フィルム・ノワール傑作選
PART 3

 

 

闇の曲り角
The Dark Corner (1946)
日本では劇場未公開・TV放送のみ
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

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(P)2005 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/ステレオ・モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/99分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
映画評論家による音声解説

監督:ヘンリー・ハサウェイ
製作:フレッド・コールマン
原案:レオ・ロステン
脚本:ジェイ・ドラトラー
    バーナード・ショーエンフェルド
撮影:ジョセフ・マクドナルド
音楽:シリル・J・モックリッジ
出演:ルシール・ボール
    クリフトン・ウェッブ
    ウィリアム・ベンディックス
    マーク・スティーヴンス
    カート・クルーガー
    キャシー・ダウンズ
    リード・ヘイドリー
    コンスタンス・コリアー

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ニューヨークのうらぶれた下町

私立探偵のブラッド(M・スティーヴンス)

ブラッドの秘書を務めるキャスリーン(L・ボール)

 名匠ヘンリー・ハサウェイ監督が『Gメン対間諜』(45)に続いて手掛けたフィルム・ノワール作品。殺人の濡れ衣を着せられた私立探偵が、美人でしっかり者の秘書と共に陰謀の黒幕を暴いていくという王道的なサスペンス・スリラーだ。
 ちょっとヒッチコックを彷彿させるようなストーリー展開で、予定調和やご都合主義が目立つのは残念だが、ジョセフ・マクドナルドによる隅から隅まで計算し尽くされたカメラワークは非常に印象的。特に人物と背景のなじませ方が実に見事で、惚れ惚れとするような映像美を堪能させてくれる。当時のニューヨークの息吹をドキュメンタリー風に捉えたロケ・シーンのリアリズムも大きな見どころだろう。
 また、ヒロイン役を演じるルシール・ボールがまた最高だ。コメディエンヌとしての持ち味を残しつつ、ちょっと皮肉屋で頭が良くてユーモア・センスのある美人秘書を生き生きと演じていて実に巧い。ドキッとさせられるほどセクシーな瞬間もあり、いつものルーシーとは一味違った魅力が楽しめるはずだ。
 ハサウェイ監督にとってはベストな出来栄えとは言えないし、フィルム・ノワールを代表するような作品でもないものの、なかなか見どころのある小品佳作だとは思う。

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気晴らしに遊園地でデートするブラッドとキャスリーン

白いスーツの男が2人を尾行する

ブラッドの身を案じるキャスリーン

 舞台はニューヨークのうらびれた下町。数ヶ月前にサンフランシスコから移ってきた私立探偵のブラッド(マーク・スティーヴンス)は、ここで小さな事務所を開いたばかりだ。唯一の従業員である秘書キャスリーン(ルシール・ボール)は皮肉屋だが頭の切れる女性で、ブラッドにとっては心強い味方になっている。
 実は、ブラッドには暗い過去があった。友人の弁護士ジャーディン(カート・クルーガー)の罠にはまり、無実の罪で2年間の刑務所暮らしを経験したのだ。彼は過去を全て清算し、人生の新たなスタートを切るためにニューヨークへとやって来たのだった。
 ある晩、仕事が終ったブラッドはキャスリーンを誘い、気分転換にと遊園地へ足を運んだ。そこで、2人は白いスーツに身を包んだ怪しげな男に尾行されていることに気付く。キャスリーンをタクシーで帰すフリをしたブラッドは、尾けてきた白スーツの男を拳銃で脅して事務所へと連れて行った。男はダンマリを決め込むが、ブラッドは手荒い方法で自白させる。彼はフレッド・フォス(ウィリアム・ベンディックス)という私立探偵で、ジャーディンに頼まれてブラッドの身辺調査をしているのだという。
 そそくさと出て行ったフォスを事務所前で待機していたキャスリーンが尾行するものの、まんまと巻かれてしまった。ブラッドに好意を寄せるキャスリーンは詳しい事情を知りたがるが、ブラッドは正直に打ち明けることが出来ない。
 一方、ジャーディンは裕福な古美術商カスカート(クリフトン・ウェッブ)の専属弁護士としてニューヨーク社交界での地位を築き、その裏で裕福な人妻たちを誘惑してはそれをネタに大金をゆすっていた。しかも、彼はカスカートの若妻メアリー(キャシー・ダウンズ)と不倫関係にある。
 ある晩、ディナーを終えてキャサリーンを自宅まで送ったブラッドは、あやうく車で轢き殺されそうになった。目撃者の証言で車のナンバーと車種を知った彼は、知り合いの刑事に頼んで持ち主の住所を教えてもらう。それはジャーディンのアパートだった。
 その足でジャーディンのもとへ押しかけたブラッド。だが、ジャーディンは探偵を雇った覚えもないし、ブラッドが出所したことすら知らなかったと言い張る。もちろん、そんな言葉など信用しないブラッドは大立ち回りを演じてジャーディンを殴り倒し、そのまま出て行った。隣の部屋で騒動を聞いていたメアリーは、すぐさま警察に通報する。
 フォスを雇っていたのはカスカートだった。ジャーディンと妻の不倫を知った彼は、ブラッドがジャーディンを殺すように仕向けようとしていたのだ。しかし、それが徒労に終ったことを知ったとき、彼は恐るべき陰謀を思いつく。
 ジャーディンの情報を売るというフォスと事務所で待ち合わせしたブラッド。しかし、先回りして事務所に忍び込んでいたフォスはブラッドを殴り倒す。その直後に、カスカートの指示でジャーディンがブラッドの事務所を訪れた。目を覚ましたブラッドは、横で倒れているジャーディンの死体と、自分の手に握られている凶器を見て、ようやく罠にはめられたことに気付いた・・・。

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裕福な古美術商カスカート(C ・ウェッブ)

弁護士ジャーディン(K・クルーガー)

