フィルム・ノワール傑作選
PART 2

 

T-Men (1947)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 VCI Entertainment (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/
92分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
作品解説
監督:アンソニー・マン
製作:オーブリー・シェンク
原案:ヴァージニア・ケロッグ
脚本:ジョン・C・ヒギンズ
撮影:ジョン・オルトン
音楽:ポール・ソーテル
出演:デニス・オキーフ
    メアリー・ミード
    アルフレッド・ライダー
    ウォーレス・フォード
    ジューン・ロックハート
    チャールズ・マッグロー
    ジョン・ウェングラフ
    アントン・コスタ
    ジェーン・ランドルフ
    ハーバート・ヘイズ

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捜査課長カーソン(H・ヘイズ)は偽札ルートの捜査を決定する

潜入捜査に選ばれたオブライエン(D・オキーフ)とジェナーロ

2人はマフィアを装う

 『ウィンチェスター銃'73』(50年)や『裸の拍車』(53年)、『ララミーから来た男』(55年)など、俳優ジェームズ・スチュワートとのコンビで数多くの傑作西部劇を世に送り出した名匠アンソニー・マン。もともとインディペンデント・スタジオの低予算映画でメガホンを取っていた彼がハリウッドで認められるようになったのは、40年代後半に手掛けたフィルム・ノワール映画の数々だった。その中でも特に傑作として名高いのが、この“T-Men”である。
 よくフィルム・ノワールはジャンルではなくてスタイルだと言われるが、この作品を見ればその意味がよく分かるだろう。俳優の動きやセリフのタイミングまで計算して設計されたライティング、幾重にもレイヤーを重ねて構築された奥行きのある映像。ワイドスクリーンの画面フレームをめいっぱい使うことで知られるマン監督だが、スタンダード・サイズの本作では画面の手前から奥まで全ての動きを無駄なくカメラに捉え、まるで3Dの立体映画を見ているような錯覚を起こさせる。この完璧なまでの様式美こそが、マン監督のフィルムノワール映画の真骨頂と言えるだろう。
 主人公はアメリカ財務省の金融犯罪捜査官たち。マフィアの偽札ルートを追って潜入捜査を行う彼らの活躍が見どころとなるわけだが、裏社会の恐ろしい実態や捜査官の非情な運命を徹底したリアリズムで生々しく描いていく。中でも、高温のサウナに閉じ込められた男が熱死するシーンはなかなかショッキング。暗闇に
立ちこめる濃厚な蒸気と歪んだカメラワークが一種異様な雰囲気を醸し出して秀逸だ。
 配給はイーグル=ライオンという低予算映画専門の弱小スタジオ。人気スター不在のキャストも地味そのものだが、アンソニー・マンの演出とジョン・オルトンのカメラは紛うことなき一級品だ。たとえ製作費がなくても素晴らしい映画を撮ることが出来るということを見事に証明した傑作である。

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マフィアのドン、ヴァントゥッチ(A・コスタ)のもとで働くことに

ヴァントゥッチに根性を見込まれたジェナーロ(A・ライダー)

連日サウナを捜索するオブライエン

 ロサンゼルスで大量の偽札が発見された。財務省の捜査課長カーソン(ハーバート・ヘイズ)はデトロイトのイタリアン・マフィア、ヴァントゥッチ一味が関与していると睨み、潜入捜査官を送り込むことにする。選ばれたのはセントルイスのオブライエン捜査官(デニス・オキーフ)とインディアナポリスのジェナーロ捜査官(アルフレッド・ライダー)。2人ともデトロイトやロサンゼルスで顔が割れておらず、イタリア語にも堪能だった。
 オブライエンとジェナーロはそれぞれハリガンとガルヴァーニという偽名を使い、デトロイトにあるマフィア御用達の安ホテルへチェック・インする。その頃、警察は2人の偽指名手配書を全国に配った。ホテルにも警察官がチェックにやって来る。これでオーナーの信用を得た二人は、デトロイト・マフィアのドンであるヴァントゥッチ(アントン・コスタ)に紹介される。
 ヴァントゥッチの元で密造酒作りの手伝いをするようになった2人だったが、本部からの指令でオブライエンはロサンゼルスへ。彼が突然いなくなったことを不審に思ったヴァントゥッチだったが、激しい尋問にも決して口を割ろうとしないジェナーロを気に入る。
 一方、ロサンゼルスへ向ったオブライエンは、スキーマー(ウォーレス・フォード)という中年男を捜す。この人物が偽札の流布に大きく関与しているらしいのだ。手がかりは匂いの強い特殊なタバコと漢方薬、そして背中の大きな傷。チャイナタウンで粘り強く聞き込みを行ったオブライエンは、それらしき人物がサウナに出入りしているという情報を得る。
 市内のサウナを連日回ったオブライエンは、ついに該当する男を見つけた。その後を尾けていくと、とあるギャンブル場に入っていった。客を装ったオブライエンは男に両替を頼む。案の定、受け取った紙幣は巧妙に出来た偽札だった。やはり、彼こそがスキーマーだったのだ。
 スキーマーの自宅に押しかけたオブライエンは、取り引きを持ちかけることで偽札の出所を吐かせようとする。しかし、慎重なスキーマーは日を改めて相手を紹介するという。仕方なく納得したオブライエンだったが、念のためにその後のスキーマーの足どりを追った。
 すると、彼はバー・トリニダードという酒場でホステスに偽札のサンプルを渡していた。偽造グループの出方を探るため、オブライエンは同じようにしてホステスに偽札を掴ませた。その翌日、オブライエンのホテルにモクシー(チャールズ・マッグロー)というギャングが現れる。財務省の捜査官(通称Tメン)と疑われたオブライエンは激しい拷問を受けるが、デトロイトのヴァントゥッチ一味であることが証明され、ロスの裏社会を牛耳るボス、トリアーノ(ジョン・ウェングラフ)に紹介されることとなる。
 トリアーノの信頼を得たオブライエンは、造幣局から借りた紙幣プレートを見せて新たな偽札ビジネスを持ちかける。トリアーノは流通を仕切ってるだけで、偽造グループのボスは別に存在するからだ。プレートの出来栄えに感心したトリアーノは、商売を取り仕切っている女性エヴァンジェリン(メアリー・ミード)を紹介する。だが、彼女も本当のボスではなかった。
 その頃、ヴァントゥッチのもとからロサンゼルスへ送り込まれたジェナーロはスキーマーとコンビを組むことになる。ある日、スキーマーと市内を歩いていたジェナーロは、休暇で友人とロスを訪れている妻メアリー(ジューン・ロックハート)に遭遇してしまう。潜入捜査のことを知らないメアリーと友人はジェナーロに話しかけるが、なんとか別人のふりをしてその場を切り抜けた。だが、一部始終を見ていたスキーマーは怪訝そうな表情を浮かべる。
 オブライエンの持ち込んだ紙幣プレートを気に入ったエヴァンジェリンは、用済みになったスキーマーの始末を命じる。モクシーはサウナの個室にスキーマーを閉じ込めて窒息死させた。だが、死の直前にスキーマーがジェナーロの身辺を探っており、彼が財務省の捜査官であることがバレてしまう。なんとか彼に危機を知らせようとするオブライエンだったが、すでに手遅れだった。彼はジェナーロが目の前で射殺されるのを黙って見ているしかなかった・・・。

