然隣り合わせとなったエレンとレイヴン

正体を知ったエレンを殺害しようとするレイヴン

黒幕はブリュースター社長(T・マーシャル)だった

 ニトロ・ケミカル社が日本軍のために最新鋭の毒ガスを開発している、というのが時代を象徴するポイントだろうか。エレンの恋人がたまたまクレイン刑事だったり、そのクレイン刑事がやたらと騙されやすい正直者だったりするのはご都合主義的だが、これだけ様々な要素をめいっぱい詰め込んだサービス精神に免じて許してあげたいところ(笑)
 脚本を手掛けたのはフリッツ・ラングの『外套と短剣』(46)や傑作ノワール『裸の町』(48)などのアルバート・マルツと、『町の野獣』(32)や『ハイ・シエラ』(41)、『アスファルト・ジャングル』(50)、『大脱走』(63)など数多くのハード・ボイルド映画やアクション映画で知られる名脚本家W・R・バーネットの二人。本作の面白さは、彼らの見事なストーリー・テリングに負う部分も大きいだろう。
 撮影を担当したのは、フランク・ロイド監督の『情炎の美姫』(29)でオスカーを獲得したジョン・F・サイツ。それ以外にも6度のオスカー候補歴があり、『サリヴァンの旅』(41)や『深夜の告白』(44)、『サンセット大通り』(50)、『地球最後の日』(51)など数多くの名作・傑作を手掛けた名カメラマンだ。
 また、『イヴの総て』(50)や『ローマの休日』(53)、『麗しのサブリナ』(54)などで合計8度のオスカーに輝き、オードリー・ヘプバーンの“サブリナ・ルック”を生み出したことでも知られる衣装デザイナー、イディス・ヘッドが、ヴェロニカ・レイクのドレスをデザインしている。

THIS_GUN_FOR_HIRE-10.JPG THIS_GUN_FOR_HIRE-11.JPG THIS_GUN_FOR_HIRE-12.JPG

エレンがレイヴンとグルだと疑うゲイツ

エレンの行方を捜すクレイン刑事

監禁されたエレンを救ったのはレイヴンだった

 そのヴェロニカ・レイクは、当時がキャリアの全盛期。『空の要塞』(41)と『サリヴァンの旅』(41)でトップ・スターとなった彼女にとって、本作が初の本格的な主演作だった。しかし、その人気はあまり長続きせず、48年にパラマウントをクビになってからは出演作にも恵まれなくなった。いつの間にか映画界からも姿を消し、60年代初頭には安ホテル暮らしをしながらバーテンダーをやっていることが判明。かつてのファンの同情を買って66年にカムバックするも成功せず、晩年は低予算のC級ホラー映画などに出演していた。
 一方のアラン・ラッドは165センチという極端な身長の低さが災いし、役者として伸び悩んでいたが、本作をきっかけにブレイク。とはいえ、その出演作の多くがB級映画で、代表作『シェーン』は彼にとって数少ないメジャー大作だった。ちなみに、ヴェロニカ・レイクもハリウッド女優としてはかなり低めの151センチという身長。そのバランスの良さからか、二人はこれ以降たびたび映画で共演することとなる。
 キャスト・クレジット上のヒーロー役であるクレイン刑事を演じているのは、セシル・B・デミル監督の西部劇ドラマ『大平原』(39)などで有名なタフガイ・スター、ロバート・プレストン。彼もどちらかというとB級映画への主演が多かったものの、晩年は『ビクター/ビクトリア』(82)でオスカーにノミネートされるなど名優として高く評価された。
 そして、上記の“I Wake Up Screaming”にも出演していた怪優レアード・クリーガーが、本作でも臆病者の小悪党ゲイツ役で抜群の存在感を放っている。また、サイレント時代の名優タリー・マーシャルが黒幕であるブリュースター社長役で登場し、強烈な悪役ぶりを披露してくれているのも嬉しい。
 そのほか、当時ギャング役や殺し屋役で鳴らし、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(96)でもモーテルの老主人役で顔を出していたマーク・ローレンス、往年の人気ドラマ『ペイトン・プレース物語』でミア・ファローの祖父役を演じていたフランク・ファーガソンなどが出演している。

 

 

深夜の歌声
Road House (1948)

日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
VHS・DVD共に日本未発売

ROADHOUSE-DVD.JPG
(P)2008 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/95分/製作:アメリカ

映像特典
リチャード・ウィドマーク ドキュメンタリー
アイダ・ルピノ ドキュメンタリー
インタラクティブ・プレスブック
スチル・ギャラリー
映画評論家による音声解説
監督:ジーン・ネグレスコ
製作:エドワード・コドロフ
原案:マーガレット・グルエン
   オスカー・ソール
脚本:エドワード・コドロフ
撮影:ジョセフ・ラシェル
音楽:シリル・J・モックリッジ
出演:アイダ・ルピノ
   コーネル・ワイルド
   セレステ・ホルム
   リチャード・ウィドマーク
   O・Z・ホワイトヘッド
   ロバート・カーンズ

ROADHOUSE-1.JPG ROADHOUSE-2.JPG ROADHOUSE-3.JPG

舞台となるのは田舎のロードハウス

シカゴからやって来た歌手リリー(I・ルピノ)

