ヨーロピアン・ホラー映画セレクション

 

Die Nackte und der Satan (1959)
aka The Head
日本では劇場未公開・テレビ放送なし
VHS・DVDなど日本未発売

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(P)2003 Alpha Video (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/画面比:1.33:1/音声:モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/92分/制作国:西ドイツ

<特典>
なし
監督:ヴィクター・トリヴァス
製作:ウォルフガング・ハルトウィッヒ
脚本:ヴィクター・トリヴァス
撮影:ゲオルグ・クラウゼ
音楽:ウィリー・マッテス
出演:ホルスト・フランク
   カリン・ケルンケ
   ミシェル・シモン
   ヘルムート・シュミット
   ディーター・エップラー
   パウル・ダールケ
   クルト・ミュラー=グラフ
   クリスティアーヌ・マイバッハ

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怪しげな雰囲気のウード博士(H・フランク)

高名な科学者アベル教授(M・シモン)の助手となる

表現主義的な歪んだ美術セットはヘルマン・ヴァルムが担当

アベル教授に恐るべき手術を施すウード博士

<Review>
 西ドイツで作られたフィルムノワール・タッチのダークなSFホラー。人間の頭部を生きたまま切り離せる技術を手に入れたマッド・サイエンティストが、それを己の野心と欲望のために悪用していく。フランケンシュタイン映画から派生した頭脳蘇生もの、つまり「死なない頭脳」('62)や“They Saved Hitler's Brain”('69)といった迷作・珍作カルト映画の系譜に属する作品だ。
 しかしながら、これが意外にも悪くない出来だったりする。最大の見どころは、ドイツ表現主義の影響をモロに感じさせるモダンでシュールな美術デザイン。それもそのはず、表現主義映画を代表する不朽の傑作「カリガリ博士」('20)の強烈な美術セットを手がけたヘルマン・ヴァルムが、本作でも美術デザインを担当しているのだ。
 しかも、監督のヴィクター・トリヴァスは巨匠G・W・パヴストのスタッフだった人物である。なので、光と影のコントラストを強調した照明や奥行きのあるカメラワークなど、フィルムノワールというよりも表現主義に近いような演出にも納得。そもそも、フィルムノワールのルーツはドイツ表現主義にあるわけだし。
 確かに、人間の首だけを切り離して生かしておくことのできる薬品だなんて全く科学的根拠がないので、バカバカしいといえばバカバカしいかもしれないが、非常に良く出来た特殊効果のおかげでビジュアル的なインパクトは十分。天才と狂人がいかに紙一重であるのかを象徴するショッキングなクライマックスも興味深い。
 '50〜'60年代の西ドイツ産B級娯楽映画といえば、エドガー・ウォレス物を筆頭とするクリミ映画や007もどきのスパイ映画が圧倒的に主流だったことを考えれば、本作はかなり異色だと考えられる。当時はイギリス映画「死霊の町」('60)と2本立てで全米公開もされヒットしたらしいが、このまま忘れ去られてしまうには惜しい小品佳作だ。

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首から下のない自分の姿に絶叫するアベル教授

ウード博士は“血清Z”の製法を聞き出そうとする

アイリーン(K・ケルンケ)に手術を勧めるウード博士

人気ストリッパー、リリー(C・マイバッハ)にも接近する

<Story>
 とある夜、高名な科学者アベル教授(ミシェル・シモン)の研究所に、ウード博士(ホルスト・フランク)なる怪しげな人物がやって来る。共通の知人の推薦で教授の助手となった彼は、生きたまま犬の頭部を切り離すことに成功したという教授の実験に強い関心を寄せていた。そんなウード博士のことを、敬虔なクリスチャンで真面目な同僚ウォルター(クルト・ミュラー=グラフ)は警戒する。
 実はアベル教授には心臓の持病があった。たまたま交通事故で脳死状態の急患が運び込まれたことから、ウード博士らは余命幾ばくもないアベル教授に心臓の移植手術を施すことになる。しかし、その直前に患者が死亡。手術の中止を訴えるウォルターを殺害したウード博士は、密かに温めていた“別の手術”を決行する。アベル教授の開発した特殊な薬品“血清Z”を使って、教授の頭部を生きたまま保存しようというのだ。
 意識を取り戻したアベル教授は、頭部だけが機械につながれた自分の姿を鏡で見て恐怖の叫びを上げる。絶望のあまり殺してくれと懇願する教授だったが、その天才的な頭脳は失うに惜しいと語るウード博士。彼はアベル教授の頭脳を生かし、“血清Z”の製法を聞き出そうと考えていたのである。
 そんなウード博士は、ウォルターの従姉妹で体に障害を持つ女性アイリーン(カリン・ケルンケ)に惹かれていた。実は彼女、生まれつき背中の骨が曲がっているのだが、近いうちアベル教授から矯正手術を受ける予定だった。しかし、心の支えであるウォルターが突然行方不明となってしまい、アベル教授にも会わせてもらえなくなった彼女は手術を躊躇。だが、ウード博士は強い口調で手術を勧める。
 その一方で、ウード博士は人気ナイトクラブ“タム=タム”のストリップダンサー、リリー(クリスティアーヌ・マイバッハ)に接近。実は、彼女の本名はステラといい、かつて自分の夫を毒殺した殺人犯だった。そして、彼女に整形手術を施して逃亡を助けたのが、ほかでもないウード博士だったのである。しかも、彼自身も本名をブランド博士といい、違法手術によって追われる身だったのだ。
 酔いつぶれたリリーを研究所に連れ込んだウード博士は、待機させていたアイリーンの外科手術を決行する。それから3ヶ月後。ようやくベッドから起き上がれるようになったアイリーンは、見違えるほど美しくなった自分の体に驚く。だが、何かがおかしかった。曲がった背骨を矯正しただけのはずなのに、まるで体全体が自分のものではないような感覚がする。長期間に渡った入院の影響だというウード博士の説明も、彼女には納得ができなかった。
 渡された衣服が手術の夜に見かけた女性のものとソックリだと気付いたアイリーンは、女性の身元を調べた上でナイトクラブ“タム=タム”を訪れる。そこでリリーが3か月前に列車事故で死亡したことを、彼女の恋人ポール(ディーター・エップラー)から聞いたアイリーン。彼女の胸にある疑問が湧き上がる。さらに、彫刻家であるポールにモデルを頼まれた彼女は、背中にリリーと全く同じ斑点があることを知らされて衝撃を受けた。
 そう、ウード博士は“血清Z”を使ってアイリーンの頭部とリリーの体を統合していたのだ。アイリーンに執着するウード博士は彼女を研究所に監禁。しかし、博士の恐るべき正体に気づき始めた助手バート(ヘルムート・シュミット)の手助けで脱出したアイリーンは、唯一信頼することのできるポールのもとへ身を隠す。だが、そんな2人に執念深いウード博士の魔手が迫る…。

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手術後の自分の体に違和感を覚えるアイリーン

リリーが手術の同時期に死んでいることを知って驚く

ポール(D・エップラー)のもとに身を隠すアイリーン

執念深いウード博士の魔手が迫る…

<Information>
 監督のヴィクター・トリヴァスはロシアの出身だが、その詳しい経歴には不明な点が多い。'20年代にドイツへ移住した彼は、G・W・パブストのスタッフを経て映画監督に。だが、監督よりも脚本の方に才能を発揮するようになった。第二次世界大戦が勃発するとハリウッドへ亡命。戦後もしばらくはアメリカで活躍し、原案を手がけたオーソン・ウェルズ監督の「ストレンジャー」('46)ではアカデミー賞にもノミネートされた。本作はそんな彼にとって最後の監督作だ。
 撮影監督のゲオルグ・クラウゼも、ハリウッドで活躍したドイツ人カメラマンとして知られる人物。中でも、エリア・カザンの「綱渡りの男」('53)とスタンリー・キューブリックの「突撃」('57)での仕事は評価が高い。そして、美術デザインを担当したのが映画史に残る傑作にして怪作「カリガリ博士」のヘルマン・ヴァルム。他にもフリッツ・ラングの「死滅の谷」('21)やヘンリク・ガリーンの「プラーグの大学生」('26)、カール・ドライヤーの「吸血鬼」('32)など数々の名作を手がけており、本作の2年後に映画界を引退している。
 そのほか、当時エドガー・ウォレスものを数多く担当していたウィリー・マッテスが音楽スコアを、後にサム・ペキンパーの「戦争のはらわた」を手がけるウォルフガング・ハルトウィッヒが製作を、「ロジャー・ムーア/冒険野郎」('76)や「Uボート」('81)で知られるテオ・ニッシュウィッツが特殊効果を手がけている。

 主人公ウード博士を演じているのは、「潜水艦浮上せず」('60)などの戦争映画や「皆殺しのジャンゴ/復讐の機関砲」('68)などのマカロニ・ウェスタンの悪役として有名なホルスト・フランク。ダリオ・アルジェント監督の「わたしは目撃者」('71)で演じたゲイの科学者役で記憶しているホラー映画ファンも少なくないかもしれない。
 ヒロインのアイリーン役は、これが映画デビューだった女優カリン・ケルンケ。ヒルデガルト・クネフを彷彿とさせる気の強そうな美人だが、その後はテレビを中心に活躍するようになり、娘のジョー・ケルンもテレビ・スターになった。そして、哀れにも首だけにされてしまうアベル教授役には、ジャン・ルノワールの「牝犬」('31)や「素晴らしき放浪者」('32)、ジャン・ヴィゴの「アタラント号」('34)などの名作に主演し、マルセル・カルネやジュリアン・デュヴィヴィエなどの巨匠たちにも愛されたフランス映画界の名優ミシェル・シモン。彼ほどのビッグ・ネームがこのような低予算のホラー映画に、しかも脇役で顔を出しているというのは少なからず驚きだが、実は当時の彼は撮影中のアクシデントが原因で健康問題を抱えており、映画のオファーが激減している状態だった。どうやら、生活に困って仕方なく引き受けた仕事だったらしい。その後体調も回復し、ベルリン国際映画祭の男優賞を獲得した「老人と子供」('67)など晩年まで活躍したのはご存知の通り。
 そのほか、「怪人マブゼ博士・恐るべき狂人」('62)のヒーロー役で知られるヘルムート・シュミット、「ブルーライト作戦」('66)や「早春」('71)などの強面俳優ディーター・エップラー、リチャード・ブルックスの「バンク・ジャック」('71)やファスビンダーの「自由の代償」('75)などのクリスティアーヌ・マイバッハらが脇を固めている。

 

 

グレゴア
Circus of Fear (1966)
日本では劇場未公開・テレビ放送なし
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2003 Blue Underground (USA)
画質★★★★☆ 音声★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.66:1/音声:ドルビー・モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/91分/制作国:イギリス・西ドイツ

<特典>
・ジョン・モクシー監督の音声解説
・オリジナル劇場予告編
・ポスター&スチル・ギャラリー
・タレント・バイオグラフィー
監督:ジョン・モクシー
製作:ハリー・アラン・タワーズ
脚本:ピーター・ウェルベック
原作:エドガー・ウォレス
撮影:アーネスト・スチュワード
音楽:ジョニー・ダグラス
出演:クリストファー・リー
   レオ・ゲン
   アンソニー・ニューランズ
   ハインツ・ドレイチェ
   マーガレット・リー
   クラウス・キンスキー
   エディ・アレント
   モーリス・カウフマン
   スキップ・マーティン
特別出演:スージー・ケンドール
     セシル・パーカー
     ヴィクター・マダーン