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スキーマー(W・フォード)は偽札ルートのキーマンだった

オブライエンはモクシー(C ・マッグロー)に拷問を受ける

LAマフィアのドン、トリアーノに取り入るオブライエン

 物語そのものは禁酒法時代に実際起きた事件を元にしており、当時の財務省高官エルマー・リンカーン・アイリー本人がプロローグとエピローグに登場して捜査官たちの勇気を讃えている。そして、本作唯一の欠点が、このプロローグとエピローグだ。恐らく財務省の宣伝をすることで幾らかの資金援助を受けていたのだろう。スタジオ的には絶対必要なシーンだったのかもしれないが、作品的には全く余計だった。特にプロローグでダラダラと演説をぶたれるのは完全にマイナス・ポイント。これで見るのをやめてしまう人がいてもおかしくないだろう。とりあえず、この部分は我慢して見過ごしておきたい。
 実際の事件を元に原案を書き上げたのは、ギャング映画の傑作『白熱』(49年)でオスカーにノミネートされた女流脚本家ヴァージニア・ケロッグ。アンソニー・マンがノー・クレジットで参加した名作フィルム・ノワール『夜歩く男』(48年)のジョン・C・ヒギンズが脚本を手掛けている。
 撮影のジョン・アルトンは『巴里のアメリカ人』(51年)でオスカーを受賞した名カメラマン。マン監督とは本作で初めてコンビを組み、『流血の谷』(50年)までの作品全てを手掛けている。卓越したライティング・テクニックの持ち主だったが、本人曰く“どこに照明を当てるのかではなく、どこに照明を当てないのか”ということが撮影の重要な鍵だったという。

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ジェナーロは偶然にも妻メアリー(J・ロックハート)と遭遇する

偽札ルートを仕切る女性エヴァンジェリン(M・ミード)

オブライエンの目の前でジェナーロが殺される

 主演のデニス・オキーフはフリッツ・ラングの傑作ノワール『死刑執行人もまた死す』(43年)でヒロインの恋人役を演じていたデニス・オキーフ。RKOホラーの名作『レオパルドマン豹男』(43年)やジョン・ウェインと共演した『血戦奇襲部隊』(44年)などのB級映画で活躍したタフガイ・スターだった。
 その相棒を演じるアルフレッド・ライダーは主にテレビ・ドラマで活躍した脇役俳優で、60年代の人気ドラマ『インベーダー』ではエイリアン役で顔を出している。そして、その若妻メアリー役には名女優ジューン・ロックハート。『名犬ラッシー』や『宇宙家族ロビンソン』といった人気ドラマの綺麗なお母さん役でお馴染みの女優だが、当時はまだB級映画専門だった。
 そのほか、40年代のB級映画女優メアリー・ミードがマフィアの女幹部エヴァンジェリン役を、ジョン・フォード映画の常連として有名な名脇役ウォーレス・フォードがスキーマー役を、フィルム・ノワールの名作『その女を殺せ』(52年)に主演していたチャールズ・マックグローが殺し屋モクシーを、『キャット・ピープル』(42年)の準ヒロイン役で知られるジェーン・ランドルフがメアリーの親友ダイアナ役で顔を出している。

 

出獄
Call Northside 777 (1948)

日本では1949年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2004 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/ステレオ
・モノラル/音声:英語・フランス語/字幕
:英語・スペイン語/地域コード:1/111分/製作:アメリカ

映像特典
プレミア試写会のニュース映像
映画批評家の音声解説
オリジナル劇場予告編
監督:ヘンリー・ハサウェイ
製作:オットー・ラング
原作:ジェームズ・マクガイア
脚色:レナード・ホフマン
    クェンティン・レイノルズ
脚本:ジェローム・キャディ
    ジェイ・ドラットラー
撮影:ジョセフ・マクドナルド
音楽:アルフレッド・ニューマン
出演:ジェームズ・スチュワート
    リチャード・コンテ
    リー・J・コッブ
    ヘレン・ウォーカー
    ベティ・ガード
    カーシャ・オルザゼウスキー
    ジョアン・デ・ベルグ
    ハワード・ミルズ
    モローーニ・オルセン
    E・G・マーシャル
    セルマ・リッター

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シカゴの下町で起きた警官殺害事件

ポーランド人の移民ウィーチェック(R・コンテ)が逮捕される

目撃者ワンダの証言で有罪となるウィーチェック

 無実の罪で投獄された男を救うために奔走する新聞記者の姿をセミ・ドキュメンタリー・タッチで描いたフィルム・ノワールの名作。息子の無実を信じる母親が出した新聞広告をきっかけに、過去の警官殺害事件の捜査に疑問が生じていく。
 名匠ヘンリー・ハサウェイ監督は徹底したロケーション撮影にこだわり、よりリアルな緊張感を生み出すため、劇中に登場するウソ発見器も本物を俳優に使わせている。近未来的なデザインで強烈なインパクトを残す刑務所シーンも、イリノイ州に実在する州立刑務所にて撮影された。そうした映像のリアリズムだけではなく、事件の背景に横たわるマフィアの権力や移民問題、警察内部の腐敗にもメスを入れ、非常に社会性の高い作品に仕上がっている。
 その一方、リアリズムに比重を置きすぎたがために、フィルム・ノワール独特のスタイルやムードが希薄になってしまったことは否めない。また、懐疑主義で皮肉屋の新聞記者を演じるジェームズ・スチュワートに関しても、ついつい『スミス都へ行く』(39年)のイメージをオーバーラップさせてしまうことで若干の違和感が生まれてしまう。
 正直なところ、ハサウェイ監督のフィルム・ノワール作品としては、『Gメン対間諜』(45年)や『死の接吻』(47年)の方が良く出来ているかもしれない。とはいえ、それはあくまでも比較論であって、本作の完成度を否定するものでは一切ないことを明言しておきたい。

