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エリカ・ブラン Erika Blanc

 

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 60年代から70年代にかけてのイタリア産娯楽映画には欠かすことのできないスター女優。清楚なヒロイン役からセクシーな悪女まで幅広く演じ、脱ぎっぷりの良さでも定評があった。ただ、脱ぐだけのキレイな女優だったら掃いて捨てるほどいる。彼女には他の女優にはない独特の存在感があった。完全無欠の美女というよりも、一度見たら忘れられない印象的な顔。そして何より、どんな汚れ役もいとわない根性のある演技者だった。
 ベルギーとイタリアの合作『淫虐地獄』('71)では淫魔サッキュバス役として登場。ミステリアスな美女から一転、その邪悪な本性を現してからのエキセントリックな演技は圧巻そのものだった。非常に向上心の高い女優だったのだろう。筆者がかつてインタビューしたイタリアの映画監督ルイジ・コッツィは、彼女のことを“プロ意識の高い完璧主義者”と呼んでいた。それだけに、低予算のB級映画には飽き足らなくなったのだろう。70年代末には舞台女優へ転向し、高い評価を得るようになった。
 フランコ・ジラルディ監督の社会派サスペンス“Voci”('00)で映画界にカムバックし、ここ数年は渋い名脇役として活躍している。同世代のセックス・シンボルの中では、現役として活躍している唯一の女優かもしれない。かつて“残念ながらイタリアでは私のような女優は使い捨てにされるだけなのよ”と嘆いていたエリカだが、その試練を見事に乗り越えることが出来た。イタリアではセクシー女優の多くが容姿の衰えと共に消えてしまうか、ドラッグやアルコールに走って破滅してしまうか、ハードコア・ポルノに出演して落ちぶれてしまうかのいずれか。映画プロデューサーとして成功したエドウィージュ・フェネッシュのような人もいるが、あくまでも稀なケースである。そう考えると、舞台での名声を足がかりに映画界へ返り咲いたエリカ・ブランは非常に賢明だったと言えよう。