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ロンドンで白昼堂々行われた現金輸送車の襲撃事件

犯人グループの行方を追うエリオット警部(L・ゲン)

謎のタレコミ情報で実行犯たちは逮捕されたのだが…

<Review>
 60年代のヨーロッパでは西ドイツ産のクリミ映画、いわゆる猟奇犯罪スリラーがちょっとしたブームだった。残念ながら、日本では殆どの作品が輸入されずに終わってしまったため認知度は低いものの、イタリアのジャロ映画にも少なからず影響を及ぼしたとも言われているジャンルだ。で、実はクリミ映画の大半が英国作家エドガー・ウォレスの犯罪小説の映画化なのだが、本作はそのウォレスの祖国イギリスにて作られたという、いわば逆輸入的なクリミ映画である。
 ストーリーはいたってシンプル。ロンドンで起きた現金強奪事件の主犯を追っていたスコットランドヤードは、手がかりを求めてとあるサーカス団へとたどり着くものの、そこで次々と殺人事件が起きる。凶器は曲芸用のナイフ。犠牲者たちは犯人の正体を知ったために殺されたらしい。果たして、サーカスを隠れ蓑にした強盗犯の正体とは…?ってな按配だ。
 最大の見どころは、低予算のモノクロ撮影が大半だったクリミ映画にあって珍しくカラー撮影であること、そして当然といえば当然だが、本場のイギリスで全編ロケ撮影されているということだろう。キャストもイギリスとドイツのスターを配した豪華な顔ぶれが揃っており、誰が犯人でもおかしくないという工夫もしっかりと凝らされている。
 しかしその一方で、猟奇スリラーにしてはおどろおどろしい雰囲気が一切なく、サスペンスフルな盛り上がりに欠ける点は惜しまれる。なんというか、不必要なまでに健全なのだ。なので、エロの要素もグロの要素も皆無。確かにクリミ映画は一般的に直接的な残酷描写が少なかったりするのだが、それにしても本作は大人しすぎるという印象が否めない。

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実行犯の一人メイソン(V・マダーン)は何者かに殺害される

バルベリーニ氏(A・ニューランズ)のサーカス一座を調査するエリオット警部

花形スターのジーナ(M・リー)と嫉妬深い恋人のナイフ投げ名人マリオ(M・カウフマン)

<Story>
 ロンドンの街中で白昼堂々、現金輸送車が強盗団に襲われる。当初の計画では一滴の血も流さないはずだったが、輸送車の運転手として潜入していた仲間メイソン(ヴィクター・マダーン)が誤って同乗の運転手を射殺してしまう。仲間の信用を失った彼は始末されるものと思われたが、正体不明のボスはなぜか彼に分け前を与えて逃がしてやるという。その代わりとして、奪った現金をメイソンがボスのもとへと届けることになった。
 その頃、謎のタレコミ電話によって実行犯一味の正体を知ったスコットランドヤードは、エリオット警部(レオ・ゲン)の指揮の下で逃亡中の犯人たちを逮捕。さらに、別ルートで逃げたメイソンの行方を探すとともに、主犯格の正体を暴こうと躍起になっていた。一方、指定された場所に現金を届けたメイソンだったが、そこで待っていた謎の人物によって殺されてしまう。
 実行犯の誰一人としてボスの素顔を知らず、一切の手がかりを失ったスコットランドヤード。捜査が進展しないことに苛立つ上司サー・ジョン(セシル・パーカー)に辟易していたエリオット警部だが、そこへ有力な情報が舞い込む。強奪された現金の一部が使用され、その出所を辿っていったところ、バルベリーニ・サーカスというサーカス一座に行き着いたというのだ。
 早速、オーナーのバルベリーニ氏(アンソニー・ニューランズ)の案内でサーカス一座の内部事情を調査し始めるエリオット警部。そこには、いろいろとワケありな人間模様が渦巻いていた。一座の花形スターであるジーナ(マーガレット・リー)はナイフ投げ名人のマリオ(モーリス・カウフマン)と付き合っているが、嫉妬深い上に乱暴な彼に悩まされており、どうやら別に愛人を作っている様子だ。
 また、猛獣使いのナターシャ(スージー・ケンドール)は支配人カール(ハインツ・ドレイチェ)と仲睦まじいものの、事故で焼けた顔を覆面で隠した叔父グレゴール(クリストファー・リー)は2人が男女の関係になることを許さない。実はカールの父親はナターシャの行方不明の父親、つまりグレゴールの弟に殺されており、いつか敵討ちをしようと彼女に近づいていたのだった。
 さらに、そのグレゴールにもなにか秘密があるらしく、それを知った小人芸人のミスター・ビッグ(スキップ・マーティン)に金を脅し取られていた。そのほか、様々な手品を考案するものの片っ端からバルベリーニ氏に却下されてしまうエディ(エディ・アレント)、サーカス小屋の周辺をうろついている怪しげな男マンフレッド(クラウス・キンスキー)などなど、いずれも一癖ある人々ばかりだ。
 そんなある日、何者かがライオンを檻から出してジーナを襲わせようとする事件が発生。警察による現場検証の結果、行方不明だったメイソンの死体が発見され、その騒動に紛れてジーナも殺されてしまう。凶器はメイソンの死体から発見されたものと同じ曲芸用のナイフ。真っ先にマリオに疑いの目が向いたものの、マリオが愛用しているものとはデザインが違った。
 すると、そのナイフを見ていたバルベリーニ氏があることを思い出す。かつて究極のナイフ投げ名人として知られたダニーラのナイフとソックリなのだ。ダニーラは10年前に亡くなっており、確か一人息子がいたはずだという。果たして、その息子が犯人だとすれば、いったい誰なのか…?

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猛獣使いナターシャ(S・ケンドール)と叔父グレゴール(C・リー)

ジーナが何者かによって命を狙われる

支配人カール(H・ドレイチェ)にはサーカス一座に入った個人的な理由があった

<Information>
 監督のジョン・モクシーは、同じくクリストファー・リーが出演した怪奇幻想映画の傑作「死霊の町」('60)で知られる人物。渡米後は主にテレビの演出家として活躍したが、「事件刑事コルチャック/ナイト・ストーカー」('71)や「女子大生恐怖の体験旅行」('76)など、カルト的な人気を誇る優れたホラー系テレビ・ムービーも少なからず手がけており、本作でも冒頭の殆どセリフなしの現金強奪シーンで見事な演出手腕を発揮している。
 プロデューサーは、後にジェス・フランコとのコンビで数多くのカルト映画を製作する英国ショービズ界の怪人物ハリー・アラン・タワーズ。ここではピーター・ウェルベックのペンネームで脚本も兼任している。彼のフィルモグラフィーを鑑みると、エロもグロも排除した本作は、ある意味で例外的な一本と言えるかもしれない。
 撮影監督は「二都物語」('57)や「キッスは殺しのサイン」('66)などラルフ・トーマス監督とのコンビ作が多いアーネスト・スチュワード。ハリー・アラン・タワーズとは「怪人フー・マンチュー」('64)でも組んでいる。また、「ミニミニ大作戦」('69)や「狙撃者」('71)で知られるジョン・トランパーが編集を担当。さらに、イージー・リスニングの作曲家・指揮者として有名なジョニー・ダグラスが、どこか歌謡曲調のメロドラマティックな音楽スコアを手がけている。
 なお、本作はアメリカでは“Psycho-Circus”とタイトルが変えられ、2本立てとして上映するため65分に再編集された上、モノクロで上映されたのだそうだ。また、西ドイツでも国産映画にクリミ映画のカラー第一号の称号を与えるため、あえてモノクロで劇場公開されてしまったのだとか。そういう意味では、ちょっと不幸な境遇の映画だったと言えなくもないだろう。

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グレゴリーの秘密を知って脅迫する小人芸人ミスター・ビッグ(S・マーティン)

顔面に火傷など負っていなかったグレゴールの正体とは…?

謎の男マンフレッド(K・キンスキー)がサーカス一座の周辺を嗅ぎ回る

 で、一応主演にクレジットされているクリストファー・リーだが、実際に彼の演じるグレゴールは脇役の一人に過ぎず、出番も決して多いとは言えない。しかも、その3分の2くらいは覆面姿だし。逆に言うと、それだけ当時の彼のネームバリューが大きかったという証拠でもあるのだが。
 実質的な主演はエリオット警部役を演じるシェイクスピア俳優レオ・ゲン。「クオ・ヴァディス」('51)のペトロニウス役でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、「蛇の穴」('48)や「白鯨」('56)などのハリウッド映画でも重鎮俳優として活躍。フランス映画「チャタレイ夫人の恋人」('55)ではチャタレイ氏を演じたり、巨匠ロッセリーニの「ローマで夜だった」('60)では英国軍大将を演じたりと、ヨーロッパ各国の映画でも引っ張りだこだった名優だ。だいたいいつも親切そうでいて実は一癖ある食わせものな人物を演じるのだが、ここでは珍しく(?)上品で温厚でチャーミングな英国紳士ぶりを発揮している。
 バルベリーニ氏役のアンソニー・ニューランズは、クリストファー・リー出演の「バンパイアキラーの謎」('71)にも出ていた舞台俳優。支配人カール役のハインツ・ドレイチェは数多くのクリミ映画に主演したドイツの人気俳優で、イギリス映画への助演も少なくなかった。エディ役のエディ・アレントもクリミ映画の主演作が多いドイツ人俳優だ。
 さらに、イタリアのジャロ映画やスパイ映画にも数多く出演したセクシー女優マーガレット・リー、ハリウッド映画「いつも心に太陽を」('67)の女教師役を経てダリオ・アルジェントの「歓びの毒牙」('69)でジャロ映画の人気ヒロインとなったスージー・ケンドール、ヒッチコックの「バルカン超特急」('38)やアレクサンダー・マッケンドリックの傑作「マダムと泥棒」('55)で有名なセシル・パーカー、イギリスでは舞台俳優として高く評価されたヴィクター・マダーンなどが競演。また、泣く子も黙るドイツの怪優クラウス・キンスキーが謎の犯罪者役として、出番が少ないながらも強烈な印象を残す。

 

 

Le sadique aux dents rouges (1971)
赤い歯のサディスト(原題直訳・日本未公開)
日本では劇場未公開・テレビ放送なし
VHS・DVDなど日本未発売

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(P)2010 Mondo Macabro (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1:66:1/音声:ドルビー・ステレオ/言語:フランス語/字幕:英語/地域コード:ALL/80分/制作国:フランス・ベルギー

<特典>
・処女作“Paris interdit”本編
・監督インタビュー
・監督のキャリアに関するドキュメンタリー
・プロダクション・ノート
監督:ジャン・ルイ・ヴァン・ベル
脚本:ジャン・ルイ・ヴァン・ベル
撮影:ジャック・グレヴィン
音楽:レイモン・ルグラン
出演:ダニエル・モースマン
   ジェーン・クレイトン
   アルベール・シモノ
   ミシェル・マイオフィス