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シカゴ・タイム紙編集長ケリー(L・J・コッブ)

ケリーは敏腕記者マクニール(J・スチュワート)に取材を命じる

マクニールはウィーチェックと面会する

 1932年11月9日、イリノイ州はシカゴの下町で、見回り中の警官バンディ巡査が覆面の2人組に射殺された。現場となった食堂の女将ワンダ(ベティ・ガード)の証言が決定打となり、ポーランド系の移民フランク・ウィーチェック(リチャード・コンテ)と友人トメック(ジョージ・タイン)の2人が有罪となり、禁固99年の実刑が言い渡された。
 それから11年後。地元紙シカゴ・タイムスの広告欄に、バンディ巡査殺害事件の目撃情報を募る短い一文が掲載された。連絡先は“ノースサイド777番”。これを見たシカゴ・タイムスの編集長ブライアン・ケリー(リー・J・コッブ)は直感で強く興味を引かれ、腕利きのベテラン記者マクニール(ジェームズ・スチュワート)に取材を指示する。
 広告主はウィーチェックの母親ティリー(カーシャ・オルザゼウスキー)だった。いまだに息子の無実を信じる彼女は、掃除婦の仕事をしながら11年間かけて5000ドルを貯め、それを懸賞金に充てていた。所詮は母親の戯言に過ぎないと感じたマクニールは、取材をする価値などないと判断するが、編集長は簡単には折れない。11年間も息子を信じ続けている母親がいるというだけでも、十分に読者の興味を惹きつける記事となりうる。もっと価値のある事件を取材をすべきだと反発するマクニールだったが、編集長にやり込められてしまった。
 しかたなく、州立刑務所に収監されているウィーチェックを訪ねたマクニール。目の前に現れた男は、とても凶悪犯罪を犯すような人物には見えなかった。刑務所の所長も、ウィーチェックが殺人犯だとは到底思えないと語る。彼の理性的で落ち着いた言葉に耳を傾けるうち、マクニールは無罪の可能性を感じ始めるのだった。
  次に、マクニールはウィーチェックの妻ヘレン(ジョアン・デ・ベルグ)を探し出す。ヘレンは既に離婚をし、ライスカ氏(E・G・マーシャル)という男性と再婚していた。やはり犯罪者である夫に愛想を尽かしたのかと思いきや、ヘレンは意外な事実をマクニールに語りはじめる。離婚と再婚はウィーチェックに勧められたというのだ。妻と息子の行く末を案じたウィーチェックは、知人であるライスカに彼らを委ねたのだった。
 事件当日夫と一緒だったというヘレンの証言は使いものにはならず、結果的に大きな収穫はなかった。しかし、自ら妻ローラ(ヘレン・ウォーカー)を深く愛するマクニールは、家族の幸せを最優先に考えるウィーチェックが殺人犯とはとても思えなかった。ウィーチェックと一緒に逮捕された友人トメックの証言から確信を深めたマクニールは、事件をもう一度洗いなおすことにする。
 しかし、既に解決している事件を掘り返すことに警察は非協力的だった。裏のコネを使って警察の資料ファイルに目を通したマクニールは、捜査の過程で警察の証拠捏造が行われた可能性に気付く。
 ところが、マクニールの取材に対して政治的な圧力がかかった。一連の過程を報道してきた彼の記事は大変な反響を呼び、世間の警察に対する批判が高まっていたのだ。警察の威信が傷つくことを恐れた警察上層部や裁判所は取材の中止を求めてきた。社長を交えた話し合いの結果、事件に関する聴聞会を開くことを条件に警察の不正は追及しないことに合意する。
 だが、聴聞会までにウィーチェックの無罪を証明する証拠が必要だった。ライバルの新聞社から手に入れた写真は、ワンダの偽証を裏付ける唯一の証拠だったが、日付を特定出来ないため使いものにはならなかった。裁判以来行方をくらましているワンダの居所を突き止めたマクニールだったが、何かに怯えている様子の彼女は頑なに証言を拒否する。
 八方塞となってしまったマクニール。だが、いよいよ聴聞会の開かれる当日、彼は例の写真に隠された重要な手がかりに気付く・・・。

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ウィーチェックの妻ヘレンは意外な事実を告白した

苦悩するマクニールを支える妻ローラ(H・ウォーカー)

マクニールはウィーチェックを信じることにする

 実は、本作は全て事実に基づいている。ウィーチェックのモデルとなったのはジョセフ・マイチェックというポーランド系移民。彼は、1932年12月に起きた警察官ウィリアム・ランディの殺害事件で有罪判決を受け服役していた。マクニールのモデルとなったのは、実際にシカゴ・タイムス紙の記者だったジェームス・マクガイア。ことのあらましは映画のストーリーとほぼ一緒だ。
 雑誌“タイム”と“リーダース・ダイジェスト”で紹介された記事を読んだ20世紀フォックス社長ダリル・F・ザナックは、すぐさまマクガイアに連絡を取って映画化権を買い付けたという。マクガイアの記事をもとに映画用のストーリーを書き上げたのは、第二次世界大戦の戦場ルポで名を挙げたジャーナリストのクェンティン・レイノルズと、同じくジャーナリストのレナード・ホフマン。ハサウェイ監督の戦争映画『ミッドウェイ囮作戦』(45年)でオスカーにノミネートされたジェローム・キャディと、『ローラ殺人事件』(44年)でオスカーにノミネートされたジェイ・ドラットラーが脚本を手掛けた。
 撮影は『若き獅子たち』(58年)や『ペペ』(60年)などでオスカーにノミネートされたカメラマン、ジョセフ・マクドナルド。そして、巨匠アルフレッド・ニューマンが音楽を担当した。