カスカートの妻メアリー(C ・ダウンズ)はジャーディンと不倫の仲

 身の潔白を証明しようとするブラッドとキャスリーンが、何の接点もないカスカートへとたどり着くまでの後半が大きな山場だ。私立探偵フォスが偽名で、ようやくその居所を突き止めたと思ったらカスカートによって口封じのため殺される。唯一の手がかりは、フォスの隣人である少女が盗み聞いた電話の内容なのだが、その謎解きがあまりにも都合良すぎたりするのが玉に瑕と言えよう。
 原案を書いたレオ・ロステンは有名なユダヤ系作家で、ダグラス・サーク監督の『誘拐魔』(47)など映画の脚本も数多く手掛けた人物。脚本を担当したのは『ローラ殺人事件』(44)でオスカーにノミネートされたジェイ・ドラトラーと、『女囚の掟』(50)で同じくオスカーにノミネートされたバーナード・ショーエンフェルドの2人だ。
 撮影を手掛けたのは、『砲艦サンパブロ』(66)などで3度のオスカー候補経験がある名カメラマン、ジョセフ・マクドナルド。『出獄』(48)や『暗黒の恐怖』(50)などフィルム・ノワール作品でも御馴染みの名匠で、本作のスタイリッシュな映像はほぼ彼の功績と言っても構わないだろう。
 また、『ローラ殺人事件』やヒッチコックの『白い恐怖』(45)などで知られる美術デザイナー、リーランド・フラーの手掛けたゴージャスでモダンな美術セットにも注目したい。

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ブラッドの事務所に忍び込むフォス(W・ベンディックス)

目を覚ましたブラッドの隣にはジャーディンの死体が

罠にはめられたことに気付くブラッドとキャスリーン

 ルシール・ボール扮するヒロインが助太刀する私立探偵ブラッドを演じているのは、『情無用の街』(48)でFBI捜査官を演じていた俳優マーク・スティーヴンス。『蛇の穴』(48)ではオリヴィア・デ・ハヴィランドの夫役だった。親しみやすいタイプのハンサムな2枚目スターで、リチャード・ベイスハートやダナ・アンドリュースにも通じる魅力の持ち主だが、なぜか映画界では大成することが出来なかった。
 陰謀の黒幕であるカスカート役には、『ローラ殺人事件』でジーン・ティアニー扮するローラの夫ライデッカー役を演じて有名なクリフトン・ウェッブ。本作でも娘ほど年の離れた妻を持つ、嫉妬深くて冷酷な中年紳士という役どころだ。※詳細はこちらのページの『ローラ殺人事件』解説を参考に。
 その他、『ベーブ・ルース物語』(48)のベーブ・ルース役で有名な巨漢俳優ウィリアム・ベンディックスが私立探偵フォス役を、当時の20世紀フォックス専属俳優の中で最もブロマイドの人気が高かったと言われるドイツ出身の美形俳優カート・クルーガーがジャーディン役を、『荒野の決闘』(46)のクレメンタイン役で有名な女優キャシー・ダウンズがメアリー役を、イギリスの伝説的な舞台女優コンスタンス・コリアーがNY社交界の女帝キンズレイ夫人役を演じている。

 

生まれながらの殺し屋
Born To Kill (1947)

日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2005 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/92分/製作:アメリカ

特典
映画評論家E・ミュラーとR・ワイズ監督による音声解説
監督:ロバート・ワイズ
製作:ハーマン・シュロム
原作:ジェームズ・ガン
脚本:イヴ・グリーン
    リチャード・マコーリー
撮影:ロバート・デ・グラス
音楽:ポール・ソーテル
出演:ローレンス・ティアニー
    クレア・トレヴァー
    ウォルター・スレザック
    フィリップ・テリー
    オードリー・ロング
    イライシャ・クック・ジュニア
    イザベル・ジュウェル
    エスター・ハワード

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晴れて独身となった女性ヘレン(C ・トレヴァー)

短絡的で暴力的な男サム(L・ティアニー)

逆上したサムは恋人ローリー(I・ジュウェル)を惨殺する

 『ウェストサイド物語』や『サウンド・オブ・ミュージック』の巨匠ロバート・ワイズが、RKO在籍時代に残したフィルム・ノワールの隠れた名作。野獣のように凶暴な男と氷のように冷たい女が出会い、周囲の人々を巻き込みながら破滅への道を辿っていく。殺人・恐喝・裏切り・賄賂・・・本能のままに生きる男と女がお互いに愛憎の火花を散らしながら、己の野心と欲望に呑み込まれていくというわけだ。
 男はうだつのあがならないチンピラ、サム・ワイルド。短絡的かつ直情的、なおかつ暴力的で残虐非道。欲しいものは力づくでも手に入れる、邪魔する者を生かしてはおかない。ハンサムな容姿の裏に恐るべき本性を隠した鬼畜だ。一方のヘレン・ブレントは冷静でタフでしたたかな女。己の利益のためならモラルも省みず、家族や友人をもチェスの駒のように利用していく。そんな2人が惹かれあってしまったものだから、さあ大変だ。
 サムはヘレンの義理の妹ジョージアと結婚し、彼女が亡き父親から相続した新聞社を乗っ取ろうとする。ヘレンも鉄鋼会社の若社長と婚約して玉の輿を狙う。だが、サムは過去に殺人を犯しており、怪しげな私立探偵が彼の周辺を嗅ぎまわっていた。それを知ったヘレンは探偵を買収し、サムの弱みを握って彼を意のままに操ろうとする。しかし、頭に血がのぼったサムは勝手に暴走し、事態は思わぬ方向へと向っていく。
 お互いに似たもの同士だからこそ惹かれあい反撥しあう男女。そんな彼らが破滅への階段を駆け下りていく様を、ロバート・ワイズは驚くほどシリアスかつハードなタッチで描いていく。悪人や悪女を主人公にしたフィルム・ノワールは決して少なくはないが、これほどまでに徹底して冷酷かつ情容赦のない人々を描いた作品もなかなかないかもしれない。それゆえに時として不愉快な気分になることもあるが、それこそが本作の醍醐味というものだろう。