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『077/地獄のカクテル』('65)より

『呪いの館』('66)より

 1942年7月23日、イタリアはロンバルディア地方ブレスチアに生まれる。本名エリカ・ビアンキーニ・コロンバート。母親は若い頃アグファ・フィルム専属のモデルだった。エリカが幼い頃に一家はスイスのジュネーヴへと移住。幼い頃から目立つ美少女として評判だったらしく、高校時代にスカウトされて広告モデルを務めている。さらに、ファッション雑誌の編集部で1年半ほど務め、19歳の時に両親と共にイタリアへ戻ってきた。
 もともと父親は娘を音楽家にしたいと考えており、コントラバスを習わせられたこともあったという。しかし、彼女自身は普通に結婚して普通に子供を生んでという人生に憧れ、音楽のレッスンも1年ほどで辞めてしまっている。モデルとして本格的に仕事をしないかという誘いも、当時の彼女は断り続けていた。
 そんなある日、彼女が住むガルダ湖畔の町でブルーノ・ガブッロという若者がドキュメンタリー映画の撮影を行っていた。ブルーノとエリカは知り合ってすぐに意気投合し、3日後に婚約したという。20日後には結婚式を挙げ、そのまま二人は一路パリへ。エリカは雑誌『マリ・クレール』の専属モデルとなり、ブルーノは彼女の両親から結婚記念に貰ったポラロイドカメラで旅行者の記念写真を撮って日銭を稼いでいた。二人は、言うなればボヘミアンだったわけだ。
 やがてパリに飽きた二人はローマへ移動。最高級のホテルに泊まって贅沢三昧の毎日を過ごしたが、すぐに貯金が底を尽きてしまった。そこで、夫婦は高級ナイトクラブのステージに立つようになる。ブルーノがピアノを演奏し、エリカがセクシーなダンスを踊った。やがて、これが評判となり、地方巡業に出るようになる。その巡業の途中で、エリカはステージを見ていたアメリカ人に映画出演の誘いを受ける。このチャンスに飛びついてステージを辞めた二人だったが、結果的に映画の話は流れてしまった。
 仕方なくエリカはブルーノを連れて実家へと戻った。その後、ミラノで仕事のチャンスを探すものの、結局はブルーノの実家から借金をする羽目に。ブルーノは裕福な家庭の生まれで、困ったときはちょくちょく親から金を借りていたようだ。再びエリカの実家に戻った二人は、ちょうど近辺で撮影していた映画のクルーと親しくなった。そこで、エリカはフランスで映画女優をしていたことがあると嘘をつき、映画関係者を紹介してもらったのだった。
 またまたローマへとやって来た二人。ブルーノは映画のエキストラの仕事を貰うようになり、エリカはフォト・ストーリーと呼ばれる写真付き三文小説のモデルをするようになる。これはそこそこお金になったらしく、二人はローマ市内の共同アパートで生活をするようになった。同居人は芸術家ばかりで、彼らは二人の仕事を馬鹿にしていたそうだが、一番羽振りが良かったのはエリカだった。ちなみに、70年代に人気を博したセクシー女優ルクレチア・ラヴも一時期彼らと一緒に生活をしていたという。
 やがて、エリカは路上で映画関係者にスカウトされ、『秘密指令アトランティス/地下組織を破壊せよ』('65)の女スパイ役で本格的に映画デビューを果たす。当時はエリカ・ビアンキーニ、エリカ・ブラウンなどの名前を名乗っていた。矢継ぎ早に次々と仕事が舞い込み、『077/地獄のカクテル』('65)など1年間で5本の映画に出演している。
 翌年には巨匠マリオ・バーヴァの傑作『呪いの館』('66)に主演。これは彼女にとって初期の代表作と言えよう。少女の悪霊によって祟られた田舎町に住む女性モニカ役で、物語の鍵となる重要な役柄だった。彼女はバーヴァのことをこう振り返っている。“純真無垢な子供は大人よりもクリエイティブな発想が豊かでしょ?バーヴァはまさにそういう人だった。何も彼が子供じみている人だったというわけじゃない。それどころか、とても知的で礼儀正しい人だったわ。ただ、子供のような遊び心を持っていたのよ”と。
 いずれにせよ、66〜68年頃のエリカは女優として多忙を極め、3本の映画を同時進行で撮影するなんてこともザラだったという。また、女性パルチザンを熱演した戦争映画『地獄のノルマンディ』('68)ではハリウッド俳優ガイ・マディソンと、ロシア人女性役を演じた恋愛メロドラマ『枯葉の街』('68)ではフランスのミレイユ・ダルクと、サスペンス・スリラー“Cosi dolce...cosi perversa”('69)ではキャロル・ベイカーやジャン=ルイ・トラティニャンと共演するなど、多彩な活躍を繰り広げていくようになった。
 ちなみに、『地獄のノルマンディ』のガイ・マディソンには相当不愉快な思いをさせられたようだ。“彼は私たち(イタリア人)をバカにしていた。わざといつも英語で話すのよ。本当に大嫌いだったわ”と。反対に、ジャン=ルイ・トラティニャンは大変な紳士だったという。“(“Cosi dolce...cosi perversa”では)私は不得意な英語で演技をしなくてはならなかったの。トラティニャンはフランス語で演技していたわ。でも撮影3日目からは英語でセリフを話すようになったの。なぜ?って訊いたのよ。そうしたら、私が頑張って英語で演技をしているのだから、自分も同じようにしないとフェアじゃないと思うって。素敵じゃない?”
 70年代に入ってもマカロニ・ウェスタン『情無用の復讐』('71)や『淫虐地獄』('71)、欧米でカルト的な人気を誇る名作“La notte che Evelyn usci dalla tomba”('71)、強烈な拷問シーンを演じたドイツ産魔女狩り映画“Hexen geschandet und zu Tode gequalt”('73)、チンピラに暴行される売春婦役を演じた『ビッグ・ガン』('73)など数多くの作品に出演。
 しかし、70年代後半になると役柄に恵まれなくなっていく。イタリアの娯楽映画産業そのものが徐々に下り坂となり、彼女のように30代半ばを迎えたセックス・シンボルにとっては厳しい時代だった。また、彼女自身セックス・シンボル扱いされることに違和感も感じていたようだ。“美しい女性と呼ばれることで助けられることもあったけど、同時に損をすることもあったわ。特に映画の世界ではね。なぜなら美貌とは愚かさや演技力のなさと同義語なのよ。”
 そんな折、演劇プロデューサーから声がかかり、エリカは舞台のオーディションを受けることになった。そして、78年に“Amori miei”で舞台女優としてデビュー。その後、映画には時折顔を出す程度で、もっぱら舞台に専念するようになった。
 91年にはランベルト・バーヴァ監督のジャッロ『ボディ・パズル』('91)にゲスト出演し、古くからのファンを喜ばせた。そして、冒頭でも述べたようにフランコ・ジラルディ監督の“Voci”で本格的に映画界へカムバックを果たす。名匠フェルザン・オズペテク監督の“Le fate ignoranti”('01)ではマルゲリータ・ブイ扮するヒロインの母親役。ズケズケとものを言う毒舌家だが、ユーモア・センスがあって頼り甲斐のある中年女性という役どころで、なかなか味のある演技を披露してくれた。さらに、ミケーレ・ソアヴィ監督が聖フランチェスコの半生を映画化した“Francesco”('02)では慈愛に満ちたフランチェスコの母親役。また、オズペテク監督の“Cuore sacro”('05)ではヒロインの心の支えになる叔母役を演じ、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞やシルバー・リボン賞の助演女優賞にノミネートされ、フライアーノ映画祭の最優秀助演女優賞を受賞した。最近ではテレビの長寿ドラマ“Carabinieri”のレギュラーとしても人気を集めている。
 なお、夫のブルーノ・ガブッロはソフト・ポルノやセックス・コメディの映画監督として成功。しかし、夫婦生活は安泰とはいかなかったようで、エリカは夫の浮気癖に振り回されていたようだ。“そもそも私は彼のタイプではなかったのよ。彼にとって私はあくまでも最高の親友。私の方が彼に夢中だったの。美しい女性は何でも持っているなんて嘘っぱちよ。男が美女に目がないというのも嘘ね。彼はチビでやせっぽちの女性が好き
だったもの。”