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警察はマクニールの取材を妨害しようとする

政治的な圧力を受けるマクニールだったが・・・

無名時代のE・G・マーシャル(右)が端役で登場する

 主演はアメリカの良心を体現し続けた大スター、ジェームズ・スチュワート。皮肉屋で懐疑主義の新聞記者という役柄はちょっと違和感があるものの、パワフルで力強い演技はさすがの貫禄。とっぽい2枚目を演じていた若い頃のジェームズも大好きだが、やはり彼は正義と信念の人がよく似合う。
 無実の罪で投獄された男ウィーチェックを演じるリチャード・コンテは、個人的に『ゴッドファーザー』(70年)以降のマフィア映画の印象が強い俳優だが、当時はフィルム・ノワールのスターとして引っ張りだこだった。また、『エクソシスト』(73年)の警部役や『十二人の怒れる男』(57年)でもお馴染みの名優リー・J・コッブも大好きな俳優。マクニールに負けないくらい頑固だが頼りになる編集長役を豪快に演じて秀逸だ。
 その他、『悪魔の往く町』(47年)の悪女役が印象的だったヘレン・ウォーカーがマクニールの愛妻役を、ブロードウェイの名女優ベティ・ガードが一筋縄ではいかない老女ワンダ役を演じている。また、当時まだ無名だった名優E・G・マーシャルがライスカ氏役で登場。また、ヒッチコックの『裏窓』(54年)でスチュワートと共演することになる老女優セルマ・リッターが、警察署長の秘書役で一瞬だけ顔を見せている。

 

Whirlpool (1949)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/ステレオ
・モノラル/音声:英語:字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/97分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
映画評論家による音声解説
監督:オットー・プレミンジャー
製作:オットー・プレミンジャー
原作:ガイ・エンドア
脚本:ベン・ヘクト
    アンドリュー・ソルト
撮影:アーサー・C・ミラー
音楽:デヴィッド・ラスキン
出演:ジーン・ティアニー
    リチャード・コンテ
    ホセ・ファーラー
    チャールズ・ビックフォード
    バーバラ・オニール
    エドゥアルド・フランツ
    コンスタンス・コリアー
    フォルトゥニオ・ボナノヴァ

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万引きの現場を押さえられた人妻アン(G・ティアニー)

アンの窮地を救ったのはコーヴォ(J・ファーラー)という男だった

夫ウィリアム(R・コンテ)の前では良妻を演じるアン

 心の病を抱えた情緒不安定なブルジョワ・マダムが、悪徳精神科医の催眠術によって殺人犯に仕立て上げられるという犯罪ミステリー。フィルム・ノワールというよりもサイコ・サスペンスと呼ぶべきだろうか。巨匠オットー・プレミンジャーの監督・製作による作品だが、残念ながら催眠術をテーマにしたプロットとトリックには真実味が欠けている。本物の精神科医をテクニカル・アドバイザーとして雇ったというからには、医学的・科学的根拠に基づいたものなのだろうが、観客を十分に納得させるだけの説得力に乏しいのだ。また、トリックが一気に解明されるクライマックスも強引でご都合主義な印象を受ける。
 だが、ヒロイン役を演じるジーン・ティアニーの美しさと存在感は相変わらず素晴らしい。彼女を眺めるだけでも十分に見る価値のある作品だ。もちろん、フィルム・ノワールの醍醐味である光と影のコントラストを巧みに操ったプレミンジャーの演出も悪くない。とどのつまりは見た目が全ての映画と言えなくもないのだが、ことジーン・ティアニー・ファンであれば十分に楽しめる映画だとは思う。

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コーヴォはアンに催眠術を使った治療を申し出る

コーヴォの催眠術にかかったアン

アンに忠告するランドルフ夫人(B・オニール)

 著名な精神分析医ウィリアム・サットン(リチャード・コンテ)の妻アン(ジーン・ティアニー)は、高級デパートで万引きしたところを警備員に捕まってしまう。どうやら本人は無意識のうちに商品を盗んでいたらしい。夫に知られたくないと頑なに名前を名乗ろうとしないアン。デパート側は警察に通報すると騒ぎ始め、アンは絶体絶命の窮地に追い込まれた。ところが、その一部始終を見ていた男が仲裁に入り、盗品の代金を支払った上で、アンを外に連れ出してしまった。
 何事もなかったように家へ戻るアン。翌日、夫のウィリアムは講演会のために出張へと出かけた。ところが、例の男から電話が入り、彼の自宅に招かれる。口止め料を要求されるのだろうと考えたアンだったが、男は意外なことを彼女に申し出る。彼の名前はデヴィッド・コーヴォ(ホセ・ファーラー)。催眠術を研究する精神科医だった。彼はアンの窃盗癖は精神面に原因があるとし、内密で治療を施してくれるという。
 にわかには彼を信用する事のできないアン。しかし、コーヴォから社交界の大御所コスグローヴ夫人(コンスタンス・コリアー)のパーティに誘われ、そこで彼の人脈や人柄を知ってすっかり信用する気になった。だが、そんな彼女にコーヴォの愛人だったランドルフ夫人(バーバラ・オニール)が忠告する。彼は金が目当ての危険な男だと。しかし、アンはその言葉を男に振られた中年女の恨み言としか捉えなかった。
 それでも、コーヴォは掴みどころのない男だった。突然手を握って言い寄ってきたかと思えば、何事もなかったかのように平然とした顔をする。そんな彼の催眠治療を受けたアンだったが、ある晩いきなり夢遊病者のように自宅から外へと歩き出る。彼女がやってきたのはランドルフ夫人の邸宅。意識が戻った彼女の目に飛び込んできたのは、無残にも殺害されたランドルフ夫人の姿だった。そこへ警報ベルを聞いた警備員が駆けつけ、警察に通報した。
 警察ではコルトン警部(チャールズ・ビックフォード)がアンを尋問する。状況的にアンは圧倒的不利だった。警部はコーヴォを巡る三角関係のもつれから、アンがランドルフ夫人を殺害したと睨む。もちろん、アンは頑なに否定するが、全く記憶がないために反論も出来ない。いずれにせよ、彼女は容疑者として拘留されることになった。
 その後、コルト警部から連絡を受けた夫ウィリアムが警察に到着。妻に容疑がかかっていることに戸惑いを隠せないウィリアムだったが、デヴィッド・コーヴォが絡んでいることを知って表情を変える。というのも、ランドルフ夫人は最近になってウィリアムの治療を受けるようになり、コーヴォの裏の顔を証言していたからだ。しかも、夫人は彼に対して訴訟を起こす予定だったという。
 ウィリアムはコーヴォがランドルフ夫人を殺害し、何らかの弱みを握られているアンが彼を庇っていると考える。だが、事件当時コーヴォは手術を受けて入院中で、客観的なアリバイが成立していた。セラピー中にランドルフ夫人の証言を記録したレコード盤も紛失している。アンにとって状況はさらに不利となった。
 しかし、夫のいない場でアンは初めて自分の窃盗癖のこと、そして万引きの現場をコーヴォに見られたことを語り始める。それを聞いたコルト警部は、アンがコーヴォに貶められたのではないかと疑問を抱くようになる。一方、ウィリアムもコーヴォのアリバイに意外な落とし穴があることに気付いた・・・。