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医者たちに見送られて退院する青年ダニエル(D・モースマン)

交通事故のショックで自分がヴァンパイアだという妄想に取り憑かれていた

後遺症のせいかパリの街角が歪んで見えてしまうダニエル

<Review>
 本国のフランスですら、つい最近まで完全に忘れ去られた存在だった'70年代のB級エクスプロイテーション映画監督ジャン・ルイ・ヴァン・ベル。'80年代初頭にCM業界へ転身するまで、記録に残っている限りで少なくとも16本の長編と短編を、本人の弁によると約20本の長編と15本の短編を撮ったと言われる。だが、彼の作品は全て超低予算の自主制作だったため、そして本人が自作を一本も手元に残していないため、その正確な数は分かっていない。モンド映画からサスペンス、刑事アクション、ポルノまであらゆるジャンルを手がけたヴァン・ベル監督だが、そんな彼の残した唯一のヴァンパイア映画が、この“Le sadique aux dents rouges(赤い歯のサディスト)”である。
 主人公はグラフィック・デザイナーのダニエル。交通事故で重傷を負い、同乗した親友を亡くしてしまった彼は、そのショックで自分がヴァンパイアだという妄想に取り憑かれる。そんなダニエルをモルモット扱いするのが担当医のローレ。退院したダニエルを秘かにテレパシーで操るローレ医師は、怪しげな催眠術師や自称ヴァンパイアの男を使って彼の妄想を肥大させ、やがて本物のヴァンパイアに仕立て上げてしまう。
 正直言って、内容はほぼ支離滅裂だ。エド・ウッド的な監督の思い込みに近い主観ばかりが先行し、そもそもロジックというものを最初から放棄しているように見受けられる。主人公ダニエルのヴァンパイア本能の増幅を象徴するように随所で挿入されるのが、戦争や自然災害などのドキュメンタリー映像。さらに、フィルムの逆回しやオプチカル合成を駆使した不条理な幻想シーンが散りばめられていく。ホラー映画というよりも、アヴァンギャルドなアングラ実験映画といった印象だ。
 ロジャー・コーマンを崇拝していたヴァン・ベル監督は、本作をたったの10日間で撮り終えたという。恐らく、予算は限りなくゼロに近かったのであろう。早撮りに起因する不安定で不格好なカメラワークや、クロースアップショットの多用が作品の激しい安っぽさを一層のこと盛り立てる。例えるならば、ジャン・ローランとジェス・フランコの悪いところばかりを寄せ集めた
といった感じ。それゆえにインパクトだけは強烈なのだが…。

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映画館で衝動的に観客の首筋に噛み付いてしまうダニエル

恋人のジェーン(J・クレイトン)はそんな彼を心配していた

だが、ダニエルの妄想はどんどんと深刻化していく

<Story>
 ダニエル・ベルナール(ダニエル・モースマン)は30歳で独身のグラフィック・デザイナー。交通事故で親友を失い、自らも重傷を負って入院した彼は、そのショックで自分がヴァンパイアだという妄想に取り憑かれていた。担当医のローレ医師(アルベール・シモノ)は、そんな彼の精神状態が回復していないにも関わらず、あえて退院を許可する。というのも、ローレ医師はダニエルを本物のヴァンパイアに変身させようとしていたのだ。
 恋人のジェーン(ジェーン・クレイトン)の出迎えで自宅へ戻り、やがて職場にも復帰したダニエル。しかし、彼は不可解な現象に悩まされていた。外ですれ違う人の顔が緑色や紫色に見える、パリの風景が歪んで見える、子供たちが牙をむき出しにして見える、部屋中を蜘蛛や蛇が這いずり回っているように見える。時には職場で気を失うこともあった。
 さらに、ジェーンとのデートで映画館に入ったところ、上映中に前列の女性の首筋に噛み付いてしまい、警察沙汰を起こしてしまう。しかも、一晩に2度も。やがて、街ゆく人が逆方向に歩いて見える、自分の口や目の中に蜘蛛や蛇が蠢いて感じるなど、ダニエルの症状は深刻になっていく。その上、ヴァンパイアを自称する怪しげな男のもとへ出向いて“血の洗礼”を受けたり、催眠術師によって“闇の帝王”と面会したり。そんな彼を心配するジェーンは、ある日ローレ医師に拉致されてしまう。
 実は、秘かにローレ医師はダニエルをテレパシーで操り、その行動を逐一観察していた。それが精神治療の一環だと聞かされたジェーンは、それまで嫌っていたローレ医師を信用するようになり、自ら協力を申し出る。だが、彼女の知らぬ間にダニエルはヴァンパイアの本能を開花させ、立ち寄ったバラエティショップの女性店員を殺害してしまった。
 ローレ医師の密告によって、ダニエルを容疑者としてマークする警察のベルナール警部。ジェーンとのデートを終えて一人夜道を歩くダニエルを、ローレ医師と助手(ミシェル・マイオフィス)、警察の一行がそれぞれ尾行するものの、本格的にヴァンパイアと化してしまったダニエルは路上の娼婦を血祭りにあげ、そのまま逃走してしまった…。

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そんなダニエルの様子を観察するローレ医師(A・シモノ)

催眠術を受けるダニエルの前に“闇の帝王”が姿を現す

ついに殺人を犯してしまったダニエル

<Information>
 '60年代半ばから自主制作の短編映画を発表していたヴァン・ベル監督は、そのエキセントリックな作風のみならずキャリアもかなりユニークだ。実の母親が貧しいシングルマザーだったため、物心つく前から里親のもとをたらい回しにされた彼は、義務教育を終えるとパリへ出ると、旅行案内係や電気技師、写真家などの職を転々としたという。
 そんな折に「去年マリエンバートで」などで知られる名優サシャ・ピトエフと知り合ったヴァン・ベル監督は、彼の推薦で舞台俳優へと転身。'61年頃から端役として映画にも出演するようになった。さらに、詩人ジャック・プレヴェールや映画監督ジャック・タチなどの芸術家と親しくなった彼は、刺激を求めて積極的に夜遊びにも繰り出し、当時のパリで最先端のナイト・シーンやトレンド・シーンにも精通するようになったという。
 ちょうどその頃、ヤコペッティの「世界残酷物語」に端を発するモンド映画ブームに便乗して、フランスの映画製作者ピエール・ルースタンがパリを題材にしたキワモノ・ドキュメンタリーを企画し、その監修者としてヴァン・ベルが雇われた。ところが、彼の紹介したカルト集団や奇妙な人々はえげつなさすぎるという理由で却下されることに。これに業を煮やしたヴァン・ベルは、独自のモンド映画を撮り下ろしてしまう。それが長編処女作の“Paris interdit(禁じられたパリ)”('70)だったというわけだ。
 上記の米国盤2枚組DVDには、その“Paris interdit”も収録されている。身体障害者のバレエ団やヒットラー崇拝者の集会など、花の都パリの怪しすぎる裏側を捉えた映像は奇天烈そのもの。屠殺された豚の血を飲み干す自称ヴァンパイアは、“Le sadique aux dents rouges”にも顔を出している。粗雑な撮影や脈絡のない編集は素人に毛の生えたような印象だが、本作と同じくインパクトだけは強烈だった。
 で、ヴァンパイアを題材にした本作は長編2作目。その後も、トリュフォーの「黒衣の花嫁」を元ネタにした復讐ドラマ“Perverse et docile(強情と従順)”('71)や犯罪スリラー“Deux heures a vivre(2時間の命)”('71)、ハードコアポルノ“Made in Sex”('76)、刑事アクション“Un tueur, un flic, ainsi soit-il...(殺人者、警官、どうにでもなれ)”('77)など様々なジャンルの映画に挑戦したヴァン・ベル監督。というのも、自分はどのジャンルが得意なのか、どのジャンルが適しているのか全く分からなかったため、とりあえず片っ端から手をつけてみたのだそうだ。
 '82年に企画したジョニー・アリディ主演の映画“Cobra”が頓挫したことをきっかけに、映画界を引退してテレビCMや企業広告を手がけるようになったヴァン・ベル監督は、自分の作った映画を誇りには思っていないと言う。それどころか、一本残らずフィルムを破棄してしまいたかったとすら語っている。そんな彼が、なぜ十数年間に渡って映画を撮り続けたのか。本人の弁によると、大好きな仲間たちを集めて和気藹々と仕事をする、その現場の雰囲気がたまらなく好きだったからなのだそうだ。
 そんなこんなでビデオ時代にも発掘されることなく、映画史から跡形もなく存在が消し去られてしまったヴァン・ベル監督だが、どこの世界にもモノ好きがいるもので、'00年代に入って本作の上映用フィルムが発見されたことを皮切りに、“できればそっとしておいて欲しかった”という本人の思惑とは裏腹に一部のコアな映画マニアの間で再注目されることに。'09年にはパリのシネマテークで特集上映まで企画され、本人もステージに引っ張り出されてスピーチを行った。当時は新作3D映画“Lucky Day”の企画も発表されたが、現在までのところ実現には至っていない。

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無防備なジェーンはダニエルの変貌になかなか気付かない

警察はダニエルを殺人の容疑者としてマークしていた

いよいよヴァンパイアへと変貌してしまったダニエル

 なお、主演のダニエル・モースマンはギイ・ジル監督の処女作“L'amour a la mer(海辺の恋)”('64)で主役を演じていた俳優。他にもジョゼ・ジョヴァンニ監督の「生き残った者の掟」('66)やセルジオ・ゴビ監督の「ナチスの亡霊」('69)などでも重要な脇役を演じていたが、本作の当時はキャリアに行き詰まっており、その後は監督として主にテレビ・ドラマを手がけるようになった。
 その相手役はイギリス人のジェーン・クレイトン。演技経験ゼロのモデルだったらしいが、ヴァン・ベル監督は彼女の“英語訛りのフランス語が可愛らしい”といたく気に入ったのだそうだ。さらに、ローレ医師役を演じているのは、トリュフォーの「夜霧の恋人たち」('68)やパトリス・ルコントの「親密すぎるうちあけ話」('04)に出ていたアルベール・シモノ。また、写真家のミシェル・マイオフィスが彼の助手役として顔を出している。

 

 

 

Les levres rouges (1971)
紅い唇(原題直訳・日本未公開)
日本では劇場未公開・テレビ放送なし
VHS・DVDなど日本未発売

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(P)2003 Blue Underground (USA) (P)2011 Blue Underground (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆ 画質★★★★★ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.66:1/音声:ドルビー・モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/100分/制作国:ベルギー・フランス・西ドイツ

<特典>
・ハリー・クメール監督の音声解説
・俳優ジョン・カーレンと映画ジャーナリスト、デヴィッド・デル・ヴァルによる音声解説
・女優アンドレア・ラウのインタビュー
・オリジナル劇場予告編
・ラジオ・スポット集
・ポスター&スチル・ギャラリー
ブルーレイ仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1:67:1/HD規格: 1080p/音声:1.0ch DTS-HD MA MONO/言語:英語・フランス語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:ALL/100分/制作国:ベルギー・フランス・西ドイツ

<特典>
・ハリー・クメール監督の音声解説
・俳優ジョン・カーレンと映画ジャーナリスト、デヴィッド・デル・ヴァルによる音声解説
・ハリー・クメール監督と脚本家ピエール・ドルートのインタビュー
・女優ダニエル・ウイメのインタビュー
・女優アンドレア・ラウのインタビュー
・オリジナル劇場予告編
・ラジオ・スポット集
・スペイン映画「Blood Spattered Bride」(ヴィンセンテ・アランダ監督・'72年)本編収録
監督:ハリー・クメール
製作:アンリ・ランジェ
   ポール・コレ
脚本:ピエール・ドルート
   ジャン・フェリ
   ハリー・クメール
撮影:エドゥアルド・ヴァン・デル・エンデン
音楽:フランソワ・ド・ルーベ
出演:デルフィーヌ・セイリグ
   ジョン・カーレン
   ダニエル・ウイメ
   アンドレア・ラウ
   ポール・エッセル
監督:ハリー・クメール
製作:アンリ・ランジェ
   ポール・コレ
脚本:ピエール・ドルート
   ジャン・フェリ
   ハリー・クメール
撮影:エドゥアルド・ヴァン・デル・エンデン
音楽:フランソワ・ド・ルーベ
出演:デルフィーヌ・セイリグ
   ジョン・カーレン
   ダニエル・ウイメ
   アンドレア・ラウ
   ポール・エッセル

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ホテルを訪れた若い新婚夫婦ステファン(J・カーレン)とヴァレリー(D・ウイメ)

ちょうどその日の夜遅く、一台の高級リムジンがホテルに到着する

リムジンの奥から姿を現した女性とは…?