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“Le fate ignoranti”('01)より
共演のマルゲリータ・ブイと

“Francesco”('02)より
共演のラウール・ボヴァと

 

淫虐地獄
La plus longue nuit du diable (1971)
日本では劇場未公開
DVD・VHS共に日本発売済
旧ビデオ邦題『死霊の七人』

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(P)1998 Image Entertainment (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし
/地域コード:ALL/93分/製作:ベルギー・イタリア

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:ジャン・ブリスミー
製作:ピエール=クロード・ガルニエ
脚本:ジャン・ブリスミー
    ピエール=クロード・ガルニエ
撮影:アンドレ・ジョフェル
音楽:アレッサンドロ・アレッサンドローニ
出演:エリカ・ブラン
    ジャン・セルヴェ
    ジャック・モンソー
    ダニエル・エミルフォルク
    イワナ・ノヴァク
    シャーリー・コリガン
    ロレンゾ・テルソン
    コレット・エマニュエル

 ベルギーとイタリアの合作として製作された作品。監督以下スタッフの大半はベルギー人で、撮影もベルギーで行われている。そもそも、ベルギー産のホラー自体が非常に珍しい。監督のジャン・ブリスミーは短編映画出身の人で、“Monsieur Plateau”('64)という作品ではカンヌ映画祭の最優秀短編映画賞を受賞している。どうやら本作が唯一の長編劇映画だったようだ。
 ストーリーはいたって単純。悪天候のために郊外の古い館で一夜を過ごすことになった旅行者たちが、次々と淫魔サッキュバスの餌食になっていくもの。犠牲者のそれぞれが“七つの大罪”を象徴している、というのがミソだ。レズビアン・シーンなど当時としては過激な性描写も含まれているが、今となっては非常に大人しいもの。残酷シーンもかなり抑え気味で、どちらかというとゴシック・ムードに重点を置いた作品と言えるだろう。
 そして、やはり最大の目玉はサッキュバス役のエリカ・ブラン。ミステリアスでクールな美女として登場したかと思いきや、淫魔としての正体を現したときの怪演ぶりは相当に強烈だ。露出度の高いフェティッシュな衣装も最高にカッコいい。そのキッチュなファッション・センスが、いかにも70年代的な場末感をかもし出している。ホラー・ファンのみならず、サブ・カル・マニアにも是非オススメしたい1本だ。

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生まれた子供が女の子と知って狼狽する男爵(J・セルヴェ)

ローネンバーグ家の屋敷で一夜を過ごす旅行者たち

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ゴシック・ムード溢れるローネンバーグ邸

見るからに怪しげな僧侶(D・エミルフォルク)