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夜中に突然家を抜け出すアン

アンはランドルフ夫人の他殺体を発見する

殺人容疑で警察の尋問を受けるアン

 原作は『古城の妖鬼』(35年)や『悪魔の人形』(36年)など怪奇映画の脚本家としても知られる作家ガイ・エンドアの小説。『暗黒街』(27年)と『生きているモレア』(35年)で2度オスカーを受賞し、『ヒズ・ガール・フライデー』(40年)や『汚名』(46年)、『武器よさらば』(57年)など数多くの名作を手掛けたベン・ヘクトが脚本を手掛けている。また、『ジョルスン物語』(46年)や『若草物語』(49年)で知られるアンドリュー・ソルトも脚本に参加。サスペンスとしてのトリックや謎解きはいろいろと飛躍し過ぎているが、サイコロジカルな人間描写と巧みなセリフはさすがに上手い。とてもよく練られているという印象だ。
 撮影を手掛けたのは、『アンナとシャム王』(46年)でオスカーを受賞したアーサー・C・ミラー。ジーン・ティアニーの美しさを際立たせるライティング・テクニックと、流麗でスタイリッシュなカメラワークが見事。また、20世紀フォックスの誇る職人リーランド・フラーとライル・ホイーラーの手掛けた、モダンで洗練された美術デザインの数々も特筆に価する。

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コルト警部(C ・ビックフォード)はアンが犯人だと疑う

コーヴォの催眠術で記憶を失ったアン

ウィリアムは妻が罠にはめられたと主張するが・・・

 そして、やはりジーン・ティアニーにはフィルム・ノワールがよく似合う。もちろん、エルンスト・ルビッチの『天国は待ってくれる』(43年)とか、マンキーウィッツの『幽霊と未亡人』(47年)のようなロマンティック・コメディにおけるキュートな彼女も大好きだが、その一方で彼女の東洋的な顔立ちは陰のあるヒロインとしてもうってつけ。そこにいるだけで様々なドラマを連想させる稀有なスターだったと思う。
 その夫ウィリアム役を演じているのは、上記の『出獄』にも出ていた名優リチャード・コンテ。さらに、セシル・B・デミルの『ダイナマイト』(29年)やグレタ・ガルボの相手役を演じた『アンナ・クリスティ』(30年)で有名なチャールズ・ビックフォードがコルト警部役で渋い演技を見せる。彼は若い頃から喧嘩っ早い問題児として有名で、一時期はMGMの要注意人物リストに挙げられていたほどだったらしい。
 そして、催眠術を使ってヒロインを貶める怪しげな男コーヴォを演じているのは、『シラノ・ド・ベルジュラク』(50年)でアカデミー主演男優賞を受賞するホセ・ファーラー。ブロードウェーのトップ・スターとして鳴らした彼は、当時鳴り物入りで映画界に転身したばかりだった。
 その他、19世紀初頭のブロードウェイを代表する伝説的な大女優コンスタンス・コリアーがコスグローヴ夫人役、『風と共に去りぬ』(39年)でスカーレット・オハラの母親役を演じていたバーバラ・オニールがランドルフ夫人役、『遊星よりの物体X』(51年)のドクター役で知られるエドゥアルド・フランツが弁護士アヴェリー役で脇を固めている。

 

暗黒の恐怖
Panic In The Streets (1950)

日本では1951年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2004 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/ステレオ
・モノラル/音声:英語・スペイン語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/96分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
映画評論家による音声解説
監督:エリア・カザン
製作:ソル・C・シーゲル
原案:エドナ・アンハルト
    エドワード・アンハルト
脚色:ダニエル・フックス
脚本:リチャード・マーフィ
撮影:ジョセフ・マクドナルド
音楽:アルフレッド・ニューマン
出演:リチャード・ウィドマーク
    ポール・ダグラス
    バーバラ・ベル・ゲデス
    ジャック・パランス
    ゼロ・モステル
    ダン・リス
    トミー・クック
    トミー・レッティグ

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ニューオーリンズの波止場で身元不明の死体が発見される

死体から感染性の高い肺ペスト菌が検出された

リード博士(R・ウィドマーク)は非常事態を宣言するが・・・

 病原菌を持った犯罪者を探すために奔走する衛生局博士と刑事の姿を描いたセミ・ドキュメンタリー・タッチのフィルム・ノワール。犯罪、病原菌、刑事とくれば、アクションとパニック満載の娯楽大作を期待してしまうところかもしれないが、そこは社会派の巨匠エリア・カザン監督のこと。感染の危機と困難な捜査をサスペンスフルに織り交ぜながら、社会の底辺に生きる人々の姿を生々しく描いていく。それに、そもそも50年以上も前の作品なので、『24』みたいなアクションを期待する方が間違っているのだけれど(笑)
 それにしても、全く無駄なところのないエリア・カザンの演出は素晴らしい。全編に渡ってニューオーリンズでのロケ撮影が行われ、一般の市民がエキストラとして参加。ニュース映像さながらのリアルな臨場感を生んでいる。もちろん、フィルム・ノワール独特のダークな映像美も健在で、特にナイト・シーンの幻想的で悪夢的な世界観は秀逸だ。
 また、犯人の足取りを追って懸命な捜査を続ける主人公たちと危機意識の薄い上層部、危険と隣り合わせに生きる労働者たちとその上に胡坐をかいて威張っている経営者など、反権力的な要素を随所に散りばめているのもエリア・カザンらしい趣向と言えるだろう。
 そして、リチャード・ウィドマークにポール・ダグラス、ジャック・パランスにゼロ・モステルと、アクの強い個性的な役者を揃えたキャスティング。特に、これが映画デビューとなったジャック・パランスの狂暴で不敵な面構えは圧倒的な存在感だ。

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捜査を担当するウォーレン刑事(P・ダグラス)は気乗りがしない

