Evil Clergyman (2012)

 

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(P)2012 Full Moon Features
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆

DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/画面比:1.78:1/音声:ステレオ/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/30分/制作国:アメリカ

<特典>
・プレミア上映会ドキュメンタリー(ジェフリー・コムス、バーバラ・クランプトン、チャールズ・バンド、リチャード・バンド出演)
・「トランサーズ1.5」蔵出し映像

監督:チャールズ・バンド
製作:チャールズ・バンド
原作:H・P・ラヴクラフト
脚本:デニス・パオリ
撮影:マック・アールバーグ
音楽:リチャード・バンド
出演:ジェフリー・コムス
   バーバラ・クランプトン
   デヴィッド・ワーナー
   デヴィッド・ゲイル
   ウナ・ブランドン=ジョーンズ

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古い豪邸を訪れた若い女性サイード(B・クランプトン)

自ら命を絶った恋人を思い出して深い悲しみに暮れる

 フルムーン・ピクチャーズの総裁チャールズ・バンド自身が演出を手がけたラヴクラフト映画。実はこれ、エンパイア・ピクチャーズがまだ健在だった1987〜88年にかけて撮影されたものの、その後長らく行方不明になっていた幻のオムニバス映画“Pulse Pounders”の1篇として作られた短編映画なのだ。
 B級エンターテインメントの殿堂として破竹の勢いを誇った当時のエンパイア・ピクチャーズ。とはいえ、「ドールズ」('87)以降目立ったヒットが出なくなったこともあり、チャールズ・バンドは看板映画の続編を3本立てのオムニバス映画に仕立てることを発案する。そこで彼が白羽の矢を立てたのが、タイムスリップ物のSF映画「トランサーズ/未来警察2300」('85)と「SFダンジョンマスター/魔界からの脱出」('85)、そしてスチュアート・ゴードンの監督で「死霊のしたたり」や「フロム・ビヨンド」が大当たりしたH・P・ラヴクラフト原作物だったのである。
 3作品とも無事に撮影とポスト・プロダクションを終え、あとは最終の編集チェックを残すのみとなっていたわけだが、そんな折にエンパイア・ピクチャーズが資金難に陥ってしまう。結局、'89年に同社は事実上倒産。そのドサクサに紛れて3作品とも35ミリのネガフィルムがポスプロ会社から忽然と消えてしまった。
 かくして永遠に失われてしまったと思われた“Pulse Pounders”だが、'11年にフルムーンの関係者がVHSテープにコピーされた仮編集版を発見。デジタル技術によって修復処理を施した上で、'12年より3作品を別々に順次リリースすることとなった。その第一弾が、この“The Evil Clergyman”である。

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死んだはずの恋人ジョナサン(J・コムス)がサイードの前に姿を現す

いつしか日が暮れ、サイードは一人で部屋に残される

 原作は1939年に発表されたラヴクラフトの短編「邪悪なる牧師」。とある古い家の忌まわしき屋根裏部屋で一夜を過ごした人物が、そこで世にも恐ろしい牧師と遭遇するというお話。その映画化である本作は主人公を若い女性、邪悪な牧師をその恋人に変更し、大幅な脚色を施している。
 中世の城のような邸宅を訪れた女性サイード(バーバラ・クランプトン)。中年の女性管理人(ウナ・ブランドン=ジョーンズ)は、私物を引取りに来たという彼女を少々呆れた顔をしながら中へ入れる。どうやら、ここはサイードの恋人の自宅で、つい最近彼が首吊り自殺をしたばかりらしい。2人は許されざる関係にあったため、この邸宅で罪深き逢瀬を重ねていたようだ。
 その密会場所だった屋根裏部屋へ通されたサイードは、亡き恋人との熱い抱擁を思い出しながら悲しみに暮れる。すると、どこからともなく聞こえてくる男の声。ふと部屋の片隅に目をやると、死んだはずの恋人ジョナサン(ジェフリー・コムス)の姿が。彼は牧師だった。驚き狼狽えながらも彼の腕に我が身を任せるサイード。2人は情熱的な愛を交わす。
 ふと気が付くと既に夜は更けており、ベッドにはサイード一人だけだった。妙な感覚を覚えてベッドの下の方に目をやると、人間の顔をした不気味なネズミ(デヴィッド・ゲイル)が彼女の下半身を舐めている。恐怖のあまり悲鳴を上げるサイード。さらに、月の光に照らされた窓辺には見知らぬ初老の牧師(デヴィッド・ワーナー)が立っていた。お前の愛する男に私は殺された、今すぐここを立ち去らないと危険だと警告する牧師。果たしてジョナサンは本当に死んだのか?やがて、彼の恐るべき正体と邪悪な目的が明らかとなっていく…。

