ディスコ・アーティスト列伝<16>
ファンシー Fancy

 

FANCY.JPG

 

 モダン・トーキングと並ぶ80年代ジャーマン・ユーロの帝王ファンシー。見た目はただの厚化粧をしたオッサンだが、エレクトリックで煌びやかなサウンドと哀愁あふれる美しいメロディは、まさに究極のユーロ・ダンス・ポップと呼ぶに相応しいものだった。
 “Slice Me Nice”や“Chinese Eyes”など、初期の作品はボビー・Oにインスパイアされたディープなハイエナジー・サウンドが多かった。そのおかげで、アメリカでもゲイ・ディスコを中心に大ヒットを飛ばし、ビルボードのダンス・チャートでも上位にランクインするという快挙を成し遂げる。
 そして、85年の“Flames Of Love”辺りからモダン・トーキングばりの哀愁メロディを全面に押し出し、ヨーロッパ各国で絶大な人気を獲得。日本でも当時は六本木や新宿のディスコで“Bolero”や“Chinese Eyes”などがガンガンにかかっていたもんだった。
 90年代以降はユーロビートの衰退と共に様々な試行錯誤を重ねたようだが、どれもあまり成功せず、やがて徐々に音楽シーンの第一線から遠のいていった。一時的な活動休止を経て見事に返り咲いたモダン・トーキングとは、大きく明暗を分けてしまったと言えるかもしれない。

 ファンシーの本名はマンフレッド・アロイス・ペリラーノ。1946年7月7日西ドイツに生まれている。とても躾の厳しい家庭に育ち、修道院付属の寄宿学校で教育を受けた。だが、高校時代にクリフ・リチャードの熱狂的なファンになったことから音楽の道を志すようになり、卒業後は職を転々としながらバンド活動に明け暮れたという。
 自らのバンドMountain Shadowsを経て、テス・ティーゲスという名前でシュラゲル(歌謡ポップス)歌手としてデビュー。だがヒット曲に恵まれなかったことから、アマンダ・レアのプロデューサーとして知られるアンソニー・モンの門戸を叩いて路線を変更。84年にファンシー名義のデビュー曲“Slice Me Nice”を発表した。これが本国西ドイツで11位をマークしたほか、オーストリアで2位、スウェーデンで7位にランクされるヒットに。
 続くセカンド・シングル“Chinese Eyes”は西ドイツとスイスで9位をマーク。アメリカでも“Come Inside”とのカップリングで発売され、ビルボードのクラブ・プレイチャートで2位、マキシ・シングル・チャートで7位にランクされる大ヒットとなった。
 85年にはファースト・アルバム“Get Your Kicks”をリリース。シングル“Check It Out”がビルボードのクラブ・プレイ・チャートで13位を記録した。さらに、セカンド・アルバムからの先行シングル“Bolero (Hold Me In Your Arms Again)”がスペインで6ヶ月間も1位の座をキープするという驚異的なヒットに。その後も“Lady Of Ice”や“Flames Of Love”、“Fools Cry”、“When Guardian Angels Cry”などがヨーロッパ各国のヒット・チャートを席巻する。
 だが、91年のアルバム“Six : Deep In My Heart”辺りからヒップ・ホップやラップに傾倒するようになり、さらに95年のアルバム“Blue Planet Zikastar”からはダンス・ミュージックそのものから離れていく。それと共に人気も低迷し、すっかりヒット曲に恵まれなくなった。
 その後、80年代ユーロのリバイバル・ブームが到来し、一時期活動を休止していたモダン・トーキングが復活を遂げると、ファンシーも“Flames Of Love '98”でユーロビートに回帰。続く“Mega-Mix”が久々にチャート・インを果たし、“Slice Me Nice '98”も発売された。
 しかし、このリバイバルも一時的なものに終わり、その後も忘れた頃に非ダンス系のアルバムやベスト盤をリリースし続けている。08年には約7年ぶりとなるオリジナル・アルバム“Forever Magic”を発売したが、ほとんど話題になることはなかった。

 