激しく対立するリード博士とウォーレン刑事

ブラッキー(J・パランス)に危険を知らせるフィッチ(Z・モステル)

 舞台はニューオーリンズ。波止場にほど近いレストランで、怪しげな男たちがカード・ゲームに興じている。その中の一人、コチャック(ルイス・チャールズ)が体調不良を訴えて店を後にした。リーダー格のブラッキー(ジャック・パランス)は、コチャックの従兄弟ポルディ(トミー・クック)と子分フィッチ(ゼロ・モステル)を引き連れてその後を追う。ブラッキーはコチャックが逃げようとしているものと考え、その場で殺害した。
 翌日、波止場でコチャックの死体が発見され、身元不明のまま警察の遺体安置所に回された。検死を担当した医師は死体の血液にバクテリアらしきものを発見して顔をこわばらせる。その頃、久々の休暇を妻ナンシー(バーバラ・ベル・ゲデス)、息子トミー(トミー・レッティグ)と共に過ごしていた衛生局のリード博士(リチャード・ウィドマーク)は、警察の検視官から呼び出しの電話を受けた。
 死体の検査を行ったリード博士は、被害者が感染性の高い肺ペストに侵されていたと断定する。現場に居合わせた職員全員にワクチンを打った博士は、すぐさま市長や警察幹部に連絡して対策会議を招集した。すぐにでも大量の警官を動員して遺体の身元を割り出し、彼と接触のあった人物全員にワクチンを打たないと、またたく間に伝染病の拡大する危険性がある。そう警告するリード博士だったが、上層部の人々は彼の意見に懐疑的だった。誰もが余計なトラブルは避けたいというのが本音だ。それでも食い下がらないリード博士は、48時間以内に事件を解決すべくニューオーリンズ市警察の全面的な協力を取り付ける。
 捜査を担当することになったのはベテランのウォーレン刑事(ポール・ダグラス)。被害者の身体的特徴からスラヴ系と判断し、警察は移民の住む地区を中心に捜査を進めた。だが、なかなか手がかりが掴めない。苛立ちを隠せないリード博士は、ウォーレン刑事と激しく対立する。ウォーレン刑事自身も、リード博士が己の立身出世を狙って事を荒立てているとしか見ていなかった。
 警察が当てにならないと考えたリード博士は、自ら捜査に乗り出すことにした。船乗りたちの集会場へ乗り込んだ博士は、死んだ男の写真を配って情報を募る。男が密入国者である可能性もあるからだ。しかし、部外者に対して閉鎖的な船乗りたちの口は重かった。大きな壁に直面したリード博士。そんな彼に一人の女性が接触してきた。会わせたい男がいるという。その男とは、貨物船“ナイル・クィーン”の乗組員だった。博士の粘りに根負けした男は、病気の密入国者を乗せたことを渋々白状する。
 その頃、ニューオーリンズ市内では警察による大掛かりな捜査が続行されていた。警察がコチャックの身元を捜していることを知ったフィッチは、急いでブラッキーに危険を知らせる。一度は街を出ることを考えたブラッキーだったが、なぜ警察がコチャックのような小悪党の身元を必死になって捜しているのだろうかと疑問に思う。警察はパニックを避けるため、肺ペストのことは機密事項にしていた。コチャックがなにか重要なものを密輸していたに違いないと考えたブラッキーは、彼の従兄弟ポルディの行方を捜すことにする。もしコチャックが金目のものを隠していたのだとすれば、その在り処を知っているのはポルディ以外にいないからだ。
 一方、感染源の手がかりを掴んだリード博士は、ウォーレン刑事と共に貨物船“ナイル・クィーン”の立ち入り捜査に乗り出す。しかし、運航停止を恐れる船長や航海士たちは捜査協力を頑なに拒む。だが、自分たちの命が危険に曝されていると気付いた船乗りたちが反旗を翻した。中国人の料理人がペストらしき熱病に侵されていたのだ。そして、その原因は船底に繁殖するネズミだった。船乗りたちの協力を得たリード博士たちは、コチャックがアルジェリアのオランで乗船したこと、シシケバブが大好物だったことを突き止める。
 市内でシシケバブを出しているギリシャ料理店を訪れたリード博士とウォーレン刑事。そこは、コチャックたちが入り浸っていた店だ。しかし、店主夫婦は知らぬ存ぜぬを決め込む。少数民族の人々は日頃から警察に不信感を抱いているのだ。しかし、夕方になって妻が発病。連絡を受けたリード博士は、彼女が肺ペストに侵されていることを知る。
 さらに、出しゃばりのマスコミがリード博士を悩ませる。知る権利を主張する記者が、ペストに関する記事を書かせろと脅してきたのだ。ウォーレン刑事が独断で記者の身柄を拘束して一件落着かと思われたが、その事実を知った市長が激怒。釈放された記者は明日の朝刊で事実を公表すると宣言して立ち去って行った。それまでにコチャックの足どりを掴まねばならない。リード博士とウォーレン刑事に残された時間は僅かだった・・・。

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リード博士は船乗りたちから情報を集めようとする

貨物船“ナイル・クィーン”の乗組員が密入国補助を自白

リード博士たちは“ナイル・クィーン”の立ち入り捜査を行う

 ストーリーの原案を書いたのは、戦時中に犯罪小説家としても活躍した脚本家のエドワード・アンハルトと当時の妻エドナ。2人は本作でアカデミー賞の原案賞を受賞している。さらに、『裏切りの街角』(45年)や『第三暗黒街』(54年)などのフィルム・ノワールで知られるダニエル・フックスが脚色を担当し、『影なき殺人』(47年)などでオスカーにノミネートされたリチャード・マーフィが脚本を仕上げた。
 撮影監督はジョセフ・マクドナルド。上で紹介した『出獄』も彼の手によるものだったが、ほかにも『情無用の街』(48年)や前回紹介した“Fourteen Hours”(51年)など、セミ・ドキュメンタリー・タッチの撮影は彼の得意分野だったと言えるだろう。また、モンローの衣装デザイナーとして有名なトラヴィーラが参加しているのも興味深いところ。なにしろ、派手な衣装なんか全くと言っていいほど出てこない作品なので。

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リード博士とウォーレン刑事にウソの証言をする料理店主

料理店主の妻が肺ペストを発病した

リード博士を気丈に支える妻ナンシー(B・ベル・ゲデス)