<Review>
 日本ではいまだに劇場公開はおろかテレビ放送もビデオ発売もされていないが、これは間違いなく'70年代のユーロ・ホラーを語る上で絶対に欠かすことのできない作品であり、「血とバラ」('62)を初めとする耽美系ヴァンパイア映画の系譜の最高峰に位置する傑作だ。
 表現主義やシュールレアリズムの影響を受けたスタイリッシュなカメラワーク、閑散としたオフシーズンのベルギーの避暑地を舞台にしたミステリーと哀愁の入り混じる独特のセンチメンタリズム、鮮烈な色彩とゴージャスなセットが醸し出す優美で退廃的なムード、そして「天使」('37)のマレーネ・ディートリッヒを彷彿とさせる主演女優デルフィーヌ・セイリグのクラシカルな美貌とカリスマ性。溜息の出るほどに美しいアート作品でありながら、同時にエクスプロイテーション映画的なエロティシズムやセンセーショナリズムもふんだんに盛り込まれており、エンターテインメントとしての面白さも備わっている。
 ベルギーの古い避暑地オーステンデを訪れた新婚の若い夫婦ステファンとヴァレリー。そこで彼らは同じホテルに宿泊するミステリアスな貴婦人エリザベスと知り合う。若い愛人イローナが常に付き添っているエリザベスだが、実は彼女こそ伝説の女吸血鬼バートリー伯爵夫人だった。妖艶な美貌と気まぐれな言動で、ステファンとヴァレリーを惑わせ翻弄していくエリザベス。やがて幸せそうに見えた若夫婦の暗い闇が露呈し、血なまぐさい事件へと発展していく…。
 注目すべきは、物語の中盤から悪役がエリザベスからステファンへと移行していく点だろう。若いカップルを言葉巧みに誘惑し、残酷な罠を仕掛けることで、モラルと建前で取り繕われた夫婦関係の偽善を暴いていくエリザベス。それによって亭主関白なステファンの野蛮で暴力的な本性が頭をもたげ、従順で世間知らずなヴァレリーが強い自立心に目覚め、やがて2人の関係は破滅へ向かっていくことになる。
 本作の根底にあるのは、中世以来ヨーロッパを支配してきたマチズモ的な父権社会VS虐げられ続けてきた女性の人権という対立構造。それが男女平等という現代社会の表層の裏でも脈々と生き続けていることを、人間の根源的なエロスとタナトスを司る女吸血鬼エリザベスが証明するというわけだ。すなわち、彼女は快楽と悪徳を象徴する誘惑者であると同時に、社会倫理という束縛から個人を解き放つ開放者でもある。そうやって考えると、これは綺麗事で塗り固められたモラルに対する悪徳の勝利を描いた作品であり、前時代的な男性権力に対するフェミニズムの勝利を描いた作品でもあると言えよう。

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40年前と全く変わらぬ若さと美貌を保つエリザベス(D・セイリグ)

秘書のイローナ(A・ラウ)はエリザベスの愛人でもあった

隣町で起きた不気味な殺人事件に心奪われるステファン

<Story>
 夜行列車で季節はずれの避暑地オーステンデにやって来た新婚夫婦ステファン(ジョン・カーレン)とヴァレリー(ダニエル・ウイメ)。2人はステファンの母親に会うため、スイス国境近くにある彼の実家へと向かう途中だった。まだ母親への結婚報告すら済んでいないというステファンは、なにかと理由をつけて実家への到着を先延ばしにしているのだが、ウブなヴァレリーは全く気づいていない。
 その晩、一台の高級リムジンがホテルの前に到着する。中から現れたのは、妖艶で謎めいた美女エリザベス・バートリー伯爵夫人(デルフィーヌ・セイリグ)。その姿を見たホテルの支配人(ポール・エッセル)は驚きを隠せない。なぜなら、彼はまだベルボーイだった40年前にホテルを訪れたバートリー夫人の接客をしたことがあるのだが、その頃と姿形が何一つ変わっていなかったからだ。
 それは私の母親か叔母じゃない?と妖しげな頬笑みを浮かべながら話をはぐらかすエリザベス。ふと食堂に目を向けた彼女は、ちょうど夕食を取っているステファンとヴァレリーを見かけて目を輝かせる。なんて美しいカップルなのかしら、完璧だわ…と。そんな彼女に、秘書であり愛人でもあるイローナ(アンドレア・ラウ)が嫉妬の眼差しを向ける。
 翌日にはホテルを発つ予定だった新婚夫婦だが、ステファンの突然の心変わりでもう一泊することになる。観光がてら隣町を訪れた2人は、そこで奇妙な殺人事件の現場に遭遇した。若い女性が全身の血を抜き取られていたのだ。救急隊が運び去る女性の遺体に目を奪われるステファン。ヴァレリーはそんな夫に不安を覚える。
 少しづつ不協和音を響かせ始めるステファンとヴァレリー。彼には妻の知らない重大な秘密があった。そして、そんな2人にエリザベスが急接近する。せっかく知り合ったんですもの、もっと仲良くしましょう。甘い囁きと自由奔放な言動で夫婦の心を弄んでいくエリザベス。その手となり足となり夫婦の関係をかき乱していくイローナ。ヴァレリーはすぐにでもホテルを出たいと訴えるが、ステファンは残ることに執着するばかりか、突然狂ったようにヴァレリーをベルトで鞭打ち乱暴に犯すのだった。
 明け方、逃げるようにしてホテルを飛び出し駅へ向かうヴァレリー。それをエリザベスが引き止める。優しい彼女の言葉と抱擁に魅了されたヴァレリーは、それまでの警戒心が嘘のように晴れ、いつしかエリザベスに心酔していく。その頃、イローナは部屋に一人残されたステファンを誘惑。だが、欲望をむき出しにするステファンともみ合いになった結果、イローナはバスルームで転倒して息絶えてしまった。
 取り乱す若いカップルにイローナの死体を始末させ、今や完全に主導権を握ったエリザベス。果たして彼女の目的とは?そもそも彼女は何者なのか…?

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若夫婦に興味を持ったエリザベスに嫉妬するイローナ

甘く優しい言葉で2人に近づき翻弄していくエリザベス

ステファンはヴァレリーに暴行を振るうようになる

<Information>
 日本ではほぼ無名に等しいベルギーのハリー・クメール監督。本作が彼の代表作であることは間違いないのだが、それ以外にも男装したバイセクシャルの貴婦人を主人公に、殺人を犯した彼女の破滅的な逃避行を描いた「Monsieur Hawarden」('69)、迷宮のような豪邸に囚われた美しきギリシャの神々の葛藤を描いたオーソン・ウェルズ主演の「Malpertius」('73)など、デカダンで怪奇幻想的な作品を幾つも残しており、将来的に再発掘&再評価が望まれる映像作家と言えるだろう。
 脚本に携わったピエール・ドルートは、シャーロット・ランプリング主演の「マスカラ」('87)や日本でもヒットした「トト・ザ・ヒーロー」('91)などの製作総指揮を手がけた人物。また、「女の平和」('53)や「女優ナナ」('55)で知られるフランスの脚本家ジャン・フェリがダイアログに携わっている。
 そのほか、ジャック・タチの「トラフィック」('71)を手がけたエドゥアルド・ヴァン・デル・エンデンが撮影監督を、「ハンカチのご用意を」('78)のフランソワーズ・アルディが美術監督を、「さらば友よ」('68)や「ラ・スクムーン」('72)など当時のフランス映画には欠かせなかった作曲家フランソワ・ド・ルーベが音楽スコアを担当。
 なお、本作に登場するホテルの外観と屋内ロケの一部はオーステンデのテルマエ・パレス、そして屋内ロケの大半はブリュッセルのアストリアという、ベルギーを代表する由緒正しい名門ホテルが撮影に使用されており、作品のノスタルジックでゴージャスな雰囲気を高めるのに一役買っている。上記の北米盤ブルーレイでは、クメール監督と脚本家ドルートの2人が、現在のテルマエ・パレスとアストリアを散策しながら当時の撮影舞台裏を振り返るドキュメンタリーが特典映像として収録されており、部分的に修繕されている以外は殆ど40年前と変わっていないことに驚かされた。
 ちなみに、これまで少なくとも3度に渡ってDVD化されてきた本作だが、いずれも画質的には満足のいくものではなかった。特に米アンカー・ベイ発売の'98年版とブルー・アンダーグランド発売の'03年版は残念すぎるクオリティ。'98年版はレターボックス収録な上に画像の輪郭はボケて色が滲んでいるし、'03年版もフィルムの傷が目立つわ画像は粗いわといった按配。そこへきてようやく'11年にブルー・アンダーグランドからリリースされたブルーレイは、これまでの不遇を払拭するような驚きの高画質に仕上がっている。本作の映像美を堪能するならば絶対にブルーレイ版がオススメだ。
※筆者はブルーレイからキャプチャする作業環境がないため、当ページのサンプル画像は'03年版DVDより抜き出している。