マネージャーのピート(C・ワイルド)

 フィルムノワールの名作『夜までドライブ』(40)や『ハイ・シエラ』(41)でボギーと共演し、ワーナーの看板スターとなった女優アイダ・ルピノ。当時フリーとして独立したばかりだった彼女が、ワーナーを離れて最初の主演作として選んだのが、この作品だった。
 原題の“ロード・ハウス”とは、高速道路沿いで営業する昔ならではのサービス・ステーションのこと。レストランやバー、ボーリング場などを完備した大人向けの娯楽施設だ。
 ルピノの演じる歌手リリーはカナダとの国境近くにあるロード・ハウスと契約し、そこのレストランで歌うこととなる。プレイボーイのオーナー、ジェフティーは彼女にぞっこんだが、堅実なマネージャーのピートはどこの馬の骨とも分からない彼女のことを敬遠。だが、やがてピートはタフで世間慣れしたリリーの純粋な一面を知って好意を寄せるようになり、リリーも強くて優しいピートの人柄に惹かれていく。しかし、そんな二人の間柄を知って嫉妬に狂ったジェフティーは、残酷かつサディスティックな方法で二人を追いつめようとする。
 いわば、三角関係の愛憎を描いたフィルム・ノワール・タッチのメロドラマといったところ。監督が『ユーモレスク』(46)や『ジョニー・ベリンダ』(50)、『百万長者と結婚する方法』(53)、『足ながおじさん』(55)などのロマンティックな作品で知られる名匠ジーン・ネグレスコなだけに、サスペンスよりも恋愛のドロドロに重点を置いた作品に仕上がっている。その辺りが、フィルム・ノワール・ファンにとっては賛否両論分かれるところだろう。
 確かに、フィルム・ノワールと呼ぶにはラブ・ロマンス的要素が強すぎるし、ジェフティーの陰湿な復讐が始まるまでのドラマも長すぎるという印象は否めない。それでも、真夜中に国境を越えて駆け落ちしようとするリリーとピートを、錯乱したジェフティーが拳銃片手に追いかけまくるクライマックスはなかなかの迫力。全編を通して貫かれる乾いたタッチも、独特のノワール的ムードを盛り上げるのに一役買っていると言えよう。

ROADHOUSE-4.JPG ROADHOUSE-5.JPG ROADHOUSE-6.JPG

オーナーのジェフティー(R・ウィドマーク)

なにかと対立するリリーとピートの二人

ジェフティーはリリーにご執心だ

 カナダとの国境近くにある“ジェフティーのロード・ハウス”。シカゴへ出張に出かけていたオーナーのジェフティー(リチャード・ウィドマーク)は、蓮っ葉で鼻っ柱の強い歌手リリー(アイダ・ルピノ)と6ヶ月間の専属契約を結んで帰って来た。レストランのショー・タイムで彼女に歌わせようというのだ。
 しかし、ジェフティーの親友でもあるマネージャーのピート(コーネル・ワイルド)は、またまた相棒の悪いクセが始まったと呆れ顔。というのも、これまでもジェフティーは出張へ出かけるたびに気に入った女を連れ帰り、歌手としてレストランのショーに出演させていたのだ。
 だが、いずれも素性の知れない商売女ばかり。歌なんかろくに歌えたためしがない。当のジェフティーも、一通り恋愛ごっこを楽しんだらすぐに飽きてしまう。いつも後始末をつけるのはピートの役割だった。
 どうせ今回もろくなことはないと考えたピートは、さっさとリリーをお払い箱にしようとするが、ジェフティーはいつになく彼女にご執心だ。しかも、ショー・タイムで披露した彼女の歌声もなかなか悪くはない。ひとまず、ピートはしばらく様子を見ることにする。
 そんなある日、ジェフティーは仲間と狩りに出かけて数日間留守にすることとなった。相変わらずリリーには態度の冷たいピートだったが、会計係のスージー(セレステ・ホルム)の提案でリリーも誘って近くの湖へ水浴びに行くこととなった。いつになく上機嫌のリリーを見て、その無邪気さを微笑ましく感じるピート。
 その晩、ショータイムでリリーが歌っている最中に酔っ払いが暴れ始めた。強引に彼女を組み伏せようとする酔っ払いに激しく抵抗するリリー。それが火に油を注いでしまい、酔っ払いは手のつけられないくらいに暴れまくる。そこへピートが駆けつけ、激しい取っ組み合いの末に酔っ払いを殴り倒した。
 ピートの助けに感謝して労わるリリー。二人は衝動的に口づけを交わす。これをきっかけに、ピートとリリーは深く愛し合うようになった。密かにピートへ想いを寄せていたスージーは傷つくものの、二人の関係を影ながら見守る。
 そこへジェフティーが戻ってきた。留守中の出来事を何も知らない彼は、リリーに正式なプロポーズをして結婚を求める。自己中心的で思い込みの強いジェフティーの性格を心配したリリーは、このまま黙って二人で駆け落ちをしようとピートに提案。だが、生真面目なピートは正直に全てを話し、ジェフティーに祝福してもらおうと考えた。
 意を決してジェフティーにリリーとの関係を告白したピート。だが、案の定怒り狂ったジェフティーはピートをクビにする。仕方なくジェフティーに貸していた600ドルを金庫から持ち出した彼は、リリーを連れて駆け落ちすることに決めた。
 ところが、駅で列車を待っていた二人は警察に逮捕されてしまう。週末の店の売上金が全て盗まれ、ピートに横領の容疑がかけられたのだ。もちろん、全てはジェフティーが仕組んだ罠。店の資本金として貸していた600ドルを返してもらっただけだと主張するピートだったが、警察は信用してくれない。しかも、これはジェフティーの二人に対する壮絶な復讐の、ほんの序章にしか過ぎなかったのだ・・・。