 第二次世界大戦下のベルギー。ローネンバーグ男爵(ジャン・セルヴェ)に初めての子供が生まれた。しかし、それが女の子だと知った男爵はひどく狼狽する。というのも、かつて彼の祖先シーグリードは悪魔に魂を売り、そのためにローネンバーグ家の長女は淫魔サッキュバスとして悪魔に仕えると言い伝えられているのだ。意を決した男爵は生まれたばかりの長女を殺害。しかし、彼は戦死した弟がメイドとの間に娘をもうけていたことを知らなかった。
 それから30年後。7人の旅行者を乗せた観光バスが田舎道を走っている。ところが、道路は工事で遮断されており、天候も雲行きが怪しかった。一行は道端で出会った怪しげな僧侶(ダニエル・エミルフォルク)の助言で、近くにあるローネンバーグ家の屋敷で一夜の宿を求めることにする。
 ローネンバーグ男爵は一行を快く迎え入れた。豪華な晩餐に舌鼓を打つ旅行者たち。そこへ、メイドの娘である美女ルイーズ(エリカ・ブラン)が現れる。神学生アルビン(ロレンゾ・テルソン)だけが、彼女の正体を怪しんでいた。
 その晩、一人また一人と旅行者たちがルイーズによって殺されていく。大食漢の旅行ガイド、マット(クリスチャン・マレット)は食べ物を喉に詰まらせて窒息死し、強欲な人妻フォスター夫人(コレット・エマyヌエル)は黄金の砂に呑み込まれた。浮気性の夫フォスター(モーリス・デ・グルート)はギロチンで首を切断され、淫乱な美女コリンヌ(イワナ・ノヴァク)は拷問具“鉄の処女”の犠牲に。さらに、コリンヌのレズ友レジーヌ(シャーリー・コリガン)はヘビに噛み殺され、気難しい学者メイソン(ルシアン・ライムバーグ)は串刺しにされた。
 残ったのは神学生アルビンただ一人。そこへ、昼間の怪しげな僧侶が現れる。実は、彼こそがルイーズを操る悪魔だった。彼は自分に魂を売れば死んだ人々を蘇らせてやろうと申し出るのだったが・・・。

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旅行者たちを迎え入れたローネンバーグ男爵

コリンヌ(I・ノヴァク)とレジーヌ(S・コリガン)のレズ・シーン

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ミステリアスな美女ルイーズ(E・ブラン)が屋敷を訪れる

神学生アルビン(L・テルソン)だけがルイーズを怪しむ

 脚本と製作を手がけたジャン=クロード・ガルニエは、70年代半ばにソフト・ポルノの監督としても活躍した人。本作ではシャルル・ルコックという偽名を使っている。また、撮影監督のアンドレ・ジョセフは主にドキュメンタリー映画を手がけた人物だ。そして、音楽を手がけたのがイタリア映画音楽ファンにはお馴染みの名匠アレッサンドロ・アレッサンドローニ。作曲家としてのみならず、『荒野の用心棒』('64)などマカロニ・ウェスタンの口笛吹きとしても有名な人だ。
 ローネンバーグ男爵役を演じるジャン・セルヴェはベルギー出身で、戦前から二枚目俳優としてフランスで活躍したトップ・スター。端正な顔をした渋い俳優だった。ドイツ・フランス合作『別れの曲』('34)のショパン役や、ジュールズ・ダッシン監督の名作『男の争い』('55)の主人公トニー役が代表作と言えるだろう。
 その他、バイセクシャルの女性コリンヌ役のイワナ・ノヴァクは当時マカロニ・ウェスタンやサスペンス・ホラーなどで活躍していたセクシー女優で、脚本家ヴィットリオ・メッツと結婚して映画界を引退した。また、そのレズビアンの相手レジーヌ役を演じたシャーリー・コリガンは、ブルース・リャンと倉田保昭主演の香港映画『無敵のゴッドファーザー/ドラゴン世界を往く』('74)のヒロイン役を演じたことで知られる女優だ。
 そして、見るからに怪しげな僧侶役で強烈なインパクトを残すのが、『殺し』('71)や『フェリーニのカサノバ』('76)などで悪役・変態役として活躍してきた怪優ダニエル・エミルフォルク。ジュネ&キャロの傑作『ロスト・チルドレン』('95)の悪役クランクとして記憶している人も多いだろう。

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屋根裏でネコの死体が発見され・・・

淫魔サッキュバスとしての本性を現したルイーズ

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“鉄の処女”の餌食となったコリンヌ(I・ノヴァク)

エリカ・ブランの凄まじい怪演に注目!