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偶然にも駅で再会するヘレンとサム

クラフト夫人(E・ハワード)はローリー殺しの捜査を依頼する

ヘレンにはジョージア(A・ロング)という義理の妹がいた

 舞台はネバダ州の町リノ。離婚協議が成立し、晴れて独身となったヘレン・ブレント(クレア・トレヴァー)は、サンフランシスコの実家へ戻ることになった。身を寄せていた下宿屋の女将クラフト夫人(エスター・ハワード)にこれまでの家賃を支払ったヘレンは、リノでの最後の夜を楽しむために賭博場へと出かける。そこで彼女は危険な香りを漂わせた男サム・ワイルド(ローレンス・ティアニー)と出会う。
 賭博場には下宿屋の住人である若い女性ローリー(イザベル・ジュウェル)も来ていた。彼女は新しい恋人を嫉妬させるために、元カレのダニー(トニー・バレット)を同伴している。その様子を見て、サムの表情がこわばった。ローリーの新しい恋人とはサムのことだったのだ。
 ローリーとダニーの後を尾けたサムは、誰もが寝静まった真夜中の下宿屋で2人を惨殺する。明け方に帰宅したヘレンは死体を発見するものの、警察へ通報せずにそのまま駅へと向った。余計なことには関わりあいたくないのだ。その頃、同居人の親友マーティ(イライシャ・クック・ジュニア)に殺人を打ち明けたサムは、彼のアドバイスでサンフランシスコへ行くことにする。ほとぼりが冷めるまで身を隠すのだ。
 駅のホームで再会したサムとヘレン。サムはヘレンが死体の第一発見者であることを知らないし、ヘレンもサムが殺人犯であることを知らない。しかし、すぐさま2人はお互いの本性を見抜き、たちまちのうちに惹かれあっていく。
 それからしばらくの後、サムはヘレンの実家を訪れる。ヘレンにはフレッド(フィリップ・テリー)という婚約者がいた。驚き憤慨するサムだったが、フレッドが鉄鋼会社の社長であることを知ってヘレンの魂胆を見抜く。目的は財産だ。ヘレンにはジョージア(オードリー・ロング)という義理の妹がいる。亡き父親はサンフランシスコ最大の新聞社を経営していたが、ヘレンは養女であったため、財産は全てジョージアが相続していた。自分の自由になる金が欲しい、社交界での地位が欲しい。そのために彼女は最初の夫と離婚し、大富豪であるフレッドの妻として玉の輿に乗ろうというのだ。
 サムにも目論見があった。ジョージアは温室育ちの典型的なお嬢様。初心で純真で他人を信じやすい。ハンサムで陰のあるサムに首ったけの様子だ。裏街道を歩んできたサムにとって、これほど騙しやすいカモはいない。しかも、とびっきりの美人ときたもんだ。ほどなくして、サムとジョージアは結婚することになった。
 その頃、リノでは下宿屋の女将クラフト夫人が、私立探偵のアーネット(ウォルター・スレザック)に仕事を依頼していた。大親友だったローリーを殺した犯人を突き止めようというのだ。しかし、借金まみれのアーネットは一筋縄ではいかない男だった。夫人がローリーの遺産を受け取ったことを知っている彼は、法外な調査料を提示してきた。しかし、他に手段を知らないクラフト夫人は、渋々と言われるがままに小切手を切るのだった。
 サムとジョージアの結婚式当日。メイドからサムのことを嗅ぎまわっている男がいることを聞いたヘレンは、アーネットと直に対面する。どうやら、サムには人殺しの疑いがあるらしい。サムがジョージアと結婚することに不快感を露わにしていたヘレンは、サムに弱みがあることを知って秘かにほくそ笑む。
 ジョージアと結婚したサムは、さっそく自ら新聞社の経営に乗り出そうとした。しかし、ビジネスの経験が全くないことから周囲に猛反対され、ジョージアやヘレンに激しい怒りをぶつける。日を追うごとに猜疑心を増していくサム。
 一方、ヘレンはアーネットを買収して口封じをし、サムに恩を着せようとする。また、サンフランシスコへ呼び寄せられたマーティもその事実を知り、クラフト夫人の抹殺を計画した。ところが、猜疑心の塊となったサムはヘレンとマーティが結託して自分を罠にはめようとしているものと勘違いし、逆上してマーティを殺してしまった。もはや判断力を失ったサムをコントロールすることは出来ないと悟ったヘレンは、アーネットを使って警察に密告するのだったが・・・。

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財産目当てでジョージアと結婚するサム

粗暴な本性を現した夫に戸惑うジョージア

計算高いヘレンはサムを操ろうとする

 ポール・ニューマン主演作『都会のジャングル』(59)の脚本家として知られるジェームズ・ガンの犯罪小説を脚色したのは、ラオール・ウォルシュ監督の犯罪映画『大雷雨』(41)を手掛けたリチャード・マコーリーと女流脚本家イヴ・グリーンの2人。似たもの同士の悪人サムとヘレンを対比・対立させながら、彼らの本質的な人間臭さを浮き彫りにしていくセリフが非常に巧い。単なる犯罪サスペンスに終始することなく、自分ではどうしようもない“悪の本能”に突き動かされていってしまう人間の悲しい性(さが)を描いている点は秀逸だ。
 撮影は『気儘時代』(38)や『恋愛手帖』(40)などRKOの名作を数多く手掛けたカメラマン、ロバート・デ・グラス。ロバート・ワイズ監督とは『死体を売る男』(45)でも組んでいる。音楽を担当したポール・ソーテルも、『ターザン』シリーズなどRKO作品には欠かせない作曲家だ。また、クレア・トレヴァーのスタイリッシュなドレスをデザインしたエドワード・スティーヴンソンは、『よろめき珍道中』(60)でオスカーを受賞した人物で、ルシール・ボールのお気に入りデザイナーだったことでも知られる。テレビ『アイ・ラブ・ルーシー』の衣装も、全て彼が手掛けていた。

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親友マーティ(E・クック・ジュニア)はサムの性格を心配する