ROADHOUSE-7.JPG ROADHOUSE-8.JPG ROADHOUSE-9.JPG

会計係のスージー(C・ホルム)はピートに想いを寄せる

酔って暴れだした客を押さえつけるピート

リリーとピートはお互いを愛するようになる

 もともと、本作はアイダ・ルピノ自身が20世紀フォックスに売り込んだ企画だったようだ。原案となった脚本“Dark Love”を書いたのは、当時まだ駆け出しだったマーガレット・グルエンとオスカー・ソール。これを気に入ったルピノが自らの主演を前提にして売り込み、フォックスが彼女のギャラを含めた13万ドルで買い取ったのだという。ちなみに、オスカー・ソールはその後『欲望という名の電車』(51)や『ダンディー少佐』(65)などの名作を手掛けることとなる。
 その原案を脚色したのは、ジェームズ・キャグニーのギャング映画『地獄の市長』(33)などの脚本家兼製作者として知られるエドワード・コドロフ。本作でもプロデューサーを兼ねている。ちなみに、コドロフは本作の直後に赤狩りのブラックリストに載ってしまい、これを最後に映画界を追放されることとなった。
 撮影を担当したのは、フィルム・ノワールの傑作『ローラ殺人事件』(44)でオスカーを受賞した大物カメラマン、ジョセフ・ラシェル。また、ロレッタ・ヤング主演の『ママは大学一年生』(49)でオスカー候補になった衣装デザイナー、ケイ・ネルソンが、ルピノのシックでエレガントなドレスをデザインしている。

ROADHOUSE-10.JPG ROADHOUSE-11.JPG ROADHOUSE-12.JPG

リリーにプロポーズすることを決心したジェフティー

黙って駆け落ちしようというリリーだったが・・・

ピートの告白を聞いたジェフティーは激怒する

 リリー役のアイダ・ルピノはイギリスの出身。ルネッサンス期の宮廷芸人を祖先に持つ伝統的な芸能一家の生まれで、父親のスタンリー・ルピノも有名なコメディアンだった。先述したように、これがフリーとなって初めての主演作。美人と呼ぶにはちょっと個性の強すぎる顔立ちの人で、このファム・ファタール役にも賛否両論あるところだとは思うが、タフで鼻っ柱の強い鉄火肌のクラブ歌手を小気味良く演じてさすがに巧い。以降、ロバート・ライアン共演の『危険な場所で』(51)などフリーの女優としてもまずまずの成功を収め、さらに当時のハリウッドでは唯一の女流監督としても活躍していくことになる。
 そんな彼女と恋に落ちる真面目で義理堅い男ピートを演じているのは、『楽聖ショパン』(44)でアカデミー主演男優賞候補となったコーネル・ワイルド。ルピノとは『ハイ・シエラ』(41)でも共演した仲だ。ロマンティックな2枚目役から屈強なタフガイ役まで幅広くこなせる役者で、当時は『地上最大のショウ』(52)や『剣豪ダルタニアン』(52)などの主演で飛ぶ鳥を落とす勢いのトップ・スターだった。
 そして、この二人を精神的にも肉体的にも追いつめていく、嫉妬深いサイコ野郎ジェフティーを演じているのが名優リチャード・ウィドマーク。当時はデビュー作『死の接吻』(47)の凶悪なギャング役で世間に衝撃を与えたばかりで、まさにタイムリーなキャスティングだったと言えよう。
 また、『紳士協定』(47)でアカデミー助演女優賞を受賞したばかりのセレステ・ホルムが、ピートに秘かな思いを寄せるスージー役として登場。上品で知的でウィットに富んだ大人の女性を演じさせたら天下一品の名女優だったが、本作では残念ながらあまり見せ場がない。なお、彼女は90歳を迎えた現在もバリバリの現役として活躍中。今年は既に2本の新作を撮り終えているようだ。

 

 

青いガーディニア
The Blue Gardenia (1953)

日本では劇場未公開・テレビ放送
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

BLUE_GARDENIA-DVD.JPG
(P)1999 All Channel Films/Image (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/88分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:フリッツ・ラング
製作:アレックス・ゴットリーブ
原案:ヴェラ・キャスパリー
脚本:チャールズ・ホフマン
撮影:ニコラス・ムスラカ
音楽:ラオール・クラウシャー
主題歌:ナット・キング・コール
出演:アン・バクスター
   リチャード・コンテ
   アン・サザーン
   レイモンド・バー
   ジョージ・リーヴス
   ジェフ・ドネル
   リチャード・アードマン
   ナット・キング・コール