CHINESE_EYES.JPG GET_YOUR_KICKS.JPG BOLERO.JPG CONTACT.JPG

Chinese Eyes (1984)

Get Your Kicks (1985)

Bolero (Hold Me In Your Arms Again) (1985)

Contact (1985)

(P)1984 Metronome Music (Germany) (P) No Label Credits(Russia) (P)1985 Metronome Music (Germany) (P) No Label Credits (Russia)
side 1
1,Chinese Eyes 5:48 ビデオ
side 1
1,Burn With Impatience 4:58

produced by Anthony Monn
1,Colder Than Ice 5:06
2,Get Your Kicks 5:32
3,L.A.D.Y.O. 4:20
4,Slice Me Nice 5:26
5,Chinese Eyes 5:49 ビデオ
6,Check It Out 6:55 ビデオ
7,Blood And Honey 6:13
8,In Shock 5:41
bonus tracks
9,Slice Me Nice
  (Original Version) 4:06 ビデオ
10,Come Inside 5:00
11,Get Lost Tonight (Maxi Version) 6:25

produced by Anthony Monn
side 1
1,Bolero
  (Hold Me In Your Arms Again) 5:45ビデオ
side 2
1,Play Me The Blorelo
  (Dub Version) 3:45
2,Bolero
  (Hold Me In Your Arms Again)
  (Radio Version) 4:00 ビデオ

produced by Anthony Monn.
1,Reaving Queen 4:21
2,I Don't Want To Go 4:05
3,Bolero
  (Hold Me In Your Arms Again) 4:03
4,Feedback Feedback 5:03
5,Save The Moment 4:18
6,Lady Of Ice 4:35 ビデオ
7,Girl Don't Let Me Down 4:19
8,Latin Fire 5:10 ビデオ
9,After Midnight 4:39
bonu tracks
10,L.A.D.Y.O. (Extended Mix) 5:33
11,Flames Of Love (Extended) 5:18ビデオ
12,Bolero (12" Remix) 5:36
13,Play Me The Bolero (Dub Version)3:39
14,Lady Of Ice (Maxi Version)4:54 ビデオ
15,Latin Fire (Extended Remix)5:49ビデオ
16,Fools Cry (Extended Version)5:36

produced by Anthony Monn & Tess

 中国と日本を完全に混同してしまっているジャケットがなんだかなぁという感じではありますが、楽曲そのものはボビー・O・サウンドを多分に意識したオリエンタル・ハイエナジー。ディバインの“Shoot Your Shot”やフラーツの“Helpless”辺りを彷彿とさせる印象です。この妖しげなケバケバしさ、アメリカのゲイ・ディスコで大受けしたというのも納得ですね。ちなみに、B面はインスト・ダブに当たります。

 #4と#5の大ヒットを受けて発売された、ファンシーの記念すべきファースト・アルバム。基本的には#4と#5の路線を踏襲したボビー・O・スタイルのハイエナジー・サウンドが中心で、残念ながらアルバムとしての完成度はいまひとつ。似たような楽曲ばかりという印象です。アマンダ・リアのヒット曲をカバーした#7も及第点の出来。このCDはロシア盤のセミ・オフィシャルですが、音質は大変良好で、ボーナス・トラックも気が利いています。  スペインでは6ヶ月に渡ってヒット・チャートのナンバー・ワンをキープしたという超メガヒット・ナンバー。フラメンコ風の打ち込みをフィーチャーした、バッキンバッキンのハイエナジー・ディスコです。ただ、飛びぬけて素晴らしい楽曲かというと大いに疑問の残るところで、何故にバカ売れしたのか不思議に思うというのが正直なところ。まあ、ヒット曲というのはタイミングってのもありますからね。  前作の路線を踏襲しつつ、よりポップなメロディとカラフルなサウンドを志向したセカンド・アルバム。大ヒット曲#3以外にも、#6と#8がシングル・ヒットしています。特に哀愁ユーロ路線を打ち出した#6は、以降のファンシー・サウンドの方向性を決定付けたと言ってもいいかもしれません。ただ、アルバムとしての完成度は依然として弱い印象ですね。このロシア盤はボーナス・トラックが非常に充実しており、コレクターには堪らない1枚です。