私立探偵アーネット(W・セルザック)を買収するヘレン

猜疑心を深めていくサムは・・・

 ハンサムなケダモノ、サム・ワイルド役を演じているのは、タランティーノの『レザボアドッグス』(91)で老ギャング、ジョー・キャボット役を演じていた俳優ローレンス・ティアニー。『犯罪王ディリンジャー』(45)でタイトル・ロールを演じ、ギャング役や悪役として活躍したスターだ。私生活でも凶暴なトラブル・メーカーとして有名で、全盛期から暴力沙汰で逮捕されること数知れず。その横暴な言動で共演者やスタッフを震え上がらせることも多く、それが原因でトップ・スターになることが出来なかったと言われている。本作のサム役なんぞは、半ば地のままで演じていたのかもしれない。
 対する悪女ヘレン役を演じているクレア・トレヴァーは、ジョン・フォード監督の傑作『駅馬車』(39)の娼婦役で有名なスター女優。アカデミー助演女優賞を獲得した『キー・ラーゴ』(48)やディック・パウエル共演の『ブロンドの殺人者』(43)など、フィルム・ノワールのファム・ファタール役としては欠かせない人だ。ジョン・ウェインとは『駅馬車』以外でも共演しており、当時はハリウッドを代表するトップ女優の一人だった。上品なエロティシズムを兼ね備えたクール・ビューティーで、豊かな演技力にも恵まれていたが、現在は過小評価されてしまっているのが残念。
 胡散臭い私立探偵アーネット役には、ヒッチコックの『救命艇』(44)でナチの潜水艇司令官役を演じていたオーストリア出身の俳優ウォルター・スレザック。人懐っこそうな笑顔で相手の気を許し、ジワジワと弱みに付け込んでいく小悪党を絶妙な巧さで演じている。
 小悪党といえば、『マルタの鷹』(41)の気弱な殺し屋役で有名なイライシャ・クック・ジュニアが、サムの忠実な親友マーティ役で異彩を放っている。常にサムのことだけを考え、彼のためには殺人も厭わないような男。何を考えているのか全く分からない独特の存在感で、ある種の同性愛的な匂いを醸し出しているのが面白い。
 アーネットを雇う下宿屋の女将クラフト夫人役のエスター・ハワードも強烈な印象を残している。片時もビール瓶を手放さない飲んだくれの婆さんで、常にリアクションが大袈裟。ぎょっとした顔をしながらケラケラと笑い転げたり、とにかく四六時中うるさい女性だ。エスター・ハワードはプレストン・スタージェス監督作品の常連で、一度見たら忘れられない個性的な顔をした女優。口うるさいオバサン役をやらせたら天下一品だった。
 その他、ワイズ監督の『恐怖の島』(45)でヒロイン役を演じたオードリー・ロングがジョージア役を、『失われた週末』(45)や『遥かなる我が子』(46)で知られるフィリップ・テリーがフレッド役を、ギャング映画の愛人役などで活躍したセクシー女優イザベル・ジュウェルが冒頭で殺害される女性ローリー役を演じている。

 

その女を殺せ
The Narrow Margin (1952)

日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2005 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/71分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
W・フリードキン監督とR・フライシャー監督による音声解説
監督:リチャード・フライシャー
製作:スタンレー・ルービン
原案:マーティン・ゴールドスミス
    ジャック・レオナード
脚本:アール・フェルトン
撮影:ジョージ・E・ディスカント
出演:チャールズ・マッグロー
    マリー・ウィンザー
    ジャクリーヌ・ホワイト
    ゴードン・ゲバート
    クイーニー・レオナード
    デヴィッド・クラーク
    ピーター・ヴァーゴ
    ドン・ベッドー
    ポール・マクシー

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シカゴへやって来たブラウン刑事(C ・マッグロー)

目的はマフィアの妻ニール夫人(M・ウィンザー)の護衛

組織の差し向けた追っ手を撒くブラウン

 あのウィリアム・フリードキン監督も熱愛するフィルム・ノワールの伝説的傑作がこれ。マフィア裁判の証人となる女性を連れて大陸横断特急に乗り込んだ護衛の刑事。列車には証人を抹殺すべくマフィアの刺客が紛れ込んでいる。次々と登場する人物のいずれもが身元を偽っており、誰が敵で誰が味方なのか分からない。シンプルな設定、スピーディーな展開、スリルと緊張感に満ちたどんでん返しの連続。鏡を利用した見事なクライマックスや71分というコンパクトな上映時間も含めて、優れた低予算映画のお手本とも言うべき作品だ。
 監督は『バイキング』(57)や『ミクロの決死圏』(66)、『トラ・トラ・トラ!』(70)、『ソイレント・グリーン』(73)などの娯楽映画で知られる名匠リチャード・フライシャー。スケールの大きなメジャー大作を得意とする監督というイメージが強いものの、実は『札束無情』(50)や『恐怖の土曜日』(55)、『絞殺魔』(68)など低予算の犯罪映画やサスペンス映画にも優れた作品が多い。あらゆる無駄な装飾を省き、限られた予算や環境の中で最大限のものを引き出すのが抜群に上手い監督だ。
 本作も大半の舞台を列車内に限定し、当時はまだ一般的でなかった手持ちカメラを駆使しながら、圧倒的なパワーとスリルで観客の目を最後まで釘付けにする。バラバラになったネックレスの真珠が廊下に散らばり、カメラがそれを追っていくと物影に隠れている暗殺者の足元にたどり着くというシーンをはじめ、ゾクゾクほどカッコいい演出が目白押し。マフィアも顔負けなくらいにタフで強面の刑事や、それに負けないくらい肝の据わったセクシーなヒロインなど登場人物のキャラクターも渋いし、音楽スコアを一切使用せず列車の汽笛や走行音を効果的に用いているのも印象的だ。映画ファンなら死ぬまでに一度は見ておくべき作品である。

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2人を乗せた特急列車がロスへ向けて出発する

ブラウンと親しくなるシンクレア夫人(J・ホワイト)