 なお、本作は“Devil's Nightmare”というタイトルでアメリカ公開されたほか、“Devil Walks at Midnight”、“Castle of Death”、“Vampire Playgirls”など実に様々なタイトルでリバイバル公開、ビデオ発売がなされている。当時はレズビアン・シーンを削除して公開されることが多かったようだ。また、アメリカでは現在パブリック・ドメイン扱いになっているため、画質の悪い廉価版DVDが大量に出回っている。上記のRedemption版はレズビアン・シーンを含めた完全版で、35mmのオリジナル・ネガからデジタル・リマスターされたもの。現在は廃盤となっている日本盤DVDも同一の内容だ。

 

La notte che Evelyn usci dalla tomba (1971)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 No Shame Films (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:ALL/98分/製作:イタリア
※7000枚限定プレス

映像特典
エリカ・ブランのイントロダクション
エリカ・ブラン インタビュー
美術監督ロレンツォ・バラルディ インタビュー
監督:エミリオ・P・ミラリア
脚本:マッシモ・フェリサッティ
    ファビオ・ピットール
    エミリオ・P・ミラリア
撮影:ガストーネ・ディ・ジョヴァンニ
音楽:ブルーノ・ニコライ
出演:アンソニー・ステファン
    マリーナ・マルファッティ
    エリカ・ブラン
    ジャコモ・ロッシ・スチュアート
    ウンベルト・ラホー
    ジョーン・C・デイヴィス
    エンゾ・タラスチオ
    テレサ・トファーノ

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美女を誘惑するプレイボーイ、アラン・カニンガム卿(A・ステファン)

ゴージャスでハイセンスなカニンガム卿の邸宅

 欧米ではカルト映画として熱狂的なファンを持つ傑作サスペンス・ホラー。70年代初頭のモダンでサイケなファッション・センスと、ダークでゴシックなアート・センスが絶妙にブレンドされたビジュアルがまず素晴らしい。舞台となる英国の厳かで伝統的なムードの中に、近未来的でウルトラ・モダンな美術セットが全く違和感なく溶け込んでいる。随所にはフェティッシュなSM趣味がほどよく散りばめられ、実にスタイリッシュな出来栄えだ。
 さらに、ヒーローがマルキ・ド・サドを彷彿とさせる変態貴族というのも意表をつく。亡き妻に似た女をナンパして来ては、豪邸の地下室で鞭打った挙句に嬲り殺すのだ。周囲の人々も怪しげな連中ばかりで、頭のおかしい主人公の財産を狙って虎視眈々としている。要は、真っ当な人間がほとんど出てこないのだ。
 そんな中で、我らがエリカ・ブランが演じているのは、主人公がナンパするナイト・クラブのストリッパー、スージー。彼女が演じるストリップ・シーンは最大の見せ場の一つだ。特に膝丈の黒いエナメル・ブーツ姿はファンの間でも非常に人気が高い。彼女によると熱心なアメリカ人のファンが、撮影に使われたブーツを高額で譲ってほしいと申し込んできたという。
 しかし、本作が当時の数多のエクスプロイテーション映画と一線を画している点は、エミリオ・P・ミラリア監督の確固たるビジュアル・センスに尽きるだろう。カメラの構図、美術セットの造形、小道具の配置など、どれを取っても緻密に計算しつくされており、ある種の気品や風格すら漂わせているのだ。ミラリアはイタリアン・ハードボイルドの傑作『続・殺しのテクニック/人間標的』(’67)を撮った人物としても知られているが、バーヴァやアルジェントにも通じる独特の映像美学を持った監督だったと言えるだろう。

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秘密の地下室で美女をいたぶるアラン

アランの親友ティンバーレイン(G・ロッシ・スチュアート)

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庭師アルバート(R・マルデーラ)に弱みを握られるアラン

ナイトクラブの人気ストリッパー、スージー(E・ブラン)

 舞台はロンドン郊外の豪邸。ダンディでハンサムな貴族アラン・カニンガム卿(アンソニー・ステファン)は、毎晩のように美女をナンパして来ては地下室に監禁して鞭打ち、嬲り殺しにしていた。彼は最愛の妻イヴリンと死別して以来、精神に異常をきたしていたのだ。生前の妻が浮気していたかもしれないという疑惑が強迫観念へと変わり、彼女に似た赤毛の娼婦やストリッパーばかりを狙っていた。赤毛のストリッパー、スージー(エリカ・ブラン)もその一人だ。
 アランにはジョージ(エンゾ・タラスチオ)という遊び人の従兄弟がいるが、彼は密かにアランの財産を狙っていた。また、車椅子生活を送る叔母アガタ(ジョーン・C・デイヴィス)や庭師アルバート(ロベルト・マルデーラ)、執事ファーリー(ウンベルト・ラホー)らも、彼らの弱みを握ろうと虎視眈々としている。そうした中で、精神科医ティンバーレイン(ジャコモ・ロッシ・スチュアート)だけが唯一の友人と呼べる存在だった。
 ティンバーレインは徐々に言動がおかしくなっていくアランを心配し、再婚を考えるように強く勧める。そんなある晩、アランはグラディス(マリーナ・マルファッティ)という女性とパーティで知り合う。たちまち恋に落ちた二人は結婚し、アランの精神状態も落ち着いてきたかに思えた。
 しかし、やがてアランの周囲で不可解な出来事が起きるようになり、彼は亡き妻イヴリンの亡霊だと思うようになる。ある雨の晩、敷地内の森で人影を見かけたアランがその後を追うと、墓場から蘇ったイヴリンと遭遇する。恐怖のあまり発狂してしまうアラン。だが、その正体はイヴリンに扮したグラディスだった。彼女はジョージと結託して、アランを破滅に追いやろうと計画していたのだ。アランを精神病院へ送り込んで祝杯をあげるグラディスとジョージ。だが、そこへ死んだはずのスージーが姿を現す・・・。