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逃げ出そうとしたヴァレリーをエリザベスが引き止める

ステファンともみ合ったイローナが浴室で死んでしまう

エリザベスに心酔していくヴァレリーだったが…

 主演はアラン・レネ監督の傑作「去年マリエンバートで」('60)やルイス・ブニュエル監督の「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」('72)などで有名なフランスの大女優デルフィーヌ・セイリグ。大人の色香漂うデカダンな美しさときたら!エロティックなシーンでも優美な気品を失うことなく、その一挙一動から表情に至るまで、隅々に堂々とした貫禄とカリスマ性を備えている。しかも、滑らかで艶やかな英語のセリフ回しの魅力的なこと!これほどの凄い女優は、今や世界中を探したって見つかりっこないだろう。
 新郎ステファン役には、アメリカの伝説的な昼メロ・ホラードラマ「Dark Shadows」と、その劇場版「血の唇」シリーズで知られるハリウッド俳優ジョン・カーレン。新婦ヴァレリーを演じているダニエル・ウイメは、官能ロマン「夜霧のモントリオール」('69)の主演で注目され、その続編「初体験」('70)にも出演したフランス系カナダ人女優だ。
 そして、独特のアンニュイな顔立ちとフルヌードも辞さない大胆な演技でイローナ役に挑んだのは、「ペントハウス」や「ウイ」など各国の男性誌でグラビアモデルとしても活躍していたドイツ人女優アンドレア・ラウ。一種独特の摩訶不思議な個性は、本作のシュールな世界感にピッタリとハマっている。

 

 

愛欲の魔神島・謎の全裸美女惨殺体
Tower of Evil (1972)
日本では劇場未公開・テレビ放送あり
VHS・DVDなど日本未発売

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(P)1999 Elite Entertainment (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85:1/音声:ドルビー・モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/89分/制作国:イギリス

<特典>
オリジナル劇場予告編
監督:ジム・オコノリー
製作:リチャード・ゴードン
脚本:ジム・オコノリー
原作:ジョージ・バクスト
撮影:デズモンド・ディッキンソン
音楽:ケネス・V・ジョーンズ
出演:ブライアント・ハリデイ
   ジル・ヘイワース
   マーク・エドワーズ
   ジャック・ワトソン
   アンナ・パルク
   デレク・フォウルズ
   ゲイリー・ハミルトン
   ジョージ・コールーリス
   ウィリアム・ルーカス
   ジョン・ハミル
   キャンディス・グレンデニング
   ロビン・アスクウィズ
   セレッタ・ウィルソン
ゲスト:デニス・プライス
    アンソニー・ヴァレンタイン

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真夜中に島へ上陸した漁師ハンプ(J・ワトソン)と父親ジョン(G・コールーリス)

バラバラに切り裂かれた若者たちの死体を発見する

もの陰から飛び出してきた若い女性がジョンに切りかかる

<Review>
 劇場公開当時は興業的にも批評的にも大惨敗を喫したものの、その後ホラー映画マニアのクチコミによってカルト的な人気を博すようになった作品。連続殺人事件に古代の邪神伝説を絡めており、それとなくオカルト映画的な要素を匂わせつつも、実は後の「悪魔のいけにえ」や「バーニング」などにも相通じる王道的なスラッシャー映画に仕上がっている。
 カナダに実在するスネープ島でアメリカ人旅行者男女の惨殺体が発見される。唯一の生存者である若い女性が犯人と目されたが、それにしても不可解な点が多かった。そこで、容疑者の家族の依頼で私立探偵ブレントが調査に乗り出すことに。一方、凶器に使われたナイフが古代フェニキアの邪教儀式に使われたものだったことから、考古学者たちによる調査隊が島へ向かうこととなり、ブレントもその一団に加わることとなる。だが、島では得体の知れない何者かが徘徊し、メンバーが一人また一人と血祭りに挙げられていく…。
 古い灯台がそびえ立つ岩だらけの不気味な無人島、無残なバラバラ死体で発見される犠牲者たち、そして全裸のまま発狂状態で霧の中を疾走する若い女性。不穏で禍々しい空気の漂うオープニングから一気に引き込まれる。それぞれにワケありな登場人物たちの余計な人間ドラマが全体のテンポを悪くしている嫌いはあるものの、当時としてはかなり過激な残酷描写や性描写が盛りだくさん。そういう意味ではサービス精神旺盛な作品と言えるだろう。
 時期的に考えても、恐らく前年に公開されたマリオ・バーヴァ監督の元祖スラッシャー映画「血みどろの入江」('71)からの影響は明らかだろう。頭部を鉈でカチ割るなど殺人シーンにも類似点がある。一方、人里離れた孤島に潜む狂気の一家という設定には、「悪魔のいけにえ」や「恐怖のいけにえ」を先取りした感があるし、犯人の特殊メイクや最期は「バーニング」を彷彿とさせる。スラッシャー映画の系譜を紐解く上でも見逃せない一本だ。

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ショック状態のペニー(C・グレンデニング)に催眠療法が試みられる

ペニーの家族に真相究明を依頼された私立探偵ブレント(B・ハリデイ)

一流考古学者のローズ(J・ヘイワース)と元恋人アダム(M・エドワーズ)

<Story>
 カナダのハドソン沖に浮かぶ小さな孤島スネープ島。真夜中に地元の漁師ハンプ(ジャック・ワトソン)と父親ジョン(ジョージ・コールーリス)が上陸する。そこで彼らはバラバラに切り裂かれた若者たちの全裸死体を発見。さらに灯台の周辺を調べたところ、物陰から飛び出してきた若い女性がジョンをメッタ刺しにし、狂ったように叫びながら暗闇を駆け抜けていった。
 発見された女性はペニー(キャンディス・グレンデニング)といい、アメリカ人の旅行者だった。仲間と合計4人で島へ上陸したものの、彼女以外は全員殺されていた。警察のホーク警視総監(ウィリアム・ルーカス)はペニーが犯人だと考えるが、状況的に不可解な点も多い。だが、肝心のペニー本人はショック状態で口を開くことができず、精神科医のシンプソン博士(アンソニー・ヴァレンタイン)は最新の催眠療法を試みていた。
 その頃、ベイクウェル卿(デニス・プライス)のもとに4人の考古学者が集まっていた。実は、ペニーの持っていたナイフが古代フェニキアの邪教儀式に使用されていたものと判明し、ベイクウェル卿がスポンサーとなって調査隊が派遣されることとなったのだ。参加者はローズ(ジル・ヘイワース)と元恋人アダム(マーク・エドワーズ)、そしてノーラ(アンナ・パルク)とダン(デレク・フォウルズ)のウィンスロップ夫妻。いずれも国際的に著名な考古学者だが、ローズはアダムとノーラの浮気現場を発見して彼と別れ、一時期は傷心のダンと不倫関係に陥ったこともある非常に複雑な間柄だった。
 そこへ、私立探偵のブレント(ブライアント・ハリデイ)も加わることとなる。彼はペニーの家族から依頼され、彼女の無実を証明するべく、事件現場を独自に調べようというのだ。かくして、漁師ハンプと甥っ子ブロム(ゲイリー・ハミルトン)の船に乗って、スネープ島へと上陸した調査隊。一行は惨劇の起きた灯台で寝泊りすることとなる。
 実は、この灯台には半年前までハンプの弟夫婦が暮らしていた。だが、妻と息子が船事故で溺死してしまったことから、弟は悲しみに暮れた末に自殺してしまったという。ローズは何者かの視線を感じるものの、自分たち以外の誰かが島にいる形跡はない。やがて夜の帳が降りると、辺りに奇妙な音色が聞こえる。初めは風の音かと思われたが、それはまるで口笛のようだった。ブレントはアダムやダンを連れて辺りを捜索する。
 一方、若くてハンサムなブロムに色目を使うノーラは、彼をベッドへ誘って激しい肉欲に溺れる。すると、沖の方で激しい爆発音が。驚いたブレントたちが駆けつけたところ、彼らが乗ってきた船が何者かによって爆破されていた。ブロムも慌てて外へ飛び出したため、灯台に一人残されてしまったノーラ。不気味な囁き声を耳にした彼女が暗闇を掻き分けていくと、そこには女性の腐乱死体があった。
 ノーラの絶叫を聞いて灯台へ戻った一行。腐乱死体はハンプの弟の妻だった。実は、彼の弟ソールは自殺などしていなかった。もともと本土で暮らしていた弟夫婦だったが、ソールが精神に異常をきたし始めたため、療養を兼ねてスネープ島の灯台で暮らすことになったのだ。食料品などは月に一度ハンプが船で送り届け、ソールの妻が受け取っていた。だが、半年前に姿を見せなくなってしまい、弟夫婦もその息子も行方が分からずじまいだという。ハンプがペニーを発見した際も、実は弟夫婦の搜索に来ていたのだ。
 犯人は狂ったソールに違いない。そう考えた一行は、男たちだけで手分けして行方を探すことにした。だが、灯台に残されたノーラが殺害され、地下通路へ迷い込んだブロムも犠牲になる。やがて発見される地下洞窟の神殿。そこにはフェニキアの邪神バールが祀られていた…。

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ノーラ(A・パルク)とダン(D・フォウルズ)の夫婦もなにかとワケあり

唯一の交通手段である船が何者かによって爆破されてしまう

無人島を徘徊する殺人鬼の正体とは…?

<Information>
 監督はジョーン・クロフォード主演の猟奇サスペンス「姿なき殺人」('67)や特撮怪獣映画「恐竜グワンジ」('69)で知られるジム・オコノリー。レイ・ハリーハウゼンの手がけた特撮が高い評価を得ている「恐竜グワンジ」は別格とすれば、決して優れた映画監督とは呼べない彼にとって、本作は少なくともビジュアル面においてはダントツに優れた作品と呼べるだろう。ミニチュアと実物大セットを巧みに使い分けた、独特の幻想的な雰囲気作りは悪くない。
 製作を担当したのは、「顔のない悪魔」('58)や「悪魔の受胎」('79)といったゲテモノC級ホラーで有名なリチャード・ゴードン。原作はアメリカの犯罪小説家ジョージ・バクストだが、彼は映画脚本家としても活躍しており、「殺人鬼登場」('60)や「死霊の町」('60)、そしてハマーの「吸血サーカス団」('71)といった名作ホラーを残している。
 そのほか、ローレンス・オリヴィエの名作「ハムレット」('48)を手がけたデズモンド・ディッキンソンが撮影監督を、「007/オクトパシー」('83)やオスカー候補になった「暴走機関車」('85)で有名なヘンリー・リチャードソンが編集を、「ミニミニ大作戦」('69)や「マーフィの戦い」('71)のディズレイ・ジョーンズが美術デザインを、スタンリー・ドーネン監督の「無分別」('58)などハリウッド映画での仕事も多いケネス・V・ジョーンズが音楽スコアを担当。低予算映画にしてはなかなか豪華なスタッフの顔ぶれだ。