組織の刺客ケンプ(D・クラーク)がブラウンの部屋に侵入する

 ロサンゼルス市警の刑事ブラウン(チャールズ・マッグロー)は、殺されたマフィアのボスの妻ニール夫人(マリー・ウィンザー)を護衛するためシカゴに到着する。彼女は組織の会計リストを所持しており、ロサンゼルスで行われる裁判に出廷するのだ。リストにはマフィアの金の流れが記載されており、組織は全力を挙げて阻止しようとするはずだった。
 親友のフォーブス刑事(ドン・ベッドー)と共にニール夫人をアパートから連れ出すブラウン。特急列車に乗ってロサンゼルスへと向うのだ。しかし、物陰に隠れていた暗殺者にフォーブスが射殺され、寸でのところで犯人を逃がしてしまった。組織がニール夫人の抹殺を狙っていることは明白だ。組織は夫人の顔を知らない。だが、護衛する自分の顔は暗殺者に見られてしまった。そこで、ブラウンは夫人と行動を別にし、列車内で落ち合うことにする。
 案の定、駅では組織の差し向けた刺客が待っていた。チンピラのケンプ(デヴィッド・クラーク)と組織幹部のヨスト(ピーター・ブロッコ)である。彼らはブラウンをマークするが、手際よく撒かれてしまった。列車内でニール夫人と合流したブラウンは、カバンをなくしたという口実で部屋に入ってきたケンプを怪しむ。ブラウンが食堂車に行っている間に、ケンプは彼の部屋に忍び込むが何もなかった。用心のためニール夫人を女子トイレに隠していたのだ。
 かくして列車は動き出した。ブラウンはニール夫人をダブル・ルームの隣にかくまい、外へ出ないように指示する。鼻っ柱の強いニール夫人は反抗的だった。マフィアやその関係者を見下しているブラウンは、ただでさえ手強いニール夫人に対しても容赦ない態度をとる。
 そればかりか、列車内には組織の差し向けた刺客が何人いるか分からない。ダブル・ルームを譲ってくれとしつこく迫る巨漢のジェニングス(ポール・マクシー)は特に怪しい。また、ヨストは大胆にもブラウンを買収しようとした。正義感の強い彼は頑なに断るが、その大金でフォーブス刑事の家族を助けてあげることが出来るんじゃないか?というヨストの言葉に一瞬心が揺らぐ。安月給で命を張らねばならない刑事というのは、正直なところ割に合わない仕事だ。ただでさえ気の抜けない状況の中で、ブラウンは神経をすり減らせて行く。
 そんな彼は、シンクレア夫人(ジャクリーヌ・ホワイト)という子連れの上品な女性と親しくなる。チャーミングでユーモラスな彼女は、ブラウンにとって一服の清涼剤のような存在だった。しかし、2人が親しくしている様子を目撃したケンプは、シンクレア夫人のことをニール夫人だと勘違いしてしまう。ケンプの行動を見張っていたブラウンはそのことに気付き、間一髪のところでケンプに襲いかかる。激しい格闘を繰り広げるブラウンとケンプ。そこへジェニングスが現れた。彼は鉄道警察の刑事で、ブラウンを援護するために乗り込んでいたのだ。
 ケンプの身柄を拘束するジェニングス。ところが、物陰から現れたもう一人の刺客デンセル(ピーター・ヴァーゴ)によって殴り倒され、個室に監禁されてしまう。さらに、ブラウンの部屋に入り込んだデンセルとケンプは、無人であるはずの隣部屋でニール夫人を発見してしまった。
 その頃、ブラウンは事情を説明するためにシンクレア夫人の部屋を訪れる。列車の外には怪しげな車がピッタリと付いてきており、外から狙撃される恐れもあった。どうやら組織は焦っている様子だ。ケンプは電報でシンクレア夫人の情報を組織に伝えており、誤って彼女が狙われてしまうかもしれない。ところが、ここでブラウンはシンクレア夫人の意外な正体を知ることになる・・・。

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ブラウンの様子を怪しげに見張るジェニングス(P・マクシー)

気の強いニール夫人とブラウンは折り合いが悪い

ジェニングスは鉄道警察の刑事だった

 汚職まみれだった当時のロサンゼルス市警の評判を知っていれば、後半のダネ明かしも一層のことよく理解できるはずだ。原作を書いたのはエドガー・G・ウルマー監督の名作フィルム・ノワール“Deour”(45)の脚本で知られるマーティン・ゴールドスミスと、同じくフィルム・ノワールの佳作『替え玉殺人計画』(51)や『脱獄者の叫び』(53)を手掛けたジャック・レオナード。2人は本作でアカデミー賞の原案賞にノミネートされている。
 さらに、『札束無情』や『海底二万哩』(54)でもフライシャー監督と組んだアール・フェントンが脚色を担当した。撮影を担当したジョージ・E・ディスカントも、ニコラス・レイ監督の『夜の人々』(48)や『危険な場所で』(51)などのフィルム・ノワール作品で知られるカメラマンだ。
 なお、本作は1950年に完成していたが、劇場公開まで2年間もお蔵入りさせられてしまった。フライシャー監督によると、その評判を聞きつけた当時のRKO社長ハワード・ヒューズが試写を希望したものの、忙しさにかまけて見るのを忘れてしまっていたらしい。試写用に送られたオリジナル・プリントは、1年半以上ものあいだ試写室に放置されたままだったという。一部ではヒューズが追加撮影ないし別キャストによる撮り直しを考えていたという説もあるが、こちらの方は定かでない。

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列車が外からも狙われていることに気付く

ケンプとデンセルはニール夫人を見つけてしまった

鏡越しにシンクレア夫人の様子を確認するブラウン

 主人公の刑事ブラウン役を演じているチャールズ・マッグローは、『スパルタカス』(60)でカーク・ダグラスを鍛える剣闘士の訓練役を演じていた俳優。不敵な面構えと低音のしゃがれ声が印象的で、殺し屋役を演じたロバート・シオドマクの名作『殺人者』(46)などフィルム・ノワールへの出演も多かった。ここでは彼が他の誰よりも悪人面をしているのが面白く、後半のどんでん返しに少なからず説得力を与えている。
 また、ニール夫人役のマリー・ウィンザーも抜群に良かった。ウィンザーはスタンリー・キューブリックの名作『現金に体を張れ』(56)で、銀行強盗たちを裏切る悪女役を演じて強烈な印象を残したヴァンプ女優。“B級映画の女王”と呼ばれ、数多くの低予算映画でギャングの愛人役や娼婦役などを演じた。本作でも最初の登場シーンから圧倒的な存在感を見せつけてくれる。
 シンクレア夫人役のジャクリーン・ホワイトは当時RKOの専属だった女優で、『十字砲火』(47)にも出ていたらしいが全く印象がない。また、20世紀フォックスのフィルム・ノワール“House on the Telegraph Hill”などに出ていた子役ゴードン・ゲバートが、シンクレア夫人の息子トミー役を演じている。

 

ヒッチ・ハイカー
The Hitch-Hiker (1953)

日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)1999 The Roan Group (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL
/71分/製作:アメリカ

映像特典
俳優ロバート・クラークによるイントロダクション
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:アイダ・ルピノ
製作:コリアー・ヤング
原案:ダニエル・メインウェアリング
脚本:アイダ・ルピノ
    コリアー・ヤング
    ロバート・L・ジョセフ
撮影:ニコラス・ムスラカ
音楽:リース・スティーヴンス
出演:エドモンド・オブライエン
    フランク・ラヴジョイ
    ウィリアム・タルマン
    ホセ・トーヴェイ
    サム・ヘイズ
    ウェンデル・ナイルス
    ジャン・デル・ヴァル