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世にも醜悪な人面ネズミ(D・ゲイル)が、サイードの柔肌をベロベロと舐め回している

いますぐここを立ち去るように警告する謎の牧師(D・ワーナー)

 ラヴクラフトの抽象的でドラマ性の薄い原作を起承転結の明確な分かりやすいストーリーに変換しつつ、そのエッセンスはしっかりと残したデニス・パオリの脚本が秀逸。正味30分という尺の短さのおかげで、原作の余計な水増しなどが必要なかったことも功を奏しているのだろう。また、原作にはない悪趣味スレスレのエロを盛り込んでいる点なども、さすがは「死霊のしたたり」や「フロム・ビヨンド」といったスチュアート・ゴードン監督のラヴクラフト映画を一手に引き受けてきた人だけのことはある。
 そう、本作はチャールズ・バンドが演出を担当しているにも関わらず、かなりの割合でスチュアート・ゴードン色が強い。作品の骨格となるパオリの脚本もそうだし、なによりもスタッフ&キャストの大半が「死霊のしたたり」や「フロム・ビヨンド」と一緒。さすがにチャールズ・バンドの演出はゴードン監督ほど暴走しないし挑戦的でもないのだが、極めて似たような雰囲気を醸し出していることは確かだろう。濃厚なゴシック・ムードやスタイリッシュなカメラワークという意味では、どちらかというと本作は「キャッスル・フリーク」に近いイメージかも知れない。
 で、ジェフリー・コムス、バーバラ・クランプトン、デヴィッド・ゲイルの「死霊のしたたり」トリオだが、中でもドクター・ヒル役で強烈なインパクトを残したゲイルが、本作でも人面ネズミという奇っ怪な役をノリノリで怪演。ヒロインの柔肌を舌なめずりしながらベロベロ舐めるという、明らかに「死霊のしたたり」オマージュなシーンも用意されている。また、「オーメン」や「タイタニック」でお馴染みの名優デヴィッド・ワーナ−、「ウィズネイルと僕」にも出ていたイギリスの老女優ウナ・ブランドン=ジョーンズというベテランを脇に配することで、少なからず大仰で舞台演劇的なセリフの数々にクラシカルな品格を与えているように感じる。
 また、発見されたVHSマスターの音声がモノラルだったことから、リチャード・バンドが改めてステレオの音楽スコアを制作し直している。これがまた、いかにも'80年代当時のエンパイア・ピクチャーズっぽい仕上がり。作品そのものの時代感を全く損ねていない。
 惜しむらくは、いかにも古いVHSビデオから起こしたような画質の悪さだが、それが現存する唯一のマスターなのだから仕方あるまい。とりあえず修復作業は施されているそうだが、もともと映像の粗いVHSでは当然のことながら限界がある。その欠点を差し引いても、ホラー映画ファンならば一度は見ておいて損のない作品。失敗例の多い数多のラヴクラフト映画群の中にあって、原作の魅力をほとんど損なわずに済んだ本作は、数少ない成功例の一つと言えるだろう。

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果たしてジョナサンは生きているのか、それとも…?

精神的にじわじわと追い詰められたサイードが選んだ結末とは?

 

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