ラテン落ち葉拾い〜女性サルサ編

 

 以前にインディアのページで触れたように、サルサというのは基本的に男社会で、女性ボーカリストというのが極端に少ない。女がサルサをやる為には、男と対等に渡り合うだけのタフな根性が要求されると言われている。しかも、セリア・クルーズという不世出の女傑が長年に渡って女王として君臨していたこともあり、その次の世代が生まれ育つことなく歴史を重ねてきてしまったのだ。その状況を変えたのがインディアであり、彼女の出現を機に若い世代の女性サルサ・シンガーが少なからず台頭するようになった。しかし、やはり男性優位という構造には変化がなく、今のところ女性サルサ・シンガーで成功しているのは僅かにインディアとブレンダ・K・スターの二人だけ。既に彼女たちもベテランの域に達しており、より若い世代の女性アーティストの登場が待ち望まれている。
 そこで、今回はインディアの成功をきっかけにして登場した女性サルサ・シンガーの中から特に優れたアーティストを駆け足で紹介してみたいと思う。

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クリッシー

 まずは、インディアと同時期にサルサ・デビューしたクリッシーの名前を挙げておきたい。彼女はインディアと非常に似たキャリアの持ち主で、もともとクリッシー・アイース(Chrissy I-eece)の名前で80年代末にフリー・スタイル(ラテン・ヒップホップ)系シンガーとしてデビューした人だった。しかし、幼い頃からサルサを聴いて育ったこともあり、モンゴ・サンタマリアやティト・プエンテとのコラボレーションでも知られるトランペット奏者ルイス・オルティズの師事を仰ぎ、1993年にアルバム“Sangre Nueva...Pa'la Calle”でサルサ・デビューを果たした。
 しかし、彼女がインディアと似ているのはキャリアだけではなかった。その歌声もビックリするくらいインディアと似ていたのである。あまりにも瓜二つなために2番煎じ的な印象を与えてしまったのだろうか、その完成度の高さにも関わらずファースト・アルバムは全く売れなかった。ボーカリストとしても非常に才能のある人だったが、その後は96年にミニ・アルバムを1枚リリースしただけで消えてしまったのは残念だった。
 もう一人、この時期に登場したニューヨークの女性サルサ・シンガー、アンヘラにも言及しておきたい。ギタリストでありラテン・ジャズのアレンジャーとしても知られるホセ・ファブレスがプロデュースを手掛けたアルバム“Jungla Fria”は、ロマンティックで美しいメロディが印象的な非常にフェミニンなサルサ・アルバム。都会的でソフィスティケイトされたファブレスのアレンジも最高で、ボクのオール・タイム・フェイバリットの一つでもある素晴らしい佳作だった。
 ニューヨークから登場した女性サルサ・シンガーと言えば、カルメン・ジメネスも印象的な声を持ったボーカリストだった。カンタ・フラメンコ的な歌唱法を使う人で、独特のコブシ回しと野太い低音がユニーク。彼女の歌ったミリアム・エルナンデスのサルサ・カバー“Herida”は非常にエレガントでゴージャス。ブレンダ・K・スターも同じ曲をサルサ・カバーしていたが、カルメン・ジメネスのバージョンの方が遥かに優れていたと思う。
 一方、日本でも一部で根強いファンを持つのが、ニューヨークのサルサ・シーンを代表する女性ボーカリストの一人であるミオソティス。ザ・ニューヨーク・バンドの元メンバーで、今までに3枚のソロ・アルバムをリリースしている。彼女の売りはワイルドでトロピカルなサルサ。非常に活きのいい女性ボーカリストで、現在もライブを中心にバリバリの現役で活躍中だ。日本企画のサルサ・コンピに参加したりもしているらしいが、久しくアルバムをリリースしていないのは寂しい。