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ノーラが灯台のてっぺんから突き落とされて絶命する

秘密の地下通路を発見したローズやアダムたち

洞窟の中に眠っていたのは古代フェニキアの邪神バールの祭壇だった…

 私立探偵ブレント役の主演俳優ブライアント・ハリデイは、実は俳優としてよりも映画配給者としての方が有名な人物。彼が俳優業の傍らで'57年に設立したヤヌス・フィルムは、黒澤明やイングマール・ベルイマンなどの外国語映画を全米に配給し、アメリカにおける外国映画ブームに火をつけることとなった。なので、本来は俳優業で食っていく必要などなかったのだが、本人が大のホラー映画マニアということもあって、本作や「Devil Doll」('64・日本未公開)などのホラー映画に趣味を兼ねて出演していたのだそうだ。
 ヒロインのローズを演じているのは、巨匠オットー・プレミンジャーの秘蔵っ子として「栄光への脱出」('60)で映画デビューした女優ジル・ヘイワース。ただ、プレミンジャーの元を離れてからは作品に恵まれず、本作や「悪魔の植物人間」('74)などの低予算ホラーに出演していた。
 そのほか、「怪奇!呪いの生体実験」('66)のヒロイン役でも知られるアンナ・パルク、「王女テラの棺」('71)や「蝋人形館の恐怖」('73)などUKホラーへの出演が多いマーク・エドワーズ、「トブルク戦線」('66)や「ワイルド・ギース」('78)など戦争映画の無骨な軍人役でお馴染みのジャック・ワトソン、「フランケンシュタイン死美人の復讐」('67)のデレク・フォウルズ、「市民ケーン」('41)の投資家サッチャー役で知られるジョージ・コールーリス、「ザ・ショッカー/女子学生を襲った呪いの超常現象」('76)などノーマン・J・ウォーレン作品でお馴染みのキャンディス・グレンデニングなどが出演。
 また、ブラック・コメディ「カインド・ハート」('49)の連続殺人鬼紳士役で絶賛された名優デニス・プライス、「コルディッツ大脱走」などイギリスではテレビ俳優として有名なアンソニー・ヴァレンタインがゲスト出演。さらに、イギリスの元祖男性ヌード・モデルとして知られるジョン・ハミルや、性春コメディ「ドッキリ・ボーイ」シリーズで一世を風靡したロビン・アスクウィズらが、ペニーの友達であるアメリカ人旅行者の若者役で顔を出している。

 

 

 

フランコ・ネロとナタリー・ドロンの
サタンの誘惑
Le moine (1972)
日本では劇場未公開・テレビ放送なし
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2013 Golem Video (Italy)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(イタリア盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.66:1/音声:ドルビー・ステレオ/言語:英語・イタリア語/字幕:なし/地域コード:2/94分/制作国:フランス・西ドイツ・イタリア

<特典>
なし
監督:アド・キルー
製作:アンリ・ランジェ
原作:マシュー・G・ルイス
脚本:ルイス・ブニュエル
   ジャン=クロード・カリエール
撮影:サッシャ・ヴィエルニ
音楽:ピエロ・ピッチョーニ
出演:フランコ・ネロ
   ナタリー・ドロン
   ニコル・ウィリアムソン
   ナジャ・ティラー
   エリアナ・デ・サンティス
   エリザベート・ウィエネル
   アニエス・カプリ
   ドニ・マヌエル

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高潔な人物として信者から崇拝される修道僧アンブロジオ(F・ネロ)

若い修行僧がアンブロジオに近づく

その正体は妖艶な美女マチルデ(N・ドロン)だった

<Review>
 あのバイロン卿やマルキ・ド・サドにも多大な影響を及ぼしたとされる、18世紀の作家マシュー・グレゴリー・ルイスによる悪名高い背徳文学「モンク」。カトリック教会と権力の偽善や傲慢を痛烈に糾弾した同作は、ポール・マッギャン主演の「The Monk」('90・日本未公開)やヴァンサン・カッセル主演の「マンク〜破戒僧〜」('11)として映像化されてきているが、その最初の映画化作品に当たるのがこれだ。
 主人公は清廉潔白で人々から崇拝される修道僧アンブロジオ。だが、若き修行僧に扮して近づいた妖艶な美女マチルデの誘惑に屈してしまったことから、彼の長年抑えていた歪んだ肉欲が目覚めてしまう。実は、マチルデの正体は悪魔を崇拝する魔女だった。もはや欲望に歯止めの効かなくなったアンブロジオは、美少女アントニアの厚い信仰心を自分への愛情だと勘違い。マチルデの魔術の力を借りてアントニアを手篭めにしようとするのだが…。
 巨匠ルイス・ブニュエルとジャン=クロード・カリエールが脚本を手がけた作品。実は、もともとブニュエル自身が映画化を長いこと切望しており、実際に彼が監督することで企画が進行していたものの、諸事情によって降板せざるを得なくなったことから、その代役としてギリシャ出身でフランス在住のアド・キルーが演出を担当することになったのだという。
 幾つものサブプロットが挿入された原作を大胆にカットし、偽善者アンブロジオの堕落と魔女マチルデの誘惑、そして大貴族タラムール公爵の悪徳に焦点を絞った本作は、正直なところホラー映画なのかアート映画なのか、どっちつかずな印象が強い。バチカンの激怒しそうなクライマックスの皮肉にはニンマリさせられるが、全体としては権力批判の風刺ドラマとしても一貫性に欠けている。
 これはアド・キルー監督の演出の問題というよりも、そもそもの脚本の問題のように思われるのだが、恐らく製作過程によって修正や改変が加えられているだろうから、これがブニュエルの本来目指していた形なのかは今となっては分からない。いずれにせよ、ブニュエルにカリエールという鬼才が携わった脚本としては、いまひとつパッとしない出来であることは否めないだろう。
 ただ、アンブロジオに扮したフランコ・ネロの怪演はなかなかのもの。大人になって性欲に目覚めてしまった男の哀れな暴走と無自覚の偽善、温室育ちな人間の弱さと脆さを悲哀たっぷりに演じて秀逸だ。魔女マチルデ役のナタリー・ドロンもヌード・シーンを辞さない体当たりぶりを見せるが、残念ながら実力の限界もあってか力及ばずといった感は免れない。

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マチルデの誘惑に負けて肉欲に溺れていくアンブロジオ

自分を棚に上げて姦通の罪を犯した尼僧アニエス(E・ウィエネル)を破門する

敬虔な信者である未亡人エルヴァイラ(N・ティラー)と娘アントニア(E・デ・サンティス)

<Story>
 カトリック教会の戒律に厳しく、自らも徹底した禁欲生活を送る修道僧アンブロジオ(フランコ・ネロ)は、希に見る高潔な人物として信者たちから尊敬されていた。そんなある日、彼に一人の若い修行僧が近づき熱烈な愛を告白する。うろたえるアンブロジオだったが、その修行僧の正体は妖艶な美女マチルデ(ナタリー・ドロン)だった。彼女の激しい誘惑に抵抗を試みるものの、長年抑えられていたアンブロジオの欲望は徐々に目覚めていく。
 マチルデとの肉欲に溺れながらも、姦通の罪を犯した修道女アニエス(エリザベート・ウィエネル)を破門し、自らの罪深さに恐れおののきながら自制心を失っていくアンブロジオ。そんな彼を手玉に取っていくマチルデ。実は、彼女は悪魔を崇拝する魔女で、秘かに放蕩貴族タラムール公爵(ニコル・ウィリアムソン)と繋がっていた。貧しく幼い子供たちを引き取ってはままごとのように弄び、最後は殺して食べるという背徳行為に浸っているタラムール公爵とマチルデは、信心深くて潔癖症なアンブロジオを堕落させようと企んでいたのだ。
 もはや性欲をコントロールできなくなったアンブロジオは、信者である美少女アントニア(エリアナ・デ・サンティス)の厚い信仰心を自分への愛の告白だと勝手に勘違いし、彼女を自分のものにしたいという願望に囚われてしまう。そこで、彼はマチルデの黒魔術の力を利用し、アントニアを昏睡状態に陥らせて処女を奪おうとする。ところが、異変に気づいたアントニアの母親エルヴァイラ(ナジャ・ティラー)に目撃されてしまい、パニックに陥ったアンブロジオはエルヴァイラを殺害してしまう。
 ついに殺人まで犯してしまったことで罪の意識に苛まれ、神の許しを得ようと苦行に勤しむアンブロジオだが、またしてもマチルデの甘い言葉になびいてしまう。タラムール公爵の豪邸に招かれた彼は、愛するアントニアが屋敷にいると知って目の色を変える。保護者のいなくなったアントニアは公爵の家来によって拉致監禁されていたのだ。これでいよいよアントニアを自分のものにできる。そう思った矢先、アンブロジオは殺人事件の真相を知った異端審問会に逮捕されてしまう。しかし…!?

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マチルデは悪徳貴族タラムール公爵(N・ウィリアムソン)と結託した魔女だった

アントニアの厚い信仰心を自分への愛の告白と勘違いするアンブロジオ

アンブロジオはマチルデの魔術の力を借りてアントニアを我が物にしようとする

<Information>
 監督のアド・キルーはギリシャの保守系新聞エスティアのオーナー一族に生まれ、フランスで映画批評家として活動していた人物だった。'50年代半ばから短編映画やテレビドラマの演出を手がけるようになったが、劇場用長編映画の監督はこれが2作目。そんな彼が起用された理由は、恐らくブニュエルの研究者として著作もあったからだろうと推測される。結果として、これが最後の作品になってしまったのだが。
 製作のアンリ・ランジェは、ハリー・クメール監督の「Les levreg rouges」('72)も手がけたプロデューサー。アラン・レネの「去年マリエンバートで」('61)やブニュエルの「昼顔」('67)などで有名な大御所サッシャ・ヴィエルニが撮影監督を、「パリは燃えているか?」(766)や「フレンチ・コネクション2」('75)のピエール・ヌーリが衣装デザインを、アラン・レネの「ミュリエル」('63)や「戦争は終わった」('65)のエリック・プルーが編集を、そしてフランチェスコ・ロージ監督とのコラボでも知られるイタリア映画界のマエストロ、ピエロ・ピッチョーニが音楽スコアを担当している。

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アントニアの寝室に忍び込んだところを見られたためにエルヴァイラを殺害

罪の意識に苛まれて苦行を重ねるアンブロジオだったが…

ついに教会の異端審問会にかけられてしまう

 主演は当時国際スターとして乗りに乗っていたイタリアの名優フランコ・ネロ。マカロニ・ウェスタンや犯罪アクションの多かった彼だが、ブニュエルの「悲しみのトリスターナ」('70)やファスビンダーの「ケレル」('82)など巨匠・名匠の芸術映画への出演も少なくなかった。
 対するナタリー・ドロンは、アラン・ドロン夫人として鳴り物入りでモデル業から映画界に進出し、「個人教授」('68)の年上の女性として男性ファンから熱烈な支持を受けたものの、どちらかというと演技力よりもゴージャスな美貌で人気を集めた女優だった。
 さらに、悪徳三昧の大物貴族タラムール公爵役には、「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦」('76)のホームズ役で有名な英国俳優ニコル・ウィリアムソン。本作では反キリスト教的な悪人を演じているが、「エクソシスト3」('90)では悪魔祓いで命を落とす神父役を演じていた。
 そのほか、「夜の放蕩者」('58)や「スキャンダル」('59)などでドイツ映画界を代表するトップスターだった女優ナジャ・ティラー、巨匠アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの「囚われの女」('68)に主演したエリザベート・ウィエネル、ブニュエルの「銀河」('69)にも顔を出していたドニ・マヌエルらが脇を固めている。

 

 

 

ホラー・ホスピタル
Horror Hospital (1973)
日本では劇場未公開・テレビ放送なし
VHS・DVDは日本発売済

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(P)1999 Elite Entertainment (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/画面比:1.85:1/音声:ドルビー・モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/91分/制作国:イギリス