 主人公リード博士を演じるのは、今年の3月に93歳で大往生した名優リチャード・ウィドマーク。爬虫類系の個性的なマスクをした役者だったが、とにかく画面に出てくるだけでサマになるカッコ良さ。悪役を演じさせてもヒーローを演じさせても、抜群のカリスマ性を発揮するスターだった。本作も彼の存在感に支えられている部分は大きいと言えるだろう。
 その相棒となるウォーレン刑事役のポール・ダグラスも、実に味のある顔をした役者。たたき上げの苦労人を演じさせたら右に出る者のいない名優だ。リード博士の妻ナンシー役のバーバラ・ベル・ゲデスも、素朴でアメリカ的な良妻賢母を演じて上手い。美人過ぎない健康的なナチュラルさこそが、彼女の最大の武器だったように思う。
 そして、短絡的で猜疑心の強いチンピラ、ブラッキーを演じるジャック・パランス。その強烈な存在感と凄みの効いた面構えは、これが映画デビューとは思えないような迫力だ。その子分フィッチを演じる名優ゼロ・モステルの胡散臭い雰囲気も秀逸。日本では知名度の低い役者だったが、メル・ブルックス監督の『プロデューサーズ』(68年)やウディ・アレン監督の『ザ・フロント』(76年)などのコメディ映画でアメリカでは非常に人気の高かった名優。赤狩りに抵抗してハリウッドを追放された過去があり、そういった面でも尊敬を集めた人物だった。
 なお、リード博士の息子トミー役で、テレビの人気ドラマ『名犬ラッシー』で有名な子役スター、トミー・レッティグが顔を出している。

 

殺人会社
Murder,Inc. (1960)

日本では1960年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン/ステレオ・モノラル/音声:英語・スペイン語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/103分
/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
    バート・バラバン
製作:バート・バラバン
原作:シド・フェダー
    バートン・ターカス
脚本:アーヴ・チュニック
    メル・バー
撮影:ゲイン・レシャー
音楽:フランク・デ・ヴォル
出演:スチュアート・ホイットマン
    メイ・ブリット
    ヘンリー・モーガン
    ピーター・フォーク
    デヴィッド・J・スチュワート
    サイモン・オークランド
    サラ・ヴォーン
    モーリー・アムステルダム
    ヴィンセント・ガーデニア
    イーライ・ミンツ
    シルヴィア・マイルズ
    セイモア・カッセル

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ニューヨークの下町で吹き荒れるギャング同士の抗争

暗黒街にその名を知られる殺し屋エイブ・レルズ(P・フォーク)

 1920年代から40年代にかけて、ニューヨークのブルックリン界隈に実在したマフィアの暗殺集団“殺人株式会社”を題材にしたギャング映画。一般的にフィルム・ノワールとして認知はされていない作品だが、そのドキュメンタリー・タッチの演出やモノクロのコントラストを生かした映像スタイル、社会の底辺にうごめく人々の日常を生々しく描いたストーリーは明らかにノワール映画の伝統を踏襲している。
 監督は『暴力脱獄』(67年)や『マシンガン・パニック』(73年)などのタフな男性映画で鳴らした名匠スチュアート・ローゼンバーグと、パラマウント映画の社長を父親に持つお坊ちゃま監督バート・バラバン。映画監督としては2流以下だったバラバンの力量を考えると、本作は実質的にローゼンバーグの作品として見ていいだろう。
 物語はひょんなことからマフィアと関わりを持ってしまった若い夫婦を主人公に、犯罪と隣り合わせで生きる貧しい人々の苦悩と絶望を浮き彫りにしていく。決して後味が良いとは言えないペシミスティックなクライマックスは、現実の厳しさを雄弁に物語って印象的だ。
 また、本作は『刑事コロンボ』でお馴染みの名優ピーター・フォークの出世作でもある。彼が演じるのは狂犬のような殺し屋エイブ・レルズ。社会に対する敵意をむき出しにし、金のためなら誰彼構わず殺していくケダモノ。一見すると小柄で大人しそうに見える彼が、もの凄い形相で豹変する姿には背筋が凍る。まさに圧巻の名演技だ。
 映画そのものは正直なところ平均点レベルの出来。余計なサイド・ストーリーが多く、全体的にテンポもあまり良くない。103分という上映時間が長く感じられる。それでも、スチュアート・ローゼンバーグ監督の長編処女作、そしてピーター・フォークの出世作として、映画ファンにとっては一見の価値がある作品だろうと思う。

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売れないミュージシャン、ジョーイ(S・ホイットマン)