BLUE_GARDENIA-1.JPG BLUE_GARDENIA-2.JPG BLUE_GARDENIA-3.JPG

誕生日を一人で祝うノラ(A・バクスター)

恋人からの手紙は別れの知らせだった

そこへ一本の電話が・・・

 フィルム・ノワールというジャンルそのものの立役者でもあった巨匠フリッツ・ラング。渡米第一弾の『激怒』(36)を筆頭に、『暗黒街の弾痕』(37)や『マン・ハント』(41)、『死刑執行人もまた死す』(43)、『恐怖省』(44)、『飾り窓の女』(44)など、いずれもフィルム・ノワールを語る上で欠かせない名作・傑作ばかりだ。
 とはいえ、巨匠ラングといえどハリウッドではスタジオに雇われている身。当然のことながら、常に好きな題材を選べるわけではなかった。特に『扉の影の秘密』(48)辺りからは優れた脚本になかなか恵まれなくなり、製作費の不足にも悩まされるようになる。この『青いガーディニア』という作品も、そうした時期に製作された低予算のサスペンス・スリラーだ。
 ヒロインはテレホン・オペレーターとして働く女性ノラ。誕生日に恋人から手紙で別れを告げられ自暴自棄となった彼女は、悪名高いプレイボーイのハリーとデートをする。ところが、ハリーはわざと強い酒を彼女に勧め、酔いつぶれたところを無理やりレイプしようとした。激しく抵抗するノラ。そのまま記憶を失った彼女は、翌日の新聞でハリーが殺害されたことを知る。
 思い出そうとしても思い出せない重要な記憶。果たして、ハリーを殺したのは自分なのか?そんな折、特ダネ・スクープを探していた人気コラムニストのケイシーは、新聞でハリー殺しの犯人へこう呼びかける。独占インタビューに応じれば、新聞社が身柄をかくまうことを約束すると。これを最後の頼みの綱と感じたノラは、意を決してケイシーに接触を試みるのだったが・・・。
 それまでのラング作品とは打って変わって、全体的にライトなタッチに仕上がっているのは賛否両論の分かれるところだろう。コメディやロマンスの要素が強いために、サスペンスの緊張感に乏しい点は否めない。また、かなりの低予算で作られていることも画面を見れば一目瞭然。B級映画ならではのうら寂しさがそこはかとなく漂っている。
 その一方で、結婚に夢を求めるしかないキャリア・ウーマンたちの厳しい現実や、センセーショナリズムばかりを追及するマスコミ報道の堕ちたモラルなど、当時の世相をリアルに盛り込んだディテール描写はとても興味深い。ラストのどんでん返しには若干無理があるような気もするが、ラングの巧みな演出と絶妙な編集によってなんとか破綻を免れている。
 決してラングの代表作と呼べるような作品ではないものの、これはこれでそれなりに良く出来たノワール映画だとは思う。

BLUE_GARDENIA-4.JPG BLUE_GARDENIA-5.JPG BLUE_GARDENIA-6.JPG

電話の主は悪名高いプレイボーイ、ハリー(R・バー)