FLAMES_OF_LOVE.JPG FOOLS_CRY.JPG FIVE.JPG HIT_PARTY.JPG

Flames Of Love (1988)

Fools Cry (1988)

Five (1990)

Hit Party (1998)

(P) No Label Credits (Russia) (P)1988 Metronome Musik (Germany) (P) No Label Credits (Russia) (P1998 Jupiter Records/BMG (Germany)

1,Flames Of Love 4:02 ビデオ
2,Moscow Is Calling 5:11 ビデオ
3,I Can't Live Without You
  (Lonely Nights) 5:36
4,What's Your Name,
  What's Your Game3:55
5,Bodyguard 6:26 ビデオ
6,Spy In The Night 3:28
7,Tonight The Devil Wins My Soul 4:15
8,Blue Eyed Lady 3:46
9,China Blue 4:41 ビデオ
bonus tracks
10,Love Has Called Me Home
  (Radio Version)3:26
11,Long Way To Paradise
 
(Dance Version)3:58 ビデオ
12,China Blue (Maxi Version)5:22
13,Fools Cry (Remix)5:55
14,No Tears (Radio Version)3:19
15,Flames Of Love
  (Vox Extended Mix)5:53
16,Turbo Dancer Remix 8:13

produced by Fancy & Anthony Monn

side A
1,Fools Cry
 (Extended Version) 5:25 ビデオ
side B
1,Moscow Is Calling 5:11*
2,Fools Cry (Radio Version) 3:54 ビデオ

produced by Fancy
* produced by Anthony Monn
1,When Guardian Angels Cry 4:11ビデオ
2,Like You 3:31
3,Second Hand Paradise 3:42
4,All We Need Is To Believe 4:03
5,Island Of Dreams 4:16
6,Love Never Dies 4:08
7,Bride In Black 3:47
8,It's Only Loneliness 3:27
9,Saint Marie De La Mer
  (Stop It Right Now) 3:21
10,In The Rain Again 3:36
11,Lost In Love 3:49
12,C'est La Vie 3:52 ビデオ
bonus tracks
13,When Guardian Angels Cry
  (Maxi Version) 5:05 ビデオ
14,No Way Out (Extended) 5:21
15,Cool Snake 3:19
16,The Big Dust (Radio Version)4:45
17,Feel Free 4:05
18,Flic Flac 4:36

produced by Fancy
1,Flames Of Love (Bass Up Version)3:10
2,Blue Eyes And A Broken Heart 3:06
3,Fools Cry 3:52
4,Slice Me Nice 4:06
5,Bolero 4:03
6,Lady Of Ice 4:03
7,When Guardian Angels Cry 3:55
8,Chinese Eyes 4:52
9,C'est La Vie 3:48
10,No More Sin 3:09
11,Cool Jerk 3:14
12,Running Man 3:05
13,Deep In My Heart 2:52
14,Deja Vu 4:04
15,Promised Land 3:56
16,Magic Of Your Mind 3:02
17,To The Music Hit-Makers Pt.1 4:26
18,Back For Good (Karaoke Version)4:11
19,Flic Flac 4:35
20,Flames Of Love 98
  (MC's Radio Mix) 3:41
 80年代を代表する哀愁ユーロの傑作#1で幕を開けるサード・アルバム。他にシングル・カットされた楽曲は#9だけですが、楽曲の充実度は彼のアルバムの中でもベスト。ダンス・ミュージックとしてもポップスとしても、非常によくバランスが取れています。個人的にはデッド・オア・アライブ風のバッキンバッキン・ユーロ#8もお気に入り。ロシア盤ボーナス・トラックの中では、セカンド・ミックスに当たる#13がなんと言ってもオススメ。ちなみに、#15は98年リミックスです。  初のベスト盤“Gold”からのシングル・カットとしてリリースされた哀愁系ユーロの名曲。個人的には、ファンシーのヒット曲の中でも“Flames Of Love”と並ぶ最大のお気に入りです。当時ドイツではヒット・チャート18位といまひとつだったようですが、もっと売れても良かったんじゃないかと思いますね。ちなみに、これ以降ファンシー自身の作曲・プロデュースによる作品が増えていくことになります。  ファンシー全盛期の最後を飾るアルバムと言ってもいいかもしれません。いかに彼らしい爽やかで甘酸っぱい哀愁系ユーロ#1や#12は大好き。特に往年のプレンチ・ポップスを意識した#12は隠れた名曲かと思います。しかし、それ以外はヒップ・ホップやニュージャック・スウィング、イタロ・ハウスなど時流のサウンドを積極的に取り入れているものの、どれもいまひとつ成功しているとは言いがたい感じ。ロシア盤ボーナス・トラックの#14〜#18は90年代半ばの作品です。  98年当時は、折からの80年代リバイバルやモダン・トーキングのカムバックなどに押されてファンシー関連のリリースが相次ぎましたが、本作もその流れで発売されたベスト盤。ただし、収録されている楽曲は大半が80年代のオリジナル・バージョンではなく、90年代に入って制作されたリメイク・バージョン。その辺がちょっと微妙なんですけど、当時は“Best Of Fancy”もリリースされたばかりですからね。レコード会社的には、差別化を図ったつもりなのかもしれません。