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リリアーナ

 そして、インディア、ブレンダに続くサルサ・クィーンの登場を期待させたのがリリアーナ。98年にリリースされたファースト・アルバム“A Todo Dar”が好評で、シングル“A Que No Le Cuentas”はビルボードのラテン・チャートで37位にランクされた。その豊満な肉体に恥じない(?)非常にパワフルなディーバ・タイプのボーカリストだったが、翌年にリリースされたセカンド・アルバムが不発で、そのまま消えてしまった。
 また、99年にアルバム“Tu Regresaras”でデビューしたシンディ・ララも印象的だった。ボーカリストとしてはパワー不足が否めなかったものの、メロディアスで美しい楽曲はどれもロマンティックで、ポップスとしても立派に通用する素晴らしいサルサを聴かせてくれた。お姫様的なルックスもスター性十分だったが、大して話題にもならずに消えてしまったのは非常に残念だった。
 さらに、
我らが日本が世界に誇るサルサ・バンド、オルケスタ・デ・ラ・ルスのリード・ボーカリスト、ノラの存在も忘れちゃいけないだろう。ソロ・シンガーとしても、今までに3枚のアルバムをリリースしている(内2枚は全米でもリリース)。その陽性で豪快なボーカル・スタイルで、セリア・クルーズの系列に入るサルサ・シンガーと言っていいだろうと思う。

 そして、最後に紹介するのが昨年デビューしたばかりの若手女性シンガー、キュルドレ。恐らくまだ20歳前後の若さだと思うのだが、パワフルで圧倒的な歌唱力といい、サルサにヒップ・ホップやレゲトンの要素を盛り込んだストリート感覚といい、今後の活躍がかなり期待できる逸材だと思う。

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キュルドレ

 

SANGRE_NUEVA.JPG CHRISSY_ALBUM.JPG JUNGLA_FRIA.JPG CARMEN_JIMENEZ_ALBUM.JPG

Sangre Nueva...Pa'la Calle (1993)
Chrissy

Chrissy (1996)
Chrissy

Jungla Fria (1994)
Angela

Carmen Jimenez (1996)
Carmen Jimenez

(P)1993 Soho Latino/Sony (USA) (P)1996 Soho Latino/RMM (USA) (P)1994 Axile (USA) (P)1996 2/3 Clave Records (USA)
1,Sangre Nueva
2,Asi
3,Solo Seremos Amigos
4,Esperame
5,Caminando
6,Rhythm Of The Soul
7,Rain
8,You Got A Friend
9,Pa'la Calle

produced by Luis Perico Ortiz
1,Prometeme
2,Te Amo (Radio)
3,Take Your Love & Go (Spanish Radio)
4,Te Amo (Instrumental)
5,Te Amo (ACCAP)
6,Take Your Love & Go (12" Mix)

produced by Frankie Cutlass
arrangement by Sergio George, Frankie Cutlass, Chrissy
1,Quiero Salsa
2,Jungla Fria
3,De Francia para el Mundo
4,Siempre te Amare
5,Solo a ti
6,Donde iras si no es Conmigo
7,La Reina de la Salsa
8,Duele
9,La Salsa est ici

produced by Jose Febles
1,Herida
2,Mi Amante Amigo
3,Esos Hombres
4,Sentado Ahi

produced by Carmen Jimenez
 ニューヨーク・スタイルの哀愁サルサを聴かせるクリッシーのファースト・サルサ・アルバム。何の予備知識もなく聴けば、確実にインディアと間違えてしまうでしょう。声質といい、勢いのある歌唱法といい、本当にソックリです。で、肝心の楽曲の方ですが、メロディアスで叙情的、女性リスナーにもオススメできる非常にロマンティックな仕上がり。特に#4は名曲です。キャロル・キングのカバー#8も意表をつくアレンジで、官能的でムーディなサルサ・バラードに仕上がってます。オススメです。  ヒップ・ホップ色を強めたクリッシーのミニ・アルバム。プロデュースにはフリースタイル出身のフランキー・カトラスを起用しています。ただ、アレンジにはニューヨーク・サルサのキー・パーソン、セルジョ・ジョージを起用しており、単にフリースタイル、ラテン・ヒップ・ホップに逆戻りするのではなく、サルサやラテン・ジャズにコンテンポラリーなストリート・サウンドを積極的に取り込もうという姿勢が感じられます。サルサ・ミーツ・フリースタイルなダンス・ポップ#6は、その完成形とも言える作品ですね。  乙女チック・サルサと勝手に命名しました。エレガントでロマンティック、そしてダンサンブルな素晴らしいサルサ・アルバムです。アンヘラのボーカルもサラっと肩の力を抜いたクールなもので、とても品があります。大人の女って感じですね。とろけるくらいに官能的で哀愁溢れる#4なんか傑作です。AORやジャズ・フュージョンのエッセンスを盛り込んだ#6も、たまらんくらいに叙情的で美しい作品。サルサ・ファンならずともオススメしたい素晴らしいアルバムです。  エレガントでゴージャスな哀愁サルサを聴かせる、カルメン・ジメネス唯一のアルバム。4曲しか入ってしないので、ミニ・アルバムと言った方がいいかもしれませんね。中でもボクの敬愛するラテン・バラードの女王ミリアム・エルナンデスの名曲をダンサンブルで美しいサルサにカバーした#1はポイント高し。哀愁感たっぷりの#4もなかなかの佳曲で、小粒ながらも非常に完成度の高い秀逸なアルバム。