特別ゲストのナット・キング・コール

ノラのカクテルは秘かにアルコールが増量されていた

 電話会社のオペレーターとして働くノラ(アン・バクスター)は、同僚のクリスタル(アン・サザーン)やサリー(ジェフ・ドネル)と同居しながら暮らしている。今日は彼女の誕生日。クリスタルとサリーはボーイフレンドと出かける準備をしているが、ノラは一人で誕生日を祝うことにした。
 食卓の脇には朝鮮戦争へ出征している恋人からの写真が。彼女はこうやって、恋人の写真に語りかけながら食事をするのが習慣になっていた。自ら灯したロウソクの火を消したノラは、届いたばかりの恋人からの手紙を読み始める。しかし、それは別れを告げる悲しい知らせだった。彼は日本の米軍基地で知り合った日本人の看護婦と結婚するというのだ。
 ショックのあまり悲嘆に暮れるノラ。そこへ一本の電話がかかってきた。その主はイラストレーターのハリー(レイモンド・バー)。彼はカレンダーに掲載される女性のイラストを書いて売れっ子だが、その一方でモデルのスカウトを口実に女性をナンパしては遊んで棄てることで悪名高いプレイボーイ。昼間に電話会社でクリスタルをナンパしていた彼は、彼女を食事に誘おうと電話してきたのだ。
 電話に出たのがクリスタルだと勘違いして一方的に話を進めるハリー。傷心のノラはあえてそれを否定せず、彼の待つ高級中華レストラン“ブルー・ガーディニア”へ向かうことを約束した。
 現れたのがクリスタルではないことに驚いたハリーだったが、美人であれば相手が誰だろうと構わない。女性の扱いに慣れている彼は、店の名物である青いガーディニアのブローチを贈って、緊張した彼女の心を和ませる。勧められるがままにカクテルを飲んで、すっかりいい気分になるノラ。しかし、ハリーの指示で秘かにアルコールが2倍に調節されていることなど知る由もなかった。
 ハリーの思惑通りに酔いつぶれたノラ。介抱するふりをして彼女を自宅へ招き入れたハリーは、ソファーで横になる彼女に突然襲い掛かった。驚いたノラは必死の抵抗を試みるが、体の大きいハリーには到底敵わない。とっさに火かき棒を手にした彼女は、ハリーに向かって振り下ろし、その直後に気を失ってしまった。
 朝になって目覚めると、そこは自宅のベッドの上。意識がもうろうとしながらも、自ら家に帰り着いていたようだ。だが、昨晩の出来事は殆んど覚えていなかった。ハリーのアパートで何か恐ろしい目に遭ったというような記憶が断片的に残っているものの、それが具体的に何だったのかまでは分からない。
 その頃、ハリーの自宅では警察の現場検証が行われていた。そこへ、新聞社クロニクルの人気コラムニスト、ケイシー(リチャード・コンテ)が取材に訪れる。現場に残されていた青いガーディニアのブローチから、新聞は殺人犯を“青いガーディニアの女”としてセンセーショナルに報じた。
 一方、ノラの職場では警察による事情聴取が行われ、ハリーに言い寄られたことのある女性オペレーターが次々と呼ばれていった。昨晩の出来事と何か関係があるのでは?と感じたノラは焦りと不安を感じる。次第にフラッシュバックで甦る昨晩の記憶。
 精神的なストレスから仕事を早退した彼女は、ハリーが殺害されたことを報じる新聞を目にして愕然とした。振り下ろされる火かき棒、粉々になって割れる鏡、ハリーの悲鳴。徐々に記憶の蘇った彼女は、自分がハリーを殺したのではないかと考える。
 新聞の報道によれば、現場には青いガーディニアのブローチの他に、ハイヒールの靴も残されていたという。また、レストランの目撃者の証言から、女性が黒いドレスを着ていたことも分かっていた。それを読んだノラは、真夜中にこっそりとドレスを燃やす。
 それ以来、ささいなことに神経をとがらせるようになったノラ。年上で姐御肌のクリスタルは、そんな彼女の様子をみて心配するが、恋人からの別れの手紙が原因なのだろうと考えていた。
 一向に進展しない捜査。だが、事件に対する世間の好奇心は増す一方で、読者の期待に応えて発行部数を伸ばしたい新聞各社は熾烈な報道合戦を繰り広げていた。なんとしても特ダネのスクープを欲しいケイシーは、ある秘策を思いついた。
 その翌日のクロニクル紙に掲載された広告記事。それは“青いガーディニアの女”に名乗り出ることを求めるものだった。独占インタビューに応じるならば、クロニクル社が全面的にあなたを守ると。この奇想天外なアイディアは、警察の担当者ヘインズ刑事(ジョージ・リーヴス)を怒らせた。
 案の定、次々と寄せられる遊び半分のいたずら電話。だが、そんな中でただ一人、緊張感に満ちた声の持ち主がいた。ノラである。現場に残された靴のサイズと特徴を正確に言い当てて信用を得たノラは、もしかしたら自分の友達が犯人かもしれないと告げ、ケイシーに相談に乗ってくれるよう頼むのだった。
 待ち合わせ場所に現れたノラを見て好意を抱くケイシー。一方、ノラの方も親身になって話を聞いてくれるケイシーに安らぎを覚える。だが、いつまでもウソを貫き通せるほど、ノラの心は強くはなかった・・・。

BLUE_GARDENIA-8.JPG BLUE_GARDENIA-9.JPG BLUE_GARDENIA-10.JPG

すっかり酔いつぶれてしまったノラ

襲い掛かってきたハリーに必死で抵抗する

割れる鏡と悲鳴をあげるハリー

 原案を手掛けたのは、傑作ノワール『ローラ殺人事件』(44)の原作者として知られる女流作家にして脚本家のヴェラ・キャスパリー。音楽映画『夜も昼も』(46)やミュージカル・コメディ『婿探し千万弗』(46)などのチャールズ・ホフマンが脚色を手掛けている。女性同士のコミカルなやり取りに代表されるライトなタッチは、やはりホフマンの個性が反映されているのかもしれない。ちなみに、製作のアレックス・ゴットリーブも、アボット&コステロのコメディ映画などのプログラム・ピクチャーを数多く手掛けたプロデューサーだ。
 撮影を担当したのは、『ママの想い出』(48)でオスカー候補となったニコラス・ムスラカ。ロバート・ミッチャム主演の『過去を逃れて』(47)や『ゼロの逃避行』(51)といったノワール映画の小品佳作を手掛けたカメラマンだ。

BLUE_GARDENIA-11.JPG BLUE_GARDENIA-12.JPG BLUE_GARDENIA-13.JPG

自宅で目覚めたノラは昨晩の記憶がほとんどない

自分がハリーを殺したのではないかと怯えるノラ

人気コラムニスト、ケイシー(R・コンテ)