FLAMES_OF_LOVE_98.JPG SLICE_ME_NICE_98.JPG DISCO.JPG

Flames Of Love '98 (1998)

Slice Me Nice '98 (1998)

D.I.S.C.O. (Lust For Life) (1999)

(P)1998 69/BMG Ariola (Germany) (P)1998 What's Up?/Polydor (Germany) (P)1999 69/BMG Ariola (Germany)
1,MC's Radio Mix 3:41 ビデオ
2,Vox Radio Mix 3:54
3,MC's Extended Mix 5:18
4,Vox Extended Mix 5:50
5,Club Mix 5:34

produced by David Brandes & Felix J.Gauder
1.Radio/Video Version 3:52 ビデオ
2,Rap Radio/Video Version 3:44
3,Extended Fetenhits Mix 5:22
4,Extended Party Rap Mix 5:14
5,Java T.'s Back To The Future Mix 6:45

#1-4 remixed by S.W.G. Mix
#5 remixed by Christopher von Deylen & Mirko von Schlieffen
1,D.I.S.C.O. (Lust For Life)
  (Radio Edit) 3:29
2,D.I.S.C.O. (Lust For Life)
  (Extended Version) 6:00 ビデオ
3,When Clowins Cry 3:49
4,On Fire 3:28

produced by David Brandes, Felix J. Gauder
 当時下ネタ系ユーロ・ディスコ・グループ、E-Roticで大当たりを取っていたスイス出身のプロデューサー・チーム、David BrandesとFeli
x J. Gauderを迎えて制作された98年バージョン。ラップを交えつつも、オリジナルのアレンジをそのまま生かしたのは賢明ですね。なお、#5は超アッパーなトライバル風のトランス・ミックスで、楽曲としての原型はほぼ留めていないものの、意外と嫌いじゃないかも。
 で、こちらはデビュー・ヒット“Slice Me Nice”の98年バージョン。サウンド・コンセプト的には“Flames Of Love '98”とほぼ一緒です。というか、モダン・トーキングのリメイク・バージョンとも同じ(笑)ユーロビートとハウスとヒップホップをゴチャゴチャに混ぜたような打ち込みが特徴ですね。悪くはないと思います。ただ、イケイケ一本やりのトランス・ミックス#5はイマイチでした。  同名アルバムからのファースト・シングル。これが往年のファンシーを彷彿とさせるキャッチーな哀愁ユーロに仕上がっております。特に、ブリッジ部分で挿入される女性ボーカルが良いアクセントになっていますね。再びE-Roticのプロデューサー・チームが手掛けていますが、彼らのポップ・センスはなかなかのもんです。なお、カップリングの#3は、明らかに“When Guardian Angels Cry”を意識した作品。

 

戻る