<特典>
・オリジナル劇場予告編
監督:アントニー・バルチ
制作:リチャード・ゴードン
脚本:アントニー・バルチ
   アラン・ワトソン
撮影:デヴィッド・マクドナルド
音楽:デ・ウォルフ
出演:マイケル・ガフ
   ロビン・アスクウィズ
   ヴァネッサ・ショー
   エレン・ポロック
   スキップ・マーティン
   カート・クリスチャン
   バーバラ・ウェンディ
   ケネス・ベンダ
ゲスト:デニス・プライス

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首狩りリムジンで脱走者の首をはねるストーム博士(M・ガフ)

音楽業界への不満でイライラを募らせた作曲家ジェイソン(R・アスクウィズ)

怪しげなポラック氏(D・プライス)の旅行代理店を訪れる

<Review>
 '60年代にウィリアム・S・バロウズとのコラボレーションで2本の実験映画を発表し、ディストリビューターとしてケネス・アンガーやラス・メイヤーのアングラ映画をイギリスで配給したアントニー・バルチ。もともと「フリークス」('31)や「魔人ドラキュラ」('31)などトッド・ブラウニング監督作品の熱烈なファンだった彼が、満を持して挑んだ本格的なホラー映画がこれ。とはいえ、なにしろ前衛アート出身の人が手がけた作品ゆえ、いい意味でも悪い意味でもけったいなエクスプロイテーション映画に仕上がっている。
 主人公はロンドンに住むロック・ミュージックの作曲家ジェイソン。音楽業界に嫌気のさした彼は、休暇を兼ねて田舎のリゾート施設ブリトルハウスを訪れる。ところが、そこの責任者であるストーム博士は恐るべきマッド・サイエンティストで、施設を訪れたヒッピーの若者たちに次々とロボトミー手術を施し、己の意のままに動くゾンビ軍団へと仕立て上げていた…。
 '70年代らしい露骨なゴアとセックス、そしてグラム・ロックなどを散りばめつつも、基本的なノリは'30〜'40年代にユニバーサルやモノグラムなどが配給した古典的な低予算モンスター映画。ストーム博士の助手として小人が重要な役割を演じているのは、敬愛する「フリークス」へのオマージュなのだろう。博士役にはベラ・ルゴシのイメージを投影しているらしく、演じるマイケル・ガフには「デビル・バット」('40)のルゴシの演技を参考にしてもらったという。
 なので、ディテールの辻褄合わせや物理的な合理性は完全に二の次。どう見ても人間の腰の位置から飛び出した刃がバサバサと通行人の首を切り落としていく“首狩りリムジン”のいい加減さといい、クライマックスに明かされるストーム博士の無理ありすぎな正体といい、古き良き(?)B級ホラーを彷彿とさせる呑気なご都合主義が満載だ。バルチが“生まれる時代の遅すぎた芸術家”と呼ばれるのもなんとなく分かる気がする。
 そうかと思えば、血みどろの残酷描写や大胆なセックス描写など'70年代的ないかがわしさもプンプン。施設を切り盛りする元売春宿の女将の老婆やら、実験台の若者を供給する旅行代理店のゲイのオーナーなど、サブキャラも怪しげな人物ばかり。明らかに賛否両論および好き嫌いの分かれる作品だが、そうした一種独特のキワモノ的魅力こそ、本作がカルト映画としてマニアに愛される理由なのだろう。

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ジェイソンは伯母を訪ねる途中の若い女性ジュディ(V・ショー)と意気投合する

人里離れたリゾート施設ブリトルハウスに到着した2人

施設を管理するストーム博士夫人ハリス(E・ポロック)はジュディの伯母だった

<Story>
 人気ロックバンドに楽曲を提供する若手作曲家ジェイソン(ロビン・アスクウィズ)だが、その一方で音楽業界の商業主義に辟易していた。仕事現場でバンドメンバーと衝突した彼は、雑誌広告で見かけた怪しげな旅行代理店を訪れ、地方のリゾート施設ブリトルハウスで休暇を過ごすことにする。
 列車の中でジュディ(ヴァネッサ・ショー)という若い女性と知り合ったジェイソン。彼女もまたブリトルハウスへ向かう途中だった。母親と死別したばかりのジュディは、唯一の肉親である伯母がブリトルハウスのオーナーと結婚していることを知り、会いに行くところだったのだ。
 迎えに来た不気味なバイカーたちに連れられてブリトルハウスへ到着した2人。そこは人里離れたゴシック建築の大豪邸だった。ジュディの伯母ハリス(エレン・ポロック)は姪と対面して喜ぶどころか、来るなと手紙を出したはずだと迷惑そうな表情を浮かべる。だが、ジュディはその手紙を受け取っていなかった。あいにく部屋が埋まっていることから、ジェイソンとジュディは同室に宿泊することとなる。
 列車で出会った時からお互いを意識していたジェイソンとジュディは、たちまち恋人同士の関係に。楽しい休暇になるかと思われたが、夕飯の席で他の宿泊者たちを目にした2人は大いに戸惑う。いずれも同世代くらいの若者なのだが、顔色が悪いし表情はうつろで目が死んでいる。話しかけても返事がないどころか、席に座ったまま微動だにしないのだ。
 実は、彼らはブリストルハウスのオーナー、ストーム博士(マイケル・ガフ)によってロボトミー手術を施され、博士の命令通りにしか動かないゾンビにされていたのだ。彼が実験台にするのは大嫌いなヒッピーの若者たち。根無し草の彼らが行方不明になったところで、誰も捜索願など出さないだろうから好都合だ。旅行代理店のポラック氏(デニス・プライス)が適当な若者にブリトルハウスの休暇プランを案内し、最寄駅の駅長カーター(ケネス・ベンダ)が外部からの人の出入りをチェックして博士に逐一報告していた。たまに脱走者が出るものの、その場合は“首狩りリムジン”で追いかけて斬首すればいい。
 かくして、ストーム博士によって囚われの身となってしまったジェイソンとジュディ。金銭をたかろうとしたポラック氏が殺される現場を目撃したジェイソンは、助けを呼ぶために施設を脱走するものの、ゾンビのバイカー集団に捕まって連れ戻されてしまう。ジュディが次の実験台にされると知ったハリスは、彼女を連れてブリトルハウスを去ろうとするが、もの陰から現れたモンスターによって殺されてしまった。
 なんとかジュディを助けて逃げようと考えるジェイソンは、恋人を探して施設を訪れたところを囚われた若者エイブラハム(カート・クリスチャン)、そして博士の悪事に嫌気の差した小人の助手フレデリック(スキップ・マーティン)と協力して、ストーム博士とゾンビ軍団に立ち向かおうとするのだが…。

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ほかの宿泊客はまるでゾンビのような若者たちだった

施設を隠れ蓑に恐ろしい実験を行うストーム博士に2人は監禁される

ストーム博士は邪魔になったポラック氏を殺害

<Information>
 もともとテレビCMの監督やフランス映画の英語字幕翻訳を手がけていたアントニー・バルチ監督は、パリ在住時代にバローズやアンガーと親しくなり、いわゆるビート・ジェネレーションのサークルに加わったという。先述したように'60年代はバローズと組んで実験映画を撮っていた彼だが、低予算ホラー映画でお馴染みの製作者リチャード・ゴードンと知り合って意気投合。手始めに、セックスをキーワードにホラーやコメディなど様々なジャンルを寄せ集めたオムニバス映画「Bizarre (aka Secrets of Sex)」('70)を発表したところ、思いがけずヒットしてしまったことから、念願の本格ホラーである本作に着手したというわけだ。
 そもそも先にタイトルが決定し、それに合わせて友人アラン・ワトソンと脚本を書き上げたというバルチ監督。ブリトルハウスの外観に使用されているのは、15世紀に建てられた由緒正しい豪邸ネブワース・ハウスだ。監督にとって最大のヒット作となった本作だが、その後のプロジェクトがことごとく頓挫する中、'80年に42歳という若さで胃癌のため死去。結果的にこれが遺作となってしまった。
 撮影監督を担当したのは、ジミー・クリフ主演の音楽映画「ハーダー・ゼイ・カム」('72)を手がけたデヴィッド・マクドナルド。彼は「Bizarre」でもバルチ監督と組んでいる。編集は「ゾンビ特急地獄行」('72)などホラーに縁のあるロバート・C・ディアバーグ。また、音楽にクレジットされているデ・ウルフとは音楽出版社のことで、同社にストックされたライブラリー音楽がBGMとして使用されている。

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ジュディを連れて出ていこうとしたハリスも不気味なモンスターに殺される

エイブラハム(K・クリスチャン)やフレデリック(S・マーティン)と団結するジェイソン

ストーム博士はジュディを次なる実験台にしようとしていた…

 主演はご存知、「吸血鬼ドラキュラ」('58)や「黒死館の恐怖」('59)などUKホラーでお馴染みの怪奇俳優マイケル・ガフ。クリストファー・リーやピーター・カッシングほどの知名度はないものの、英国紳士然としたインテリジェントな存在感でティム・バートン監督など熱心なファンも多く、晩年は「バットマン」シリーズの執事アルフレッド役でも親しまれた。
 実質的な主役のジェイソン役には、英国産性春コメディ「ドッキリ・ボーイ」シリーズで一世を風靡したロビン・アスクウィズ。決してハンサムとは言えないおサル顔の彼がなぜあれほど人気を集めたのか不思議なところだが、ハーマンズ・ハーミッツのピーター・ヌーンにも似た少年っぽさが女性ファンにアピールしたのかもしれない。
 その相手役ジュディには、これが唯一の大役である無名女優ヴァネッサ・ショー。彼女の伯母ハリスを演じているエレン・ポロックは、サイレント映画時代から活躍する大ベテランで、E・A・デュポン監督の「ムーラン・ルージュ」('28)やアルトゥール・ロビンソン監督の「密告者」('29)、ロバート・スティーブンソン監督の「ノンストップ紐育」('37)などに出演している。
 そのほか、「グレゴア」('66)や「吸血サーカス団」('72)にも出ていた小人俳優スキップ・マーティン、「シンドバッド黄金の航海」('73)や「シンドバッド虎の目大冒険」('77)などアラブ人役の多いカート・クリスチャンが登場。また、「愛欲の魔神島・全裸美女惨殺体」('72)に引き続いて名優デニス・プライスがゲストとして顔を出している。

 

 

魔人館
House of the Long Shadows (1983)
日本では劇場未公開・テレビ放送なし
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2012 Final Cut/MGM (UK)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆

DVD仕様(UK盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85:1/音声:ドルビー・ステレオ/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/97分/制作国:イギリス

<特典>
・メイキング・ドキュメンタリー「House of the Long Shadows... Revisited」(95分)
・ピート・ウォーカー監督と批評家デレク・パイケットによる音声解説

監督:ピート・ウォーカー
製作:メナハム・ゴーラン
   ヨーラム・グローバス
原作:アール・ダー・ビガーズ
脚本:マイケル・アームストロング
撮影:ノーマン・G・ラングリー
音楽:リチャード・ハーヴェイ
出演:ヴィンセント・プライス
   クリストファー・リー
   ピーター・カッシング
   デジ・アーナズ・ジュニア
   ジョン・キャラダイン
   リチャード・トッド
   シーラ・キース
   ジュリー・ピースグッド
   ルイーズ・イングリッシュ
   リチャード・ハンター