 ヒロインのノラを演じているのは、『イヴの総て』(50)のイヴ役であまりにも有名な名女優アン・バクスター。娘役から大人の女優へと見事に成長し、『イヴの総て』ではアカデミー主演女優賞にノミネート。ただ、この裏表のある悪女という印象が強烈過ぎて、その後はイヴ役を越えるような代表作には恵まれなかった。どちらかというとアンサンブル・キャストの中で本領を発揮するタイプの女優だと思うので、本作のようなヒロイン役ではいまひとつ力及ばずという印象が否めない。
 一方、ちょっと軟派だが人間味のあるコラムニスト、ケイシー役でいい味を見せているのはリチャード・コンテ。彼もギャング映画やサスペンス映画の悪役というイメージが強いものの、こうしたヒーロー役でも独特の渋い魅力を発揮する名優だった。
 悪役といえば、女を遊び道具程度にしか考えていないプレイボーイ、ハリー役を演じているレイモンド・バー。テレビの『弁護士ペリー・メイソン』や『鬼警部アイアンサイド』で正義の味方というイメージの強い彼だが、もともとは悪役出身。ヒッチコックの『裏窓』(54)で演じた殺人犯役が最も有名だ。
 しかし、本作の出演者の中で最も存在感を光らせているのは、なんと言ってもクリスタル役のアン・サザーンだろう。40年代のB級ミュージカル・スターとして活躍した彼女、姐御肌で気風のいい陽気な年増美人を演じさせたら天下一品だった。このクリスタル役なんぞ、彼女のためにある役柄と言っても過言ではあるまい。
 そのほか、テレビ版『スーパーマン』シリーズで有名なジョージ・リーヴスがキザなヘインズ刑事を、B級映画のコメディ・リリーフとして重宝された女優ジェフ・ドネルが能天気なサリー役を演じている。また、大物歌手ナット・キング・コールがゲストとして甘い歌声を披露しているのにも注目したい。

 

 

暴力団
The Big Combo (1955)

日本では1955年劇場公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

BIG_COMBO-DVD.JPG
(P)2005 Geneon Entertainment (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/84分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:ジョセフ・H・ルイス
製作:シドニー・ハーモン
脚本:フィリップ・ヨーダン
撮影:ジョン・オルトン
音楽:デヴィッド・ラスキン
出演:コーネル・ワイルド
   リチャード・コンテ
   ブライアン・ドンレヴィー
   ジーン・ウォーレス
   ロバート・ミドルトン
   リー・ヴァン・クリーフ
   アール・ホリマン
   ヘレン・ウォーカー
   ジェイ・アドラー
   ジョン・ホイト
   テッド・デ・コーシア
   ヘレーヌ・スタントン

BIG_COMBO-1.JPG BIG_COMBO-2.JPG BIG_COMBO-3.JPG

一匹狼の熱血刑事ダイアモンド(C・ワイルド)

マフィアのボス、ブラウン(R・コンテ)とマクルーア

ブラウンの愛人スーザン(J・ウォーレス)

 犯罪バイオレンスの傑作『拳銃魔』(49)で有名なジョセフ・H・ルイス監督によるノワール・タッチのギャング映画。残酷で非情な裏社会の現実を徹底したリアリズムで描いたハードな脚本、強烈なアクションとバイオレンスをテンポ良く繋いでいくリズミカルな演出、そして光と影のコントラストを大胆かつ巧みに用いたスタイリッシュなカメラワーク。最後の最後まで全く飽きさせない、実に見事なB級ノワール作品だ。
 主人公ははみ出し者の熱血刑事ダイアモンド。彼は長いこと犯罪組織のボス、ミスター・ブラウンを追っているが、巧みに法の網目をすり抜ける相手に手を出せないでいる。あるとき、ブラウンの愛人スーザンが自殺未遂事件を起こした。うわ言で彼女が呟いた“アリシア”という名前。その手がかりを追うダイアモンドは、やがてブラウンの犯罪行為を裏付ける揺るぎない証拠へと辿りつくのだったが・・・。
 ストーリーそのものは比較的シンプルにまとまっているが、登場人物たちの生々しいキャラクターや裏社会の壮絶な実態を赤裸々に浮かび上がらせるティテール描写が実に素晴らしい。
 まず、なんと言っても主人公ダイヤモンド刑事の人物像がユニークだ。一応は、巨大な犯罪組織に一人で立ち向かう英雄。しかし、その私生活は無残なほどに荒んでおり、殺人や暴力など日常茶飯事という生活の中で肉体も精神もボロボロに疲れきっている。しかも、犯罪者を捕らえるためなら恐喝や暴行も辞さないという暴力刑事。リタという場末のショーガールと付き合っているが、所詮相手は下賎な女だと見下しており、寂しさを紛らわすためのダッチワイフみたいな存在に過ぎない。とにかく、お世辞にも清廉潔白なヒーローとは呼べないダーティな男なのだ。
 一方の悪人ミスター・ブラウンの残虐非道ぶりも凄まじいものがある。サディスティックな拷問や殺人は当たり前。愛した女も生かさず殺さずの家畜扱いで、逃げ出そうものなら壮絶な体罰が待っている。しかも抜け目のない頭脳派で、政治家や資産家を抱え込んでいるもんだから、警察もおいそれとは手を出すことが出来ない。
 他にも、囚われの身となって生きる希望すら失った愛人スーザン、かつての部下ブラウンに権力の座を奪われて屈辱的な扱いを受けている初老のマフィア、マクルーア、同性愛にも似た奇妙な絆で結ばれている凶悪な殺し屋ファンテとミンゴ、すれっからしのショー・ガールでありながら一途にダイアモンド刑事を愛しているリタなど、登場人物のいずれもすこぶるキャラが立っていて魅力的だ。
 さらに、一連のアンソニー・マン監督のノワール作品でもお馴染みの名カメラマン、ジョン・オルトンによる計算し尽くされたカメラワークの見事なこと。これぞフィルム・ノワール!といった感じの、ダークで悪夢的な映像世界を作り上げている。中でも、クライマックスの霧に包まれた飛行場シーンの幻想的な美しさは絶品。
 今見ても全くと言っていいほど古さを感じさせない、フィルム・ノワールの隠れた傑作である。