ARDIENTE.JPG A_TODO_DAR.JPG TU_REGRESARAS.JPG CORAZON_ENAMORADO.JPG

Ardiente (2000)
Miosotis

A Todo Dar (1998)
Liliana

Tu Regresaras (1999)
Cindy Lara

Corazon Enamorado (2006)
Kiuldret

(P)2000 Rincon/Mas Music (USA) (P)1998 Universal Music (USA) (P)1999 Sonolux/Sony (USA) (P)2006 Norte/Sony (USA)
1,Soltera y Libre
2,A Pesar De Todos
3,Hoy
4,Mala
5,Can't Take My Eyes Off Of You
6,Arranca
7,No Puedo Mas
8,Sabras

produced by Lucho Cueto
1,Mala
2,A Que No Le Cuentas
3,Da Cama En Cama
4,Atrevete
5,No Notas Que Estoy Temblando
6,Comenzar De Cero
7,Historia De Amor
8,Se Busca Un Amante
9,Nunca Mas Quisiera Verte

produced by Ramon Sanchez
1,Huele A Peligro
2,Tu Regresaras
3,No Me Enganes
4,Sin Ti
5,Simplemente Amigos
6,Si Vuelves Tu
7,Devorandome
8,Ahi Estare

produced by Osvaldo Pichaco
1,Regresa a mi ビデオ
2,Como te arranco del alma
3,Corino mio
4,No te das cuenta
5,No vuelvo a enamorarme
6,Mala Calana
7,Como te arranco del alma (Balada)
8,Corazon enamorado
9,Dime donde, dime cuando
10,Siempre dependo de ti
11,Quitame ese hombre (Reggaeton)
12,I Need You, I Want You (Pop)

produced by Eduardo Reyes
 トロピカル感炸裂のパワフルなサルサを聴かせるミオソティスのサード・アルバム。特に、ライブ感溢れる即興性の高い演奏が圧巻で、自由奔放で荒削りなミオソティス嬢のボーカルも痛快。まるでNYのサルサ・クラブでライブを聴いているような、勢いと迫力のある1枚。これぞ本場のサルサ!といった感じの賑々しさで、思わず腰が動いてしまうこと必至です。  大メジャーであるユニヴァーサルから華々しくデビューしたリリアーナ嬢。当時のサルサ系女性シンガーとしては実に恵まれたデビューですが、なるほどそれも納得の大型新人ぶりを聴かせてくれる1枚。とにかく歌のスケールがデカい。そもそも声量がある人でなのですが、惜しげもなく歌って歌って歌いまくります。ただ、楽曲も含めて全体的に大味な印象は否めず。もうちょっと繊細さが欲しかったかな・・・。  まるでヨーロピアン・ポップスを思わせるような叙情感が素晴らしい、限りなく甘くて美しい傑作サルサ・アルバムです。シンディ・ララのボーカルは正直パワー不足ですが、精一杯歌いこんでいるという感じが非常に好感持てます。#7や#8なんてリズム・セクションを抜かしたら、まるでミレイユ・マチューかシャルル・アズナヴールの世界。どことなくノスタルジックな雰囲気がまたたまりません。名盤です。  サルサ界期待の新人キュルドレのデビュー・アルバム。あどけなさを残すベビー・ボイスながら、絶妙なコブシ回しと圧倒的な声量で歌いまくります。ゲストにはヒップ・ホップ、レゲトン系のMCなどを迎えており、今風のストリート・ミュージックとの融合を試行錯誤してるという印象。まだ全体的に未熟な部分も残されていますが、これからの成長が楽しみ。ちなみに、#1はトニー・ブラクストンの“Unbreak My Heart”のカバー。

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