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ロンドンにやって来たアメリカ人のベストセラー作家ケネス(D・アーナズ・ジュニア)

出版社社長アリソン(R・トッド)と24時間以内に新作を書くという賭けをする

執筆のために訪れたのは人里離れた古い屋敷ボールドパテ邸

<Review>
 映画史に燦然と輝くホラー・アイコン、ヴィンセント・プライスにクリストファー・リー、ピーター・カッシング、そしてジョン・キャラダイン。それぞれ個別には共演作の多い彼らだが、4人が一堂に会したのは後にも先にもこれ一本だけだった。しかも、監督は「フライトメア」('74)や「魔人神父」('75)などで知られるUKカルト・ホラーの鬼才ピート・ウォーカー。これだけの顔ぶれが揃って駄作などになろうはずがあるまい。
 主人公はロンドンを訪れたアメリカ人のベストセラー作家ケネス。若くて血気盛んな彼は、24時間以内に「嵐が丘」クラスのゴシック小説を書き上げると豪語し、出版社社長と20000ドルの賭けに出る。執筆に集中するため、郊外の古い豪邸へとやって来たケネス。だが、そこにはいるはずのない年老いた管理人親子がおり、さらには屋敷ゆかりの人々が次々と集まってくる。やがて、一人また一人と何者かによって殺され、屋敷に隠された名門一族の暗い秘密が明かされていく…。
 原作はサイレント時代から幾度となく映画化されたアール・ダー・ビガースのミステリー小説「七つの鍵」。「猫とカナリア」や「魔の家」などの系譜に属する、古式ゆかしい典型的なオールド・ダーク・ハウス(幽霊屋敷)ものだ。クラシックな怪奇映画スターを集めてクラシックな怪奇映画を、というのが基本的なコンセプト。「アッシャー家の惨劇」から「風と共に去りぬ」まで様々な古典的名作映画へのオマージュを散りばめたマイケル・アームストロングの脚本は文学的でウィットに富み、古き良きホラー映画のお約束をあえて踏襲したピート・ウォーカーの演出もブラックなユーモアに溢れている。
 '80年代初頭の映画としては明らかに古めかしい作風。グラフィックな残酷描写は殆どないし、性描写に至っては全くのゼロである。当時はストレートなホラー映画として宣伝されたらしいが、本来ならばホラー・コメディとして認知させるべきだった。なので、興行的に失敗してしまったのも無理はなかろう。
 しかし、映画の出来そのものは一級品。脇役のリチャード・トッドやシーラ・キースを含めた豪華キャストの共演は見ているだけでワクワクする。しかも、彼らが明らかに撮影を楽しんで演じており、その軽妙なアンサンブル演技は実に見事なものだ。ピート・ウォーカーの演出も気品と風格があって洒脱。結末のタネ明かしは確かにご都合主義でナンセンスだが、それを含めてクラシック・ホラーの魅力と醍醐味を存分に味わえるはずだ。

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早速タイプライターに向かって書き始めるケネスだったが…

管理人を名乗るグリスベイン氏(J・キャラダイン)と娘ヴィクトリア(S・キース)

アリソンの美人秘書メアリー(J・ピースグッド)は何かがおかしいと感づく


<Story>
 最新作のプロモーションのためロンドンを訪れたアメリカ人の若きベストセラー作家ケネス・マギー(デジ・アーナズ・ジュニア)。近頃の小説には情熱や魂がないと嘆く出版社社長アリソン(リチャード・トッド)に、ヴィクトル・ユゴーやエミリー・ブロンテの小説なんて今どき誰だって書けると反論するケネス。そこで、彼は24時間以内に「嵐が丘」並みのゴシック小説を書き上げることを条件に、アリソンと2万ドルを賭けることになった。
 そこで、アリソンはケネスが執筆に集中できるよう、ロンドン郊外の人里離れた場所にある古い屋敷ボールドパテ邸を紹介する。そこは由緒正しい名門一族の所有だったが、今は他人の手に移って誰も住んでいない。地元では呪われた幽霊屋敷と噂されており、近づく者など殆どなかった。確かに、ゴシック小説を書くにはおあつらえ向きの場所だ。
 嵐の中を車を走らせ、道に迷いながらも夜更けに屋敷へ到着したケネス。早速タイプライターを打ち始めた彼だったが、誰もいないはずの広い豪邸に不気味な物音が響く。恐る恐る階下の暗闇をかき分けると、そこには怪しげな老人と老女の姿が。2人は管理人のグリスベイン氏(ジョン・キャラダイン)と娘ヴィクトリア(シーラ・キース)だという。さらに、メアリー(ジュリー・ピースグッド)という若い女性が屋敷に忍び込んだところをケネスに発見される。
 メアリーはアリソンの秘書で、ケネスに悪戯を仕掛けようとしていたらしい。正体がバレてしまったことをアリソンに報告した彼女は、そこで上司から屋敷には管理人などいないことを知らされる。では、あの老人と老女は何者なのか?彼らの様子を確認にしようとしたケネスとメアリーだったが、今度はセバスチャン(ピーター・カッシング)という老紳士が現れる。近くで車が故障したので立ち寄ったというが、ケネスは胡散臭さを嗅ぎ分けていた。
 さらに、ライオネル(ヴィンセント・プライス)という見るからに怪しげな男も登場。彼はかつてここの住人だったという。明らかにお互いを知っていると見受けられる老人たち。実は、彼らは代々にわたってボールトパテ邸を所有していたグリスベイン一族のメンバーだったのだ。グリスベイン氏が父親でライオネルが長男、セバスチャンが次男、そしてヴィクトリアが長女。だが、彼らは何故こんな真夜中に生まれ育った屋敷で再会を果たしたのか?
 そこへ、今度は売りに出された屋敷の権利を購入したばかりだという不動産業者コリガン(クリストファー・リー)がやって来る。たとえ元々の所有者一族とはいえ、何十年も前に屋敷を手放しているのだから、れっきとした家宅侵入だ。すぐに出て行くよう命じるコリガンに、グリスベイン家の人々が今夜集まった理由を語り始める。
 実はグリスベイン家にはロデリックという末っ子がいた。あれは今から40年前のこと。当時14歳だったロデリックは村の若い娘を弄んだばかりか、彼女が妊娠したと知ると無慈悲にも殺してしまったのだ。事件はたちまちスキャンダルとなり、糾弾されたロデリックは自殺。一家は先祖代々住み慣れた屋敷を手放さねばならなくなったのだ。
 ところが、実はロデリックは死んでなどいなかった。家名に泥を塗った罰として、邸宅の屋根裏部屋に幽閉されていたのだ。しかも、未だに生きているという。確かに、ケネスとメアリーも屋根裏部屋で妙な物音を聞いていた。一行は慌てて屋根裏部屋の扉を開けるものの、そこはもぬけの殻だった。だが、確かに生活の痕跡がある。ロデリックは屋敷のどこかに隠れているに違いない。
 だが、何者かの仕掛けた罠によってグリスベイン氏が心臓発作を起こして亡くなり、遺体のそばに付き添っていたヴィクトリアがピアノ線で首を絞め殺された。4台あった車も全て破戒されていた。バッグパッカーの若い男女が屋敷に迷い込んできたものの、彼らもまた酷い方法で殺されてしまう。犯人はやはりロデリックなのか?その行方を捜す一行だが、一人また一人と犠牲者が増えていく…。

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車の故障で立ち寄ったという老紳士セバスチャン(P・カッシング)

見るからに怪しげな男ライオネル(V・プライス)は屋敷の元住人だという

屋敷の土地を所有する不動産業者コリガン(C・リー)まで現れた

<Information>
 もともとピート・ウォーカー自身が製作も兼ねた企画だったらしいが、彼のフィルモグラフィの中では最も予算が高い(主にキャストのギャラ)ことから、当時ロンドンにオフィスを構えたばかりだったキャノン・フィルムのバックアップを得た。そのため、メナハム・ゴーランとヨーラム・グローバスがプロデューサーとしてクレジットされているが、実際はウォーカー監督がその責務を担ったという。
 当初は「魔の家」のリメイクとなるはずだったが、同作のリメイク権が既に他者へ渡っていた(結局は実現しなかったが)ことから、同じジャンルの「七つの鍵」に白羽の矢が立ったのだそうだ。脚本を手がけたのは、悪名高き中世拷問映画「残酷!女刑罰史」('70)の監督としても有名なマイケル・アームストロング。クラシック映画へのオマージュは全て彼のアイディアだったらしい。
 撮影監督には、「特捜班CI5」や「名探偵ポワロ」などテレビドラマで知られるノーマン・G・ラングリー。「ウィズネイルと僕」('87)のマイケル・ピックウードが美術監督を、ピート・ウォーカー作品常連のロバート・C・ディアバーグが編集を、「ダヴィンチ・コード」('06)のリチャード・ハーヴェイが音楽スコアを手がけている。
 なお、上記のUK盤DVDには1時間半以上に及ぶメイキング・ドキュメンタリーが収録されており、ウォーカー監督や女優ジュリー・ピースグッドがロケ地のロターフィールド・パークを再訪するほか、デジ・アーナズ・ジュニアをはじめとするキャストやスタッフが当時の思い出を振り返っている。19世紀初頭に建てられたというロターフィールド・パークは、家具や調度品まで撮影当時とほとんど変わっておらず。また、関係者の証言からは本作の撮影が実に和やかで和気藹々としたものだったのかが伝わり、ただのメイキング映像にとどまらない感動的な内容となっている。

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何者かによって全ての車が壊されてしまっていた

グリスベイン氏とヴィクトリアが相次いで不慮の死を遂げる

さらに残酷な手口で殺されていく犠牲者たち…

 主演のヴィンセント・プライスとクリストファー・リー、ピーター・カッシング、そしてジョン・キャラダインの4人については、もはや説明をする必要もなかろう。いずれも、ホラー映画の歴史を語る上で欠かすことのできない伝説的な大スター。リーとカッシングにとっては、これが24本目の共演作だった。
 主人公のケネスを演じているのは、ルシール・ボールとデジ・アーナズ夫妻の長男としても有名な二世俳優デジ・アーナズ・ジュニア。ヴィンセント・プライスはルーシーのテレビ番組に何度もゲスト出演していたことから、幼い頃から親しかったというが、映画での共演はこれが初めてだった。
 そんな彼にとって少年時代からの憧れのスターだったというのが、出版社社長アリソンを演じているリチャード・トッド。「ロビン・フッド」('52)や「剣と薔薇」('53)などの剣戟映画で一世を風靡した英国俳優で、「命あるかぎり」('48)ではアカデミー主演男優賞にもノミネートされた大スターだったが、本作が最後の映画出演作となった。
 さらに、ピート・ウォーカー作品の常連として知られる怪女優シーラ・キースが、ヴィクトリア役で大御所名優たちに全く引けを取らない存在感とカリスマ性を発揮。また、イギリスではテレビ女優としてお馴染みのジュリー・ピースグッド、'70〜'80年代にイギリスで一世を風靡したテレビのコメディ番組「The Benny Hill Show」のルイーズ・イングリッシュらが顔を出している。

 

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