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ハイウェイに立つヒッチハイカーの影

次々と殺されていくドライバーたち

休暇中のギルバート(F・ラヴジョイ)とロイ(E・オブライエン)

 『画家とモデル』(37)や『ハイ・シエラ』(41)などでハリウッドのトップ・スターとなった映画女優アイダ・ルピノ。夫コリアー・ヤングと共に製作プロダクション“フィルメイカーズ”を設立し、野心的な社会派ドラマを世に送り出していた彼女の、監督4作目にして代表作と呼ばれているのが、この『ヒッチ・ハイカー』という作品だ。
 そもそも女流監督によるフィルム・ノワールというもの自体が大変珍しいのだが、そのハードな演出タッチや奥行きのある表現主義的な映像美はニコラス・レイやアンソニー・マンを彷彿とさせるものがあると言えよう。当時としては過激なバイオレンス描写も含めて、女流監督の作品とは思えないような仕上がりだ。
 ストーリーは非常にシンプル。だだっ広い荒野を車で旅する平凡な男性二人組がヒッチハイカーの男を拾う。ところが、この男が凶悪な連続殺人犯だったことから、主人公たちは壮絶な地獄巡りをさせられてしまうというわけだ。
 実は、この作品はほぼ実話に基づいて作られている。主人公たちを引きずりまわす殺人犯のモデルとなったのは、1950年代に実在した連続殺人鬼ビリー・クック。彼は貧しい炭鉱夫の息子として生まれたが、幼い頃に母親と死に別れた。父親はビリーを含む7人の子供を捨てて姿を消し、子供たちは野生動物も同然の生活を強いられたという。やがて彼らは当局に保護され、ビリーは里子に出された。
 しかし、生まれつき片目の瞼を閉じることができず、人相も悪ければ態度も反抗的なビリーは、里親や学校の友達とは常に折り合いがつかなかった。傷害や窃盗事件を起こしては少年院に入れられ、まともな職につくことも出来なかった彼は、やがて社会や人々に対する憎しみを抱くようになる。その結果、ヒッチハイカーを装って9人の市民を襲い、そのうち幼い子供を含む6人を殺害したのだ。当時はまだのどかで平和な時代。まさか殺人犯が身近にうろついているなどとは誰も考えていなかったのである。
 最後に襲われたのは二人組の男性労働者。自分が警察に追われていることに気付いたビリーは二人の車でメキシコ逃亡を謀ったが、寸でのところで逮捕・処刑された。その最後の逃走劇を描いたのが、この作品というわけだ。
 オープニングでは次々と車を拾ってドライバーを殺していく殺人犯の様子が描かれていくのだが、犯人の顔も殺人行為も一切視覚的には見せず、足元の動きと影だけで表現していく。そのドライでクールな演出と流れるようなカメラワークは見事というほかない。殺人犯が初めて暗がりから顔を現すシーンはほとんどホラー映画のような怖さだし、夜の闇を利用して脱走を試みた主人公たちに犯人の運転する車が迫るシーンのスリルも見応えがある。
 ただ、ストーリーが非常にシンプルなだけに、その緊張感をなかなか持続することが出来ず、随所で中だるみしてしまうのが欠点と言えるかもしれない。とはいえ、戦後ハリウッドにおける女流監督の不毛時代において、これほど力強い作品を生み出したルピノ監督の実績は大いに評価されるべきだろう。アメリカでは国立フィルム登録簿に登録され、“文化的、歴史的、芸術的に重要な映画”として高い評価を受けている。フィルム・ノワールを語る上でも非常に重要な作品のひとつと言えるだろう。

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2人はヒッチハイカーの男を拾う

男は凶悪犯メイヤーズ(W・タルマン)だった

メイヤーズはギルバートとロイを道連れにする

 舞台は荒野の広がるカリフォルニアのハイウェイ。メキシコ国境に近いこの周辺で、謎のヒッチハイカーが次々と車を拾っては、ドライバーを殺害して金品を奪っていた。平凡な労働者ロイ(エドモンド・オブライエン)とギルバート(フランク・ラヴジョイ)の二人は戦友同士。久々の休暇を利用して、彼らはメキシコへ釣りに出かけることにした。
 夜のハイウェイで車を走らせていると、彼らは一人のヒッチハイカーに遭遇した。車の故障で立ち往生して困っているという。二人は何の疑問も持たず彼を後部座席に乗せたが、男が懐から取り出した拳銃に気付いて戦慄する。
 男の名前はメイヤーズ(ウィリアム・タルマン)。ヒッチハイカーを装った凶悪犯だった。彼はメキシコの港町サンタ・ロザリアへと向うよう指示する。言われるがままに国境を越えたロイとギルバートだったが、メイヤーズはサディスティックで抜け目のない男だった。ギルバートがライフル銃を持っていることを知ったメイヤーズは、ロイに持たせた空き缶をライフルで撃つようギルバートに命じる。少しでも的を外せば、ロイの命はない。緊張感で顔をこわばらせる二人の様子を、メイヤーズは楽しそうに眺めるのだった。
 その頃、カリフォルニアではパトロール中の警官によって乗り捨てられた車と無残な死体が次々と発見され、脱獄犯メイヤーズの仕業であることが明るみになった。ラジオのニュースでそのことを知ったロイとギルバートは、自分たちも用済みになった殺されるであろうことを確信する。
 荒野の真ん中で野宿をすることになり、メイヤーズが寝ている間に逃げようと考えたロイとギルバート。しかし、メイヤーズは片目だけ眠って、片目だけ起きて監視するとうそぶいてみせる。実際には生まれつき片方の瞼を閉じることが出来ないためなのだが、片目をずっと開けたままだと彼が寝ているのか起きているのか分からなかった。
 翌日、ハイウェイ脇の雑貨店に寄った3人。スキを見計らって逃げることも考えたロイとギルバートだったが、メイヤーズの監視の目はことのほか厳しかった。その晩、片目を開けたままのメイヤーズは実際には寝ていることに気付いた二人は、意を決して脱走することにした。しかし、そこは荒野のど真ん中。すぐに気付いたメイヤーズの車に追いつかれ、あえなく二人は捕まってしまう。
 一方、メイヤーズの足どりを追っていたFBIは、彼が再び車を拾ってメキシコへ向ったことに気付き、現地の警察と協力してハイウェイの捜索に当たる。追っ手が近づいてきたことに気付いたメイヤーズが取った行動とは・・・?そして、ロイとギルバートの運命やいかに・・・!?