BIG_COMBO-4.JPG BIG_COMBO-5.JPG BIG_COMBO-6.JPG

ダイアモンドの恋人リタ(H・スタントン)

ブラウンに拉致されて拷問を受けるダイアモンド

アリシアとはブラウンの死んだ妻の名前だった

 執念深い熱血刑事ダイアモンド(コーネル・ワイルド)は、街を牛耳る犯罪組織のボス、ミスター・ブラウン(リチャード・コンテ)のシッポをつかもうと躍起になっていた。だが、ブラウンの組織は帳簿や口座など一切使わず、足のつかない現金だけで裏商売をしており、犯罪の証拠を一切残すことはない。
 しかも、彼は有力な政治家や財界の大物なども抱きこんでおり、警察は全く手出しが出来ないでいた。これまで捜査に費やされてきた費用も膨大な額にのぼり、税金の無駄遣いだという批判の声も高まっている。上司のピーターソン(ロバート・ミドルトン)から捜査を中止するよう再三忠告されているダイアモンドだったが、彼は諦めるつもりなど全くなかった。
 その頃、ブラウンの愛人スーザン(ジーン・ウォーレス)が睡眠薬を大量に摂取して自殺未遂を図った。ただちに警察の監視下に置ける病院へと彼女を移送させたダイアモンドは、スーザンがうわ言で呟いた“アリシア”という名前に着目する。果たして、アリシアとは誰のことなのか?
 むりやり罪状をでっち上げて、ブラウンとその部下たちを一斉に検挙したダイアモンド。その目的は、アリシアという名前の手がかりを探すことだった。ブラウンを嘘発見器にかけて尋問するダイアモンドだったが、狡猾なブラウンがおいそれと口を滑らすことなどない。だが、ふと彼が口にした“ビッティーニ”という名前を聞いて、ダイアモンドは引っかかるものを感じるのだった。
 相棒の中年刑事サム(ジェイ・アドラー)によると、ビッティーニ(テッド・デ・コーシア)とはかつてのブラウンの手下だという。ブラウンに拉致されて激しい拷問を受けたものの、諦めることなくビッティーニの行方を突き止めたダイアモンドは、アリシアという名前がブラウンの妻のことであると知る。だが、アリシア(ヘレン・ウォーカー)は、数年前にブラウンのボスだった男グラッツィが船の沈没で死んだ際、一緒に海の底へ沈んでしまったという。
 なにか裏があるのではと感じたダイアモンドは、その船の船員だったニルス(ジョン・ホイト)というスウェーデン人の存在を聞きだした。ニルスは現在、ボート関係の商品を扱う高級店を営んでいる。資金を出したのはブラウンらしい。恐喝まがいの脅し文句で真実を聞き出そうとしたダイアモンドだが、ニルスの口は予想以上に堅かった。その場は諦めて店を出るダイアモンド。その直後、ニルスは何者かによって殺害された。
 ニルスを殺害したのはブラウンの初老になる部下マクルーア(ブライアン・ドンレヴィー)だった。殺す必要はなかったと怒るブラウン。実は、マクルーアはもともとブラウンの上司だったが、その権力の座を奪われてしまった。今では常日頃から老いぼれ扱いをされ、ブラウンに対してはあまり良い感情を持っていない。
 一方、ダイアモンドはブラウンの愛人スーザンにほのかな愛情を感じていた。彼にはリタ(ヘレーヌ・スタントン)という愛人がいるものの、場末のショーガールである彼女のことをダイアモンドは内心見下している。本当はスーザンのように品のある女が好きなのだが、自分には高嶺の花だと思って本心を打ち明けられないでいた。だが、親身になって裏社会から足を洗うよう説得するダイアモンドの言葉に心を開いたスーザンは、彼に一枚の写真を見せる。それは数ヶ月前に撮影されたアリシアの姿だった。
 やはりアリシアは生きていたのだ。ボスを殺害する現場を見られたブラウンは妻の存在が邪魔になり、気が触れたと偽って彼女を精神病院へと入れてしまったのである。そのことに気付いたダイアモンドは、アリシアの行方を探し出して証人になってもらおうと考えた。これまで犯罪の手がかりを一切残さないできたブラウンだが、彼女の証言があれば彼を有罪に持ち込めるはずだ。
 その頃、殺し屋のコンビ、ファンテ(リー・ヴァン・クリーフ)とミンゴ(アール・ホリマン)が同居するアパートにブラウンから電話が入る。ダイアモンドを抹殺しろという命令だった。真夜中にダイアモンドの自宅へ押し入って機関銃を乱射するファンテとミンゴ。だが、そこに居合わせたのはダイアモンドの帰りを待つリタだった。
 これまで自分がリタにしてきた冷たい仕打ちを涙ながらに後悔するダイアモンド。復讐心に燃える彼はアリシアの行方を探し出し、本格的にブラウンの犯罪を追及することとなる。一方、警察がアリシアの身柄を保護したという噂はまたたく間に広がり、組織の壊滅を恐れたマクルーアは、この機会を逃すまいとブラウンの暗殺をファンテとミンゴに命じるのだったが・・・。