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スージーに襲い掛かるアラン

必至になって逃げるスージー

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アランはグラディス(M・マルフェッティ)と恋に落ちる

ロレンツォ・バラルディによる超モダンなアート・デザイン

 本作における最大の功労者の一人が、美術監督及び美術デザインを務めたロレンツォ・バラルディ。彼は巨匠マリオ・モニチェッリ作品の常連デザイナーとして有名で、ディノ・ロージ監督の“Profumo di Donna”(’74)やマイケル・ラドフォード監督の『イル・ポスティーノ』('94)など数多くの名作を手がけている大御所。当時はまだデザイナーとして一本立ちしたばかりだった。ルネッサンス風のクラシカルでエレガントな装飾から幾何学的なモダン・アートに至るまで、実に見事で美しいセット・デザインを披露してくれている。
 撮影監督のガストーネ・ディ・ジョヴァンニは60年代からリカルド・パロッティ−ニやアルフィオ・コンティーニらの助手を務めた人物。撮影監督としてはあまり有名ではないものの、本作ではなかなか素晴らしい仕事をしている。ナイト・シーンでの巧みな照明の使い方や、チェイス・シーンでの緊迫感溢れるカメラワークには目を見張るものがある。
 そして、イージーでグルーヴィーな音楽を手がけたのは、モリコーネの盟友でもあるマエストロ、ブルーノ・ニコライ。スウィートなメロディとファンキーなアレンジのカッコよさはモリコーネ譲りだ。Digitmoviesからサントラ盤CDも発売されているので、そちらも是非オススメしておきたい。

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執事ファーリー(U・ラホー)

グラディスにも裏の顔が・・・

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亡き妻イブリンの亡霊に怯えるアラン

死んだはずのスージーだったが・・・

 主人公アラン役を演じるのはマカロニ・ウェスタンで有名なアンソニー・ステファン。本名をアントニオ・デ・テッフェというイタリア人だ。もともとは舞台出身の俳優で、西部劇での成功は本人にとっては不本意だったらしい。それだけに、この時期はあえて難しい役を選び、様々なジャンルの映画にチャレンジしていたが、結局はあまり成功しなかった。
 グラディス役のマリーナ・マルファッティは60年代から活躍する美人女優で、タヴィアーニ兄弟監督の『ああ離婚』('63)やフランチェスコ・ロージ監督の“C'era una volta...”('67)などの作品で重要な役を演じていたが、どちらかというと脇役一筋で、あまり目立たない人だった。名子役レナート・チェスティエ主演の『虹をわたる風船』('74)にも出ていたが、70年代末にはテレビ界へと移行してしまっている。
 アランの親友ティンバーレイン役を演じているジャコモ・ロッシ・スチュアートは、60年代から70年代にかけてのイタリア映画には欠かせない名優だ。イタリア人とイギリス人のハーフで、得意の英語を生かして国際的な作品にも数多く出演していた。ちなみに、エリカとはマリオ・バーヴァ監督の『呪いの館』でコンビを組んでいる。90年代以降イタリアで絶大な人気を誇っている美形俳優キム・ロッシ・スチュアートは彼の息子だ。

 なお、本作もアメリカでは残酷描写や性描写をカットした短縮版がパブリック・ドメインになっており、粗悪な廉価版DVDやビデオが大量に出回っている。上記のNo Shame版DVDはオリジナル・ネガからリマスターした完全版。ビックリするくらいの高画質で、まるで撮りたてホヤホヤの新作みたいだ。

 

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