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メイヤーズの行き先はメキシコの港町だった

メイヤーズに脅されるがままライフルを手にするギルバート

標的はロイの手に持った空き缶だ

 主人公が英雄でもなんでもなく、ごく普通の平凡な市民であるというのが本作の重要なポイントだろう。だからこそリアルな緊張感が生まれ、まるでドキュメンタリー映画を見ているかのような生々しさを感じることが出来る。細かいディテールや人間描写にも神経が行き届いており、非常に説得力のあるドラマに仕上がっている。
 事実を元に原案を書き上げたのは、フィルム・ノワールの名作『過去を逃れて』(47)やSFホラーの傑作『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56)で知られる脚本家ダニエル・メインウェアリング。もともと新聞“サンフランシスコ・クロニクル”の記者だったこともあり、この手の実録ドラマはお手のものだったのであろう。当時は赤狩りのブラック・リストに載せられていたことから、本作では名前がクレジットされていない。
 アイダ・ルピノ、コリアー・ヤング夫妻と共に脚本を手掛けたのは、80年代に話題となったテレビ映画『天使の自立』(83)を手掛けたロバート・L・ジョセフ。主にテレビで活躍した人で、本作が脚本家としての正式なデビュー作だった。
 撮影を手掛けたのは、『キャット・ピープル』(42)や『らせん階段』(45)などRKOホラーの傑作で知られる名カメラマン、ニコラス・ムスラカ。光と影を多用した怪奇タッチのダークな映像に手腕を発揮している。
 なお、監督のアイダ・ルピノは製作準備に当たって、実際にビリー・クックによって拉致された二人の男性と会って取材し、クック自身の調書も取り寄せて参考にしたという。

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警察の追跡に神経をとがらせるメイヤーズ

ロイとギルバートは脱走を試みるが・・・

2人の後を追うメイヤーズ

 主人公のロイとギルバートを演じているのは、古い映画ファンには懐かしいエドモンド・オブライエンとグランク・ラヴジョイ。オブライエンはギャング映画の名作『都会の牙』(50)の主演で知られるタフガイ・スターで、『裸足の伯爵夫人』(54)でオスカーを受賞した名優だ。ルピノ監督とは次回作“The Bigamist”(53)でも組んでいる。マフィアや警察の幹部など大物役の似合うスケールの大きな役者だったが、本作では珍しくどこにでもいる平均的労働者を好演している。
 一方のラヴジョイは『総攻撃』(50)や『戦場の誓い』(51)など数多くの戦争映画に出演した俳優。いかにも善良そうな顔立ちで、アメリカの平均的な好青年を得意とした人だった。赤狩り時代のプロパガンダ的犯罪映画『FBI暗黒街に潜入せよ』(51)にも主演している。
 そして、サイディスティックな殺人犯メイヤーズ役を演じているのは、往年の人気ドラマ『弁護士ペリー・メイスン』の検事ハミルトイン・バーガー(メイスンのライバル)役で有名なウィリアム・タルマン。もともと悪役向きの俳優ではあるのだが、本作における異様なまでの怪演はなかなか出色だ。ちなみに、『弁護士ペリー・メイソン』ではもともと彼がメイソン役候補で、レイモンド・バーがバーガー役候補だったらしい。
 その他、当時の有名なラジオ・アナウンサーのサム・ヘイズとウェンデル・ナイスの2人が、ニュース・アナウンサー役で登場している。

 

<番外編>

The Bigamist (1953)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2004 Alpha Video (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★☆☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL
/79分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:アイダ・ルピノ
製作:コリアー・ヤング
原案:ラリー・マーカス
    ルー・ショア
脚本:コリアー・ヤング
撮影:ジョージ・E・ディスカント
音楽:リース・スティーヴンス
出演:ジョーン・フォンテイン
    アイダ・ルピノ
    エドモンド・オブライエン
    エドマンド・グウェン
    ケネス・トビー
    ジェーン・ダーウェル
    リリアン・フォンテイン

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養子縁組の手続きをするグラハム夫妻

担当者のジョーダン氏(E・グウェン)

結婚8年目のグラハム夫妻は子宝に恵まれなかった

 こちらはアイダ・ルピノ監督が『ヒッチ・ハイカー』の直後に手掛けた社会派メロドラマ。フィルム・ノワールのジャンルには全く入らないものの、『ヒッチ・ハイカー』のついでに紹介してみようと思う。“The Bigamist”とは「重婚者」の意味。2人の女性と結婚した1人の男性を主人公に、なぜ彼が重婚するに至ったのかを描いていく作品だ。
 主人公はサンフランシスコ在住のセールスマン。仕事でロサンゼルスとの間を行き来している彼は、やり手のビジネス・ウーマンである女性と結婚している。2人にはなかなか子供が出来ず、それゆえに妻は人一倍家事に仕事にと忙しい毎日を過ごしている。だが、夫にとってはそれが大きな不満だ。そんな彼は、ロス出張の際に出会った女性との間に子供が出来てしまう。彼女は家庭的で思いやりのある逞しい女性。妻にはないものを持っている彼女を男は深く愛し、子供を守るためにもと結婚してしまう。
 1人は頭が良くて美人で金持ちだが、子供を生むことが出来ない女性。もう1人は、教養はないが家庭的で暖かくて、自分の子供を生んでくれた女性。主人公はそのどちらかを選ぶだけの勇気がない。優柔不断なダメ男が招いた三角関係の悲劇というわけだが、その背景には当時のアメリカ女性が置かれた社会的立場の複雑さが反映されている。
 第二次世界大戦における人手不足は女性の社会進出を促し、戦後は社会的・経済的に自立した女性が増えた。しかし、その一方で、当時のアメリカでは“女性は良き妻・良き母であるべき”というキリスト教の伝統的価値観がまだまだ根強かった。ウーマン・リブ運動が芽生えるのは60年代に入ってからのこと。表面上では女性の社会進出を受け入れつつ、しかし本音ではやはり女性は家庭に入って子供を生み育てるべきだというのが、当時の一般的な社会通念だったと言えるかもしれない。本作の主人公は、いわばそうした社会的矛盾の犠牲者なわけである。
 『ヒッチ・ハイカー』の紹介でも述べたように、アイダ・ルピノは自ら立ち上げた制作会社を基盤に、フェミニズム的なメッセージ性の強い作品を発表していた。フィルム・ノワールの傑作と呼ばれる『ヒッチ・ハイカー』はあくまでも例外的な作品だったわけだ。しかし残念ながら、その監督作のほとんどが現在では見ることが出来ない。
 思うに、60年代以降女性の社会的立場は劇的に変化し、彼女の作品の持つメッセージ性はあまり意味をなさなくなってしまったのかもしれない。本作にしても、夫婦共働きが当たり前となり、不妊に対する社会的な認知も広まり、成功したキャリア女性が珍しくなくなった現在では、とても時代錯誤で古臭いメロドラマにしか感じられないだろう。当時の社会的価値観を知る上では興味深いものの、その一方で映画として観客に訴えかけるものを失ってしまった作品だ。
 なお、上記のアメリカ盤DVDは正規盤ではなく、PD素材を使用した粗悪品。だが、そもそも『ヒッチ・ハイカー』以外のルピノ作品は、過去にビデオ化すらされたことのないものが殆んど。なので、見ることが出来るというだけでも御の字と言うべきなのかもしれない。