BIG_COMBO-7.JPG BIG_COMBO-8.JPG BIG_COMBO-9.JPG

スーザンに秘かな思いを寄せるダイアモンド

殺し屋ファンテ(L・V・クリーフ)とミンゴ(E・ホリマン)

ダイアモンドの身代りになってリタが殺される

 このスリリングで生々しい脚本を書いたのは、エドワード・ドミトリク監督の傑作西部劇『折れた槍』(54)でオスカーを獲得したフィリップ・ヨーダン。『犯罪王デリンジャー』(45)や『探偵物語』(51)でもオスカーにノミネートされ、『大砂塵』(54)や『無頼の群』(58)のようなB級映画から、『エル・シド』(61)や『北京の55日』(63)、『バルジ大作戦』(65)のようにスケールの大きなメジャー大作まで、優れた娯楽映画を数多く手掛けた名脚本家だ。
 そして、先述したように圧倒的なカメラワークで観客をグイグイと引っ張るのは、フィルム・ノワールを語る上で欠かせない名カメラマン、ジョン・オルトン。一連のアンソニー・マン監督作品では奥行きのある立体的な映像で幻想的な世界を描き出していたが、本作では緻密に計算されたライティングと明暗のコントラストによって鮮烈なアンダーワールドを垣間見せてくれる。
 また、『ローラ殺人事件』(44)の魅惑的なテーマ曲を書いたデヴィッド・ラスキンが、本作でも美しい音楽スコアを披露しているのも注目だ。

BIG_COMBO-10.JPG BIG_COMBO-11.JPG BIG_COMBO-12.JPG

アリシア(H・ウォーカー)は生きていた

ブラウン暗殺を企むマクルーア(B・ドンレヴィー)

だが、簡単に引き下がるブラウンではなかった・・・

 主人公ダイアモンド刑事を演じているのは、上記の『深夜の歌声』でも紹介したコーネル・ワイルド。タフガイ俳優としての本領発揮といったところで、正義感に燃える刑事の屈折した内面を見事に演じて秀逸だ。
 ヒロインのスーザン役を演じたジーン・ウォーレスは、本作での共演がきっかけでコーネル・ワイルドと結婚した中堅のセクシー女優。演技力も含めてあまり印象に残るタイプの女優ではなく、本作でもお人形さん的な役割に終始している感は否めない。後に映画監督へ進出したワイルドは彼女を演技派女優に転身させようとしたらしいが、残念ながらあまり成功はしなかった。
 逆に、ブラウンの妻アリシア役を演じたヘレン・ウォーカーの方が、出番は少ないもののベテランらしい存在感と演技を見せてくれる。タイロン・パワーと共演した『悪魔の往く町』(47)の頃に比べると明らかに容色衰えているという感じだが、それがかえってアリシアという不運な女性の悲壮感を際立たせて印象的だ。
 また、これが映画デビュー作だったリタ役のヘレーヌ・スタントンも、社会の底辺ですれ切ってしまった女の僅かに残された純な愛情をさりげなく覗かせて悪くない。
 一方、上記の『青いガーディニア』では人間味溢れるコラムニスト役を演じていたリチャード・コンテが、本作では極悪非道なマフィアのボス、ブラウン役を怪演。普段はダンディで紳士的なブラウンが、そのサディスティックな本性を発揮する瞬間のリアルで怖いこと。
 そのブラウンのかつては上司だったという初老のギャング、マクルーア役には、『ボー・ジェスト』(39)の憎まれ役でアカデミー助演男優賞候補となった名優ブライアン・ドンレヴィー。タフなヒーローから憎々しい悪役まで幅広い演技に定評のあった人で、中でもフリッツ・ラング監督の『死刑執行人もまた死す』(43)の主人公である卑怯者の暗殺犯フランツ役が印象深い。
 そのほか、後にマカロニ・ウェスタンのヒーローとなるリー・ヴァン・クリーフが殺し屋ファンテ役を、翌年の『雨を降らす男』(56)でゴールデン・グローブを獲得して有名になるアール・ホリマンがミンゴ役を、『必死の逃亡者』(55)の殺人犯役が印象的だったロバート・ミドルトンがダイアモンドの上司ピータース役を、『フレッシュ・ゴードン』(74)のゴードン博士役でも有名なジョン・ホイトが元船員のニルス役を演じている。

 

戻る