レルズは借金をネタにジョーイを裏社会へと引きずり込む

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蛇のようにしつこつ付きまとうレルズ

ジョーイの妻イーディ(M・ブリット)はレルズを快く思わない

  1930年代半ばのブルックリン。ブラウンスヴィル界隈を仕切るギャング、エイブ・レルズ(ピーター・フォーク)は、衣料メーカーを隠れ蓑にしているマフィアのボス、レプキ(デヴィッド・J・スチュワート)に呼び出される。
 ニューヨークの裏社会はマフィアのボス同士が結託し、シンジケートと呼ばれる巨大組織を形成していた。レプキは凄腕の殺し屋として知られるレルズとその部下たちを、シンジケート専門の殺し屋集団として雇うつもりだった。標的はシンジケートの存在を脅かす企業家や政治家、そして裏切り者や密告者。報酬も小さなヤマとはワケが違う。レルズはひとつ返事でレプキのオファーを引き受けた。
 最初の仕事は、賭博場の経営で儲けている喜劇俳優ウォルター・セイジ(モーリー・アムステルダム)。ギャンブル市場を独占したいマフィアには目障りな存在だ。そこで、レルズはジョーイ・コリンズ(スチュアート・ホイットマン)という若いミュージシャンを呼び出す。
 ジョーイはレルズに莫大な借金があった。しかも、彼の妻イーディ(メイ・ブリット)はウォルター・セイジの劇場で働く踊子で、ジョーイもセイジとは親しい間柄だ。借金をネタにジョーイを脅したレルズは、彼を使ってセイジをおびき寄せて殺害した。
 ジョーイにとっては、これが悪夢の始まりだった。組織の秘密を知ってしまったからには、当然ただでは済まない。レルズの言うがまま犯罪に加担するようになるジョーイ。しかし、マフィアを快く思わないイーディはレルズに食ってかかり、逆にレイプされてしまった。それでも、ジョーイはレルズに歯向かうことができない。たとえ逃げたとしても、すぐに見つかって殺されるだけだ。2人はひたすら耐え忍ぶしかなかった。
 その頃、ニューヨーク市警のトビン刑事(サイモン・オークランド)は、レルズの身辺を洗っていた。彼は長年レルズの犯罪を追い続けている。しかし、ブルックリン界隈の人々は警察に非協力的だった。なぜなら、警官と親しく話をしているだけで、ギャングたちから恐ろしい報復を受けるからだ。彼らにとって、警察は災いをもたらす疫病神でしかない。
 ある日、ジョーイとイーディはレルズから高級アパートを与えられる。もちろん、タダというわけではない。この部屋が麻薬密輸の中継地点となる。つまり、彼らは組織の隠れ蓑として利用されるのだ。当然のことながら躊躇する2人だったが、貧しく惨めな生活に疲れ果てたイーディの心は揺れる。結局、彼らはこのアパートに住むことになった。
 レルズの殺し屋集団はまたたく間に活動の幅を広げ、世間では“殺人株式会社”と呼ばれて恐れられるようになった。警察や裁判所も本格的にマフィア一掃に乗り出し、トーマス・E・デューイ検事の強行捜査で次々と組織が検挙されていく。当然のことながら、レプキも不利な立場に立たされることとなった。
 そこで彼はジョーイとイーディの住むアパートメントに身を隠すことにする。我がもの顔で居座るレプキの我がままに振りまわされるジョーイとイーディ。やがて、レプキは仲間の助言で連邦政府に取引を申し出ることにする。ところが、これは彼を排除しようとするドンたちが仕掛けた罠だった。レプキは懲役30年の実刑判決を食らってしまう。
 しかし、悪徳弁護士ラズロ(ヴィンセント・ガーディニア)は、控訴審で逆転無罪を勝ち取る可能性を示唆する。ただし、そのためには“殺人株式会社”に関わった連中を全て抹殺せねばならない。部下メンディ(ジョセフ・バーナード)に始末する人間を告げるレプキ。その中には、ジョーイとイーディの2人も含まれていた。
 その頃、検事局には新しい検事補バートン・ターカス(ヘンリー・モーガン)が赴任してきた。彼はトービス刑事と共に“殺人株式会社”の実態を暴き、迷宮入りした数多くの殺人事件の真相究明に取り組むことになる。そこへ、イーディが自ら出頭してきた。彼女の証言をもとに“殺人株式会社”のメンバーを検挙しようとしたターカスたちだったが、何者かによってことごとく殺されてしまっていた。警察はすぐさまエイブ・レルズとジョーイ、イーディの身柄を保護するのだったが・・・。

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次々と残虐な殺しを重ねていくレルズ

レルズに啖呵を切ったイーディは、逆にレイプされてしまう

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心優しいがゆえに何をすることも出来ないジョーイ

ジョーイとイーディは高級アパートを買い与えられる

 原作を書いたのは、本編にも登場する検事補バートン・ターカスその人。彼が当時を振り返って書いたノンフィクション本を下敷きに作られた作品だ。脚本を手掛けたのは、主にテレビで活躍したアーヴ・チュニックとメル・バーの2人。どれくらい原作に忠実な映画化なのかは分からないが、少なくともレプキが有罪判決を受けて以降の展開は史実と異なっている。また、ジョーイとイーディという夫婦が本当に存在したのかも疑問だ。
 撮影を担当したゲイン・レシャーは、エリア・カザン監督の名作『群衆の中の一つの顔』(56年)やピーター・イェーツの『ジョンとメリー』(69年)など美しいモノクロ映画を得意としたカメラマン。70年代以降はテレビ映画を中心に活躍し、日本では劇場公開されてヒットした『ジョーイ』(77年)や『ザ・デイ・アフター』(83年)を手掛けている。
 その他、『バージニア・ウルフなんかこわくない』(66年)と『ディック・トレイシー』(90年)でオスカーを受賞したリチャード・サイバートが美術デザインを、『夜を楽しく』(59年)や『キャット・バルー』(65年)などでオスカーにノミネートされたフランク・デ・ヴォルが音楽スコアを担当している。

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マフィアのドン、レプキ(D・J・スチュワート)はジョーイの部屋に身を隠す

タークス検事補(H・モーガン)とトービス刑事(S・オークランド)

 マフィアに運命を翻弄される青年ジョーイを演じるのは、『掠奪戦線』(70年)や『ビッグ・マグナム’77』(76年)などのアクション映画で知られるタフガイ・スター、スチュアート・ホイットマン。悪人に立ち向かう一匹狼を演じることが多い人なだけに、気弱で温厚な若者役というのは意外なキャスティングだ。
 その妻イーディを演じるのは、スウェーデン出身のブロンド美女メイ・ブリット。ディートリッヒの名作をリメイクした『嘆きの天使』(59年)などに主演したスターだったが、本作を最後にサミー・デイヴィス・ジュニアと結婚して映画界を引退している。
 検事補バートン・タークス役を演じているヘンリー・モーガンは、もともとラジオのアナウンサーとして有名になった人物。アメリカでは1952年から20年以上に渡って放送されたテレビのクイズ番組“I've Got A Secret”の出演者としてお馴染みのタレントだった。本作は彼にとって唯一の本格的映画出演作。なお、日本ではテレビ『ドラグネット』に出演していた同姓同名の俳優と混同されている。
 ピーター・フォーク扮するレルズを殺し屋として雇うマフィアのドン、レプキを演じているデヴィッド・J・スチュワートは、ロジャー・コーマンのB級ロックン・ロール映画“Carnival Rock”(57年)に主演していた俳優。トービス刑事役のサイモン・オークランドは、『サイコ』(60年)や『ウェスト・サイド物語』(60年)などの警察官役で知られる役者だ。
 その他、テレビや舞台のコメディアンとして有名だったモーリー・アムステルダムが最初に殺されるウォルター・セイジ役を、日本でもお馴染みのジャズ歌手サラ・ヴォーンがクラブ歌手役を、『狼よさらば』(74年)や『月の輝く夜に』(87年)などのヴィンセント・ガーデニアが悪徳弁護士ラズロ役を演じている。
 また、ジョン・カサヴェテスの『フェイシズ』(68年)やアレクサンダー・ロックウェルの『イン・ザ・スープ』(92年)でお馴染みの名優セイモア・カッセルが、トービス刑事に折檻される不良少年役でワン・シーンだけ顔を出している。

 

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