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ジョーダン氏はハリーの態度に疑問を抱く

ハリー(E・オブライエン)には秘密がある様子だった

ジョーダン氏はハリーの身辺調査を始める

 サンフランシスコに住む男性ハリー・グラハム(エドモンド・オブライエン)と妻イヴ(ジョーン・フォンテイン)は、結婚して8年になる現在も子宝に恵まれないでいた。夫は出張で家を留守にすることが多く、妻はその寂しさを紛らわせるために始めたビジネスで成功を収めている。子宝以外は全てにおいて恵まれた生活を送る2人は、ようやく自分たちの子供を諦め、養子を迎えることにした。
 養子縁組の申請と登録を終えたハリーとイヴ。しかし、担当官のジョーダン氏(エドマンド・グウェン)は、どこか気乗りしない様子のハリーに疑問を抱く。過去の養子縁組で失敗した経験を持つジョーダン氏は、念のためにとハリーの身辺調査をすることにした。
 すると、ハリーが頻繁に訪れている出張先のロサンゼルスで、滞在しているはずのホテルに泊まっていないことを知る。ハリーの仕事仲間から得た情報をもとに、彼がロサンゼルスで借りている家を突き止めたジョーダン氏。そこには、幼い赤ん坊の世話をするハリーの姿があった。事情を問い詰めるジョーダン氏に、ハリーは仕方なく重い口を開いた。
 家庭を守る妻と愛する子供という理想的な家庭を求めるハリーにとって、イヴとの結婚生活は孤独以外の何ものでもなかった。しかも、自分以上にビジネスの才能がある妻の存在は、彼の男としての自尊心を大きく傷つけていた。
 そんな折、彼はロサンゼルス行きのバスの中で、フィリス(アイダ・ルピノ)という女性と出会う。彼女は中国レストランのウェイトレスとして働いており、しっかり者で庶民的な人だった。2人はたちまち恋に落ち、しかも彼女は妊娠までしてしまう。自分の思い描いた家庭がようやく手に入る。しかし、かといってイヴのことを見捨てることも出来ない。悩んだ末に彼が選んだ道は、人間的にも社会的にも許されない“重婚”だったのだ・・・。

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子供の世話をするハリーを見て愕然とするジョーダン氏

ハリーはバスの中でフィリス(I・ルピノ)と知り合う

フィリスはしっかり者の庶民的な女性だった

 チャールトン・ヘストン主演の『虐殺の街』(50)やリチャード・レスター監督の『華やかな情事』(68)の脚本家ラリー・マーカスが原案に参加。ルピノ監督の夫だったコリアー・ヤングが、製作と脚本を手掛けている。ちなみに、本作の2年前にルピノとヤングは離婚しており、ヤングの再婚相手というのがイヴ役を演じているジョーン・フォンテインだった。それを考えると、舞台裏でもいろいろと複雑な事情がありそうな作品だ。
 撮影を担当したのは、本ページで紹介しているフィルム・ノワール映画『その女を殺せ』(52)も手掛けているジョージ・E・ディスカント。その他、70年代に一世を風靡したドラマ『マッシュ』でエミー賞を受賞したスタンフォード・ティシュラーが編集を、『アパートの鍵貸します』(60)でオスカーを受賞したエドワード・G・ボイルがセット装飾を、『80日間世界一周』(56)でオスカー候補となったジェームズ・W・サリヴァンが美術デザインを、『5つの銅貨』(59)や『パリが恋するとき』(62)でオスカー候補になったリース・スティーヴンスが音楽を手掛けている。

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ハリーはフィリスのことを本気で愛するようになる

2人の間には子供も生まれた

何も知らないイヴ(J・フォンテイン)は養子縁組を提案する

 主人公ハリー役を演じているのは、『ヒッチ・ハイカー』に続いてルピノ作品出演となる名優エドモンド・オブライエン。その最初の妻イヴ役には、ヒッチコックの『レベッカ』(40)やオスカー主演女優賞受賞の『断崖』(41)で知られる大女優ジョーン・フォンテイン。そして、もう一人の妻フィリス役には、監督のアイダ・ルピノ自身が扮している。
 さらに、主人公の秘密を突き止めるジョーダン氏役を演じているのは、『三十四丁目の奇蹟』(47)のサンタに扮する老人役でオスカーを受賞した名優エドマンド・グウェン。ハリーとフィリスがビバリーヒルズ観光ツアーに参加するシーンで、“ここがエドマンド・グウェンの自宅です”とガイドが紹介するのはちょっとした内輪のジョークだ。
 そのほか、後半の裁判シーンで登場する裁判官役に『遊星よりの物体X』(51)や『原始怪獣現わる』(53)などSF映画のヒーロー役で有名なケネス・トビー、養子縁組事務所の掃除婦役に『風と共に去りぬ』(39)や『怒りの葡萄』(40)で知られる名脇役女優ジェーン・ダーウェル、借家の女性地主役にジョーン・フォンテインの実母であるリリアン・フォンテインが扮している。

 

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